(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】気密端子
(51)【国際特許分類】
H01R 9/16 20060101AFI20250513BHJP
【FI】
H01R9/16 101
(21)【出願番号】P 2023551810
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2022036297
(87)【国際公開番号】W WO2023054529
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2021159884
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 遥
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】実公昭41-022350(JP,Y1)
【文献】国際公開第2013/047740(WO,A1)
【文献】特開平11-016620(JP,A)
【文献】特開2013-193935(JP,A)
【文献】特開2019-149304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/20
H01R 9/00
H01R 9/15-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の金属スリーブと、
該金属スリーブの内周面に固定され、前記金属スリーブの軸方向に沿って貫通孔を有するセラミック基板と、
前記貫通孔に挿入され、前記セラミック基板にろう材によって接合された柱状の導通部材と、
を含み、
前記貫通孔は、前記軸方向の両端からそれぞれ逆錐台状に開く第1開口部および第2開口部を有し、
前記貫通孔の内周面全面にわたって、メタライズ層が被着され、
環状部材が、前記セラミック基板の少なくともいずれか一方の表面側で前記導通部材を囲うように配置され、前記環状部材全体は前記ろう材で被覆さ
れ、
前記環状部材の上面の上方から前記環状部材の外周面よりも外側に向かって、前記ろう材はフィレットを形成し、
前記フィレットは、少なくとも前記セラミック基板に近い側に、凸面を備え、該凸面の平均曲率半径は60μm以上190μm以下である、
気密端子。
【請求項2】
前記第1開口部および前記第2開口部は、前記貫通孔の軸方向に垂直でセラミック基板の厚みの中心を通る仮想面に対して対称である、請求項
1に記載の気密端子。
【請求項3】
前記メタライズ層は、前記軸方向の両端部よりも前記軸方向の中央部の方が厚い、請求項
1に記載の気密端子。
【請求項4】
前記貫通孔と前記導通部材との間に位置している前記ろう材が、前記セラミック基板の厚み方向に長い空隙部を有する、請求項1に記載の気密端子。
【請求項5】
前記空隙部の少なくとも一端は、凸状曲面を有する、請求項
4に記載の気密端子。
【請求項6】
前記メタライズ層は、前記第1開口部および前記第2開口部の少なくとも一方の周縁部にまで延出している、請求項
1に記載の気密端子。
【請求項7】
前記第1開口部の内部に、前記環状部材の一部が位置している、請求項
1に記載の気密端子。
【請求項8】
前記セラミック基板の表面に、前記導通部材を囲むように、メタライズ層と、該メタライズ層を被覆するメッキ層とを備え、
該メッキ層の表面の粗さ曲線における25%の負荷長さ率の切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc1の平均値は、前記セラミック基板の表面の露出している部分の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc2の平均値よりも大きい、請求項
1に記載の気密端子。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の気密端子を備える、真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気密端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプでは、真空ポンプの外部から真空空間である内部に電気信号を供給するため、気密端子が使用されている。このような気密端子は、一般的に、筒状の金属スリーブと、金属スリーブの内周面にろう付けされた軸方向に貫通孔を有する円板状の絶縁基体と、貫通孔に固定されたワッシャー(環状部材)を有するリードピン(導通部材)とを含む。
