(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20250519BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20250519BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20250519BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F01N11/00
F01N3/24 R
(21)【出願番号】P 2021132457
(22)【出願日】2021-08-16
【審査請求日】2024-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】三木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敦之
(72)【発明者】
【氏名】西野 光祐
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0078490(US,A1)
【文献】特開2007-056723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00、 3/02、 3/04- 3/38、
9/00-11/00
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関及び電動機が搭載されたハイブリッド車両に用いられ、
内燃機関の排気通路に装着されている排気ガス浄化用の触媒の酸素吸蔵能力を推定し、その酸素吸蔵能力が閾値以上であるか否かを判定することで触媒が劣化しているかどうかを診断する触媒劣化診断制御を行うハイブリッド車両の制御装置であって、
触媒劣化診断制御の開始直後に触媒の酸素吸蔵量の推定を行わない期間を設定しており、
内燃機関の動作状態が所定の
状態である場合には触媒劣化診断制御の実行を許可
することとし、前記所定の状態は、内燃機関の気筒への吸入空気量が所定以上かつ内燃機関のファイアリング運転を所定時間以上継続可能な状態であり、
内燃機関の動作状態が
前記所定の状態以外である場合には触媒劣化診断制御の実行を許可しないハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記所定の状態は、
車両の発進を行う場合、加速が要求されている場合、暖房装置の運転が要求されている場合、デフロスタの運転が要求されている場合、または冷房装置の運転が要求されている場合のうち少なくとも一つを含む請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に搭載されている内燃機関の触媒の劣化に関する自己診断を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空燃比を理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側の間で強制的に切り替えるアクティブ制御を行うことにより触媒の劣化を判定する触媒劣化診断を行うことが知られている。この触媒劣化診断は、触媒より上流側及び下流側に配された空燃比センサの出力をそれぞれモニタリングし、上流側の空燃比がリッチ側からリーン側に、又はその逆に変化してから下流側の空燃比が同様に変化するまでの時間に基づき触媒の酸素吸蔵量を推定することにより行うようにしている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ここで、アクティブ制御の開始直後においては、アクティブ制御の開始以前に発生した排気ガスの一部も触媒に到達し、触媒の酸素吸蔵・脱離能力を正確に計測できないことから、空燃比センサの出力のモニタリングを通じた触媒の酸素吸蔵量の推定を行わない期間を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、ハイブリッド車両においては、走行条件によって内燃機関のファイアリング停止及び始動が繰り返されるが、その際、触媒劣化診断の途中で内燃機関のファイアリングが停止し、内燃機関の再始動後に触媒劣化診断が再開されることがある。
【0006】
すると、触媒劣化診断の開始直後においてアクティブ制御のみが行われ空燃比センサの出力のモニタリングを行わない期間が繰り返されることとなり、また、アクティブ制御が行われる期間が長くなるので、燃費や排気ガスの悪化が生じる可能性がある。
【0007】
本発明は、ハイブリッド車両において、触媒劣化診断の途中で内燃機関が停止し、内燃機関の再始動後に触媒劣化診断が再開されることに伴う上述した不具合の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するべく、本発明では、動力源として内燃機関及び電動機が搭載されたハイブリッド車両に用いられ、内燃機関の排気通路に装着されている排気ガス浄化用の触媒の酸素吸蔵能力を推定し、その酸素吸蔵能力が閾値以上であるか否かを判定することで触媒が劣化しているかどうかを診断する触媒劣化診断制御を行うハイブリッド車両の制御装置であって、触媒劣化診断制御の開始直後に触媒の酸素吸蔵量の推定を行わない期間を設定しており、内燃機関の動作状態が所定の状態である場合には触媒劣化診断制御の実行を許可することとし、前記所定の状態は、内燃機関の気筒への吸入空気量が所定以上かつ内燃機関のファイアリング運転を所定時間以上継続可能な状態であり、内燃機関の動作状態が前記所定の状態以外である場合には触媒劣化診断制御の実行を許可しないハイブリッド車両の制御装置を構成した。
【0009】
