(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】外圧式中空糸膜モジュールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20250516BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20250516BHJP
【FI】
B01D63/02
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2021176878
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2024-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2020181743
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】谷口 超
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-100105(JP,A)
【文献】国際公開第2018/146788(WO,A1)
【文献】特開2015-182056(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175409(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/043679(WO,A1)
【文献】米国特許第04666469(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部が閉塞され他方の端部が開口された複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束と、
側面に少なくとも1つのノズルを有した筒状体であり、前記中空糸膜の閉塞された端部および前記中空糸膜の開口された端部がそれぞれ前記筒状体の長手方向の両端側に向くように、前記中空糸膜束を収容するハウジングと、
前記中空糸膜束の開口された端部と前記ハウジングの端部との間に装着された第1の整流筒と、
前記中空糸膜束の閉塞された端部と前記ハウジングの端部との間に装着された第2の整流筒と、
前記中空糸膜の開口された端部側において、前記中空糸膜同士、および前記中空糸膜束と前記ハウジング内壁とを接着固定した第1の接着固定部と、
前記中空糸膜の閉塞された端部側において、前記中空糸膜同士、および前記中空糸膜束と前記ハウジング内壁とを接着固定し、前記中空糸膜束の外周において前記ハウジングの長手方向に平行な少なくとも1つの貫通孔を有する第2の接着固定部と、
前記第1の接着固定部から前記第2の接着固定部に向かって少なくとも所定の長さの端部領域、および前記第2の接着固定部から前記第1の接着固定部に向かって少なくとも所定の長さの端部領域の少なくとも一方において、前記中空糸膜束の外周面に密着した状態で該外周面を全周囲に亘って覆う保護部材と、
開口部を有し、前記ハウジングの長手方向両端に取り付けられたキャップとを備え、
前記貫通孔が、前記中空糸膜束の外周面に隣接するように配置され、前記ハウジングの長手方向に直交する方向の前記貫通孔の断面形状が幅を有する部分円弧状であり、
前記ハウジングの長手方向に直交する方向の断面において、前記ハウジング内壁で画成される領域の面積から、前記保護部材の外周面で画成される領域の面積を引いた面積Sに対する、前記貫通孔の開口面積の総和Aの比率(A/S)が、0.4~0.6であり、
前記貫通孔の開口面積の総和をA、前記中空糸膜の中空部の開口面積の総和をB、前記キャップの開口部の開口面積をCとして、前記A、B、Cの関係が、0.9<A/B<1.1、かつ0.5<C/B<1.5であり、
前記保護部材が、前記中空糸膜束と前記貫通孔との間において、前記中空糸膜束と前記貫通孔に接するように設けられている
ことを特徴とする、外圧式中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記保護部材が、前記第1の接着固定部から前記第2の接着固定部にわたって配設されている、請求項
1に記載の外圧式中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記保護部材が、ネット状の部材を筒状に形成したものである、請求項1
または2に記載の外圧式中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記ネット状の部材は、線径が0.2~1.5mmであり、開口率が40~90%である、請求項
3に記載の外圧式中空糸膜モジュール。
【請求項5】
少なくとも一方の前記キャップの開口部が、該開口部の内径と同一の内径を有するパッキンでシール固定される構造を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の外圧式中空糸膜モジュール。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の外圧式中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記ハウジングに前記第1の整流筒および前記第2の整流筒を取り付け、前記保護部材で覆われた中空糸膜束を前記ハウジング内に挿入した後、略円盤状の面上に当該略円盤状の面に平行な断面の形状が幅を有する部分円弧状である凸部を少なくとも1つ有する注型治具を、前記保護部材と前記ハウジングとの間に前記凸部が位置するように装着し、前記保護部材と前記ハウジングとの間の空隙をポッティング材で充填固化後、前記注型治具を取り除くことによって、前記中空糸膜束の外周面と前記保護部材とを密着させた状態とし、かつ、前記保護部材の外側に、前記ハウジングの長手方向に直交する方向の断面形状が幅を有する部分円弧状である少なくとも1つの貫通孔を開口させることを特徴とする、外圧式中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外圧式中空糸膜モジュールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や表示素子等の電子・電気部品の製造で用いられる超純水を製造するラインにおいては、精密ろ過膜やイオン交換樹脂、逆浸透ろ過膜等を用いて製造した超純水を、ユースポイントに供給する直前に精密ろ過膜又は限外ろ過膜を用いて最終ろ過している。この最終ろ過には、複数の中空糸膜を束ねてなる中空糸膜束をハウジング内に収容し、中空糸膜の外側に被処理水を供給して中空糸膜の内側(中空部)にろ過する外圧式中空糸膜モジュールが主に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の外圧式中空糸膜モジュールは、その長手方向が鉛直方向となるように立設され、ろ水排出用の上部ノズルと被処理水供給用の下部ノズルとが、ハウジングの長手方向に直交する方向に突き出すように、それぞれ鉛直方向上側および鉛直方向下側に配置されている。中空糸膜の中空部は両端とも開口しており、中空糸膜束の端部はいずれも接着固定層によりハウジングに接着固定されている。下部ノズルから供給された被処理水は、ハウジング内で中空糸膜の外側から内側(中空部)へとろ過され、ハウジングの上下両端からろ水が、上部ノズルから排出水が排出される。
【0004】
また、特許文献2に記載の外圧式中空糸膜モジュールは、その長手方向が鉛直方向となるように立設され、排出水排出用のノズルが、ハウジングの長手方向に直交する方向に突き出すように、鉛直方向上側に配置されている。中空糸膜は、中空部の一端は封止され、中空部の他端は開口しており、封止端が鉛直方向下側、開口端が鉛直方向上側となるようにハウジング内で配置されている。また、中空糸膜束の開口端側のみがハウジングに接着固定されている。ハウジングの下端から供給された被処理水は、ハウジングの内壁と中空糸膜の一端を封止する封止部との隙間を通って中空糸膜の外側に供給されて中空糸膜の内側(中空部)へとろ過され、ハウジングの上端からろ水が、ノズルから排出水が排出される。
