(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-14
(45)【発行日】2025-05-22
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20250515BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20250515BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20250515BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D101:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2023559263
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2021041371
(87)【国際公開番号】W WO2023084646
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲出 知弘
(72)【発明者】
【氏名】田村 勉
(72)【発明者】
【氏名】フックス ロバート
(72)【発明者】
【氏名】シフマン ユルグ
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-000950(JP,A)
【文献】特開2020-019346(JP,A)
【文献】特開2019-194059(JP,A)
【文献】特開2017-114324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵角制御用の電動モータと、
操舵トルクおよび反力制御ゲインを含む運動方程式に基づいて手動操舵角指令値を演算する手動操舵角指令値演算部と、
運転支援用の自動操舵角指令値に前記手動操舵角指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部と、
前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部と、
前記操舵トルク、車両情報および道路情報を用いて、前記反力制御ゲインを設定する反力制御ゲイン設定部とを含む、操舵装置。
【請求項2】
前記反力制御ゲイン設定部は、
前記操舵トルク、前記車両情報および道路情報を用いて、ドライバ目標操舵角を推定するドライバ目標操舵角推定部と、
前記ドライバ目標操舵角を用いて、前記反力制御ゲインを演算する反力制御ゲイン演算部とを含む、請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記反力制御ゲイン設定部は、
前記操舵トルク、前記車両情報および道路情報を用いて、ドライバ目標操舵角を推定するドライバ目標操舵角推定部と、
前記ドライバ目標操舵角、前記操舵トルクおよび前記電動モータの回転角を用いて、ドライバトルク制御ゲインを推定するドライバトルク制御ゲイン推定部と、
前記ドライバトルク制御ゲインを用いて前記反力制御ゲインを演算する反力制御ゲイン演算部とを含む、請求項1に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記車両情報が車速であり、前記道路情報が道路の曲率である、請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵装置。
【請求項5】
前記操舵トルクまたは前記手動操舵角指令値と前記車両情報とを用いて、前記自動操舵角指令値の演算に用いるための目標走行経路を変更する経路変更部をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵装置。
【請求項6】
前記経路変更部は、
前記操舵トルクまたは前記手動操舵角指令値と前記車両情報とを用いて、所定時間後のドライバ目標横偏差を演算するドライバ目標横偏差演算部と、
前記ドライバ目標横偏差と視覚情報ベースの目標走行経路との所定時間後の横偏差とを用いて、修正走行経路を生成する修正走行経路生成部と、
前記修正走行経路に基づいて前記視覚情報ベースの目標走行経路を修正することにより、最終的な目標走行経路を生成する目標走行経路生成部とを含む、請求項5に記載の操舵装置。
【請求項7】
前記車両情報が車速および前記視覚情報ベースの目標走行経路との現在の横偏差である、
請求項6に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、操舵トルクを用いて手動操舵指令値を演算する手動操舵指令値演算部と、自動操舵指令値に手動操舵指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部と、統合角度指令値に基づいて、電動モータを角度制御する制御部とを含むモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のモータ制御装置では、運転支援モード時において、ドライバの意図を十分に反映した操舵制御を行うことができない。
【0005】
この発明の目的は、運転支援モード時において、ドライバの意図を十分に反映した操舵制御を行うことができる操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、舵角制御用の電動モータと、操舵トルクおよび反力制御ゲインを含む運動方程式に基づいて手動操舵角指令値を演算する手動操舵角指令値演算部と、運転支援用の自動操舵角指令値に前記手動操舵角指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部と、前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部と、前記操舵トルク、車両情報および道路情報を用いて、前記反力制御ゲインを設定する反力制御ゲイン設定部とを含む、操舵装置を提供する。
【0007】
