(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】磁気共鳴型ワイヤレス給電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20250519BHJP
【FI】
H02J50/12
(21)【出願番号】P 2023139621
(22)【出願日】2023-08-30
【審査請求日】2024-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】392032443
【氏名又は名称】株式会社アドテックス
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】100173934
【氏名又は名称】久米 輝代
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘男
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】腰野 真司
(72)【発明者】
【氏名】武田 徹
【審査官】村上 優斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-121324(JP,A)
【文献】特開2023-088134(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0385107(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電コイルを含む給電側共振回路と、受電コイルを含む受電側共振回路とを備え、Parity-Time対称性を利用し、前記給電コイルと前記受電コイルを磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置であって、
前記給電側共振回路と前記受電側共振回路を相互インダクタンスにより互いに結合された複共振回路とみなしたとき、当該複共振回路に流れる共振電流が循環し得る2つの共振ループ(「ループIの共振ループ」および「ループIIの共振ループ」)が存在し、
前記給電側共振回路には、インバータ、および、前記給電コイルの電流または磁界を検出するセンサが接続され、
前記インバータが、前記センサにより検出された前記給電コイルの電流に基づく電流位相または前記給電コイルの磁界に基づく磁界位相を基準に、前記給電側共振回路に加わる交流電圧と前記給電コイルに流れる交流電流との位相関係を調整できる位相調整回路を備え、
前記インバータ内部のスイッチング素子をターンオンまたはターンオフさせる時刻であるスイッチタイミングが、前記位相調整回路によって前記位相関係を調整した後の信号によって生成されたパルスに基づいて決定されることにより、前記2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループが選択固定される
ことを特徴とする磁気共鳴型ワイヤレス給電装置。
【請求項2】
前記インバータの内部にはコンパレータが設けられ、かつ、前記コンパレータへの入力の前に、前記位相調整回路としての位相遅れ回路が設置されており、
前記インバータは、前記位相遅れ回路が、前記2つの共振ループのうちの「ループIIの共振ループ」を選択する目的で、前記センサによって検出された前記給電コイルの電流または磁界に基づく交流電流が前記コンパレータに入力される前に、前記交流電流を180°を越えて遅らせて前記コンパレータに入力させることにより、前記給電コイルに流れる交流電流に対して前記給電側共振回路に加わる交流電圧の位相を進ませる進み位相として前記位相関係を調整する制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴型ワイヤレス給電装置。
【請求項3】
前記インバータの内部にはコンパレータが設けられ、前記センサによって検出された前記給電コイルの電流または磁界に基づく交流電流が前記コンパレータに入力されるように構成されており、かつ、前記コンパレータの出力の後に、前記位相調整回路としての時間遅延回路が設置されており、
前記インバータは、前記時間遅延回路による遅延時間の制御によって前記位相関係を調整する制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴型ワイヤレス給電装置。
【請求項4】
前記インバータの内部にはコンパレータが設けられ、前記センサによって検出された前記給電コイルの電流または磁界に基づく交流電流が前記コンパレータに入力されるように構成されており、かつ、前記コンパレータの出力の後に、前記位相調整回路としてのオールパスフィルタが設置されており、
前記インバータは、前記オールパスフィルタによって前記位相関係を調整する制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴型ワイヤレス給電装置。
【請求項5】
前記インバータの内部にはコンパレータが設けられ、前記センサによって検出された前記給電コイルの電流または磁界に基づく交流電流が前記コンパレータに入力されるように構成されており、かつ、前記コンパレータの出力の後に、前記位相調整回路としてのPLL(位相同期回路)が設置されており、
前記インバータは、前記PLL(位相同期回路)により、前記給電コイルに流れる交流電流に対して前記給電側共振回路に加わる交流電圧の位相を進ませる、または、遅らせることによって、前記位相関係を調整する制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴型ワイヤレス給電装置。
【請求項6】
前記PLL(位相同期回路)は、少なくともVCO(電圧制御発振器)を備え、前記VCO(電圧制御発振器)の入力電圧を制御することによって、前記VCO(電圧制御発振器)の発振周波数に制限を付け、前記PLL(位相同期回路)の出力信号の周波数範囲を制限する
ことを特徴とする請求項5記載の磁気共鳴型ワイヤレス給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Parity-Time対称性(以下、「PT対称性」と呼ぶ)を利用し、給電コイルと受電コイルを磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ワイヤレス給電技術については、電磁誘導方式のものや、磁界共鳴方式のものなど、既に知られている技術がいくつか存在する。このうち、電磁誘導方式のワイヤレス給電技術は、例えば、携帯電話の充電などに用いられているものであり、コイルが上下に配置されており、すなわち、変圧器と同様な原理で、給電コイルと受電コイルの間の距離(伝送距離)が非常に近いときのみ、電力を送ることができる。
【0003】
しかし、電磁誘導方式のワイヤレス給電技術は、伝送距離が数mmくらいと短いため、給電コイルと受電コイルの距離を大きく取ることができず、また、給電コイルと受電コイルの位置がほんの少しでもずれたり離れたりしてしまうと充電も給電もできない、すなわち、位置ズレに弱いため、人工心臓などの人体の内部に取り付けられた人工機器や、ロボットアームのように多方向への回転や軸ずれがある装置に適用することは難しい、という問題がある。
【0004】
また、磁界共鳴方式のワイヤレス給電技術は、伝送距離が数cm~数mくらいと長いため、電磁誘導方式に比べれば給電コイルと受電コイルの距離を大きくとることができるので実用化には近いレベルになってきている。しかし、給電コイルと受電コイルの距離を一定にして固定しておかないと送ることができず、その距離より近づいても遠ざかっても、また、角度がついてしまっても伝送効率が低下して、必要な電力を送ることができないという敏感さがあるため、すなわち、この方式の場合も位置ズレに弱いため、ロボットアームのように多方向への回転や軸ずれがある装置(回転する給電対象)に適用することは難しい、という問題がある。
【0005】
ここで、ワイヤレス給電方式の1つとして、Parity-Time対称性(以下、「PT対称性」と呼ぶ。)を利用したワイヤレス給電という技術がある。このPT対称性を利用したワイヤレス給電は、非エルミート系のハミルトニアンをもつ物理システムであり、2017年に初めて発表された新しい概念のワイヤレス給電である(非特許文献1参照)。
【0006】
PT対称性が保存されると、ハミルトニアンの固有エネルギーが実数となるため、非エルミート系でありながら、系のエネルギーが保存されたように振る舞う。この場合、単位時間あたりに給電側共振回路と受電側共振回路との間で伝達されるエネルギーは、2つの共振回路間の結合係数に依存しなくなる。その結果、伝送距離が変化しても、給電コイルおよび受電コイルに位置ズレが生じても、PT対称性が保存されていれば、伝送電力と電力伝送効率は常に一定に保たれることになる。
【0007】
また、伝送距離の変化に対する伝送電力や電力伝送効率の変動を抑制する目的で、交流電源として用いられるインバータの周波数を自動調整する方法が数多く提案されている(非特許文献2参照)。しかし、それらの制御方法では、伝送電力や電力伝送効率を伝送距離と完全に無関係とすることはできない。なぜならば、それらすべてのシステムが非エルミート系の物理システムとして設計されておらず、かつ、PT対称性を保存させていないからである。
【0008】
そして、PT対称性を利用したワイヤレス給電とは、従来の磁界共鳴方式のワイヤレス給電技術における交流電源を、負性抵抗器と電気的に同様な振る舞いをするインバータ、すなわち、負性抵抗として振る舞うインバータで置き換えたものである。
【0009】
このことは、例えば特許文献1においても開示されているとおり公知の技術であるが、もう少し詳細に説明すると、負性抵抗として振る舞うインバータとは、あらかじめスイッチング周波数および電圧振幅が固定されていないインバータであり、インバータの出力端からみた、ワイヤレス給電回路の見かけの共振周波数により、スイッチング周波数が定まる回路構成を有し、コイルの伝送距離の変化や位置ズレなどにより変化し得るワイヤレス給電回路の見かけの共振周波数の変化に対して、スイッチング周波数が早い応答速度で追従するインバータのことである。ここで、ワイヤレス給電回路とは、給電側共振回路および受電側共振回路と、それに接続された以降の回路すべてを含んだ回路のことである。また、見かけの共振周波数とは、給電側共振回路と受電側共振回路が相互作用しているので、その相互作用を加味した、実質的な共振周波数を意味している。
【0010】
