(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】ボイラ装置
(51)【国際特許分類】
F22B 37/30 20060101AFI20250519BHJP
F16L 55/00 20060101ALI20250519BHJP
【FI】
F22B37/30 A
F16L55/00 J
F22B37/30 L
(21)【出願番号】P 2021086613
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2024-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000154668
【氏名又は名称】株式会社ヒラカワ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】吉井 悦二
(72)【発明者】
【氏名】木下 正成
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-086536(JP,A)
【文献】実開昭55-043205(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 1/00-37/78
F16L 55/00-55/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラから
負荷へ蒸気を供給する蒸気供給管に
おけるボイラからの蒸気流入端部に、ボイラからの蒸気流量を制御するための主蒸気弁が接続され、前記ボイラについての負荷変動や圧力変動などの外乱の発生を防止するための多孔式のオリフィスが、
前記ボイラと主蒸気弁との間における主蒸気弁の弁箱の端部に設けられていることを特徴とするボイラ装置。
【請求項2】
オリフィス孔の最小径が3.0mm~7.0mmの範囲であることを特徴とする請求項1記載のボイラ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボイラ装置に関し、特にいわゆる小型のボイラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気発生量が500~10000kg/h程度の小型のボイラ装置は、保有水量が少ないことから、急激な負荷変動や急激な圧力変動などの外乱によって、缶水が大きく上下に変動することがある。そして、その変動に伴って、缶内が異常に低水位となったり、缶水がボイラからあふれ出すキャリーオーバが発生したりするなどの異常状態に陥るおそれがある。
【0003】
それらの対策のために、ボイラと、蒸気供給先への蒸気供給管に蒸気流量を制御する目的で設置された主蒸気弁との間に、オリフィスが設けられる。公知の技術においては、この種のオリフィスとして、単孔式のオリフィスが用いられている。蒸気供給管にオリフィスが設けられたボイラ装置として、特許文献1に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、単孔式のオリフィスでは、圧力損失が大きく、そのため負荷側への蒸気供給量に影響を及ぼす危険性が高い。そこで、さらなる対策として、ボイラの蒸気圧力を高く設定することが必要になってしまうなどの問題点がある。
【0006】
そこで本発明は、このような問題点を解決して、ボイラ装置において、大きな圧力損失を発生させずに、またボイラの蒸気圧力を必要以上に高くすることなしに、缶内が異常に低水位となったり、キャリーオーバが発生したりすることを確実に防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため本発明のボイラ装置は、ボイラから負荷へ蒸気を供給する蒸気供給管におけるボイラからの蒸気流入端部に、ボイラからの蒸気流量を制御するための主蒸気弁が接続され、前記ボイラについての負荷変動や圧力変動などの外乱の発生を防止するための多孔式のオリフィスが、前記ボイラと主蒸気弁との間における主蒸気弁の弁箱の端部に設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明のボイラ装置によれば、オリフィス孔の最小径が3.0mm~7.0mmの範囲であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のボイラ装置によれば、オリフィスが設けられていることで、急激な負荷変動や急激な圧力変動などの外乱が発生した場合であっても、缶水が大きく上下に変動することを防止でき、しかもオリフィスが多孔オリフィスであることから、単孔式のオリフィスに比べて圧力損失を小さくすることができ、このため圧力損失が大きい単孔オリフィスに比べて、負荷側への蒸気供給量に影響を及ぼす危険性が低く、また、このためボイラの蒸気圧力を高く設定しなくても、缶水が上下に大幅に変動することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態のボイラ装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1のボイラ装置に設置される多孔オリフィスの例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態の多孔オリフィスと、単孔オリフィスとについての圧力損失の状況を示すグラフである。
