(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】ピロメテンホウ素錯体、それを含有する発光素子、表示装置および照明装置
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20250513BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20250513BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20250513BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20250513BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
C09K11/06 660
H05B33/14 B
H05B33/12 C
(21)【出願番号】P 2021500982
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000458
(87)【国際公開番号】W WO2021149510
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020009636
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】星野 秀尭
(72)【発明者】
【氏名】長尾 和真
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/175841(WO,A1)
【文献】特許第7589548(JP,B2)
【文献】特許第7359151(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
H05B
H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体:
【化1】
R
1
~R
4
は、それぞれ独立に、アルキル基である;
R
5
およびR
6
の両方が、水素原子、または置換もしくは無置換のアルキル基である;
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる;これらの基はさらに置換基を有していてもよい;
R
7は下記一般式(2)で表される;
【化2】
R
8~R
10は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基およびホスフィンオキシド基からなる群より選ばれる;これらの基はさらに置換基を有していてもよい;
R
11は、
アリール基でありさらに置換基を有していてもよい;
Ar
1は、置換もしくは無置換の
アリール基である。
【請求項2】
陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に存在する発光層を有し、該発光層が電気エネルギーにより発光する素子であって、前記発光層中に請求項1
に記載のピロメテンホウ素錯体を含有する発光素子。
【請求項3】
前記発光層が第一の化合物および第二の化合物を含み、前記第一の化合物が、熱活性化遅延蛍光性化合物であり、前記第二の化合物が、前記一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体である、請求項
2に記載の発光素子。
【請求項4】
請求項
3に記載の熱活性化遅延蛍光性化合物が同一分子内に電子供与性部と電子求引性部を有する化合物である請求項
2または
3に記載の発光素子。
【請求項5】
陽極と陰極の間に2層以上の発光層を有し、それぞれの発光層と発光層の間に1層以上の電荷発生層を有する請求項
2~
4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
前記電荷発生層に一般式(4)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する請求項
5に記載の発光素子:
【化3】
上記一般式(4)中、Ar
2は、p価の芳香族炭化水素基、およびp価の複素芳香環基からなる群より選ばれる;pは1~3の自然数である;R
15~R
22は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基からなる群より選ばれる;Ar
2のうち、p個のフェナントロリル基による置換位置は任意の位置である。
【請求項7】
請求項
2~
6のいずれかに記載の発光素子を含む表示装置。
【請求項8】
請求項
2~
6のいずれかに記載の発光素子を含む照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロメテンホウ素錯体、それを含有する発光素子、表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔が両極に挟まれた発光層内で再結合することにより発光する有機薄膜発光素子は、薄型であり、かつ、低駆動電圧および高輝度発光が可能、さらに発光材料を選ぶことにより多色発光が可能という特徴を有する。特に、発光層にホスト材料とドーパント材料を組み合わせて用いることにより、青、緑および赤の三原色の光を高効率に発光する発光素子を得ることができる。
【0003】
ドーパントとしては、蛍光量子収率の高い色素が通常用いられる。例えばピロメテン骨格を有する錯体は、蛍光量子収率が高い、ストークスシフトおよび発光スペクトルのピーク半値幅が小さいといったドーパントとして高い効率を得るのに必要な要件を備えた化合物であり、ドーパントとしてピロメテン錯体を用いた発光素子は、良好な素子特性を示すことが知られている(例えば、特許文献1参照)。さらに近年では、高発光効率を目指して、TADF(Thermally Activated Delayed Fluorescence、熱活性化遅延蛍光)材料とピロメテンホウ素錯体を含む発光素子が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-12676号公報
【文献】国際公開第2016/056559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機薄膜発光素子を表示装置や照明装置として利用する場合、色域を広くすることが求められている。色域はxy色度図において赤、緑および青のそれぞれの発光を示す頂点座標を決め、それらを結んだ三角形で表される。色域を広くするためには、該三角形の面積が広くなるように赤、緑および青の各頂点座標を適切な色度にすることが必要であり、そのために様々な色設計が行われている。
【0006】
色度は発光ピーク波長と色純度の組合せにより決められる。色純度は発光スペクトルの幅により決まり、発光スペクトルの幅が狭くなり単色光に近づくほど色純度が高くなる。広色域化のためには色純度を上げることが特に重要であり、シャープな発光スペクトルを持つ発光材料が強く求められている。
【0007】
また、有機薄膜発光素子を表示装置や照明装置として利用する場合、発光素子の耐久性を向上することが求められている。発光素子の耐久性を向上させるためには、発光材料の安定性を高める必要がある。
【0008】
一方、有機薄膜発光素子は輝度向上と省電力の観点から、高い発光効率が望まれている。特に近年使用が拡大しているモバイル表示装置においては、省電力化が特に重要な課題となっている。
【0009】
このような状況において、ピロメテンホウ素錯体は、ドーパントとして用いた場合、シャープな発光スペクトルを得られる、有用な発光材料ではあるものの、発光素子においてより高い発光効率とより高い耐久性が求められている。しかしシャープな発光スペクトルを保持しつつ、高い発光効率と高い耐久性を有する発光素子を達成することは困難であった。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、蛍光量子収率が高く発光スペクトルがシャープな発光材料および、発光効率、色純度および耐久性が高い発光素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体である。
【0012】
【0013】
R1~R6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アミノ基、シリル基、シロキサニル基およびボリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。ただし、R1~R4のうち少なくとも一つは水素原子もしくはアルキル基である。
X1およびX2は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
R7は下記一般式(2)で表される。
【0014】
【0015】
R8~R10は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基およびホスフィンオキシド基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
R11は、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基およびホスフィンオキシド基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
Ar1は、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0016】
また、本発明の別の態様は、陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に存在する発光層を有し、該発光層が電気エネルギーにより発光する素子であって、前記発光層中に上記のピロメテンホウ素錯体を含有する発光素子である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、蛍光量子収率が高く発光スペクトルがシャープな発光材料および、発光効率、色純度および耐久性が高い発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るピロメテンホウ素錯体、それを含有する発光素子、表示装置および照明装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0019】
<ピロメテンホウ素錯体>
本発明に係るピロメテンホウ素錯体は一般式(1)で表される。
【0020】
【0021】
R1~R6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アミノ基、シリル基、シロキサニル基およびボリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。ただし、R1~R4のうち少なくとも一つは水素原子もしくはアルキル基である。
【0022】
X1およびX2は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
【0023】
R7は下記一般式(2)で表される。
【0024】
【0025】
