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特許7682303進行固形腫瘍を治療する薬物の製造のためのミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】進行固形腫瘍を治療する薬物の製造のためのミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/136 20060101AFI20250516BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250516BHJP
   A61K 9/127 20250101ALI20250516BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20250516BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20250516BHJP
【FI】
A61K31/136
A61P35/00
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023573203
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(86)【国際出願番号】 CN2022095446
(87)【国際公開番号】W WO2022247921
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】202110593815.5
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】506417359
【氏名又は名称】石薬集団中奇制薬技術(石家庄)有限公司
【氏名又は名称原語表記】CSPC ZHONGQI PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY(SHIJIAZHUANG)CO.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.896,Zhongshan East Road,High-Tech Zone,Shijiazhuang,Hebei,050035,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】李春雷
(72)【発明者】
【氏名】劉延平
(72)【発明者】
【氏名】李彦輝
(72)【発明者】
【氏名】夏雪芳
(72)【発明者】
【氏名】梁敏
(72)【発明者】
【氏名】王彩霞
(72)【発明者】
【氏名】李春納
(72)【発明者】
【氏名】張▲ジン▼▲ジン▼
(72)【発明者】
【氏名】王世霞
(72)【発明者】
【氏名】孟紅衛
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103622909(CN,A)
【文献】特開2015-180652(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110711178(CN,A)
【文献】特許第7561198(JP,B2)
【文献】特表2024-513965(JP,A)
【文献】特表2024-501491(JP,A)
【文献】特表2004-511510(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101091698(CN,A)
【文献】特許第7602040(JP,B2)
【文献】Annals of Oncology,1992年,Vol.3, No.6,p.445-449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/136
A61P 35/00
A61K 9/127
A61K 47/24
A61K 47/34
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の、卵巣がん又は卵管がんから選択される進行固形腫瘍を治療するための薬物の製造におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの使用であって、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、粒径が30~80nmであり、1)リポソーム内の多価対イオンと溶解しにくい沈殿を形成することができる活性成分ミトキサントロンと、ここで前記対イオンが硫酸イオンであり、2)水素添加大豆レシチン、コレステロール、及びポリエチレングリコール2000で修飾されたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを質量比3:1:1で含むリン脂質二重層とを含有し;前記患者に治療有効量の前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームを投与し、前記治療有効量は24~40mg/m である、使用
【請求項2】
前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームが、前記薬物中の唯一の活性成分である、請求項1に記載の使用
【請求項3】
前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームの治療有効量は、30mg/m である、請求項1に記載の使用
【請求項4】
前記薬物は液体注射剤、注射用粉末剤、注射用錠剤を含む注射剤形である、請求項1に記載の使用
【請求項5】
ミトキサントロンで計算すると、前記薬物は0.5~5mg/mLの前記活性成分を含む、請求項4に記載の使用
【請求項6】
記粒径が約40~60nmであり、リポソーム中のHSPC:Chol:DSPE-PEG2000:ミトキサントロンの重量比が9.58:3.19:3.19:1である、請求項1に記載の使用
【請求項7】
