(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物、成形品、および繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20250513BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20250513BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20250513BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/14
C08J5/04 CEZ
(21)【出願番号】P 2024095538
(22)【出願日】2024-06-13
【審査請求日】2024-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2023099728
(32)【優先日】2023-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024027041
(32)【優先日】2024-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠司
(72)【発明者】
【氏名】鎗水 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】尾上 陽介
(72)【発明者】
【氏名】太田 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-302866(JP,A)
【文献】特開2008-095066(JP,A)
【文献】特開2023-060933(JP,A)
【文献】特開平09-012730(JP,A)
【文献】国際公開第2023/002903(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
C08J 11/00 - 11/28
C08J 5/04 - 5/10
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂40~90重量%および(B)強化繊維10~60重量%を配合してなる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物であって、(A)熱可塑性樹脂が、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかに由来する熱可塑性樹脂を含有し、(B)強化繊維が、扁平率が2.0未満である強化繊維Br(以下、強化繊維Brということがある)および扁平率が2.0以上である異形断面強化繊維Bf(以下、異形断面強化繊維Bfということがある)を含有し、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物中に含まれる強化繊維Brと異形断面強化繊維Bfの重量比Br/Bfが、0.2以上20.0以下であ
り、(B)強化繊維の重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)の比(Lw/Ln)が1.30以上、3.00以下であり、(B)強化繊維がガラス繊維であることを特徴とする繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)強化繊維の重量比Br/Bfが、5.0超、20.0以下であることを特徴とする
請求項1に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)熱可塑性樹脂がポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、および液晶ポリエステルから選択される少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項5】
前記成形品の(B)強化繊維の重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)の比(Lw/Ln)が1.30以上、3.00以下であることを特徴とする
請求項4に記載の成形品。
【請求項6】
熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕し、(X)成形品破砕物を得て、該(X)成形品破砕物、(Y)(X)成形品破砕物と実質的に同じ熱可塑性樹脂(以下、(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂ということがある)、および(Z)扁平率が2.0以上である異形断面強化繊維Bf(以下、(Z)異形断面強化繊維Bfということがある)を
溶融混練し、(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物を得て、次いで該(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物および(X)成形品破砕物を混合することを特徴と
し、(X)成形品破砕物を構成する強化繊維および/または(Z)異形断面強化繊維Bfがガラス繊維である繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記(X)成形品破砕物が、工程端材および/または製品として使用後に回収された成形品を破砕した後、さらに押出機で溶融混練して得られた成形品破砕物ペレットであることを特徴とする
請求項6に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂がポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、および液晶ポリエステルから選択される少なくともいずれかを含むことを特徴とする
請求項6または7に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックの再生利用に関するものであり、再生利用されていない繊維強化熱可塑性樹脂組成物と比較して機械特性の低下が極めて小さく、成形性に優れる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、熱可塑性樹脂のリサイクル要求が高まっている。
【0003】
熱可塑性樹脂は、ガラス繊維や炭素繊維に代表される強化繊維を配合して繊維強化樹脂組成物として用いられるが、繊維強化樹脂組成物は成形および再生の工程で強化繊維が破損するため、再生利用した樹脂組成物(以下、再生材とする)は再生利用されていない樹脂組成物(以下、未使用材とする)に比べ機械特性が低下する課題があり、未使用材に再生材を10~20%程度混合してリサイクルすることが一般的であった。
【0004】
これらの問題に対し、繊維強化樹脂組成物の再生材の強度向上手法として、リサイクル樹脂組成物の成形において発生する回収成形物の粉砕品をペレット化せずに、原料樹脂および樹脂用添加剤とを含む混合物とし、溶融混練したリサイクル樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、特定の重量平均分子量の熱可塑性樹脂や、長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を混合することで、リサイクル樹脂組成物の強度を向上する手法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-26719号公報