R8~R10は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基およびホスフィンオキシド基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
【0026】
R11は、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基およびホスフィンオキシド基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
【0027】
Ar1は、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0028】
ピロメテン骨格において、R7で置換される部位を以下「橋頭位」と称する場合がある。
【0029】
本発明においては、下式で表されるピロメテン骨格を有するもの、およびピロメテン骨格の一部に縮環構造を有し、環構造が広がっているものを合わせて「ピロメテン」と称する。
【0030】
【0031】
上記の全ての基において、水素は重水素であってもよい。以下に説明する化合物またはその部分構造においても同様である。
【0032】
また、上記の全ての基において、置換される場合における置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アシル基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基およびオキソ基からなる群より選ばれる基が好ましい。さらには、後述の各置換基の説明において好ましいとする具体的な置換基がより好ましい。また、これらの置換基は、さらに上述の置換基により置換されていてもよい。
【0033】
本説明の説明において「無置換」とは、対象となる基本骨格または基に結合する原子が水素原子または重水素原子のみであることを意味する。以下に説明する化合物またはその部分構造において、「置換もしくは無置換の」という場合についても、上記と同様である。
【0034】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、ハロゲン、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0035】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。アルキル基部分の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0036】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは置換されていても無置換でもよい。複素環基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0037】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0038】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。シクロアルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0039】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0040】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0041】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0042】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介して芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0043】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールチオエーテル基における芳香族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アリールチオエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0044】
アリール基は、単環もしくは縮合環のいずれでもよく、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などの芳香族炭化水素基を示す。中でも、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基およびトリフェニレニル基からなる群より選ばれる基が好ましい。アリール基は、置換されていても無置換でもよい。本発明では、ビフェニル基、ターフェニル基など複数のフェニル基が単結合を介して結合している基は、アリール基を置換基として有するフェニル基として扱うものとする。アリール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。また、フェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。
【0045】
ヘテロアリール基は、単環もしくは縮合環のいずれでもよく、例えば、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素および水素以外の原子、すなわちヘテロ原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示す。ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、または硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基は置換されていても無置換でもよい。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0046】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を示す。
【0047】
シアノ基とは、構造が-CNで表される官能基である。ここで他の基と結合するのは炭素原子である。
【0048】
アルデヒド基とは、構造が-C(=O)Hで表される官能基である。ここで他の基と結合するのは炭素原子である。
【0049】
アシル基とは、例えばアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、アクリリル基など、カルボニル基を介してアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基が結合した官能基を示す。これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アシル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下である。
【0050】
エステル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがエステル結合を介して結合した官能基を示す。これらの置換基はさらに置換されていてもよい。エステル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、メトキシカルボニル基などのメチルエステル基、エトキシカルボニル基などのエチルエステル基、プロポキシカルボニル基などのプロピルエステル基、ブトキシカルボニル基などのブチルエステル基、イソプロポキシメトキシカルボニル基などのイソプロピルエステル基、ヘキシロキシカルボニル基などのヘキシルエステル基、フェノキシカルボニル基などのフェニルエステル基などが挙げられる。
【0051】
アミド基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがアミド結合を介して結合した官能基を示す。これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アミド基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、メチルアミド基、エチルアミド基、プロピルアミド基、ブチルアミド基、イソプロピルアミド基、ヘキシルアミド基、フェニルアミド基などが挙げられる。
【0052】
スルホニル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが-S(=O)2-結合を介して結合した官能基を示す。これらの置換基はさらに置換されていてもよい。スルホニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0053】
スルホン酸エステル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがスルホン酸エステル結合を介して結合した官能基を示す。ここでスルホン酸エステル結合とは、エステル結合のカルボニル部、すなわち-C(=O)-がスルホニル部、すなわち-S(=O)2-に置換されたものを指す。また、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。スルホン酸エステル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0054】
スルホンアミド基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などがスルホンアミド結合を介して結合した官能基を示す。ここでスルホンアミド結合とは、エステル結合のカルボニル部、すなわち-C(=O)-がスルホニル部、すなわち-S(=O)2-に置換されたものを指す。また、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。スルホンアミド基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0055】
アミノ基とは、置換もしくは無置換のアミノ基である。置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基が挙げられる。アリール基、ヘテロアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、キノリニル基が好ましい。これら置換基はさらに置換されてもよい。炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上50以下、より好ましくは6以上40以下、特に好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0056】
シリル基とは、置換もしくは無置換のケイ素原子が結合した官能基を示し、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基などのアルキルシリル基や、フェニルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基などのアリールシリル基を示す。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上30以下の範囲である。
【0057】
