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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20250516BHJP
   B62D 61/12 20060101ALI20250516BHJP
   B60W 40/10 20120101ALI20250516BHJP
【FI】
B60W30/02
B62D61/12
B60W40/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021207184
(22)【出願日】2021-12-21
(65)【公開番号】P2023092157
(43)【公開日】2023-07-03
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】平岡 実
(72)【発明者】
【氏名】石川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】羽澤 悠平
(72)【発明者】
【氏名】溝口 祥輝
(72)【発明者】
【氏名】森崎 紗耶
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001441(JP,A)
【文献】特開2009-126306(JP,A)
【文献】特開2020-001440(JP,A)
【文献】特開2002-037120(JP,A)
【文献】特開2020-135622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
B62D 41/00-67/00
G05D 1/00- 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体と、
前記車両本体の左右両側における前後夫々に位置する複数の走行装置と、
複数の前記走行装置の夫々を各別に駆動する複数の走行駆動装置と、
複数の前記走行装置を各別に昇降可能に前記車両本体に支持する支持機構と、
前記走行駆動装置及び前記支持機構の作動を制御する制御装置と、
前記走行装置が空転状態であるか否かを検出する空転状態検出手段と、が備えられ、
前記制御装置は、
複数の前記走行装置が設定回転速度で駆動されて車体が移動走行している状態において、前記空転状態検出手段によって前記走行装置が空転状態であることが検出されると、空転状態であることが検出された前記走行装置の駆動速度が前記設定回転速度よりも低速の回転速度になるように前記走行駆動装置の作動を制御する空転回避制御を実行するように構成され、かつ、
前記空転回避制御を実行した後に、前記空転状態検出手段によって前記走行装置が空転状態であることが検出されると、車体移動を停止させた状態で、進行方向前側の前記走行装置を前記車両本体に対して進行方向前側に移動させる前輪移動処理、前記車両本体を進行方向前側に移動させる本体移動処理、進行方向後側の前記走行装置を前記車両本体に対して進行方向前側に移動させる後輪移動処理を、順次行うことにより車体を移動させるように、前記支持機構の動作を制御する車体移動制御を実行するように構成されている作業車。
【請求項2】
前記制御装置が、前記前輪移動処理を実行するに先立って、車体重心位置を進行方向後側に寄せるとともに、進行方向後側の前記走行装置を駆動停止させる請求項に記載の作業車。
【請求項3】
前記制御装置が、前記前輪移動処理において、進行方向前側の前記走行装置を回転駆動させるように前記走行駆動装置の作動を制御する請求項1又は2に記載の作業車。
【請求項4】
前記制御装置が、前記後輪移動処理において、進行方向後側の前記走行装置を回転駆動させるように前記走行駆動装置の作動を制御する請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸等が存在する不整地を走行するのに適した作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
上記したような作業車として、従来では、車両本体に対して屈折リンク機構を介して4つの走行車輪が支持され、車両本体に対する走行車輪の高さを変更させることにより、地面に凹凸があっても走行車輪が接地追従しながら回転駆動することによって車両本体の姿勢を維持しながら走行できるようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-111985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構成では、車体が移動するときは、走行装置としての走行車輪を駆動回転させることにより走行する構成となっており、例えば、走行装置が泥濘に入った場合、あるいは、砂地や草木が茂って表面がスリップし易い路面を走行する場合であれば、走行装置が路面に対して空回りして駆動力が伝えられず確実な走行が行えないおそれがある。