患者の、卵巣がん又は卵管がんから選択される進行固形腫瘍を治療するためのミトキサントロン塩酸塩リポソーム薬物製剤であって、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、粒径が30~80nmであり、1)リポソーム内の多価対イオンと溶解しにくい沈殿を形成することができる活性成分ミトキサントロンと、ここで前記対イオンが硫酸イオンであり、2)水素添加大豆レシチン、コレステロール、及びポリエチレングリコール2000で修飾されたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを質量比3:1:1で含むリン脂質二重層とを含有し;前記患者に治療有効量の前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームを投与し、前記治療有効量は24~40mg/m である、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム薬物製剤
【請求項8】
前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームの治療有効量は、30mg/m である、請求項7に記載のミトキサントロン塩酸塩リポソーム薬物製剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2021年5月28日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202110593815.5であり、名称が「進行固形腫瘍を治療する薬物の製造のためのミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途」である先行出願の優先権を享有することを主張する。当該先行出願の全文は、引用により本発明に組み込まれる。
【0002】
本特許出願は、2007年12月29日に提出されたPCT出願WO2008/080367A1を引用しており、その開示内容の全文は、引用により本願に組み込まれる。
【0003】
(技術分野)
本発明は、抗腫瘍薬分野に属し、具体的には進行固形腫瘍を治療するための薬物の製造におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途に関する。
【背景技術】
【0004】
悪性腫瘍は、既に中国人の健康を深刻に脅かす主な問題の1つになり、且つ過去十数年間で悪性腫瘍の発生率と死亡率は何れも増加し続ける傾向にある。大部分の固形腫瘍にとっては、手術の切除又は放射線療法などの腫瘍の局所治療が標準的な治療方法であるが、一部の局所進行性又は転移性の患者にとっては、腫瘍が広い範囲に浸潤し、重要な臓器に隣接又は転移した場合、腫瘍を「治癒」するという目的を達成することは往々にして難しいため、化学療法は依然として進行固形腫瘍を治療する主な治療方法である。
【0005】
ミトキサントロンはアントラキノン類抗生物質類抗腫瘍薬であり、トポイソメラーゼIIの効果的な阻害剤であり、細胞周期非特異的薬物であり、人体中の過形成性拡散及び非過形成性拡散のがん細胞の両方にも殺傷作用がある。その他、ミトキサントロンはまた、水素結合を介してデオキシリボ核酸に挿入し、DNA構造の架橋と断裂を引き起こすことができ、また、RNAに結合して、腫瘍細胞における過剰発現RNAの合成を妨害し、更に抗腫瘍の効果を達成することもできる。FDAは、1987年にNOVANTRONE(登録商標、注射用ミトキサントロン)が急性骨髄性白血病の治療に用いられることを承認し、その後、多発性硬化症、前立腺がんなどの適応症を次々承認した。米国の薬剤指導書によると、急性非リンパ球白血病の誘導治療の場合、ミトキサントロンとシタラビンとの併用を推奨し、ミトキサントロンの推奨用量は1日12 mg/m2であり、1~3日目に静脈内注入され、多発性硬化症の治療の場合、ミトキサントロンの推奨用量は12 mg/m2であり、3ヶ月毎に1回静脈内注入され、ホルモン耐性前立腺がんに対する場合、ミトキサントロンの推奨用量は12~14 mg/m2であり、21日毎に1回静脈内注入される。同時に、臨床研究により、注射用ミトキサントロンは、悪性リンパ腫、乳がん及び肺がんなどの様々な血液腫瘍及び固形腫瘍に何れも一定の治療効果があるが、骨髄抑制による白血球と血小板の減少と、動悸、期外収縮及び心電図異常のような深刻な心毒性などの比較的深刻な副作用が存在するため、臨床応用では非常に限られていることが示されている。
【0006】
WO2008/080367A1は、ミトキサントロンリポソームを開示しており、研究によって、ミトキサントロンの一般的な製剤と比較して、リポソーム製剤の毒性はより低く、且つ比較的低用量でよりよい抗腫瘍治療効果を得ることができることが示されており、それに開示された内容の全ては参照として本明細書に組み込まれる。しかし、上記特許文献には、人体におけるミトキサントロンリポソームの有効性と安全性については検討されていない。
【0007】
一般的な注射剤と比較して、薬物をリポソームに製造して患者に投与した後、体内での行為は顕著に変化し、実際の状況は非常に複雑であり、投与量が増加したかどうか、関連する毒性が許可され受け入れられるかどうかは、何れも予期できず、例えばイリノテカン塩酸塩、その一般的な注射剤Camptosarは、初期フルオロウラシル治療後の疾患の再発又は進行の結腸又は直腸転移がんの患者に臨床的に使用される場合、2つの投与計画があり、計画1は、125 mg/m2の投与量で、週に1回投与、4回投与後に2週間停止、計画2は、350 mg/m2の投与量で、3週間毎に1回投与である。イリノテカン塩酸塩のリポソーム注射剤Onivydeの場合、現在、臨床的投与計画は、70 mg/m2の投与量で、2週間毎に1回投与である。これから分かるように、リポソームに製造された後、その臨床投与量が高められず、逆に大幅に減少する。また、例えばビンクリスチン硫酸塩、その一般的な注射剤Oncovinは、急性白血病の治療に用いられ、その成人への投与量は1.4 mg/m2で、週に1回投与するが、ビンクリスチン硫酸塩のリポソーム製剤Marqiboは同様に週に1回投与し、投与量が2.25 mg/m2で、一般的な注射剤の1.6倍である。
【0008】
