(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-14
(45)【発行日】2025-05-22
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法および断層画像取得システム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20250515BHJP
【FI】
G01T1/161 A
(21)【出願番号】P 2021063977
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2024-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】大手 希望
(72)【発明者】
【氏名】橋本 二三生
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-151653(JP,A)
【文献】国際公開第2020/186013(WO,A2)
【文献】特開2021-018109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161-1/166
G06T 1/00-1/40、3/00-5/94
G06N 10/0-99/00
A61B 6/00-6/58、5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TOF-PET装置において同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して取得された被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を含む入力画像群を入力する入力部と、
前記入力部に入力された前記入力画像群に基づいて深層ニューラルネットワークにより前記被験者の断層画像を推測する推測部と、
前記推測部により推測された前記断層画像を出力する出力部と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記入力画像群は前記被験者のγ線吸収係数分布画像を含む、
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記入力画像群は前記被験者のMRI画像を含む、
請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記推測部は、前記複数のγ線対発生位置分布画像に基づいて前記断層画像を推測する第1深層ニューラルネットワークにおいて、その処理の過程で作成した特徴マップに対し、前記MRI画像を入力する第2深層ニューラルネットワークによる処理の過程で作成した特徴マップにより重み付けを行って、新たな特徴マップを作成する、
請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記推測部は、前記第1深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて前記重み付けを行う、
請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記推測部は、前記第1深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて、前記第2深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれの最後の特徴マップにより前記重み付けを行って、その重み付けにより作成した新たな特徴マップを該層の最後の特徴マップとする、
請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
複数の被験者それぞれについて取得された前記入力画像群および断層画像のデータベースを用いて前記深層ニューラルネットワークを学習させる学習部を更に備える請求項1~6の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を取得するTOF-PET装置と、
前記複数のγ線対発生位置分布画像に基づいて前記被験者の断層画像を推測する請求項1に記載の画像処理装置と、
を備える断層画像取得システム。
【請求項9】
同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を取得するTOF-PET装置と、
前記被験者のγ線吸収係数分布画像を取得する装置と、
前記複数のγ線対発生位置分布画像および前記γ線吸収係数分布画像に基づいて前記被験者の断層画像を推測する請求項2に記載の画像処理装置と、
を備える断層画像取得システム。
【請求項10】
同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を取得するTOF-PET装置と、
前記被験者のMRI画像を取得するMRI装置と、
前記複数のγ線対発生位置分布画像および前記MRI画像に基づいて前記被験者の断層画像を推測する請求項3~6の何れか1項に記載の画像処理装置と、
を備える断層画像取得システム。
【請求項11】
TOF-PET装置において同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して取得された被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を含む入力画像群を入力する入力ステップと、
前記入力ステップで入力された前記入力画像群に基づいて深層ニューラルネットワークにより前記被験者の断層画像を推測する推測ステップと、
前記推測ステップで推測された前記断層画像を出力する出力ステップと、
を備える画像処理方法。
【請求項12】
前記入力画像群は前記被験者のγ線吸収係数分布画像を含む、
請求項11に記載の画像処理方法。
【請求項13】
前記入力画像群は前記被験者のMRI画像を含む、
請求項11または12に記載の画像処理方法。
【請求項14】
前記推測ステップは、前記複数のγ線対発生位置分布画像に基づいて前記断層画像を推測する第1深層ニューラルネットワークにおいて、その処理の過程で作成した特徴マップに対し、前記MRI画像を入力する第2深層ニューラルネットワークによる処理の過程で作成した特徴マップにより重み付けを行って、新たな特徴マップを作成する、
請求項13に記載の画像処理方法。
【請求項15】
前記推測ステップは、前記第1深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて前記重み付けを行う、
請求項14に記載の画像処理方法。
【請求項16】
前記推測ステップは、前記第1深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて、前記第2深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれの最後の特徴マップにより前記重み付けを行って、その重み付けにより作成した新たな特徴マップを該層の最後の特徴マップとする、
請求項15に記載の画像処理方法。
【請求項17】
複数の被験者それぞれについて取得された前記入力画像群および断層画像のデータベースを用いて前記深層ニューラルネットワークを学習させる学習ステップを更に備える請求項11~16の何れか1項に記載の画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理方法および断層画像取得システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PET(Positron Emission Tomography)装置は、測定空間を取り囲んで設けられた多数の放射線検出器を備えている。その測定空間に、陽電子放出核種で標識された薬剤を投与された被験者が置かれる。その被験者の体内において電子-陽電子の対消滅によりエネルギ511KeVの2個のγ線光子が発生し、これら2個のγ線光子は互いに反対方向に飛行する。PET装置は、これら2個のγ線光子を何れか2個の放射線検出器により同時計数する。そして、PET装置は、このような同時計数情報を収集して、所要の画像再構成処理を行うことで、被験者の断層画像を取得することができる。
【0003】
PET装置のうちでもTOF-PET(Time-ofFlight PET)装置は、同時計数事象毎に、γ線対を同時計数した2個の放射線検出器それぞれの検出タイミングの間の時間差に基づいて、これら2個の放射線検出器を互いに結ぶ同時計数線上におけるγ線対発生位置を検出することができる。TOF-PET装置は、多数の同時計数事象についてγ線対発生位置を検出することで、γ線対発生位置の分布を表すγ線対発生位置分布画像を取得することができる。γ線対発生位置分布画像はTOF分解能に応じてボケた画像となる。このボケを画像再構成処理によって取り除くことにより臨床に用いる断層画像を取得できる。非特許文献1,2には、TOF-PET装置を用いて被験者の断層画像を短時間に取得する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】William Whiteley, et al,"FastPET: Near Real-Time Reconstruction of PET Histo-Image Data Using aNeural Network," IEEE TRANSACTIONS ON RADIATION& PLASMA MEDICAL SCIENCES, October 2020.