【文献】国際公開第2023/2903号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法は、回収成形物の熱履歴を減らす手法であり、リサイクル樹脂組成物のガラス繊維が更に折損することは抑制できるが、既にガラス繊維が折損して機械特性が低下したものを再生する技術とは言いがたい。また、特許文献2は異形断面強化繊維による特性回復効果に関する記載はない。本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物のリサイクル時に強化繊維の折損を見かけ上再生して優れた機械特性を発現すると共に、成形性に優れる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなるリサイクル材に、特定の異形断面強化繊維を混合することで、上記課題が解消されることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
1.(A)熱可塑性樹脂40~90重量%および(B)強化繊維10~60重量%を配合してなる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物であって、(A)熱可塑性樹脂が、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかに由来する熱可塑性樹脂を含有し、(B)強化繊維が、扁平率が2.0未満である強化繊維Br(以下、強化繊維Brということがある)および扁平率が2.0以上である異形断面強化繊維Bf(以下、異形断面強化繊維Bfということがある)を含有し、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物中に含まれる強化繊維Brと異形断面強化繊維Bfの重量比Br/Bfが、0.2以上20.0以下であることを特徴とする繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物、
2.前記(B)強化繊維の重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)の比(Lw/Ln)が1.30以上、3.00以下であることを特徴とする1項に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物、
3.前記(B)強化繊維の重量比Br/Bfが、5.0超、20.0以下であることを特徴とする1または2項に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物、
4.前記(B)強化繊維が、ガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくともいずれかであることを特徴とする1~3項のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物、
5.前記(A)熱可塑性樹脂がポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、および液晶ポリエステルから選択される少なくともいずれかを含むことを特徴とする1~4項のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物、
6.1~5項のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物からなる成形品、
7.前記成形品の(B)強化繊維の重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)の比(Lw/Ln)が1.30以上、3.00以下であることを特徴とする6項に記載の成形品、
8.熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕し、(X)成形品破砕物を得て、該(X)成形品破砕物、(Y)(X)成形品破砕物と実質的に同じ熱可塑性樹脂(以下、(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂ということがある)、および(Z)扁平率が2.0以上である異形断面強化繊維Bf(以下、(Z)異形断面強化繊維Bfということがある)を、混合することを特徴とする繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法、
9.(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂および(Z)異形断面強化繊維Bfを溶融混練し、(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物を得て、次いで該(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物および(X)成形品破砕物を混合することを特徴とする8項に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法、
10.前記(X)成形品破砕物が、工程端材および/または製品として使用後に回収された成形品を破砕した後、さらに押出機で溶融混練して得られた成形品破砕物ペレットであることを特徴とする8または9項に記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法、
11.前記(X)成形品破砕物を構成する強化繊維および/または(Z)異形断面強化繊維Bfが、ガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくともいずれかであることを特徴とする8~10項のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法、
12.前記熱可塑性樹脂がポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、および液晶ポリエステルから選択される少なくともいずれかを含むことを特徴とする8~11項のいずれかに記載の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、リサイクル後であっても、未使用材を使用した場合と同等の機械的強度、成形加工性を保持しつつ、射出成形用途などの広範な分野での利用が可能となる。これらの特性を有する繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、サーキュラーエコノミーの実現に貢献する材料となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかを破砕し、(X)成形品破砕物を得て、該(X)成形品破砕物と(Y)(X)成形品破砕物と実質的に同じ熱可塑性樹脂(以下、(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂ということがある)と、(Z)扁平率が2.0以上である異形断面強化繊維Bfを、混合することが特徴である。
【0012】
本発明における「混合」とは、各成分を押出機等で溶融混練することが挙げられる。溶融混練は、単軸または二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に原料を供給して溶融混練する方法などを代表例として挙げることができるが、強化繊維の折損および熱可塑性樹脂の熱劣化を抑制するために、単軸押出機を用いるか、強化繊維の折損を抑制できるスクリュー構成とした二軸押出機を用いることが好ましい。このような方法では、各特性のバラツキが小さい繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物が得られる。その他には、各成分を、溶融混練は行わずにペレット混合することも挙げられる。このような方法では、(X)成形品破砕物の強化繊維の折損を抑制でき、優れた特性の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0013】
