(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-13
(45)【発行日】2025-05-21
(54)【発明の名称】復旧・輸送計画案作成装置及び復旧・輸送計画案作成方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/40 20240101AFI20250514BHJP
G06Q 10/06 20230101ALI20250514BHJP
B65G 61/00 20060101ALI20250514BHJP
【FI】
G06Q50/40
G06Q10/06
B65G61/00 542
(21)【出願番号】P 2022027750
(22)【出願日】2022-02-25
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中川 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇正
(72)【発明者】
【氏名】深澤 紀子
【審査官】▲高▼瀬 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-111087(JP,A)
【文献】特開2019-091389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
B65G 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案を作成する復旧・輸送計画案作成装置であって、
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する輸送需要設定手段と、
各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する復旧計画案算出手段であって、当該各日について、1)各支障区間の前記復旧度合を判定することと、2)前記輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた前記輸送量上限に基づいて算出することと、3)前記取扱実績予想量で前記輸送需要を輸送できない残余分である残余輸送量を算出することと、を行って前記復旧計画案を算出する復旧計画案算出手段と、
前記復旧計画案算出手段による各日の算出結果に基づいて輸送計画案を算出する輸送計画案算出手段と、
を備え、
前記輸送計画案算出手段は、
各日について、前記残余輸送量を前記通常輸送経路とは一部又は全部が異なる前記輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を前記輸送計画案の1つとして算出する迂回輸送計画案算出手段と、
前記輸送区間の一部又は全部を代行輸送手段による代行輸送区間とする代行輸送ネットワークを設定する代行輸送ネットワーク設定手段と、
各日について、前記迂回輸送計画案の迂回輸送で前記残余輸送量を輸送できない残余分である迂回残余輸送量を前記代行輸送ネットワークで輸送する代行輸送計画案を前記輸送計画案の1つとして算出する代行輸送計画案算出手段と、
を有する、
復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項2】
前記迂回輸送計画案算出手段は、各支障区間の前記復旧度合に応じた前記輸送量上限が前記取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たす前記迂回輸送計画案を算出する、
請求項1に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項3】
各輸送区間には、輸送単価が定められており、
前記迂回輸送計画案算出手段は、前記輸送単価に基づく迂回輸送に係る輸送コストに基づいて前記迂回輸送計画案を算出する、
請求項1又は2に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項4】
前記代行輸送計画案算出手段は、所定の代行輸送量最大化条件を満たす前記代行輸送計画案を算出する、
請求項1~3の何れか一項に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項5】
前記代行輸送ネットワーク設定手段は、前記代行輸送手段による代行輸送単価と、前記輸送手段と前記代行輸送手段との間の積み替えが可能な結節拠点における積み替えコストと、を更に設定し、
前記代行輸送計画案算出手段は、前記代行輸送単価と前記積み替えコストとに基づいて前記代行輸送計画案を算出する、
請求項1~4の何れか一項に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項6】
前記代行輸送計画案に従った代行輸送がなされなかった輸送量を翌日の前記残余輸送量に追加する保管輸送量算出手段、
を更に備え、
前記迂回輸送計画案算出手段は、前記保管輸送量算出手段による追加後の前記残余輸送量に基づいて前記迂回輸送計画案を算出する、
請求項1~5の何れか一項に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項7】
前記拠点のうち、支障拠点について、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要なリソースの積算量を示す拠点必要リソース積算量と、当該復旧度合において当該支障拠点で発着可能な輸送量の発着輸送量上限と、が定められており、
前記支障拠点に対する1日当たりの拠点投入上限リソース量を設定する拠点投入上限リソース量設定手段、
を更に備え、
前記復旧計画案算出手段は、前記支障拠点へのリソース投入に係る拠点復旧計画案を各日の前記支障拠点に投入するリソース量の合計が前記拠点投入上限リソース量以下となるように算出する、
請求項1~6の何れか一項に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項8】
前記支障拠点のうち、前記輸送手段と前記代行輸送手段との間の積み替えが可能な結節拠点である支障結節拠点について、前記復旧度合に応じた積み替え輸送量上限が定められており、
前記代行輸送計画案算出手段は、前記支障結節拠点を経由する輸送量である積み替え輸送量が、前記復旧度合に応じて定められた前記積み替え輸送量上限以下となるように、前記代行輸送計画案を算出する、
請求項7に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項9】
前記復旧計画案算出手段は、各支障拠点の前記復旧度合に応じた前記発着輸送量上限と、各支障区間の前記復旧度合に応じた前記輸送量上限とに基づいて、前記輸送ネットワークに前記輸送需要を適用した場合の前記2)の取扱実績予想量の算出を行う、
請求項7又は8に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項10】
前記必要リソース積算量の低減対象となる前記支障区間である投資対象区間と、当該必要リソース積算量の所与の低減量を示す投資コストと、を定めた投資計画案を設定する投資計画案設定手段と、
前記投資計画案設定手段により設定された投資計画案に従って前記必要リソース積算量を低減する当該投資計画案の適用前後それぞれに基づく前記復旧計画案を前記復旧計画案算出手段に作成させることと、当該復旧計画案算出手段の算出結果に基づいて前記輸送計画案算出手段に前記輸送計画案を算出させることと、を行い、当該輸送計画案に基づく所定のコストを当該投資計画案の適用前後で比較した比較結果と、前記投資コストと、を用いて当該投資計画案を評価する投資計画案評価制御手段と、
を備える請求項1~9の何れか一項に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項11】
前記必要リソース積算量の低減対象となる前記支障区間である投資対象区間と、当該必要リソース積算量の所与の低減量を示す投資コストと、前記拠点必要リソース積算量の低減対象となる前記支障拠点である投資対象拠点と、当該拠点必要リソース積算量の所与の低減量を示す拠点投資コストと、を定めた投資計画案を設定する投資計画案設定手段と、
前記投資計画案設定手段により設定された投資計画案に従って前記必要リソース積算量及び前記拠点必要リソース積算量を低減する当該投資計画案の適用前後それぞれに基づく前記復旧計画案を前記復旧計画案算出手段に作成させることと、当該復旧計画案算出手段の算出結果に基づいて前記輸送計画案算出手段に前記輸送計画案を算出させることと、を行い、当該輸送計画案に基づく所定のコストを当該投資計画案の適用前後で比較した比較結果と、前記投資コストと、前記拠点投資コストと、を用いて当該投資計画案を評価する投資計画案評価制御手段と、
を備える請求項7~9の何れか一項に記載の復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項12】
拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案を作成する復旧・輸送計画案作成装置であって、
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する輸送需要設定手段と、
各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する復旧計画案算出手段であって、当該各日について、1)各支障区間の前記復旧度合を判定することと、2)前記輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた前記輸送量上限に基づいて算出することと、3)前記輸送需要に対する前記取扱実績予想量の残余分である残余輸送量を算出することと、を行って前記復旧計画案を算出する復旧計画案算出手段と、
前記復旧計画案算出手段による各日の算出結果に基づいて輸送計画案を算出する輸送計画案算出手段と、
を備え、
前記輸送計画案算出手段は、
各日について、前記残余輸送量を前記通常輸送経路とは一部又は全部が異なる前記輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を算出する迂回輸送計画案算出手段であって、各支障区間の前記復旧度合に応じた前記輸送量上限が前記取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たす前記迂回輸送計画案を前記輸送計画案の1つとして算出する迂回輸送計画案算出手段、
を有する、
復旧・輸送計画案作成装置。
【請求項13】
拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案をコンピュータシステムが作成するための復旧・輸送計画案作成方法であって、
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する輸送需要設定ステップと、
各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する復旧計画案算出ステップであって、当該各日について、1)各支障区間の前記復旧度合を判定することと、2)前記輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた前記輸送量上限に基づいて算出することと、3)前記取扱実績予想量で前記輸送需要を輸送できない残余分である残余輸送量を算出することと、を行って前記復旧計画案を算出する復旧計画案算出ステップと、
各日について、前記残余輸送量を前記通常輸送経路とは一部又は全部が異なる前記輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を輸送計画案の1つとして算出する迂回輸送計画案算出ステップと、
前記輸送区間の一部又は全部を代行輸送手段による代行輸送区間とする代行輸送ネットワークを設定する代行輸送ネットワーク設定ステップと、
各日について、前記迂回輸送計画案の迂回輸送で前記残余輸送量を輸送できない残余分である迂回残余輸送量を前記代行輸送ネットワークで輸送する代行輸送計画案を輸送計画案の1つとして算出する代行輸送計画案算出ステップと、
を含む復旧・輸送計画案作成方法。
【請求項14】
拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案をコンピュータシステムが作成するための復旧・輸送計画案作成方法であって、
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する輸送需要設定ステップと、
各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する復旧計画案算出ステップであって、当該各日について、1)各支障区間の前記復旧度合を判定することと、2)前記輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた前記輸送量上限に基づいて算出することと、3)前記輸送需要に対する前記取扱実績予想量の残余分である残余輸送量を算出することと、を行って前記復旧計画案を算出する復旧計画案算出ステップと、
