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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】原始内胚葉幹細胞誘導剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20250516BHJP
【FI】
C12N5/071
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021527728
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025018
(87)【国際公開番号】W WO2020262531
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019118733
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】大日向 康秀
(72)【発明者】
【氏名】古関 明彦
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-066495(JP,A)
【文献】国際公開第15/125926(WO,A1)
【文献】国際公開第19/093340(WO,A1)
【文献】国際公開第06/128681(WO,A1)
【文献】LI, Zhendong et al.,Int. J. Biol. Sci.,2011年,Vol.7, No.4,p.418-425
【文献】大日向 康秀,原始内胚葉幹細胞の樹立,2017年度生命科学系学会合同年次大会要旨集,p.1423,日本,2017年11月15日,1P-0899
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CHIR99021を含む、原始内胚葉幹細胞誘導剤。
【請求項2】
CHIR99021を含み、血清を含まない、原始内胚葉幹細胞誘導のための培地。
【請求項3】
さらに、PD0325901を含まない、請求項2に記載の培地。
【請求項4】
CHIR99021を含み、血清を含まない培地中で、胚盤胞を培養することを含む、原始内胚葉幹細胞の製造方法。
【請求項5】
培地が、PD0325901を含まない、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞が、ヒトに由来する細胞を除く、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
胚盤胞と、CHIR99021を含み、血清を含まない培地中で培養することによって得られる原始内胚葉幹細胞、エピブラスト幹細胞及び/又はES細胞、並びに栄養膜幹細胞とを混合することを含む、胚盤胞様構築物の製造方法であって、
すべての幹細胞が、ヒトに由来する細胞を除く、
製造方法
【請求項8】
培地が、PD0325901を含まない、請求項7に記載の製造方法
【請求項9】
細胞が、ヒトに由来する細胞を除く、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
CHIR99021の原始内胚葉幹細胞の誘導における使用。
【請求項11】
CHIR99021を含み、血清を含まない培地の、原始内胚葉幹細胞誘導における使用。
【請求項12】
細胞が、ヒトに由来する細胞を除く、請求項10又は11に記載の使用。
【請求項13】
胚盤胞と、CHIR99021を含み、血清を含まない培地中で培養することによって得られる原始内胚葉幹細胞、エピブラスト幹細胞及び/又はES細胞、並びに栄養膜幹細胞とを混合し、胚盤胞様構築物を得ること、及び
得られた胚盤胞様構築物を非ヒト子宮に移植することを含む、
移植された胚盤胞様構築物の着床能を決定するための方法であって、
すべての幹細胞が、ヒトに由来する細胞を除く、
方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原始内胚葉幹細胞誘導剤、及びそれを用いる原始内胚葉幹細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TS細胞を用いて栄養膜外胚葉様構造体を作製する技術が知られている(特許文献1)。哺乳動物では、受精卵は卵割を繰り返し、胚盤胞と呼ばれる初期胚を形成する。胚盤胞は、エピプラスト(ES細胞と呼ばれる幹細胞が樹立されている。)、栄養膜(TS細胞と呼ばれる幹細胞が樹立されている。)、原始内胚葉(XEN細胞と呼ばれる株が樹立されているが、この株は、幹細胞としての形質を有していない。)の三種類の数十個の細胞の集まりである。受胎産物の全ての組織は、これらの細胞に由来する。これら三種類の細胞のそれぞれの幹細胞を樹立することができれば、それらを組み合わせることによって、人工的な胚盤胞の再構成の可能性がある。しかしながら、原始内胚葉幹細胞の樹立方法は、知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-214138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、原始内胚葉幹細胞誘導剤、及びそれを用いる原始内胚葉幹細胞の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターが、原始内胚葉幹細胞を誘導することができることを初めて見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含む、原始内胚葉幹細胞誘導剤。
