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特許7680557安定したドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】安定したドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/337 20060101AFI20250513BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20250513BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20250513BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250513BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20250513BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20250513BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20250513BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250513BHJP
【FI】
A61K31/337
A61K47/42
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/12
A61K9/19
A61K9/10
A61P35/00
【請求項の数】 56
(21)【出願番号】P 2023554013
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 CN2022079286
(87)【国際公開番号】W WO2022184164
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】202110243298.9
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】506417359
【氏名又は名称】石薬集団中奇制薬技術(石家庄)有限公司
【氏名又は名称原語表記】CSPC ZHONGQI PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY(SHIJIAZHUANG)CO.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.896,Zhongshan East Road,High-Tech Zone,Shijiazhuang,Hebei,050035,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】李春雷
(72)【発明者】
【氏名】張暁君
(72)【発明者】
【氏名】趙媛媛
(72)【発明者】
【氏名】陳東健
(72)【発明者】
【氏名】梁敏
(72)【発明者】
【氏名】▲シン▼倩斌
(72)【発明者】
【氏名】李楠
(72)【発明者】
【氏名】束雲
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101361731(CN,A)
【文献】特表2018-513105(JP,A)
【文献】特表2013-501789(JP,A)
【文献】特表2017-522297(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112386586(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物であって、前記組成物は、ドセタキセルと酸変性アルブミンを含み;
前記酸変性アルブミンは、適切なpH値までシステイン塩酸塩を加えた後、ヒト血清アルブミンを変性することによって得られ;
前記適切なpH値は、3.8~4.7であり;
前記ヒト血清アルブミンにおけるオクタン酸ナトリウムの含有量は、0.08 mmol/gタンパク質以下である、ことを特徴とする組成物。
【請求項2】
ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物であって、前記組成物は、ドセタキセルと酸変性アルブミンによって製造され;
前記酸変性アルブミンは、適切なpH値までシステイン塩酸塩を加えた後、ヒト血清アルブミンを変性することによって得られ;
前記適切なpH値は、3.8~4.7であり;
前記ヒト血清アルブミンにおけるオクタン酸ナトリウムの含有量は、0.08 mmol/gタンパク質以下である、ことを特徴とする組成物。
【請求項3】
前記ドセタキセルは、無水ドセタキセル、ドセタキセル半水和物又はドセタキセル三水和物である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記適切なpH値は、4.0~4.5であり、及び/又は
前記ヒト血清アルブミンにおけるオクタン酸ナトリウムの含有量は、0.03~0.08 mmol/gタンパク質であり、及び/又は
無水ドセタキセルに基づくと、ドセタキセルとヒト血清アルブミンとの質量比が1:(2.0~10.0)である、ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ヒト血清アルブミンにおけるオクタン酸ナトリウムの含有量は、0.04~0.08 mmol/gタンパク質であり、及び/又は
無水ドセタキセルに基づくと、ドセタキセルとヒト血清アルブミンとの質量比が1:(3.0~7.0)である、ことを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ヒト血清アルブミンにおけるオクタン酸ナトリウムの含有量は、0.04~0.07 mmol/gタンパク質であり、及び/又は
無水ドセタキセルに基づくと、ドセタキセルとヒト血清アルブミンとの質量比が1:(4.0~6.0)である、ことを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が60~200 nmである、ことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が90~135 nmである、ことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、浸透圧調整剤を含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項10】
前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸塩又はクエン酸塩から選択される、ことを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムであり、前記塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が(0.75~9):1である、ことを特徴とする請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が(1~7):1である、ことを特徴とする請求項11記載の組成物。
【請求項13】
前記塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が(1.5~4.5):1である、ことを特徴とする請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が2.25:1である、ことを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は、pH調整剤を含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が懸濁液であり、前記懸濁液は、ドセタキセルを2~10 mg/mL含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項17】
前記懸濁液は、ドセタキセルを2~8 mg/mL含む、ことを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記懸濁液のpH値が3.9~4.8であり、前記懸濁液は、0~1.8%(w/v)の塩化ナトリウムを含む、ことを特徴とする請求項16又は17に記載の組成物。
【請求項19】
前記懸濁液は、0.9~1.8%(w/v)の塩化ナトリウムを含む、ことを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項16~19の何れか1項に記載の組成物によって製造された、凍結乾燥粉末。
【請求項21】
前記組成物が凍結乾燥粉末であり、前記凍結乾燥粉末は、塩化ナトリウムを含み、塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が(0.75~9):1であり、前記凍結乾燥粉末は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる懸濁液を凍結乾燥することによって製造され、前記懸濁液のpHが3.9~4.8である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項22】
前記塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が(1~7):1である、ことを特徴とする請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が(1.5~4.5):1である、ことを特徴とする請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が2.25:1である、ことを特徴とする請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
請求項20に記載の凍結乾燥粉末又は請求項21~24の何れか1項に記載の組成物を再溶解媒体を用いて再構成して得られた再構成懸濁液であって、前記再溶解媒体は、注射用水、塩化ナトリウム溶液又はグルコース溶液から選択され、前記再構成懸濁液のpHが3.
9~4.8である、再構成懸濁液。
【請求項26】
請求項1~19及び21~24の何れか一項に記載の組成物又は請求項20に記載の凍結乾燥粉末又は請求項25に記載の再構成懸濁液によって製造された薬物であって、前記薬物が臨床的に許容される剤形である、薬物。
【請求項27】
前記薬物が注射剤である、請求項26に記載の薬物。
【請求項28】
前記薬物が液体注射剤又は凍結乾燥粉末注射剤である、請求項27に記載の薬物。
【請求項29】
ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる請求項1~9及び21~24の何れか一項に記載の組成物、又は請求項20に記載の凍結乾燥粉末、又は請求項25に記載の再構成懸濁液の調製方法であって、以下のステップを含む:
(1)ドセタキセルを有機溶媒に溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、
(2)ヒト血清アルブミン溶液を取って酸を加えてpH値を調整し、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、別の塩溶液を取り、
(3)有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、薬物負荷溶液を取得し、
(4)透析する、調製方法。
【請求項30】
酸を加えてpH値を調整するステップ(2)の前、注射用水でヒト血清アルブミン溶液を希釈してアルブミン希釈液を取得するステップを含み、
酸を加えてpH値を調整するステップ(2)の後、インキュベートするステップを含み、
混合して薬物を負荷するステップ(3)の後、降温するステップを含み、透析するステップ(4)の前、ステップ(3)で得られた薬物負荷溶液を濃縮して濃縮液を取得するステップを含み、
透析するステップ(4)の後、濃縮又は希釈するステップを含み、
ステップ(4)の後、除菌濾過するステップ(5)を含み、
