(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】既存杭の撤去後の地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20250516BHJP
【FI】
E02D3/12 102
(21)【出願番号】P 2021089168
(22)【出願日】2021-05-27
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清塘 悠
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】原田 政幸
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富男
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅路
(72)【発明者】
【氏名】奥村 豪悠
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076648(JP,A)
【文献】特開2020-023788(JP,A)
【文献】特開2018-062770(JP,A)
【文献】米国特許第04886400(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存杭が撤去された後の杭孔に充填されている水と、前記杭孔を埋め戻す際にオーガースクリューで撹拌混合する
前記杭孔の周囲の杭周土塊と、で構成される泥土の含水比を
予め設定する含水比設定工程と、
前記含水比設定工程で設定した前記泥土の含水比に調整された試験用泥土と
、注入材との混合割合と、前記注入材の水セメント比と、を変えた複数種類の試料を作成し、前記試料の一軸圧縮強度の測定を含む試験を実施する試験工程と、
前記試験工程の試験結果に基づいて、前記杭孔を埋め戻した埋戻地盤の強度特性が周辺地盤の強度特性と同等になるように、
前記杭孔を埋め戻す際の前記注入材の水セメント比と前記注入材の注入量とを設定する注入材設定工程と、
前記注入材設定工程で設定された水セメント比の前記注入材を前記注入量になるように
前記既存杭を撤去した前記杭孔に注入し
、前記杭周土塊と前記杭孔に充填されている水とを前記オーガースクリューで撹拌混合して前記杭孔を埋め戻す埋戻工程と、
を備えた既存杭の撤去後の地盤改良方法。
【請求項2】
前記含水比設定工程では前記杭孔に充填される水の体積と前記既存杭の杭周土塊との体積比を用いて前記泥土の含水比を設定する、
請求項1に記載の既存杭の撤去後の地盤改良方法。
【請求項3】
前記含水比設定工程では、前記既存杭の杭径と前記オーガースクリューのスクリュー径とを用いて前記体積比を求める、
請求項2に記載の既存杭の撤去後の地盤改良方法。
【請求項4】
注入材とオーガースクリューで撹拌混合する泥土の含水比を、既存杭が撤去された後の杭孔に水が充填されたとして設定する含水比設定工程と、
前記含水比設定工程で設定した前記泥土の含水比に調整された試験用泥土と、前記注入材との混合割合と、前記注入材の水セメント比と、を変えた複数種類の試料を作成し、前記試料の一軸圧縮強度の測定を含む試験を実施する試験工程と、
前記試験工程の試験結果に基づいて、前記杭孔を埋め戻した埋戻地盤の強度特性が周辺地盤の強度特性と同等になるように、前記注入材の水セメント比と前記注入材の注入量とを設定する注入材設定工程と、
前記注入材設定工程で設定された水セメント比の前記注入材を前記注入量になるように注入し前記オーガースクリューで撹拌混合して前記杭孔を埋め戻す埋戻工程と、
を備え、
前記含水比設定工程では前記杭孔に充填される水の体積と前記既存杭の杭周土塊との体積比を用いて前記泥土の含水比を設定する、
既存杭の撤去後の地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存杭の撤去後の地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
引用文献1には、建物を建て替える場合などに既存の基礎杭を土中より引き抜くのに適した杭抜き工法およびその装置、基礎杭を引き抜いた後の穴を埋めるのに適した改良地盤ならびに地盤改良工法に関する技術が開示されている。この先行技術では、基礎杭の周囲の地盤に基礎杭と同心円形状に高圧水噴射装置で高圧の水を吹きつけることにより、基礎杭の周囲の地盤を軟化させて基礎杭を抜け易くする。基礎杭を引き抜いた杭抜き穴に事前に周辺地盤の土砂または粗砂で埋めた後にセメントとベントナイトと水とを注入して穴の周囲の土砂とともに撹拌し、周囲の地盤と圧縮強度を同等に調整する。
【0003】