シロキサニル基とは、例えばトリメチルシロキサニル基などのエーテル結合を介したケイ素化合物基を示す。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。
【0058】
ボリル基とは、置換もしくは無置換のボリル基である。置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、アリールエーテル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基が挙げられ、中でもアリール基、アリールエーテル基が好ましい。
【0059】
ホスフィンオキシド基とは、-P(=O)R50R51で表される基である。R50およびR51はそれぞれ独立にR1~R6と同様の群から選ばれる。
【0060】
ピロメテンホウ素錯体は、強固で平面性の高い骨格を有するため、高い蛍光量子収率を示す。また、発光スペクトルのピーク半値幅が小さいため、発光素子において効率的な発光と高い色純度を達成することができる。
【0061】
発光効率のさらなる向上のためには、ピロメテンホウ素錯体の置換基の回転・振動を抑制し、エネルギー損失を減少させて蛍光量子収率を向上させることが有効である。また、色純度向上のためにはピロメテンホウ素錯体の励起状態における振動緩和を減少させ、発光スペクトルの半値幅を減少させることが有効である。
【0062】
この観点から、ピロメテン骨格の橋頭位に置換基R7が導入されている。R7の導入によって、高い蛍光量子収率かつ半値幅の小さいピロメテンホウ素錯体を提供することができる。中でも、置換基R7中、Ar1およびR11がそれぞれ上記の基であることによって、橋頭位がピロメテン骨格に対して分子内回転し、エネルギー失活を起こすことを抑制することができるため、発光効率向上に有利である。
【0063】
また、R1~R4のうち少なくとも一つが水素原子もしくはアルキル基であることにより、励起状態における振動緩和が減少し、発光スペクトルの半値幅を減少させることができる。
【0064】
また、ピロメテンホウ素錯体の安定性は発光素子の耐久性に影響する。その安定性をより向上させるため、橋頭位に嵩高い置換基を導入することが好ましい。嵩高い置換基を導入することにより、ピロメテン骨格を周囲の他分子との相互作用から保護することができる。置換基R7中、Ar1およびR11がそれぞれ上記の基であることによって、ピロメテンホウ素錯体の安定性を向上させ、発光素子の耐久性を向上させることができる。この観点から、R11は、より嵩高い置換基であることが好ましく、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。
【0065】
R1およびR4は、上記した群から選ばれ、ピロメテンホウ素錯体の発光ピーク波長、結晶性、昇華温度などに影響する。発光スペクトルの半値幅をより小さくする観点から、R1およびR4は、水素原子またはアルキル基であることが好ましい。さらに、蛍光量子収率がより向上する観点から、R1およびR4はアルキル基であることがより好ましい。
【0066】
R2およびR3は上記した群から選ばれ、主にピロメテンホウ素錯体の発光ピーク波長、発光スペクトルの半値幅、安定性、または結晶性に影響する。発光スペクトルの半値幅をより小さくする観点、安定性をより向上させる観点、および再結晶生成を含む合成の容易性の観点から、R2およびR3の少なくとも一方、好ましくは両方が、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群から選ばれた基であることが好ましい。さらに、半値幅をより減少する観点から、R2およびR3はアルキル基であることがより好ましい。
【0067】
R5およびR6は上記した群から選ばれ、主にピロメテンホウ素錯体の発光ピーク波長、発光スペクトルの半値幅、安定性、または結晶性に影響する。発光スペクトルの半値幅をより小さくする観点、安定性をより向上させる観点、および再結晶精製を含む合成の容易性の観点から、R5およびR6の少なくとも一方、好ましくは両方が、水素原子、または置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましい。
【0068】
X1およびX2は上記の中から選ばれる。発光特性と熱的安定性の観点から、X1およびX2はアルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、アリールエーテル基、ハロアリールエーテル基、ハロアリール基、ハロゲン原子およびシアノ基からなる群から選ばれた基であることが好ましい。ここで、ハロアルキル基とは、少なくとも1つのハロゲンで置換されたアルキル基である。ハロアリール基とは、少なくとも1つのハロゲンで置換されたアリール基である。
【0069】
また、励起状態が安定でより高い蛍光量子収率が得られる観点、および耐久性を向上させることができる観点から、X1およびX2は、フッ素原子、含フッ素アルキル基、含フッ素アルコキシ基、含フッ素アリール基およびシアノ基からなる群から選ばれた基であることがより好ましく、フッ素原子またはシアノ基であることがさらに好ましく、フッ素原子であることが最も好ましい。これらは電子求引性基であり、ピロメテン骨格の電子密度を下げ化合物の安定性を増すことができる。
【0070】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体の一例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、J. Org. Chem., vol.64, No.21, pp.7813-7819 (1999)、Angew. Chem., Int. Ed. Engl., vol.36, pp.1333-1335 (1997)、Org. Lett., vol.12, pp.296 (2010)などに記載されている方法を参考に製造することができる。
【0088】
さらに、ピロメテン骨格にアリール基やヘテロアリール基を導入するには、例えば、パラジウムなどの金属触媒下で、ピロメテンホウ素錯体のハロゲン化誘導体とボロン酸あるいはボロン酸エステル誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-炭素結合を生成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。同様に、ピロメテン骨格にアミノ基やカルバゾリル基を導入するには、例えば、パラジウムなどの金属触媒下で、ピロメテンホウ素錯体のハロゲン化誘導体とアミンあるいはカルバゾール誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-窒素結合を生成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0089】
得られたピロメテンホウ素錯体は、再結晶やカラムクロマトグラフィーなどの有機合成的な精製を行った後、さらに一般的に昇華精製と呼ばれる減圧加熱による精製により低沸点成分を除去し、純度を向上させることが好ましい。昇華精製における加熱温度は特に限定されないが、ピロメテンホウ素錯体の熱分解を防ぐ観点から330℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0090】
このようにして製造されたピロメテンホウ素錯体の純度は、発光素子が安定した特性を示すことが可能となる観点から99重量%以上であることが好ましい。
【0091】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体の光学特性は、希釈溶液の吸収スペクトルおよび発光スペクトルを測定することで得られる。溶媒としては、ピロメテンホウ素錯体を溶解し、かつ溶媒の吸収スペクトルがピロメテンホウ素錯体の吸収スペクトルと重ならない透明なものであれば特に限定されない。具体的にはトルエンなどが例示される。溶液の濃度は十分な吸光度があり、かつ濃度消光が起きない濃度範囲であれば特に限定されないが、1×10-4mol/L~1×10-7mol/Lの範囲であることが好ましく、1×10-5mol/L~1×10-6mol/Lの範囲であることがより好ましい。吸収スペクトルは一般的な紫外可視分光光度計により測定できる。また発光スペクトルは一般的な蛍光分光光度計により測定できる。さらに蛍光量子収率の測定には積分球を用いた絶対量子収率測定装置を利用することが好ましい。
【0092】
高色純度を実現するために、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体が励起光の照射により発する光の発光スペクトルがシャープであることが好ましい。また表示装置や照明装置で主流となっているトップエミッション素子ではマイクロキャビティ構造による共振効果により高輝度および高色純度を達成できるが、発光スペクトルがシャープであるとこの共振効果がより強く表れ、高効率化に有利である。この観点から、発光スペクトルの半値幅は60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、45nm以下であることがさらに好ましく、28nm以下であることが特に好ましい。
【0093】
発光素子の発光効率は、発光材料自身の蛍光量子収率に依存する。そのため発光材料の蛍光量子収率は、可能な限り100%に近いことが望まれる。一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、R11およびAr1が上記の通りであることで、橋頭位の回転・振動を抑制し、熱失活を減少させることで高い蛍光量子収率を得ることができる。以上の観点から、ピロメテンホウ素錯体の蛍光量子収率は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。ただし、ここで示す蛍光量子収率はトルエンを溶媒とした希釈溶液を絶対量子収率測定装置で測定したものである。
【0094】
<発光素子材料>
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、高発光効率を達成できることから、発光素子において、発光素子材料として用いられる。ここで本発明における発光素子材料とは、発光素子のいずれかの層に使用される材料を表し、後述するように、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層から選ばれる層に使用される材料であるほか、電極の保護膜(キャップ層)に使用される材料も含む。
【0095】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、高い発光性能を有することから、発光層に使用される材料であることが好ましい。
【0096】
<発光素子>
次に、本発明の発光素子の実施の形態について説明する。本発明の発光素子は、陽極と陰極、および該陽極と該陰極との間に存在する有機層を有する。該有機層は少なくとも発光層を含み、該発光層が電気エネルギーにより発光する有機電界発光素子であることが好ましい。
【0097】
本発明の発光素子は、ボトムエミッション型、またはトップエミッション型のいずれであってもよい。
【0098】
