(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】高炉スラグ微粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 18/14 20060101AFI20250516BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20250516BHJP
C04B 7/19 20060101ALI20250516BHJP
【FI】
C04B18/14 A
C04B5/00 C
C04B7/19
(21)【出願番号】P 2021108429
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2024-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】平野 燿子
(72)【発明者】
【氏名】久我 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 彦次
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-006743(JP,A)
【文献】特開平04-260644(JP,A)
【文献】特開2003-137618(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101434458(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm
2/g、及び「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70であることを特徴とする高炉スラグ微粉末。
【請求項2】
「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される活性度指数及びフロー値比の値として、材齢28日活性度指数が75%以上、材齢91日活性度指数が95%以上、及びフロー値比が95%以上である請求項1に記載の高炉スラグ微粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高炉スラグ微粉末と、セメントクリンカ粉末と、石膏粉末を含むセメント組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の高炉スラグ微粉末を製造するための方法であって、
上記高炉スラグ微粉末の材料として使用するか否かを判断すべき高炉スラグが、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70の範囲内であるという条件を満たしているかどうかを調べて、上記高炉スラグが上記条件を満たしている場合に、上記高炉スラグを上記高炉スラグ微粉末の材料として選択する高炉スラグ選択工程と、
上記高炉スラグ選択工程で選択された高炉スラグを、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、及びブレーン比表面積が3,000~5,500cm
2/gとなるように、粉砕手段を用いて粉砕して、高炉スラグ微粉末を得る高炉スラグ粉砕工程、
を含むことを特徴とする高炉スラグ微粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉スラグ微粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント業界では、従来、高炉で銑鉄を製造する際に発生する副産物である高炉水砕スラグ等から得られた高炉スラグ微粉末を、セメント混合材として使用している。
セメント混合材としての高炉スラグ微粉末の品質を示す指標の一つとして、塩基度があり、塩基度が高い程、活性が高いことが知られている。国内でセメント混合材として使用されている高炉スラグ微粉末の塩基度は、通常、1.8以上である。塩基度の低い高炉スラグは、セメント混合材として使用することは困難であるとされ、その多くは、破砕した後に、路盤材等の土工資材として使用されている。また、コンクリート用高炉スラグ微粉末の塩基度について、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」には、高炉水砕スラグは、塩基度が1.60以上のものを用いることが定められている。
【0003】
高炉セメントの原料として、強度低下を抑制し得るスラグ粉として、引用文献1には、ブレーン比表面積が4,000~7,000cm2/gであり、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下である、スラグ粉が記載されている。
また、強度発現性が良好でありながら、流動性等に優れた高炉スラグ微粉末として、引用文献2には、累積体積率50%の粒子径が1.0~5.0μmであり、かつ全細孔容積が0.02cm3/g以下であることを特徴とする高炉スラグ微粉末が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-109906号公報
【文献】特開2018-127375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高炉スラグ微粉末の活性を高める技術として、高炉スラグ微粉末の粉末度を大きくすることが知られている。これに関して、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」には、ブレーン比表面積が異なる4種類の高炉スラグ微粉末が規定されており、これらの高炉スラグ微粉末の活性度指数は、ブレーン比表面積が大きくなるにつれて、大きくなっている。
