(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】化学蓄熱材及びその製造方法、並びにケミカルヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
C09K 5/16 20060101AFI20250513BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20250513BHJP
F28F 23/00 20060101ALI20250513BHJP
【FI】
C09K5/16 ZAB
F28D20/00 Z
F28F23/00 Z
(21)【出願番号】P 2021561428
(86)(22)【出願日】2020-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2020043690
(87)【国際公開番号】W WO2021106881
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2019216288
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】中西 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】塘 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】劉 醇一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 鴻輝
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-232101(JP,A)
【文献】特開2016-023193(JP,A)
【文献】米国特許第04288338(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0046170(KR,A)
【文献】特開平09-095668(JP,A)
【文献】特開平08-060142(JP,A)
【文献】特開2009-149807(JP,A)
【文献】特開平08-259931(JP,A)
【文献】特開平08-113775(JP,A)
【文献】特開2009-186119(JP,A)
【文献】特開2018-168224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
F28D 17/00-21/00
F25B 1/00- 7/00
F25B 9/00-11/04
F25B 13/00
F25B 15/00-17/12
F25B 19/00-30/06
F25B 31/00-31/02
F25B 39/00-41/48
F25D 17/04-17/08
F25D 23/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の化合物を含
み、
前記アルカリ金属の化合物が、アルカリ金属のハロゲン化物;酢酸塩;硝酸塩;水酸化ナトリウム、並びに水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属の化合物である、化学蓄熱材。
【請求項2】
前記アルカリ金属の化合物の含有量が、前記アルカリ土類金属の硫酸塩に対して0.1~50mol%である、請求項1に記載の化学蓄熱材。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属の硫酸塩を構成するアルカリ土類金属が、マグネシウム及びカルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の化学蓄熱材。
【請求項4】
前記アルカリ金属の化合物が、アルカリ金属のハロゲン化物
、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化学蓄熱材。
【請求項5】
前記アルカリ金属の化合物を構成するアルカリ金属が、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化学蓄熱材。
【請求項6】
前記アルカリ金属の化合物が、ハロゲン化リチウムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の化学蓄熱材。
【請求項7】
前記アルカリ金属の化合物が、塩化リチウム、
及び臭化リチウ
ムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の化学蓄熱材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の化学蓄熱材の製造方法であって、
前記アルカリ土類金属の硫酸塩及び前記アルカリ金属の化合物を混合する工程を含む、化学蓄熱材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の化学蓄熱材を有し、
