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特許7682407地絡事故位置推定装置および地絡事故位置推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-15
(45)【発行日】2025-05-23
(54)【発明の名称】地絡事故位置推定装置および地絡事故位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/08 20200101AFI20250516BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20250516BHJP
【FI】
G01R31/08
G01R31/52
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024565988
(86)(22)【出願日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2024016554
【審査請求日】2024-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】井上 禎之
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-101340(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02680017(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第102288872(CN,A)
【文献】特許第4550464(JP,B2)
【文献】特開2021-156645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08
G01R 31/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の電流計測器が配置された送電路と、前記送電路に対して零相電流を測定するための電流を出力する電源装置とが設けられた配電系統の地絡事故位置推定装置であって、
前記複数個の電流計測器の各々から通知される電流計測結果を収集する電流計測結果収集部と、
前記電流計測結果から前記送電路の零相電流を検出する零相電流検出部と、
検出された前記零相電流に基づいて前記配電系統での地絡事故発生を検出すると、前記電源装置に対して前記電流の出力を指示する地絡事故発生検出部と、
前記電源装置による前記電流の出力に応じて前記電流計測結果収集部および前記零相電流検出部によって検出された前記零相電流に基づいて前記地絡事故の発生地点を推定する地絡事故発生地点推定部とを備え、
前記地絡事故発生地点推定部は、前記零相電流の波形から共振周波数を算出し、算出した前記共振周波数に基づいて前記発生地点の位置を推定し、
前記配電系統には、異なる場所に複数個の前記電源装置が配置され、
記地絡事故発生検出部は、前記地絡事故の発生を検出したときには、前記複数個の電流計測器の各々に対応して検出される各前記零相電流の極性に基づいて、前記複数個の電流計測器の配置位置によって区分される複数の区間のいずれに前記発生地点が含まれるかをさらに判定し、前記送電路のうちの前記発生地点を含む事故区間の位置に応じて選択された前記複数個の前記電源装置のうちの1個の電源装置に対して前記電流の出力を指示する、地絡事故位置推定装置。
【請求項2】
前記地絡事故発生検出部は、前記共振周波数に基づく予め定められた基準点から前記発生地点までの推定距離に従って、前記発生地点の位置を推定する、請求項1記載の地絡事故位置推定装置。
【請求項3】
前記配電系統には、分岐した複数個の前記送電路が設けられ、
前記複数個の電流計測器は、前記複数個の送電路の各々に複数ずつ配置された電流計測器を含み、
前記地絡事故発生検出部は、前記地絡事故の発生が検出されたときには、前記複数個の電流計測器の各々に対応して検出される各前記零相電流に基づいて、前記複数個の送電路のいずれに前記発生地点が含まれるかをさらに判定し、
前記地絡事故発生地点推定部は、前記複数個の送電路のうちの前記発生地点を含む事故送電路を示す情報と、選択された前記1個の電源装置から前記発生地点までの、前記共振周波数に基づく推定距離とに従って、前記発生地点の位置を推定する、請求項1記載の地絡事故位置推定装置。
【請求項4】
前記配電系統には、分岐した複数個の前記送電路が設けられ、
前記複数個の電流計測器は、前記複数個の送電路の各々に複数ずつ配置された電流計測器を含み、
前記地絡事故発生検出部は、前記地絡事故の検出時には、前記複数個の電流計測器の各々に対応して検出される各前記零相電流の極性に基づいて、前記複数個の送電路のいずれに前記発生地点が含まれるかをさらに判定し、
前記地絡事故発生地点推定部は、前記複数個の送電路のうちの前記発生地点を含む事故送電路を示す情報と、選択された前記1個の電源装置から前記発生地点までの、前記共振周波数に基づく推定距離とに従って、前記発生地点の位置を推定する、請求項1記載の地絡事故位置推定装置。
【請求項5】
前記複数個の前記電源装置は、前記配電系統の配電用変電所に設置される電源装置を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の地絡事故位置推定装置。
【請求項6】
選択された前記1個の電源装置は、当該電源装置が配置された前記送電路の三相配電線の各相に対して前記電流を出力するように構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の地絡事故位置推定装置。
【請求項7】
複数個の電流計測器が配置された送電路と、前記送電路に対して零相電流を測定するための電流を出力する電源装置とが設けられた配電系統の地絡事故位置推定方法であって、
前記複数個の電流計測器の各々から通知される電流計測結果から検出された前記送電路の零相電流に基づいて前記配電系統での地絡事故の発生有無を判定するステップと、
前記地絡事故の発生を検出したときに、前記電源装置に対して前記電流の出力を指示するステップと、
前記電源装置による前記電流の出力後に前記複数個の電流計測器の各々から通知される電流計測結果から検出された前記零相電流に基づいて前記地絡事故の発生地点を推定するステップとを備え、