【0005】
そこで、走行装置が空回りするおそれがある場合であっても、車体移動を良好に行えるようにすることが要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
【0007】
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
本発明に係る作業車の特徴構成は、車両本体と、前記車両本体の左右両側における前後夫々に位置する複数の走行装置と、複数の前記走行装置の夫々を各別に駆動する複数の走行駆動装置と、複数の前記走行装置を各別に昇降可能に前記車両本体に支持する支持機構と、前記走行駆動装置及び前記支持機構の作動を制御する制御装置と、前記走行装置が空転状態であるか否かを検出する空転状態検出手段と、が備えられ、前記制御装置は、複数の前記走行装置が設定回転速度で駆動されて車体が移動走行している状態において、前記空転状態検出手段によって前記走行装置が空転状態であることが検出されると、空転状態であることが検出された前記走行装置の駆動速度が前記設定回転速度よりも低速の回転速度になるように前記走行駆動装置の作動を制御する空転回避制御を実行するように構成され、かつ、前記空転回避制御を実行した後に、前記空転状態検出手段によって前記走行装置が空転状態であることが検出されると、車体移動を停止させた状態で、進行方向前側の前記走行装置を前記車両本体に対して進行方向前側に移動させる前輪移動処理、前記車両本体を進行方向前側に移動させる本体移動処理、進行方向後側の前記走行装置を前記車両本体に対して進行方向前側に移動させる後輪移動処理を、順次行うことにより車体を移動させるように、前記支持機構の動作を制御する車体移動制御を実行すると好適である。
【0019】
本構成によれば、制御装置は、空転回避制御を実行したにもかかわらず、空転状態検出手段によって走行装置が空転状態であることが検出される場合には、車体移動制御を実行する。車体移動制御を実行するときは、先ず、進行方向前側の走行装置を車両本体に対して進行方向前側に移動させる。このとき、進行方向前側の走行装置は、回転駆動してもよいが、自由回転させてもよく、回転停止させる状態でもよい。次に、車両本体を進行方向前側に移動させる。車両本体の移動によって車両本体の重心位置が進行方向下手側の走行装置により多くの荷重が支持される状態となる。その後、進行方向後側の走行装置を車両本体に対して進行方向前側に移動させる。このとき、進行方向後側の走行装置に対しては、荷重負担が少ないので、車両本体は進行方向前側に移動したまま、進行方向後側の走行装置だけを進行方向前側に引き寄せることができる。
【0020】
その結果、車体移動制御を実行することによって、走行装置が空回りして車体を移動させることができない場合であっても、車体を確実に移動させることができる。
【0021】
本発明においては、前記制御装置が、前記前輪移動処理を実行するに先立って、車体重心位置を進行方向後側に寄せるとともに、進行方向後側の前記走行装置を駆動停止させると好適である。
【0022】
本構成によれば、車体重心位置が進行方向後側に寄った状態であるから、進行方向前側の走行装置に対する荷重負担が少ない状態となり、しかも、進行方向後側の走行装置が停止しているので、前輪移動処理を円滑に行い易い。
【0023】
本発明においては、前記制御装置が、前記前輪移動処理において、進行方向前側の前記走行装置を回転駆動させるように前記走行駆動装置の作動を制御すると好適である。
【0024】
本構成によれば、進行方向前側の走行装置を回転駆動させながら前輪移動処理を実行するので、進行方向前側の走行装置の移動が円滑に行われる。
【0025】
本発明においては、前記制御装置が、前記後輪移動処理において、進行方向後側の前記走行装置を回転駆動させるように前記走行駆動装置の作動を制御すると好適である。
【0026】
本構成によれば、進行方向後側の走行装置を回転駆動させながら後輪移動処理を実行するので、進行方向後側の走行装置の移動が円滑に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】作業車の側面図である。
図2】作業車の平面図である。
図3】制御ブロック図である。
図4】制御動作を示すフローチャートである。
図5】制御動作を示すフローチャートである。
図6】基準姿勢を示す図である。
図7】動作説明図である。
図8】動作説明図である。
図9】動作説明図である。
