(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-14
(45)【発行日】2025-05-22
(54)【発明の名称】打撃工具
(51)【国際特許分類】
B25D 17/24 20060101AFI20250515BHJP
B25D 11/00 20060101ALI20250515BHJP
B25D 17/04 20060101ALI20250515BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20250515BHJP
【FI】
B25D17/24
B25D11/00
B25D17/04
B25F5/00 H
(21)【出願番号】P 2021020225
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 聖展
(72)【発明者】
【氏名】山本 瑞貴
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-157423(JP,A)
【文献】特開2017-001148(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0361809(US,A1)
【文献】特開2018-012170(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02384859(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 17/04
B25D 11/00
B25D 17/24
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータによって駆動されて、先端工具に打撃動作を行わせる機構部と、を有する本体部と、
作業者の把持に供されるハンドルと、
前記本体部と前記ハンドルを相対回転可能に連接する回転支軸と、前記本体部と前記ハンドル間に介在配置されて、前記回転支軸周りに前記本体部と前記ハンドルが相対回転する場合に、前記本体部から前記ハンドルへの振動伝達を緩衝する第1弾性部材と、を有する打撃工具であって
前記ハンドルは、前記モータ駆動用のバッテリが装着されるバッテリ装着部を有するとともに、前記回転支軸と直交する方向に、前記本体部に対し相対移動が可能に構成され、
さらに、所定方向に関する前記ハンドルの前記本体部に対する相対移動量につき、前記所定方向以外の方向に関する相対移動量よりも大きくなるように規制するハンドル相対移動量調整部を有し、
前記ハンドル相対移動量調整部は、前記ハンドルと前記本体部とのうちいずれか一方に配置される凸部と、前記ハンドルと前記本体部とのうち前記いずれか一方とは異なる他方に配置される嵌合部であって、長軸を有し、前記凸部が遊嵌合される嵌合部とを有し、
前記嵌合部は、長軸を有し、前記凸部が遊嵌合される長孔であり、前記長孔の長軸方向が、前記所定方向と合致し、
前記ハンドル相対移動量調整部は、前記ハンドルの前記本体部に対する相対移動に関し、前記所定方向では、大きな相対移動を可能とし、前記所定方向以外の方向では、前記ハンドルと前記本体部との間に設けられたクリアランスの範囲内における小さな相対移動のみを可能とするように規制することにより、前記ハンドルの前記本体部に対する相対移動の範囲を調整し、
前記所定方向は、前記バッテリが装着された状態の前記打撃工具が
、前記バッテリから前記本体部の重心位置に向かう方向が鉛直方向と一致する状態で落下する場合に、落下による衝撃が前記バッテリ装着部に装着されたバッテリを介して前記本体部に向かう方向として定義される衝撃入力方向であり、
前記所定方向以外の方向は、前記衝撃入力方
向以外の方向の落下によって前記打撃工具に衝撃が作用する場合に、前記ハンドルが前記本体部に対し相対移動する方向であることを特徴とする打撃工具。
【請求項2】
請求項1に記載の打撃工具であって、
前記回転支軸周りにおいて、前記本体部と前記ハンドルとの間には、前記ハンドルが前記本体部に対して前記所定方向および前記所定方向以外の方向に相対移動する場合に圧縮されるように構成される第2弾性部材が介在配置されることを特徴とする打撃工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の打撃工具であって、
前記ハンドル相対移動量調整部は、前記回転支軸から離間した領域に配置されることを特徴とする打撃工具。
【請求項4】
請求項2に記載の打撃工具であって、
