(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-13
(45)【発行日】2025-05-21
(54)【発明の名称】天然バニラエキスの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20250514BHJP
【FI】
A23L27/10 C
(21)【出願番号】P 2024194335
(22)【出願日】2024-11-06
【審査請求日】2024-11-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】大熊 康彦
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-503122(JP,A)
【文献】特表平06-502685(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02430925(EP,A1)
【文献】特開2019-112508(JP,A)
【文献】特開2011-026431(JP,A)
【文献】Foods,2003年,Vol.12,#469
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00 - 27/40
A23L 27/60
C11B 1/00 - 15/00
C11C 1/00 - 5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸又は酸化剤を含む水溶液を準備する準備工程と、
前記水溶液にバニラビーンズが浸漬された状態で、少なくとも前記バニラビーンズに電磁波を照射し
ながら、
超音波を照射して前記水溶液を撹拌して発酵させる発酵工程とを含むことを特徴とする天然バニラエキスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の天然バニラエキスの製造方法において、
前記発酵工程後に、所定の時間、発酵した前記バニラビーンズを加熱して熟成させる熟成工程を含むことを特徴とする天然バニラエキスの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の天然バニラエキスの製造方法において、
前記発酵工程は、減圧下で、少なくとも前記バニラビーンズに電磁波を照射することを特徴とする天然バニラエキスの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の天然バニラエキスの製造方法において、
前記発酵工程は、前記バニラビーンズが投入された前記水溶液を前記酸又は前記酸化剤を含む気体で曝気して撹拌することを特徴とする天然バニラエキスの製造方法。
【請求項5】
バニラビーンズが酸又は酸化剤を含む水溶液に浸漬された状態で、少なくとも前記バニラビーンズに電磁波を照射する照射部と、
超音波を照射して前記水溶液を撹拌する撹拌部と
、
前記照射部及び前記撹拌部の動作を制御する制御部とを備え
、
前記制御部が、前記照射部に電磁波を照射させながら、前記撹拌部に超音波を照射するように制御することを特徴とする天然バニラエキスの製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の天然バニラエキスの製造装置において、
前記照射部により電磁波を照射されて、前記撹拌部により前記水溶液を撹拌することにより発酵した前記バニラビーンズを加熱して熟成させる加熱部を備えることを特徴とする天然バニラエキスの製造装置。
【請求項7】
請求項5に記載の天然バニラエキスの製造装置において、
前記水溶液が貯留された水槽内の圧力を調整可能な圧力調整部を備えることを特徴とする天然バニラエキスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコバニリンからバニリンへの加水分解を促し、バニラビーンズの品質を向上させる天然バニラエキスの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バニラアイスクリームやシュークリームの上質な香りは、ラン科のバニラ属植物から得られるバニリンという化合物に由来する。このバニリンは、収穫したバニラビーンズを発酵、乾燥、熟成などの工程を意味するキュアリングを経て生成される。また、発酵前には、バニラビーンズを熱湯に短時間浸ける青殺(さっせい)と呼ばれる作業が行われ、バニリンの前駆物質であるグルコバニリンの分解酵素であるβ-グルコシダーゼの働きが促進される。この活性化した分解酵素の働きにより、グルコバニリンのグリコシド結合を切断(加水分解)して、バニリンを得ることができる。
【0003】
植物から取り出すことのできるバニリンの量には限りがあり、バニリン1kgあたり500kgのバニラビーンズが必要であるといわれている。また、バニラビーンズの収穫量は天候にも左右され、加えて、栽培場所がマダガスカルやインドネシアなどの熱帯地域に限定されていることから、近年では価格高騰が問題となっている。
【0004】
このようなバニリンを含むバニラエキスを抽出する技術として、例えば特許文献1や特許文献2に示す技術が開示されている。