図10】動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の説明においては、図中に示される矢印FWの方向を「前」、矢印BKの方向を「後」、矢印RHの方向を「右」、矢印LHの方向を「左」、矢印UPの方向を「上」、矢印DWの方向を「下」とする。
【0029】
図1,2に示すように、作業車には、車両全体を支持する平面視で略矩形状の車両本体1と、車両本体1を支持する複数の走行装置としての走行車輪2と、複数の走行車輪2の夫々に対応して設けられた複数の補助輪3と、複数の走行車輪2を車両本体1に対して位置変更可能に支持する支持機構Aと、複数の走行車輪2を各別に駆動する走行駆動装置としての複数の油圧モータ4と、が備えられている。
【0030】
走行車輪2は、車両本体1の左右両側における前後夫々に位置する。本実施形態では、作業車は、左前、右前、左後、及び右後の4つの走行車輪2を備える。又、左前、右前、左後、及び右後の4つの支持機構Aを備える。支持機構Aは、屈折リンク機構5と、屈折リンク機構5の姿勢を個別に変更可能な複数の油圧シリンダ6,7と、を備えている。
【0031】
車両本体1の上部に荷物を積載可能な平坦状の積載部8が備えられている。この積載部8の上に、例えば、収穫物を収納するコンテナ等の荷物を積載して支持することができる。
【0032】
車両本体1は、積載部8の下側において、油圧シリンダ6,7及び油圧モータ4に向けて作動油を送り出す油圧供給源9、油圧供給源9からの作動油の供給状態を調整する弁機構10、弁機構10の作動を制御するECU(Electronic Control Unit)11等が備えられている。油圧供給源9は、エンジンによって駆動される油圧ポンプを備えている。ECU11は、マイクロコンピュータを備えており、制御プログラムに従って種々の制御を実行可能である。弁機構10は、作動油の給排あるいは流量の調節等を行う複数の油圧制御弁13を備えている。油圧制御弁13及びECU11により、制御装置Cが構成されている。
【0033】
〔支持機構〕
上述したように、支持機構Aは、屈折リンク機構5と複数の油圧シリンダ6,7と、を備えている。4つの走行車輪2は、屈折リンク機構5を介して車両本体1に対して各別に昇降可能に支持されている。
【0034】
屈折リンク機構5には、車両本体1に支持される基端部14と、上側端部が基端部14の下部に横軸芯X1周りで回動可能に支持された第一リンク15と、一端部が第一リンク15の下側端部に横軸芯X2周りで回動可能に支持され且つ他端部に走行車輪2が支持された第二リンク16と、が備えられている。
【0035】
図2に示すように、走行車輪2を支持する支持ブラケット17が第二リンク16の揺動側端部に設けられたボス部18に縦軸芯Y周りで揺動可能に支持されている。第二リンク16の一端部側のブラケット19と、支持ブラケット17に設けられたアーム部17aとに亘って旋回操作用の油圧シリンダ20(以下、旋回シリンダという)が備えられている。
【0036】
複数の屈折リンク機構5の夫々に対応して、屈折リンク機構5の姿勢を各別に変更可能な複数の油圧シリンダ6,7が備えられている。すなわち、車両本体1に対する第一リンク15の揺動姿勢を変更可能な第一油圧シリンダ6と、第一リンク15に対する第二リンク16の揺動姿勢を変更可能な第二油圧シリンダ7と、が備えられている。
【0037】
第二油圧シリンダ7の作動を停止した状態で第一油圧シリンダ6を伸縮操作すると、第一リンク15、第二リンク16及び走行車輪2の夫々が、相対的な姿勢を一定に維持したまま一体的に、基端部14に対する枢支連結箇所の横軸芯X1周りで揺動する。第一油圧シリンダ6の作動を停止した状態で第二油圧シリンダ7を伸縮操作すると、第一リンク15の姿勢が一定に維持されたまま、第二リンク16及び走行車輪2が、一体的に、第一リンク15と第二リンク16との連結箇所の横軸芯X2周りで揺動する。
【0038】
複数の屈折リンク機構5夫々の中間屈折部に回転可能に補助輪3が支持されている。補助輪3は走行車輪2と略同じ外径の車輪にて構成されている。第一リンク15と第二リンク16とを枢支連結する支軸が車体横幅方向外方側に突出するように延長形成され、支軸の延長突出箇所に補助輪3が回動可能に支持されている。
【0039】
旋回シリンダ20の操作により、屈折リンク機構5に対して走行車輪2を縦軸芯Y周りで回動することにより旋回操作させることができる。
【0040】
油圧モータ4に対応する油圧制御弁13により作動油の流量調整が行われることで、油圧モータ4の回転速度すなわち走行車輪2の回転速度を変更することができる。
【0041】
〔センサ〕
この作業車は種々のセンサを備える。
図3に示すように、4つの第二油圧シリンダ7の夫々について、ヘッド側圧力センサS1及びキャップ側圧力センサS2を備える。ヘッド側圧力センサS1は、第二油圧シリンダ7のヘッド側室の油圧を検出する。キャップ側圧力センサS2は、第二油圧シリンダ7のキャップ側室の油圧を検出する。これらの圧力センサS1,S2は、走行車輪2が接地面に接地するときの圧力を各別に検出する圧力検出手段に対応する。