特許文献2には、補強埋戻し地盤及びその造成方法に係り、所定の粗粒材料に対してセメント系固化材を添加して固化させた埋戻し材料を用いた地盤補強構造体を埋戻し地盤内に敷設して、埋戻し地盤の周辺地盤の沈下等の変位を防止するようにした補強埋戻し地盤及びその造成方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、土留め壁で区画された埋戻し空間に、埋戻し材料を充填して造成する埋戻し地盤内に地盤補強構造体を設けて地盤強度を確保するようにした補強埋戻し地盤である。地盤補強構造体は、粗粒材料と、水硬性固化材と、水とを混合して固化させた改良地盤材料からなり、この改良地盤材料を埋戻し空間に埋め戻された一般埋戻し土層中において、当初の埋戻し空間に配置された切梁位置に相当する深さ付近に所定層厚で介在するように、敷設し、土留め壁の埋戻し地盤側への変形を抑止するようにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-147771号公報
【文献】特開2007-154528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存杭を引き抜く際は、負圧発生による杭孔の壁の崩壊等を防ぐため、杭孔内の水位が一定となるように、水を注入しながら杭抜きを行うことが一般的とされている。よって、既存杭の撤去後の杭孔は、施工過程上、水で満たされている。
【0006】
しかし、引用文献1等の従来の施工方法では、既存杭の撤去後の杭孔を埋め戻して地盤改良する際、杭孔に充填された水を考慮しないで、基本的に原地盤のみの含水比すら考慮されず、考慮したとしても、実現象を反映させずに注入材の水セメント比と注入材の注入量とを設定すると、杭孔を埋め戻した埋戻地盤の強度特性が周辺地盤の強度特性と大きく異なる虞がある。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑み、杭孔を埋め戻した埋戻地盤の強度特性と周辺地盤の強度特性とを同等にする精度を向上させることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、注入材とオーガースクリューで撹拌混合する泥土の含水比を、既存杭が撤去された後の杭孔に水が充填されたとして設定する含水比設定工程と、前記含水比設定工程で設定した前記泥土の含水比に調整された試験用泥土と、前記注入材との混合割合と、前記注入材の水セメント比と、を変えた複数種類の試料を作成し、前記試料の一軸圧縮強度等の測定を含む試験を実施する試験工程と、前記試験工程の試験結果に基いて、前記杭孔を埋め戻した埋戻地盤の強度特性が周辺地盤の強度特性と同等になるように、前記注入材の水セメント比と前記注入材の注入量とを設定する注入材設定工程と、前記注入材設定工程で設定された水セメント比の前記注入材を前記注入量になるように注入し前記オーガースクリューで撹拌混合して前記杭孔を埋め戻す埋戻工程と、を備えた既存杭の撤去後の地盤改良方法である。
【0009】
第一態様の既存杭の撤去後の地盤改良方法では、試験工程における試験用泥土は、含水比設定工程で既存杭が撤去された後の杭孔に水が充填される実現象を反映させて設定した泥土の含水比に調整するので、原地盤のみの含水比すら考慮しない場合或いは考慮したとしても実現象を反映しない場合と比較し、試験用泥土の含水比の再現精度が高い。
【0010】
したがって、実現象を考慮せずに注入材の水セメント比と注入材の注入量とを設定する場合と比較し、杭孔を埋め戻した埋戻地盤の強度特性と周辺地盤の強度特性とを同等にする精度が向上する。
【0011】
第二態様は、前記含水比設定工程では、前記杭孔に充填される水の体積と前記既存杭の杭周土塊との体積比を用いて前記泥土の含水比を設定する、第一態様に記載の既存杭の撤去後の地盤改良方法である。
【0012】
第二態様の既存杭の撤去後の地盤改良方法では、含水比設定工程における泥土の含水比の設定は、杭孔に充填される水の体積と既存杭の杭周土塊との体積比を用いて行う。よって泥土の含水比を、実測する場合と比較し、容易に設定できる。
【0013】
第三態様は、前記含水比設定工程では、前記既存杭の杭径と前記オーガースクリューのスクリュー径とを用いて前記体積比を求める、第二態様に記載の既存杭の撤去後の地盤改良方法である。
【0014】
第三態様の既存杭の撤去後の地盤改良方法では、含水比設定工程における既存杭の体積と既存杭の杭周土塊との体積比を既存杭の杭径とオーガースクリューのスクリュー径とを用いて、容易に設定できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原地盤のみの含水比すら考慮しない場合或いは考慮したとしても実現象を反映しない場合と比較し、杭孔を埋め戻した埋戻地盤の強度特性と周辺地盤の強度特性を同等にする精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態の既存杭の撤去後の地盤改良工程を(A)~(F)に順番に示す工程図である。
【
図2】内土水圧と孔外土水圧とを示す説明図であり、(A)は既存杭が埋設された状態の説明図であり、(B)は既存杭が引き抜かれて水位低下する説明図であり、(C)は杭孔に水を充填した状態の説明図である