【0005】
特許文献1に示す技術は、バニラビーンズを水及び/又は水溶性有機溶媒で抽出しバニラエキスを製造する際、超音波を照射するものである。
【0006】
特許文献2に示す技術は、バニラ属植物又はその交配種の果実に含まれる酵素のうち、少なくとも該果実中の香気成分の前駆体を分解し香気成分を生成する作用を有するものを失活させない条件下で該果実を殺菌する第1工程と、少なくとも一部が開閉可能な通気性の容器に第1工程において殺菌した果実を入れ、温度条件及び光照射条件を制御した無菌環境下でキュアリングする第2工程とを有するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-168355号公報
【文献】特許第5504497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示の技術は、超音波を照射することにより、有効成分を溶媒中に移動させて、短時間で効率よく有効成分を抽出するとするものである。しかしながら、バニラビーンズに存在するβ-グルコシダーゼの量にはばらつきがあるため、グルコバニリンの加水分解が十分に行われず、バニラビーンズごとに香りが異なり、品質が安定しないという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に開示の技術は、果実の殺菌後に、温度条件及び光照射条件を制御してキュアリングすることで、雑菌の混入及び繁殖を抑制し、香気成分の損耗を防ぐとするものであるが、特許文献1同様に、グルコバニリンの加水分解が十分に行われず、バニラビーンズの品質が安定しない。
【0010】
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、グルコバニリンからバニリンへの加水分解を促し、バニラビーンズの品質を向上させる天然バニラエキスの製造方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る天然バニラエキスの製造方法は、酸又は酸化剤を含む水溶液を準備する工程と、前記水溶液にバニラビーンズが浸漬された状態で、少なくとも前記バニラビーンズに電磁波を照射し、前記水溶液を撹拌して発酵させる発酵工程とを含むものである。
【0012】
このように本発明においては、酸又は酸化剤を含む水溶液にバニラビーンズが浸漬された状態でバニラビーンズを発酵させることから、バニラビーンズに含まれるグルコバニリンを分解酵素だけでなく、酸又は酸化剤で加水分解できることとなり、多くのグルコバニリンをバニリンへと加水分解させて、高品質のバニラビーンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る天然バニラエキスの製造装置の概略図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法の流れを模式的に示す概略図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法の流れを模式的に示す概略図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係る天然バニラエキスの製造装置の概略図である。
【
図7】本発明の第4の実施形態に係る天然バニラエキスの製造装置の概略図である。
【
図8】本発明の第5の実施形態に係る天然バニラエキスの製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法及びその製造装置について、
図1ないし
図3を用いて説明する。本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法等は、発酵前のバニラビーンズを酸又は酸化剤を含む水溶液に投入し、この状態でバニラビーンズに電磁波を照射して撹拌することにより、バニラビーンズに含まれる多くのグルコバニリンをバニリンに加水分解し、高品質なバニラビーンズの製造を実現するものである。
【0015】
まず、天然バニラエキスの製造方法に用いられる製造装置について説明する。
図1は、本実施形態に係る天然バニラエキスの製造装置の概略図である。
図1に示すように、天然バニラエキスの製造装置1は、酸又は酸化剤を含む水溶液11が貯留される水槽10と、鞘及び鞘に内包される種子からなる発酵前のバニラビーンズB1が水溶液11に浸漬された状態で、少なくともバニラビーンズB1に電磁波を照射する照射部20と、バニラビーンズB1が投入された水溶液11を撹拌する撹拌部30と、照射部20及び撹拌部30の動作を制御する制御部40とを備えて構成される。
なお、
図1では、照射部20としてマイクロ波照射装置、撹拌部30として超音波振動装置を使用した場合を示している。
【0016】
水溶液11に含まれる酸としては、例えば、酢酸、塩化水素(塩酸)、硫酸等が挙げられる。