【
図4】多孔オリフィスの孔径と圧力損失との関係例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示す本発明の実施の形態のボイラ装置において、11は、小型のボイラであって、蒸気発生量が、500~10000kg/hの範囲における任意の量に設定されたものである。そして12は、ボイラ11から図外の負荷へ蒸気を供給するための蒸気供給管である。蒸気供給管12は、蒸気ヘッダ13に接続されている。蒸気ヘッダ13は、各負荷に向けて発生蒸気を分配するためのもので、図示のものでは複数の分配管14が接続されている。各分配管14には、分配弁15がそれぞれ設けられている。蒸気ヘッダ13における蒸気流入端部には、流入弁16が接続されている。また蒸気供給管12におけるボイラ11からの蒸気流出端部には、ボイラ11からの蒸気流量を制御するための主蒸気弁17が接続されている。
【0014】
図1に示すボイラ装置では、ボイラ11と主蒸気弁17との間に、多孔オリフィス18が設けられている。詳細には、
図1に示されるボイラ装置では、多孔オリフィス18は、主蒸気弁17の弁箱の端部に直接取り付けられている。
【0015】
図2は、多孔オリフィス18の構造例を示す。図示のように円形のオリフィス板21に大中小3つの円22、23、24が同心状に設定され、各円22、23、24の周方向に沿ってたとえば均等割りされた位置に、それぞれ小孔25が貫通状態で形成されている。ボイラ11からの蒸気は、この小孔25を通って下流側へ導かれる。小孔25は、孔径が小さければ小さいほど効果的である。しかし、小孔25を通過する蒸気が水分を含んでいると、この小孔25を水封してしまって、極端な圧力上昇が生じるおそれがある。水封は、水の表面張力や粘性に基づいて発生する。このため、小孔25の最小径は、使用蒸気圧力や多孔オリフィス18の設置場所などに依存して、3.0mm~7.0mmの範囲であることが好ましい。小孔25の総数は、各小孔25の開口面積の合計が、単孔オリフィスであって多孔オリフィス18と同等の性能を有するものの開口面積に等しくなるように設定されている。
【0016】
多孔オリフィス18は、蒸気供給管12における適宜の位置に設けることもできる。たとえば、上記のように主蒸気弁17の弁箱の端部に直接取り付けられている構成に代えて、蒸気ヘッダ13の流入弁16におけるボイラ11から遠くない側すなわちボイラ11に近い側の端部に取り付けることもできる。しかし、蒸気供給管12における、よりボイラ11に近い位置に設ける方が、良好な性能を得ることができる。
【0017】
図3は、単孔オリフィスの差圧特性と多孔オリフィスの差圧特性とを比較したものである。横軸は蒸気流量比、縦軸は差圧である。蒸気供給管12の内径は67mm、単孔オリフィスの孔径は29mmである。また、多孔オリフィスの孔径は5.3mm、その孔数は30、その孔配置は
図2の場合と同様に同心円状の3つのピッチ円に沿った千鳥状である。3つのピッチ円のピッチ円径は、50mm、35mm、25mmである。差圧の測定に際しては、単孔オリフィスと多孔オリフィスとを個別に目標流量を100%とし、その80~140の範囲で圧力損失すなわち差圧と、流量との特性を比較している。
【0018】
図3に示されるように、単孔オリフィスの差圧はおよそ0.1~0.3MPaであるが、測定したすべての流量範囲において、単孔オリフィスに比べて、多孔オリフィスの方が0.1MPa程度圧力損失が低く、圧力損失が大幅に低減していることが理解できる。
【0019】
図4は、孔径の異なる2つの多孔オリフィスについてのそれぞれの圧力変動を比較したものである。横軸は蒸気流量比、縦軸は圧力変動すなわち差圧である。適正孔径の多孔オリフィスの孔径は5.3mm、過小孔径の多孔オリフィスの孔径は4.5mmであり、両オリフィスの開口面積の合計は、いずれも661.5mm
2で等しい。上記した適正孔径の値と過小孔径の値とから、この
図4に示す圧力変動を比較したときの適正孔径の最小値は4.5mmを超え5.3mm以下の範囲内に存在することが理解できる。これは、上述の「小孔25の最小径は、使用蒸気圧力や多孔オリフィス18の設置場所などに依存して、3.0mm~7.0mmの範囲であることが好ましい。」との事項に適合したものである。
【0020】
図示のように、過小孔径の多孔オリフィスの場合は、流量比が100%を超えると圧力変動が若干低下するが、流量比が120%を超えると圧力変動が急激に増大する傾向を示している。これは、オリフィスを通過する蒸気に若干の水分が含まれると、小径の孔を通過するときの抵抗や水分量による閉塞(水封)が発生していることが原因していると考えることができる。
最小孔径の大きさと蒸気に含まれる水分の量により水封圧力が変動する流量比が100%を下回る傾向も見られる。
【符号の説明】
【0021】
11 小型のボイラ
12 蒸気供給管
17 多孔オリフィス