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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】粉体及び分散体
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20250516BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20250516BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20250516BHJP
【FI】
C01G23/04 B
C09D17/00
C09C1/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023531824
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2022024574
(87)【国際公開番号】W WO2023276761
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2021110079
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓司
(72)【発明者】
【氏名】深澤 元晴
(72)【発明者】
【氏名】岡部 拓人
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-095301(JP,A)
【文献】特開平05-279040(JP,A)
【文献】特開2019-012799(JP,A)
【文献】国際公開第2022/039111(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/158390(WO,A1)
【文献】中国特許第106976905(CN,B)
【文献】鈴木福二, 福島正二,新しい黒色顔料の開発と化粧品への応用,粉末および粉末冶金,第28巻第7号,日本,1981年,239-244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04
C09D 17/00
C09C 1/36
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の結晶組成を有する第一の粒子と、
前記第一の結晶組成と異なる第二の結晶組成を有する第二の粒子と、を含有する粉体であって、
前記第一の結晶組成及び前記第二の結晶組成のそれぞれが、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、粉体。
【請求項2】
前記第一の結晶組成がTiを含み、前記第二の結晶組成がγ-Tiを含む、請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
前記第一の結晶組成がTiを含み、前記第二の結晶組成がTiを含む、請求項1に記載の粉体。
【請求項4】
前記第一の結晶組成がγ-Tiを含み、前記第二の結晶組成がTiを含む、請求項1に記載の粉体。
【請求項5】
前記第一の結晶組成及び前記第二の結晶組成の組合せが以下の組合せのいずれかである、請求項1に記載の粉体。
(1)前記第一の結晶組成がTi のみを含み、前記第二の結晶組成がγ-Ti のみを含む。
(2)前記第一の結晶組成がTi のみを含み、前記第二の結晶組成がTi のみを含む。
(3)前記第一の結晶組成がγ-Ti のみを含み、前記第二の結晶組成がTi のみを含む。
【請求項6】
前記第一の結晶組成及び前記第二の結晶組成と異なり、かつ、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む第三の結晶組成を有する第三の粒子を更に含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項の記載の粉体と、分散媒と、を含有する分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特定の低次酸化チタンの結晶組成を有する粒子を含有する粉体及び分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンを還元することによって得られる低次酸化チタン(還元型酸化チタンとも呼ばれる)は、構成元素であるチタンと酸素との比率(結晶組成)に応じて異なる色を示し、当該比率を適切に調整することにより黒色となることが知られている。そのため、表面が低次酸化チタンで構成される粒子は、黒色顔料等の顔料として種々の用途に利用することができる。例えば特許文献1には、板状粒子上に低次酸化チタンの単層を形成させることで外観色と干渉色の色調が異なる二色性を呈する顔料を用いた化粧料が開示されている。また、黒色顔料などの用途として、特許文献2では、還元剤にCaHを用いて作製した黒色酸化チタン粉末が開示されている。特許文献3では、酸化チタンを高温のアンモニアガスと反応させて作製した酸窒化チタン粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-280607号公報
【文献】特開2012-214348号公報
