(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂、該ポリイミド樹脂含有する樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20250516BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20250516BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08 Z
(21)【出願番号】P 2022009039
(22)【出願日】2022-01-25
【審査請求日】2024-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 謙吾
【審査官】渡邉 勇磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/187355(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/083554(WO,A1)
【文献】特開2006-251715(JP,A)
【文献】国際公開第2008/139720(WO,A1)
【文献】特開2009-256622(JP,A)
【文献】特開2009-069664(JP,A)
【文献】国際公開第2022/004583(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/038001(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
C08L 79/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に少なくとも二個のアミノ基を有するアミノフェノール化合物(a1)及び炭素数6乃至36の脂肪族ジアミノ化合物(a2)を含むアミノ化合物(A)と四塩基酸二無水物(B)との共重合物であるポリアミック酸樹脂のイミド化物(P)と、フェノール性水酸基と反応し得る官能基とエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物(C)との反応物と、エチレン性不飽和二重結合基と反応し得る官能基を有するリン化合物(D)との反応物であるポリイミド樹脂。
【請求項2】
アミノ化合物(A)がフェノール性水酸基を有さない芳香族ジアミノ化合物(a3)を含む請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【請求項3】
化合物(a1)が、下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子、メチル基又はエチル基を表し、XはC(CH
3)
2、C(CF
3)
2、SO
2、酸素原子、直接結合又は下記式(3)
【化2】
で表される二価の連結基を表す。)
で表される化合物を含む請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂。
【請求項4】
四塩基酸二無水物(B)が、下記式(4)乃至(12)
【化3】
(式(7)中、YはC(CF
3)
2、SO
2、CO、酸素原子、直接結合又は下記式(3)
【化4】
で表される二価の連結基を表す。)
からなる群より選択される化合物を含む請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
化合物(a3)が、下記式(13)乃至(16)
【化5】
(式(15)中、R
2は独立してメチル基又はトリフルオロメチル基を表し、式(16)中、ZはCH(CH
3)、SO
2、CH
2、O-C
6H
4-O、酸素原子、直接結合又は下記式(3)
【化6】
で表される二価の連結基を、R
3は独立して水素原子、メチル基、エチル基又はトリフルオロメチル基を表す。)
からなる群より選択される化合物を含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
化合物(C)が有するフェノール性水酸基と反応しうる官能基が、イソシアネート基又はカルボン酸クロリド基である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂及び熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物。
【請求項8】
更に硬化剤を含有する請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
更にアクリル基を有するシランカップリング剤を含有する請求項7又は8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化物を備えた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規構造のポリイミド樹脂、これらを含有する樹脂組成物及び該樹脂組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット等のモバイル型通信機器や通信基地局装置、コンピュータやカーナビゲーション等の電子機器に不可欠な部材としてプリント配線板が挙げられる。プリント配線板には金属箔との密着性、耐熱性及び柔軟性等の特性に優れた各種の樹脂材料が用いられている。
また、近年では高速で大容量の次世代高周波無線用のプリント配線板の開発が行われており、上記の諸特性に加え、樹脂材料には低伝送損失であること、即ち低誘電・低誘電正接であることが求められている。
【0003】
耐熱性、難燃性、柔軟性、電気特性及び耐薬品性等の特性に優れたポリイミド樹脂は、電気・電子部品、半導体、通信機器及びその回路部品、周辺機器等に広く使用されている。その一方で、石油や天然油等の炭化水素系化合物が高い絶縁性と低い誘電率を示すことが知られており、特許文献1にはこれら両者の特徴を生かしてポリイミド樹脂中に長鎖アルキルであるダイマージアミンの骨格を導入した例が記載されている。しかしながら、特許文献1及び特許文献2のポリイミド樹脂は低誘電正接の点で優れるものの、難燃性、基材密着性及び耐熱性に劣るものであった。
【0004】
一方、特許文献3には、ダイマージアミンの骨格を導入したポリイミドに難燃剤を添加して難燃性を向上させることが記載されているが、難燃剤により硬化物の耐熱性及び接着性が低下することが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-168369号公報
【文献】特願2020-535005号公報
【文献】特願2019-238108
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プリント配線板に好適に用い得る新規構造の樹脂材料、及び該樹脂材料を含有し、その硬化物は基材接着性、耐熱性及び難燃性に優れる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定構造の新規のポリイミド樹脂を含有する樹脂組成物が上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は、
(1)一分子中に少なくとも二個のアミノ基を有するアミノフェノール化合物(a1)及び炭素数6乃至36の脂肪族ジアミノ化合物(a2)を含むアミノ化合物(A)と四塩基酸二無水物(B)との共重合物であるポリアミック酸樹脂のイミド化物(P)と、フェノール性水酸基と反応し得る官能基とエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物(C)との反応物と、エチレン性不飽和二重結合基と反応し得る官能基を有するリン化合物(D)との反応物であるポリイミド樹脂、
(2)アミノ化合物(A)がフェノール性水酸基を有さない芳香族ジアミノ化合物(a3)を含む前項(1)に記載のポリイミド樹脂、
(3)化合物(a1)が、下記式(1)
【0008】
【0009】
(式(1)中、R1は水素原子、メチル基又はエチル基を表し、XはC(CH3)2、C(CF3)2、SO2、酸素原子、直接結合又は下記式(3)
【0010】
【0011】
で表される二価の連結基を表す。)で表される化合物を含む前項(1)又は(2)に記載のポリイミド樹脂、
(4)四塩基酸二無水物(B)が、下記式(4)乃至(12)
