(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-14
(45)【発行日】2025-05-22
(54)【発明の名称】光触媒含有繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 1/10 20060101AFI20250515BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20250515BHJP
【FI】
D01F1/10
D01F6/92 301M
D01F6/92 303B
(21)【出願番号】P 2021088029
(22)【出願日】2021-05-26
【審査請求日】2024-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】521228260
【氏名又は名称】冨板 弘忠
(73)【特許権者】
【識別番号】521228271
【氏名又は名称】冨板 弘一
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【氏名又は名称】三雲 悟志
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】冨板 弘忠
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-111704(JP,A)
【文献】特開2009-084758(JP,A)
【文献】特開平01-156576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96、9/00-9/04、
D01D1/00-13/02、
D01F8/00-8/18、
D03D1/00-27/18、
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、
前記繊維に含有され
、表面に無機物質がコーティングされたアナターゼ型の酸化チタン粒子と、
前記繊維に含有され
、表面に無機物質がコーティングされた酸化亜鉛粒子と、
を含み、
前記酸化チタン粒子および酸化亜鉛粒子の平均粒子径が0.1~1.0ミクロンであり、
前記酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子の合計重量に対する酸化チタン粒子の重量比が10~40%であり、
前記酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子の合計重量が繊維重量に対して1~6%であ
り、
前記酸化チタン粒子の平均粒径をA、酸化亜鉛粒子の平均粒径をBとした場合、B/Aが0.5以下であり、
紫外線、可視光青色、可視光緑色、可視光ピンク色を照射した6時間後のアンモニア、ホルムアルデヒドおよびイソ吉草酸の消臭率が70%以上である
光触媒含有繊維。
【請求項2】
前記繊維が短繊維であり、太さが0.5~2.5dtex、破断強度が2.0~5.0cN/dtex、破断伸度が30~90%である請求
項1の光触媒含有繊維。
【請求項3】
請求項1または2の光触媒含有繊維を用いた繊維製品であって、該繊維製品における光触媒含有繊維の混用比率が10~40%である繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒含有繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭、学校、職場、病院およびスポーツシーンなど人間の活動領域全般において発生する臭気について関心が高まっている。そのため、生活環境に広く存在する悪臭であるアンモニア、酢酸、イソ吉草酸(3-メチルブタン酸)、ノネナール、ホルムアルデヒドおよびスカトールなどの臭気を軽減あるいは無臭化する機能が繊維製品に求められている。
【0003】
たとえば、下記特許文献1には可視光応答型の光触媒を塗布した消臭効果のある繊維製品が開示されている。可視光応答型の光触媒としてアナターゼ型とアモルファス結晶構造の酸化チタンを用いて結晶中に極少量のバナジウム他、遷移金属または異種元素を1種以上含有すれば小さなエネルギーで機能を発現することが特許文献1に記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1は紫外線で反応することを説明しながら白熱灯を利用したりと、実際の効果に疑問のある部分がある。