しかし、ブレーン比表面積を大きくすると、粉砕にかかるコストが増大するという問題がある。
本発明の目的は、塩基度が低く(具体的には、1.40~1.70)、かつ、ブレーン比表面積が過度に大きくない(具体的には、3,000~5,500cm2/g)にもかかわらず、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる高炉スラグ微粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g、及び塩基度が1.40~1.70である高炉スラグ微粉末によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1] 5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g、及び「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70であることを特徴とする高炉スラグ微粉末。
[2] 「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される活性度指数及びフロー値比の値として、材齢28日活性度指数が75%以上、材齢91日活性度指数が95%以上、及びフロー値比が95%以上である前記[1]に記載の高炉スラグ微粉末。
[3] 前記[1]又は[2]に記載の高炉スラグ微粉末と、セメントクリンカ粉末と、石膏粉末を含むセメント組成物。
[4] 前記[1]又は[2]に記載の高炉スラグ微粉末を製造するための方法であって、上記高炉スラグ微粉末の材料として使用するか否かを判断すべき高炉スラグが、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70の範囲内であるという条件を満たしているかどうかを調べて、上記高炉スラグが上記条件を満たしている場合に、上記高炉スラグを上記高炉スラグ微粉末の材料として選択する高炉スラグ選択工程と、上記高炉スラグ選択工程で選択された高炉スラグを、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、及びブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/gとなるように、粉砕手段を用いて粉砕して、高炉スラグ微粉末を得る高炉スラグ粉砕工程、を含むことを特徴とする高炉スラグ微粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の高炉スラグ微粉末は、塩基度が低く(具体的には、1.40~1.70)、かつ、ブレーン比表面積が過度に大きくない(具体的には、3,000~5,500cm2/g)にもかかわらず、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の高炉スラグ微粉末は、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g、及び「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70であるものである。
以下、詳しく説明する。
「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度は、以下の式(1)を用いて算出することができる。
塩基度=〔(CaO+MgO+Al2O3)/SiO2〕 ・・・(1)
(式(1)中、CaO、MgO、Al2O3及びSiO2は、各々、高炉スラグ微粉末中の、CaO、MgO、Al2O3及びSiO2の含有率(質量%)である。)
【0009】
本発明の高炉スラグ微粉末の上記式(1)で表される塩基度は、入手の容易性や、活性度指数を大きくする観点から、1.40以上、好ましくは1.42以上、より好ましくは1.44以上、さらに好ましくは1.45以上、特に好ましくは1.48以上である。また、上記塩基度は、塩基度の小さい高炉スラグ微粉末を有効利用する観点からは、1.70以下、好ましくは1.65以下、より好ましくは1.63以下、さらに好ましくは1.60未満、さらに好ましくは1.55以下、特に好ましくは1.50以下である。なお、上記塩基度が1.70を超える高炉スラグ微粉末は、粒度分布の調整等を行わなくても、活性度指数が十分に大きいものである。
【0010】
高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径は、1.60μm以下、好ましくは1.55μm以下、より好ましくは1.50μm以下、さらに好ましくは1.45μm以下、特に好ましくは1.40μm以下である。上記5%体積累積粒径が1.60μmを超えると、高炉スラグ微粉末の活性度指数が小さくなり、高炉スラグ微粉末をセメント混合材として使用することが難しくなる。また、上記5%体積累積粒径は、フロー値比の向上、及び、粉砕にかかるコストを低減する観点からは、好ましくは1.20μm以上、より好ましくは1.25μm以上、特に好ましくは1.30μm以上である。
なお、本明細書中、「5%体積累積粒径」とは、レーザー回折散乱粒度分布測定装置等を用いて粒子の粒径を測定し、その測定された粒子の粒径に基づいて、粒径の小さい順から累積していった場合に得られた体積累積分布5%における粒径である。「10%体積累積粒径」、「50%体積累積粒径」、及び「90%体積累積粒径」も同様である。
高炉スラグ微粉末の10%体積累積粒径は、2.20μm以下、好ましくは2.15μm以下、より好ましくは2.10μm以下、さらに好ましくは2.05μm以下、特に好ましくは2.00μm以下である。上記10%体積累積粒径が2.20μmを超えると、高炉スラグ微粉末の活性度指数が小さくなり、高炉スラグ微粉末をセメント混合材として使用することが難しくなる。また、上記10%体積累積粒径は、フロー値比の向上、及び、粉砕にかかるコストを低減する観点からは、好ましくは1.70μm以上、より好ましくは1.75μm以上、特に好ましくは1.80μm以上である。