また、PT対称性を利用したワイヤレス給電では、前述のインバータを自励発振させて用いる。発振には、2つのモードが存在しており、どちらのモードにおいてもPT対称性は保存できる。ここで、この2つのモードについて、もう少し詳細に説明する。
図1は、S-Pトポロジーの等価回路を示した図であり、特許文献1の
図14と同じ図である。
【0011】
図1に示すように、S-Pトポロジーの給電側共振回路1と受電側共振回路2は、相互インダクタンスk
mLで結合された複共振回路として表すことができる。また、
図1の中のLは、給電コイル11および受電コイル21それぞれの自己インダクタンスを表す。L(1-k
m)は、給電コイル11および受電コイル21それぞれの漏れインダクタンスを表す。また、r
1’およびr
2’は、給電コイル11および受電コイル21それぞれの巻線抵抗を表す。r
cは、鉄損等価抵抗を表す。Cは、コンデンサのキャパシタンス(静電容量)を表す。
図1に示す回路には、複共振回路に流れる共振電流が循環し得る2つの共振ループ(「ループIの共振ループ」および「ループIIの共振ループ」)が存在する。また、周波数については、ループIの共振周波数がω
l、ループIIの共振周波数がω
hとする。
【0012】
ただし、非特許文献1で示された実験結果のように、運転中に2つの発振モード(共振ループ)が意図せず勝手に切り替わってしまうことがある。発振モード(共振ループ)の切り替わりが起こると動作が不安定になり、電力伝送そのものが困難となるため、いずれかの発振モード(共振ループ)を確実に選択する方法が必要であった。
【0013】
そこで、そのような問題を解決する1つの方法として、特許文献1では、PT対称性を利用し、給電コイルと受電コイルを磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置において、2つの共振ループのQ値(選択度)の大きさをコイルの設計により調整することで、いずれかの共振ループを選択する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【非特許文献】
【0015】
【文献】Sid Assawaworrarit, Xiaofang Yu & Shanhui Fan,“Robust wireless power transfer using a nonlinear parity-time-symmetric circuit”, Nature, 15 JUNE 2017, volume 546, p.387-390
【文献】A.P.Sample, D.T.Meyer & J.R.Smith, “Analysis, experimental results, and range adaptation of magnetically coupled resonators for wireless power transfer”, IEEE Trans. Ind. Electron., 2011, vol.58, no.2, pp.544-554
【文献】J. Zhou, B. Zhang, W. Xiao, D. Qiu, and Y. Chen,“Nonlinear parity-time-symmetric model for constant efficiency wireless power transfer: application to a drone-in-flight wireless charging platform”, IEEE Trans. Ind. Electron., Aug. 2019, vol.66, no.5, pp.4097-4107
【文献】H. Ishida, T. Kyoden, and H. Furukawa,“Application of parity-time symmetry to low-frequency wireless power transfer system”, IEEJ J. Ind. Appl., 2022, vol.11, no.1, pp.59-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、例えば特許文献1等に示すような磁気共鳴型ワイヤレス給電装置では、2つの共振ループのQ値(選択度)の大きさをコイルの設計により調整することで、いずれかの共振ループを選択する方法が採用されていたので、給電コイルと受電コイルの設計に制約が生じてしまい、コイルを自由な形状や寸法にすることができない、という応用上の課題があった。
【0017】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、PT対称性を利用し、給電コイルと受電コイルを磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置において、周囲の環境に左右されず、かつ、給電コイルと受電コイルの設計に制約を与えない方法で、2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループの選択固定を行うことが可能な磁気共鳴型ワイヤレス給電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、この発明は、給電コイルを含む給電側共振回路と、受電コイルを含む受電側共振回路とを備え、Parity-Time対称性を利用し、前記給電コイルと前記受電コイルを磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置であって、前記給電側共振回路と前記受電側共振回路を相互インダクタンスにより互いに結合された複共振回路とみなしたとき、当該複共振回路に流れる共振電流が循環し得る2つの共振ループ(「ループIの共振ループ」および「ループIIの共振ループ」)が存在し、前記給電側共振回路には、インバータ、および、前記給電コイルの電流または磁界を検出するセンサが接続され、前記インバータが、前記センサにより検出された前記給電コイルの電流に基づく電流位相または前記給電コイルの磁界に基づく磁界位相を基準に、前記給電側共振回路に加わる交流電圧と前記給電コイルに流れる交流電流との位相関係を調整できる位相調整回路を備え、前記インバータ内部のスイッチング素子をターンオンまたはターンオフさせる時刻であるスイッチタイミングが、前記位相調整回路によって前記位相関係を調整した後の信号によって生成されたパルスに基づいて決定されることにより、前記2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループが選択固定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、PT対称性を利用し、給電コイルと受電コイルを磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置において、給電側共振回路に加わる交流電圧と前記給電コイルに流れる交流電流との位相関係を調整するための位相調整回路を設けたことにより、周囲の環境に左右されず、かつ、給電コイルと受電コイルの設計に制約を与えない方法で、2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループの選択固定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】S-Pトポロジーの等価回路を示した図である。
【
図2】PT対称性を利用した磁界共鳴方式のワイヤレス給電の代表的な2種類の回路構成を示す概念図である。
【
図3】磁気結合係数k
mと2つのコイル(給電コイルと受電コイル)間の伝送距離dの関係の典型例を示す数値計算結果のグラフである。
【
図4】ループIIの共振周波数ω
hおよびループIの共振周波数ω
lと、2つのコイル(給電コイルと受電コイル)間の伝送距離dの関係を示すグラフである。
【
図5】PT対称性のワイヤレス給電に使われるインバータとして、D級インバータを給電側共振回路に接続した場合の回路図である。
【
図6】
図5に示す給電側共振回路の各波形の位相関係を示す模式図である。
【
図7】交流電流i
1と入力電圧v
1の位相関係を示す実験結果である。
【
図8】インバータに接続されるワイヤレス給電の等価回路を示す回路図である。
【
図9】この発明の実施の形態1における、位相調整回路をもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
【
図10】
図9に示した位相調整回路(前置増幅器36および位相遅れ回路35)の各部の電圧波形を示す模式図である。
【
図11】この発明の実施の形態1における、時間遅延回路をもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
【
図12】この発明の実施の形態1における、オールパスフィルタをもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
【
図13】この発明の実施の形態1における、PLL(位相同期回路)をもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
【
図14】この発明の実施の形態1における、PLL(位相同期回路)の具体的な内部機能の一例を示すブロック図である。
【
図15】この発明の実施の形態1における、オールパスフィルタとPLL(位相同期回路)をもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
【
図16】この発明の実施の形態1における実際の装置において、交流電流i
1に対して入力電圧v
1を進み位相になるように調整した場合の、交流電流i
1と入力電圧v
1の計測波形を示すグラフである。
【
図17】
図16の位相関係において、給電側共振回路1に設けられた給電コイル11と受電側共振回路2に設けられた受電コイル21との距離、すなわち、この2つのコイル間の伝送距離dを変化させたときの共振周波数の変化を計測した結果を示すグラフである。
【
図18】2つのコイル間の伝送距離dを変化させたときの伝送電力を計測した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明は、Parity-Time対称性(以下、「PT対称性」と呼ぶ)を利用し、給電コイルと受電コイルを磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置に関するものである。
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
実施の形態1.