前記推定するステップは、
前記零相電流の波形から共振周波数を算出し、算出した前記共振周波数に基いて前記発生地点の位置を推定し、
前記配電系統には、異なる場所に複数個の前記電源装置が配置され、
記判定するステップは、前記地絡事故の発生を検出したときには、前記複数個の電流計測器の各々に対応して検出される各前記零相電流の極性に基づいて、前記複数個の電流計測器の配置位置によって区分される複数の区間のいずれに前記発生地点が含まれるかをさらに判定し、
前記指示するステップは、前記送電路のうちの前記発生地点を含む事故区間の位置に応じて選択された前記複数個の前記電源装置のうちの1個の電源装置に対して前記電流の出力を指示する、地絡事故位置推定方法。
【請求項8】
前記推定するステップは、前記共振周波数に基づく予め定められた基準点から前記発生地点までの推定距離に従って、前記発生地点の位置を推定する、請求項7記載の地絡事故位置推定方法。
【請求項9】
前記配電系統には、分岐した複数個の前記送電路が設けられ、
前記複数個の電流計測器は、前記複数個の送電路の各々に複数ずつ配置された電流計測器を含み、
前記判定するステップは、前記地絡事故の発生を検出したときには、前記複数個の電流計測器の各々に対応して検出される各前記零相電流に基づいて、前記複数個の送電路のいずれに前記発生地点が含まれるかをさらに判定し、
前記推定するステップは、前記複数個の送電路のうちの前記発生地点を含む事故送電路を示す情報と、選択された前記1個の電源装置から前記発生地点までの前記共振周波数に基づく推定距離とに従って、前記発生地点の位置を推定する、請求項7記載の地絡事故位置推定方法。
【請求項10】
前記配電系統には、分岐した複数個の前記送電路が設けられ、
前記複数個の電流計測器は、前記複数個の送電路の各々に複数ずつ配置された電流計測器を含み、
前記判定するステップは、前記地絡事故の検出時には、前記複数個の電流計測器の各々に対応して検出される各前記零相電流の極性に基づいて、前記複数個の送電路のいずれに前記発生地点が含まれるかをさらに判定し、
前記推定するステップは、前記複数個の送電路のうちの前記発生地点を含む事故送電路を示す情報と、選択された前記1個の電源装置から前記発生地点までの、前記共振周波数に基づく推定距離とに従って、前記発生地点の位置を推定する、請求項記載の地絡事故位置推定方法。
【請求項11】
前記指示するステップは、選択された前記1個の電源装置に対して、当該電源装置が配置された前記送電路の三相配電線の各相への前記電流の出力を指示する、請求項7~10のいずれか1項に記載の地絡事故位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地絡事故位置推定装置および地絡事故位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統は、需要家の受電設備に電力を供給するための運用システムであり、発電、変電、送電、および、配電を行う役割を担っている。電力系統にて事故が発生した場合には、需要家への電力の供給が停止してしまう。そのため、早急に事故原因、事故区間、および、事故位置等を特定して、復旧作業を行う必要がある。従来、事故発生位置の特定は主に保線作業員の目視にて行われるのが一般的であったが、この手法では、数キロメートルから数十キロメートルにも及ぶ亘長の配電系統においては、事故発生位置の特定に時間を要してしまう。
【0003】
電力系統で発生する事故の一つに地絡事故がある。地絡事故が発生すると、零相電流および零相電圧が発生するため、零相電流および零相電圧の監視により、地絡発生を検出することが、例えば、特許第4550464号公報(特許文献1)に記載されている。
【0004】
さらに、特許文献1では、零相電流波形に含まれる共振成分から地絡位置を推定することが記載されている。より詳細には、地絡事故発生時に検出される零相電流の共振を検出し、その共振周波数を算出して、算出した共振周波数と過去のデータ等とを比較して、事故位置を推定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4550464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1による地絡位置の推定は、変電所から地絡位置までの距離に依存して、零相電流の共振周波数が変化する事象に基づくものである。しかしながら、地絡事故は、落雷、鳥獣、または、樹木等の接触によって発生し得るため、地絡事故の発生の瞬間には地絡インピーダンスが様々に変化することが予想される。この結果、地絡事故発生時には、歪んだ波形の零相電流波形が観測される虞があり、このような歪んだ零相電流波形からは、地絡位置との距離が反映された正確な共振周波数を検出することが困難である。
【0007】
したがって、特許文献1に記載された方法では、正確な共振周波数を導出できなくなることで、地絡位置の推定精度が低下することが懸念される。
【0008】
本開示は、このような問題点を解決するためになされたものであって、本開示の目的は、零相電流を用いた地絡位置の推定精度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある局面によれば、配電系統の地絡事故位置推定装置が提供される。配電系統には、少なくとも1つの電流計測器が配置された送電路と、送電路に対して零相電流を測定するための電流を出力する電源装置とが設けられる。地絡事故位置推定装置は、電流計測結果収集部と、零相電流検出部と、地絡事故発生検出部と、地絡事故発生地点推定部とを備える。電流計測結果収集部は、電流計測器から通知される電流計測結果を収集する。零相電流検出部は、電流計測結果から送電路の零相電流を検出する。地絡事故発生検出部は、検出された零相電流に基づいて配電系統での地絡事故発生を検出すると、電源装置に対して電流の出力を指示する。地絡事故発生地点推定部は、電源装置による測定電流の出力に応じて電流計測結果収集部および零相電流検出部によって検出された零相電流に基づいて地絡事故の発生地点を推定する。地絡事故発生地点推定部は、零相電流の波形から共振周波数を算出し、算出した共振周波数に基づいて発生地点の位置を推定する。
【0010】