本分野に周知されるように、リポソームは、封入された薬物の体内での分布を顕著に変化できる新しい薬物担持形式であるため、異なる疾患の治療におけるリポソーム製剤の安全且つ有効な用量に常に顕著な違いがある。例えば、Doxil(ドキソルビシン塩酸塩リポソーム)は次の3つの適応症がFDAによって承認されており、それぞれは、(1)卵巣がん:推奨用量は50 mg/m2、4週間毎に1回静脈内投与、(2)カポジ肉腫:推薦用量は20 mg/m2、3週間毎に1回静脈内投与、(3)多発性骨髄腫:推薦用量は30 mg/m2、ボルテゾミブ投与後の4日目に静脈内投与、である。また、例えばAmBisome(注射用アムホテリシンBリポソーム)は、下記の適応症を治療する開始用量がそれぞれ、(1)経験的治療:推奨用量は3 mg/kg/日、(2)システム真菌感染症(アスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス):推奨用量は3~5 mg/kg/日、(3)HIV感染者のクリプトコッカス性髄膜炎:推奨用量は6 mg/kg/日、(4)正常な免疫機能を持つ内臓リーシュマニア症の患者:3 mg/kg/日(1~5日目)、3 mg/kg/日(14日目、21日目)、免疫機能が低下している内臓リーシュマニア症の患者:4 mg/kg/日(1~5日目)、4 mg/kg/日(10日目、17日目、24日目、31日目、38日目)、である。これから分かるように、同じ薬物リポソームでも、異なる適応症に対しての安全且つ有効な用量に違いがある。用量及び投与データは、最大限の薬効と最小限の毒性や有害反応になるように達成し、安全で効果的な疾患の治療効果を取得するために、具体的な疾患の種類や患者の実際の状態に合わせて個別に設定されるべきである。
【0009】
進行固形腫瘍の発生率と死亡率は何れも増加し続ける傾向にあり、化学療法は依然として現在の主な治療方法である。進行固形腫瘍におけるミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の治療効果、安全性及び薬物動態特性などは、未だに明らかではない。本発明は、臨床応用の根拠を提供するために、進行固形腫瘍の治療におけるより高用量のミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の安全性及び有効性を初歩的に探索している。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、進行固形腫瘍を治療するための薬物の製造におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途を提供する。好ましくは、唯一の活性成分として進行固形腫瘍を治療するための薬物の製造におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの用途である。
【0011】
幾つかの実施形態において、前記薬物は液体注射剤、注射用粉末剤、注射用錠剤などを含む注射剤形である。前記薬物が液体注射剤である場合、ミトキサントロンで計算すると、前記薬物は0.5~5 mg/mL、好ましくは1~2 mg/mL、より好ましくは1 mg/mLの活性成分を含む。
【0012】
本発明は、進行固形腫瘍患者に治療有効量のミトキサントロン塩酸塩リポソームを投与するステップを含む進行固形腫瘍を治療する方法を更に提供する。好ましくは、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは単独で進行固形腫瘍の治療に使用される。
【0013】
本発明は、進行固形腫瘍の治療におけるミトキサントロン塩酸塩リポソームの応用を更に提供する。
【0014】
本発明は、患者の進行固形腫瘍を治療するためのミトキサントロン塩酸塩リポソームを更に提供する。好ましくは、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは単独で患者の進行固形腫瘍の治療に使用される。
【0015】
本発明の文脈において、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、液体注射剤、注射用粉末剤、注射用錠剤などを含む注射剤形であってもよい。前記薬物が液体注射剤である場合、ミトキサントロンで計算すると、前記薬物は0.5~5 mg/mL、好ましくは1~2 mg/mL、より好ましくは1 mg/mLの活性成分を含む。
【0016】
本発明の文脈において、ミトキサントロンで計算すると、前記治療有効量とは、ミトキサントロン塩酸塩の用量が8~150 mg/m2、好ましくは12~75 mg/m2、また好ましくは12~60 mg/m2、より好ましくは16~54 mg/m2、更に好ましくは20~49 mg/m2、最も好ましくは24~40 mg/m2であることを意味し、上記の任意2つの用量範囲間の用量を選択してもよい。具体的には、ミトキサントロンで計算すると、例えば、24 mg/m2、30 mg/m2、36 mg/m2、40 mg/m2、44 mg/m2、49 mg/m2、54 mg/m2、60 mg/m2、75 mg/m2である。
【0017】
本発明の文脈において、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームの投与方法は静脈内投与である。好ましくは、毎回静脈内投与の場合、前記リポソーム薬物製剤の滴下投与時間は60 min以上、好ましくは60~120 min、より好ましくは90±15 minである。好ましくは、投与周期は3週間毎に1回投与することである。
【0018】
本発明の文脈において、前記進行固形腫瘍は、好ましくは、現在標準治療がなく、患者が標準治療に耐えられないなどの状況を含む、従来の治療で無効又は有効な治療を欠如する進行固形腫瘍であり、例えばヒト前立腺がん、進行性リンパ腫、再発/難治性リンパ腫、乳がん(例えば進行性再発又は転移性乳がん)、卵巣がん、卵管がん、腸がん、肺腺がん、子宮平滑筋肉腫であり、好ましくは卵管がん、腸がん、肺腺がん、子宮平滑筋肉腫である。
【0019】
本発明の文脈において、前記「治療有効量」とは、毎回患者に投与するミトキサントロン塩酸塩リポソームの量を指し、前記の量によって患者の進行固形腫瘍を効果的に治療、制御又は寛解することができる。
【0020】
本発明の文脈において、特に明記しない限り、前記用量はミトキサントロンで計算される。
【0021】
本発明の文脈において、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、本分野の通常方法によって製造されることができ、従来技術に開示された何れか1種の方法によって製造されるミトキサントロン塩酸塩リポソームであってもよく、例えばWO2008/080367A1に開示された方法によって製造される。
【0022】
幾つかの実施形態において、薬物又はミトキサントロン塩酸塩リポソームは、以下の1つ又は複数の性質を有し、即ち、
(i)ミトキサントロン塩酸塩リポソームの粒径は約30~80 nm、例えば約35~75 nm、約40~70 nm、約40~60 nm又は約60 nmであり、
(ii)ミトキサントロン塩酸塩は、リポソーム内の多価対イオン(例えば、硫酸根、クエン酸根又はリン酸根)と溶解しにくい沈殿を形成し、