【0003】
このような気密端子として、例えば特許文献1には、絶縁基体の貫通孔周縁部および貫通孔の開口部から200μm~5mmの深さまで貫通孔の内周面に金属層(メタライズ層)が形成された気密端子が記載されている。この金属層に、ワッシャーおよびリードピンがろう付けによって固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る気密端子は、筒状の金属スリーブと、金属スリーブの内周面に固定され、金属スリーブの軸方向に沿って貫通孔を有するセラミック基板と、貫通孔に挿入され、セラミック基板にろう材によって接合された柱状の導通部材とを含む。貫通孔は、軸方向の両端からそれぞれ逆錐台状に開く第1開口部および第2開口部を有する。セラミック基板の貫通孔の内周面全面にわたって、メタライズ層が被着されている。本開示に係る真空ポンプは、この気密端子を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係る気密端子を示す平面図である。
【
図2】
図1に示すX-X線で切断した際の断面を説明するための説明図である。
【
図3】
図2に示す領域Yを説明するための拡大説明図である。
【
図4】
図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
【
図5】
図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
【
図6】
図2に示す領域Yの他の実施形態を説明するための拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
上記のように、厚みが5mmを超えるような比較的厚い絶縁基体を使用する場合、絶縁基体の貫通孔の内周面に形成された金属層の端部は、貫通孔内に位置することになる。金属層の端部が貫通孔内に位置していると、不可抗力がかかった場合に、金属部の先端からセラミックで形成された絶縁基体に向かってクラックが発生するおそれがある。
【0008】
本開示の課題は、外部から不可抗力がかかっても、メタライズ層の先端からセラミック基板に向かうクラックの発生を低減することができ、長期間にわたって気密性を維持することができる気密端子を提供することである。
【0009】
上記のように、本開示に係る気密端子において、セラミック基板の貫通孔において、導通部材に対向する内周面全面にわたって、メタライズ層が被着されている。このような構造を有することによって、メタライズ層の端部が貫通孔内に位置しなくなる。したがって、本開示に係る気密端子によれば、外部から不可抗力がかかっても、メタライズ層の先端からセラミック基板に向かうクラックの発生を低減することができ、長期間にわたって気密性を維持することができる。
【0010】
本開示の一実施形態に係る気密端子を、
図1~3に基づいて説明する。
図1に示す一実施形態に係る気密端子1は、金属スリーブ2、セラミック基板3および導通部材4を含む。
図1は、一実施形態に係る気密端子1を示す平面図である。
【0011】
金属スリーブ2は筒状を有しており、筒状であれば、円筒状、角筒状(例えば、三角筒状、四角筒状、五角筒状、六角筒状など)など形状は限定されない。金属スリーブ2の大きさは、気密端子1を備える装置などに応じて適宜設定すればよい。金属スリーブ2の長さは、例えば、15mm以上30mm以下であり、外径は20mm以上30mm以下である。角筒状の場合の外径は、最も長い外縁の長さを意味する。金属スリーブ2は、例えば、炭素鋼、低合金鋼、工具鋼、ステンレス鋼、鉄、銅、銅合金、チタン、チタン合金、モリブデン、モリブデン合金、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Cr-Ti-Al合金、Fe-Cr-Al合金、Fe-Co-Cr合金Fe-Co系合金、Fe-Co-C系合金、Fe-Ni系合金またはFe-Ni-Co系合金などの金属で形成されている。
【0012】
炭素鋼とは、Feと0.02~2.14質量%のCとの合金であり、C以外にSi、Mn、PおよびSが含まれる。このような炭素鋼としては、例えば、JIS G 4051:2016で規定されるS10C、S12C、S15C、S17C、S20C、S22C、S25C、S28C、S30C、S33C、S35C、S38C、S40C、S43C、S45C、S48C、S50C、S53C、S55C、S58C、S60C、S65C、S70C、S75Cなどが挙げられる。
