(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-14
(45)【発行日】2025-05-22
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機の給電板位置管理方法及びワイヤ放電加工機
(51)【国際特許分類】
B23H 7/10 20060101AFI20250515BHJP
【FI】
B23H7/10 E
(21)【出願番号】P 2024022026
(22)【出願日】2024-02-16
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】中尾 高史
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-93117(JP,A)
【文献】特開平10-315053(JP,A)
【文献】国際公開第99/039859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのワイヤガイド装置の間で走行するワイヤ電極を各前記ワイヤガイド装置の内部に移動可能に配置した給電板に摺動させてパルス電圧を印加し、NC装置からの指令に従って軸送り装置を用いて前記ワイヤ電極とワークとを相対移動させることによって、前記ワークを所望の形状に加工するワイヤ放電加工機の前記給電板の位置管理方法であって、
前記給電板を前記ワイヤガイド装置の内部において固定することと、
前記ワイヤガイド装置と前記ワイヤガイド装置の外側に配置された拘束装置とを相対移動させ、一端部が前記給電板に結合されると共に前記ワイヤガイド装置の外側へ延在するロッドの他端部を前記拘束装置によって拘束し、前記拘束装置から発信される基準位置信号を検知することと、
前記基準位置信号を検知したときに、前記NC装置から取得した前記軸送り装置の座標位置及び前記給電板の前記軸送り装置に対する相対位置に基づき前記給電板の座標位置を算出することと、
前記ワイヤガイド装置に対する前記給電板の固定を解除し、前記ワイヤ電極の走行方向に対して垂直、かつ、前記ワイヤ電極が摺動する摺動面に平行となる方向へ前記給電板を移動可能状態にすることと、
前記移動可能状態の前記給電板を所定の距離だけ移動させること、
を含むワイヤ放電加工機の給電板位置管理方法。
【請求項2】
前記給電板の使用回数、及び/又は、残使用可能回数を算出し、報知すること、を更に含む請求項1に記載のワイヤ放電加工機の給電板位置管理方法。
【請求項3】
前記移動可能状態の前記給電板を所定の距離だけ移動させることは、
前記ロッドを前記拘束装置によって拘束した状態で、前記ロッドを前記ワイヤガイド装置から引き出すことによって前記給電板の座標位置を変更することと、
移動した前記給電板を固定すること、
を含む請求項1又は請求項2に記載のワイヤ放電加工機の給電板位置管理方法。
【請求項4】
2つのワイヤガイド装置の間で走行するワイヤ電極を各前記ワイヤガイド装置の内部に移動可能に配置した給電板に摺動させてパルス電圧を印加し、NC装置からの指令に従って軸送り装置を用いて前記ワイヤ電極とワークとを相対移動させることによって、前記ワークを所望の形状に加工するワイヤ放電加工機であって、
前記ワイヤガイド装置の内部に配置され、前記ワイヤ電極の走行方向に対して垂直、かつ、前記ワイヤ電極が摺動する摺動面に平行となる方向へ移動することによって、前記ワイヤ電極が摺動する位置を変更可能な給電板と、
前記ワイヤガイド装置に配置され、前記ワイヤガイド装置の内部を移動可能な前記給電板を固定する固定装置と、
一端部が前記給電板に結合されると共に前記給電板の移動方向に沿って前記ワイヤガイド装置の外側へ延在するロッドと、
前記ワイヤガイド装置の外側に配置された拘束装置であって、前記ワイヤガイド装置と前記拘束装置とを相対移動させ、前記ロッドの他端部を拘束すると共に、拘束したときに基準位置信号を発信する拘束装置と、
前記基準位置信号を受信すると共に、前記NC装置から取得した前記軸送り装置の座標位置及び前記給電板の前記軸送り装置に対する相対位置に基づき前記給電板の座標位置を算出する制御装置と、
を具備することを特徴としたワイヤ放電加工機。
【請求項5】
2つの前記ワイヤガイド装置は、前記ワイヤ電極の走行方向において前記ワークの上流側に位置する上側ワイヤガイド装置と、前記ワークの下流側に位置する下側ワイヤガイド装置とされ、
前記上側ワイヤガイド装置の内部に移動可能に配置された前記給電板としての第1の給電板と、
前記第1の給電板を固定する前記固定装置としての第1の固定装置と、
一端部が前記第1の給電板に結合されると共に前記第1の給電板の移動方向に沿って前記上側ワイヤガイド装置の外側へ延在する前記ロッドとしての第1のロッドと、
前記第1のロッドの他端部を拘束すると共に、拘束したときに第1の基準位置信号を発信する前記拘束装置としての第1の拘束装置と、
前記第1の基準位置信号を受信すると共に、前記NC装置から取得した前記軸送り装置の座標位置及び前記第1の給電板の前記軸送り装置に対する相対位置に基づき前記第1の給電板の座標位置を算出する前記制御装置としての第1の制御装置と、
前記下側ワイヤガイド装置の内部に移動可能に配置された前記給電板としての第2の給電板と、
前記第2の給電板を固定する前記固定装置としての第2の固定装置と、
一端部が前記第2の給電板に結合されると共に前記第2の給電板の移動方向に沿って前記下側ワイヤガイド装置の外側へ延在する前記ロッドとしての第2のロッドと、
前記第2のロッドの他端部を拘束すると共に、拘束したときに第2の基準位置信号を発信する前記拘束装置としての第2の拘束装置と、
前記第2の基準位置信号を受信すると共に、前記NC装置から取得した前記軸送り装置の座標位置及び前記第2の給電板の前記軸送り装置に対する相対位置に基づき前記第2の給電板の座標位置を算出する前記制御装置としての第2の制御装置と、
を具備することを特徴とした、請求項4に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項6】
前記拘束装置は、前記ロッドを磁力によって吸着して拘束する、請求項4に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項7】