また、水溶液11に含まれる酸化剤としては、例えば、オゾン等が挙げられる。酸化剤としてオゾンを使用する場合、水槽10に貯留されている水(蒸留水やイオン交換水など)にボンベ等からオゾンガスを注入してもよいし、水に紫外線を照射して水中に直接オゾンを発生させるようにしてもよい。酸化剤としてオゾンを使用すれば、菌やウイルスを不活化することができるため、バニラビーンズの品質低下や腐敗を抑えることができる。
【0017】
水槽10中の水に含まれる酸又は酸化剤は、単独で使用してもよいし、複数を組み合わせて使用することもできる。
また、酸又は酸化剤を含む水溶液11の濃度としては、使用される酸又は酸化剤により酸化力が異なるため一概には言えないが、例えば、酢酸水溶液である場合、0.1ないし1mol/Lの範囲に設定することができる。酢酸濃度をこの範囲内とすることで、グルコバニリンの加水分解が効果的に進行し、かつ過剰な酸化や腐食を防止することができる。
【0018】
上記酸又は酸化剤を使用したグルコバニリンの加水分解は、以下の反応式(1)に従って進行する。
【0019】
【0020】
この反応式(1)に示されるグルコバニリンの加水分解において、酸由来の水素イオン(H+)や、酸化剤、例えば、オゾンと水との反応により生成されるヒドロキシルラジカル(・OH)を触媒として、グルコバニリンがグルコースとバニリンとに分解される。
【0021】
照射部20は、少なくともバニラビーンズB1に電磁波を照射して加熱し、グルコバニリンの分解酵素であるβ-グルコシダーゼを活性化し、バニリンへの加水分解を促す。
バニラビーンズB1に照射する電磁波としては、赤外線等の光線や、マイクロ波等の電波などが挙げられ、好ましくは、マイクロ波である。電磁波としてマイクロ波を使用した場合、鞘中の種子をピンポイントで加熱することできるため、鞘が傷むことを低減することができる。また、マイクロ波が水溶液11に照射されることにより、水溶液11中における水素イオンの動きを活発にし、加水分解をより促進することができる。さらに、マイクロ波がグルコバニリンのグリコシド結合を切断することで、バニリンの生成を増大させることができる。
電磁波の周波数としては、グルコバニリンの加水分解を進めることができれば特に制限されるものではないが、例えば、電磁波としてマイクロ波を使用した場合には、300ないし3000MHzの範囲であることが好ましく、915ないし2450MHzの範囲であることがより好ましい。マイクロ波の周波数をこの範囲にすることで、水分子の回転や、グルコバニリンと水分子との間に形成される水素結合の破壊を効果的に促し、加水分解反応を促進することができる。また、この周波数範囲であれば、マイクロ波によるエネルギーの伝達効率も高く、ピンポイントでグリコシド結合に作用できることから、バニラビーンズB1の鞘に与えるダメージを最小限に抑えつつ、加水分解反応を進めることできる。
【0022】
撹拌部30は、照射部20からの電磁波照射に起因する水溶液11の温度上昇を、水溶液11を撹拌することにより均一化する。
撹拌手段としては、超音波分散、エアレーション、磁気撹拌子を用いた撹拌等が挙げられる。中でも、撹拌手段として超音波を用いれば、バニラビーンズB1同士の激しい接触や水溶液11中での大きな移動(変位)を防止できるため、鞘が傷むことがなく、品質が安定し、商品価値を向上させることができる。また、超音波による微細振動により、酸又は酸化剤を含む水溶液11がバニラビーンズB1内に染み込みやすくなり、グルコバニリンの加水分解を促進することができる。
撹拌手段として超音波分散を使用した場合、超音波の発振周波数としては、例えば、20ないし40MHzの範囲に設定することができる。超音波の発振周波数をこの範囲とすることで、適度な振動を与え、バニラビーンズB1の鞘を損傷することなく水溶液11の均一撹拌を可能とし、また、水溶液11がバニラビーンズ内部へ染み込みやすくなる。さらに、水分子の振動を活性化させるため、加水分解反応の促進にも効果的となる。
【0023】
制御部40は、照射部20及び撹拌部30の動作を制御する。
制御部40は、照射部20及び撹拌部30を連続的に動作するように制御してもよいし、水溶液11の温度等に応じて、照射部20及び撹拌部30の少なくとも一方を規則的に、又は不規則に停止させて、間欠的に動作するように制御してもよい。例えば、水溶液11の温度があらかじめ設定された上限温度を越えた場合に、照射部20からの電磁波の照射を一時的に停止して、撹拌部30による撹拌のみを行い、水溶液11の温度があらかじめ設定された下限温度を下回った場合に、再度電磁波の照射を再開するようにしてもよい。
また、画像認識等により認識された水溶液11中のバニラビーンズB1の位置、分布に応じて、照射部20から照射される電磁波の照射方向を制御するようにしてもよい。例えば、バニラビーンズB1の分布量の多い部分のみに電磁波を照射するようにしてもよいし、バニラビーンズB1の分布量に応じて、電磁波の照射量や照射強度を分布領域ごとに変更することもできる。
【0024】
次に、製造装置1を用いた天然バニラエキスの製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法を示すフローチャートであり、
図3は、本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法の流れを模式的に示す概略図である。