また、光触媒の粒子がコーティング剤に含まれることにより、コーティング剤が剥がれ落ちることで光触媒も剥がれ落ち、消臭機能もなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、可視光線の下で臭気を効果的に除去できる光触媒含有繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光触媒含有繊維は、繊維と、前記繊維に含有される酸化チタン粒子と、前記繊維に含有される酸化亜鉛粒子と、を含み、前記酸化チタン粒子および酸化亜鉛粒子の平均粒子径が0.1~1.0ミクロンであり、前記酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子の合計重量に対する酸化チタン粒子の重量比が10~40%であり、前記酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子の合計重量が繊維重量に対して1~6%である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると種々の臭気、たとえば汗臭、靴下臭、加齢臭、タバコ臭、糞尿臭、食品集などの臭気を効率的に消臭することができる。本発明の光触媒含有繊維を用いて上記臭気を除去できる消臭機能を有する繊維製品を提供することができる。たとえば、衣料品、室内繊維製品、車内繊維製品、壁紙、パーティション、シーツ、布団カバーなどに用いて種々の臭気を除去することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の光触媒含有繊維の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光触媒含有繊維について詳細に説明する。
【0011】
[構成]
本発明の光触媒含有繊維10は繊維12、酸化チタン粒子14および酸化亜鉛粒子16を含む(
図1)。酸化チタン粒子14および酸化亜鉛粒子16の光触媒粒子は製造時に繊維12の中に練り込まれている。従来技術のようにコーティング剤を使用していないため、光触媒粒子が剥がれ落ちて消臭機能がなくなることを防止できる。
【0012】
[繊維]
繊維12はポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリトリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコールなどを少なくとも1つ含む繊維である。繊維12はポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維が挙げられ、特にポリエステル繊維が好ましい。ポリエステル繊維の場合、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはポリテトラメチレンテレフタレートの単独または複合である。複合の場合、芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型のタイプがあり、いずれも本発明の繊維12として有効である。芯鞘型の場合、鞘部に酸化チタン粒子14および酸化亜鉛粒子16を練り込むことが好ましい。サイドバイサイド型および海島型の場合、ポリマーに練り込んでもよい。
【0013】
光触媒粒子をポリエステル繊維に練り込むにあたっては、マスターバッチ方式と紡糸直前でエクストルーダーに注入する直接練り込み方式とのいずれもが適用できる。マスターバッチ方式ではマスターバッチのベースとなる樹脂は適宜選択することができる。繊維12と同じポリエステルポリマーを用いてもよいし、組成や重合度が異なるポリエステルポリマーを用いることもできる。組成が異なるポリマーには第3成分を共重合したポリマー、光触媒粒子以外の無機物質を練り込んだポリマーなども含まれる。マスターバッチ方式の場合、繊維の紡糸にあたってマスターバッチのチップと繊維本体のチップを混合して溶融紡糸系統に供給される。
【0014】
繊維12は長繊維と短繊維のいずれであってもよい。長繊維の場合、マルチフィラメントの製造が比較的容易であり、たとえば84デシテックス72フィラメントは細い繊維であり、表面に現れる光触媒粒子の面積が広くなり、消臭性能に有利である。
【0015】
短繊維は長繊維に比べて細い繊維を製造することが困難であるが、38mmなどにカットされることから、カット断面に現れる光触媒粒子が消臭に利用される。太さは、短繊維では0.5デシテックス以上2.5デシテックス以下が好ましく、より好ましくは1.0デシテックス以上2.0デシテックス以下である。0.5デシテックス未満では紡糸断糸が発生しやすい。2.5デシテックスを超えると同一重量当たりの繊維表面積が小さくなり消臭性能が出にくくなる。
【0016】
繊維12の破断強度は2.0cN/dtex以上5.0cN/dtex以下である。繊維12の破断伸度は30%以上90%以下であり、より好ましくは40%以上80%以下である。一般的にポリエステル短繊維の伸度は30%程度より低めに調整されるので、本発明の短繊維は通常よりも大きな伸度を有する。伸度が大きいことは延伸倍率が低く、延伸による高分子鎖の配向をある程度抑制し、非晶部分を通常よりも大きくすることで光触媒と臭気ガスとの接触機会が多くなり、消臭効果が増進する。
【0017】
[光触媒粒子]
酸化チタン粒子14は結晶形によりアナターゼ型とルチル型があるが、本発明はアナターゼ型を利用する。
