(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】融着接続システム
(51)【国際特許分類】
G02B 6/255 20060101AFI20250513BHJP
【FI】
G02B6/255
(21)【出願番号】P 2022518126
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021017016
(87)【国際公開番号】W WO2021221115
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2020080375
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110309
【氏名又は名称】住友電工オプティフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大木 一芳
(72)【発明者】
【氏名】大西 隆治
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 英明
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-197174(JP,A)
【文献】特開平02-044037(JP,A)
【文献】特開平09-005559(JP,A)
【文献】特開2004-317599(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0040615(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極、並びに、
前記第1電極に制御信号を出力すると共に、前記第2電極から前記制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路、を有する融着接続装置と、
前記フィードバック信号の状態から前記第1電極及び前記第2電極が劣化しているか否かを判定する劣化判定部と、
複数の前記フィードバック信号のそれぞれに対して異常であるか否かを判定する信号判定部と、を備え、
前記劣化判定部は、前記信号判定部によって異常であると判定された前記フィードバック信号の数に基づいて前記第1電極及び前記第2電極が劣化しているか否かを判定
し、
前記第1電極および前記第2電極の少なくともいずれかが劣化していると判定された後に、前記第1電極および前記第2電極を清掃するために前記第1電極および前記第2電極に対する放電パワーを強める、
融着接続システム。
【請求項2】
放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極、並びに、
前記第1電極に制御信号を出力すると共に、前記第2電極から前記制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路、を有する融着接続装置と、
前記フィードバック信号の状態から前記第1電極及び前記第2電極が劣化しているか否かを判定する劣化判定部と、
を備え、
前記劣化判定部は、前記フィードバック信号の電圧値の状態から前記第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定
し、
前記第1電極および前記第2電極の少なくともいずれかが劣化していると判定された後に、前記第1電極および前記第2電極を清掃するために前記第1電極および前記第2電極に対する放電パワーを強める、
融着接続システム。
【請求項3】
放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極、並びに、
前記第1電極に制御信号を出力すると共に、前記第2電極から前記制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路、を有する融着接続装置と、
前記フィードバック信号の状態から前記第1電極及び前記第2電極が劣化しているか否かを判定する劣化判定部と、
を備え、
前記フィードバック信号の電流値の値から前記第1電極及び前記第2電極の劣化判定が行わ
れ、
前記第1電極および前記第2電極の少なくともいずれかが劣化していると判定された後に、前記第1電極および前記第2電極を清掃するために前記第1電極および前記第2電極に対する放電パワーを強める、
融着接続システム。
【請求項4】
放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極、並びに、
前記第1電極に制御信号を出力すると共に、前記第2電極から前記制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路、を有する融着接続装置と、
前記フィードバック信号の状態から前記第1電極及び前記第2電極が劣化しているか否かを判定する劣化判定部と、
を備え、
前記制御信号に対する前記フィードバック信号の遅れ時間に基づいて前記第1電極及び前記第2電極の劣化判定を行