【0005】
特許文献3に記載の外圧式中空糸膜モジュールでは、特許文献2と同様に、被処理水がハウジングの下端から供給されると、中空糸膜の外側から内側(中空部)へとろ過され、ハウジングの上端からろ水が、ノズルから排出水が排出される構造であるが、中空糸膜束の両端(封止端および開口端)が接着固定部によりハウジングに接着固定されている。また、ハウジングの下端から供給された被処理水は、接着固定部に設けられた貫通孔を通って中空糸膜の外側に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-45453号公報
【文献】特開2015-182056号公報
【文献】特開2017-100105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の外圧式中空糸膜モジュールでは、下部ノズルから被処理水が中空糸膜に対して垂直方向に供給され、上部ノズルから排出水が中空糸膜に対して垂直方向に排出されるため、中空糸膜に対して垂直方向の水圧が加わり、中空糸膜束の両端固定部分に応力が集中し、中空糸膜の端部(根元)で破損が生じやすいという問題がある。
【0008】
特許文献2に記載の外圧式中空糸膜モジュールでは、被処理水が中空糸膜に対して平行に供給されるため、被処理水の供給により生じる上記のような応力の集中は緩和される。しかしながら、排出水の排出により生じる応力の集中は依然として残るため、排出水の排出ノズル付近での最大撓み量が大きくなり、やはり中空糸膜の端部(根元)で破損が生じやすいという問題がある。また、中空糸膜の封止端側はハウジングに接着固定されていないため、被処理水の流入により中空糸膜束が押し上げられ、中空糸膜の座屈が生じる場合がある。
【0009】
特許文献3に記載の外圧式中空糸膜モジュールでは、被処理水が中空糸膜に対して平行に供給され、また、中空糸膜束の両端部がハウジングに接着固定されているため、上記のような被処理水の供給により生じる応力の集中は緩和され、最大撓み量も小さくなる。しかしながら、単位容積当たりの中空糸膜数と中空糸膜束に供給される被処理水の水量の両方を増加させ、圧力損失を低減し、効率よくろ過を行うためには、貫通孔の形状や開口面積の点で改良の余地がある。
また、特許文献3に記載の外圧式中空糸膜モジュールは、純水製造装置で清澄化された原水からエンドトキシン除去を行うろ過装置等に好適に用いられるものであるため、超純水の最終ろ過に用いるためには、使用する中空糸膜について更なる改良が必要である。
【0010】
そこで、本発明は、耐久性が高く、内部を通過する流体の圧力分布および速度分布の均一性に優れる外圧式中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述の課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、中空糸膜束に被処理水を供給する貫通孔の開口形状を所定の形状とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
一方の端部が閉塞され他方の端部が開口された複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束と、
側面に少なくとも1つのノズルを有した筒状体であり、前記中空糸膜の閉塞された端部および前記中空糸膜の開口された端部がそれぞれ前記筒状体の長手方向の両端側に向くように、前記中空糸膜束を収容するハウジングと、
前記中空糸膜束の開口された端部と前記ハウジングの端部との間に装着された第1の整流筒と、
前記中空糸膜束の閉塞された端部と前記ハウジングの端部との間に装着された第2の整流筒と、
前記中空糸膜の開口された端部側において、前記中空糸膜同士、および前記中空糸膜束と前記ハウジング内壁とを接着固定した第1の接着固定部と、
前記中空糸膜の閉塞された端部側において、前記中空糸膜同士、および前記中空糸膜束と前記ハウジング内壁とを接着固定し、前記中空糸膜束の外周において前記ハウジングの長手方向に平行な少なくとも1つの貫通孔を有する第2の接着固定部と、
前記第1の接着固定部から前記第2の接着固定部に向かって少なくとも所定の長さの端部領域、および前記第2の接着固定部から前記第1の接着固定部に向かって少なくとも所定の長さの端部領域の少なくとも一方において、前記中空糸膜束の外周面に密着した状態で該外周面を全周囲に亘って覆う保護部材と、
開口部を有し、前記ハウジングの長手方向両端に取り付けられたキャップとを備え、
前記貫通孔が、前記中空糸膜束の外周面に隣接するように配置され、前記ハウジングの長手方向に直交する方向の前記貫通孔の断面形状が幅を有する部分円弧状であり、
前記ハウジングの長手方向に直交する方向の断面において、前記ハウジング内壁で画成される領域の面積から、前記保護部材の外周面で画成される領域の面積を引いた面積Sに対する、前記貫通孔の開口面積の総和Aの比率(A/S)が、0.4~0.6であり、
前記貫通孔の開口面積の総和をA、前記中空糸膜の中空部の開口面積の総和をB、前記キャップの開口部の開口面積をCとして、前記A、B、Cの関係が、0.9<A/B<1.1、かつ0.5<C/B<1.5であり、
前記保護部材が、前記中空糸膜束と前記貫通孔との間において、前記中空糸膜束と前記貫通孔に接するように設けられている
ことを特徴とする、外圧式中空糸膜モジュール。
[2]
前記保護部材が、前記第1の接着固定部から前記第2の接着固定部にわたって配設されている、[1]に記載の外圧式中空糸膜モジュール。
[3]
前記保護部材が、ネット状の部材を筒状に形成したものである、[1]または[2]に記載の外圧式中空糸膜モジュール。
[4]
前記ネット状の部材は、線径が0.2~1.5mmであり、開口率が40~90%である、[3]に記載の外圧式中空糸膜モジュール。
[5]
少なくとも一方の前記キャップの開口部が、該開口部の内径と同一の内径を有するパッキンでシール固定される構造を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の外圧式中空糸膜モジュール。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の外圧式中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記ハウジングに前記第1の整流筒および前記第2の整流筒を取り付け、前記保護部材で覆われた中空糸膜束を前記ハウジング内に挿入した後、略円盤状の面上に当該略円盤状の面に平行な断面の形状が幅を有する部分円弧状である凸部を少なくとも1つ有する注型治具を、前記保護部材と前記ハウジングとの間に前記凸部が位置するように装着し、前記保護部材と前記ハウジングとの間の空隙をポッティング材で充填固化後、前記注型治具を取り除くことによって、前記中空糸膜束の外周面と前記保護部材とを密着させた状態とし、かつ、前記保護部材の外側に、前記ハウジングの長手方向に直交する方向の断面形状が幅を有する部分円弧状である少なくとも1つの貫通孔を開口させることを特徴とする、外圧式中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐久性が高く、内部を通過する流体の圧力分布および速度分布の均一性に優れる外圧式中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る外圧式中空糸膜モジュールの一実施形態の概略構造を示す縦端面図である。
【
図2】
図1に示す外圧式中空糸膜モジュールを、線A-Aに沿う面により切断したときの断面図である。
【
図3】(a)は、
図1に示す外圧式中空糸膜モジュールを製造する際に、貫通孔を作製するために用いる注型治具の一例を示す斜視図である。(b)は、
