(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】銑鉄製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20250513BHJP
【FI】
C21B5/00 311
C21B5/00 319
C21B5/00 321
C21B5/00 323
(21)【出願番号】P 2021061042
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】笠井 昭人
(72)【発明者】
【氏名】燒谷 将大
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127628(JP,A)
【文献】特開平01-290709(JP,A)
【文献】特開平11-286706(JP,A)
【文献】特開平10-088208(JP,A)
【文献】特開2019-127615(JP,A)
【文献】特開2018-080358(JP,A)
【文献】特開2002-003910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 3/00-5/06,11/00-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記高炉の中心部にコークスを装入する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記積層する工程で、1つの上記第1層及び1つの上記第2層を合わせた積層単位を積層する1チャージの間に、1又は複数回の上記装入する工程が行われ、
上記1チャージで、装入する鉱石原料の質量(ton/ch)に対する上記中心部に堆積するコークスの質量(ton/ch)の比率Rを
0.017以上とする銑鉄製造方法。
【請求項2】
羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、
上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、
上記高炉の中心部にコークスを装入する工程と、
上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程と
を備え、
上記積層する工程で、1つの上記第1層及び1つの上記第2層を合わせた積層単位を積層する1チャージの間に、1又は複数回の上記装入する工程が行われ、
上記第1層の鉱石原料が、鉄鉱石ペレットを含み、
上記第1層の上記鉱石原料における上記鉄鉱石ペレットの割合をP(質量%)とするとき、
上記1チャージで、装入する鉱石原料の質量(ton/ch)に対する上記中心部に堆積するコークスの質量(ton/ch)の比率Rを
下記式1で算出されるα以上とする銑鉄製造方法。
α=0.017×(0.001×P+0.97) ・・・1
【請求項3】
上記中心部に堆積するコークスの強度が、上記第2層に含まれるコークスの強度以上である請求項1
又は請求項2に記載の銑鉄製造方法。
【請求項4】
上記中心部に堆積するコークスの平均粒径が、上記第2層に含まれるコークスの平均粒径以上である請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の銑鉄製造方法。
【請求項5】
基準時刻より過去の時刻から上記基準時刻までの所定期間の少なくとも上記熱風の温度及び送風量、ソリューションロス反応量、炉壁抜熱量、残銑量、溶銑の温度並びに上記比率Rを含む入力データ群と、上記基準時刻より未来の上記還元及び溶解する工程で得られる溶銑の温度データを含む出力データ群との実績値を学習データとして人工知能モデルに入力し、上記入力データ群から上記基準時刻より未来の上記溶銑の温度データを予測するよう人工知能モデルに学習させる工程と、
現在時刻を上記基準時刻として上記入力データ群を取得する工程と、
上記取得する工程で取得した上記入力データ群を、学習済みの上記人工知能モデルに現在時刻を基準時刻として入力する工程と、
学習済みの上記人工知能モデルに未来の上記溶銑の温度を推定させる工程と
を備え、
上記取得する工程で取得した上記入力データ群と、この入力データ群に対応する上記出力データ群の実績値とを上記学習させる工程の入力に用いる請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載の銑鉄製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銑鉄製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層し、羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、上記鉱石原料を還元し、溶解することで銑鉄を製造する方法が公知である。このとき、上記コークスは、鉱石原料の溶解のための熱源、鉱石原料の還元材、溶鉄へ浸炭し融点を低下させるための加炭材、及び高炉内の通気性を確保するためのスペーサーの役割を果たしている。このコークスにより通気性を維持することで、上記第1層及び上記第2層として装入された装入物の荷下がりを安定させ、高炉の安定操業を図っている。
【0003】