各日について、前記残余輸送量を前記通常輸送経路とは一部又は全部が異なる前記輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を算出する迂回輸送計画案算出ステップであって、各支障区間の前記復旧度合に応じた前記輸送量上限が前記取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たす前記迂回輸送計画案を輸送計画案の1つとして算出する迂回輸送計画案算出ステップと、
を含む復旧・輸送計画案作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送ネットワークの復旧及び輸送の計画案を作成する復旧・輸送計画案作成装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道では、豪雨や豪雪、暴風、地震等の異常な自然現象による自然災害に伴って線路の支障が発生した場合、点検・補修等の復旧作業を行った後に運転再開となる。早期の運転再開のためには、速やかに支障箇所の復旧を行う必要がある。近年では、大地震や大型台風といった大規模自然災害による広範囲での支障発生が増加している。鉄道事業者には安定した輸送力が求められており、災害発生後も列車運行を継続しながら早期の復旧を図る必要がある。このような災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画の作成を支援する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、大規模自然災害が多発していることから、鉄道事業者は、将来起こり得る次の大規模自然災害に対する防災・減災を目的とした駅や線路の改修といった鉄道設備への設備投資を進めている。しかしながら、大規模自然災害では支障が発生し得る範囲が広大であることから設備投資の対象となる鉄道設備は多数であり、どの箇所に重点的に設備投資をすることが、防災・減災の観点から効果的かという評価が必要となる。
【0005】
具体的には、復旧作業に際して、鉄道事業者には、迅速な輸送力の回復は勿論のこと、災害発生時に被る損失コストを軽減したいという要望がある。このことから、防災・減災のための設備投資計画に対する評価指標としては、コストの観点からの評価が有益であると考えられる。
【0006】
ところが、災害発生から完全復旧までの復旧期間中に生じる損失コストは、復旧期間中の輸送をどうするかといった輸送計画、並びに、その輸送計画を実行するための前提となる復旧計画に依存する。そして、復旧計画それ自体も、設備投資計画によって変化し得る。従って、設備投資計画をコストの観点から評価するためには、設備投資計画の内容に応じた復旧計画案を算出し、この復旧計画案の下での輸送計画を算出して、復旧期間中の輸送を定量化する必要がある。復旧計画案及び輸送計画案を適切に作成する技術が必要となるのである。
【0007】
これらの問題は、鉄道に限らず、高速道路といった他の輸送ネットワークについても同様である。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、輸送ネットワークの復旧計画案及び輸送計画案を適切に作成可能とする技術を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明は、
拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案を作成する復旧・輸送計画案作成装置であって、
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する輸送需要設定手段(例えば、
図37の輸送需要設定部202)と、
各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する復旧計画案算出手段であって、当該各日について、1)各支障区間の前記復旧度合を判定することと、2)前記輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた前記輸送量上限に基づいて算出することと、3)前記取扱実績予想量で前記輸送需要を輸送できない残余分である残余輸送量を算出することと、を行って前記復旧計画案を算出する復旧計画案算出手段(例えば、
図37の復旧計画案算出部204)と、
前記復旧計画案算出手段による各日の算出結果に基づいて輸送計画案を算出する輸送計画案算出手段(例えば、
図37の輸送計画案算出部210)と、
を備え、
前記輸送計画案算出手段は、
各日について、前記残余輸送量を前記通常輸送経路とは一部又は全部が異なる前記輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を前記輸送計画案の1つとして算出する迂回輸送計画案算出手段(例えば、
図37の迂回輸送計画案算出部212)と、
前記輸送区間の一部又は全部を代行輸送手段による代行輸送区間とする代行輸送ネットワークを設定する代行輸送ネットワーク設定手段と、
各日について、前記迂回輸送計画案の迂回輸送で前記残余輸送量を輸送できない残余分である迂回残余輸送量を前記代行輸送ネットワークで輸送する代行輸送計画案を前記輸送計画案の1つとして算出する代行輸送計画案算出手段(例えば、
図37の代行輸送計画案算出部216)と、
を有する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0010】
他の発明として、
拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案をコンピュータシステムが作成するための復旧・輸送計画案作成方法であって、
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する輸送需要設定ステップと、
各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する復旧計画案算出ステップであって、当該各日について、1)各支障区間の前記復旧度合を判定することと、2)前記輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた前記輸送量上限に基づいて算出することと、3)前記取扱実績予想量で前記輸送需要を輸送できない残余分である残余輸送量を算出することと、を行って前記復旧計画案を算出する復旧計画案算出ステップと、
各日について、前記残余輸送量を前記通常輸送経路とは一部又は全部が異なる前記輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を輸送計画案の1つとして算出する迂回輸送計画案算出ステップと、
前記輸送区間の一部又は全部を代行輸送手段による代行輸送区間とする代行輸送ネットワークを設定する代行輸送ネットワーク設定ステップと、
各日について、前記迂回輸送計画案の迂回輸送で前記残余輸送量を輸送できない残余分である迂回残余輸送量を前記代行輸送ネットワークで輸送する代行輸送計画案を輸送計画案の1つとして算出する代行輸送計画案算出ステップと、
を含む復旧・輸送計画案作成方法を構成してもよい。
【0011】
第1の発明等によれば、輸送ネットワークの復旧計画案及び輸送計画案を適切に作成することが可能となる。つまり、各日の支障区間へ投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるような適切な復旧計画案を作成し、当該復旧計画案の下での適切な輸送計画案を作成することができる。特に、輸送計画案の作成においては、各日について、各支障区間の復旧度合に応じた輸送量上限に基づく輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量と、当該取扱実績予想量で輸送需要を輸送できない残余分である残余輸送量とを算出する。そして、各日の取扱実績予想量及び残余輸送量に基づいて、輸送計画案を算出する。輸送計画案としては、迂回輸送計画案と代行輸送計画案とを算出する。迂回輸送計画案は、残余輸送量を通常輸送経路とは一部又は全部が異なる迂回輸送経路で輸送する輸送計画案である。代行輸送計画案は、迂回輸送で残余輸送量を輸送できない残余分である迂回残余輸送量を、輸送区間の一部又は全部を代行輸送手段による代行輸送区間とする代行輸送ネットワークで輸送する輸送計画案である。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、
前記迂回輸送計画案算出手段は、各支障区間の前記復旧度合に応じた前記輸送量上限が前記取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たす前記迂回輸送計画案を算出する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0013】
第2の発明によれば、迂回輸送計画案を、各支障区間の復旧度合に応じた輸送量上限が取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たすように作成することができる。これにより、迂回輸送量が最大化された、利用者の観点から最適な迂回輸送計画案を作成することが可能となる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
各輸送区間には、輸送単価が定められており、
前記迂回輸送計画案算出手段は、前記輸送単価に基づく迂回輸送に係る輸送コストに基づいて前記迂回輸送計画案を算出する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0015】
第3の発明によれば、迂回輸送計画案を、迂回輸送に係る輸送コストに基づいて算出することができる。迂回輸送に係る輸送コストは、各輸送区間に定められた輸送単価に基づく。これにより、例えば、迂回輸送に係る輸送コストを最小化する迂回輸送計画案を作成することが可能となる。輸送ネットワークを運営する事業者の観点から好適な迂回輸送計画案となり得る。
【0016】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記代行輸送計画案算出手段は、所定の代行輸送量最大化条件を満たす前記代行輸送計画案を算出する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0017】
第4の発明によれば、代行輸送計画案を、所定の代行輸送量最大化条件を満たすように、算出することができる。これにより、代行輸送量を最大化する代行輸送計画案を算出することが可能となる。輸送ネットワークを利用する利用者の観点から好適な代行輸送計画案となり得る。
【0018】
第5の発明は、第1~第4の何れかの発明において、
前記代行輸送ネットワーク設定手段は、前記代行輸送手段による代行輸送単価と、前記輸送手段と前記代行輸送手段との間の積み替えが可能な結節拠点における積み替えコストと、を更に設定し、
前記代行輸送計画案算出手段は、前記代行輸送単価と前記積み替えコストとに基づいて前記代行輸送計画案を算出する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0019】
第5の発明によれば、代行輸送計画案を、代行輸送手段による代行輸送単価と、輸送手段と代行輸送手段との間の積み替えが可能な結節拠点における積み替えコストとに基づいて、算出することができる。これにより、例えば、積み替えコストを考慮した代行輸送に係るコストを最小化する代行輸送計画案を作成することが可能となる。輸送ネットワークを運営する事業者の観点から好適な代行輸送計画案となり得る。
【0020】
第6の発明は、第1~第5の発明において、
前記代行輸送計画案に従った代行輸送がなされなかった輸送量を翌日の前記残余輸送量に追加する保管輸送量算出手段(例えば、
図37の保管輸送量算出部218)、
を更に備え、
前記迂回輸送計画案算出手段は、前記保管輸送量算出手段による追加後の前記残余輸送量に基づいて前記迂回輸送計画案を算出する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0021】
第6の発明によれば、代行輸送計画案に従った代行輸送がなされなかった輸送量を翌日の残余輸送量に追加した追加後の残余輸送量に基づいて、迂回輸送計画案を算出することができる。これにより、現実に即した輸送計画案を作成することが可能となる。
【0022】
第7の発明は、第1~第6の何れかの発明において、
前記拠点のうち、支障拠点について、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要なリソースの積算量を示す拠点必要リソース積算量と、当該復旧度合において当該支障拠点で発着可能な輸送量の発着輸送量上限と、が定められており、
前記支障拠点に対する1日当たりの拠点投入上限リソース量を設定する拠点投入上限リソース量設定手段(例えば、
図37の拠点投入上限リソース量設定部206)、
を更に備え、