【
図3】(A)は一軸圧縮強度と水セメント比(w/c)と混合体積比との関係を示すグラフであり、(B)は混合体積比を説明する説明図である。
【
図4】既存杭の直径及びオーガースクリューの直径と、水が充填された杭孔及び杭周土塊と、体積比と、の関係を説明する模式図である。
【
図5】(A)は埋戻地盤の強度特性が周辺地盤の強度特性よりも大き過ぎて掘削精度を保持できない施工トラブルの掘削ロッドの動きを説明する説明図であり、(B)は埋戻地盤の強度特性が周辺地盤の強度特性よりも小さ過ぎて掘削精度を保持できない施工トラブルの掘削ロッドの動きを説明する説明図である。
【
図6】室内配合試験において体積比を変えて作製した試料の一軸圧縮強度と、埋戻地盤を採取した試料の一軸圧縮強度と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
本発明の一実施形態の既存杭の撤去後の地盤改良方法について説明する。
【0018】
[地盤改良工程]
まず、既存杭を撤去し、杭孔を埋め戻して地盤改良する工程の一例について説明する。
【0019】
図1(A)に示すように、原地盤100には既存杭10が埋設されている。
図1(B)に示すように、この埋設されている既存杭10の周囲に筒状のケーシング材12を挿入し、既存杭10と周辺地盤102との縁切りを行う。なお、既存杭10の周囲の土壌を杭周土塊110とする。また、杭周土塊110は、後述するオーガースクリュー200(
図1(E)及び
図1(F)参照)で撹拌混合する地盤である。
【0020】
図1(C)及び
図1(D)に示すように、ケーシング材12を引き抜いた後に、ワイヤー20等を用いて既存杭10を引き抜く。なお、この既存杭10を引き抜く際、負圧発生による杭孔50の壁52の崩壊等を防ぐため、杭孔50内の水位が一定となるように、水124を注入しながら既存杭10を引き抜く。なお、負圧発生等についての説明は後述する。
【0021】
図1(E)及び
図1(F)に示すように、注入材120を注入しながらオーガースクリュー200で杭周土塊110と杭孔50に充填された水124とを撹拌混合して杭孔50を埋め戻し、埋戻地盤130(
図1(F)参照)を構築する。なお、杭周土塊110と杭孔50に充填された水124とを攪拌混合したものを泥土150(
図1(E)参照)とする。
【0022】
ここで、前述した既存杭10を引き抜く際、負圧発生による杭孔50の壁52の崩壊等を防ぐため、杭孔50内の水位が一定となるように、水124を注入しながら既存杭10を引き抜くことについて説明する。
【0023】
図2(A)に示すように、既存杭10が埋設されている状態では、杭孔50の孔内土水圧60と孔外土水圧70とが同じ圧になっている。
【0024】
しかし、
図2(B)に示すように、既存杭10を引き抜くと、杭孔50の水位が低下するので孔内土水圧60が孔外土水圧70よりも小さくなる。このため、杭孔50の壁52の崩壊やボイリング等が発生する虞が高くなる。
【0025】
よって、
図2(C)に示すように、孔内土水圧60と孔外土水圧70とが同じになるように、杭孔50に水を充填する。
【0026】
したがって、
図1(E)の工程で、杭孔50を埋め戻す際には、杭孔50には水124が充填されており、この水124と杭周土塊110とが一緒にオーガースクリュー200で撹拌混合される。
【0027】
[注入材の水セメント比及び注入量の設定]
次に、
図1(E)の工程で注入する注入材120の水セメント比及び注入量の設定方法について説明する。
【0028】
なお、注入材120は、水とセメントとその他の添加剤とを材料として構成されている。その他の添加剤としては、ベントナイト、増粘剤及びソーダ灰等が挙げられる。また、注入材120の水セメント比とは、注入材120に含まれる水とセメントとの体積比のことである。
【0029】
(第一工程)
図1(E)の工程で注入材120とオーガースクリュー200で撹拌混合する泥土150の含水比を設定する。なお、「泥土150」とは、前述したように、杭孔50の周囲の土壌である杭周土塊110と、杭孔50の水124と、が混合された状態のものを指す。また、泥土150の含水比の設定方法の詳細は後述する。
【0030】
(第二工程)
第一工程で設定した含水比に調整された試験用泥土を作製する。また、水セメント比やその他の配合材の配合量等を変えた複数の試験用の注入材120を作製する。そして、複数の注入材120のそれぞれに対して、注入材120と試験用泥土との混合割合(混合体積比)を変えて複数種類の試料を作製する。
【0031】
(第三工程)
第二工程で作製した複数種類の試料に対して強度特性の一例としての一軸圧縮強度の測定を含む試験を行う。
【0032】
そして、この試験結果等から周辺地盤102(
図1参照)の強度特性と同等となる注入材の水セメント比及び混合割合(混合体積比)を設定する。
【0033】