高炉内への熱風の吹込みは、高炉の外周から行われることが一般的である。この熱風は、高炉の中心部まで到達すると、高炉の中心部を上昇する。この中心部を上昇する熱風の流れが妨げられると、通気性が悪化し易い。この中心部の通気性を確保する方法として、高炉の中心部に集中的にコークスを装入する方法が提案されている(例えば特開昭60-56003号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今のCO2排出量削減の要求から、高炉操業においてコークスの使用量のさらなる削減が求められている。上述の高炉の中心部に集中的にコークスを装入する方法で通気性は改善するものの、さらに少ない量のコークスで通気性を維持する方法が望まれている。
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、高炉の中心部における熱風の流れを確保しつつコークスの使用量をさらに低減できる銑鉄製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る銑鉄製造方法は、羽口を有する高炉を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、上記高炉内に鉱石原料を含む第1層とコークスを含む第2層とを交互に積層する工程と、上記高炉の中心部にコークスを装入する工程と、上記羽口から送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された上記第1層の上記鉱石原料を還元及び溶解する工程とを備え、上記積層する工程で、1つの上記第1層及び1つの上記第2層を合わせた積層単位を積層する1チャージの間に、1又は複数回の上記装入する工程が行われ、上記1チャージで、装入する鉱石原料の質量(ton/ch)に対する上記中心部に堆積するコークスの質量(ton/ch)の比率Rを所定値α以上とする。
【0008】
当該銑鉄製造方法では、積層する工程の上記第1層及び上記第2層を合わせた積層単位を積層する1チャージ毎に高炉の中心部にコークスを装入することで、高炉の中心部における熱風の流れを容易に確保する。また、上記1チャージで、装入する鉱石原料の質量(ton/ch)に対する上記中心部に堆積するコークスの質量(ton/ch)の比率Rを所定値α以上とすることで、上記熱風の通気性が改善される。このため、コークスの使用量を低減しても、必要な通気性を確保することができるから、コークス量をさらに低減することができる。
【0009】
上記所定値αが0.017であるとよい。このように上記所定値αを上記値とすることで容易に通気性を確保することができる。
【0010】
上記第1層の鉱石原料が、鉄鉱石ペレットを含み、上記第1層の上記鉱石原料における上記鉄鉱石ペレットの割合をP(質量%)とするとき、上記所定値αが下記式1で算出されるとよい。中心部に装入されるコークスの必要量は、第1層の鉱石堆積傾斜角によっても変わり得る。特に第1層の鉄鉱石ペレットの割合Pと第1層の鉱石堆積傾斜角とは一定の相関があることから、第1層の鉄鉱石ペレットの割合Pを考慮して上記所定値αを決定することで、高い精度で通気性の改善効果を得ることができる。
α=0.017×(0.001×P+0.97) ・・・1
【0011】
上記中心部に堆積するコークスの強度が、上記第2層に含まれるコークスの強度以上であるとよい。通気性の観点からはコークスの強度が高い方が好ましいが、一方強度の高いコークスは一般に高価であり、製造コストの上昇につながる。このため、強度の高いコークスを中心装入にのみ用いることで、製造コストの上昇を抑止しつつ、通気性の改善を図ることができる。
【0012】
上記中心部に堆積するコークスの平均粒径が、上記第2層に含まれるコークスの平均粒径以上であるとよい。通気性の観点からはコークスの平均粒径が大きい方が好ましいが、一方平均粒径の大きいコークスは一般に高価であり、製造コストの上昇につながる。このため、平均粒径の大きいコークスを中心装入にのみ用いることで、製造コストの上昇を抑止しつつ、通気性の改善を図ることができる。
【0013】
基準時刻より過去の時刻から上記基準時刻までの所定期間の少なくとも上記熱風の温度及び送風量、ソリューションロス反応量、炉壁抜熱量、残銑量、溶銑の温度並びに上記比率Rを含む入力データ群と、上記基準時刻より未来の上記還元及び溶解する工程で得られる溶銑の温度データを含む出力データ群との実績値を学習データとして人工知能モデルに入力し、上記入力データ群から上記基準時刻より未来の上記溶銑の温度データを予測するよう人工知能モデルに学習させる工程と、現在時刻を上記基準時刻として上記入力データ群を取得する工程と、上記取得する工程で取得した上記入力データ群を、学習済みの上記人工知能モデルに現在時刻を基準時刻として入力する工程と、学習済みの上記人工知能モデルに未来の上記溶銑の温度を推定させる工程とを備え、上記取得する工程で取得した上記入力データ群と、この入力データ群に対応する上記出力データ群の実績値とを上記学習させる工程の入力に用いるとよい。このように学習済みの人工知能モデルを用いて溶銑の温度を推定するとともに、取得する工程で取得した入力データ群とこの入力データ群に対応する出力データ群の実績値とを用いて追加学習することで、上記比率Rに基づいて高い精度で溶銑の温度を管理することができる。
【0014】
ここで、高炉の「中心部」とは、炉口部の半径をZとするとき、高炉の中心軸からの距離が0.2Z以下の領域を指す。コークスの「強度」とは、JIS-K-2151:2004で規定されるドラム強度を指す。また、「平均粒径」とは、算術平均径を意味する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の銑鉄製造方法を用いることで、高炉の中心部における熱風の流れを確保しつつコークスの使用量をさらに低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る銑鉄製造方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、