【0012】
【0013】
(式(7)中、YはC(CF3)2、SO2、CO、酸素原子、直接結合又は下記式(3)
【0014】
【0015】
で表される二価の連結基を表す。)
からなる群より選択される化合物を含む前項(1)乃至(3)のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂、
(5)化合物(a3)が、下記式(13)乃至(16)
【0016】
【0017】
(式(15)中、R2は独立してメチル基又はトリフルオロメチル基を表し、式(16)中、ZはCH(CH3)、SO2、CH2、O-C6H4-O、酸素原子、直接結合又は下記式(3)
【0018】
【0019】
で表される二価の連結基を、R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基又はトリフルオロメチル基を表す。)からなる群より選択される化合物を含む前項(1)乃至(4)のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂、
(6)化合物(C)が有するフェノール性水酸基と反応しうる官能基が、イソシアネート基又はカルボン酸クロリド基である前項(1)乃至(5)のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂、
(7)前項(1)乃至(6)のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂及び熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物、
(8)更に硬化剤を含有する前項(7)に記載の樹脂組成物、
(9)更にアクリル基を有するシランカップリング剤を含有する前項(7)又は(8)に記載の樹脂組成物、
(10)前項(7)乃至(9)のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物、及び
(11)前項(10)に記載の硬化物を備えた物品、
に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の特定構造のポリイミド樹脂を用いることにより、接着性、耐熱性及び難燃性に優れたプリント配線板等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のポリイミド樹脂は、一分子中に少なくとも二個のアミノ基を有するアミノフェノール化合物(a1)(以下、単に「(a1)成分」とも記載する)及び炭素数6乃至36の脂肪族ジアミノ化合物(a2)(以下、単に「(a2)成分」とも記載する)を含むアミノ化合物(A)(以下、単に「(A)成分」とも記載する)と四塩基酸二無水物(B)(以下、単に「(B)成分」とも記載する)との共重合物であるポリアミック酸樹脂のイミド化物(P)(以下、単に「イミド化物(P)」とも記載する)と、フェノール性水酸基と反応し得る官能基とエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物(C)(以下、単に「(C)成分」とも記載する)との反応物と、エチレン性不飽和二重結合基と反応し得る官能基を有するリン化合物(D)(以下、単に「(D)成分」とも記載する)との反応物である。
先ず、本発明のポリイミド樹脂の中間原料であるイミド化物(P)について説明する。
【0022】
イミド化物(P)の合成に用いられる(a1)成分は、一分子中に少なくとも二個のアミノ基と少なくとも一個のフェノール性水酸基を有する化合物であれば特に限定されない。(a1)成分の具体例としては、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン及び9,9’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
イミド化物(P)の合成に用いられる(a1)成分は、下記式(1)で示される化合物を含有することが好ましい。
【0024】
【0025】
式(1)中、R1は水素原子、メチル基又はエチル基を表し、XはC(CH3)2、C(CF3)2、SO2、酸素原子、直接結合又は下記式(3)で表される二価の連結基を表す。
【0026】
【0027】
イミド化物(P)を合成する際の(a1)成分の使用量は、イミド化物(P)のフェノール性水酸基当量が1,500乃至25,000g/eq.の範囲となる量が好ましい。フェノール性水酸基当量が1,500g/eq.を下回る場合は、最終的に得られる本発明のポリイミド樹脂の極性が高くなるためポリイミド樹脂を含有する樹脂組成物の硬化物の誘電正接が高くなってしまい、25,000g/eq.を上回る場合は、後述する(C)成分との反応点が少なくなることによって最終的に得られるポリイミド樹脂の架橋点が少なくなり、樹脂組成物の硬化物の耐熱性や基材との接着性が低下する傾向にある。
尚、本明細書におけるフェノール性水酸基当量はJIS K-0070に準じた方法で測定した値を意味する。
【0028】
イミド化物(P)は、(A)成分と(B)成分の共重合物であるポリアミック酸樹脂のイミド化反応、即ち、脱水縮合による環化反応によって得られる。よって、意図した水酸基当量及び脂肪族鎖量を有するイミド化物(P)を合成するために必要な(A)成分および(B)成分の量(割合)は、共重合反応に用いる(A)成分および(B)成分それぞれの分子量と(a1)成分中のフェノール性水酸基の数から容易に算出することができる。
【0029】
イミド化物(P)の合成に用いられる(a2)成分は、一分子中に二個のアミノ基を有する炭素数6乃至36の脂肪族化合物であれば特に限定されない。(a2)成分中の脂肪族構造は直鎖、分岐鎖又は環状の何れであってもよく、前記の構造を併せ持つものでもよく、また、飽和の脂肪族及び不飽和の脂肪族の何れであってもよい。(a2)成分の具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、イソホロンジアミン、ダイマージアミン、2-メチル-1,5-9-ジアミノペンタン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’-メチレンビスシクロヘキシルアミン及び炭素数6乃至36のジアミノポリシロキサン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、ポリイミド樹脂の誘電特性の観点から、ダイマージアミンを用いることが好ましい。
【0030】
(a2)成分の具体例の項に記載したダイマージアミンとは、オレイン酸等の不飽和脂肪酸の二量体であるダイマー酸の有する二つのカルボキシル基を一級アミノ基に置換したものである(特開平9-12712号公報等参照)。ダイマージアミンの市販品の具体例としては、PRIAMINE1074並びにPRIAMINE1075(いずれもクローダジャパン株式会社製)、及びバーサミン551(コグニスジャパン株式会社製)等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。以下、ダイマージアミンの非限定的な一般式を示す(各式において、m+n=6乃至17が好ましく、p+q=8乃至19が好ましく、破線部は炭素-炭素単結合又は炭素-炭素二重結合を意味する)。
【0031】
【0032】
イミド化物(P)を合成する際の(a2)成分の使用量は、(A)成分の質量から、(B)成分のモル数の2倍のモル数の水(脱水縮合反応によって生成した水)の質量を除した質量(生成したイミド化物(P)の質量)の10乃至50質量%の範囲となる量が好ましい。(a2)成分の量が前記の範囲を下回ると、最終的に得られるポリイミド樹脂中の(a2)成分に由来する脂肪族鎖が少な過ぎて樹脂組成物の硬化物の誘電正接が高くなってしまい、前記の範囲を上回ると、ポリイミド樹脂中の(a2)成分に由来する脂肪族鎖が多過ぎて樹脂組成物の硬化物の耐熱性が低下する。
【0033】
本発明のポリイミド樹脂の耐熱性を向上させる目的で、(A)成分にフェノール性水酸基を持たない芳香族ジアミノ化合物(a3)(以下、単に「(a3)成分」とも記載する)を併用してもよい。(a3)成分は、前記の(a1)成分以外の芳香族ジアミノ化合物であって、一分子中に二個のアミノ基を有する芳香族系の化合物であれば特に限定されない。