(X)成形品破砕物に使用される工程端材とは、たとえば、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造工程、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の成形工程から選択される少なくともいずれかの工程で発生した工程端材であって、たとえば、繊維強化熱可塑性樹脂を射出成形等で成形した成形品の破砕物や、射出成形した際に回収されたスプルー、ランナー等の破砕物をいう。繊維強化熱可塑性樹脂は、二種類以上の繊維強化熱可塑性樹脂を含有するものであってもよい。また、(X)成形品破砕物は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として市場で使用後に回収された成形品を破砕した破砕物を含む。サーキュラーエコノミー実現の観点で、(X)成形品破砕物は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として市場で使用後に回収された成形品を破砕した破砕物であることが好ましく、係る成形品は、本発明の製造方法で得られる繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物から構成されることがより好ましく、複数回再生利用された成形品破砕物であることが特に好ましい。
【0014】
(X)成形品破砕物が製品として市場で使用後に回収された成形品を破砕した破砕物である場合は、汚れ成分による機械特性の低下や臭気を抑制する観点で、破砕の前または後のいずれかで水や有機溶媒で洗浄し、付着物を除去することが好ましい。
【0015】
(X)成形品破砕物は樹脂材料のみからなる製品であれば取り扱いが容易であるが、本発明では金属除去を行えば、樹脂と金属とのインサート成形品でも差し支えない。また、少量の金属部品を含んでいてもよく、その場合、金属部品を回収時に除去することは生産性の低下を伴うため、成形品破砕物の製造工程内に金属除去装置を用いることが好ましい。金属除去装置の具体例としては、マグネットに金属を付着除去させる方法や、磁力式、渦電流式の選別装置が挙げられる。
【0016】
(X)成形品破砕物は、成形品を破砕した後、さらに破砕物を溶融混練して得た成形品破砕物ペレットであってもよく、混合時の分級や、押出機や成形機への供給性が向上し、好ましい。
【0017】
(X)成形品破砕物は、押出機や成形機に供給し得る大きさであることが好ましく、破片の長軸寸法が1~10mm以下であることがより好ましい。
【0018】
(X)成形品破砕物を構成する熱可塑性樹脂とは、加熱と冷却による溶融と固化が可逆的な樹脂であり、具体例として、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー、およびそれらの共重合体、ならびにこれらのうち複数の樹脂からなるポリマーアロイが代表例として挙げられる。加工時の流動性を高めて強化繊維の折損を抑制するために、結晶性樹脂が好ましく、リサイクルに伴う熱履歴で劣化しづらいエンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、および液晶ポリエステルから選択されるいずれかを含むことがより好ましい。
【0019】
(X)成形品破砕物を構成する強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、ならびにアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、および金属繊維等が挙げられ、これらを併用することも可能である。入手性やコストや性能のバランスからガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくともいずれかであることが好ましい。
【0020】
さらに、強化繊維の表面をエポキシ化合物やイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物等のカップリング剤で予備処理し、強化繊維の集束性や樹脂配合時の分散性を向上させた強化繊維が好ましく、このような強化繊維は、熱可塑性樹脂との界面の密着性や分散性が向上して、高い強度向上効果や耐熱性、耐薬品性が得られる。
【0021】
また、強化繊維径は1~50μmが好ましく、3~30μmがより好ましく、5~20μmが特に好ましい。強化繊維径が小さい程、引張強度や曲げ強度の向上効果を得ることができ、繊維径が大きい程、成形加工時に繊維が折れにくく、機械特性の向上効果が得られる。
【0022】
また、強化繊維は、後記する異形断面強化繊維を含んでいてもよい。
【0023】
本発明における(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂とは、(X)成形品破砕物を構成する熱可塑性樹脂と、樹脂の繰り返し単位が同じ熱可塑性樹脂であることをいい、公知の分光分析法や、元素分析法や、熱分析法によって同定を行うことが有効である。また、相溶する熱可塑性樹脂の組み合わせも実質的に同じ熱可塑性樹脂である。「相溶する」とは、異なる熱可塑性樹脂をポリマーブレンドした場合に単一相を形成する挙動であり、公知の相構造観察等によって同定を行うことが有効である。さらに、(X)成形品破砕物を構成する熱可塑性樹脂がポリマーアロイの場合、(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂も、(X)成形品破砕物のポリマーアロイと同じ熱可塑性樹脂から構成されるポリマーアロイであることが好ましい。
【0024】
本発明における(Z)異形断面強化繊維Bfは、扁平形状の断面を有する強化繊維(以下扁平強化繊維と略すことがある)であり、強化繊維を長さ方向に垂直に切断した場合の断面において、長径(断面の最長の直線距離)と短径(長径と垂直方向の最長の直線距離)の比(以下扁平率ということがある)が2.0以上である。扁平率は、2.5以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。扁平率の上限は特に限定しないが、8.0以下が好ましく、6.0以下がより好ましく、4.5以下が特に好ましい。
【0025】
(Z)異形断面強化繊維Bfは、強化繊維の強度を高める観点で、その断面の長径が10μm以上であることが好ましく、20μm以上がより好ましい。長径の上限は特に限定しないが、80μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましい。また、その断面の短径は2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。短径の上限は特に限定しないが、20μm以下が好ましく、15μm以下がさらに好ましい。
【0026】
なお、扁平率は、強化繊維を走査型電子顕微鏡により観察し、無作為に選択した50本の強化繊維の断面の長径と短径を測定してその比を算出し、その数平均を算出することにより求めた値である。
【0027】