【0011】
高炉スラグ微粉末の50%体積累積粒径は、高炉スラグ微粉末の活性度指数を大きくする観点からは、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは9.5μm以下、特に好ましくは9.0μm以下である。また、上記50%体積累積粒径は、フロー値比の向上、及び、粉砕にかかるコストを低減する観点からは、好ましくは4.0μm以上、より好ましくは4.5μm以上、特に好ましくは5.0μm以上である。
高炉スラグ微粉末の90%体積累積粒径は、高炉スラグ微粉末の活性度指数を大きくする観点からは、好ましくは40.0μm以下、より好ましくは38.0μm以下、特に好ましくは36.0μm以下である。また、上記90%体積累積粒径は、フロー値比の向上、及び、粉砕にかかるコストを低減する観点からは、好ましくは10.0μm以上、より好ましくは15.0μm以上、特に好ましくは18.0μm以上である。
【0012】
高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、3,000~5,500cm2/g、好ましくは3,100~5,300cm2/g、より好ましくは3,300~5,000cm2/g、さらに好ましくは3,500~4,500cm2/g、特に好ましくは3,600~4,000cm2/gである。上記ブレーン比表面積が3,000cm2/g未満であると、高炉スラグ微粉末の活性度指数が小さくなる。また、高炉スラグ微粉末をセメント混和材として使用した場合に、該セメント混和材を含むセメント組成物の強度発現性が低下する。上記ブレーン比表面積が5,500cm2/gを超えると、フロー値比が低下し、粉砕にかかるコストが大きくなる。
なお、本明細書中、「ブレーン比表面積」とは、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」の「7.3 比表面積」に規定されている方法によって測定されたものをいう。
【0013】
「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」の「7.4 活性度指数及びフロー値比」に規定される方法による、高炉スラグ微粉末の材齢28日活性度指数は、好ましくは75%以上、より好ましくは78%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。上記材齢28日活性度指数が75%以上であれば、高炉スラグ微粉末をセメント混合材として用いたセメント組成物の強度発現性をより向上することができることから、セメント混和材としてより好適に用いることができる。上記材齢28日活性度指数の上限値は特に限定されないが、通常、110%(一般的には、105%)である。
「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」の「7.4 活性度指数及びフロー値比」に規定される方法による、高炉スラグ微粉末の材齢91日活性度指数は、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは100%以上、特に好ましくは105%以上である。上記材齢91日活性度指数が95%以上であれば、高炉スラグ微粉末をセメント混合材として用いたセメント組成物の強度発現性をより向上することができることから、セメント混和材としてより好適に用いることができる。上記材齢91日活性度指数の上限値は特に限定されないが、通常、120%(一般的には、110%)である。
【0014】
「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」の「7.4 活性度指数及びフロー値比」に規定される方法による、高炉スラグ微粉末のフロー値比は、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは100%以上である。上記フロー値比が95%以上であれば、高炉スラグ微粉末をセメント混合材として用いたセメント組成物の流動性をより向上することができることから、セメント混和材としてより好適に用いることができる。上記フロー値比の上限値は特に限定されないが、通常、120%(一般的には、110%)である。
【0015】
本発明のセメント組成物は、上述した高炉スラグ微粉末と、セメントクリンカ粉末と、石膏粉末を含むものである。
セメントクリンカとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカ、及び耐硫酸塩ポルトランドセメントクリンカ等の各種ポルトランドセメントクリンカ、エコセメントクリンカ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、セメント組成物の強度発現性等の観点から、普通ポルトランドセメントクリンカが好ましい。
石膏としては、特に限定されるものではなく、無水石膏、二水石膏、及び半水石膏等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
セメント組成物は、必要に応じて他の材料を配合してもよい。必要に応じて配合される他の材料としては、細骨材や、粗骨材や、水や、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤等の各種混和剤や、フライアッシュ、シリカフューム等の各種セメント混合材(混和材)等が挙げられる。
【0017】