このような発光素子における陽極と陰極の間の有機層の層構成は、発光層のみからなる構成の他に、1)発光層/電子輸送層、2)正孔輸送層/発光層、3)正孔輸送層/発光層/電子輸送層、4)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、5)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、7)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層、8)正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層のような積層構成が挙げられる。
【0099】
さらに、上記の積層構成を、中間層を介して複数積層したタンデム型の発光素子であってもよい。中間層としては、一般的に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層などが挙げられ、公知の材料構成を用いることができる。タンデム型発光素子の好ましい具体例として9)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/電荷発生層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層のような積層構成が挙げられる。
【0100】
また、上記各層は、それぞれ単一層、複数層のいずれでもよく、ドーピングされていてもよい。さらに光学干渉効果に起因して発光効率を向上させるためのキャッピング材料を用いた層を含む素子構成も挙げられる。
【0101】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、上記の素子構成において、いずれの層に用いられてもよいが、蛍光量子収率が高く、薄膜安定性を有しているため、発光層に用いることが好ましい。
【0102】
以下に発光素子の構成の具体例を挙げるが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0103】
(基板)
発光素子の機械的強度を保ち、熱変形が少なく、発光層に水蒸気や酸素が侵入することを防ぐバリア性を有するために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板としては特に限定されないが、例えばガラス板、セラミック板、樹脂製フィルム、樹脂薄膜、金属製薄板などが挙げられる。この中で透明であり、かつ、加工が容易である観点から、ガラス基板が好適に用いられる。特に基板を通して光を取り出すボトムエミッション素子では高い透明性を有するガラス基板が好ましい。また、スマートフォンなどのモバイル機器においてフレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイが増加しており、この用途には樹脂製フィルムやワニスを硬化した樹脂薄膜が好適に用いられる。樹脂製フィルムとしては耐熱フィルムが使用されており、具体的にはポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどが例示される。
【0104】
また基板の表面には有機ELを駆動させるための各種配線、回路、およびTFTによるスイッチング素子が設けられていてもよい。
【0105】
(陽極)
陽極は前記基板上に形成される。ここで基板と陽極の間に各種配線、回路、およびスイッチング素子が介在してもよい。陽極に用いる材料は、正孔を有機層に効率よく注入できる材料であれば特に限定されないが、ボトムエミッション型の素子では透明または半透明電極であることが好ましく、トップエミッション型の素子では反射電極であることが好ましい。
【0106】
透明または半透明電極の材料としては、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物;あるいは、金、銀、アルミニウム、クロムなどの金属;ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーが例示される。ただし金属を用いるときは光を半透過できるように膜厚を薄くすることが好ましい。以上のうち、透明性と安定性の観点から酸化錫インジウム(ITO)がより好ましい。
【0107】
反射電極の材料としては、全ての光に対し吸収がなく高い反射率を有するものが好ましい。具体的には、アルミニウム、銀、白金などの金属が例示される。
【0108】
陽極の形成方法は、その形成材料に応じて最適な方法を採用できるが、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法などが挙げられる。例えば、金属酸化物によって陽極を形成する場合にはスパッタ法、金属によって陽極を形成する場合には蒸着法が用いられる。陽極の膜厚は特に限定されないが、数nm~数百nmであることが好ましい。
【0109】
また、これらの電極材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0110】
(陰極)
陰極は有機層を挟んで陽極の反対側の表面に形成され、特に電子輸送層または電子注入層の上に形成されることが好ましい。陰極に用いる材料は、電子を効率よく発光層に注入できる材料であれば特に限定されないが、ボトムエミッション型の素子では反射電極であることが好ましく、トップエミッション型の素子では半透明電極であることが好ましい。
【0111】
陰極の材料としては、一般的には白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、インジウムなどの金属;これらの金属とリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属との合金や多層積層膜;または酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物などが好ましい。中でも、主成分としてはアルミニウム、銀およびマグネシウムから選ばれた金属が、電気抵抗値、製膜しやすさ、膜の安定性、発光効率などの面から好ましい。また、陰極がマグネシウムと銀で構成されると、本発明における電子輸送層および電子注入層への電子注入が容易になり、低電圧駆動が可能になるため好ましい。
【0112】
(保護層)
陰極保護のために、陰極上に保護層(キャップ層)を積層することが好ましい。保護層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属;これら金属を用いた合金;シリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物;ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などの有機高分子化合物などが挙げられる。ただし、発光素子が、陰極側から光を取り出す素子構造(トップエミッション構造)である場合は、保護層に用いられる材料は、可視光領域で光透過性のある材料から選択される。
【0113】
(正孔注入層)
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層の間に挿入され、正孔注入を容易にする層である。正孔注入層は1層であっても複数の層が積層されていてもよい。正孔輸送層と陽極の間に正孔注入層が存在すると、より低電圧駆動が可能であり、素子の耐久寿命も向上するだけでなく、さらに素子のキャリアバランスが向上して発光効率も向上するため好ましい。
【0114】
正孔注入材料の好ましい一例として、電子供与性正孔注入材料(ドナー材料)が挙げられる。これらはHOMO準位が正孔輸送層より浅く、かつ陽極の仕事関数に近いため陽極とのエネルギー障壁を小さくできる材料である。具体的には、ベンジジン誘導体、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス(1-ナフチル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(1-TNATA)などのスターバーストアリールアミンなどの芳香族アミン系材料群;カルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物;ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、PEDOT/PSSのようなポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが例示される。これらの材料は単独で用いてもよいし、2種以上の材料を混合して用いてもよい。また、複数の材料を積層して正孔注入層としてもよい。
【0115】
また正孔注入材料の別の好ましい一例として、電子受容性正孔注入材料(アクセプター材料)が挙げられる。ここで正孔注入層はアクセプター材料単独で構成されていても、前記のドナー材料にアクセプター材料をドープして用いてもよい。アクセプター材料は、単独で用いる場合は隣接している正孔輸送層との間で、またドナー材料にドープして用いる場合はドナー材料との間で電荷移動錯体を形成する材料である。このような材料を用いると正孔注入層の導電性向上と、素子の駆動電圧低下に寄与し、発光効率の向上、耐久寿命向上といった効果が得られるため、より好ましい。アクセプター材料としては、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ルテニウムのような金属酸化物;トリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)のような電荷移動錯体;1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレン-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN6)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、フッ素化銅フタロシアニンのようなn型有機半導体化合物;フラーレンなどが例示される。正孔注入層にアクセプター材料を含む場合、正孔注入層は1層であってもよいし、複数の層が積層されて構成されていてもよい。
【0116】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、陽極から注入された正孔を発光層まで輸送する層である。正孔輸送層は単層であっても複数の層が積層されて構成されていてもよい。
【0117】
正孔輸送層は、一種の正孔輸送材料単独で、または二種以上の正孔輸送材料を積層または混合することによって形成される。また正孔輸送材料は、正孔注入効率が高くかつ注入された正孔を効率良く輸送することが好ましい。そのためには適切なイオン化ポテンシャルを持ち、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が発生しにくい物質であることが要求される。
【0118】
このような条件を満たす物質として、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジジン誘導体、スターバーストアリールアミンと呼ばれる芳香族アミン系材料群;カルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、フルオレン誘導体、スピロフルオレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物;ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが挙げられる。