い、
前記第1電極および前記第2電極の少なくともいずれかが劣化していると判定された後に、前記第1電極および前記第2電極を清掃するために前記第1電極および前記第2電極に対する放電パワーを強める、
融着接続システム。
【請求項5】
放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極、並びに、
前記第1電極に制御信号を出力すると共に、前記第2電極から前記制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路、を有する融着接続装置と、
前記フィードバック信号の状態から前記第1電極及び前記第2電極が劣化しているか否かを判定する劣化判定部と、
を備え、
前記フィードバック信号に複数回の変動が生じたときに前記第1電極及び前記第2電極が劣化していると判定さ
れ、
前記第1電極および前記第2電極の少なくともいずれかが劣化していると判定された後に、前記第1電極および前記第2電極を清掃するために前記第1電極および前記第2電極に対する放電パワーを強める、
融着接続システム。
【請求項6】
前記劣化判定部は、前記制御信号の状態、及び前記フィードバック信号の状態の双方から前記第1電極及び前記第2電極が劣化しているか否かを判定する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の融着接続システム。
【請求項7】
前記信号判定部は、遅れ時間が一定値以上である場合には前記フィードバック信号を異常と判定し、
前記信号判定部は、前記遅れ時間が前記一定値以上でない場合には前記フィードバック信号を正常と判定する、
請求項1に記載の融着接続システム。
【請求項8】
前記劣化判定部は、前記信号判定部によって前記フィードバック信号が異常であると判定されたときに、前記第1電極及び前記第2電極の少なくともいずれかが劣化していると判定する、
請求項1に記載の融着接続システム。
【請求項9】
前記劣化判定部は、前記第1電極及び前記第2電極の劣化有無の判定の結果を前記融着接続装置及び情報端末の少なくともいずれかに送信する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の融着接続システム。
【請求項10】
前記劣化判定部の判定結果は、前記融着接続装置のモニタ、又は前記情報端末のディスプレイに表示される、
請求項9に記載の融着接続システム。
【請求項11】
前記信号判定部は前記フィードバック信号の変動の有無を判定し、前記変動がある場合には前記フィードバック信号が異常であると判定する、
請求項1に記載の融着接続システム
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、融着接続システム、融着接続装置及び劣化判定方法に関する。
本出願は、2020年4月30日の日本出願第2020-080375号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、融着接続装置、及び融着接続機の保守管理方法が記載されている。融着接続装置は、光ファイバ同士を融着接続するための融着接続機と、融着接続機にI/Oケーブルを介して接続されたデータ管理端末機とを備える。融着接続機は、光ファイバの融着を行う放電部を備える。放電部は、融着対象の2本の光ファイバが載置されるステージに対向配置された一対の電極を有し、一対の電極の間に電圧が印加されることによって放電を生じさせて当該2本の光ファイバを融着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
一実施形態に係る融着接続システムは、放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極、並びに、第1電極に制御信号を出力すると共に、第2電極から制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路、を有する融着接続装置と、フィードバック信号の状態から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定する劣化判定部と、を備える。
【0005】
一実施形態に係る融着接続装置は、放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極と、第1電極に制御信号を出力すると共に、第2電極から制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路と、フィードバック信号を監視すると共に、フィードバック信号の状態から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定する信号モニタと、を備える。
【0006】