図1に示す外圧式中空糸膜モジュールを製造する際に、第1の接着固定部を作製するために第1の筒状部材の端部に取り付ける、遠心注型のためのカップを示す斜視図である。
【
図4】実施例および比較例のろ過評価に用いた評価装置を示す模式図である。(a)は実施例1、2及び比較例2-1で用いた評価装置、(b)は比較例1で用いた評価装置を示す。
【
図5】実施例3で用いたシミュレーションモデルを示す概略図である。(a)は全体を示し、(b)はinlet付近の構造を示す。
【
図6】実施例3の流れ解析のシミュレーション結果を示す図である。(a)は水の圧力分布、(b)は水の速度分布を示す。
【
図7】実施例4の流れ解析のシミュレーション結果を示す図である。(a)は水の圧力分布、(b)は水の速度分布を示す。
【
図8】比較例2-2で用いたシミュレーションモデルを示す概略図である。(a)は全体を示し、(b)はinlet付近の構造を示す。
【
図9】比較例2-2の流れ解析のシミュレーション結果として水の速度分布を示す図である。(a)はシミュレーションモデルの長手方向から見た分布図であり、(b)はシミュレーションモデルの長手方向に直行する方向から見た分布図である。
【
図10】比較例3で用いたシミュレーションモデルを示す概略図である。(a)は全体を示し、(b)はinlet付近の構造を示す。
【
図11】比較例3の流れ解析のシミュレーション結果を示す図である。(a)は水の圧力分布、(b)は水の速度分布を示す。
【
図12】比較例4で用いたシミュレーションモデルを示す概略図である。(a)は全体を示し、(b)はinlet付近の構造を示す。
【
図13】比較例4の流れ解析のシミュレーション結果を示す図である。(a)は水の圧力分布、(b)は水の速度分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
[外圧式中空糸膜モジュール]
本実施形態の外圧式中空糸膜モジュールは、特に、シリコンウェハ、LSI、液晶等製造時の洗浄に用いられる超純水の最終ろ過膜モジュールとして好適に利用されるものである。
本実施形態の外圧式中空糸膜モジュール(以下、単に「中空糸膜モジュール」ともいう。)の一例の構成について、図を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の外圧式中空糸膜モジュールの一例の概略構造を示す縦端面図である。なお、
図1においては、その上下方向を矢印で示している。また、以下、
図1に示す上下方向を中空糸膜モジュール1の上下方向として説明する。
【0018】
図1に示されるように、本実施形態の中空糸膜モジュール1は、複数の中空糸膜2が束ねられた中空糸膜束3と、中空糸膜束3を収容する筒状のハウジング4と、キャップ8a、8bとを備えるものである。
【0019】
中空糸膜2としては、逆浸透膜、ナノ濾過膜、限外ろ過膜、および精密ろ過膜を用いることが出来る。中空糸膜の素材は、特に限定されず、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、セルロース、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、およびポリテトラフルオロエチレン等が挙げられ、また、これらの複合素材も使用することができる。
【0020】
中空糸膜の形状としては、内径が100~3,000μm、外径が200~4,000μmであることが好ましく、より好ましくは内径が200~2,000μm、外径が300~3,000μm、更に好ましくは内径が400~1,000μm、外径が500~2,000μmである。内径、外径が上記範囲であると、透過流束と耐久性を兼ね備え、超純水の最終ろ過に好適に用いることができる。
【0021】
中空糸膜の分画分子量は、6000以上であることが好ましく、より好ましくは6000超である。中空糸膜の分画分子量が上記範囲であると、シリコンウェハ、LSI、液晶等製造時の洗浄に用いられる超純水の最終ろ過膜モジュールとして好適に使用することができる。一般に、超純水としては、混在する微粒子の数が少なく、また、混在したとしても小さい微粒子のみに抑えられたものが望まれるが、シリコンウェハ、LSI、液晶等製造時の洗浄に用いられる超純水としては、シリコンウェハ等の表面不純物を洗い流すことを使用目的としているため、多量の水量を確保するという観点が優先され、上記範囲の分画分子量を有する高透水性の中空糸膜が好ましく用いられる。また、エンドトキシン除去を目的としたろ過では、注射溶液(の希釈水)や医薬品の容器の洗浄等に使用する蒸留水と同等のものをろ過水として得るのが目的であるため、エンドトキシン量を検出限界以下(陰性)にするという、水質面が透過量よりも優先され、分画分子量が上記範囲よりも小さい中空糸膜が使用されることが多い。一方、シリコンウェハ、LSI、液晶等製造時の洗浄用の超純水のろ過では、除去対象物のサイズがエンドトキシンよりも比較的大きく、また、上述のように多量の水量を確保するという観点から、上記範囲の分画分子量を有する高透水性の中空糸膜が好ましく用いられる。
また、中空糸膜の本数は、中空糸膜の寸法や中空糸膜を収納するハウジングの内断面積にもよるが、より多くのろ水を採水する観点から、5,000~20,000本であることが好ましく、より好ましくは7,000~15,000本、更に好ましくは9,000~1,3000本である。
【0022】
ハウジング4の両端開口には、配管が接続される開口部(管路)が形成された、断面ロート状の配管接続用のキャップ8a、8bがそれぞれ設けられ、キャップ8a、8bは、ナット13によりハウジング4に固定装着されている。
キャップ8a、8bのハウジング4側の端面とハウジング4のキャップ8a、8b側の端面には環状の溝が形成されており、この溝によってOリング14が挟まれている。このOリング14により、ハウジング4の両端とキャップ8a、8bとが液密にシールされる。Oリング14によるシール構造は、具体的には、例えば、特開2017-39122号公報に記載の構造とすることができる。
また、キャップ8a、8bの開口部とそれに接続される配管とは、キャップ8a、8bの開口部の内径と同一の内径を有するパッキンでシール固定されることが好ましい。キャップ8a、8bの開口部の内径とパッキンの内径とが同一であると、内部を流れる流体の該当部に関わる液体の滞留や流体の乱れによる発塵が抑制される。
【0023】
ハウジング4は、ノズル12aと一体成型された第1の筒状部材9aと、ノズル12bと一体成型された第2の筒状部材9bと、第1の筒状部材9aと第2の筒状部材9bとの間に配される直管状の第3の筒状部材10とが互いに接合されて構成されている。ノズル12aとノズル12bとは、それぞれハウジング4の端部の側部に設けられ、ハウジング4の長手方向に直交する方向に突き出すように設けられている。ノズル12aは、外圧ろ過処理の過程において排出水が排出されるノズルである。ノズル12bは、本実施形態の中空糸膜モジュール1では特に使用されないため、その開口は封止されている。
【0024】
本実施形態の中空糸膜モジュール1は、その長手方向が鉛直方向となるように立設され、ノズル12aが鉛直方向上側に配置され、ノズル12bが鉛直方向下側に配置されるように設置される。
【0025】
中空糸膜束3の両端部と第1の筒状部材9aおよび第2の筒状部材9bとの間には、
図1に示すように、第1の整流筒11aおよび第2の整流筒11bがそれぞれ装着されている。
第1の整流筒11aおよび第2の整流筒11bは筒状に形成されたものであり、第1の整流筒11aは、上側のノズル12aのハウジング4の内側面側の開口と中空糸膜束3との間に設けられ、第2の整流筒11bは、下側のノズル12bのハウジング4の内側面側の開口と中空糸膜束3との間に設けられ、それぞれ中空糸膜束3の外周を囲むように設けられている。