【文献】特開2010-30842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低次酸化チタンを含む黒色顔料は、一口に黒色と言っても、赤みが強い黒色、青みが強い黒色といったように、異なる色味の黒色を呈する。また、色味によっては同じ黒さであっても明るく見えたり、暗く見えたりすることがある。例えば、赤色や黄色のような明るい色味では同じ黒さであっても、青色や緑色といった暗く見える色味の方が黒く見える。したがって、黒色顔料の用途などに応じて黒色顔料の色味を選択できるように、色味の調整の自由度は高いほうが好ましい。
【0005】
そこで、本発明の一側面は、色味を好適に調整できる低次酸化チタンの粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のように、Ti、γ-Ti又はTiの結晶組成を有し、かつ互いに異なる結晶組成を有する第一の粒子と第二の粒子とを組み合わせることにより、色味を好適に調整できることを見出した。特に、色味を評価する指標であるL色空間におけるL値について、驚くべきことに、第一の粒子及び第二の粒子を含む粉体のL値は、第一の粒子それ自体のL値及び第二の粒子のそれ自体のL値よりも低くなり得ることが判明した。
【0007】
本発明は、以下の側面を含む。
[1] 第一の結晶組成を有する第一の粒子と、第一の結晶組成と異なる第二の結晶組成を有する第二の粒子と、を含有する粉体であって、第一の結晶組成及び第二の結晶組成のそれぞれが、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、粉体。
[2] 第一の結晶組成がTiを含み、第二の結晶組成がγ-Tiを含む、[1]に記載の粉体。
[3] 第一の結晶組成がTiを含み、第二の結晶組成がTiを含む、[1]に記載の粉体。
[4] 第一の結晶組成がγ-Tiを含み、第二の結晶組成がTiを含む、[1]に記載の粉体。
[5] 第一の結晶組成及び第二の結晶組成と異なり、かつ、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む第三の結晶組成を有する第三の粒子を更に含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の粉体。
[6] [1]~[5]のいずれか一項の記載の粉体と、分散媒と、を含有する分散体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、色味を好適に調整できる低次酸化チタンの粉体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例における低次酸化チタン粉体のX線回折の測定結果である。
図2】実施例における低次酸化チタン粉体のX線回折の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態は、第一の結晶組成を有する第一の粒子と、第一の結晶組成と異なる第二の結晶組成を有する第二の粒子と、を含有する粉体である。
【0011】
第一の結晶組成は、Ti、γ-Ti及びTi(以下、これらをまとめて「低次酸化チタン」ともいう)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。第一の結晶組成は、一実施形態において、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる一種のみを含んでいてよい。第一の結晶組成は、他の一実施形態において、当該群より選ばれる二種以上を含んでいてもよく、Ti及びγ-Tiを含んでいてもよく、γ-Ti及びTiを含んでいてもよい。
【0012】
第二の結晶組成は、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。第二の結晶組成は、一実施形態において、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる一種のみを含んでいてよい。第二の結晶組成は、他の一実施形態において、当該群より選ばれる二種以上を含んでいてもよく、Ti及びγ-Tiを含んでいてもよく、γ-Ti及びTiを含んでいてもよい。
【0013】
なお、第二の結晶組成が第一の結晶組成と異なるとは、第二の結晶組成が第一の結晶組成と完全に一致していないことを意味する。例えば、第一の結晶組成がTi及びγ-Tiであり、第二の結晶組成がγ-Ti及びTiである場合、第二の結晶組成は第一の結晶組成と異なっている。言い換えれば、第二の結晶組成は、第一の結晶組成と完全に一致していなければ、一部において第一の結晶組成と共通の結晶構造(上記の例ではγ-Ti)を有していてもよい。
【0014】
第一の粒子及び第二の粒子(更には後述する第三の粒子)が上記の第一の結晶組成及び第二の結晶組成(後述する第三の結晶組成)をそれぞれ有していることは、粉体をX線回折法(XRD)により測定し、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種に起因する回折ピークのみが観測されることで確認される。
【0015】
第一の結晶組成と第二の結晶組成との組合せとしては、以下の組合せが例示される。
(1)第一の結晶組成がTiを含み、第二の結晶組成がγ-Tiを含む。
(2)第一の結晶組成がTiを含み、第二の結晶組成がTiを含む。
(3)第一の結晶組成がγ-Tiを含み、第二の結晶組成がTiを含む。
これらの(1)~(3)の組合せにおいて、第一の結晶組成及び第二の結晶組成のそれぞれは、上記の各低次酸化チタン一種のみを含んでいてよく、上記の各低次酸化チタンに加えて他の低次酸化チタンを更に含んでいてもよい。