本開示の他のある局面によれば、配電系統の地絡事故位置推定方法が提供される。配電系統には、少なくとも1つの電流計測器が配置された送電路と、送電路に対して零相電流を測定するための電流を出力する電源装置とが設けられる。地絡事故位置推定方法は、電流計測器から通知される電流計測結果から検出された送電路の零相電流に基づいて配電系統での地絡事故の発生有無を判定するステップと、地絡事故の発生を検出したときに電源装置に対して測定電流の出力を指示するステップと、電源装置による測定電流の出力後に電流計測器から通知される電流計測結果から検出された零相電流に基づいて地絡事故の発生地点を推定するステップとを備える。推定するステップは、零相電流の波形から共振周波数を算出し、算出した共振周波数に基いて発生地点の位置を推定する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、歪んだ電流波形となることが懸念される地絡事故発生時における零相電流ではなく、地絡事故発生後に電源装置からの電流によって生じた零相電流の共振周波数に基づいて地絡事故の発生地点を推定できるので、地絡事故位置の推定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る地絡事故位置推定装置および配電系統の全体システムの概略構成図である。
図2図1に示された配電系統での地絡事故発生時に生じる零相電流を説明するための概念図である。
図3図1に示された地絡事故発生地点推定部の構成を説明するブロック図である。
図4】地絡事故位置推定装置を実現するためのコンピュータシステムの構成例を説明するブロック図である。
図5】実施の形態1に係る地絡事故位置推定装置による地絡事故点を推定するための制御処理の一例を説明するフローチャートである。
図6】相関データの概要を説明する概念図である。
図7】地絡点照合部の機能を説明する概念図である。
図8】実施の形態2に係る地絡事故位置推定装置および配電系統の全体システムの概略構成図である。
図9図8において各電源装置14から測定電流を供給したときに生じる零相電流の共振周波数成分のシミュレーション結果を模式的に示す波形図である。
図10】地絡事故点から離れた電源装置から測定電流を出力したときの零相電流の経路を説明する概念図である。
図11】地絡事故点の近傍の電源装置から測定電流を出力したときの零相電流の経路を説明する概念図である。
図12】実施の形態2に係る地絡事故位置推定装置による地絡事故点を推定するための制御処理の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、図中の同一又は相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る地絡事故位置推定装置2Aおよび配電系統の全体システムの概略構成図である。
【0015】
図1に示されるように、地絡事故位置推定装置2Aは、配電系統1に地絡事故が発生したときに、当該地絡事故の発生位置(発生地点)を推定する。
【0016】
配電系統1は、配電用変電所11から、分岐した複数のフィーダ12に対して電力が供給するように構成される。複数のフィーダ12は、地絡事故の発生が発生した事故フィーダ12Fと、地絡事故が発生していない健全フィーダ12Hとを含む。なお、本実施の形態では、分岐した複数のフィーダ12が設けられた配電系統1を対象とした地絡事故位置推定を説明するが、分岐のない単一のフィーダ12の範囲に対しても、本実施の形態に係る地絡事故位置推定を適用可能である。
【0017】
各フィーダ12は、一般的な三相配電線によって構成されることを想定しているが、相数はこれに限定されない。図1中には、事故フィーダ12Fの構成が例示されるが、各フィーダ12の構成は基本的には同様である。複数のフィーダ12の各々は「送電路」の一実施例に対応する。
【0018】
事故フィーダ12Fには、複数の電流計測器15が配置されるが、各フィーダ12での電流計測器15の配置位置および配置個数(1個または複数個)は任意である。図1の例では、電流計測器15a~15eが配置された事故フィーダ12Fにおいて、電流検出貴15cおよび15dの間に位置する地絡事故点16において地絡事故が発生している。即ち、地絡事故点16は「地絡事故の発生地点」に対応する。
【0019】
電流計測器15a~15eの各々は設置箇所を流れる電流(三相電流)を計測する。各電流計測器15は、さらに、計測したデータを記憶する機能、および、他の機器と通信する機能を有するものとする。あるいは、電流計測器15は、線間電圧の計測機能等の他機能をさらに有する検出器の一部機能で構成されてもよい。電流計測器15a~15eによる電流計測データIda~Ideは、地絡事故位置推定装置2Aに入力される。
【0020】
配電系統1には、地絡事故の発生検出後に零相電流を生じさせるための電源装置14がさらに設置される。電源装置14は、地絡事故位置推定装置2Aからの出力指令に応答して、零相電流を測定するための電流(以下、「測定電流」と称する)を出力する機能を有する。測定電流は、例えば、周期が5[ms]~10[ms]程度のパルス電流とすることができるが、このような態様に限定されるものではない。
【0021】
電源装置14は、地絡事故点検出専用として配置されてもよいが、配電系統1に既設の電源装置に対して、地絡事故位置推定装置2Aからの出力指令に応じて上記測定電流を出力する機能を追加することによっても、構成可能である。
【0022】
また、電源装置14は、各フィーダ12に設けられてもよく、複数個のフィーダに対して共通に設けられてもよい。図1の構成例では、電源装置14からの測定電流は、事故フィーダ12Fおよび健全フィーダ12Hの両方を流れる。
【0023】
なお、地絡事故が発生していない健全フィーダ12Hには、グランドGNDとの間に、対地静電容量17が構成される。対地静電容量17は、健全フィーダ12H中での、配電線、需要家設備、および、ケーブル等に起因して分布する対地静電容量を集約して表現するものである。
【0024】
地絡事故位置推定装置2Aは、電流計測結果収集部21、零相電流検出部22、地絡事故発生検出部23、データ記憶部24、および、地絡事故発生地点推定部25を備える。地絡事故位置推定装置2Aは、配電系統1の予め定められたエリア(検出エリア)毎に設けられ、当該検出エリア内に配置された各電流計測器15での電流計測データを用いて、検出エリア内に含まれる事故フィーダ12Fの特定および当該事故フィーダ12F内での地絡事故点16の推定を実行する。図1に例示された地絡事故位置推定装置2Aは、少なくとも事故フィーダ12Fに対応するフィーダ12を検出エリアに含むように構成されている。