【0018】
酸化チタン粒子14および酸化亜鉛粒子16は無機物質を表面にコーティングしたものであってもよく、たとえばアパタイトまたはアルミナで表面をコーティングされてもよい。光触媒含有繊維10が紫外線に照射される環境であれば、コーティングによってポリマー基質の劣化速度を遅くすることができる。紫外線が照射されない環境で光触媒含有繊維10を使用するのであれば、コーティングが無くてもよい。
【0019】
酸化チタン粒子14および酸化亜鉛粒子16の平均粒径は0.1ミクロン以上、1.0ミクロン以下である。平均粒径は体積平均粒径である。たとえば平均粒径が0.2ミクロンであってもその累積粒径分布はD10=0.09ミクロン、D50=0.18ミクロン、D90=1.36ミクロンのような分布となり、平均粒径よりも小さい粒子も大きい粒子も含む場合がある。
【0020】
一般的に光触媒の粒子は0.1ミクロン未満であるが、平均粒径が小さくなると製造コストが上昇したり、二次凝集が生じたりするため好ましくない。また、平均粒径が1.0ミクロンを超えると、同じ重量での表面積が小さくなり、消臭効果が小さくなるため好ましくない。さらに平均粒径が1.0ミクロンを超えると粗大粒子が多くなり、紡糸の際に紡糸フィルターでろ過されるが、短時間で紡糸フィルターの目詰まりが生じ、生産性が低下するため、好ましくない。
【0021】
酸化チタン粒子14の平均粒径は0.1ミクロン以上1.0ミクロン以下、好ましくは0.4ミクロン以上1.0ミクロン以下である。酸化亜鉛粒子16の平均粒径は0.1ミクロン以上0.8ミクロン以下、好ましくは0.1ミクロン以上0.5ミクロン以下である。そして、酸化亜鉛粒子14の平均粒径16は酸化チタン粒子の平均粒径よりも相対的に小さい方が好ましい。
【0022】
さらに、酸化チタン粒子14の平均粒径をA、酸化亜鉛粒子16の平均粒径をBとした場合、B/Aは0.5以下であることが好ましい。酸化亜鉛粒子16の平均粒径は酸化チタン粒子14の平均粒径の1/2以下であることが好ましい。平均粒径の異なる酸化チタン粒子14と酸化亜鉛粒子16が共存することで、入射光を直ちに反射させて系外に出すのではなく、複雑な粒子構造の中に長時間閉じ込めることができ、光触媒粒子が可視光線によって励起されることが考えられる。
【0023】
酸化チタン粒子14と酸化亜鉛粒子16の合計重量に占める酸化チタン粒子14の重量比は10%以上40%以下であり、好ましくは10%以上33%以下である。
【0024】
酸化チタン粒子14と酸化亜鉛粒子16の繊維12への練り込み量は、繊維12に対して1.0重量%以上6.0重量%未満であり、好ましくは2.5重量%以上5.0重量%未満である。1.0重量%より小さいと消臭効果が小さく、6.0重量%以上であると繊維12、たとえばポリエステル繊維の溶融紡糸工程で糸切れが頻発するため好ましくない。
【0025】
[その他の材料]
本発明は、光触媒効果を有しない金属酸化物、ガラス状物質が繊維12に含有されてもよい。それらの物質が繊維12に含有されることで、光触媒粒子の分散性が良くなる場合がある。この理由は、光触媒の見かけの表面積が増大するためと考えられる。
【0026】
[光触媒含有繊維を利用した繊維製品]
光触媒含有繊維10を複数用いて糸にし、その糸は織物、編み物、不織布、その他の繊維製品に用いられる。光触媒含有繊維12の消臭機能はアンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ホルムアルデヒド、硫化水素ノネナール、生乾き臭などの臭気に対して優れた消臭性を示すので、様々な用途に使用することができる。たとえば、本発明の光触媒含有繊維は、肌着、スポーツウェア、作業服、シーツおよび枕カバーなどの寝具、カーテン、壁紙などの家庭用繊維製品、病院や介護施設で使用される各種繊維製品をはじめとして、種々の商品で使用される繊維に利用できる。
【0027】
織物および編み物では染色仕上げ工程を経るが、本発明の光触媒含有繊維10は繊維12の中に光触媒粒子を練り込んでおり、200℃前後の乾熱ヒートセットおよび130~135℃での高圧染色とそれに続くアルカリ還元洗浄を経ても消臭機能を発揮する。光触媒粒子の練り込み量が比較的少量であるため、繊維12の染色に悪影響を及ぼしにくい。
【0028】
光触媒含有繊維10を用いた繊維製品における混用比率は通常10~40%であるが、光触媒粒子の練り込み量の多寡によって混用比率が変えられてもよい。この混用比率は繊維製品の使用用途によって適宜変更されてもよい。たとえば、光触媒粒子を2.2%混入したポリエステルステープルファイバーが20%、光触媒粒子を混入していないポリエステルステープルファイバーが80%から成る綿番手32番のリング紡績糸を用いた28ゲージの丸編み天竺はスポーツシャツとして好適であり、消臭機能も優れる。このシャツにおける本発明の光触媒含有繊維10の混用比率は20%である。
【0029】