図2は、PT対称性を利用した磁界共鳴方式のワイヤレス給電の代表的な2種類の回路構成を示す概念図である。
図2(a)(b)に示すいずれの回路例においても、給電側共振回路1は、交流電源としてのインバータ3に接続される。一方、受電側共振回路2には、負荷抵抗R
Lの負荷が接続される。これらの回路において、L
1は給電コイル11の自己インダクタンス、C
1は給電側コンデンサの静電容量、L
2は受電コイル21の自己インダクタンス、C
2は受電側コンデンサの静電容量を表す。また、r
1とr
2は、それぞれ給電側共振回路1および受電側共振回路2に含まれる抵抗成分を表している。
【0023】
図2(a)に示す回路例は、給電側共振回路1のコイルとコンデンサが直列(シリーズ)に接続され、受電側共振回路2のコイルとコンデンサも直列に接続されているのでS-Sトポロジーと呼ばれる。
図2(b)に示す回路例では、給電側共振回路1のコイルとコンデンサが直列に接続され、受電側共振回路2のコイルとコンデンサは並列(パラレル)に接続されていることから、S-Pトポロジーと呼ばれる。S-SトポロジーにおいてPT対称性を保存させたワイヤレス給電の事例が非特許文献3に開示されており、S-PトポロジーにおいてPT対称性を保存させたワイヤレス給電の事例が非特許文献4に開示されている。
【0024】
ここで、繰り返しになるが、
図1に示すS-Pトポロジーの等価回路を例に説明すると、S-Pトポロジーの給電側共振回路1と受電側共振回路2は、相互インダクタンスk
mLで結合された複共振回路として表すことができる。また、
図1の中のLは、給電コイル11および受電コイル21それぞれの自己インダクタンスを表す。L(1-k
m)は、給電コイル11および受電コイル21それぞれの漏れインダクタンスを表す。また、r
1’およびr
2’は、給電コイル11および受電コイル21それぞれの巻線抵抗を表す。r
cは、鉄損等価抵抗を表す。Cは、コンデンサのキャパシタンス(静電容量)を表す。
図1に示す回路には、複共振回路に流れる共振電流が循環し得る2つの共振ループ(「ループIの共振ループ」および「ループIIの共振ループ」)が存在する。また、周波数については、ループIの共振周波数をω
l、ループIIの共振周波数をω
hとする。
【0025】
また、この発明の実施の形態1におけるPT対称性を利用したワイヤレス給電装置においても、前述のとおり、インバータを自励発振させて用いる、ということと、発振には、2つのモードが存在しており、どちらのモードにおいてもPT対称性は保存できる、という点では、従来と同じである。なお、
図1、
図2に示すとおり、給電側共振回路1は給電コイル11を含むものであり、受電側共振回路2は受電コイル21を含むものであることは、言うまでもない。
【0026】
そして、
図2(a)(b)に示すいずれのトポロジーにおいても、インバータ3の出力端から見たワイヤレス給電の回路は複共振回路を形成しており、2つの共振ループが存在することになるが、2つの共振ループの厳密な数式は、
図2に示す回路図からは導き出すことができない。これについては、厳密には結合モード理論より求めることができ、その導出過程については非特許文献4に示されているとおり(本願出願人のうちの一人が非特許文献4において示したとおり)であるが、ここでは詳細な説明や導出過程については省略し、結果のみを記載すると、(1)式および(2)式に示すものとなる。
【0027】
【0028】
【0029】
すなわち、(1)式に示したωhの共振周波数をもつ共振ループと、(2)式に示したωlの共振周波数をもつ共振ループが存在する。そして、これら2つの共振ループは、ωh>ωlの関係にある。ω0は、給電側共振回路と受電側共振回路が遠く離れ、完全に結合していない場合の固有角共振周波数であり、(3)式で表すことができる。なお、(1)式および(2)式におけるΓ20およびΓLについてはいずれも、結合モード理論におけるパラメータ(CMTパラメータ)であるが、これらについても、特許文献1に詳細に説明されているとおり(本願出願人のうちの一人が特許文献1および非特許文献4において示したとおり)であるが、本願発明の説明においては関連性が薄いこと、および、定義の説明が長くなることから、ここでは詳細な説明については省略する。
【0030】
【0031】
また、kは、結合レートと呼ばれるパラメータであり、給電側共振回路と受電側共振回路の間で単位時間あたりにエネルギーがやりとりされる回数に関するパラメータである。さらに、結合レートkを給電コイルと受電コイル間の磁気結合係数kmを使って、(4)式のように表すことができる。
【0032】
【0033】
ここで、例えば、
図2(b)のS-Pトポロジーの場合に、(1)式および(2)式を適応させると、次の(5)式および(6)式のように表すことができる。
【0034】
【0035】
【0036】
なお、上記の(5)式および(6)式を、近似的に(7)式および(8)式として表すこともできる。特許文献1においては、これらの近似式である(7)式および(8)式が説明に用いられている。
【0037】
【0038】
【0039】
(5)式および(6)式から、ループIIの共振周波数ω
hおよびループIの共振周波数ω
lは、磁気結合係数k
mのみの関数であることがわかる。複雑なコイル形状の場合、磁気結合係数k
mと、給電コイルと受電コイルの間の距離d(伝送距離)の関係を定式化することは困難であり、一般的にはコンピュータを用いた数値計算により求められるが、磁気結合係数k
mがコイル間の伝送距離dに逆比例する関係は、普遍的なものである。
図3は、磁気結合係数k
mと2つのコイル(給電コイルと受電コイル)間の伝送距離dの関係の典型例を示す数値計算結果のグラフである。
【0040】
図3に示すように、磁気結合係数k
mと2つのコイル(給電コイルと受電コイル)間の伝送距離dの関係については数値計算できるため、(5)式および(6)式から、ループIIの共振周波数ω
hおよびループIの共振周波数ω
lと、2つのコイル(給電コイルと受電コイル)間の伝送距離dの関係についても、計算することができる。
図4は、ループIIの共振周波数ω
hおよびループIの共振周波数ω
lと、2つのコイル(給電コイルと受電コイル)間の伝送距離dの関係を示すグラフである。
【0041】
図4に示すように、ループIIの共振周波数ω
hは、2つのコイル間の伝送距離dが長くなると低くなる方向へ向かい、ループIの共振周波数ω
lは、伝送距離dが長くなると高くなる方向へ向かう。
図4に示す例では、2つのコイル間の伝送距離dが70mm付近で、2つの共振ループの共振周波数が一致する。一致した以降の伝送距離では、PT対称性が保存されていないため、本願発明の議論からは除外される。
【0042】
前述したように、PT対称性のワイヤレス給電では、インバータを自励発振させて使用するため、ループIIの共振周波数ωhおよびループIの共振周波数ωlどちらかの共振ループが選ばれて自励発振が起こる。しかし、運転中に伝送距離dの変動があったとき、ループIIの共振周波数ωhとループIの共振周波数ωlが意図せず突然切り替わってしまうと、自励発振の周波数が急に大きく(不連続に)変動することになるため、この際に電力伝送が一旦途切れてしまう。また、モードによって伝送電力の大きさや電力伝送効率に差があるため、ループIIの共振周波数ωhおよびループIの共振周波数ωlの切り替わりにより、伝送電力の大きさに段差が生じてしまう、という問題もある。
【0043】
