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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20250513BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20250513BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20250513BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
B81B1/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020045539
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021146230
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】392022570
【氏名又は名称】サムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 理
(72)【発明者】
【氏名】沼田 佳博
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170858(JP,A)
【文献】特開2012-206098(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098720(WO,A1)
【文献】特開2004-290879(JP,A)
【文献】国際公開第2019/092989(WO,A1)
【文献】特開2008-126191(JP,A)
【文献】特開2020-011305(JP,A)
【文献】特開2004-325153(JP,A)
【文献】特開2006-116479(JP,A)
【文献】特開2004-130219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
G01N 37/00
B81B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面である第1主面の表面に第1端と第2端を有する第1流路溝が形成され、該第1端において該第1流路溝から他方の主面である第2主面に連通する第1孔が形成された第1板と、
前記第1主面と合致する第3主面を有し、前記第2端に対応する位置において前記第3主面から他方の主面である第4主面に連通する第2孔が形成された第2板と、
前記第2主面と合致する一方の主面である第5主面の表面に第3端と第4端を有する第2流路溝が、前記第1孔に対応する位置に該第3端が位置するように形成され、該第4端において該第2流路溝から他方の主面である第6主面に連通する第3孔が形成された第3板と、
を備え、前記第1板、前記第2板、前記第3板のいずれもが透明なガラス又は透明な樹脂からなり、前記第1流路溝及び前記第2流路溝が、1つの方向に沿って往復する部分を有することを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記第1主面と前記第3主面が共に平面である請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記第1板に独立した前記第1流路溝が複数設けられ、それら複数の第1流路溝のそれぞれの前記第1端にそれぞれ前記第1孔が、前記第2板の前記複数の第1流路溝のそれぞれの前記第2端に対応する位置に前記第2孔が形成されている請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記第1板に互いに交差する前記第1流路溝が複数設けられ、それら複数の第1流路溝のそれぞれの前記第1端に前記第1孔が、前記第2板の前記複数の第1流路溝のそれぞれの前記第2端に対応する位置に前記第2孔が形成されている請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記第1流路溝の前記1つの方向に沿って往復する部分と前記第2流路溝の前記1つの方向に沿って往復する部分が、面直方向から見て互いに重ならないことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のマイクロ流路チップを製造する方法であって、
前記第3板の第5主面と前記第1板の第2主面の両主面に水蒸気プラズマを照射したのちに該両主面を接合する、マイクロ流路チップの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のマイクロ流路チップを製造する方法であって、
前記第1板の第1主面と前記第2板の第3主面の両主面に水蒸気プラズマを照射したのちに該両主面を接合する、マイクロ流路チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微少量の生体試料等を分析するために用いられるマイクロ流路チップ(μTASやLab-on-Chipとも呼ばれる。)に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術を応用したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)技術を用いて製造されるマイクロ流路チップは、微少量の試料を対象として、流路内で送液、混合、反応、合成、分析、分離、抽出、検出等の化学的或いは物理的な操作を行うことができる。
【0003】
マイクロ流路チップは一般に、一方の面に流路が形成された平板(流路板)と、その面(流路)を塞ぐ平板(閉鎖板)の2枚の透明平板を接合することにより作製される。通常、流路の両端には試料の導入口及び排出口となる開口が設けられる。