セメント組成物100質量%中の高炉スラグ微粉末の割合は、好ましくは1~70質量%、より好ましくは4~60質量%、特に好ましくは8~50質量%である。上記割合が1質量%以上であれば、高炉スラグ微粉末の有効利用をより促進することができる。上記割合が70質量%以下であれば、セメント組成物の強度発現性の低下を防ぐことができる。
【0018】
本発明のセメント組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、(i)セメントクリンカ粉末と、高炉スラグ微粉末と、石膏粉末を同時に混合する方法、(ii)セメント(セメントクリンカ粉末と石膏粉末の混合物)と、高炉スラグ微粉末を混合する方法、(iii)セメント(セメントクリンカ粉末と石膏粉末の混合物)と、高炉スラグ微粉末と石膏粉末の混合物を混合する方法等が挙げられる。
(iii)の方法において、高炉スラグ微粉末と石膏粉末の混合物は、高炉スラグ微粉末と石膏粉末を混合してなる混合物もよく、高炉スラグと石膏を同時に粉砕してなる混合物であってもよい。
また、セメント組成物の製造方法において、水を混合する場合、高炉スラグ微粉末、セメントクリンカ粉末、及び石膏粉末の混合物と、水を混合してもよく、セメント(セメントクリンカ粉末及び石膏粉末の混合物)と、水と、高炉スラグ微粉末を同時に混合してもよい。
【0019】
本発明の高炉スラグ微粉末を製造するための方法の一例としては、本発明の高炉スラグ微粉末の材料として使用するか否かを判断すべき高炉スラグが、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70の範囲内であるという条件を満たしているかどうかを調べて、高炉スラグが上記条件を満たしている場合に、高炉スラグを本発明の高炉スラグ微粉末の材料として選択する高炉スラグ選択工程と、高炉スラグ選択工程で選択された高炉スラグを、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、及びブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/gとなるように、粉砕手段を用いて粉砕して、高炉スラグ微粉末を得る高炉スラグ粉砕工程、を含む方法が挙げられる。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0020】
[高炉スラグ選択工程]
本工程は、本発明の高炉スラグ微粉末の材料として使用するか否かを判断すべき高炉スラグが、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70の範囲内であるという条件を満たしているかどうかを調べて、高炉スラグが上記条件を満たしている場合に、高炉スラグを本発明の高炉スラグ微粉末の材料として選択する工程である。
本工程において、判断の対象となる高炉スラグとしては、特に限定されるものではなく、例えば、高炉で銑鉄を製造する際に副生する溶融状態のスラグを、水で急冷、破砕して得られる高炉水砕スラグが挙げられる。また、上記高炉スラグは、塊状物であっても粉粒状物であってもよい。
【0021】
本工程において、目的とする高炉スラグ微粉末の活性度指数や、高炉スラグの有効利用等を考慮して、上記条件である塩基度の数値範囲を適宜変更してもよい。
例えば、入手の容易性や、目的とする高炉スラグ微粉末の活性度指数を大きくする観点から、塩基度の数値範囲の下限値を、好ましくは1.42、より好ましくは1.44、さらに好ましくは1.45、特に好ましくは1.48に定めてもよい。また、塩基度の小さい高炉スラグ微粉末を有効利用する観点から、塩基度の数値範囲の上限値を、好ましくは1.65、より好ましくは1.63、さらに好ましくは1.60、さらに好ましくは1.55、特に好ましくは1.50に定めてもよい。
【0022】
上記高炉スラグの塩基度が上記条件を満たしている場合、該高炉スラグは、後述する高炉スラグ粉砕工程において粉砕される。上記条件を満たさない高炉スラグは、後述する高炉スラグ粉砕工程において粉砕されず、他の用途に用いたり、他の粉砕方法によって粉砕される。例えば、上記高炉スラグの塩基度が、1.70を超える場合、このような高炉スラグは、後述する高炉スラグ粉砕工程において、得られる高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等の数値が特定の数値範囲内となるように粉砕しなくても、活性度指数が十分に大きい高炉スラグ微粉末を得ることができることから、一般的な粉砕方法によって粉砕した後、セメント混合材用の高炉スラグ微粉末として使用することができる。また、上記高炉スラグの塩基度が1.40未満である高炉スラグは、入手が困難である。
【0023】
[高炉スラグ粉砕工程]
本工程は、高炉スラグ選択工程で選択された高炉スラグを、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、及びブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/gとなるように、粉砕手段を用いて粉砕して、高炉スラグ微粉末を得る高炉スラグ粉砕工程である。
また、上記高炉スラグと、上述のセメント組成物に含まれる石膏粉末の少なくとも一部に相当する量の石膏を本工程において、同時に粉砕してもよい。
上記高炉スラグを粉砕して得られる高炉スラグ微粉末の、5%体積累積粒径、10%体積累積粒径、及びブレーン比表面積等の数値範囲は、目的とする高炉スラグ微粉末の活性度指数や、フロー値等を考慮して、適宜変更してもよい。上記5%体積累積粒径、上記10%体積累積粒径、及び上記ブレーン比表面積等の数値範囲は、上述した本発明の高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径、10%体積累積粒径、及びブレーン比表面積等の数値範囲と同様である。