【0042】
図3に示すように、4つの第一油圧シリンダ6及び4つの第二油圧シリンダ7の夫々について、伸縮操作量を検出可能な複数のストロークセンサS3を備える。各油圧シリンダ6,7の伸縮操作量は、操作対象である第一リンク15及び第二リンク16の揺動位置に対応する検出値である。
【0043】
車両本体1には車体の傾斜状態を検出する傾斜センサS4が備えられている。傾斜センサS4は、周知の構成である慣性計測装置(Inertial Measurement
Unit)(IMU)を用いて構成されている。IMUは、三軸加速度センサとジャイロセンサとを有し、車両本体1の姿勢変化状態、具体的には、前後方向並びに左右方向の傾きを検知することができる。
【0044】
走行車輪2の近傍には、油圧モータ4により駆動される走行車輪2の回転速度を検出する回転センサS5が備えられている。又、油圧モータ4に供給される作動油の圧力を検出する圧力センサS6が備えられている。4つの旋回シリンダ20の夫々には、伸縮操作量を検出可能なストロークセンサS7が備えられている。
【0045】
〔ECU〕
ECU11は、姿勢制御部100、走行制御部101、及び、判別手段としての判別部102を備えている。走行制御部101は、4つの走行車輪2が接地する状態で走行するときは、4個の走行車輪2の夫々について、回転センサS5にて検出された走行車輪2の回転速度に基づいて、走行車輪2の回転速度が目標の値となるように、油圧モータ4への作動油の供給量を制御し、且つ、圧力センサS6の検出情報に基づいて、走行車輪2の駆動トルクが目標の値となるように、油圧モータ4へ供給される作動油の圧力を制御する。
【0046】
姿勢制御部100は、車体が移動走行するときは、傾斜センサS4の検出情報に基づいて車両本体1が水平姿勢になるように支持機構Aの動作を制御する。この制御において、姿勢制御部100は、傾斜センサS4の検出情報に基づいて、車両本体1の水平姿勢からの前後方向での傾斜角及び左右方向での傾斜角が水平姿勢に対応する値になるように、4個の第一油圧シリンダ6及び4個の第二油圧シリンダ7の作動を制御する。
【0047】
姿勢制御部100は、さらに、車体が移動走行している状態において、圧力センサS1,S2にて検出される圧力が設定圧力になるように支持機構Aの作動を制御する。このような圧力制御を実行することにより、例えば、地面に凹部が存在して、いずれかの走行車輪2が地面から浮き上がった状態になった場合には、接地圧が低下するので、圧力が設定圧力になるように走行車輪2を下降させることになる。その結果、複数の走行車輪2の夫々が適切な接地状態を維持して車両本体1を支持しながら不整地を良好に走行することができる。
【0048】
そして、走行車輪2が浮き上がっている状態ではないが、例えば走行車輪2が泥濘に入った場合、あるいは、砂地や草木が茂って表面が滑りやすくなっている路面を走行する場合等においては、油圧モータ4の作動によって走行車輪2を回転駆動しても、空回りして良好な移動走行が行えないおそれがある。
【0049】
判別部102は、圧力センサS6の検出情報に基づいて、油圧モータ4における作動油供給路の内部圧力が予め設定されている設定値を下回ると、走行車輪2が空転状態であると判別するように構成されている。
【0050】
従って、圧力センサS6と、判別部102とにより、走行装置が空転状態であるか否かを検出する空転状態検出手段Qが構成されている。
【0051】
走行制御部101は、4つの走行車輪2が設定回転速度で駆動されて車体が移動走行している状態において、空転状態検出手段Qによって走行車輪2が空転状態であることが検出されると、空転状態であることが検出された走行車輪2の駆動速度が設定回転速度よりも低速の回転速度になるように油圧モータ4の作動を制御する空転回避制御を実行する。
【0052】
走行制御部101は、さらに、空転回避制御を実行した後に、空転状態検出手段Qによって走行車輪2が空転状態であることが検出されると、走行車輪2の回転に依らなくても車体を移動させることが可能な車体移動制御を実行するよう構成されている。
【0053】
図4図5のフローチャートを参照しながら、ECU11により実行される制御について説明する。
【0054】
図4に示すように、車体が移動走行している状態において、4つの支持機構Aの作動を制御する姿勢制御を実行する(ステップ♯01)。すなわち、傾斜センサS4の検出情報に基づいて、車両本体1の水平姿勢からの前後方向での傾斜角及び左右方向での傾斜角が水平姿勢に対応する値になるように、4個の第一油圧シリンダ6及び4個の第二油圧シリンダ7の作動を制御する。又、圧力センサS1,S2にて検出される圧力(走行車輪2の接地圧に相当)が設定圧力になるように支持機構A、具体的には、4つの第一油圧シリンダ6及び4つの第二油圧シリンダ7の作動を制御する。このように制御が行われることにより、走行路面の凹凸に沿わせて走行車輪2を接地追従させながら、車体の姿勢を水平姿勢に維持する。