[2]Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターが、CHIR99021である、[1]の誘導剤。
[3][1]又は[2]の誘導剤を含み、血清を含まない、原始内胚葉幹細胞誘導のための培地。
[4]さらに、PD0325901を含まない、[3]の培地。
[5]胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み、血清を含まない培地中で培養することを含む、原始内胚葉幹細胞の製造方法。
[6]培地が、PD0325901を含まない、[5]の方法。
[7]細胞が、ヒトに由来する細胞を除く、[5]又は[6]の方法。
[8]胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み、血清を含まない培地中で培養することによって得られる、原始内胚葉幹細胞。
[9]培地が、PD0325901を含まない、[8]の幹細胞。
[10][8]又は[9]の幹細胞と、エピブラスト幹細胞、ES細胞及び/又は栄養膜幹細胞とを含む、構築物。
[11]細胞が、ヒトに由来する細胞を除く、[8]又は[9]の幹細胞又は[10]の構築物。
[12]Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターの原始内胚葉幹細胞の誘導における使用。
[13]Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターが、CHIR99021である、[12]の使用。
[14][1]又は[2]の誘導剤を含み血清を含まない培地の、原始内胚葉幹細胞誘導における使用。
[15]細胞が、ヒトに由来する細胞を除く、[12]~[14]の使用。
[16]胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み血清を含まない培地中で培養することによって得られる原始内胚葉幹細胞、エピブラスト幹細胞及び/又はES細胞と栄養膜幹細胞を混合し、胚盤胞様構築物を得ること、
得られた胚盤胞様構築物を子宮に移植すること、及び
移植された胚盤胞様構築物の着床能を決定すること
を含む、方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、原始内胚葉幹細胞を誘導することができ、この原始内胚葉幹細胞、エピブラスト幹細胞、ES細胞及び/又は栄養膜幹細胞とを含む、人工胚盤胞様構築物を作製し、この構築物の着床能を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ES細胞及びTS細胞と四倍体胚とのキメラである。
図2図2は、従来のXEN細胞、及び本発明で得られたPrES細胞である。
図3図3は、XEN細胞を用いたキメラ及びPrES細胞を用いたキメラである。
図4図4は、胚盤胞(blastocyst)又は栄養細胞(trophocyst)へのES細胞及びPrES細胞の注入である。
図5図5は、各因子と幹細胞の派生すべき運命である。
図6図6は、各因子と幹細胞の派生すべき運命である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含む、原始内胚葉幹細胞誘導剤を提供する。また、本発明は、この誘導剤を含み、血清を含まない、原始内胚葉幹細胞誘導のための培地を提供する。また、本発明は、胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み、血清を含まない培地中で培養することを含む、原始内胚葉幹細胞の製造方法を提供する。また、本発明は、胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み、血清を含まない培地中で培養することによって得られる、原始内胚葉幹細胞を提供する。また、本発明は、この幹細胞と、エピブラスト幹細胞、ES細胞及び/又は栄養膜幹細胞とを含む、構築物を提供する。また、本発明は、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターの原始内胚葉幹細胞の誘導における使用を提供する。さらに、本発明は、胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み血清を含まない培地中で培養することによって得られる原始内胚葉幹細胞、エピブラスト幹細胞及び/又はES細胞と栄養膜幹細胞を混合し、胚盤胞様構築物を得ること、
得られた胚盤胞様構築物を子宮に移植すること、及び
移植された胚盤胞様構築物の着床能を決定すること
を含む、方法を提供する。
【0010】
Wnt(ウイングレス(Wingless)+Int-1)は、細胞増殖、分化および遊走に影響する遺伝子である。これまで、Wnt遺伝子は、哺乳動物において19種類が同定されている(Wnt1、Wnt2、Wnt2B、Wnt3、Wnt3A、Wnt4、Wnt5A、Wnt5B、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8A、Wnt8B、Wnt9A、Wnt9B、Wnt10A、Wnt10B、Wnt11、Wnt16)。Wntは、「古典的(canonical)」β-カテニン経路ならびに「非古典的(non-canonical)」平面内細胞極性(PCP)経路およびCa経路を含む少なくとも3種の異なるシグナリング経路を活性化する、レスポンダー細胞における細胞表面受容体の活性化により作用する。Wntアクティベーターとは、Wntシグナルを活性化する物質をいう。Wntアクティベーターとしては、上記のWnt遺伝子の発現産物の他に、CHIR99021(CAS[252917-06-9])のようなGSK3インヒビター、Wntレセプターを挙げることができる。