【0025】
電流計測結果収集部21は、地絡事故位置推定装置2Aの検出エリア内の各フィーダ12に配置された各電流計測器15からの電流計測データIdを収集する。図1の構成例では、電流計測結果収集部21は、事故フィーダ12Fに配置された電流計測器15a~15eからの電流計測データIda~Ideを収集する。零相電流検出部22は、電流計測結果収集部21で収集した電流計測値(電流計測データId)から、各電流計測器15での零相電流Ipzを算出する。
【0026】
図2は、配電系統1における地絡事故発生時に生じる零相電流Ipzを説明するための概念図である。図2には、地絡事故点16を含む事故フィーダ12Fと、2本の健全フィーダ12H1,12H2とが分岐しており、配電用変電所11近傍に零相電圧Vpaz検出用のGPT(Grounding Potential Transformer)18が配置された構成での零相電流Ipzの通流経路が示される。
【0027】
図2に示される様に、各フィーダ12は、開閉器13によって複数の配電区間に区分されており、各配電区間に電流計測器15が配置される。図1で説明したように、地絡事故点16は、電流計測器15cおよび15dの間に位置している。
【0028】
事故フィーダ12Fにおいて、零相電流Ipzは、事故フィーダ12Fを流れる成分と、健全フィーダ12H1、12H2の各々を流れる成分とを含む。事故フィーダ12Fでは、零相電流は、地絡事故点16でグランドGNDに流れ込んだ後、対地静電容量17aまたは17bを通過して配電線(事故フィーダ12F)に戻ってくるように流れる。対地静電容量17aは、事故フィーダ12F内の地絡事故点16よりも上流側(配電用変電所11または電源装置14側)の区間での対地静電容量の総和に相当し、対地静電容量17aは、事故フィーダ12F内の地絡事故点16よりも下流側の区間での対地静電容量の総和に相当する。
【0029】
一方で、健全フィーダ12H1,12H2の各々では、地絡事故点16でグランドGNDに流れ込んだ零相電流が、対地静電容量17cまたは17dを通過して配電線(健全フィーダ12H1,12H2)に戻ってくるように流れる。対地静電容量17cは、健全フィーダ12H1全体の対地静電容量の総和に相当し、対地静電容量17dは、健全フィーダ12H2全体の対地静電容量の総和に相当する。
【0030】
一般的に、健全フィーダ12H1,12H2の対地静電容量17c,17dのインピーダンスは、地絡事故点16のインピーダンスよりも非常に小さいので、零相電流Ipzの多くは、事故フィーダ12Fを流れる。このため、フィーダ12間で、電流計測器15によって計測される零相電流の大きさが異なる。
【0031】
また、事故フィーダ12Fでは、地絡事故点16に零相電流が流れ込むため、地絡事故点16よりも上流側に配置された電流計測器15a~15cと、地絡事故点16よりも下流側に配置された電流計測器15d,15eとの間で、検出される零相電流の方向が異なる。一方で、健全フィーダ12H1,12H2の各々では、各電流計測器15では、同じ方向の零相電流が検出されることになる。
【0032】
したがって、各フィーダ12では、零相電流の大きさ、および、零相電流の方向が揃っているか否かの少なくともいずれかに基づいて、地絡事故が発生しているか否かを判定することができる。さらに、事故フィーダ12Fでは、隣接する2個ずつの電流計測器15複数のペアのうちの、零相電流の方向が反対であるペアを構成している2個の電流計測器15の間の区間で、地絡事故が発生していると判定することができる。図2の例では、零相電流が反対方向である電流計測器15cおよび15dの間の区間で地絡事故が発生していることを判定できる。あるいは、電流計測器15が1個のみ配置されるフィーダ12においても、零相電流の大きさに基づいて、地絡事故の発生有無を判定することができる。
【0033】
なお、零相電流には、配電線のインダクタンス成分と、対地静電容量17aのキャパシタンスによって決まる共振周波数の振動成分が生じることが知られている。当該共振周波数は、電流供給点(配電用変電所11または電源装置14)から地絡事故点16までの距離(配電線長)に依存して変化することが理解される。このため、特許文献1と同様に、零相電流の共振周波数から上述した地絡事故点16までの距離を逆算することにより、地絡事故点の位置を推定することができる。なお、地絡事故の発生時に、各地点(電流計測器15)で検出される零相電流の共振周波数は同等となる。したがって、原理的には、いずれの電流計測器15での電流計測データIdを用いても共振周波数を算出することができる。ただし、上述したように、電流計測器15間で零相電流の振幅は異なるので、適切な電流計測器15(例えば、事故フィーダ12Fに配置されている電流検出器)の電流計測データIdから共振周波数を算出することが好ましい。
【0034】
再び図1を参照して、地絡事故発生検出部23は、零相電流検出部22で算出された各電流計測器15の零相電流の方向(極性)に基づき、地絡事故の発生有無を判定するとともに、地絡事故発生時には、複数のフィーダ12から、地絡事故点16を含む事故フィーダ12Fを特定することができる。さらに、事故フィーダ12F内の各電流計測器15の零相電流の極性に基づいて、隣接する2個の電流計測器15を両端とする各区間から、地絡事故点16を含む区間(以下、「事故区間」とも称する)を特定することができる。
【0035】
地絡事故発生検出部23は、地絡事故の発生を検出すると、電源装置14に対する、零相電流を生じさせるための測定電流(例えば、パルス電流)の出力指令Szcを生成する。出力指令Szcに応答して電源装置14が測定電流を出力することにより、事故フィーダ12Fに零相電流Ipzが発生する。
【0036】
電源装置14からの測定電流によって発生された零相電流Ipzについても、上述の共振周波数の成分を含んでおり、かつ、電流計測器15(例えば、事故フィーダ12F内)からの電流計測データを用いて、零相電流検出部22が検出することができる。この際の零相電流Ipzは、零相電流検出部22から地絡事故発生地点推定部25に入力される。
【0037】