ここで、この試験結果等から周辺地盤102(
図1参照)の強度特性と同等となる注入材の水セメント比及び混合割合を設定する設定方法の一例を説明する。
【0034】
図3(A)は、一軸圧縮強度と、水セメント比(w/c)と、注入材120の混合体積比(混合割合)と、の関係を示グラフである。
図3(A)の目標強度は、周辺地盤102(
図1参照)の強度特性と同等である一軸圧縮強度である。そして、このグラフから目標強度となる注入材120の水セメント比(w/c)及び混合体積比(混合割合)を求める。
【0035】
なお、
図3(B)は、注入材120の混合体積比(混合割合)を説明する説明図である。すなわち、注入材120と泥土150との比が2対1の場合は、注入材120の混合体積比が67%であり、注入材120と泥土150との比が1対1の場合は、注入材120の混合体積比が50%であり、注入材120と泥土150との比が1対2の場合は、注入材120の混合体積比が33%である。
【0036】
また、目標強度は、施工条件や既往の地盤調査による周辺地盤102の強度特性、例えば一軸圧縮強度、N値及び変形係数等から設定する。
【0037】
(第四工程)
第三工程で設定された水セメント比及び混合割合とから、
図1(E)で注入する注入材120の水セメント比及び注入量を設定する。なお、注入材120の注入量は、注入材120と試験用泥土との混合割合(混合体積比)とオーガースクリュー200で撹拌混合する杭周土塊110(
図1参照)の体積から求めればよい。
【0038】
(泥土の含水比の詳細)
次に、泥土150(
図1参照)の含水比の設定方法の詳細について説明する。
【0039】
まず、既存杭10の周囲の杭周土塊110(
図1参照)の含水比ω0を設定する。なお、杭周土塊110の含水比ω0を設定方法は、どのような方法であってもよいが、次にその一例を説明する。
【0040】
既存杭10の周囲の杭周土塊110を採取したサンプリング試料に湿潤密度試験を行って杭周土塊110の湿潤密度ρtを設定する。なお、杭周土塊110でなく、周辺地盤102(
図1参照)を採取してサンプリング試料としてもよい。また、湿潤密度試験ができない場合は、サンプリング試料の採取深度のN値から推定される湿潤密度ρtを設定する。
【0041】
サンプリング試料に土粒子密度試験を行って杭周土塊110の粒子密度ρsを設定する。土粒子密度試験ができない場合は、一般的な土の土粒子密度値2.6~2.7g/cm3を採用する。
【0042】
これら湿潤密度ρt及び粒子密度ρsから飽和度Srが100%として杭周土塊110の含水比ω0を設定する。湿潤密度ρtは、下記[数1]で表すことができる。
【0043】
【0044】
[数1]に
ρw(水の密度)=1g/cm3
Sr=100
を代入し、
左辺をω0として整理すると、下記[数2]となる。
【0045】
【0046】
そして、上記の[数2]に杭周土塊110の湿潤密度ρt及び粒子密度ρsを入れて計算することで、杭周土塊110の含水比ω0が求められる。
【0047】
次に、既存杭10の杭径φ1とオーガースクリュー200のオーガースクリュー径φ2とから(
図4参照)、杭孔50(
図1参照)に充填される水の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bを求める。
【0048】
オーガースクリュー200で撹拌混合される地盤が杭周土塊110であるとし、杭10の杭径φ1が深度方向に一定の場合、A/Bは下記[数3]で計算できる。
【0049】
【0050】
なお、既存杭10の下端部が拡径している等で杭径が深度方向に一定でない場合は、適宜、計算する。例えば、深度方向に杭径が一定でない既存杭10を引き抜いたあと充填される水の体積Aを求める。オーガースクリュー200で撹拌混合される範囲から体積Aを差し引き、杭周土塊110の体積Bを求める。これらからの体積比A/Bを求める。
【0051】
求めた杭孔50に充填される水124の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bを用いて、既存杭10の体積分に相当する水が杭孔50内に充填された場合の泥土150の含水比ω1を下記[数4]を用いて計算して設定する。
【0052】
【0053】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0054】
一軸圧縮強度を行う試験用泥土は、既存杭10が撤去された後の杭孔50に水124が充填されたとして設定した泥土150の含水比ω1に調整するので、試験用泥土を杭周土塊110や周辺地盤102の含水比ω0に調整する場合と比較し、試験用泥土の含水比ω1の再現精度が高い。
【0055】
したがって、杭孔50を埋め戻した埋戻地盤130の一軸圧縮強度と周辺地盤102の強度特性とを同等にする精度が向上する。
【0056】