ステップ(5)の後、凍結乾燥するステップ(6)を含む、請求項29に記載の調製方法。
【請求項31】
ステップ(2)において、前記アルブミン希釈液は、6~25 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液である、ことを特徴とする請求項30に記載の調製方法。
【請求項32】
ステップ(2)において、前記アルブミン希釈液は、10~20 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液である、ことを特徴とする請求項31に記載の調製方法。
【請求項33】
ステップ(2)において、前記アルブミン希釈液は、12~18 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液である、ことを特徴とする請求項32に記載の調製方法。
【請求項34】
ステップ(2)において、前記アルブミン希釈液は、15 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液である、ことを特徴とする請求項33に記載の調製方法。
【請求項35】
ステップ(1)に記載の有機溶媒は、水と互いに溶解できる溶媒から選択される、ことを特徴とする請求項29~34の何れか1項に記載の調製方法。
【請求項36】
ステップ(1)に記載の有機溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン、DMSOから選択される、ことを特徴とする請求項35に記載の調製方法。
【請求項37】
前記有機相溶液は、無水ドセタキセルに基づくと、45~90 mg/mLのドセタキセルを含む、ことを特徴とする請求項29~36の何れか1項に記載の調製方法。
【請求項38】
前記有機相溶液は、無水ドセタキセルに基づくと、45~70 mg/mLのドセタキセルを含む、ことを特徴とする請求項37記載の調製方法。
【請求項39】
ステップ(2)において、前記インキュベートとは、酸を加えてpH値を調整した後、35℃~42℃まで昇温し、30 min以上インキュベートする、ことを特徴とする請求項30に記載の調製方法。
【請求項40】
ステップ(2)において、前記インキュベートとは、酸を加えてpH値を調整した後、38℃~42℃まで昇温し、30 min~60 minインキュベートする、ことを特徴とする請求項39に記載の調製方法。
【請求項41】
ステップ(2)において、前記塩溶液の塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム又は硫酸マグネシウムから選択され、前記塩溶液の濃度は、2%以上である、ことを特徴とする請求項29~40の何れか1項に記載の調製方法。
【請求項42】
前記塩溶液の濃度は、2%~35%である、ことを特徴とする請求項41に記載の調製方法。
【請求項43】
前記塩溶液の濃度は、10%~20%である、ことを特徴とする請求項42に記載の調製方法。
【請求項44】
ステップ(3)において、薬物を負荷する条件としては、有機相溶液、水相溶液を35℃~42℃まで昇温し、有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷する、ことを特徴とする請求項29~40の何れか1項に記載の調製方法。
【請求項45】
ステップ(3)において、薬物を負荷する条件としては、有機相溶液、水相溶液を38℃~42℃まで昇温する、ことを特徴とする請求項44に記載の調製方法。
【請求項46】
ステップ(3)に記載の降温とは、0~20℃である、ことを特徴とする請求項30に記載の調製方法。
【請求項47】
ステップ(3)に記載の降温とは、7~15℃である、ことを特徴とする請求項46に記載の調製方法。
【請求項48】
ステップ(4)において透析液として塩化ナトリウム溶液を使用して透析し、前記塩化ナトリウム溶液の濃度は1.8%(w/v)以下であり;
ステップ(4)において透析に使用された透析膜の分画分子量が10~50 KDaであり:
ステップ(4)において透析に使用された透析液の体積は、薬物負荷溶液又は濃縮液の3倍以上であり;
ステップ(4)に記載の濃縮液に4~10 mg/mLのドセタキセルが含まれる、ことを特徴とする請求項29~40の何れか1項に記載の調製方法。
【請求項49】
ステップ(4)において前記塩化ナトリウム溶液の濃度は0.45%~1.8%であり;
ステップ(4)において透析に使用された透析膜の分画分子量が10~30 KDaであり:
ステップ(4)において透析に使用された透析液の体積は、薬物負荷溶液又は濃縮液の3~10倍であり;
ステップ(4)に記載の濃縮液に6~10 mg/mLのドセタキセルが含まれる、ことを特徴とする請求項48に記載の調製方法。
【請求項50】
ステップ(4)において前記塩化ナトリウム溶液の濃度は0.9%~1.8%であり;
ステップ(4)において透析に使用された透析膜の分画分子量が10 KDa又は30 KDaであり:
ステップ(4)において透析に使用された透析液の体積は、薬物負荷溶液又は濃縮液の3~6倍であり;
ステップ(4)に記載の濃縮液に7~9 mg/mLのドセタキセルが含まれる、ことを特徴とする請求項49に記載の調製方法。
【請求項51】
ステップ(4)に記載の濃縮液に8 mg/mLのドセタキセルが含まれる、ことを特徴とする請求項48に記載の調製方法。
【請求項52】
ステップ(2)に記載のヒト血清アルブミン溶液は、以下の方法で調製して得られ、即ち、市販のヒト血清アルブミン溶液を取り、注射用水又は生理食塩水で希釈し、希釈されたアルブミン溶液を取得し、注射用水又は生理食塩水を透析液として希釈されたアルブミン溶液を透析することによって、オクタン酸ナトリウムを部分的に除去し、オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液を取得し、前記オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液を直接にステップ(2)に記載のヒト血清アルブミン溶液とし、又は、他のオクタン酸ナトリウムの含有量のヒト血清アルブミン溶液と比例して混合して希望の含有量を取得した後、ステップ(2)に記載のヒト血清アルブミン溶液とする、ことを特徴とする請求項29~40の何れか1項に記載の調製方法。
【請求項53】
ヒト血清アルブミン溶液の希釈倍数は、4倍以上であり;
前記透析に使用された透析膜の分画分子量が10~50 KDaであり、透析液の体積が希釈されたアルブミン溶液の体積の3倍以上である、ことを特徴とする請求項52に記載の調製方法。
【請求項54】
ヒト血清アルブミン溶液の希釈倍数は、4~7倍であり;
前記透析に使用された透析膜の分画分子量が10~30 KDaであり、透析液の体積が希釈されたアルブミン溶液の体積の3~10倍である、ことを特徴とする請求項53に記載の調製方法。
【請求項55】
前記透析に使用された透析膜の分画分子量が10 KDa又は30 KDaであり、透析液の体積が希釈されたアルブミン溶液の体積の3~6倍である、ことを特徴とする請求項54に記載の調製方法。
【請求項56】
請求項29~55の何れか一項に記載の方法によって調製して得られた、ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物製剤の分野に属し、具体的にはドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドセタキセルは、イチイの針葉樹から抽出された非細胞毒性前駆体(10-デアセチルバッカチンIII)の半合成から生産され、パクリタキセル類似体であり、細胞微小管に作用され、チューブリン重合を促進できると同時に、微小管解重合も促進できることによって、細胞をG2/M期で停止させ、有糸分裂を阻害し、腫瘍細胞を殺し、パクリタキセルより更に強い抗腫瘍活性を有する。
【0003】
ドセタキセルの水溶性がより低く、現在、サノフィにより開発され、商品名がタキソテール(登録商標)である注射用常用液として販売されており、通常は75 m/m2を3週間ごとに1回、1hの点滴静注で投与されることになっている。しかし、タキソテール(登録商標)に代表されるドセタキセル注射液は、処方にエタノールとTween-80が使用されたため、以下のデメリットを有する:
(1)重度のアレルギー反応を起こし、デキサメタゾンによる前治療を必要とし、患者のコンプライアンスが悪い。Tween-80は、重度のアレルギー反応と体液貯留を引き起こし、事前に抗アレルギー薬を服用する必要がある。例えば、アレルギー反応と体液貯留を予防するように、注入の前日から、毎日16 mgのデキサメタゾンを服用し、少なくとも3日間を続く必要がある。事前にデキサメタゾンを服用しても重度のアレルギー反応が出るという報告がある。取扱説明書に「3日間のデキサメタゾンの予防投与を受けた患者の6.5%(6/92)で重度の体液貯留が報告された」と明確に記載された。
【0004】
(2)エタノールは、中枢神経系に影響を与え、中毒の症状を緩和するために注入速度を下げる必要がある。2014年、FDAは「アルコール含有化学療法ドセタキセルの静脈内投与と中毒リスクに関する医薬品安全性情報」を発表し、ドセタキセル注射液におけるエタノールは、中枢神経系に影響を与える恐れがあり、注入速度の下げは、エタノール中毒の症状を緩和する可能性があると結論付けて、エタノールが含まれないドセタキセル製剤の開発を呼びかけた。
【0005】
(3)Tween-80は、アレルギー反応を引き起こし、低濃度でしか投与できず、患者のコンプライアンスが悪い。Tween-80は、アレルギー反応を引き起こし、且つ濃度が高すぎると溶血反応を起こす。従って、投与のために低濃度にしか希釈できず、注入時間を長くし、患者のコンプライアンスが悪い。
【0006】
(4)製品の適合性が低く、PVC素材が含まれない注入装置が必要であり、臨床使用が不便である。取扱説明書には、「ドセタキセル前注射液(10 mg/mL)は、調製後にすぐ使用する必要がある。しかし、その物理的及び化学的特性は、2~8℃でも室温でも保存すると、前注射液の安定性が8時間であると示される。注射液(0.74 mg/mL以下)は、室温条件で4時間内に使用し、1時間静脈内注入する必要がある」と記載され、臨床での使用には不便であり、取扱説明書に、PVC注入装置の使用が推薦せず、PVC注入装置と接触すると、PVC注入装置におけるビス-(2-エチルヘキシル)フタレートが浸出し、安全上のリスクがあると明記されている。
【0007】
一般的な製剤の多くのデメリットを改善するために、Development of docetaxel-loaded intravenous formulation、Nanoxel-PMTM using polymer-based delivery syste(Sa-Won Lee、Min-Hyuk Yun、Seung Wei Jeong、Journal of Controlled Release、155 (2011) 262-271)には、韓国のSanyo Corporationによって開発されたNanoxel-PMTM(韓国ではすでに市販され、商品名:Nanoxel(登録商標) M)が公開され、当該製品は、担体としてポリエチレングリコール-ポリラクチド(mPEG-PDLLA)ポリマーを選択し、ドセタキセルミセルを調製し、平均粒子径が10~50 nmであり、粒子サイズの分布が均一である。その公式サイトでは、臨床での使用方法が公開され、アレルギー反応を最小限に抑えるために、前処置が必要であり、例えば、投与の前日から毎日デキサメタゾンを16 mg経口摂取し、3日間連続して服用する(https://www.samyangbiopharm.com/eng/ProductIntroduce/injection03)。当該製品の処方にはエタノールとTween-80が使用されなかったが、臨床では、前処置も必要がある。
【0008】
ヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin、略してHSA)はヒト血漿におけるタンパク質であり、それは、585個のアミノ酸を含み、分子量が66 kDである。血漿において、その濃度が42 g/Lであり、血漿におけるタンパク質全体の約60%を占める。体液において、ヒト血清アルブミンは、脂肪酸、胆汁色素、アミノ酸、ステロイドホルモン、金属イオン及び多くの治療用分子等を輸送できると同時に、正常な血圧浸透圧、生理的pH値を維持できる。