図1の銑鉄製造方法で使用する高炉内部を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図2の融着帯から滴下帯付近の模式的部分拡大図である。
【
図4】
図4は、実施例における比率Rと補正K値との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例におけるコークス比とK値との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例で用いた高炉装入物分布実験装置の構成を示す模式図である。
【
図7】
図7は、実施例における鉄鉱石ペレットの割合P(アルミナボール比率)と鉱石堆積傾斜角θとの関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例における鉄鉱石ペレットの割合Pにより分類したコークス比とK値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の各実施形態に係る銑鉄製造方法について説明する。
【0018】
[第1実施形態]
図1に示す銑鉄製造方法は、
図2に示す高炉1を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であり、積層工程S1と、中心部装入工程S2と、還元溶解工程S3とを備える。
【0019】
<高炉>
高炉1は、
図2に示すように、炉下部に設けられた羽口1aと、出銑口1bとを有する。羽口1aは通常複数設けられる。高炉1は、固気向流型のシャフト炉であり、高温の空気に、必要に応じて高温又は常温の酸素を加えた熱風を羽口1aから炉内に吹き込んで、後述する鉱石原料11の還元及び溶融等の一連の反応を行い、出銑口1bから銑鉄を取り出すことができる。また、高炉1には、ベル・アーマー方式の原料装入装置2が装備されている。この原料装入装置2については、後述する。
【0020】
<積層工程>
積層工程S1では、
図2に示すように、高炉1内に第1層10と第2層20とを交互に積層する。つまり、第1層10及び第2層20の層数は、それぞれ2以上である。
【0021】
(第1層)
第1層10は、鉱石原料11を含む。鉱石原料11は、還元溶解工程S3で羽口1aより吹き込まれる熱風により昇温還元されて溶銑Fとなる。
【0022】
鉱石原料11は、鉄原料となる鉱石類を指し、主として鉄鉱石を含有する。鉱石原料11としては、焼成鉱(鉄鉱石ペレット、焼結鉱)、塊鉱石、炭材内装塊成鉱、メタル等を挙げることができる。また、鉱石原料11には、骨材11aが含まれているとよい。以下、鉱石原料11に骨材11aが混合されている場合を説明するが、骨材11aは必須の構成要素ではなく、鉱石原料11は骨材11aを含まなくともよい。
【0023】
骨材11aは、後述する融着帯Dの通気性を改善し、上記熱風を高炉1の中心部Mまで通気させるためのものである。骨材11aは、還元鉄を圧縮成形した還元鉄成形体(HBI、Hot Briquette Iron)を含むことが好ましい。
【0024】
HBIは、還元鉄DRI(Direct Reduced Iron)を熱間状態で成形したものである。DRIが、気孔率が高く、海上輸送や屋外保存時に酸化発熱する欠点を有するのに対し、HBIは気孔率が低く、再酸化し難い。骨材11aは、第1層10の通気性の確保を果たした後は、メタルとして機能し、溶銑となる。骨材11aは金属化率が高く還元の必要がないので、この溶銑となる際に還元材をあまり必要としない。従って、CO2排出量を削減できる。なお、「金属化率」とは、全鉄分に対する金属鉄の割合[質量%]をいう。
【0025】
上記還元鉄成形体の装入量の下限としては、銑鉄1トン当たり100kgであり、150kgがより好ましい。上記還元鉄成形体の装入量が上記下限未満であると、還元溶解工程S3で、融着帯Dでの骨材11aの通気性確保機能が十分に働かないおそれがある。一方、上記還元鉄成形体の装入量の上限は、骨材過多となり骨材効果が小さくならない範囲で適宜決定されるが、上記還元鉄成形体の装入量の上限は、例えば銑鉄1トン当たり700kgとされる。
【0026】
骨材11aを除く鉱石原料11bの平均粒径に対する上記還元鉄成形体の平均粒径の比の下限としては、1.3が好ましく、1.4がより好ましい。
図3に示すように、第1層10の骨材11aを除く鉱石原料11bの一部が溶解して滴下スラグ12として高炉1の下方へ移動し、この骨材11aを除く鉱石原料11bが軟化収縮した際にも、高融点の上記還元鉄成形体は軟化しない。骨材11aを除く鉱石原料11bに対して一定以上大きい上記還元鉄成形体を骨材11aとして混合させると、上記還元鉄成形体の骨材効果が発現し易く、第1層10全体が層収縮することを抑止できる。従って、上記平均粒径の比を上記下限以上とすることで、
図3の矢印で示すような熱風の流路を確保できるので、還元溶解工程S3での通気性を向上させることができる。一方、上記平均粒径の比の上限としては、10が好ましく、5がより好ましい。上記平均粒径の比が上記上限を超えると、上記還元鉄成形体を第1層10に均一に混合させ難くなり偏析が増大するおそれがある。
【0027】