この構成では、運転支援モード時において、ドライバの意図を十分に反映した操舵制御を行うことができる。
【0008】
本発明における上述の、またはさらに他の目的、特徴および効果は、添付図面を参照して次に述べる実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る操舵装置が適用された電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、モータ制御用ECUの電気的構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、角度制御部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、電動パワーステアリングシステムの物理モデルの構成例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、外乱トルク推定部の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、トルク制御部の構成を示す模式図である。
【
図7】
図7は、ドライバ目標横偏差設定部の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、ドライバ目標横偏差演算部の動作を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、主としてドライバ目標横偏差Δy
mdを用いて目標走行経路を変更するための上位ECUの構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、修正経路候補生成部の動作を説明するための模式図である。
【
図12】
図12は、目標走行経路生成部の動作を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一実施形態は、舵角制御用の電動モータと、操舵トルクおよび反力制御ゲインを含む運動方程式に基づいて手動操舵角指令値を演算する手動操舵角指令値演算部と、運転支援用の自動操舵角指令値に前記手動操舵角指令値を加算して、統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部と、前記統合角度指令値に基づいて、前記電動モータを角度制御する制御部と、前記操舵トルク、車両情報および道路情報を用いて、前記反力制御ゲインを設定する反力制御ゲイン設定部とを含む、操舵装置を提供する。
【0011】
この構成では、運転支援モード時において、ドライバの意図を十分に反映した操舵制御を行うことができる。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記反力制御ゲイン設定部は、前記操舵トルク、前記車両情報および道路情報を用いて、ドライバ目標操舵角を推定するドライバ目標操舵角推定部と、前記ドライバ目標操舵角を用いて、前記反力制御ゲインを演算する反力制御ゲイン演算部とを含む。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記反力制御ゲイン設定部は、前記操舵トルク、前記車両情報および道路情報を用いて、ドライバ目標操舵角を推定するドライバ目標操舵角推定部と、前記ドライバ目標操舵角、前記操舵トルクおよび前記電動モータの回転角を用いて、ドライバトルク制御ゲインを推定するドライバトルク制御ゲイン推定部と、前記ドライバトルク制御ゲインを用いて前記反力制御ゲインを演算する反力制御ゲイン演算部とを含む。
【0014】
本発明の一実施形態では、前記車両情報が車速であり、前記道路情報が道路の曲率である。
【0015】
本発明の一実施形態では、前記操舵トルクまたは前記手動操舵角指令値と前記車両情報とを用いて、前記自動操舵角指令値の演算に用いるための目標走行経路を変更する経路変更部をさらに含む。
【0016】
本発明の一実施形態では、前記経路変更部は、前記操舵トルクまたは前記手動操舵角指令値と前記車両情報とを用いて、所定時間後のドライバ目標横偏差を演算するドライバ目標横偏差演算部と、前記ドライバ目標横偏差と視覚情報ベースの目標走行経路との所定時間後の横偏差とを用いて、修正走行経路を生成する修正走行経路生成部と、前記修正走行経路に基づいて前記視覚情報ベースの目標走行経路を修正することにより、最終的な目標走行経路を生成する目標走行経路生成部とを含む。
【0017】
本発明の一実施形態では、前記車両情報が車速および前記視覚情報ベースの目標走行経路との現在の横偏差である。
【0018】
[本発明の実施形態の詳細な説明]
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置が適用された電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す模式図である。
【0020】
電動パワーステアリングシステム1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール(ハンドル)2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0021】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
【0022】
トーションバー10の近傍には、トルクセンサ12が配置されている。トルクセンサ12は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられたトーションバートルクTtbを検出する。この実施形態では、トルクセンサ12によって検出されるトーションバートルクTtbは、例えば、左方向への操舵のためのトルクが正の値として検出され、右方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほどトーションバートルクTtbの大きさが大きくなるものとする。トーションバートルクTtbは、本発明の「操舵トルク」の一例である。