より具体的には、前記所定の状態は、車両の発進を行う場合、加速が要求されている場合、暖房装置の運転が要求されている場合、デフロスタの運転が要求されている場合、または冷房装置の運転が要求されている場合のうち少なくとも一つを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハイブリッド車両において、触媒劣化診断の途中で内燃機関のファイアリングが停止し内燃機関の再始動後に触媒劣化診断が再開されることによってアクティブ制御のみが行われ空燃比のモニタリングを行わない期間が繰り返され、また、アクティブ制御が行われる期間が長くなることに伴う燃費や排気ガスの悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概略構成を示す図。
【
図2】同実施形態の制御装置が実施する触媒劣化診断制御のためのアクティブ制御の内容を説明するタイミング図。
【
図3】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態におけるハイブリッド車両の主要システムの概略構成を示している。このハイブリッド車両は、内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0013】
本実施形態のハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。つまり、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能であっても、蓄電装置3が十分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が十分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転(ファイアリング)を実施しないことがある。
【0014】
内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と、歯車機構を介してまたは軸を直結して機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのモータリング(クランキング)を実行する。
【0015】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0016】
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0017】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0018】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)02の一部をなす。
【0019】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。また、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0020】
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4の制御を司る制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、モータジェネレータ2、4及びインバータ21、41を制御するMG(Motor Generator)ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03等、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECU00が、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。
【0021】
ECU0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサまたは車輪の回転速度を検出する車輪速センサから出力される信号、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両(の走行用モータジェネレータ4)に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号、内燃機関1の気筒に連なる吸気通路(特に、サージタンクまたは吸気マニホルド)内の吸気温及び吸気圧を検出する吸気温・吸気圧センサから出力される吸気温・吸気圧信号、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号、大気圧を検出する大気圧センサから出力される大気圧信号、蓄電装置3に蓄えている電荷量を検出するセンサ(特に、バッテリ電流及び/またはバッテリ電圧センサ)から出力されるバッテリSOC(State Of Charge)信号、ブレーキブースタの定圧室に蓄えている負圧を検出する負圧センサから出力される負圧信号等が入力される。
【0022】
そして、ECU0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量や、現在の車両の車速、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさを増減制御する。
【0023】
ECU0の一部をなすEFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報を入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を具現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。EFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号を、出力インタフェースを介して点火プラグのイグナイタ、インジェクタ、スロットルバルブ、EGRバルブ等に対して出力する。
