(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】キャンバス張り器
(51)【国際特許分類】
B44D 3/18 20060101AFI20250516BHJP
【FI】
B44D3/18 Z
(21)【出願番号】P 2023071878
(22)【出願日】2023-04-07
【審査請求日】2025-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523147417
【氏名又は名称】梅田 桃子
(72)【発明者】
【氏名】梅田 昇
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-145642(JP,A)
【文献】中国実用新案第207772756(CN,U)
【文献】特開2009-101514(JP,A)
【文献】特開2002-120498(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0098702(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44D 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャンバスボードに画布を張り締める際に使用される張り器具であって、
ニュートラルレバーを備えるレバー部及び脚部が、ラチェット部を起点に二股に分かれて成る本体と、
本体全体をボード面に座らせ置く脚部を介して、画布を本体側へ引っ張り寄せ張り締めるために画布を咥え噛む画布掴みクリップと、
から成ることを特徴とするキャンバス張り器。
【請求項2】
脚部において、
一端側に、ラチェット部の回転軸にロール巻きされて、外側(脚部と反対側の画布方向)へ伸びる引張ベルトの末端部に画布掴みクリップを備え、他端側にスプリング式の引張緩和部を備え、引張緩和部の末端部に同じもう一つの画布掴みクリップを備えていることを特徴とする、請求項1に記載のキャンバス張り器。
【請求項3】
二つの画布クリップにおいて、
共に一端側(脚部対向側)が閉じられ、他端側(画布対向側)で上下二片が開口し、
開口内中央部に、上下に伸縮する開閉バネが設けてあり、上片外側に蝶ネジが設けてあり、画布を咥え込んだ開口部の噛み込み強度を自在に調節できる、
ということを特徴とする、請求項1に記載のキャンバス張り器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
キャンバスボード)面にキャンバス布(以下、画布と称する)を張る時に用いる器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木枠を有するキャンバスボード面に画布を張る時には、画布の端縁域をプライヤーで掴んでテコを利用して引っ張りながら、釘あるいはステップラーで木枠に止めるやり方が一般的であった。
ターンバックルを用いたキャンバス張り器も知られている(特許文献1参照)。
又、ハンドバイスを利用したキャンバス引張器も知られている(特許文献2参照)。
尚、荷造りバンド等の引き締め器具には、ラチェット機構が様々な形で利用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実全昭57-53400号 公報
【文献】実全昭63-112100号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された先行技術は、細長金属胴体(ターンバックル)の長手両端に相互逆ネジフックを備えて、胴体をネジ回転させながら、画布の両端を掴んだクリップを中央側へ引っ張り締めて張りを強くし、その逆に回転させて緩め・外す方式であるが、引っ張り・締めに要した回転数だけ逆回転させないと緩め・外しができないのである。また両端のクリップを掴んだ保持力が確たるものとは言い難い不安が付きまとう。そして、この一連の操作において、ターンバックルは終始ボードから浮かしておかねば手で回転させることができず、空中で不安定に揺れ続け、引っ張られた画布の両端には不規則・不安定・不均等な力が掛かり続けるのであり、経験上から言って、気分良くきれいにてきぱきと張り終えるのは難しい注文である。