【0013】
低合金鋼とは、Al、B、Co、Cr、Cu、La、Mo、Nb、Ni、Pb、Se、Te、Ti、V、WおよびZrの少なくともいずれかを含み、これらの元素の含有量の合計が5質量%以下の炭素鋼をいう。
【0014】
工具鋼は、JIS G 4401:2009で規定される炭素工具鋼材およびJIS G 4404:2006で規定される合金工具鋼材をいう。
【0015】
ステンレス鋼とは、Feと10.5質量%以上のCrとの合金であり、Cの含有量が1.2%以下のものをいい、これ以外の成分は、例えば、ISO 15510:2014で規定される。ステンレス鋼は、例えば、SUS304、SUS304L、SUS304ULC、SUS310ULCまたはSUSXM15J1である。
【0016】
セラミック基板3は、金属スリーブ2内で、後述する導通部材4を固定するための部材である。セラミック基板3は、
図1および2に示すように、セラミック基板3の外周面と金属スリーブ2の内壁面とで固定されている。すなわち、セラミック基板3は、金属スリーブ2の内径に応じて形成される。セラミック基板3の厚みは、導通部材4を固定し得る厚みであればよく、例えば、4mm以上10mm以下である。
図2は、
図1に示すX-X線で切断した際の断面を説明するための説明図である。
【0017】
セラミック基板3は、セラミックスで形成されていれば、限定されない。このようなセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化珪素または窒化珪素を主成分とするセラミックスなどが挙げられる。
【0018】
本明細書において「主成分」とは、セラミックスを構成する成分の合計100質量%における80質量%以上を占める成分をいう。セラミックスに含まれる各成分の同定は、CuKα線を用いたX線回折装置で行い、各成分の含有量は、例えばICP(InductivelyCoupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めればよい。
【0019】
セラミック基板3は、金属スリーブ2の軸方向に沿って貫通孔31を有する。貫通孔31は、導通部材4を挿入するための貫通孔であり、導通部材4の外径に応じて、貫通孔31の径は適宜設定される。貫通孔31は、セラミック基板3に少なくとも1つ形成されていればよく、挿入される導通部材4の数に応じて、適宜設定される。
【0020】
図2に示すように、セラミック基板3の表面に環状部材5が位置している。環状部材5は、ワッシャーに相当し、例えば、炭素鋼、低合金鋼、工具鋼、ステンレス鋼、鉄、銅、銅合金、チタン、チタン合金、モリブデン、モリブデン合金、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Cr-Ti-Al合金、Fe-Cr-Al合金、Fe-Co-Cr合金Fe-Co系合金、Fe-Co-C系合金、Fe-Ni系合金またはFe-Ni-Co系合金などの金属で形成されている。炭素鋼、低合金鋼、工具鋼およびステンレス鋼の定義は、上述した通りである。
【0021】
環状部材5は、セラミック基板3の幅および厚みよりも小さく、導通部材4を挿入し得る大きさであれば限定されない。環状部材5の大きさは、例えば、環状部材5の外径は、導通部材4の外径の1.2倍以上2倍以下程度であり、特に、1.4倍以上1.8倍以下であるとよい。厚みは、0.1mm以上0.5mm以下程度である。
【0022】
環状部材5は、必要に応じて使用される部材であり、セラミック基板3に形成された貫通孔31と同軸上に位置する第2貫通孔を有する。第2貫通孔は、導通部材4を挿入するための貫通孔であり、導通部材4の外径に応じて、第2貫通孔の径は適宜設定される。環状部材5は、
図2に示すように、セラミック基板3の一方の表面に位置していてもよく、両表面に位置していてもよい。
【0023】
導通部材4はリードピンに相当し、円柱状、角柱状(例えば、三角柱状、四角柱状、五角柱状、六角柱状など)など柱状を有していれば、形状は限定されない。導通部材4の長さおよび外径は、例えば、金属スリーブ2の大きさに応じて適宜設定される。導通部材4は、例えば、銅、例えば、無酸素銅(例えば、JIS H 3100:2012に定める合金番号がC1020あるいはJIS H 3510:2012に定める合金番号がC1011など)などの金属で形成されている。導通部材4は、少なくとも1つ含まれていればよく、気密端子1の用途などに応じて、適宜設定すればよい。