前記本体部に一体状に装着された作業補助機器であって、一体状とされた前記本体部および前記作業補助機器の重心位置を、前記作業補助機器が装着された方向にシフトさせる作業補助機器を更に有し、
前記所定方向以外の方向は、前記バッテリから、シフトされた前記重心位置に向かう方向を含み、
前記第2弾性部材は、前記本体部と前記ハンドルとの間において、前記回転支軸の径方向外側において前記回転支軸の全周に亘って配置され、
前記バッテリから、シフトされた前記重心位置に向かう方向へ前記打撃工具に作用する外力が前記第2弾性部材の圧縮によって緩衝されるように構成されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか1項に記載の打撃工具であって、前記本体部は、前記バッテリとの間に介在配置される第3弾性部材を更に有することを特徴とする打撃工具。
【請求項6】
請求項
5に記載の打撃工具であって、
前記第3弾性部材は、常時には前記バッテリと非接触の状態とされることを特徴とする打撃工具。
【請求項7】
請求項1から
6までのいずれか1項に記載の打撃工具であって、前記回転支軸は、前記本体部における、前記バッテリの前方側に配置されることを特徴とする打撃工具。
【請求項8】
請求項1から
7までのいずれか1項に記載の打撃工具であって、前記第1弾性部材は、コイルスプリングで構成されることを特徴とする打撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、外力に対する機材保護性に優れた打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
打撃工具の一例が、特開2014-231126号公報に示されている。
この打撃工具は、モータ、運動変換機構および打撃機構が配置された本体部と、当該本体部後方において、回転支軸を介して本体部に相対回転可能に連接されるハンドルと、本体部とハンドル間に介在配置されて、当該相対回転時に、本体部からハンドルへの振動伝達を低減するための緩衝用コイルスプリングを有する。すなわち当該打撃工具は、防振ハンドル構造を有するものである。
またハンドルの下部にはモータ駆動用のバッテリが着脱自在に配置される。
【0003】
上記打撃工具は、作業者がハンドルを把持した状態で打撃作業に供される可搬式工具である一方、不意に落下する可能性がある。この場合、相対的に大きな重量を有するバッテリに起因して、落下中に、当該バッテリの露出端部(露出状の後端部)が落下方向を向いてしまい、地面等からの衝撃力がバッテリに直接的に作用する可能性がある。
衝撃力は、バッテリ自体、ないしバッテリを装着するために本体部に設けられたバッテリ装着部を損傷させるリスクがある。このため、バッテリに衝撃が作用することを極力回避する必要がある。
一方、可搬式の打撃工具を、常時に固定して落下防止対策を行うことは現実的ではなく、仮に落下事象が発生した場合であっても、適切にバッテリないし打撃工具の保護を最大化する措置が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記に鑑み、不意の落下時等においても、機材を確実に保護することが可能な打撃工具の構築技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、本開示の一態様によれば、
モータと、前記モータによって駆動されて、先端工具に打撃動作を行わせる機構部と、を有する本体部と、
作業者の把持に供されるハンドルと、
前記本体部と前記ハンドルを相対回転可能に連接する回転支軸と、前記本体部と前記ハンドル間に介在配置されて、前記回転支軸周りに前記本体部と前記ハンドルが相対回転する場合に、前記本体部から前記ハンドルへの振動伝達を緩衝する第1弾性部材と、を有する打撃工具が構成される。
前記ハンドルは、前記モータ駆動用のバッテリが装着されるバッテリ装着部を有するとともに、前記回転支軸を挟んで、前記本体部に対し相対移動が可能に構成される。
さらに、所定方向に関する前記ハンドルの前記本体部に対する相対移動量につき、前記所定方向以外の方向に関する相対移動量よりも大きくなるように規制するハンドル相対移動量調整部を有する。
【0007】
当該打撃工具においては、本体部とハンドルの相対回転動作時に、弾性部材によって本体部からハンドルに振動が伝達されることを緩衝(以下「制振動作」)することができるとともに、さらに打撃工具に意図しない外力が作用した場合(典型的には作業者が打撃工具を誤って落下させてしまった場合)、回転支軸を挟んで、ハンドルが本体部に対して相対移動することで、当該外力による打撃工具へのダメージ付与が緩和される。