【文献】Eiichi Tanaka, "Line-WritingData Acquisition and Signal-to-Noise Ratio in Time-of-Flight Positron EmissionTomography," Workshop on Time-of-Flight Tomography, May 1982.
【文献】"BrainWeb: Simulated Brain Database",[online],[令和3年3月15日検索],インターネット<https://brainweb.bic.mni.mcgill.ca/brainweb/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
TOF-PET装置を用いて被験者の断層画像を短時間に取得する従来の技術では、最終的に得られる断層画像のS/Nはよくない。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、TOF-PET装置を用いてS/Nがよい断層画像を短時間に取得することができる画像処理装置および画像処理方法を提供することを目的とする。また、このような画像処理装置およびTOF-PET装置を備える断層画像取得システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像処理装置は、TOF-PET装置において同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して取得された被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を含む入力画像群を入力する入力部と、入力部に入力された入力画像群に基づいて深層ニューラルネットワークにより被験者の断層画像を推測する推測部と、推測部により推測された断層画像を出力する出力部と、を備える。
【0008】
入力部に入力される入力画像群は、被験者のγ線吸収係数分布画像を更に含んでいてもよいし、被験者のMRI画像を更に含んでいてもよい。
【0009】
推測部は、複数のγ線対発生位置分布画像に基づいて断層画像を推測する第1深層ニューラルネットワークにおいて、その処理の過程で作成した特徴マップに対し、MRI画像を入力する第2深層ニューラルネットワークによる処理の過程で作成した特徴マップにより重み付けを行って、新たな特徴マップを作成するのが好適である。
【0010】
推測部は、第1深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて重み付けを行うのが好適である。
【0011】
推測部は、第1深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて、第2深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれの最後の特徴マップにより重み付けを行って、その重み付けにより作成した新たな特徴マップを該層の最後の特徴マップとするのが好適である。
【0012】
本発明の画像処理装置は、複数の被験者それぞれについて取得された入力画像群および断層画像のデータベースを用いて深層ニューラルネットワークを学習させる学習部を更に備えるのが好適である。
【0013】
本発明の断層画像取得システムは、同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を取得するTOF-PET装置と、複数のγ線対発生位置分布画像に基づいて被験者の断層画像を推測する上記の本発明の画像処理装置と、を備える。
【0014】
本発明の断層画像取得システムは、同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を取得するTOF-PET装置と、被験者のγ線吸収係数分布画像を取得する装置と、複数のγ線対発生位置分布画像およびγ線吸収係数分布画像に基づいて被験者の断層画像を推測する上記の本発明の画像処理装置と、を備える構成であってもよい。
【0015】
本発明の断層画像取得システムは、同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を取得するTOF-PET装置と、被験者のMRI画像を取得するMRI装置と、複数のγ線対発生位置分布画像およびMRI画像に基づいて被験者の断層画像を推測する上記の本発明の画像処理装置と、を備える構成であってもよい。
【0016】
本発明の画像処理方法は、TOF-PET装置において同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれに対応して取得された被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を含む入力画像群を入力する入力ステップと、入力ステップで入力された入力画像群に基づいて深層ニューラルネットワークにより被験者の断層画像を推測する推測ステップと、推測ステップで推測された断層画像を出力する出力ステップと、を備える。
【0017】
入力ステップで入力される入力画像群は、被験者のγ線吸収係数分布画像を更に含んでいてもよいし、被験者のMRI画像を更に含んでいてもよい。
【0018】