(Z)異形断面強化繊維Bfは、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、および金属繊維等が挙げられ、これらを複数種類併用することも可能である。コストや性能のバランスからガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくともいずれかであることが好ましく、容易に扁平強化繊維を得る観点からガラス繊維がより好ましい。
【0028】
(Z)異形断面強化繊維Bfは、その表面をエポキシ化合物、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物等のカップリング剤で予備処理し、強化繊維の集束性や樹脂配合時の分散性を向上させることが好ましく、このような強化繊維は、熱可塑性樹脂との界面の密着性や分散性が向上して、高い強度向上効果や耐熱性、耐薬品性が得られる。
【0029】
(Z)異形断面強化繊維Bfは、リサイクル効率化の観点で、(X)成形品破砕物を構成する強化繊維と実質的に同じ強化繊維を含むことが好ましい。ここで、実質的に同じとは、構成する元素や組成が同じであることをいい、例えば、Eガラスのように、同じ組成として扱われる範囲内にある強化繊維であることをいう。これらは公知の分光分析法や、元素分析法や、熱分析法によって同定を行うことが有効である。
【0030】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物における(X)成形品破砕物の混合量は、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、サーキュラーエコノミーに貢献する観点で、40重量%以上がさらに好ましく、50重量%以上が特に好ましく、70重量%以上が殊更に好ましい。また、(X)成形品破砕物は、優れた特性の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を得る観点から、90重量%以下が好ましい。
【0031】
また、(X)成形品破砕物に対する(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂と、(Z)扁平率が2.0以上である異形断面強化繊維Bfの混合量は、リサイクル効率化の観点で、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の灰分率と(X)成形品破砕物の灰分率の差を、(X)成形品破砕物の灰分率で除した値の百分率が、-35%以上、35%以下となるように混合することが好ましい。さらに、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の品質の変化を抑制する観点で、その下限は-20%以上が好ましく、-15%以上がより好ましく、-10%以上が特に好ましく、上限は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。また、成形性の変化を抑制し、クローズドリサイクルを実現する観点で、下限は-5%以上が殊更に好ましく、上限は5%以下が殊更に好ましい。
【0032】
なお、灰分率は、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物または(X)成形品破砕物を、550℃で3時間焼成して得た残渣の重量を焼成前の重量で除した値の百分率である。
【0033】
本発明における繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂と、(Z)異形断面強化繊維Bfを溶融混練し、(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物を得て、次いで該(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物を(X)成形品破砕物に混合してもよく、このような方法では、各特性のバラツキが小さい繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物が得られて好ましい。
【0034】
(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物の溶融混練は、単軸または二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に原料を供給して溶融混練する方法などを代表例として挙げることができるが、異形断面強化繊維の折損および熱可塑性樹脂の熱劣化を抑制するために、単軸押出機を用いるか、強化繊維の折損を抑制できるスクリュー構成とした二軸押出機を用いることが好ましい。
【0035】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂40~90重量%および(B)強化繊維10~60重量%を配合してなる。(B)強化繊維の配合量は、優れた強度を得るために20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましい。
【0036】
本発明における(A)熱可塑性樹脂は、加熱と冷却による溶融と固化が可逆的な樹脂であり、具体例として、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー、およびそれらの共重合体、ならびにこれらのうち複数の樹脂からなるポリマーアロイが代表例として挙げられる。加工時の溶融粘度を低くして強化繊維の折損を抑制するために、結晶性樹脂が好ましく、リサイクルに伴う熱履歴で劣化しづらいエンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、および液晶ポリエステルから選択されるいずれかであることがより好ましい。
【0037】
本発明の(A)熱可塑樹脂は、熱可塑性樹脂および強化繊維を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物の工程端材、ならびに該繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を製品として使用後に回収された成形品から選択される少なくともいずれかに由来する熱可塑性樹脂を含有する。また、これらの熱可塑性樹脂は、前述の(X)成形品破砕物に由来することが好ましい。また、本発明の(A)熱可塑性樹脂は、前述の(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂に由来する熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。
【0038】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、(B)強化繊維を含有する。(B)強化繊維は、扁平率が2.0未満である強化繊維Brと、扁平率が2.0以上である異形断面強化繊維Bfとを含有し、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物中における強化繊維Brと異形断面強化繊維Bfの重量比Br/Bfが、0.2以上20.0以下である特徴を有する。強化繊維Brの扁平率は1.5以下が好ましく、1.0、すなわち断面が円形の強化繊維であることが、市場に多く流通する繊維強化熱可塑性樹脂組成物のリサイクルを効率よく行う観点で好ましい。異形断面強化繊維Bfの扁平率は、2.5以上が好ましく3.5以上がより好ましい。扁平率の上限は特に限定しないが、8.0以下が好ましく、6.0以下がより好ましく、4.5以下が特に好ましい。