また、上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含む場合、上記還元鉄成形体中の上記酸化アルミニウムの含有量の上限としては、1.5質量%が好ましく、1.3質量%がより好ましい。上記酸化アルミニウムの含有量が上記上限を超えると、スラグ融点の高温化や粘度の増加により炉下部での通気性の確保が困難となるおそれがある。このため、還元鉄成形体中の酸化アルミニウムの含有量を上記上限以下とすることで、コークス21の使用量が増大することを抑止できる。なお、上記酸化アルミニウムの含有量は0質量%、すなわち上記還元鉄成形体が酸化アルミニウムを含まないものであってもよいが、上記酸化アルミニウムの含有量の下限としては、0.5質量%が好ましい。上記酸化アルミニウムの含有量が上記下限未満であると、還元鉄成形体が高価なものとなり、銑鉄の製造コストが高くなるおそれがある。
【0028】
第1層10には、鉱石原料11に加えて、石灰石、ドロマイト、珪石等の副原料を一緒に装入してもよい。また、第1層10には、鉱石原料11に加えて、コークスを篩分けした篩下の小粒コークスを混合使用することが一般的である。
【0029】
(第2層)
第2層20はコークス21を含む。
【0030】
コークス21は、鉱石原料11の溶解のための熱源、鉱石原料11の還元に必要な還元材であるCOガスの生成、溶鉄へ浸炭し融点を低下させるための加炭材、及び高炉1内の通気性を確保するためのスペーサーの役割を果たす。
【0031】
(積層方法)
第1層10及び第2層20を交互に積層する方法は、種々の方法を用いることができる。ここでは、
図2に示すようなベル・アーマー方式の原料装入装置2(以下、単に「原料装入装置2」ともいう)を搭載した高炉1を例にとり、その方法について説明する。
【0032】
原料装入装置2は、炉頂部に備えられている。つまり、第1層10及び第2層20は、炉頂より装入される。原料装入装置2は、
図2に示すように、ベルカップ2aと、下ベル2bと、アーマー2cとを有する。
【0033】
ベルカップ2aは、装入する原料を充填する。第1層10を装入する際は、第1層10を構成する原料をベルカップ2aに充填し、第2層20を装入する際は、第2層20を構成する原料を充填する。
【0034】
下ベル2bは下方に広がる円錐状であり、ベルカップ2a内に配設される。下ベル2bは上下に移動可能である(
図2で、上方に移動した状態を実線、下方に移動した場合を破線で示している)。下ベル2bは、上方に移動した場合、ベルカップ2aの下部を密閉し、下方に移動した場合ベルカップ2aの側壁の延長上に隙間が構成されるようになっている。
【0035】
アーマー2cは、下ベル2bより下方で、高炉1の炉壁部に設けられている。下ベル2bを下方に移動した際、上記隙間から原料が落下するが、アーマー2cは、この落下する原料を反発させるための反発板である。また、アーマー2cは、高炉1の内部に向かって出退可能に構成されている。
【0036】
この原料装入装置2を用いて、以下のようにして、第1層10を積層することができる。なお、第2層20についても同様である。また、第1層10及び第2層20の積層は、交互に行われる。
【0037】
まず、下ベル2bを上方に位置させ、第1層10の原料をベルカップ2aに装入する。下ベル2bが上方に位置する場合、ベルカップ2aの下部は密閉されるので、ベルカップ2a内に上記原料が充填される。なお、その充填量は、各層の積層量とする。ベルカップ2aの容量が各層の積層量に満たない場合は、複数回に分けて第1層10を積層してもよい。この1回の充填での積層を「1バッチ」ともいう。
【0038】
次に、下ベル2bを下方へ移動させる。そうすると、ベルカップ2aとの間に隙間が生じるので、この隙間から上記原料は炉壁方向へ落下し、アーマー2cに衝突する。アーマー2cに衝突し、反発した上記原料は、炉内に装入される。上記原料には、アーマー2cでの反発により炉内方向に移動しつつ落下するので、落下した位置から炉内の中心側に向かって流れ込みながら堆積する。アーマー2cは、高炉1の内部に向かって出退可能に構成されているから、上記原料の落下位置は、アーマー2cを出退させることで調整することができる。この調整により第1層10を所望の形状に堆積させることができる。
【0039】
<中心部装入工程>
中心部装入工程S2では、高炉1の中心部Mにコークス31を装入する。このコークス31の装入により、
図2に示すように中心層30が形成される。なお、中心部Mへはコークス31のみではなく、例えば少量の鉱石原料等を混合して装入してもよい。
【0040】
中心部装入工程S2(装入する工程)は、積層工程S1(積層する工程)で、1つの第1層10及び1つの第2層20を合わせた積層単位を積層する1チャージの間に、1又は複数回行われる。ここで1チャージとは、第1層10及び第2層20をそれぞれ1層ずつ積層する1サイクルであり、例えば第1層10及び第2層20が2バッチ処理されている場合は、第1層10の1バッチ目、第1層10の2バッチ目、第2層20の1バッチ目及び第2層20の1バッチ目の4つの処理を合わせて1チャージとなる。
【0041】
1チャージ内で中心部装入工程S2を行う順序は、諸条件に応じて適宜決定することができる。例えば中心部装入工程S2は、例えば1チャージの最初の工程として行ってもよいし、第1層10及び第2層20を積層する直前に2回に分けて行ってもよい。また、第1層10及び第2層20が2バッチ処理されている場合、第1層10の1バッチ目と第1層10の2バッチ目の間、及び第2層20の2バッチ目と第1層10の1バッチ目の間の2回に分けて行うこともできる。
【0042】
(コークス)
