(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】易解体性接着材料、物品および解体方法
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20250516BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20250516BHJP
C09J 9/00 20060101ALI20250516BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
C09J9/00
(21)【出願番号】P 2023137821
(22)【出願日】2023-08-28
(62)【分割の表示】P 2022530098の分割
【原出願日】2021-05-20
【審査請求日】2024-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2020102098
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絵理子
【審査官】川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0116272(US,A1)
【文献】特開2003-183348(JP,A)
【文献】米国特許第06337384(US,B1)
【文献】特開2006-225544(JP,A)
【文献】特開2003-286464(JP,A)
【文献】特開2003-171648(JP,A)
【文献】特開2002-187973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤および硬化促進剤のうち一方または両方を含む硬化成分と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で、熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料
であって、
(i)前記硬化成分が硬化剤を含む場合は、前記エポキシ樹脂および前記硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)前記硬化成分が硬化剤を含まない場合は、前記エポキシ樹脂が、熱解離性化合物を含む。
前記熱解離性化合物は、前記熱解離性構造として(d1)ディールズアルダー付加体構造を有し、
前記熱硬化性樹脂が硬化する第1の温度より高い第2の温度において、前記熱解離性構造の熱解離と前記熱膨張性粒子の膨張とが実質的に同時に進行して、熱膨張した前記熱膨張性粒子が前記熱硬化性樹脂の熱解離した部分を引き離し、
前記熱硬化性樹脂を室温まで冷却した際、前記熱解離した部分が引き離された状態が維持される、易解体性接着材料。
【請求項2】
請求項1に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性構造は、熱により解離した後に25℃まで冷却すると再結合する可逆型の熱解離性構造である、易解体性接着材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性構造は、以下一般式(d1-1)から(d1-4)で表される何れかの構造を含む、易解体性接着材料。
【化1】
一般式(d1-1)から(d1-4)において、
Xは、2価または3価の基を表し、
Yは、2価の基を表し、
EWGは、各々独立に、電子求引性基を表し、
直線と破線の組み合わせで表された結合は、単結合または二重結合のいずれかを表し、
波線は、他の原子との結合手を表す。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記エポキシ樹脂が、前記熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記エポキシ樹脂が、以下一般式(a1-2)または(a1-3)で表される熱解離性構造を含むエポキシ樹脂を含む、易解体性接着材料。
【化2】
一般式(a1-2)および(a1-3)において、
Xは、2価または3価の基を表し、
Yは、2価の基を表し、
EWGは、各々独立に、電子求引性基を表し、
Lは、アルキレン基、シクロアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシ基(-COOまたは-OCO-)、スルフィド基、これら基から選ばれる2種以上の基を連結して構成される2価の基を表し、
L'は、単結合または2価の基を表し、
直線と破線の組み合わせで表された結合は、単結合または二重結合のいずれかを表し、
nは、それぞれ独立に、1以上の整数である。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子は、高分子からなるシェルと、揮発性膨張剤を含むコアと、を備える熱膨張性マイクロカプセルである、易解体性接着材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の膨張開始温度をT
INIとし、
前記熱解離性構造の解離温度をT
DISとしたとき、
(T
INI-T
DIS)は、-20℃以上20℃以下である、易解体性接着材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の膨張開始温度T
INIは、100℃以上である、易解体性接着材料。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の最大膨張温度T
MAXは、130℃以上である、易解体性接着材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
以下の条件で測定されるF2およびF1の比(F2/F1)が0.8以下である易解体性接着材料。
(条件)
(i)被着体としてSUS304を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠して引張せん断接着強さを測定する。
(ii)当該易解体性接着材料を60℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理した後に室温まで冷却して得られる試料1の引張せん断接着強さをF1とし、当該易解体性接着材料を第1熱処理条件で加熱処理した後、140℃15分間の第2熱処理条件で加熱処理し、さらにその後、室温まで冷却して得られる試料2の引張せん断接着強さをF2とする。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記硬化剤は、以下(b1)および(b2)の少なくともいずれかを含む、易解体性接着材料。
(b1)以下一般式(b1-1)で表される、熱解離性構造を含む硬化剤。
(b2)エポキシ基との反応性基として、アミノ基、カルボキシル基および水酸基からなる群より選ばれるすくなくともいずれかを有する、熱解離性構造を含まない硬化剤。
【化3】
一般式(b1-1)中、
nは、2以上の整数であり、
Lは、単結合または2価の連結基を表し、
Aは、熱解離性構造を含むn価の有機基を表し、
Zは、アミノ基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選択される少なくともいずれかであり、
一般式(b1-1)中にZは複数存在しうるが、複数のZは互いに同じでも異なっていてもよい。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
当該易解体性接着材料は、被着体の表面に付着させ、第1の熱処理を行うことにより前記被着体に接合する硬化体を得た後、該硬化体に前記熱膨張性粒子を膨張させ、かつ、前記熱解離性化合物が有する前記熱解離性構造を解離させる第2の熱処理を行って、更に室温まで冷却した後に前記被着体と前記硬化体とを解体するのに用いられる、易解体性接着材料。
【請求項13】
被着体と、該被着体に接合した、請求項1から
12のいずれか1項に記載の易解体性接着材料の硬化体とを含む物品。
【請求項14】
請求項
13に記載の物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する解体工程を含む、解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易解体性接着技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
易解体性接着材料とは、使用目的に応じた十分な接着強度と、任意のタイミングで接着強度を低下させ容易に剥離(解体)可能な性質を併せ持つ接着材料である。このような材料については、異種材料の分別回収や不良部品の修理・交換、製造工程での仮接着による生産性向上等を目的とする用途での需要が高まっている。
易解体性接着材料を設計するには、一度発現させた接着強さを再び低下させる必要がある。また、易解体性接着材料は、経年劣化等と異なり、オンデマンドかつ短時間で解体することが要求される。よって、易解体性接着材料には、外部刺激に応答して、分解、界面相互作用の低下、弾性率変化などによる接着力低下が起こるような解体の仕掛けを組み込んでおく必要がある。
【0003】
易解体性接着材料の従来技術としては、例えば、特許文献1から4を挙げることができる。
【0004】
特許文献1には、(A)エポキシ樹脂系接着剤などの有機系接着剤成分、および、(B)無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物を含む解体性接着剤組成物が記載されている。特許文献1の記載によれば、この解体性接着剤組成物を用いて接着した接着構造体に外部刺激を与えると、無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物が、接着剤の熱分解を促進し、接着力を大きく低減、あるいは、消失させる旨が記載されている。また、解体性を向上させるために、熱膨張性黒鉛や熱膨張性樹脂バルーン、アゾジカルボンアミド等の化学発泡剤を併用できる旨も記載されている。
【0005】
特許文献2には、反応系接着剤成分と、その反応系接着剤成分に反応する官能基および熱分解基を有する熱分解性有機化合物と、を含む接着剤組成物が記載されている。この接着剤組成物において、熱分解性有機化合物は、熱分解基として、アゾ基、ヒドラゾ基(-NH-NH-)、ヒドラジノ基(-NHNH2)およびペルオキシド基からなる群から選択される1つ以上を有していることが好ましい。
【0006】
特許文献3には、ヒドラジンおよび/またはカルボン酸ジヒドラジドと、分子内カルボン酸無水物とを、-NH2基に対してカルボン酸無水物基が等モル量となる割合で反応させた、ジアシルヒドラジン構造を含有するポリカルボン酸からなるエポキシ樹脂硬化剤が記載されている。特許文献3によれば、(i)このエポキシ樹脂硬化剤は、酸化剤で容易に分解可能な構造を分子内に有しているポリカルボン酸であるので、エポキシ樹脂硬化剤として使用することにより、酸化分解性を有する易解体性のエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0007】
特許文献4には、特定の一般式で表されるエポキシ樹脂(エーテル結合部位を含む)を用いた易解体性接着剤が記載されている。特許文献4の記載によれば、この易解体性接着剤の接着体(硬化物)にエネルギーを照射することにより、エポキシ樹脂のエーテル結合部位より溶融・分解が進行し、接着基材が接着体から容易に解体(剥離)可能となる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-196793号公報