【0009】
タンパク質は、複数種のアミノ酸で構造された高分子化合物であり、そのうち、各アミノ酸は、ペプチド結合及びジスルフィドによって一定の順序を有するペプチド鎖が結合され、それは一次構造と呼ばれ、同じポリペプチド鎖又は異なるペプチド鎖におけるアミノ基とアシル基との間には水素結合が形成されることができ、ポリペプチド鎖の主鎖に一定の規則的なコンフォメーションを備えさせ、αヘリックス、β-シート、β-ターン、Ω-リング等を含み、これらはタンパク質の二次構造と呼ばれ、ペプチド鎖は、二次構造を基に、更にコイル状及び折り畳みがあり、完全な空間構造が形成され、三次構造と呼ばれ、複数のペプチド鎖は、非共有結合によって凝集して形成される空間構造は、四次構造と呼ばれ、そのうち、ペプチド鎖の一つがサブユニットと呼ばれる。
【0010】
タンパク質の変性とは、タンパク質が、物理的又は化学的要因によって影響を受け、その分子の内部構造と特性が変化することを指す。一般的に、タンパク質の二次構造と三次構造が変化したり破壊されたりしたのは、変性の結果であると思われる。タンパク質変性の方法は、主に化学的方法と物理的方法に分けられ、そのうち、化学的方法としては、強酸、強塩基、重金属塩、尿素、アセトン等の添加を含み、物理的方法としては、加熱、紫外線やX線照射、超音波、激しい振動又は攪拌等を含む。
Michael Dockal、Daniel C. Carter、Florian Ruker. Conformational Transitions of the Three Recombinant Domains of Human Serum Albumin Depending on pH.(J Biol Chem、2000、275(5):3042-3050)に、ヒト血清アルブミンは、異なるpH条件で、立体構造の変化(例えば、酸性条件でのN-FとF-E変換、アルカリ性条件でのN-B変換)が発生し、タンパク質の変性を引き起こすと報告される。本発明において、酸を加えて変性されたアルブミンを「酸変性アルブミン」と定義され、この場合のアルブミン溶液pHは、5.5未満である。
【0011】
輸入又は国産を問わず、ヒト血清アルブミンのプロセスフローは、基本的に同じであり、何れも健康なヒト血漿を低温エタノールタンパク質分離法によって精製し、且つ60℃で10時間加熱し、ウイルスを不活化したものである。市販のアルブミンは、通常、オクタン酸ナトリウムを添加して熱保護剤とし、例えば、1 gあたりのアルブミンに0.16 mmolのオクタン酸ナトリウムを添加する。
【0012】
ヒト血清アルブミンは、ヒト内因性物質であり、良好な生体適合性を有し、疎水性薬物の天然担体とし、不溶性薬物の溶解度を増加することができる。米国Abraxis社は、ヒト血清アルブミンを補助物質とし、乳化法で開発された注射用パクリタキセル(アルブミン結合型)(商品名Abraxane(登録商標))は、2005年にFDAによって承認され、併用化学療法に失敗した転移性乳がん又は補助化学療法によって6か月以内に再発した乳がんの治療に使用し、その後、引き続き非小細胞肺がん、膵臓がん及び胃がんの治療薬として承認された(日本)。
【0013】
Abraxane(登録商標)は、パクリタキセル注射液(タキソール(登録商標))と比較すると、処方に重度のアレルギー反応を引き起こす溶媒であるポリオキシエチレンヒマシ油が含まれないため、抗アレルギー薬の前投与の必要がなく、しかも高濃度で迅速に投与でき、注入時間を30分以内に短縮でき、患者のコンプライアンスが大幅に向上する。安全性の向上のため、パクリタキセルの投与量は、175 mg/m2を260~300 mg/m2に向上させることができ、タキソール(登録商標)におけるポリオキシエチレンヒマシ油は、パクリタキセルとアルブミンとの結合を阻害し、処方にポリオキシエチレンヒマシ油が含まれなく、アルブミン独自の「gp60-カベオリン-SPARC」チャンネルを更に十分に利用でき、それによって腫瘍部位への薬物の集中を実現し、治療効果を増加することができる。現在、各国の研究者は、ヒト血清アルブミンを使用して他の薬物のアルブミンナノ粒子、例えばドセタキセル等を開発しようとしている。
そのうち、Neil P. Desaiらの特許US2005/0004002A1に、ドセタキセルアルブミンナノ粒子を調製する乳化法が公開され、その処方はドセタキセルとヒト血清アルブミンしか含まれず、粒子サイズが50~220 nmであり、凍結乾燥前後、粒子サイズは基本的に変化しない。しかし、懸濁液は、凍結乾燥前でも凍結乾燥後でも、安定時間は短く、臨床的ニーズを満たすことができない。
中国特許CN103054798Aにおいて、懸濁液の安定性を向上させるために、最初は、処方に大豆油、リン脂質、コレステロール、安息香酸等を添加して安定剤としたが、何れも失敗した。大量の試験と模索を経て、最終に、クエン酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウムと塩化ナトリウムの組成物を添加して懸濁液の安定性が大幅に向上することを確認した。しかし、大量の塩の使用のせいで再構成懸濁液の浸透圧が高く、刺激性が強く、注射する際に明らかな痛みが生じ、更に、注射された局所組織細胞の浸透圧損傷にもつながり、臨床での使用に不便である。
当該発明は、同時にドセタキセル無水形態の安定性は、結合水形態(例えば、ドセタキセル三水和物又は半水和物)で調製されたナノ粒子懸濁液より更に高いことを明記した。実施例28に、安定剤が含まれない場合で、活性成分が無水ドセタキセル(即ちドセタキセル)である場合、4℃で放置する初日、ナノ粒子濾液が沈降し、半水和物と三水和物の沈降は、より短い時間内に発生し、安定剤が含まれる状況で、活性成分が無水ドセタキセル(即ちドセタキセル)である場合、4℃で、ナノ粒子濾液は2日間沈降せず、半水和物と三水和物の沈降は、より短い時間内で発生することが記載される。従って、当該特許は、無水ドセタキセルでアルブミンナノ粒子を調製することに限定し、ドセタキセルの原料の選択範囲を大きく制限する。
当該特許は、更に製剤pHを考察し、「pHの増加は6を超え、製剤のナノ粒子サイズと沈降に関して測定された物理的安定性が向上し、同時に、室温で7-エピ-ドセタキセルに分解されたドセタキセルの量が増加したことが発見された。従って、物理的及び化学的安定性は両方とも許容されるpH範囲が6~8.5の間であり、より好ましいpH範囲が6.5~8であり、しかも最も好ましい範囲がpH7.25~7.75である」と発見された。
CN103054798Aに、クエン酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウムと塩化ナトリウムの組成物を添加してドセタキセルアルブミンナノ粒子製剤の物理的安定性の改善に有利であると考えられるが、中国特許CN106137969Aに、ドセタキセルアルブミン組成物に酒石酸、クエン酸とアスコルビン酸及び他のpKaが2.5~4.5の有機酸等を添加しても、7-エピ-ドセタキセルの増加を効果的に阻害できず、7-エピ-ドセタキセルの増加さえあり、組成物の化学的安定性が低下し、製剤の安全性に影響を与えると説明した。しかし、アミノ酸類物質を選択的に添加することでドセタキセルアルブミンは長時間で安定し、7-エピ-ドセタキセルの形成を著しく阻害した。特に、アミノ酸がアルギニンである場合、30か月後、7-エピ-ドセタキセルの含有量は、0.72%しかない。調製された製品は、再溶解後、懸濁液は室温で8時間以上安定できる。当該特許は、前記のドセタキセルアルブミンナノ粒子の薬物組成物に限定され、アミノ酸とドセタキセルとの質量比は、0.5以上であり、好ましくは1以上である。
WO2018/059304A1に、アルブミン薬物組成物の製品品質を向上させる方法も公開され、そのうち、当該薬物組成物は、アルブミンと少なくとも相対分子量が145~175であるアミノ酸又はその塩を含み、前記アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジンとリジンから選択できる一つ又は複数であり、好ましくはアルギニン及び/又はヒスチジンであり、より好ましくはアルギニンであり、前記アミノ酸又はその塩とアルブミンとの重量比が0.1:1~10:1であり、前記アミノ酸又はその塩が薬物組成物の調製、保存及び使用にアルブミン二量体の形成又は含有量の増加を阻害する。当該アルブミン薬物組成物は、臨床での使用におけるアルブミン多量体及び二量体による人体の望ましくない反応を効果的に軽減でき、例えば発疹、蕁麻疹、アレルギー反応と可能な免疫反応であり、臨床薬の安全性を更に保証する。
要約すると、ドセタキセルアルブミンの製品質量の向上には、その物理的安定性(懸濁液の安定性)と化学的安定性(ドセタキセルの分解状況とアルブミンポリマーの増加状況)を同時に考慮する必要がある。先行技術に公開されたドセタキセルアルブミン組成物の一種としては、製品の物理的安定性を向上させるように大量のキレート剤を安定剤として添加したが、その化学的安定性への影響を考察せず、その他、大量のキレート剤は、安定性を向上させると同時に高張液を形成し、臨床での使用に不便である。他の種類としては、製品に大量のアミノ酸を添加し、ドセタキセルの分解及びアルブミンポリマーの増加を阻害できるが、物理的安定性の影響への更なる研究がなく、再溶解後、懸濁液は室温で8時間以上安定するとしか記載されていない。
従って、ドセタキセルアルブミン組成物の物理的安定性と化学的安定性を同時に保証できる方法を見つけることは、本分野の緊急課題である。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物を提供し、前記組成物は、ドセタキセルと酸変性アルブミンを含む。
【0015】
或いは、本発明は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物を提供し、前記組成物は、ドセタキセルと酸変性アルブミンによって製造される。
【0016】
或いは、本発明は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物を提供し、前記組成物は、ドセタキセルと酸変性アルブミンによって製造され、任意選択的に、浸透圧調整剤、又はpH調整剤を含む。
【0017】
そのうち、前記ドセタキセルは、好ましくは無水ドセタキセル、ドセタキセル半水和物又はドセタキセル三水和物である。
【0018】
前記酸変性アルブミンは、適切なpH値まで酸を加えた後、ヒト血清アルブミンを変性することによって得られ、好ましくは、
(1)前記酸は、酸性アミノ酸又は酸性ペプチド、有機酸、無機酸から選択される。前記酸性アミノ酸又は酸性ペプチドは、システイン塩酸塩、グルタチオン等を含むが、それらには限らず、前記有機酸は、クエン酸、酒石酸等を含むが、それらには限らず、前記無機酸は、塩酸、硫酸等を含むが、それらには限らない。前記酸は、好ましくはシステイン塩酸塩、グルタチオン、塩酸であり、より好ましくはシステイン塩酸塩であり、及び/又は
(2)前記適切なpH値は、好ましくは3.5~5.5であり、好ましくは3.5~5.0であり、より好ましくは3.8~4.7であり、最も好ましくは4.0~4.5であり、及び/又は
(3)無水ドセタキセルに基づくと、ドセタキセルとヒト血清アルブミンとの質量比が1:(2.0~10.0)であり、好ましくは1:(3.0~7.0)であり、より好ましくは1:(4.0~6.0)であり、及び/又は
(4)前記ヒト血清アルブミンにおけるオクタン酸ナトリウムの含有量は、0.08 mmol/gタンパク質以下であり、好ましくは0.03~0.08 mmol/gタンパク質であり、更に好ましくは0.04~0.08 mmol/gタンパク質であり、最も好ましくは0.04~0.07 mmol/gタンパク質である。
【0019】
幾つかの実施形態において、前記ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が約60~200 nmであり、好ましくは90~150 nmであり、より好ましくは90~135 nmである。
【0020】