また、地絡事故発生検出部23は、地絡事故の発生を検出すると、事故フィーダ12Fを特定する情報と、当該事故フィーダ12F内の事故区間を特定する情報とを含む特定データDfdxをさらに出力する。特定データDfdxは、地絡事故発生検出部23から、データ記憶部24および地絡事故発生地点推定部25に入力される。
【0038】
データ記憶部24には、地絡事故が発生した場合の、基準点(例えば、電源装置14の配置点)から地絡事故発生地点までの距離(配電線の亘長)と、共振周波数との相関データが記憶されている。当該相関データは、配電系統1での過去の事故データおよび/またはシミュレータを用いた地絡事故のシミュレーション結果を用いて予め作成することができる。
【0039】
データ記憶部24は、地絡事故発生検出部23から特定データDfdxが入力されると、即ち、地絡事故が検出されると、相関データを地絡事故発生地点推定部25に対して出力する。
【0040】
なお、相関データは、フィーダ12毎に予め定められてもよい。この場合には、複数のフィーダ12のそれぞれの相関データから、特定データDfdxによって示される事故フィーダ12Fに対応する相関データが、データ記憶部24から出力される。また、相関データは、本実施の形態では、データ記憶部24に予め格納されているものとして説明するが、地絡事故発生検出部23からの出力に応答して地絡事故位置推定装置2Aの外部(サーバ等)から入力されてもよい。
【0041】
図3に示されるように、地絡事故発生地点推定部25は、周波数算出部251と、地絡点照合部252と含んで構成される。周波数算出部251は、電源装置14への出力指令が発せられたあと、零相電流検出部22で算出した零相電流Ipzの波形から、共振周波数を算出する。周波数算出部251では、特許文献1にも記載されるように、零相電流波形を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourie Transform)等を適用することによって、共振周波数を算出することができる。
【0042】
地絡点照合部252は、相関データと、算出した共振周波数とを照合して、予め定められた基準点(例えば、電源装置14)から地絡事故発生地点までの推定距離を求める。地絡点照合部252による推定結果は、地絡事故位置推定装置2Aから外部に出力される。
【0043】
図4は、地絡事故位置推定装置2Aを実現するためのコンピュータシステムの構成例を説明するブロック図である。
【0044】
図4に示される様に、コンピュータシステム40は、表示部41と、入力部42と、ネットワークインターフェイス(I/F)43と、メモリ44と、CPU(Central Processing Unit)45と、HDD(Hard Disk Drive)46と、バス47を有する、一般的な構成とすることができる。
【0045】
図4に示した地絡事故位置推定装置2Aは、コンピュータシステム40を用いて、下記の様に実現することができる。
【0046】
具体的には、図1中の電流計測結果収集部21の機能は、図4中のネットワークインターフェイス(I/F)43および入力部42内の図示しないアナログ/デジタル変換器(A/D変換器)によって実現することができる。また、データ記憶部24の機能は、図4中のHDD46の一部領域を用いて相関データを記憶することで実現可能である。あるいは、相関データを地絡事故位置推定装置2Aの外部から入力する場合には、当該機能は、ネットワークインターフェイス43によって実現することができる。
【0047】
さらに、零相電流検出部22、地絡事故発生検出部23、および、地絡事故発生地点推定部25の各々の機能は、図4中のHDD46又はメモリ44に記憶されたプログラムが、図4中のCPU45で実行されることにより実現することができる。
【0048】
また、地絡事故発生地点推定部25で得られた推定結果は、表示部41を用いてユーザに表示することが可能である。あるいは、当該推定結果は、ネットワークインターフェイス43によって、地絡事故位置推定装置2Aの外部機器に伝送されてもよい。
【0049】
あるいは、図4の例とは異なり、地絡事故位置推定装置2Aの少なくとも一部をFPGA(Field Programmable Gate Array)およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の回路を用いて構成することも可能である。
【0050】
図5は、実施の形態1に係る地絡事故位置推定装置2Aによる地絡事故点を推定するための制御処理の一例を説明するフローチャートである。
【0051】
図5に示されるように、地絡事故位置推定装置2Aは、ステップ(以下、単に「S」と表記する)100では、電流計測結果収集部21および零相電流検出部22によって逐次取得される零相電流に基づいて、地絡事故発生検出部23によって地絡事故の有無を判定する。S110では、S100での判定結果に応じて処理が分岐される。具体的には、地絡事故が検出されると、S110がYES判定とされて、S120に処理が進められる。一方で、地絡事故が検出されないとき(S110のNO判定時)には、S120の処理は実行されず、S100およびS110の処理が繰り返される。
【0052】
地絡事故位置推定装置2Aは、S120では、地絡事故発生検出部23により地絡事故発生したフィーダ(事故フィーダ12F)および区間(事故区間)を判定する。上述のように、各電流計測器15での零相電流Ipzの方向(または、大きさおよび方向)に基づいて、事故フィーダ12F、および、事故フィーダ12F内での地絡事故の発生地点を挟む2個の電流計測器15によって区分される、地絡事故の発生区間(以下、「事故区間」とも称する)が特定される。S120では、特定データDfdxが生成される。
【0053】
地絡事故位置推定装置2Aは、S130では、地絡事故発生検出部23により電源装置14に対する出力指令Szcを生成する。これにより、電源装置14から零相電流の測定電流(例えば、パルス電流)が、地絡事故点16を含む配電系統1に対して出力される。
【0054】
地絡事故位置推定装置2Aは、S140では、電源装置14からの測定電流の供給時に、電流計測結果収集部21および零相電流検出部22により、各電流計測器15において電流計測データIdから零相電流Ipzを算出する。
【0055】
地絡事故位置推定装置2Aは、S150では、地絡事故発生地点推定部25により、零相電流検出部22から零相電流を取得し、S160では、周波数算出部251が零相電流の共振周波数frsを算出する。