【文献】特開2013-256557号公報
【文献】特開2012-007036号公報
【文献】特開2006-111716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
易解体性接着材料を設計する上で重要な点は、使用時の高い接着強度や長期安定性と、弱い力で簡単に剥がせる解体性をいかに両立させるかである。すなわち、解体のための仕掛けが接着性を阻害しないこと、および任意のタイミングで接着強さが低下することが設計上のポイントとなる。これら相反する性質の両立は容易ではない場合が多い。
【0010】
以上を踏まえ、本発明は、優れた接着強度と易解体性とを兼ね備える易解体性接着材料を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決する本発明の内容は、以下のとおりである。
【0012】
本発明の易解体性接着材料は、
熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子を含み、
熱硬化性樹脂は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤および硬化促進剤のうち一方または両方を含む硬化成分と、
を含み、
熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で、熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含む。
(i)硬化成分が硬化剤を含む場合は、エポキシ樹脂および硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)硬化成分が硬化剤を含まない場合は、エポキシ樹脂が、熱解離性化合物を含む。
【0013】
また、本発明の物品は、
被着体と、該被着体に接合した、上記の易解体性接着材料の硬化体とを含む。
【0014】
また、本発明の解体方法は、
上記の物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する解体工程を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の易解体性接着材料は、熱解離性構造の熱解離作用と、熱膨張性粒子の膨張作用との相乗作用により、優れた実用強度と易解体性のトレードオフバランスを大幅に改善する。本発明によれば、使用時の高い接着強度と、弱い力で簡単に剥がせる解体性と、を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】易解体性接着材料の解体メカニズムについて説明するための図である。
【
図3】易解体性接着材料の硬化体中のミクロ構造を模式的に示した図である。
【
図4】熱解離性構造が、ディールズアルダー反応により形成される構造(ディールズアルダー付加体構造)である場合の解体メカニズムを説明するための図である。
【
図5】熱解離性化合物としてディールズアルダー付加体構造を有する化合物を採用した例を示す図である。
【
図6】ディールズアルダー付加体構造の熱解離について説明するための図である。
【
図7】熱膨張性マイクロカプセルについて説明するための図である。
【
図8】フルフリルグリシジルエーテル(FGE)の
1H NMRスペクトルである。
【
図9】2,2'-(メチレンビス(4,1-フェニレン))ビス(4-((オキシラン-2-イルメトキシ)メチル)-3a,4,7,7a-テトラヒドロ-1H-4,7-エポキシイソインドール-1,3(2H)-ジオン)(FDB)の
1H NMRスペクトルである。
【
図10】実施例1における引張せん断試験で得られたS-Sカーブである。
【
図11】比較例1における引張せん断試験で得られたS-Sカーブである。
【
図12】比較例2における引張せん断試験で得られたS-Sカーブである。
【
図13】実施例1、比較例1および比較例2における易解体性を比較するための棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
本明細書において、数値範囲に関する「~」の表記は、以上・以下を表す。例えば、「100~200℃」との標記は、100℃以上200℃以下のことを表す。
【0018】
[易解体性接着材料]
本実施形態の易解体性接着材料は、熱膨張性粒子と、分子内に熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含有する熱硬化性樹脂とを含む。
本実施形態の易解体性接着材料は、これら、熱膨張性粒子と熱解離性化合物との相乗作用により、優れた接着強度と易解体性のトレードオフバランスを改善する。
【0019】
従来、熱膨張性粒子を用いた易解体性接着材料は知られていた。これは、
図1に示すように、加熱により熱膨張性粒子を膨張させ、そして樹脂硬化体の体積を増加させることにより、剥離を促すものである。しかし、樹脂硬化体を十分に膨張させるには熱膨張性粒子を多量に用いる必要があり、そうすると接着の際の接着強度が低下しがちであった。かといって、熱膨張性粒子の量が少ないと、樹脂硬化体を十分に膨張させることができず、十分な易解体性を得にくかった。また、特に樹脂硬化体の架橋密度が高い場合は、密な三次元網目構造によって熱膨張性粒子の膨張が阻害されるため、結果として十分な易解体性を得にくかった。
【0020】
一方、本実施形態の易解体性接着材料は、熱膨張性粒子と熱解離性化合物との相乗作用により、樹脂硬化体の体積膨張によるメカニズムのみでは得ることのできない、優れた接着強度と易解体性とを得ることができる。
具体的には、本実施形態の易解体性接着材料を被着体に付着させた後、第1の熱処理を施すと、典型的には架橋構造を有する硬化体が得られる。その後、第2の熱処理を施すと、熱膨張性粒子が膨張するとともに熱解離性化合物が有する熱解離性構造が解離する。これら「熱膨張性粒子の膨張と、熱解離性構造の解離の相乗作用」により、硬化体自体が十分に脆弱化し、容易な剥離が可能となる(
図2)。
【0021】
前述したとおり、熱膨張性粒子の膨張作用を利用した易解体性接着材料は公知である。これに対して、本実施形態の易解体性接着材料は、熱膨張性粒子の膨張作用と熱解離性構造の解離作用の相乗作用により、優れた実用強度と易解体性のトレードオフバランスを大幅に改善する。本実施形態の易解体性接着材料を用いることにより、接着強度や長期安定性と、弱い力で簡単に剥がせる解体性とが実現される。
【0022】
本実施形態の解体性接着材料の代表的用途としては、この接着材料を被着体の表面に塗布し、第1の熱処理を行うことにより被着体に接合する硬化体を得た後、その硬化体に第2の熱処理を行うことにより被着体と硬化体とを解体する用途が挙げられる。
【0023】
本実施形態の易解体性接着材料は、エポキシ樹脂と、硬化剤および硬化促進剤の一方または両方とを含む二液型の接着材料、すなわち、エポキシ樹脂と、硬化剤および硬化促進剤の一方または両方とを、それぞれ別の容器に充填しておき、使用直前に混合して用いる材料としてもよい。もちろん、本実施形態の易解体性接着材料は、これらを含む一液型の接着材料であってもよい。
【0024】
以下、本実施形態の易解体性接着材料の構成成分について説明する。
【0025】
[熱解離性化合物]
熱解離性化合物は、分子中に熱解離性構造を有する化合物である。熱解離性構造とは、加熱により解離する結合(以下、適宜、「熱解離性結合」という)を含む構造をいう。熱解離性化合物は、分子中に1のみの熱解離性構造を有してもよいし、分子中に2以上(例えば2~4)の熱解離性構造を有してもよい。分子中に2以上の熱解離性構造を有する熱解離性化合物を用いることで、易解体性を一層高めうる。
熱解離性結合は、好ましくは共有結合である。
適切な熱解離性構造を選択することで、解離時の低分子化合物の発生が抑えられ、易解体性接着材料でしばしば問題となる揮発性有機化合物(VOC)の発生量低減などにつながる。
【0026】
熱硬化性樹脂中に熱解離性化合物を含有させることで、硬化体中に、熱で解離が起こる箇所を設けることができる。
図3は、硬化体中のミクロ構造を模式的に示した図である(熱膨張性粒子は明示していない)。硬化体中に含まれる熱解離性構造は、加熱(Δ)により解離する。
【0027】
図4は、熱解離性構造が、ディールズアルダー反応により形成される構造(以下、「ディールズアルダー付加体構造」とも記載する)である場合の、解体メカニズムを説明するための図である。加熱によりレトロディールズアルダー反応(r-DA reaction)が起こることで共有結合が解離する。その結合解離と熱膨張性粒子の膨張との相乗効果により、易解体性が得られる。すなわち、硬化体中に熱で解離が起こる箇所を設けることにより、熱膨張性粒子との相乗作用で優れた易解体性を発現させることができる。
【0028】
図5は、熱解離性化合物として、ディールズアルダー付加体構造を有する化合物を採用した例を示す。
この例では、2種類のエポキシ樹脂を用い、そのうち1種にディールズアルダー付加体構造を導入している。これらのエポキシ樹脂を硬化剤と反応させることで硬化体を得ることができる(
図5では、硬化剤としてジエチレントリアミンを用い、60℃7時間の加熱)。得られた硬化体には、熱で解離が起こる箇所が導入される。この例においては、2種類のエポキシ樹脂および硬化剤は、硬化体中に実質的に均一に分布すると考えられる。硬化体中に実質的に均一に分布した熱解離性構造と、熱膨張性粒子との相乗効果により、硬化体全体が均質に脆弱化して、良好な易解体性が得られると考えられる。
【0029】
ちなみに、均一分布とは別の設計方針として、易解体性接着材料中の成分のうち、界面に偏在しやすい成分に熱解離性結合を導入することにより、硬化体の界面近傍において架橋構造の破壊を促進する設計も考えられる。例えば、熱解離性化合物としてフッ素原子含有基やケイ素原子含有基を有するものを用いることで、熱解離性化合物を硬化体の界面に偏在させる設計が考えられる。
【0030】
図6は、ディールズアルダー付加体構造の熱解離について説明するための図である。
図6中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、硬化体中の化学構造を表す。
ディールズアルダー付加体構造においては、例えば80℃から160℃、具体的には90℃から150℃程度での熱処理によりレトロディールズアルダー反応が進行し、共有結合が解離する(
図6の左から右に反応が進行)。すなわち、熱により、硬化体中の三次元架橋構造を構成する結合の一部が破壊される。そして、易解体性接着材料と被着体との接着力の低下がもたらされる。
【0031】
熱解離性構造は、以下の二類型のいずれかとすることができる。
(i)熱により解離した後、室温(25℃)まで冷却しても再結合が起こらない、不可逆型の熱解離性構造
(ii)熱により解離した後、室温(25℃)まで冷却すると再結合する、可逆型の熱解離性構造
【0032】
本実施形態の熱解離性構造は、上記(i)および(ii)のいずれであってもよい。ディールズアルダー付加体構造は、通常、上記(ii)の可逆型の熱解離性構造に該当する。
熱解離性構造を、上記(ii)の可逆型の熱解離性構造とした場合、もし、本実施形態の易解体性接着材料を熱硬化する際の熱処理(第一の熱処理)により結合解離が起こっても、その後、室温に戻した段階で再結合が起こる。このため、得られる硬化体の機械的強度や被着体との接着力を十二分なものとすることができる。
一方、解体の際の熱処理(第二の熱処理)においては、熱膨張性粒子が膨張することにより、再結合が抑制される。熱膨張性粒子の膨張により、解離した部分が「引き離される」ためである。すなわち、熱解離性構造として可逆型の熱解離性構造を採用した場合であっても、熱膨張性粒子の存在により、可逆反応が「不可逆化」し、硬化体が十分に脆弱化されやすくなる。