【0039】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、異形断面強化繊維Bfの扁平形状に起因する流動性や、流動に対する直角方向の補強効果や、折損しづらく繊維長が長く残りやすい特徴を活用し、リサイクルによって強化繊維が折損して補強効果が失われた繊維強化熱可塑性樹脂組成物の特性回復を図るだけでなく、未使用材の特性をも凌駕する特性を発現することも可能である。そのため、重量比Br/Bfが、0.2以上、20.0以下である特徴を有し、その下限は、1.0以上が好ましく、3.0以上が好ましく、高コストな異形断面強化繊維Bfの使用量を少なくする観点で5.0以上がより好ましく、5.0超が特に好ましく、8.0以上が殊更に好ましい。その上限は、異形断面強化繊維Bfによる特性回復を図る観点で15.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましい。(B)強化繊維は、(X)成形品破砕物に含まれる強化繊維または(Z)異形断面強化繊維Bfに由来する。したがって、Br/Bfは、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を製造する際に、(X)成形品破砕物と(Z)異形断面強化繊維Bfの種類や混合量を変更することで、調整が可能となる。
【0040】
なお、Br/Bfは、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物に配合される強化繊維Brと異形断面強化繊維Bfの配合量から求めることができる。これらの配合量を算出するために必要に応じて、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を焼成して強化繊維を取り出し、走査型電子顕微鏡により観察し、無作為に選択した100本の強化繊維における強化繊維Brと異形断面強化繊維Bfの本数から配合量を算出してもよい。
【0041】
(B)強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、および金属繊維等が挙げられ、これらを併用することも可能である。コストや性能のバランスからガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくともいずれかであることが好ましく、容易に異形断面強化繊維を得る観点からガラス繊維がより好ましい。
【0042】
さらに、(B)強化繊維は、その表面をエポキシ化合物やイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物等のカップリング剤で予備処理し、強化繊維の集束性や樹脂配合時の分散性を向上させることが好ましく、このような強化繊維は、熱可塑性樹脂との界面の密着性や分散性が向上して、高い強度向上効果や耐熱性、耐薬品性が得られる。
【0043】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物、および繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、(X)成形品破砕物に由来する折損した短い強化繊維と、(Z)異形断面強化繊維Bfに由来する長い強化繊維が混在するため、繊維長分布が広くなり、強化繊維の重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)の比である繊維長分布(Lw/Ln)が1.30以上、3.00以下である特徴を有することが好ましい。その結果、短い強化繊維由来の流動性を維持しながら、長い強化繊維由来の特性を発現しやすい他、強化繊維の配向を好ましく変化させることが可能となり、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の成形性や特性を向上させるだけでなく、未使用材の特性をも凌駕する特性を発現することも可能である。
【0044】
本発明におけるLw/Lnは、含有する(A)熱可塑性樹脂や、(B)強化繊維の種類や配合量にもよるため一概には言えないが、機械特性と流動性を両立させる観点で1.40以上が好ましく、1.50以上がより好ましい。成形品の品質安定性の観点で、Lw/Lnは2.50以下が好ましく、2.00以下がより好ましい。Lw/Lnは、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を製造する際に、(X)成形品破砕物と(Z)異形断面強化繊維Bfの種類や混合量を変更することで、調整が可能となる。
【0045】
繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物、および繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の、(B)強化繊維の重量平均繊維長(Lw)は、強化繊維の種類によるため一概には言えないが、優れた機械特性と流動性確保の観点から50~5000μmであることが好ましい。優れた機械特性を得る観点から100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、金属代替用途に用いる観点から300μm以上がさらに好ましい。また、Lw/Lnが好ましい範囲である場合は、更に機械特性と流動性の両立が可能であることから、400μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることが特に好ましい。また、優れた流動性を得る観点から4000μm以下が好ましく、3000μm以下がより好ましく、2000μm以下が特に好ましい。
【0046】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、異形断面強化繊維Bfの扁平形状に起因する流動性や、折損しづらく繊維長が長く残りやすい特徴により、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物を成形して成形品を得る際に、異形断面強化繊維の折損が抑制され、上記の好ましいLwやLw/Lnの成形品を得ることが可能となる。
【0047】
ここで、(B)強化繊維の重量平均繊維長(Lw)および数平均繊維長(Ln)は、繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物ペレット、または繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物ペレットを成形して得た成形品を焼成して強化繊維を取り出し、光学顕微鏡にて50~100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1000本の強化繊維の長さを測定し、その測定値(μm)を用いて以下の式に基づき計算した値である。
数平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li2×ni)/Σ(Li×ni)
Li:強化繊維の繊維長
ni:繊維長Liの強化繊維の本数。
【0048】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、異形断面強化繊維Bfの扁平形状に起因して流動性が優れる他、流動に対する直角方向の補強効果や、折損しづらく繊維長が長く残りやすい特徴により、成形収縮率の異方性が小さく成形性に優れる。さらに、得られる成形品は寸法特性の異方性が小さい特徴を有する。その結果、本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、優れた耐ヒートサイクル性が得られる。耐ヒートサイクル性とは、熱可塑性樹脂を金属ブロックにインサート成形して得たインサート成形品を、高温条件(例えば、130℃×1時間)で処理後、低温条件(例えば、-40℃×1時間)で処理することを1回として、インサート成形品にクラックが認められるまでの処理数によって求められる特性であり、厳しい温度変化への耐性が求められる自動車用途において重要な特性値である。