【0119】
(発光層)
発光層は、正孔と電子の再結合によって発生した励起エネルギーにより発光する層である。発光層は単一の材料で構成されていてもよいが、色純度の観点から第一の化合物と、強い発光を示すドーパントである第二の化合物とを有することが好ましい。第一の化合物としては、例えば電荷移動を担うホスト材料や、熱活性化遅延蛍光性の化合物が好適な例として挙げられる。
【0120】
一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体は、特に優れた蛍光量子収率を有していること、および発光スペクトルの半値幅が狭く高色純度を達成できることから、発光層のドーパントである第二の化合物として用いることが好ましい。第二の化合物のドープ量は、多すぎると濃度消光現象が起きるため、発光層全体の重量に対して20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましく、2重量%以下が最も好ましい。またドープ濃度が低すぎると十分なエネルギー移動が起きにくいことから、発光層全体の重量に対して0.1重量%以上であることが好ましく、0.5%重量以上がより好ましい。
【0121】
ホスト材料は、化合物一種のみに限る必要はなく、二種類以上を混合して用いてもよく、また、積層して用いてもよい。ホスト材料としては、特に限定されないが、ナフタセン、ピレン、アントラセン、フルオランテンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体;N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンなどの芳香族アミン誘導体;トリス(8-キノリナート)アルミニウム(III)をはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物;ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体;テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、ピロロピロール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体;ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体などが使用できる。ホスト材料として特に好ましいものは、アントラセン誘導体またはナフタセン誘導体である。
【0122】
ドーパント材料は、特に限定されないが、一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体以外の蛍光発光材料を含んでいてもよい。具体的にはナフタセン、ピレン、アントラセン、フルオランテンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体;ヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体;ジスチリルベンゼン誘導体、アミノスチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体、クマリン誘導体、アゾール誘導体およびその金属錯体、ならびに芳香族アミン誘導体などが挙げられる。
【0123】
またドーパント材料としてリン光発光材料が含まれていてもよい。リン光発光を行うドーパントとしては、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、およびレニウム(Re)からなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む金属錯体化合物であることが好ましく、高効率発光の観点からイリジウム錯体または白金錯体がより好ましい。配位子は、フェニルピリジン骨格またはフェニルキノリン骨格またはカルベン骨格などの含窒素ヘテロアリール基を有することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0124】
ただし色純度を高くする観点から、ドーパント材料は1種類の一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体であることが好ましい。
【0125】
発光層には上記ホスト材料またはドーパント材料の他に、発光層内のキャリアバランスを調整するためや発光層の層構造を安定化させるための第3成分をさらに含んでいてもよい。ただし、第3成分としては、ホスト材料およびドーパント材料との間で相互作用を起こさないような材料を選択する。
【0126】
熱活性化遅延蛍光性化合物は、一般的に、TADF材料とも呼ばれ、一重項励起状態のエネルギー準位と三重項励起状態エネルギー準位のエネルギーギャップを小さくすることで、三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差を促進し、一重項励起子の生成確率を向上させた材料である。TADF材料における最低励起一重項エネルギー準位と最低励起三重項エネルギー準位の差(ΔESTとする)は0.3eV以下であることが好ましい。このTADF機構による遅延蛍光を利用することにより、理論的内部効率を100%まで高めることができる。さらに熱活性化遅延蛍光性を有する第一の化合物の一重項励起子から第二の化合物の一重項励起子へフェルスター型のエネルギー移動が起こる場合、第二の化合物の一重項励起子からの蛍光発光が観測される。このようなエネルギー移動が起きるためには第一の化合物の最低励起一重項エネルギー準位が、第二の化合物の最低励起一重項エネルギー準位より大きいことが好ましい。ここで第二の化合物がシャープな発光スペクトルを有する蛍光発光材である場合、高効率かつ高色純度の発光素子を得ることができる。このように、発光層が熱活性化遅延蛍光性化合物を含有すると、高効率発光が可能となり、ディスプレイの低消費電力化に寄与する。熱活性化遅延蛍光性化合物は、単一の材料で熱活性化遅延蛍光を示す化合物であってもいいし、エキサイプレックス錯体を形成する場合のように複数の化合物で熱活性化遅延蛍光を示す化合物であってもよい。
【0127】
熱活性化遅延蛍光性化合物としては、単一の化合物でも複数の化合物を混合して用いてもよく、公知の材料を用いることができる。具体的には、例えば、ベンゾニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ジスルホキシド誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ジヒドロフェナジン誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。特に同一分子内に電子供与性部(ドナー部)と電子求引性部(アクセプター部)を有する化合物であることが好ましい。電子供与性部(ドナー部)と電子求引性部は単結合またはスピロ結合を介して直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。このような化合物の例としては、下記一般式(3)で表される構造を含む化合物が挙げられる。
【0128】
【0129】
前記一般式(3)において、Aは電子求引性部、Bは電子供与性部、Lは連結基である。Aが複数存在する場合、複数のAは互いに同一または異なり、A同士が結合して環構造を形成してもよい。Bが複数存在する場合、複数のBは互いに同一または異なり、B同士が結合して環構造を形成してもよい。
【0130】
Lは、直接結合、または、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の環形成原子数5~30の複素芳香環基、これらの基が互いに2~5個連結した基、およびフッ化アルキル基を有するメチレン基からなる群から選ばれる基である。ここで、直接結合とは、単結合およびスピロ結合を含む。ただし、複素芳香環基において、電子供与性を有する芳香族アミノ基やπ電子過剰型複素環官能基は含まない。
【0131】
aおよびbは、それぞれ独立に、1~5の整数である。
【0132】
Lは、同一分子内に複数存在していても良い。Lが複数存在する場合、複数のLは互いに同一または異なり、L同士が結合して飽和または不飽和の環を形成してもよい。また、複数のLがAおよび/またはBを介して結合していてもよい。Aおよび/またはBならびにLが、それぞれ複数存在する場合、複数のAおよび/またはBが同一のLに結合してもよく、異なるLに結合してもよい。
【0133】
ここで電子供与性部(ドナー部)とは隣接部位に対して相対的に電子豊富な部位を示す。例えば、芳香族アミノ基やπ電子過剰型複素環官能基が挙げられる。具体的にはジアリールアミノ基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、ジベンゾカルバゾリル基、インドロカルバゾリル基、ジヒドロアクリジニル基、フェノキサジニル基およびジヒドロフェナジニル基およびこれらの基が複数連結した基などが例示される。これらの基はさらに置換されていても置換されていなくてもよい。置換される場合における置換基としては、前述の好ましい置換基の例が挙げられる。
【0134】
また電子求引性部(アクセプター部)とは隣接部位に対して相対的に電子欠乏性の部位を示す。例えば、電子求引性基や電子求引性基を置換基として有するフェニル基やπ電子不足型複素環官能基が挙げられる。具体的には、カルボニル基、スルホニル基、シアノ基およびフッ素原子から選択される電子求引性基や、電子求引性基を置換基として有するフェニル基、ピリミジニル基やトリアジニル基が例示される。これらの基はさらに置換されていても置換されていなくてもよい。置換される場合における置換基としては、前述の好ましい置換基の例が挙げられる。
【0135】
連結基Lとして用いられる環形成炭素数6~30の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などのアリール基から水素原子を一部除いた、(a+b)価の基が挙げられる。
【0136】
連結基Lとして用いられる環形成原子数5~30の複素芳香環基としては、例えば、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、ベンゾキノリニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素および水素以外の原子、すなわちヘテロ原子を一個または複数個環内に有するヘテロアリール基から水素を一部除いた、(a+b)価の環状芳香族基が挙げられる。ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、または硫黄原子が好ましい。複素芳香環基は置換されていても無置換でもよい。
【0137】
このような熱活性化遅延蛍光性化合物として、特に限定されるものではないが、以下のような例が挙げられる。
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