【0024】
粉砕手段としては、特に限定されず、公知の粉砕機等を用いることができる。粉砕手段の例としては、ボールミル、竪型ローラーミル、ディスクミル、及びジェットミル等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよいが、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、粉砕手段はバッチ式であっても連続式であってもよいが、本発明の高炉スラグ微粉末を容易にかつ確実に得る観点からは、バッチ式が好ましい。また、粉砕時に粉砕助剤を混合してもよい。
本工程において、粉砕後又は粉砕中に、高炉スラグを粉砕してなる粉砕物を、分級手段を用いて分級して、高炉スラグ微粉末を得てもよい。
また、分級手段によって、分級された粗粒分(上記高炉スラグ微粉末に含まれないもの)を、上記粉砕手段に戻して、再度粉砕してもよい。なお、本発明の高炉スラグ微粉末を容易にかつ確実に得る観点からは、一切の分級手段を用いることなく粉砕することが好ましい。
【0025】
以下、上記粉砕手段を用いて高炉スラグを粉砕し、高炉スラグ微粉末を得る方法の例について、具体的に説明する。
[ボールミルを用いた粉砕方法]
粉砕手段としてボールミルを用いる場合、用いられるボールの径をより小さいものにする、及び、粉砕時間をより長くする、の少なくともいずれか一方を行うことによって、得られる高炉スラグ微粉末中の微粉の割合を多くして、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができる。
上記ボールの径は、ボールミルの形状や投入される高炉スラグの量等によっても異なるが、好ましくは10~40mm、より好ましくは15~25mmである。該径が10mm以上であれば、粉砕に要する時間をより短くすることができる。該径が40mm以下であれば、高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径及び10%体積累積粒径をより小さくすることができる。
上記粉砕時間は、ボールミルの形状や投入される高炉スラグの量等によっても異なるが、好ましくは75分間以上、より好ましくは90分間以上、特に好ましくは120分間以上である。上記時間が75分間以上であれば、高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径及び10%体積累積粒径をより小さくすることができる。上記時間の上限値は特に限定されないが、粉砕に要する時間が過大になることを防ぐ観点から、好ましくは360分間、より好ましくは300分間、特に好ましくは260分間である。
【0026】
粉砕の際のボールミルの回転数は、ボール径の大きさや投入される高炉スラグの量等によっても異なるが、好ましくは10~100rpm、より好ましくは15~80rpm、特に好ましくは20~50rpmである。
また、ボール(ボールの合計量)と高炉スラグの質量比(ボール/高炉スラグ)は、ボール径の大きさやボールミルの回転数等によっても異なるが、好ましくは5~20、より好ましくは8~15、特に好ましくは9~12である。
【0027】
[竪型ローラーミルを用いた粉砕方法]
竪型ローラーミルには、通常、その上部に分級機が配設されている。竪型ローラーミルの粉砕部位において粉砕された粉砕物は、気流によって吹き上げられて、空気と共に分級機に送り込まれる。次いで、分級機において分級されて、微粒分と粗粒分に分けられる。なお、粗粒分は、竪型ローラーミルの粉砕部位に再度投入されて粉砕されてもよい。
ここで、上記分級機には、回転体がない「固定式」と、回転体を有する「回転式」がある。
粉砕手段として、固定式の分級機が配設された竪型ローラーミルを用いる場合、分級機の、空気(吹き上げられた粉砕物を含むもの)の流入口に配設された固定羽根(固定ベーン)の角度を調整して、上記流入口の分級機に空気が流入する領域(空気が通過し得る領域)の断面積を小さくする等によって、空気の流入速度を大きくし、分級される微粒分の粒径をより小さくすることができる。このような固定羽根の調整によって、上記微粒分として、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができる。
【0028】
また、粉砕手段として、回転式の分級機が配設された竪型ローラーミルを用いる場合、回転体の回転数、及び、風量の少なくともいずれか一方を調整することによって、粉砕物の粒度調整を行うことができる。例えば、回転体の回転数を多くし、かつ、風量を大きくすることによって、分級される微粒分の粒径をより小さくすることができる。このような回転体の回転数等の調整によって、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができる。
【0029】
また、2種以上の粒度分布の異なる高炉スラグ粉砕物を混合して、本発明の高炉スラグ微粉末を得てもよい。例えば、複数の粉砕手段を用いて、別々に高炉スラグを粉砕した後、得られた複数の粉砕物を、混合物の5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、及びブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/gとなるような配合割合で適宜混合して、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)高炉スラグA~D:各高炉スラグについて化学組成、及び、該化学組成を用いて算出した「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度を表1に示す。なお、高炉スラグとしては、高炉水砕スラグを用いた。