一実施形態に係る劣化判定方法は、放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極の劣化の有無を判定する劣化判定方法であって、第1電極に制御信号を出力する工程と、第2電極から制御信号のフィードバック信号を受ける工程と、フィードバック信号の状態から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る融着接続装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の融着接続装置の風防カバーが開けられた状態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の融着接続装置の一対の電極棒、放電回路及び信号モニタを示す図である。
【
図4】
図4は、信号モニタによって監視された制御信号及び正常なフィードバック信号を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、信号モニタによって監視された制御信号及び異常なフィードバック信号を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る融着接続システムの構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る劣化判定方法の工程の例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、変形例に係る融着接続システムの構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、変形例に係る融着接続システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ところで、融着接続装置の一対の電極は、長期的に使用を継続すると劣化することがある。例えば、融着放電を繰り返し行うと電極の汚れ等によって放電が安定しなくなる。融着接続装置の電極の劣化を判断する方法として、電極の使用回数が挙げられる。しかしながら、電極の使用回数によって電極の劣化判定を行う場合、電極の劣化判定を高精度に行えない場合がある。従って、電極の劣化状態の判定精度の点で改善の余地がある。
【0009】
本開示は、電極の劣化状態を高精度に判定できる融着接続システム、融着接続装置及び劣化判定方法を提供することを目的とする。
【0010】
本開示によれば、電極の劣化状態を高精度に判定できる。
【0011】
[実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。一実施形態に係る融着接続システムは、放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極、並びに、第1電極に制御信号を出力すると共に、第2電極から制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路、を有する融着接続装置と、フィードバック信号の状態から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定する劣化判定部と、を備える。
【0012】
一実施形態に係る融着接続装置は、放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極と、第1電極に制御信号を出力すると共に、第2電極から制御信号のフィードバック信号を受ける放電回路と、フィードバック信号を監視すると共に、フィードバック信号の状態から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定する信号モニタと、を備える。
【0013】
一実施形態に係る劣化判定方法は、放電によって光ファイバの融着接続を行う第1電極及び第2電極の劣化の有無を判定する劣化判定方法であって、第1電極に制御信号を出力する工程と、第2電極から制御信号のフィードバック信号を受ける工程と、フィードバック信号の状態から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定する工程と、を備える。
【0014】
前述した融着接続システム、融着接続装置及び劣化判定方法では、第1電極に制御信号が出力され、第2電極から当該制御信号のフィードバック信号が出力される。そして、フィードバック信号の状態から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かが判定される。従って、制御信号のフィードバック信号を第1電極及び第2電極の劣化の判定に有効利用することができる。第1電極及び第2電極の少なくともいずれかに劣化が生じているときには、制御信号の出力に伴って得られるフィードバック信号が当該制御信号に追従しない。「制御信号に追従」とは、例えば、フィードバック信号が示す値が制御信号が示す値に対応する値となることを示している。例えば、第1電極及び第2電極が劣化していないときには、フィードバック信号の値は制御信号の値の正負を逆にした値となり、フィードバック信号が制御信号に追従する。すなわち、フィードバック信号の値が制御信号の値に対応した値(一例として、フィードバック信号の値が制御信号の値の正負を反転させた値)となる。このとき、例えば、フィードバック信号の波形は、制御信号の波形を反転させた波形となって表示される。「追従しない」とは、フィードバック信号の値が制御信号の値に対応しない値となっていることを示している。このとき、例えば、フィードバック信号の波形は、制御信号の波形を反転させた波形以外の波形となって表示される。前述した融着接続システム、融着接続装置及び劣化判定方法では、このフィードバック信号の特性を利用して電極の劣化判定を行うので、電極の劣化判定を容易に且つ高精度に行うことができる。