(iii)ミトキサントロン塩酸塩リポソーム内のリン脂質二重層は、相転移温度(Tm)が体温より高いリン脂質を含有するため、リポソームの相転移温度が体温より高く、例えば、前記リン脂質は、水素添加大豆レシチン、ホスファチジルコリン、水素添加卵黄レシチン、ジパルミチン酸レシチン、ジステアリン酸レシチン又は以上の任意の組み合わせから選ばれ、
(iv)ミトキサントロン塩酸塩リポソーム内のリン脂質二重層は、水素添加大豆レシチンと、コレステロールと、ポリエチレングリコール2000で修飾されたジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG2000)とを含有し、
(v)ミトキサントロン塩酸塩リポソーム内のリン脂質二重層は、質量比が約3:1:1の水素添加大豆レシチンと、コレステロールと、ポリエチレングリコール2000で修飾されたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンとを含有し、ミトキサントロン塩酸塩はリポソーム内の多価酸イオンと溶解しにくい沈殿を形成すると共に、前記薬物における前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームの粒径が約60 nmであり、
(vi)ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、国薬準字H20220001のミトキサントロン塩酸塩リポソームである。
【0023】
本発明の文脈において、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、その粒径が約30~80 nmであり、1)リポソーム内の多価対イオンと溶解しにくい沈殿を形成することができる活性成分ミトキサントロンと、2)相転移温度(Tm)が体温より高いリン脂質を含むリン脂質二重層と、を含有するため、リポソームの相転移温度が体温より高い。前記Tmが体温より高いリン脂質は、ホスファチジルコリン、水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、ジパルミチン酸レシチン又はジステアリン酸レシチンから選ばれる1種又は複数種であり、前記粒径は約35~75 nm、好ましくは約40~70 nm、より好ましくは約40~60 nm、特に好ましくは約60 nmである。前記リン脂質二重層は、水素添加大豆レシチンと、コレステロールと、ポリエチレングリコール2000で修飾されたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンとを含有し、質量比が3:1:1であり、前記粒径が約60 nmであり、前記対イオンが硫酸イオンである。好ましくは、前記リポソームのリン脂質二重層は、水素添加大豆レシチンと、コレステロールと、ポリエチレングリコール2000で修飾されたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンとを含有し、質量比が3:1:1であり、前記粒径が約40~60 nmであり、前記対イオンが硫酸イオンであり、リポソーム中のHSPC:Chol:DSPE-PEG2000:ミトキサントロンの重量比が9.58:3.19:3.19:1である。
【0024】
本発明の文脈において、前記ミトキサントロン塩酸塩リポソームの製造方法は以下の通りである。HSPC(水素添加大豆レシチン)と、Chol(コレステロール)と、DSPE-PEG2000(ポリエチレングリコール2000で修飾されたジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)とを3:1:1の質量比で秤量し、95%のエタノールに溶解して清澄溶液(即ちリン脂質のエタノール溶液)を得た。リン脂質のエタノール溶液と300 mMの硫酸アンモニウム溶液とを混合し、60~65℃で1 h振とうして水化し、不均一な多胞リポソームを得た。その後、マイクロジェット装置を使用してリポソームの粒度を低減させた。得られたサンプルを濃度0.9%のNaCl溶液で200倍に希釈した後、NanoZSで検出したところ、粒子の平均粒度が約60 nmであり、メインピークが40~60 nmに集中していた。その後、限外濾過装置を用いてブランクリポソーム外相の硫酸アンモニウムを除去し、外相を290 mMのスクロース及び10 mMのグリシンに置換して、膜貫通硫酸アンモニウム勾配を形成した。脂質薬物比16:1の比率で、ブランクリポソームにミトキサントロン塩酸塩溶液(10 mg/mL)を加え、60~65℃で薬物を担持させた。約1 hインキュベートした後、ゲル排除クロマトグラフィーを使用して、封入効率が約100%であることが証明できる。この処方で得られた製品はPLM 60と名付けられる。PLM 60中のHSPC:Chol:DSPE-PEG2000:ミトキサントロンの重量比は9.58:3.19:3.19:1であり、スクロースグリシン溶液の浸透圧は生理的値に近い。
【0025】
上記の例示的な製造方法における複数の技術的詳細及びパラメータは、当業者により合理的な範囲内でデバッグされ決定されることができると理解すべきである。例えば、膜貫通硫酸アンモニウム勾配を形成するための外相中のグリシンの置換可能なアミノ酸の種類は、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン酸、ロイシン、プロリン、アラニンを含むが、これらに限定されない。また、例えば、HSPCと、Cholと、DSPE-PEG2000との質量比は、適切に調整され得る。更に例えば、具体的なリポソーム薬物製剤の製造における脂質薬物比のパラメータに対しては、当業者は、できる限り薬物担持量を増やすと同時に薬物漏れ量を減らすために、適切な脂質薬物比を設計し、測定し、且つ最終的に得ることができる。本願のミトキサントロン塩酸塩リポソーム製剤にとって、利用可能な脂質薬物比の範囲が広く、例えば、2:1まで低く、或いは30:1、40:1又は50:1まで高くてもよく、より適切な脂質薬物比が約(15~20):1、例えば、約15:1、16:1、17:1、18:1、19:1又は20:1である。