また、既存杭10の杭径φ1とオーガースクリュー200のスクリュー径φ2とを用いることで、水124の体積Aと既存杭10の杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bを容易に設定できる。
【0057】
ここで、
図4(A)と
図4(B)とは、杭孔50に充填された水124の体積Aと既存杭10の杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bが異なっている例を示している。よって、仮に杭周土塊110の含水比ω0のみを用いると泥土150の含水比ω1が正確に設定されない。含水比ω1が異なると、注入材の配合や注入率が同じでも、一軸圧縮強度が変化する。このため、最終的に埋戻地盤130(
図1参照)の強度特性が周辺地盤102の強度特性と大きく異なる虞がある。
【0058】
したがって、埋戻地盤130の近傍に新しく新設杭を打つために掘削ロッド220で掘削する際、
図5(A)のように仮の埋戻地盤130の強度特性が周辺地盤102の強度特性よりも大きい場合、掘削ロッド220が埋戻地盤130から逸れて削孔精度が落ちてしまう虞がある。或いは、
図5(B)のように仮の埋戻地盤130の強度特性が周辺地盤102の強度特性よりも小さい場合、掘削ロッド220が埋戻地盤130に寄って削孔精度が落ちていく虞がある。
【0059】
これに対して、本実施形態では、埋戻地盤130の強度特性と周辺地盤102の強度特性を同等にする精度が高いので、埋戻地盤130の近傍に新しく新設杭を打つために掘削ロッド220で掘削する際、掘削ロッド220が
図5(A)のように埋戻地盤130から逸れたり、
図5(B)のように埋戻地盤130に寄ったりする虞がない又はその虞が小さい。
【0060】
ここで、
図6は、本実施形態のように杭孔50の水124が充填されたとして設定したω1に泥土150を調整した上で体積比A/Bを変えて作製した試料SA、SB、SCの一軸強度と、埋戻地盤130を採取した試料No1~No6の一軸圧縮強度と、の関係を示している。
【0061】
なお、試料SAは実施工と同じ体積比A/Bである0.16に設定した。試料SA及び試料SBは、実施工と異なる体積A/Bである0.31及び1.1に設定した。また、試料No1~No6は、埋戻地盤130の地下約3mの深度で採取したものを用いた。
【0062】
図6に示すように、埋戻地盤130の地下約3mの深度で採取した試料No1~No6は、ばらつきはあるものの試料SAに近傍に集まっている。よって、これより、杭孔50に水124が充填されたとして設定するのみでなく、体積比A/Bを実施工と合わせると、埋戻地盤130の一軸圧縮強度をより正確に同等とすることができることが判る。
【0063】
<その他>
「杭孔を埋め戻した埋戻地盤及び周辺地盤の強度特性」とは、一軸圧縮強度、N値及び変形係数等によって示される特性である。また、「強度特性が同等」とは、両者の強度特性に差がない又は差が小さいことであり、両者の強度特性が異なることに起因する不具合が生じない又は生じたとしてもその影響が小さいことである。両者の強度特性が異なることに起因する不具合の一例は、前述した
図5(A)のように掘削ロッド220が埋戻地盤130から逸れたり、
図5(B)のように掘削ロッド220が埋戻地盤130に寄ったりして、削孔精度が低下することである。
【0064】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0065】
例えば、上記実施形態では、杭孔50に充填された水124の体積Aと既存杭10の杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bは、既存杭10の杭径φ1とオーガースクリュー200のオーガースクリュー径φ2とから求めたが、これに限定されるものではない。例えば、既存杭10を引き抜いた後の杭孔50の直径を実測して水124の体積を求めてもよい。
【0066】
また、例えば、上記実施形態では、杭孔50に充填された水124の体積Aと既存杭10の杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bを用いて水124と杭周土塊110とが撹拌混合された泥土150の含水比を求めたが、これに限定されるものではない。例えば、地下水位や地盤の飽和度や透水性を考慮して、決定してもよい。
【0067】
また、例えば、注入材は、セメントベントナイト液や流動化処理土等を用いてもよい。
【0068】
また、例えば、注入材の注入方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、オーガースクリューを用いずに、上から投入し、その後オーガースクリューで混合撹拌してもよい。
【0069】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 既存杭
50 杭孔
102 周辺地盤
110 杭周土塊
120 注入材
124 水
130 埋戻地盤
150 泥土
200 オーガースクリュー