(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】自動車用フード構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/12 20060101AFI20250513BHJP
【FI】
B62D25/12 B
(21)【出願番号】P 2021010691
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】加嶋 寛子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正敏
【審査官】小林 瑛佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-029290(JP,A)
【文献】特開2006-224876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用フードの上面を構成するアウタパネルと、
前記アウタパネルの下面と対向して配置され前記下面を支持する隆起部、前記隆起部から連続して前記隆起部に対して傾斜している内側傾斜壁、前記内側傾斜壁から連続して前記アウタパネルの前記下面に間隔を空けて対向している溝底壁、および前記溝底壁から連続して前記溝底壁に対して傾斜している外側傾斜壁を有するインナパネルと、
前記自動車用フードを車両に対して開閉可能に取り付けるように前記インナパネルの車幅方向のサイド部の車両前後方向の後部側に接合されたヒンジ部材と、
平面視において前記ヒンジ部材と対応する位置に配置されたヒンジ補強板と、
前記インナパネルの前記溝底壁、前記ヒンジ部材、および前記ヒンジ補強板が接合されている複数の第1接合部と、
前記インナパネルの前記外側傾斜壁および前記ヒンジ補強板が接合されている複数の第2接合部と
を備え、
前記内側傾斜壁は、車両前後方向の後方から連続して前記隆起部に対して傾斜する後部内側傾斜壁を有し、
前記複数の第1接合部は前記車両前後方向に間隔を空けて配置され、
前記複数の第2接合部は前記車両前後方向に間隔を空けて配置され、
前記車両前後方向において最も前方に位置する前記複数の第1接合部のうちの一つと、前記複数の第2接合部のうちの一つとが前記車両前後方向において位置揃えされ
、
前記ヒンジ部材は、前記後部内側傾斜壁と前記溝底壁との間の前記車幅方向に延びる第2稜線よりも後方で終端している、自動車用フード構造。
【請求項2】
前記複数の第1接合部のそれぞれが前記複数の第2接合部のいずれかと前記車両前後方向において位置揃えされている、請求項1に記載の自動車用フード構造。
【請求項3】
前記ヒンジ補強板は、
前記溝底壁に配置された本体部と、
前記本体部から連続して前記車幅方向の外側に延びる第1延長部と、
前記本体部と前記第1延長部との間に形成され、前記溝底壁と前記外側傾斜壁との間に前記車両前後方向に延びる第1稜線に配置された折線部と
を有し、
前記第1接合部は前記本体部に設けられ、
前記第2接合部は前記第1延長部に設けられている、請求項1又は2に記載の自動車用フード構造。
【請求項4】
前記ヒンジ補強板は、前記第2稜線よりも前記車両前後方向の前方において前記インナパネルと接合されている第3接合部を備える、請求項1から3のいずれかに記載の自動車用フード構造。
【請求項5】
前記ヒンジ補強板は、前記第2稜線より前記車両前後方向の前方、かつ前記溝底壁と前記内側傾斜壁との間の前記車両前後方向に延びる第3稜線より前記車幅方向の内側において、前記内側傾斜壁に接合されている第4接合部を備える、請求項1に記載の自動車用フード構造。
【請求項6】
自動車用フードの上面を構成するアウタパネルと、
前記アウタパネルの下面と対向して配置され前記下面を支持する隆起部、前記隆起部から連続して前記隆起部に対して傾斜している内側傾斜壁、前記内側傾斜壁から連続して前記アウタパネルの前記下面に間隔を空けて対向している溝底壁、および前記溝底壁から連続して前記溝底壁に対して傾斜している外側傾斜壁を有するインナパネルと、
前記自動車用フードを車両に対して開閉可能に取り付けるように前記インナパネルの車幅方向のサイド部の車両前後方向の後部側に接合されたヒンジ部材と、
平面視において前記ヒンジ部材と対応する位置に配置されたヒンジ補強板と、
前記インナパネルの前記溝底壁、前記ヒンジ部材、および前記ヒンジ補強板が接合されている複数の第1接合部と、
前記インナパネルの前記外側傾斜壁および前記ヒンジ補強板が接合されている複数の第2接合部と