更に当該打撃工具においては、所定方向に関するハンドルの本体部に対する相対移動量につき、当該所定方向以外に関する相対移動量よりも大きくなるように規制するハンドル相対移動量調整部が設けられている。これにより、例えば、打撃工具にダメージを与える度合いが特に大きな方向に関して、他の方向よりも、ハンドルの本体部に対する相対移動量を大きくなるようにして、重点的にダメージ付与の緩和を行うことができる。
【0008】
打撃工具は、先端工具に少なくとも打撃動作を行わせれば足り、さらに回転動作を伴う構成も好適に包含する。モータと機構部は、一体式の本体部に収容されてもよいし、それぞれ別個に形成されたモータハウジング・ギアハウジングに収容されてもよい。
回転支軸は、ハンドルと一体、本体部と一体、あるいはハンドル・本体部とは別に形成された上で、ハンドルないし本体部に組み付けられてもよい。
回転支軸を挟んでの、ハンドルの本体部に対する相対移動動作は、典型的には直線動作であるが、曲線、円弧状でもよい。相対移動動作における「回転支軸を挟んで」は、典型的には、回転支軸周りにスペースを形成し、当該スペースを介して、ハンドルが本体部に対して相対移動するように構成される。
「所定方向」は、典型的には、打撃工具に意図しない外力が作用した場合の、当該外力の入力方向に概ね合致されることが好ましい。
【0009】
本発明目的によれば、不意の落下時等においても、機材を確実に保護することが可能な打撃工具の構築技術が提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る打撃工具の全体構成を示す正面図(一部は断面図)である。
【
図3】
図2におけるI-I線での部分断面図である。
【
図4】ハンドル下部およびバッテリ前方側領域の構成を示す斜視図である。
【
図5】本実施形態に係る打撃工具に、落下時の外力が作用する状態を示す部分斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る打撃工具に集塵アタッチメントが装着された状態を示す正面図(一部は断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記した構成に関しては、前記回転支軸周りにおいて、前記本体部と前記ハンドル部の間には、第2弾性部材が介在配置されてもよい。
これにより外力による打撃工具へのダメージ付与が一層効果的に緩和されることとなる。
また前記ハンドル相対移動量調整部は、前記回転支軸から離間した領域に配置されてもよい。
また前記ハンドル相対移動量調整部は、長孔と、前記長孔に嵌合する凸部を有するとともに、前記長孔の長軸方向が、前記所定方向と合致するよう構成されてもよい。
また前記バッテリ装着部に装着されたバッテリを有するとともに、前記所定方向は、前記打撃工具が落下する場合に、落下による衝撃が前記バッテリを介して前記本体部に向かう方向として定義される衝撃入力方向とされるようにしてもよい。
典型的には、バッテリ後端部から本体部に向かう方向として定義される。
また前記衝撃入力方向は、前記バッテリから、前記本体部の重心位置に向かう方向としてもよい。
典型的には、バッテリ後端部から、バッテリが装着された状態での打撃工具の重心位置を結ぶ線で定義される
また前記本体部に一体状に装着された作業補助機器を更に有し、前記衝撃入力方向は、前記バッテリから、一体状とされた前記本体部および前記作業補助機器の重心位置に向かう方向としてもよい。
典型的には、バッテリ後端部から、バッテリおよび作業補助機器が装着された状態での打撃工具の重心位置を結ぶ線で定義される
また前記本体部は、前記バッテリとの間に介在配置される第3弾性部材を更に有してもよい。
また前記第3弾性部材は、常時には前記バッテリと非接触の状態としてもよい。
換言すれば、第3弾性部材とバッテリとの間には、常時には所定の離間距離が設定される。そして、バッテリに衝撃力が作用した場合には、当該第3弾性部材とバッテリが接触状態に置かれ、第3弾性部材によって衝撃力が緩衝される。
また前記回転支軸は、前記本体部における、前記バッテリの前方側に配置されることができる。
また前記第1弾性部材は、コイルスプリングで構成されることができる。
【0012】
以下、
図1~
図5を参照して、実施形態に係る打撃101について説明する。
この打撃工具101は、本発明に係る「打撃工具」の一つの例示である。
図1に、打撃工具101の全体構成が正面図として示される。
本実施形態においては、説明の便宜上、打撃工具101の長軸方向(長尺方向とも称呼:
図1において紙面左右方向)を第1方向D1と定義する。
また、長軸方向と交差する上下方向(鉛直方向とも称呼:
図1において紙面上下方向)を第2方向D2と定義する。
また特に断りがない限り、当該第1方向および第2方向に直交する方向を幅方向ないし左右方向と定義する。
また、詳細は後述するが、打撃工具101が落下する場合に、当該打撃工具101が落下面から受ける外力作用方向をD3と定義する。
【0013】
(全体構成)
図1に示すように、打撃工具101は、外観視において、概括的に、ハウジング102、ハンドル120、サブハンドル121を有する。
ハウジング102は「本体部」に対応する例である。
ハウジング102は、中央部を形成する第1ハウジング領域102A、上部を形成する第2ハウジング領域102B、下部を形成するバッテリ前方領域102Cを有する。
【0014】
(ハウジング102の内部構成)
第1ハウジング領域102Aには、モータ110が配置される。モータ110は、出力軸110A、冷却ファン110Bを有する。モータ110は、出力軸110Aが第2方向D2へと延在するように配置される。本実施形態では、モータ110としてブラシレスモータが採用されている。ブラシレスモータは比較的小型サイズで大出力を確保できるため、打撃工具101に対して好適に用いられる。
【0015】
第2ハウジング領域102Bには、運動変換機構111、打撃機構112が配置される。
運動変換機構111は、第1中間軸111A、第2中間軸111B、クランク機構111C、シリンダ111D、ピストン111Eを有する。
打撃機構112は、ストライカ112A、インパクトボルト112Bを有する。
【0016】
第1中間軸111Aは、モータ110の出力軸110Aに連結されて回転駆動される。第1中間軸111Aは、クランク機構111Cを第2方向D2周りに回転させる。クランク機構111Cが第2方向D2周りに回転すると、当該クランク機構111Cにリンク状に連結されたピストン111Eが、シリンダ111D内にて第1方向D1へと直線状に往復動作する。
【0017】
シリンダ111D内にはストライカ112Aが配置されている。ストライカ112Aは、ピストン111Eの往復動作に伴う空気室111Fの圧力変動を介して、第1方向D1に移動される。ストライカ112Aが移動動作すると、当該ストライカ112Aの運動エネルギーがインパクトボルト112Bに伝達される。これにより、当該インパクトボルト112Bは、ツールホルダ103内を第1方向D1に移動し、(便宜上図示しない)先端工具を直線上に移動動作させる。この結果、先端工具が打撃作業を遂行する。なお、先端工具をツールホルダ103に取付けるためのチャック部104が第2ハウジング領域102Bの先端領域に設けられている。
【0018】
第2中間軸111Bは、第1中間軸111Aと並列状に、モータ110の出力軸110Aに連結されて回転駆動される。第2中間軸111Bは、ベベルギア113を介して、ツールホルダ103を第1方向D1周りに回転させる。ツールホルダ103が第1方向D1周りに回転することで、(便宜上図示しない)先端工具は第1方向D1周りに回転される。これにより回転作業が遂行される。
なお、打撃作業と回転作業は、作業者の選択により、いずれか一方のみを駆動させ、あるいは双方を同時的に駆動させることが可能である。
【0019】
(ハンドル120の構成)
ハンドル120は、概括的に、把持領域120A、上方側ハウジング接続領域120B、下方側ハウジング接続領域120Cを有する。
把持領域120Aは、概ね第1方向D1と略直交状(第2方向D2に対して若干交差状)に延在し、作業者の把持に供される。把持領域120Aは、その上部領域に作動用のトリガ123および当該トリガ123に連接された電気スイッチ124を有する。
【0020】
上方側ハウジング接続領域120Bは、把持領域120Aに一体状に連接されるとともに、概ね第1方向D1に延在し、コイルスプリング150を介在させた状態でハウジング102に連接される。コイルスプリング150が介在配置されることで、上方側ハウジング接続領域120Bは、ハウジング102に対し、第1方向D1に相対移動が可能とされる。コイルスプリング150は、「第1弾性部材」に対応する構成例である。
【0021】
下方側ハウジング接続領域120Cは、把持領域120Aに一体状に連接されるとともに、概ね第1方向D1に延在し、回転支軸130を介在させた状態でハウジング102に連接される。回転支軸130が介在配置されることで、下部側ハウジング接続領域120Cは、ハウジング102に対し、当該回転支軸130周りに相対回転動作が可能とされる。回転支軸130は、「回転支軸」に対応する構成例である。
下方側ハウジング接続領域120C内には、モータ110を駆動制御するためのコントローラ125が配置されている。また下方側ハウジング接続領域120Cの下面側には、バッテリ装着部127が設けられる。