【0049】
前記した重量比Br/Bfを調整することで、成形性や耐ヒートサイクル性の調整が可能となり、未使用材と同様の用途にクローズドリサイクルすることや、未使用材の特性をも凌駕する特性を発現し、アップリサイクルすることも可能である。
【0050】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、非繊維充填材として、フラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などが配合されていてもよく、これらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、電気特性、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
【0051】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。このような添加剤は、発明の効果を損なわない程度に樹脂組成物に対し0.01~5重量%配合することが好ましい。
【0052】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、様々な成形方法に適用可能であり、例えば押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。
【0053】
本発明の繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は多くの用途に適用できるが、特にサーキューラーエコノミーの要求が高まる自動車部材用途への適用が好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各実施例および比較例における評価は、次の方法により行った。
【0055】
(1)灰分率
各参考例、実施例および比較例により得られた樹脂組成物を秤量後、ルツボに入れ550℃に設定した電気炉内で3時間焼成することにより、強化繊維の残渣を得た。この残渣を秤量し、焼成前のサンプル重量に対する強化繊維の重量割合を算出して灰分率を求めた。
【0056】
(2)密度
各参考例、実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、ISO1183(2019)に準じて求めた(単位:g/cm3)。
【0057】
(3)樹脂組成物の流動長測定
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物について、130℃熱風乾燥機中で3時間乾燥し、住友重機械製射出成形機SE-30Dを用い、1mm厚み(1mmt)のスパイラルフロー金型を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出速度230mm/sec、射出圧力98MPa、射出時間5sec、冷却時間15secの条件で成形し、流動長測定(単位:mm)を行なった。この値が大きいほど流動性に優れる。
【0058】
(4)射出成形による試験片作成
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物について、130℃熱風乾燥機中で3時間乾燥し、住友重機械製射出成形機SE75-DUZを用い、シリンダー温度310℃、金型温度140℃、スクリュー回転数100rpmの条件で、ISO(1A)ダンベル試験片を射出成形した。
【0059】
(5)機械特性
上記(4)項で得たISO(1A)ダンベル試験片について、23℃条件下、オートグラフAG-Xplus20kN試験機を用い、ISO527-1,-2(2012)に従い、支点間距離114mm、引張速度5mm/minの条件で引張特性を評価した。
【0060】
次いで、ISO178(2010)に従い、支点間距離64mm、速度2mm/minの条件で曲げ特性を評価した。
【0061】
次いで、上記(4)項で得たISO(1A)ダンベルを切削して得た試験片で、ISO179(2010)に従い、シャルピー衝撃強さ(ノッチあり)を評価した。
【0062】
(6)成形収縮率
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物について、130℃熱風乾燥機中で3時間乾燥し、住友重機械製射出成形機SE75-DUZを用い、シリンダー温度310℃、金型温度140℃、スクリュー回転数100rpmの条件で80mm×80mm×3mmt角板を射出成形した。
【0063】
続いて、得られた角板の樹脂の流動方向(流動方向)および流動方向に対し垂直な方向(直角方向)の寸法をノギスにて測定し、以下の式に基づき計算した。
α=(L0-L/L0)×100
α:成形収縮率(%)、L0:金型寸法(mm)、L:成形品寸法(mm)。
【0064】
(7)線膨張係数
上記(6)項で得た角板成形品の中央部から、樹脂の流動方向(流動方向)および流動方向に対し垂直な方向(直角方向)をそれぞれ長手方向とする試験片(10mm×5mm×3mm)を切り出した。空気下で200℃×1hrのアニール処理を行った後、熱機械的分析装置(TMA)を用いて、ASTM D696に準じて、試験片の長手方向の-40℃~150℃の線膨張係数を測定した。線膨張係数の値が小さく、且つ樹脂の流動方向(流動方向)と流動方向に対し垂直な方向(直角方向)の比が1.0に近いほど、線膨張変化の異方性が小さく(低異方性)、寸法安定性に優れる。
【0065】
(8)強化繊維の繊維長分析
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物のサンプル、および上記(4)項で得たISO(1A)ダンベル試験片を切削して中心部から1cm角片を取り出し、サンプルとして秤量後、ルツボに入れ550℃に設定した電気炉内で3時間焼成することにより、強化繊維の残渣を得た。この残渣を光学顕微鏡にて50~100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1000本の強化繊維の長さを測定し、その測定値(μm)を用いて以下の式に基づき計算した。
数平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li2×ni)/Σ(Li×ni)
Li:強化繊維の繊維長
ni:繊維長Liの強化繊維の本数。
【0066】
(9)耐ヒートサイクル性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、住友重機械製射出成形機SE75-DUZを用い、シリンダー温度320℃、金型温度140℃の条件で、金属ブロック(SUS430)をインサート成形した金属インサート成形品を得た。得られた金属インサート成形品を130℃×1時間で処理後、-40℃×1時間で処理することを1回として、冷熱衝撃処理し、5回毎に目視によりクラックの発生有無を確認した。クラック発生が認められた冷熱衝撃処理数を耐ヒートサイクル性とした。クラック発生までの処理回数が多いほど耐ヒートサイクル性(耐冷熱衝撃性)に優れ、好ましい。
【0067】
各実施例および比較例に用いた原材料について、以下に示す。
【0068】
[参考例1](A-PPS-1)ポリフェニレンスルフィド樹脂