を備え、
前記複数の第1接合部は前記車両前後方向に間隔を空けて配置され、
前記複数の第2接合部は前記車両前後方向に間隔を空けて配置され、
前記車両前後方向において最も前方に位置する前記複数の第1接合部のうちの一つと、前記複数の第2接合部のうちの一つとが前記車両前後方向において位置揃えされ、
前記ヒンジ補強板は、車両上下方向において前記溝底壁と対向するとともに前記外側傾斜壁および前記内側傾斜壁に接合される第2延長部を有し、
前記車両前後方向に垂直な断面において、前記溝底壁、前記外側傾斜壁、前記内側傾斜壁、および前記第2延長部によって閉断面形状が構成される、自動車用フード構造。
【請求項7】
前記ヒンジ補強板は、車両上下方向において前記溝底壁と対向するとともに前記外側傾斜壁および前記内側傾斜壁に接合される第2延長部を有し、
前記車両前後方向に垂直な断面において、前記溝底壁、前記外側傾斜壁、前記内側傾斜壁、および前記第2延長部によって閉断面形状が構成される、請求項1から
5のいずれかに記載の自動車用フード構造。
【請求項8】
一対の前記ヒンジ部材がそれぞれ、前記インナパネルの前記車幅方向の両サイド部に設けられ、
一対の前記ヒンジ補強板がそれぞれ、前記一対のヒンジ部材について設けられている、請求項1から
7のいずれかに記載の自動車用フード構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用フード構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に自動車用フードは、車両後方の両サイド部に位置する一対のヒンジ部材をそれぞれ支持点とした支持構造によって車両本体に固定されている。そのため、フードの前方部に荷重が付加された際、インナパネルがヒンジ部材付近で大きなモーメントを受け、インナパネルがねじり変形するおそれがある。従って、そのような自動車用フードでは、高いねじり剛性が求められる。
【0003】
特許文献1には、自動車用フードのヒンジ取付部構造が開示されている。このヒンジ取付部構造では、リテーナと称される補強部材が、ヒンジ取付部と、ヒンジ取付部の車幅方向外側に位置する傾斜面部とにわたって取り付けられている。この構造によれば、リテーナによってヒンジ取付部および傾斜面部を補強できるため、フードのねじり剛性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の自動車用フードのヒンジ取付部構造では、フードの前方部に荷重が付加された際、車両前後方向において最も前方に位置する第1接合部に相対的に大きな荷重がかかる。そのため、当該第1接合部近傍がねじり変形の起点となるおそれがある。しかしながら、特許文献1では、そのような第1接合部近傍のねじり変形を抑制することについては特段の示唆もなく、フードの剛性について改善の余地がある。
【0006】
本発明は、自動車用フード構造において、フードの剛性を効果的に向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、自動車用フードの上面を構成するアウタパネルと、前記アウタパネルの下面と対向して配置され前記下面を支持する隆起部、前記隆起部から連続して前記隆起部に対して傾斜している内側傾斜壁、前記内側傾斜壁から連続して前記アウタパネルの前記下面に間隔を空けて対向している溝底壁、および前記溝底壁から連続して前記溝底壁に対して傾斜している外側傾斜壁を有するインナパネルと、前記自動車用フードを車両に対して開閉可能に取り付けるように前記インナパネルの車幅方向のサイド部の車両前後方向の後部側に接合されたヒンジ部材と、平面視において前記ヒンジ部材と対応する位置に配置されたヒンジ補強板と、前記インナパネルの前記溝底壁、前記ヒンジ部材、および前記ヒンジ補強板が接合されている複数の第1接合部と、前記インナパネルの前記外側傾斜壁および前記ヒンジ補強板が接合されている複数の第2接合部とを備え、前記複数の第1接合部は前記車両前後方向に間隔を空けて配置され、前記複数の第2接合部は前記車両前後方向に間隔を空けて配置され、前記車両前後方向において最も前方に位置する前記複数の第1接合部のうちの一つと、前記複数の第2接合部のうちの一つとが前記車両前後方向において位置揃えされている、自動車用フード構造を提供する。
【0008】