【0024】
導通部材4は、セラミック基板3に形成された貫通孔31および環状部材5に形成された第2貫通孔に挿入され、セラミック基板3に固定されている。具体的には、セラミック基板3の表面において、環状部材5を被覆するように、ろう材6を用いてろう付けされている。ろう材6としては、例えば、BAg-8、BAg-8A、BAg-8B、BAg-9などが挙げられる。
【0025】
気密端子1において、セラミック基板3に形成された貫通孔31は、
図3に示すように、内周面全面にわたって、メタライズ層32が被着されている。
図3は、
図2に示す領域Yを説明するための拡大説明図である。このように、セラミック基板3に形成された貫通孔31の内周面全面にわたって、メタライズ層32が被着されていることによって、外部から不可抗力がかかっても、メタライズ層32の先端からセラミック基板3に向かうクラックの発生が抑制される。その結果、長期間にわたって気密性を維持することができる。
【0026】
メタライズ層32を形成している金属としては限定されず、例えば、Mo-Mn合金、Ag-Cu-Ti合金が挙げられる。メタライズ層32は、例えば、15μm以上45μm以下の厚みを有していてもよい。メタライズ層3がMo-Mn合金で形成される場合、Moの酸化を抑制するために、メタライズ層32をNiメッキ層によって被覆してもよい。Niメッキ層の厚みは、例えば、3μm以上10μm以下である。
【0027】
メタライズ層32は、貫通孔31の軸方向の両端部よりも軸方向の中央部の方が厚くてもよい。例えば、上記の厚み範囲内において、貫通孔31の両端部よりも中央部の方が厚くてもよい。軸方向の両端部とは、第1開口部31aの近傍および第2開口部31bの近傍を意味する。両端部近傍では、セラミック基板3に応力が生じやすい。セラミック基板3に加わる応力をより小さくするため、両端部のメタライズ層32を薄くするのがよい。一方、軸方向の中央部は、加熱および冷却が繰り返されて、ろう材6が上下方向に伸縮しても、その影響を受けにくい。その結果、加熱および冷却が繰り返され、メタライズ層32やセラミック基板3にクラックが生じても、その進展を抑制することができる。
【0028】
メタライズ層32は、
図3に示すように、セラミック基板3の第1開口部31aおよび第2開口部31bの少なくとも一方の周縁部にまで延出していてもよい。外部から不可抗力がかかっても、メタライズ層32の先端からセラミック基板3に向かうクラックの発生が抑制される。その結果、長期間にわたって気密性を維持することができる。
【0029】
貫通孔31は、軸方向の両端から逆錐台状に開く第1開口部31aおよび第2開口部31bを有している。第1開口部31aおよび第2開口部31bが逆錐台状に開く形状を有していると、逆錐台状以外の形状(例えば、逆円錐状、逆角錐状)を有する場合よりも、第1開口部31aおよび第2開口部31b付近におけるセラミック基板3の応力が分散される。その結果、加熱および冷却が繰り返されても、セラミック基板3にクラックなどが発生しにくくなり、長期間にわたって使用することができる。逆錐台状は、導通部材4の形状(第1貫通孔3aの形状)に応じて、逆円錐台状、逆角錐台状などであり得る。
図1に示すように、導通部材4が円柱状の場合、逆錐台状は逆円錐台状となる。
【0030】
セラミック基板3に形成された貫通孔31において、第1開口部31aと第2開口部31bとは、貫通孔31の軸方向に垂直でセラミック基板3の厚みの中心を通る仮想面に対して対称であるのがよい。このような構成によって、セラミック基板3の厚み方向(軸方向)における応力の偏在が抑制される。その結果、セラミック基板3にクラックなどが発生しにくくなり、長期間にわたって使用することができる。
【0031】
セラミック基板3に形成された貫通孔31と導通部材4との間に位置しているろう材6が、セラミック基板3の厚み方向に長い空隙部を有していてもよい。このような空隙部が存在することによって、加熱および冷却が繰り返されても、残留応力が緩和される。空隙部の少なくとも一方の先端側は、凸状曲面を有していてもよい。空隙部の少なくとも一方の先端側が凸状曲面を有していると、凸状曲面側の先端において、応力集中が抑制される。その結果、凸状曲面側の先端からクラックの発生が抑制される。
【0032】