【0023】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端には、ピニオン16が連結されている。
【0024】
ラック軸14は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0025】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
【0026】
操舵補助機構5は、操舵補助力(アシストトルク)を発生するための電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを増幅して転舵機構4に伝達するための減速機19とを含む。減速機19は、ウォームギヤ20と、このウォームギヤ20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機19は、伝達機構ハウジングとしてのギヤハウジング22内に収容されている。
【0027】
以下において、減速機19の減速比(ギヤ比)をNで表す場合がある。減速比Nは、ウォームホイール21の回転角であるウォームホイール角θwwに対するウォームギヤ20の回転角であるウォームギヤ角θwgの比(θwg/θww)として定義される。
【0028】
ウォームギヤ20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、出力軸9に一体回転可能に連結されている。
【0029】
電動モータ18によってウォームギヤ20が回転駆動されると、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6にモータトルクが付与されるとともにステアリングシャフト6(出力軸9)が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォームギヤ20を回転駆動することによって、電動モータ18による操舵補助や転舵輪3の転舵が可能となる。電動モータ18には、電動モータ18のロータの回転角を検出するための回転角センサ23が設けられている。
【0030】
出力軸9(電動モータ18の駆動対象の一例)に加えられるトルクとしては、電動モータ18によるモータトルクと、モータトルク以外の外乱トルクTlcとがある。モータトルク以外の外乱トルクTlcには、トーションバートルクTtb、路面負荷トルク(路面反力トルク)Trl、摩擦トルクTf等が含まれる。
【0031】
トーションバートルクTtbは、運転者によってステアリングホイール2に加えられる力や、ステアリング慣性によって発生する力等によって、ステアリングホイール2側から出力軸9に加えられるトルクである。
【0032】
路面負荷トルクTrlは、タイヤに発生するセルフアライニングトルク、サスペンションやタイヤホイールアライメントによって発生する力、ラックアンドピニオン機構の摩擦力等によって、転舵輪3側からラック軸14を介して出力軸9に加えられるトルクである。
【0033】
車両には、車両の進行方向前方の道路を撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ25、自車位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)26、道路形状や障害物を検出するためのレーダー27、地図情報を記憶した地図情報メモリ28、車速vxを検出するための車速センサ29等が搭載されている。
【0034】
CCDカメラ25、GPS26、レーダー27、地図情報メモリ28および車速センサ29は、運転支援制御を行うための上位ECU(ECU:Electronic Control Unit)201に接続されている。上位ECU201は、CCDカメラ25、GPS26、レーダー27および車速センサ29によって得られる情報、地図情報等を元に、周辺環境認識、自車位置推定、経路計画等を行い、操舵や駆動アクチュエータの制御目標値の決定を行う。
【0035】
この実施形態では、運転モードとして、通常モードと運転支援モードとがある。この実施形態では、上位ECU201は、運転支援モード時には、CCDカメラ25、GPS26、レーダー27および車速センサ29によって得られる情報および地図情報の他、モータ制御用ECU202から与えられるドライバ目標横偏差Δymdに基づいて、運転支援モードのための自動操舵角指令値θaを生成する。この実施形態では、運転支援は、車両が車線中央(レーンセンタ)を自動追従するためのレーンセンタリングアシスト(LCA)である。自動操舵角指令値θaは、車両を車線中央に沿って走行させるための操舵角(この実施形態では、ピニオン軸13の回転角)の目標値である。
【0036】
また、上位ECU201は、運転支援モード時には、車速v
x、道路の曲率半径ρ、視覚情報ベースの目標走行経路との所定時間経過後の横偏差Δy
mdおよび後述する反力制御ゲイン演算部55(
図2参照)で用いられる重み係数κを生成する。視覚情報ベースの目標走行経路は、主としてCCDカメラ25によって得られる視覚情報に基づいて、車両を車線中央に沿って走行させるために生成される目標走行経路である。また、上位ECU201は、運転モードが通常モードであるか運転支援モードであるかを示すモード信号S
modeを生成する。モード信号S
mode、自動操舵角指令値θ
a、
、車速v
x、曲率半径ρ、横偏差Δy
mdおよび重み係数κは、車載ネットワークを介して、モータ制御用ECU202に与えられる。
【0037】
トルクセンサ12によって検出されるトーションバートルクTtb、回転角センサ23の出力信号は、モータ制御用ECU202に入力される。モータ制御用ECU202は、これらの入力信号および上位ECU201から与えられる情報に基づいて、電動モータ18を制御する。
【0038】
図2は、モータ制御用ECU202の電気的構成を示すブロック図である。
【0039】
以下、主として、運転モードが運転支援モードである場合の動作について説明する。
【0040】