本発明に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物は、浸透圧を適切な範囲内に調整するように、任意選択的に浸透圧調整剤を含む。前記浸透圧調整剤のタイプは特に制限されず、例えば塩化ナトリウム、グルコース、リン酸塩又はクエン酸塩等から選択されてもよく、好ましくは塩化ナトリウムである。その種類、用量について、当業者は、臨床で使用された希釈剤又は再溶解媒体の種類、用量等の具体的な状況によって決定することができる。幾つかの実施形態において、前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムであり、塩化ナトリウムとドセタキセルとの重量比が(0.75~9):1であり、好ましくは(1~7):1であり、好ましくは(1.5~4.5):1であり、最も好ましくは2.25:1である。
【0021】
任意選択的に、本発明の前記組成物は、pH調整剤を含み、pH値を適切な範囲内に調整し、本発明の前記組成物の調製に使用された懸濁液及び/又は本発明の組成物に使用された再構成懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、好ましくは少なくとも30時間安定し、及び/又は2~8℃で少なくとも7日間安定し、好ましくは少なくとも10日間安定する。ここで記載の「安定」とは、ナノ粒子の沈降又は懸濁液の濁りが発生しなかったことを意味する。前記pH調整剤の種類は、特に制限されない。好ましくは、前記pH値の範囲は、3.4~5.8であり、好ましくは3.6~5.6であり、又は3.8~5.0であり、より好ましくは3.9~4.8である。
【0022】
幾つかの実施形態において、本発明の前記組成物が懸濁液である。そのうち、前記懸濁液のpH値は、3.4~5.8であり、好ましくは3.6~5.6であり、又は3.8~5.0であり、より好ましくは3.9~4.8である。前記懸濁液におけるドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が約60~200 nmであり、好ましくは90~150 nmであり、より好ましくは90~135 nmである。前記懸濁液は0~1.8%(w/v)の塩化ナトリウムを含み、好ましくは0.45%~1.8%(w/v)であり、より好ましくは0.9%~1.8%(w/v)である。幾つかの実施例において、前記懸濁液は、2~10 mg/mLのドセタキセルを含み、好ましくは2~8 mg/mLである。前記懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、好ましくは少なくとも30時間安定し、2~8℃で少なくとも7日間安定し、好ましくは少なくとも10日間安定する。
【0023】
別の実施形態において、本発明の前記組成物が凍結乾燥粉末である。前記ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が約60~200 nmであり、好ましくは90~150 nmであり、より好ましくは90~135 nmである。幾つかの実施形態において、前記凍結乾燥粉末は、塩化ナトリウムを含み、塩化ナトリウム:ドセタキセルの重量比が(0.75~9):1であり、好ましくは(1~7):1であり、好ましくは(1.5~4.5):1であり、最も好ましくは2.25:1である。
【0024】
前記凍結乾燥粉末は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる懸濁液を凍結乾燥することによって製造される。そのうち、前記懸濁液のpH値は、3.4~5.8であり、好ましくは3.6~5.6であり、又は3.8~5.0であり、より好ましくは3.9~4.8である。前記懸濁液におけるドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が約60~200 nmであり、好ましくは90~150 nmであり、より好ましくは90~135 nmである。前記懸濁液は0~1.8%(w/v)の塩化ナトリウムを含み、好ましくは0.45%~1.8%(w/v)であり、より好ましくは0.9%~1.8%(w/v)である。前記懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、好ましくは少なくとも30時間安定し、2~8℃で少なくとも7日間安定し、好ましくは少なくとも10日間安定する。
【0025】
前記凍結乾燥粉末は、再溶解媒体を使用して懸濁液を再構成する。前記再溶解媒体は、注射用水、塩化ナトリウム溶液又はグルコース溶液から選択され、好ましくは注射用水である。前記再構成懸濁液のpH値が3.4~5.8であり、好ましくは3.6~5.6であり、又は3.8~5.0であり、より好ましくは3.9~4.8である。再構成懸濁液におけるドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が約60~200 nmであり、好ましくは90~150 nmであり、より好ましくは90~135 nmである。前記再構成懸濁液は0~1.8%(w/v)の塩化ナトリウムを含み、好ましくは0.45%~1.8%(w/v)であり、より好ましくは0.9%~1.8%(w/v)である。再構成された等張懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、好ましくは少なくとも30時間安定し、2~8℃で少なくとも7日間安定し、好ましくは少なくとも10日間安定する。
【0026】
幾つかの実施形態において、本発明に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物は、凍結乾燥後、25℃の条件で少なくとも36か月安定する。ここで記載の「安定」は、ドセタキセルは明らかな分解がないこと、タンパク質ナノ粒子は、明らかな凝集が発生しないこと、粒子サイズは明らかな増加がないこと、ドセタキセル含有量、水分、酸度、浸透圧又はモル濃度等は、明らかな変化がないことを含むが、それらに限定されない。前記「安定」は、挙げられた上記状況の一種又は複数種であってもよい。幾つかの実施形態において、前記「安定」は、7-エピ-ドセタキセル及び/又はアルブミンポリマーの含有量は明らかな変化がないとして表現する。
【0027】
別の態様では、本発明は、薬物を更に提供し、それは、ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる上記組成物によって製造される。前記薬物は、臨床的に許容される剤形であり、好ましくは注射剤であり、更に好ましくは液体注射剤又は凍結乾燥粉末注射剤である。
【0028】
前記注射剤が液体注射剤である場合、前記液体注射剤のpH値は、3.4~5.8であり、好ましくは3.6~5.6であり、又は3.8~5.0であり、より好ましくは3.9~4.8である。前記液体注射剤におけるドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が約60~200 nmであり、好ましくは90~150 nmであり、より好ましくは90~135 nmであり、前記液体注射剤は、0~1.8%(w/v)の塩化ナトリウムが含まれ、好ましくは0.45%~1.8%(w/v)であり、より好ましくは0.9%~1.8%(w/v)であり、より好ましくは0.9%(w/v)である。幾つかの実施形態において、前記液体注射剤は、2~10 mg/mLのドセタキセルを含み、好ましくは2~8 mg/mLである。前記液体注射剤は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、好ましくは少なくとも30時間安定し、2~8℃で少なくとも7日間安定し、好ましくは少なくとも10日間安定する。ここで記載の「安定」とは、ナノ粒子の沈降又は液体注射剤の濁りが発生しなかったことを意味する。
【0029】
前記注射剤が凍結乾燥粉末注射剤である場合、前記凍結乾燥粉末は、塩化ナトリウムを含み、塩化ナトリウム:ドセタキセルの重量比が(0.75~9):1であり、好ましくは(1~7):1であり、好ましくは(1.5~4.5):1であり、最も好ましくは2.25:1である。ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が約60~200 nmであり、好ましくは90~150 nmであり、より好ましくは90~135 nmである。前記凍結乾燥粉末注射剤を調製する懸濁液の凍結乾燥前のpH値は、3.4~5.8であり、好ましくは3.6~5.6であり、又は3.8~5.0であり、より好ましくは3.9~4.8である。前記懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、2~8℃で少なくとも10日間安定する。
【0030】
前記凍結乾燥粉末注射剤は、再溶解媒体を使用して懸濁液を再構成する。前記再溶解媒体は、注射用水、塩化ナトリウム溶液又はグルコース溶液から選択され、好ましくは注射用水である。得られた再構成懸濁液のpH値が、3.4~5.8であり、好ましくは3.6~5.6であり、又は3.8~5.0であり、より好ましくは3.9~4.8である。再構成懸濁液におけるドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が約60~200 nmであり、好ましくは90~150 nmであり、より好ましくは90~135 nmである。前記再構成懸濁液は0~1.8%(w/v)の塩化ナトリウムを含み、好ましくは0.45%~1.8%(w/v)であり、より好ましくは0.9%~1.8%(w/v)であり、より好ましくは0.9%である。幾つかの実施形態において、前記再構成懸濁液は、2~10 mg/mLのドセタキセルを含み、好ましくは2~8 mg/mLである。再構成懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、好ましくは少なくとも30時間安定し、2~8℃で少なくとも7日間安定し、好ましくは少なくとも10日間安定する。
【0031】
本発明は、前記組合物の調製方法を更に提供し、以下のステップを含む:
(1)ドセタキセルを有機溶媒に溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、
(2)ヒト血清アルブミン溶液を取って酸を加えてpH値を調整し、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、別の塩溶液を取り、
(3)有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、薬物負荷溶液を取得し、
(4)透析し、透析後の懸濁液を取得し、
そのうち、酸を加えてpH値を調整するステップ(2)の前、注射用水でヒト血清アルブミン溶液を希釈してアルブミン希釈液を取得するステップを任意選択的に含む。
【0032】
そのうち、酸を加えてpH値を調整するステップ(2)の後、インキュベートするステップを任意選択的に含む。
【0033】
そのうち、混合して薬物を負荷するステップ(3)の後、降温するステップを任意選択的に含む。
【0034】
そのうち、透析するステップ(4)の前、ステップ(3)で得られた薬物負荷溶液を濃縮して濃縮液を取得するステップを任意選択的に含む。
【0035】
そのうち、透析するステップ(4)の後、透析された懸濁液におけるドセタキセルの濃度を調整するように、濃縮又は希釈するステップを任意選択的に含む。
【0036】
そのうち、ステップ(4)の後、除菌濾過するステップ(5)を任意選択的に含む。
【0037】
そのうち、ステップ(5)の後、凍結乾燥するステップ(6)を任意選択的に含む。
【0038】
そのうち、ステップ(1)における前記ドセタキセルが任意の形態であり、好ましくは無水ドセタキセル、ドセタキセル半水和物又はドセタキセル三水和物である。無水ドセタキセルに基づくと、ドセタキセルとヒト血清アルブミンとの質量比が1:(2.0~10.0)であり、好ましくは1:(3.0~7.0)であり、より好ましくは1:(4.0~6.0)である。
【0039】
そのうち、ステップ(1)に記載の有機溶媒は、水と互いに溶解できる溶媒から選択され、例えばエタノール、メタノール、アセトン、DMSO等であり、好ましくはエタノールである。無水ドセタキセルに基づくと、前記有機相溶液は、45~90 mg/mLのドセタキセルを含み、好ましくは45~70 mg/mLである。
【0040】