(a3)成分の具体例としては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-トリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、2,2’-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォキサイド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォンスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォンスルホン、ベンチジン、3,3’-ジメチルベンチジン、3,3’-ジメトキシベンチジン、3,3’-ジアミノビフェニル、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、o-キシリレンジアミン、2,2’-ビス(3-アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)ベンゼン、1,3’-ビス(3-アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3-エチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジエチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3-プロピルフェニル)メタン及びビス(4-アミノ-3,5-ジプロピルフェニル)メタン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
イミド化物(P)の合成に用いられる(a3)成分は、樹脂組成物の硬化物の耐熱性と最終的に得られるポリイミド樹脂の溶剤への溶解性の観点から、下記式(13)乃至(16)からなる群より選択される化合物を含有することが好ましい。
【0035】
【0036】
式(15)中、R2は独立してメチル基又はトリフルオロメチル基を表す。式(16)中、R3は独立して水素原子、メチル基又はエチル基を、ZはCH(CH3)、SO2、CH2、O-C6H4-O、酸素原子、直接結合又は上記式(3)で表される二価の連結基を表す。
【0037】
イミド化物(P)の合成に用いられる(B)成分は、一分子中に二個の酸無水物基を有するものであれば特に限定されない。(B)成分の具体例としては、無水ピロメリット酸、エチレングリコール-ビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセリン-ビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、1,2,3,4,-ブタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチルシクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3a,4,5,9b-テトラヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物及びビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、5,5’-((プロパン-2,2-ジイルビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)等が挙げられる。なかでも、溶剤溶解性、基材への密着性及び感光性の面から、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物又は3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
イミド化物(P)の合成に用いられる(B)成分は、ポリアミック酸樹脂、イミド化物(P)および最終的に得られるポリイミド樹脂の溶剤溶解性の観点から、下記式(4)乃至(12)からなる群より選択される化合物を含有することが好ましい。
【0039】
【0040】
式(7)中、YはC(CF3)2、SO2、CO、酸素原子、直接結合又は上記式(3)で表される二価の連結基を表す。
【0041】
イミド化物(P)の合成に用いられる(A)成分中の(a1)成分のモル数をa1M、(a2)成分のモル数をa2M、(a3)成分のモル数をa3Mとした場合、a1M/(a1M+a2M+a3M)の値が0.01を超えて0.5未満であることが好ましく、0.03を超えて0.3未満であることがより好ましい。a1M/(a1M+a2M+a3M)が0.01以下の場合は、後述する(C)成分との反応部位が少なくなり、結果として本発明のポリイミド樹脂に導入される(D)成分由来の部分構造が少なくなるため樹脂組成物の硬化物の基材接着性及び難燃性が低下する傾向にある。また、a1M/(a1M+a2M+a3M)が0.5以上である場合は、樹脂組成物の硬化物の誘電特性が低下する傾向にある。
【0042】
また、a2M/(a1M+a2M+a3M)の値は0.2を超えて0.9未満であることが好ましく、0.3を超えて0.6未満であることがより好ましい。a2M/(a1M+a2M+a3M)が0.2以下の場合は、樹脂組成物の硬化物の誘電特性が悪化したり、ポリイミド樹脂の溶剤溶解性が悪くなる傾向にある。また、a2M/(a1M+a2M+a3M)が0.8以上の場合は、樹脂組成物の硬化物の耐熱性が悪化する傾向にある。
【0043】
また、a3M/(a1M+a2M+a3M)の値は0.1を超えて0.8未満であることが好ましく、0.2を超えて0.6未満であることがより好ましい。a3M/(a1M+a2M+a3M)が上記の好ましい範囲の場合、樹脂組成物の硬化物のはんだ耐熱性が向上すると共に、ポリイミド樹脂の溶剤溶解性が向上する傾向にある。
【0044】
(A)成分のモル数をMA、(B)成分のモル数をMBとし、MA/MB>1の関係を満たす量の(A)成分と(B)成分を共重合させると両末端がアミノ基のポリアミック酸樹脂のイミド化物(P)が得られる。この時、MA/MBの値は1.0を越えて2.0未満の範囲であることが好ましく、1.0を越えて1.5未満以下の範囲であることがより好ましい。前記の値が2.0以上の場合には、最終的に得られるポリイミド樹脂の高分子量化が不充分となるのに加え、未反応原料の残存率が高くなり、樹脂組成物(後述する)の硬化後の耐熱性等の諸特性が低下する可能性がある。
【0045】
(A)成分のモル数をMA、(B)成分のモル数をMBとし、MB/MA>1の関係を満たす量の(A)成分と(B)成分を共重合させると両末端がカルボン酸無水物基のポリアミック酸樹脂のイミド化物(P)が得られる。この時、MB/MAの値は1.0を越えて2.0未満の範囲であることが好ましく、1.0を越えて1.5未満以下の範囲であることがより好ましい。前記の値が2.0以上の場合には、最終的に得られるポリイミド樹脂の高分子量化が不充分となるのに加え、未反応原料の残存率が高くなり、樹脂組成物(後述する)の硬化後の耐熱性等の諸特性が低下する可能性がある。
【0046】
イミド化物(P)は、公知の方法で合成することができる。例えば、合成に用いる(A)成分および(B)成分を溶剤に溶解させた後、窒素等の不活性雰囲気下、10乃至140℃で加熱撹拌することによってジアミン類と四塩基酸二無水物類との共重合反応が起こり、ポリアミック酸樹脂溶液が得られる。
【0047】
また、前記で得られたポリアミック酸樹脂溶液に必要により脱水剤や触媒を加え、100乃至300℃で加熱撹拌することによってイミド化反応(脱水を伴う閉環反応)が起こり、イミド化物(P)が得られる。脱水剤としてはトルエン及びキシレン等が、触媒としては3級アミン、及び脱水触媒を用いることができる。3級アミンとしては、複素環式の3級アミンが好ましく、例えば、ピリジン、ピコリン、キノリン、及びイソキノリンなどを挙げられる。脱水触媒としては、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、n-酪酸無水物、安息香酸無水物、及びトリフルオロ酢酸無水物等が挙げられる。尚、ポリアミック酸樹脂及びポリイミド樹脂を合成する際の反応時間は反応温度により大きく影響されるが、反応の進行に伴う粘度上昇が平衡に達し、最大の分子量が得られるまで反応を行うことが好ましく、通常数分間乃至40時間である。
【0048】