【0033】
熱解離性構造の好ましい解離温度TDISは以下のとおりである。
(i)の不可逆型の熱解離性構造の場合、解離温度TDISは好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上である。こうすることにより、硬化体を得るための第1の熱処理の熱処理条件のマージンを広くとることが可能となる。また、解離温度TDISの上限については、好ましくは260℃、より好ましくは200℃である。こうすることにより、解体にあたり必要となるエネルギーを低減することができる。
(ii)の可逆型の熱解離性構造の場合は、硬化体を得るための第1の熱処理を行った際に解離が起こっても、その後、室温に戻した段階で再結合が起こるため、得られる硬化体の機械的強度や被着体との接着力を充分なものとすることができる。このため、解離温度TDISが低くても問題がなく、室温より高い温度(例えば30℃以上)であればよい。
可逆型の熱解離性構造の場合における熱解離性構造の解離温度TDISは、例えば40℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上、特に好ましくは110℃以上、とりわけ好ましくは115℃以上である。TDISがある程度高い温度であることにより、解体前における硬化体の耐熱性を高めることができる。
また、可逆型の熱解離性構造の場合における熱解離性構造の解離温度TDISは、例えば260℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは160℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。こうすることにより、解体の際に必要となるエネルギーを低減することができる。
解体前における熱安定性を重視する観点からは、TDISがある程度大きい熱解離性構造を選択することが好ましい。一方、解体のしやすさを重視する観点からは、TDISがある程度小さい熱解離性構造を選択することが好ましい。すなわち、易解体性接着材料の使用目的や使用場所などを考慮して、適当なTDISを有する熱解離性構造を選択することが好ましい。
【0034】
熱解離性構造の解離温度TDISについては、例えば、熱解離性化合物を、10℃/分の昇温速度で示差走査熱量測定したときの、解離反応に相当するピーク位置の温度を採用することができる。
【0035】
不可逆型の熱解離性構造を含む構造の具体的態様としては、例えば、過酸化結合構造(-O-O-)、第三級エステル構造(-CO-O-CRR'-、RおよびR'はそれぞれ独立にアルキル基等の有機基)、第三級カーボネート構造(-O-CO-O-CRR'-、RおよびR'はそれぞれ独立にアルキル基等の有機基)、などを挙げることができる。
【0036】
可逆型の熱解離性構造を含む構造の具体的態様としては、例えば、以下の(d1)から(d4)のうち1または2以上を挙げることができる。これら構造は、基本的に触媒や反応剤の助けが無くても熱のみにより解離し、また、バルク(無溶媒下)においても解離反応が進行するため、本実施形態において好ましい熱解離性構造である。触媒や反応剤が無くてもよいということは、例えば、接着に適用する前における解体性接着材料の保存安定性の向上、意図せぬ接着性低下の抑制などの点で好ましい。
(d1)ディールズアルダー付加体構造
(d2)ジスルフィド構造
(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造
(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造
【0037】
(d1)ディールズアルダー付加体構造については、すでに
図4、5および6などで一部説明している。ディールズアルダー付加体構造が含む熱解離性構造の解離温度T
DISは、例えば80℃から160℃、具体的には90℃から150℃、より具体的には110℃から130℃である。また、熱解離したディールズアルダー付加体構造の再結合温度は、例えば60℃から80℃である。
【0038】
熱解離性構造を含む構造としてより具体的には、以下一般式(d1-1)から(d1-4)で表される何れかの構造(部分構造)を含むことができる。これら構造は、上記(d1)のディールズアルダー付加体構造のより具体的な例である。
【0039】
【0040】
上記一般式(d1-1)から(d1-4)中、
Xは、2価または3価の基を表し、
Yは、2価の基を表し、
EWGは、電子求引性基を表し、
直線と破線の組み合わせで表された結合は、単結合または二重結合のいずれかを表し、
波線は、他の原子との結合手を表す。
【0041】
Xの2価の基としては、直鎖または分岐のアルキレン基、-O-、-S-、-NH-、-NR-(R:1価の有機基)などを挙げることができる。直鎖または分岐のアルキレン基の炭素数は、典型的には1から3、好ましくは1から2、より好ましくは1である。
Xの3価の基としては、窒素原子などを挙げることができる。
Yの2価の基としては、直鎖または分岐のアルキレン基、エーテル基(-O-)、スルフィド基(-S-)などを挙げることができる。直鎖または分岐のアルキレン基の炭素数は、典型的には1から3、好ましくは1から2、より好ましくは1である。
EWGとしては、酸素原子(=O)、フッ化アルキル基、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基などを挙げることができる。
【0042】
一般式(d1-1)から(d1-4)で表される構造は、通常、熱によりレトロディールズアルダー反応を起こし、以下一般式(d1-1')から(d1-4')に示されるように解離する。
【0043】
【0044】
一般式(d1-1')から(d1-4')において、X、YおよびEWGの定義および具体例は、一般式(d1-1)から(d1-4)と同様である。
【0045】
(d2)ジスルフィド構造については、いわゆるジスルフィド交換反応のメカニズムにより結合解離が起こる。すなわち、以下の反応式で表される化学反応により、架橋構造が脆弱化する。
【0046】
【0047】
上記において、R41からR44は、それぞれ独立に、硬化体中の化学構造を表す。
ジスルフィド交換反応は、通常、70℃程度で進行する。
ジスルフィド交換反応については、例えば、ACS Appl. Mater. Interfaces 2012,4,11,6280-6288を参考とすることができる。
【0048】
(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造については、具体的には以下化学式(d3-1)で表される構造であることができる。
【0049】
【0050】
上記化学式中、波線は、他の原子との結合手を表す。
【0051】
上記構造は、通常、150℃以上の温度で、以下化学反応式で表されるように、イミダゾール構造とイソシアネート構造に熱解離する。なお、60℃から70℃で再結合が起こりうる。
【0052】
【0053】
上記化学式中、波線は、他の原子との結合手を表す。
【0054】
(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造については、具体的には以下化学式(d4-1)で表される構造であることができる。
【0055】
【0056】
化学式(d4-1)中、4つのRは、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、波線は、他の原子との結合手を表す。1価の有機基の具体例としては、炭素数1から6のアルキル基などが挙げられる。
【0057】
上記構造は、通常、100℃以上の温度で、以下化学式で表されるように熱解離する。Rおよび波線の定義については化学式(d4-1)と同様である。
【0058】
【0059】
(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造および(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造については、MACROMOLECULES vol.43,6(2010)2643-2653なども参照することができる。
【0060】
熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含むことができる。
(i)硬化成分が硬化剤を含む場合は、エポキシ樹脂および硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)硬化成分が硬化剤を含まない場合は、エポキシ樹脂が熱解離性化合物を含む。
【0061】
すなわち、熱硬化性樹脂においては、硬化体を構成する主剤であるエポキシ樹脂または硬化剤が熱解離性化合物を含む。
上記(i)の場合、熱解離性化合物は、エポキシ樹脂および硬化剤のうち、いずれか一方にのみ含まれていてもよいし、両方に含まれていてもよい。
好ましい例としては、主剤がエポキシ樹脂および硬化剤を含み、少なくともそのエポキシ樹脂が熱解離性化合物を含む態様が挙げられる。
【0062】
[エポキシ樹脂]
本実施形態におけるエポキシ樹脂は、熱解離性化合物を含んでいてもよい。
本実施形態におけるエポキシ樹脂は、以下の(i)から(iii)のいずれの態様であってもよい。
(i)熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)と、熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)とを含む態様
(ii)熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)のみを含む態様
(iii)熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)のみを含む態様
【0063】
熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)は、分子中に1のみの熱解離性構造を含んでいてもよいし、分子中に2以上(例えば2から4)の熱解離性構造を含んでいてもよい。エポキシ樹脂(a1)が、分子中に2以上の熱解離性構造を含むことで、より良好な易解体性が得られると考えられる。
【0064】
熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)は、例えば、前述の(d1)ディールズアルダー付加体構造、(d2)ジスルフィド構造、(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造および(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造からなる群より選ばれる1または2以上の構造を含むエポキシ樹脂であることができる。
【0065】
熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)としては、以下一般式(a1-1)で表されるものであることが好ましい。
【0066】
【0067】
一般式(a1-1)中、
nは、2以上の整数であり、
Lは、単結合または2価の連結基を表し、
Aは、熱解離性構造を含むn価の有機基を表す。
【0068】
nは、好ましくは2から6の整数であり、より好ましくは2から4の整数である。
Lの2価の連結基は特に限定されない。Lは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシ基(-COOまたは-OCO-)、スルフィド基、これら基から選ばれる2種以上の基を連結して構成される2価の基などであることができる。Lは、例えば炭素数1から10の2価の有機基である。一般式(a1-1)中にはn個のLが存在するが、それらのLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
