(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
B60R 21/264 20060101AFI20250513BHJP
B01J 7/00 20060101ALI20250513BHJP
B60R 21/263 20110101ALI20250513BHJP
【FI】
B60R21/264
B01J7/00 A
B60R21/263
(21)【出願番号】P 2021100577
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2024-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井本 勝大
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-140028(JP,A)
【文献】特開平11-157412(JP,A)
【文献】特開2002-274316(JP,A)
【文献】特開2000-296756(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088134(WO,A1)
【文献】特開2021-104707(JP,A)
【文献】国際公開第2021/261134(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/098089(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/163290(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
B01J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1点火装置と、
前記第1点火装置が配置される第1燃焼室と、
筒状の周壁部と、該周壁部の一端側に設けられた天板部と、該周壁部の他端側に該天板部と対向するように設けられ、該周壁部及び該天板部と共に前記第1燃焼室を画定するとともに前記第1点火装置が固定される底板部と、を含むハウジングと、
前記第1点火装置を取り囲む筒状の包囲壁部を含み、前記第1点火装置との間に点火手段室を形成する第1内筒部材であって、前記点火手段室と当該第1内筒部材の外部とを連通する一又は複数の連通孔が前記包囲壁部に形成された第1内筒部材と、
前記包囲壁部を取り囲むように前記第1燃焼室に配置され、前記第1点火装置の作動により前記点火手段室から前記連通孔を介して排出される燃焼生成物により燃焼する第1ガス発生剤と、
前記ハウジングに形成され、ガス発生剤の燃焼圧力を受けて開口することで前記第1燃焼室と当該ハウジングの外部とを連通する複数のガス排出孔と、
を備え、
前記複数のガス排出孔は、第1ガス排出孔と前記第1ガス排出孔よりも開口圧力の高い第2ガス排出孔とを含み、
前記包囲壁部は、前記包囲壁部の周方向において、一の前記連通孔が配置され又は複数の前記連通孔がまとまって配置された燃焼生成物排出領域と、前記燃焼生成物排出領域を除く燃焼生成物非排出領域と、に区分され、
前記周壁部は、前記周壁部の周方向において、前記燃焼生成物排出領域に対応付けられた連通孔対応領域と、前記燃焼生成物非排出領域に対応付けられた連通孔非対応領域と、に区分され、
前記連通孔対応領域と前記連通孔非対応領域とのうち、前記連通孔対応領域のみに前記第1ガス排出孔が形成され、前記連通孔非対応領域のみに前記第2ガス排出孔が形成されている、
ガス発生器。
【請求項2】
前記連通孔対応領域は、前記周壁部のうち、前記包囲壁部の中心軸を中心とする放射方向において前記燃焼生成物排出領域と対向する領域である、
請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記連通孔対応領域の範囲は、前記包囲壁部の軸方向視において、前記包囲壁部の中心軸から前記燃焼生成物排出領域の前記包囲壁部の周方向における一端部を通って前記周壁部に交わる第1仮想直線と、前記包囲壁部の中心軸から前記燃焼生成物排出領域の前記包囲壁部の周方向における他端部を通って前記周壁部に交わる第2仮想直線とによって画定されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記包囲壁部の中心軸と前記周壁部の中心軸とが離間しており、
前記包囲壁部は、前記包囲壁部の軸方向視において前記包囲壁部の中心軸と前記周壁部の中心軸とを通る仮想中心線を対称軸として互いに線対称に位置する前記燃焼生成物排出領域である第1燃焼生成物排出領域及び第2燃焼生成物排出領域を含み、
前記周壁部は、前記第1燃焼生成物排出領域に対応付けられた前記連通孔対応領域である第1連通孔対応領域と、前記第2燃焼生成物排出領域に対応付けられた前記連通孔対応領域である第2連通孔対応領域と、を含み、
前記第1燃焼生成物排出領域及び前記第2燃焼生成物排出領域には、前記仮想中心線を対称軸として線対称の配置となるように前記連通孔が形成され、
前記第1連通孔対応領域及び前記第2連通孔対応領域には、前記仮想中心線を対称軸と
して線対称の配置となるように前記第1ガス排出孔が形成されている、
請求項1から3の何れか一項に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記第1連通孔対応領域に形成された前記第1ガス排出孔の開口圧力と前記第2連通孔対応領域に形成された前記第1ガス排出孔の開口圧力とが互いに等しい、
請求項4に記載のガス発生器。
【請求項6】
第2点火装置と、
前記第2点火装置の作動により燃焼する第2ガス発生剤と、
前記第2点火装置と前記第2ガス発生剤とが配置される第2燃焼室と、
前記ハウジング内に配置された筒状の第2内筒部材であって、その内部に前記第2燃焼室を形成する第2内筒部材と、を更に備え、
前記第2内筒部材は、前記包囲壁部の中心軸を中心とする放射方向において前記燃焼生成物排出領域と前記連通孔対応領域との間に位置しないように配置されている、
請求項1から5の何れか一項に記載のガス発生器。
【請求項7】
前記連通孔は、前記燃焼生成物排出領域に亘って前記包囲壁部の周方向に延在する単一の孔として形成されている、
請求項1から6の何れか一項に記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジング内に点火器とガス発生剤とを配置し、点火器を内筒部材で包囲し、内筒部材には連通孔を形成し、点火器を作動させることで連通孔から排出される燃焼生成物によりガス発生剤を燃焼させ、その燃焼ガスをハウジングに形成された複数のガス排出孔から外部へ放出するガス発生器が広く用いられている。