図2および3に示すように、環状部材5は上面から側面にかけて、ろう材6で被覆されていてもよい。環状部材5がろう材で被覆されていると、環状部材5に外部から高圧がかかっても、導通部材4が抜けにくくなる。
【0033】
図3に示すように、環状部材5の上面の上方から環状部材5外周面よりも外側に向かって、ろう材6がフィレットを形成していてもよい。ろう材6がフィレットを形成することによって、セラミック基板3、導通部材4および環状部材5に対するろう材6の接触面積を広げることができる。セラミック基板3上に、延出したメタライズ層32と、メタライズ層32を被覆するメッキ層(図示しない)とを備えている場合には、セラミック基板3に代え、メッキ層に対するろう材6の接触面積を広げることができる。その結果、外側に向かって引っ張る力が加わっても剥離しにくくなり、長期間にわたって使用することができる。
【0034】
本開示の他の実施形態に係る気密端子40を
図4に基づいて説明する。一実施形態と異なる構成について説明する。
図4に示すように、ろう材6の断面の輪郭は、凹面7a,7bを有してもよい。凹面7a,7bを有しているので、凹面7a,7bが無い場合に比べて、ろう材6の体積を減少させることができる。このため、セラミック基板3にかかる応力が減少し、セラミック基板3のクラックの発生を特に抑制することができる。特に、凹面7aを有しているので、セラミック基板3にかかる応力が小さくなる。
【0035】
凹面7aと7bの境界には、凸面8が形成される。凸面8の頂部は、環状部材5の上面と外周面との交線に近接していてもよい。凸面8の頂部が環状部材5の上面と外周面との交線に近接していると、凸面8に近い箇所は、ろう材の厚みが薄くなる。このため、セラミック基板3にかかる応力が減少し、セラミック基板3のクラックの発生を特に抑制することができる。
【0036】
凸面8の平均曲率半径は60μm以上190μm以下であってもよい。凸面8の平均曲率半径が60μm以上190μm以下であると、セラミック基板3に対する導通部材4の接合強度が向上すると共に、導通部材4が金属スリーブ2の軸方向に沿って複数配置されている場合に、隣り合う導通部材4同士がろう材6によって短絡することを抑制することができる。ここで、導通部材4が円柱状であれば、凸面8は、導通部材4を囲む環状となる。
【0037】
凸面8の平均曲率半径は、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1100またはその後継機種))を用いて測定することができる。測定条件としては、照明方式を同軸照明、倍率を120倍、凸面8を含む測定範囲を、例えば、1か所当たり、2792μm×2093μmに設定して、プロファイル計測を行えばよい。
【0038】
具体的には、まず、1つの測定範囲において、導通部材4側からセラミック基板3側に向かって凸面8を含むように測定対象とする線を4本引く。この線1本当たりの長さは、例えば、200μm以上300μm以下である。測定範囲は、少なくとも3か所設定し、測定対象とする線は少なくとも12本とする。測定対象とした12本の線から得られた測定値の平均値を凸面8の平均曲率半径とする。
【0039】
本開示の他の実施形態に係る気密端子50を
図5に基づいて説明する。一実施形態と異なる構成について説明する。
図5に示すように、セラミック基板3の第1開口部31aの内部に環状部材5の一部が位置してもよい。つまり、環状部材5の下面は、セラミック基板3の表面から第1開口部31a側に第1貫通孔31の軸方向に距離Dの位置に位置してもよい。
図5のような構造を有していると、第1貫通孔31内のろう材6の体積が、環状部材5によって低減する。このため、第1貫通孔31に近接するセラミック基板3にかかる応力が低減し、セラミック基板3のクラックの発生を特に抑制することができる。
【0040】
本開示の他の実施形態に係る気密端子60を
図6に基づいて説明する。一実施形態と異なる構成について説明する。
図6に示すように、導通部材4の外周面と環状部材5の内周面との距離が、均一でなくてもよい。
図6では、導通部材4の外周面と環状部材5の内周面との距離が紙面の左側ではW1であり、紙面の右側ではW2であり、W1>W2である。このような構造を有していることが好ましい。その理由は次のように推定される。W1がW2よりも大きいと、紙面の左側の領域では、第1領域51と導通部材4との間にあるろう材6の体積が増加する。W1がW2よりも大きいと、紙面の左側の領域では、環状部材5の上面と外周面との交線と凸面8との距離を小さくすることができる。