特許文献2に示された先行技術は、ハンドバイスの重さが半端ではなく、特に女性にとってはそれ自体が大いに不便である。又、画布張り作業は、画布の端を強固に掴めていたとしても、如何に上下水平にブレなく安定させ、且つ力加減を適正に保って画布を引っ張り締め、最も好ましい適度の張り具合に落ち着かせるかが大事であるが、その肝心の点が不明であり、使用者次第に任されてしまう他ない。ここでも上記文献1と同様、器具操作の過程が終始空中で遂行する他なく、しかもターンバックルよりもずっと重い分だけ画布に掛かる力の不規則・不安定・不均等さは一層際立ったものにならざるを得ない。速やかに絵の創作に入ろうする気持にとっては誠に憂慮すべきストレスとなってしまう。
本願は、使用者が男・女いずれであっても人を選ばず、できるだけ簡単で少ない手順回数で、描き手にとってしっくりくる張り具合と安定性を速やかに決定させ、画布固定作業が終えたら、来た道を再度戻る様な面倒で無駄骨折り感をずっしり覚えさせる再現プロセスを省き、すぐに引き・締め操作のそれまで画布を強く掴んでいたクリップを小さな一捻りでサッと緩めて画布を開放し自らを離脱させる器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
キャンバスボード(以下、ボードと称す)面に張る画布を縦×横にピッタリ設置するために使用する器具であって、
ラチェット機構(以下、ラチェット部と称する)を備えた本体と、
ボードの木枠即ちボード枠を介して表面から裏面へ折り返された画布を、縦×横各々の対向する縁枠からボード裏面中央側へ引っ張り寄せて張り締めるために、しっかり掴み込む役割を担う画布掴みクリップ、
という2大要素で構成されるのであるが、
説明の都合上、本体の形状をステップラー型になぞらえ、ステップラーにおける針がセットされるハンドルに相当する部位をレバー部と称し、針が押し付けられるアームに相当する部位を脚部と称して、以下説明する。
本体において、レバー部と脚部との二股に分かれる起点域にラチェット部を備えており、
レバー部において、
脚部から見て背面側に溝状の凹み空間を有し、その凹み空間を蓋する形で溝壁上端縁をスライドし、溝のラチェット部寄りの部位に固定されたコイルバネに繋着され、溝の他端側即ちレバー部末端部位において脱着式にクリップ固定される形で、ニュートラルレバーを備えているのであり、
脚部において、
ラチェット部の回転軸にロール巻きされて、外側(脚部と反対側)へ伸びる引張ベルトの末端部に、画布掴みクリップを備え、その反対方向へ伸びている脚部の末端部において、スプリング式の引張緩和部を備え、引張緩和部の末端部に画布掴みクリップを備えており、
これら二つの画布掴みクリップは、共に、一端(脚部対向側)において閉じられ、他端(画布対向側)において上下2片が開口し、開口内中央部には、上下に伸縮する開閉バネが設けてあり、上片外側に蝶ネジが設けてあり、画布を咥え込んだ開口部の掴み強度を自在に調節で可能になっており、
余程特別の状況が生じない限り、画布引張度の加減調節において、ラチェット機能のニュートラル化-引張ベルトの緩和-レバーの回し戻し、という一種の無駄骨折りをすることなく、蝶ネジのほんの一捻りで作業再スタートができるのであって、
斯くして、従来のラチェット機構とそれに付随するニュートラル化機構を画布張り特有の作業手順に応用しつつも、張り締め作業の安定性と共に望ましい引張度に速やかに到達できることにより、ニュートラルレバー操作を介してレバー部を元に回し戻すという一作業抜きで、殆ど面倒さを感じることなく、ピンと張った画布を縁枠に固定する迄の作業を一気に完了することが出来、気分良く絵の創作に入り込むことが出来る。
以上を特徴とするキャンバス張り器である。
【発明の効果】
【0006】
(イ) 人の座る座脚の様に、器具を手から離して脚部をボード面に接地させて置けるので、画布張り作業において、器具の重たさ・操作の不安定さから解放され、確実に速やかに望ましい張り具合に達することができる。
(ロ) 従来の器具にあっては、手で持った状態で望ましいと感じた画布の引張度も、手から離したら生じる微妙な誤差は致し方ないものだったが、最適の張り度合いと感じたそのままで画布を木枠に打ち止めることができる。
(ハ) 調整のやり直し時も、望み通りの張り作業完了時も、不可逆的に一方向にのみ・爪車の一爪ずつ段階的に確実に回し進むというラチェット機構特有の利点を享受しつつ、それに付きまとう負利点(一爪ずつ段階的に後戻りすることは出来ない)に煩わされることなく、蝶ネジの一捻りで調整やり直しのスタートも、画布からの離脱も、一瞬でできる。