従って、上記に説明されたミトキサントロン塩酸塩リポソーム製剤の複数の有利な特性は更に重要であり、これらの特性を実現する方法は多様である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の動物試験の結果によって、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液が用量依存的に腫瘍の成長を顕著に抑制することができ、且つ治療効果がミトキサントロン塩酸塩の一般的な注射液よりはるかに強く、治療効果の維持時間が後者より明らかに優れたことが示され、且つ、同じ用量で一般的な注射液と比較して、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液が腫瘍成長の抑制及び/又は担腫瘍動物の生存率の延長においてよりよい治療効果を有することが証明されている。薬物動態試験によって、ミトキサントロン塩酸塩リポソームが一般的な製剤と比較して、顕著な体内での長期循環特性を有し、腫瘍組織への顕著な標的性を有し、体内で線型運動特性を呈し、2回投与間隔中に体内に蓄積することはないことが示されている。同時に、臨床研究の結果によって、ミトキサントロン塩酸塩リポソームが進行固形腫瘍を効果的に治療することができ、治療効果がよく、有害反応が少ないことが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0028】
特に説明のない限り、下記の実施例で使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
【0029】
本発明において、以下の略語が使用される。
CR:完全奏効であり、具体的な定義は、国際的な研究で通用されている「固形腫瘍の治療効果判定基準(RECIST1.1)」を根拠とする。
PR:部分奏効であり、具体的な定義は、国際的な研究で通用されている「固形腫瘍の治療効果判定基準(RECIST1.1)」を根拠とする。
SD:疾患安定であり、具体的な定義は、国際的な研究で通用されている「固形腫瘍の治療効果判定基準(RECIST1.1)」を根拠とする。
PD:疾患進行であり、具体的な定義は、国際的な研究で通用されている「固形腫瘍の治療効果判定基準(RECIST1.1)」を根拠とする。
客観的奏効率(ORR)=(CR+PR)/評価可能な症例の総数×100%。
病勢コントロール率(DCR)=(CR+PR+SD)/評価可能な症例の総数×100%。
実施例1:マウスの体内での腫瘍移植試験
以下、Mit-Injはミトキサントロン塩酸塩注射液を表し、Mit-Lipoはミトキサントロン塩酸塩リポソームPLM 60を表す。
【0030】
NU/NUマウスにヒト前立腺がんPC-3細胞を皮下接種し、接種後の28日目に群分けして投与し、溶剤(5%のグルコース注射液)、Mit-Lipo(石薬集団中奇製薬技術(石家庄)有限責任公司、ロット番号070501)及びMit-Inj(重慶凱林製薬有限公司、ロット番号M20050201)を静脈内注射により投与し、6日間隔で2回(q6d×2)投与し、群分け後の26日目に試験を終了した。実験結果によって、各投与群において、腫瘍の体積が投与後に経時的な有意差(P<0.05)があることが示された。相対腫瘍体積データ(表1を参照、特定の時点の腫瘍体積と初期時点(D0)の腫瘍体積との比率を指す)によって、Mit-Inj 2 mg/kg群の腫瘍成長に対する抑制作用が投与後の20日目まで維持されているが、Mit-Lipoの各群が用量依存的に腫瘍の成長を抑制し、且つ腫瘍抑制作用が試験終了時(26日目)まで維持されていることが示された。同じ用量の条件で、Mit-Lipo 2 mg/kg用量群は、初回投与後の20~26日目にMit-Injと比較して有意差(P<0.05)があった。研究過程において、Mit-Inj群で1匹が死亡し、他の各群では死亡がなかった。これによって、一般的な注射液と比較して、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液は、腫瘍成長の抑制効果がより優れ、維持時間がより長く、且つ安全で耐性がよりよいことが示された。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例2:ミトキサントロンリポソーム注射液の急性毒性研究結果
ミトキサントロン塩酸塩リポソーム及びミトキサントロン塩酸塩注射液の単回投与の急性毒性評価に対してはマウス及びイヌを採用して試験した。結果によって、リポソームに製造されたミトキサントロンの毒性は、ミトキサントロン塩酸塩注射液より顕著に軽減されることが示された。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例3:ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の第I相耐性及び薬物動態臨床研究
2011年8月~2013年6月に、ランダム、非盲検、単一センター、用量漸増型の第I相臨床研究が完了し、進行腫瘍患者の体内でのミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の耐性を評価し、薬物動態研究を同時に行った。ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液は6 mg/m2、10 mg/m2、12 mg/m2、14 mg/m2、16 mg/m2、18 mg/m2の合計6つの用量群を設定して試験し、且つ注射用ミトキサントロン塩酸塩(一般的な製剤)10 mg/m2を対照とした。1周期に28日があり、各周期の初日に投与し、最大3周期投与した。研究では、20例を対象とし、17例にミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液を投与し、3例に注射用ミトキサントロン塩酸塩(一般的な製剤)を投与した。研究によって、同じ用量レベル(10 mg/m2)では、対照群(ミトキサントロン塩酸塩の一般的な注射液)の白血球減少及び好中球の発生頻度が試験群より明らかに高く、重症度も試験群より重度であることが示された。ミトキサントロン塩酸塩リポソーム試験群では、何れもDLT反応が起こらなかった。初期治療効果の評価結果によって、ORRが22.9%(2/9)、DCRが44.4%(4/9)であることが示された。
【0035】
2014年2月~2017年9月に、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム第I相臨床の補充試験「ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の複数回投与耐性臨床研究」が河北医科大学第四病院で行われた。進行性リンパ腫患者においてミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の耐性及び安全性を引き続き考察し、初期治療効果を探索した。研究では、18 mg/m2、20 mg/m2、22 mg/m2、24 mg/m2の合計4つの用量群が設計された。1周期に28日があり、各周期の初日に投与し、最大4周期投与した。この研究では、合計17例の対象が登録された。研究過程において、20 mg/m2の用量群のみで1回のDLT反応が見られ、DLTは依然として確認できなかった。初期治療効果の評価結果によって、ORRが35.3%(6/17)、DCRが47.4%(9/17)であることが示された。