【0056】
地絡事故位置推定装置2Aは、S170では、地絡事故発生地点推定部25により、事故フィーダ12Fの事故区間を含む相関データをデータ記憶部24から取得する。
【0057】
図6は、相関データの概要を説明する概念図である。
図6に示されるように、配電系統1の各地点で地絡事故が発生したときの実績データまたはシミュレーションデータから、共振周波数frsを算出することができる。横軸を共振周波数frs、縦軸を予め定められた基準点(例えば、配電用変電所11または電源装置14)から地絡事故の発生地点までの距離Dxとする座標面を定義すると、上記各地点に対応して共振周波数frsおよび基準点からの距離Dxの組み合わせで定義される特性点をプロットすることができる。なお、基準点は、零相電流を発生される電流の発生源に相当し、実績データを用いるケースでは配電用変電所11となるが、シミュレーションデータを用いるケースでは、シミュレーション条件の設定によって、配電用変電所11および電源装置14のいずれとすることも可能である。
【0058】
そして、これらのプロット点から、共振周波数frsと基準点からの距離Dxとの関係を表す特性線50を求めることができる。図6の例では、直線近似によって特性線50が求められる例が示されているが、曲線または任意の関数による近似によって特性線50が求められてもよい。
【0059】
相関データは、特性線50を表現するためのデータ群であり、例えば、特性線50上の複数点での(frs,Dx)の座標を示すデータとすることができる。この場合には、相関データによって示される複数点に対する内挿または外挿によって、想定範囲内の零相電流の任意の共振周波数frsに対して、基準点からの距離Dxを求めることができる。
【0060】
再び図5を参照して、地絡事故位置推定装置2Aは、S180では、地絡点照合部252により、S170で取得した相関データと、S160で算出された零相電流の共振周波数とから、地絡事故点を推定する。
【0061】
図7は、地絡点照合部252の機能を説明する概念図である。
図7に示されるように、地絡点照合部252は、S170で取得された相関データに従う特性線50上で、S160で算出された共振周波数frs=fesに対応する、基準点からの推定距離Des(Dx=Des)を求めことができる。この推定距離Desは、図6の相関データでの基準点(例えば、電源装置14による電流供給点)からの配電線の亘長に相当する。
【0062】
地絡点照合部252は、予め作成された配電系統1のトポロジー情報と、算出された推定距離とを用いて、配電系統1上の地絡事故点の推定位置を、推定結果として求めることができる。例えば、上記トポロジー情報によって示される、基準点の一例である電源装置14からの事故区間を経由する送電経路において、電源装置14からの距離(配電線の亘長)=D1の地点を、地絡事故点の推定位置として求めることができる。
【0063】
再び図5を参照して、地絡事故位置推定装置2Aは、S190により、地絡点照合部252で得られた推定結果を示すデータDRfpを外部に対して出力する。例えば、地絡事故位置推定装置2Aが監視システムの有人の指令所に配置されている場合には、ディスプレイ等の表示部41(図4)を用いて、地絡事故点の推定位置を表示することができる。あるいは、地絡事故位置推定装置2Aが無人の変電所等に配置されている場合には、地絡事故位置推定装置2Aから上記指令所の機器等の外部機器に伝送するように、地絡点照合部252で得られた推定結果を、ネットワークインターフェイス43を経由して出力することができる。即ち、地絡事故位置推定装置2Aは任意の場所に配置することができる。
【0064】
以上説明したように、実施の形態1に係る地絡事故位置推定装置によれば、地絡事故の発生時に得られる零相電流の波形ではなく、地絡事故発生後の地絡事故点16を含む配電系統1に対して電源装置14の電流を供給することによって生じた零相電流の波形から算出された共振周波数を用いて、地絡事故点の位置を推定することができる。特に、測定電流を供給する電源装置14から地絡事故点16までの距離(配電線の亘長)が反映された正確な共振周波数を算出することによって、地絡事故点の位置推定精度を高めることができる。
【0065】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る地絡事故位置推定装置および配電系統の全体システムの概略構成図である。実施の形態2では、実施の形態1とは異なる部分について重点的に説明するため、実施の形態1と共通な事項については、基本的には説明は繰り返さない。
【0066】
図8を参照して、実施の形態2に係る地絡事故位置推定装置2Bが適用される配電系統1には、複数の電源装置14が配置されている。例えば、図8の例では、配電系統1には、複数の電源装置14Aおよび14Bが配置される。
【0067】
地絡事故位置推定装置2Bは、地絡事故の発生を検出したときに、複数の電源装置14から、零相電流を測定するための電流(測定電流)を出力する1個の電源装置を選択する機能を有する点で、実施の形態1に係る地絡事故位置推定装置2Bと異なる。
【0068】
図8の例では、地絡事故位置推定装置2Bは、地絡事故位置推定装置2Aと比較すると、地絡事故発生検出部23が、電源装置14Aに対する出力指令Szcaと、電源装置14Bに対する出力指令Szcbとを個別に生成する。出力指令SzcaおよびSzcbは、選択的に生成される。出力指令Szcaが生成されたときには、電源装置14Aが測定電流を出力する一方で、出力指令Szcbが生成されたときには、電源装置14Bが測定電流を出力する。測定電流は、実施の形態1と同様に、例えば、パルス電流とされる。
【0069】
さらに、データ記憶部24に記憶される相関データについては、複数の電源装置14の各々に対応して、実施の形態1で説明した電源装置14に対する相関データが準備される。即ち、図8の例では電源装置14A,14Bの各々について、個別の相関データが準備される。なお、実施の形態2においても、相関データは、地絡事故発生検出部23からの出力に応答して、地絡事故位置推定装置2Bの外部(サーバ等)から入力されてもよい。
【0070】
また、地絡事故位置推定装置2Bは、地絡事故位置推定装置2Aと同様に、図4に例示したコンピュータシステム40によって、あるいは、少なくとも一部の機能をFPGAおよびASIC等の回路を用いて、構成することができる。