【0015】
劣化判定部は、制御信号の状態、及びフィードバック信号の状態の双方から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定してもよい。この場合、制御信号の状態と対比してフィードバック信号の状態を判定できるので、フィードバック信号の状態判定を容易に且つより高精度に行うことができる。「信号の状態」とは、信号が示す値の推移を示している。上記のように、制御信号の状態、及びフィードバック信号の状態の双方から第1電極及び第2電極の劣化判定を行う場合、電極の劣化判定をより高精度に行うことができる。
【0016】
前述した融着接続システム、融着接続装置及び劣化判定方法では、複数のフィードバック信号のそれぞれに対して異常であるか否かを判定する信号判定部を備えてもよい。劣化判定部は、信号判定部によって異常であると判定されたフィードバック信号の数に基づいて第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定してもよい。この場合、信号判定部によって異常と判定されたフィードバック信号の数に基づいて電極の劣化判定が行われるので、容易に電極の劣化判定を行うことができる。また、複数のフィードバック信号に対して信号判定部が異常の有無を判定した結果を用いて電極の劣化判定を行うことにより、一層高精度に電極の劣化判定を行うことができる。
【0017】
劣化判定部は、フィードバック信号の電圧値の状態から第1電極及び第2電極が劣化しているか否かを判定してもよい。この場合、信号処理を行うにあたって扱いやすい電圧信号を用いてフィードバック信号の状態判定を行うことができる。よって、フィードバック信号の判定、及び電極の劣化判定を更に容易に行うことができる。
【0018】
[実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る融着接続システム、融着接続装置及び劣化判定方法の具体例について説明する。図面の説明において、同一又は相当の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易のため、一部を簡略化又は誇張している場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0019】
図1は、本開示の一実施形態に係る融着接続装置1を示す斜視図である。
図2は、融着接続装置1の風防カバー6が開放された状態を示す斜視図である。融着接続装置1は、光ファイバ同士を融着接続する装置であり、箱状の筐体2を備える。筐体2の上部には、光ファイバ同士を融着する融着部3と、融着部3で融着された光ファイバの融着接続部に被せられるファイバ補強スリーブを加熱収縮させる加熱器4とが設けられている。融着接続装置1は、筐体2の内部に配置されたカメラによって撮影された光ファイバ同士の融着接続の状態を表示するモニタ5を備える。更に、融着接続装置1は、融着部3への風の進入を防止する風防カバー6を備える。
【0020】
融着部3は、一対の光ファイバホルダ3aを載置可能なホルダ載置部と、一対のファイバ位置決め部3bと、放電を行う第1電極3c1及び第2電極3c2とを備える。第1電極3c1及び第2電極3c2のそれぞれは、電極棒とも称される。融着対象の光ファイバのそれぞれは、光ファイバホルダ3aに保持され、各光ファイバホルダ3aはホルダ載置部に載置及び固定される。ファイバ位置決め部3bは、光ファイバホルダ3a同士の間に配置され、各光ファイバホルダ3aに固定された光ファイバの先端部を位置決めする。第1電極3c1及び第2電極3c2は、ファイバ位置決め部3b同士の間に配置される。第1電極3c1及び第2電極3c2のそれぞれは、アーク放電によって光ファイバの先端同士を融着するための電極である。
【0021】
風防カバー6は、融着部3を開閉自在に覆うように筐体2に連結されている。風防カバー6は一対の側面6aを有する。風防カバー6の各側面6aには融着部3に光ファイバを導入するための導入口6bが形成されている。導入口6bから導入された光ファイバは、融着部3の光ファイバホルダ3aに到達し、光ファイバホルダ3aに保持される。
【0022】
図3は、第1電極3c1及び第2電極3c2に対する信号回路を模式的に示す図である。