本発明の自動車用フード構造によれば、ヒンジ補強板によって外側傾斜壁が補強されている。インナパネルにおけるヒンジ部材付近の外側傾斜壁側には変形が生じやすいために高い剛性が求められる。上記構成では、ヒンジ補強板によって当該部分を補強しているため、フードの剛性を効果的に向上できる。また上記構成では、車両前後方向において最も前方に位置する第1接合部と、第2接合部の一つとが、車両前後方向において位置揃えされている。これにより、溝底壁(第1接合部が配置されている部分)と外側傾斜壁(第2接合部が配置されている部分)に対してフードがねじれるような力が付加されることを抑制でき、インナパネルのねじり変形を抑制できる。従って、本発明の自動車用フード構造によれば、フードの剛性を効果的に向上できる。
【0009】
前記車両前後方向において最も前方に位置する前記一つ以外の前記複数の第1接合部と、前記複数の第2接合部とが前記車両前後方向において位置揃えされていてもよい。
【0010】
前記ヒンジ補強板は、前記溝底壁に配置された本体部と、前記本体部から連続して前記車幅方向の外側に延びる第1延長部と、前記本体部と前記第1延長部との間に形成され、前記溝底壁と前記外側傾斜壁との間に前記車両前後方向に延びる第1稜線に配置された折線部とを有し、前記第1接合部は前記本体部に設けられ、前記第2接合部は前記第1延長部に設けられていてもよい。
【0011】
前記ヒンジ補強板は、前記内側傾斜壁と前記溝底壁との間の前記車幅方向に延びる第2稜線よりも前記車両前後方向の前方において前記インナパネルと接合されている第3接合部を備えてもよい。
【0012】
前記の構成によれば、フードの前方部に荷重が加わった際、インナパネルにおけるヒンジ部材付近の変形がより一層抑制され得る。具体的には、第2稜線などの稜線が形成されている部分には変形が生じやすいために高い剛性が求められる。上記構成では、ヒンジ補強板によって当該部分を補強しているため、フードの剛性を効果的に向上できる。
【0013】
前記ヒンジ補強板は、前記第2稜線より前記車両前後方向の前方、かつ前記溝底壁と前記内側傾斜壁との間の前記車両前後方向に延びる第3稜線より前記車幅方向の内側において、前記内側傾斜壁に接合されている第4接合部を備えてもよい。
【0014】
前記の構成によれば、フードの前方部に荷重が加わった際、インナパネルにおけるヒンジ部材付近の変形がより一層抑制され得る。具体的には、前述と同様に第3稜線などの稜線が形成されている部分には変形が生じやすいために高い剛性が求められる。上記構成では、ヒンジ補強板によって当該部分を補強しているため、フードの剛性を効果的に向上できる。また上記構成では、ヒンジ補強板が内側傾斜壁と外側傾斜壁とに接合されている。そのため、外側傾斜壁と内側傾斜壁との車幅方向の変位を拘束できる。よって、外側傾斜壁が車幅方向外側に開く変形が抑制され得る。
【0015】
前記ヒンジ補強板は、車両上下方向において前記溝底壁と対向するとともに前記外側傾斜壁および前記内側傾斜壁に接合される第2延長部を有し、前記車両前後方向に垂直な断面において、前記溝底壁、前記外側傾斜壁、前記内側傾斜壁、および前記第2延長部によって閉断面形状が構成されてもよい。
【0016】
前記の構成によれば、外側傾斜壁は、溝底壁、内側傾斜壁、及び第2延長部と共に閉断面の一部として構成される。従って、外側傾斜壁と内側傾斜壁との車幅方向の変位が一層拘束され、外側傾斜壁が車幅方向外側に開く変形がより一層抑制され得る。
【0017】
一対の前記ヒンジ部材がそれぞれ、前記インナパネルの前記車幅方向の両サイド部に設けられ、一対の前記ヒンジ補強板がそれぞれ、前記一対のヒンジ部材について設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の自動車用フード構造によれば、フードの剛性を効果的に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本発明に係る自動車用フード構造を車両後方から見た斜視図。
【
図3】
図2の自動車用フード構造からフードアウタパネルを除いた斜視図。
【
図4】
図2の自動車用フード構造を下から見た平面図。
【
図5】
図3の自動車用フード構造を上から見た平面図。
【
図17】比較例1,2および第1実施形態から第4実施形態のねじり剛性評価解析の結果を示すグラフの図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る自動車用フード構造について図面を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示し、矢印UPは車両上方側を示し、矢印Wは車幅方向を示している。また、自動車用フードの閉止状態では、自動車用フード前方側は車両前方側と同じ方向であり、自動車用フード上方側は車両上方側と同じ方向であり、自動車用フード幅方向は車両幅方向と同じ方向である。以下の説明において、自動車用フードは閉止状態とする。