【0025】
まず、事前準備として、酸又は酸化剤を含む水溶液11を準備し(ステップS1)、水槽10中に貯留する。次に、酸又は酸化剤を含む水溶液11が貯留された水槽10に、発酵前のバニラビーンズB1を投入する(ステップS2)。
このステップS1及びS2では、
図3の工程A、Bに示すように、適宜洗浄等が施された収穫後のバニラビーンズB1を水槽10のサイズに合わせて所定の量準備し、酸等を含む水溶液11が水槽10外に飛び散らないようにバニラビーンズB1を静かに水槽10に浸漬させる。水槽10は、水溶液11に含まれる酸又は酸化剤に対して耐腐食性を有する素材で形成されている。
なお、ステップS1及びS2において、水中にバニラビーンズB1を投入してから、この水に酸又は酸化剤を溶解させてもよい。
【0026】
続けて、バニラビーンズB1に照射部20から電磁波を照射し、撹拌部30により水溶液11を撹拌して、バニラビーンズB1を発酵させる(ステップS3、
図3の工程Cに対応)。バニラビーンズB1に対する電磁波の照射と撹拌は、同時に開始されてもよいし、電磁波照射後に撹拌するようにしてもよい。ステップS3では、図示しない温度制御部によって、バニラビーンズB1の発酵中における水溶液11の温度を監視するようにしてもよい。
このステップS3において、緑色のバニラビーンズB1は発酵されて変色し、バニリンを多量に含む黒色の発酵したバニラビーンズB2となる。
【0027】
最後に、バニラビーンズB2を水槽10から回収(ステップS4)することにより、天然バニラエキスを含むバニラビーンズB2を製造することができる。回収されたバニラビーンズB2は、サイズなどグレードに応じて選別されて出荷される。
このステップS4では、
図3の工程D、Eに示すように、水溶液11中の発酵したバニラビーンズB2を水溶液11中の酸等が手に触れないように水槽10の外へ取り出す。取り出したバニラビーンズB2に対し、洗浄、乾燥等の処理を別途行ってもよい。特に、水溶液11に含まれる酸等が揮発性を有していない場合には、バニラビーンズB2の乾燥(水の気化)に伴い濃度が高くなり、バニラビーンズB2の鞘を傷つける可能性もあるため、洗浄することが好ましい。
【0028】
このように、酸又は酸化剤を含む水溶液11にバニラビーンズB1が浸漬された状態でバニラビーンズB1を発酵させることから、バニラビーンズB1に含まれるグルコバニリンを分解酵素だけでなく、酸又は酸化剤で加水分解できることとなり、多くのグルコバニリンをバニリンへと加水分解させて、高品質のバニラビーンズB2を得ることができる。
【0029】
(本発明の第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法について、
図4及び
図5を用いて説明する。本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法は、バニラビーンズの発酵後に、発酵したバニラビーンズを加熱する熟成工程を備えるものである。
なお、本実施形態において上記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0030】
図4は、本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法を示すフローチャートであり、
図5は、本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法の流れを模式的に示す概略図である。
本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法では、まず、事前準備として、酸又は酸化剤を含む水溶液11を準備し(ステップS11)、この水溶液11を水槽10中に貯留する。次に、酸又は酸化剤を含む水溶液11が貯留された水槽10に、発酵前のバニラビーンズB1を投入する(ステップS12)。
このステップS11及びS12では、
図5の工程A、Bに示すように、適宜洗浄等が施された収穫後のバニラビーンズB1を水槽10のサイズに合わせて所定の量準備し、酸等を含む水溶液11が水槽10外に飛び散らないようにバニラビーンズB1を静かに水槽10に浸漬させる。
【0031】
続けて、バニラビーンズB1に照射部20から電磁波を照射し、撹拌部30により水溶液11を撹拌して、バニラビーンズB1を発酵させる(ステップS13、
図5の工程Cに対応)。
このステップS13において、緑色のバニラビーンズB1は発酵されて変色し、バニリンを多量に含む黒色の発酵したバニラビーンズB2となる。
【0032】
ステップS13において、発酵させたバニラビーンズB2を水槽10から取り出した後、適宜洗浄、乾燥させて、恒温槽などの加熱部50内に載置する。この状態で、バニラビーンズB2を所定の時間、加熱させて熟成させる(ステップS14)。ここでいう熟成とは、ステップS13の発酵工程でグルコバニリンのグリコシド結合が切断されてバニリンと分離されたグルコースを更に分解させることをいう。