上記第一の化合物が、熱活性化遅延蛍光性化合物であり、上記第二の化合物が、上記一般式(1)で表されるピロメテンホウ素錯体であることが好ましい。また、第一の化合物が熱活性化遅延蛍光性化合物である場合、発光層がさらに一重項エネルギーが第一の化合物の一重項エネルギーよりも大きい第三の化合物を含むことが好ましい。これにより、第三の化合物は発光材料のエネルギーを発光層内に閉じ込める機能を有することができ、効率よく発光させることが可能となる。また、第三の化合物の最低励起三重項エネルギーが第一の化合物の最低励起三重項エネルギーよりも大きいことも好ましい。
【0153】
このような第三の化合物としては、電荷輸送能が高く、かつガラス転移温度が高い有機化合物であることが好ましい。第三の化合物として、特に限定されるものではないが、以下のような例が挙げられる。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
また第三の化合物は単一でも2種類以上の材料により構成されていてもよい。第三の化合物として2種類以上の材料を用いる場合には、電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物の組み合わせであることが好ましい。電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物を適切な混合比で組み合わせることにより、発光層内の電荷バランスを調整し、発光領域の偏りを抑制することで発光素子の信頼性を向上させ、耐久性を上げることができる。また電子輸送性の第三の化合物と正孔輸送性の第三の化合物との間で励起錯体を形成してもよい。以上の観点から、第一の化合物と第三の化合物が下記の式1~式4の関係式をそれぞれ満たすことが好ましい。また、式1および式2を満たすことがより好ましく、式3および式4を満たすことがさらに好ましい。また、式1~式4を全て満たすことがよりさらに好ましい。
S1(電子輸送性の第三の化合物)>S1(第一の化合物)(式1)
S1(正孔輸送性の第三の化合物)>S1(第一の化合物)(式2)
T1(電子輸送性の第三の化合物)>T1(第一の化合物)(式3)
T1(正孔輸送性の第三の化合物)>T1(第一の化合物)(式4)
ここで、S1はそれぞれの化合物の最低励起一重項状態のエネルギー準位、T1はそれぞれの化合物の最低励起三重項状態のエネルギー準位を表している。
【0166】
電子輸送性の第三の化合物としては、π電子不足型複素芳香環を含む化合物などが挙げられる。具体的には2-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(OXD-7)、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール(CO11)、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(TPBI)、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール(mDBTBIm-II)などのポリアゾール骨格を有する複素環化合物;2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mDBTPDBq-II)、2-[3’-(ジベンゾチオフェン-4-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mDBTBPDBq-II)、2-[4-(3,6-ジフェニル-9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2CzPDBq-III)、7-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(7mDBTPDBq-II)、および6-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(6mDBTPDBq-II)、2-[3’-(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(2mCzBPDBq)などのキノキサリン骨格またはジベンゾキノキサリン骨格を有する複素環化合物;4,6-ビス[3-(フェナントレン-9-イル)フェニル]ピリミジン(4,6mPnP2Pm)、4,6-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリミジン(4,6mCzP2Pm)、4,6-ビス[3-(4-ジベンゾチエニル)フェニル]ピリミジン(4,6mDBTP2Pm-II)などのジアジン骨格(ピリミジン骨格やピラジン骨格)を有する複素環化合物;3,5-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリジン(3,5DCzPPy)、1,3,5-トリ[3-(3-ピリジル)フェニル]ベンゼン(TmPyPB)、3,3’,5,5’-テトラ[(m-ピリジル)-フェン-3-イル]ビフェニル(BP4mPy)などのピリジン骨格を有する複素環化合物が例示される。
【0167】
また上記の正孔輸送性の第三の化合物としてはπ電子過剰型複素芳香環を含む化合物などが挙げられる。具体的には1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(CBP)、3,3’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(mCBP)、1,3,5-トリス[4-(N-カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(TCPB)、9-[4-(10-フェニル-9-アントラセニル)フェニル]-9H-カルバゾール(CzPA)、1,4-ビス[4-(N-カルバゾリル)フェニル]-2,3,5,6-テトラフェニルベンゼン、9-フェニル-9H-3-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)カルバゾール、3,6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCA2)、3-[N-(1-ナフチル)-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCN1)、9-([1,1-ビフェニル]-4-イル)-9’-([1,1’:4’、1”-ターフェニル]-4-イル)-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9-([1,1’:4’、1”-ターフェニル]-4-イル)-9’-(ナフタレンー2-イル)-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、9,9’、9”-トリフェニル-9H,9’H,9”H-3,3’:6’、3”-トリカルバゾールなどのカルバゾール骨格を有する化合物が例示される。
【0168】
(電子輸送層)
電子輸送層は、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送する層である。電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、電子親和力が大きいこと、電子移動度が大きいこと、安定性に優れること、およびトラップとなる不純物が発生しにくい物質であることが要求される。また低分子量の化合物は結晶化して膜質が劣化しやすいため分子量400以上の化合物が好ましい。
【0169】
本発明における電子輸送層には、正孔の移動を効率よく阻止できる正孔阻止層も同義のものとして含まれる。正孔阻止層および電子輸送層は単独でも複数の材料が積層されて構成されていてもよい。
【0170】
電子輸送材料としては、多環芳香族誘導体、スチリル系芳香環誘導体、キノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられる。駆動電圧を低減し高効率発光が得られることから、電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を有する化合物を用いることが好ましい。ここで電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基は、電子親和力が大きいため、陰極から電子が注入しやすくなり、より低電圧駆動が可能となる。また発光層への電子の供給が多くなり、再結合確率が高くなるので発光効率が向上する。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基構造を有する化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、キナゾリン誘導体、ナフチリジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、フェナンスロイミダゾール誘導体、およびビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体などが好ましい化合物として挙げられる。中でも、トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼンなどのイミダゾール誘導体、1,3-ビス[(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾリル]フェニレンなどのオキサジアゾール誘導体;N-ナフチル-2,5-ジフェニル-1,3,4-トリアゾールなどのトリアゾール誘導体;バソクプロインや1,3-ビス(1,10-フェナントロリン-9-イル)ベンゼンなどのフェナントロリン誘導体;2,2’-ビス(ベンゾ[h]キノリン-2-イル)-9,9’-スピロビフルオレンなどのベンゾキノリン誘導体;2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロールなどのビピリジン誘導体;1,3-ビス(4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル))ベンゼンなどのターピリジン誘導体;ビス(1-ナフチル)-4-(1,8-ナフチリジン-2-イル)フェニルホスフィンオキサイドなどのナフチリジン誘導体およびトリアジン誘導体が、電子輸送能の観点から好ましく用いられる。
【0171】
また、電子輸送材料が縮合多環芳香族骨格を有していると、ガラス転移温度が向上し、かつ電子移動度が大きく低電圧化が可能なためより好ましい。このような縮合多環芳香族骨格としては、フルオランテン骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格またはフェナントロリン骨格が好ましく、フルオランテン骨格またはフェナントロリン骨格が特に好ましい。
【0172】
電子輸送材料は単独でも2種以上を混合して用いても構わない。また、電子輸送層はドナー性材料を含有してもよい。ここで、ドナー性材料とは電子注入障壁の改善により、陰極または電子注入層からの電子輸送層への電子注入を容易にし、さらに電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。
【0173】