【0055】
又、姿勢制御と同時に油圧モータ4の作動制御を実行する(ステップ♯02)。すなわち、4個の走行車輪2の夫々について、回転センサS5にて検出された走行車輪2の回転速度が予め設定されている目標速度(設定回転速度に対応)となり、且つ、圧力センサS6にて検出される駆動トルクが目標の値となるように、油圧モータ4の作動を制御する。
【0056】
次に、作業車が移動走行しているとき、4つの走行車輪2のうちのいずれかの走行車輪2について、走行車輪2が空回りしている空転状態であるか否かを判別する(ステップ♯3)。具体的には、回転センサS5にて検出される回転速度が目標回転速度又はそれに近い速度になっているにもかかわらず、そのときの駆動トルクに対応する圧力センサS6の検出値が目標の値よりも設定量低く設定されている下限値以下にまで低下しているか否かを判別し、検出値が下限値以下にまで低下していれば、走行車輪2が空回りしている状態であると判別する(ステップ♯03のYES分岐)。
【0057】
走行車輪2が空回りしている状態であると判別すると、その走行車輪2の回転速度を、設定回転速度の約半分程度の低回転状態にまで減速させる(ステップ♯04)。その減速状態が設定時間(数秒間)経過すると(ステップ♯05)、カウンターをカウントアップして、ステップ♯03の判別処理を実行し(ステップ♯06、♯07)、空転状態が解消されていれば、ステップ♯01に戻り、姿勢制御と油圧モータ4の作動制御を実行する。
【0058】
走行車輪2の回転速度を減速させる減速処理を実行しても、空転状態が解消していなければ、減速処理を繰り返し実行し、繰り返し回数のカウント値Nが設定回数Nsになると、次に、車体移動制御を実行する(ステップ♯08)。走行車輪2の駆動速度を減速させる空転回避制御を実行しても空転状態を解消できないので、以下に説明するような車体移動制御を実行するのである。
【0059】
図5を参照しながら車体移動制御について説明する。
制御が開始されると、支持機構Aの状態が図6に示す基準姿勢となるように姿勢変更する(ステップ♯11)。すなわち、図1に示すような通常の走行形態に対して、前後の走行車輪2が互いに前後方向に沿って近づくように第一リンク25が内向きに揺動した姿勢となっている。
【0060】
そして、上記したような基準姿勢から車体の重心位置Gが車体の後側に移動するように支持機構A(屈折リンク機構5)による姿勢変更操作を実行する(ステップ♯12)。
【0061】
尚、傾斜センサS4により検出される車両本体1の水平姿勢からの傾斜角の情報と、ストロークセンサS3により検出される支持機構Aの状態(第一リンク25の傾斜角と第二リンク26の傾斜角等)とにより、実際の重心位置Gを演算にて求めることもできるが、ここでは、実際の重心位置Gを求めるのではなく、進行方向前側に位置する走行車輪2(以下、前側走行車輪という)と、進行方向後側に位置する走行車輪2(以下、後側走行車輪という)との間での間隔(ホイールベース)の中央位置よりも進行方向の後側に寄せるように移動操作する。
【0062】
次に、図7に示すように、前側走行車輪2を車両本体1に対して進行方向前側へ移動させる(ステップ♯13)。例えば、前側走行車輪2を支持する第二リンク26を水平姿勢に維持しながら第一リンク25を前方側へ揺動操作して前方側へ移動させる。この処理が前輪移動処理に対応する。
【0063】
上記前輪移動処理を実行するときは、前側走行車輪2を接地追従させながら進行方向に向けて回転駆動する。一方、後側走行車輪2は回転を停止させる。
【0064】
このように車体の重心位置Gを後側に寄せて、後側走行車輪側に荷重を多くさせ、かつ、後側走行車輪2を回転停止させた状態で、前側走行車輪2を移動させるので、前側走行車輪2が移動し易いものとなる。
【0065】
次に、図8に示すように、前側走行車輪2及び後側走行車輪2を共に回転停止させた状態で、車両本体1を進行方向前側へ移動させる(ステップ♯14)。この処理が本体移動処理に対応する。この処理により車体の重心位置Gが前方に寄った状態となる。
【0066】
さらに、その後、図9に示すように、後側走行車輪2を車両本体1に対して進行方向前側に移動させる(ステップ♯15)。この処理が後輪移動処理に対応する。この後輪移動処理を実行するときは、後側走行車輪2を接地追従させながら進行方向に向けて回転駆動する。一方、前側走行車輪2は、回転を停止させる。
【0067】