【0036】
これから分かるように、剤形の変更により、ミトキサントロンの安全性及び耐性が向上した。ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液は、6~24 mg/m2範囲内で安全で耐性があり、且つ投与量の増加に伴って、治療効果を更に改善する余地がまたある。
【0037】
実施例4:ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の薬物動態臨床研究
2019年7月から、再発/難治性リンパ腫対象に対して薬物動態臨床研究(HE071-07)が行われた。18~24例の患者を対象とし、1:1:1の比率でランダムに登録し、試験用量はそれぞれ12 mg/m2、16 mg/m2、20 mg/m2であり、Q4Wの合計4周期で、異なる用量でのヒト血漿中の全ミトキサントロン及び遊離ミトキサントロンの薬物濃度を測定し、且つPKパラメータを算出した。2020-5-19日まで、18例の患者のPK特徴を取得した。結果は表3及び表4に示されている。
【0038】
12 mg/m2、16 mg/m2、20 mg/m2の3つの用量では、血漿中の全ミトキサントロン及び遊離ミトキサントロンのAUC0-∞が何れも用量の増加に伴って増加し、全ミトキサントロンのAUC0-∞がそれぞれ1089.74、1220.23及び1435.18 h*μg/mLであった。PKの結果から、16 mg/m2及び20 mg/m2の2つの用量で投与した後、全ミトキサントロンであっても遊離ミトキサントロンであっても体内でのCmax値は比較的近いことが分かった。
【0039】
【表3】

【表4】
【0040】
実施例5:進行性再発/転移性乳がんにおけるミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の第II相臨床研究
進行性再発又は転移性乳がん患者で行われたランダム、対照、単一センターの第II相臨床研究では、合計60例の乳がん患者を対象とし、その中、試験群(ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液20 mg/m2、4週間に1回投与)及び対照群(ミトキサントロン塩酸塩注射液14 mg/m2、4週間に1回投与)はそれぞれ30例とした。結果によって、試験群のORR、DCR、PFSが何れも対照群より優れることが示された。安全性に関しては、ミトキサントロン塩酸塩の一般的な注射液と比較して、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液群の心筋障害マーカーであるトロポニンT上昇の発生率がミトキサントロン塩酸塩の一般的な注射液よりはるかに低く(3.3% Vs 36.7%)、心臓全体に対する安全性が良かった。
【0041】
実施例6:中国の進行固形腫瘍患者におけるミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の用量漸増及び用量拡大の第I相臨床研究
上記の研究結果をまとめて、同時に国家薬品監督管理局が発行した『抗腫瘍薬の臨床試験技術指導原則』の開始用量に対する考慮を参照し、「細胞毒性薬の場合、第I相臨床試験の単回投与の開始用量計算では原則として、単位mg/m2で、非臨床試験における齧歯類動物MTD用量の1/10、又は非齧歯類動物MTD用量の1/6に相当し、同時に、異なる動物種におけるMTD用量の毒性反応及び可逆性を考察する必要もあり、一般的には最も相関性のある動物のMTDを選択して用量を計算し、動物の相関性が不明な場合は、最も敏感な動物のMTDを選択して計算することが適切である」、中国の進行固形腫瘍患者におけるミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液(石薬集団中諾薬業(石家庄)有限公司により提供され、製剤が国薬準字H20220001薬品と同様)の用量漸増及び用量拡大の第I相臨床研究を実施した。研究での開始用量は24 mg/m2であり、用量漸増の最大用量の決定は、非臨床研究の毒性データを参照した。臨床前の動物毒性実験によって、ミトキサントロン塩酸塩リポソームの場合、ICRマウスのMTDが25 mg/kgであり、ヒトMTDの75 mg/m2に相当し、ビーグルイヌのMTDが2 mg/kgであり、ヒトMTDの40 mg/m2に相当し、これに基づいてヒトMTDが40~75 mg/m2であると予測される(表5を参照)ことが示された。対象の安全性への考慮に基づいて、40 mg/m2を最大漸増用量として選択した。
【0042】
【表5】
【0043】
一、試験設計
この研究は、非盲検、多センターの第I相臨床研究であり、主に用量漸増及び用量拡大の2段階に分け、進行固形腫瘍の対象を含み、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液による単剤治療を行い、当該薬物の安全性及び耐性を探索し、最大耐用量(MTD)を決定し、且つ薬物動態特性を観察し、同時に治療効果を評価することを目的とした(RECIST 1.1基準を参照)。
【0044】
研究には、スクリーニング期間、治療期間及び追跡期間が含まれる。スクリーニング期間は28日間であり、対象はインフォームドコンセントに署名した後にスクリーニング関連の検査を完了させ、且つベースライン評価を行った。スクリーニングに合格した対象は治療期間に進んだ。治療期間には、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液による単剤治療を行い、投与計画は3週間毎に1回、各周期の初日に投与することであった。用量漸増段階の最初の周期はDLT観察期間であり、DLTを経験していない対象は、最初の周期の投与量に従って次の周期の投与を続けることができ、DLTを経験した対象については、研究者は状況に応じて決定することができ、対象が引き続き治療に耐られ、利得が得られると評価された場合、1用量レベルを下げて引き続き投与し、対象が引き続き治療に耐えられず、利得が得られないと評価された場合、研究から退出した。用量拡大段階では、DLTを観察する必要がなく、合計6周期投与した。6周期の投与を完了した対象について、引き続き治療により利得が得られ、且つ耐られる場合、研究者とスポンサーは引き続き治療できるかどうかについて検討して決定することができる。治療期間には、2周期毎に1回治療効果を評価した。対象は、計画の要件に従って投与前と投与後の異なる時点で薬物動態(PK)血液サンプルを採取する必要があった。全ての対象は、研究過程において、関連する検査を完了し、安全性及び耐性を観察した。最後投与後の4週間に治療終了訪問を実施し、その後、6週間毎に1回生存追跡を行った(疾患進行が発生しない対象に対して治療効果を評価する必要がある)。