【0004】
分析のみを行う場合、流路は単純な1本流路であることも多いが、複数の試料の混合や反応等の複雑な操作を行う場合、流路も十字形や樹状分岐形等、様々な形態のものが用いられる。
【0005】
一方、特許文献1や特許文献2には、導入口及び排出口の位置を一致させた流路板(単位板)を複数枚積層して形成したマイクロ流路チップが開示されている。このマイクロ流路チップでは複数の流路が共通の導入口と排出口の間で並列に形成されているので、単位時間あたりの収量等が多いという利点がある。また、このマイクロ流路チップでは複数の単位板を接合する際に熱接合を行うが、その際にいずれかの単位板の流路が変形して閉塞してしまったとしても、試料は他の単位板の流路を流れることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-130883号公報(図14等)
【文献】特開2008-142578号公報(図3
【文献】特開2020-011305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
流路内を流れる試料に対して反応や合成、分離の化学的・物理的操作を十分に行うためには、流路が相当程度長いことが求められる。そこで、幅をできるだけ小さくした流路を前記一方の面内で多数回折り返したり旋回させることにより長い流路を確保することが行われるが、チップの面の大きさは定まっていることからそれにも限界がある。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、長い流路を有するマイクロ流路チップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るマイクロ流路チップは、
一方の主面である第1主面の表面に第1端と第2端を有する流路溝が形成され、該第1端において該流路溝から他方の主面である第2主面に連通する第1孔が形成された第1板と、
前記第1主面と合致する第3主面を有し、前記第2端に対応する位置において前記第3主面から他方の主面である第4主面に連通する第2孔が形成された第2板と
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るマイクロ流路チップでは、第1板の第1孔の第2主面側の開口(第1開口)と第2板の第2孔の第4主面側の開口(第2開口)の間に、第1孔、流路溝、第2孔により構成される流路が形成される。従って、第1開口及び第2開口のいずれかを導入口、他方を排出口とすることにより、試料を両者間に流し、分析や反応等の試料に対する操作を行うことができる。
【0011】
本発明に係るマイクロ流路チップにおいて、互いに合致する前記第1主面と前記第3主面は、例えば共に平面としておくことができる。或いは、相補的な曲面や相補的な屈曲面であってもよい。
【0012】
本発明に係るマイクロ流路チップにおいて、第1板の第1主面の表面に形成されている流路溝は、いかなる形状であってもよい。すなわち、単純な直線状であってもよいし、ジグザグ状に屈曲したり渦巻き状に旋回したものであってもよい。
【0013】
また、独立した流路溝を複数設け、それら流路溝の第1端にそれぞれ第2主面に連通する第1孔を形成するようにしてもよい。この場合、第2板の方にも各流路溝の第2端に対応する位置に第2孔を設けておく。
【0014】
さらには、独立でない、互いに交差する流路溝を複数設け、同様にしてもよい。
【0015】
第2板の第3主面の表面に、第1板の流路溝に対応する流路溝を形成し、第1主面と第3主面を合致させたときに両流路溝が合致するようにしておいてもよい。これにより、流路の断面積を増加させることができる。
【0016】
本発明に係るマイクロ流路チップでは、前記の第1板の第1主面と第2主面を互いに合致する面としておく(例えば、共に平面とする。また、相補的な曲面としたり、相補的な屈曲面としてもよい。)ことにより、前記第1板と同じ板(これを第3板と呼ぶ)用意し、第3板の流路溝の第2端を前記第1板の第1開口位置に合わせるようにして第3板の第1主面と第1板の第2主面を合致させることにより、前記流路を長くすることができる。
このようにして前記第1板を順次重ねてゆくことにより、流路を更に延長してゆくことができる。
【0017】
第1板及び第2板、そしてそれ以降に接合する第3板以降の板の材料としては、ガラスやシクロオレフィンポリマー(COP)(その共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)やシクロブロックコポリマー(CBC)を含む)、ポリジメチルシロキサン(PolyDiMethylSiloxane, PDMS)等を用いることができる。COPは自家蛍光が非常に少なく光学特性に優れる点で好適に用いることができる。PDMSの場合、表面にパリレン(ポリパラキシリレン, Poly-para-Xylylene。「パリレン」は日本パリレン合同会社の登録商標。)をコーティングすることで表面のバリア性を高め、材料自体から低分子シロキサンが放出されて試料に侵入することを防止する方策が採られる(特願2019-179658号参照)。また、COP板とPDMS板を使用する場合には、それらの接合には、接合面を水蒸気プラズマで処理した後、接合面に小さな圧力を付与することにより接合するという方法をとることができる(特許文献3)。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、長い流路を有するマイクロ流路チップを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るマイクロ流路チップの基本的形態を説明するための説明図であり、(a)は閉鎖板の平面図、(b)は流路板の平面図、(c)は両者を接合したマイクロ流路チップの流路を示す概念的断面図。