第1の整流筒11aおよび第2の整流筒11bは、ノズル12aおよびノズル12bの近傍において、中空糸膜束3とハウジング4の内壁との間隔を保持するために設けられたものである。
第1の整流筒11aの上側端部は、後述する第1の接着固定部5a内で接着固定されていても良いし、第2の整流筒11bの下側端部は、後述する第2の接着固定部5b内で接着固定されていても良い。
第1の整流筒11aおよび第2の整流筒11bをハウジング4の両端部に装着することにより、中空糸膜モジュール1の製造において、保護部材7で包んだ中空糸膜束3を後述する遠心接着によりハウジング4内に接着固定する場合に、遠心時に中空糸膜束3が下方へと脱落するのを予防することができる。
【0026】
中空糸膜束3の両端部には、各中空糸膜2同士および中空糸膜束3とハウジング4の内壁とをポッティング材によって接着固定する第1の接着固定部5aおよび第2の接着固定部5bが形成されている。
このように中空糸膜束3の両端を接着固定することにより、片端のみを接着固定する場合と比較して、中空糸膜束3の最大撓み量が小さくなり、応力集中が緩和されるため、中空糸膜2の破断を防止することができ、耐久性の高い中空糸膜モジュールとなる。
【0027】
ポッティング材としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オレフィン系ポリマー、シリコン樹脂、およびフッ素含有樹脂等の高分子材料が好ましい。これらの高分子材料は、1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。
また、これらのポッティング材で構成された第1の接着固定部5aおよび第2の接着固定部5bは、ろ過時に加圧によって生ずる一次側と二次側の差圧に耐え得る耐圧性を有することが必要であり、そのためには適度な硬さを有していることが望ましい。一方、物理洗浄時の流体の流れによる中空糸膜2の破断をより長期間確実に防止するために、適度な柔らかさを有したポッティング材を使用することが望ましい。従って、使用上必要充分な耐圧性を付与し、かつ、確実に膜破断を防止するためには、使用温度範囲で硬度80D~50Aの特性を有するポッティング材を使用することが好ましい。
なお、ここで言う硬度とは、JIS K6253に準拠してデュロメータ硬度計タイプD又はタイプAを実質的に平滑な面を有する資料面に押し当てた時に、10秒後に示した値をいう。この値が80Dを超えると上記の膜破断が起こる場合があり、また、50A未満では耐圧性が不足する場合がある。
【0028】
中空糸膜束3の両端部に形成された第1の接着固定部5aと第2の接着固定部5bとの間の中空糸膜束3の外側には、被処理液が流れ込む領域(以下、「外側領域」という)が形成される。
【0029】
また、
図1に示すように、中空糸膜モジュール1を鉛直方向に立設した場合に下側に位置する第2の接着固定部5bには、少なくとも1つの貫通孔6が形成されている。ここで、
図2は、
図1に示す中空糸膜モジュール1を、線A-Aに沿う面により切断したときの断面図である。
【0030】
貫通孔6は、ハウジング4の長手方向に平行に形成されており、上述した外側領域とキャップ8bの内部とを連通させる孔である。本実施形態においては、貫通孔6は、
図2に示すように、後述する保護部材7とハウジング4の内壁との間の第2の接着固定部5b内に設けられ、中空糸膜束3の外周面に隣接するように配置されている。
貫通孔6は、ハウジング4の長手方向に直交する方向の断面形状(開口形状)が幅を有する部分円弧状である。
なお、本開示で、幅を有する部分円弧状とは、
図2に示すような、ハウジング4の中空部(ハウジングの内壁で画成される領域)の中心を中心とする同心円の部分円弧だけでなく、ハウジングの周方向に沿って延びる形状であればよく、例えば、当該形状を構成する輪郭線が波状やギザ状であるもの等であってもよい。また、部分円弧の端部の形状は、特に限定されず、例えば、
図2に示すような丸みを帯びたものであってもよい。
貫通孔6の開口形状が幅を有する部分円弧状であると、開口形状が円形、楕円形、多角形等である場合と比較して、単位容積当たり多数の中空糸膜2を収容しつつ、貫通孔6の開口面積を大きくとることが可能となり、単位容積当たりの中空糸膜2の数と中空糸膜束3に供給される被処理水の水量とがバランスよく大きな値となり、効率よくろ過を行うことができる。
【0031】
貫通孔6の開口形状について、ハウジング4の中空部の中心を中心とした上記部分円弧の中心角は、例えば、貫通孔6を4カ所設ける場合、45~85°であることが好ましく、より好ましくは60~80°、さらに好ましくは70~80°である。
また、上記部分円弧の幅(ハウジングの中空部の径方向の幅)は、ハウジングの中空部の半径をrとして、0.05r~0.25rであることが好ましく、より好ましくは0.07r~0.20r、さらに好ましくは0.09r~0.12rである。
【0032】
貫通孔6の数は、特に限定されないが、後述する開口面積の総和Aをできるだけ大きな値とする観点から、複数個であることが好ましく、2~8個であることがより好ましく、3~6個であることがさらに好ましい。
貫通孔6が複数存在する場合、各開口(幅を有する部分円弧状の断面)の面積はほぼ同じ(±5%の範囲内)であることが好ましい。
また、貫通孔6が複数存在する場合、貫通孔6は、開口(幅を有する部分円弧)がなす円の円周上に等間隔で設けられていることが好ましい。また、貫通孔6が偶数存在する場合、各貫通孔6は、ハウジング4の中空部の中心を中心として点対象であることが好ましい。
【0033】
ハウジング4の長手方向に直交する方向の断面において、ハウジング4の内壁で画成される領域(中空部)の面積(以下、「ハウジング4の内断面積」ともいう。)から、後述する保護部材7の外周面で画成される領域の面積(以下、「保護部材7の内占有面積」ともいう。)を引いた面積Sに対する、貫通孔6の開口面積の総和Aの比率(A/S)は、0.2~0.7であることが好ましく、より好ましくは0.3~0.6、さらに好ましくは0.4~0.5である。A/Sが上記範囲であると、貫通孔6を通って中空糸膜束3に供給される被処理水の水量が多くなり、効率よくろ過を行うことができる。
【0034】
また、各中空糸膜2の貫通孔6が設けられた側の中空部は、第2の接着固定部5bにより閉塞されており、各中空糸膜2の貫通孔6が形成された側とは反対側の中空部は開口されている。ろ過処理が行われる際には、キャップ8bの開口部から被処理水が流入し、その被処理水が貫通孔6を通過して外側領域に供給される。そして、外側領域に供給された被処理水が各中空糸膜2の外表面から染み込み、各中空糸膜2の中空部を通過したろ水がキャップ8aの開口部から排出され、排出水がノズル12aから排出される。
【0035】
また、中空糸膜モジュール1は、中空糸膜束3の外周面に密着した状態で外周面を全周囲にわたって覆うように設けられた保護部材7を備えている。保護部材7は、第1の接着固定部5aから第2の接着固定部5bに向かって少なくとも所定の長さの端部領域、および第2の接着固定部5bから第1の接着固定部5aに向かって少なくとも所定の長さの端部領域の少なくとも一方に設けられていればよく、
図1に示すように、第1の接着固定部5aから第2の接着固定部5bにわたって中空糸膜束3の全長を覆うように配設されていてもよい。
保護部材7は可撓性を有するものであることが好ましく、材質としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)等のフッ素樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン等のスーパーエンジニアリング樹脂が挙げられる。
【0036】
また、保護部材7は、ネット状の部材を筒状に形成したものであることが特に好ましい。保護部材7として、ネット状ではなく、シート状の部材を筒状に形成したものを用いる場合には、ろ過効率の低下を招かないように、中空糸膜束3の外周面の略全体ではなく、中空糸膜束3の両端部のみ、または中空糸膜束3の一端部のみに設けることが望ましい。