同様に、縦糸に光触媒粒子を混入していないポリエステルフィラメント84dtex48filamentを用い、横糸に光触媒粒子を2.5%混入したポリエステルフィラメント84dtex72filamentを用いたタフタ(平織)は、病院施設等のパーティションとして使用すれば病室における優れた消臭機能を提供できる。この場合、本発明の光触媒含有繊維10の混用比率は40%である。
【0030】
なお、本発明の光触媒含有繊維10を単繊維として種々の布帛などに使用してもよい。
【0031】
[製造方法]
次に光触媒含有繊維10およびその繊維10を使用した糸の製造方法について説明する。(1)チップ状になった繊維12の原材料を溶融装置で熱溶融させる。(2)溶融された繊維12の原材料に上述した光触媒粒子を混入させる。本工程は(1)の原材料を溶融装置に入れる前に、原材料に光触媒粒子を混入させてもよい。(3)溶融されて光触媒粒子が混入された材料を紡糸装置に入れ、その入れられた材料を紡糸装置の小孔から押し出して光触媒含有繊維にする。
【0032】
その後、光触媒含有繊維10を用いてステープルにする場合、複数の光触媒含有繊維10をまとめ、複数のローラで延伸させ、捲縮装置で捲縮し、最後に切断装置で切断する。また、フィラメントにする場合、光触媒含有繊維10を延伸し、巻き取る。
【0033】
なお、上記製造方法は溶融紡糸であるが、湿式紡糸または乾式紡糸で製造されてもよい。
【0034】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は説明する実施例に限定されるものではない。各実施例の光触媒含有繊維はポリエステル繊維に光触媒を含有させたものである。比較のために酸化チタン粒子又は酸化亜鉛粒子のいずれかのみを含有したポリエステル繊維を製造した。
【0035】
[実施例1]
酸化チタン粒子は、アナターゼ型であり、累積粒度分布D10、D50およびD90の粒子径がそれぞれ0.325ミクロン、0.504ミクロン、4.121ミクロンであり、体積平均粒径が0.894ミクロンであった。酸化亜鉛粒子は、累積粒度分布D10、D50およびD90の粒子径がそれぞれ0.093ミクロン、0.177ミクロン、0.676ミクロンであり、体積平均粒径が0.205ミクロンであった。酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子の重量比を25対75の割合で混合した粉体を直接紡糸直前のエクストルーダーに添加した。紡糸ポリマーに混合された光触媒粒子は2.25重量%であった。通常の紡糸、延伸、カットによってポリエステルステープルのファイバーを製造した。そのファイバーの太さは1.67デシテックス、カット長は38mm、破断強度は3.7g/dtex、破断伸度は46%、断面は円形であった。
【0036】
[実施例2]
実施例1で使用した体積平均粒径0.894ミクロンのアナターゼ型の酸化チタン粒子と体積平均粒径0.205ミクロンの酸化亜鉛粒子を使用した。酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子の重量比35対65の割合で混合した粉体を直接紡糸直前のエクストルーダーに添加した。紡糸ポリマーに混合された光触媒粒子は2.25重量%であった。通常の紡糸、延伸、カットによってポリエステルステープルのファイバーを製造した。そのファイバーの太さは1.67デシテックス、カット長は38mm、破断強度は3.5g/dtex、破断伸度は42%、断面は円形であった。
【0037】
[実施例3]
体積平均粒径0.670ミクロンのアナターゼ型の酸化チタン粒子と体積平均粒径0.255ミクロンの酸化亜鉛粒子を重量比30対70の割合で混合した。その混合した粉体を固有粘度[η]=0.52のポリエチレンテレフタレートチップと混合し、さらにエクストルーダーに添加し、光触媒粒子が20重量%含有するマスターバッチを作成した。このマスターバッチ15部と固有粘度[η]=0.58のポリエチレンテレフタレートチップ85部とをポリエステル長繊維紡糸装置のエクストルーダーに導き、3500m/minで丸断面のポリエステル長繊維POYを紡糸し、その後延伸と仮撚りを施して84デシテックス48フィラメントの2ヒーター仮撚り加工糸を製造した。
【0038】
[比較例1]
実施例1で使用した体積平均粒径0.894ミクロンのアナターゼ型の酸化チタン粒子を使用した。その酸化チタン粒子を直接紡糸直前のエクストルーダーに添加した。紡糸ポリマーに対する酸化チタン粒子は2.25重量%であった。通常の紡糸、延伸およびカットによってポリエステルステープルのファイバーを製造した。そのファイバーの太さは1.67デシテックス、カット長は38mm、破断強度は4.0g/dtex、破断伸度は40%、断面は円形であった。
【0039】
[比較例2]