後輪移動処理を実行したのちは、図6に示す基準姿勢と同じ姿勢となる(図10参照)が、車体は前進方向側に所定量だけ移動した状態となる。
【0068】
このように車体重心位置Gを前側に寄せて、前側走行車輪側にかかる荷重を多くし、かつ、前側走行車輪2を回転停止させた状態で、後側走行車輪2を移動させるので、後側走行車輪2が移動し易いものとなる。
【0069】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、制御装置C(ECU11)は、車体が移動走行している状態において、圧力センサS6にて検出される圧力が設定圧力になるように支持機構Aの作動を制御するようにしたが、このような圧力制御を実行しないようにしてもよい。
【0070】
(2)上記実施形態では、圧力センサS6と判別部102とにより空転状態検出手段Qが構成されるものを示したが、この構成に代えて、次のように構成するものでもよい。
油圧モータ4の駆動速度を検出する回転センサS5と、車両本体1の実走行速度を検出する走行速度検出手段と、回転センサS5にて検出される油圧モータ4の駆動速度が、走行速度検出手段にて検出される実走行速度よりも設定量以上高速になると、走行車輪2が空転状態であると判別する判別手段とにより、空転状態検出手段Qが構成されるものでもよい。
【0071】
説明を加えると、走行速度検出手段としては、例えば、4個の走行車輪2に対応して設けられる4個の油圧モータ4による駆動速度の平均値を求めて、その平均値で走行速度を求めるようにしてもよい。この構成に代えて、ミリ波レーダ等を利用して作業車の地面に対する絶対的な走行速度を求めることが可能な計測装置を用いるようにしてもよい。
【0072】
そして、制御装置Cが、測定対象である1つの油圧モータ4の駆動速度と、上記したような走行速度検出手段にて計測される車両本体1の実走行速度とを比較して、駆動速度が実走行速度よりも設定量以上高速になると、走行車輪2が空転状態であると判別する構成である。
【0073】
(3)上記実施形態では、走行車輪2が空回りしている状態であると判別すると、走行車輪2の回転速度を設定回転速度の約半分程度の低回転状態にまで減速させるようにしたが、減速させる回転速度は、上記速度に限定されるものではなく、例えば、段階的に減速させる構成、漸次減少させる構成等、種々の構成で実施することができる。
【0074】
(4)上記実施形態では、車体移動制御において、前輪移動処理を実行するに先立って、車体の重心位置Gを進行方向後側に寄せるとともに、後側走行車輪2を駆動停止させる構成としたが、この構成に代えて、前輪移動処理を実行するに先立って、重心位置Gを進行方向後側に寄せる処理だけを実行する構成、あるいは、後側走行車輪2を駆動停止させる処理だけを実行する構成としてもよく、それらの処理をいずれも実施しないようにしてもよい。
【0075】
(5)上記実施形態では、前輪移動処理において前側走行車輪2を回転駆動させるようにしたが、自由回転状態にしてもよく、回転を停止させるようにしてもよい。
【0076】
(6)上記実施形態では、後輪移動処理において後側走行車輪2を回転駆動させるようにしたが、自由回転状態にしてもよく、回転を停止させるようにしてもよい。
【0077】
(7)上記実施形態では、車体は常に走行車輪2が地面に接地することにより支持される構成としたが、例えば、走行車輪2よりも下方側に突出して接地する状態と、走行車輪2の接地部よりも上方に退避する状態と、に姿勢切り換え可能な支持脚を備える構成でもよい。そして、前輪移動処理及び後輪移動処理を実行するときに、支持脚を接地状態にして、車両本体1を位置保持させるようにしてもよい。
【0078】
(8)上記実施形態では、支持機構Aに屈折リンク機構5と複数の油圧シリンダ6,7とが備えられる構成としたが、この構成に代えて、支持機構Aが、1つのリンク、又は3つ以上のリンクを備える機構であってもよく、支持機構Aの姿勢を変更する装置として、電動のアクチュエータを備えるものでもよい。
【0079】
(9)上記実施形態では、走行駆動装置として油圧モータ4を用いたが、この構成に代えて、電動モータやエンジン等により駆動される構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、凹凸等が存在する不整地を走行するのに適した作業車に適用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 車両本体
2 走行車輪
4 走行駆動装置(油圧モータ)
5 屈折リンク機構
6,7 油圧シリンダ
102 判別部(判別手段)
A 支持機構
C 制御装置
Q 空転状態検出手段
S1,S2 圧力検出手段(圧力センサ)
S6 圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10