【0024】
ECU0は、気筒に充填される混合気の空燃比、ひいては気筒から排出され触媒へと導かれる排気ガスの空燃比をフィードバック制御する。ECU0は、まず、吸気圧及び吸気温、エンジン回転数、要求EGR率等から、気筒に充填される新気の量を算出し、これに見合った基本噴射量TPを決定する。
【0025】
次いで、この基本噴射量TPを、触媒の上流側及び/または下流側の空燃比に応じて定まるフィードバック補正係数FAFで補正する。一般に、フィードバック補正係数FAFは、空燃比センサを介して実測されるガスの空燃比と目標空燃比(平常時は理論空燃比の近傍)との偏差に応じて調整され、実測空燃比が目標空燃比に対してリーンであるときには増加し、実測空燃比が目標空燃比に対してリッチであるときには減少する。
【0026】
そして、内燃機関1の状況に応じて定まる各種補正係数Kや、インジェクタの無効噴射時間TAUVをも加味して、最終的な燃料噴射時間(インジェクタに対する通電時間)Tを算定する。燃料噴射時間Tは、
T=TP×FAF×K+TAUV
となる。しかして、燃料噴射時間Tだけインジェクタに信号jを入力、インジェクタを開弁して燃料を噴射させる。
【0027】
触媒の上流側及び/または下流側の空燃比信号を参照したフィードバック制御は、例えば、内燃機関1の冷却水温が所定温度以上であり、燃料カット中でなく、パワー増量中でなく、内燃機関1の始動から所定時間が経過し、空燃比センサが昇温して活性中、吸気圧が正常である、等の諸条件が全て成立している場合に行う。
【0028】
本実施形態のECU0は、触媒の最大酸素吸蔵能力を推定するとともに、推定した最大酸素吸蔵能力値を劣化判定閾値と比較して、当該触媒が正常であるか異常であるかを判定する触媒劣化診断制御(ダイアグノーシス)を行う。
【0029】
触媒の酸素吸蔵能力は既知の任意の手法を採用して推算することができるが、ここではその一典型例を示す。内燃機関1の気筒に空燃比リーンの混合気を供給して触媒の酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵している状態から、気筒に供給する混合気を意図的に空燃比リッチに操作するアクティブ制御を実行する。すると、触媒の上流の空燃比センサの出力信号(出力電流または出力電圧)は即座に空燃比リッチを示す。これに対し、触媒の下流の空燃比センサの出力信号は、上流の空燃比センサの出力信号に遅れて空燃比リッチを示す。触媒の上流の空燃比センサの出力信号が空燃比リッチを示してから(または、混合気を空燃比リッチに操作してから)下流の空燃比センサの出力信号が空燃比リッチを示すまでの間、触媒に吸蔵していた酸素が放出されて酸素の不足が補われるためである。
【0030】
触媒の上流の空燃比センサの出力信号が空燃比リッチを示してから、下流の空燃比センサの出力信号が空燃比リッチを示すまでの間に経過した時間をTRとおき、このTRの間に供給した燃料の総重量をGF、理論空燃比とリッチ時の空燃比との差分をΔA/FRとおくと、TRの間に触媒中で不足した酸素量は、
(α・ΔA/FR・GF)
となる。αは、空気中に占める酸素の重量割合(≒0.23)である。
【0031】
上式は、TRの時点までに触媒が放出した酸素の量を表している。供給した燃料の総重量GFは、ECU0において演算することができる。即ち、一回の燃料噴射機会における燃料噴射量は、空燃比を理論空燃比よりもリッチな(14.6よりも小さい)所定値とするために必要な量であり、その噴射量に単位時間当たりの膨張行程回数(エンジン回転数に比例)を乗じれば、単位時間当たりの燃料供給量となる。そして、単位時間当たりの燃料供給量に経過時間TRを乗じれば、供給した燃料の総重量GFとなる。要するに、触媒の下流の空燃比センサの出力信号が空燃比リッチを示した時点での経過時間TRに基づいて、触媒の最大酸素放出能力を算出することが可能である。この最大酸素放出能力は、最大酸素吸蔵能力と同義である。
【0032】
厳密には、TRの期間において、運転者のアクセル操作等に起因して単位時間当たりの燃料供給量(または、一回の燃料噴射量)は増減し得る。故に、TRの期間中の供給燃料の総重量GFは、単位時間当たりの供給量gF(t)をTRの範囲で時間積分して求めることが好ましい。また、本実施形態では、触媒の上流にリニアA/Fセンサを配しており、触媒に流入するガスの空燃比を実時間で計測することが可能である。よって、ΔA/FR(t)を理論空燃比とA/Fセンサを介して計測した実測空燃比との差分として、触媒の最大酸素吸蔵能力を、TRの期間の時間積分として求めることができる。即ち、
α∫{ΔA/FR(t)・gF(t)}dt
あるいは、内燃機関1の気筒に空燃比リッチの混合気を供給して触媒に酸素を全く吸蔵していない状態から、気筒に供給する混合気を意図的に空燃比リーンに操作するアクティブ制御を実行する。すると、触媒の上流の空燃比センサの出力信号は即座に空燃比リーンを示す。これに対し、触媒の下流の空燃比センサの出力信号は、上流の空燃比センサの出力信号に遅れて空燃比リーンを示す。触媒の上流の空燃比センサの出力信号が空燃比リーンを示してから(または、混合気を空燃比リーンに操作してから)下流の空燃比センサの出力信号が空燃比リーンを示すまでの間、過剰な酸素が触媒に吸着するためである。ここで、触媒の下流の空燃比センサはO2センサである。
【0033】
触媒の上流の空燃比センサの出力信号が空燃比リーンを示してから、下流の空燃比センサの出力信号が空燃比リーンを示すまでの間に経過した時間をTLとおき、このTLの間に供給した燃料の総重量をGF、リーン時の空燃比と理論空燃比との差分をΔA/FLとおくと、TLの間に触媒中で過剰となった酸素量は、