【0003】
ガス発生器の出力性能は、その燃焼ガスの排出量や排出時間等をパラメータとし、出力性能を所望の性能とするためには、ガス発生剤を所望するように燃焼させることが重要である。ここで、ガス発生剤の燃焼性能は、燃焼時における周囲の温度や圧力に応じて変化する。一般に、温度が高いほど、または圧力が高いほど、ガス発生剤は活発に反応(燃焼)する。つまり、高温または高圧であるほどガス発生剤の燃焼性能が向上し、燃焼時のハウジングの内部圧力が高まり易くなる。一方で、低温・低圧の環境では、ガス発生剤の燃焼が不活発なものとなる。従って、高温時と低温時とでのガス発生器の出力性能の差を小さくし、出力性能の安定化を実現するためには、低温時におけるハウジングの内部圧力を高め、ガス発生剤の燃焼性能を高める必要がある。これに関連して、低温時におけるガス発生剤の燃焼性能の低下を抑制するために、一部のガス排出孔を閉塞する閉塞部材の開裂圧を他のガス排出孔を閉塞する閉塞部材の開裂圧よりも高いものとし、低温時には当該他のガス排出孔のみを開口させることでハウジングの内部圧力を高める技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
ここで、内筒部材の連通孔から排出される燃焼生成物の勢いが強いことから、ハウジング内のガス発生剤は内筒部材の周方向においては連通孔近傍のものから優先して燃焼すると考えられる。そのため、連通孔の配置に起因してガス発生剤の燃焼が不均一となり易く、ハウジング内において圧力や温度の斑(偏り)が瞬間的に生じているものと推測される。特に、点火装置を収容した内筒部材がハウジングの中心位置に対して偏在している場合には、その周方向においてガス発生剤の着火環境や燃焼環境が異なるため、着火斑が生じやすい傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-348711号公報
【文献】米国特許第6722694号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のガス発生器では、上述のような内筒部材の連通孔の配置に起因するガス発生剤の燃焼の偏りを考慮してハウジングにガス排出孔が配置されたものではなかった。そのため、閉塞部材の開裂圧を異ならせることで一部のガス排出孔を他のガス排出孔よりも開口し難くしても、低温時に当該他のガス排出孔だけでなく当該一部のガス排出孔も開口してしまう虞がある。そうすると、余分なガス排出孔が開口することでハウジング内の燃焼ガスが逃げ易くなりため、ハウジングの内部圧力が想定よりも低いものとなる。その結果、ガス発生剤の燃焼性能が期待通りにならず、ガス発生器の出力性能を安定して得られなくなる可能性がある。
【0007】
本開示の技術は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、出力性能の安定したガス発生器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の技術は、以下の構成を採用した。即ち、本開示の技術は、ガス発生器であって、第1点火装置と、前記第1点火装置が配置される第1燃焼室と、筒状の周壁部と、該周壁部の一端側に設けられた天板部と、該周壁部の他端側に該天板部と対向するように設けられ、該周壁部及び該天板部と共に前記第1燃焼室を画定するとともに前記第1点火装置が固定される底板部と、を含むハウジングと、前記第1点火装置を取り囲む筒状の包囲壁部を含み、前記第1点火装置との間に点火手段室を形成する第1内筒部材であって、前記点火手段室と当該第1内筒部材の外部とを連通する一又は複数の連通孔が前記包囲壁部に形成された第1内筒部材と、前記包囲壁部を取り囲むように前記第1燃焼室に配置され、前記第1点火装置の作動により前記点火手段室から前記連通孔を介して排出される燃焼生成物により燃焼する第1ガス発生剤と、前記ハウジングに形成され、ガス発生剤の燃焼圧力を受けて開口することで前記第1燃焼室と当該ハウジングの外部とを連通する複数のガス排出孔と、を備え、前記複数のガス排出孔は、第1ガス排出孔と前記第1ガス排出孔よりも開口圧力の高い第2ガス排出孔とを含み、前記包囲壁部は、前記包囲壁部の周方向において、一の前記連通孔が配置され又は複数の前記連通孔がまとまって配置された燃焼生成物排出領域と、前記燃焼生成物排出領域を除く燃焼生成物非排出領域と、に区分され、前記周壁部は、前記周壁部の周方向において、前記燃焼生成物排出領域に対応付けられた連通孔対応領域と、前記燃焼生成物非排出領域に対応付けられた連通孔非対応領域と、に区分され、前記連通孔対応領域と前記連通孔非対応領域とのうち、前記連通孔対応領域のみに前記第1ガス排出孔が形成され、前記連通孔非対応領域のみに前記第2ガス排出孔が形成されている、ガス発生器である。
【0009】
このようなガス発生器によると、燃焼生成物排出領域に対応付けられた連通孔対応領域のみに第1ガス排出孔を形成することで、開口圧力の低い第1ガス排出孔をより開口し易くし、連通孔非対応領域のみに第2ガス排出孔を形成することで、開口圧力の高い第2ガス排出孔をより開口し難くすることができる。これにより、低温作動時において、より確実に第1ガス排出孔のみを開口させることが可能となる。従って、低温作動時におけるハウジングの内部圧力及びガス発生剤の燃焼性能を確実に高めることできる。その結果、本開示のガス発生器によれば、低温作動時と高温作動時とにおける出力性能の差を小さくし、安定した出力性能を得ることができる。
【0010】
また、本開示のガス発生器において、前記連通孔対応領域は、前記周壁部のうち、前記包囲壁部の中心軸を中心とする放射方向において前記燃焼生成物排出領域と対向する領域であってもよい。
【0011】
また、本開示のガス発生器において、前記連通孔対応領域の範囲は、前記包囲壁部の軸方向視において、前記包囲壁部の中心軸から前記燃焼生成物排出領域の前記包囲壁部の周方向における一端部を通って前記周壁部に交わる第1仮想直線と、前記包囲壁部の中心軸から前記燃焼生成物排出領域の前記包囲壁部の周方向における他端部を通って前記周壁部に交わる第2仮想直線とによって画定されてもよい。
【0012】
また、本開示のガス発生器において、前記包囲壁部の中心軸と前記周壁部の中心軸とが離間しており、前記包囲壁部は、前記包囲壁部の軸方向視において前記包囲壁部の中心軸と前記周壁部の中心軸とを通る仮想中心線を対称軸として互いに線対称に位置する前記燃焼生成物排出領域である第1燃焼生成物排出領域及び第2燃焼生成物排出領域を含み、前記周壁部は、前記第1燃焼生成物排出領域に対応付けられた前記連通孔対応領域である第1連通孔対応領域と、前記第2燃焼生成物排出領域に対応付けられた前記連通孔対応領域