推測ステップは、複数のγ線対発生位置分布画像に基づいて断層画像を推測する第1深層ニューラルネットワークにおいて、その処理の過程で作成した特徴マップに対し、MRI画像を入力する第2深層ニューラルネットワークによる処理の過程で作成した特徴マップにより重み付けを行って、新たな特徴マップを作成するのが好適である。
【0019】
推測ステップは、第1深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて重み付けを行うのが好適である。
【0020】
推測ステップは、第1深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて、第2深層ニューラルネットワークにおいて特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれの最後の特徴マップにより重み付けを行って、その重み付けにより作成した新たな特徴マップを該層の最後の特徴マップとするのが好適である。
【0021】
本発明の画像処理方法は、複数の被験者それぞれについて取得された入力画像群および断層画像のデータベースを用いて深層ニューラルネットワークを学習させる学習ステップを更に備えるのが好適である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、TOF-PET装置を用いてS/Nがよい断層画像を短時間に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、断層画像取得システム1の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、TOF-PET装置20によるγ線対発生位置の検出を説明する図である。
【
図3】
図3は、TOF-PET装置20による方位角θの各領域のγ線対発生位置分布画像の取得を説明する図である。
【
図4】
図4は、画像処理装置10の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、推測部12のDNNの構成の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、推測部12のDNNの構成の他の例を示す図である。
【
図7】
図7は、
図6に示されるDNN構成の一部を詳細に示す図である。
【
図8】
図8は、TOF-PET装置において同時計数線の方位角θに関して区分された8個の領域それぞれに対応して取得された8個のγ線対発生位置分布画像を示す図である。
【
図17】
図17は、比較例1~3および実施例1,2それぞれの断層画像のピーク信号対雑音比の平均値および標準偏差を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0025】
図1は、断層画像取得システム1の構成を示す図である。断層画像取得システム1は、画像処理装置10およびTOF-PET装置20を備える。TOF-PET装置20は、
図2に示されるように、同時計数事象毎に、γ線対を同時計数した2個の放射線検出器それぞれの検出タイミングの間の時間差に基づいて、これら2個の放射線検出器を互いに結ぶ同時計数線上におけるγ線対発生位置を検出する。
【0026】
TOF-PET装置20は、同時計数線の方位角に関して区分された複数の領域それぞれにおいて、同時計数事象毎のγ線対発生位置を収集して、被験者のγ線対発生位置分布画像を取得する。例えば、
図3に示されるように、同時計数線の方位角θに関して8個の領域に区分する場合、TOF-PET装置20は、0.0°≦θ<22.5°、22.5°≦θ<45.0°、45.0°≦θ<67.5°、67.5°≦θ<90.0°、90.0°≦θ<112.5°、112.5°≦θ<135.0°、135.0°≦θ<157.5°および157.5°≦θ<180.0°の各領域において、被験者のγ線対発生位置分布画像を取得する。
【0027】
画像処理装置10は、入力画像群に基づいて深層ニューラルネットワーク(Deep Neural Network、DNN)により被験者の断層画像を推測し、この推測した断層画像を出力する。入力画像群は、少なくとも、TOF-PET装置20において同時計数線の方位角θに関して区分された複数の領域それぞれに対応して取得された被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を含む。また、入力画像群は、被験者のγ線吸収係数分布画像を含んでいてもよいし、被験者のMRI(Magnetic Resonance Imaging)画像を含んでいてもよい。
【0028】
被験者のγ線吸収係数分布画像は、TOF-PET装置20によるトランスミッションスキャンにより取得されたものであってもよいし、CT(Computed Tomography)装置により得られた被験者のX線吸収係数分布画像に基づいて取得されたものであってもよいし、また、MRI装置により得られた被験者の構造を表す画像に基づいて取得されたものであってもよい。
【0029】