図3に示されるように、融着部3は、更に、第1電極3c1及び第2電極3c2への放電を行う放電回路3dと、高圧ユニット3fと、第1電極3c1及び第2電極3c2に対する信号をモニタする信号モニタ3gとを有する。放電回路3dは、光ファイバの融着を行う旨の制御信号S1を受けると高圧ユニット3fを介して第1電極3c1に高電圧を印加する。第1電極3c1に高電圧を印加することによって第1電極3c1及び第2電極3c2の間にアーク放電が生じる。第1電極3c1への高電圧の印加、及びアーク放電に伴い、第2電極3c2からは放電回路3dに向かうフィードバック信号S2(着火信号)が生じる。信号モニタ3gは、フィードバック信号S2と、放電回路3dへの制御信号S1とを監視する。
【0023】
図4は、信号モニタ3gによって監視される制御信号S1及びフィードバック信号S2を模式的に示す図である。
図4に例示されるように、信号モニタ3gは、例えば、信号表示装置であるオシロスコープ3hを含んでおり、オシロスコープ3hに制御信号S1及びフィードバック信号S2が表示される。第1電極3c1及び第2電極3c2の状態が正常である場合には、制御信号S1の出力に伴ってフィードバック信号S2が速やかに追従し、信号モニタ3gにおいて安定したフィードバック信号S2の波形が得られる。このとき、フィードバック信号S2が示す値が制御信号S1が示す値に対応した値(一例として、フィードバック信号S2が示す値が制御信号S1が示す値の正負を逆にした値)となる。
【0024】
これに対し、
図5に例示されるように、第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかに劣化が生じている場合には、制御信号S1の出力に伴ってフィードバック信号S2が直ちに追従しない。例えば、フィードバック信号S2が示す値が制御信号S1が示す値の正負を逆とした値にならない。具体例として、第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかに劣化が生じている場合には、制御信号S1に対するフィードバック信号S2の遅れ時間Dが生じる。また、第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかに劣化が生じている場合には、フィードバック信号S2が安定しない。例えば、フィードバック信号S2が示す値が一時的に制御信号S1が示す値に対応しない値となる。具体例として、フィードバック信号S2に変動E(バタつきとも称される)が生じる。
【0025】
「電極の劣化」とは、例えば、第1電極3c1又は第2電極3c2の経年劣化を示している。例えば、融着放電を繰り返し行って第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかが劣化すると、アーク放電が安定しなくなる。また、「電極の劣化」は、例えば、放電を繰り返し行った後に、第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかの先端に光ファイバの成分であるシリカが堆積することを示している。第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかが劣化すると、第1電極3c1と第2電極3c2の間において絶縁破壊が生じにくくなって放電が不安定となる。その結果、制御信号S1に対してフィードバック信号S2が追従しなくなることがある。
【0026】
本実施形態に係る融着接続装置1、融着接続システム10及び劣化判定方法では、フィードバック信号S2を監視することによって第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定を行う。以下では、例示的な融着接続システム10の構成について
図6を参照しながら説明する。
図6は、融着接続システム10の構成を概略的に示す図である。融着接続システム10は、前述した融着接続装置1と情報端末11とサーバ20とを備える。
【0027】
融着接続装置1は、無線通信によって情報端末11と通信可能に構成されている。情報端末11は、例えば、融着接続装置1を使用する工事プロジェクトの管理者が保有する端末である。情報端末11は、スマートフォン又はタブレット等の携帯端末であってもよいし、パソコン等の固定端末であってもよい。サーバ20は、例えば、複数の工事プロジェクトを統括する管理サーバであって、インターネット等の情報通信網30を介して融着接続装置1及び情報端末11と通信可能なコンピュータである。融着接続装置1及び情報端末11は、例えば、サーバ20とは異なる場所に存在する。
【0028】
融着接続装置1は、CPU、RAM、ROM、入力装置、無線通信モジュール、補助記憶装置及び出力装置等のハードウェアを含むコンピュータを備えていてもよい。これらの構成要素がプログラム等によって動作することにより、融着接続装置1の各機能が実現される。融着接続装置1は、例えば、前述した制御信号S1及びフィードバック信号S2のデータをサーバ20に送信する。制御信号S1及びフィードバック信号S2のデータとは、例えば、信号モニタ3gによって電圧値に変換された制御信号S1及びフィードバック信号S2のデータを示している。
【0029】