Aが含む熱解離性構造の例としては、前述の(d1)ディールズアルダー付加体構造、(d2)ジスルフィド構造、(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造および(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造からなる群より選ばれる1または2以上の構造を挙げることができる。Aは、熱解離性構造を1のみ含んでもよいし、2以上含んでもよい。
【0069】
熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)としては、以下一般式(a1-2)または(a1-3)で表されるものであることがより好ましい。
【0070】
【0071】
一般式(a1-2)および(a1-3)中、
X、YおよびEWGの定義および具体例は、前述の一般式(d1-1)から(d1-4)と同様であり、ただし一般式(a1-3)における2つのXは、それぞれ独立に、3価の基(例えば窒素原子)を表し、
Lの定義および具体例は、前述の一般式(a1-1)と同様であり、
nは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、好ましくは1から3の整数、より好ましくは1または2である。
【0072】
熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)の例としては、以下のものが挙げられる。参考のため、各エポキシ樹脂について、CAS登録番号を併記した。
CAS登録番号1642327-20-5のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度78℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度115℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号630109-37-4のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度75℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度95℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号451456-99-8のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度75℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度95℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1354635-72-5のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度60℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度104℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1142408-09-0のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度60℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度111℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)の合成方法は特に限定されない。合成方法の具体例は後掲の実施例を参照されたい。また、上記に記載した具体的化合物のCAS登録番号に基づき、各化合物が記載されている文献中の合成方法を参照することもできる。
【0083】
熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)としては、公知のものを特に制限なく挙げることができる。例えば、ビスフェノールA型、F型、S型、AD型等のグリシジルエーテル、フェノールノボラック型のグリシジルエーテル、クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル、ビスフェノールA型のノボラック型のグリシジルエーテル、ナフタレン型のグリシジルエーテル、ビフェノール型のグリシジルエーテル、ジヒドロキシペンタジエン型のグリシジルエーテル、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0084】
また、熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)として、脂環式エポキシ化合物を挙げることもできる。具体的には、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-1-メチルヘキサンカルボキシレート、6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-2-2エポキシエチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
脂環式エポキシ化合物の市販品としては、例えば、ダイセル社製の「セロキサイド」シリーズを挙げることができる。
【0085】
[硬化剤]
本実施形態における硬化剤は、熱解離性化合物を含んでいてもよい。
本実施形態における硬化剤は、以下の(i)から(iii)のいずれの態様であってもよい。
(i)熱解離性構造を含む硬化剤(b1)と、熱解離性構造を含まない硬化剤(b2)とを含む態様
(ii)熱解離性構造を含む硬化剤(b1)のみを含む態様
(iii)熱解離性構造を含まない硬化剤(b2)のみを含む態様
【0086】
熱解離性構造を含む硬化剤(b1)は、例えば、前述の(d1)ディールズアルダー付加体構造、(d2)ジスルフィド構造、(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造および(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造からなる群より選ばれる1または2以上の構造を含む硬化剤であることができる。
【0087】
熱解離性構造を含む硬化剤(b1)は、以下一般式(b1-1)で表されるものであることが好ましい。
【0088】
【0089】
一般式(b1-1)中、
n、AおよびLの定義および具体例は、一般式(a1-1)と同様であり、
Zは、アミノ基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選択される少なくともいずれかである。一般式(b1-1)中にZは複数存在しうるが、複数のZは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0090】
熱解離性構造を含む硬化剤(b1)は、以下一般式(b1-2)または(b1-3)で表されるものであることがより好ましい。
【0091】
【0092】
一般式(b1-2)および(b1-3)中、X、YおよびEWGの定義および具体例は、前述の一般式(d1-1)から(d1-4)と同様であり、ただし一般式(b1-3)における2つのXは、それぞれ独立に、3価の基(例えば窒素原子)を表し、
Lの定義および具体例は、前述の一般式(a1-1)および(b1-1)と同様であり、
Zの定義および具体例は、前述の一般式(b1-1)と同様であり、
nは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、好ましくは1から3の整数、より好ましくは1または2である。
【0093】
熱解離性構造を含む硬化剤(b1)の例としては、以下のものが挙げられる。参考のため、各硬化剤について、CAS登録番号を併記した。
CAS登録番号1629090-33-0の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度78℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度120℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1629090-36-3の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度90℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度120℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号2170611-60-4の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度65℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度150℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1449422-51-8の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度70℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度150℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1438275-50-3の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度40℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度110℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号2131218-36-3の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度65℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度120℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号2270969-71-4の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度65℃でディールズアルダー反応が進行する旨が報告されている(レトロディールズアルダー反応の加熱温度については記載なし)。
CAS登録番号2363046-97-1の硬化剤については、これが記載されている文献において、室温でディールズアルダー反応が進行する旨が報告されている(レトロディールズアルダー反応の加熱温度については記載なし)。