そのうち、ステップ(2)において、前記ヒト血清アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量は、0.12 mmol/gタンパク質以下であり、好ましくは0.08 mmol/gタンパク質以下であり、好ましくは0.045~0.08 mmol/gタンパク質である。
【0041】
そのうち、ステップ(2)において、アルブミン希釈液は、6~25 mg/mLのアルブミンが含まれ、好ましくは10~20 mg/mLであり、より好ましくは12~18 mg/mLであり、最も好ましくは15 mg/mLである。
【0042】
そのうち、ステップ(2)において、前記酸は、酸性アミノ酸又は酸性ペプチド、有機酸、無機酸から選択される。前記酸性アミノ酸又は酸性ペプチドは、システイン塩酸塩、グルタチオン等を含むが、それらには限らず、前記有機酸は、クエン酸、酒石酸等を含むが、それらには限らず、前記無機酸は、塩酸、硫酸等を含むが、それらには限らない。前記酸は、好ましくはシステイン塩酸塩、グルタチオン、塩酸であり、より好ましくはシステイン塩酸塩である。前記pH値は、好ましくは3.5~5.5であり、好ましくは3.5~5.0であり、より好ましくは3.8~4.7であり、最も好ましくは4.0~4.5である。
【0043】
そのうち、ステップ(2)において、前記インキュベートとは、酸を加えてpH値を調整した後、35℃~42℃まで昇温し、好ましくは38℃~42℃であり、30 min以上インキュベートし、好ましくは30 min~60 minであることを指す。
【0044】
そのうち、ステップ(2)において、前記塩溶液は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム又は硫酸マグネシウムの水溶液から選択され、好ましくは塩化ナトリウムの水溶液であり、塩溶液の濃度は、2%以上であり、好ましくは2%~35%であり、より好ましくは10%~20%である。
【0045】
そのうち、ステップ(3)において、薬物を負荷する条件としては、有機相溶液、水相溶液を35℃~42℃まで昇温し、好ましくは38℃~42℃であり、三者を混合して薬物を負荷する。
【0046】
そのうち、ステップ(3)に記載の降温とは、室温より低い温度まで降温し、好ましくは0~20℃であり、より好ましくは7~15℃である。
【0047】
そのうち、ステップ(4)に記載の濃縮液に約4~10 mg/mLのドセタキセルが含まれ、好ましくは6~10 mg/mLであり、より好ましくは7~9 mg/mLであり、最も好ましくは8 mg/mLである。
【0048】
そのうち、ステップ(4)で透析して余分の小分子化合物を除去することは、透析液の種類と用量、透析膜の分画分子量には特別な制限がなく、当業者は、一般的な技術知識又は経験によって選択することができる。更に製剤と臨床における使用の便宜のために、透析液は、好ましくは臨床的に許容される浸透圧調整剤の水溶液であり、例えば塩化ナトリウム、グルコース、リン酸塩又はクエン酸塩の水溶液である。幾つかの実施形態において、ステップ(4)において透析液として塩化ナトリウム溶液を使用して透析する。透析膜の分画分子量が10~50 KDaであり、好ましくは10~30 KDaであり、より好ましくは10 KDa又は30 KDaである。透析液の体積は、薬物負荷溶液又は濃縮液の約3倍以上であり、好ましくは3~10倍であり、より好ましくは3~6倍である。前記塩化ナトリウム溶液の濃度は1.8%(w/v)以下であり、好ましくは0.45%~1.8%(w/v)であり、より好ましくは0.9%~1.8%(w/v)である。
【0049】
幾つかの実施形態において、ステップ(2)に使用されたヒト血清アルブミン溶液は、オクタン酸ナトリウムの含有量を事前に調整する必要がある。当業者は、一般的な技術知識又は経験によって適切な方法を選択してヒト血清アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量を調整することができ、透析を含むが、それに限定されない。
幾つかの実施例において、ヒト血清アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量を調整する方法は以下のとおりである:
市販のヒト血清アルブミン溶液を取り、注射用水又は生理食塩水で希釈し、希釈されたアルブミン溶液を取得し、注射用水又は生理食塩水を透析液として希釈されたアルブミン溶液を透析することによって、オクタン酸ナトリウムを部分的に除去し、オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液を取得する。
【0050】
幾つかの実施形態において、ヒト血清アルブミン溶液の希釈倍数は、4倍以上であり、好ましくは4~7倍である。前記透析において、透析膜の分画分子量が10~50 KDaであり、好ましくは10~30 KDaであり、より好ましくは10 KDa又は30 KDaである。透析液の体積は、当業者が必要なオクタン酸ナトリウムの含有量に基づき、通常の試験によって決定できるものである。好ましくは、透析液の体積は、希釈されたアルブミン溶液の体積の約3倍以上であり、好ましくは3~10倍であり、より好ましくは3~6倍である。
【0051】
前記オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液に、0.16 mmol/gタンパク質未満のオクタン酸ナトリウムが含まれ、好ましくは0.12 mmol/gタンパク質未満であり、好ましくは0.10 mmol/gタンパク質未満であり、好ましくは0.08 mmol/gタンパク質未満である。前記オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液は、本発明に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物の調製に直接に使用されてもよく、他のオクタン酸ナトリウムの含有量のヒト血清アルブミン溶液と比例して混合し、希望の含有量を取得した後、ドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物の調製に使用されてもよい。
【0052】
別の態様では、本発明は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物を更に提供し、それは上記方法で調製されたものである。
【0053】
前記調製方法において、透析ステップは、薬物負荷溶液又は濃縮液における余分な小分子化合物を除去する。例えば、幾つかの実施形態において、ステップ(2)に酸性アミノ酸又は酸性ペプチドを使用してpHを調整して酸変性アルブミンを調製し、透析ステップは、基本的に余分な酸性アミノ酸又は酸性ペプチドを除去し、前記組成物には、ほとんど遊離の酸性アミノ酸又は酸性ペプチドが含まれない。前記「ほとんど遊離の酸性アミノ酸又は酸性ペプチドが含まれない」とは、組成物における遊離の酸性アミノ酸又は酸性ペプチドの含有量は、ドセタキセルの0.25%(w/w)未満である。例えば、幾つかの実施形態において、システイン塩酸塩又はグルタチオンを使用してpHを調整して酸変性アルブミンを調製し、前記組成物における遊離システイン又はグルタチオンの含有量は、ドセタキセルの0.25%(w/w)未満である。
【0054】
更に、本発明は、薬物を更に提供し、それは、上記方法でできたドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる組成物によって調製される。前記薬物は、臨床的に許容される剤形であり、好ましくは注射剤であり、更に好ましくは液体注射剤又は凍結乾燥粉末注射剤である。
【0055】
別の態様では、本発明は、ヒト血清アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量を調整する方法を更に提供し、以下のステップを含む:
市販のヒト血清アルブミン溶液を取り、注射用水又は生理食塩水で希釈し、希釈されたアルブミン溶液を取得し、注射用水又は生理食塩水を透析液として希釈されたアルブミン溶液を透析することによって、オクタン酸ナトリウムを部分的に除去し、オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液を取得する。
【0056】
幾つかの実施形態において、ヒト血清アルブミン溶液の希釈倍数は、4倍以上であり、好ましくは4~7倍である。前記透析において、透析膜の分画分子量が10~50 KDaであり、好ましくは10~30 KDaであり、より好ましくは10 KDa又は30 KDaである。透析液の体積は、当業者が必要なオクタン酸ナトリウムの含有量に基づき、通常の試験によって決定できるものである。好ましくは、透析液の体積は、希釈されたアルブミン溶液の体積の約3倍以上であり、好ましくは3~10倍であり、より好ましくは3~6倍である。
【0057】
前記オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液に、0.16 mmol/gタンパク質未満のオクタン酸ナトリウムが含まれ、好ましくは0.12 mmol/gタンパク質未満であり、好ましくは0.10 mmol/gタンパク質未満であり、好ましくは0.08 mmol/gタンパク質未満である。
【0058】
前記オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液は、本発明に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物の調製に直接に使用されてもよく、他のオクタン酸ナトリウムの含有量のヒト血清アルブミン溶液と比例して混合し、希望の含有量を取得した後、ドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物の調製に使用されてもよい。
【0059】
本発明に記載のドセタキセルの含有量は何れも無水ドセタキセルに基づくものである。
【0060】
本発明に記載の数値又は数値の範囲は、本発明の実施に影響を与えることなく、当業者が理解できる範囲内で上下に変動でき、前記変動範囲は、例えば±20%、又は±17%、又は±15%、又は±12%、又は±10%、又は±9%、又は±8%、又は±7%、又は±6%、又は±5%、又は±4%、又は±3%、又は±2%、又は±1%である。
【0061】
本発明に記載の「…によって製造される」は、オープンな表現であり、他の任意成分の存在を排除するものではなく、例えば、前述した「前記組成物は、ドセタキセルと酸変性アルブミンによって製造される」は、「前記組成物は、ドセタキセルと酸変性アルブミンを原料とする原料組成物によって製造される」又は「前記組成物は、ドセタキセルと酸変性アルブミンを主な成分とする原料によって製造される」と理解すべきである。
【0062】
本発明の驚くべき発見は、アルブミンにおける熱安定剤であるオクタン酸ナトリウムが製品の物理的安定性に対して大きな影響を与える。その理由としては、オクタン酸ナトリウムが薬物と競合的にアルブミンの疎水性部位に結合することができ、薬物とタンパク質との結合力を低下させ、ナノ懸濁液の不安定をもたらすことである。市販のヒト血清アルブミン溶液を直接に補助物質とする場合(0.16 mmol/gタンパク質のオクタン酸ナトリウムが含まれる)、10h内、ナノ粒子に沈降が発生するが、透析手段を使用してアルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量を低下させ、それを0.08 mmol/gタンパク質未満にする場合、できたナノ粒子の安定性が大きく向上し、25℃の条件で少なくとも24h以上安定的に保持でき、2~8℃で少なくとも10日間以上安定して放置できる。
【0063】
次は、pH値もドセタキセルアルブミンナノ粒子の物理的安定性に影響を与える重要な要素である。先行技術で調製されたドセタキセルアルブミンナノ粒子懸濁液のpH値は何れもアルブミンの等電点以上であり、懸濁液の安定性を維持するために、安定剤として大量の有機酸又はその塩を添加する必要がある。それによって、薬物の浸透圧がより高く、臨床で使用された場合、明らかな痛みを引き起こし、注射された局所細胞及び組織の浸透圧損傷を引き起こす。しかし、本出願は、酸変性アルブミンで、ドセタキセルアルブミンナノ粒子を調製し、アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量を制御し、他の塩系安定剤を追加する必要がなく、再構成された安定した等張懸濁液は、血管に対する刺激が小さい。