【0037】
保護部材7がネット状の部材である場合、ネットの線径は0.2~1.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.4~1.2mm、さらに好ましくは0.5~1.0mmである。線径が上記範囲であると、水流による中空糸膜束3の膨らみや曲がりなどの変形に追随し、かつネット自身が破損しにくい。
ネット状の保護部材7の開口形状は、特に限定されず、三角形、四角形(菱形、正方形、長方形、平行四辺形等)、六角形等が挙げられる。
ネットを構成するネット糸の断面は、特に限定されず、円形、三角形、四角形等の多角形、楕円形等の何れであってもよい。
また、ネット状の保護部材7の開口率は、多くの被処理水が効率よく中空糸膜束3に供給されるようにするため、40~90%であることが好ましく、より好ましくは50~80%、さらに好ましくは60~70%である。
なお、開口率とは、平面視において投影されたネット糸の存在しない部分の面積から求められる比率をいう。
保護部材7の両端は、それぞれ第1の接着固定部5aおよび第2の接着固定部5b内に位置し、第1の接着固定部5aおよび第2の接着固定部5bによって固定されている。
【0038】
保護部材7は、中空糸膜束3の少なくとも一方の端部において、中空糸膜束3の外周面に密着した状態で設けられている。上記端部とは、具体的には、第2の接着固定部5bと外側領域との境界と、その境界から外側領域側に所定の長さL1だけ延伸した領域とを含む第1端部領域R1と、第1の接着固定部5aと外側領域との境と、その境界から外側領域側に所定の長さL2だけ延伸した領域とを含む第2端部領域R2である。
第1端部領域R1における境界からの長さL1については、5cm以上であることが望ましい。また、本実施形態の中空糸膜モジュール1においては、上述したようにノズル12aから排出水が排出されるが、排出水がノズル12aから排出される際、ノズル12a付近の中空糸膜2に吸引力が働いて破断傾向が高まり、中空糸膜2が破断しやすくなる場合がある。そのため、第2端部領域R2における境界からの長さL2については、第2端部領域R2の下端が、ノズル12aのハウジング4内側面側の開口の下端よりも下側に位置する長さとすることが望ましい。これにより、ノズル12aから排出水が排出される際に発生する吸引力に起因するノズル12a付近の中空糸膜2の変形を抑制することができ、中空糸膜2の破断をより抑制することができる。
ここで、「保護部材7が中空糸膜束3の外周面に密着した状態」とは、保護部材7の内周の長さをL、保護部材7に接触している中空糸膜2の本数をm、保護部材7内に充填された中空糸膜2の外径をdとしたとき、md/Lを密着率として、md/Lが0.90以上である状態を密着した状態と定義する。密着率は高いほど好ましく、md/Lが0.95以上であることがより好ましい。なお、中空糸膜2の外径に比べて保護部材7の内径が十分大きい場合、理論上、保護部材7に接触可能な最外周部の中空糸膜2の最大本数をMとすると、L≒Mdが成り立つので、md/L≒md/Md=m/Mの近似式が成立する。
また、保護部材7と中空糸膜2とが接触しているとは、中空糸膜束3の最外周部に配置された中空糸膜2と保護部材7とが、第1の接着固定部5aおよび第2の接着固定部5bの厚み方向(中空糸膜2の長手方向)について少なくとも1点以上で接触していることをいう。
【0039】
本実施形態の中空糸膜モジュール1は、貫通孔6の開口面積の総和をA、中空糸膜2の中空部の開口面積の総和をB、キャップ8a、8bの開口部の開口面積をCとしたときに、A、B、Cの関係が、0.5<A/B<1.5、かつ0.5<C/B<1.5である。A/BおよびC/Bが上記範囲であると、特定箇所への応力の集中が低減され、中空糸膜モジュール1の内部を通過する流体の圧力分布および速度分布の均一性が向上する。それにより、圧力損失が低減され、より多くのろ水を効率よく採水することができる。
A/Bは、より好ましくは0.8<A/B<1.2、更に好ましくは0.9<A/B<1.1である。また、C/Bは、より好ましくは0.8<C/B<1.2、更に好ましく0.9<C/B<1.1はである。
【0040】
本実施形態の中空糸膜モジュールは、モジュールあたりのろ水量(透過水量)が10m3/h以上であることが好ましく、より好ましくは12m3/h以上、更に好ましくは16m3/h以上である。モジュールあたりのろ水量が上記範囲であると、シリコンウェハ、LSI、液晶等製造時の洗浄に用いられる超純水の最終ろ過膜モジュールとして好適に使用することができる。
【0041】
[外圧式中空糸膜モジュールの製造方法]
本実施形態の外圧式中空糸膜モジュールの製造方法は、ハウジング4に第1の整流筒11aおよび第2の整流筒11bを取り付け、保護部材7で覆われた中空糸膜束3をハウジング4内に挿入した後、略円盤状の面上に当該略円盤状の面に平行な断面の形状が円弧状である凸部を少なくとも1つ有する注型治具を、保護部材7とハウジング4との間に凸部が位置するように装着し、保護部材7とハウジング4との間の空隙をポッティング材で充填固化後、注型治具を取り除くことによって、中空糸膜束3の外周面と保護部材7とを密着させた状態とし、かつ、保護部材7の外側に、ハウジング4の長手方向に直交する方向の断面形状が円弧状である少なくとも1つの貫通孔6を開口させることを特徴とする。
【0042】
本実施形態の外圧式中空糸膜モジュールの製造方法は、まず、所定の本数の中空糸膜2を束として整え、中空糸膜束3を作製する。続いて、中空糸膜束3の各中空糸膜2の一方の端部の開口を、封止材で封止する。
次に、第3の筒状部材10の両端に対して、第1の筒状部材9aおよび第2の筒状部材9bが接合されてハウジング4が形成されるとともに、第1の整流筒11aおよび第2の整流筒11bが取り付けられてモジュールケース本体が形成される。そして、中空糸膜束3の外周面を保護部材7で包み、当該保護部材7で包んだ中空糸膜束3をハウジング4内に前記封止された端面側が第2の筒状部材9b側になるように挿入する。
【0043】
その後、第1の筒状部材9a側にはカップ状の接着治具(例えば、
図3b)を取り付け、第2の筒状部材9b側には略円盤状の面上に当該略円盤状の面に平行な断面の形状が円弧状である凸部を少なくとも1つ有する注型治具(例えば、
図3a)を、注型治具の凸部が保護部材7で包まれた中空糸膜束3の外周面と第2の筒状部材9bとの間に挿入されるようにして取り付け、公知の方法で第1及び第2の筒状部材とそれぞれの接着治具とを液密に拘束する。この際、前記凸部を有する治具(例えば、
図3a)の円弧状部分が挿入されることによって、中空糸膜束3の外周面と保護部材7とを密着させた状態となる。前記注型治具の凸部は、貫通孔6の型となる部分でもあり、後述のように、ポッティング材の固化後、注型治具を取り除くことで貫通孔6が形成される。
また、必要に応じて、偏り規制部材として、クロス板(2枚の板を高さ方向に直交する方向の断面が十字状になるように結合または一体成形したもの)をクロス板の高さ方向が中空糸膜束3の長手方向となるようにして中空糸膜束3内に設置してもよい。クロス板は、ポッティング材と同一組成であることが好ましい。
次いで、ハウジング4の両端部にポッティング材を注入することによって第1の接着固定部5aおよび第2の接着固定部5bを形成する。このとき、第2の筒状部材9b側の中空糸膜束3の中空部の開口は、ポッティング材によって閉塞される。その後、注型治具を取り除くことによって貫通孔6を形成する。
【0044】
中空糸膜束3とハウジング4とを接着固定するには、中空糸膜束3が収容されたハウジング4をノズル12a、12bを鉛直方向上向きにした状態で水平方向に回転させながら接着する遠心接着、またはハウジング4の長手方向を鉛直方向に配置し、ポッティング材をハウジング4の下端から注入する静置接着にて行うことができる。遠心接着は、中空糸膜束3の両端を同時に接着することができ、また、中空糸膜束3の外表面の被覆層が均一にできるため膜破断を起こし難い反面、多額の設備投資や高速で回転させるための電力が必要となる。一方、静置接着は、片側ずつ接着する必要があるため接着に必要な時間は増加するものの、大型の設備投資の必要がなく、簡素な治具で実施できる。なお、ポッティング材が硬化した後、必要に応じてオーブン等で加温することにより、硬化促進を図ってもよい。