ドナー性材料の好ましい例としては、Liなどのアルカリ金属、LiFなどのアルカリ金属を含有する無機塩、リチウムキノリノールなどのアルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩、アルカリ土類金属と有機物との錯体、EuやYbなどの希土類金属、希土類金属を含有する無機塩、希土類金属と有機物との錯体などが挙げられる。ドナー性材料としては、金属リチウム、希土類金属、またはリチウムキノリノール(Liq)が特に好ましい。
【0174】
(電子注入層)
本発明において、陰極と電子輸送層の間に電子注入層を設けてもよい。一般的に電子注入層は陰極から電子輸送層への電子の注入を助ける目的で形成され、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物や、上記のドナー性材料により構成される。例えば、後述の一般式(4)で表されるフェナントロリン誘導体が好ましい。
【0175】
また電子注入層に絶縁体や半導体の無機物を用いることもできる。これらの材料を用いることで発光素子の短絡を防止して、かつ電子注入性を向上させることができるので好ましい。
【0176】
このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を使用するのが好ましい。
【0177】
(電荷発生層)
本発明における電荷発生層は、電圧の印加により電荷を発生または分離し、隣接する層へ電荷を注入する層である。電荷発生層は、一つの層で形成されていてもよく、複数の層が積層されていてもよい。一般的に、電荷として電子を発生しやすいものはn型電荷発生層と呼ばれ、正孔を発生しやすいものはp型電荷発生層と呼ばれる。電荷発生層は二重層からなることが好ましく、n型電荷発生層およびp型電荷発生層からなるpn接合型電荷発生層がより好ましい。pn接合型電荷発生層は、発光素子中において、電圧が印加されることにより電荷を発生、または電荷を正孔および電子に分離し、これらの正孔および電子を正孔輸送層および電子輸送層を経由して発光層に注入する。具体的には、複数の発光層を含む発光素子において、中間層として電荷発生層を用いた場合、n型電荷発生層は陽極側に存在する第一発光層に電子を供給し、p型電荷発生層は陰極側に存在する第二発光層に正孔を供給する。そのため、2層以上の発光層を有する発光素子において、発光層と発光層の間に1層以上の電荷発生層を有することにより、素子効率をより向上させ、駆動電圧を低減することができ、素子の耐久性をより向上させることができる。
【0178】
n型電荷発生層は、n型ドーパントおよびn型ホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、n型ドーパントとして、電子輸送層の材料として例示したドナー性材料が好適に用いられる。これらの中でも、アルカリ金属もしくはその塩、希土類金属が好ましく、金属リチウム、フッ化リチウム(LiF)、リチウムキノリノール(Liq)および金属イッテルビウムから選ばれた材料がさらに好ましい。また、n型ホストとしては、電子輸送材料として例示したものが好適に用いられる。これらの中でも、トリアジン誘導体、フェナントロリン誘導体およびオリゴピリジン誘導体から選ばれた材料が好ましく、フェナントロリン誘導体またはターピリジン誘導体がより好ましく、下記一般式(4)で表されるフェナントロリン誘導体がさらに好ましい。すなわち、電荷発生層に一般式(4)で表されるフェナントロリン誘導体を含有することが好ましい。
【0179】
【0180】
上記一般式(4)中、Ar2は、p価の芳香族炭化水素基、およびp価の複素芳香環基からなる群より選ばれる。pは1~3の自然数である。R15~R22は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選ばれる。Ar2のうち、p個のフェナントロリル基による置換位置は任意の位置である。
【0181】
芳香族炭化水素基および複素芳香環基としては、例えば前述のアリール基およびヘテロアリール基の例に記載のものが挙げられるが、それらに限定されるものではない。芳香族炭化水素基または複素芳香環基は、フェナントリル基以外にさらに置換基を有していてもよい。
【0182】
昇華性および薄膜形成性の観点から、pは2が好ましい。
【0183】
一般式(4)で表されるフェナントロリン誘導体の一例を以下に示す。
【0184】
【0185】
上記p型電荷発生層は、p型ドーパントおよびp型ホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、p型ドーパントとして、正孔注入層の材料として例示したアクセプター材料や、ヨウ素、FeCl3、FeF3、SbCl5などが好適に用いられる。具体的には、HAT-CN6、F4-TCNQ、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、ヨウ素、FeCl3、FeF3、SbCl5などが挙げられる。これらの中でも、HAT-CN6や、(2E,2’E,2’’E)-2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(ペルフルオロフェニル)-アセトニトリル)、(2E,2’E,2’’E)-2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(4-シアノペルフルオロフェニル)-アセトニトリル)などのラジアレン誘導体がより好ましい。p型ドーパントの薄膜を形成してもよく、その膜厚は10nm以下が好ましい。また、p型ホストとして、アリールアミン誘導体が好ましい。
【0186】
(発光素子の形成方法)
発光素子を構成する上記各層の形成方法は、ドライプロセスまたはウェットプロセスのいずれでもよく、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法、印刷法など特に限定されないが、通常は、素子特性の点から抵抗加熱蒸着が好ましい。
【0187】
有機層の厚みは、発光物質の抵抗値によるため限定することはできないが、1~1000nmであることが好ましい。発光層、電子輸送層および正孔輸送層の膜厚は、それぞれ、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0188】
(発光素子の特性)
本発明の実施の形態に係る発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる機能を有する。ここで電気エネルギーとしては主に直流電流が使用されるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はなく、素子の目的によって要求される特性値が異なるが、素子の消費電力や寿命の観点から低電圧で高い輝度が得られることが好ましい。
【0189】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、色純度を高める観点から、通電による発光スペクトルの半値幅が60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、45nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。
【0190】
本発明の発光素子は発光スペクトルの半値幅が狭いため、トップエミッション型の発光素子に用いることがより好ましい。トップエミッション型発光素子はマイクロキャビティによる共振効果により、半値幅が狭いほど発光効率が高くなる。そのため、高色純度と高発光効率を両立することが可能となる。
【0191】
(発光素子の用途)
本発明の実施の形態に係る発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイ等の表示装置として好適に用いられる。
【0192】
また、本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しないディスプレイ等の表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶ディスプレイ、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などの表示装置に使用される。特に、液晶ディスプレイ、中でも薄型化が検討されているパソコン用途のバックライトに本発明の発光素子は好ましく用いられ、従来のものより薄型で軽量なバックライトを提供できる。
【0193】
また、本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種照明装置としても好ましく用いられる。本発明の実施の形態に係る発光素子は、高い発光効率と高色純度との両立が可能であり、さらに、薄型化や軽量化が可能であることから、低消費電力と鮮やかな発光色、高いデザイン性を合わせ持った照明装置が実現できる。
【実施例】
【0194】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、実施例3-5、11、13、14、17、20は、現在は参考例であり、実施例1、2、6-10、12、15、16、18、19が本発明の実施例である。
【0195】
合成例1
化合物D-1の合成方法
下記の反応スキームに従って、化合物D-1を合成した。
【0196】
【0197】
2,6-ジブロモベンズアルデヒド5.35g、4-t-ブチルフェニルボロン酸7.40g、炭酸ナトリウム5.38g、ジメトキシエタン100mL、水20mLをフラスコに入れ、窒素置換した。ここにビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド142mgを加え、4時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、有機層を分液した後に硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を留去した。得られた反応生成物にメタノールを加え、ろ過することで2,6-ビス(p-t-ブチルフェニル)ベンズアルデヒド4.03gを白色固体として得た。
【0198】
このようにして得られた2,6-ビス(p-t-ブチルフェニル)ベンズアルデヒド4.03gと2,4-ジメチルピロール2.17gを反応容器に入れ、ジクロロメタン360mLおよびトリフルオロ酢酸5滴を加えて室温で1週間撹拌した。さらに2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)2.70gを加え、室温で4日間撹拌した。その後、ろ過し、溶媒を留去した。得られた反応生成物にジクロロメタン360mLとジイソプロピルエチルアミン5.90mLを加えて室温で30分間撹拌し、さらに三弗化ホウ素ジエチルエーテル錯体4.10mLを加えて室温で4時間撹拌した後、溶媒を留去し、水を加えて撹拌した。有機層を分液し、飽和食塩水で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後溶媒を留去した。得られた反応生成物をシリカゲル化クロマトグラフィーにより精製し、赤色粉末を580mg得た。得られた粉末を1H-NMRおよびLC-MSにより分析し、赤色粉末がピロメテンホウ素錯体である化合物D-1であることを確認した。