である第2連通孔対応領域と、を含み、前記第1燃焼生成物排出領域及び前記第2燃焼生成物排出領域には、前記仮想中心線を対称軸として線対称の配置となるように前記連通孔が形成され、前記第1連通孔対応領域及び前記第2連通孔対応領域には、前記仮想中心線を対称軸として線対称の配置となるように前記第1ガス排出孔が形成されてもよい。
【0013】
また、本開示のガス発生器において、前記第1連通孔対応領域に形成された前記第1ガス排出孔の開口圧力と前記第2連通孔対応領域に形成された前記第1ガス排出孔の開口圧力とが互いに等しく構成されてもよい。
【0014】
また、本開示のガス発生器は、第2点火装置と、前記第2点火装置の作動により燃焼する第2ガス発生剤と、前記第2点火装置と前記第2ガス発生剤とが配置される第2燃焼室と、前記ハウジング内に配置された筒状の第2内筒部材であって、その内部に前記第2燃焼室を形成する第2内筒部材と、を更に備え、前記第2内筒部材は、前記包囲壁部の中心軸を中心とする放射方向において前記燃焼生成物排出領域と前記連通孔対応領域との間に位置しないように配置されてもよい。
【0015】
また、本開示のガス発生器において、前記連通孔は、前記燃焼生成物排出領域に亘って前記包囲壁部の周方向に延在する単一の孔として形成されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示の技術によれば、出力性能の安定したガス発生器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態1に係るガス発生器の縦断面図である。
【
図3】低温作動時におけるガス発生器の状態を示す横断面図である。
【
図4】高温作動時におけるガス発生器の状態を示す横断面図である。
【
図5】実施形態1の変形例1に係るガス発生器の横断面図である。
【
図6】実施形態1の変形例1に係る第1内筒部材の斜視図である。
【
図7】実施形態1の変形例2に係るガス発生器の横断面図である。
【
図8】実施形態2に係るガス発生器の縦断面図である。
【
図10】実施形態2の変形例1に係るガス発生器の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係るガス発生器について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0019】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係るガス発生器100の縦断面図である。より具体的には、
図1は、符号A1で示すハウジング中心軸と符号A5で示す内筒中心軸とを含む断面図である。
図1では、ガス発生器100の作動前の状態が示されている。ガス発生器100は、例えばエアバッグに使用されるエアバッグ用ガス発生器である。
【0020】
[全体構成]
図1に示すように、ガス発生器100は、第1点火装置4と、第1内筒部材5と、伝火薬6と、第2点火装置7と、第2内筒部材8と、フィルタ9と、第1ガス発生剤110と
、第2ガス発生剤120と、これらを収容するハウジング1と、を備えている。ガス発生器100は、点火装置を2つ備えた、いわゆるデュアルタイプのガス発生器として構成されている。また、ガス発生器100は、第1点火装置4が備える第1点火器41を作動させることで第1ガス発生剤110を燃焼させ、第2点火装置7が備える第2点火器71を作動させることで第2ガス発生剤120を燃焼させ、これらの燃焼生成物である燃焼ガスをハウジング1に形成されたガス排出孔12から放出するように構成されている。以下、ガス発生器100の各構成について説明する。なお、本明細書では、点火装置に含まれる点火器が作動することを、便宜上、「点火装置が作動する」と表現する場合がある。
【0021】
[ハウジング]
ハウジング1は、夫々が有底略円筒状に形成された金属製の上部シェル2及び下部シェル3が互いの開口端同士を向き合わせた状態で接合されることで、符号11で示す筒状の周壁部を含み該周壁部11の軸方向両端が閉塞した短尺円筒状に形成されている。
図1のハウジング中心軸A1は、周壁部11の中心軸である。ここで、ハウジング中心軸A1に沿う方向をガス発生器100の上下方向と定義し、上部シェル2側(即ち、
図1における上側)をガス発生器100の上側とし、下部シェル3側(即ち、
図1における下側)をガス発生器100の下側とする。
【0022】
上部シェル2は、筒状の上側周壁部21と該上側周壁部21の上端を閉塞する天板部22とを有し、これらにより内部空間を形成する。上側周壁部21の下端部によって上部シェル2の開口部が形成されている。上側周壁部21の下端部には、径方向外側に延在した接合部23が繋がっている。下部シェル3は、筒状の下側周壁部31と該下側周壁部31の下端を閉塞する底板部32とを有し、これらにより内部空間を形成する。下側周壁部31の上端部には、径方向外側に延在した接合部33が繋がっている。底板部32には、第1点火装置4を底板部32に取り付けるための第1取付孔32aと第2点火装置7を底板部32に取り付けるための第2取付孔32bとが形成されている。
【0023】
上部シェル2の接合部23と下部シェル3の接合部33とが重ね合わされてレーザ溶接等によって接合されることで、軸方向の両端が閉塞した短尺円筒状のハウジング1が形成されている。これら上部シェル2の上側周壁部21と下部シェル3の下側周壁部31とによって、天板部22と底板部32とを接続する筒状の周壁部11が形成されている。つまり、ハウジング1は、筒状の周壁部11と、周壁部11の一端側に設けられた天板部22と、他端側に該天板部22と対向するように設けられた底板部32と、を含んで構成されている。これら周壁部11と天板部22と底板部32と後述する第2内筒部材8とによって、第1燃焼室10が画定されている。第1燃焼室10は、ハウジング1の内部空間のうち、第2内筒部材8の内部空間である第2燃焼室20を除いた空間として形成されている。第1燃焼室10には、第1点火装置4、第1内筒部材5、伝火薬6、フィルタ9、及び第1ガス発生剤110が配置される。第1燃焼室10の中心軸は、ハウジング中心軸A1と一致する。
【0024】
ここで、ハウジング1には、第1燃焼室10とハウジング1の外部空間とを連通するガス排出孔12が、周方向に沿って複数並んで形成されている。より詳細には、複数のガス排出孔12は、周壁部11における上側周壁部21に形成されている。ガス排出孔12は、第1点火装置4及び第2点火装置7が作動する前の状態では、周壁部11の内周面に設けられたシールテープ13により閉塞されている。閉塞部材の一例であるこのシールテープ13が燃焼ガスの圧力により開裂することで、ガス排出孔12が開口する。なお、本明細書では、ガス排出孔12を開口させるために必要な圧力を「開口圧力」と呼ぶこととする。本例の場合、開口圧力はシールテープ13の開裂に要する圧力となる。