断層画像取得システム1は、好ましくはCT装置30またはMRI装置40を備える。CT装置30は、被験者のX線吸収係数分布画像を取得して、これに基づいてエネルギ511Kevのγ線吸収係数分布画像を取得するためのものである。MRI装置40は、被験者の構造を表すMRI画像を取得するためのものであり、また、このMRI画像に基づいてγ線吸収係数分布画像を取得することができる。TOF-PET装置20またはMRI装置40を用いて被験者のγ線吸収係数分布画像を取得する場合には、CT装置30は不要である。TOF-PET装置20、CT装置30およびMRI装置40のうちの何れか2以上の装置が一体化されていてもよい。
【0030】
図4は、画像処理装置10の構成を示す図である。画像処理装置10は、入力画像群に基づいてDNNにより被験者の断層画像を推測する。また、画像処理装置10は、画像データベース15を用いてDNNを学習させることができる。画像処理装置10は、入力部11、推測部12、出力部13および学習部14を備える。
【0031】
入力部11は、同時計数線の方位角θに関して区分された領域毎の被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を少なくとも含む入力画像群を入力する。入力部11は、被験者の複数のγ線対発生位置分布画像に加えてγ線吸収係数分布画像およびMRI画像の双方または何れかを一方を含む入力画像群を入力してもよい。
【0032】
推測部12は、入力部11に入力された入力画像群に基づいて、DNNにより、被験者の断層画像を推測する。このDNNは畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)であるのが好適である。CNNでは、特徴量を抽出する畳み込み層と、特徴量を圧縮するプーリング層とが、交互に設けられている。推測部12は、DNNの処理をCPU(Central Processing Unit)により行ってもよいが、より高速な処理が可能なDSP(Digital Signal Processor)またはGPU(Graphics Processing Unit)により行うのが好適である。
【0033】
出力部13は、推測部12により推測された断層画像を出力する。出力部13は、画像を表示するディスプレイを含むのが好適である。
【0034】
学習部14は、画像データベース15を用いて推測部12のDNNを学習させる。画像データベース15は、複数の被験者について入力画像群のデータおよび断層画像のデータを格納している。学習部14は、画像データベース15に格納されている各被験者の入力画像群を入力部11に入力させ、この入力画像群に対して出力部13から出力された断層画像、および、画像データベースに格納されている該被験者の断層画像に基づいて、推測部12のDNNを学習させる。このようなDNNの学習は深層学習(Deep Learning)と呼ばれる。
【0035】
このような画像処理装置10を用いた画像処理方法は、入力部11による入力ステップ、推測部12による推測ステップ、出力部13による出力ステップ、および、学習部14による学習ステップを備える。すなわち、入力ステップにおいて、同時計数線の方位角θに関して区分された領域毎の被験者の複数のγ線対発生位置分布画像を入力する。推測ステップにおいて、入力ステップで入力された入力画像群に基づいて、DNNにより、被験者の断層画像を推測する。出力ステップにおいて、推測ステップで推測した被験者の断層画像を出力する。学習ステップにおいて、画像データベース15を用いてDNNを学習させる。
【0036】
学習ステップにおいてDNNの学習を一度行っておけば、以降は入力、推測および出力の一連のステップを繰り返して行うことができるので、入力、推測および出力の一連のステップを行う度に学習ステップを行う必要はない。同様の理由で、DNNが学習済みであれば学習部14は必要ではない。ただし、DNNが学習済みであっても、更に高精度の推測を可能にする為に更に学習を行う場合には、学習ステップおよび学習部14があってもよい。
【0037】
図5は、推測部12のDNNの構成の一例を示す図である。この
図5に示される構成例では、Uネット構造を有するエンコーダ-デコーダCNNを用いる。
図6は、推測部12のDNNの構成の他の例を示す図である。この
図6に示される構成例では、2つのUネット構造を有するエンコーダ-デコーダCNN(CNN1、CNN2)を用いる。
図7は、
図6に示されるDNN構成の一部を詳細に示す図である。これらの図において、特徴マップはボックスで示され、演算は矢印で示されている。
【0038】
図6および
図7に示される構成例では、第1深層ニューラルネットワーク(CNN1)は、入力画像群のうち被験者の複数のγ線対発生位置分布画像(およびγ線吸収係数分布画像)を入力して、被験者の断層画像を推測する。第2深層ニューラルネットワーク(CNN2)は、入力画像群のうち被験者のMRI画像を入力する。推測部12は、CNN1において、その処理の過程で作成した特徴マップに対し、CNN2による処理の過程で作成した特徴マップ(Attentionマップ)により重み付け(要素毎の乗算)を行って、新たな特徴マップを作成する。
【0039】