【0011】
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK)は、プロリン指向性セリン/スレオニンリン酸化酵素のひとつである。GSK3インヒビターとしては、GSK-3βインヒビターI,VI,VII,VIII,XI,XII、CHIR99021、バルプロ酸、TDZD-8、SB-216763、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム、ケンパウロン(Kenpaullone)を挙げることができる。
【0012】
原始内胚葉とは、胚盤胞で形成され、主に卵黄嚢の内胚葉層を派生させる細胞である。
【0013】
原始内胚葉幹細胞とは、胚盤胞の原始内胚葉から樹立され、原始内胚葉様の性質を保持した幹細胞株である。
【0014】
原始内胚葉幹細胞誘導剤とは、CHIR99021、あるいはWntシグナリング促進因子(例えばWntリガンドやGSK3阻害剤)を含んだ培地、及びMEFフィーダー細胞である。
【0015】
培地は、哺乳動物細胞のES細胞/iPS細胞用培地を用いることができる。たとえば、StemFit(登録商標) Basic02(味の素)を挙げることができる。
【0016】
培地は、血清含有培地又は無血清培地であり得る。無血清培地とは、無調製又は未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。化学的に未決定な成分の混入を回避する観点から、本発明においては、無血清培地が好適に用いられる。
【0017】
培地は、好適には、化学的に定義された培地である。「化学的に定義された培地」とは、血清、馴化培地等の組成が化学的に未決定な因子を含まず、化学的に組成が定義された因子のみから構成された培地を意味する。
【0018】
培地は、本発明の原始内胚葉幹細胞誘導剤を含むことができる。培地は、好ましくは、本発明の原始内胚葉幹細胞誘導剤を含むが、PD0325901を含まない。
【0019】
原始内胚葉幹細胞の製造方法においては、胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み、血清を含まない培地中で培養することを含む。培地は、好ましくは、本発明の原始内胚葉幹細胞誘導剤を含むが、PD0325901を含まない。
【0020】
胚盤胞とは、哺乳動物の初期胚であり、初期には栄養膜と内部細胞塊で構成される。中期以降は内部細胞塊が分離し、栄養膜、初期エピブラスト、原始内胚葉で構成される。生体から回収するか、受精卵を培養することによって得られる。一つの態様において、本発明の胚盤胞又は細胞は、ヒトを除く哺乳動物に由来する。
【0021】
培養に用いる培養器としては、特に限定されないが、たとえば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マイクロポア、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルを挙げることができる。
【0022】
本発明の一つの態様は、胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み、血清を含まない培地中で培養することによって得られる、原始内胚葉幹細胞である。培地は、好ましくは、本発明の原始内胚葉幹細胞誘導剤を含むが、PD0325901を含まない。
【0023】
本発明の一つの態様は、
i)胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み、血清を含まない培地、好ましくは、本発明の原始内胚葉幹細胞誘導剤を含むが、PD0325901を含まない培地中で培養することによって得られる、原始内胚葉幹細胞、及び
ii)エピブラスト幹細胞、ES細胞及び/又は栄養膜幹細胞
を含む構築物である。
【0024】
本発明の構築物は、好ましくは、ヒトに由来する細胞を含まない。
【0025】
本発明の一つの態様は、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターの原始内胚葉幹細胞の誘導における使用である。好ましくは、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターが、CHIR99021である。
【0026】
本発明の一つの態様は、
Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み血清を含まない培地の原始内胚葉幹細胞の誘導における使用である。好ましくは、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターが、CHIR99021である。好ましくは、本発明の細胞は、ヒトに由来する細胞を含まない。
【0027】
本発明の一つの態様は、胚盤胞を、Wntアクティベーター又はGSK3インヒビターを含み血清を含まない培地中で培養することによって得られる原始内胚葉幹細胞、エピブラスト幹細胞及び/又はES細胞と栄養膜幹細胞を混合し、胚盤胞様構築物を得ること、
得られた胚盤胞様構築物を子宮に移植すること、及び
移植された胚盤胞様構築物の着床能を決定すること
を含む、胚盤胞様構築物の着床能を決定するための方法である。
【実施例1】
【0028】
ES細胞及びTS細胞