【0022】
(サブハンドル121の構成)
サブハンドル121は、補助ハンドル等とも称呼され、第2ハウジング領域102Bの先端領域に着脱自在に装着される。サブハンドル121は打撃工具101に取り付けられた状態で、例えば作業者が右手でハンドル120を把持する場合に、左手で把持されて、作業の補助に寄与する。
【0023】
(バッテリ105の構成)
バッテリ105は、第1方向D1にスライド操作されることで、上記したバッテリ装着部127に装着される。バッテリ105は、ハウジング102内に配置されたモータ110へと駆動電流を供給する。
バッテリ装着部127に装着された状態のバッテリ105は:
(1) ハウジング102の底面と略面一となるバッテリ下面部105Aと、
(2) バッテリ105が装着された状態での打撃工具101の後面を規定するバッテリ後面部105Bと、
(3) バッテリ下面部105Aおよびバッテリ後面部105Bの境界領域として規定され、バッテリ105が装着された状態での打撃工具101の下方側の後端部を規定するバッテリ後端部105Cと、
(4) ハウジング102の第2ハウジング領域102Bの下方側に形成されたバッテリ前方側領域102Cに対向状に望むバッテリ前面部105Dと、
をそれぞれ有する。
またハウジング102におけるバッテリ前方側領域102Cには、バッテリ105がバッテリ装着部127に装着された場合に、バッテリ前面部105Dに対して微少な離間スペース141を有する状態で、第2緩衝ゴム140が対向状に配置される。第2緩衝ゴム140は、「第3弾性部材」に対応する構成例である。
【0024】
(回転支軸130およびその周辺領域の構成)
次に、
図2,
図3を参照して、回転支軸130の周辺構成について詳しく説明する。
図2に示すように、ハンドル120の下方側ハウジング接続領域120Cは、回転支軸130を介して、ハウジング102のバッテリ前方側領域102Cに相対回転自在に連接される。
また、回転支軸130から所定距離だけ離間した領域(本実施形態では、第1方向D1および第2方向D2にそれぞれ交差する方向の下方領域)において、ハンドル120側に形成された長孔133Aに対し、ハウジング102側に形成された凸部133Bが遊嵌合した状態で配置される。長孔133Aおよび凸部133Bは、ハンドル相対移動量調整部133を構成する。長孔133Aは、後述する外力作用方向D3へと延在する長軸を有する。凸部133Bは、長孔133A内に、当該長孔133Aの内壁部に対して若干のクリアランスCL(遊び)を有した状態で嵌合される。これにより、凸部133Bは、長軸方向、すなわち外力作用方向D3へは相対的に大きく、かつ長軸以外の方向、すなわち外力作用方向D3以外の方向へは相対的に小さく相対移動することができるよう構成される。ハンドル相対移動量調整部133は、「ハンドル相対移動量調整部」に対応する構成例である。
【0025】
図2におけるI-I線断面図が
図3に示される。
図3に示すように、回転支軸130は、左右方向に一対状の回転支軸凸部130Aを有する。回転支軸130は、ハンドル120を形成するために、それぞれ半割状に形成された第1分割体120Dおよび第2分割体120Eを組み合わせるとともに、固定ネジ130Bで固定することで形成される。すなわち回転支軸130は、ハンドル120の構成要素によって当該ハンドル120と一体状に形成される。
【0026】
回転支軸130は、ハウジング102において凹部状に形成された回転支軸受け部131により、回転自在に保持される。具体的には、回転支軸受け部131は、ハウジング102を形成するために、それぞれ半割状に形成された第1分割体102Dおよび第2分割体102Eを組み合わせることで、凹状の空間部として、左右方向に一対状に形成される。そして回転支軸凸部130Aは、当該回転支軸受け部131に対して、クリアランス131Aだけ離間した状態で嵌合される。さらに、当該クリアランス131Aを埋める形で、第1緩衝ゴム132が、回転支持凸部130と回転支軸受け部131の間に介在配置されている。第1緩衝ゴム132は、Oリングゴムとして構成され、回転支軸130を、回転支軸受け部131内にて、径方向全体に渡って介在状に受けることとなる。
【0027】
上記構成により、ハウジング102とハンドル120は、回転支軸130周りに相対回転が可能とされるとともに、回転支軸130を挟んで、クリアランス131Aを介して相対移動が可能とされる。またハウジング102とハンドル120が回転支軸130を挟んで相対移動する場合、当該相対移動距離に応じて第1緩衝ゴム132が圧縮されることで、ハウジング102とハンドル120間の衝撃を緩衝する構成とされる。