前記復旧計画案算出手段は、前記支障拠点へのリソース投入に係る拠点復旧計画案を各日の前記支障拠点に投入するリソース量の合計が前記拠点投入上限リソース量以下となるように算出する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0023】
第7の発明によれば、各日の支障拠点へ投入するリソース量に係る拠点復旧計画案を作成することができる。これにより、輸送区間についての復旧計画案に加えて、拠点についての拠点復旧計画案をも作成することが可能となる。
【0024】
第8の発明は、第7の発明において、
前記支障拠点のうち、前記輸送手段と前記代行輸送手段との間の積み替えが可能な結節拠点である支障結節拠点について、前記復旧度合に応じた積み替え輸送量上限が定められており、
前記代行輸送計画案算出手段は、前記支障結節拠点を経由する輸送量である積み替え輸送量が、前記復旧度合に応じて定められた前記積み替え輸送量上限以下となるように、前記代行輸送計画案を算出する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0025】
第8の発明によれば、代行輸送計画案を、支障拠点のうち、輸送手段と代行輸送手段との間の積み替えが可能な支障結節拠点を経由する積み替え輸送量が、当該支障結節拠点の復旧度合いに応じて定められた積み替え輸送量上限以下となるように算出することができる。
【0026】
第9の発明は、第7又は第8の発明において、
前記復旧計画案算出手段は、各支障拠点の前記復旧度合に応じた前記発着輸送量上限と、各支障区間の前記復旧度合に応じた前記輸送量上限とに基づいて、前記輸送ネットワークに前記輸送需要を適用した場合の前記2)の取扱実績予想量の算出を行う、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0027】
第9の発明によれば、支障拠点の復旧度合いに応じた発着輸送量上限と、支障区間の復旧度合いに応じた輸送量上限とに基づいて、輸送ネットワークに輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量の算出を行うことができる。
【0028】
第10の発明は、第1~第9の何れかの発明において、
前記必要リソース積算量の低減対象となる前記支障区間である投資対象区間と、当該必要リソース積算量の所与の低減量を示す投資コストと、を定めた投資計画案を設定する投資計画案設定手段と、
前記投資計画案設定手段により設定された投資計画案に従って前記必要リソース積算量を低減する当該投資計画案の適用前後それぞれに基づく前記復旧計画案を前記復旧計画案算出手段に作成させることと、当該復旧計画案算出手段の算出結果に基づいて前記輸送計画案算出手段に前記輸送計画案を算出させることと、を行い、当該輸送計画案に基づく所定のコストを当該投資計画案の適用前後で比較した比較結果と、前記投資コストと、を用いて当該投資計画案を評価する投資計画案評価制御手段と、
を備える復旧・輸送計画案作成装置である。
【0029】
第10の発明によれば、投資対象区間と当該投資対象区間の必要リソース積算量の低減量を示す投資コストとを定めた投資計画案を設定し、当該投資計画案の適用前後それぞれに基づく復旧計画案と当該復旧計画案の算出結果に基づく輸送計画案とを算出する。そして、輸送計画案に基づく所定のコストを投資計画案の適用前後で比較した比較結果と投資コストとを用いて、投資計画案を評価することができる。これにより、投資計画案の適用前後の復旧計画案、及び、当該復旧計画案に従った輸送計画を用いて、防災・減災を目的とした輸送区間への投資計画案をコストの観点から評価することが可能となる。
【0030】
第11の発明は、第7~第9の何れかの発明において、
前記必要リソース積算量の低減対象となる前記支障区間である投資対象区間と、当該必要リソース積算量の所与の低減量を示す投資コストと、前記拠点必要リソース積算量の低減対象となる前記支障拠点である投資対象拠点と、当該拠点必要リソース積算量の所与の低減量を示す拠点投資コストと、を定めた投資計画案を設定する投資計画案設定手段と、
前記投資計画案設定手段により設定された投資計画案に従って前記必要リソース積算量及び前記拠点必要リソース積算量を低減する当該投資計画案の適用前後それぞれに基づく前記復旧計画案を前記復旧計画案算出手段に作成させることと、当該復旧計画案算出手段の算出結果に基づいて前記輸送計画案算出手段に前記輸送計画案を算出させることと、を行い、当該輸送計画案に基づく所定のコストを当該投資計画案の適用前後で比較した比較結果と、前記投資コストと、前記拠点投資コストと、を用いて当該投資計画案を評価する投資計画案評価制御手段と、
を備える復旧・輸送計画案作成装置である。
【0031】
第11の発明によれば、投資対象区間と、当該投資対象区間の必要リソース積算量の低減量を示す投資コストと、投資対象拠点と当該投資対象拠点の拠点必要リソース積算量の低減量を示す拠点必要リソース積算量の低減量を示す拠点投資コストと、を定めた投資計画案を設定する。また、当該投資計画案の適用前後それぞれに基づく復旧計画案と当該復旧計画案の算出結果に基づく輸送計画案とを算出する。そして、輸送計画案に基づく所定のコストを投資計画案の適用前後で比較した比較結果と投資コストと(拠点投資コストと)を用いて、投資計画案を評価することができる。これにより、投資計画案の適用前後の復旧計画案、及び、当該復旧計画案に従った輸送計画を用いて、防災・減災を目的とした輸送区間への投資計画案をコストの観点から評価することが可能となる。
【0032】
第12の発明は、
拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案を作成する復旧・輸送計画案作成装置であって、
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する輸送需要設定手段(例えば、
図37の輸送需要設定部202)と、
各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する復旧計画案算出手段であって、当該各日について、1)各支障区間の前記復旧度合を判定することと、2)前記輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた前記輸送量上限に基づいて算出することと、3)前記輸送需要に対する前記取扱実績予想量の残余分である残余輸送量を算出することと、を行って前記復旧計画案を算出する復旧計画案算出手段(例えば、
図37の復旧計画案算出部204)と、
前記復旧計画案算出手段による各日の算出結果に基づいて輸送計画案を算出する輸送計画案算出手段(例えば、
図37の輸送計画案算出部210)と、
を備え、
前記輸送計画案算出手段は、
各日について、前記残余輸送量を前記通常輸送経路とは一部又は全部が異なる前記輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を算出する迂回輸送計画案算出手段であって、各支障区間の前記復旧度合に応じた前記輸送量上限が前記取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たす前記迂回輸送計画案を前記輸送計画案の1つとして算出する迂回輸送計画案算出手段(例えば、
図37の迂回輸送計画案算出部212)、
を有する、
復旧・輸送計画案作成装置である。
【0033】
他の発明として、
拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案をコンピュータシステムが作成するための輸送計画案作成方法であって、
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(以下、復旧資源のことを「リソース」という。)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められており、
所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する輸送需要設定ステップと、
各日の前記支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する復旧計画案算出ステップであって、当該各日について、1)各支障区間の前記復旧度合を判定することと、2)前記輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた前記輸送量上限に基づいて算出することと、3)前記輸送需要に対する前記取扱実績予想量の残余分である残余輸送量を算出することと、を行って前記復旧計画案を算出する復旧計画案算出ステップと、
各日について、前記残余輸送量を前記通常輸送経路とは一部又は全部が異なる前記輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を算出する迂回輸送計画案算出ステップであって、各支障区間の前記復旧度合に応じた前記輸送量上限が前記取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たす前記迂回輸送計画案を輸送計画案の1つとして算出する迂回輸送計画案算出ステップと、
を含む復旧・輸送計画案作成方法を構成してもよい。
【0034】
第12の発明等によれば、輸送ネットワークの復旧計画案及び輸送計画案を適切に作成することが可能となる。つまり、各日の支障区間へ投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるような適切な復旧計画案を作成し、当該復旧計画案の下での適切な輸送計画案を作成することができる。特に、輸送計画案の作成においては、各日について、各支障区間の復旧度合に応じた輸送量上限に基づく輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量と、当該取扱実績予想量で輸送需要を輸送できない残余分である残余輸送量とを算出する。そして、各日の取扱実績予想量及び残余輸送量に基づいて、輸送計画案を算出する。輸送計画案としては、残余輸送量を通常輸送経路とは一部又は全部が異なる迂回輸送経路で輸送する迂回輸送計画案を、各支障区間の復旧度合に応じた輸送量上限が取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たすように作成する。これにより、迂回輸送量が最大化された迂回輸送計画案を作成することが可能となる。輸送ネットワークを利用する利用者の観点から好適な迂回輸送計画案となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図3】復旧・輸送計画案作成処理のフローチャート。
【
図17】リンク復旧計画案の算出における決定変数の一覧。
【
図20】ノード復旧計画案の算出における決定変数の一覧。
【
図28】迂回輸送計画案の算出における決定変数の一覧。
【
図33】代行輸送計画案の算出における決定変数の一覧。
【
図38】復旧・輸送計画案作成装置の記憶部の機能構成図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0037】
[概要]
本実施形態の復旧・輸送計画案作成装置1は、輸送ネットワークに対して策定した設備投資計画案をコストの観点から評価するために、当該輸送ネットワークに災害発生に伴う支障が発生することを想定し、その場合の復旧計画案、及び、その復旧計画案の下での輸送計画案を作成する装置である。災害とは大地震や大型台風といった大規模自然災害を想定している。災害の影響により、輸送ネットワークにおいて、復旧資源であるリソースの投入が必要な支障状態となった輸送区間や拠点である支障区間や支障拠点が発生する。リソースとは、具体的には復旧作業に投入できる人員や作業機械等のことであるが、本実施形態では、代表して人員をリソースとして説明する。
【0038】
設備投資計画案とは、将来起こり得る大規模自然災害を想定して、防災・減災を目的とした駅や線路の改修といった鉄道設備への設備投資の計画案であり、どの鉄道設備にどの程度の設備投資を実施するかといった内容となっている。輸送ネットワークに対して設備投資計画案に従った設備投資を実施すると、当該設備投資を実施した支障区間や支障拠点については、復旧に必要なリソースが減少し得るため、完全復旧に要する日数が減少し得る。その結果、輸送計画案も変化し得る。
【0039】
復旧・輸送計画案作成装置1は、詳細を後述するように、輸送ネットワークに災害発生に伴う支障が発生した場合の復旧計画案及び輸送計画案を算出するとともに、その輸送計画に従った輸送を実施した場合の損失コストを算出する。損失コストは、災害が発生していない平常時の輸送コストに対する、当該輸送計画に従った輸送を実施した場合の災害発生から完全復旧までの復旧期間中に生じる輸送コストの増分として算出する。
【0040】
この損失コストを用いることで、設備投資計画案をコストの観点から評価することができる。例えば、所与の輸送ネットワークに対する複数の設備投資計画案を策定する。そして、これらの設備投資計画案それぞれについて、当該設備投資計画案の実施に要する投資コストと、輸送ネットワークに当該設備投資計画案を実施した後に所与の災害が発生したことを想定して、その場合に生じる損失コストとの合計コストを求め、これらの設備投資計画案毎の合計コストを比較することで、設備投資計画案をコストの観点から評価する。