サーバ20は、CPU、RAM、ROM、通信モジュール及び補助記憶装置等のハードウェアを含むコンピュータを含むものとして構成される。これらの構成要素がプログラム等によって動作することにより、サーバ20の各機能が実現される。サーバ20は、機能的には、信号取得部21、信号判定部22及び劣化判定部23を備える。
【0030】
以下では、サーバ20が信号判定部22及び劣化判定部23を含む例について説明する。しかしながら、サーバ20の信号判定部22及び劣化判定部23に代えて、融着接続装置1が信号判定部及び劣化判定部を備えていてもよい。劣化判定部23に代えて、融着接続装置1の信号モニタ3gによって第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定がなされてもよい。
【0031】
信号取得部21は、融着接続装置1から制御信号S1及びフィードバック信号S2のデータ(電圧値)を取得する。信号判定部22は、信号取得部21が取得したフィードバック信号S2の異常の有無を判定する。例えば、信号判定部22は、フィードバック信号S2の値が制御信号S1の値に対応する値となっているか否かを判定する。具体例として、信号判定部22は、フィードバック信号S2に変動Eが生じているか否かを判定してもよい。また、信号判定部22は、制御信号S1に対するフィードバック信号S2の遅れ時間Dが一定値以上であるか否かを判定してもよい。この場合、信号判定部22は、遅れ時間Dが一定値以上である場合にはフィードバック信号S2を異常、遅れ時間Dが一定値以上でない場合にはフィードバック信号S2を正常、と判定してもよい。
【0032】
劣化判定部23は、フィードバック信号S2の状態から第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかが劣化しているか否かを判定する。例えば、劣化判定部23は、信号判定部22によってフィードバック信号S2が正常であると判定されたときに第1電極3c1及び第2電極3c2が劣化していないと判定する。劣化判定部23は、信号判定部22によってフィードバック信号S2が異常であると判定されたときに第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかが劣化していると判定する。劣化判定部23は、第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化有無の判定の結果を融着接続装置1及び情報端末11の少なくともいずれかに送信する。そして、劣化判定部23の判定結果は、例えば、融着接続装置1のモニタ5、又は情報端末11のディスプレイに表示される。
【0033】
次に、
図7に示されるフローチャートを参照しながら本実施形態に係る劣化判定方法について説明する。
図7は、本実施形態に係る劣化判定方法の工程の例を示すフローチャートである。まず、一対の光ファイバのそれぞれが光ファイバホルダ3aに保持され、ファイバ位置決め部3bによって各光ファイバが位置決めされた状態で第1電極3c1に制御信号が出力される。そして、アーク放電、及び光ファイバの融着接続が行われる(ステップT1)。
【0034】
このとき、信号モニタ3gが制御信号S1及びフィードバック信号S2をモニタし、制御信号S1及びフィードバック信号S2のデータがサーバ20に送信される。そして、信号取得部21が制御信号S1及びフィードバック信号S2のデータを取得し、当該フィードバック信号S2の異常の有無を信号判定部22が判定する。具体例として、信号判定部22はフィードバック信号S2の変動E(バタつき)の有無を判定し、変動Eがある場合にはフィードバック信号S2が異常であると判定する(ステップT2)。
【0035】
信号判定部22は、フィードバック信号S2の変動有りと判定した場合には変動有りの回数(異常であると判定されたフィードバック信号S2の数)に1を加算する(ステップT3)。一方、信号判定部22がフィードバック信号S2の変動無しと判定した場合にはステップT4に移行する。ステップT4では、放電回数がn回(nは自然数)に達したか否かが劣化判定部23によって判定される。放電回数がn回に達したと判定された場合にはステップT5に移行し、放電回数がn回に達していないと判定された場合にはステップT1に戻って再度放電等が行われる。
【0036】
ステップT5では、信号判定部22によって異常と判定されたフィードバック信号S2の数が劣化判定部23によって判定される。具体例として、フィードバック信号S2における変動有りの回数がm回(mはn以下の自然数)以上であるか否かが劣化判定部23によって判定される。例えば、劣化判定部23は、変動有りの回数がm回以上であると判定した場合には第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかが劣化していると判定する(ステップT6)。一方、劣化判定部23は、変動有りの回数がm回以上でないと判定した場合には第1電極3c1及び第2電極3c2が劣化していないと判定する(ステップT7)。
【0037】