前記化学蓄熱材の脱水吸熱反応及び水和発熱反応を利用する、ケミカルヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材及びその製造方法、並びにケミカルヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出規制によって化石燃料の使用削減が求められており、製造における各プロセスの省エネルギー化に加え、排熱の利用を進める必要がある。排熱の利用の手段としては、水を利用した100℃以下の温水蓄熱が知られている。しかし、温水蓄熱には、(1)放熱損失があるため長時間の蓄熱が不可能である、(2)顕熱量が小さく、大量の水が必要であるため蓄熱設備のコンパクト化が困難である、及び(3)出力温度が利用量に応じて非定常であり、次第に降下する等の問題がある。したがって、排熱の利用を進めるためには、より効率の高い蓄熱技術を開発する必要がある。
【0003】
温水蓄熱以外の蓄熱方法としては、相転移を利用する蓄熱方法;及び化学蓄熱法が挙げられる。相転移を利用する蓄熱方法は、物質の相転移(相変化)によって生ずる潜熱及び顕熱の出入りを利用する。当該方法は、低温域での動作が可能であり、相転移点をある程度任意に設計できる等の利点がある。
【0004】
相転移を利用する蓄熱方法に用いられる蓄熱材のうち固液相変化材として、酢酸ソーダ系材料;及びエリスリトール等の多価糖アルコール系材料が知られている(特許文献1)。例えば、酢酸ソーダ三水和物の場合、融点は約58℃であって、その固体-液体間の相転移を利用するものである。さらに酢酸ソーダそのものが安全性や安定性にも優れている。
【0005】
化学蓄熱法は、より効率の高い蓄熱技術である。化学蓄熱法は、物質の吸着及び水和等の化学変化を伴うため、相転移を利用する蓄熱方法のような、材料自体(水及び溶融塩等)の潜熱及び顕熱を利用する蓄熱方法に比べて、単位重量当たりの蓄熱量が高いという利点がある。
【0006】
化学蓄熱法としては、大気中の水蒸気の吸脱着を利用する水蒸気吸脱着法;金属塩に対するアンモニア吸収(アンミン錯体生成反応)及び脱離反応を利用する方法;並びにアルコール等の有機物の吸脱着による反応を利用する方法等が提案されている。環境への負荷や装置の簡便性を考慮すると、水蒸気吸脱着法が最も有利である。
【0007】
水蒸気吸脱着法は、化学蓄熱材の可逆反応を利用するものである。水蒸気吸脱着法に用いられる化学蓄熱材としては、カルシウム又はマグネシウム等のアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物が知られている(特許文献2)。アルカリ土類金属としてカルシウム又はマグネシウムを用いる場合の反応式を以下に示す。
【0008】
CaO+H2O ⇔ Ca(OH)2:ΔH=-109.2kJ/mol
MgO+H2O ⇔ Mg(OH)2:ΔH=-81.0kJ/mol
【0009】
各式中、右方向への反応は酸化カルシウム又は酸化マグネシウムの水和発熱反応である。反対に、左方向への反応は水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムの脱水吸熱反応である。水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムの脱水反応の進行によって蓄熱することができ、また、蓄えられた熱エネルギーを、酸化カルシウム又は酸化マグネシウムの水和反応が進行することによって放熱又は外部に供給することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されるような相転移を利用する蓄熱方法は、単位重量当たりの蓄熱量(蓄熱密度)が低いため、装置全体の重量及び容積が大きくなること、相対的に高価となること、及び蓄放熱温度が融点付近に限られること等の問題がある。
【0011】
また、アルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物(水酸化マグネシウム等)を用いる化学蓄熱法(例えば、特許文献2等)は、蓄熱密度に非常に優れるものの、蓄熱可能となる温度域が概ね250℃以上であるため、150℃以下の低温熱源を利用できないという問題がある。
【0012】
150℃以下の低温廃熱は、その発生場所での用途が限定されること等から大部分が未利用のまま放出されているという課題があり、その有効利用が求められる。
【0013】
産業別にみた工場の排熱の調査でも100~150℃あたりの温度域の排熱が大量に存在することが報告されている(非特許文献1)。実際に、温度帯別の未利用熱に関する調査でも、150℃未満の排熱利用のニーズが非常に高い(非特許文献2)。そこで、低温域で適用可能な蓄熱技術の開発の取り組みが進められている。
【0014】
低温廃熱を利用可能な化学蓄熱材として、アルカリ土類金属の硫酸塩化合物が有望な材料として検討されている(特許文献3)。水蒸気吸脱着法に用いる場合、アルカリ土類金属の硫酸塩化合物の一つである硫酸マグネシウムは、理論上2.8GJ/m3の高いエネルギー密度を有する。