前記拘束装置は、前記ロッドを挟持するピンチ機構を有する、請求項4に記載のワイヤ放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機の給電板位置管理方法及びワイヤ放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機のワイヤ電極は、給電板に対して摺動しながら電圧の供給を受けるため、給電板はワイヤ電極の摺動によって摩耗する。このため、給電板は、例えば超硬合金などの耐摩耗性の高い材料で作製されている。また、所望量摩耗する度にワイヤ電極に対して垂直方向に移動しながら、すなわち、位置をずらしながら(例えば、1mmずつ)複数回使用するのが一般的である。これに関して、特許文献1には、給電板とワイヤ電極との接触位置を機械的に変更可能なワイヤ放電加工機が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されているようなワイヤ放電加工機では、同じ接触位置における給電板の使用回数は、作業者が自分で記録する必要がある。また、給電板をずらす時間的間隔を機械的に設定できないため、作業者が目視やチェックリスト等によって確認する必要がある。さらに、下方側のワイヤガイド装置は、通常は加工槽内側に配置されることから、給電板の収容空間に、スラッジが入り込む可能性がある。この状態で押圧ピンによって給電板の一方を押圧すると、押圧点から離れた給電板の他方と収容空間壁面との間でスラッジによるかじりが発生する可能性がある。そして、このような給電板を無理に押し込もうとすると、ワイヤガイド装置の動作不良や破損を引き起こし得る。作業者は、これを防止するために、スラッジの付着を確認し、必要に応じて除去するために随時ワイヤガイド装置を点検する必要があり、この結果、作業工数が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、ワイヤ電極に給電する給電板の位置管理を省力化できるワイヤ放電加工機の給電板位置管理方法及びワイヤ放電加工機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様によれば、2つのワイヤガイド装置の間で走行するワイヤ電極を各ワイヤガイド装置の内部に移動可能に配置した給電板に摺動させてパルス電圧を印加し、NC装置からの指令に従って軸送り装置を用いてワイヤ電極とワークとを相対移動させることによって、ワークを所望の形状に加工するワイヤ放電加工機の給電板の位置管理方法であって、給電板をワイヤガイド装置の内部において固定することと、ワイヤガイド装置とワイヤガイド装置の外側に配置された拘束装置とを相対移動させ、一端部が給電板に結合されると共にワイヤガイド装置の外側へ延在するロッドの他端部を拘束装置によって拘束し、拘束装置から発信される基準位置信号を検知することと、基準位置信号を検知したときに、NC装置から取得した軸送り装置の座標位置及び給電板の軸送り装置に対する相対位置に基づき給電板の座標位置を算出することと、ワイヤガイド装置に対する給電板の固定を解除し、ワイヤ電極の走行方向に対して垂直、かつ、前記ワイヤ電極が摺動する摺動面に平行となる方向へ給電板を移動可能状態にすることと、移動可能状態の給電板を所定の距離だけ移動させること、を含むワイヤ放電加工機の給電板位置管理方法が提供される。
【0007】
本発明の一の態様によれば、2つのワイヤガイド装置の間で走行するワイヤ電極を各ワイヤガイド装置の内部に移動可能に配置した給電板に摺動させてパルス電圧を印加し、NC装置からの指令に従って軸送り装置を用いてワイヤ電極とワークとを相対移動させることによって、ワークを所望の形状に加工するワイヤ放電加工機であって、ワイヤガイド装置の内部に配置され、ワイヤ電極の走行方向に対して垂直、かつ、前記ワイヤ電極が摺動する摺動面に平行となる方向へ移動することによって、ワイヤ電極が摺動する位置を変更可能な給電板と、ワイヤガイド装置に配置され、ワイヤガイド装置の内部を移動可能な給電板を固定する固定装置と、一端部が給電板に結合されると共に給電板の移動方向に沿ってワイヤガイド装置の外側へ延在するロッドと、ワイヤガイド装置の外側に配置された拘束装置であって、ワイヤガイド装置と拘束装置とを相対移動させ、ロッドの他端部を拘束すると共に、拘束したときに基準位置信号を発信する拘束装置と、基準位置信号を受信すると共に、NC装置から取得した軸送り装置の座標位置及び給電板の軸送り装置に対する相対位置に基づき給電板の座標位置を算出する制御装置と、を具備することを特徴としたワイヤ放電加工機が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一の態様に係るワイヤ放電加工機の給電板位置管理方法によると、給電板をワイヤガイド装置の内部において固定した状態で、ワイヤガイド装置とワイヤガイド装置の外側に配置された拘束装置とを相対移動させ、ロッドの他端部を拘束装置によって拘束するように構成されている。また、拘束装置から発信される基準位置信号を検知することによって、拘束装置がロッドを拘束したときを検知することができる。さらに、基準位置信号を検知したときに、NC装置から取得した軸送り装置の座標位置及び給電板の軸送り装置に対する相対位置から拘束装置に拘束されたロッドに結合されている給電板の座標位置を算出することができる。このため、拘束装置がロッドを拘束したときの給電板の座標位置を把握し、給電板のどの位置でワイヤ電極を何回使用したかを把握することができる。また、ロッドを拘束装置によって拘束した状態でワイヤガイド装置に対する給電板の固定を解除し、ワイヤ電極の走行方向に対して垂直、かつ、前記ワイヤ電極が摺動する摺動面に平行となる方向へ給電板を移動可能状態とし、移動可能状態の給電板を所定の距離だけ移動させることができる。このため、ワイヤ電極が摺動することによって摩耗した給電板の摺動面をずらして、ワイヤ電極が摺動する位置を変更することができる。これによって、給電板の位置の把握及び変更を機械的に行うことができ、ワイヤ電極に給電する給電板の位置管理を省力化することができる。
【0009】
本発明の一の態様に係るワイヤ放電加工機によると、ワイヤガイド装置の内部を移動可能な給電板を固定装置によって固定した状態で、ワイヤガイド装置とワイヤガイド装置の外側に設置された拘束装置とを相対移動させ、ロッドの他端部を拘束装置によって拘束するように構成されている。また、制御装置は、拘束装置から発信される基準位置信号を検知することによって、拘束装置がロッドを拘束したときを検知することができる。さらに、制御装置は、基準位置信号を受信したときに、NC装置から取得した軸送り装置の座標位置及び給電板の軸送り装置に対する相対位置から拘束装置に拘束されたロッドに結合されている給電板の座標位置を算出し、把握することができる。また、ロッドを拘束装置によって拘束した状態でワイヤガイド装置に対する給電板の固定を解除し、ワイヤ電極の走行方向に対して垂直、かつ、前記ワイヤ電極が摺動する摺動面に平行となる方向へ給電板を移動可能状態とし、移動可能状態の給電板を所定の距離だけ移動させることができる。このため、ワイヤ電極が摺動することによって摩耗した給電板の摺動面をずらして、ワイヤ電極が摺動する位置を変更することができる。これによって、給電板の位置の把握及び変更を機械的に行うことができ、ワイヤ電極に給電する給電板の位置管理を省力化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係るワイヤ放電加工機の正面図を示す。
【
図2】
図2は、実施形態に係るワイヤ放電加工機のブロック図を示す。
【
図3】
図3は、ワイヤガイド装置を示し、
図3(a)は、ロッドの長手方向を見た正面図、
図3(b)は、ロッドの軸方向から見た側面図、