CAS登録番号1788898-24-7の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度60℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度90~97℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1280739-86-7の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度65℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度130℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号107958-95-2の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度80℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度129~140℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1438275-48-9の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度40℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度110℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1869990-66-8の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度70℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度120℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
熱解離性構造を含まない硬化剤(b2)としては、任意のものを選択することができる。硬化剤(b2)の好ましい例としては、エポキシ基との反応性基としてアミノ基、カルボキシル基または水酸基を有する化合物が挙げられる。
硬化剤として用いる化合物は、脂肪族ポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物および脂環式ポリアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン化合物であって、1級アミノ基を2個以上有するポリアミン化合物であることが好ましい。
【0106】
1級アミノ基を2個以上有する脂肪族ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0107】
1級アミノ基を2個以上有する芳香族ポリアミン化合物としては、例えば、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0108】
1級アミノ基を2個以上有する脂環式ポリアミン化合物としては、例えば、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、1,3-ビスアミノシクロヘキサン等が挙げられる。
【0109】
上記以外の化合物としては、ジシアンジアミド、酸無水物、二塩基酸ジヒドラジド(シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等)、メラミン等が挙げられる。
【0110】
易解体性接着材料を一液型の接着材料とする場合、硬化剤として、いわゆる潜在性硬化剤を用いることが好ましい。潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂中に室温で存在した状態では反応せず、加熱処理により活性化し、反応を開始する。マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、シェル部およびコア部とを備える粒子であり、コア部内に硬化剤が含まれている。所定温度以上の加熱処理により、シェル部の一部が破れて内部の硬化剤が流出することで、エポキシ基との反応性が活性化する。マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製品としては、旭化成株式会社製の、ノバキュア(登録商標)HX-3722、HX-3748、HX-3088、HX-3741、HX-3742等が挙げられる。
【0111】
[硬化促進剤]
本実施形態においては、硬化促進剤を用いてもよいし、用いなくてもよい。
硬化促進剤を用いる場合、その種類や量は適宜選択すればよい。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、有機リン化合物、有機金属塩、3級アミン類、フェノール化合物、有機酸等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性の観点から、有機リン化合物、有機リン化合物と有機ボロン化合物との錯体、有機リン化合物にπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1つを用いることができる。π結合をもつ化合物として、例えば、無水マレイン酸、キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等が挙げられる。また、4級ホスホニウム塩系化合物、4級アンモニウム塩系化合物、脂肪酸塩系化合物、金属キレート系化合物、金属塩系化合物などを使用してもよい。また、ジシアンジミド、アジピン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物、グアナミン酸、メラミン酸、エポキシ化合物とイミダゾール化合物との付加化合物、エポキシ化合物とジアルキルアミン類との付加化合物、アミンとチオ尿素との付加化合物、アミンとイソシアネートとの付加化合物等の潜在性硬化促進剤を使用してもよい。
【0112】
[熱膨張性粒子]
本実施形態において使用可能な熱膨張性粒子は特に限定されない。前述のように、熱解離性構造の解離との相乗効果による易解体性の効果が得られる限り、任意の熱膨張性粒子を用いることができる。
熱膨張性粒子は、典型的には、高分子からなるシェルと、揮発性膨張剤を含むコアと、を備える熱膨張性マイクロカプセルである。
【0113】
図7は、熱膨張性マイクロカプセルについて説明するための図である。
熱膨張性マイクロカプセルにおけるシェルは、通常、熱可塑性樹脂で構成される。シェルは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンからなる群より選択される1または2以上の重合性モノマーを含有するモノマー混合物を重合させて得られる重合体で構成されることが好ましい。
熱膨張性マイクロカプセルにおけるコアは、揮発性膨張剤として、通常は有機溶剤などの揮発性有機物質、具体的には比較的低沸点の(25℃で液体状の)炭化水素を含む。
このようなシェルおよびコアを備えるマイクロカプセルを加熱すると、シェルが軟化し、かつ、コアの炭化水素が気化する。そして、気化の圧力でカプセルが膨張する。マイクロカプセルの種類にもよるが、公知の熱膨張性マイクロカプセルにおいては、体積で最大50から100倍に膨張するものもある。
【0114】
本実施形態においては、熱膨張性粒子の膨張開始温度TINI(発泡開始温度と表記されることもある)と、熱解離性構造の解離温度TDISとの関係が適切であることにより、結合解離と熱膨張性粒子の膨張との相乗効果を一層高めることができる。
具体的には、(TINI-TDIS)は、好ましくは-20℃以上20℃以下、より好ましくは-15℃以上15℃以下、さらに好ましくは-10℃以上10℃以下である。TINIとTDISがほぼ同程度の温度であることにより、解体時の熱処理において、熱解離性構造の解離とほぼ同時に熱膨張性粒子が膨らみ、硬化体の脆弱化が効果的に行われることとなる。特に、熱解離性構造として可逆型の熱解離性構造を採用した場合、この効果は顕著である。
【0115】
熱膨張性粒子の膨張開始温度TINIは、好ましくは100℃以上150℃以下、より好ましくは110℃以上140℃以下、さらに好ましくは120℃以上135℃以下である。
TINIが100℃以上であることにより、接着(エポキシ樹脂の硬化反応)の際に通常採用される加熱温度における熱膨張性粒子の膨張が実質的に抑えられるため、確実な接着を行うことができる。また、TINIが100℃以上であることにより、解体前における硬化体の耐熱性をより高めることができる。
TINIが150℃以下であることにより、解体の際のエネルギー消費を抑えることができる。
【0116】
熱膨張性粒子の最大膨張温度TMAXは、好ましくは130℃以上200℃以下、より好ましくは140℃以上180℃以下、さらに好ましくは145℃以上170℃以下である。
TMAXが130℃以上であることにより、接着(エポキシ樹脂の硬化反応)の際に通常採用される加熱温度における熱膨張性粒子の膨張が十分に抑えられるため、確実な接着を行いやすい。また、解体前における硬化体の耐熱性を高めることができる。
TMAXが200℃以下であることにより、解体の際のエネルギー消費を抑えることができる。
【0117】
熱膨張性粒子の平均粒子径は特に限定されない。熱膨張時に十分な大きさとなることと、十分な接着性の担保や平滑な硬化体の形成の観点などから、熱膨張性粒子の平均粒子径(膨張前の常温における径)は、例えば5μm以上50μm以下、好ましくは10μm以上40μm以下である。
【0118】
膨張開始温度TINI、最大膨張温度TMAXおよび平均粒子径について補足しておく。
熱膨張性粒子として市販品を用いる場合であって、カタログや仕様書などにTINI、TMAX、平均粒子径などの記載がある場合には、その値をTINI、TMAX、平均粒子径として採用することができる。この際、カタログや仕様書などに記載された数値に幅がある場合は、その数値幅の中心値を採用する。例えば、カタログにTMAXが175~185℃と記載されている場合には、TMAXは180℃であるとする。
カタログや仕様書などからはTINIやTMAXが不明である場合には、熱膨張性粒子を光学顕微鏡で観察しながら徐々に加熱して、粒子が膨張し始める点(変曲点)をTINIとし、直径が最大となったときの温度をTMAXとすることができる。また、平均粒子径については、熱膨張性粒子を室温(25℃)下で光学顕微鏡を用いて観察し、粒子100個以上の直径(円相当径)を測定し、その数平均を平均粒子径とすることができる。
【0119】
熱膨張性粒子としては、市販品を用いることができる。市販品としては、松本油脂製薬株式会社のマツモトマイクロスフェアー(登録商標)シリーズ、株式会社クレハのクレハマイクロスフェアーシリーズ等を挙げることができる。
【0120】
一態様として、熱膨張性粒子としては、熱硬化性樹脂と親和性が高く、硬化体中で実質的に均一に分布するものを選択することが好ましい。これにより、解体時に硬化体全体が平均的に脆弱化し(脆弱化が不完全なスポットの発生が抑えられ)、安定的な解体性が得られると考えられる。
一方、別の態様として、易解体性接着材料を被着体表面に塗布して膜とした際に、空気-膜界面または膜-被着体界面に偏在するような熱膨張性粒子を選択することも考えられる。これにより、解体モードを界面剥離的に制御できると考えられる。また、これにより、熱膨張性粒子の使用量を少なくすることができ、解体性接着材料の原料コスト削減につながりうる。
【0121】
[充填材]
本実施形態の易解体性接着材料は、充填材を含んでもよい。これにより、例えば硬化体と被着体との熱膨張率を同程度として、温度変化による応力発生を抑えることができ、ひいては解体前における接着強度の安定につながる。
念のため述べておくと、充填材は、熱膨張性粒子とは異なる成分である。
【0122】
充填材は、有機充填材であってもよいし、無機充填材であってもよいし、これらの併用であってもよい。典型的には無機充填材の使用が好ましい。