コークス31は、第2層20のコークス21と同一の性状を持つものを使用することもできるが、異なる性状を持つものを使用することもできる。異なる性状のものを使用する場合、中心部Mに堆積するコークス31の強度が、第2層20に含まれるコークス21の強度以上であることが好ましい。通気性の観点からはコークスの強度が高い方が好ましいが、一方強度の高いコークスは一般に高価であり、製造コストの上昇につながる。このため、強度の高いコークスを主として中心装入に用いることで、製造コストの上昇を抑止しつつ、通気性の改善を図ることができる。なお、「中心部に堆積するコークス」は、主として中心部装入工程で装入されるコークスであるが、例えば第2層を積層した際に、転動等によりコークスが中心部に堆積した場合、このコークスは中心部に堆積するコークスに含める。即ち、「中心部に堆積するコークス」は、1チャージの装入後に中心部に堆積したコークスであり、その起源は問わない。ここで、中心部Mに堆積するコークス31の強度が、第2層20に含まれるコークス21の強度以上であるためには、中心部装入工程で装入されるコークス31が第2層20に含まれるコークス21より強度が大きいことと同等である。第2層20のコークス21が転動等により中心部Mに堆積した場合、このコークスは第2層20のコークス21と強度が同じとみなせる。
【0043】
また、中心部Mに堆積するコークス31の平均粒径が、第2層20に含まれるコークス21の平均粒径以上であることが好ましい。通気性の観点からはコークスの平均粒径が大きい方が好ましいが、一方平均粒径の大きいコークスは一般に高価であり、製造コストの上昇につながる。このため、平均粒径の大きいコークスを主として中心装入に用いることで、製造コストの上昇を抑止しつつ、通気性の改善を図ることができる。
【0044】
なお、中心部Mに堆積するコークス31の強度が、第2層20に含まれるコークス21の強度以上であり、かつ中心部Mに堆積するコークス31の平均粒径が、第2層20に含まれるコークス21の平均粒径以上であることが特に好ましい。
【0045】
(装入工程)
中心層30の積層は、種々の方法を用いることができ、後述する比率Rを所定値α以上とできる限り、特に限定されるものではないが、例えば第1層10及び第2層20と同様にベル・アーマー方式の原料装入装置2を用いて行うことができる。具体的には、原料装入装置2を用いて高炉1の中心部Mに中心層30の一部(直後に積層する第1層10又は第2層20の厚さに相当する厚さ分)を積層するとよい。
【0046】
当該銑鉄製造方法では、1チャージで、装入する鉱石原料11の質量(ton/ch)に対する中心部Mに堆積するコークス31の質量(ton/ch)の比率Rを所定値α以上とする。なお、例えば1チャージ内で複数回の中心部装入工程S2等が行われる場合は、比率Rは、1チャージ内で装入される鉱石原料11の合計量に対するコークス31の合計量の比を指すこととなる。また、「装入する鉱石原料の質量」は、主として積層工程S1で装入される第1層10の鉱石原料11であるが、他の層が鉱石原料を含む場合、その鉱石原料も含む。即ち、「装入する鉱石原料の質量」は、1チャージで装入される鉱石原料の全質量であり、その起源は問わない。
【0047】
上記所定値αは、0.017とすることができる。このように上記所定値αを上記値とすることで容易に通気性を確保することができる。
【0048】
第1層10の鉱石原料11が鉄鉱石ペレットを含んでいる場合、上記所定値αとして0.017を用いることもできるが、第1層10の鉱石原料11における上記鉄鉱石ペレットの割合をP(質量%)とするとき、所定値αが下記式1で算出されることが好ましい。ここで、「鉄鉱石ペレット」とは、数十μmの鉄鉱石微粉を原料とし、高炉用に適した性状(例えばサイズ、強度、被還元性など)に、品質を向上させて作り込んだものである。
α=0.017×(0.001×P+0.97) ・・・1
【0049】
通気性の改善のためには、高炉1の中心部Mにコークス31による中心カラムを形成することが望まれる。つまり、1チャージで装入される鉱石原料11の装入質量や鉱石堆積傾斜角によって決まる中心近傍の第1層10の厚さより上記中心カラムが高くなるように、つまり第1層10から中心部Mのコークス31が突出するように中心部装入工程S2でコークス31を装入することが好ましい。なお、「鉱石堆積傾斜角」とは、鉱石堆積層(第1層10等)の傾斜面の水平からの角度をいう。
【0050】
第1層10は、一般に中心部Mが低くなるように傾斜して積層される。ここで、焼結鉱や塊鉱石は、不定形で比較的広い粒度分布を有しているのに対し、鉄鉱石ペレットは、球状で粒度が比較的揃っている。このため、鉄鉱石ペレットは焼結鉱や塊鉱石に比べて中心部Mへ転がり易い。鉄鉱石ペレットの割合を増加させると、鉱石堆積傾斜角が小さくなり易い。このとき、第1層10は平坦化される傾向となり、中心部Mが相対的に厚くなる。従って、鉄鉱石ペレットの割合が増加すると、第1層10の鉱石原料11(ton/ch)に対して中心装入するコークス31(ton/ch)の比率を高めて、相対的にコークス31を多くするとよい。本発明者らが、第1層10の鉄鉱石ペレットの割合Pと第1層10の鉱石堆積傾斜角との相関について検討した結果、第1層10の鉄鉱石ペレットの割合Pを考慮して上記所定値αを上記式1に基づいて決定することで、高い精度で通気性の改善効果を得ることができると結論された。
【0051】
<還元溶解工程>
還元溶解工程S3では、羽口1aから送風する熱風により補助燃料を高炉内へ吹込みつつ、積層された第1層10の鉱石原料11を還元及び溶解する。なお、高炉操業は連続操業であり、還元溶解工程S3は連続して行われている。一方、積層工程S1及び中心部装入工程S2は間欠的に行われており、還元溶解工程S3で第1層10及び第2層20の還元及び溶解処理の状況に応じて、新たに還元溶解工程S3で処理すべき第1層10、第2層20及び中心層30が追加されていく。