【0064】
その他、CN103054798Aは、無水ドセタキセルで調製されたナノ粒子の安定性は、ドセタキセル三水和物と半水和物より、明らかに優れていることが教示される。しかし、本発明の技術案において、ドセタキセルのクリスタルウォーター状況、即ち無水型、半水和物、三水和物は、調製されたドセタキセルアルブミンナノ粒子の組成物の安定性に影響を与えない。これは、ドセタキセルの使用形態の選択範囲を大きく広げ、産業の応用価値が非常に大きい。
【0065】
本発明は、物理的と化学的に安定したドセタキセルアルブミン組成物を提供する。本発明によって提供された組成物について、加速及び長期な安定性考察から、7-エピ-ドセタキセル、タンパク質ポリマーに変化が少ないことが示され、既に完成した加速安定性試験は、凍結乾燥粉末は30℃と25℃の条件で18か月安定的に保存することができ、既存データによって予測すると、30℃の条件で少なくとも20か月安定的に保存でき、25℃以下の条件で少なくとも36か月安定的に保存できることが示される。既に完成した静置安定性の観察試験から、本発明によって提供された組成物は、凍結乾燥前の懸濁液でも、凍結乾燥後の再構成懸濁液でも、室温の条件で少なくとも24時間安定することができ、冷蔵条件で少なくとも10日間安定することができ、懸濁液の濁り又はナノ粒子の沈降が出ず、より長時間放置する安定性考察が行われていると示される。市販製品の再構成懸濁液に対し、わずか8h安定する状況と比べると、本発明の製品は、臨床での使用への制限を大きく減少した。その他、本発明によって提供されたドセタキセルアルブミン組成物は、市販のドセタキセル注射液(タキソテール、TAXOTERE)と比べると、最大耐量(MTD)がより高く、毒性がより小さい。従って、本発明によって提供されたドセタキセルアルブミン組成物は、ドセタキセルの臨床使用量を向上させ、しかも臨床での使用の安全性を向上させることができると期待される。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下の実施例は、本発明の具体的な説明であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0067】
特に指定しない限り、実施例に記載の「安定」とは、ナノ粒子の沈降又は懸濁液の濁りが発生しなかったことを意味する。
【0068】
特に指定しない限り、実施例に記載の「再構成懸濁液」が等張懸濁液である。
【0069】
実施例1 ドセタキセルとアルブミンの組成物の調製
ドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物の処方は以下のとおりである:
【0070】
【表1】
【0071】
(1)8 gの無水ドセタキセルを秤量して120 mLのエタノールに溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、
(2)処方量のヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.08 mmol/gタンパク質である)を、注射用水で15 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、そして適量なシステイン塩酸塩を添加してpHを4.1に調整し、42℃で30 minインキュベートし、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、塩化ナトリウムを注射用水で20%の濃度の塩溶液に調製した。
【0072】
(3)有機相溶液と水相溶液を42℃まで昇温し、有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、取得した材料を氷水浴に放置して15℃まで降温し、薬物負荷溶液を取得し、
(4)薬物負荷溶液を約8 mg/mLの濃度のドセタキセルを含むまで濃縮し、濃縮液を取得し、塩化ナトリウム溶液を透析液とし、濃縮液に対して5倍の透析を行い、透析膜分画分子量が30 KDaであり、透析後の懸濁液を取得し、そして、4 mg/mLのドセタキセルを含むまで、透析液を適量に添加して懸濁液の濃度を調整し、
(5)0.45 μm+0.2 μmのメンブレンによって除菌して濾過し、凍結乾燥前の懸濁液を取得し、
(6)ステップ(5)で取得した凍結乾燥前の懸濁液を取り、凍結乾燥し、凍結乾燥粉末を取得した。
【0073】
結果から、透析ステップは、オクタン酸ナトリウムの含有量を低減することが示された。透析ステップの終わり、透析後の懸濁液における塩化ナトリウムの濃度と透析液における塩化ナトリウムの初濃度は、基本的に同じである。動的光散乱法で、懸濁液におけるナノ粒子の粒子径を検出し、懸濁液を静置して沈降現象を観察した。表2の結果から、透析液における塩化ナトリウムの含有量は、凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液におけるドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径に著しい影響がないことが示された。各処方の凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液を、25℃の条件で24時間静置し、溶液には濁り又は沈殿は出ず、2~8℃で10日間静置しても、溶液には濁り又は沈殿は出なかった。各処方の凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、2~8℃で少なくとも10日間安定することが示唆されている。凍結乾燥前後、安定性に著しい変化がなかった。
【0074】
処方1-1と1-4を比較する結果から分かるように、ドセタキセルとアルブミンとの用量比例を調整しても、ナノ粒子の粒子径、懸濁液の安定性に著しい影響がなかった。
【0075】
その他、発明者は、また中国薬局方2020年版4部通則0512を参照し、高速液体クロマトグラフィーで透析後の懸濁液におけるシステインの含有量を検出した。結果から、透析後の懸濁液にほとんど遊離システイン(含有量はドセタキセルの0.25%(w/w)未満である)が含まれないことが示された。
【0076】
発明者は、また透析前後の懸濁液のpH値を検出し、透析前後の懸濁液のpH値は、基本的に変化しないことが発見された。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例2
ドセタキセル三水和物(無水ドセタキセルに基づくと8 gである)を秤量して160 mLの無水エタノールに溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、16 gのアルブミンが含まれるヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.08 mmol/gタンパク質である)を取り、注射用水で10 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、そして適量なシステイン塩酸塩を添加してpHを4.5に調整し、40℃で1時間インキュベートし、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、塩化ナトリウムを注射用水で10%の濃度の塩溶液に調製し、有機相溶液と水相溶液を40℃まで昇温し、有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、取得した材料を氷水浴に放置して18℃まで降温し、薬物負荷溶液を取得し、約10 mg/mLの濃度のドセタキセルを含むまで薬物負荷溶液を濃縮し、濃縮液を取得し、等張塩化ナトリウム(0.9%、w/v)溶液を透析液として濃縮液に対して6倍の透析を行い、透析膜分画分子量が30 KDaであり、透析後の懸濁液を取得し、0.45 μm+0.2 μmのメンブレンによって除菌して濾過し、凍結乾燥前の懸濁液を取得し、凍結乾燥し、凍結乾燥粉末を取得した。
【0079】
凍結乾燥前の懸濁液において、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が101.3 nmであり、25℃の条件で24時間静置しても、2~8℃で10日間静置しても、溶液には濁り又は沈殿は出なかった。注射用水で凍結乾燥粉末を再溶解して再構成懸濁液(等張懸濁液)を取得し、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径に明らかな変化が出ず、103.5 nmであり、再構成懸濁液は、25℃の条件で24時間静置しても、2~8℃で10日間静置しても、溶液には濁り又は沈殿は出なかった。凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、2~8℃で少なくとも10日間安定することが示唆されている。
【0080】
高速液体クロマトグラフィーの検出から、透析後の懸濁液にほとんど遊離システイン(含有量はドセタキセルの約0.13%(w/w)である)が含まれないことを示した。透析前後の懸濁液のpH値は、基本的に変化しなかった。
【0081】
実施例3
ドセタキセル半水和物(無水ドセタキセルに基づくと8 gである)を秤量して80 mL 96%のエタノールに溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、50gのアルブミンが含まれるヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.08 mmol/gタンパク質である)を取り、注射用水で20 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、そして適量なシステイン塩酸塩を添加してpHを3.9に調整し、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、塩化ナトリウムを注射用水で2%の濃度の塩溶液に調製し、有機相溶液と水相溶液を35℃まで昇温し、有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、取得した材料を氷水浴に放置して12℃まで降温し、薬物負荷溶液を取得し、約7 mg/mLの濃度のドセタキセルを含むように薬物負荷溶液を濃縮し、濃縮液を取得し、等張塩化ナトリウム(0.9%、w/v)溶液を透析液として濃縮液に対して5倍の透析を行い、透析膜分画分子量が10 KDaであり、透析後の懸濁液を取得し、0.45 μm+0.2 μmのメンブレンによって除菌して濾過し、凍結乾燥前の懸濁液を取得し、凍結乾燥し、凍結乾燥粉末を取得した。
【0082】
凍結乾燥前の懸濁液と凍結乾燥粉末は、注射用水で再溶解されて再構成懸濁液(等張懸濁液)を取得し、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径に有意差がなく、凍結乾燥前は、119.7 nmであり、再構成後は、121.3 nmであり、25℃の条件で24時間静置しても、又は2~8℃で10日間静置しても、凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液には何れも溶液の濁り又は沈殿が出なかった。凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、2~8℃で少なくとも10日間安定することが示唆されている。高速液体クロマトグラフィーの検出から、透析後の懸濁液にほとんど遊離システイン(含有量はドセタキセルの約0.21%(w/w)である)が含まれないことが示された。透析前後の懸濁液のpH値は、基本的に変化しなかった。
【0083】
実施例4 組成物の安定性に対するドセタキセルの使用形態の影響