有機充填材としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、炭素繊維、セルロース、ポリエチレンポリプロピレン粉等が挙げられる。
無機充填材としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルク、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ガラス繊維、アスベスト繊維、ほう素繊維、石英紛、鉱物性ケイ酸塩、雲母、アスベスト粉、スレート粉等が挙げられる。
充填材を用いる場合、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0123】
[その他の成分]
本実施形態の易解体性接着材料は、熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子以外に、種々の成分を含んでいてもよい。
【0124】
例えば、本実施形態の易解体性接着材料は有機溶剤を含んでもよい。換言すると、本実施形態の易解体性接着材料は、有機溶剤にエポキシ樹脂および硬化成分が溶解または分散し、かつ、熱膨張性粒子が分散したものであってもよい。
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の塩素系溶剤類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を挙げることができる。
【0125】
上記の中でも、アセトン、MEK、酢酸エチル、DMF、塩素系溶剤類等が、溶解性が高く、また、揮発しやすい傾向にあるため好ましい。有機溶剤については、いずれか1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0126】
その他の任意成分としては、例えば、シリカ、アルミナ等の無機粒子、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維フィラー、熱可塑性エラストマー、難燃剤、消泡剤等が挙げられる。
【0127】
本実施形態の易解体性接着材料は、ビスマレイミド等、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。また、本実施形態の易解体性接着材料は、シランカップリング剤、熱可塑性エラストマー、ゴム成分、消泡剤等のうち1または2以上を含んでもよい。
【0128】
[各成分の比率]
硬化剤が用いられる場合、エポキシ樹脂と硬化剤との混合比(エポキシ樹脂/硬化剤のモル比)は、1/0.01から1/10であり、より好ましいモル比は1/0.03から1/10であり、さらに好ましいモル比は1/0.05から1/10である。
特に、硬化剤が、1級アミンまたは2級アミン、フェノール化合物、カルボン酸基を有する化合物、チオール化合物等の活性水素を有する化合物である場合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基のモル数と、硬化剤中の活性水素のモル数とが、当量比近辺となるように混合することが好ましい。例えば、エポキシ基と活性水素との比(エポキシ基のモル数/活性水素のモル数)は、好ましくは1/0.4から1/3であり、より好ましくは1/0.7から1/2であり、さらに好ましいモル比は1/0.8から1/1.5である。
【0129】
前述のとおり、熱硬化性樹脂は、熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)を含みうる。同様に、硬化剤は、熱解離性構造を含まない硬化剤(b2)を含みうる。良好な易解体性を得る観点からは、本実施形態の易解体性接着材料中に、適度な量の熱解離性化合物が含まれることが好ましい。
具体的には、易解体性接着材料中の、熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)の質量をMa1、熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)の質量をMa2、熱解離性構造を含む硬化剤(b1)の質量をMb1、熱解離性構造を含まない硬化剤(b2)の質量をMb2としたとき、(Ma1+Mb1)/(Ma1+Ma2+Mb1+Mb2)の値は、例えば0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上である。この値の上限は1であってもよいが、コスト等の観点から、上限は例えば0.8、好ましくは0.5である。
【0130】
熱膨張性粒子の量については、例えば、熱硬化性樹脂100質量部に対して、例えば1質量部以上50質量部以下、好ましくは3質量部以上40質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上30質量部以下である。熱膨張性粒子の量が1質量部以上であることにより、易解体性の効果を十分に得ることができる。熱膨張性粒子の量が50質量部以下であることにより、解体前における接着力を高めることができる。熱膨張性粒子の量を調整することで、解体前における接着強度と易解体性とのバランスを調整することも考えられる。
【0131】
[易解体性接着材料の物性]
本実施形態の易解体性接着材料において、以下の条件で測定されるF2およびF1の比(F2/F1)は、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下であることが好ましい。下限については特に制限がなく0であってもよいが、例えば0.01以上あるいは0.1以上とすることで十分である。こうすることにより、使用時の高い接着強度と弱い力で簡単に剥がせる解体性を、高いレベルで両立させることができる。
【0132】
(条件)
(i)被着体としてSUS304を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠して引張せん断接着強さを測定する。
(ii)当該易解体性接着材料を60℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1のせん断接着強度をF1とし、当該易解体性接着材料を第1熱処理条件で加熱処理した後、140℃15分間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2の引張せん断接着強さをF2とする。
【0133】
F2/F1の値の技術的意義は以下の通りである。F2/F1の値は、加熱による解体容易性を示す。F2/F1が1より小さいということは、第2熱処理条件での加熱処理により、引張せん断接着強さが低下することを意味する。熱硬化性樹脂を用いた接着材料では、一般的には高温での熱処理により熱硬化性樹脂の架橋が進み、硬化体のせん断接着力が向上する。これに対して本実施形態の易解体性接着材料は、第2熱処理条件での加熱処理により、引張せん断接着強さが低下する。F2/F1の値はこの低下の程度を示したものであり、本発明者はこの値が加熱による解体の容易性を現す指標となることを見いだした。本実施形態の易解体性接着材料を用いて2つの被着体を接着した構造体を想定すると、接着材料層には被着体との線膨張係数差に起因して熱応力が残存する。このため、接着材料層と被着体との界面には、本来的に一定程度の剥離作用が生じた状態となる。こうした状態において、F2がF1に比べて低下するような接着材料、特に、(F2/F1)を好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下とすれば、実用的に充分な易解体性を実現することができる。
【0134】
[解体方法]
本実施形態の易解体性接着材料は、例えば、(1)被着体の表面に易解体性接着材料を付着させ、(2)その後、その易解体性接着材料を加熱硬化させて、被着体に易解体性接着材料の硬化体が接合した硬化体を得、(3)さらにその後、熱処理することで被着体から易解体性接着剤硬化体を剥がして解体する、というプロセスに用いられる。上記(2)の加熱硬化にあたって採用する温度条件を第1温度条件とし、上記(3)の解体にあたって採用する温度条件を第2温度条件とすると、第2温度条件は第1温度条件に比べて、より高い硬化温度とすることが好ましい。
【0135】
被着体の種類は特に限定されない。例えばアルミニウム、アルムニウム合金、SUS等の金属や、ポリプロピレンやポリエチレン、ナイロン等のプラスチック、セラミックス等の材質の被着体を挙げることができる。被着体にはシランカップリング剤等による表面処理がなされていてもよいし、表面処理がなされていなくてもよい。接着強度および解体のしやすさの点では、被着体の表面に易解体性接着剤を付着させる前に、被着体の表面を洗浄するなどして、異物/汚染を除去しておくことが好ましい。
【0136】
第1温度条件の硬化温度をT1とし、第2温度条件の硬化温度をT2とすると、(T2-T1)の値は、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、最も好ましくは70℃以上である。こうすることにより、充分な硬化体強度と易解体容易性を実現することができる。(T2-T1)の値の上限については、解体工程の省エネルギー化の観点から、好ましくは130℃以下、好ましくは120℃以下である。実用上、T1は20℃以上100℃以下、T2は100℃以上250℃以下であることが好ましい。
換言すると、上記のような(T2-T1)、T1およびT2が実現されるように、熱解離性構造の解離温度TDIS、熱膨張性粒子の膨張開始温度TINI、最大膨張温度TMAXなどを調整する(そのために適切な熱解離性構造や熱膨張性粒子を選択する)ことが好ましい。
【0137】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤および硬化促進剤のうち一方または両方を含む硬化成分と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で、熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料。
(i)前記硬化成分が硬化剤を含む場合は、前記エポキシ樹脂および前記硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)前記硬化成分が硬化剤を含まない場合は、前記エポキシ樹脂が、熱解離性化合物を含む。
2.
1.に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性化合物は、以下の(d1)から(d4)のいずれかの熱解離性構造を有する、易解体性接着材料。
(d1)ディールズアルダー付加体構造
(d2)ジスルフィド構造
(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造
(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造
3.
1.または2.に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性構造は、熱により解離した後に25℃まで冷却すると再結合する可逆型の熱解離性構造である、易解体性接着材料。
4.
1.から3.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性構造は、前掲の一般式(d1-1)から(d1-4)で表される何れかの構造を含む、易解体性接着材料。
一般式(d1-1)から(d1-4)において、
Xは、2価または3価の基を表し、
Yは、2価の基を表し、
EWGは、各々独立に、電子求引性基を表し、
直線と破線の組み合わせで表された結合は、単結合または二重結合のいずれかを表し、
波線は、他の原子との結合手を表す。
5.