【0052】
図2は、還元溶解工程S3での状態を示している。
図2に示すように、羽口1aからの熱風により羽口1a付近には、コークス21が旋回し著しく疎な状態で存在する空洞部分であるレースウェイAが形成されている。高炉1内では、このレースウェイAの温度が最も高く2000℃程度である。レースウェイAに隣接して、高炉1の内部においてコークスの擬停滞域である炉芯Bが存在する。また、炉芯Bから上方に滴下帯C、融着帯D及び塊状帯Eがこの順で存在する。
【0053】
高炉1内の温度は頂部からレースウェイAに向かって上昇する。つまり、塊状帯E、融着帯D、滴下帯Cの順に温度が高く、例えば塊状帯Eで20℃以上1200℃以下程度であるのに対し、炉芯Bは1200℃以上1600℃以下程度となる。なお、炉芯Bの温度は径方向で異なり、炉芯Bの中心部では滴下帯Cより温度が低くなる場合もある。また、炉内の中心部Mに熱風を安定して流通させることで、断面が逆V字型の融着帯Dを形成させ、炉内の通気性と還元性を確保している。
【0054】
高炉1内では、鉄鉱石原料11は、まず塊状帯Eで昇温還元される。融着帯Dでは、塊状帯Eで還元された鉱石が軟化収縮する。軟化収縮した鉱石は降下して滴下スラグとなり、滴下帯Cへ移動する。還元溶解工程S3で、鉱石原料11の還元は、主に塊状帯Eで進行し、鉱石原料11の溶解は、主に滴下帯Cで生じる。なお、滴下帯Cや炉芯Bでは、降下してきた液状の酸化鉄FeOとコークス21の炭素とが直接反応する直接還元が進行する。
【0055】
還元鉄成形体を含む骨材11aは、融着帯Dで骨材効果を発揮する。つまり、鉱石が軟化収縮した状態でも、高融点の上記還元鉄成形体は軟化せず、上記熱風を高炉1の中心部まで確実に通気させる通気路が確保される。
【0056】
また、炉床部には、還元された鉄が溶融した溶銑Fが堆積しており、その溶銑Fの上部に溶融スラグGが堆積している。この溶銑F及び溶融スラグGは、出銑口1bから取り出すことができる。
【0057】
羽口1aから吹き込む補助燃料としては、石炭を粒径50μm程度に微粉砕した微粉炭、重油や天然ガス等を挙げることができる。上記補助燃料は、熱源、還元材及び加炭材として機能する。つまり、コークス21の果たす役割のうち、スペーサー以外の役割を代替する。
【0058】
<利点>
当該銑鉄製造方法では、積層工程S1の第1層10及び第2層20を合わせた積層単位を積層する1チャージ毎に高炉1の中心部Mにコークス31を装入することで、高炉1の中心部Mにおける熱風の流れを容易に確保する。また、上記1チャージで、鉱石原料11の質量(ton/ch)に対する中心部Mに堆積するコークス31の質量(ton/ch)の比率Rを所定値α以上とすることで、上記熱風の通気性が改善される。このため、コークスの使用量を低減しても、必要な通気性を確保することができるから、コークス量をさらに低減することができる。
【0059】
[第2実施形態]
本発明の別の実施形態に係る銑鉄製造方法は、
図2に示す羽口1aを有する高炉1を用いて銑鉄を製造する銑鉄製造方法であって、高炉1内に鉱石原料11を含む第1層10とコークス21を含む第2層20とを交互に積層する工程(積層工程)と、高炉1の中心部Mにコークス31を装入する工程(中心部装入工程)と、羽口1aから送風する熱風により補助燃料を高炉1内へ吹込みつつ、積層された第1層10の鉱石原料11を還元及び溶解する工程(還元溶解工程)とを備え、上記積層工程で、1つの第1層10及び1つの第2層20を合わせた積層単位を積層する1チャージの間に、1又は複数回の上記中心部装入工程が行われ、上記1チャージで、鉱石原料の質量(ton/ch)に対する中心部Mに堆積するコークス31の質量(ton/ch)の比率Rを所定値α以上とする。また、当該銑鉄製造方法は、学習工程と、取得工程と、入力工程と、推定工程と、制御工程とを備える。
【0060】
上記積層工程、上記中心部装入工程及び上記還元溶解工程は、第1実施形態の積層工程S1、中心部装入工程S2及び還元溶解工程S3と同様であるので、詳細説明を省略する。
【0061】
(学習工程)
上記学習工程は、基準時刻より過去の時刻から上記基準時刻までの所定期間の少なくとも上記熱風の温度及び送風量、炉壁から放射される熱の熱量である炉壁抜熱量、ソリューションロス反応による熱量であるソリューションロス反応量、残銑量、溶銑Fの温度並びに上記比率Rを含む入力データ群と、上記基準時刻より未来の上記還元及び溶解する工程で得られる溶銑Fの温度データを含む出力データ群との実績値を学習データとして人工知能モデルに入力し、上記入力データ群から上記基準時刻より未来の上記溶銑Fの温度データを予測するよう人工知能モデルに学習させる工程である。
【0062】
上記入力データ群は、上記熱風の温度及び溶銑Fの温度に加え、予測精度向上の観点から、上記熱風の湿分、コークス比、補助燃料比(上記補助燃料が微粉炭を含む場合は微粉炭比が好ましい)などが含まれるとよい。
【0063】
上記学習工程において、上記基準時刻は過去のある一点であり、上記基準時刻より過去の時刻は、上記基準時刻より過去である限り、どの時点であってもよい。また、上記基準時刻より未来の時刻は、少なくとも現在時刻より前の時刻である。従って、上記入力データ群及び上記出力データ群の数値は、全て実測値とすることができる。また、上記過去の時刻から上記未来の時刻までの一連の時系列データに対して、上記基準時刻を変化させて、つまり過去のデータと未来のデータとを区切る時刻を変えて用いることもできる。
【0064】