C57B6N×129X1 F1(#1M、#6M)ES細胞を、ゼラチンコートしたディッシュ上で、標準ES培地[Neurobasal:DMEMF12(1:1)、0.5×N2 サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、0.5×B27 サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、0.15mM 1-チオグリセロール(Shigma)、0.05%ウシ血清アルブミン(Shigma)、1×グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)、3μM CHIR99021、1μM PD0325901、10U/ml ESGRO(登録商標)LIF]、又は
MEFフィーダーディッシュ上で、血清/2iL ES培地[RPMI1640、20%FBS、1×NEAA、0.1mM β-メルカプトエタノール、1×ペニシリン-ストレプトマイシン、3μM CHIR99021、1μM PD0325901、10U/ml ESGRO(登録商標)LIF]中で培養した。
CD1-Tg(CAG-EGFP)雌×CD1-Tg(CAG-EGFP)TS細胞(#1-4M、#2-2M、#8M、#1F、#2-3F、#2-4F)を、フィブロネクチンでコートしたディッシュ上で、血清不含TS培地[70%MEF順化培地(20%FBS/RPMI1640)、30%血清含有培地(20%FBS/RPMI1640)、1×NEAA、0.1mM β-メルカプトエタノール、1×ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)、50ng/ml ヒトFGF4、10μg/ml ヘパリン、10μM XAV939]中で維持した。
【0029】
ES細胞とTS細胞を用いて、キメラを作製すると、仔のほぼ全ての細胞を含む、受胎産物のほとんどの部分が幹細胞で構成された個体を作製することができる。しかし、細部を見てみると、原始内胚葉(primitive endoderm)に由来する組織(臓側内胚葉(VE)、壁側内胚葉(PE)、境界領域内胚葉(MZE))は、これらの幹細胞に由来していないことが分かる。したがって、幹細胞のみで胚を作製するためには、少なくとも原始内胚葉組織を派生させる幹細胞が必要なことが理解される(図1)。
【0030】
従来は、原始内胚葉からはXEN細胞が樹立されていた。XEN細胞は、ES細胞(LIFを添加した血清含有培地中等で確立又は培養される。)やTS細胞(FGF4を添加した血清含有MEF条件培地中等で確立又は培養される。)を樹立する際に、副産物として樹立される。原始内胚葉は、臓側内胚葉(VE)、壁側内胚葉(PE)、境界領域内胚葉(MZE)に派生するが、XEN細胞は、胚盤胞に注入しても、壁側内胚葉(PE)の一部のみを形成するにすぎず、原始内胚葉の性質を十分に保持した幹細胞ではなかった。今回、我々は、胚盤胞を無血清培地(StemFit(登録商標) Basic02)に、CHIR990221、PDGFを添加し、MEF上で培養することで、原始内胚葉幹細胞(primitive endoderm stem cell、PrES細胞)を樹立することに成功した(図2)。また、さらに、FGF4、ヘパリンを添加することによってPrES細胞の増殖を促進することができることも見出した。
【0031】
PrES細胞の誘導及び維持
CD1-Tg(CAG-EGFP)雌×CD1-Tg(CAG-EGFP)雄、CD1(Clea)×CD1、又はPWK(BRC、RIKEN)×C57BL6N(Charles River)F1(PBF1)の胚盤胞を子宮をフラッシングすることによって回収した。CD1-Tg(CAG-EGFP)マウスは、若山照彦教授(山梨大学)より贈呈された。各胚盤胞を、PrESCM[StemFit(登録商標) Basic02、1×ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)、10μM CHIR99021(Reprocell)、50ng/ml ヒトGFG4(Sigma)、1ng/ml ヘパリン(Sigma)、25ng/ml ヒトPDGF-AA(R&D)]中の48ウェルのMMC処理したMEFフィーダープレート1つのウェルに移した。胚を、それが増殖物を形成するまで5日間PrES培地中で培養した。増殖物を1×TrypLE(登録商標)Select(Thermo Fisher Scientific)で解離させ、新しい48ウェルのMEFフィーダープレートに移した。5~7日後、PrES細胞コロニーが50~80%コンフルエンスに達し、細胞を12ウェルのMEFフィーダープレートに継代し、次に6ウェルのプレートでエキスパンドさせた。PrES細胞をCellbanker(登録商標)1plus(Zenoaq)中で凍結させ、-150℃の超低温フリーザー(Panasonic)中で保存した。無血清凍結保護物質の使用は、細胞生存率を有意に減少させた。用いた他の成長因子は、10U/ml ESGRO LIF(Merck)、20mg/ml ヒトアクチビンA(R&D)、100ng/ml マウスCripto(R&D)、20ng/ml ヒトBMP4(R&D)、100ng/mlマウスNodal(R&D)であった。用いた他の化合物は、10μM XAV939(Merck)、1μM PD0325901(Reprocell)であった。
【0032】
XEN細胞の誘導及び維持
XEN細胞を若干の修正を加えた標準プロトコールにしたがって派生させた。