【0015】
水蒸気吸脱着法の化学蓄熱材として硫酸マグネシウムを用いる場合の反応式の一例を以下に示す。
MgSO4・mH2O(s)⇔MgSO4・nH2O(s)+(m-n)H2O(g)
ただし、m及びnは、硫酸マグネシウムの水和数の平均値であり、かつ、m>n≧1の関係を満たす。
【0016】
各式中、右方向への反応は硫酸マグネシウムの脱水吸熱反応である。反対に、左方向への反応は硫酸マグネシウムの水和発熱反応である。
【0017】
しかしながら、アルカリ土類金属の硫酸塩を用いた化学蓄熱材は、その特性(反応温度、反応効率、及び反応性等)が十分に満足できるものではなく、改善の余地がある。特に、硫酸マグネシウムは、理論上、高いエネルギー密度を有するが、実際には、低温域(例えば、60~150℃)における化学反応の反応性が不十分であるため、そのエネルギーを効率的に利用できていない。硫酸マグネシウムの場合、水和反応性の低さに問題があり、脱水後の再水和過程に長時間を有する課題があることが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】日本国特開昭52-149659号公報
【文献】日本国特開平6-213529号公報
【文献】日本国特開2018-040554号公報
【非特許文献】
【0019】
【文献】独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター環境・エネルギーユニット、中低温熱利用の高度化に関する技術調査報告書(2015年)
【文献】未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合技術開発センター、産業分野の排熱実態調査報告書(2019年)
【文献】K.Porsern et al., Thermochimica Acta, Volume 611, 10 July 2015, Pages 1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このように、化学蓄熱材の反応性等の諸特性を一層向上させることは、依然として重要な課題である。特に、蓄放熱効率の改良及び蓄放熱システムの適用温度域の拡張等の側面から、低温域における反応性が高い化学蓄熱材を開発することが必要である。
【0021】
本発明は、アルカリ土類金属の硫酸塩の脱水及び水和反応を利用し、低温域における反応性に優れる化学蓄熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、従来技術を考慮して鋭意研究の結果、アルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の化合物を含む化学蓄熱材が、低温域において優れた反応性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
本開示の第一は、アルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の化合物を含む、化学蓄熱材に関する。
【0024】
前記化学蓄熱材において、前記アルカリ金属の化合物の含有量が、前記アルカリ土類金属の硫酸塩に対して0.1~50mol%であることが好ましい。
【0025】
前記化学蓄熱材において、前記アルカリ土類金属の硫酸塩を構成するアルカリ土類金属が、マグネシウム及びカルシウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
前記化学蓄熱材において、前記アルカリ金属の化合物が、アルカリ金属のハロゲン化物及び水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
前記化学蓄熱材において、前記アルカリ金属の化合物を構成するアルカリ金属が、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
前記化学蓄熱材において、前記アルカリ金属の化合物が、ハロゲン化リチウムであることが好ましい。
【0029】
前記化学蓄熱材において、前記アルカリ金属の化合物が、塩化リチウム、臭化リチウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
本開示の第二は、前記化学蓄熱材の製造方法であって、前記アルカリ土類金属の硫酸塩及び前記アルカリ金属の化合物を混合する工程を含む、化学蓄熱材の製造方法に関する。
【0031】
本開示の第三は、前記化学蓄熱材を有し、前記化学蓄熱材の脱水吸熱反応及び水和発熱反応を利用する、ケミカルヒートポンプに関する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、アルカリ土類金属の硫酸塩の脱水及び水和反応を利用し、低温域における反応性に優れる化学蓄熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施例及び比較例の化学蓄熱材における、等温反応試験の重量変化(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