1.から4.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記エポキシ樹脂が、前記熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料。
6.
1.から5.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子は、高分子からなるシェルと、揮発性膨張剤を含むコアと、を備える熱膨張性マイクロカプセルである、易解体性接着材料。
7.
1.から6.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の膨張開始温度をT
INI
とし、
前記熱解離性構造の解離温度をT
DIS
としたとき、
(T
INI
-T
DIS
)は、-20℃以上20℃以下である、易解体性接着材料。
8.
1.から7.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の膨張開始温度T
INI
は、100℃以上である、易解体性接着材料。
9.
1.から8.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の最大膨張温度T
MAX
は、130℃以上である、易解体性接着材料。
10.
1.から9.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
当該易解体性接着材料を被着体の表面に付着させ、第1の熱処理を行うことにより前記被着体に接合する硬化体を得た後、該硬化体に第2の熱処理を行うことにより前記被着体と前記硬化体とを解体するのに用いられる、易解体性接着材料。
11.
被着体と、該被着体に接合した、1.から10.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料の硬化体とを含む物品。
12.
11.に記載の物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する解体工程を含む、解体方法。
【0138】
[易解体性接着材料の配合例]
易解体性接着材料の配合例をいくつか示す。
(配合例1)
[CAS登録番号1426573が付与された化合物(フルフリルアミンとオクタメチレンビスマレイミドのディールズアルダー付加体)]:[ビスフェノールAジグリシジルエーテル]=1:2(モル比)の熱硬化性樹脂に、熱膨張性マイクロカプセル(例えば後掲の実施例で使用のもの)を、熱硬化性樹脂に対して20質量%加えたもの
(配合例2)
[CAS登録番号1426573が付与された化合物(フルフリルアミンとオクタメチレンビスマレイミドのディールズアルダー付加体)]:[オクタメチレンジアミン]:[ビスフェノールAジグリシジルエーテル]=0.1:0.9:2(モル比)の熱硬化性樹脂に、熱膨張性マイクロカプセル(例えば後掲の実施例で使用のもの)を、熱硬化性樹脂に対して20質量%加えたもの
(配合例3)
[CAS登録番号2170611-60-4が付与された化合物(フルフリルアミンとビスマレイミドジフェニルメタンのディールズアルダー付加体)]:[オクタメチレンジアミン]:[ビスフェノールAジグリシジルエーテル]=0.1:0.9:2(モル比)の熱硬化性樹脂に、熱膨張性マイクロカプセル(例えば後掲の実施例で使用のもの)を、熱硬化性樹脂に対して20質量%加えたもの
(配合例4)
[CAS登録番号1009048-76-3が付与された化合物(フルフリルアルコールと2-ヒドロキシエチルマレイミドのディールズアルダー付加体)]:[ビスフェノールAジグリシジルエーテル]=1:1(モル比)の熱硬化性樹脂に、熱膨張性マイクロカプセル(例えば後掲の実施例で使用のもの)を、熱硬化性樹脂に対して20質量%加えたもの
(配合例5)
熱膨張性粒子の量を、エポキシ化合物(BADGEとFDB)の合計量(質量)に対して10質量%に変更した以外は、後掲の実施例1と同様のもの
(配合例6)
熱膨張性粒子の量を、エポキシ化合物(BADGEとFDB)の合計量(質量)に対して5質量%に変更した以外は、後掲の実施例1と同様のもの
【実施例】
【0139】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0140】
<熱解離性構造を含むエポキシ樹脂の合成>
[試薬]
エピクロロヒドリン(>99%、キシダ化学株式会社)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB、>99%、東京化成工業株式会社)、フルフリルアルコール(>97%、和光純薬工業株式会社)、水酸化ナトリウム(>93%、和光純薬工業株式会社)、4,4'-ビスマレイミドジフェニルメタン(>96%、東京化成工業株式会社)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE、純度記載なし、東京化成工業株式会社)、および、ジエチレントリアミン(DETA>98%、東京化成工業株式会社)は、市販品をそのまま使用した。テトラヒドロフラン(THF)については蒸留により精製したものを使用した。その他の溶媒及び試薬については市販品をそのまま使用した。
【0141】
[フルフリルグリシジルエーテル(FGE)の合成]
エピクロロヒドリン51g(0.55mol)とTBAB3.8g(1.18×10
-2mol)を攪拌して混合した。15分間窒素置換を行った後、窒素雰囲気下、室温でフルフリルアルコール49g(0.50mol)を30分かけて滴下し、室温で2時間攪拌した。その後、予めNaOH40g(1.0mol)から調製したNaOH水溶液およそ80mLを室温で1h以内で滴下し、2h攪拌した。ジエチルエーテルおよそ100mLを加えて有機層を抽出し、これを蒸留水およそ50mLで三回洗浄した。その後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、エバポレーターでジエチルエーテルを留去して褐色液体を得た。この液体を減圧下、オイルバス中で減圧蒸留し、b.p.103-105℃/11mmHgの無色透明液体のFGEを単離した。単離したFGEの
1H NMRスペクトルを
図8に示す。収量および収率は16g及び21%であった。
フルフリルグリシジルエーテル(FGE):
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ 7.44-7.39(m,1H),6.38-6.31(m,2H),4.53(q,J=12.8Hz,2H),3.75(J=11.5,3.1Hz,1H),3.44(J=11.5,5.8Hz,1H),3.16(J=5.8,4.0,2.9Hz,1H),2.80(J=9.2,4.4Hz,1H),2.61(J=5.0,2.7Hz,1H)
【0142】
参考のため、上記の反応スキームを以下に示す。
【0143】
【0144】
[2,2'-(メチレンビス(4,1-フェニレン))ビス(4-((オキシラン-2-イルメトキシ)メチル)-3a,4,7,7a-テトラヒドロ-1H-4,7-エポキシイソインドール-1,3(2H)-ジオン)(FDB)の合成]
4,4'-ビスマレイミドジフェニルメタン(bisM)7.14g(0.02mol)を蒸留したTHF50mLに攪拌しながら溶解させた。15分間窒素置換を行った後、窒素雰囲気下、室温でFGE6.16g(0.04mol)を滴下し、24時間還流した。反応溶液を過剰量(およそ600mL)のジエチルエーテルに滴下し、生じた黄白色沈殿を吸引ろ過して減圧下で一晩乾燥させた。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:アセトン=10:3(v/v))によって精製し、無色透明固体のFDBを収率7.3%で単離した。単離したFDBの
1H NMRスペクトルを
図9に示す。DA付加体に特有のプロトン(e,e',f,g)に帰属されるピークがスペクトル中に見られたほか、FDBの各プロトンに帰属されるピークの積分強度比が理論値(a:b:c:d:e:f:g:h:i:j=1.98:1.01:2.07:2.01:2.07:1.00:2.10:2.12:2.07:1.06)とおおよそ一致したことから、FDBの合成および単離が達成されたと判断した。
2,2'-(メチレンビス(4,1-フェニレン))ビス(4-((オキシラン-2-イルメトキシ)メチル)-3a,4,7,7a-テトラヒドロ-1H-4,7-エポキシイソインドール-1,3(2H)-ジオン)(FDB):
1H NMR(300MHz,DMSO-d6): δ7.39-7.32(2H),7.15(2H),6.57(2H),5.21(1H),4.23(2H),4.08-3.98(1H),3.85-3.75(2H),3.36-3.32(1H),3.19(1H),3.06(1H),2.74-2.68(1H),2.56-2.51(1H)
【0145】
参考のため、上記の反応スキームを以下に示す。
【0146】
【0147】
なお、10℃/分の昇温速度で示差走査熱量測定することにより求められる、上記FDB中のディールズアルダー付加体構造の解離温度は、127℃である。