モータ制御用ECU202は、マイクロコンピュータ50と、マイクロコンピュータ50によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)41と、電動モータ18に流れる電流(以下、「モータ電流Im」という)を検出するための電流検出回路42とを備えている。
【0041】
マイクロコンピュータ50は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部は、回転角演算部51と、減速比除算部52と、ドライバ目標操舵角推定部53と、ドライバトルク制御ゲイン推定部54と、反力制御ゲイン演算部55と、反力設定部56と、手動操舵角指令値演算部57と、統合角度指令値演算部58と、角度制御部59と、トルク制御部60と、ドライバ目標横偏差設定部61とを含む。
【0042】
この実施形態では、ドライバ目標操舵角推定部53と、ドライバトルク制御ゲイン推定部54と、反力制御ゲイン演算部55とによって、本発明の「反力制御ゲイン設定部」が構成されている。
【0043】
回転角演算部51は、回転角センサ23の出力に基づいて電動モータ18のロータの回転角(ロータ回転角)θmを演算する。減速比除算部52は、回転角演算部51によって演算されるロータ回転角θmを減速比Nで除算することにより、ロータ回転角θmをピニオン軸13の回転角であるピニオン角(操舵角)θpに変換する。
【0044】
ドライバ目標操舵角推定部53は、トーションバートルクTtbと、上位ECU201から与えられる車速vxおよび曲率半径ρとに基づいて、ドライバが進もうと意図する方向に応じた操舵角(以下、「ドライバ目標操舵角θd」という。)を推定する。θdの推定値を、^θdで表すことにする。
【0045】
ドライバ目標操舵角^θdは、次式(1)に基づいて演算される。
【0046】
【0047】
式(1)において、各記号の意味は次の通りである。
θenv:道路形状(曲率=1/ρ)に応じて、目標走行経路を追従するために必要な操舵角
θint:ドライバ入力に応じた操舵角
Rs:オーバーロールギヤ比(転舵輪3の転舵角に対するステアリングホイール2の回転角の比)
M:車両重量
lf:車両重心から前輪の車軸までの車両の前後方向距離
lr:車両重心から後輪の車軸までの車両の前後方向距離
Cf:前輪のコーナリングステッフネス
Cr:後輪のコーナリングステッフネス
Jsw:ステアリングホイール2の慣性
t:現在時刻
Δt:所定時間
ドライバトルク制御ゲイン推定部54は、ドライバ目標操舵角^θd、ピニオン角θpおよびトーションバートルクTtbに基づいて、ドライバトルク制御ゲインkd,cdを推定する。
【0048】
この実施形態では、ドライバがステアリングホイール2に入力したトルクをドライバドライバトルクTdとすると、ドライバトルクTdは、次式(2)で表されると仮定している。
【0049】
【0050】
式(2)において、θdは、ドライバ目標操舵角であり、θswは、ステアリングホイール2の回転角である。kdは、ドライバトルクを規定するためのばね定数であり、cdは、ドライバトルクを規定するための粘性減衰係数である。kdおよびcdは、ドライバトルクを規定するための制御ゲインである。つまり、この実施形態では、ドライバ目標操舵角θdをドライバトルク制御ゲインkd,cdで追従すると仮定している。
【0051】
ドライバトルク制御ゲイン推定部54は、次式(3)のカルマンフィルタ状態方程式および次式(4)のカルマンフィルタ観測方程式を用いて、ドライバトルク制御ゲインkd,cdを推定する。kdおよびcdの推定値を^kdおよび^cdで表すことにする。
【0052】
【0053】
【0054】
式(3)において、Kは、カルマンフィルタゲインであり、Ktbは、トーションバー10の剛性である。
【0055】
反力制御ゲイン演算部55は、ドライバトルク制御ゲイン^kd,^cdと上位ECU201から与えられる重み係数κとに基づいて、ドライバに対する操舵反力を規定するための反力制御ゲインka,caを演算する。kaは、ドライバに対する操舵反力を規定するためのばね定数であり、caは、ドライバに対する操舵反力を規定するための粘性減衰係数である。
【0056】
反力制御ゲイン演算部55は、次式(5)に基づいて、反力制御ゲインka,caを演算する。
【0057】
【0058】
式(5)において、ka,stは、予め設定されたバネ定数kaの基準値である。ca,stは、予め設定された粘性減衰係数caの基準値である。
【0059】
重み係数κは、周囲の状況等に基づいて設定される。重み係数κは、例えば、1、0または-1に設定される。
【0060】
κ=1の場合には、ドライバトルク制御ゲイン^kd,^cdが増加すると、反力制御ゲインka,caが減少する。この場合には、ドライバが操舵を行いやすくなる。上位ECU201は、例えば、ドライバが操舵を行ったとしてもリスクが低い状況において、κを1に設定する。このような場合、上位ECU201は、κを1に限らず1以上の値に設定してもよい。
【0061】
κ=0の場合には、ドライバトルク制御ゲイン^kd,^cdの値にかかわらず、反力制御ゲインka,caは一定値となる。
【0062】
κ=-1の場合には、ドライバトルク制御ゲイン^kd,^cdが増加すると、反力制御ゲインka,caも増加する。この場合には、ドライバの操舵介入を許可しない運転支援優先の制御となる。上位ECU201は、例えば、ドライバが操舵を行った場合にリスクが高い状況において、κを-1に設定する。このような場合、上位ECU201は、κをー1に限らず-1以下の値に設定してもよい。
【0063】
反力設定部56は、反力制御ゲインka,ca、ピニオン角θpおよび上位ECU201から与えられる自動操舵角指令値θaに基づいて、ドライバに対する操舵反力Taを設定する。具体的には、反力設定部56は、次式(6)に基づいて、操舵反力Taを設定する。
【0064】
【0065】
操舵反力Taは、ピニオン角θpが自動操舵角指令値θaに等しい場合には0となる。ピニオン角θpと自動操舵角指令値θaとの差の絶対値が大きくなるほど、操舵反力Taの絶対値は大きくなる。
【0066】