【0025】
[点火装置]
図1に示すように、第1点火装置4は、下部シェル3の底板部32に形成された第1取付孔32aに固定されている。第1点火装置4は、第1点火器41を備える。第2点火装置7は、下部シェル3の底板部32に形成された第2取付孔32bに固定されている。また、第2点火装置7は、第2点火器71を備える。第1点火器41及び第2点火器71は、それぞれの内部に点火薬(図示なし)が収容されており、着火電流の供給により作動することで該点火薬を燃焼させ、その燃焼生成物を外部に放出する。第1点火装置4と第2点火装置7は、互いに独立して作動する。第2点火装置7が作動する場合には、第1点火装置4の作動と同時又は第1点火装置4の作動後の所定のタイミングで第2点火装置7が作動する。ガス発生器100は、第1点火装置4の作動による第1ガス発生剤110の燃焼と第2点火装置7の作動による第2ガス発生剤120の燃焼とによって、いわゆるシングルタイプのガス発生器と比較して多量の燃焼ガスを様々な出力プロファイルで外部に放出することができる。なお、第2点火装置7は、常に作動するものではなく、ガス発生器100は、センサ(図示せず)が感知した衝撃に応じて、衝撃が弱い場合には第2点火装置7を作動させずに第1点火装置4のみを作動させることや、衝撃が強い場合には第1点火装置4と第2点火装置7とを同時に作動させることができる。
【0026】
[内筒部材]
第1内筒部材5は、底板部32から天板部22に向かって延びる筒状の部材である。第1内筒部材5は、筒状の包囲壁部51と包囲壁部51の一端部を閉塞する蓋壁部52とを含む。包囲壁部51の他端部に第1点火装置4が嵌入または圧入されることで、第1内筒部材5が底板部32に取り付けられている。
図1の内筒中心軸A5は、包囲壁部51の中心軸である。
図1に示すように、ガス発生器100では、内筒中心軸A5が周壁部11のハウジング中心軸A1から離間するように第1内筒部材5が配置されており、内筒中心軸A5はハウジング中心軸A1と平行である。
図1に示すように、第1点火装置4が包囲壁部51によって取り囲まれることで、第1内筒部材5と第1点火装置4との間には点火手段室53が形成されている。点火手段室53には、第1点火装置4の作動により燃焼する伝火薬6が収容されている。また、第1内筒部材5の包囲壁部51には、その内部空間(即ち、点火手段室53)と外部空間とを連通する連通孔h1が複数形成されている。連通孔h1は、第1点火装置4が作動する前の状態では、シールテープ(図示なし)により閉塞されている。なお、蓋壁部を使用する代わりに、例えば、上端部が開口した包囲壁部51がハウジングの天板部に溶接などによって接合されていてもよい。また連通孔h1は、ガス排出孔12と同じ高さ(底板部32からの高さ)になる位置に配置されている。ただし、連通孔h1の高さとガス排出孔12の高さが異なっていてもよい。
【0027】
第2内筒部材8は、底板部32から天板部22に向かって延びる筒状の部材であり、筒状の包囲壁部81と包囲壁部81の一端部を閉塞する蓋壁部82とを含む。包囲壁部81の他端部に第2点火装置7が嵌入または圧入されることで、第2内筒部材8が底板部32に取り付けられている。
図1に示すように、第2内筒部材8の内部には、第2点火装置7と第2点火装置7の作動により燃焼する第2ガス発生剤120とが配置される第2燃焼室20が形成されている。また、第2内筒部材8の包囲壁部81には、その内部空間(即ち、第2燃焼室20)と外部空間(即ち、第1燃焼室10)とを連通する連通孔h2が複数形成されている。連通孔h2は、第2点火装置7が作動する前の状態では、シールテープ(図示なし)により閉塞されている。
【0028】
[フィルタ]
図1に示すように、フィルタ9は、筒状に形成されており、第1ガス発生剤110を取り囲み、且つ、その径方向においてガス排出孔12がその外側に位置するように、第1燃焼室10に配置されている。つまり、フィルタ9は、第1ガス発生剤110を取り囲むように第1ガス発生剤110とガス排出孔12との間に配置されている。フィルタ9は、軸方向の両端面のうち、一端面(上端面)が上部シェル2の天板部22に当接して支持され
、他端面(下端面)が下部シェル3の底板部32に当接して支持されている。このフィルタ9は、第1ガス発生剤110や第2ガス発生剤120の燃焼ガスがフィルタ9を通過する際に、燃焼ガスの熱を奪い取ることで当該燃焼ガスを冷却する。また、フィルタ9は、燃焼ガスの冷却機能に加え、燃焼ガスに含まれる燃焼残渣を捕集することで当該燃焼ガスを濾過する機能を有する。
【0029】
[伝火薬]
伝火薬6としては、公知の黒色火薬の他、着火性が良く、第1ガス発生剤110よりも燃焼温度の高いガス発生剤を使用することができる。伝火薬6の燃焼温度は、1700~3000℃の範囲に設定することができる。このような伝火薬6としては、例えば、ニトログアニジン(34重量%)、硝酸ストロンチウム(56重量%)を含む、公知のものを用いることができる。また、伝火薬6には、例えば顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状等、種々の形状を採用できる。
【0030】
[ガス発生剤]
第1ガス発生剤110や第2ガス発生剤120には、比較的燃焼温度の低いガス発生剤を使用することができる。第1ガス発生剤110や第2ガス発生剤120の燃焼温度は、1000~1700℃の範囲に設定することができる。このような第1ガス発生剤110や第2ガス発生剤120としては、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物を含む、公知のものを用いることができる。また、第1ガス発生剤110や第2ガス発生剤120には、例えば顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状等、種々の形状を採用できる。
【0031】
[連通孔]
図2は、
図1のA-A断面図である。
図2では、作動前のガス発生器100Aのハウジング中心軸A1及び内筒中心軸A5と直交する断面が図示されている。また、
図2では、便宜上、第1点火装置4、第2点火装置7、接合部23、及び接合部33の図示を省略している。
図2に示すように、包囲壁部51の軸方向視においてハウジング中心軸A1と内筒中心軸A5とを通る仮想直線を仮想中心線CL1とする。
【0032】