【0148】
<熱膨張性粒子の準備>
松本油脂製薬株式会社製のマツモトマイクロスフェアー(登録商標)FN-100MDを使用した。下表に、同社の資料に記載されているこの熱膨張性粒子の一般的性質を示す。
【0149】
【0150】
<実施例1:接着材料の調製、接着性および易解体性の評価>
市販のエポキシ樹脂であるビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)と、上記で得たFDBと、DETAと、熱膨張性粒子FN-100MDとを、ジクロロメタン/1,2-ジクロロエタン=2/1(v/v)混合溶剤中で混合した。そして、液状の接着材料を調製した。
各成分の比率については以下のようにした。
[BADGE+FDB]:[DETA]=5:2(モル比)
BADGE/FDB=70/30(w/w)
熱膨張性粒子の量:エポキシ化合物(BADGEとFDB)の合計量(質量)に対して20質量%
混合溶剤の量:BADGE、FDBおよびDETAの合計量(質量)のおよそ3.7倍
【0151】
接着性および易解体性の評価は、以下のようにして試験用接合体を作製することにより行った。なお、複数回の評価のため、試験用接合体については同一のものを複数作製した。
(1)上記で調製した易解体性接着材料を、縦100mm×横10mm×厚み1mmのアルミニウム板またはステンレス(SUS304)板に滴下し、端部の10mm×10mmの領域に塗り広げた試験片を準備した。易解体性接着材料の塗布量については、アルミニウム板の場合は硬化後付着量が6.2mgとなるように、ステンレス板の場合は硬化後付着量が6.5mgとなるようにした。
(2)室温、減圧下で3時間乾燥させ、溶媒を留去した。
(3)試験片同士を、上記(1)で易解体性接着材料を塗り広げた10mm×10mmの領域で貼り合わせ、クリップで固定した。
(4)恒温槽中、60℃で7時間加熱し(第1の熱処理)、易解体性接着材料を硬化させて試験片同士を接合し、室温まで冷却した。このようにして試験用接合体を得た。
(5)上記(4)で得られた試験用接合体の引張せん断試験を行った。
(6)上記(4)で得られた試験用接合体(上記(5)で用いたものとは別のもの)を、140℃で15分間加熱し(第2の熱処理)、室温まで冷却後、引張せん断試験を行った。
【0152】
上記(5)および(6)における引張せん断試験は、JIS K 6850:1999に準拠し、接合体を、鉛直方向に1mm/分の速さで引張ることにより行った。そして、横軸:引っ張り長さ(単位:mm)、縦軸:引っ張りに要した力(単位:N)を接着面の面積100mm2で割ったもの(単位:MPa)のS-Sカーブを描画した。
【0153】
上記(5)の引張せん断試験および上記(6)の引張せん断試験については、アルミニウム板とSUS304板のそれぞれで3回ずつ行った。アルミニウム板とSUS304板のそれぞれについて、得られたS-Sカーブを
図10に示す。
図10において、*印をつけた3つの曲線が上記(5)の引張せん断試験で得られたS-Sカーブ、そうでない3つの曲線が上記(6)の引張せん断試験で得られたS-Sカーブである(
図11以降においても同様)。
図10には、以下の値も記載した。
(i)熱処理として第1の熱処理のみを行った場合の引張せん断接着強さの値、具体的には、上記(5)の引張せん断試験で得られた引張せん断接着強さの値(3回の平均値で、アルミニウムの場合は4.43±0.34MPa、ステンレスの場合は2.50±0.20MPa)
(ii)熱処理として第1の熱処理および第2の熱処理を行った場合の引張せん断接着強さの値、具体的には、上記(6)の引張せん断試験で得られた引張せん断接着強さの値(3回の平均値で、アルミニウムの場合は1.95±0.73MPa、ステンレスの場合は0.89±0.33MPa)
(iii)引張せん断接着強さの低下率(%)、具体的には、{1-(上記(ii)の値/上記(i)の値)}×100で計算される値に、負号をつけたもの(アルミニウムの場合は-56%、ステンレスの場合は-64%)
【0154】
図10に示されるとおり、熱解離性構造を有する熱解離性化合物であるFDBと熱膨張性粒子とを含む接着材料を用いることで、金属板同士が十分に強く接合した接合体を得ることができた。また、接合体を140℃で加熱(第2の熱処理)することで、引張せん断接着強さを半分以下にすることができた。すなわち、高い接着強度と、弱い力で簡単に剥がせる解体性と、を両立させることができた。
【0155】
<参考例:加熱温度と易解体性(耐熱性評価)>
第2の熱処理の条件を120℃で60分間とした以外は、実施例1と同様にして、金属板としてアルミニウム板を用いたときの接着性や易解体性を評価した。この評価において、第2の熱処理による引張せん断接着強さの低下は4%であった。つまり、接合強度は96%保持された。
このことは、FDB由来のディールズアルダー付加体構造の解離温度(130℃)よりも低く、また、熱膨張性粒子の膨張開始温度(125-135℃)よりも低い温度である120℃という温度での加熱では、解体性は発現しなかったことを示唆している。
また、この結果より、実施例1の接着材料は、120℃程度の高温での解体が抑えられた、耐熱性良好な接着材料であるといえる。
【0156】
<比較例1:接着材料の調製、接着性および易解体性の評価>
比較例1は、熱解離性化合物は用いたが、熱膨張性粒子は用いなかった例である。
具体的には、易解体性接着材料の調製の際、熱膨張性粒子を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、接着材料の調製と、接着性および易解体性の評価(S-Sカーブの取得)を行った。ただし、塗布量については、アルミニウム板の場合には硬化後付着量が3.8mgとなるように、ステンレス板の場合には硬化後付着量が2.8mgとなるようにした。
【0157】
アルミニウム板とステンレス板のそれぞれについて、得られたS-Sカーブを
図11に示す。
図11にも、
図10と同様、(i)熱処理として第1の熱処理のみを行った場合の引張せん断接着強さの値、(ii)熱処理として第1の熱処理および第2の熱処理を行った場合の引張せん断接着強さの値、および(iii)引張せん断接着強さの低下率(%)を記載した。
【0158】
図11に示されるとおり、熱解離性構造を有する熱解離性化合物であるFDBを含むが、熱膨張性粒子を含まない接着材料を用いて金属板同士を接合した接合体を作成した場合、その接合体を140℃で加熱しても、引張せん断接着強さを十分に低下させることはできなかった。おそらくは、140℃での加熱により、FDB由来のディールズアルダー付加体構造は解離するものの、その後の冷却により再結合が起こったため、十分な解体性が得られなかったものと推測される。
【0159】
<比較例2:接着材料の調製、接着性および易解体性の評価>
比較例2は、熱膨張性粒子は用いたが、熱解離性化合物は用いなかった例である。
市販のエポキシ樹脂であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDEG)と、DETAと、熱膨張性粒子FN-100MDとを、ジクロロメタン/1,2-ジクロロエタン=2/1(v/v)混合溶剤中で混合した。そして、液状の接着材料を調製した。
各成分の比率については以下のようにした。
[EGDEG]:[DETA]=5:2(モル比)
熱膨張性粒子の量:EGDEGの量(質量)に対して20質量%
混合溶剤の量:EGDEGおよびDETAの合計量(質量)のおよそ3.7倍
【0160】
上記で調製した接着材料を用い、実施例1と同様にして、アルミニウム板を用いて、接合体の作製、接着性および易解体性の評価を行った。塗布量については実施例1および比較例1とおおよそ同程度とした。得られたS-Sカーブを
図12に示す。
図12にも、
図10や11と同様、(i)熱処理として第1の熱処理のみを行った場合の引張せん断接着強さの値、(ii)熱処理として第1の熱処理および第2の熱処理を行った場合の引張せん断接着強さの値を記載した。
【0161】
図12に示されるとおり、熱膨張性粒子を含むが熱解離性構造を含まない接着材料を用いて金属板同士を接合した接合体を作成した場合、その接合体を140℃で加熱しても、引張せん断接着強さを低下させることはできなかった。特に比較例2の場合、硬化剤としてDETAを用いるなどして硬化体中の網目構造が密であったため、熱膨張性粒子がほとんど膨張できなかったものと推察される。
【0162】
<まとめ>
実施例1、比較例1および比較例2(金属板としてアルミニウム板を用いた場合)の、第2の熱処理による引張せん断接着強さの低下率を、
図13の棒グラフにまとめた。この棒グラフにおいて、低下率の「負号」は記載していない。
グラフより、熱解離性構造の熱解離作用と、熱膨張性粒子の膨張作用の「両方」が、良好な易解体性に必要なことが理解される。
【0163】
この出願は、2020年6月12日に出願された日本出願特願2020-102098号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。