【0041】
(A)輸送ネットワーク
図1は、輸送ネットワークの一例である。輸送ネットワークは、拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である。本実施形態では、拠点をノードとし、輸送区間をリンクとした無向グラフで表現する。また、鉄道貨物を輸送する鉄道輸送ネットワークを輸送ネットワークとする。つまり、ノードである拠点は、貨物駅や信号所等である。リンクである輸送区間は、輸送手段が貨物列車である鉄道線区(鉄道リンク)、及び、輸送手段がトラック等である道路(道路リンク)である。
【0042】
輸送ネットワークにおいて、輸送対象である鉄道貨物が、予め定められた発拠点である発ノードから着拠点である着ノードまでリンクを通って輸送される。鉄道貨物の輸送経路には、輸送形態(通常輸送・迂回輸送・代行輸送)に応じた通常輸送経路、迂回輸送経路、及び、代行輸送経路の3種類がある。通常輸送経路は、平常時の輸送経路として予め定められた経路であり、鉄道リンクのみを通る経路である。迂回輸送経路は、後述する輸送計画案の1つである迂回輸送計画案に従って迂回輸送される際の経路であり、鉄道リンクのみを通るが通常輸送経路とは一部又は全部が異なる経路である。代行輸送経路は、後述する輸送計画案の1つである代行輸送計画案に従って代行輸送される際の経路であり、一部又は全部に道路リンクを含む経路である。つまり、道路リンクは代行輸送のみに使用される。
【0043】
(B)復旧・輸送計画案の作成の概要
図2は、復旧及び輸送の計画案の作成の概要を示す図である。
図2に示すように、復旧・輸送計画案作成装置1に、入力データとして、輸送ネットワークに関する情報、当該輸送ネットワークにおける平常時の鉄道貨物の通常輸送取扱量である輸送需要の情報、災害発生に伴う当該輸送ネットワークに生じた支障に関する情報、当該輸送ネットワークに復旧や復旧途中における鉄道貨物の輸送に関する各種制約条件、といったデータが入力される。復旧・輸送計画案作成装置1は、これらの入力データを用いて、生じた支障に対する輸送ネットワークの復旧計画案、及び、当該復旧計画案の下での輸送需要に対する輸送計画案、当該輸送計画案に従った輸送を実施した場合に生じる損失コストを算出し、出力データとして出力する。
【0044】
(C)処理の概要
図3は、復旧・輸送計画案作成装置1が行う復旧・輸送計画案作成処理の流れの概要を示すフローチャートである。
【0045】
復旧・輸送計画案作成装置1は、先ず、入力された支障に関する情報に従って、輸送ネットワークにおいて支障が生じたリンク(支障リンク)及びノード(支障ノード)を設定する(ステップS1)。支障とは、復旧資源であるリソースの投入が必要な状態となったことである。但し、支障が生じるリンクは鉄道リンクのみとし、道路リンクには支障が生じないとする。つまり、鉄道リンクのみが支障リンクとなり、道路リンクは支障リンクとはならないこととする。また、災害発生直後は、支障リンク・支障ノードを含む全ての鉄道リンク・ノードは機能停止状態となり、鉄道貨物の輸送が不可能(不通)になるとする。そして、支障リンク・支障ノードについては点検作業及び復旧作業を経て復旧(鉄道貨物の輸送が可能な状態となること)し、支障が生じていない鉄道リンク・ノードについては点検作業を経て復旧することとする。
【0046】
次いで、輸送ネットワークの復旧計画案の1つとして、リンクの復旧計画案であるリンク復旧計画案を作成する(ステップS3)。リンク復旧計画案は、全てのノードが復旧している(支障が生じていないともいえる)と仮定して作成する。続いて、ノードの復旧計画案であるノード復旧計画案を作成する(ステップS5)。ノード復旧計画案は、上述のリンク復旧計画案に従って各リンクが順次復旧するとして作成する。
【0047】
復旧計画案とは、災害発生から輸送ネットワーク全体の完全復旧まで(復旧期間)の各日について、復旧資源(リソース)である作業要員の投入数(充当数)の計画案である。つまり、リンク復旧計画案は、各日における各リンクへ投入する作業要員数の計画案であり、ノード復旧計画案は、各日における各ノードへ投入する作業要員数の計画案である。
【0048】
復旧計画案の作成にあたり、本実施形態では、各鉄道リンク・ノードに対して、先ずは点検作業を行い、当該点検作業の終了後に復旧作業を行うこととする。また、各作業の作業要員(点検要員・復旧要員)は、別々に定められることとする。そして、各鉄道リンク・ノードには、点検作業の終了に必要な点検要員の積算数である必要点検要員積算数が定められている。
【0049】
また、各鉄道リンク・ノードは、復旧作業によって機能停止状態から完全復旧状態まで段階的に復旧することとし、段階的な各復旧度合に至るまでに必要な復旧要員の積算数である必要復旧要員積算数が定められている。本実施形態では、復旧度合を、仮復旧状態及び完全復旧状態の二段階とするが、三段階以上としてもよい。つまり、鉄道リンク・ノードは、機能停止状態・点検済状態・仮復旧状態・完全復旧状態のいずれかの状態をとる。また、1日当たりの輸送ネットワーク全体に投入可能な各作業要員(点検要員・復旧要員)の総数、及び、1日当たりの各鉄道リンク・ノードそれぞれに投入可能な各作業要員(点検要員・復旧要員)には、上限が定められている。
【0050】
復旧計画案(リンク復旧計画案・ノード復旧計画案)は、損失輸送量・損失輸送力の最小化を図るように作成される。ここで、輸送力とは、輸送することができる能力・ポテンシャルの意味であり、1日当たりに輸送することが可能な最大量を指す。従って、損失輸送力とは、支障によって元の輸送力から減少した分の輸送力を意味する。復旧計画案の作成に際して、損失輸送量・損失輸送力は、鉄道リンク・ノードで構成される輸送ネットワーク、つまり、道路リンクを除いた輸送ネットワークを対象として考える。これは、道路リンクは支障が発生しないとともに、輸送力に制限がないとの前提に基づく。
【0051】
輸送ネットワークにおいて、各鉄道リンクには、1日当たりに輸送可能な輸送量の上限である輸送力が定められている。なお、道路リンクの輸送力には制限はない。また、各ノードにも、1日当たりに出発・到着可能な輸送量の上限である輸送力(出発可能な輸送量の上限である発輸送力、到着可能な輸送量の上限である着輸送力、出発又は到着が可能な輸送量の上限である発着輸送力)が定められている。従って、輸送ネットワーク全体としての輸送力に制限があることになる。
【0052】
図4は、損失輸送量・損失輸送力を説明する図である。
図4では、横軸を経過時間(日)とし、縦軸を輸送ネットワーク全体の輸送量としている。先ず、輸送ネットワークには、支障が生じていない平常時において当該輸送ネットワーク全体で輸送可能な輸送量の上限である最大輸送力が定められている。輸送需要は、この最大輸送力を超えない量として定められる。災害発生直後は、全ての鉄道リンク・ノードが機能停止状態となるから、輸送ネットワーク全体において輸送可能な輸送量である取扱実績予想量は0(ゼロ)となる。以降は、各鉄道リンク・ノードの復旧に伴って輸送ネットワーク全体において通常輸送経路で輸送可能な輸送量である取扱実績予想量が増加してゆく。
図4では、取扱実績予想量の変化を破線で示している。この取扱実績予想量が輸送需要に達すると、輸送需要の全てが通常輸送経路での輸送が可能となる。この時点が部分復旧である。なお、
図4では、輸送需要は各日で同じとしているが、日毎に異なる場合も同様である。
【0053】
損失輸送量は、取扱実績予想量が輸送需要を下回る場合に生じ、災害発生直後から部分復旧までの期間において、輸送需要から取扱実績予想量を差し引いた量の各日の積算値である。
図4でドット状のハッチングが施された領域の面積に相当する。つまり、損失輸送量は、輸送需要のうち通常輸送経路で輸送できない残余分である残余輸送量であり、取扱実績予想量で輸送需要を輸送できない残余分に相当する。損失輸送力は、部分復旧から完全復旧までの期間において、輸送ネットワーク全体の輸送力から輸送需要を差し引いた量の各日の積算値である。
図4で斜線のハッチングが施された領域の面積に相当する。復旧計画案は、原則として、各日の輸送需要のうち定められた通常輸送経路で輸送される輸送量の最大化を図るように、言い換えれば、定められた通常輸送経路で輸送されない輸送量の最小化を図るように作成される。
【0054】
復旧計画案(リンク復旧計画案・ノード復旧計画案)を作成すると、続いて、作成した復旧計画案(リンク復旧計画案・ノード復旧計画案)の下での輸送需要の輸送計画案を作成する。復旧計画案の下では、日毎に各リンク・ノードの復旧度合が異なることから、日毎に各リンク・ノードの輸送力が異なることになる。このため、災害発生日(第0日)から輸送ネットワーク全体が完全復旧する日(第D日)までの各日(第d日:d=0,1,・・,D)についての輸送計画案を順次作成する。なお、輸送需要は、各日において同じであるとする。
【0055】
輸送計画案として、先ず、上述の復旧計画案に従った場合に通常輸送経路で輸送できない残余分である残余輸送量を、通常輸送経路とは一部又は全部が異なる迂回輸送経路で迂回輸送する第d日の迂回輸送計画案を作成する(ステップS7)。この迂回輸送計画案は、鉄道リンク・ノードで構成される輸送ネットワーク、つまり、道路リンクを除いた輸送ネットワークを対象として算出する。
【0056】
続いて、この迂回輸送計画案に従った場合に迂回輸送されない残余分である残余迂回輸送量を、一部又は全部に道路リンクを含む代行輸送経路で代行輸送する第d日の代行輸送計画案を作成する(ステップS9)。この代行輸送計画案は、鉄道リンク・道路リンク・ノードで構成される輸送ネットワーク、つまり、迂回輸送計画案の算出に使用した鉄道リンク・ノードで構成される輸送ネットワークに道路リンクを追加した輸送ネットワーク(代行輸送ネットワーク)を対象として算出する。なお、各日について、残余迂回輸送量のうち代行輸送されない残余分である残余代行輸送量は、発ノードにて保管されて次の日の残余輸送量(通常輸送されない残余の輸送量)に追加されるか、又は、消失する。
【0057】
輸送計画案は、輸送量の最大化を図るとともに、更には輸送コストの最小化をも図るように作成する。輸送コストは、主に、各リンクに定められている輸送単価に基づき輸送経路に応じて定まるコストのほか、詳細を後述するように、代行輸送する際のノードでの鉄道リンクと道路リンクとの間の積み替えコスト、保管コスト、消失コストを含む。なお、通常輸送経路は、発ノードから着ノードに至る経路であって、通過する各リンクの輸送単価で決まる輸送コストが最小となる経路である。そして、迂回輸送経路は、輸送コストが最小の通常輸送経路とは異なる経路となるため、必然的に、通常輸送経路より輸送コストがかかることになる。
【0058】
輸送計画案を算出すると、続いて、損失コストを算出する(ステップS11)。具体的には、各日(第d日:d=0,1,・・,D)の迂回損失、代行損失、保管損失、及び、消失損失の合計を、損失コストとして算出する。迂回損失は、鉄道貨物を、迂回輸送計画案に従って迂回輸送した際の迂回輸送コストから、通常輸送した際の通常輸送コストを差し引いたコストである。代行損失は、鉄道貨物を、代行輸送計画案に従って代行輸送した際の代行輸送コストから、通常輸送した際の通常輸送コストを差し引いたコストである。保管損失は、鉄道貨物を、代行輸送計画案に従ってノードで保管した際の保管コストである。消失損失は、鉄道貨物を、代行輸送計画案に従って消失させた際の消失コストである。
【0059】
(D)計画案の算出
本実施形態では、これらの各計画案(リンク復旧計画案・ノード復旧計画案・迂回輸送計画案・代行輸送計画案)を、最適化問題として定式化してそれを解くことで算出する。
【0060】
各計画案の定式化に当たり、先ず、予め定められるデータ(入力データ)について説明する。先ず、輸送ネットワークを構成するリンクを「リンクl」、リンクlの通過方向を「方向j」、ノードを「ノードn」と表記する。リンクlは、鉄道リンク及び道路リンクを含む。そして、リンクlの全体集合を「全リンク」、鉄道リンクの全体集合を「全鉄道リンク」、道路リンクの全体集合を「全道路リンク」、ノードの全体集合を「全ノード」と表記する。また、災害発生日を第0日として、完全復旧する第D日までの各日を、「第d日(d=0,1,・・,D)」と表記する。そして、日の全体集合を「全日」と表記する。
【0061】
輸送需要は、鉄道貨物の品目別に、所与の発ノードから所与の着ノードまでの通常輸送経路毎の1日当たりの発生量(通常輸送取扱量)として与えられる。
【0062】
図5に、輸送需要を定めた輸送需要データ312の一例を示す。輸送需要データ312は、各貨物fに、品目gと、1日当たりの通常輸送取扱量である発生量
fと、通常輸送経路とを対応付けて定めている。発生量は、コンテナを単位とした整数とする。通常輸送経路は、鉄道リンクのみで構成され、同じリンクを同じ方向に複数回通過しないように定められる。通常輸送経路は、通過するノードを発ノードから着ノードまで順に並べた数列、及び、その通過方向の集合で表現する。なお、鉄道貨物は、日またがりの輸送は行われず、1日で輸送されるものとする。また、1日当たりの通常輸送取扱量である発生量