手動操舵角指令値演算部57は、ドライバがステアリングホイール2を操作した場合に、当該ステアリングホイール操作に応じた操舵角(この実施形態ではピニオン軸13の回転角)を手動操舵角指令値θmdacとして設定するために設けられている。
【0067】
手動操舵角指令値演算部57は、操舵反力Taと、トーションバートルクTtbと、ロアコラムを含む単一慣性モデル(リファレンスEPSモデル)におけるコラム慣性Jcとに基づいて、手動操舵角指令値θmdを演算する。具体的には、手動操舵角指令値演算部57は、次式(7)の微分方程式を解くことにより、手動操舵角指令値θmdを演算する。
【0068】
【0069】
統合角度指令値演算部58は、自動操舵角指令値θaに手動操舵角指令値θmdを加算することにより、統合角度指令値θsを演算する。
【0070】
角度制御部59は、統合角度指令値θsに基づいて、統合角度指令値θsに応じた統合モータトルク指令値Tmsを演算する。角度制御部59の詳細については、後述する。
【0071】
トルク制御部60は、電動モータ18のモータトルクがモータトルク指令値Tmsに近づくように駆動回路41を駆動する。
【0072】
ドライバ目標横偏差設定部61については、後述する。
【0073】
図3は、角度制御部59の構成を示すブロック図である。
【0074】
角度制御部59は、統合角度指令値θsに基づいて、統合モータトルク指令値Tmsを演算する。角度制御部59は、ローパスフィルタ(LPF)71と、フィードバック制御部72と、フィードフォワード制御部73と、外乱トルク推定部74と、トルク加算部75と、外乱トルク補償部76と、減速比除算部77と、減速比乗算部78とを含む。
【0075】
減速比乗算部78は、減速比除算部77によって演算されるモータトルク指令値Tmsに減速機19の減速比Nを乗算することにより、モータトルク指令値Tmsをピニオン軸13に作用するピニオン軸トルク指令値N・Tmsに換算する。
【0076】
ローパスフィルタ71は、統合角度指令値θsに対してローパスフィルタ処理を行う。ローパスフィルタ処理後の統合角度指令値θslは、フィードバック制御部72およびフィードフォワード制御部73に与えられる。
【0077】
フィードバック制御部72は、ピニオン角θpを、ローパスフィルタ処理後の統合角度指令値θslに近づけるために設けられている。フィードバック制御部72は、角度偏差演算部72AとPD制御部72Bとを含む。角度偏差演算部72Aは、統合角度指令値θslとピニオン角θpとの偏差Δθ(=θsl-θp)を演算する。なお、角度偏差演算部72Aは、統合角度指令値θslと、外乱トルク推定部74によって演算される操舵角推定値^θpとの偏差(θsl-^θp)を、角度偏差Δθとして演算するようにしてもよい。
【0078】
PD制御部72Bは、角度偏差演算部72Aによって演算される角度偏差Δθに対してPD演算(比例微分演算)を行うことにより、フィードバック制御トルクTfbを演算する。フィードバック制御トルクTfbは、トルク加算部75に与えられる。
【0079】
フィードフォワード制御部73は、電動パワーステアリングシステム1の慣性による応答性の遅れを補償して、制御の応答性を向上させるために設けられている。フィードフォワード制御部73は、角加速度演算部73Aと慣性乗算部73Bとを含む。角加速度演算部73Aは、統合角度指令値θslを二階微分することにより、目標角加速度d2θsl/dt2を演算する。
【0080】
慣性乗算部73Bは、角加速度演算部73Aによって演算された目標角加速度d
2θ
sl/dt
2に、電動パワーステアリングシステム1の慣性Jを乗算することにより、フィードフォワード制御トルクT
ff(=J・d
2θ
sl/dt
2)を演算する。慣性Jは、例えば、後述する電動パワーステアリングシステム1の物理モデル(
図4参照)から求められる。フィードフォワード制御トルクT
ffは、慣性補償値として、トルク加算部75に与えられる。
【0081】
トルク加算部75は、フィードバック制御トルクTfbにフィードフォワード制御トルクTffを加算することにより、基本トルク指令値(Tfb+Tff)を演算する。
【0082】
外乱トルク推定部74は、プラント(電動モータ18の制御対象)に外乱として発生する非線形なトルク(外乱トルク:モータトルク以外のトルク)を推定するために設けられている。外乱トルク推定部74は、ピニオン軸トルク指令値N・Tmsと、ピニオン角θpとに基づいて、外乱トルク(外乱負荷)Tlc、ピニオン角θpおよびピニオン角微分値(角速度)dθp/dtを推定する。外乱トルクTlc、ピニオン角θpおよびピニオン角微分値dθp/dtの推定値を、それぞれ^Tlc、^θpおよびd^θp/dtで表す。外乱トルク推定部74の詳細については、後述する。
【0083】
外乱トルク推定部74によって演算された外乱トルク推定値^Tlcは、外乱トルク補償値として外乱トルク補償部76に与えられる。
【0084】
外乱トルク補償部76は、基本トルク指令値(Tfb+Tff)から外乱トルク推定値^Tlcを減算することにより、統合操舵トルク指令値Tps(=Tfb+Tff-^Tlc)を演算する。これにより、外乱トルクが補償された統合操舵トルク指令値Tps(ピニオン軸13に対するトルク指令値)が得られる。
【0085】
統合操舵トルク指令値T
psは、減速比除算部77に与えられる。減速比除算部77は、統合操舵トルク指令値T
psを減速比Nで除算することにより、統合モータトルク指令値T
msを演算する。この統合モータトルク指令値T
msが、トルク制御部60(
図2参照)に与えられる。
【0086】
外乱トルク推定部74について詳しく説明する。外乱トルク推定部74は、例えば、
図4に示す電動パワーステアリングシステム1の物理モデル101を使用して、外乱トルクT
lc、ピニオン角θ
pおよびピニオン角速度dθ
p/dtを推定する外乱オブザーバから構成されている。
【0087】
この物理モデル101は、出力軸9および出力軸9に固定されたウォームホイール21を含むプラント(モータ駆動対象の一例)102を含む。プラント102には、ステアリングホイール2からトーションバー10を介してトーションバートルクTtbが与えられるとともに、転舵輪3側から路面負荷トルクTrlが与えられる。