図2に示すように、複数の連通孔h1は、包囲壁部51の周方向において偏って配置されている。具体的には、包囲壁部51の周方向において互いに近接する3つの連通孔h1からなる連通孔群が、包囲壁部51の2箇所に形成されている。2つの連通孔群は、夫々、仮想中心線CL1を対称軸とした線対称の位置に形成されている。これにより、第1内筒部材5の包囲壁部51は、その周方向において、複数の連通孔h1がまとまって配置された燃焼生成物排出領域R1a,R1bと、燃焼生成物排出領域R1a,R1bを除く燃焼生成物非排出領域R2a,R2bと、に区分される。つまり、燃焼生成物排出領域R1a,R1bは連通孔が配置された領域であり、燃焼生成物非排出領域R2a,R2bは連通孔h1が配置されていない領域である。燃焼生成物排出領域R1a,R1bは、夫々、仮想中心線CL1を対称軸として線対称に位置している。ここで、
図2に示すように、包囲壁部51の軸方向視において、内筒中心軸A5から燃焼生成物排出領域R1aの周方向における一端部を通って周壁部11に交わる直線を第1仮想直線L1aとし、内筒中心軸A5から燃焼生成物排出領域R1aの周方向における他端部を通って周壁部11に交わる直線を第2仮想直線L2aとする。同様に、包囲壁部51の軸方向視において、内筒中心軸A5から燃焼生成物排出領域R1bの周方向における一端部を通って周壁部11に交わる直線を第1仮想直線L1bとし、内筒中心軸A5から燃焼生成物排出領域R1bの周方向における他端部を通って周壁部11に交わる直線を第2仮想直線L2bとする。つまり、包囲壁部51は、第1仮想直線L1aと第2仮想直線L2aと第1仮想直線L1bと第2仮想直線L2bとによって区分されている。より詳細には、包囲壁部51において、第1仮想直線L1aと第2仮想直線L2aとの間の領域が燃焼生成物排出領域R1aであり
、第1仮想直線L1bと第2仮想直線L2bとの間の領域が燃焼生成物排出領域R1bであり、第1仮想直線L1aと第1仮想直線L1bとの間の領域が燃焼生成物非排出領域R2aであり、第2仮想直線L2aと第2仮想直線L2bとの間の領域が燃焼生成物非排出領域R2bである。
【0033】
[ガス排出孔]
図2に示すように、ハウジング1の周壁部11は、第1仮想直線L1aと第2仮想直線L2aと第1仮想直線L1bと第2仮想直線L2bとによって、周壁部11の周方向において、連通孔対応領域R10a,R10bと連通孔非対応領域R20a,R20bとに区分される。包囲壁部51の軸方向視において、第1仮想直線L1aと第2仮想直線L2aとによって連通孔対応領域R10aの範囲が画定され、第1仮想直線L1bと第2仮想直線L2bとによって連通孔対応領域R10bの範囲が画定され、第1仮想直線L1aと第1仮想直線L1bとによって連通孔非対応領域R20aの範囲が画定され、第2仮想直線L2aと第2仮想直線L2bとによって連通孔非対応領域R20bの範囲が画定されている。そのため、
図2に示すように、包囲壁部51の中心軸である内筒中心軸A5を中心とする放射方向において、燃焼生成物排出領域R1aと連通孔対応領域R10aとが対向しており、燃焼生成物排出領域R1bと連通孔対応領域R10bとが対向しており、燃焼生成物非排出領域R2aと連通孔非対応領域R20aとが対向しており、燃焼生成物非排出領域R2bと連通孔非対応領域R20bとが対向している。つまり、ガス発生器100では、燃焼生成物排出領域R1aに連通孔対応領域R10aが対応付けられ、燃焼生成物排出領域R1bに連通孔対応領域R10bが対応付けられ、燃焼生成物非排出領域R2aに連通孔非対応領域R20aが対応付けられ、燃焼生成物非排出領域R2bに連通孔非対応領域R20bが対応付けられている。
【0034】
また、
図2に示すように、ハウジング1の周壁部11に形成された複数のガス排出孔12には、開口圧力の異なる第1ガス排出孔12aと第2ガス排出孔12bとが含まれている。そして、第2ガス排出孔12bの方が第1ガス排出孔12aよりも開口圧力が高くなるように構成されている。つまり、第2ガス排出孔12bの方が第1ガス排出孔12aよりも開口し難くなるように構成されている。具体的には、第2ガス排出孔12bの一つあたりの断面積(孔径)を第1ガス排出孔12aの一つあたりの断面積(孔径)よりも小さくしている。第1ガス発生剤110や第2ガス発生剤120の燃焼時には、燃焼ガスの圧力によりシールテープ13に荷重が作用することになる。このとき、第2ガス排出孔12bの1つあたりの断面積が第1ガス排出孔12aの1つあたりの断面積よりも小さいため、シールテープ13において、第2ガス排出孔12bを閉塞する部分に作用する荷重の方が第1ガス排出孔12aを閉塞する部分に作用する荷重よりも小さくなる。これにより、第2ガス排出孔12bの方が第1ガス排出孔12aよりも開口圧力が高くなり、開口し難くなっている。
【0035】
そして、
図2に示すように、連通孔対応領域R10a,R10bと連通孔非対応領域R20a,R20bとのうち、連通孔対応領域R10a,R10bのみに第1ガス排出孔12aが形成され、連通孔非対応領域R20a,R20bのみに第2ガス排出孔12bが形成されている。つまり、連通孔h1が配置された燃焼生成物排出領域R1a又は燃焼生成物排出領域R1bに対向する連通孔対応領域R10aや連通孔対応領域R10bには、開口圧力の高い第2ガス排出孔12bが形成されておらず、開口圧力の低い第1ガス排出孔12aのみが形成されている。
【0036】
[動作]
以下、実施形態1に係るガス発生器100の基本的な動作について、
図1を参照しながら説明する。本例では、第2点火装置7が第1点火装置4に遅れて(つまり、第1点火装置4が作動した後に)作動する場合について説明する。
【0037】
センサ(図示せず)が衝撃を感知すると、第1点火装置4の第1点火器41に着火電流が供給され、第1点火器41が作動する。すると、第1点火器41に収容された点火薬が燃焼し、その燃焼生成物である火炎や高温のガス等が点火手段室53内に放出される。これにより、点火手段室53に収容された伝火薬6が燃焼し、点火手段室53内に燃焼ガスが発生する。包囲壁部51の連通孔h1を閉塞していたシールテープが伝火薬6の燃焼ガスの圧力によって破られると、該燃焼ガスが連通孔h1を介して点火手段室53の外部へ排出される。すると、包囲壁部51の周囲に配置されている第1ガス発生剤110に伝火薬6の燃焼ガスが接触し、第1ガス発生剤110が着火される。第1ガス発生剤110が燃焼することで、第1燃焼室10に高温・高圧の燃焼ガスが生成される。この燃焼ガスがフィルタ9を通過することで、燃焼ガスが冷却され、燃焼残渣が捕集される。フィルタ9によって冷却及び濾過された第1ガス発生剤110の燃焼ガスは、ガス排出孔12を閉塞していたシールテープ13を破ってガス排出孔12からハウジング1の外部へと放出される。