【0071】
次に、複数の電源装置の選択について、図9図11を用いて説明する。ここでは、図8に示されるように、配電系統1において、電源装置14Bは、地絡事故点16の近傍に位置しており、電源装置14Aは、地絡事故点16からある程度遠方に位置しているケースを想定する。
【0072】
図9は、図8において各電源装置14から測定電流を供給したときに生じる零相電流の共振周波数成分のシミュレーション結果を模式的に示す波形図である。図9では、配電系統1を模擬する回路モデルにおいて、図8の地絡事故点16が接地された条件下で、電源装置14Aおよび14Bのそれぞれから予め定められた電流パルス(測定電流)を出力したときに発生する零相電流のシミュレーション結果から、基本波成分を除去して、振動成分のみを抽出した共振電流成分の波形図が示される。
【0073】
図9に示されるように、電源装置14Aから電流パルスを出力したときに得られる共振電流波形101と、電源装置14Bから電流パルスを出力したときに得られる共振電流波形102とを比較すると、両者の周波数は同等である一方で振幅には差があり、共振電流波形102(電源装置14B)の振幅は、共振電流波形101(電源装置14B)の振幅よりも小さい。したがって、共振電流波形101を用いて共振周波数を算出する方が、共振電流波形102を用いて共振周波数を算出するよりも容易であり、かつ、共振周波数の算出精度も向上することが理解される。
【0074】
図10には、電源装置14Aから電流パルス(測定電流)を出力したときの零相電流の経路を説明する概念図が示される。
【0075】
図10に示されるように、電源装置14Aは、事故フィーダ12Fおよび健全フィーダ12H1,12H2の分岐点よりも上流側(配電用変電所11側)に配置されており、地絡事故点16からは比較的離れた位置に配置されている。
【0076】
電源装置14Aから出力された電流パルス(測定電流)によって生じる零相電流Ipzは、事故フィーダ12Fを流れる電流(Ipz1)と、健全フィーダ12H1,12H2を流れる電流(Ipz2,Ipz3)とが並列に生じることになり、かつ、地絡事故点16の位置に応じて振動成分の周波数(共振周波数)が変化する。
【0077】
したがって、零相電流は、電源装置14Aから健全フィーダ12H1,12H2の各々に対応する第1インピーダンスと、電源装置14Aから事故フィーダ12Fの地絡事故点16までの第2インピーダンスの並列回路を流れると捉えることができる。
【0078】
零相電流の振動は、上記第1インピーダンスおよび第2インピーダンス間でのエネルギのやり取りによって発生する。したがって、図10の例では、零相電流が流れる経路長が比較的長く、配電線のインダクタンス成分も大きくなることが理解される。
【0079】
これに対して、図11には、電源装置14Bから電流パルス(測定電流)を出力したときの零相電流の経路を説明する概念図が示される。
【0080】
図11に示されるように、電源装置14Bは、事故フィーダ12Fにおいて地絡事故点16の近傍に配置されている。
【0081】
電源装置14Bから出力された電流パルス(測定電流)によって生じる零相電流Ipzは、殆どが地絡事故点16に流入することになり、零相電流の経路内での配電線のインダクタンス成分が非常に小さくなる。この場合には、図10のような、並列接続されたインピーダンス間でのエネルギのやりとりが発生し難くなる。この結果、図11のケースでは、図10のケースと比較して共振が発生し難くなることが理解される。
【0082】
この結果、図9に示すように、共振電流波形102(電源装置14A)の方が、共振電流波形101(電源装置14B)よりも振幅が大きくなるシミュレーション結果が得られることになる。
【0083】
なお、LC回路における共振尖鋭度(Q値)は、インダクタンス成分Lおよびキャパシタンス成分Cに依存して、√(L/C)に比例することが知られている。零相電流の経路内の配電線のインダクタンス成分が大きいと、共振尖鋭度が大きくなることからも、共振周波数の算出が容易かつ高精度になることが理解できる。
【0084】
したがって、複数の電源装置14が配置されている場合には、各電源装置14と、地絡事故点16との位置関係に基づいて、地絡事故点16に近すぎる電源装置14の使用を避けるように、測定電流を出力する1個の電源装置(以下、「選択電源装置」とも称する)を選択すべきであることが理解される。図8図11の例では、電流計測器15dおよび15eの間の区間で地絡事故が発生した際には、近傍の電源装置14Bではなく、遠方に位置する電源装置14Aから測定電流を出力すべきであることが理解される。
【0085】
再び図8を参照して、地絡事故発生検出部23は、実施の形態1で説明したように、各フィーダ12の各電流計測器15で検出される零相電流の方向に基づいて、事故フィーダ12F、および、事故フィーダ12F内の事故区間を特定することができる。したがって、配電系統1の構成に基づいて、各フィーダ12の各区間について、複数の電源装置14から選択電源装置を予め定めることができる。例えば、各フィーダ12の各区間に対する選択電源装置を示す電源選択リストデータを、データ記憶部24に予め格納することができる。
【0086】
そして、地絡事故発生検出部23は、データ記憶部24に格納された電源選択リストデータを参照することで、特定データDfdxによって示される事故区間に対応する選択電源装置を示す選択データDslを読み出すことができる。地絡事故発生検出部23は、データ記憶部24から読み出された選択データDslに基づいて、複数の電源装置14のうちの1個に対して出力指令Szcを出力することができる。図8の例では、事故フィーダ12Fの電流計測器15dおよび15e間の事故区間(地絡事故点16を含む)に対して、電源装置14Aを指定する選択データDslがデータ記憶部24から返送されることにより、地絡事故発生検出部23は、電源装置14Aの出力指令Szcaを生成することになる。
【0087】
図12は、実施の形態2に係る地絡事故位置推定装置による地絡事故点を推定するための制御処理の一例を説明するフローチャートである。
【0088】
図12に示されるように、地絡事故位置推定装置2Bは、図5と同様のS100~S120により、地絡事故発生検出部23によって、零相電流に基づく地絡事故の検出判定、および、地絡事故発生時における事故フィーダ12Fおよび事故区間を特定する判定を実行する。
【0089】