そこで、この発明では、伝送距離dが変動しても、共振ループがどちらかに固定されていれば、自励発振の周波数が滑らかに(連続的に)変化するため、安定したワイヤレス給電が可能になる、という発想から、ループIIの共振周波数ωhをもつ共振ループ、または、ループIの共振周波数ωlをもつ共振ループの、いずれか1つの共振ループを選択固定する目的で、給電コイル11の電流に対して電圧の位相を進ませる/遅らせるための、位相調整回路を設けた回路構成にしたものである。
【0044】
まず初めに、本願発明のような位相調整回路を持たない場合のインバータの回路構成について説明する。PT対称性のワイヤレス給電に使われるインバータには、D級インバータまたはE級インバータが用いられる。
図5は、PT対称性のワイヤレス給電に使われるインバータとして、D級インバータを給電側共振回路に接続した場合の回路図である。実際には、
図5に示す給電側共振回路1からワイヤレスで給電される受電側共振回路と、その受電側共振回路に接続された負荷抵抗が存在するが、この
図5においては図示を省略している。
図6は、
図5に示す給電側共振回路1の各波形の位相関係を示す模式図である。
【0045】
従来技術においても説明したとおり、PT対称性を利用したワイヤレス給電とは、従来の磁界共鳴方式のワイヤレス給電技術における交流電源を、負性抵抗器と電気的に同様な振る舞いをするインバータ、すなわち、負性抵抗として振る舞うインバータで置き換えたものである。
【0046】
負性抵抗として振る舞うインバータとは、あらかじめスイッチング周波数および電圧振幅が固定されていないインバータであり、インバータの出力端からみた、ワイヤレス給電回路の見かけの共振周波数により、スイッチング周波数が定まる回路構成を有し、2つのコイル(給電コイルと受電コイル)間の伝送距離の変化や位置ズレなどにより変化し得るワイヤレス給電回路の見かけの共振周波数の変化に対して、スイッチング周波数が早い応答速度で追従するインバータのことである。そして、ワイヤレス給電回路とは、給電側共振回路および受電側共振回路と、それに接続された回路すべてを含んだ回路のことである。また、見かけの共振周波数とは、給電側共振回路と受電側共振回路が相互作用しているので、その相互作用を加味した、実質的な共振周波数を意味している。
【0047】
図5に示すように、給電側共振回路1にはインバータ3および電流センサ4が接続されており、このインバータ3および電流センサ4が負性抵抗回路を実現するものである。また、インバータ3内を構成する要素として、コンパレータ31、ゲートドライバー32、ハイサイドのFET(電界効果トランジスタ)33、ローサイドのFET(電界効果トランジスタ)34がある。ハイサイドのFET33、および、ローサイドのFET34は、インバータ3内部のスイッチング素子である。
【0048】
図5の中のコンパレータ31には、電流センサ4により検出された給電コイル11に流れる交流電流i
1の検出信号が入力され、ゲートドライバー32に、コンパレータ31の出力である入力パルスを入力すると、ゲートドライバー32から、インバータ3内部のスイッチング素子であるハイサイドのFET33とローサイドのFET34を交互に通電/非通電(ターンオン/ターンオフ)させるための位相差180°の2相の出力パルス(第1相の出力パルスと、第2相の出力パルス)が出力される。ゲートドライバー32に入力される入力パルスは、給電コイル11に流れる交流電流i
1または給電コイル11に生じる交流磁場を元に作り出される。
【0049】
このとき、ゲートドライバー32からインバータ3内部のスイッチング素子であるハイサイドFET33とローサイドFET34に交互に出力される出力パルスのスイッチタイミングは、ゲートドライバー32への入力パルスに基づいて決定される。ここで、「スイッチタイミング」とは、インバータ3内部のスイッチング素子であるハイサイドFET33とローサイドFET34をターンオンまたはターンオフさせる時刻のことである。そして、インバータ3と給電側共振回路1との間に設置された電流センサ4によって検出された交流電流i1の検出信号をコンパレータ31に入力し、前述の入力パルスを生成させる。
【0050】
つまり、インバータ3の出力である給電側共振回路1における給電コイル11の駆動電流を、インバータ3における制御側に帰還して、インバータ3の出力電流を制御しており、これを「帰還制御」と呼ぶ。
ここで、交流電流i1の検出信号とは、交流電流i1と同相の交流電圧信号である。原理的には、交流電流i1と給電側共振回路の入力電圧v1は同相(位相差なし)となるため、正帰還により自励発振が起こる。この自励発振により給電コイルが励磁されてワイヤレス給電が実現する。
【0051】
ただし、実際の回路では、交流電流i1と入力電圧v1は同相にはならない。実際には、電圧信号が回路を伝播する過程で時間的な遅れが生じるために、交流電流i1に対して入力電圧v1が遅れ位相になる。この位相差を初期位相差と呼ぶことにする。なお、特許文献1に記載されている位相補償回路は、この初期位相差を補償し、交流電流i1と入力電圧v1を同相にするための回路であり、本願発明とは目的が大きく異なるものである。
【0052】
そして、前述したように、交流電流i1と入力電圧v1を同相にすることは、理論的には正しいが、実際に交流電流i1と入力電圧v1を同相にすると、前述したような2つの共振ループの切り替わりが頻発する、という問題が発生してしまう。逆に、交流電流i1と入力電圧v1に意図的に位相差を設けてみると、いずれかの共振ループで安定することが実験によりわかった。
【0053】
図7は、交流電流i
1と入力電圧v
1の位相関係を示す実験結果であり、
図7(a)は、交流電流i
1に対して入力電圧v
1が遅れ位相の場合、
図7(b)は、交流電流i
1と入力電圧v
1が同相の場合、
図7(c)は、交流電流i
1に対して入力電圧v
1が進み位相の場合を示している。
【0054】
図7(a)に示すように、交流電流i
1に対して入力電圧v
1が遅れ位相のときには、ループIの共振周波数ω
lの共振ループが選択される。
図7(b)に示すように、交流電流i
1と入力電圧v
1がほぼ同相のときには、共振ループが不安定となる。また、
図7(c)に示すように、交流電流i
1に対して入力電圧v
1が進み位相のときには、ループIIの共振周波数ω
hの共振ループが選択される。
【0055】
次に、交流電流i
1と入力電圧v
1の位相関係を調整することで、共振ループが選択できる原理について説明する。前述したように、この発明の実施の形態1におけるワイヤレス給電装置のインバータは、交流電流i
1の電流波形を正帰還させることで自励発振する。よって、このインバータは、発振周波数が固定されていない交流電源とみなすことができる。
図5に示したように、インバータ3は、給電側共振回路1に接続される。そして、磁気結合によって受電側共振回路2(
図1、
図2参照)および負荷抵抗R
L(
図1、
図2参照)も間接的にインバータ3に接続される。
【0056】
インバータ3の出力端からみた回路は共振回路を形成しているが、この共振回路をシンプルな等価回路として表したものを
図8に示す。
図8は、インバータに接続されるワイヤレス給電の等価回路を示す回路図である。ここで、回路の抵抗成分をR、インダクタンス成分をL、キャパシタンス成分をCとする。
インバータが共振周波数ω
cで自励発振するとき、誘導性リアクタンスと容量性リアクタンスの大きさは、次の(9)式を満たす必要がある。
【0057】
【0058】
したがって、インバータの出力端からみた共振回路のリアクタンス成分はゼロとなり、インバータに抵抗Rのみが接続された回路と等価となる。これがPT対称性を保存した際の本来の等価回路である。そして、前述したように、本来の等価回路では、インバータに抵抗成分Rしか接続されていないから、交流電流i1と入力電圧v1は同相になる。