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム0.513kg(6.25モル)、及びイオン交換水3.82kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水8.09kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0069】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.34kg(70.32モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.67kg(148.4モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0070】
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0071】
得られたPPS樹脂(A-PPS-1)は重量平均分子量が40000であった。
【0072】
(A-Ole-1)エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体:エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体を用いた(住友化学製“ボンドファースト”E)
(A-Ole-2)未変性オレフィン系共重合体:エチレン・1-ブテン共重合体を用いた(三井化学製“タフマー”A4085)。
【0073】
(Br-1)ガラス繊維:繊維長3mm、繊維径10.5μm、扁平率1.0のエポキシ系化合物で集束されたチョップドガラスを用いた(日本電気硝子社製、T-760H)
(Bf-1)扁平ガラス繊維:繊維長3mm、短径7μm、長径28μm、扁平率4.0のエポキシ系化合物で集束されたチョップドガラスを用いた(日本電気硝子社製、T-760FGF)
【0074】
(C-1)非繊維充填材として、炭酸カルシウムを用いた(カルファイン社製、KSS-1000)
【0075】
(d-1)エポキシ基を含有する有機シラン化合物:2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを用いた(信越シリコーン製:KBM303)
【0076】
[参考例2](X’-1)PPS樹脂組成物(未使用材)
PPS樹脂(A-PPS-1)65重量%、ガラス繊維(Br-1)30重量%、オレフィン系ポリマー(A-Ole-1)2.5重量%、オレフィン系ポリマー(A-Ole-2)2.5重量%、ならびにPPS樹脂、ガラス繊維、オレフィン系ポリマーの合計100重量部に対し、有機シラン化合物(d-1)0.3重量部を、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所)を用い、ガラス繊維は、サイドフィードで投入して、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、PPS樹脂組成物(X’-1)を得た。灰分率は30重量%で、密度は1.52g/cm3であった。
【0077】
[参考例3](X-1)成形品破砕物
(X’-1)PPS樹脂組成物を130℃熱風乾燥機中で3時間乾燥し、住友重機械製射出成形機SE75-DUZを用い、シリンダー温度310℃、金型温度140℃、スクリュー回転数100rpmの条件で、ISO(1A)ダンベル試験片を射出成形した。その際に発生したスプルー/ランナー(成形品に相当する)を長軸寸法が10mm以下になるように破砕機で破砕して成形品破砕物(X-1)を得た。灰分率は30重量%で、密度は1.52g/cm3であった。
【0078】
[参考例4](X-2)成形品破砕物ペレット
(X-1)成形品破砕物を、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部1箇所)を用いて、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、成形品破砕物ペレット(X-2)を得た。灰分率は30重量%で、密度は1.52g/cm3であった。
【0079】
[参考例5](YZ-1)異形断面ガラス繊維強化PPS樹脂組成物
ガラス繊維として、ガラス繊維(Bf-1)を用いたこと以外は、参考例2と同様の条件で溶融混練し、異形断面ガラス繊維強化PPS樹脂組成物(YZ-1)を得た。灰分率は30重量%で、密度は1.52g/cm3であった。
【0080】
[参考例2~5、実施例1~4、比較例1]
各原料を表1に示す割合でドライブレンドした。次いで得られた樹脂組成物を上記(1)~(8)項の評価に供して、各特性を測定した。
【0081】
[実施例5、比較例2]
各原料を表1に示す割合でドライブレンドし、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部1箇所)を用い、ガラス繊維は、サイドフィードで投入して、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、樹脂組成物を得た。
次いで得られた樹脂組成物を上記(1)~(8)項の評価に供して、各特性を測定した。
【0082】
【0083】
【0084】
上記表1および表2の参考例、実施例および比較例の比較により以下が明らかである。
【0085】
参考例2(未使用材)と比較して参考例3~4の(X)成形品破砕物から得られた繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、リサイクルに伴いガラス繊維長が低下した結果、成形収縮率(直角方向)や流動長等の成形性の変化や、線膨張係数(直角方向)および線膨張係数の異方性の増大や機械特性の低下が認められる。
【0086】
比較例1は、未使用材と(X)成形品破砕物のペレット混合により、参考例4と比較してガラス繊維長や各種特性が向上した繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物が得られたものの、参考例2(未使用材)と同等とは言えず、特性回復効果は不十分である。
【0087】
実施例1~4は(X)成形品破砕物と(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物のペレット混合により、得られた繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の(B)強化繊維の重量比Br/Bfが増加し、比較例1と比較して、特性回復効果の高い繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物が得られた。また、異形断面強化繊維に由来する成形収縮率(直角方向)、流動性、線膨張係数(直角方向)、線膨張係数の低異方性、およびシャルピー衝撃強度の特性回復効果が大きく、重量比Br/Bfの調整によりこれら特性の制御が可能であることが示された。特に実施例3~4に示す通り重量比Br/Bfが5.0超となることで、参考例2(未使用材)に近い成形性や低異方性が得られることが示された。このような特徴を有する繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、未使用材と同じ金型で成形するクローズドリサイクルに好適である。
【0088】
また、参考例2~3と比較例2と実施例5の比較から、(X)成形品破砕物に(Y)実質的に同じ熱可塑性樹脂と(Z)異形断面強化繊維Bfを溶融混練して混合して得られた繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物であっても、同様の特性回復効果が示された。
【0089】