また、上記入力データ群には、上記基準時刻より未来の時刻(ただし現在より過去の時刻)のデータも含まれることが好ましい。予測の対象となる上記基準時刻以降の溶銑Fの温度は、上記基準時刻以降の上記入力データ群の特に意図的な制御によって変わり得る。そこで、これらのデータも人工知能モデルの学習に用いることで、精度の高い予測モデルを作ることができる。
【0065】
上記入力データ群及び上記出力データ群は、高炉1に設置されたセンサ等により取得することができる。このとき、例えば同じ入力データの種類に対し、異なる位置にセンサを設置し、異なる場所のデータとして取得してもよい。
【0066】
実績値である上記入力データ群及び上記出力データ群は、学習データとして人工知能モデルに入力される。そして、上記入力データ群から上記基準時刻より未来の溶銑Fの温度データを予測するよう人工知能モデルに学習させる。具体的には、溶銑Fの温度データを予測する推定モデルが構築される。上記推定モデルの構築には、機械学習(AI)に関する公知の推定技術を用いることができる。具体的には、上記入力データ群及び上記出力データ群を用いて、構築手段が上記入力データ群と上記出力データ群との相関を学習し、推定モデルを構築することができる。中でも機械学習として、多層構造のニューラルネットワークを用いたディープラーニング(深層学習)を用いることが好ましい。
【0067】
当該銑鉄製造方法では、後述する取得工程で取得した上記入力データ群と、この入力データ群に対応する上記出力データ群の実績値とを上記学習工程の入力に用いる。予め学習させた人工知能モデルを用いて予測を行うと同時に、高炉1の操業によって逐次生成される入力データ群及び出力データ群を用いて継続的に学習させることで、上記人工知能モデルの予測精度を高めることができる。
【0068】
(取得工程)
上記取得工程では、現在時刻を上記基準時刻として上記入力データ群を取得する。具体的には、上記学習工程で用いた上記入力データ群を取得した方法と同じ方法、例えば同じセンサを用いて上記入力データ群を取得することができる。
【0069】
(入力工程)
上記入力工程では、上記取得工程で取得した上記入力データ群を、学習済みの上記人工知能モデルに現在時刻を基準時刻として入力する。上記入力工程では、その基準時刻を現在時刻として上記人工知能モデルを用いるので、上記基準時刻より未来の時刻は、現実の世界においても未来の時刻であり、後述する推定工程で予測される溶銑Fの温度は、来るべき未来の温度となる。
【0070】
(推定工程)
上記推定工程では、学習済みの上記人工知能モデルに未来の溶銑Fの温度を推定させる。上記人工知能モデルは学習済みのモデルであるから、未来の溶銑Fの温度を精度よく推定することができる。
【0071】
(制御工程)
上記制御工程では、上記推定工程で推定した溶銑Fの温度に基づいて、上記入力データ群に含まれる項目の設定値を変更する。特に当該銑鉄製造方法では、比率Rを大きく取り過ぎると、溶銑温度が低下し冷え込みが発生するおそれがある。このため、未来の溶銑Fの温度を推定させ、冷え込みを避けるように適切に制御することが重要である。
【0072】
具体的には、上記推定工程で、溶銑Fの温度の低下が予測される場合、例えば上記熱風の温度、送風量及び湿分、コークス比、微粉炭比並びに上記比率R等から、溶銑Fの温度の低下(冷え込み)を効果的に回避できるパラメータを上記人工知能モデルに推定させて、制御することができる。特に比率Rが高くなり過ぎないように制御するとよい。
【0073】
なお、上記制御工程は必須の工程ではなく、省略することもできる。この場合、人工知能モデルは、溶銑Fの温度の推定のみを行う。そして、その推定結果から作業者が具体的な対応策を検討し実行することとなる。
【0074】
<利点>
当該溶銑製造方法では、このように学習済みの人工知能モデルを用いて溶銑Fの温度を推定するとともに、取得する工程で取得した入力データ群とこの入力データ群に対応する出力データ群の実績値とを用いて追加学習することで、上記比率Rに基づいて高い精度で溶銑Fの温度を管理することができる。従って、高炉操業を安定して継続することができる。
【0075】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0076】
上記実施形態では、当該銑鉄製造方法は、他の工程を含んでもよい。例えば当該銑鉄製造方法は、還元鉄成形体に由来する粉体及び石炭を微粉砕する工程を備えてもよい。この場合、上記補助燃料として上記微粉砕工程で得られる微粉体を含めることが好ましい。還元鉄成形体は、搬送過程等により一部が破砕され粉体となる。このような粉体は高炉内の通気性を低下させるため、第1層として使用することは適当ではない。また、この粉体は比表面積が大きいため、酸化鉄へと再酸化する。この酸化鉄を含む補助燃料を羽口から吹き込むと通気性を改善することができる。従って、還元鉄成形体に由来する粉体を石炭とともに微粉砕し、微粉砕した上記粉体及び上記石炭を含む微粉体を羽口から吹き込む補助燃料として用いることで、還元鉄成形体の有効利用を図ることができるとともに、高炉内の通気性を改善することができる。
【0077】
上記実施形態の積層工程として、ベル・アーマー方式を用いる場合を説明したが、他の方式を用いることもできる。このような他の方式としてはベルレス方式を挙げることができる。ベルレス方式では、旋回シュートを用いて、その角度を調整しながら積層を行うことができる。この場合、中心部装入工程は、第2層の積層の前後に続けて連続的に行ってもよい。例えば第2層の積層で中央部に近づくにつれ、コークスの量を徐々に増加させて中心部装入工程を連続的に行う方法や、中心部装入工程に続けてコークスの量を徐々に減少させて第2層の積層を連続的に行う方法等を採用してもよい。