しかし、この発明では、このように本来、同相となる交流電流i1と入力電圧v1の位相差を強制的に作り出しているのである。
【0059】
例えば、
図7(a)に示したように、交流電流i
1に対して入力電圧v
1を遅れさせると、インバータに接続された等価回路が容量性となる。別の言い方をすれば、交流電流i
1に対して入力電圧v
1を遅れさせると、共振周波数ωが、本来の共振周波数ω
cからわずかに外れて、インバータに接続された等価回路が容量性になる、と言うこともできる。
【0060】
一方、
図7(c)に示したように、交流電流i
1に対して入力電圧v
1を進ませると、共振周波数ωが、本来の共振周波数ω
cからわずかに外れて、インバータに接続された等価回路が誘導性になる。
ところで、インバータに接続された等価回路のインピーダンスZは、次の(10)式で表すことができる。また、誘導性の条件とは(11)式である。
【0061】
【0062】
【0063】
また、(9)式から、インダクタンス成分Lについては(12)式のように表すことができるので、(12)式を(11)式に代入すると、誘導性の条件は(13)式のようになる。
【0064】
【0065】
【0066】
このように、交流電流i1に対して入力電圧v1を進ませると、そのときの共振周波数ωは、本来の共振周波数ωcよりもわずかに高くなる。
【0067】
前述したように、共振周波数ωcとは、ループIIの共振周波数ωhまたはループIの共振周波数ωlのことである。また、ωh>ωlの関係にあるので、(13)式に示すω>ωcの関係を満足させるための十分条件は、ω>ωhとなる。ただし、ωはωhよりもわずかに高い周波数であるから、ωはωhとほぼ変わらない周波数となる。つまり、交流電流i1に対して入力電圧v1を進ませると、ループIIの共振周波数ωhの共振ループを選択することになる。
【0068】
一方、容量性の条件とは(14)式である。また、(9)式と(14)式から、容量性の条件は(15)式のようになる。
【0069】
【0070】
【0071】
このように、交流電流i1に対して入力電圧v1を遅らせると、そのときの共振周波数ωは、本来の共振周波数ωcよりもわずかに低くなる。
【0072】
前述したように、共振周波数ωcとは、ループIIの共振周波数ωhまたはループIの共振周波数ωlのことである。また、ωh>ωlの関係にあるので、(15)式に示すω<ωcの関係を満足させるための十分条件は、ω<ωlとなる。ただし、ωはωlよりもわずかに低い周波数であるから、ωはωlとほぼ変わらない周波数となる。つまり、交流電流i1に対して入力電圧v1を遅らせると、ループIの共振周波数ωlの共振ループを選択することになる。
【0073】
そこで、実際の回路例について説明する。前述のとおり、交流電流i
1と入力電圧v
1に意図的に位相差を設けてみると、いずれかの共振ループで安定させることができる、ということが確認できている(実験結果については、後述する
図16~
図18参照)。そこで、ループIIの共振周波数ω
hの共振ループを選択固定する目的で、交流電流i
1に対して入力電圧v
1を進ませる場合には、電流センサによって検出した交流電流をコンパレータに入力する前に、位相進み回路を挿入すればよい。しかし、位相進み回路は、ハイパスフィルタとしても機能してしまうので、高周波のノイズ成分を優先的に通過させてしまうため、S/N比は悪化し、安定動作には適さない側面がある。
【0074】
一方、位相遅れ回路は、ローパスフィルタとしても機能し、高周波のノイズ成分を遮断するため、安定動作に適している。もちろん、位相遅れ回路であるから、位相進み回路を作り出すことはできない。そこで、実際の回路では、
図9に示すように、前置増幅器36と位相遅れ回路35の組み合わせにより、位相調整回路30を構成することで位相進みを実現させている。これにより、2つの共振ループのうちのいずれかの共振ループに選択固定して、安定した動作を実現させることができる。
【0075】
図9は、この発明の実施の形態1における、位相調整回路をもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
図9に示すように、給電側共振回路1にはインバータ3が接続されており、インバータ3内を構成する要素として、コンパレータ31、ゲートドライバー32、ハイサイドのFET(電界効果トランジスタ)33、ローサイドのFET(電界効果トランジスタ)34がある点については、
図5に示す回路図と同じである。
【0076】
また、
図9においては、給電側共振回路1と、それに接続されるインバータ3と電流センサ4のみを図示しているが、前提としては
図1、
図2と同じように、給電コイル11を含む給電側共振回路1と、受電コイル21を含む受電側共振回路2とを備え、PT対称性(Parity-Time対称性)を利用し、給電コイル11と受電コイル21を磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置であって、給電側共振回路1と受電側共振回路2を相互インダクタンスにより互いに結合された複共振回路とみなしたとき、当該複共振回路に流れる共振電流が循環し得る2つの共振ループ(「ループIの共振ループ」および「ループIIの共振ループ」)が存在する、というものである。
【0077】
しかし、
図9の回路の場合、すなわち、この発明の実施の形態1における回路の一例では、インバータ3の内部に設けられたコンパレータ31への入力の前に、前置増幅器(反転増幅回路)36および位相遅れ回路35を備えた位相調整回路30が設置されており、給電コイル11の電流または磁界を検出したことに基づく交流電流i
1が、コンパレータ31に入力される前に、位相調整回路30(反転増幅回路36および位相遅れ回路35)によって、交流電流i
1を180°を越えて遅らせてコンパレータ31に入力することにより、進み位相として制御する位相制御を行うものである。これにより、2つの共振ループのうちの「ループIIの共振ループ」を選択固定することができる。
【0078】
すなわち、
図9における位相調整回路30(前置増幅器(反転増幅回路)36および位相遅れ回路35)が設置されていなければ、インバータ3のコンパレータ31には、電流センサ4により検出された給電コイル11に流れる交流電流i
1の検出信号が入力され、ゲートドライバー32に、コンパレータ31の出力である入力パルスを入力すると、ゲートドライバー32から、インバータ3内部のスイッチング素子であるハイサイドのFET33とローサイドのFET34を交互に通電/非通電(ターンオン/ターンオフ)させるための位相差180°の2相の出力パルス(第1相の出力パルスと、第2相の出力パルス)が出力される。ゲートドライバー32に入力される入力パルスは、給電コイル11に流れる交流電流i
1または給電コイル11に生じる交流磁場を元に作り出される。
【0079】
しかし、
図9においては、コンパレータ31への入力の前に、前置増幅器(反転増幅回路)36および位相遅れ回路35が設置されており、給電コイル11の電流または磁界を検出したことに基づく交流電流i
1が、コンパレータ31に入力される前に、反転増幅回路36および位相遅れ回路35によって、交流電流i
1を180°を越えて遅らせた信号がコンパレータ31に入力される。ゲートドライバー32に、コンパレータ31の出力である入力パルスを入力すると、ゲートドライバー32から、インバータ3内部のスイッチング素子であるハイサイドのFET33とローサイドのFET34を交互に通電/非通電(ターンオン/ターンオフ)させるための位相差180°の2相の出力パルス(第1相の出力パルスと、第2相の出力パルス)が出力されること、および、ゲートドライバー32に入力される入力パルスは、給電コイル11に流れる交流電流i