【0045】
次に、ハウジング4内のポッティング材が硬化したことを確認した後、第1の筒状部材側9aは、接着固定部形成用容器および封止材を取り除くことにより(例えば、第1の接着固定部5aの端部を切断することにより)、中空糸膜束3の中空部を開口させる。第2の筒状部材9b側は、接着固定部形成用容器および注型治具を取り外すことにより、開口形状が円弧状の貫通孔6を形成することができる。
【0046】
最後に、中空糸膜束3が接着固定されたハウジング4の両端部のそれぞれに、キャップ8a、8bをOリング14を介して装着し、ナット13によって締結固定した後、リーク検査、試運転等を実施し、規定通りに製造できていることを確認して中空糸膜モジュール1が完成する。
【実施例】
【0047】
以下、本実施形態について、具体的な実施例および比較例を挙げて説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0048】
以下、実施例および比較例で用いた測定方法および試験方法について説明する。
【0049】
(1)リーク検査
実施例および比較例の外圧式中空糸膜モジュールに対し、リーク検査を以下のようにして行った。
すなわち、ろ水を採水する側のキャップ(比較例1は2つ、その他は1つ)を取り外した後、水槽内に浸漬し、中空糸膜モジュール内部を水で満たした。次いで、供給水を供給する側のキャップ(比較例1はノズル)を封止し、排出水用ノズルから0.3[MPa]の空気圧を印加した。中空糸膜のろ水採水側端面(比較例1は両端面、その他は片端面)を観察し、中空部からの連続気泡発生の有無によりリークの発生を調べた。
【0050】
(2)流れ解析
実施例および比較例について、シミュレーションソフトとしてCHAM社(Concentoration Heat and Momentum Limited.)製の熱流体解析ソフト「PHOENICS」を用い、計算式としてChen-Kim KEの式を用いて、流れ解析を行った。流体は20℃の水とした。
実施例のシミュレーションモデルとしては、
図5(a)に示すように、直方体(x方向1.284m×y方向0.088m×z方向0.223m)に、ハウジングの内径と等しい半径を有する半円筒空間を穿ち、一方の端にinlet、他方の端にoutletを設け、
図5(a)中のXZ面に平行な面で1/2に分割した3Dモデル(1/2モデル)を用いた。
シミュレーションモデルのmesh分割は、x方向(長さ方向)を300分割、y方向(奥行き方向)を30分割、z方向(高さ方向)を70分割することにより、meshセル総数を630,000個とした。
SWEEP数(計算の繰り返し数)は4,000回とし、円筒の端部(inlet)からの水の流入量を2.64×10
-3m
3/s(1/2モデル時)とした場合における1/2モデルの水の圧力および速度のシミュレーションを行った。中空糸膜束に相当する含水多孔体のx方向、y方向、およびz方向の抵抗値はそれぞれ0.4とし、空隙率は0.7とした。
また、本実施形態の外圧式中空糸膜モジュールの用途として想定される、超純水の最終ろ過のシミュレーションとするため、全ろ過(排出水量なし)として行った。超純水の最終ろ過では、被処理水自体が既に非常に清澄な水であるため、排出水は被処理水の数パーセント程度の流量となり、シミュレーション上では誤差の範囲といえる。
圧力および速度のシミュレーション結果は、
図6、7等に示すように、圧力および速度の分布をそれぞれ濃淡で表し、水が流れる方向を矢印で表し、圧力および速度の大きさをそれぞれ矢印の長さで表している。すなわち、矢印が長いほど圧力および速度が大きいことを示している。
【0051】
[製造例1]
実施例1、2で使用する外圧式中空糸膜モジュール(
図1参照)を以下のように製造した。
ポリスルホン製中空糸膜(旭化成株式会社製)11,600本を束ねて中空糸膜束を形成し、内径138mmの筒状に成形されたポリエチレン製ネット(線径0.45mm、開口率55%、保護部材に相当)に挿入した。該ネットに挿入した中空糸膜束を、第1および第2の整流筒(内径140mm)がそれぞれ内側に装着された第1および第2の筒状部材(内径は168mm)と第3の筒状部材(内径154mm)とを有するハウジング内に挿入した。なお、第1の筒状部材は内径40mmの排出水用ノズルを有するものとし、第2筒状部材は封止されたノズルを有するものとした。中空糸膜は、分画分子量6000、内径0.6mm、外径1.00mmであるものを用いた。
第1の筒状部材側の中空糸膜端部は、封止材を用いて中空部を封止すると共に、偏り規制部材として、後述するポッティング材と同一組成のクロス板(高さ63mm×幅136mm×厚み5mmの板2枚を高さ方向に直交する方向の断面が十字状になるように結合したもの)をクロス板の高さ方向が中空糸膜束の長手方向となるようにして中空糸膜束内に配置した。さらに、第1の筒状部材の端部に、
図3(b)に示す形状の遠心注型のためのカップを取り付けた。
第2の筒状部材の端部には、
図3(a)に示す形状の高密度ポリエチレン製の注型治具を取り付けることにより、後述するポッティング材の注型完了後に幅を有する部分円弧状の開口(開口面積800mm
2、中心角:80°、幅:8mm)を有する貫通孔が4カ所形成されるようにした。その後、第1の筒状部材の端部と同様に、遠心注型のためのカップを取り付けた。
次いで、第1および第2の筒状部材に取り付けたカップにそれぞれポッティング材導入用チューブを取り付けた。ノズルを鉛直方向上向きにした状態でハウジングを水平にして遠心用フレームに固定し、ハウジングを水平方向に回転させることにより、ポッティング材をハウジングの第1および第2筒状部材内に注入した。ポッティング材には、2液性硬化型エポキシ樹脂を用いた。ポッティング材の硬化反応が進行し、流動化が停止した時点で遠心機の回転を停止した。遠心用フレームからハウジングを取り外し、オーブン中で90℃に加熱して完全に硬化させた。
第1の筒状部材側では、カップを取り外し、硬化したポッティング材の外側端部を切断することにより中空糸膜の中空部を開口させた。第2の筒状部材側では、カップおよび注型治具を取り外すことにより、幅を有する部分円弧状の開口(開口面積800mm
2)を有する貫通孔を4カ所形成した。
次に、ハウジングの両側に、開口部の直径が66mmである
図1に示す形状のキャップをOリングを介してナット締結により液密となるように固定し、外圧式中空糸膜モジュールを得た。
この外圧式中空糸膜モジュールの貫通孔の開口面積の総和Aは3,200mm
2、中空糸膜中空部の開口面積の総和Bは3,280mm
2、キャップの開口部の開口面積Cは3,421mm
2、ハウジング(第2の筒状部材)の内断面積から、ネット(保護部材)の内占有面積を引いた面積Sは7,210mm
2であった。従って、A/Bは0.98、C/Bは1.04、A/Sは0.44であった。
【0052】
[製造例2]
分画分子量10000、内径0.6mm、外径1.00mmである中空糸膜を用いたこと以外は製造例1と同様にして、実施例5で使用する外圧式中空糸膜モジュール(
図1参照)を製造した。
【0053】
[実施例1]
上記製造例1の外圧式中空糸膜モジュールを、
図4(a)に示す評価装置に、第1の筒状部材側が鉛直方向上側、第2の筒状部材側が鉛直方向下側となるように取り付けた(
図4(a)中、水タンク、ポンプ等は省略)。貫通孔から12.4m
3/hの流量で供給水を供給し、ノズルから0.4m
3/hの流量で排出水を排出させ、12m
3/hの流量のろ水を得る運転を行った。このとき、開口面積から算出される各部位における流体速度(線速)は、貫通孔では1.07m/s、中空糸膜の中空部では1.02m/s、供給水側キャップの開口部では1.00m/s、ろ水側キャップの開口部では0.97m/sであった。