【0078】
上記第2実施形態では、取得工程で取得した入力データ群と、この入力データ群に対応する出力データ群の実績値とを学習工程の入力に用いる場合について説明したが、これらの実績値を学習工程の入力に用いない構成とすることもできる。つまり、学習工程で一度構築した人工知能モデルに追加学習をさせることなく、そのまま用い続けてもよい。
【0079】
また、上記第2実施形態では、制御工程で比率Rが高くなり過ぎないように制御するとよいことを述べた。上記制御工程では、推定工程で推定される未来の溶銑Fの温度に基づいて制御する方法を説明したが、他のパラメータ、例えばリアルタイムの溶銑Fの温度に基づいてもよい。つまり、銑鉄製造方法は、溶銑の温度の低下を回避できるように比率Rを制御する制御工程を備えるものであってもよい。上記制御工程により比率Rが高くなり過ぎる弊害を抑止できる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
<比率R>
操業中の高炉の操業データを用いて、高炉の1チャージでの鉱石原料の質量(ton/ch)に対する上記中心部に堆積するコークスの質量(ton/ch)の比率Rと、全K値との関係を調べた。
【0082】
全K値は、炉頂圧P
1(kPa)、送風圧P
2(kPa)、ボッシュガス量BOSH(Nm
3/min)とするとき、以下の式2で表される。全K値は低いほど通気に余裕があることを示し、逆に言うとコークス比を低減した操業を可能とする。
【数1】
【0083】
全K値と塊コークス比との間には、
全K値=-0.0042×塊コークス比+3.8054 ・・・3
の関係があるから、この式3に従って、塊コークス比=270kg/tpのときの値に全K値を補正し(補正全K値)、この補正全K値と比率Rとの関係を求めた。結果を
図4に示す。なお、「塊コークス」とは、通気性確保を目的とする篩上の大粒径のコークスを指す。
【0084】
図4の結果から、比率Rが増加すると補正全K値が低下しており、特に比率Rが所定値α=0.017より大きいときに補正全K値が低値となることが分かる。そこで、各操業データをR<0.017とR≧0.017とに分けて、コークス比と全K値との関係をプロットした。結果を
図5に示す。
【0085】
図5から、R≧0.017とすることで、全K値が低下し、通気性が改善していることが分かる。従って、全K値が操業上限値となるまでコークス比を低減することができる。
【0086】
<鉄鉱石ペレットの割合Pとの関係>
まず、鉄鉱石ペレットの割合Pが鉱石堆積傾斜角θに与える影響を実験した。
【0087】
図6に、この実験に用いた高炉装入物分布実験装置8を示す。
図6に示す高炉装入物分布実験装置8は、スケール1/10.7でベル・アーマー方式の原料装入装置を模擬した2次元スライス冷間模型である。高炉装入物分布実験装置8の大きさは、高さ1450mm(
図8のL1の長さ)、幅580mm(
図8のL2の長さ)、奥行き100mm(
図8で紙面に垂直方向の長さ)である。
【0088】
高炉装入物分布実験装置8の各構成要素は、
図2のベル・アーマー方式の原料装入装置2の対応する同一機能の構成要素と同一番号を付した。機能は同一であるので、詳細説明は省略する。また、高炉装入物分布実験装置8は、
図6に示すように、中心装入を模したコークスを装入するための中心装入シュート8aを有する。
【0089】
この高炉装入物分布実験装置8に下地となるコークス層81、中心装入コークス層82及び鉱石層83を順に装入した後、鉱石層である実験層84を装入した。
【0090】
実験層84の装入に用いた原料は、焼結鉱及び塊鉱石を模擬した焼結鉱(粒径2.8~4.0mm)、鉄鉱石ペレットを模擬したアルミナボール(φ2mm)、塊コークスを模擬したコークス(粒径8.0~9.5mm)である。原料は、2/11.2縮尺とした。
【0091】
上述の条件で、鉄鉱石ペレットを模擬したアルミナボールの比率を変えて鉱石堆積傾斜角θを測定した。なお、鉱石堆積傾斜角θの対象範囲は、無次元半径(炉壁側=0.00、中心側=1.00)で、0.32以上0.71以下の範囲とした。結果を
図7に示す。
【0092】
図7の結果から、鉄鉱石ペレットの割合(アルミナボールの比率)が10%増加すると鉱石堆積傾斜角θが約1度低下する傾向が確認された。
【0093】
次に、操業中の高炉の操業データを用いて、各操業データをR<0.017×(0.001×P+0.97)とR≧0.017×(0.001×P+0.97)とに分けて、コークス比と全K値との関係をプロットした。結果を
図8に示す。
【0094】
図8の結果から、鉄鉱石ペレットの割合Pを考慮することで、高い精度で通気性の改善効果が判断できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の銑鉄製造方法を用いることで、高炉の中心部における熱風の流れを確保しつつコークスの使用量をさらに低減できる。
【符号の説明】
【0096】
1 高炉
1a 羽口
1b 出銑口
2 原料装入装置
2a ベルカップ
2b 下ベル
2c アーマー
10 第1層
11 鉱石原料
11a 骨材
11b 骨材を除く鉱石原料
12 滴下スラグ
20 第2層
21 コークス
30 中心層
31 コークス
8 高炉装入物分布実験装置
8a 中心装入シュート
81 コークス層
82 中心コークス層
83 鉱石層
84 実験層
A レースウェイ
B 炉芯
C 滴下帯
D 融着帯
E 塊状帯
F 溶銑
G 溶融スラグ
M 中心部