【0038】
次に、第2点火装置7の第2点火器71が作動すると、第2燃焼室20に収容された第2ガス発生剤120が燃焼し、第2燃焼室20内に燃焼ガスが発生する。包囲壁部81の連通孔h2を閉塞していたシールテープが第2ガス発生剤120の燃焼ガスの圧力によって破られると、該燃焼ガスが連通孔h2を介して第1燃焼室10へ排出される。第2ガス発生剤120の燃焼ガスは、フィルタ9によって冷却及び濾過された後に、ガス排出孔12からハウジング1の外部へと放出される。
【0039】
第1ガス発生剤110及び第2ガス発生剤120の燃焼ガスは、ハウジング1の外部へ放出された後に、エアバッグ(図示せず)内に流入する。エアバッグが膨張することで、乗員と堅い構造物の間にクッションが形成され、乗員が衝撃から保護される。
【0040】
[連通孔とガス排出孔との対応について]
一般に、ガス発生剤の燃焼性能は、ガス発生剤の周囲が高温または高圧であるほど向上する傾向がある。つまり、低温・低圧の環境では、ガス発生剤の燃焼が不活発なものとなる。従って、高温下での作動時(以下、高温作動時)と低温下での作動時(以下、低温作動時)とでのガス発生器の出力性能の差を小さくし、出力性能の安定化を実現するためには、低温作動時におけるハウジングの内部圧力を高め、ガス発生剤の燃焼性能を高める必要がある。ガス発生器100では、上述したように連通孔h1、第1ガス排出孔12a、及び第2ガス排出孔12bを配置することで、低温作動時におけるハウジングの内部圧力を高め、低温作動時と高温作動時とにおけるガス発生剤の燃焼性能の差を小さくすることができる。以下、詳細に説明する。
【0041】
図3は、低温作動時におけるガス発生器100の状態を示す横断面図である。
図4は、高温作動時におけるガス発生器100の状態を示す横断面図である。
図3及び
図4では、
図2に対応する断面が図示されている。
図3及び
図4に示すように、ガス発生器100は、低温作動時には複数のガス排出孔12のうち開口圧力の低い第1ガス排出孔12aのみが開口し、高温作動時には第1ガス排出孔12aと共に開口圧力の高い第2ガス排出孔12bも開口するように構成されている。ガス発生器100では、低温作動時には第1ガス排出孔12aのみを開口させることで、第1ガス排出孔12aから燃焼ガスを排出しつつも、同じ温度で全てのガス排出孔12が開口する場合と比較して、ハウジング1の内部(第1燃焼室10)に燃焼ガスが籠り易くなっている。これにより、低温作動時におけるハウジング1の内部圧力を高め、ガス発生剤の燃焼性能を高めている。一方で、ガス発生剤の燃焼性能が始めから高いことが期待される高温作動時には、第1ガス排出孔12aと第2ガス排出孔12bの両方を開口させて燃焼ガスを排出することで、ハウジング1の内部圧力が過度に高まることを抑制している。このように、ガス発生器100では、低温作動
時におけるガス発生剤の燃焼性能を高めることで、高温作動時と低温作動時とでのガス発生器の出力性能の差を小さくし、出力性能の安定化を実現している。
【0042】
ここで、
図3及び
図4の符号F1で示す矢印は、連通孔h1から排出される燃焼生成物の進行方向を表す。
図3及び
図4で示すように、第1点火装置4の作動により点火手段室53から連通孔h1を介して排出される燃焼生成物は、包囲壁部51の中心軸である内筒中心軸A5を中心として放射状に排出される。つまり、燃焼生成物は、内筒中心軸A5を中心とする放射方向において燃焼生成物排出領域R1a,R1bと対向する領域である連通孔対応領域R10a,R10bに向かって排出される。そのため、第1燃焼室10に配置された第1ガス発生剤110は、燃焼生成物排出領域R1a,R1b側に配置されたものから連通孔対応領域R10a,R10b側へ順番に着火される。これにより、第1ガス発生剤110の燃焼ガスの大部分は、燃焼生成物排出領域R1a,R1b側から放射状に流れて連通孔対応領域R10a,R10bに衝突することとなる。
【0043】
仮に、連通孔対応領域R10aや連通孔対応領域R10bに第2ガス排出孔12bが形成されていると、低温作動時であっても、連通孔対応領域R10aや連通孔対応領域R10bに衝突する燃焼ガスの圧力によって第2ガス排出孔12bが開口する可能性がある。そうなると、第1ガス排出孔12a以外に第2ガス排出孔12bが余分に開口することで、ハウジングの内部圧力が想定ほど高くならない可能性がある。逆に、連通孔非対応領域R20aや連通孔非対応領域R20bに第1ガス排出孔12aが形成されていると、低温作動時に第1ガス排出孔12aが開口しない可能性がある。そうなると、開口する第1ガス排出孔12aの数が不十分となることでハウジングの内部圧力が過度に高くなる可能性がある。何れの場合においても、ガス発生剤の燃焼性能を期待通りに得られず、出力性能の安定化が困難となる。
【0044】
これに対して、ガス発生器100では、周壁部11のうち、燃焼生成物排出領域R1a,R1bと対向する連通孔対応領域R10a,R10bのみに第1ガス排出孔12aが形成され、燃焼生成物排出領域R1a,R1bと対向しない連通孔非対応領域R20a,R20bのみに第2ガス排出孔12bが形成されている。そのため、低温作動時において、第1ガス排出孔12aがより開口し易くなり、第2ガス排出孔12bがより開口し難くなっている。従って、低温作動時において、第1ガス排出孔12aと第2ガス排出孔12bとのうち、より確実に第1ガス排出孔12aのみを開口させることができる。これにより、低温作動時におけるハウジングの内部圧力及びガス発生剤の燃焼性能を確実に高めることできる。その結果、低温作動時と高温作動時とにおけるガス発生器100の出力性能の差を小さくし、出力性能を安定化することができる。
【0045】
[作用・効果]
以上のように、ガス発生器100では、複数のガス排出孔12が第1ガス排出孔12aと第1ガス排出孔12aよりも開口圧力の高い第2ガス排出孔12bとを含み、第1内筒部材5の包囲壁部51は、包囲壁部51の周方向において、複数の連通孔h1がまとまって配置された燃焼生成物排出領域R1a,R1bと、燃焼生成物排出領域R1a,R1bを除く燃焼生成物非排出領域R2a,R2bと、に区分されている。そして、ハウジング1の周壁部11は、周壁部11の周方向において、燃焼生成物排出領域R1a,R1bに対応付けられた連通孔対応領域R10a,R10bと、燃焼生成物非排出領域R2a,R2bに対応付けられた連通孔非対応領域R20a,R20bと、に区分され、連通孔対応領域R10a,R10bのみに第1ガス排出孔12aが形成され、連通孔非対応領域R20a,R20bのみに第2ガス排出孔12bが形成されている。このようなガス発生器100によると、連通孔対応領域R10a,R10bのみに第1ガス排出孔12aを形成することで第1ガス排出孔12aをより開口し易くし、連通孔非対応領域R20a,R20bのみに第2ガス排出孔12bを形成することで第2ガス排出孔12bをより開口し難く