【0016】
低次酸化チタン粉体は、第一の結晶組成及び第二の結晶組成と異なる第三の結晶組成を有する第三の粒子を更に含有してもよい。第三の結晶組成は、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の結晶組成を含む。
【0017】
第三の結晶組成は、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の結晶組成を含む。第三の結晶組成は、一実施形態において、Ti、γ-Ti及びTiからなる群より選ばれる一種の結晶組成のみを含んでいてよい。第三の結晶組成は、他の一実施形態において、当該群より選ばれる二種以上の結晶組成を含んでいてもよく、Ti及びγ-Tiを含んでいてもよく、γ-Ti及びTiを含んでいてもよい。
【0018】
なお、第三の結晶組成が第一の結晶組成及び第二の結晶組成と異なるとは、第三の結晶組成が第一の結晶組成及び第二の結晶組成のそれぞれと完全に一致していないことを意味する。例えば、第一の結晶組成がTi及びγ-Tiであり、第二の結晶組成がγ-Ti及びTiであり、第三の結晶組成がγ-Tiである場合、第三の結晶組成は第一の結晶組成及び第二の結晶組成と異なっている。言い換えれば、第三の結晶組成は、第一の結晶組成及び第二の結晶組成のそれぞれと完全に一致していなければ、一部において第一の結晶組成及び第二の結晶組成のそれぞれと共通の結晶構造(上記の例ではγ-Ti)を有していてもよい。
【0019】
低次酸化チタン粉体が第三の粒子を更に含有する場合、例えば、第一の結晶組成がTiを含んでおり、第二の結晶組成がγ-Tiを含んでおり、第三の結晶組成がTiを含んでいてよい。この場合、第一の結晶組成、第二の結晶組成及び第三の結晶組成のそれぞれは、上記の各低次酸化チタン一種のみを含んでいてよく、上記の低次酸化チタンに加えて他の低次酸化チタンを更に含んでいてもよい。
【0020】
第一の粒子、第二の粒子及び第三の粒子それぞれのBET比表面積は、0.25m/g以上、1m/g以上、2m/g以上、3m/g以上、又は4m/g以上であってよく、20m/g以下、10m/g以下、又は8m/g以下であってよい。低次酸化チタン粉体のBET比表面積も、上記の範囲内であってよい。BET比表面積は、比表面積測定器(例えば、Macsorb HM model-1201、Mountech社製)を用いて、窒素ガス吸着で平衡相対圧約0.3により測定され、n=2の平均値として求められる。なお、脱気は、窒素ガスフロー(大気圧)により200℃で10分間行われる。
【0021】
第一の粒子、第二の粒子及び第三の粒子の各粒子(更には低次酸化チタン粉体)における不純物量は、少ないほど好ましい。各粒子中のAlの含有量は、好ましくは、200質量ppm以下、50質量ppm以下、又は20質量ppm以下であってよい。各粒子中のBの含有量は、好ましくは、50質量ppm以下、30質量ppm以下、又は10質量ppm以下であってよい。各粒子中のBaの含有量は、好ましくは、50質量ppm以下、10質量ppm以下、又は5質量ppm以下であってよい。各粒子中のCaの含有量は、好ましくは、100質量ppm以下、50質量ppm以下、又は10質量ppm以下であってよい。各粒子中のCdの含有量は、好ましくは、10質量ppm以下、5質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のCoの含有量は、好ましくは、10質量ppm以下、5質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のCrの含有量は、好ましくは、100質量ppm以下、10質量ppm以下、又は5質量ppm以下であってよい。各粒子中のCuの含有量は、好ましくは、200質量ppm以下、50質量ppm以下、又は10質量ppm以下であってよい。各粒子中のFeの含有量は、好ましくは、200質量ppm以下、50質量ppm以下、又は10質量ppm以下であってよい。各粒子中のKの含有量は、好ましくは、100質量ppm以下、5質量ppm以下、又は1質量ppm以下であってよい。各粒子中のLiの含有量は、好ましくは、20質量ppm以下、2質量ppm以下、又は0.5質量ppm以下であってよい。
【0022】
各粒子中のMgの含有量は、好ましくは、100質量ppm以下、10質量ppm以下、又は1質量ppm以下であってよい。各粒子中のMnの含有量は、好ましくは、10質量ppm以下、5質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のMoの含有量は、好ましくは、10質量ppm以下、5質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のNaの含有量は、好ましくは、50質量ppm以下、10質量ppm以下、5質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のNiの含有量は、好ましくは、50質量ppm以下、20質量ppm以下、又は10質量ppm以下であってよい。各粒子中のPの含有量は、好ましくは、200質量ppm以下、30質量ppm以下、10質量ppm以下、又は5質量ppm以下であってよい。各粒子中のPbの含有量は、好ましくは、50質量ppm以下、5質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のSbの含有量は、好ましくは、100質量ppm以下、20質量ppm以下、10質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のSiの含有量は、好ましくは、1000質量ppm以下、100質量ppm以下、30質量ppm以下、20質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のZnの含有量は、好ましくは、100質量ppm以下、10質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。各粒子中のZrの含有量は、好ましくは、100質量ppm以下、20質量ppm以下、又は2質量ppm以下であってよい。