上記の例はポリアミック酸を経由してポリイミド樹脂を合成する方法であるが、合成に用いる(A)成分および(B)成分を溶剤に溶解させた後、必要により脱水剤や触媒を加え、100乃至300℃で加熱撹拌することによって共重合反応とイミド化反応を一括で行い、イミド化物(P)を得てもよい。
【0049】
イミド化物(P)の合成時に用い得る溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン、γ-ブチロラクトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキセン-1-オン、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチルイソアミルエーテル、エチル-t-ブチルエーテル、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、アニソール、フェネトール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ベンジル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ベンジル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソアミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、サリチル酸メチル、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
好ましい溶剤の使用量は、得られる樹脂の粘度や使途により適宜調整されるべきものであるが、好ましくは固形分含有率60乃至10質量%、より好ましくは50乃至20質量%である。
【0051】
イミド化物(P)の合成時に、脱水反応を促進させるために触媒を使用することが好ましく、該触媒の使用量は、(B)成分のモル数の2倍(脱水縮合により生じる水のモル数)の1乃至30%が好ましく、より好ましくは5乃至15%である。使用しうる触媒の具体例としては、トリエチルアミン、ピリジン等既知一般の塩基性触媒等が挙げられる。中でも、沸点が低く、残留しにくい点からトリエチルアミンが好ましい。
【0052】
次に、イミド化物(P)と(C)成分との反応物について説明する。
イミド化物(P)との反応に用いられる(C)成分は、フェノール性水酸基と反応し得る官能基とエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物であれば特に限定されない。イミド化物(P)の有するフェノール性水酸基と(C)成分の反応物は、(C)成分由来のエチレン性不飽和二重結合基と後述する(D)成分が反応し、樹脂組成物の硬化物の優れた難燃性と基材接着性と耐熱性が両立する。また、イミド化物(P)のフェノール性水酸基を(C)成分と反応させることによって、ポリイミド樹脂の粘度を下げ、基材に対するラミネート性が向上する傾向にある。
【0053】
(C)成分が有するフェノール性水酸基と反応しうる官能基の例としては、イソシアネート基、カルボン酸クロリド基、酸無水物基、エポキシ基、シリルクロリド基、ハロゲン化アルキル基、エステル基、スルホニルクロリド基及びカルボキシル基等が挙げられる。特に(C)成分から脱離基由来の残留不純物が生じない点から、イソシアネート基が好ましい。
尚、(C)成分が有するエチレン性不飽和二重結合基は、C=C結合であれば特に限定されない。
また、(A)成分のモル数をMA、(B)成分のモル数をMBとし、MA/MB>1の関係を満たす量の(A)成分と(B)成分を共重合させ得られるイミド化物(P)は、末端がアミンであるため、(C)成分が有するフェノール性水酸基と反応しうる官能基がイソシアネート基、カルボン酸クロリド基、酸無水物基、エポキシ基、シリルクロリド基、ハロゲン化アルキル基、エステル基、スルホニルクロリド基及びカルボキシル基の時、イミド化物(P)の末端アミンと反応し得る。
一方、(A)成分のモル数をMA、(B)成分のモル数をMBとし、MA/MB<1の関係を満たす量の(A)成分と(B)成分を共重合させ得られるイミド化物(P)は、末端が酸無水物であるため、(C)成分が有するフェノール性水酸基と反応しうる官能基がイソシアネート基、エポキシ基、およびカルボキシル基の時、イミド化物(P)の末端酸無水物基と反応し得る。
【0054】
(C)成分の具体例としては、カレンズMOI(昭和電工株式会社製)、カレンズAOI、カレンズMOI-BM、カレンズMOI-BP、カレンズBEI、カレンズMOI-EG、AOI-VM、メタクリル酸クロリド、アクリル酸クロリド、マレイミドカプロン酸クロリド、臭化アリル、ヨウ化アリル、塩化アリル、4-クロロ-1-ブテン、4-ブロモ-1-ブテン、クロトノイルクロリド、シンナモイルクロリド、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイミドカプロン酸等が挙げられる。
【0055】
イミド化物(P)と(C)成分との反応物は、公知の方法で合成することができる。例えば、イミド化物(P)の樹脂溶液に、所定の(C)成分を混合し、80℃乃至150℃で反応させることにより合成できる。
【0056】
イミド化物(P)と(C)成分の反応を進行させるために各種触媒を使用してもよい。触媒は既知の無機酸、有機酸、無機塩基、有機塩基などが使用できる。
【0057】
(C)成分のモル数をMC、イミド化物(P)のフェノール性水酸基のモル数をMAB、イミド化物(P)の末端官能基のモル数をMPとした場合、MC/(MAB+MP)の値が0.3を超えて1未満であることが好ましく、0.5を超えて1未満であることがより好ましい。MC/(MAB+MP)が1を超える場合は、未反応の(C)成分により樹脂組成物の硬化物の耐熱性が悪化する。また、MC/(MAB+MP)が0.3以下の場合は、(C)成分と反応しないフェノール性水酸基の水素結合によりポリイミド樹脂溶液の粘度が上昇し、ラミネート性が下がる傾向にある上、樹脂組成物の硬化物の基材接着性が低下する傾向にある。
【0058】
次に、イミド化物(P)と(C)成分との反応物と、(D)成分との反応物である本発明のポリイミド樹脂について説明する。
(D)成分はエチレン性不飽和二重結合基と反応し得る官能基を有するリン化合物であれば特に限定されない。尚、ここでいうリン化合物とは、その構造中にリン原子(P)を有する化合物を意味する。イミド化物(P)と(C)成分との反応物が有するエチレン性不飽和結合に(D)成分を反応させることで難燃性と基材接着性と耐熱性が両立する。
【0059】
(D)成分が有するエチレン性不飽和二重結合基と反応し得る官能基の例としては、アクリル基、メタクリル基、チオール基、アミノ基、P-H結合を有する亜リン酸誘導体、マレイミド基、ジエン等が挙げられる。特に、P-H結合を有する亜リン酸誘導体は、イミド化物(P)と(C)成分との反応物が有するエチレン性不飽和結合と温和な条件下で触媒なしで反応可能であるため好ましい。
【0060】
(D)成分の具体例としては、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、亜りん酸ジエチル、亜りん酸ジイソプロピル、亜りん酸ジベンジル、亜リン酸ビス(2-エチルヘキシル)、亜リン酸ジラウリル、亜リン酸ジ(9-オクタデセニル)、亜リン酸ジフェニル、亜りん酸ジブチル、フェニルホスフィン酸、アリルホスホン酸ジエチル、3-アミノプロピルホスホン酸、アレンドロン酸、パミドロン酸、ジエチル(4-アミノフェニル)ホスホネート、(ジフェニルホスフィノイル)メチル=2-メチルプロパ-2-エノアート、FRM-1000(日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0061】
イミド化物(P)と(C)成分との反応物と(D)成分との反応物である本発明のポリイミド樹脂は、公知の方法で合成することができる。例えば、イミド化物(P)の樹脂溶液に、所定の(C)成分を混合し、80℃乃至150℃で反応させることにより合成できる。
【0062】
イミド化物(P)と(C)成分の反応を進行させるために各種触媒を使用してもよい。触媒は既知の無機酸、有機酸、無機塩基、有機塩基、ラジカル開始剤、光塩基発生剤、光酸発生剤などが使用できる。
【0063】