また、この熟成工程や上述の発酵工程では、グルコバニリンの加水分解の中間生成物として、グルコースの1位の炭素原子に結合する酸素原子がマイナスの電荷を帯びたものが生成される。この中間生成物の酸素原子部分にバニラビーンズB1、B2に含まれる様々な化合物が結合して、複雑な風味を出すことができる。
このステップS14では、
図5の工程D、Eに示すように、水溶液11中の発酵したバニラビーンズB2を水溶液11中の酸等が手に触れないように水槽10の外へ取り出した後、バニラビーンズB2が互いに重ならないようにして加熱部50内に載置する。加熱部50内の温度は、例えば、30ないし50℃に設定される。加熱部50から取り出したバニラビーンズB2に対して、洗浄、乾燥等の処理を別途行ってもよい。
【0033】
最後に、バニラビーンズB2を加熱部50から回収(ステップS15、
図5の工程Fに対応)することにより、天然バニラエキスを含むバニラビーンズB2を製造することができる。
【0034】
このように、バニラビーンズB2を加熱して熟成させる熟成工程を発酵工程後に備えることから、発酵によってバニリンと分離されたグルコースを更に分解することとなり、複雑で深みのある香りを有するバニラビーンズB2を得ることができる。
【0035】
(本発明の第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法等について、
図6を用いて説明する。本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法は、減圧した状態で、少なくともバニラビーンズに電磁波を照射するものである。
なお、本実施形態において上記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0036】
まず、天然バニラエキスの製造方法に用いられる製造装置について説明する。
図6は、本実施形態に係る天然バニラエキスの製造装置の概略図である。
図6に示すように、天然バニラエキスの製造装置1は、酸又は酸化剤を含む水溶液11が貯留される密閉可能な水槽10と、当該水槽10内に設置され、発酵前のバニラビーンズB1に電磁波を照射する照射部20と、バニラビーンズB1が投入された水溶液11を撹拌する撹拌部30と、密閉された水槽10内の圧力を調整する圧力調整部60と、照射部20、撹拌部30及び圧力調整部60の動作を制御する制御部40とを備えて構成される。
【0037】
圧力調整部60は、密閉可能な水槽10内の圧力を調整するものである。圧力調整部60としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、吸引ポンプ、配管、バルブ等から構成される。
【0038】
本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法は、バニラビーンズB1を発酵するステップS3において、水槽10が密閉された状態で、電磁波の照射及び水溶液11の撹拌と同時に、又はこれらの前後に、圧力調整部60により水槽10内の空気を吸引して減圧する。ステップS3は、この圧力調整部60による減圧下で行われるため、水溶液11の温度が電磁波照射によって過度に上昇することがない。そのため、減圧下での発酵工程は、水溶液11を撹拌することなく、電磁波照射単独で進めることもできるし、あるいは、水溶液11の撹拌度合いを抑えた状態(水溶液11の動きが小さい状態)で電磁波を照射することにより進めることもできる。
【0039】
このように、減圧下で発酵工程が行われることから、電磁波の照射により水溶液11の温度が過度に上昇しないこととなり、バニラビーンズB1の鞘が加熱されて煮詰まりにくくなり、高品質のバニラビーンズB2を得ることができる。また、バニラビーンズB1の長時間の加熱が可能となるため、バニリンの生成をより増加させることができる。
【0040】
(本発明の第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法等について、
図7を用いて説明する。本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法は、バニラビーンズの発酵工程において、酸又は酸化剤を含む気体で水槽内を撹拌するものである。
なお、本実施形態において上記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0041】
まず、天然バニラエキスの製造方法に用いられる製造装置について説明する。
図7は、本実施形態に係る天然バニラエキスの製造装置の概略図である。
図7に示すように、天然バニラエキスの製造装置1は、水槽10と、照射部20と、撹拌部30と、制御部40とを備える。
撹拌部30は、ガス状の酸又は酸化剤を供給可能な供給部31と、供給部31から供給されたガス、及び大気や窒素ガス等の酸又は酸化剤と反応しない気体とを混合する混合部32とを備えている。酸又は酸化剤と大気等の気体との混合比率は、適宜調整可能であり、バニラビーンズB1の発酵の進行度合いや水溶液11の濃度等に応じて0:10ないし10:0の範囲で調整される。
【0042】