第1緩衝ゴム132は、「第2弾性部材」に対応する構成例である。
【0028】
また
図2を参照して既に説明したように、ハンドル相対移動量調整部133は、回転支軸130から所定距離離間した領域において、ハンドル120側に形成された長孔133Aに対して、ハウジング102側に形成された凸部133Bが遊嵌合されることで形成される。
図3に詳しく示されるように、長孔133Aは、ハンドル120を形成するために、それぞれ半割状に形成された第1分割体120Dおよび第2分割体120Eを組み合わせることで,左右方向に一対状、かつハンドル120と一体状に形成される。
同様に、凸部133Bは、ハウジング102を形成するために、それぞれ半割状に形成された第1分割体102Dおよび第2分割体102Eを組み合わせることで、凹状の空間部として、左右方向に一対状、かつハウジング102のバッテリ前方領域102Cに一体状に形成される。
【0029】
(ハウジング102におけるバッテリ前方側領域102Cの構成)
ハウジング102におけるバッテリ前方側領域102Cの周辺領域の構成が、
図4に示される。
ハウジング102の前方側領域102Cには、上記した第2緩衝ゴム140が左右一対状に配置される。
またハンドル120につき、下方側ハウジング接続領域120Cの下方側にはバッテリ装着部127が配置される。バッテリ装着部127は、バッテリ装着時のスライドガイドおよび給電端子を有する。
【0030】
(打撃工具101の作動態様)
次に、本実施形態に係る打撃工具101の作動態様について説明する。
作業者が、
図1に示すハンドル120を把持した状態(ないしは、ハンドル120およびサブハンドル121をそれぞれ把持した状態)で、トリガ123を手動操作する。トリガ123に連動した電気スイッチ124からのトリガON信号を受けて、コントローラ125はモータ110の駆動制御を行う。本実施形態ではブラシレスモータが用いられており、コントローラ125はいわゆるPWM制御にてモータ110を駆動する。
【0031】
モータ110の回転出力は出力軸110A、第1中間軸111A、クランク機構111Cを介して、シリンダ111D内のピストン111Eの第1方向D1への直線運動に変換される。ピストン111Eの直線運動により、シリンダ111D内の空気室111Fの圧力変動を介して、ストライカ112Aが第1方向D1に移動動作される。ストライカ112Aが移動動作すると、当該ストライカ112Aの運動エネルギーがインパクトボルト112Bに伝達され、当該インパクトボルト112Bはツールホルダ103内を第1方向D1に移動し、(便宜上図示しない)先端工具を直線上に移動動作させる。これにより、先端工具が打撃作業を遂行する。当該作業態様はハンマモードと定義される。
【0032】
また本実施形態に係る打撃工具101では、
図1に示す第2中間軸111Bが、モータ110の出力軸110Aに連結されて回転駆動される作業態様を選択することもできる。当該作業態様がドリルモードと定義される。この場合、第2中間軸111Bは、ベベルギア113を介して、ツールホルダ103を第1方向D1周りに回転させる。ツールホルダ103が第1方向D1周りに回転することで、(便宜上図示しない)先端工具を第1方向D1周りに回転させて回転作業が遂行される。
本実施形態では、作業者が、上記ハンマモードのみの作業態様、ドリルモードのみの作業態様、ハンマモードおよびドリルモードを組み合わせたハンマドリルモードの作業態様から任意の態様を選択することができる。
【0033】
(防振ハンドルの作用)
打撃工具101を用いて加工材に作業を遂行する場合、運動変換機構111および打撃機構112が配置されたハウジング102には、比較的強い振動が発生し易い。この振動が、ハウジング102からハンドル120へと伝達されることを抑制するために、防振ハンドル機構が機能する。すなわち、ハウジング102とハンドル120は、回転支軸130周りに相対回転が可能とされるとともに、当該相対回転によりコイルスプリング150が圧縮され、これによりハウジング102からハンドル120への振動伝達が抑制されることとなる。
【0034】
(打撃工具101が落下する場合の保護態様[1])
本実施形態に係る打撃工具101は可搬式工具である。定置型工具と異なり、作業者は、打撃工具101を把持して作業場所を移動し、あるいは打撃工具101を高所に置く場合がある。このような状態で、
図1に示す打撃工具101が不意に落下した場合、バッテリ後端部105Cが下方を向き、当該バッテリ後端部105Cと、バッテリ105を装着した状態の打撃工具101の重心G1とを結ぶ線が鉛直方向となる状況が想定される。この状態が