本発明のポリイミド樹脂の合成に用いられる(D)成分のモル数をMD、(C)成分のモル数をMCとした場合、MC/MDの値が1未満である場合は、ポリイミド樹脂がエチレン性不飽和二重結合基を含有し、それが互いにもしくは後述する熱硬化性樹脂と反応し、樹脂組成物の硬化物の優れた耐熱性と接着性が両立するため好ましい。
特に、MC/MDの値が0.1を超えて1未満であることが好ましく、0.2を超えて0.8未満であることがより好ましい。MC/MDが1を超える場合は、未反応の(D)成分により樹脂組成物の硬化物の耐熱性が悪化する。また、MC/MDが0.1以下の場合は、樹脂硬化物の難燃性が低下する傾向にある。
【0064】
次に本発明の樹脂組成物について説明する。
本発明の樹脂組成物は、イミド化物(P)と(C)成分との反応物と(D)成分の反応物である本発明のポリイミド樹脂及び熱硬化性樹脂(化合物)を含有する。
本発明の樹脂組成物が含有する熱硬化性樹脂(化合物)の具体例としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、カルボジイミド樹脂、ベンゾオキサジン化合物及びエチレン性不飽和基を有する化合物等が挙げられる。これらの樹脂または化合物は、得られる硬化物の物性および用途に応じて、1種類単独または2種類以上を適宜混合して使用することができる。
本発明の樹脂組成物においては、ポリイミド樹脂に熱硬化性樹脂(化合物)を併用することにより、樹脂組成物の硬化物に熱安定性と高い接着性を付与することができる。
【0065】
本発明の樹脂組成物が含有する熱硬化性樹脂(化合物)としては、樹脂組成物の硬化物の耐熱性や接着性が特に優れる点から、マレイミド樹脂又はエチレン性不飽和基を有する化合物が好ましい。
尚、本発明のポリイミド樹脂の合成に用いられる(A)成分のモル数をMA、(B)成分のモル数をMB、(C)成分のモル数をMC、イミド化物(P)のフェノール性水酸基のモル数をMAB、イミド化物(P)の末端官能基のモル数をMPとした場合に、MA/MBの値が1を超え、かつMC/(MAB+MP)の値が0を超えて1未満であるポリイミド樹脂に関しては、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を使用することも好ましい。
【0066】
また、熱硬化性樹脂(化合物)は、ワニスの粘度上昇が抑制できる観点から、分子量が100乃至50,000であることが好ましい。尚、本明細書における分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法による、ポリスチレンスタンダードの質量平均分子量を意味する
【0067】
熱硬化性樹脂としてのマレイミド樹脂は、一分子中にマレイミド基を二つ以上有するものであれば特に限定されないが、樹脂組成物の硬化物が機械強度や難燃性等の特性に優れることから、ベンゼン環、ビフェニル環及びナフタレン環等の芳香族環を有するマレイミド樹脂が好ましく、その具体例としては、MIR-3000(日本化薬株式会社製)、MIR-5000(日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
本発明のポリイミド樹脂の合成に用いられる(C)成分のモル数をMC、(D)成分のモル数をMDとした場合、MD/MCが0を超えて1未満であるポリイミド樹脂とマレイミド樹脂を含有する樹脂組成物においては、マレイミド樹脂がポリイミド樹脂のエチレン性不飽和二重結合基と反応し、これにより硬化物の架橋密度が増加し、極性溶剤への耐性が向上すると共に、基材への密着性や耐熱性が向上する。
マレイミド樹脂を含有する樹脂組成物の硬化温度は、150乃至250℃が好ましい。硬化時間は硬化温度に依存するが、概ね数分間乃至数時間程度である。
マレイミド樹脂を含有する本発明の樹脂組成物におけるマレイミド樹脂の含有量は、ポリイミド樹脂のエチレン性不飽和二重結合基1当量に対するマレイミド樹脂のマレイミド基当量が0.1乃至500当量となる量が好ましい。
【0068】
マレイミド樹脂を含有する本発明の樹脂組成物は、マレイミド樹脂の硬化反応を促進する目的で、必要に応じて各種ラジカル開始剤を硬化剤として添加することが出来る。ラジカル開始剤としては、ジクミルパーオキサイド及びジブチルパーオキサイド等の過酸化物類、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物類等が挙げられる。
マレイミド樹脂を含有する本発明の樹脂組成物におけるラジカル開始剤の添加量は、マレイミド樹脂に対して0.1乃至10質量%が好ましい。
【0069】
熱硬化樹脂としてのエポキシ樹脂は、一分子中にエポキシ基を二つ以上有するものであれば特に限定されないが、樹脂組成物の硬化物が機械強度や難燃性等の特性に優れることから、ベンゼン環、ビフェニル環及びナフタレン環等の芳香族環を有するエポキシ樹脂が好ましく、その具体例としては、jER828(三菱ケミカル株式会社製)、NC-3000、XD-1000(いずれも日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ樹脂は、ポリイミド樹脂のフェノール性水酸基又は末端アミノ基若しくは酸無水物基と反応させることを目的に加えられ、これにより硬化物の架橋密度が増加し、極性溶剤への耐性が向上すると共に、基材への密着性や耐熱性が向上する。
エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化温度は、150乃至250℃が好ましい。硬化時間は硬化温度に依存するが、概ね数分間乃至数時間程度である。
【0070】
エポキシ樹脂を含有する本発明の樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、ポリイミド樹脂のフェノール性水酸基並びに末端アミノ基の活性水素及び酸無水物1当量に対するエポキシ樹脂のエポキシ基当量が0.1乃至500当量となる量が好ましい。尚、エポキシ樹脂の有するエポキシ基はフェノール性水酸基との反応性を有するため、ポリイミド樹脂のフェノール性水酸基1当量に対するエポキシ樹脂のエポキシ当量が0.1乃至500当量となる量のエポキシ樹脂を必要に応じて追加するのは好ましい態様である。
【0071】
エポキシ樹脂を含有する本発明の樹脂組成物には、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する目的で、必要に応じて硬化剤を添加することが出来る。硬化剤としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾ-ル類、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール及び1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物等が挙げられる。
エポキシ樹脂を含有する本発明の樹脂組成物における硬化剤の添加量は、エポキシ樹脂に対して0.1乃至10質量%である。
【0072】
熱硬化樹脂としてのエチレン性不飽和基を有する化合物は、一分子中にエチレン性不飽和基を有するものであれば特に限定されない。
エチレン性不飽和基を有する化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートモノメチルエーテル、フェニルエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アジピン酸エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールエチレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、水素化ビスフェノールエチレンオキサイド(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペングリコールジ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリエチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びそのエチレンオキサイド付加物;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びそのエチレンオキサイド付加物;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びそのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0073】