【0088】
さらに、プラント102には、ウォームギヤ20を介してピニオン軸トルク指令値N・Tmsが与えられるとともに、ウォームホイール21とウォームギヤ20との間の摩擦によって摩擦トルクTfが与えられる。
【0089】
プラント102の慣性をJとすると、物理モデル101の慣性についての運動方程式は、次式(8)で表される。
【0090】
【0091】
d2θp/dt2は、プラント102の角加速度である。Nは、減速機19の減速比である。Tlcは、プラント102に与えられるモータトルク以外の外乱トルクを示している。この実施形態では、外乱トルクTlcは、トーションバートルクTtbと路面負荷トルクTrlと摩擦トルクTfとの和として示されているが、実際には、外乱トルクTlcはこれら以外のトルクを含んでいる。
【0092】
図4の物理モデル101に対する状態方程式は、次式(9)で表わされる。
【0093】
【0094】
式(9)において、xは、状態変数ベクトル、u1は、既知入力ベクトル、u2は、未知入力ベクトル、yは、出力ベクトル(測定値)である。また、式(9)において、Aは、システム行列、B1は、第1入力行列、B2は、第2入力行列、Cは、出力行列、Dは、直達行列である。
【0095】
前記状態方程式を、未知入力ベクトルu2を状態の1つとして含めた系に拡張する。拡張系の状態方程式(拡張状態方程式)は、次式(10)で表される。
【0096】
【0097】
前記式(10)において、xeは、拡張系の状態変数ベクトルであり、次式(11)で表される。
【0098】
【0099】
前記式(10)において、Aeは、拡張系のシステム行列、Beは、拡張系の既知入力行列、Ceは、拡張系の出力行列である。
【0100】
前記式(10)の拡張状態方程式から、次式(12)の方程式で表される外乱オブザーバ(拡張状態オブザーバ)が構築される。
【0101】
【0102】
式(12)において、^xeはxeの推定値を表している。また、Lはオブザーバゲインである。また、^yはyの推定値を表している。^xeは、次式(13)で表される。
【0103】
【0104】
式(13)において、^θpはθpの推定値であり、^TlcはTlcの推定値である。
【0105】
外乱トルク推定部74は、前記式(12)の方程式に基づいて状態変数ベクトル^xeを演算する。
【0106】
図5は、外乱トルク推定部74の構成を示すブロック図である。
【0107】
外乱トルク推定部74は、入力ベクトル入力部81と、出力行列乗算部82と、第1加算部83と、ゲイン乗算部84と、入力行列乗算部85と、システム行列乗算部86と、第2加算部87と、積分部88と、状態変数ベクトル出力部89とを含む。
【0108】
減速比乗算部78(
図3参照)によって演算されるピニオン軸トルク指令値N・T
msは、入力ベクトル入力部81に与えられる。入力ベクトル入力部81は、入力ベクトルu
1を出力する。
【0109】
積分部88の出力が状態変数ベクトル^xe(前記式(13)参照)となる。演算開始時には、状態変数ベクトル^xeとして初期値が与えられる。状態変数ベクトル^xeの初期値は、たとえば0である。
【0110】
システム行列乗算部86は、状態変数ベクトル^xeにシステム行列Aeを乗算する。出力行列乗算部82は、状態変数ベクトル^xeに出力行列Ceを乗算する。
【0111】
第1加算部83は、減速比除算部52(
図2参照)によって演算されたピニオン角θ
pである出力ベクトル(測定値)yから、出力行列乗算部82の出力(C
e・^x
e)を減算する。つまり、第1加算部83は、出力ベクトルyと出力ベクトル推定値^y(=C
e・^x
e)との差(y-^y)を演算する。ゲイン乗算部84は、第1加算部83の出力(y-^y)にオブザーバゲインL(前記式(12)参照)を乗算する。
【0112】
入力行列乗算部85は、入力ベクトル入力部81から出力される入力ベクトルu1に入力行列Beを乗算する。第2加算部87は、入力行列乗算部85の出力(Be・u1)と、システム行列乗算部86の出力(Ae・^xe)と、ゲイン乗算部84の出力(L(y-^y))とを加算することにより、状態変数ベクトルの微分値d^xe/dtを演算する。積分部88は、第2加算部87の出力(d^xe/dt)を積分することにより、状態変数ベクトル^xeを演算する。状態変数ベクトル出力部89は、状態変数ベクトル^xeに基づいて、外乱トルク推定値^Tlc、ピニオン角推定値^θpおよびピニオン角速度推定値d^θp/dtを演算する。
【0113】
一般的な外乱オブザーバは、前述の拡張状態オブザーバとは異なり、プラントの逆モデルとローパスフィルタとから構成される。プラントの運動方程式は、前述のように式(8)で表される。したがって、プラントの逆モデルは、次式(14)となる。
【0114】
【0115】
一般的な外乱オブザーバへの入力は、J・d2θp/dt2およびN・Tmsであり、ピニオン角θpの二階微分値を用いるため、回転角センサ23のノイズの影響を大きく受ける。これに対して、前述の実施形態の拡張状態オブザーバでは、積分型で外乱トルクを推定するため、微分によるノイズ影響を低減できる。
【0116】
なお、外乱トルク推定部74として、プラントの逆モデルとローパスフィルタとから構成される一般的な外乱オブザーバを用いてもよい。
【0117】
図6は、トルク制御部60の構成を示す模式図である。
【0118】
トルク制御部60(
図2参照)は、モータ電流指令値演算部91と、電流偏差演算部92と、PI制御部93と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部94とを含む。
【0119】
モータ電流指令値演算部91は、角度制御部59(
図2参照)によって演算されたモータトルク指令値T
msを電動モータ18のトルク定数K
tで除算することにより、モータ電流指令値I
msを演算する。
【0120】