【0021】
(第1実施形態)
図1では、本発明に係る自動車用フード構造が適用された自動車用フード(フード)1を備える車両2が示されている。フード1は、図示しないエンジンルームを車両上方から覆うように車両前部に配置されている。フード1は、後述するヒンジ部材3を介して車両本体に開閉可能に取り付けられている。すなわち、フード1はヒンジ部材3の車幅方向のヒンジ軸回りに回転移動することでエンジンルームを開閉するように構成されている。
【0022】
図2,3を併せて参照すると、自動車用フード構造は、フード1の上面を構成するアウタパネル4と、フード1の下面を構成するインナパネル20とを備える。アウタパネル4の外周端部とインナパネル20の外周端部とは、例えばヘミング加工によって接合されている。
【0023】
アウタパネル4およびインナパネル20は、一例として、いずれもアルミニウム合金版をプレス成形することにより形成されている。アウタパネル4およびインナパネル20は、鋼板等の他の金属板が適用されてもよい。
【0024】
インナパネル20は、アウタパネル4の下面と対向して配置され、アウタパネル4の下面を支持する隆起部21を有する。アウタパネル4およびインナパネル20は、例えば隆起部21を介してマスチック接着剤によって接合される。インナパネル20はさらに、内側傾斜壁22、溝底壁23、および外側傾斜壁24を有する。内側傾斜壁22は、隆起部21から連続して隆起部21に対して傾斜している。溝底壁23は、内側傾斜壁22から連続してアウタパネル4の下面に間隔を空けて対向している。外側傾斜壁24は、溝底壁23から連続して溝底壁23に対して傾斜している。
【0025】
本実施形態では、内側傾斜壁22は、後部内側傾斜壁22a、一対の側部内側傾斜壁22b、前部内側傾斜壁22cを有する。後部内側傾斜壁22aは、隆起部21の車両前後方向の後方から連続して隆起部21に対して傾斜している。一対の側部内側傾斜壁22bはそれぞれ、隆起部21の車幅方向の両サイド部から連続して隆起部21に対して傾斜している。前部内側傾斜壁22cは、隆起部21の車両前後方向の前方から連続して隆起部21に対して傾斜している。
【0026】
本実施形態では、溝底壁23は、後部溝底壁23a、一対の側部溝底壁23b、および前部溝底壁23cを有する。後部溝底壁23aは、後部内側傾斜壁22aから連続してアウタパネル4の下面に間隔を空けて対向している。一対の側部溝底壁23bは、一対の側部内側傾斜壁22bから連続してアウタパネル4の下面に間隔を空けて対向している。前部溝底壁23cは、前部内側傾斜壁22cから連続してアウタパネル4の下面に間隔を空けて対向している。すなわち溝底壁23は、隆起部21の車両上下方向の下方に設けられている。溝底壁23は、隆起部21の車両上下方向の上方に設けられてもよい。また溝底壁23は、例えば一対の側部溝底壁23bのみ、又は後部溝底壁23aのみを有していてもよい。
【0027】
本実施形態では、外側傾斜壁24は、後部外側傾斜壁24a、一対の側部外側傾斜壁24b、および前部外側傾斜壁24cを有する。後部外側傾斜壁24aは、後部溝底壁23aから連続して後部溝底壁23aに対して傾斜している。一対の側部外側傾斜壁24bはそれぞれ、一対の側部溝底壁23bから連続して一対の側部溝底壁23bに対して傾斜している。前部外側傾斜壁24cは、前部溝底壁23cから連続して前部溝底壁23cに対して傾斜している。外側傾斜壁24は、溝底壁23の外周から周方向外側かつ車両上下方向の上方に向かって傾斜している。外側傾斜壁24は、溝底壁23の外周から周方向外側かつ車両上下方向の下方に向かって傾斜してもよい。
【0028】
第1稜線41は、溝底壁23(側部溝底壁23b)と外側傾斜壁24(側部外側傾斜壁24b)との間に車両前後方向に延びている。第2稜線42は、内側傾斜壁22(後部内側傾斜壁22a)と溝底壁23(後部溝底壁23a)との間に車幅方向に延びている。第3稜線43は、溝底壁23(側部溝底壁23b)と内側傾斜壁22(側部内側傾斜壁22b)との間に車両前後方向に延びている。なお一対の第1稜線41および一対の第3稜線43がそれぞれ、インナパネル20の車幅方向の両サイド部に設けられている。本実施形態では、第1稜線41、第2稜線42、および第3稜線43は、凹状の稜線である。