(ニ) 男女の筋力差も、微調整作業・やり直し作業にイライラしやすい人も、人を選ばず愛用してもらえる。
(ホ) 構造が単純明快で、器用・不器用さも関係なく、短時間で望ましい作業結果に達して、いざ創作へと移行できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】本発明の一部である画布掴みクリップの側面図
【
図4】本発明において、使用状態における外観斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態と使用法を説明する。
絵を描くキャンバスボードに画布をきれいに張りセットするために使用する器具であって、ラチェット部(5)を備えた本体(1)と、
ボード枠(F)を介してボード(B)の表面から裏面へ折り返された画布(S)を、縦×横各々の対向するボード枠(F)からボード(B)裏面中央側へ引っ張り寄せて張り締めるために、しっかり掴み込む役割を担う画布掴みクリップ(2)、という2大要素で構成されている。
本体(1)は、ラチェット部(5)を起点にレバー部(3)と脚部(4)との二股に分かれ、V字を横向きにしたような形をしている。
レバー部(3)において、
脚部(4)から見て背面側に溝状の凹み空間を有し、その凹み空間を蓋する形で溝壁上端縁をスライドし、溝のラチェット部(5)寄りの部位に固定されたコイルバネ(11)に繋着され、溝の他端側即ちレバー部(3)末端部位において着脱式にクリップ固定される着脱固定部(12)を成してニュートラルレバー(10)を備えている。
脚部(4)において、
ラチェット部(5)の回転軸にロール巻きされて、外側(脚部と反対側)へ伸びる引張ベルト(6)の末端部に、画布掴みクリップ(2a)を備え、その反対方向へ伸びている脚部の末端部において、スプリング式の引張緩和部(7)を備え、引張緩和部(7)の末端部に画布掴みクリップ(2b)を備えているが、
これら二つの画布掴みクリップ(2)は、共に、一端(脚部対向側)において閉じられ、他端(画布対向側)において上下2片が開口し、開口内中央部には、上下に伸縮する開閉バネ(8)が設けてあり、上片外側に蝶ネジ(9)が設けてあり、画布(S)を咥え込んだ開口部の掴み強度を自在に調節できる。
本発明は以上のような構成であり、以下その使用法を説明1する。
これを使用する時は、画布をボード~ボード枠の下に敷き、縦(又は横)の対向するボード枠を介して折り返し、対向する両辺中間のボード面上に本発明を座らせ、画布掴みクリップ(2a)と画布掴みクリップ(2b)に、横(又は縦)ボード枠(F)にほぼ平行になる地点において画布(S)の両端縁を掴ませ、蝶ネジ(9)をクイッと締め付け固定した上で、レバー部(3)を一段階ずつラチェット回転させて、画布(S)を両端から中央側へ引き寄せ張り締めて行く。その途中で、少々の張り過ぎが生じたとしても、引張緩和部(7)の自動的なバネ調節によって、張りの過大度は自ずと緩和される。適度な張り具合になったら、その状態で、釘又はステップラーでボード枠(F)に止め固定する。
この作業を、画布掴みクリップ(2)で掴む画布(S)端縁の位置をずらしながら数回繰り返す。この時、従来なら用器具をその都度画布(S)から離脱させねばならず、その際、ラチェット機構の負の利点(不可逆に一方向にしか回転しない)に従来悩まされ続けて来たのであるが、本発明の利用においては、蝶ネジ(9)のクイツと一捻りで画布(S)から離脱解放できるので、すぐさま隣の位置へ作業ポイントを移動できるのである。こんな風にして、縦のボード枠(F)に画布(S)固定が済んだら、次に横のボード枠(F)の方で同様の作業手順で画布(S)固定を速やかに終えるのである。従来、最も煩わしく感じつつも、他に方法がなかったので巳むなく踏まざるを得なかった最も苦痛な作業手順を、クイッのワンタッチで通過できるというこの一点は、気分良く創作作業に入りたい絵描きびとにとっては、単なる「準備時間の短縮」では言い表せない、なんともありがたいことなのである。
【符号の説明】
【0009】
1 本体
2 画布掴みクリップ
2a 画布掴みクリップ
2b 画布掴みクリップ
3 レバー部
4 脚部
5 ラチェット部
6 引張ベルト
7 引張緩和部
8 開閉バネ
9 蝶ネジ
10 ニュートラルレバー
11 コイルバネ
12 着脱固定部
B ボード
F ボード枠
S 画布