無水ドセタキセル、ドセタキセル半水和物、ドセタキセル三水和物(無水ドセタキセルに基づくと何れも8 gである)を秤量して120 mLのエタノールに溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、36 gのアルブミンが含まれるヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.08 mmol/gタンパク質である)を取り、注射用水で20 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、そして適量なシステイン塩酸塩を添加してpHを4.3に調整し、42℃で60 minインキュベートし、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、塩化ナトリウムを注射用水で10%の濃度の塩溶液に調製し、有機相溶液と水相溶液を42℃まで昇温し、有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、取得した材料を氷水浴に放置して12℃まで降温し、薬物負荷溶液を取得し、約7 mg/mLの濃度のドセタキセルを含むように薬物負荷溶液を濃縮し、濃縮液を取得し、等張塩化ナトリウム溶液を透析液として濃縮液に対して5倍の透析を行い、透析膜分画分子量が30 KDaであり、透析後の懸濁液を取得し、0.45 μm+0.2 μmのメンブレンによって除菌して濾過し、凍結乾燥前の懸濁液を取得し、凍結乾燥し、凍結乾燥粉末を取得した。
【0084】
以下の表3の結果から、それぞれ無水ドセタキセル、ドセタキセル半水和物、ドセタキセル三水和物を原料とし、同じ方法でドセタキセルアルブミンナノ粒子を調製し、取得したナノ粒子の粒子径に明らかな相違がなく、何れも約110 nmであり、且つ凍結乾燥前後、明らかな変化がなかったことが見られる。しかも、凍結乾燥前の懸濁液、凍結乾燥粉末は、注射用水で再溶解された再構成懸濁液(4 mg/mLのドセタキセルが含まれる)の安定性は、明らかな相違がなく、25℃の条件で24時間静置しても、2~8℃で10日間静置しても、溶液には濁り又は沈殿は出なかった。上記凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液は、25℃の条件で少なくとも24時間安定し、2~8℃で少なくとも10日間安定することが示唆されている。ドセタキセルにクリスタルウォーターがあるかどうかは本発明の実施に影響を与えないことが分かる。
【0085】
高速液体クロマトグラフィーの検出から、透析後の懸濁液にほとんど遊離システイン(含有量はドセタキセルの0.25%(w/w)未満)が含まれないことが示された。
【0086】
【表3】
【0087】
実施例5 化学的安定性の考察
実施例1における処方1-1で取得したドセタキセルアルブミンナノ粒子が含まれる凍結乾燥粉末をバイアルに放置し、ゴム栓とアルミキャップを押し付け、異なる保存条件で18か月保存し、製品における7-エピ-ドセタキセルの含有率及びタンパク質ポリマーの含有量と時間との関係を考察し、結果は表4に示されるとおりである。
【0088】
【表4】
【0089】
表4の結果から、7-エピ-ドセタキセルの生じは、保存温度に関係があり、保存温度が高ければ、7-エピ-ドセタキセルの含有量の増加が速いことが示される。本発明の製品は、7-エピ-ドセタキセルの形成を効果的に制御できる。表4の結果から、上記の三種類の試験条件で、本発明の製品における7-エピ-ドセタキセルの含有量は何れも制御可能な範囲(含有量≦1.0%)にあり、且つタンパク質ポリマーの含有量に明らかな変化がないことが示される。既存データによって予測すると、本発明の製品は、30℃の条件で少なくとも20か月安定して保存でき、25℃以下の条件で少なくとも36か月安定して保存できる。
【0090】
APIの原料がドセタキセルの他の形態である場合、例えば半水和物と三水和物である場合、上記試験条件で、その化学的安定性(7-エピ-ドセタキセルの含有率及びタンパク質ポリマーの含有量)の変化状況は、無水ドセタキセルを原料とする場合と類似である。
【0091】
中国特許CN106137969Aに、処方においてアルギニン、プロリン等を添加して阻害剤とし、アルギニンを阻害剤とする効果が一番よいと考えられ、2~8℃の条件で少なくとも24か月保存でき、更に30か月に達することができる。当該特許によって提供されたデータから、前記製品が2~8℃の条件で12か月保存する場合、7-エピ-ドセタキセルの含有量が0.5~0.61%にあると示されるが、本発明は、25℃の条件で12か月保存する場合、7-エピ-ドセタキセルの含有量はわずか約0.41%であり、2~8℃の条件で12か月保存する場合、7-エピ-ドセタキセルの含有量は、わずか0.14%であり、本発明がCN106137969Aと比べると、ドセタキセルの化学的安定性を更に効果的に保証できることを説明するだけで十分である。
【0092】
実施例6 組成物の安定性に対するオクタン酸ナトリウムの含有量の影響
8 gの無水ドセタキセルを秤量して120 mLのエタノールに溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、
異なる濃度のオクタン酸ナトリウムが含まれるヒト血清アルブミン溶液(36 gのヒト血清アルブミンが含まれる)を取り、注射用水で15 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、そして適量なシステイン塩酸塩を添加してpHを4.2に調整し、42℃で30 minインキュベートし、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、塩化ナトリウムを注射用水で15%の濃度の塩溶液に調製し、
有機相溶液と水相溶液を42℃まで昇温し、有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、取得した材料を氷水浴に放置して15℃まで降温し、薬物負荷溶液を取得し、約8 mg/mLの濃度のドセタキセルを含むまで薬物負荷溶液を濃縮し、濃縮液を取得し、等張塩化ナトリウム溶液を透析液として濃縮液に対して5倍の透析(透析膜分画分子量が30 KDaである)を行い、透析後の懸濁液を取得し、0.45 μm+0.2 μmのメンブレンによって除菌して濾過し、凍結乾燥前の懸濁液を取得し、凍結乾燥し、凍結乾燥粉末を取得した。
【0093】
表5の結果から、原料におけるオクタン酸ナトリウムの含有量は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径に明らかな影響がないことが示された。しかし、直接に市販のヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウム0.16 mmol/gタンパク質が含まれる)を原料としてドセタキセルアルブミンナノ粒子を調製すると、25℃で10h放置すると濁りが出て、凍結乾燥前の懸濁液と再構成等張懸濁液の物理的安定性がよくなかった。ヒト血清アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量を低減することは、ナノ粒子懸濁液の物理的安定性の改善に有利である。ヒト血清アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量が0.08 mmol/gタンパク質未満である場合、25℃で24h以上安定した懸濁状態を保持でき、安定時間は、オクタン酸ナトリウム0.16 mmol/gタンパク質が含まれるサンプルの2倍以上である。ヒト血清アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量が0.08 mmol/gタンパク質未満である場合、前記凍結乾燥前の懸濁液と再構成等張懸濁液は、2~8℃で少なくとも安定して10日間以上放置できる。
【0094】
【表5】
【0095】
実施例7 安定性に対する水相溶液pH値の影響
製品の安定性に対する水相溶液pH値の影響を比較した。プロセス処方と調製方法は、実施例1の処方1-1を参照し、ステップ(2)だけでシステイン塩酸塩を使用して水相溶液のpHをそれぞれ7.0、6.5、6.0、5.5、5.0、4.7、4.1、3.8、3.5に調製した。凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液におけるナノ粒子の粒子径及び懸濁液安定性の変化を観察した。
【0096】
研究から、水相溶液pHが3.5~5.5の範囲にある場合、取得したナノ粒子の粒子径は、pHが高くなるにつれて少し増加するが、凍結乾燥再溶解が粒子径に対して明らかな影響がないことが発見された。水相溶液pHが3.5~5.5の範囲にある場合、取得した凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液は、何れも25℃で20h以上安定した懸濁状態を保持でき、2~8℃で少なくとも7日間安定した懸濁状態を保持できた。更に、水相溶液pHが3.8~4.7の範囲にある場合、凍結乾燥前の懸濁液、再構成懸濁液は、25℃で30h静置しても、2~8℃で10日間静置しても、安定した懸濁状態を保持できた。凍結乾燥再溶解が安定性に対して明らかな影響がなかった。
【0097】
しかし、水相溶液pHが6.0以上である場合、取得したナノ粒子の粒子径は、著しく増加し、pH6.0の場合、ナノ粒子の粒子径は、180 nmまで増加した。しかも、水相溶液pHが6.0より高い場合、懸濁液の安定性は明らかに低減し、1h以内に濁りが出て、ナノ粒子の安定した懸濁状態を保持できなかった。
【0098】
【表6】
【0099】
実施例8 オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液の調製
実施例8-1
市販のヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.16 mmol/gタンパク質である)を取り、注射用水で15 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、アルブミン希釈液を取得し、注射用水を透析液としてアルブミン希釈液を透析(膜包分画分子量が30 KDaである)し、透析倍数が6倍であり、タンパク質におけるオクタン酸ナトリウムを部分的に除去し、オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液を取得した。
【0100】
中国薬局方に収録されたヒト血清アルブミン溶液におけるオクタン酸ナトリウムの測定方法(中国薬局方2020年版四部3111)を参照して取得したタンパク質溶液におけるオクタン酸ナトリウムの含有量を検出し、結果から、処理後のタンパク質溶液に含まれたオクタン酸ナトリウムは、約0.045 mmol/gタンパク質であることが示される。
【0101】
実施例8-2
市販のヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.16 mmol/gタンパク質である)を取り、生理食塩水で12 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、アルブミン希釈液を取得し、生理食塩水を透析液としてアルブミン希釈液を透析(膜包分画分子量が10 KDaである)し、透析の倍数が5倍であり、タンパク質におけるオクタン酸ナトリウムを部分的に除去し、オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液を取得した。検出から、取得したオクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液に含まれたオクタン酸ナトリウムは、約0.060 mmol/gタンパク質である。
【0102】
実施例8-3
市販のヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.16 mmol/gタンパク質である)を取り、注射用水で20 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、アルブミン希釈液を取得し、注射用水を透析液としてアルブミン希釈液を透析(膜包分画分子量が30 KDaである)し、透析の倍数が3倍であり、タンパク質におけるオクタン酸ナトリウムを部分的に除去し、オクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液を取得した。検出から、取得したオクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液に含まれたオクタン酸ナトリウムは、約0.080 mmol/gタンパク質である。
【0103】