地絡事故位置推定装置2Bは、S120により事故フィーダ12F内の事故区間が特定されると、S210により、事故区間を特定する判定結果を地絡事故発生検出部23からデータ記憶部24に通知する。さらに、地絡事故位置推定装置2Bは、S220により、データ記憶部24が上述の電源選択リストデータを参照することで、事故区間に対応する電源装置14の選択結果を取得する。当該選択結果は、データ記憶部24から地絡事故発生検出部23に通知される。
【0090】
地絡事故位置推定装置2Bは、S130では、S220で選択された電源装置14に対して測定電流の出力指令を生成する。S130で生成された出力指令を受けた1個の電源装置14が測定電流を出力すると、図5と同様のS130~S190の処理が実行される。
【0091】
実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、1個の電源装置(選択電源装置)から出力された測定電流によって生じた零相電流波形に基づいて、共振周波数が算出される(S140~S160)。さらに、S170において、S220で選択された電源装置14に対応する相関データ(図5)が抽出されることにより、予め定められた基準点(例えば、測定電流を発生した電源装置14)からの距離(配電線の亘長)を共振周波数から推定することを通じて、実施の形態1と同様に地絡事故点を推定することができる(S180)。
【0092】
以上説明したように、実施の形態2に係る地絡事故位置推定装置によれば、地絡事故の発生時において事故区間との位置関係(配電線の亘長)を考慮して、零相電流を測定するための電流を出力する電源装置を選択することができる。これにより、実施の形態1で説明した効果に加えて、共振周波数の検出精度を高めることで、地絡事故点の推定精度を高めることができる。
【0093】
なお、実施の形態2において、配電系統1内での複数の電源装置14の配置数および配置位置は任意であるが、配電系統1内の各地点について、各電源装置14との間の距離(配電線の亘長)を考慮して、各地点(例えば、各フィーダ12の各区間)に対応して、本実施の形態に係る地絡事故点の推定に用いる1個の電源装置を予め定めることが可能である。
【0094】
また、図8および図12では、データ記憶部24に予め格納された電源選択リストデータを用いる例を説明したが、電源選択リストデータは、地絡事故発生検出部23からの出力に応答して、地絡事故位置推定装置2Bの外部(サーバ等)から入力されてもよい。あるいは、電源選択リストを用いることなく、地絡事故位置推定装置2Bの外部から、検出された事故区間に対応して選択される電源装置14を特定する情報が、地絡事故位置推定装置2Bに対して入力されてもよい。
【0095】
また、配電系統1の実際の構成は、図1および図8で例示したフィーダ12の分岐が複雑に組み合わせられたものとなるので、共振周波数と配電線の亘長との関係を厳密に定式化することは困難であるが、図6で説明したように、過去の事故実績データおよび/またはシミュレーションデータを用いて、配電系統1内の各給電経路(フィーダ12)について特性線50を予め準備することで、本実施の形態で説明した地絡事故点の推定を適用することが可能である。
【0096】
なお、図5および図12に示された地絡事故点を推定するための制御処理は一例に過ぎず、同様の効果を奏する範囲内で任意に処理の追加、変更、削除等の変形を加えることが可能である。
【0097】
上述のように、本実施の形態に係る地絡事故位置推定装置は、配電系統1の予め定められたエリア(検出エリア)毎に設けられることが可能であり、場合によっては、フィーダ分岐のない範囲内(例えば、図1および図8での分岐後のフィーダ毎)を検出エリアとして配置することも可能である。分岐がない単一のフィーダ12(送電路)内での地絡事故位置推定では、零相電流に基づく地絡事故の検出後に、実施の形態1および2で説明した、事故フィーダ12Fの特定処理(S120)が不要であり、地絡事故の検出に応じて特定の電源装置14に対して測定電流の出力を指示することができる。
【0098】
また、単一のフィーダ12(送電路)内での地絡事故位置推定では、事故フィーダ12Fの特定情報を要することなく、共振周波数に基づく予め定められた基準点からの推定距離(配電線の亘長)に基づいて、地絡事故点を推定することが可能である。これに対して、分岐した複数のフィーダ12が設けられた配電系統1では、基準点からの距離が同一となる点がフィーダ12毎に存在する可能性があるため、事故フィーダ12Fの特定情報を組み合わせて、地絡事故位置を推定することが必要となる。
【0099】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1 配電系統、2A,2B 故位置推定装置、11 配電用変電所、12 フィーダ、12F 事故フィーダ、12H1,12H,12H2 健全フィーダ、13 開閉器、14,14A,14B 電源装置、15,15a,15c,15d,15e 電流計測器、16 地絡事故点、17 対地静電容量、17a,17c,17d 対地静電容量、21 電流計測結果収集部、22 零相電流検出部、23 事故発生検出部、24 データ記憶部、25 事故発生地点推定部、40 コンピュータシステム、50 特性線、101,102 共振電流波形、251 周波数算出部、252 地絡点照合部、DRfp データ(推定結果)、Dfdx 特定データ、Dsl 選択データ、Dx 距離、GND グランド、Id,Ida~Ide 電流計測データ、Ipz 零相電流、Szc,Szca,Szcb 出力指令、frs 共振周波数。
【要約】
配電系統(1)には、少なくとも1つの電流計測器(15a~15e)が配置された送電路(12H,12F)と、零相電流を測定するための電流を出力する電源装置(14)とが設けられる。零相電流検出部(22)は、電流計測器(15a~15e)から通知される電流計測結果から零相電流を検出する。地絡事故発生検出部(23)は、零相電流に基づいて配電系統(1)での地絡事故発生を検出すると、電源装置(14)に対して電流の出力を指示する。地絡事故発生地点推定部(25)は、電源装置(14)による電流の出力に応じて検出された零相電流の波形から算出された共振周波数に基づいて、地絡事故の発生地点(16)を推定する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12