【0023】
各粒子中のNa、K及びPの含有量の合計は、好ましくは、2000質量ppm以下、1000質量ppm以下、500質量ppm以下、又は100質量ppm以下であってよい。各粒子中のPb、Cd及びCrの含有量の合計は、好ましくは、200質量ppm以下、100質量ppm以下、50質量ppm以下、又は30質量ppm以下であってよい。
【0024】
低次酸化チタン粉体における各不純物量も、上記の範囲内であってよい。不純物量は、試料0.1gにHFとHClをそれぞれ1mL添加し、加圧酸分解(150℃、4時間)により得られた液体を用いて、Agilent5110ICP-OES(アジレントテクノロジー株式会社製)により測定される。
【0025】
低次酸化チタン粉体における第一の粒子、第二の粒子及び第三の粒子の含有量は、所望の色味に応じて適宜調整される。第一の粒子、第二の粒子及び第三の粒子のそれぞれの含有量は、低次酸化チタン粉体の全量を基準として、例えば、5質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は95質量%以上であってよく、95質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
【0026】
低次酸化チタン粉体は、上記の粒子を含有することにより、所定の色度を有する黒色を呈する。低次酸化チタン粉体のL色空間におけるL値は、好ましくは13.0以下、より好ましくは12.0以下、更に好ましくは11.0以下であり、例えば、4.0以上、5.0以上、又は6.0以上であってもよい。低次酸化チタン粉体のL色空間におけるa値は、好ましくは-3.0以上、より好ましくは-2.0以上であり、好ましくは8.0以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは4.0以下である。低次酸化チタン粉体のL色空間におけるb値は、好ましくは-8.0以上、より好ましくは-6.0以上、更に好ましくは-4.0以上であり、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.0以下である。
【0027】
色空間におけるL値、a値及びb値は、測色色差計(例えばZE-2000(日本電色工業株式会社製))により測定される。より具体的には、暗視野用の円筒で零点補正をした後、標準白色板(X=91.71、Y=93.56、Z=110.52)で標準合わせを行う。次いで、35φ×15Hの丸セルに約3gの低次酸化チタン粉体を入れて測定する。
【0028】
上述した低次酸化チタン粉体は、例えば、第一の粒子及び第二の粒子(更には、必要に応じて第三の粒子)を混合することにより得られる。混合は、乾式混合及び湿式混合のいずれでもよく、溶媒を用いないことから、溶媒を乾燥する必要がないため、混合時の製造コストを低減できる観点から、好ましくは乾式混合である。混合方法としては、例えば、メノウ乳鉢やボールミル、振動ミル等の粉砕機、各種ミキサー類による混合が挙げられる。
【0029】
上述した低次酸化チタン粒子は、黒色顔料等の顔料(着色フィラー)として好適に用いられる。このような顔料(着色フィラー)は、例えば、化粧料、半導体等の電子部品、ペンキやインクなどの塗料をはじめとする着色剤として好適に用いられる。
【0030】
低次酸化チタン粉体が上述したような用途で用いられる場合、低次酸化チタン粉体は、例えば分散媒に分散されて用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上述した低次酸化チタン粉体と、低次酸化チタン粉体を分散させる分散媒とを含有する分散体である。
【0031】
分散媒は、分散体の用途に応じて適宜選択され、例えば、水、アルコール、ケトン、エステル、樹脂等であってよい。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム・スチレン)樹脂等であってよい。
【0032】
分散体中の低次酸化チタン粉体の含有量は、分散体の用途に応じて適宜選択され、分散体全量を基準として、例えば、5質量%以上であってよく、90質量%以下であってよい。分散体中の分散媒の含有量は、分散体の用途に応じて適宜選択され、分散体全量を基準として、例えば、10質量%以上であってよく、95質量%以下であってよい。
【実施例
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<Ti粒子の作製>