【0041】
一方、紙面の右側の領域では、第1領域51と導通部材4との間にあるろう材6の体積が増加する。紙面の右側の領域では、第1領域51と導通部材4との間にあるろう材6の体積が減少する。これらのように、ろう材6を不均一に分布させることによって、セラミック基板3の第1開口部31aの一部分に局部的な応力が集中することが抑制される。その結果、セラミック基板3のクラックの発生を特に抑制することができる。
【0042】
セラミック基板3の表面に、導通部材4を囲むように、延出したメタライズ層32と、メタライズ層32を被覆するメッキ層とを備えている場合には、メッキ層の表面の粗さ曲線における25%の負荷長さ率の切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc1の平均値は、セラミック基板3の表面の露出している部分の粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す切断レベル差Rδc2の平均値よりも大きくてもよい。
【0043】
切断レベル差Rδc1の平均値が切断レベル差Rδc2の平均値よりも大きい場合、ろう付け部のアンカー効果が高くなるため、メッキ層に対するろう付け部の接合強度を高くすることができる。この場合、切断レベル差Rδc2の平均値は切断レベル差Rδc1の平均値よりも小さくなるので、セラミック基板3の表面と延出したメタライズ層32との間に空隙が生じにくい状態になり、セラミック基板3に対する延出したメタライズ層32の密着性が向上する。さらに、延出したメタライズ層32の厚みのばらつきも抑制される。
【0044】
切断レベル差Rδc1およびRδc2は、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1100またはその後継機種))を用いて測定することができる。測定条件としては、照明方式を同軸照明、倍率を60倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.8mm、カットオフ値λfを無し、終端効果の補正を有りとする。
【0045】
測定は、導通部材4の周囲のメッキ層の表面およびセラミック基板3の表面の露出している部分を対象とし、例えば、1か所当たりの測定範囲を5657μm×4232mとする。切断レベル差Rδc1を求める場合、メッキ層の表面に、導通部材4の軸心を中心とする測定対象となる円周C1を描く。円周1本当たりの長さは、例えば、6.2mm以上6.6mm以下である。切断レベル差Rδc2を求める場合、セラミック基板3の表面の露出している部分に、円周C1と同軸上に円周C2を描く。円周1本当たりの長さは、例えば、7.8mm以上8.3mm以下である。切断レベル差Rδc1およびRδc2のそれぞれの測定値は、導通部材4の本数と同数になるように求め、それぞれの平均値を算出すればよい。導通部材4が1本の場合は、切断レベル差Rδc1の測定値と、切断レベル差Rδc2の測定値とを比べればよい。
【0046】
例えば、切断レベル差Rδc1の平均値は、4μm以上7μm以下であり、切断レベル差Rδc2の平均値は、1μm以上2μm以下である。特に、切断レベル差Rδc1の平均値と、切断レベル差Rδc2の平均値との差は、2μm以上5μm以下であるとよい。
【0047】
一実施形態に係る気密端子1は、例えば、次の手順で製造される。まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。セラミック基板3に形成された貫通孔31の内周面は、予め全面にわたってメタライズ加工が施され、メタライズ層32が形成されている。メタライズ加工は、例えば、モリブデン-マンガン法(Mo-Mn法)などによって行われる。次いで、セラミック基板3に形成された貫通孔31と、環状部材5に形成された第2貫通孔とが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。次いで、貫通孔31および第2貫通孔に導通部材4を挿入し、環状部材5を上面から側面にかけて被覆するように、セラミック基板3と、導通部材4および環状部材5とをろう材6で固定する。ろう材6の質量やろう付けの温度を調整することにより、フィレットの形成形状を制御することができる。このようにして、一実施形態に係る気密端子1が得られる。