以上の判定を行った後、例えば、情報端末11及び融着接続装置1のいずれかに判定結果が送信され、情報端末11及び融着接続装置1のいずれかにおいて判定結果が表示される。その後、一連の工程が完了する。なお、一例として、mの値は4であり、nの値は10である。この場合、得られた10のフィードバック信号S2のうち異常なフィードバック信号S2の数が4以上である場合に第1電極3c1及び第2電極3c2が劣化していると判定される。具体例として、10回の放電中4回以上フィードバック信号S2に変動Eが生じた場合に第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかが劣化していると判定される。しかしながら、mの値、及びnの値は、上記の例に限られず適宜変更可能である。
【0038】
ここで、フィードバック信号S2の数の計数方法について例示する。通常、放電は所定時間連続して行われ、この間、予め設定された所定のパターンを持つ制御信号S1を連続して発生する。このような放電開始(放電のための制御信号S1が発せられて)から放電終了までの一連の期間におけるフィードバック信号S2をまとめて、1のフィードバック信号S2と計数する。他のタイミングにおける放電開始から放電終了までの一連の期間内の他のフィードバック信号S2をまとめて、上記とは異なる1のフィードバック信号S2
と計数する。なおこの場合、フィードバック信号S2の数は、放電回数と同じとなる。
【0039】
次に、本実施形態に係る融着接続システム10、融着接続装置1及び劣化判定方法の作用効果について説明する。本実施形態に係る融着接続システム10、融着接続装置1及び劣化判定方法では、第1電極3c1に制御信号S1が出力され、第2電極3c2から制御信号S1のフィードバック信号S2が出力される。そして、フィードバック信号S2の状態から第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかが劣化しているか否かが判定される。
【0040】
従って、制御信号S1のフィードバック信号S2を第1電極3c1及び第2電極3c2の判定に有効利用することができる。第1電極3c1及び第2電極3c2のいずれかに劣化が生じているときには、制御信号S1の出力に伴ってフィードバック信号S2が制御信号S1に追従しない。本実施形態に係る融着接続システム10、融着接続装置1及び劣化判定方法では、フィードバック信号S2の特性を利用して第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定を行うので、第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定を容易に且つ高精度に行うことができる。
【0041】
前述したように、劣化判定部23は、制御信号S1の状態、及びフィードバック信号S2の状態の双方から第1電極3c1及び第2電極3c2が劣化しているか否かを判定してもよい。この場合、制御信号S1の状態と対比してフィードバック信号S2の状態を判定できるので、フィードバック信号S2の状態判定を容易に且つより高精度に行うことができる。従って、第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定をより高精度に行うことができる。
【0042】
実施形態に係る融着接続システム10、融着接続装置1及び劣化判定方法は、複数のフィードバック信号S2のそれぞれに対して異常であるか否かを判定する信号判定部22を備えてもよい。劣化判定部23は、信号判定部22によって異常であると判定されたフィードバック信号S2の数に基づいて第1電極3b1及び第2電極3b2が劣化しているか否かを判定してもよい。この場合、信号判定部22によって異常と判定されたフィードバック信号S2の数に基づいて電極の劣化判定が行われるので、容易に電極の劣化判定を行うことができる。また、複数のフィードバック信号S2に対して信号判定部22が異常の有無を判定した結果を用いて電極の劣化判定を行うことにより、一層高精度に電極の劣化判定を行うことができる。
【0043】
劣化判定部23は、フィードバック信号S2の電圧値の状態から第1電極3c1及び第2電極3c2が劣化しているか否かを判定してもよい。この場合、信号処理を行うにあたって扱いやすい電圧信号を用いてフィードバック信号S2の状態判定を行うことができるので、フィードバック信号S2の判定、及び電極の劣化判定を更に容易に行うことができる。
【0044】
以上、本開示に係る融着接続システム10、融着接続装置1及び劣化判定方法の実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、前述した実施形態に限定されない。すなわち、本発明が特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内において種々の変形及び変更が可能であることは、当業者によって容易に認識される。例えば、融着接続システム及び融着接続装置の各部の構成は適宜変更可能であり、劣化判定方法の各工程の内容及び順序も前述した実施形態に限られず適宜変更可能である。