推測部12は、CNN1において特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて重み付けを行うのが好適である。また、推測部12は、CNN1において特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれにおいて、CNN2において特徴マップの解像度が異なる複数の層それぞれの最後の特徴マップ(Attentionマップ)により重み付けを行って、その重み付けにより作成した新たな特徴マップを該層の最後の特徴マップとするのが好適である。また、CNN1において重み付け直前の特徴マップは規格化されて全要素の平均値が0とされ標準偏差が1とされているのが好適であり、CNN2においてAttentionマップはシグモイド関数により各要素が0と1との間の値とされているのが好適である。
【0040】
次に、実施例について説明する。以下に説明する実施例では、非特許文献3に公開されているヒトの脳の画像データ(20例)を利用し、TOF-PET装置において同時計数線の方位角θに関して区分された8個の領域それぞれに対応して取得される8個のγ線対発生位置分布画像、γ線吸収係数分布画像およびMRI画像を作成して、モンテカルロシミュレーションを行った。
【0041】
線源分布を、灰白質:白質:脳髄液=1:0.25:0.05 とした。TOF-PET装置20における放射線検出器の配置を、浜松ホトニクス株式会社製の頭部用PET装置(SHR29000)と同様のものとした。TOF-PET装置20におけるTOF時間分解能を300psとした。各画像の画素数を70×120×120 voxels とした。画素サイズを3.221×3.0×3.0mm3とした。
【0042】
脳画像データ(20例)のうち、DNNの学習に13例を用い、学習の検証に2例を用い、試験に5例を用いた。学習データ拡張のためにランダムクロップ(64×64×64 voxels)を用いたAdamオプティマイザにより、バッチサイズを32または16としてDNNを学習させた。“2048/バッチサイズ”を1エポックとして、エポック数を500とした。学習時のDNNの出力画像と教師画像との間の差を表す損失関数として、MSE(Mean Squared Error)を用いた。
【0043】
図8は、TOF-PET装置において同時計数線の方位角θに関して区分された8個の領域それぞれに対応して取得された8個のγ線対発生位置分布画像を示す図である。この図に示されるように、それぞれのγ線対発生位置分布画像は、TOF時間分解能が低いことに因り方位角に平行な方向についてはボケており、方位角に直交する方向については放射線検出器の大きさに応じた空間分解能(数mm)となっている。
【0044】
図9は、真の線源分布画像を示す図である。
図10は、γ線吸収係数分布画像を示す図である。
図11は、MRI画像を示す図である。
【0045】
図12は、比較例1の断層画像を示す図である。比較例1では、TOF-PET装置において同時計数線の方位角θに関して区分することなく被験者の断層画像を作成した。TOF時間分解能が低いことから、比較例1の断層画像の空間分解能は4.5cmと低い。
【0046】
図13は、比較例2の断層画像を示す図である。比較例2では、LM-DRAMA(List-Mode Dynamic Row-Action Maximum-likelihood Algorithm)法により画像再構成処理を行って被験者の断層画像を作成した。
【0047】
図14は、比較例3の断層画像を示す図である。比較例3では、非特許文献1に記載された手法により被験者の断層画像を作成した。
【0048】
図15は、実施例1の断層画像を示す図である。実施例1では、
図5に示されたDNN構成を用い、被験者の断層画像を推測した。入力画像群として、8個のγ線対発生位置分布画像(
図8)およびγ線吸収係数分布画像(
図10)を用いた。
【0049】
図16は、実施例2の断層画像を示す図である。実施例2では、
図6および
図7に示されたDNN構成を用い、被験者の断層画像を推測した。入力画像群として、8個のγ線対発生位置分布画像(
図8)、γ線吸収係数分布画像(
図10)およびMRI画像(
図11)を用いた。
【0050】
【0051】
図17は、比較例1~3および実施例1,2それぞれの断層画像のピーク信号対雑音比の平均値および標準偏差を比較するグラフである。ピーク信号対雑音比(Peak Signal to Noise Ratio、PSNR)は、画像の品質をデシベル(dB)で表したものであり、値が高いほど良好な画質であることを意味する。比較例1のPSNRは21.38(±0.52)dBであり、比較例2のPSNRは27.83(±0.41)dBであり、比較例3のPSNRは28.82(±0.24)dBであった。これに対して、実施例1のPSNRは29.90(±0.08)dBであり、実施例2のPSNRは37.09(±0.73)dBであった。実施例1,2の断層画像のPSNRは、比較例1~3の断層画像のPSNRより高い。
【0052】
以上のとおり、本実施形態では、TOF-PET装置を用いてS/Nがよい断層画像を取得することができる。また、深層ニューラルネットワークによって画像再構成処理を行うことで、短時間に断層画像を取得することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…断層画像取得システム、10…画像処理装置、11…入力部、12…推測部、13…出力部、14…学習部、15…画像データベース、20…TOF-PET装置、30…CT装置、40…MRI装置。