【0045】
1. 用量漸増段階
ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の開始投与量を24 mg/m2に、より高い用量を30 mg/m2、36 mg/m2、40 mg/m2にする
この研究は、「3+3」用量漸増計画に従い、特定の用量レベルで、3例の患者が全て最初の周期に用量制限毒性(DLT)を示さなかった場合、用量が次の用量に漸増し、最初の周期に1例のDLTが発生した場合、更に3例の患者を対象とし、3例又は6例の患者には最初の周期に2例以上のDLTが発生した場合、用量漸増を中止し、当該用量は「耐えられない用量」と判断され、当該用量の前の用量群は最大耐用量(MTD)と定義された。事前に設定された最大用量(40 mg/m2)で最大耐用量が見つからない場合、用量漸増を継続するかどうかについて、研究者とスポンサーにより検討され、選択可能な試験用量は、例えば44 mg/m2、49 mg/m2、54 mg/m2、60 mg/m2、75 mg/m2、150 mg/m2、又は上記の任意2つの用量範囲間の用量であった。
【0046】
DLTを経験した対象について、研究者は状況に応じて決定することができる。対象が引き続き治療により利得が得られると評価された場合、1用量レベルを下げて引き続き投与し(第1用量群の場合は、20 mg/m2に下げることができる)、対象が引き続き治療により利益が得られないと評価された場合、研究から退出した。同じ対象で用量レベルを増加させることは許可されない。
【0047】
2. 用量制限毒性(DLT)
DLTは、初回投与後の21日以内(D1~D21)にNCI-CTCAEバージョン5.0に基づいて判定した試験薬に相関する不都合事件と定義された。
【0048】
具体的な判定基準は以下の通りであった:
血液学的毒性
1)グレード4の好中球減少が7日間に寛解しなかった;
2)グレード4の血小板減少、ヘモグロビン減少;
3)グレード3以上の発熱性好中球減少による発熱が3日間に寛解しなかった;
4)出血傾向を伴うグレード3の血小板減少。
【0049】
他の非血液学的毒性
1)≧グレード2の駆出分画が低下した;
2)以下の状況を除いた、≧グレード3の他の任意の非血液学的毒性:
<1>一過性(≦24時間)グレード3の発熱(>40℃)、疲労、頭痛、吐き気で、治療後にグレード1又はベースラインに回復した;
<2>グレード3の下痢、嘔吐、電解質障害(低カリウム血症、低リン血症、低カルシウム血症などを含む)で、治療後の48時間以内にグレード1又はベースラインに回復した。
【0050】
3. 用量拡大段階
試験中において、対象の安全性と耐性を評価し、対象の状態に応じて2~4群を選択して病例の拡張を実施し(耐性を評価する用量群に対して、同時に用量拡大を実施することができる)、選択された用量群に対して、各群で10~20例の患者を拡張した。安全性、耐性、薬物動態特性及び有効性を更に観察した。拡張した病例は、DLT観察集団に含まれなかった。
【0051】
二、試験の流れ
各例の対象が受ける研究の流れは以下の通りである:-28~-1日のスクリーニング期間、治療期間(6周期)、治療終了訪問及び生存追跡。
【0052】
対象がインフォームドコンセントに署名し、且つスクリーニング期間中に全てのベースライン検査を完了した後、登録基準を満たし、除外基準を満たさない対象は、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の治療を受けるようにした。全ての対象は治療期間に、試験薬物の初期治療効果を観察するために、2周期毎に1回腫瘍評価を受け、同時に、安全性と薬物動態特性を観察するために、計画に規定される関連検査を完了させ、且つ計画に基づいて投与前と投与後の異なる時点でPK(薬物動態)血液サンプルを採取した。対象は、最後投与後の28(±7)日に治療終了訪問を実施し、その後、6週間毎に1回生存追跡を行った(疾患進行が発生しない対象に対して治療効果を評価する必要がある)。
【0053】
三、試験集団
以下の全ての登録基準を満たし、且つ任意の除外基準に該当しない対象のみは、この臨床研究に登録することができる。
【0054】
(一)登録基準
対象は以下の全ての基準を満たさなければならない:
1.対象は自発的に研究に参加し、且つインフォームドコンセントに署名する;
2.男女を問わず、年齢18~65歳;
3.病理組織学/細胞学的診断によって確認された進行固形腫瘍患者である;
4.研究者により判断された、現在標準治療がなく、患者が標準治療に耐えられないなどを含む、従来の治療で無効又は有効な治療を欠如する進行固形腫瘍患者である;
5.ベースラインには、RECIST 1.1の定義を満たす測定可能な病巣が少なくとも1つある;
6.ECOGスコアが0~1点である;
7.以前の抗腫瘍治療毒性が≦グレード1に回復する(脱毛、色素沈着又は研究で対象に安全上のリスクがないと考えられる他の毒性を除く);
8.適切な臓器機能を有し、実験室の検査値は以下の要件を満たす必要がある:
●好中球絶対値(ANC)≧1.5×109/L(実験室検査前の2週間以内にG-CSF白血球上昇治療無し);
●ヘモグロビン(Hb)≧9.0 g/dL(実験室検査前の2週間以内に赤血球輸血無し);
●血小板≧100×109/L(実験室検査前の2週間以内に血小板輸血無し);
●クレアチニン≦1.5×ULN;
●総ビリルビン≦1.5×ULN;
●アラニンアミノトランスフェラーゼ(AST)/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ALT)≦3×ULN;
●血液凝固機能:プロトロンビン時間(PT)、国際正規化比(INR)≦1.5×ULN;
9.女性対象の尿又は血中HCG陰性(閉経及び子宮摘出術を除く)、対象及びそのパートナーは試験期間中から最後投与終了後の6か月以内に効果的な避妊措置を実施した。