上記の運転条件を維持して連続運転し、1日1回、1回5分程度のリーク検査を行った。1年経過後も中空糸膜の破断によるリークは発生しなかった。
【0054】
[実施例2]
表1に示す運転条件とした以外は実施例1と同様にして連続運転を行い、1日1回、1回5分程度のリーク検査を行った。
運転開始から30日経過後も中空糸膜の破断によるリークは発生しなかったため、31日目から供給水量を30%増量して運転を継続したところ(供給水量20.6m3/h、排出水量0.6m3/h、透過水量20m3/h)、91日目に、中空糸膜が1本破断したことによるリークの発生を確認した。その後、破断した中空糸膜を補修して更に運転を継続したところ、150日目までリークは発生せず、運転を終了した。
【0055】
[実施例3]
上記製造例1の外圧式中空糸膜モジュールの仕様を踏襲したシミュレーションモデルとして、
図5(a)に示す計算モデルを構築し、流れ解析を行った。
図5(b)はinlet付近の構造を示す図である。
製造例1と同様に、幅を有する部分円弧状の断面を有する貫通孔(
図5(b)参照)の開口面積は800mm
2、inlet22およびoutlet21の開口内径は66mmと設定し、内径0.6mm、外径1.00mmの中空糸膜を11,600本使用したと設定して、全ろ過(排出水量なし)として試算した。ハウジング(第2の筒状部材)の内断面積から、ネット(保護部材)の内占有面積を引いた面積Sは、第2の筒状部材の内径に相当する168mm径から算出した専有断面積から、上記中空糸膜が充填された内径138mmのネット内断面積を差し引くことにより、7,210mm
2と算出された。
このときの各部位における線速、A/B、C/B、A/Sを表1に示す。
また、圧力分布および速度分布の結果をそれぞれ
図6(a)および6(b)に示す。圧力分布および速度分布のいずれも分布の傾斜が緩やかであり、圧力損失が少ないことが見て取れた。
【0056】
[実施例4]
円弧状断面を有する貫通孔の開口面積を750mm
2(中心角:75°、幅:8mm)、inlet22およびoutlet21の開口内径を52.5mmとした以外は実施例3と同様にして、流れ解析を行った。
このときの各部位における線速、A/B、C/B、A/Sを表1に示す。
また、圧力分布および速度分布の結果をそれぞれ
図7(a)および7(b)に示す。実施例3に比べると分布の勾配が大きいものの、実用に耐え得る分布であった。
【0057】
[実施例5]
表1に示す運転条件とした以外は実施例1と同様にして連続運転を行い、1日1回、1回5分程度のリーク検査を行った。
運転開始から3日経過後までは中空糸膜の破断によるリークは発生しなかったが、4日目に、中空糸膜が4本破断したことによるリークの発生を確認した。その後、破断した中空糸膜を補修して更に運転を継続したところ、12日目に、4日目に破断した中空糸膜とは別の新たな中空糸膜が3本破断したことによるリークの発生が確認され、運転を終了した。
【0058】
[比較例1]
特許文献1の実施例1に開示されている中空糸膜モジュールを製造し、
図4(b)に示す評価装置に、特許文献1の実施例1と同様に、管路10aが鉛直方向上側、管路11aが鉛直方向下側となるように取り付けた(
図4(b)中、水タンク、ポンプ等は省略)。この中空糸膜モジュールでは、整流筒28の外壁と胴部13の内壁との間の、ハウジングの長手方向に直行する方向の断面形状が同心円状の隙間部分を、実施例の外圧式中空糸膜モジュールにおける貫通孔に該当する部位とみなした。
各部位の寸法は、特許文献1に開示されている数値と特許文献1の
図1、3から比例計算により算出した。これにより、上記隙間部分の同心円状開口の外径および内径はそれぞれ154mm、149.6mm、貫通孔の開口面積の総和Aに相当する面積は1,049mm
2と計算された。同様にして、中空糸膜の中空部径は0.6mm、本数は11,600本であることから、中空糸膜中空部の開口面積の総和Bは3,280mm
2と計算された。また、本発明におけるろ水排出側キャップに相当するキャップ10の開口径は比例計算により20mmであるため、ろ水側の開口面積Cは314mm
2、本発明における被処理水供給側キャップに相当する下部ノズル21の開口21aの径は58mmであるため、被処理水供給側の開口面積Cは2,642mm
2と算出された。また、ハウジング(ヘッダ部15)の内断面積から、保護部材(ネット状の偏流抑制部29)の内占有面積を引いた面積Sは、ヘッダ部15の内径162mmと、比例計算により算出される偏流抑制部29の外径145.2mmから求め、4,053mm
2となった。
このときの各部位における線速、A/B、C/B、A/Sを表1に示す。
この膜モジュールを実施例2と同じ運転条件で連続運転し、1日1回、1回5分程度のリーク検査を行った。
運転開始から30日経過後も中空糸膜の破断によるリークは発生しなかったため、31日目から供給水量を30%増量して運転を継続したところ(供給水量20.6m
3/h、排出水量0.6m
3/h、透過水量20m
3/h)、49日目に、中空糸膜が1本破断したことによるリークの発生を確認した。その後、破断した中空糸膜を補修して更に運転を継続したところ、77日目にも中空糸膜が1本破断したことによるリークの発生が確認され、運転を終了した。
【0059】
[比較例2-1]
特許文献3の実施例1に開示されている外圧式中空糸膜モジュールを、同特許文献に記載の製造方法にて製造し、
図4(a)に示す評価装置に、特許文献3の実施例1と同様に、管路10aが鉛直方向上側、管路11aが鉛直方向下側となるように取り付けた(
図4(a)中、水タンク、ポンプ等は省略)。ただし、中空糸膜は、上記製造例1と同じ外径1.0mm、内径0.6mmのものを使用し、中空糸膜の本数は、特許文献3の実施例1の膜モジュールにおける、長手方向に直交する断面における中空糸膜の専有面積(外径基準)を踏襲して、5,400本とした。
各部位の寸法は、特許文献3に開示されている数値と特許文献3の
図1から比例計算により算出した。開口形状が径11mmの円状である貫通孔が5カ所あることから、貫通孔の開口面積の総和Aは475mm
2、中空糸膜の中空部内径は0.6mm、本数は5,400本とした。以上により、中空糸膜中空部の開口面積の総和Bは1,527mm
2、キャップの開口部径は31.6mmであることから、キャップの開口面積Cは784mm
2と算出された。また、ハウジング(第1筒状部材51)の内径が比例計算により96.8mmであることにより、ハウジング(第1筒状部材51)の内断面積から、保護部材(ネット状の保護部材8、内径80mm)の内占有面積を引いた面積Sは、2,333mm
2と算出された。
特許文献3の実施例1と同様にして、貫通孔から3.5m
3/hの流量で供給水を供給し、ノズルから0.4m
3/hの流量で排出水を排出させ、3.1m
3/hの流量のろ水を得る運転を行った。
このときの各部位における線速、A/B、C/B、A/Sを表1に示す。
上記の運転条件を維持して連続運転し、1日1回、1回5分程度のリーク検査を行った。6カ月経過後に中空糸膜が1本破断したことによるリークの発生が確認された。その後、この破断した中空糸膜を補修して更に運転を継続したところ、7カ月経過後に、6カ月経過後に破断した中空糸膜とは別の中空糸膜が1本破断したことによるリークの発生が確認された。その後、この破断した中空糸膜を補修して更に運転を継続したところ、9カ月経過後に、6カ月経過後及び7カ月経過後に破断した中空糸膜とは別の中空糸膜が2本破断したことによるリークの発生が確認され、運転を終了した。中空糸膜モジュールを解体してリークの発生場所を確認したところ、計4本の中空糸膜の破断は、いずれも貫通孔近傍の接着固定部(ポッティング部)の内側端から長手方向に20~50mmの範囲内の位置で生じていた。
【0060】
[比較例2-2]