実施例1で使用した体積平均粒径0.205ミクロンの酸化亜鉛粒子を使用した。その酸化亜鉛粒子を直接紡糸直前のエクストルーダーに添加した。紡糸ポリマーに対する酸化亜鉛粒子は2.25重量%であった。通常の紡糸、延伸およびカットによってポリエステルステープルのファイバーを製造した。そのファイバーの太さは1.67デシテックス、カット長は38mm、破断強度は4.8g/dtex、破断伸度は48%、断面は円形であった。
【0040】
上記実施例および比較例で製造したファイバーに対して下記の条件で消臭性能評価を行った。
【0041】
[試料の調整]
上記実施例および比較例の試料の消臭性能を測定する前に、蒸留水中にノニオン界面活性剤1g/lを含む溶液を使用し、溶液1リットルに対して試料5グラム、90℃、20分ビーカー中で撹拌した。その後、蒸留水による60℃、20分の湯洗いを2回実施し、脱水後に自然乾燥し、20℃65%HRの環境で24時間以上かけて恒量になるようにした。
【0042】
[測定環境]
消臭性能を測定する部屋は暗室を利用した。暗室に備えられたランプは青色、緑色およびピンク色の波長の光を発光する各可視光線のランプと紫外線のランプであった。各ランプは下記のランプを使用した。いずれかのランプを点灯させるか、またはすべてのランプを消灯させて測定した。ランプと試料との距離は5cm、暗室の気温は20℃、65RH%であった。
紫外線ランプ:FL15BL(15W、NEC社製)
可視光青色ランプ:FL20SB(20W、NEC社製)
可視光緑色ランプ:FL20G(20W、NEC社製)
可視光ピンク色ランプ:FL20SPK(20W、NEC社製)
【0043】
[測定]
300mlパイレックス(登録商標)三角フラスコに試料を入れ、臭気ガスを基準濃度注入し、密閉した。ガス注入2時間後、6時間後にフラスコ内からガスを採取し、ガスの種類に応じた検知装置(検知管)でガスの濃度を測定した。測定回数は3回であり、平均値をとった。各実施例および比較例の試料の糸は0.3gであり、下記のガスを利用した。
アンモニア臭:1.4%アンモニア水溶液 5μl
ホルマリン臭:3.7%ホルムアルデヒド水溶液 5μl
イソ吉草酸臭:10%イソ吉草酸水溶液 5μl
【0044】
[ブランク試験]
26℃、65RH%の暗室内で300mlパイレックス(登録商標)三角フラスコに試料を入れ、臭気ガスを基準濃度注入しておこなう試験をブランク試験とした。
【0045】
[消臭率]
各時間経過後にブランク試験において残存するガス濃度に対して紫外線、可視光線を照射した試験体が減じた量を百分率で表現した。たとえば、ブランクのガス濃度が80ppm、紫外線照射試料のガス濃度が10ppmであれば消臭率は((80-10)/80)×100=87.5%である。
【0046】
[消臭性能判断]
以下の表に示す消臭性について、消臭率70%以上を「良好」として記号「〇」で示し、消臭率70%未満60%以上を「消臭性あり」として記号「△」で示す。消臭率60%に満たない場合を「消臭性なし」と判断して記号「×」で示す。
【0047】
[アンモニアの消臭性]
実施例1と比較例1の繊維について、各光を照射した場合のアンモニアの消臭性を表1に示す。比較例1は紫外線下で限定的な消臭性しかなく、可視光線に対しては消臭性を示さなかった。一方、酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子を含有した本発明の実施例1はいずれの場合も比較例1よりも消臭性能が向上していた。
【0048】
【0049】
[ホルムアルデヒドの消臭性]
実施例1、実施例2、比較例1および比較例2のホルムアルデヒドに対する消臭性能を表2に示す。比較例1と比較例2では紫外線下で限定的な消臭性があったものの、可視光線下では消臭性を示さなかった。一方、実施例1と実施例2は、2時間後に一定の消臭性を示し、6時間後であればいずれの波長であっても消臭性を示した。また、実施例1と実施例2の2時間後の消臭率は実施例1が実施例2よりも消臭性が良く、実施例1が実施例2よりも短時間で消臭性を示すことがわかった。酸化チタン粒子と酸化亜鉛粒子の混合比率によって消臭性が異なり、実施例1の混合比率(25対75)の方が実施例2の混合比率(35対65)よりも良いことがわかった。
【0050】
【0051】
[イソ吉草酸の消臭性]
実施例2と比較例2のイソ吉草酸に対する消臭性を表3に示す。比較例2は紫外線に対して消臭性を発揮するが、可視光線に対して消臭性を発揮しないことが分かった。一方、実施例2は紫外線と可視光線に対して消臭性を発揮することがわかった。
【0052】
【0053】
[ポリエステル長繊維の消臭性]
実施例3のポリエステル長繊維の消臭性を表4に示す。数字は消臭率(%)である。実施例3はマスターバッチ方式であり、上述した2種類の光触媒粒子を3.0%混入したポリエステル長繊維加工糸である。紫外線のみならず可視光線下でも優れた消臭性を有していることがわかった。
【0054】
【0055】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【符号の説明】
【0056】
10:光触媒含有繊維
12:繊維
14:酸化チタン粒子
16:酸化亜鉛粒子