[参考例6](A-PPS-2)ポリフェニレンスルフィド樹脂
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0090】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.48kg(71.27モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0091】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0092】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0093】
得られたPPS樹脂(A-PPS-2)は重量平均分子量が25000であった。
【0094】
[参考例7](X’-2)PPS樹脂組成物(未使用材)
PPS樹脂(A-PPS-2)45重量%、ガラス繊維(Br-1)30重量%、オレフィン系ポリマー(A-Ole-1)2.5重量%、オレフィン系ポリマー(A-Ole-2)2.5重量%、炭酸カルシウム(C-1)20重量%、ならびにPPS樹脂、ガラス繊維、オレフィン系ポリマー、炭酸カルシウムの合計100重量部に対し、有機シラン化合物(d-1)0.3重量部を、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所)を用い、ガラス繊維は、サイドフィードで投入して、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、PPS樹脂組成物(X’-2)を得た。灰分率は50重量%で、密度は1.67g/cm3であった。
【0095】
[参考例8](X-3)成形品破砕物ペレット
(X’-1)PPS樹脂組成物の代わりに(X’-2)PPS樹脂組成物を用いたこと以外は参考例3、4と同等の方法で成形品破砕物ペレット(X-3)を得た。灰分率は50重量%で、密度は1.67g/cm3であった。
【0096】
[参考例9](YZ-2)異形断面ガラス繊維強化PPS樹脂組成物
ガラス繊維として、ガラス繊維(Bf-1)を用いたこと以外は、参考例7と同様の条件で溶融混練し、異形断面ガラス繊維強化PPS樹脂組成物(YZ-2)を得た。灰分率は50重量%で、密度は1.67g/cm3であった。
【0097】
[参考例7~9、実施例6~10、比較例3~5]
各原料を表3に示す割合でドライブレンドした。次いで得られた樹脂組成物を上記(1)~(9)項の評価に供して、各特性を測定した。
【0098】
【0099】
【0100】
上記表3および表4の参考例、実施例および比較例の比較により、PPS樹脂の分子量が異なる場合や、非繊維状充填材を配合した場合でも、以下が明らかである。
【0101】
実施例6~10は(X)成形品破砕物と(YZ)異形断面繊維強化熱可塑性樹脂組成物のペレット混合により、比較例3~5と比較して、得られた繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物の(B)強化繊維の重量比Br/Bfが増加し、異形断面強化繊維に由来する成形収縮率(直角方向)、成形収縮率の低異方性、流動性、線膨張係数(直角方向)、線膨張係数の低異方性、およびシャルピー衝撃強度の特性回復効果が認められ、重量比Br/Bfの調整によりこれら特性の制御が可能であることが示された。特に、耐ヒートサイクル性の顕著な向上が認められ、参考例7(未使用材)に比べてアップリサイクルが可能であった。これは、特に線膨張係数の低下および異方性の低下により寸法特性が向上したことで冷熱試験衝撃処理に伴う荷重の発生を低減できたためである。また、特に実施例9~10に示す通り重量比Br/Bfが5.0超となることで、参考例7(未使用材)に近い成形性、低異方性および耐ヒートサイクル性が得られることが示された。このような特徴を有する繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物は、未使用材と同じ金型で成形するクローズドリサイクルに好適である。
【0102】
[参考例10](X’-3)PPS樹脂組成物(未使用材)
PPS樹脂(A-PPS-1)60重量%、ガラス繊維(Br-1)40重量%、ならびにPPS樹脂、ガラス繊維の合計100重量部に対し、有機シラン化合物(d-1)0.3重量部を、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所)を用い、ガラス繊維は、サイドフィードで投入して、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、PPS樹脂組成物(X’-3)を得た。灰分率は40重量%で、密度は1.67g/cm3であった。
【0103】
[参考例11](X-4)成形品破砕物ペレット
(X’-1)PPS樹脂組成物の代わりに(X’-3)PPS樹脂組成物を用いたこと以外は参考例3、4と同等の方法で成形品破砕物ペレット(X-4)を得た。灰分率は40重量%で、密度は1.67g/cm3であった。
【0104】
[参考例12](YZ-3)異形断面ガラス繊維強化PPS樹脂組成物
ガラス繊維として、ガラス繊維(Bf-1)を用いたこと以外は、参考例10と同様の条件で溶融混練し、異形断面ガラス繊維強化PPS樹脂組成物(YZ-3)を得た。灰分率は40重量%で、密度は1.67g/cm3であった。
【0105】
[参考例10~12、実施例11~15、比較例6~8]
各原料を表5に示す割合でドライブレンドした。次いで得られた樹脂組成物を上記(1)~(8)項の評価に供して、各特性を測定した。
【0106】
【0107】
【0108】
上記表5および表6の参考例、実施例および比較例の比較により、強化繊維の配合量が異なる場合や、オレフィン系共重合体を配合しない場合でも、本発明の効果が得られることは明らかである。
【0109】
[参考例13](X-5)市場で使用後の組成比が不明な成形品破砕物ペレット
市場での使用後に回収された複数の水廻り製品から、PPS-GFと印字された組成比が不明なPPS樹脂組成物を複数取り外して、長軸寸法が10mm以下になるように破砕機で破砕し、破砕品をメッシュドラム式洗浄装置内にて50℃の温水を用いて洗浄し、エアブローにより水切りを行い、成形品破砕物を得た。次いで、成形品破砕物を、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部1箇所)を用いて、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、組成を均一にした成形品破砕物ペレット(X-5)を得た。灰分率は33重量%で、密度は1.54g/cm3であった。また、熱重量分析法による空気下の重量減少率の結果、オレフィン系ポリマーを約3重量%、PPSを約64重量%含むポリマーアロイであった。
【0110】
[参考例2、13、実施例16]
各原料を表7に示す割合でドライブレンドした。次いで得られた樹脂組成物を上記(1)~(8)項の評価に供して、各特性を測定した。なお、実施例16の樹脂組成物は、(A)PPSを約64.5重量%、オレフィン系エラストマーを約4重量%および(B)強化繊維を31.5重量%配合することがわかった。
【0111】
【0112】
上記表7により、(X)成形品破砕物が製品として使用後に回収された成形品であっても、本発明の効果が得られることは明らかである。
【0113】
これら実施例を挙げて具体的に説明した本発明の効果は、異形断面強化繊維に由来する特性回復効果であるため、熱可塑性樹脂や強化繊維の種類や配合量を問わず、本発明の効果が得られることは明らかである。