図3(c)は、固定装置が配置された側から見た背面図を示す。
【
図4】
図4は、拘束装置を示し、
図4(a)は、拘束部を押し出した状態の正面図、
図4(b)は、拘束部を引き込んだ状態の正面図を示す。
【
図5】
図5は、ワイヤ電極に対する給電板の位置関係を示し、
図5(a)は、給電板の使用開始時の位置関係を示し、
図5(b)は、給電板の使用終了時の位置関係を示す。
【
図6】
図6は、給電板の位置管理をするためのフローチャートを示す。
【
図7】
図7(a)から
図7(f)は、給電板の使用回数の算出方法の説明図を示す。
【
図8】
図8(a)から
図8(g)は、給電板の移動方法の説明図を示す。
【
図9】
図9は、変形例に係るピンチ機構の正面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係るワイヤ放電加工機を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0012】
図1に、実施形態に係るワイヤ放電加工機10の概略的な正面図を示す。また、
図2には、ワイヤ放電加工機10の要部であるワイヤガイド装置20、24及び拘束装置32、34のブロック図を示す。ワイヤ放電加工機10は、ここでは、設置場所(工場等)の床面に固定されたベッド12と、ベッド12の上面側に配置され、上面に加工の対象(被加工品)とするワークWKを取付けるためのワークプレート14aを有するテーブル14とを備える。ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極WE、ワークWKの上方側に配置されたワイヤガイド装置としての上側ワイヤガイド装置20、及び、ワークWKの下方側に配置されたワイヤガイド装置としての下側ワイヤガイド装置24を備える。
【0013】
ワイヤ電極WEは、ワークWKを鉛直方向に挟むように配置された上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24の内部を通過し、これらの間を上方から下方へ向けて走行するように配置される。このように配置されたワイヤ電極WEは、ワークWKとの間に隙間を形成しながら放電することによってワークWKを加工するように構成されている。ワイヤ電極WEを構成するワイヤには、主に真鍮、タングステン製のワイヤが用いられており、ワイヤの直径は、加工の目的に応じて、直径0.015mmから0.4mm程度の寸法とされる。
【0014】
なお、ここで説明するワイヤ放電加工機10では、ワイヤWEは、上方側から下方側へ向けて走行するものとして説明するが、これに限らず、本願発明は、ワイヤが左右方向、すなわち、ワイヤ放電加工機の設置面に対して平行に走行するワイヤ放電加工機に対しても適用可能である。
【0015】
ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極WEの走行経路に沿って、すなわち、上方側から下方側に沿って、ワイヤヘッド16、上側ワイヤガイド装置20、下側ワイヤガイド装置24、ワイヤ回収機構28を備える。また、ワイヤ放電加工機10は、給電板40、50(
図2参照)を介してワイヤ電極WEに給電するための図示しない電源装置を備える。
【0016】
また、ワイヤ放電加工機10は、軸送り装置44、54(
図2参照)を備え、ワイヤヘッド16、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24を左右方向(
図1におけるX軸方向)並びに前後方向(
図1におけるY軸方向)に移動させることができる。さらに、軸送り装置44、54とは別の軸送り装置(図示省略)によって、ワイヤヘッド16、上側ワイヤガイド装置20だけをX軸と平行なU軸方向、Y軸と平行なV軸方向、及び、上下方向(
図1におけるZ軸方向)に移動させることができる。通常の加工では、上側ワイヤガイド装置20と下側ワイヤガイド装置24とを同時にX軸方向とY軸方向に移動し、Z軸と平行な鉛直面の加工を行う。これに加えて、特殊な加工では、上側ワイヤガイド装置20だけをX軸方向、Y軸方向、U軸方向及び/又はV軸方向に移動して鉛直から傾いた勾配面やテーパ面を加工することもできる。なお、上側ワイヤガイド装置20をZ軸方向に移動させて、様々な厚さのワークWKの加工に対応することができる。さらに、X軸方向及びY軸方向の軸送り装置をテーブル側に備え、上側ワイヤガイド装置20はU軸、V軸、Z軸だけを有し、下側ワイヤガイド装置24はベッドに固定する構成であってもよい。このように、ワイヤ電極WEとワークWKとが相対移動できる様々な構成が含まれる。
【0017】
また、ワイヤ放電加工機10は、後述するように、給電板40、50に連結された第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束するための拘束装置としての第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34を備える。第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34は、ベッド12から上方側へ向けて延在し、テーブル14を兼ねる拘束装置ガイド30に取り付けられている。
【0018】
ワイヤヘッド16は、ワイヤボビン(図示省略)に巻き付けられたワイヤ電極WEを所定の張力を付与しながら連続的に供給するように構成されたワイヤ供給機18を有する。また、ワイヤヘッド16は、給電板40、50の位置測定時、加工終了時、自動結線時等に必要に応じてワイヤ電極WE(ワイヤ)を切断するワイヤ切断器36(
図2参照)を有する。また、下側ワイヤガイド装置24の下流側に配置されたワイヤ回収機構28は、ワイヤ電極WE(ワイヤ)を巻取り、回収するためのワイヤ巻取器38(
図2参照)を有する。
【0019】
図2及び
図3(a)から
図3(c)に示すように、上側ワイヤガイド装置20は、その内部に、電源装置と電気的に接続され、ワイヤ電極WEに給電するための給電板としての板形状の第1の給電板40を有する。第1の給電板40は、ワイヤ電極WEが摺動する摺動面40aを有し、上側ワイヤガイド装置20の内部を移動可能に構成されている。具体的には、ワイヤ電極WEの走行方向、ここでは、鉛直方向に対して垂直、かつ、ワイヤ電極WEとワイヤ電極WEが摺動する摺動面40aとが平行となる方向(
図2及び
図3における左右方向)へ移動可能に構成されている。このため、ワイヤ電極WEが摺動する摺動面40a上の位置を適宜変更することができる。第1の給電板40には、棒形状の第1のロッド22の一端部が結合され、第1のロッド22は、上側ワイヤガイド装置20の外側まで延在する。このため、第1のロッド22の他端部側は、上側ワイヤガイド装置20から露出しており、第1のロッド22が結合された第1の給電板40が上側ワイヤガイド装置20の内部を移動するのに合わせて、上側ワイヤガイド装置20の外側に露出する第1のロッド22の長さが変化する。この構造により、第1のロッド22の位置(座標位置)から、上側ワイヤガイド装置20の内部にある第1の給電板40の、後述する軸送り装置44に対する座標位置を算出することができる。