図5に示される。これは、打撃工具101に装着されたバッテリ105が相応の重量物であることに起因する。
【0035】
このような場合、落下した打撃工具101が地面等に当接した際の衝撃力が、バッテリ後端部105Cに作用する可能性がある。換言すれば、バッテリ後端部105Cと重心G1を結ぶ線は、打撃工具101落下時の鉛直方向を定義するとともに、落下時の衝撃力が作用する方向を定義することになる。本明細書では、この方向を外力作用方向D3として定義する。
かかる衝撃力は、バッテリ105、バッテリ装着部127等を損傷させる可能性があるため、極力回避されるべきである。
【0036】
本実施形態では、
図2,
図3に示すように、ハウジング102とハンドル120は、回転支軸130周りに相対回転が可能とされるとともに、回転支軸130を挟んで、クリアランス131Aを介して相対移動が可能とされる。またハウジング102とハンドル120が回転支軸130を挟んで相対移動する場合、当該相対移動方向へと、相対移動距離に応じて第1緩衝ゴム132が圧縮される。これにより、ハウジング102とハンドル120間の衝撃を緩衝する構成とされる。
具体的には、
図5に示すように、バッテリ105が装着された状態の打撃工具101が、外力作用方向D3を鉛直方向として落下する場合、バッテリ後端部105Cには、当接面からの衝撃力Fが、外力作用方向D3に入力される。
【0037】
この場合、
図2に示すように、ハンドル相対移動量調整部133において、長孔133Aの長軸が外力作用方向D3に向かうように形成されている。このため、長孔133Aに遊嵌合状に配置された凸部133Bは、長孔133A内を相対的に長い距離(
図2に示す長軸長さL1)移動可能に構成される。従って、落下時の衝撃力Fが外力作用方向D3に入力される場合、凸部133Bが長孔133Aの長軸方向へと、相対的に長い距離を移動して、第1緩衝ゴム132を圧縮することとなる。この結果、第1緩衝ゴム132が外力作用方向D3に相対的に大きく圧縮されて、衝撃力Fの緩衝を効果的に行うことが可能とされる。
なお本実施形態では、凸部133Bが長孔133Aの長軸長さL1を移動し切る前に、第1緩衝ゴム132による緩衝動作が完了する設定としており、ハンドル相対移動量調整部133を衝撃力Fから保護する構成が採用されている。
【0038】
(打撃工具101が落下する場合の保護態様[2])
さらに
図1、
図2、
図4に示すように第2緩衝ゴム140が、ハウジング102のバッテリ前方側領域102Cに配置されていることで、バッテリ105に作用する衝撃力Fは、併せて当該第2緩衝ゴム140によっても緩衝されることが可能とされる。これにより、バッテリ105ないしバッテリ装着部127を、落下時の衝撃から一層効果的に保護することができる。
なお、
図2に示すように、打撃工具101にバッテリ105が装着された状態で、バッテリ前面部105Dと第2緩衝ゴム140との間には、常時には、離間スペース141が形成されている。このため、第2緩衝ゴム140は、衝撃力を緩衝する時以外には、圧縮作用を受けることがないため、当該第2緩衝ゴム140が経時的に劣化することを軽減可能である。
【0039】
(外力作用方向D3以外の方向に関する保護態様)
なお、上記したように、ハンドル相対移動量調整部133においては、
図1、
図2に示すように、凸部133Bは、長孔133A内に、当該長孔133Aの内壁部に対して若干のクリアランスCLを有した状態で遊嵌合される。すなわち、凸部133Bは、外力作用方向D3以外の方向に対しても、(相対的に小さいものの)当該クリアランスCLを介して相対移動することができるよう構成されている。このため、外力作用方向D3以外に外力が作用するような場合であっても、当該クリアランスCLに応じて、回転支軸130が第1緩衝ゴム132を圧縮し、衝撃力の緩衝が行われることとなる。
【0040】
(バッテリ未装着時ないし他の衝撃力作用時の保護)
本実施形態では、バッテリ105が装着された状態の打撃工具101が、不意に落下する場合を例として説明している。一方、上記した回転支軸130およびハンドル相対移動量調整部133の構成は、ハウジング102とハンドル120間での外力作用の緩衝機構に係るものであり、バッテリ105の装着、および落下による衝撃力の作用を必須の要件とはしていない。換言すれば、バッテリ105が装着されていない状態で衝撃力が作用した場合、あるいは落下以外の態様で衝撃力が作用した場合であっても、かかる衝撃力を効果的に緩衝することが可能である。
【0041】