1または給電コイル11に生じる交流磁場を元に作り出されることについては、
図5に示したインバータ3と同じである。
【0080】
このとき、ゲートドライバー32からインバータ3内部のスイッチング素子であるハイサイドFET33とローサイドFET34に交互に出力される出力パルスのスイッチタイミングは、ゲートドライバー32への入力パルスに基づいて決定される。ここで、「スイッチタイミング」とは、前述のとおり、インバータ3内部のスイッチング素子であるハイサイドFET33とローサイドFET34をターンオンまたはターンオフさせる時刻のことである。そして、インバータ3と給電側共振回路1との間に設置された電流センサ4によって検出された交流電流i1の検出信号を、前置増幅器(反転増幅回路)36および位相遅れ回路35によって位相調整した信号をコンパレータ31に入力し、前述の入力パルスを生成させる、というものである。
【0081】
すなわち、
図9の場合には、ゲートドライバー32からインバータ3内部のスイッチング素子であるハイサイドFET33とローサイドFET34に交互に出力される出力パルスのスイッチタイミングは、電流センサ4によって検出された給電コイル11の電流位相または磁界位相を基準に、進み位相または遅れ位相の帰還制御によって位相制御を行った後の信号、すなわち、位相調整回路30によって位相関係を調整した後の信号をコンパレータ31に入力することによって生成された入力パルスに基づいて決定される。
【0082】
ここでは、前置増幅器36は反転増幅回路にしてあるため、交流電流i
1の検出信号が前置増幅器36に入力されると、
図10に示すとおり、出力信号の位相は入力信号に対して180°反転する。
図10は、
図9に示した位相調整回路30(前置増幅器36および位相遅れ回路35)の各部の電圧波形を示す模式図である。その後、オペアンプを使って位相遅れ回路(ローパスフィルタ)35の出力では、さらに位相が遅れる。例えば、位相遅れ回路35にて130°の位相遅れを発生させた場合、前置増幅器36を含めた位相遅れは、180+130=310°となる。つまり、1周期(360°)遅れで360-310=50°位相を進ませたことになるので、等価的に位相進みを実現させることができる。すなわち、交流電流i
1を180°を越えて遅らせてコンパレータ31に入力することになる。
【0083】
また、
図9においては、給電側共振回路1に接続される負性抵抗回路として、インバータ3と電流センサ4を用いるものとして説明するが、電流センサ4に代えて、磁気センサを用いるようにしてもよい。電流位相と磁界位相は一致するため、電流センサ4によって電流を検出し、電流位相を検出して、その電流位相に基づいて交流電流を検出するようにしてもよいし、磁気センサによって磁界を検出し、磁界位相を検出して、その磁界位相に基づいて交流電流を検出するようにしてもよいからである。すなわち、インバータ3とともに負性抵抗回路を構成するセンサとしては、給電側共振回路1における給電コイル11の電流または磁界を検出することができるセンサであればよい。これについては、
図5、
図8、後述する
図11以降においても同様である。
【0084】
すなわち、この
図9に示す回路は、給電側共振回路1に接続されたインバータ3の発振のために、給電コイル11の電流または磁界を検出し、その電流または磁界に基づいて給電コイル11の電圧または電流のゼロクロスを検出して自励発振させる装置である。そして、ループIIの共振周波数ω
hをもつ共振ループ(「ループIIの共振ループ」)を選択固定する目的で、給電コイル11の電流に対して電圧の位相を進ませるために、給電コイル11の電流センサ4または磁気センサ(図示せず)を用いることによって検出した交流電流i
1を、インバータ3内のコンパレータ31に入力する前に、前置増幅器(反転増幅回路)36と位相遅れ回路35を挿入し、180°を越えて遅らせることで、進み位相として制御するものである。つまり、遅れ位相180°以上まわして進み位相を実現するものであり、この結果、進み位相制御がノイズに弱いことで動作が不安定になる、という課題を解決することができる。
【0085】
このように、給電側共振回路1には、インバータ3、および、給電コイル11の電流または磁界を検出するセンサ(
図9では電流センサ4)が接続され、インバータ3が、センサにより検出された給電コイル11の電流に基づく電流位相(または給電コイル11の磁界に基づく磁界位相)を基準に、進み位相または遅れ位相の帰還制御により位相制御を行う位相調整回路30、すなわち、給電側共振回路1に加わる交流電圧と給電コイル11に流れる交流電流との位相関係を調整できる位相調整回路30を備え、インバータ3内部のスイッチング素子をターンオンまたはターンオフさせる時刻であるスイッチタイミングが、位相調整回路30によって位相関係を調整した後の信号によって生成されたパルスに基づいて決定されることにより、2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループが選択固定される。
【0086】
また、
図9に示す実施例(回路)の場合には、インバータ3の内部にはコンパレータ31が設けられ、かつ、コンパレータ31への入力の前に、位相調整回路30としての位相遅れ回路35が設置されている。そして、インバータ3は、位相遅れ回路35が、2つの共振ループのうちの「ループIIの共振ループ」を選択する目的で、センサ(
図9では電流センサ4)によって検出された給電コイル11の電流または磁界に基づく交流電流がコンパレータ31に入力される前に、交流電流を180°を越えて遅らせてコンパレータ31に入力させることにより、給電コイル11に流れる交流電流に対して給電側共振回路1に加わる交流電圧の位相を進ませる進み位相として位相関係を調整する制御を行うものである。
【0087】
図9に示した実施例(回路)では、位相調整回路30の具体的な一例として、オペアンプを使ったローパスフィルタを位相遅れ回路35として用いているが、ローパスフィルタで130°程度の大きな位相遅れを発生させると、ローパスフィルタのゲイン(出力振幅/入力振幅)が小さくなり過ぎて、出力信号の振幅が小さくなり過ぎる問題も想定される。その場合は、ローパスフィルタの代わりに時間遅延回路を用いる方法がある。
【0088】
図11は、この発明の実施の形態1における、時間遅延回路をもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
図11に示すように、給電側共振回路1にはインバータ3が接続されており、インバータ3内を構成する要素として、コンパレータ31、ゲートドライバー32、ハイサイドのFET(電界効果トランジスタ)33、ローサイドのFET(電界効果トランジスタ)34がある点については、
図5および
図9に示す回路図と同じである。
【0089】
しかし、
図11の回路の場合、すなわち、この発明の実施の形態1における回路の別の一例では、インバータ3の内部に設けられたコンパレータ31への入力の前に、前置増幅器(反転増幅回路)36が設置され、コンパレータ31の出力の後に時間遅延回路37が設置されており、遅延時間の制御で位相制御を行うものである。この
図11の場合には、位相調整回路30は、少なくとも時間遅延回路37を含むものである。
【0090】
すなわち、この
図11に示す回路は、ループIIの共振周波数ω
hをもつ共振ループ(「ループIIの共振ループ」)を選択固定する目的で、給電コイル11の電流に対して電圧の位相を進ませるために、給電コイル11の電流センサ4または磁気センサ(図示せず)を用いることによって検出した交流電流i