また、この他にも、(メタ)アクリロイル基とウレタン結合を同一分子内に併せ持つウレタン(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリロイル基とエステル結合を同一分子内に併せ持つポリエステル(メタ)アクリレート類;エポキシ樹脂から誘導され、(メタ)アクリロイル基を併せ持つエポキシ(メタ)アクリレート類;これらの結合が複合的に用いられている反応性オリゴマー等もエチレン性不飽和基を有する化合物の具体例として挙げられる。
【0074】
ウレタン(メタ)アクリレート類とは、水酸基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネート、必要に応じて用いられるその他アルコール類との反応物が挙げられる。例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等のグリセリン(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の糖アルコール(メタ)アクリレート類と、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、ジシクロヘキサンメチレンジイソシアネート、及びそれらのイソシアヌレート、ビュレット反応物等のポリイソシアネート等を反応させた、ウレタン(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0075】
ポリエステル(メタ)アクリレート類とは、例えば、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド変性フタル酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の単官能(ポリ)エステル(メタ)アクリレート類;ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性フタル酸ジ(メタ)アクリレート等のジ(ポリ)エステル(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパン又はグリセリン1モルに1モル以上のε-カプロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等の環状ラクトン化合物を付加して得たトリオールのモノ、ジ又はトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0076】
また、ペンタエリスリトール、ジメチロールプロパン、トリメチロールプロパン、又はテトラメチロールプロパン1モルに、1モル以上のε-カプロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等の環状ラクトン化合物を付加して得たトリオールのモノ、ジ、トリ又はテトラ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトール1モルに1モル以上のε-カプロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等の環状ラクトン化合物を付加して得たトリオールのモノ、若しくはポリ(メタ)アクリレートのトリオール、テトラオール、ペンタオール又はヘキサオール等の多価アルコールのモノ(メタ)アクリレート又はポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0077】
更に、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、(ポリ)ブチレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のジオール成分と、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ダイマー酸、セバチン酸、アゼライン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の多塩基酸、及びこれらの無水物との反応物であるポリエステルポリオールの(メタ)アクリレート;ジオール成分と多塩基酸及びこれらの無水物とε-カプロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等からなる環状ラクトン変性ポリエステルジオールの(メタ)アクリレート等の多官能(ポリ)エステル(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。
【0078】
エポキシ(メタ)アクリレート類とは、エポキシ基を有する化合物と(メタ)アクリル酸とのカルボキシレート化合物である。例えば、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート、ビフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、ナフタレン骨格含有エポキシ(メタ)アクリレート、グリオキサール型エポキシ(メタ)アクリレート、複素環式エポキシ(メタ)アクリレート等、及びこれらの酸無水物変性エポキシアクリレート等が挙げられる。
【0079】
例えば、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン類やトリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、及びビスアリルナジイミド等のビニル基を有する化合物も、エチレン性不飽和基を有する化合物の具体例として挙げられる。
【0080】
エチレン性不飽和基を有する化合物としては、市販品を利用することができ、例えば、KAYARADZCA(登録商標)-601H(商品名、日本化薬(株)製)、TrisP-PAエポキシアクリレート化合物のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(日本化薬(株)製KAYARAD(登録商標)ZCR-6007H(商品名)KAYARAD(登録商標)ZCR-6001H(商品名)、KAYARAD(登録商標)ZCR-6002H(商品名)、及びKAYARAD(登録商標)ZCR-6006H(商品名)、KAYARAD(登録商標)ZXR-1889H(商品名)が挙げられる。これらのエチレン性不飽和基を有する化合物は、1種単独又は2種以上を適宜混合して使用することも可能である。
【0081】
エチレン性不飽和基を有する化合物を含有する本発明の樹脂組成物におけるエチレン性不飽和基を有する化合物の含有量は、ポリイミド樹脂のエチレン性不飽和二重結合基当量に対して0.1乃至500当量となる量が好ましい。
【0082】
エチレン性不飽和基を有する化合物を含有する本発明の樹脂組成物には、ポリイミド樹脂とエチレン性不飽和基の硬化反応を促進する目的で、必要に応じてラジカル開始剤等の硬化剤を添加することが出来る。ラジカル開始剤の具体例としては、ジクミルパーオキサイド及びジブチルパーオキサイド等の過酸化物類、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物類等が挙げられる。
エチレン性不飽和基を有する化合物を含有する本発明の樹脂組成物におけるラジカル開始剤の添加量は、全組成物中のエチレン性不飽和基に対して0.1乃至10質量%である。
【0083】
本発明の樹脂組成物に有機溶剤を併用してワニス状の組成物(以下、単にワニスという)とすることができる。用い得る溶剤としては、例えばγ-ブチロラクトン類、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤、テトラメチレンスルフォン等のスルフォン類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート及びプロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン及びキシレンなどの芳香族系溶剤が挙げられる。
有機溶剤は、ワニス中の有機溶剤を除く固形分濃度が好ましくは10乃至80質量%、より好ましくは20乃至70質量%となる範囲で使用する。