(打撃工具101に集塵アタッチメント160が装着された場合)
本実施形態に係る打撃工具101には、各種の作業補助機器が装着可能である。
典型的には、
図6に示すように、集塵アタッチメント160が打撃工具101の前方側に装着され、作業時に発生する塵埃(ダスト)の吸塵・集塵に供される態様である。
集塵アタッチメント160は、吸塵部161、ダスト移送部162、集塵部163を有する。集塵アタッチメント160は、「作業補助機器」に対応する構成例である。
【0042】
集塵アタッチメント160(およびバッテリ105)が装着された状態における、打撃工具101の重心位置が、
図6においてG2として示されている。重心位置G2は、相応の重量物である集塵アタッチメント160が前方側に装着された影響を受けて、
図1における重心位置G1と比べて、前方側にシフトした領域に置かれる。
この場合、集塵アタッチメント160が一体化された状態の打撃工具101が不意に落下する際には、バッテリ後端部105Cと重心位置G2を結ぶ方向が鉛直方向となるように落下することとなる。当該方向が、外力作用方向D4として定義されることになる。
図6に示すように、外力作用方向D4は、集塵アタッチメント160が装着されない状態での外力作用方向D3(
図1参照)に比べて、第1方向D1の前方側へとシフトした状態とされる。
【0043】
本実施形態では、既に
図1,
図2を用いて説明したように、ハンドル相対移動量調整部133において、長孔133Aの長軸が外力作用方向D3に向かうように形成される。そして凸部133Bは、長孔133A内に、当該長孔133Aの内壁部に対して若干のクリアランスを有した状態で遊嵌合される。すなわち、凸部133Bは、外力作用方向D3以外の方向に対しても相対移動することができる。
従って、集塵アタッチメント160が装着された場合のように、打撃工具101の重心位置がシフトして、不意の落下時における外力作用方向が多少変化するような場合であっても、当該クリアランスに応じて、回転支軸130が第1緩衝ゴム132を圧縮し、衝撃力の緩衝が行われることとなる。
【0044】
さらに
図1、
図2、
図4に示す第2緩衝ゴム140は、外力作用方向の向きが多少変更された場合であっても、十分にバッテリ105に作用する衝撃を緩衝することができる。このため、集塵アタッチメント160のように重量のある作業補助機器が装着されて、打撃工具101全体の重心位置が変化した場合にも、効果的に対応することができる。
【0045】
本実施形態によれば、不意の落下時等においても、機材を確実に保護することが可能な打撃工具101の構築技術が提供されることとなる。これにより打撃工具101におけるバッテリ105の保護のみならず、バッテリ装着部127の保護、回転支軸130の保護も併せて担保されることとなる。
【符号の説明】
【0046】
101:打撃工具
102:ハウジング(本体部)
102A:第1ハウジング領域
102B:第2ハウジング領域
102C:バッテリ前方側領域
102D:第1分割体
102E:第2分割体
103:ツールホルダ
104:チャック部
105:バッテリ
105A:バッテリ下面部
105B:バッテリ後面部
105C:バッテリ後端部
105D:バッテリ前面部
110:モータ
110A:出力軸
110B:冷却ファン
111:運動変換機構
111A:第1中間軸
111B:第2中間軸
111C:クランク機構
111D:シリンダ
111E:ピストン
111F:空気室
112:打撃機構
112A:ストライカ
112B:インパクトボルト
113 ベベルギア
120:ハンドル、
120A:把持領域
120B:上方側ハウジング接続領域
120C:下方側ハウジング接続領域
120D:第1分割体
120E:第2分割体
121:サブハンドル
123:トリガ
124:電気スイッチ
125:コントローラ
127:バッテリ装着部
130:回転支軸
130A:回転支軸凸部
130B:固定ネジ
131:回転支軸受け部(凹部:ハウジング側)
131A:クリアランス
132:第1緩衝ゴム(第2弾性部材)
133:ハンドル相対移動量調整部
133A:長孔(ハンドル側)
133B:凸部(ハウジング側)
140:第2緩衝ゴム(第3弾性部材)
141:離間スペース
150:コイルスプリング(第1弾性部材)
160:集塵アタッチメント
161:吸塵部
162:ダスト移送部
163:集塵部(作業補助機器)
CL:クリアランス
D1:第1方向(長軸方向)
D2:第2方向(上下方向)
D3:(落下時の)外力作用方向
D4:(作業補助機器付きで落下時の)外力作用方向
G1:(打撃工具の)重心位置
G2:(作業補助機器付き打撃工具の)重心位置
L1:長軸距離