【0029】
図4はインナパネル20を下から見た平面図である。自動車用フード構造はヒンジ部材3を備える。ヒンジ部材3は、フード1を車両に対して開閉可能に取り付けるように、インナパネル20の車幅方向のサイド部の車両前後方向の後部側に接合されている。すなわちヒンジ部材3は、インナパネル20の下面における後部溝底壁23aのサイド部、換言すると後部溝底壁23aと側部溝底壁23bとが合流する部分に接合されている。なお、一対のヒンジ部材3がそれぞれ、インナパネル20の車幅方向の両サイド部に設けられているが、以下の説明では片サイド部のヒンジ部材3について説明する。ヒンジ部材3は、車両2に結合されるヒンジベース3aと、フード1に固定される先端部3cを有するヒンジアーム3bとを備える。先端部3cには、2つの第1貫通孔51(
図7参照)が車両前後方向に設けられている。第1貫通孔51の数は特に限定されない。後述の通り、インナパネル20の上面には、先端部3cと対応する位置にヒンジ補強板60(点線で図示されている)が設けられている。
【0030】
図5はフード1からアウタパネル4を除き、インナパネル20を上から見た平面図である。自動車用フード構造は、平面視において先端部3c(ヒンジ部材3)と対応する位置に配置されたヒンジ補強板60を備える。ここで、先端部3cと対応する位置とは、平面視において先端部3cとヒンジ補強板60との少なくとも一部が重複する位置である。具体的には、ヒンジ補強板60は、インナパネル20の上面における後部溝底壁23aのサイド部、換言すると後部溝底壁23aと側部溝底壁23bとが合流する部分に配置されている。なお、一対のヒンジ補強板60がそれぞれ、一対のヒンジ部材3について設けられているが、ヒンジ部材3と同様に、以下の説明では片サイド部のヒンジ補強板60について説明する。
【0031】
図6および
図7を併せて参照し、ヒンジ補強板60を詳細に説明する。ヒンジ補強板60の位置関係を明確にするために、ヒンジ補強板60以外の構成は二点鎖線で示している。ヒンジ補強板60は、本体部61、第1延長部62、および本体部61と第1延長部62との間に形成される第1折線部(折線部)63を有する。第1延長部62は、本体部61から連続して車幅方向の外側に延びている。本体部61は、平面視においてヒンジ部材3と対応する位置において溝底壁23に配置されている。また、第1折線部63は第1稜線に配置され、第1延長部62は外側傾斜壁24(側部外側傾斜壁24b)に配置されている。本体部61には、先端部3cの2つの第1貫通孔51と重複する位置に2つの第2貫通孔52がそれぞれ設けられている。また、インナパネル20も同様に、先端部3cの2つの第1貫通孔51と重複する位置に2つの第3貫通孔53がそれぞれ設けられている。
【0032】
本実施形態の自動車用フード構造では、インナパネル20の溝底壁23、先端部3c(ヒンジ部材3)、およびヒンジ補強板60がボルト接合(接合)されている複数(2つ)の第1接合部50a,50bが設けられている。第1接合部50a,50bは、他の機械的な接合によって接合されていてもよい。複数(2つ)の第1接合部50a,50bは車両前後方向に間隔を空けて、本体部61に配置されている。すなわち、ヒンジ部材3、ヒンジ補強板60、およびインナパネル20の溝底壁23は、第1貫通孔51、第2貫通孔52、および第3貫通孔53のそれぞれにボルト54を挿入してナット55で締結することで、接合されている。インナパネル20とヒンジ補強板60とは、スポット溶接やSPR(self-piercing rivets)、FSW(friction stir welding)等のボルト接合以外の手段によって更に接合されていてもよい。
【0033】
本実施形態の自動車用フード構造では、インナパネル20の外側傾斜壁24およびヒンジ補強板60がスポット溶接(接合)されている複数(2つ)の第2接合部56a,56bが設けられている。第2接合部56a,56bは、例えばSPRやメカニカルクリンチ、FSW等によって接合されていてもよい。複数(2つ)の第2接合部は車両前後方向に間隔を空けて、第1延長部62に配置されている。
【0034】
車両前後方向において最も前方に位置する複数(2つ)の第1接合部50a,50bのうちの一つ(50b)と、複数(2つ)の第2接合部56a,56bの一つ(56b)とが車両前後方向において位置揃えされている。ここで、第1接合部50bおよび第2接合部56bが車両前後方向において位置揃えされているとは、第1貫通孔51(第2貫通孔52、第3貫通孔53)およびスポット溶接のナゲット部57が、平面視の車両前後方向において少なくとも一部が重複していることである。また、車両前後方向において最も前方に位置する一つ(50b)以外の複数(1つ)の第1接合部50aと、複数(1つ)の第2接合部56aとが車両前後方向において位置揃えされていてもよい。