本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法は、バニラビーンズB1を発酵するステップS3において、照射部20から電磁波を照射しながら、混合部32で混合された酸又は酸化剤を含む気体を配管70を介して水槽10の底部に送り、配管70の先端側に設けられた通気孔71から水溶液11に供給し、曝気する。この酸又は酸化剤を含む気体の曝気により、バニラビーンズB1を撹拌することとなる。
【0043】
なお、上記第1の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法では、酸又は酸化剤を含む水溶液11を準備し、この水溶液11に発酵前のバニラビーンズB1を投入した後、照射部20から電磁波を照射して、撹拌部30により水溶液11を撹拌することとしていたが、本実施形態においては、撹拌部30から酸又は酸化剤を含む気体が供給されて、当該気体で曝気して撹拌することから、酸又は酸化剤を含まない水にバニラビーンズB1を投入後に、照射部20から電磁波を照射し、撹拌部30から酸又は酸化剤を水中に供給して溶解させつつ、その気流によって撹拌し、バニラビーンズB1を発酵させることもできる。
【0044】
このように、発酵工程において、水溶液11を酸又は酸化剤を含む気体で曝気して撹拌することから、水溶液11中に適宜酸又は酸化剤を供給し、加水分解で使用されて減少した酸又は酸化剤を補充できることとなり、グルコバニリンの加水分解を促進し、発酵時間を短縮することができる。
【0045】
(本発明の第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法等について、
図8を用いて説明する。本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法は、バニラビーンズの発酵工程において、酸又は酸化剤を含む水溶液をバニラビーンズに噴霧して、電磁波を照射するものである。
なお、本実施形態において上記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0046】
まず、天然バニラエキスの製造方法に用いられる製造装置について説明する。
図8は、本実施形態に係る天然バニラエキスの製造装置の概略図である。
図8に示すように、天然バニラエキスの製造装置1は、酸又は酸化剤を含む水溶液11を噴霧する噴霧部80と、発酵前のバニラビーンズB1に電磁波を照射する照射部20と、照射部20及び撹拌部30の動作を制御する制御部40とを備えて構成される。
【0047】
噴霧部80は、酸又は酸化剤を含む水溶液11を液体状態又は気体状態でバニラビーンズB1に向けて噴霧する。噴霧部80から水溶液11を気体状態で噴霧する場合には、水溶液11の気体状態を維持するため、バニラビーンズB1を加温された密閉空間内に載置するようにすることもできる。バニラビーンズB1の発酵を加温された密閉空間内で行う場合には、照射部20からの電磁波照射を抑えてもよい。
【0048】
本実施形態に係る天然バニラエキスの製造方法は、バニラビーンズB1を発酵するステップS2及びS3において、水溶液11の撹拌部30による撹拌に代えて、作業台Tに載置したバニラビーンズB1に対し、噴霧部80から酸又は酸化剤を含む水溶液11を噴霧し、照射部20から電磁波を照射してバニラビーンズB1を発酵させる。
図8に示す例では、バニラビーンズB1を作業台T上に載置した状態を示しているが、水溶液11の噴霧効率を上げるため、バニラビーンズB1を吊り下げた状態で水溶液11を噴霧するようにしてもよい。
このようにして発酵されたバニラビーンズB2は、適宜、洗浄、乾燥等を施されて、回収されることとなる。
【0049】
このように、バニラビーンズB1に酸又は酸化剤を含む水溶液11を液体状態又は気体状態で噴霧して、少なくともバニラビーンズB1に電磁波を照射して発酵させることから、バニラビーンズB1に含まれるグルコバニリンを分解酵素だけでなく、酸又は酸化剤で加水分解できることとなり、多くのグルコバニリンをバニリンへと加水分解させて、高品質のバニラビーンズB2を得ることができる。
特に、酸又は酸化剤を含む水溶液11を気体状態でバニラビーンズB1に噴霧した場合には、酸又は酸化剤をより小さい粒子の状態で吹き付けることができることとなり、酸又は酸化剤をグルコバニリンに効果的に作用させることができる。
【0050】
なお、上記各実施形態は、適宜組み合わせて使用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 製造装置
10 水槽
11 水溶液
20 照射部
30 撹拌部
31 供給部
32 混合部
40 制御部
50 加熱部
60 圧力調整部
70 配管
71 通気孔
80 噴霧部
B1、B2 バニラビーンズ
T 作業台
【要約】
【課題】グルコバニリンからバニリンへの加水分解を促し、バニラビーンズの品質を向上させる天然バニラエキスの製造方法を提供する。
【解決手段】天然バニラエキスの製造方法は、酸又は酸化剤を含む水溶液11を準備する準備工程と、水溶液11にバニラビーンズB1が浸漬された状態で、少なくともバニラビーンズB1に電磁波を照射し、水溶液11を撹拌して発酵させる発酵工程とを含む。
【選択図】
図2