比較例2-1の外圧式中空糸膜モジュールは、特許文献3の実施例1の外圧式中空糸膜モジュールに比べて短期間でリークが発生したため、比較例2-1の外圧式中空糸膜モジュールの仕様を踏襲したシミュレーションモデルとして、
図8(a)に示す計算モデルを構築し、流れ解析を行った。
図8(b)はinlet付近の構造を示す図である。
図8(a)に示すように、直方体(x方向1.375m×y方向0.052m×z方向0.152m)に、ハウジングの内径と等しい半径を有する半円筒空間を穿ち、一方の端にinlet32、他方の端にoutlet31を設け、
図8(a)中のXZ面に平行な面で1/2に分割した3Dモデル(1/2モデル)を用いた。
比較例2-1と同様に、ハウジング(第1筒状部材51)の内径が比例計算により96.8mmであることにより、ハウジング(第1筒状部材51)の内断面積から、保護部材(ネット状の保護部材8、内径80mm)の内占有面積を引いた面積Sは、2,333mm
2と算出された。
シミュレーションモデルのmesh分割は、x方向(長さ方向)を340分割、y方向(奥行き方向)を20分割、z方向(高さ方向)を55分割することにより、meshセル総数を374,000個とした。
SWEEP数は2,000回とし、円筒の端部(inlet32)からの水の流入量を4.86×10
-4m
3/s(1/2モデル時、比較例2-1と同じ3.5m
3/h)とした場合における1/2モデルの水の圧力および速度のシミュレーションを行った。中空糸膜束に相当する含水多孔体のx方向、y方向、およびz方向の抵抗値はそれぞれ0.4とし、空隙率は0.7とした。
速度分布の結果を
図9(a)および9(b)に示す。
図9(a)はシミュレーションモデルの長手方向から見た分布図であり、
図9(b)はシミュレーションモデルの長手方向に直行する方向から見た分布図である。
図9(a)および9(b)より、貫通孔からの供給水が噴流の状態となっていたことが分かった。この噴流状態となった要因としては、貫通孔(の開口面積)の不足が考えられる。
また、特許文献3の実施例1では1年の連続運転後もリークが発生しなかったのに対し、比較例2-1でリークが発生した要因としては、噴流に対する膜単糸あたりの耐久性の差異が考えられた。すなわち、特許文献3の実施例1で使用された中空糸膜は、外径/内径=1.35mm/0.75mm(肉厚部断面積=0.99mm
2)であったのに対し、比較例2-1では1.00mm/0.60mm(肉厚部断面積=0.5mm
2)と概ね半分の肉厚部断面積であったため、比較例2-1の中空糸膜では、上記噴流による振動に対する耐久性が不足したものと考えられる。
【0061】
[比較例3]
特許文献2の実施例1に開示されている外圧式中空糸膜モジュールの仕様を踏襲したシミュレーションモデルとして、
図10(a)に示す計算モデルを構築し、流れ解析を行った。
図10(b)はinlet付近の構造を示す図である。
図10(a)に示すように、直方体(x方向1.284m×y方向0.088m×z方向0.223m)にハウジングの内径と等しい半径を有する半円筒空間を穿ち、一方の端にinlet42、他方の端にoutlet41を設け、
図10(a)中のXZ面に平行な面で1/2に分割した3Dモデル(1/2モデル)を用いた。
シミュレーションモデルのmesh分割は、x方向(長さ方向)を300分割、y方向(奥行き方向)を30分割、z方向(高さ方向)を70分割することにより、meshセル総数を630,000個とした。
各部位の寸法は、特許文献2に開示されている数値と特許文献2の
図1から比例計算により算出した。貫通孔に相当するものとして、外径160mm、内径151.4mmの円環状の開口があるものとみなした。中空糸膜は、外径1.2mmとの開示から、上記実施例で用いた中空糸膜の内外径比率を適用して内径が0.72mmであるものとみなし、開示のとおり10,800本が使用されているものとした。inlet42およびoutlet41の開口内径は39mmとした。
また、ハウジングの内断面積から、保護部材(外層ネット筒3)の内占有面積を引いた面積Sは、ヘッド内径160mmに相当する占有断面積から、外層ネット筒3の外径(比例計算により147mmと算出)に相当する占有断面積を差し引くことにより求め、3,135mmと算出された。
SWEEP数は4,000回とし、円筒の端部(inlet)からの水の流入量を2.64×10
-3m
3/s(1/2モデル時)とした場合における1/2モデルの水の圧力および速度のシミュレーションを行った。中空糸膜束に相当する含水多孔体のx方向、y方向、およびz方向の抵抗値はそれぞれ0.4とし、空隙率は0.7とした。
このときの各部位における線速、A、B、C、A/B、C/B、A/Sを表1に示す。
また、圧力分布および速度分布の結果をそれぞれ
図11(a)および11(b)に示す。実施例3および4に比べて、供給部内部(特許文献2のキャップ部15の封止部4側内部に相当)およびろ水採水部内部(特許文献2のキャップ部16の透過液出口14付近に相当)の圧力が高く、被処理水が中空糸膜束に供給されるときおよびろ水が中空糸膜束から排出された後に大きな圧力損失が観察された。さらに、供給部内部に極大圧力値の分布が見られることから、中空糸膜束に対して上方(
図11(a)では左方)に押される力が作用していることが示唆される。つまり、中空糸膜束全体が上方(
図11(a)では左方)に押し付けられる力が発生しており、糸束の座屈の懸念がある。
【0062】
[比較例4]
比較例3の計算モデルでは、上記のように座屈の懸念が予想されたことから、
図12(a)および12(b)に示すとおり、比較例3の計算モデルにさらに邪魔板53を設けた計算モデルを構築し、比較例3と同じ条件で流れ解析を行った。邪魔板53には、実施例の貫通孔に相当するものとして、外周に沿って25mm径の穴を16カ所(1/2計算モデルのため、計算モデル上は8カ所)開口させたモデルとした。
比較例3と同様に、ハウジングの内断面積から、保護部材(外層ネット筒3)の内占有面積を引いた面積Sは、ヘッド内径160mmに相当する占有断面積から、外層ネット筒3の外径(比例計算により147mmと算出)に相当する占有断面積を差し引くことにより求め、3,135mmと算出された。
このときの各部位における線速、A、B、C、A/B、A/B、A/Sを表1に示す。
また、圧力分布および速度分布の結果をそれぞれ
図13(a)および13(b)に示す。座屈が懸念される極大圧力値の分布は、供給部内部において封止部4端面に相当する面から邪魔板に移動したが、供給部内部とろ水採水部内部の圧力は比較例3と同様に高く、大きな圧力損失が発生している傾向は同様であった。
【0063】
[比較例5]
比較例1とは中空糸膜のみが異なる外圧式中空糸膜モジュールを製造し(中空糸膜は製造例2で用いたものと同一)、実施例5と同様にして連続運転を行い、1日1回、1回5分程度のリーク検査を行った。
運転開始から1日目に7本、2日目に累計13本の中空糸膜が破断したことによるリークの発生が確認され、運転を終了した。
【0064】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の外圧式中空糸膜モジュールは、耐久性が高く、内部を通過する流体の圧力分布および速度分布の均一性に優れ、圧力損失が少ないため、特に、シリコンウェハ、LSI、液晶等製造時の洗浄に用いられる超純水の最終ろ過膜モジュールとして、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 外圧式中空糸膜モジュール
2 中空糸膜
3 中空糸膜束
4 ハウジング
5a 第1の接着固定部
5b 第2の接着固定部
6、23、33 貫通孔
7 保護部材
8 キャップ
9a 第1の筒状部材
9b 第2の筒状部材
10 第3の筒状部材
11a 第1の整流筒
11b 第2の整流筒
12 ノズル
13 ナット
14 Oリング
21、31、41、51 outlet
22、32、42、52 intlet
53 邪魔板