【0020】
さらに、上側ワイヤガイド装置20は、ワイヤ電極WEに給電するために、第1の給電板40を上側ワイヤガイド装置20に対して固定するための固定装置としての第1の固定装置42を有する。第1の固定装置42は、第1の給電板40を上側ワイヤガイド装置20の内壁に押さえつけて固定するための第1の固定部46と、第1の給電板40を押さえつけた第1の固定部46をロック可能に構成された第1のロック機構48とを有する。このため、第1のロック機構48によって第1の固定部46をロックすることによって第1の給電板40を上側ワイヤガイド装置20内に固定する固定状態と、第1のロック機構48によるロックを解除することによって第1の給電板40を上側ワイヤガイド装置20内で移動可能にする移動可能状態とを構成することができる。
【0021】
また、下側ワイヤガイド装置24の内部には、電源装置と電気的に接続され、ワイヤ電極WEに給電するための給電板としての第2の給電板50を有する。第2の給電板50は、ワイヤ電極WEが摺動する摺動面50aを有し、下側ワイヤガイド装置24の内部を移動可能に構成されている。具体的には、ワイヤ電極WEの走行方向、ここでは、鉛直方向に対して垂直、かつ、ワイヤ電極WEとワイヤ電極WEが摺動する摺動面50aとが平行となる方向(
図2及び
図3における左右方向)へ移動可能に構成されている。このため、ワイヤ電極WEが摺動する摺動面50a上の位置を適宜変更することができる。第2の給電板50には、棒形状の第2のロッド26の一端部が結合され、第2のロッド26は、下側ワイヤガイド装置24の外側まで延在する。このため、第2のロッド26の他端部側は、下側ワイヤガイド装置24から露出しており、第2のロッド26が結合された第2の給電板50が下側ワイヤガイド装置24の内部を移動するのに合わせて、下側ワイヤガイド装置24の外側に露出する第2のロッド26の長さが変化する。この構造により、第2のロッド26の位置(座標位置)から、下側ワイヤガイド装置24の内部にある第2の給電板50の、後述する軸送り装置54に対する座標位置を算出することができる。
【0022】
さらに、下側ワイヤガイド装置24は、ワイヤ電極WEに給電するために、第2の給電板50を下側ワイヤガイド装置24に対して固定するための固定装置としての第2の固定装置52を有する。第2の固定装置52は、第2の給電板50を下側ワイヤガイド装置24の内壁に押さえつけて固定するための板形状の第2の固定部56と、第2の給電板50を押さえつけた第2の固定部56をロック可能に構成された第2のロック機構58とを有する。このため、第2のロック機構58によって第2の固定部56をロックすることによって第2の給電板50を下側ワイヤガイド装置24内に固定する固定状態と、第2のロック機構58によるロックを解除することによって第2の給電板50を下側ワイヤガイド装置24内で移動可能にする移動可能状態とを構成することができる。なお、ここでは、第1のロッド22及び第2のロッド26は紙面の左右方向に配置するものとして説明するが、これに限らず、例えば、紙面に対して垂直な方向に配置されてもよい。このように、ワイヤ電極に対して垂直であるいかなる方向に配置されてもよい。
【0023】
図2に示すように、ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極WEによるワークWKの加工を制御するためのNC装置62を有する制御装置60を備える。制御装置60は、必要に応じて、第1の固定装置42及び第2の固定装置52を作動し(
図2の固定装置動作指令)、第1の給電板40及び第2の給電板50を固定状態とし、第1の給電板40及び第2の給電板50の位置を変更する場合には、第1の給電板40及び第2の給電板50を移動可能状態とするように構成されている。また、制御装置60は、ワークWKの加工を制御するために、軸送り装置44、54を作動し(
図2の上下ガイド送り指令)、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24を移動するように構成されている。さらに、制御装置60は、加工が終了すると、ワイヤ切断器36を作動してワイヤ電極WE(ワイヤ)を切断し(
図2のワイヤ切断指令)、ワイヤ巻取器38を作動し、切断したワイヤ電極WE(ワイヤ)を巻き取る(
図2のワイヤ巻取指令)ように構成されている。さらに、制御装置60は、後述する方法で算出した第1の給電板40及び第2の給電板50の使用回数、及び/又は、残使用回数を表示し、作業者に報知するための表示手段64を備える。表示手段64は、ディスプレイ等に残使用回数を表示する構成、残使用回数に応じた音声、照明等を発する構成等の公知の様々な方法によって作業者が認識できるように構成される。
【0024】
また、制御装置60は、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24と拘束装置ガイド30とを接近するように相対移動させて、第1の拘束装置32によって第1のロッド22を、第2の拘束装置34によって第2のロッド26を拘束するように構成されている。さらに、制御装置60は、第1のロック機構48及び第2のロック機構58を解除することによって、第1の給電板40及び第2の給電板50を移動可能状態に設定し、第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束した第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34を上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24から離間するように相対移動することによって、制御装置60による変更が可能な所定の移動量、例えば1mmずつ第1の給電板40及び第2の給電板50を移動するように構成されている。このため、ワイヤ電極WEに対する摺動面40a、50aの位置を変更することができる。ここでは、第1の給電板40及び第2の給電板50は、第1のロッド22及び第2のロッド26を上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24から引き出すことによって移動させる。これによって、第1のロッド22及び第2のロッド26の上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24の内壁に第1の給電板40及び第2の給電板50の摩耗粉や放電加工により生じたスラッジが付着しても、第1のロッド22及び第2のロッド26を上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24へ押し込む構成と比べて、第1の給電板40及び第2の給電板50がスラッジをかじることに起因して、これらの移動が阻害されたり、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24が破損したりするリスクを低減することができる。