【0084】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて公知の添加剤を併用してもよい。併用し得る添加剤の具体例としては、エポキシ樹脂用硬化剤、ポリブタジエン又はこの変性物、アクリロニトリル共重合体の変性物、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、フッ素樹脂、マレイミド系化合物、シアネートエステル系化合物、シリコーンゲル、シリコーンオイル、並びにシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、石英粉、アルミニウム粉末、グラファイト、タルク、クレー、酸化鉄、酸化チタン、窒化アルミニウム、アスベスト、マイカ、ガラス粉末等の無機充填材、シランカップリング剤のような充填材の表面処理剤、離型剤、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の着色剤、アエロジル等のチキソトロピー付与剤、シリコーン系、フッ素系のレベリング剤や消泡剤、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノール系重合禁止剤、安定剤、酸化防止剤、光重合開始剤、光塩基発生材、光酸発生剤等が挙げられる。これら添加剤の配合量は、樹脂組成物100質量部に対して好ましくは1,000質部以下、より好ましくは700質部以下の範囲である。添加剤としては特にアクリル基もしくはメタクリル基を有するシランカップリング剤が耐熱性の観点から好ましい。
【0085】
本発明の樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、各成分を均一に混合するだけでも、あるいはプレポリマー化してもよい。例えば本発明のポリイミド樹脂若しくは末端変性ポリイミド樹脂及び反応性化合物を、触媒の存在下または不存在下、溶剤の存在下または不存在下において加熱することによりプレポリマー化することが出来る。各成分の混合またはプレポリマー化には溶剤の不存在下では例えば押出機、ニーダ、ロールなどを使用し用い、溶剤の存在下では攪拌装置つきの反応釜などを使用する。
【0086】
本発明の樹脂組成物の硬化温度及び硬化時間は、本発明のポリイミド樹脂が有する官能基と熱硬化性樹脂が有する反応性基との組合せ等を考慮し選択すればよいが、例えば、マレイミド樹脂を含有する樹脂組成物やエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物の硬化温度は、120乃至250℃が好ましく、硬化時間は概ね数十分間乃至数時間程度である。
【0087】
本発明の樹脂組成物を加熱溶融し、低粘度化してガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維などの強化繊維に含浸させることによりプリプレグを得ることができる。また、前記ワニスを、強化繊維に含浸させて加熱乾燥させることによりプリプレグを得ることもできる。
上記のプリプレグを所望の形に裁断、必要により銅箔などと積層後、積層物にプレス成形法やオートクレーブ成形法、シートワインディング成形法などで圧力をかけながら樹脂組成物を加熱硬化させることにより電気電子用積層板(プリント配線板)や炭素繊維強化材等の本発明の硬化物を備えた基材(物品)を得ることができる。
また、銅箔に塗工し溶剤媒を乾燥させた後、ポリイミドフィルムもしくはLCP(液晶ポリマー)を積層させ、熱プレス後、加熱硬化することにより本発明の硬化物を備えた基材を得ることもできる。場合によりポリイミドフィルムもしくはLCP側に塗工し、銅箔と積層することで本発明の硬化物を備えた基材を得ることもできる。
また、本発明の樹脂組成物を銅箔に塗工し溶剤媒を乾燥させた後、樹脂をガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維などの強化繊維に含浸させたプリプレグを積層させ、熱プレス後、加熱硬化することにより本発明の硬化物を備えた基材を得ることもできる。
また、本発明の樹脂組成物を銅箔に塗工し溶剤媒を乾燥させた後、樹脂面が重なるように互いにラミネートし、熱プレス後、加熱硬化することにより本発明の硬化物を備えた基材を得ることもできる。
また、本発明の樹脂組成物を活性エネルギー線により硬化させ、表面を被覆することを目的とするハードコート剤やソルダーレジスト等レジスト材料、さらには樹脂組成物を一時的に剥離性基材に塗工しフィルム化した後、本来目的とする基材に貼合し皮膜を形成させる、いわゆるドライフィルムも含まれる。
【0088】
上記の本発明のポリイミド樹脂を備えた基材は銅張積層板(CCL)、またはCCLの銅箔に回路パターンを有するプリント配線板や多層配線版に使用できる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における「部」は質量部を、「%」は質量%を意味する。実施例におけるGPCの測定条件は以下の通りである。
機種:TOSOH ECOSEC Elite HLC-8420GPC
カラム:TSKgel Super AWM-H
溶離液:NMP(N-メチルピロリドン);0.5ml/分、40℃
検出器:UV(示差屈折計)
分子量標準:ポリスチレン
【0090】
実施例1(本発明のポリイミド樹脂1の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、DAPBAF(2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)(和歌山精化工業株式会社製、分子量366.26g/mol)5.84部、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)10.29部、BAFL(9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、JFEケミカル株式会社製、分子量348.16g/mol)2.16部、及びアニソール69.4部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)12.409部、トリエチルアミン0.81部及びトルエン19.13部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら130℃で8時間反応させてイミド化物(P-1)(フェノール性OH当量、1,440g/eq.、分子量71,400)溶液を得た。続いて、残留するトリエチルアミンとトルエンを130℃で除去した後、カレンズAOI(昭和電工株式会社製、分子量141.12g/mol)6.19部を加えて80℃で3時間反応させ、次いで、HCA(三光株式会社製、分子量216.17g/mol)9.47部入れて80℃で3時間反応させ、ポリイミド樹脂(A-1)溶液を得た。
実施例1で用いたジアミン成分((a1)成分、(a2)成分及び(a3)成分)と酸無水物成分((B)成分)のモル比(ジアミン成分のモル数/酸無水物成分のモル数)は1.01であった。
【0091】
実施例2(本発明のポリイミド樹脂2の合成)
実施例1と同じ方法で得たイミド化物(P-1)溶液から残留するトリエチルアミンとトルエンを130℃で除去した後、カレンズAOI(昭和電工株式会社製、分子量141.12g/mol)2.12部、カレンズMOI(昭和電工株式会社製、分子量151.15g/mol)6.81部、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール)0.5部を加えて80℃で3時間反応させ、次いで、HCA(三光株式会社製、分子量216.17g/mol)9.47部入れて80℃で3時間反応させ、ポリイミド樹脂(A-2)溶液を得た。
実施例2で用いたジアミン成分((a1)成分、(a2)成分及び(a3)成分)と酸無水物成分((B)成分)のモル比(ジアミン成分のモル数/酸無水物成分のモル数)は1.01であった。
【0092】