【0045】
例えば、前述した実施形態では、サーバ20が信号取得部21、信号判定部22及び劣化判定部23を備え、サーバ20の劣化判定部23が電極3cの劣化判定を行う例について説明した。しかしながら、
図8に示されるように、劣化判定部43が融着接続装置41とは別に設けられた融着接続システム40であってもよい。また、
図9に示されるように、融着接続装置51が劣化判定部53を備えた融着接続システム50であってもよい。更に、前述したように融着接続装置1が信号判定部及び劣化判定部を備えていてもよいし、情報端末11が信号判定部及び劣化判定部を備えていてもよい。このように、信号判定部及び劣化判定部の場所は適宜変更可能である。例えば、融着接続装置1が信号判定部及び劣化判定部を備える場合、情報端末11及びサーバ20を不要とすることが可能となる。
【0046】
前述した実施形態では、フィードバック信号S2の電圧値の状態から第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定が行われる例について説明した。しかしながら、フィードバック信号S2の電流値の値から第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定が行われてもよい。すなわち、信号モニタ3gが制御信号S1の電流値、及びフィードバック信号S2の電流値を監視し、これらの電流値に基づいて第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定がなされてもよい。電流値は、電圧値よりも微小な変化を捉えやすいという利点がある。
【0047】
前述した実施形態では、劣化判定部23による第1電極3c1及び第2電極3c2の判定結果が表示される例について説明した。しかしながら、第1電極3c1及び第2電極3c2の少なくともいずれかが劣化していると判定された後に第1電極3c1及び第2電極3c2に対する放電パワーを強めてもよい。この場合、第1電極3c1及び第2電極3c2に対する強い放電パワーによって第1電極3c1又は第2電極3c2に付着したシリカ等を清掃する(蒸発させる)ことができるので、劣化の進行の抑制に寄与する。
【0048】
前述した実施形態では、フィードバック信号S2の変動Eの有無に基づいて第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化を判定する例について説明した。しかしながら、例えば制御信号S1に対するフィードバック信号S2の遅れ時間Dに基づいて第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定を行ってもよい。また、フィードバック信号S2に複数回の変動Eが生じたときに第1電極3c1及び第2電極3c2が劣化していると判定されてもよい。このように、フィードバック信号S2から第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化を判定する方法は前述した実施形態に限られず適宜変更可能である。
【0049】
前述した実施形態では、放電開始から放電終了までの一連の期間におけるフィードバック信号S2をまとめて、その数を1と計数したが、放電開始から放電終了までの一連の期間を所定の時間間隔毎に分割し、それぞれの分割期間毎にまとめてフィードバック信号S2を1と計数してもよい。例えば放電時間が10秒間、時間間隔を2秒として、放電開始から2秒経過するまでの第一の期間におけるフィードバック信号S2を1と計数し、放電開始2秒後から4秒後までの第二の期間おけるフィードバック信号S2を他の1と計数してもよい。この場合、1回の放電において分割期間数は5となり、フィードバック信号S2の数は5となる。更には、前記した計数方法と上記の計数方法を混在させてもよい。例えば、時間間隔をTとし、放電開始から放電終了までの一連の時間がT以下の場合は放電開始から放電終了までのフィードバック信号S2をまとめて1と計数し、放電開始から放電終了までの一連の時間がTより大きい場合は、時間間隔T毎に分割した期間内におけるフィードバック信号S2をそれぞれ1と計数してもよい。
【0050】
前述した実施形態では、実際に光ファイバの融着接続を行う際の放電状態に基づいて第1電極3c1及び第2電極3c2の劣化判定を行ったが、光ファイバが無い状態での放電、いわゆる放電テストを行った際において劣化判定を行ってもよく、どのような状態であれ放電を行った場合であればそれらを判定対象に含んでよい。
【符号の説明】
【0051】
1…融着接続装置
2…筐体
3…融着部
3a…光ファイバホルダ
3b…ファイバ位置決め部
3c1…第1電極
3c2…第2電極
3d…放電回路
3f…高圧ユニット
3g…信号モニタ
3h…オシロスコープ
4…加熱器
5…モニタ
6…風防カバー
6a…側面
6b…導入口
10…融着接続システム
11…情報端末
20…サーバ
21…信号取得部
22…信号判定部
23…劣化判定部
30…情報通信網
D…遅れ時間
E…変動