【0025】
図4(a)及び
図4(b)には、第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34の正面図を模式的に示す。第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34は、円筒形状のシリンダ32a、34aと、シリンダ32a、34aの内部を摺動可能に構成されたピストンヘッド70と、一端部がピストンヘッド70に連結され、シリンダ32a、34aの外側へ延在するシャフト68と、シャフト68の他端部に連結された磁石としての拘束用磁石66とを有する。さらに、シリンダ32a、34aは、その内部に空気を注入し、又は、内部から空気を抜き出すための図示しないコンプレッサと接続するために貫通形成された空圧ポート72a、72bを有する。このため、
図4(a)に示すように、シャフト68が取り付けられていない側の空圧ポート72aからシリンダ32a、34aへ空気が注入され、ピストンヘッド70が押されることによって、シャフト68及び拘束用磁石66は、シリンダ32a、34aから押し出された拘束位置へと移動するように構成されている。また、
図4(b)に示すように、シャフト68が取り付けられている側の空圧ポート72bからシリンダ32a、34aへ空気が注入されることによって、ピストンヘッド70がシリンダ32a、34aのシャフト68が取り付けられていない側へ押し込まれる。これよって、シャフト68及び拘束用磁石66は、シャフト68がシリンダ32a、34a内へ格納される格納位置へと移動するように構成されている。さらに、シリンダ32a、34aの長手方向の両端側には、移動するピストンヘッド70が通過したことを検知するためのリードスイッチを有するシリンダセンサ74a、74bが取り付けられている。これによって、ピストンヘッド70が拘束位置又は格納位置にあることをシリンダセンサ74a、74bによって検知することができる。このシリンダセンサ74bのリードスイッチがオンもしくはオフするタイミングの繰返し精度は高く、後述するように、給電板40、50の座標位置を算出するために必要となる基準位置信号を制御装置60へ発信することができる。
【0026】
図5(a)及び
図5(b)には、第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34と上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24との位置関係を模式的に示す。具体的には、
図5(a)は、第1の給電板40及び第2の給電板50の使用開始時を示し、
図5(b)は、第1の給電板40及び第2の給電板50の使用終了時を示す。すなわち、使用開始時には、第1のロッド22及び第2のロッド26は、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24内に格納されている。第1の給電板40及び第2の給電板50の使用に伴ってワイヤ電極WEに対する摺動面40aの位置を変更する、すなわち、ずらすため、第1のロッド22及び第2のロッド26は、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24の外側へ徐々に引き出される。第1の給電板40及び第2の給電板50の使用終了時には、第1のロッド22及び第2のロッド26は、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24から最大限に引き出される。この第1の給電板40及び第2の給電板50の使用開始時及び使用終了時の位置(座標位置)は機械の設計時に決定される情報(値)であり、制御装置60に記録されている。また、これらの値は、個別の機械において部品寸法や組立により累積した誤差が生じ得るが、製造時にキャリブレーションを行って得た補正値を制御装置60に記録することによって補正することができる。このキャリブレーションは、原則として製造時のみ行うが、上側ワイヤガイド装置20や下側ワイヤガイド装置24を分解又は交換するようなオーバーホールを行った場合には、再度キャリブレーションを行い、新たな補正値を制御装置60に記録することもできる。さらに、この第1の給電板40及び第2の給電板50の使用開始時の位置と使用終了時の位置との距離を、所定の給電板移動量で除算することによって、給電板の全使用回数を決定することができる。
【0027】
送り軸44a、54a及びモータ44b、54bを有する軸送り装置44、54には、エンコーダ76が配置されている。このため、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24のそれぞれの送り軸44a、54aに対する変位量を検出することができる。これによって、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24のワイヤ放電加工機10における座標位置を検出(算出)することができる。第1のロッド22及び第2のロッド26は、それぞれ少なくとも先端部に磁性体を有する。第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34は、拘束用磁石66が拘束位置にある状態で、上側ワイヤガイド装置20又は下側ワイヤガイド装置24を所定のアプローチ速度(移動速度)で第1の拘束装置32又は第2の拘束装置34に近づけると、第1のロッド22又は第2のロッド26を拘束する。更に、第1のロッド22又は第2のロッド26によって、第1の拘束装置32又は第2の拘束装置34のシャフト68をシリンダ32a又はシリンダ34aへアプローチ速度で押し込む。これによって、例えば、約0.5mm押し込むと、シリンダセンサ74bのリードスイッチがオフして基準位置信号を制御装置60へ送信する。ここで、基準位置信号とは、第1のロッド22又は第2のロッド26が拘束され、押し込まれた位置(基準位置)において、給電板40、50の軸送り装置44、54に対する相対位置を検出し、給電板40、50の座標位置を算出するためのタイミングを制御装置60へ知らせる信号である。制御装置60は、基準位置信号を受信すると、軸送り装置44又は54を作動し、これらに配置されたエンコーダで値を読み取ることによって、第1の給電板40又は第2の給電板50の軸送り装置44、54に対する相対位置を検出し、さらに第1の給電板40又は第2の給電板50の座標位置を算出する。なお、上側ワイヤガイド装置20の第1の給電板40の座標位置と下側ワイヤガイド装置24の第2の給電板50の座標位置は順番に算出を行うか、あるいは個別のタイミングで各々算出を行う。よって、座標位置を測定する給電板40、50に対応した拘束装置32、34のピストンヘッド70だけを拘束位置へ移動させる。
【0028】