【0048】
あるいは、セラミック基板3に、導通部材4および環状部材5を予めろう材6で固定した後に、金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定してもよい。
【0049】
図4に示す凹部7a、7b、凸部8を有する他の実施形態に係る気密端子40の製造方法について説明する。まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。別途、環状部材5には、予めろう材6を被覆しておく。ろう材6が被覆された環状部材5は、例えば、ろう材6の微粉末と有機溶剤等からなるペーストを、環状部材5の周囲全体すなわち上面、下面、内周面、外周面に塗布し、加熱冷却することによって作製することができる。セラミック基板3に形成された第1貫通孔31と、環状部材5に形成された第2貫通孔(予めろう材6が被覆されている。)とが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。次いで、第1貫通孔3aおよび第2貫通孔に導通部材4を挿入し、環状部材5を被覆するように、ろう材6でセラミック基板3と、導通部材4および環状部材5とを固定する。このようにして、他の実施形態に係る気密端子40が得られる。
【0050】
図5に示すセラミック基板3の第1開口部3a’の内部に環状部材5の一部が位置している他の実施形態に係る気密端子50の製造方法について説明する。セラミック基板3の第1開口部31aの内部に環状部材5の一部が位置している気密端子50を製造するには、環状部材5を載置するときに、環状部材5の下面を、セラミック基板3の表面から第1開口部31a側に第1貫通孔31の軸方向に距離Dの位置に位置させてから、環状部材5を固定する。このようにして、他の実施形態に係る気密端子50が得られる。
【0051】
図6のように距離W1とW2が異なる気密端子60は、次のようにして製造することができる。第1の製造方法として、セラミック基板3に環状部材5を載置し、導通部材4を挿入するときに、導通部材4と環状部材5の間の間隔が不均一となるようにする。その後、環状部材4と導通部材5をろう材6で固定する。
【0052】
つまり、第1の製造方法として、まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。セラミック基板3に形成された第1貫通孔31と、環状部材5に形成された第2貫通孔とが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。次いで、第1貫通孔3aおよび第2貫通孔に、導通部材4と環状部材5の間の間隔が不均一となるように導通部材4を挿入する。その後、環状部材4と導通部材5をろう材6で固定する。
【0053】
第2の製造方法として、ろう材6を固定する前に、軸方向を重力に対して10~30°傾斜させる。その後、傾斜した状態を保持しながら、加熱してろう材を溶融し、さらに冷却してろう材6を固化する。
【0054】
つまり、第2の製造方法として、まず、金属スリーブ2を準備する。次いで、この金属スリーブ2の内周面にセラミック基板3を固定する。セラミック基板3に形成された第1貫通孔3aと、環状部材5に形成された第2貫通孔とが重なるように、セラミック基板3に環状部材5を載置する。次いで、第1貫通孔3aおよび第2貫通孔に導通部材4を挿入する。ろう材6で固定する前に、環状部材5の軸方向が鉛直方向に対して10~30°傾斜するようにセラミック基板3を傾斜させる。その後、環状部材5およびセラミック基板3の傾斜した状態を保持しながら、ろう材6を加熱した後に冷却し、導通部材4および環状部材5とを固定する。このようにして、他の実施形態に係る気密端子60が得られる。
【0055】
切断レベル差Rδc1の平均値を切断レベル差Rδc2の平均値よりも大きくするには、セラミック基板3の上面に、予め、研削あるいは研磨を施しておけばよい。
【0056】
一実施形態に係る気密端子1は、種々の装置において使用される。このような装置としては、例えば、真空ポンプや、プラズマ成膜装置、プラズマエッチング装置、プラズマアッシング装置等の、プラズマ処理装置などが挙げられる。
【符号の説明】
【0057】
1、40、50、60 気密端子
2 金属スリーブ
3 セラミック基板
31 貫通孔
31a 第1開口部
31b 第2開口部
32 メタライズ層
4 導通部材
5 環状部材
6 ろう材