fは各日について同じとしているが、個々の各日(第d日)について異なるように定めてもよい。
【0063】
また、鉄道貨物の輸送に関するコストとして、リンクの通過(輸送)に係る輸送単価と、ノードでの積み替え(輸送手段の変更)に係る積み替え単価と、ノードでの保管に係る保管単価と、消失に係る消失ペナルティとが定められている。これらのコストは、鉄道貨物の1単位当たり(発生量と同じコンテナ1つ当たり)の値である。輸送単価は、輸送形態(通常輸送・迂回輸送・代行輸送)毎・品目毎に、リンクの1単位長さ当たりの値として定められる。積み替え単価・輸送単価・消失ペナルティは、鉄道貨物の品目毎に定められる。
【0064】
鉄道貨物の輸送に関するコストを定めたデータとして、
図6に、リンクの輸送単価を定めた輸送単価設定データ314の一例を示し、
図7に、ノードに関するコストを定めた積み替え単価等設定データ316の一例を示す。輸送単価設定データ314は、鉄道貨物の各品目gに、輸送形態と、当該輸送形態でのリンクの通過(輸送)に係る輸送単価とを対応付けて定めている。積み替え単価等設定データ316は、鉄道貨物の各品目gに、積み替え単価と、保管単価と、消失ペナルティとを対応付けて定めている。鉄道貨物の消失は避けるべき事象であるから、消失ペナルティを保管単価より大きな値として定めている。
【0065】
鉄道リンクには、復旧に関する制約として、点検作業及び復旧作業の各作業の終了に要する作業要員の積算数である必要要員積算数と、各作業に投入可能な1日当たりの作業要員数の上限である上限投入要員数とが定められている。例えば、第d日にあるリンクへの通算投入点検要員数(第0日~第d日の各日に投入した点検要員数の合計)が点検要員の必要要員積算数に達した場合、翌日(第d+1日)からこのリンクは点検終了状態となる。
【0066】
図8に、鉄道リンクの必要要員積算数を定めたリンク必要要員積算数データ320の一例を示し、
図9に、鉄道リンクの上限投入要員数を定めたリンク上限投入要員数データ322の一例を示す。リンク必要要員積算数データ320は、各鉄道リンクlに、点検作業の終了までに要する点検要員の積算数である点検済要員数と、復旧作業の終了までに要する復旧要員の積算数である必要復旧要員積算数とを対応付けて定めている。必要復旧要員積算数は、復旧度合(仮復旧・完全復旧)別に定められ、仮復旧状態となるのに必要な仮復旧要員数と、復旧状態となるのに必要な復旧要員数とを含む。
【0067】
リンク上限投入要員数データ322は、各鉄道リンクlに、1日当たりの投入可能な点検要員数の上限である上限投入点検要員数と、1日当たりの投入可能な復旧要員数の上限である上限投入復旧要員数とを対応付けて定めているとともに、1日当たりの輸送ネットワーク全体に投入可能な点検要員数の上限である上限全体投入点検要員数と、1日当たりの輸送ネットワーク全体に投入可能な復旧要員数の上限である上限全体投入復旧要員数とを定めている。
【0068】
また、鉄道リンクには、輸送に関する制約として、1日当たりの通過可能(輸送可能)な貨物量(輸送量)の上限である輸送力が定められている。輸送力は、方向(上り方向・下り方向・上下方向の合計)別に定められる。輸送力を方向別に定めることで、鉄道リンクの単線・複線を表現できる。例えば、単線の場合には、方向別の各輸送力を全て同じとすることで、上下方向の合計の輸送力(上下輸送力)のみが制約として意味を持つことになる。また、複線である場合には、上り方向の輸送力と下り方向の輸送力との合計を上下方向の合計の輸送力(上下輸送力)とすることで、上り方向・下り方向の輸送力を別々の制約とすることができる。また、各輸送力は、鉄道リンクの復旧度合(仮復旧・完全復旧)別に定められる。但し、機能停止状態・点検済状態での輸送力は0(ゼロ)とする。当然に、完全復旧状態(平常時)での輸送力は、仮復旧状態での輸送力以上である。なお、道路リンクについては、輸送力に制限はない。
【0069】
図10に、鉄道リンクの輸送力を定めたリンク輸送力設定データ324の一例を示す。リンク輸送力設定データ324は、各鉄道リンクlに、方向j別の輸送力と、上下方向の合計の輸送力である上下輸送力とを対応付けて定めている。輸送力は、当該鉄道リンクlの復旧度合(仮復旧・完全復旧)別に定められ、仮復旧状態での輸送力である仮輸送力と、復旧状態での輸送力である完全輸送力とを含む。上下輸送力も同様に、当該鉄道リンクlの復旧度合(仮復旧・完全復旧)別に定められ、仮復旧状態での上下輸送力である仮上下輸送力と、完全復旧状態での上下輸送力である完全上下輸送力とを含む。
【0070】
また、リンクには、輸送に関する制約として、鉄道貨物の各品目を輸送可能(通過可能)か否か(通過可否)が定められている。
【0071】
図11に、リンクの通過可否を定めた通過可否設定データ326の一例を示す。通過可否設定データ326は、各リンクlに、鉄道貨物の品目gと、当該品目gの鉄道貨物が輸送可能(通過可能)か否かを示す通過可否とを対応付けて定めている。
【0072】
ノードには、復旧に関する制約として、リンクと同様に、点検作業及び復旧作業の各作業の終了に要する作業要員の積算数である必要要員積算数と、各作業に投入可能な1日当たりの作業要員数の上限である上限投入要員数とが定められている。
【0073】
図12に、ノードの必要要員積算数を定めたノード必要要員積算数データ330の一例を示し、
図13に、ノードの上限投入要員数を定めたノード上限投入要員数データ332の一例を示す。ノード必要要員積算数データ330は、各ノードnに、点検作業の終了に要する点検要員の積算数である点検済要員数(必要点検要員積算数)と、復旧作業の終了に要する復旧要員の積算数である必要復旧要員積算数とを対応付けて定めている。必要復旧要員積算数は、復旧度合別に定められ、仮復旧状態となるのに必要な仮復旧要員数と、復旧状態となるのに必要な復旧要員数とを含む。
【0074】
ノード上限投入要員数データ332は、各ノードnに、1日当たりの投入可能な点検要員数の上限である上限投入点検要員数と、1日当たりの投入可能な復旧要員数の上限である上限投入復旧要員数とを対応付けて定めているとともに、1日当たりの輸送ネットワーク全体に投入可能な点検要員数の上限である上限全体投入点検要員数と、1日当たりの輸送ネットワーク全体に投入可能な復旧要員数の上限である上限全体投入復旧要員数とを定めている。
【0075】
また、ノードには、輸送に関する制約として、1日当たりの出発・到着が可能な貨物量(輸送量)の上限である輸送力が定められている。輸送力は、出発可能な貨物量(輸送量)の上限である発輸送力と、到着可能な貨物量(輸送量)の上限である着輸送力と、出発又は到着可能な輸送力の上限である発着輸送力とを含む。ノードを出発・到着する貨物量とは、当該ノードを通常輸送経路の発ノード・着ノードとする鉄道貨物を意味し、当該ノードを通過する鉄道貨物を含まない。各輸送力(発輸送力・着輸送力・発着輸送力)は、出発又は到着するリンクの輸送手段(リンクの種類)毎に定められるとともに、ノードの復旧度合(仮復旧・完全復旧)別に定められる。但し、機能停止状態・点検済状態での輸送力は0(ゼロ)とする。当然に、完全復旧状態(平常時)での輸送力は、仮復旧状態での輸送力以上である。
【0076】
図14に、ノードの輸送力を定めたノード輸送力設定データ334の一例を示す。ノード輸送力設定データ334は、各ノードnに、鉄道リンクに対する発輸送力(鉄発輸送力)、着輸送力(鉄着輸送力)、発着輸送力(鉄発着輸送力)と、道路リンクに対する発輸送力(道発輸送力)、着輸送力(道着輸送力)、発着輸送力(道発着輸送力)とを対応付けて定めている。各輸送力は、復旧度合(仮復旧・完全復旧)別に定められる。つまり、鉄道リンクに対する発輸送力(鉄発輸送力)は、仮復旧状態での発輸送力である鉄発輸送力と、完全復旧状態での発輸送力である完全鉄着輸送力とを含む。鉄道リンクに対する着発輸送力(鉄着輸送力)は、仮復旧状態での着輸送力である仮鉄着輸送力と、完全復旧状態での着輸送力である完全鉄着輸送力とを含む。鉄道リンクに対する発着輸送力(鉄発着輸送力)は、仮復旧状態での発着輸送力である仮鉄発着輸送力と、完全復旧状態での発着輸送力である完全鉄発着輸送力とを含む。同様に、道路に対する発輸送力(道発輸送力)は、仮復旧状態での発輸送力である仮道発輸送力と、完全復旧状態での発輸送力である完全道発輸送力とを含む。道路リンクに対する着輸送力(道着輸送力)は、仮復旧状態での着輸送力である仮道着輸送力と、完全復旧状態での着輸送力である完全道着輸送力とを含む。道路リンクに対する発着輸送力(道発着輸送力)は、仮復旧状態での発着輸送力である仮道発着輸送力と、完全復旧状態での発着輸送力である完全道発着輸送力とを含む。
【0077】
また、ノードのうち、鉄道リンクと輸送リンクとの間で輸送手段の変更が可能(鉄道貨物の積み替えが可能)な結節ノード(結節拠点)には、輸送に関する制約として、輸送手段の変更(鉄道貨物の積み替え)に伴う1日当たりの積み替え可能な貨物量(輸送量)の上限である積み替え能力が定められている。
【0078】
図15に、ノードの積み替え能力を定めた積み替え能力設定データ336の一例を示す。積み替え能力設定データ336は、各ノードnに、道路リンクから鉄道リンクへの積み替え能力(道→鉄積み替え能力)と、鉄道リンクから道路リンクへの積み替え能力(鉄→道積み替え能力)とを対応付けて定めている。積み替え能力は、復旧度合(仮復旧・完全復旧)別に定められる。但し、機能停止状態・点検済状態での積み替え能力は0(ゼロ)である。当然に、完全復旧状態(平常時)での積み替え能力は、仮復旧状態での積み替え能力以上である。
【0079】
また、ノードには、輸送に関する制約として、当該ノードが発ノードである鉄道貨物を保管可能な1日当たりの貨物量(輸送量)の上限である保管能力が定められている。代行輸送されなかった鉄道貨物であって発ノードの保管能力を超えた鉄道貨物は、消失する(荷主に返却される等)。
【0080】
図16に、ノードの保管能力を定めた保管能力設定データ338の一例を示す。保管能力設定データ338は、各ノードnに、鉄道貨物の品目gと、当該品目gの鉄道貨物の保管能力とを対応付けて定めている。保管能力は、復旧度合(仮復旧・完全復旧)別に定められる。
【0081】
(D1)リンク復旧計画
リンク復旧計画案を算出するための最適化問題は、次式(1)~(17)を用いて定式化することができる。式(1)は目的関数であり、式(2)~(17)は制約条件である。
図17は、この最適化問題を解くことで算出される決定変数の一覧である。
【数1】
【数2】
【0082】
式(1)に示す目的関数の第1項は損失輸送量の最小化を、第2項は損失輸送力の最小化を目的としたものである。リンク復旧計画案やノード復旧計画案を損失輸送量の最小化のみを図るように算出した場合、通常輸送で使われないリンクやノードが復旧されない事態が生じ得る。通常輸送で使われないリンクやノードであっても、後の迂回輸送や代行輸送により使われ得るため、速やかに復旧する必要がある。これらの通常輸送で使われないリンクやノードの完全復旧は、輸送ネットワーク全体の損失輸送力の向上に寄与する(
図4参照)。このため、損失輸送量の最小化を図るとともに、損失輸送力の最小化をも考慮して、目的関数を定めている。但し、第1項に相当する損失輸送量の最小化を優先するために、損失輸送力の最小化に相当する第2項が目的関数に与える影響が十分小さな値となるように、十分大きな値Qで除している。式(1)におけるリンク上下輸送力
l,dは、リンクlの第d日の上下方向の合計の輸送力であり、式(1a)で与えられる。
【0083】
式(2)~(8)は、鉄道リンクlに投入する点検要員・復旧要員の制約である。つまり、式(2),(4)は、各鉄道リンクlに投入する点検要員数・復旧要員数の制約であり、式(3),(5)は、輸送ネットワーク全体に投入する点検要員数・復旧要員数の制約である。式(6)は、点検作業が終了していない場合には復旧要員を投入できないことを表す。式(7),(8)は、点検作業・復旧作業の終了後は点検要員・復旧要員を投入できないことを表す。式(3),(5)の制約により、各日の支障区間である支障リンクに投入するリソース量である点検要員数・復旧要員数の合計が所与の上限投入リソース量である上限全体投入点検要員数・上限全体投入復旧要員数以下となるようにリンク復旧計画案が算出される。
【0084】
式(9)~(13)は、鉄道リンクの点検状態・復旧状態を表す制約である。つまり、式(9)は、鉄道リンクlに投入した点検要員の積算数である通算点検要員数l,dが点検済要員数lに達すると、当該鉄道リンクlは点検済状態となることを表す。同様に、式(10)は、鉄道リンクlに投入した復旧要員の積算数である通算復旧要員数l,dが仮復旧要員数lに達すると、当該鉄道リンクlは仮復旧状態となることを能わす。式(11)は、鉄道リンクlに投入した復旧要員の積算数である通算復旧要員数l,dが完全復旧要員数lに達すると、当該鉄道リンクlは完全復旧状態になることを表す。式(12)は、鉄道リンクlは、点検済状態となった後に仮復旧状態となることを表す。式(13)は、鉄道リンクlは、仮復旧状態となった後に完全復旧状態となることを表す。