することができる。これにより、低温作動時において、より確実に第1ガス排出孔12aのみを開口させることが可能となる。その結果、ガス発生器100によれば、上述のように、低温作動時と高温作動時とにおける出力性能の差を小さくし、安定した出力性能を得ることができる。
【0046】
また、ガス発生器100では、周壁部11において、第1ガス排出孔12aと第2ガス排出孔12bとを別々の領域(連通孔対応領域R10a,R10bと連通孔非対応領域R20a,R20b)に分けて配置している。そのため、第2ガス排出孔12bは第1ガス排出孔12aへ流れる燃焼ガスの影響を受け難くなる。これにより、低温作動時において第2ガス排出孔12bをより開口し難くすることができる。なお、周壁部11の周方向において、連通孔対応領域R10a,R10b内で隣接する第1ガス排出孔12a間の距離や連通孔非対応領域R20a,R20b内で隣接する第2ガス排出孔12b間の距離よりも、隣接する第1ガス排出孔12aと第2ガス排出孔12bの間の距離を大きく設定してもよい。
【0047】
また、ガス発生器100では、連通孔対応領域R10a,R10bは、周壁部11のうち、内筒中心軸A5を中心とする放射方向において燃焼生成物排出領域R1a,R1bと対向する領域として形成されている。これにより、連通孔対応領域R10a,R10bが燃焼生成物排出領域R1a,R1bに対応付けられたものとなる。
【0048】
更に、ガス発生器100では、包囲壁部51の軸方向視において、第1仮想直線L1a,L1bと第2仮想直線L2a,L2bとによって連通孔対応領域R10a,R10bの範囲が画定されている。これにより、連通孔対応領域R10a,R10bは、内筒中心軸A5を中心とする放射方向において燃焼生成物排出領域R1a,R1bと対向する領域として画定される。
【0049】
更に、ガス発生器100では、包囲壁部51の中心軸である内筒中心軸A5と周壁部11の中心軸であるハウジング中心軸A1とが離間している。つまり、第1内筒部材5がハウジング1の中央に対して偏心配置されている。また、包囲壁部51は、その軸方向視において仮想中心線CL1を対称軸として互いに線対称に位置する燃焼生成物排出領域R1a,R1bを含んでいる。また、周壁部11は、燃焼生成物排出領域R1aに対応付けられた連通孔対応領域R10aと、燃焼生成物排出領域R1bに対応付けられた連通孔対応領域R10bと、を含んでいる。更に、燃焼生成物排出領域R1a,R1bには、仮想中心線CL1を対称軸として線対称の配置となるように連通孔h1が形成されており、連通孔対応領域R10a,R10bには、仮想中心線CL1を対称軸として線対称の配置となるように第1ガス排出孔12aが形成されている。つまり、ガス発生器100では、連通孔h1及び第1ガス排出孔12aの配置が仮想中心線CL1を対称軸として線対称となっている。これによると、連通孔対応領域R10aと連通孔対応領域R10bとが線対称に位置するため、低温作動時に第1ガス排出孔12aのみが開口した場合、連通孔対応領域R10aの第1ガス排出孔12aから排出される燃焼ガスの推力と連通孔対応領域R10bの第1ガス排出孔12aから排出される燃焼ガスの推力とが相殺されることとなる。その結果、作動時におけるガス発生器100のバランスが安定したものとなる。
【0050】
更に、ガス発生器100では、連通孔対応領域R10aに形成された第1ガス排出孔12aの開口圧力と、連通孔対応領域R10aと線対称な連通孔対応領域R10bに形成された第1ガス排出孔12aの開口圧力とが互いに等しくなっている。このように互いに線対称に位置する第1ガス排出孔12aの開口圧力を同等とすることで、低温作動時に開口する第1ガス排出孔12aの位置が対称なものとなる。その結果、作動時におけるガス発生器100のバランスがより安定したものとなる。これに加え、ガス発生器100では、連通孔非対応領域R20aとR20bに形成された第2ガス排出孔12bも、仮想中心線
CL1に対して対称配置されているため、作動時におけるガス発生器100のバランスがより一層安定する。
【0051】
なお、燃焼生成物排出領域R1aが本開示に係る「第1燃焼生成物排出領域」に相当し、燃焼生成物排出領域R1bが本開示に係る「第2燃焼生成物排出領域」に相当し、連通孔対応領域R10aが本開示に係る「第1連通孔対応領域」に相当し、連通孔対応領域R10bが本開示に係る「第2連通孔対応領域」に相当する。
【0052】
また、
図2~
図4に示すように、第2ガス発生剤120を内部に形成する第2内筒部材8は、内筒中心軸A5を中心とする放射方向において燃焼生成物排出領域R1aと連通孔対応領域R10aとの間や燃焼生成物排出領域R1bと連通孔対応領域R10bとの間に位置しないように配置されている。つまり、第2内筒部材8は、第1ガス発生剤110の燃焼ガスの燃焼生成物排出領域R1a,R1b側から連通孔対応領域R10a,R10b側に向かう流れを阻害しない位置に配置されている。これにより、連通孔対応領域R10a,R10bに形成された第1ガス排出孔12aをより確実に開口させることができる。
【0053】
なお、本例では、第1ガス排出孔12aと第2ガス排出孔12bの1つあたりの断面積(孔径)を異ならせることで第1ガス排出孔12aと第2ガス排出孔12bの開口圧力を異ならせたが、本開示はこれに限定されない。例えば、ガス排出孔を閉塞する閉塞部材の強度を部分的に調整し、第1ガス排出孔を閉塞する部位の強度よりも第2ガス排出孔を閉塞する部位の強度を高くすることで、第2ガス排出孔の開口圧力を第1ガス排出孔の開口圧力よりも高くしてもよい。また、各ガス排出孔の孔径とそれを閉塞する閉塞部材の強度の両方で開口圧力を調整してもよい。なお、閉塞部材の強度とは、例えば、閉塞部材の材質や重ね貼りを含む厚みの調整などである。
【0054】
また、本例では、燃焼生成物排出領域R1a,R1bの夫々に複数(3つ)の連通孔h1が配置されているが、本開示に係る燃焼生成物排出領域に配置される連通孔の数は特に限定されない。燃焼生成物排出領域には、連通孔が複数ではなく一つのみ配置されてもよい。更に、本開示において包囲壁部における連通孔の数や配置は、
図2等で示したものに限定されない。上述の例において、燃焼生成物排出領域R1aや燃焼生成物排出領域R1b以外の箇所に連通孔h1が形成されてもよい。また、包囲壁部に形成される連通孔は、複数に限らず、一つのみであってもよい。
【0055】