1H-NMR(CDCl3 (d=ppm)):7.52(d、1H),7.43(d,2H),7.23-7.17(m,4H),7.10(d,4H),5.79(s,2H),2.38(s,6H),1.52(s,6H),1.22(s,18H)
MS(m/z) 分子量;589。
【0199】
化合物D-1の溶液中の発光特性を以下に示す。
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 513nm
蛍光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 526nm、半値幅 23nm
蛍光量子収率(溶媒:トルエン、励起光:460nm):100%。
【0200】
さらに純度を上げるために昇華精製を行った。化合物D-1の入った金属容器をガラス管中に設置し、これを油拡散ポンプを用いて1×10-3Paの圧力下、190℃で加熱して化合物D-1を昇華させた。ガラス管壁に付着した固体を回収しLC-MS分析による純度が99%であることを確認した。
【0201】
合成例2
化合物D-2の合成方法
下記の反応スキームに従って、化合物D-2を合成した。
【0202】
【0203】
2,4,6-トリクロロベンズアルデヒド4.16g、4-t-ブチルフェニルボロン酸11.0g、リン酸カリウム21.12g、ジオキサン100mL、水20mLをフラスコに入れ、窒素置換した。ここにビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)229mgとXPhos379mgを加え、2時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、有機層を分液した後に硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を留去した。得られた反応生成物をシリカゲル化クロマトグラフィーにより精製することで、2,4,6-トリ(p-t-ブチルフェニル)ベンズアルデヒド9.76gを白色固体として得た。
【0204】
このようにして得られた2,4,6-トリ(p-t-ブチルフェニル)ベンズアルデヒド9.76gと2,4-ジメチルピロール5.54gを反応容器に入れ、トルエン200mLおよびトリフルオロ酢酸5滴を加えて40℃で30分間撹拌した後、水を加えて撹拌し、有機層を分液し、飽和食塩水で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を留去した。得られた反応生成物と2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)8.81gおよびトルエン200mLをフラスコに入れ、40℃で30分間撹拌した。その後、ジイソプロピルエチルアミン17.2mLと三弗化ホウ素ジエチルエーテル錯体12.2mLを加えて室温で30分間撹拌した後、水を加えて撹拌した。有機層を分液し、飽和食塩水で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後溶媒を留去した。得られた反応生成物をシリカゲル化クロマトグラフィーにより精製し、赤色粉末を3.63g得た。得られた粉末を1H-NMRおよびLC-MSにより分析し、赤色粉末がピロメテンホウ素錯体である化合物D-2であることを確認した。
1H-NMR(CDCl3 (d=ppm)):7.72-7.63(m、4H),7.47(d,2H),7.23-7.12(m,8H),5.81(s,2H),2.38(s,6H),1.57(s,6H),1.32(s,9H),1.22(s,18H)
MS(m/z) 分子量;721。
【0205】
化合物D-2の溶液中の発光特性を以下に示す。
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 513nm
蛍光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 527nm、半値幅 22nm
蛍光量子収率(溶媒:トルエン、励起光:460nm):100%。
【0206】
さらに純度を上げるために昇華精製を行った。化合物D-2の入った金属容器をガラス管中に設置し、これを油拡散ポンプを用いて1×10-3Paの圧力下、240℃で加熱して化合物D-2を昇華させた。ガラス管壁に付着した固体を回収しLC-MS分析による純度が99%であることを確認した。
【0207】
下記の実施例および比較例において使用されるピロメテンホウ素錯体は以下に示す化合物である。また、これらピロメテンホウ素錯体のトルエン溶液において測定した分子量および発光特性を表1に示す。
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
実施例1
(蛍光発光素子評価)
陽極としてITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄し、乾燥した。
【0212】
この基板を素子作製の直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の圧力が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を10nm、正孔輸送層として、HT-1を50nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料としてH-1を、またドーパント材料として化合物D-1をドープ濃度が1.0重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層としてET-1を、ドナー性材料として2E-1を用い、ET-1と2E-1の蒸着速度比が1:1になるようにして30nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。
【0213】
この発光素子を1000cd/m2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長529nm、半値幅26nm、外部量子効率4.0%であった。また耐久性は、初期輝度を1000cd/m2となる電流で連続通電し、初期輝度の90%の輝度となる時間(以下、LT90とする)で評価を行った。その結果、この発光素子のLT90は99時間であった。なお、上記において、HAT-CN6、HT-1、H-1、ET-1および2E-1は、それぞれ下記に示す化合物である。
【0214】
【0215】
実施例2~15、比較例1~3
ドーパント材料として、化合物D-1に代えて表2に記載した化合物を用いた以外は実施例1と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0216】
【0217】
表2を参照して分かるように、実施例1~15では比較例1~3に比べて、半値幅を小さく保ちつつ、外部量子効率と素子耐久性(LT90)が大幅に向上した。このことから、本発明によれば高い色純度、高い発光効率および高い素子耐久性を備えた発光素子を得られることが分かる。
【0218】
(熱活性化遅延蛍光素子評価)
実施例16
陽極としてITO透明導電膜を100nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。
【0219】
この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を10nm、正孔輸送層として、HT-1を40nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料H-2と、化合物D-1と、TADF材料である化合物H-3とを、重量比で79.5:0.5:20になるようにして、30nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として、電子輸送材料に化合物ET-1を、ドナー性材料として2E-1を用い、化合物ET-1と2E-1の蒸着速度比が1:1になるようにして50nmの厚さに積層した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。
【0220】
この発光素子を1000cd/m2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長529nm、半値幅28nm、外部量子効率14.2%、LT90は80時間であった。なお、上記において、H-2およびH-3は下記に示す化合物である。
【0221】
【0222】
実施例17~20、比較例4~6
ドーパント材料として表3に記載した化合物を用いた以外は実施例16と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0223】
【0224】
表3を参照して分かるように、実施例16~20では比較例4~6と比べて、半値幅を小さく保ちつつ、外部量子効率と素子耐久性(LT90)が大幅に向上した。このことから、本発明によれば高い色純度、高い発光効率および高い素子耐久性を備えた発光素子を得られることが分かる。
【0225】
以上のように、本発明により、色純度、発光効率および素子耐久性が高い発光素子の作製ができることが示された。これにより、ディスプレイなどの表示装置や照明装置の製造において、発光効率を高くできることが示された。
【0226】
(タンデム型蛍光発光素子評価)
実施例21
陽極としてITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38mm×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン”56(商品名、フルウチ化学(株)製)を用いて15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。
【0227】
この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を5nm、続いて正孔輸送層として、HT-1を50nm蒸着した。次に、正孔阻止層としてH-1を10nm、発光層として、ホスト材料H-1と、ドーパント化合物D-1を、重量比で99.5:0.5になるようにして、20nmの厚さに蒸着した。さらに電子阻止層としてET-1を10nm、電子輸送層として化合物ET-3を35nmの厚さに積層した。続いてn型電荷発生層として、n型ホストである化合物ET-3と、n型ドーパントである金属リチウムを、蒸着速度比が99:1になるようにして10nm積層した。さらにp型電荷発生層としてHAT-CN6を10nm積層した。その上に上記と同様に正孔輸送層50nm、正孔阻止層10mn、発光層20nmを形成した。さらに電子阻止層としてET-2を10nm、電子輸送層としてET-3を35nm順に蒸着した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5mm×5mm角のタンデム型発光素子を作製した。
【0228】
この発光素子を1000cd/m2で発光させた時の発光特性は、発光ピーク波長530nm、半値幅25nm、外部量子効率4.3%、LT90は110時間であった。発光層が1層のみの実施例1と比べ、耐久性が向上していることが確認された。なお、上記において、ET-2およびET-3は下記に示す化合物である。
【0229】