なお、本実施形態では、第1の給電板40及び第2の給電板50をいずれもX軸方向に位置をずらす構造として説明したが、第2の給電板をY軸方向に位置をずらす構造であってもよい。さらに、給電板は、ワイヤ電極WEに対して垂直であれば、X軸方向及びY軸方向だけに限らず、X軸方向及びY軸方向成分を合成した斜め方向にずらしてもよい。この場合、拘束装置はピストンヘッドの格納位置と拘束位置との往復移動の方向を、給電板をずらす方向に一致するように構成される。また、拘束装置は、格納位置と拘束位置との間で往復移動しなくても済むように、拘束位置に第1のロッド22及び第2のロッド26との接触を常時検知する装置(例えば、タッチ式センサ等)を有し、タッチセンサ検知装置が基準位置信号を発する構成としてもよい。ここで、X軸方向及びY軸方向のストローク範囲内にタッチセンサ検知装置が配置される構成では、加工の障害になる、又は、加工範囲が狭くなるため、本実施形態のように格納位置と拘束位置との間で往復運動する構成が好適である。また、本実施形態においては拘束装置32、34側に磁石を配置し、ロッド22、26側の少なくとも先端部に磁性体有するとして説明するが、これに限らず、拘束装置側を磁性体とし、ロッド側先端に磁石を配置する、又は、拘束装置とロッドの両方に磁石を配置する構成であってもよい。
【0029】
図6に示す給電板の位置管理をするためのフローチャートの説明を通じて、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10の作用効果を以下に説明する。なお、ここでは、上側ワイヤガイド装置20の第1の給電板40及び下側ワイヤガイド装置24の第2の給電板50は、個別に移動され、座標位置が検出されるため、簡単のため第1の給電板40の座標位置の検出について説明する。第2の給電板50の座標位置については、第1の給電板40の説明と実質的に同一となるため、説明を省略する。
【0030】
制御装置60は、ステップS10へ移行し、ワイヤ切断器36によってワイヤ電極WEを予め切断し、第1の給電板40の座標位置の算出を開始する。ステップS20へ移行すると、上側ワイヤガイド装置20と拘束装置ガイド30とを相対移動させる。拘束装置ガイド30に配置された第1の拘束装置32の拘束位置にある拘束用磁石66に第1のロッド22が拘束されるまで(ここでは、磁力で接続されるまで)、上側ワイヤガイド装置20を移動させる。拘束用磁石66に第1のロッド22が拘束されると、ステップS30へ移行し、送り装置44の座標位置から第1の給電板40の位置を算出する。なお、このとき、拘束装置32はシリンダに注入される空気の圧力によって拘束位置へ移動し、上側ワイヤガイド装置20は軸送り装置44によって移動する。このため、これらの移動は、拘束用磁石66の磁力によって引き寄せられるものではない。また、拘束装置32の拘束位置への移動が完了した後に、シリンダに注入した空気の圧力を下げることにより、後述するステップS30において、上側ワイヤガイド装置20の第1のロッド22が拘束されたときにかかる力を軽減することもできる。
【0031】
第1の給電板40の座標位置を算出すると、ステップS40へ移行し、制御装置60は、第1の給電板40の使用回数、及び/又は、残使用可能回数を算出する。
図7の説明図を通じて、ここまでの流れに係る具体的な手順を説明する。
図7(a)に示し、かつ、上述したように、制御装置60は、上側ワイヤガイド装置20と第1の拘束装置32とを相対移動させる。つぎに、
図7(b)に示すように、相対移動する第1の拘束装置32の拘束用磁石66を拘束位置へと移動させる。さらに、
図7(c)に示すように、第1のロッド22が拘束用磁石66に拘束されるまで上側ワイヤガイド装置20を接近させる(ステップS20)。
【0032】
図7(d)に示すように、第1のロッド22が拘束用磁石66に拘束され、第1の拘束装置32が基準位置信号を発信すると、制御装置60は、これを受信する。また、上側ワイヤガイド装置20は、第1の拘束装置32に拘束されたことを知らせる基準位置信号(
図7(d)の送り位置)を軸送り装置44へ発信し、制御装置60は軸送り装置44経由でこれを受信する(ステップS30)。これによって、制御装置60は、上側ワイヤガイド装置20が第1の拘束装置32に拘束されたタイミングを把握し、軸送り装置44の座標位置及び第1の給電板40の軸送り装置44に対する相対位置に基づき第1の給電板40の座標位置を算出する。制御装置60は、算出された第1の給電板40の座標位置と、予め記録されている第1の給電板40の使用開始時の位置を比較し、所定の給電板移動量(例えば、1mm)で除算することによって第1の給電板40の使用回数(摺動面40aの位置及び全体における使用回数)を算出することができる。また、予め定められている給電板40の全使用可能回数から、算出した使用回数を減算することにより、残使用可能回数を算出することができる(ステップS40)。これらの使用回数及び残使用可能回数が算出されると、
図7(e)に示すように、上側ワイヤガイド装置20の拘束が解除され、これらは第1の拘束装置32から離間するように移動される。また、
図7(f)に示すように、拘束用磁石66は格納位置へと移動される。第1のロッド22と拘束用磁石66との磁石による拘束は、軸送り装置44の駆動力や第1の固定装置42の固定力などと比較すると十分に弱く、第1のロッド22と拘束用磁石66の相対移動によって容易に解除することができる。また必要であれば第1のロッド22の長手方向に対して垂直方向に第1のロッド22と拘束用磁石66を相対移動させることにより、拘束を解除してもよい。
【0033】
第1の給電板40の使用回数、及び/又は、残使用可能回数を算出すると、ステップS50へ移行する。制御装置60は、残使用可能回数がゼロでないかどうかを確認する。残使用可能回数がゼロの場合は、ステップS60へ移行し、表示手段64に残使用可能回数がゼロであることを表示させ、ステップS70へ移行し、ワイヤ放電加工機10を停止する。残使用可能回数がゼロではない場合は、ステップS80へ移行し、表示手段64に残使用回数を表示する。作業者は残使用可能回数がゼロであることを確認した場合、第1の給電板40を裏返して新たな面を使用する、又は、新たな給電板に交換する。
【0034】
さらに、ステップS90へ移行し、第1の給電板40のワイヤ電極WEに対する位置を変更する。
図8の説明図を通じて、具体的な手順を説明する。
図8(a)に示し、かつ、上述したように、上側ワイヤガイド装置20と第1の拘束装置32とを相対移動させる。つぎに、
図8(b)に示すように、相対移動する第1の拘束装置32の拘束用磁石66を拘束位置へと移動させる。さらに、
図8(c)に示すように、第1のロッド22が拘束用磁石66に拘束されるまで上側ワイヤガイド装置20を接近させる。第1のロッド22が拘束用磁石66に拘束されると、相対移動を停止し、第1の拘束装置32は基準位置信号を発信し、制御装置60は、これを受信する。
【0035】
図8(d)に示すように、制御装置60は、基準位置信号を受信すると、第1の固定装置42を作動して(
図8(d)の給電板アンロック信号)、これらによる第1の給電板40のロックを解除する。第1の給電板40のロックが解除されると、ステップS100(
図7参照)へ移行し、