[化学蓄熱材]
本開示の化学蓄熱材は、アルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の化合物を含む。また、化学蓄熱とは、物質の可逆的な化学反応に伴う発熱及び吸熱を利用した蓄熱をいう。また、化学蓄熱材とは、化学蓄熱が可能な材料をいう。
【0035】
本開示の化学蓄熱材は、アルカリ土類金属の硫酸塩による脱水吸熱反応及び水和発熱反応を利用する蓄熱材である。アルカリ土類金属の硫酸塩による脱水吸熱反応及び水和発熱反応の反応式を以下に示す。
MSO4・mH2O⇔MSO4・nH2O+(m-n)H2O
ただし、Mはアルカリ土類金属、m及びnは、アルカリ土類金属の硫酸塩の水和数の平均値であり、かつ、m>n≧1の関係を満たす。
【0036】
式中、右方向への反応はアルカリ土類金属の硫酸塩の脱水吸熱反応である。反対に、左方向への反応はアルカリ土類金属の硫酸塩の水和発熱反応である。本開示の化学蓄熱材は、アルカリ土類金属の硫酸塩の脱水反応の進行によって蓄熱することができ、また、蓄えられた熱エネルギーを、アルカリ土類金属の硫酸塩の水和反応が進行することによって放熱又は外部に供給することができる。
【0037】
本開示のアルカリ土類金属の硫酸塩は、アルカリ土類金属をMと表した場合、MSO4と表される正塩をいう。
【0038】
アルカリ土類金属の硫酸塩としては、マグネシウム硫酸塩及びカルシウム硫酸塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、マグネシウム硫酸塩がより好ましい。
【0039】
アルカリ土類金属の硫酸塩を構成するアルカリ土類金属としては、マグネシウム及びカルシウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、マグネシウムがより好ましい。
【0040】
アルカリ土類金属として、マグネシウム又はカルシウムを用いる場合の反応式の一例を以下に示す。
【0041】
MgSO4・7H2O(s)⇔MgSO4・H2O(s)+6H2O(g)
CaSO4・2H2O(s)⇔CaSO4・1/2H2O(s)+3/2H2O(g)
【0042】
各式中、右方向への反応は硫酸マグネシウム又は硫酸カルシウムの脱水吸熱反応である。反対に、左方向への反応は硫酸マグネシウム又は硫酸カルシウムの水和発熱反応である。本開示の化学蓄熱材は、硫酸マグネシウム又は硫酸カルシウムの脱水反応の進行によって蓄熱することができ、また、蓄えられた熱エネルギーを、硫酸マグネシウム又は硫酸カルシウムの水和反応が進行することによって放熱又は外部に供給することができる。
【0043】
本開示の化学蓄熱材は、アルカリ土類金属の硫酸塩をその主成分として含有することが好ましい。前記アルカリ土類金属の硫酸塩の含有量としては、化学蓄熱材に対して、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、85重量%以上がさらに好ましい。また、99.99重量%以下が好ましい。アルカリ土類金属の硫酸塩の含有量が前記範囲より少なくなると、蓄熱密度が低下し、蓄熱効率が不十分な場合がある。アルカリ土類金属の硫酸塩の含有量が前記範囲より多くなると、アルカリ金属の化合物の使用による応性向上の達成が困難となる。
【0044】
本開示のアルカリ金属の化合物は、アルカリ金属を含有する化合物であって、本発明の効果を奏するものである限り、特に限定されない。アルカリ金属の化合物は、吸湿性を有する塩が好ましい。
【0045】
対応する水和物を生成することができる塩としては、例えば、取り扱いが容易なものとして、アルカリ金属のハロゲン化物(塩化物及び臭化物等);水酸化物;炭酸塩;酢酸塩;硝酸塩;並びに硫酸塩等が挙げられる。これらを単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0046】
アルカリ金属の化合物は、アルカリ金属のハロゲン化物及び水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アルカリ金属のハロゲン化物がより好ましい。
【0047】
アルカリ金属の化合物を構成するアルカリ金属としては、特に限定されないが、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、リチウム及びナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、リチウムがさらに好ましい。
【0048】
より具体的には、リチウムの化合物としては、ハロゲン化リチウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ハロゲン化リチウムがより好ましい。低温域における反応性により優れるためである。