1を、インバータ3内のコンパレータ31に入力し、コンパレータ31の出力の後に、時間遅延回路37を挿入し、遅延時間の制御で位相制御を行うものである。
【0091】
コンパレータ31の後段にシミュット・トリガー付きのNOT型論理素子とRC積分回路を組み合わせた時間遅延回路37を多段に接続することで、130°程度の大きな位相遅れを発生させている。つまり、コンパレータ31に入力するスイッチ信号の制御に、NOT回路とRC積分回路による実時間制御を実現するものであり、この結果、アナログ回路の位相遅延が周波数依存性をもつ、という課題を解決することができる。なお、論理素子としては、必ずしもシミュット・トリガー付きである必要はない。また、論理素子としては、NOT型の代わりにバッファ回路でも実現可能である。
【0092】
このように、
図11に示す実施例(回路)では、インバータ3の内部にはコンパレータ31が設けられ、センサ(
図11では電流センサ4)によって検出された給電コイル11の電流または磁界に基づく交流電流がコンパレータ31に入力されるように構成されており、かつ、コンパレータ31の出力の後に、位相調整回路30としての時間遅延回路37が設置されている。そして、インバータ3は、時間遅延回路37による遅延時間の制御によって位相関係を調整する制御を行っており、これにより、2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループが選択固定されるものである。
【0093】
図9および
図11の実際の回路例では、給電コイル11の接続線に電流センサ4を取り付けて給電コイル11の電流(給電側共振回路1の電流)を検出することにより、交流電流i
1の位相を検出している。これと同様の効果は、給電コイル11の近傍に磁気センサ(図示せず)を取り付けて給電コイル11の磁界(給電側共振回路1の磁界)を検出する、というやり方でも実現することができる。磁気センサとしては、ホール素子のほか、電線をループ状に形成したループコイルと呼ばれる磁気センサでもあってもよい。なお、この場合には、前述の負性抵抗回路を構成するのは、インバータ3と磁気センサ、ということになる。
【0094】
このように、
図9では、コンパレータ31の前に位相遅れ回路(ローパスフィルタ)35を入れることで位相を制御しており、
図11では、コンパレータ31の後に時間遅延回路37を入れることで位相を制御している。他に想定される実施例としては、
図11に示す時間遅延回路37の代わりに、オールパスフィルタと呼ばれる位相のみを制御できる回路を使うことも考えられる。
【0095】
図12は、この発明の実施の形態1における、オールパスフィルタをもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
図12に示すように、給電側共振回路1にはインバータ3が接続されており、インバータ3内を構成する要素として、コンパレータ31、ゲートドライバー32、ハイサイドのFET(電界効果トランジスタ)33、ローサイドのFET(電界効果トランジスタ)34がある点については、
図5、
図9、
図11に示す回路図と同じである。
【0096】
しかし、
図12の回路の場合、すなわち、この発明の実施の形態1における回路のさらに別の一例では、インバータ3の内部に設けられたコンパレータ31への入力の前に、前置増幅器(反転増幅回路)36が設置され、コンパレータ31の出力の後にオールパスフィルタ38が設置されており、このオールパスフィルタ38によって位相制御を行うものである。
【0097】
すなわち、この
図12に示す回路は、ループIIの共振周波数ω
hをもつ共振ループ(「ループIIの共振ループ」)を選択固定する目的で、給電コイル11の電流に対して電圧の位相を進ませるために、給電コイル11の電流センサ4または磁気センサ(図示せず)を用いることによって検出した交流電流i
1を、インバータ3内のコンパレータ31に入力し、コンパレータ31の出力の後に、オールパスフィルタ38を挿入し、このオールパスフィルタ38によって位相制御を行うものである。
【0098】
このように、
図12に示す実施例(回路)では、インバータ3の内部にはコンパレータ31が設けられ、センサ(
図12では電流センサ4)によって検出された給電コイル11の電流または磁界に基づく交流電流がコンパレータ31に入力されるように構成されており、かつ、コンパレータ31の出力の後に、位相調整回路30としてのオールパスフィルタ38が設置されている。そして、インバータ3は、オールパスフィルタ38によって位相関係を調整する制御を行っており、これにより、2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループが選択固定されるものである。
【0099】
さらに、
図13に示すように、
図11に示す時間遅延回路37や
図12に示すオールパスフィルタ38の代わりに、PLL(位相同期回路)39を用いて位相を制御する方法も考えられる。
図13は、この発明の実施の形態1における、PLL(位相同期回路)をもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
図13に示すように、給電側共振回路1にはインバータ3が接続されており、インバータ3内を構成する要素として、コンパレータ31、ゲートドライバー32、ハイサイドのFET(電界効果トランジスタ)33、ローサイドのFET(電界効果トランジスタ)34がある点については、
図5、
図9、
図11、
図12に示す回路図と同じである。
【0100】
しかし、
図13の回路の場合、すなわち、この発明の実施の形態1における回路のさらに別の一例では、インバータ3の内部に設けられたコンパレータ31への入力の前に、前置増幅器(反転増幅回路)36が設置され、コンパレータ31の出力の後にPLL(位相同期回路)39が設置されており、このPLL(位相同期回路)39によって位相制御を行うものである。
【0101】
すなわち、この
図13に示す回路は、ループIIの共振周波数ω
hをもつ共振ループ(「ループIIの共振ループ」)を選択固定する目的で、給電コイル11の電流に対して電圧の位相を進ませるために、給電コイル11の電流センサ4または磁気センサ(図示せず)を用いることによって検出した交流電流i
1を、インバータ3内のコンパレータ31に入力し、コンパレータ31の出力の後に、PLL(位相同期回路)39を挿入し、このPLL(位相同期回路)39により位相の進み・遅れを制御することによって位相制御を行うものである。
【0102】
このように、
図13に示す実施例(回路)では、インバータ3の内部にはコンパレータ31が設けられ、センサ(
図13では電流センサ4)によって検出された給電コイル11の電流または磁界に基づく交流電流がコンパレータ31に入力されるように構成されており、かつ、コンパレータ31の出力の後に、位相調整回路30としてのPLL(位相同期回路)39が設置されている。そして、インバータ3は、PLL(位相同期回路)39により、給電コイル11に流れる交流電流に対して給電側共振回路1に加わる交流電圧の位相を進ませる、または、遅らせることによって、位相関係を調整する制御を行っており、これにより、2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループが選択固定されるものである。
【0103】
図14は、PLL(位相同期回路)39の具体的な内部機能の一例を示すブロック図である。