図8(e)に示すように、上側ワイヤガイド装置20と第1の拘束装置32とを所定の給電板移動量だけ相対移動させる。ここでは、第1の拘束装置32は停止した状態で、上側ワイヤガイド装置20だけを移動する。これによって、第1のロッド22が上側ワイヤガイド装置20から所定の給電板移動量だけ引き出され、第1の給電板40のワイヤ電極WEに対する位置を変更することができる。
【0036】
第1のロッド22を所定の給電板移動量だけ引きだすと、ステップS110(
図7参照)へ移行する。
図8(f)に示すように、制御装置60は、第1の固定装置42を作動して(
図8(f)の給電板ロック信号)、第1の給電板40を固定する。第1の給電板40を固定すると、ステップS120(
図7参照)へ移行し、上述したステップS30と同じ手順で第1の給電板40の座標位置を再度算出する。座標位置が算出されると、
図8(g)に示すように、上側ワイヤガイド装置20の拘束が解除され、上側ワイヤガイド装置20と第1の拘束装置32とは互いに離間するように相対移動され、
図6に示すステップS130へ移行する。第1のロッド22は、上側ワイヤガイド装置20から引き出されるため、特許文献1に記載されるような押圧する方式と比較すると、かじる可能性をていげんさせることができる。仮に過大な引き出し力が第1のロッド22に作用した場合であっても、磁石による拘束力を上回ると第1のロッド22と第1の拘束装置32との拘束は外れ、上側ワイヤガイド装置20の破損を防ぐことができる。
【0037】
ステップS130へ移行すると、制御装置60は、第1の給電板40の座標位置が正常位置にあるかどうか、すなわち、第1の給電板40がステップS30において測定された座標位置から、所望の給電板移動量だけ移動した位置にあるか、すなわち、ステップS40において算出された使用済み回数から1回分移動した位置にあるかを確認する。第1の給電板40の座標位置が正常位置にある場合は、ステップS150へ移行して終了する。第1の給電板40の座標位置が正常位置にないと判断した場合には、ステップS140へ移行し、表示手段64を介して正常位置にないことを表示したのちに、ステップS150へ移行して終了する。このように第1の給電板40の座標位置を再度算出することによって、正しく給電板の移動が行われているかを確認し、ワイヤ放電加工機10の動作不良等のトラブルを防止又は抑制することができる。
【0038】
本実施形態に係るワイヤ放電加工機10によれば、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24の内部を移動可能な第1の給電板40及び第2の給電板50を第1の固定装置42及び第2の固定装置52によって固定した状態で、上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24と第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34とを相対移動させるよう構成されている。さらに、これらを相対移動させ、第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束用磁石66によって拘束するように構成されている。また、制御装置60は、第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束したときに、第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34から発信される基準位置信号を検知することによって、第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34が第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束したときを検知することができる。さらに、制御装置60は、基準位置信号を受信したときに、NC装置62から取得した軸送り装置44、54の座標位置及び第1の給電板40及び第2の給電板50の軸送り装置44、54に対する相対位置から拘束された第1のロッド22及び第2のロッド26に結合されている第1の給電板40及び第2の給電板50の座標位置を算出することができる。このため、第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34が第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束したときの第1の給電板40及び第2の給電板50の座標位置を機械的に把握することができる。
【0039】
また、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10によれば、第1のロッド22及び第2のロッド26を第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34によって拘束した状態で上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24に対する第1の給電板40及び第2の給電板50の固定を解除し、移動可能状態としたこれらを制御装置60にて変更可能な所定の給電板移動量だけ移動させることができる。これによって、ワイヤ電極WEが摺動することによって摩耗した第1の給電板40及び第2の給電板50の摺動面40a、50aをずらして、ワイヤ電極WEが摺動する位置を変更することができる。ここで、第1の給電板40及び第2の給電板50は、ワイヤ電極WEの走行方向に対して垂直、かつ、ワイヤ電極WEが摺動する摺動面40a、50aに平行となる方向へ第1の給電板40及び第2の給電板50を移動することができるため、ワイヤ電極WEに対する摺動面40a、50aの位置を安定させることができる。以上のことから、第1の給電板40及び第2の給電板50の位置の把握及び移動を機械的に行うことができ、ワイヤ電極WEに給電する第1の給電板40及び第2の給電板50の位置管理を省力化することができる。
【0040】
さらに、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10によれば、制御装置60は、第1の給電板40及び第2の給電板50の摺動面40a、50aの各位置における使用回数及び摺動面40a、50a全体としての使用回数、並びに/又は、残使用可能回数を算出するように構成されている。また、ワイヤ放電加工機10は、算出したこれらの使用回数、及び/又は、残使用可能回数を表示するための表示手段64を有する。このため、第1の給電板40及び第2の給電板50の摺動面40a、50aの使用回数及び残使用可能回数を作業者によらず機械的に把握することができ、さらに、表示手段64を用いてこれらの回数を作業者に容易に把握させることができる。これによって、作業者が直接目視等の確認を行うことなく第1の給電板40及び第2の給電板50の交換時期を把握することができ、ワイヤ電極WEに給電する第1の給電板40及び第2の給電板50の位置管理を省力化することができる。