CD1-Tg(CAG-EGFP)雌×CD1-Tg(CAG-EGFP)雄の胚盤胞をE3.5で回収した。各胚盤胞を、MEFフィーダープレート上の血清含有ES培地[RPMI1640(Thermo Fisher Scientific)、20%ウシ胎仔血清(FBS、biosera)、1×ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)、1×非必須アミノ酸(NEAA、Thermo Fisher Scientific)、0.1mM β-メルカプトエタノール(β-ME、Sigma)、10U/ml ESGRO LIF]中の48ウェルのMEFフィーダープレートのウェルの1つに移した。胚を、それが増殖物を形成するまで7日間培養した。増殖物をピペッティングによって除去し、残る付着細胞をさらに7日間連続して培養した。増殖した細胞を0.05%トリプシン-EDTA(Thermo Fisher Scientific)で解離させ、新しい48ウェルのMEFフィーダープレートに移し、次に6ウェルのプレートでエキパンドさせた。XEN細胞をCellbanker(登録商標)1plus(Zenoaq)中で凍結させ、-150℃の超低温フリーザー(Panasonic)中で保存した。初代培養物の除去は、CHIR99021(3μM)を加えたとき、必要ではなかった。
【0033】
15個のXEN細胞又はPrES細胞CD1(Clea)胚盤胞に注入した。約20の注入した胚を、E2.5偽妊娠CD1(Charles River)マウスの両子宮角に移した。胚盤胞保管アッセイにおいて、E2.5 CD1 8~16細胞胚を、KSOM中で48時間、0.5又は1μM PD0325901で処理した。15個のPrES細胞をPD0325901で処理した胚に注入し、E3.5偽妊娠CD1マウスに移した。帝王切開をE18.5で行った。キメラの受胎産物をSZX12蛍光解剖顕微鏡(Olympus)及びFV1200共焦点顕微鏡を用いて観察した。
【0034】
XEN細胞を用いたキメラでは、E14.5胚では、XEN細胞は、PEの一部に生着を残すのみで、原始内胚葉派生組織(VE、PE、MZE)を形成することができなった。それに対して、PrES細胞は、VE、PE、MZEに高効率に寄与することができた。また、PrES細胞は、エプブラスト系列、栄養膜系列には、寄与しなかった。(図3
【0035】
TS細胞をマトリゲルを含有する培地で浮遊培養することで、栄養膜によく似た立体構造を作製することができる(栄養細胞、trophocyst)。本発明によって、原始内胚葉幹細胞(PrES細胞)の樹立、培養に成功したため、従来の栄養膜様立体構造の作製のみならず、ES細胞及びPrES細胞を栄養膜胞内に注入することによって胚盤胞様立体構造を作製することが可能となった。(図4
【0036】
少しの因子が、幹細胞の派生すべき運命を決定する。従来は、ES細胞(又はTS細胞)条件下で胚盤胞を培養し、形成されたアウトグロースを除去することによって、残存する付着細胞からXEN細胞を確立した。我々は、アウトグロースを除去することなくCHIR99021含有血清培地においてXEN細胞を効率的に確立した。形態的にES細胞とは異なるPrES細胞、TS細胞及びXEN細胞をMEF上のCHIR99021含有StemFit(登録商標) Basic02無血清培地において誘導された。PrES細胞の誘導は、PD0325901の添加によって劇的に抑制されたが、代わりにES細胞が誘導された。(図5
【0037】
CD1-Tg(CAG-EGFP)雌×CD1-Tg(CAG-EGFP)雄、CD1(Clea)×CD1のES細胞を誘導し、MEFフィーダーディッシュ上のBasic02 ES培地[StemFit(登録商標)Basic02、1×ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)、3μM CHIR99021、1μM PD0325901、及び10U/ml ESGRO LIF]中で維持した。
【0038】
種々の条件で胚盤胞を培養し、MEF上のCHIR99021含有無血清培地において増殖するES細胞、TS細胞及びXEN細胞とは形態的に異なる未知の細胞を見出した。PrES細胞は、新規の幹細胞であり、インビボでPrEの特性を獲得している。LIF(白血病阻害因子、Leukemia inhibitory factor)は、マウスES細胞の分化を抑制し増殖を支持するIL-6ファミリーのサイトカインの一種である。CHIR99021は、GSK3の阻害剤であり、βカテニンの蓄積、核内移行を促進し、canonical Wntシグナリングを活性化する。Activin Aは、Tgfβスーパーファミリーに属する増殖因子で、細胞の未分化状態、分化過程の両方で機能を有する。FGF4は、FGFファミリーに属する増殖因子で、FGF受容体を介することで、MEK/MAPK経路を活性化する。ヘパリンは、FGFとの相互作用によって、FGFの細胞増殖活性を促進する。XAV939は、タンキレースの阻害剤であり、アキシンの安定化を介して、βカテニンの分解を促進し、Wntシグナリングを阻害する。Criproは、Nodal及びその他いくつかのTgfβファミリーリガンドの共受容体であり、それらシグナリングを制御する。PD0325091は、MEK阻害剤であり、FGFシグナルを抑制する。またES細胞へCHIR99021と共に加えることで、未分化性を支持する。PDGF(血相版由来成長因子、Platelet-Derived Growth factor)は、主に間葉系細胞の遊走及び増殖等の調節に関与する。PDGF受容体を介して生理活性を発現する。(図6
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、原始内胚葉幹細胞の誘導、この原始内胚葉幹細胞、エピブラスト幹細胞、ES細胞及び/又は栄養膜幹細胞とを含む、人工胚盤胞様構築物の作製、この構築物の着床能の決定のために利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6