図14に示すように、PLL(位相同期回路)39は、少なくともPFD(位相検出器)91とVCO(電圧制御発振器)92とを備えている。そして、PFD(位相検出器)91が、基準周波数となる入力信号と、電圧に応じて周波数が変化するVCO(電圧制御発振器)92からの出力のフィードバック信号との位相差を算出し、その位相差をVCO(電圧制御発振器)92に入力することにより、入力信号と出力信号の位相を同期させる。したがって、VCO(電圧制御発振器)92の入力電圧にいくらかのオフセット電圧を与えることで、PLL(位相同期回路)39の出力信号の周波数の範囲に制限を与えることができる。
【0104】
例えば、ループIIの共振周波数ωhの周波数範囲が70kHzから90kHzであり、ループIの共振周波数ωlの周波数範囲が50kHzから70kHzであるなら、PLL(位相同期回路)39の出力信号の周波数の範囲が70kHzから90kHzになるようにすれば、ループIの共振周波数ωlで動作することはなくなるので、ループIIの共振周波数ωhでの動作の安定性が高まる。すなわち、VCO(電圧制御発振器)92の入力電圧を制御することによって、VCO(電圧制御発振器)92の発振周波数に制限を付け、PLL(位相同期回路)39の出力信号の周波数範囲を制限することで、2つの共振ループのうちいずれかを選択した際の動作安定性を高めることができる。
【0105】
ここで、
図13に示す電流センサ4によって検出された電流に基づく交流信号を前置増幅器(反転増幅回路)36によって反転させた信号がコンパレータ31に入力され、コンパレータ31において生成された入力パルスが、PLL(位相同期回路)39の入力信号である。よって、PLL(位相同期回路)39の出力信号がゲートドライバー32に入力される場合には、位相制御していない正帰還の時に比べると、VCO(電圧制御発振器)92の入力電圧を制御する(VCO92の制御値を制御する)ことによって周波数または位相を制御することができる。これを利用して、給電側共振回路1の共振周波数として、ループIIの共振周波数ω
hまたはループIの共振周波数ω
lのうちのいずれか1つを選択固定することができる。また、別の方法として、PLL(位相同期回路)39のVCO(電圧制御発振器)92の発振周波数に制限を付け、ループIIの共振周波数ω
hしか発振しない、または、ループIの共振周波数ω
lしか発振しない、というように制御することも可能である。
【0106】
このように、PLL(位相同期回路)39の中のVCO(電圧制御発振器)92の発振周波数の変動範囲にリミット(制限)を付けて、ループIの共振周波数ωlでは絶対に発振できないようにすると、必然的にループIIの共振周波数ωhしか選択されないので、強制的にループIIの共振周波数ωhに選択固定させることができる。
つまり、VCO(電圧制御発振器)92に周波数制限を与えたPLL(位相同期回路)39を用いることによって、PLL(位相同期回路)39の出力周波数を制限することができるので、共振ループをいずれかに固定することができ、不安定に切り替えが起きることを防ぐことができる。
【0107】
これにより、ワイヤレス給電中の給電コイルや受電コイルの位置変動などにより電流ループがランダムに切り替わる、という問題を防ぐことができる。
以上のように、PLL(位相同期回路)39を追加することにより、PLLにより位相制御を行うことが可能なだけでなく、位相揺らぎなどが軽減されて安定した動作が期待できるので、動作の安定性を向上させることができる、というメリットもある。
【0108】
そしてさらに、
図15に示すように、
図11に示す時間遅延回路37や
図12に示すオールパスフィルタ38、または、
図13に示すPLL(位相同期回路)39の代わりに、オールパスフィルタ38とPLL(位相同期回路)39との両方を用いて位相を制御する方法も考えられる。
図15は、この発明の実施の形態1における、オールパスフィルタとPLL(位相同期回路)をもつインバータと給電側共振回路の一例を示す回路図である。
図15に示すように、給電側共振回路1にはインバータ3が接続されており、インバータ3内を構成する要素として、コンパレータ31、ゲートドライバー32、ハイサイドのFET(電界効果トランジスタ)33、ローサイドのFET(電界効果トランジスタ)34がある点については、
図5、
図9、
図11、
図12、
図13に示す回路図と同じである。
【0109】
図16は、この発明の実施の形態1における実際の装置において、交流電流i
1に対して入力電圧v
1を進み位相になるように調整した場合の、交流電流i
1と入力電圧v
1の計測波形を示すグラフであり、破線が交流電流i
1、実線が入力電圧v
1を示している。すなわち、
図16は、給電側共振回路1に加わる交流電圧と給電コイル11に流れる交流電流との位相差を示している。
また、
図17は、
図16の位相関係において、給電側共振回路1に設けられた給電コイル11と受電側共振回路2に設けられた受電コイル21との距離、すなわち、この2つのコイル間の伝送距離dを変化させたときの共振周波数の変化を計測した結果を示すグラフであり、●マークが実験結果、破線が計算結果を示している。
【0110】
実験では、
図16に示す位相差が30~35度の場合に、すなわち、交流電圧v
1を交流電流i
1に対して30~35度進み位相にすると、
図17に示すように、安定してループIIの共振周波数ω
hが選択固定されることが確認できた。
図17を見ると、いずれの伝送距離においても、すなわち、伝送距離dが変化した場合であっても、常にループIIの共振周波数ω
hの共振ループが選択固定されていることがわかる。
【0111】
図18は、2つのコイル間の伝送距離dを変化させたときの伝送電力を計測した結果を示すグラフであり、●マークが実験結果、破線が計算結果を示している。
図18を見ると、いずれの伝送距離においても、すなわち、伝送距離dが変化した場合であっても、常に電力供給が可能になっていることが確認できる。
【0112】
以上のように、この発明によれば、PT対称性を利用し、給電コイルと受電コイルを磁気共鳴させることにより非接触で給電を行う磁気共鳴型ワイヤレス給電装置において、位相を調整するための位相調整回路を設けたことにより、周囲の環境に左右されず、かつ、給電コイルと受電コイルの設計に制約を与えずに共振ループの選択固定を行うことが可能となる。すなわち、周囲の環境に左右されず、かつ、ワイヤレス給電に適する周波数やコイルのコア形状や材質などの選択に影響されず(コイルの設計による調整などは必要なく)、給電コイルと受電コイルの設計に制約を与えずに、2つの共振ループのうちのいずれか1つの共振ループの選択固定を行うことができ、コイルを自由な形状や寸法にすることができる。
【0113】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0114】
この発明の磁気共鳴型ワイヤレス給電装置は、携帯電話の充電のような近距離のワイヤレス給電だけでなく、水中ドローンのような周囲に水がある環境、工場内の機器への送電のような周囲に金属が多い環境など、多岐にわたる環境におけるワイヤレス給電に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 給電側共振回路
2 受電側共振回路
3 インバータ
4 電流センサ
11 給電コイル
21 受電コイル
30 位相調整回路
31 コンパレータ
32 ゲートドライバー
33 ハイサイドFET
34 ローサイドFET
35 位相遅れ回路
36 前置増幅器(反転増幅回路)
37 時間遅延回路
38 オールパスフィルタ
39 PLL(位相同期回路)
91 PFD(位相検出器)
92 VCO(電圧制御発振器)