電流偏差演算部92は、モータ電流指令値演算部91によって得られたモータ電流指令値Imsと電流検出回路42によって検出されたモータ電流Imとの偏差ΔI(=Ims-Im)を演算する。
【0121】
PI制御部93は、電流偏差演算部92によって演算された電流偏差ΔIに対するPI演算(比例積分演算)を行うことにより、電動モータ18に流れるモータ電流Imをモータ電流指令値Icmdに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部94は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路41に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が電動モータ18に供給されることになる。これにより、モータトルクがモータトルク指令値Tmsと等しくなるように、電動モータ18が駆動制御される。
【0122】
以下、ドライバ目標横偏差設定部61(
図2参照)の動作および上位ECU201による目標走行経路の生成方法について説明する。
【0123】
ドライバ目標横偏差設定部61は、トーションバートルクTtbと、上位ECU201から与えられる車速vxおよび視覚情報ベースの目標走行経路との現在の横偏差Δyadとに基づいて、現在時刻t0から所定時間tsが経過するまでにドライバが移動しようと意図する横方向距離であるドライバ目標横偏差Δymdを設定する。
【0124】
視覚情報ベースの目標走行経路との現在の横偏差Δyadは、視覚情報ベースの目標走行経路と現在の車両基準位置との横方向距離である。
【0125】
図7は、ドライバ目標横偏差設定部61の構成を示すブロック図である。
【0126】
ドライバ目標横偏差設定部61(
図2参照)は、ヨーレート演算部111とドライバ目標横偏差演算部112とを含む。
【0127】
ヨーレート演算部111は、車両モデルを用いて、トーションバートルクTtbおよび車速vxから、運転支援が機能していないと仮定した場合に発生するヨーレートγd,modelを演算する。なお、ヨーレート演算部111は、車両モデルを用いて、手動操舵角指令値θmdおよび車速vxから、手動操舵角指令値θmdに対して発生するヨーレートγd,modelを演算してもよい。
【0128】
ドライバ目標横偏差演算部112は、
図8に示すように、車速v
xとヨーレートγ
d,modelとが一定で、t
s秒間、車両が定常円旋回したと仮定した場合の、車両の横方向の移動距離を、ドライバ目標横偏差Δy
mdとして求める。
図8において、s軸(横軸)は、視覚情報ベースの目標走行経路P
eに沿う方向(縦方向)の位置を示し、d軸(縦軸)は、目標走行経路P
eに沿う方向に直交する方向(横方向)の位置を示している。
【0129】
ドライバ目標横偏差演算部112は、次式(15)に基づいて、ドライバ目標横偏差Δymdを演算する。
【0130】
【0131】
ドライバ目標横偏差設定部61によって設定されたドライバ目標横偏差Δymdは、上位ECU201に与えられる。
【0132】
図9は、主としてドライバ目標横偏差Δy
mdを用いて目標走行経路を変更するための上位ECU201の構成を示すブロック図である。
【0133】
上位ECU201は、修正経路候補生成部211と、修正経路選択部212と、目標走行経路生成部213と、自動操舵角指令値生成部214とを含む。なお、図示しないが、上位ECU201は、視覚情報ベースの目標走行経路との現在の横偏差Δyadを演算する横偏差演算部を含んでいる。
【0134】
この実施形態では、修正経路候補生成部211と、修正経路選択部212とによって、本発明における「修正走行経路生成部」が構成されている。また、ドライバ目標横偏差演算部112と、修正経路候補生成部211と、修正経路選択部212と、目標走行経路生成部213とによって、本発明における「経路変更部」が構成されている。
【0135】
修正経路候補生成部211の動作について説明する。
図10に示すように、現在の車両の横位置y
0,横速度dy
0/dtおよび横加速度d
2y
0/dt
2が計測でき、完了時間t
fでの横位置y
rfが決まると、完了時間t
fでの横速度および横加速度を0とすることにより、次式(16)で示す5次関数によって1つの修正経路候補が一意に決まる。
【0136】
【0137】
なお、この実施形態では、「修正経路」とは、視覚情報ベースの目標走行経路を修正するために用いられる経路を意味している。「修正経路候補」は、「修正経路」の候補である。また、現在の車両の横位置y0,横速度dy0/dtおよび横加速度d2y0/dt2は、修正経路候補生成部211によって選択された修正経路を表す関数yt(t)の前回値に基づいて求められる。
【0138】
修正経路候補生成部211は、完了時間tfと完了時間tfでの横位置yrfとを次式(17)で示すように複数設定し、それらの各組合せに対して5次関数の係数a0、a1、a2、a3、a4およびa5を求める。
【0139】
【0140】
式(17)において、Wは予め設定された横方向(すなわち、視覚情報ベースの目標走行経路に沿う方向に直交する方向)の長さであり、Δtは予め設定された時間である。
【0141】
これにより、
図11に示すように、複数の修正経路候補が生成される。例えば、式(17)において、iを-2、-1、0、1、2の5種類に設定し、kを1、2、3、4、5の5種類に設定した場合には、25個の修正経路候補が生成される。
【0142】
修正経路選択部212は、修正経路候補生成部211によって生成された複数の修正経路候補の中から最適な修正経路候補を修正経路として選択する。
【0143】
修正経路選択部212は、まず、式(18)に基づいて、複数の修正経路候補毎に、車両が当該修正経路候補に追従した際の車両の横加速度d2yr/dt2の微分値であるジャークに基づいてコストJy(i,k)を演算する。
【0144】
【0145】
なお、式(18)の右辺の係数a0、a1、a2、a3、a4およびa5としては、左辺のJy(i,k)における(i,k)に対応する係数であって、式(16)より求めた係数a0、a1、a2、a3、a4およびa5が用いられる。また、tfとしては、左辺のJy(i,k)におけるkに対応した、式(17)のtf(k)が用いられる。