【0085】
式(14)は、貨物の通常輸送量の制約である。つまり、貨物fの第d日の通常輸送での輸送量である通常輸送量f,dは、輸送需要で定められる当該貨物fの1日当たりの発生量f以下でなければならないことを表す
【0086】
式(15),(16)は、輸送量が各リンクの輸送力以下である制約である。式(15)におけるリンク輸送力l,j,dは、鉄道リンクlの方向jの第d日の輸送量であり、式(17)で与えられる。つまり、式(15)は、鉄道リンクlを方向jに通過する貨物fの量の合計は、当該鉄道リンクlの方向jの輸送力であるリンク輸送力l,d,j以下でなければならないことを表す。また、式(16)は、鉄道リンクlを通過する貨物fの量の合計は、当該鉄道リンクlの上下方向の合計の輸送力であるリンク上下輸送力l,d以下でなければならないことを表す。
【0087】
式(1)~(17)のように定式化される最適化問題を解き、
図17に示す決定変数の値を算出することで、リンク復旧計画案が算出されるとともに、当該リンク復旧計画案の下で鉄道貨物を通常輸送する通常輸送計画案が算出される。
【0088】
図18は、算出されたリンク復旧計画案であるリンク復旧計画案データ360の一例を示す図である。リンク復旧計画案データ360は、点検要員の投入に関するリンク点検作業計画案データ360aと、復旧要員の投入に関するリンク復旧作業計画案データ360bとを含む。リンク点検作業計画案データ360aは、各鉄道リンクlに、各日(第d日)の点検要員数
l,dと、通算点検要員数
l,dと、点検済
l,dとを対応付けて格納している。リンク復旧作業計画案データ360bは、各鉄道リンクlに、各日(第d日)の復旧要員数
l,dと、通算復旧要員数
l,dと、仮復旧
l,dと、完全復旧
l,dとを対応付けて格納している。
【0089】
また、リンク復旧計画案の算出過程で得られる各日の各鉄道リンクの輸送力であるリンク輸送力l,j,d、リンク上下輸送力f,dは、後のノード復旧計画案の算出に引き継がれる。
【0090】
図19は、鉄道リンクの輸送力であるリンク輸送力データ340の一例を示す図である。リンク輸送力データ340は、各鉄道リンクlに、各日(第d日)の各方向jのリンク輸送力
l,j,dと、リンク上下輸送力
l,dとを対応付けて格納している。
【0091】
(D2)ノード復旧計画案
ノード復旧計画案を算出するための最適化問題は、次式(18)~(42)を用いて定式化することができる。式(18)は、目的関数であり、式(26)~(42)は、制約条件である。
図20は、この最適化問題を解くことで算出される決定変数の一覧である。
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0092】
式(18)に示す目的関数の第1項は、損失輸送力の最小化を、第2項は、損失輸送力の最小化を目的としたものである。上述のリンク復旧計画案の算出と同様に、通常輸送で使われないノードも速やかに完全復旧させるべく、損失輸送量の最小化を図るとともに、損失輸送力の最小化をも考慮して、目的関数を定めている。また、ノードの速やかな復旧を達成すべく、損失輸送力の最小化に相当する第2項では、ノードの輸送力として鉄道リンク及び道路リンクの全てに対する輸送力を考慮している。但し、第1項に相当する損失輸送量の最小化を優先するために、損失輸送力の最小化に相当する第2項が目的関数に与える影響が十分小さな値となるように、十分大きな値Qで除している。式(18)における鉄発着輸送力n,dは、ノードnの第d日の鉄道リンクに対する発着輸送力であり、式(19)で与えられる。また、道発着輸送力n,dは、ノードnの第d日の道路リンクに対する発着輸送力であり、式(22)で与えられる。
【0093】
なお、ノードnの第d日の鉄道リンクに対する発輸送力である鉄発輸送力n,d、着輸送力である鉄着輸送力n,dについても同様に、それぞれ、式(20),(21)で与えられる。また、ノードnの第d日の道路リンクに対する発着輸送力である道発着輸送力n,d、発輸送力である道発輸送力n,d、着輸送力である道着輸送力n,d、についても同様に、それぞれ、次式(23),(24)で与えられる。
【0094】
式(25)~(31)は、ノードnに投入する点検要員・復旧要員の制約であり、上述のリンク復旧計画案の算出における式(2)~(8)と同様である。つまり、式(25),(27)は、各ノードnに投入する点検要員数・復旧要員数の制約であり、式(26),(28)は、輸送ネットワーク全体に投入する点検要員数・復旧要員数の制約である。式(29)は、点検作業が終了していない場合には復旧要員を投入できないことを表す。式(30),(31)は、点検作業・復旧作業の終了後は点検要員・復旧要員を投入できないことを表す。式(26),(28)の制約により、各日の支障拠点である支障ノードに投入するリソース量である点検要員数・復旧要員数の合計が所与の拠点上限投入リソース量である上限全体投入点検要員数・上限全体投入復旧要員数以下となるようにノード復旧計画案が算出される。
【0095】
式(32)~(36)は、ノードnの点検状態・復旧状態を表す制約であり、上述のリンク復旧計画案の算出における式(9)~(13)と同様である。
【0096】
式(37)は、鉄道貨物の通常輸送量の制約である。つまり、上述のリンク復旧計画案の算出における式(14)と同様に、貨物fの第d日の通常輸送での輸送量である通常輸送量f,dは、輸送需要で定められる当該貨物fの1日当たりの発生量f以下でなければならないことを表す。
【0097】
式(38),(39)は、輸送量がリンクlの輸送力以下である制約である。式(38),(39)におけるリンク輸送力
l,j,d、リンク上下輸送力
l,dは、上述のリンク復旧計画案の算出から引き継がれる値である(
図19参照)。
【0098】
式(40)~(42)は、輸送量がノードnの輸送力(発輸送力・着輸送力・着輸送力)以下である制約である。つまり、式(40)は、ノードnを出発する貨物fの量の合計は、当該ノードnの鉄道リンクに対する発輸送力である鉄発輸送力n,d以下でなければならないことを表す。式(41)は、ノードnに到着する貨物fの量の合計は、当該ノードnの鉄道リンクに対する着輸送力である鉄着輸送力n,d以下でなければならないことを表す。式(42)は、ノードnを出発又は到着する貨物fの量の合計は、当該ノードnの鉄道リンクに対する発着輸送力である鉄発着輸送力n,d以下でなければならないことを表す。
【0099】
式(18)~(42)のように定式化される最適化問題を解き、
図20に示す決定変数の値を算出することで、ノード復旧計画案が算出されるとともに、当該ノード復旧計画案の下で鉄道貨物を通常輸送する通常輸送計画案が算出される。
【0100】
図21は、算出されたノード復旧計画案であるノード復旧計画案データ362の一例を示す図である。ノード復旧計画案データ362は、点検要員の投入に関するノード点検作業計画案データ362aと、復旧要員の投入に関するノード復旧作業計画案データ362bとを含む。ノード点検作業計画案データ362aは、各ノードnに、各日(第d日)の点検要員数
n,dと、通算点検要員数
n,dと、点検済
n,dとを対応付けて格納している。ノード復旧作業計画案データ362bは、各ノードに、各日(第d日)の復旧要員数
n,dと、通算復旧要員数
n,dと、仮復旧
n,dと、完全復旧
n,dとを対応付けて格納している。
【0101】
図22は、算出された通常輸送計画案である通常輸送計画案データ364の一例を示す図である。通常輸送計画案データ364は、各貨物fに、各日(第d日)に通常輸送される貨物量である通常輸送量
f,dを対応付けて格納している。
【0102】
また、通常輸送計画案が算出されることで、各リンク・各ノードの残余の輸送力が求められる。つまり、各鉄道リンクの輸送力のうち、通常輸送で使われなかった残余の輸送力が、迂回輸送や代行輸送で使うことができる輸送力として、後の迂回輸送計画案の算出に引き継がれる。すなわち、鉄道リンクlの残余輸送力として、第d日の方向jの残余輸送力である残余リンク輸送力
l,j,d、第d日の上下方向の合計の残余輸送力である残余上下リンク輸送力
l,dが、それぞれ、次式(43),(44)で算出される。
【数7】
【0103】
図23は、鉄道リンクの残余輸送力であるリンク残余輸送力データ342の一例を示す図である。リンク残余輸送力データ342は、各鉄道リンクlに、各日(第d日)の各方向jの残余リンク輸送力
l,j,dと、残余リンク上下輸送力
l,dとを対応付けて格納している。
【0104】
また、ノードnの鉄道リンクに対する残余輸送力として、第n日の鉄道リンクに対する残余の発輸送力である残余鉄発輸送力
n,d、第n日の鉄道リンクに対する残余の着輸送力である残余鉄着輸送力
n,d、第n日の鉄道リンクに対する残余の発着輸送力である残余の鉄発着輸送力
n,dは、それぞれ、次式(45)~(47)で算出される。
【数8】
【0105】
通常輸送では鉄道リンクのみを通過するので、鉄道リンクに対する残余の輸送力のみを算出する。道路リンクに対する輸送力については、ノードの復旧度合(仮復旧・完全復旧)から算出する。つまり、ノードnの第d日の道路リンクに対する発輸送力である道発輸送力
n,d、着輸送力である道着輸送力
n,d、発着輸送力である道発着輸送力
n,dは、当該ノードnの当該第d日の復旧度合(仮復旧・完全復旧)に応じて、ノード輸送力設定データ334(
図14参照)に従って決まる。
【0106】
図24は、ノードの残余輸送力であるノード残余輸送力データ344の一例を示す図である。ノード残余輸送力データ344は、各ノードnに、各日(第d日)の残余鉄発輸送力
n,dと、残余鉄着輸送力
n,dと、残余鉄発着輸送力
n,dと、道発輸送力
n,dと、道着輸送力
n,dと、道発着輸送力
n,dとを対応付けて格納している。
【0107】
また、輸送需要のうち、通常輸送されない残余分の貨物量である残余貨物量が、迂回輸送の対象となる。貨物fの第d日の通常輸送されない残余貨物量
f,dは、次式(48)で算出される。
【数9】
【0108】
図25は、残余貨物量である残余貨物量データ346の一例を示す図である。残余貨物量データ346は、各貨物fに、各日(第d日)の残余貨物量
f,dを対応付けて格納している。
【0109】
また、ノードの復旧度合に応じて、当該ノードの積み替え能力、保管能力が決まる。これらの値も、後の迂回輸送計画案・代行輸送計画案の算出に引き継がれる。つまり、ノードの積み替え能力として、ノードnの第d日の道路リンクから鉄道リンクへの積み替え能力n,d、鉄道リンクから道路リンクへの積み替え能力n,dが、積み替え能力設定データ336(
図15参照)に従って決まる。また、ノードの保管能力として、ノードnの第d日の保管能力
n,dが、保管能力設定データ338(
図16参照)に従って決まる
【0110】
図26は、ノードの積み替え能力である積み替え能力データ348の一例を示す図である。積み替え能力データ348は、各ノードnに、各日(第d日)の道路リンクから鉄道への積み替え能力(道→鉄積み替え能力)
n,dと、鉄道から道路への積み替え能力(鉄→道積み替え能力)
n,dとを対応付けて格納している。
【0111】
図27は、ノードの保管能力である保管能力データ350の一例を示す図である。保管能力データ350は、各ノードnに、各日(第d日)の品目gである鉄道貨物の保管能力
n,d,gを対応付けて格納している。
【0112】
(D3)迂回輸送計画案
迂回輸送計画案を算出するための最適化問題は、次式(49)~(63)を用いて定式化することができる。式(49)は、目的関数であり、式(52)~(63)は、制約条件である。
図28は、この最適化問題を解くことで算出される決定変数の一覧である。
【数10】
【数11】
【0113】
式(49)に示す目的関数の第1項は、迂回輸送量の最大化(迂回輸送量最大化条件)を、第2項は、コストの最小化を、目的としている。迂回輸送経路は通常輸送経路に対して遠回りの経路であるから、迂回輸送は、通常輸送と比較して輸送に係るコスト(輸送コスト)が大きい。このため、迂回輸送計画案は、通常輸送できなかった貨物をできるだけ迂回輸送すること(迂回輸送量の最大化)、コストを抑えること(コストの最小化)、を達成するように算出する。但し、第1項に相当する迂回輸送量の最大化を優先するために、コストの最小化に相当する第2項が目的関数に与える影響が十分小さな値となるように、十分大きな値Qで除している。式(49)における貨物fの迂回輸送のコストは、式(50)で与えられ、貨物fを通常輸送したときのコストは、式(51)で与えられる。
【0114】
式(52)は、貨物の輸送量の制約である。迂回輸送が実施される貨物量は、迂回輸送の対象となる貨物量である迂回貨物量以下となる。この迂回貨物量には、当日発生したが通常輸送されなかった貨物量である残余貨物量と、前日から保管されている貨物量である保管量との合計である。つまり、迂回貨物量その一部又は全部が迂回輸送される。保管量f,d-1は、前日(第d-1日)の代行輸送計画案の算出から引き継がれる値である。
【0115】
式(53)は、貨物のリンクの通過可否を表す制約である。
【0116】