【0055】
(二)除外基準
以下の何れかの基準を満たす対象は、この試験から除外される:
1.ミトキサントロン又はリポソーム類の薬物に対する重度のアレルギーがある;
2.脳又は脳膜転移のある対象;
3.生存期<3ヶ月;
4.慢性B型肝炎(HBsAg又はHBcAb陽性且つHBV DNA≧1000 IU/mL)、慢性C型肝炎(HCV抗体陽性且つHCV RNAが研究センター検出値の下限より高い)、HIV抗体陽性の患者;
5.初回の薬物投与前の1週間以内に静脈内注入を必要とする活動性細菌感染症又は真菌感染症又はウイルス感染症に罹患した;
6.初回投与前の4週間以内に何らかの抗腫瘍治療を受けた者(例えば、放射線療法、標的療法、免疫療法、内分泌療法など)、初回投与前の2週間以内に腫瘍適応症に承認された漢方薬又は中成薬の治療を受けた者;
7.初回投与前の4週間以内に他の臨床試験薬の治療を受けた;
8.初回投与前の3か月以内に大手術を受け、手術後も回復していない患者、或いは、研究期間中に大手術を受ける予定の者;
9.スクリーニング前の6ヶ月以内に、研究者により判定された例えば肺塞栓症などの深刻な血栓形成又は塞栓症の事象が発生した;
10.基底細胞がん又は扁平上皮皮膚がん或いは上皮内前立腺がん、子宮頸部がん又は乳がんなどの治癒した局所治癒可能ながんを除いた、過去3年以内に他の活動性悪性腫瘍に罹患した;
11.以下の各項目を含む心臓機能異常:
●長いQTc症候群又はQTc間隔>480 ms;
●完全な左脚ブロック、2度又は3度の房室ブロック;
●薬物の治療を必要とする重度で制御不能な不整脈;
●慢性うっ血性心不全の病歴、NYHA≧グレード3;
●6ヶ月以内に心臓駆出割合駆出分画が50%未満;
●CTCAE≧グレード3の心臓弁膜症;
●制御不能な高血圧(薬物の制御下で、収縮期血圧≧160 mmHg又は拡張期血圧≧100 mmHgと定義される);
●スクリーニング前の6ヶ月内に、心筋梗塞、不安定狭心症、重度の心膜疾患の病歴、急性虚血性又は重度の伝導系異常の心電図が生じる証拠があった;
12.ドキソルビシン又は他のアントラサイクリン療法を受けたことがあり、且つドキソルビシンの累積用量が350 mg/m2を超えている(アントラサイクリン等価用量の計算:1 mgのドキソルビシン=2 mgのエピルビシン=2 mgのピラルビシン=2 mgのダウノルビシン=0.5 mgのデメトキシダウノルビシン=0.45 mgのミトキサントロンであり、ドキソルビシンリポソームは累積用量を計算しない);
13.授乳中の女性;
14.重度及び/又は制御不能な疾患、研究者の判定によってこの研究への患者の参加に影響を与える可能性のある他の疾患(効果的に制御されていない糖尿病、透析を必要とする腎臓病、重度の肝臓病、生命を脅かす自己免疫系疾患及び出血性疾患、薬物乱用、神経系疾患などを含むが、これらに限定されない)に罹患した;
15.研究者により判定された参加に適していない他の場合。
【0056】
(四)退出/停止基準
対象は、研究の任意の段階で理由なく研究から退出したり、又は研究介入を中止したりすることができる。対象が研究を中止又は退出する原因は、eCRFに記録する必要があり、可能であれば、研究者は研究から退出した対象に対して終了訪問及び評価を実施する必要がある。
【0057】
以下の場合、対象は研究から退出しなければならない:
●対象がインフォームドコンセントを撤回するか、或いは対象又はその家族メンバーが試験の退出を要求する;
●研究過程において、他の臨床研究に参加した(OS追跡を除く)。
【0058】
四、研究の結果
今回、19例の患者の治療効果に対して評価を行い、腫瘍の種類に応じて、乳がん7例、卵巣がん及び卵管がん7例、腸がん3例、肺腺がん1例、子宮平滑筋肉腫1例に分けられた。研究の結果によって、ミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の使用によって、薬物が静脈内注入により人体に入った後に徐放、標的化、毒性減少、相乗作用の効果があり、複数種の進行固形腫瘍の患者に対して良好な臨床応用の見通しがあることが示される。
【0059】
24 mg/m2及び30 mg/m2の用量漸増実験では、何れもDLT(用量制限毒性)が発生しなかった。登録した合計25例の対象では、24 mg/m2の用量群15例、30 mg/m2の用量群10例であった。有害反応は主に血液学的毒性であり、24 mg/m2群で発生率が5%を超えた≧グレード3のAEが白血球減少(60%)、好中球減少(53%)、血小板数減少(13%)であり、30 mg/m2群で発生率が5%を超えた≧グレード3のAEが好中球減少(30%)、白血球減少(30%)、血小板数減少(20%)、貧血(10%)、リンパ球数低下(10%)である。治療効果に関しては、24 mg/m2群の少なくとも1回の治療効果評価12例、PRが2例、SDが4例、PDが6例で、ORRが16.7%、DCRが50%である。30 mg/m2群の少なくとも1回の治療効果評価7例、SDが4例、PDが3例で、DCRが57.1%である。SDと評価された対象は薬物を引き続き投与し、よりよい治療効果が得られた。
【0060】
この研究におけるミトキサントロン塩酸塩リポソーム注射液の全てのグレードでの有害反応の発生率を、ミトキサントロンの一般的な製剤と比較すると、白血球減少(76% vs 87%)、好中球減少(64% vs 79%)、血小板数減少(32% vs 39%)、貧血(60% vs 75%)、リンパ球数低下(4% vs 72%)であり、心臓の安全性では、心臓機能障害(0% vs 18.0%)、心筋虚血(0% vs 5.0%)、不整脈(0% vs 7.0%)である。ミトキサントロンの安全性データは、CALGB9182の研究から抽出され、当該研究では、合計112例の進行性ホルモン難治性前立腺がん対象を含み、ヒドロコルチゾンと組み合わせたミトキサントロン単剤(12~14 mg/m2)で治療した。
【0061】
これから分かるように、ミトキサントロン塩酸塩リポソームは、用量増加の前提下で、ミトキサントロンの一般的な製剤と比較して血液学的毒性が増加せず、且つ改良されたミトキサントロン塩酸塩リポソームの心臓に相関する有害反応の発生率が明らかに減少した。
【0062】
以上、本発明の技術案の実施形態について例示的に説明している。本発明の請求範囲は上記の実施形態に拘らないと理解すべきである。本発明の要旨及び原則を逸脱しない範囲内で、当業者により行われた何れの修正、同等置換、改善なども、本願の特許請求の範囲の内に含まれるべきである。