保存又は使用の便宜上、以上の実施例8-1~8-3のオクタン酸ナトリウムの含有量が低いヒト血清アルブミン溶液に対して更に濃縮処理を行うことができる。
【0104】
実施例9 タンパク質の二次構造に対するプロセスフローの影響
実施例1-1の処方と調製方法によって、薬物負荷ナノ懸濁液とブランク懸濁液(ステップ(1)では薬物であるドセタキセルを加えない)を調製し、円二色スペクトルでヒト血清アルブミン溶液、ブランク懸濁液と薬物負荷ナノ懸濁液におけるタンパク質の各二次構造の比例を考察し、結果は、表7のように示される。
【0105】
結果から、プロセスフロー全体を経て調製されたブランク懸濁液と薬物負荷ナノ懸濁液は、タンパク質の二次構造αヘリックス、βシート、ターン及びランダムコイルから見ると、ヒト血清アルブミン溶液と比べると、相違が存在することが示され、当該プロセスがアルブミンの二次構造の変化を起こしたことが説明される。
【0106】
研究の結果から、本発明は、透析ステップで酸を除去しても、酸変性アルブミンの二次構造は依然として変性前の状態へ戻らないことが示唆される。しかも、ドセタキセルを結合した後、薬物を負荷するアルブミンの二次構造は、薬物を負荷しない酸変性アルブミンに対して更に変化を起こした。
【0107】
【表7】
【0108】
実施例10 CN 106137969 B(201510157393.1)特許の実施例1を参考した調製
無水ドセタキセルを1.5 g秤量して100 mLの無水エタノールに溶解し、超音波溶解後、油相溶液を取得し、7.5 gのアルブミンが含まれるヒト血清アルブミン溶液(濃度が200 mg/mLであり)を取り、注射用水で6 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、水相体積は合計で1250 mLである。水相に500 mgLのグルタチオンを添加し、しかも70℃で6 minインキュベートした。油相を1000 rpmの高せん断で水相に均一に分散し、懸濁液を取得した。
【0109】
当該懸濁液は白色で乳光がなく、目視観察では濁り、多くの析出物が見られ、10分間放置した後、沈殿が出て、当業者は、取得した懸濁液安定性がより低く、特許の内容によって引き続き操作できないと考える。従って、本研究方法でできた製品の保存安定性データは、特許に提供された保存安定性データと比べると、発明者は、本研究の製品の安定性は特許CN 106137969 Bより明らかに優れていることを証明するのに十分であると考える。
【0110】
【表8】
【0111】
実施例11 タンパク質薬物比1.5の影響の考察(同時にタンパク質の濃度を5 mg/mLに下げ)
1.6 gの無水ドセタキセルを秤量して23.7 mLの無水エタノールに溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、濃度が67.5 mg/mLであり、2.4 gのアルブミンが含まれるヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.08 mmol/gタンパク質である)を取り、注射用水で5 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、そして適量なシステイン塩酸塩を添加してpHを4.0に調整し、40℃で0.5hインキュベートし、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、塩化ナトリウムを注射用水で14.4%の濃度の塩溶液に調製し、有機相溶液と水相溶液を40℃まで昇温し、有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、取得した材料を氷水浴に放置して18℃まで降温し、薬物負荷溶液を取得し、約6 mg/mLの濃度のドセタキセルを含むまで薬物負荷溶液を濃縮し、濃縮液を取得し、等張塩化ナトリウム(0.9%、w/v)溶液を透析液として濃縮液に対して5倍の透析を行い、透析膜分画分子量が30 KDaであり、透析後の懸濁液を取得し、0.45 μm+0.2 μmのメンブレンによって除菌して濾過し、凍結乾燥前の懸濁液を取得し、凍結乾燥し、凍結乾燥粉末を取得した。
【0112】
凍結乾燥前の懸濁液において、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が91.38 nmであり、25℃の条件で20時間静置し、完全に濁った。注射用水で凍結乾燥粉末を再溶解して再構成懸濁液(等張懸濁液)を取得し、目視観察では、再構成懸濁液は濁った。
【0113】
実施例12 異なる透析液の影響の考察
1.8 gの無水ドセタキセルを秤量して26.7 mLの無水エタノールに溶解し、溶解後、有機相溶液を取得し、濃度が67.5 mg/mLであり、8.1gのアルブミンが含まれるヒト血清アルブミン溶液(オクタン酸ナトリウムの含有量が0.08 mmol/gタンパク質である)を取り、注射用水で15 mg/mLのアルブミンが含まれる溶液に希釈し、そして適量なシステイン塩酸塩を添加してpHを4.0に調整し、40℃で0.5hインキュベートし、酸変性アルブミン水相溶液を取得し、塩化ナトリウムを注射用水で14.4%の濃度の塩溶液に調製し、有機相溶液と水相溶液を40℃まで昇温し、有機相溶液、水相溶液及び塩溶液を混合して薬物を負荷し、取得した材料を氷水浴に放置して18℃まで降温し、薬物負荷溶液を取得し、約6 mg/mLの濃度のドセタキセルを含むまで薬物負荷溶液を濃縮し、濃縮液を取得し、
(1)等張塩化ナトリウム(5%、w/v)溶液を透析液として濃縮液に対して5倍の透析を行い、透析膜分画分子量が30 KDaであり、透析後の懸濁液を取得し、0.45 μm+0.2 μmのメンブレンによって除菌して濾過し、凍結乾燥前の懸濁液を取得し、凍結乾燥し、凍結乾燥粉末を取得した。
凍結乾燥前の懸濁液において、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が102.2 nmであり、25℃の条件で16時間静置し、底部に多くの沈殿が出て、2~8℃で16時間静置し、光透過率が低下した。注射用水で凍結乾燥粉末を再溶解して再構成懸濁液(等張懸濁液)を取得し、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径に明らかな変化が出ず、103.3 nmであり、再構成懸濁液は、25℃の条件で既に濁った。
【0114】
(2)等張PBS緩衝液(pHが7.31、浸透圧が320 mOsmol/Kgである)を透析液として濃縮液に対して5倍の透析を行い、透析膜分画分子量が30 KDaであり、透析後の懸濁液を取得し、0.45 μm+0.2 μmのメンブレンによって除菌して濾過し、凍結乾燥前の懸濁液を取得し、凍結乾燥し、凍結乾燥粉末を取得した。
【0115】
凍結乾燥前の懸濁液において、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径が92.43 nmであり、25℃の条件で16時間静置し、底部にわずかな沈殿が出て、2~8℃で24日間静置し、光透過率が低下した。注射用水で凍結乾燥粉末を再溶解して再構成懸濁液(等張懸濁液)を取得し、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒子径に明らかな変化が出ず、90.91 nmであり、再構成懸濁液は、25℃の条件で2.5h析出が見られた。
【0116】
実施例13 ヌードマウスにおける注射用ドセタキセル(アルブミン結合型)(DTX~HSA)とドセタキセル注射液(TAXOTERE)との間の最大耐量(MTD)及び毒性の比較
1. 薬品及び試験材料
1.1 試験品
注射用ドセタキセル(アルブミン結合型)(DTX~HSA)は、本出願の実施例1における処方1-1を採用し、実施例1の調製方法で調製して得られた。
【0117】
1.2 対照薬
ドセタキセル注射液(商品名:タキソテール)
【0118】
【表9】
【0119】
2. 実験動物
【0120】
【表10】
【0121】
3. 実験設計
3.1 実験原理
本試験は、マウスの静脈に対する薬物投与の最大耐量(MTD)を、観察期間内、動物には死亡と回復不可能な毒性反応がなく、又は3日間連続して15%を超える体重減少がない用量と定義し、当該用量は、急性単回投与の最大耐量と考えられる。
【0122】
3.2 投与用量の設定
再溶解後、DTX~HSAの等張濃度が3.801 mg/mLであり、2001年欧州製薬団体連合会と欧州代替法検証センターが共同で発行した動物に対して異なるロードでの投与又は採血する際に許容可能な投与体積と採血体積ガイドラインを参照し、マウスのゆっくり静脈内注射の最大投与容積が25 mL/kgである。24 h内3回投与し、最大用量は285.1 mg/kgに達することができる。
【0123】
本試験の予備選択用量:
注射用ドセタキセル(アルブミン結合型):285.1、228.1、182.5、146.0 mg/kg(勾配1.25)。
【0124】
ドセタキセル注射液(TAXOTERE):187.5、150、120、96 mg/kg(勾配1.25)。
【0125】
4. 実験方法
4.1 動物のグループ分け及びマーク
健康な、体重の相違の小さいマウスを選択し、体重によって均一に8グループに分け、グループごとに5匹のマウスがあり、それぞれは、DTX-HSA 285.1、228.1、182.5、146.0 mg/kgグループ及びTAXOTERE 187.5、150、120、96 mg/kgグループである。
【0126】
4.2 投与
投与方式:静注投与
投与頻度:投与間隔は4hとし、24 h以内に3回投与する。
【0127】
投与体積:25 mL/kg
投与速度:スローインジェクション
投与量:最新の計量に基づいて投与量を計算する。
【0128】
4.3 指標観察
一般的な状態観察:全ての動物は、試験期間中、毎日観察し、観察指標は、皮膚、被毛、目、耳、鼻、口、胸部、腹部、泌尿生殖器、四肢等の部位、及び呼吸、運動、泌尿、排便及び行動の変化等を含むが、それらに限定されない。動物有害反応について、下の表を参照する。
【0129】
体重:全ての動物は、試験前体重を1回秤量し、適切な体重動物を選択して試験に使用される。毎日、固定時間で動物の体重を1回秤量する。
【0130】
死亡と瀕死:死亡した動物に対して死亡時間を記録し、瀕死動物に対して観察の頻度を高めるように注意し、試験期間中、死亡時間を確認する。
【0131】
4.4 評価指標
観察期間中、マウスには死亡がなく、回復不可能な毒性症状がなく、3日間連続して15%を超える体重減少がない最大用量は、本実験薬物の最大耐量(MTD)と考えられる。
【0132】
5. 実験結果
5.1 死亡状況
DTX-HSAとTAXOTEREの各投与グループには何れも動物の死亡が見られない。
【0133】
5.2 臨床観察
DTX-HSA 285.1と228.1 mg/kgグループの動物は、それぞれD4とD7から、軽度の後肢振戦が見られ、228.1 mg/kgグループの動物は、D20に後肢振戦症状が回復し、285.1 mg/kgグループの動物は、D22に後肢振戦症状が回復した。DTX-HSA 182.5と146.0 mg/kgグループの動物には明らかな異常が見られなかった。
【0134】
TAXOTERE 187.5、150 mg/kgグループの動物は、それぞれD4とD6から、軽中度の後肢振戦が見られ、150 mg/kgグループの動物は、D19に後肢振戦症状が回復し、187.5 mg/kgグループの動物は、D24に後肢振戦症状が回復した。TAXOTERE 120と96 mg/kgグループの動物には明らかな異常が見られなかった。
【0135】
5.3 体重
DTX-HSA 285.1 mg/kgグループの1/5匹の動物はD5~D8に、体重の15%超を失い、1/5匹の動物は、D10、D12、D13に、体重の15%超を失い、他のDTX-HSA投与グループに体重の15%超を失った動物が見られなかった。
TAXOTERE 187.5 mg/kgグループの1/5匹の動物は、D4~D14に、体重の15%超を失い、他のTAXOTERE投与グループには、体重の15%超を失った動物が見られなかった。
【0136】
【表11】
【0137】
6. 結論
本試験条件で、DTX-HSAヌードマウスMTDが228.1 mg/kgであり、TAXOTEREヌードマウスMTDが150.0 mg/kgである。