図2】本発明に係るマイクロ流路チップの他の基本的形態を示す側面図であり、(a)は第1及び第3主面が円弧面、(b)はそれらが屈曲面であるマイクロ流路チップの断面図。
図3】本発明の第1の実施形態のマイクロ流路チップの各単位板の平面図と側面図(a)及び全体の流路を示す概念的断面図(b)。
図4】本発明の第2の実施形態のマイクロ流路チップの各単位板の平面図(a)及び全体の流路を示す概念的断面図(b)。
図5】本発明の第3の実施形態のマイクロ流路チップの各単位板の平面図と両側面図。
図6】本発明の第4の実施形態のマイクロ流路チップの各単位板の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るマイクロ流路チップの基本的形態を図1により説明する。本発明に係るマイクロ流路チップ10は、第1板11と第2板12を必須構成要素とする。図1において第1板11と第2板12は平板として描かれているが、これは後述するようにそれに限定されるものではない。
【0021】
図1(b)に示すように、第1板11は流路板であり、その一方の主面(第1主面)の表面には流路溝111が形成されている。流路溝111の一方の端(第1端)には、流路溝111からその反対側の面(第2主面)まで連通する孔(第1孔)112が設けられている。図1では第1孔112は流路溝111の幅よりも大きく描かれているが、これは必須ではない。流路溝111の他方の端(第2端)にも流路溝111の幅よりも大きい円形の空間が描かれているが、これも必須ではない。
【0022】
図1(a)に示すように、第2板12の、前記流路溝111の第2端に対応する位置には、第2板12の両主面(第1板11に対向する面を第3主面、その反対側の面を第4主面とする。)を貫く第2孔121が形成されている。図1ではこの第2孔121についても、流路溝111の幅よりも大きい円形として描かれているが、これも必須ではない。
【0023】
これら第1板11と第2板12を第1主面と第3主面で接合すると、流路溝111が閉鎖されたマイクロ流路チップが形成される。このマイクロ流路チップは、図1(c)に示すように、第2板12に設けられた第2孔121から試料を第1板11の流路溝111に供給し、そこで反応や分析等の操作を行った後、第1板11に設けられた第1孔112の第2主面側の開口から排出する。なお、試料を第1孔112の第2主面側の開口から供給し、第2板12に設けられた第2孔121から排出してもよい。
【0024】
第1板11と第2板12の接合強度が向上する点で、第1主面と第3主面の接合前に両主面に酸素プラズマ、水蒸気プラズマ、または、エキシマUV光を照射することが好ましく、なかでも、板の光学特性に影響を与えない点で、水蒸気プラズマが好ましい。このような水蒸気プラズマの照射はサムコ株式会社製のAQ-2000(商品名)を用いて行うことができる。
【0025】
図1では第1主面と前記第3主面は共に平面であったが、図2(a)に示すように、共に曲面(円筒面、球面等)であってもよい。また、図2(b)に示すように、互いに相補的な屈曲面であってもよい。
【0026】
このような基本的形態を有する本発明に係るマイクロ流路チップは、さまざまな形態に変化させることができる。図3(a)、(b)は、流路溝を有する第1板を多数枚重ねて、流路を長くしたマイクロ流路チップ20の例を示す。マイクロ流路チップ20は、第1板と同じ板である第3板の流路溝の第2端が第1板の第1開口の位置に合うように第3板の第1主面と第1板の第2主面の両主面に水蒸気プラズマを照射したのちに順次多数重ねて作成することができる。図3(a)、(b)の例のマイクロ流路チップ20は、第1板である流路板が4枚(21a、21b、21c、21d)と、第2板である閉鎖板22が1枚で構成される。流路板をさらに増やすことにより、流路211a、211b、211c、211dをさらに延ばすことができる。
【0027】
また、各流路板の流路の位置は必ずしも同一でなくてもよい。図4(a)、(b)に示すように、マイクロ流路チップ30の流路311a、311b、311cの位置を各流路板31a、31b、31c毎に変えることにより、例えば、マイクロ流路チップ30の一方の面から測定光を照射し、他方の面から出てくる光を測定することにより試料の分析を行うような場合、このように流路311a、311b、311cの位置が流路板31a、31b、31c毎に異なっている方が試料への測定光の照射効率が良くなる。
【0028】
図5は、互いに独立した流路を形成した流路板41a、41bを重ねて構成されるマイクロ流路チップ40の例である。流路板を多数重ねることにより、それぞれの流路411、412、413が延長される。
【0029】
図6は、1枚の流路板51aに流路溝が複数(511a、511b、511c)設けられ、それらが1つの流路溝511dに合流する構成を有するマイクロ流路チップ50の例である。3種の試料を混合し、混合した後の試料を均等化するために長い流路が望まれることから、単一の流路511e、511fを有する流路板51b、51cを重ねるようにしたものである。
【0030】
なお、上記の例ではいずれも閉鎖板には流路溝は設けられていないが、閉鎖板の方にも対応する流路溝を設け、流路の断面積を増加させるようにしてもよい(図示せず)。
【符号の説明】
【0031】
10、20、30、40、50…マイクロ流路チップ
11、21a~21d、31a~31c、41a、41b、51a~51c…流路板
12、22、32、42、52…閉鎖板
111、211a~211d、311a~311c、411~413、511a~511f…流路溝
112…第1孔
121…第2孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6