また、本例では、点火手段室53に伝火薬6を収容したが、本開示のガス発生器は、伝火薬6を用いずに、第1点火器41の点火薬の種類や量を増やして第1ガス発生剤を着火する構成であってもよい。つまり、本開示に係るガス発生器は、第1点火装置の作動により点火手段室から連通孔を介して燃焼生成物を排出する構成であればよく、本開示において連通孔から排出されて第1ガス発生剤を着火する「燃焼生成物」は、伝火薬の燃焼生成物に限らず、点火薬の燃焼生成物であってもよい。また、伝火薬が第1点火器41と一体になったものを第1点火装置として使用してもよい。
【0056】
[実施形態1の変形例]
以下、実施形態1の変形例に係るガス発生器について説明する。変形例の説明では、
図1~
図4で説明したガス発生器100との相違点を中心に説明し、ガス発生器100と同様の点については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0057】
[実施形態1の変形例1]
図5は、実施形態1の変形例1に係るガス発生器100Aの横断面図である。
図5では、ガス発生器100Aの作動前の状態が示されている。
図6は、実施形態1の変形例1に係る第1内筒部材5Aの斜視図である。
図5及び
図6に示すように、ガス発生器100A
では、燃焼生成物排出領域R1a,R1bの夫々に連通孔h1Aが一つずつ配置されている。そして、連通孔h1Aは、燃焼生成物排出領域R1a又は燃焼生成物排出領域R1bの夫々に亘って包囲壁部51の周方向に延在する単一の孔として形成されている。
【0058】
図5に示すガス発生器100Aによっても、上述したガス発生器100と同様に、出力性能の安定化を実現することができる。更に、ガス発生器100Aによると、連通孔h1Aが燃焼生成物排出領域R1a,R1bの全域に形成されているため、点火手段室53から連通孔h1Aを介して放射状に排出される燃焼生成物は、燃焼生成物排出領域R1a,R1bと対向する連通孔対応領域R10a,R10bの全域に向かって万遍なく排出されることとなる。これにより、第1ガス発生剤110の燃焼ガスを連通孔対応領域R10a,R10bに対して均一に衝突させることができ、連通孔対応領域R10a,R10bに形成された第1ガス排出孔12aをより確実に開口させることができる。
【0059】
[実施形態1の変形例2]
図7は、実施形態1の変形例2に係るガス発生器100Bの横断面図である。
図7では、ガス発生器100Bの作動前の状態が示されている。
図7に示すように、ガス発生器100Bは、燃焼生成物排出領域R1bとそれに対応する連通孔対応領域R10bとを有しない点でガス発生器100と相違する。つまり、ガス発生器100Bは、仮想中心線CL1を対称軸としたときに、連通孔h1やガス排出孔12が非対称に配置されている。ガス発生器100Bに例示されるように、本開示に係るガス発生器は、仮想中心線を対称軸として互いに線対称に位置するように連通孔やガス排出孔が配置されていなくともよい。
図7に示すガス発生器100Aによっても、上述したガス発生器100と同様に、出力性能の安定化を実現することができる。
【0060】
<実施形態2>
以下、実施形態2に係るガス発生器について、ガス発生器100との相違点を中心に説明し、ガス発生器100と同様の点については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
図8は、実施形態2に係るガス発生器200の縦断面図である。
図9は、
図8のB-B断面図である。
図8及び
図9では、ガス発生器200の作動前の状態が示されている。
【0061】
図8及び
図9に示すように実施形態2に係るガス発生器200は、第2点火装置7、第2内筒部材8、第2ガス発生剤120、及び第2燃焼室20を備えない点で実施形態1に係るガス発生器100と相違する。つまり、ガス発生器200は、点火装置を1つのみを備え、その位置がハウジング中心軸A1から偏った、いわゆるシングルタイプのガス発生器として構成されている。
図8及び
図9に示すガス発生器200によっても、実施形態1に係るガス発生器100と同様に、出力性能の安定化を実現することができる。
【0062】
[実施形態2の変形例1]
図10は、実施形態2の変形例1に係るガス発生器200Aの横断面図である。
図10では、ガス発生器200Aの作動前の状態が示されている。
図10に示すように、ガス発生器200Aは、内筒中心軸A5とハウジング中心軸A1とが一致している点、つまり、第1内筒部材5がハウジング1の中央に配置され、第2燃焼室に付随する部材が存在しないシングルタイプであるという点でガス発生器200と相違する。
図10に示すガス発生器200Aによっても、実施形態1に係るガス発生器100と同様に、出力性能の安定化を実現することができる。
【0063】
更に、
図10に示すように、ガス発生器200Aは、軸方向視において点対称に形成されている。具体的には、燃焼生成物排出領域R1aと燃焼生成物排出領域R1bとがハウジング中心軸A1(内筒中心軸A5)を対称中心として互いに点対称に位置しており、連
通孔対応領域R10aと連通孔対応領域R10bとがハウジング中心軸A1を対称中心として互いに点対称に位置している。更に、燃焼生成物排出領域R1a,R1bには、ハウジング中心軸A1を対称中心として点対称の配置となるように連通孔h1が形成されており、連通孔対応領域R10a,R10bには、ハウジング中心軸A1を対称中心として点対称の配置となるように第1ガス排出孔12aが形成されている。これによると、連通孔対応領域R10aと連通孔対応領域R10bとが点対称に位置するため、低温作動時に第1ガス排出孔12aのみが開口した場合に連通孔対応領域R10aの第1ガス排出孔12aから排出される燃焼ガスの推力と連通孔対応領域R10bの第1ガス排出孔12aから排出される燃焼ガスの推力とが相殺することとなる。その結果、作動時におけるガス発生器100のバランスが安定したものとなる。
【0064】
<その他>
以上、本開示の好適な実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0065】
100,200 ガス発生器
1 ハウジング
11 周壁部
12 ガス排出孔
12a 第1ガス排出孔
12b 第1ガス排出孔
4 第1点火装置
5 第1内筒部材
51 包囲壁部
53 点火手段室
6 伝火薬
7 第2点火装置
8 第2内筒部材
10 第1燃焼室
20 第2燃焼室
110 第1ガス発生剤
120 第2ガス発生剤
h1 連通孔
A1 ハウジング中心軸
A5 内筒中心軸
R1a,R1b 燃焼生成物排出領域
R2a,R2b 燃焼生成物非排出領域
R10a,R10b 連通孔対応領域
R20a,R20b 連通孔非対応領域