TiOの粉末(東邦チタニウム社品、HT0514:純度99.9%)と、TiHの粉末(トーホーテック社品、TCH450:純度99.8%)とを、TiO/TiHのモル比が3.0/1となるようにアイリッヒミキサー(日本アイリッヒ株式会社製)で混合し、混合物を得た。この混合物をアルミナ坩堝に移し、電気炉(富士電波工業株式会社、ハイマルチ10000)にて、Ar雰囲気下で、10℃/分で900℃まで昇温させた状態で12時間加熱した。加熱後、得られた粉末を乳鉢で5分間粉砕することで、Tiの一種のみを含む結晶組成を有する粒子(Ti粒子)を得た。
【0035】
<γ-Ti粒子の作製>
TiOの粉末(東邦チタニウム社品、HT0514:純度99.9%)と、TiHの粉末(トーホーテック社品、TCH450:純度99.8%)とを、TiO/TiHのモル比が4.8/1となるようにアイリッヒミキサー(日本アイリッヒ株式会社製)で混合し、混合物を得た。この混合物をアルミナ坩堝に移し、電気炉(富士電波工業株式会社、ハイマルチ10000)にて、Ar雰囲気下で、10℃/分で900℃まで昇温させた状態で12時間加熱した。加熱後、得られた粉末を乳鉢で5分間粉砕することで、γ-Tiの一種のみを含む結晶組成を有する粒子(γ-Ti粒子)を得た。
【0036】
<Ti粒子の作製>
TiOの粉末(東邦チタニウム社品、HT0514:純度99.9%)と、TiHの粉末(トーホーテック社品、TCH450:純度99.8%)とを、TiO/TiHのモル比が7.0/1となるようにアイリッヒミキサー(日本アイリッヒ株式会社製)で混合し、混合物を得た。この混合物をアルミナ坩堝に移し、電気炉(富士電波工業株式会社、ハイマルチ10000)にて、Ar雰囲気下で、10℃/分で900℃まで昇温させた状態で12時間加熱した。加熱後、得られた粉末を乳鉢で5分間粉砕することで、Tiの一種のみを含む結晶組成を有する粒子(Ti粒子)を得た。
【0037】
<低次酸化チタン粉体の調製>
プラスチックの容器に、上記で得られたTi粒子、γ-Ti粒子及びTi粒子を表1に示す割合(質量%)となるように秤量して入れ、低周波共振音響ミキサー LabRAMII(Resodyn Acoustic Mixers,Inc製)を用いて、出力60Gの条件で3分間混合して、低次酸化チタン粉体No.1~13を得た。
【0038】
<X線回折測定>
上記の各低次酸化チタン粉体について、粉末X線回折測定を行った。具体的には、試料水平型多目的X線回折装置(リガク社製、RINT-UltimaIV)を用い、下記の測定条件で回折パターンを測定した。得られたX線回折パターンを図1,2に示す。
(測定条件)
X線源:Cu-Kα線(λ=1.54184Å)
管電圧:40kV、管電流:40mA
測定時の光学条件:発散スリット=2/3°
散乱スリット:8mm
受光スリット=0.15mm
回折ピークの位置=2θ(回折角)
スキャン速度:4.0°(2θ)/min、連続スキャン
測定範囲:2θ=10°~80°
【0039】
<色度の測定>
上記のTi粒子、γ-Ti粒子、Ti粒子及び各低次酸化チタン粉体について、測色色差計ZE-2000(日本電色工業株式会社製)を用いて色度(L色空間におけるL値、a値及びb値)を測定した。より具体的には、まず、暗視野用の円筒で零点補正をした後、標準白色板(X=91.71、Y=93.56、Z=110.52)で標準合わせを行った。次いで、35φ×15Hの丸セルに約3gの粒子を入れて、色度を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
<BET比表面積の測定>
上記のTi粒子、γ-Ti粒子、Ti粒子及び各低次酸化チタン粉体のBET比表面積を、比表面積測定器(Macsorb HM model-1201、Mountech社製)を用いて、窒素ガス吸着で平衡相対圧約0.3により測定し、n=2の平均値として求めた。脱気は、窒素ガスフロー(大気圧)により200℃で10分間行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から分かるとおり、Ti、γ-Ti又はTiの結晶組成を有し、かつ互いに異なる結晶組成を有する第一の粒子及び第二の粒子(更には第三の粒子)を組み合わせることにより、色味を好適に調整できる。特に、L値について、驚くべきことに、第一の粒子及び第二の粒子を含む粉体のL値は、第一の粒子それ自体のL値及び第二の粒子のそれ自体のL値よりも低くなり得る。具体的には、例えば、Ti粒子のL値が11.2であり、γ-Ti粒子のL値が10.8であるところ、これらの粒子を混合した低次酸化チタン粉体1~3のL値は10.8~11.2の間になると予想されたが、驚くべきことに、低次酸化チタン粉体1~3のL値は10.8よりも低くなった。
【0043】
<元素分析>
上記のTi粒子、γ-Ti粒子、Ti粒子及び各低次酸化チタン粉体について、Agilent5110ICP-OES(アジレントテクノロジー株式会社製)を用いて元素分析を行った。具体的には、試料0.1gを白金坩堝に秤取り、HF及びHClをそれぞれ1ml添加し、150℃、4時間の条件で加圧酸分解を行った。その後、6mlに定容し、不要残渣が無いことを確認後、ICP発光分光分析を行った。結果を表2に示す。なお、表2中、「ND」は検出下限以下であったこと、括弧書きの数値は定量下限以下であったことを意味する。検出下限及び定量下限は、それぞれ以下のとおりである。
(検出下限)
Li、Na、Mg、K及びCa:0.5質量ppm
P:5質量ppm
上記以外の元素:2質量ppm
(定量下限)
Li、Na、Mg、K及びCa:2質量ppm
P:10質量ppm
上記以外の元素:5質量ppm
【0044】
【表2】
図1
図2