【0146】
修正経路選択部212は、次に、次式(19)で示すように、複数の修正経路候補毎に、ジャークに応じたコストJy(i,k)と、完了時間tf(k)と、横位置yrf(i)と横偏差Δyadとの差分と、横位置yrf(i)と横偏差Δymdとの差分とから、コスト関数Cy(i,k)を生成する。
【0147】
【0148】
式(19)において、kj、kt、kadおよびkmdは、予め設定された重みである。ジャークに応じたコストJy(i,k)が大きいと完了時間tf(k)が早くなるので、ジャークに応じたコストJy(i,k)と完了時間tf(k)とはトレードオフの関係にある。ジャークに応じたコストJy(i,k)が大きいと乗り心地が悪化するおそれがあるが、ジャークに応じたコストJy(i,k)が小さいと完了時間が大きくなる。また、式(19)において(yrf(i)-Δyad)は、修正経路候補と運転支援の目標値との差であり、(yrf(i)-Δymd)は、修正経路候補と手動運転の目標値との差である。
【0149】
修正経路としては、ジャークが小さく、かつ完了時間が早く、かつ(yrf(i)-Δyad)2が小さく、かつ(yrf(i)-Δymd)2が小さいものが好ましい。
【0150】
そこで、修正経路選択部212は、複数の修正経路候補のうちから、コスト関数Cy(i,k)が最小となる修正経路候補を、最適な修正経路として選択する。
【0151】
目標走行経路生成部213は、修正経路選択部212によって選択された修正経路に基づいて視覚情報ベースの目標走行経路を修正することにより、最終的な目標走行経路を生成する。
【0152】
具体的には、目標走行経路生成部213は、
図12に示すように、視覚情報ベースの目標走行経路301に、修正経路選択部212によって選択された修正経路302を加算することによって、最終的な目標走行経路303を生成する。視覚情報ベースの目標走行経路301は、
図12に示すように、車両の前後方向の位置をx軸にとり、車両の左右方向の位置をy軸にとった座標系で示される。
図12の例では、また、k=4でかつi=1に対応する修正経路候補が、修正経路として選択された場合の例を示している。
【0153】
自動操舵角指令値生成部214は、目標走行経路生成部213によって生成された目標走行経路に沿って車両を移動させるための自動操舵角指令値θaを生成する。
【0154】
なお、運転モードが通常モードである場合には、モータ制御用ECU202内に設けられているアシストトルク指令値設定部(
図2には図示されていない)が、トーションバートルクT
tbを用いてアシストトルク指令値を設定する。そして、トルク制御部60は、アシストトルク指令値のみに基づいて、駆動回路41を駆動する。
【0155】
前述の実施形態では、ドライバ目標操舵角推定部53に基づいて反力制御ゲインka,caが設定されているので、運転支援モードにおいて、ドライバの意図を十分に反映した操舵制御を行うことができるようになる。
【0156】
さらに、前述の実施形態では、ドライバ目標横偏差設定部61によって設定されたドライバ目標横偏差Δymdに基づいて、視覚情報ベースの目標走行経路を修正できる(目標走行経路を変更できる)ので、運転支援モードにおいて、ドライバの意図を十分に反映した操舵制御を行うことができるようになる。これにより、ドライバとシステムの適切な相互作用状態を作りだすことができる。
【0157】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、前述の実施形態では、ドライバトルク制御ゲイン推定部54は、ドライバ目標操舵角^θd、ピニオン角θpおよびトーションバートルクTtbに基づいて、バネ定数kdと粘性減衰係数cdの両方を推定しているが、バネ定数kdと粘性減衰係数cdのいずれか一方のみを推定するようにしてもよい。その場合には、反力制御ゲインka,caのうち、ドライバトルク制御ゲイン推定部54によって推定された一方のドライバトルク制御ゲインに対応した反力制御ゲインのみに、ドライバトルク制御ゲインの推定値が反映される。
【0158】
また、前述の実施形態では、反力制御ゲイン演算部55(
図2参照)は、ドライバトルク制御ゲイン^k
d,^c
dと上位ECU201から与えられる重み係数κとに基づいて、反力制御ゲインk
a,c
aを演算している。しかし、重み係数κは、モータ制御用ECU202に予め設定された固定値であってもよい。
【0159】
また、前述の実施形態では、角度制御部59(
図2参照)は、フィードフォワード制御部73を備えているが、フィードフォワード制御部73を省略してもよい。この場合には、フィードバック制御部72によって演算されるフィードバック制御トルクT
fbが基本目標トルクとなる。
【0160】
また、前述の実施形態では、この発明をコラムタイプEPSに適用した場合の例を示したが、この発明は、コラムタイプ以外のEPSにも適用することができる。また、この発明は、ステアバイワイヤシステムにも適用することができる。
【0161】
本発明の実施形態について詳細に説明してきたが、これらは本発明の技術的内容を明らかにするために用いられた具体例に過ぎず、本発明はこれらの具体例に限定して解釈されるべきではなく、本発明の範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0162】
1…電動パワーステアリング装置、3…転舵輪、4…転舵機構、18…電動モータ、53…ドライバ目標操舵角推定部、54…ドライバトルク制御ゲイン推定部、55…反力御ゲイン演算部、56…反力設定部、57…手動操舵角指令値演算部、58…統合角度指令値演算部、59…角度制御部、60…トルク制御部、61…ドライバ目標横偏差設定部、111…ヨーレート演算部、112…ドライバ目標横偏差演算部、201…上位ECU201、202…モータ制御用ECU、211…修正経路候補生成部、212…修正経路選択部、213…目標走行経路生成部、214…自動操舵角指令値生成部