【0049】
また、リチウムの化合物としては、塩化リチウム、臭化リチウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、塩化リチウム及び臭化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、塩化リチウム又は臭化リチウムがさらに好ましい。低温域における反応性により優れるためである。
【0050】
また、ナトリウムの化合物としては、ハロゲン化ナトリウム及び水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム及び水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0051】
さらに、カリウムの化合物としては、ハロゲン化カリウム及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、塩化カリウム、臭化カリウム及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0052】
本開示の化学蓄熱材における前記アルカリ金属の化合物の含有量は、前記アルカリ土類金属の硫酸塩に対して0.1~50mol%が好ましい。アルカリ金属の化合物の含有量が前記範囲より少なくなると、アルカリ金属の化合物の使用による反応性向上の達成が困難となる。また、アルカリ金属の化合物の含有量が前記範囲より多くなると、化学蓄熱材による単位体積又は単位重量あたりの蓄熱量が低下する恐れがある。前記アルカリ金属の化合物の含有量は、前記アルカリ土類金属の硫酸塩に対して、0.5~40mol%が好ましく、1.0~30mol%がより好ましく、2.0~25mol%がさらに好ましく、5.0~20mol%が特に好ましく、10~20mol%が最も好ましい。当該アルカリ金属の化合物の含有量を調節することで、化学蓄熱材の脱水吸熱温度を制御することができる。
【0053】
本開示の化学蓄熱材は、本発明の効果を奏する範囲において、他の成分(アルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の化合物以外の成分)が含まれていてよい。このような任意成分としては、アルカリ土類金属の硫酸塩以外の化学蓄熱成分;並びに、化学蓄熱作用を示さない成分(例えば、バインダー、補強材及び添加剤等)が挙げられる。
【0054】
本開示の化学蓄熱材の形状は特に限定されない。例えば、粉末、造粒体及び成形体等の形状が挙げられる。化学蓄熱材としての性状を実施可能な程度に損なわない限りにおいては、需要者の実施形態に応じた任意の形状を選択することが可能である。
【0055】
[化学蓄熱材の製造方法]
本開示の化学蓄熱材の製造方法は特に限定されないが、前記アルカリ土類金属の硫酸塩及び前記アルカリ金属の化合物を混合する工程を含む、化学蓄熱材の製造方法が挙げられる。
【0056】
化学蓄熱材の製造方法の具体例の一つとして、アルカリ土類金属の硫酸塩、アルカリ金属の化合物、及び必要に応じて化学蓄熱材に含まれる任意成分を攪拌混合する方法が挙げられる。このとき、すべての成分を一度に配合して攪拌混合してよく;いずれか2種以上の成分を攪拌混合した後、その混合物にさらにその他の成分を配合して攪拌混合してよい。
【0057】
また、各成分の配合及び添加の順序は適宜選択すればよい。アルカリ土類金属の硫酸塩に、アルカリ金属の化合物を加えて混合してよく;アルカリ金属の化合物に、アルカリ土類金属の硫酸塩を加えて混合してよい。バインダー、補強材及び添加剤等の各任意成分を加える順序も適宜選択すればよい。
【0058】
製造に用いるアルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の化合物は、粉末状が好ましい。このとき、化学蓄熱材は粉末として得ることができる。
【0059】
攪拌混合は、各成分、特に、アルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の化合物が均一に混合されればよく、その攪拌混合の方法は限定されない。アルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の化合物が複合化合物を形成してもよい。攪拌混合は、篩別、解砕及び粉砕からなる群より選択される少なくとも1以上を用いることができる。装置としては、例えば、ボールミルを用いることができる。
【0060】
形状が粉末、造粒体又は成形体の化学蓄熱材を製造するにあたっては、それぞれ既知の手法を適用することが可能である。例えば、粉末の化学蓄熱材を製造する際には、篩別、解砕及び/又は粉砕工程を適用することができる。
【0061】
造粒体の化学蓄熱材を製造する際には、押出造粒、転動造粒、流動層造粒又はスプレードライ等の造粒工程を適用することができる。造粒工程及び硫酸塩の種類等に応じて、乾式造粒又は湿式造粒を用いることができ、湿式造粒を用いる場合は、造粒後に乾燥を行い、篩別をすることで適切な造粒成形体を得ることができる。