式(54),(55)は、輸送量がリンクlの輸送力以下である制約である。つまり、式(54)は、鉄道リンクlを方向jに通過する貨物fの量の合計は、当該鉄道リンクlの方向jの輸送力である残余リンク輸送力l,d,j以下でなければならないことを表す。また、式(55)は、鉄道リンクlを通過する貨物fの量の合計は、当該鉄道リンクlの上下方向の合計の輸送力である残余リンク上下輸送力l,d以下でなければならないことを表す。
【0117】
式(56)~(58)は、輸送量がノードnの輸送力(残余鉄発輸送力・残余鉄着輸送力・残余鉄発着輸送力)以下である制約である。
【0118】
式(59)~(63)は、流量保存則を表す制約である。流量保存則とは、貨物の発ノード・着ノード以外の全てのノードにおいて、当該ノードに流入する貨物の量と流出する貨物の量とは同じであることを表す原則である。経路の途中で貨物の発生や消失は起こらないことが前提だからである。
【0119】
式(49)~(63)のように定式化される最適化問題を解き、
図28に示した決定変数の値を算出することで、第d日の迂回輸送計画案が算出される。
【0120】
図29は、迂回輸送計画案データ366の一例を示す図である。迂回輸送計画案データ366は、各貨物fに、各日(第d日)の当該貨物fのうちの迂回輸送量
f,dと、当該迂回輸送量
f,dの内訳として各リンクlを各方向jに通過する貨物量であるリンク迂回輸送量
f,l,j,dとを対応付けて格納している。
【0121】
また、第d日の各リンク・各ノードの残余の輸送力が求められる。つまり、各リンク・ノードの第d日の残余輸送力のうち、迂回輸送で使われなかった残余の輸送力である迂回残余輸送力が、代行輸送で使うことができる輸送力として、後の第d日の代行輸送計画案の算出に引き継がれる。なお、迂回輸送は鉄道リンクのみを使用するので、鉄道リンクに関する輸送力のみを引き継ぐ。鉄道リンクlの第d日の方向jの迂回輸送で使われなかった残余の輸送力である迂回残余リンク輸送力
l,j,dは、次式(64)で算出される。また、鉄道リンクlの第d日の迂回輸送で使われなかった上下方向の合計の残余の輸送力である迂回残余リンク上下輸送力
l,j,dは、次式(65)で算出される。
【数12】
【0122】
図30は、鉄道リンクの迂回残余輸送力であるリンク迂回残余輸送力データ352の一例を示す図である。リンク迂回残余輸送力データ352は、各鉄道リンクlに、各日(第d日)の各方向jの迂回残余リンク輸送力
l,j,dと、迂回残余リンク上下輸送力
l,dとを対応付けて格納している。
【0123】
また、ノードnの第d日の鉄道リンクに対する迂回輸送で使われなかった残余の発輸送力である迂回残余鉄発輸送力
n,d、着輸送力である迂回残余鉄着輸送力
n,d、発着輸送力である迂回残余鉄発着輸送力
n,dは、それぞれ、次式(66)~(68)で算出される。
【数13】
【0124】
図31は、ノードの迂回残余輸送力であるノード迂回残余輸送力データ354の一例を示す図である。ノード迂回残余輸送力データ354は、各ノードnに、各日(第d日)の迂回残余鉄発輸送力
n,dと、迂回残余鉄着輸送力
n,dと、迂回残余鉄発着輸送力
n,dとを対応付けて格納している。
【0125】
また、第d日の残余貨物量のうち、迂回輸送されない残余分の貨物量である迂回残余貨物量が、第d日の代行輸送の対象となる。貨物fの第d日の迂回輸送されない残余の貨物量である迂回残余貨物量
f,dは、次式(69)で算出される。
【数14】
【0126】
図32は、迂回残余貨物量である迂回残余貨物量データ356の一例を示す図である。迂回残余貨物量データ356は、各貨物fに、各日(第d日)の当該貨物fのうちの迂回残余貨物量
f,dを対応付けて格納している。
【0127】
(D4)代行輸送計画案
代行輸送計画案を算出するための最適化問題は、次式(70)~(101)を用いて定式化することができる。式(70)は、目的関数であり、式(74)~(101)は、制約条件である。
図33は、この最適化問題を解くことで算出される決定変数の一覧である。
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【0128】
式(70)に示す目的関数の第1項は、代行輸送量の最大化(代行輸送量最大化条件)を、第2項は、コストの最小化を、目的とするものである。代行輸送計画案は、通常輸送も迂回輸送もされなかった貨物をできるだけ代行輸送すること(代行輸送量の最大化)、代行輸送もされなかった貨物をできるだけ保管して次の日以降に代行輸送すること(保管量の最大化)、コストを抑えること(コストの最小化)、を達成するように算出する。但し、第1項に相当する代行輸送量の最大化を優先するために、コストの最小化に相当する第2項が目的関数に与える影響が十分小さな値となるように、十分大きな値Qで除している。なお、保管量の最大化については、保管単価よりも消失ペナルティのほうが大きい値として定めることで(
図7参照)、コストの最小化として達成される。式(70)における貨物fの代行輸送のコストは、式(71)で与えられる。また、貨物fの保管のコスト、消失のコストは、それぞれ、式(72),(73)で与えられる。
【0129】
式(74)は、貨物の輸送量・保管量・消失量の制約である。代行輸送計画案の算出の対象となる貨物(つまり、上述の迂回輸送計画案の下で迂回輸送されなかった貨物である迂回残余輸送量)は、代行輸送される、保管される、消失する、の何れかとなる。
【0130】
式(75),(76)は、貨物のリンクの通過可否を表す制約である。つまり、式(75)は、鉄道リンクについての制約であり、式(76)は、道路リンクについての制約である。道路リンクは輸送力に制限がない(無制限)であるので、道路リンクを通過する代行輸送量の論理的な上限である迂回残余貨物量としている。
【0131】
式(77),(78)は、輸送量が鉄道リンクの輸送力以下である制約である。式(79)~(81)は、輸送量が、ノードの鉄道リンクに対する輸送力(鉄発輸送力・鉄着輸送力・鉄着発輸送力)以下である制約である。式(82)~(84)は、輸送量が、ノードの道路に対する輸送力(道発輸送力・道着輸送力・道発着輸送力)以下である制約である。式(85)は、保管量がノードの保管能力以下である制約である。式(86)~(88)は、流量保存則を表す制約である。
【0132】
式(89)~(99)は、積み替えを表す制約である。貨物fのノードnでの積み替え量は、当該貨物fが当該ノードnに、鉄道リンクから入ってくる量と鉄道リンクへ出てゆく量との差であるといえる。但し、貨物fの発ノード・着ノードでは、当該貨物fの積み替えは起こらない。式(95)~(99)は、このことを表す制約である。式(100),(101)は、積み替え量がノードの積み替え能力以下である制約である。
【0133】
式(70)~(101)のように定式化される最適化問題を解き、
図33に示す決定変数の値を算出することで、第d日の代行輸送計画案が算出される。
【0134】
図34は、代行輸送計画案データ368の一例を示す図である。代行輸送計画案データ368は、各貨物fに、各日(第d日)の当該貨物fのうちの代行輸送量
f,dと、当該代行輸送量
f,dの内訳として各リンクlを各方向jに通過する貨物量であるリンク代行輸送量
f,l,j,dとを対応付けて格納するとともに、各日(第d日)の当該貨物fのうちの各ノードnにおける鉄道リンクから道路リンクへの積み替え量
f,n,dと、道路リンクから鉄道リンクへの積み替え量
f,n,dと、各ノードnにおいて保管される貨物量である保管量
f,dと、ノードnが発ノードである場合に当該ノードnにおいて消失する貨物量である消失量
f,dとを対応付けて格納している。
【0135】
(E)損失コストの算出
輸送計画案(迂回輸送計画案・代行輸送計画案)の算出過程において、当該輸送計画案に従って輸送した際の損失コストを算出することができる。損失コストは、災害発生から完全復旧までの復旧期間中の各日(第d日:d=0,1,・・,D)の迂回損失、代行損失、保管損失、及び、消失損失の合計として算出する。第d日の迂回損失は、第d日の全貨物の迂回輸送コストの合計である。貨物fの第d日の迂回輸送コストは、式(50)で与えられる迂回輸送のコストから、式(51)で与えられる通常輸送したときのコストを差し引いた値として算出される。第d日の代行損失は、第d日の全貨物の代行輸送コストの合計である。貨物fの第d日の代行輸送コストは、式(71)で与えられる代行輸送のコストから、式(51)で与えられる通常輸送したときのコストを差し引いた値として算出される。第d日の保管損失は、第d日の全貨物の保管コストの合計である。貨物fの第d日の保管コストは、式(72)で与えられる。第d日の廃棄損失は、第d日の全貨物の消失コストの合計である。貨物fの第d日の消失コストは、式(73)で与えられる。
【0136】
図35に、損失コストである損失コストデータ370の一例を示す。損失コストデータ370は、各日(第d日)について、迂回損失と、代行損失と、保管損失と、廃棄損失とを対応付けて格納しているとともに、これらの損失の合計である損失コストを格納している。
【0137】
(F)設備投資計画案の評価
このように算出した損失コストを用いることで、輸送ネットワークに対して策定した設備投資計画案をコストの観点から評価することができる。
【0138】
具体的には、必要リソース積算量の低減対象となる支障区間である投資対象区間と、当該必要リソース積算量の所与の低減量を示す投資コストと、拠点必要リソース積算量の低減対象となる支障拠点である投資対象拠点と、当該拠点必要リソース積算量の所与の低減量を示す拠点投資コストと、を定めた設備投資計画案を設定する。そして、設定した設備投資計画案に従って必要リソース積算量を低減する当該設備投資計画案の適用前後それぞれに基づく復旧計画案を算出し、その算出結果に基づいて輸送計画案を算出し、当該輸送計画案に基づく所定のコストを当該設備投資計画案の適用前後で比較した比較結果と、投資コストと、を用いて当該設備投資計画案を評価する。
【0139】
つまり、拠点である駅や輸送区間である線路といった鉄道設備のうちから、災害発生に伴う支障を軽減させて復旧のために投入すべき必要リソース積算量・拠点必要リソース量である必要点検要員積算数や必要復旧要員積算数を低減させるような設備投資の対象となる輸送区間や拠点を定めるとともに、その設備投資の実施に要する投資コストを定めた設備投資計画案を設定する。そして、輸送ネットワークに対して、設備投資計画案を適用しないケース、設備投資計画案を適用したケースのそれぞれについて、復旧計画案・輸送計画案を算出する。設備投資を実施すると、実施しない場合に比較して、必要リソース積算量・拠点必要リソース量が低減されることから支障区間・支障拠点の復旧が早まることになる。支障区間・支障拠点の速やかな回復によって、輸送需要のうち通常輸送される貨物量が多くなるから、必然的に、迂回輸送や代行輸送される貨物量が少なくなり、迂回輸送や代行輸送にかかるコストが少なくなる。迂回輸送や代行輸送に係るコストは、災害が発生しなければ生じないコスト、つまり、損失コストである。設備投資の実施によって、この損失コストは減少し得ることになる。従って、設備投資計画案で定めた設備投資の投資コストと、当該設備投資を実施した場合の損失コストとの合計を全体コストとし、設備投資計画案を適用したケース・適用しないケースのそれぞれについての全体コストを比較することで、当該設備投資計画案をコストの観点から評価することができる。
【0140】
更に、設備投資計画案を適用したケースにおける損失コストとして、災害規模や発生確率が異なる複数の災害を想定し、これらの複数の災害それぞれの発生を想定した場合の損失コストから求めた損失コストの期待値を用いてもよい。
図36に、想定する複数の災害の一例を示す。そして、損失コストの期待値は、例えば、次式(102)で算出する。
【数22】
式(102)において、「N」は鉄道設備の減価償却期間等によって定められる定数であり「r」は社会的割引率であり、例えば4%といった定数である。
【0141】
[機能構成]
図37は、復旧・輸送計画案作成装置1の機能構成の一例である。
図37によれば、復旧・輸送計画案作成装置1は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、復旧・輸送計画案作成装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。
【0142】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
【0143】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、復旧・輸送計画案作成装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、輸送需要設定部202、復旧計画案算出部204、輸送計画案算出部210を有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0144】
処理部200は、復旧・輸送計画案作成プログラム302に従った処理を実行することで、拠点間を結んだ所定の輸送手段による輸送区間の集合である輸送ネットワークのうち、複数の輸送区間が支障区間となった場合の復旧及び輸送の計画案を作成する。