【0035】
本発明に係る自動車用フード1は、車両後方の両サイド部に位置する一対のヒンジ部材3をそれぞれ支持点とした支持構造によって車両本体に固定されている。そのため、フード1の前方部に荷重が付加された際、インナパネル20がヒンジ部材3付近で大きなモーメントを受け、インナパネル20がねじり変形する。特にインナパネル20におけるヒンジ部材3付近の外側傾斜壁24側、すなわち、第1稜線41などの稜線が形成されている部分には変形が生じやすいために高い剛性が求められる。本実施形態では、第1延長部62によって当該部分を補強しているため、フード1の剛性を効果的に向上できる。また本実施形態では、車両前後方向において最も前方に位置する第1接合部50bと、第2接合部56a,56bの一つとが、車両前後方向において位置揃えされている。これにより、溝底壁23(第1接合部50a,50bが位置する部分)と外側傾斜壁24(第2接合部56a,56bが位置する部分)に対してフード1がねじれるように力が付加されることを抑制でき、インナパネル20のねじり変形を抑制できる。
【0036】
以上より、本発明の自動車用フード構造によれば、フード1の剛性を効果的に向上できる。
【0037】
(第2実施形態)
図8を参照すると、本発明の第2実施形態に係る自動車用フード構造の構成は、以下の点で第1実施形態と異なる。本実施形態のその他の構成は第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同一ないし同様の要素には同一の符号を付している。
【0038】
本実施形態に係るヒンジ補強板60(本体部61および第1延長部62)は、第2稜線42よりも車両前後方向において前方に延出している(
図8の平行斜線部を参照)。ヒンジ補強板60は、延出箇所にてインナパネル20(側部溝底壁23bと側部外側傾斜壁24bと)にスポット溶接(接合)されている第3接合部56c,56d,56eを備える。第3接合部56c,56d,56eは、例えばSPRやメカニカルクリンチ、FSW等によって接合されていてもよい。スポット溶接による接合部は、例えば本体部61の延出箇所で1つ、第1延長部62の延出箇所で2つである。
【0039】
前述と同様に第2稜線42などの稜線が形成されている部分には変形が生じやすいため高い剛性が求められる。本実施形態では、ヒンジ補強板60(本体部61および第1延長部62)によって当該部分を補強しているため、フード1の剛性を効果的に向上できる。
【0040】
(第3実施形態)
図9,10を参照すると、本発明の第3実施形態に係る自動車用フード構造の構成は、以下の点で第2実施形態と異なる。本実施形態のその他の構成は第2実施形態と同様であり、第2実施形態と同一ないし同様の要素には同一の符号を付している。
【0041】
本実施形態に係るヒンジ補強板60は、第2稜線42より車両前後方向の前方、かつ第3稜線43より車幅方向内側において、内側傾斜壁22にスポット溶接(接合)されている第4接合部56fを備える。具体的には、本体部61および第1延長部62は第2稜線42より車両前後方向の前方に延出している。ヒンジ補強板60は、本体部61の延出部の前方側の先端部においてタブ67(
図9の平行斜線部を参照)と、本体部61とタブ67との間に形成される第2折線部68とを備える。タブ67は側部内側傾斜壁22bに配置され、第2折線部68は第3稜線43に配置されている。タブ67は側部内側傾斜壁22bにスポット溶接されている。第4接合部56fは、例えばSPRやメカニカルクリンチ、FSW等によって接合されていてもよい。スポット溶接による接合部は、例えばタブ67において1つである。
【0042】
前述と同様に第3稜線43などの稜線が形成されている部分には変形が生じやすいために高い剛性が求められる。本実施形態では、タブ67によって当該部分を補強しているため、フード1の剛性を効果的に向上できる。また本実施形態では、タブ67が内側傾斜壁22にスポット溶接され、前述のように第1延長部62は外側傾斜壁24にスポット溶接されている。そのため、外側傾斜壁24と内側傾斜壁22との車幅方向の変位を拘束できる。よって、外側傾斜壁24が車幅方向外側に開く変形が抑制され得る。
【0043】
(第4実施形態)