比較例1(比較用ポリイミド樹脂1の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、DAPBAF(2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(2-アミノフェノール)(和歌山精化工業株式会社製、分子量366.26g/mol)5.40部、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)54.2部、BAFL(9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、JFEケミカル株式会社製、分子量348.16g/mol)41.4部、及びアニソール170.06部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)100.00部、トリエチルアミン2.00部及びトルエン25.77部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら130℃で8時間反応させ比較例用ポリイミド樹脂(A-3)(フェノール性OH当量、6,780g/eq.、分子量54,200)溶液を得た。比較例1で用いたジアミン成分((a1)成分、(a2)成分及び(a3)成分)と酸無水物成分((B)成分)のモル比(ジアミン成分のモル数/酸無水物成分のモル数)は1.01であった。
【0093】
比較例2(比較用ポリイミド樹脂2の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)55.1部、BAFL(9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、JFEケミカル株式会社製、分子量348.16g/mol)45.9部、及びアニソール170.06部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)100.00部、トリエチルアミン2.00部及びトルエン25.77部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら130℃で8時間反応させた後、残留するトリエチルアミンとトルエンを引き続き130℃で除去することによって比較例用ポリイミド樹脂(A-4)(分子量69,400)溶液を得た。比較例2で用いたジアミン成分((a2)成分及び(a3)成分)と酸無水物成分((B)成分)のモル比(ジアミン成分のモル数/酸無水物成分のモル数)は1.01であった。
【0094】
比較例3(比較用ポリイミド樹脂3の合成)
温度計、還流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び撹拌装置を取り付けた300mlの反応器に、DAPBAF(2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(2-アミノフェノール)(和歌山精化工業株式会社製、分子量366.26g/mol)9.20部、PRIAMINE1075(クローダジャパン株式会社製、分子量534.38g/mol)91.8部、及びアニソール170.06部を入れて70℃に加熱した。次いで、ODPA(オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22g/mol)100.00部、トリエチルアミン2.00部及びトルエン25.77部を加え、アミック酸の閉環に伴い生成した水をトルエンとの共沸で除去しながら130℃で8時間反応させイミド化物(P-5)(フェノール性OH当量、4,374g/eq.、分子量70,000)溶液を得た。続いて、カレンズMOI(昭和電工株式会社製、分子量155.15g/mol)7.4部、重合禁止剤としてBHT(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール)0.3部を入れ、130℃で4時間反応させた後、残留するトリエチルアミンとトルエンを引き続き130℃で除去することによって比較例用ポリイミド樹脂(A-5)溶液を得た。比較例3で用いたジアミン成分((a1)成分及び(a2)成分)と酸無水物成分((B)成分)のモル比(ジアミン成分のモル数/酸無水物成分のモル数)は1.01、また、フェノール性水酸基と反応し得る官能基とエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物(C)成分のモル数をMC、イミド化物(P-5)のフェノール性水酸基のモル数をMAB、イミド化物(P-5)末端官能基のモル数をMPとすると、MC/(MAB+MP)=0.55であった。
【0095】
実施例3乃至6、比較例4乃至6(本発明及び比較用の樹脂組成物の調整)
表1に示した配合量(単位は「部」、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂の部数は、溶剤を含まない固形分換算の部数である)で各成分を配合した後、固形分濃度が20質量%となる量のアニソールを溶剤として追加して均一に混合することにより、本発明及び比較用の樹脂組成物をそれぞれ調整した。
【0096】
尚、表1における各成分は以下の通りである。
<ポリイミド樹脂>
(A-1);実施例1で得られたポリイミド樹脂(A-1)
(A-2);実施例2で得られたポリイミド樹脂(A-2)
(A-3);比較例1で得られた比較用ポリイミド樹脂(A-3)
(A-4);比較例2で得られた比較用ポリイミド樹脂(A-4)
(A-5);比較例3で得られた比較用ポリイミド樹脂(A-5)
<熱硬化性樹脂>
MIR-3000-70MT;マレイミド樹脂、日本化薬(株)製
XD-1000;エポキシ樹脂、日本化薬(株)製
ZXR-1889H;エポキシアクリレート樹脂、日本化薬(株)製
<硬化剤>
DCP;ジクミルパーオキシド、化薬ヌーリオン(株)製
【0097】
実施例3乃至6及び比較例4乃至6で得られた各樹脂組成物を用いて、下記の方法で樹脂組成物の硬化物の銅箔に対する接着強度及び耐熱性を評価した。
【0098】
(接着性試験)
福田金属箔粉工業株式会社製の超低粗度無粗化処理電解銅箔CF-T9DA-SV(以下、「T9DA」と記載する)の粗面に、オートマチックアプリケータを用いて樹脂組成物をそれぞれ塗布し、120℃で10分間加熱乾燥した。乾燥後の塗膜の厚さは30μmであった。前記で得られた銅箔上の塗膜にPPEプリプレグ(Meteorwave4000、AGC nelco(株)製)を重ね合わせ、200℃で60分間、3MPaの条件で真空プレスした。得られた試験片を10mm幅に切り出し、オートグラフAGS-X-500N(株式会社島津製作所製)を用いて、銅箔間の90°引きはがし強さ(引き剥がし速度は50mm/min)を測定し、下記評価基準でPPEプリプレグとの接着性を評価した。結果を表1に示した。
〇・・・5.0N/cm以上
△・・・2.5N/cm以上、5.0N/cm未満
×・・・2.5N/cm未満
【0099】
(耐熱性試験)
上記「接着性試験」と同じ方法で作製した試験片を、POT-200C(太洋電機産業株式会社製)で288℃に熱したハンダ浴にフロートさせ、フクレが出るまでの時間を測定し、下記の評価基準で耐熱性を評価した。結果を表1に示した。
〇・・・600秒以上膨れなし
△・・・100秒以上、600秒未満膨れなし
×・・・100秒未満で膨れ発生
【0100】
(難燃性試験)
樹脂組成物の塗布量を乾燥後の樹脂組成物層の膜厚が100μmとなる量に変更した以外は上記の「接着性試験」と同じ方法でT9DAの粗面上に樹脂組成物の塗膜をそれぞれ形成し、200℃で60分間加熱硬化した。前記で得られた樹脂組成物の硬化物層と銅箔の積層体から、液比重45ボーメ度の塩化鉄(III)溶液で銅箔をエッチング除去し、イオン交換水で洗浄後、105℃で10分間乾燥することでフィルム状の樹脂組成物の硬化物をそれぞれ得た。この試験片をUL94燃焼性試験に準じて、燃焼時間を測定し、下記の評価基準で難燃性を評価した。結果を表1に示した。
◎:UL V-0相当
(試験片5本を、それぞれ2回着火した時の合計燃焼時間が、50秒以下)
○:UL V-1相当
(試験片5本を、それぞれ2回着火した時の合計燃焼時間が、50秒を超えて250秒)
×:自己消火性なし
【0101】
【0102】
表1の結果より、本発明の樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物よりも接着強度、耐熱性及び難燃性に優れていることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の特定構造のポリイミド樹脂を用いることにより、接着性、耐熱性及び難燃性に優れたプリント配線板等を提供することができる。