【0145】
各支障区間には、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要な復旧資源(リソース)の積算量を示す必要リソース積算量と、当該復旧度合において輸送可能な1日当たりの輸送量上限と、が定められている。必要リソース量は、リンク必要要員積算数データ320(
図8参照)として定められ、輸送量上限は、リンク輸送力設定データ324(
図10参照)として定められている。
【0146】
また、拠点のうち、支障拠点について、復旧度合毎に、当該復旧度合に至るまでに必要なリソースの積算量を示す拠点必要リソース積算量と、当該復旧度合において当該支障拠点で発着可能な輸送量の発着輸送量上限と、が定められている。拠点必要リソース量は、ノード必要要員積算数データ330(
図12参照)として定められ、発着輸送量上限は、ノード輸送力設定データ334(
図14参照)として定められている。
【0147】
輸送需要設定部202は、所与の発拠点から所与の着拠点までの通常輸送経路毎の各日の通常輸送取扱量を輸送需要として設定する。設定した輸送需要は、輸送需要データ312として記憶される。本実施形態では、各日の通常輸送取扱量を同じとしているが、日毎に異なるように設定してもよい。
【0148】
復旧計画案算出部204は、各日の支障区間に投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量以下となるように復旧計画案を算出する。具体的には、当該各日について、1)各支障区間の復旧度合を判定することと、2)輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量を当該復旧度合に応じた輸送量上限に基づいて算出することと、3)取扱実績予想量で前記輸送需要を輸送できない残余分である残余輸送量を算出することと、を行って復旧計画案を算出する。また、復旧計画案を、支障拠点へのリソース投入に係る拠点復旧計画案を各日の支障拠点に投入するリソース量の合計が拠点投入上限リソース量以下となるように算出する。また、各支障拠点の復旧度合に応じた発着輸送量上限と、各支障区間の復旧度合に応じた輸送量上限とに基づいて、輸送ネットワークに輸送需要を適用した場合の2)の取扱実績予想量の算出を行う。上限投入リソース量は、リンク上限投入要員数データ322(
図9参照)として定められている。
【0149】
また、復旧計画案算出部204は、拠点投入上限リソース量設定部206を有する。拠点投入上限リソース量設定部206は、支障拠点に対する1日当たりの拠点投入上限リソース量を設定する。設定した拠点投入上限リソース量は、ノード上限投入要員数データ332(
図13参照)として記憶される。
【0150】
具体的には、復旧計画案算出部204は、式(1)~(17)に示したように定式化した最適化問題を解くことで、リンク復旧計画案を算出する。最適化問題を解くことにより、
図17に示す決定変数が算出される。算出結果として、リンク復旧計画案を示すリンク復旧計画案データ360(
図18参照)が生成される。それとともに、後のノード復旧計画案の算出に引き継ぐデータとして、リンク輸送力データ340(
図19参照)が生成される。
【0151】
また、式(18)~(42)に示したように定式化した最適化問題を解くことで、ノード復旧計画案を算出する。最適化問題を解くことにより、
図20に示す決定変数が算出される。算出結果として、ノード復旧計画案を示すノード復旧計画案データ362(
図21参照)が生成される。それとともに、後の迂回輸送計画案・代行輸送計画案の算出に引き継ぐデータとして、リンク残余輸送力データ342(
図23参照)、ノード残余輸送力データ344(
図24参照)、残余貨物量データ346(
図25参照)、積み替え能力データ348(
図26参照)、保管能力データ350(
図27参照)が生成される。
【0152】
輸送計画案算出部210は、復旧計画案算出部204による各日の算出結果に基づいて輸送計画案を算出する。また、輸送計画案算出部210は、迂回輸送計画案算出部212と、代行輸送ネットワーク設定部214と、代行輸送計画案算出部216とを有する。
【0153】
迂回輸送計画案算出部212は、各日について、残余輸送量を通常輸送経路とは一部又は全部が異なる輸送ネットワーク上の迂回輸送経路で迂回輸送する迂回輸送計画案を輸送計画案の1つとして算出する。また、迂回輸送計画案を、各支障区間の復旧度合に応じた輸送量上限が取扱実績予想量を上回る余剰輸送可能量を用いて、所定の迂回輸送量最大化条件を満たすように算出する。また、各輸送区間には、輸送単価が定められており、迂回輸送計画案算出部212は、輸送単価に基づく迂回輸送に係る輸送コストに基づいて迂回輸送計画案を算出する。輸送単価は、輸送単価設定データ314(
図6参照)として定められている。また、迂回輸送計画案を、保管輸送量算出部218による追加後の残余輸送量に基づいて算出する。
【0154】
具体的には、迂回輸送計画案算出部212は、式(49)~(63)に示したように定式化した最適化問題を解くことで、迂回輸送計画案を算出する。最適化問題を解くことにより、
図28に示す決定変数が算出される。算出結果として、迂回輸送計画案を示す迂回輸送計画案データ366(
図29参照)が生成される。それとともに、後の代行輸送計画案の算出に引き継ぐデータとして、リンク迂回残余輸送力データ352(
図30参照)、ノード迂回残余輸送力データ354(
図31参照)、迂回残余貨物量データ356(
図32参照)が生成される。
【0155】
代行輸送ネットワーク設定部214は、輸送区間の一部又は全部を代行輸送手段による代行輸送区間とする代行輸送ネットワークを設定する。また、代行輸送手段による代行輸送単価と、輸送手段と代行輸送手段との間の積み替えが可能な結節拠点における積み替えコストと、を更に設定する。設定した代行輸送単価は、輸送単価設定データ314(
図6参照)として記憶され、積み替えコストは、積み替え単価等設定データ316(
図7参照)として記憶される。
【0156】
代行輸送計画案算出部216は、各日について、迂回輸送計画案の迂回輸送で残余輸送量を輸送できない残余分である迂回残余輸送量を代行輸送ネットワークで輸送する代行輸送計画案を輸送計画案の1つとして算出する。また、代行輸送計画案を、所定の代行輸送量最大化条件を満たすように算出する。また、代行輸送計画案を、代行輸送単価と積み替えコストとに基づいて算出する。また、支障拠点のうち、輸送手段と代行輸送手段との間の積み替えが可能な結節拠点である支障結節拠点について、復旧度合に応じた積み替え輸送量上限が定められており、代行輸送計画案算出部216は、支障結節拠点を経由する輸送量である積み替え輸送量が、復旧度合に応じて定められた積み替え輸送量上限以下となるように、代行輸送計画案を算出する。積み替え輸送量上限は、積み替え能力設定データ336(
図15参照)として定められている。
【0157】
また、代行輸送計画案算出部216は、保管輸送量算出部218を有する。保管輸送量算出部218は、代行輸送計画案に従った代行輸送がなされなかった輸送量を翌日の残余輸送量に追加する。但し、翌日の残余輸送量に追加する際に、当該発ノードの保管能力を超える輸送量となる場合には、超える分の輸送量については追加ができないため、消失させる(荷主に返却する等)。
【0158】
具体的には、代行輸送計画案算出部216は、式(70)~(101)に示したように定式化した最適化問題を解くことで、代行輸送計画案を算出する。最適化問題を解くことにより、
図33に示す決定変数が算出される。算出結果として、代行輸送計画案を示す代行輸送計画案データ368(
図34参照)が生成される。
【0159】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が復旧・輸送計画案作成装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、
図38に示すように、記憶部300には、復旧・輸送計画案作成プログラム302と、輸送ネットワークデータ310と、輸送需要データ312と、輸送単価設定データ314と、積み替え単価等設定データ316と、リンク必要要員積算数データ320と、リンク上限投入要員数データ322と、リンク輸送力設定データ324と、通過可否設定データ326と、ノード必要要員積算数データ330と、ノード上限投入要員数データ332と、ノード輸送力設定データ334と、積み替え能力設定データ336と、保管能力設定データ338と、リンク輸送力データ340と、リンク残余輸送力データ342と、ノード残余輸送力データ344と、残余貨物量データ346と、積み替え能力データ348と、保管能力データ350と、リンク迂回残余輸送力データ352と、ノード迂回残余輸送力データ354と、迂回残余貨物量データ356と、リンク復旧計画案データ360と、ノード復旧計画案データ362と、通常輸送計画案データ364と、迂回輸送計画案データ366と、代行輸送計画案データ368と、損失コストデータ370とが記憶される。
【0160】
輸送ネットワークデータ310は、ノードである拠点や拠点間を結ぶリンクである輸送区間の集合である輸送ネットワークの構成を定めたデータである。
【0161】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、輸送ネットワークの復旧計画案及び輸送計画案を適切に作成することが可能となる。つまり、各日の支障区間・支障拠点へ投入するリソース量の合計が所与の上限投入リソース量・拠点上限投入リソース量以下となるような適切な復旧計画案を作成し、当該復旧計画案の下での適切な輸送計画案を作成することができる。特に、輸送計画案の作成において、各日について、各支障区間・各支障拠点の復旧度合に応じた輸送量上限に基づく輸送需要を適用した場合の取扱実績予想量と、当該取扱実績予想量で輸送需要を輸送できない残余分である残余輸送量とを算出する。そして、各日の取扱実績予想量及び残余輸送量に基づいて、輸送計画案を算出する。輸送計画案としては、迂回輸送計画案と代行輸送計画案とを算出する。迂回輸送計画案は、残余輸送量を通常輸送経路とは一部又は全部が異なる迂回輸送経路で輸送する輸送計画案である。代行輸送計画案は、迂回輸送で残余輸送量を輸送できない残余分である迂回残余輸送量を、輸送区間の一部又は全部を代行輸送手段による代行輸送区間である道路リンクとする代行輸送ネットワークで輸送する輸送計画案である。
【0162】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0163】
(A)輸送ネットワーク
上述の実施形態では、輸送ネットワークが鉄道ネットワークであるとしたが、例えば、高速道路といった他の輸送ネットワークにも同様に適用可能である。
【0164】
(B)支障リンク・支障ノード
上述の実施形態では、災害発生に伴って全ての鉄道リンク・ノードが機能停止状態となるとしたが、災害の影響範囲等に応じて一部の鉄道リンク・ノードが機能停止状態となるとしてもよい。また、災害の発生タイミング等に応じて機能停止状態となるタイミングが異なるようにしてもよい。
【0165】
(C)復旧放棄フラグ
また、災害発生に伴って機能停止状態となった鉄道リンク・ノード(支障リンク・支障ノード)に対して、点検要員・復旧要員を投入しない復旧放棄フラグを設定するようにしてもよい。復旧放棄フラグが設定された支障リンク・支障ノードは、機能停止状態のまま放置される(復旧されない)。
【0166】
(D)点検要員・復旧要員の投入可能初日
また、鉄道リンク・ノードに、点検要員・復旧要員の投入可能な初日を設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0167】
1…復旧・輸送計画案作成装置
200…処理部
202…輸送需要設定部
204…復旧計画案算出部
206…拠点投入上限リソース量設定部
210…輸送計画案算出部
212…迂回輸送計画案算出部
214…代行輸送ネットワーク設定部
216…代行輸送計画案算出部
218…保管輸送量算出部
300…記憶部
302…復旧・輸送計画案作成プログラム
310…輸送ネットワークデータ
312…輸送需要データ
314…輸送単価設定データ
316…積み替え単価等設定データ
320…リンク必要要員積算数データ
322…リンク上限投入要員数データ
324…リンク輸送力設定データ
326…通過可否設定データ
330…ノード必要要員積算数データ
332…ノード上限投入要員数データ
334…ノード輸送力設定データ
336…積み替え能力設定データ
338…保管能力設定データ
340…リンク輸送力データ
342…リンク残余輸送力データ
344…ノード残余輸送力データ
346…残余貨物量データ
348…積み替え能力データ
350…保管能力データ
352…リンク迂回残余輸送力データ
354…ノード迂回残余輸送力データ
356…迂回残余貨物量データ
360…リンク復旧計画案データ
362…ノード復旧計画案データ
364…通常輸送計画案データ
366…迂回輸送計画案データ
368…代行輸送計画案データ
370…損失コストデータ