図11から
図14を参照すると、本発明の第4実施形態に係る自動車用フード構造の構成は、以下の点で第1実施形態から第3実施形態のいずれかと異なる。本実施形態のその他の構成は第1実施形態から第3実施形態のいずれかと同様であり、第1実施形態から第3実施形態のいずれかと同一ないし同様の要素には同一の符号を付している。
【0044】
ヒンジ補強板60は、車両上下方向において溝底壁23と対向するとともに外側傾斜壁24および内側傾斜壁22にスポット溶接(接合)される第2延長部64を有する。第2延長部64は、例えばSPRやメカニカルクリンチ、FSW等によって、外側傾斜壁24および内側傾斜壁22に接合されていてもよい。第2延長部64は、本体部61の車両前後方向の前方の端部を基端としてアウタパネル4(上方)に向かって延在する傾斜壁65と、傾斜壁65の先端から車両前後方向において前方に延び、本体部61と離間して対向する水平部66とを備える。第3折線部69が本体部61と傾斜壁65との間に形成され、第4折線部70が傾斜壁65と水平部66との間に形成されている。傾斜壁65は後述の側壁27aに配置され、水平部66は後述の天面部26に配置されている。また第3折線部69は後述の第5折線部71に配置され、第4折線部70は後述の第6折線部72に配置されている。傾斜壁65および水平部66は、車幅方向外側の端部から連続して、側部外側傾斜壁24bに接するように延在している。後述の通り、ヒンジ補強板60は、第2延長部64において外側傾斜壁24と内側傾斜壁22(支持台25)にスポット溶接されている。そのため、車両前後方向に垂直な断面において、溝底壁23、外側傾斜壁24、内側傾斜壁22、および第2延長部64によって閉断面形状が構成されている。第2延長部64は、車両上下方向において本体部61の下方に配置されていてもよい。すなわち、傾斜壁65は下方に向かって延在していてもよい。この場合、一対のヒンジ補強板60のそれぞれは、インナパネル20の下面に取り付けられていてもよい。
【0045】
図14を参照すると、内側傾斜壁22は、水平部66を支持するための支持台25を有する。なお、支持台25の形状を説明するため、ヒンジ補強板60を除去している。また、支持台25の形状を明確にするため、支持台25以外の構成を二点鎖線で示している。支持台25は、天面部26が略四角形の略四角錐台形状である。天面部26の3辺を基端として側壁27a~cが延びている。側壁27a~cの先端は溝底壁23に接続されている。第5折線部71が側壁27aと溝底壁23との間に形成され、第6折線部72が側壁27aと天面部26との間に形成されている。支持台25の形状は任意に設定されてよく、例えば直方体や他の多角錐台であってもよい。また支持台25は側壁を備えている必要はなく、例えば天面部26のみが内側傾斜壁22に接合されていてもよい。支持台25は、内側傾斜壁22と一体形成されていてもよく、又は溶接等によって内側傾斜壁22に後付けされていてもよい。
【0046】
支持台25は、第5折線部71が第2稜線42の延長線上に位置するように設けられている。支持台25は任意の位置に配置されていてよいが、好ましくはヒンジ部材3付近である。
【0047】
水平部66は、支持台25にスポット溶接されている。スポット溶接による支持台25への接合部は、例えば水平部66において1つである。また傾斜壁65および水平部66は、外側傾斜壁24にスポット溶接されている。スポット溶接による外側傾斜壁24に対する接合部は、例えば傾斜壁65および水平部66のそれぞれにおいて1つである。
【0048】
本実施形態によれば、外側傾斜壁24は、溝底壁23、内側傾斜壁22、及び第2延長部64と共に閉断面の一部として構成される。従って、外側傾斜壁24と内側傾斜壁22との車幅方向の変位が一層拘束され、外側傾斜壁24が車幅方向外側に開く変形がより一層抑制され得る。
【0049】
(ねじり剛性評価解析)
図15と
図16とを参照すると、比較例1と比較例2とに係る自動車用フード構造の構成は、以下の点で第1実施形態と異なる。比較例1と比較例2とのその他の構成は第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同一ないし同様の要素には同一の符号を付している。
【0050】
比較例1に係る自動車用フード構造は、本体部61のみを有するヒンジ補強板60を備える。ヒンジ補強板60は、第1接合部50a,50bのみでインナパネル20に接合されている。
【0051】