【0062】
成形体の化学蓄熱材を製造する際には、プレス成形、射出成形、ブロー成形、真空成形又は押出成形による成形工程を適用することができる。
【0063】
(用途)
本開示の化学蓄熱材を、ケミカルヒートポンプに適用すれば、本開示の化学蓄熱材の脱水吸熱反応及び水和発熱反応を利用するため、低温域(例えば、60~150℃)の熱を効率的に利用できる。なお、ここで、ケミカルヒートポンプは、化学蓄熱材を用いた蓄放熱システムをいう。
【0064】
本開示の化学蓄熱材の脱水吸熱反応を用いれば、従来、利用が困難であった、低温域(例えば、60~150℃)の工場排熱等の熱源を吸熱して蓄熱することができる。脱水された化学蓄熱材は、乾燥状態に保つことにより容易に蓄熱状態を維持することができ、また、その蓄熱状態を維持しながら所望の場所へ持ち運ぶことができる。放熱する場合には、水、好ましくは水蒸気と接触させることにより水和発熱反応を起こし、生じた水和反応熱(場合により、水蒸気収着熱)を熱エネルギーとして取り出すことができる。また、気密封鎖空間内の一方で水蒸気収着を行わせると共に、他方では水を蒸発させることにより冷熱を発生させることもできる。
【0065】
また、本開示の化学蓄熱材は、エンジンや燃料電池等から排出される排気ガスの熱を有効利用するのにも適している。例えば、排気ガスの熱は、自動車の暖機運転の短縮、搭乗者のアメニティーの向上、燃費の改善、排気ガス触媒の活性向上による排気ガスの低害化等に活用することができる。特に、エンジンでは運転による負荷が一定でなく排気出力も不安定であることから、エンジンからの排気熱の直接利用は必然的に非効率であり、不便を伴う。本開示の化学蓄熱材を利用すると、エンジンからの排気熱を一旦化学的に蓄熱し、熱需要に応じて熱出力することで、より理想的な排気熱利用が可能となる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
(評価方法)
各実施例及び比較例で得られた化学蓄熱材について、示差熱天秤(TGD9600、アドバンス理工株式会社)を用いて熱評価を行った。具体的には、試料を25mgとし、白金セルを用いた。アルゴンガス流通下(100mL/min.)、10℃/min.で室温から60℃まで昇温し、その後温度を一定に保ちながら、4200秒間測定を行い、経時的に重量変化を測定した(等温反応試験)。「重量変化(%)」は、反応開始時点の試料の重量を100(%)としたときの各時点の試料の重量を相対値にて表した。
【0068】
また、「重量減少率(%)」は、反応開始時点の試料の重量100(%)-3600秒経過時点での試料の重量(%)にて算出した。重量減少率(%)は、硫酸マグネシウムが脱水変化することによる重量減少を示す。重量減少率(%)の値が大きいほど、脱水吸熱反応が早く進行すること、つまり反応性が高いことを示す。
【0069】
(実施例1)
アルカリ土類金属の硫酸塩として、硫酸マグネシウム・7水和物(MgSO
4・7H
2O、富士フィルム和光純薬株式会社製、特級、純度99.5%)100mol部、及びアルカリ金属の化合物として、塩化リチウム・1水和物(LiCl・H
2O、富士フィルム和光純薬株式会社製、特級、純度99.9%)20mol部をメノウ乳鉢で均等になるまで十分に混合することで、化学蓄熱材を得た。得られた化学蓄熱材について、上記評価方法による評価を行った。結果は表1及び
図1に示す。
【0070】
(実施例2-3)
各成分の配合量を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして化学蓄熱材を得た。得られた化学蓄熱材について、上記評価方法による評価を行った。結果は表1及び
図1に示す。
【0071】
(実施例4-6)
塩化リチウム・1水和物に換えて、アルカリ金属の化合物として、臭化リチウム・1水和物(LiBr・H
2O、富士フィルム和光純薬株式会社製、特級、純度99.5%)を用い、各成分の配合量を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして化学蓄熱材を得た。得られた化学蓄熱材について、上記評価方法による評価を行った。結果は表1及び
図1に示す。
【0072】
(比較例1)
アルカリ土類金属の硫酸塩として、硫酸マグネシウム・7水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製、特級、純度99.5%)について、上記評価方法による評価を行った。結果は表1及び
図1に示す。
【0073】
【0074】
表1及び
図1より、塩化リチウム又は臭化リチウムのようなアルカリ金属の化合物を含有する実施例1~6の化学蓄熱材は、アルカリ金属の化合物を含有しない比較例の化学蓄熱材と比較して、重量減少率が大きく、反応性に優れることが確認できた。これより、実施例1~6の化学蓄熱材は、低温域であっても反応性が高く、低温域の熱を効率的に利用できることが分かる。