【0031】
【0032】
[実施例1]
表2に示す種類の高炉スラグを、内寸直径が600mm、長さが450mm、容積が0.13m3であるバッチ式のボールミルを用いて粉砕して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。なお、粉砕は、高炉スラグ20kgに対して、ボール径が20mmであるボールを220kg使用し、ボールミルの回転数が30rpmの条件で、90分間行った。
得られた高炉スラグ微粉末の、5%体積累積粒径(表2中、「D5」と示す。)、10%体積累積粒径(表2中、「D10」と示す。)、50%体積累積粒径(表2中、「D50」と示す。)、及び90%体積累積粒径(表2中、「D90」と示す。)を、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、製品名「MT3300EX II」)を用いて測定した。なお、測定の際に用いられる溶媒としては、エタノールを使用した。
また、得られた高炉スラグ微粉末の材齢28日活性度指数、材齢91日活性度指数、及びフロー値比を、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に準拠して測定した。セメントは、製造会社が異なる、3種類の市販の普通ポルトランドセメントを混合したものを使用した。
【0033】
[実施例2]
粉砕時間を210分間にした以外は、実施例1と同様にして、高炉スラグ微粉末を得た後、得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例1]
粉砕時間を50分間にした以外は、実施例1と同様にして、高炉スラグ微粉末を得た後、得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
【0034】
[比較例2~3]
表2に示す種類の高炉スラグを、連続式の竪型ローラーミルを用いて粉砕して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例4]
表2に示す種類の高炉スラグを、ディスクミルを用いて60分間、粉砕して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例5]
表2に示す種類の高炉スラグを、ジェットミルを用いて40分間、粉砕して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
【0035】
[実施例3]
比較例3で得られた高炉スラグ微粉末と比較例4で得られた高炉スラグ微粉末を、8:2の質量比で混合して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
[実施例4]
比較例3で得られた高炉スラグ微粉末と比較例4で得られた高炉スラグ微粉末を、6:4の質量比で混合して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
[実施例5]
比較例3で得られた高炉スラグ微粉末と比較例4で得られた高炉スラグ微粉末を、4:6の質量比で混合して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
【0036】
[実施例6~12]
表2に示す種類の高炉スラグを、バッチ式のボールミルを用いて粉砕して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。なお、粉砕は、高炉スラグ20kgに対して、ボール径が20mmであるボールを220kg使用し、ボールミルの回転数が30rpmの条件で行った。
また、実施例6~12の粉砕時間は、各々、120、210、100、210、230、240、230分間であった。
[参考例1]
表2に示す種類の高炉スラグを用いた以外は、比較例2と同様にして、高炉スラグ微粉末を得た後、得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
[参考例2]
表2に示す種類の高炉スラグを用いた以外は、比較例4と同様にして、高炉スラグ微粉末を得た後、得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
[参考例3]
参考例1で得られた高炉スラグ微粉末と参考例2で得られた高炉スラグ微粉末を、8:2の質量比で混合して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。得られた高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径等を実施例1と同様にして測定した。
各々の結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
表2の実施例1~12から、本発明の高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は3,140~5,410cm2/gであるが、上記高炉スラグ微粉末の「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される、材齢28日活性度指数は81~101%、材齢91日活性度指数は95~110%、及びフロー値比は95~103%であることがわかる。
一方、比較例1(ブレーン比表面積が2,010cm2/gであるもの)のフロー値比は80%であり、小さいことがわかる。
比較例2~3、5(5%体積累積粒径が1.69~1.73μm、10%体積累積粒径が2.23~2.40μmであるもの)の高炉スラグ微粉末について、材齢28日活性度指数は68~79%、材齢91日活性度指数は83~91%であり、上記高炉スラグ微粉末は、活性度指数の低いものであることがわかる。