【0041】
また、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10によれば、第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34の拘束用磁石66によって拘束した状態で、第1のロッド22及び第2のロッド26を上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24から引き出すことによって、第1の給電板40及び第2の給電板50の座標位置を変更することができる。このため、スラッジが第1の給電板40及び第2の給電板50をかじる可能性及びこれに起因する上側ワイヤガイド装置20及び下側ワイヤガイド装置24の損傷を防止又は抑制することができる。これによって、ワイヤ電極WEに給電する第1の給電板40及び第2の給電板50の位置管理を安全に行うことができる。
【0042】
さらに、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10によれば、第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34は、第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束するための拘束用磁石66を有する。このため、第1のロッド22及び第2のロッド26を安定して拘束すると共に第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34をコンパクトに構成することができる。これによって、第1の給電板40及び第2の給電板50の位置の変更を機械的に安定して行うことができ、ワイヤ電極WEに給電する第1の給電板40及び第2の給電板50の位置管理を省力化することができる。
【0043】
以上の説明のとおり、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10の給電板位置管理方法及びワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極WEに給電する第1の給電板40及び第2の給電板50の位置管理を省力化することができる。なお、第1の給電板40及び第2の給電板50の位置をずらすタイミングは、ワイヤ放電加工機の作業現場毎に決めることができる。例えば、ワイヤ電極WEを自動結線してからワイヤ切断器36によってワイヤ電極WEを切断する一連の加工終了時、ワイヤ電極WEを自動結線してから加工時間の積算値が所定時間を超えた直後のワイヤ切断器36によるワイヤ電極WEの切断時、ワークWK1個又はワークWKの一工程終了時、等が挙げられる。また、前述の通り超硬合金等の耐摩耗性の高い素材で作られる給電板の幅寸法は、1回ずらす寸法を例えば1mmとし、ずらす回数を最高で15回とすると、ワイヤ電極WEとの摺動部の幅は15mmとなり、両側に例えば5mmずつの余裕をとると25mmとなる。さらに、給電板は裏返して使用可能にしてすることによって、1枚の給電板を30回使用することができる。
【0044】
(第1変形例)
以下に、ワイヤ放電加工機10の第1変形例について説明する。本実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0045】
図9(a)及び
図9(b)に示すように、第1変形例に係るワイヤ放電加工機10の第1の拘束装置32及び第2の拘束装置34は、第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束するための先端側に拘束用磁石66に替えてピンチ機構80を有する。ピンチ機構80は、
図9(a)に示すように、第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束する拘束状態では、ピンチ本体部82a、82bを付勢ばね84のばね力によって密着させ、第1のロッド22及び第2のロッド26を拘束(把持)するように構成されている。また、第1のロッド22及び第2のロッド26を解放する解放状態では、ピンチ本体部82a、82bを図示しないアクチュエータによって押し広げるように構成されている。さらに、ピンチ機構80は、解放状態においてピンチ本体部82a、82bが過度に広がらないように、ピンチ本体部82a、82bを係止するためのストッパ部材86a、86bを有する。このため、第1のロッド22及び第2のロッド26を安定して拘束することができる。これによって、第1の給電板40及び第2の給電板50の位置の変更を機械的に安定して行うことができ、ワイヤ電極WEに給電する第1の給電板40及び第2の給電板50の位置管理を省力化することができる。
【0046】
以上の説明のとおり、第1変形例に係るワイヤ放電加工機10の給電板位置管理方法及びワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極WEに給電する第1の給電板40及び第2の給電板50の管理を省力化することができる。
【0047】
以上、ワイヤ放電加工機10の給電板位置管理方法及びワイヤ放電加工機10の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。上記のほか、当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【符号の説明】
【0048】
10 ワイヤ放電加工機
20 上側ワイヤガイド装置(ワイヤガイド装置)
22 第1のロッド(ロッド)
24 下側ワイヤガイド装置(ワイヤガイド装置)
26 第2のロッド(ロッド)
32 第1の拘束装置(拘束装置)
34 第2の拘束装置(拘束装置)
40 第1の給電板(給電板)
40a 摺動面
42 第1の固定装置(固定装置)
44 軸送り装置
50 第2の給電板(給電板)
50a 摺動面
52 第2の固定装置(固定装置)
54 軸送り装置
60 制御装置
62 NC装置
64 表示手段
66 拘束用磁石(磁石)
80 ピンチ機構
WE ワイヤ電極
WK ワーク
【要約】
【課題】ワイヤ電極に給電する給電板の位置管理を省力化できるワイヤ放電加工機及びその給電板位置管理方法を提供する。
【解決手段】ワイヤ放電加工機10の給電板40、50の位置管理方法は、給電板40、50を固定することと、ワイヤガイド装置20、24とその外側に設置された拘束装置32、34とを相対移動させ、給電板40、50に結合されると共にワイヤガイド装置20、24の外側へ延在するロッド22、26の端部を、拘束装置32、34によって拘束し、基準位置信号を検知することと、基準位置信号を検知したときに、NC装置62から取得した軸送り装置44、54の座標位置及び給電板40、50の軸送り装置44、54に対する相対位置に基づき給電板40、50の座標位置を算出することと、給電板40、50の固定を解除して移動可能状態にすることと、移動可能状態の給電板40、50を所定の距離だけ移動させること、を含む。
【選択図】
図1