比較例2に係る自動車用フード構造では、ヒンジ補強板60は、本体部61と第1延長部62とを有し、第1接合部50a,50bと第2接合部56aでインナパネル20に接合されている。車両前後方向において最も前方に位置する一つ以外の第1接合部50aと、第2接合部56aとが車両前後方向において位置揃えされている。すなわち、ヒンジ補強板60は、フード1の前方部に荷重が加わった際にインナパネル20において最も変形が集中する箇所を補強するように設けられていない。そのため、インナパネル20の変形を効果的に抑制することが意図されていない。
【0052】
(ねじり剛性評価解析方法)
図5を参照に、ねじり剛性評価解析の条件を説明する。なお、方向の概念は自動車の運転者から見た概念と一致するものとして説明する。インナパネル20の前方右側に単純支持点Sを設定する。インナパネル20は、単純支持点Sで単純支持され、ボルト接合される左右それぞれで2つずつの第1接合部50a,50bで固定支持され、インナパネルの前方左側の荷重点Pに49Nの荷重が負荷される。荷重点Pに49Nの荷重が負荷された際の変位を求め、次の式(1)によってねじり剛性を求める。なお、ヤング率は68.6GPa、ポアソン比は0.33として計算する。
【0053】
【0054】
(ねじり剛性評価解析結果)
図17を参照に、比較例1,2および第1実施形態から第4実施形態のねじり剛性評価解析結果を説明する。グラフにおいて、縦軸は式(1)によって求められたねじり剛性を示す。比較例1の自動車用フード構造のねじり剛性は3.3N/mmである(
図17のAを参照)。比較例2の自動車用フード構造のねじり剛性は5.4N/mmである(
図17のBを参照)。実施形態1の自動車用フード構造のねじり剛性は6.0N/mmである(
図17のCを参照)。実施形態2の自動車用フード構造のねじり剛性は6.6N/mmである(
図17のDを参照)。実施形態3の自動車用フード構造のねじり剛性は6.9N/mmである(
図17のEを参照)。実施形態4の自動車用フード構造のねじり剛性は8.2N/mmである(
図17のFを参照)。
【0055】
比較例1と比較例2とに係る自動車用フード構造の解析結果より、ヒンジ補強板60が第1延長部62を有し、第1延長部62でインナパネル20とスポット溶接されることで、ねじり剛性が向上することが分かった。比較例2と実施形態1とに係る自動車用フード構造の解析結果より、車両前後方向において最も前方に位置する第1接合部50bと、第2接合部56bとが車両前後方向において位置揃えされていることで、ねじり剛性がより一層向上することが分かった。実施形態1と実施形態2とに係る自動車用フード構造の解析結果より、ヒンジ補強板60によって第2稜線42が形成されている部分を補強することで、ねじり剛性がより一層向上することが分かった。第2実施形態と第3実施形態とに係る自動車用フード構造の解析結果より、外側傾斜壁24と内側傾斜壁22との車幅方向の変位を拘束することで、ねじり剛性がより一層向上することが分かった。第3実施形態と第4実施形態とに係る自動車用フード構造の解析結果より、外側傾斜壁24が、溝底壁23、内側傾斜壁22、及び第2延長部64と共に閉断面の一部として構成されることで、ねじり剛性がより一層向上することが分かった。
【0056】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態や変形例の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 自動車用フード
2 車両
3 ヒンジ部材
3a ヒンジベース
3b ヒンジアーム
3c 先端部
4 アウタパネル
20 インナパネル
21 隆起部
22 内側傾斜壁
22a 後部内側傾斜壁
22b 側部内側傾斜壁
22c 前部内側傾斜壁
23 溝底壁
23a 後部溝底壁
23b 側部溝底壁
23c 前部溝底壁
24 外側傾斜壁
24a 後部外側傾斜壁
24b 側部外側傾斜壁
24c 前部外側傾斜壁
25 支持台
26 天面部
27a~c 側壁
41 第1稜線
42 第2稜線
43 第3稜線
50a~b 第1接合部
51 第1貫通孔
52 第2貫通孔
53 第3貫通孔
54 ボルト
55 ナット
56a~b 第2接合部
56c~e 第3接合部
56f 第4接合部
56g~i 接合部
57 ナゲット部
60 ヒンジ補強板
61 本体部
62 第1延長部
63 第1折線部(折線部)
64 第2延長部
65 傾斜壁
66 水平部
67 タブ
68 第2折線部
69 第3折線部
70 第4折線部
71 第5折線部
72 第6折線部