(α・ΔA/FL・GF)
となる。
【0034】
上式は、TLの時点で触媒が吸蔵している酸素の量を表している。供給した燃料の総重量GFはやはり、ECU0において演算することができる。即ち、一回の燃料噴射機会における燃料噴射量は、空燃比を理論空燃比よりもリーンな(14.6よりも大きい)所定値とするために必要な量であり、その噴射量に単位時間当たりの膨張行程回数を乗じれば単位時間当たりの燃料供給量となる。そして、単位時間当たりの燃料供給量に経過時間TLを乗じれば、供給した燃料の総重量GFとなる。要するに、触媒の下流の空燃比センサの出力信号が空燃比リーンを示した時点での経過時間TLに基づいて、触媒の最大酸素吸蔵能力を算出することが可能である。
【0035】
厳密には、T
Lの期間において、運転者のアクセル操作等に起因して単位時間当たりの燃料供給量(または、一回の燃料噴射量)は増減し得る。故に、T
Lの期間中の供給燃料の総重量G
Fは、単位時間当たりの供給量g
F(t)をT
Lの範囲で時間積分して求めることが好ましい。ΔA/F
L(t)を理論空燃比とA/Fセンサを介して計測した実測空燃比との差分とすれば、触媒の最大酸素吸蔵能力を、T
Lの期間の時間積分として求めることができる。即ち、
α∫{ΔA/F
L(t)・g
F(t)}dt
図2に示しているように、アクティブ制御では、触媒の下流の空燃比センサの出力信号が所定のリッチ判定値に到達した、即ち出力がリーンからリッチへと切り替わったタイミングで、制御目標空燃比をリーン側の所定空燃比に設定し、触媒の上流の空燃比センサの出力信号が当該制御目標に対応した値をとるように燃料噴射量を補正する。これにより、触媒に流入するガスの空燃比を強制的にリーン化する。そして、触媒の上流の空燃比センサの出力信号が前記制御目標に対応した値に到達してから、下流の空燃比センサの出力信号がリーン判定値に到達するまでの間の経過時間T
L、即ち出力が再度リーンへと切り替わるまでの経過時間T
Lを計測する。
【0036】
並びに、触媒の下流の空燃比センサの出力がリッチからリーンへと切り替わったタイミングで、制御目標空燃比をリッチ側の所定空燃比に設定し、触媒の上流の空燃比センサの出力信号が当該制御目標に対応した値をとるように燃料噴射量を補正する。これにより、触媒に流入するガスの空燃比を強制的にリッチ化する。そして、触媒の上流の空燃比センサの出力信号が前記制御目標に対応した値に到達してから、下流の空燃比センサの出力信号が所定のリッチ判定値に到達するまでの間の経過時間TR、即ち出力が再度リッチへと切り替わるまでの経過時間TRを計測する。
【0037】
ECU0は、酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵していた触媒がその酸素の全てを放出するのに要した時間TR、及び、酸素を吸蔵していない触媒が酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵するのに要した時間TLをそれぞれ一回以上計測し、計測したTR、TLを基に最大酸素吸蔵能力(α・ΔA/FR・GF)、(α・ΔA/FL・GF)を算出して、それらの平均値を求める。
【0038】
なお、アクティブ制御を開始後、下流の空燃比センサの出力信号が初めてリーンからリッチへ、またはリッチからリーンへと切り替わるまでの時間帯T0では、最大酸素吸蔵能力の算出は行わない。アクティブ制御の開始以前に発生した排気ガスの一部も触媒に到達するので、触媒の酸素吸蔵能力を正確に計測できないからである。
【0039】
触媒が劣化したか否かの判断は、当該触媒の最大酸素吸蔵能力(の複数回の推算値の平均)を閾値と比較することにより行う。即ち、最大酸素吸蔵能力が閾値未満であれば、当該触媒は既に劣化しており十分な性能を発揮できないものと診断される。触媒が劣化しているとの判断を下したECU0は、触媒の異常の旨を示す情報(ダイアグノーシスコード)をメモリに記憶保持するとともに、触媒の異常の旨を運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様で出力して報知する。例えば、コックピット内のエンジンチェックランプを点灯させたり、ディスプレイに表示させたり、警告音を発したりして、触媒の点検及び交換を促す。
【0040】
ここで、フロー図を
図3に示すように、内燃機関1の動作状態が所定の状態である場合にのみ、上述したような触媒劣化診断制御の実行を許可するようにしている。即ち、内燃機関1の動作状態が所定の状態以外である場合には触媒劣化診断制御の実行を許可しないようにしている(ステップS1)。所定の状態とは、吸入空気量が所定以上かつ内燃機関
1の運転(ファイアリング)を所定時間以上継続可能な状態である。より具体的には、例えば、車両の発進を行う場合、加速が要求されている場合、暖房装置の運転が要求されている場合、デフロスタの運転が要求されている場合、または冷房装置の運転が要求されている場合である。発進及び加速の際には要求負荷が高く、また、暖房装置、デフロスタ及び冷房装置を運転する場合には車輪を駆動する以外にそれらの装置を運転するための電力を必要とし、内燃機関
1の運転(ファイアリング)が所定時間以上継続することが見込まれるからである。その上で、例えば、現在の内燃機関
1の冷却水温が所定以上に高く、現在のアクセル開度、気筒に充填される吸気量、エンジン回転数、空燃比フィードバック制御による補正係数FAF、及び触媒の温度がそれぞれ所定範囲内にある、等といった触媒劣化診断制御を実行するための他の諸条件がおしなべて成立している(ステップS2)場合に触媒劣化診断制御を実行する(ステップS3)ようにしている。現在の触媒の温度は、これを検出する温度センサを設置しているならば直接に計測できるが、さもなくば直近に内燃機関
1を始動してからの吸気量の累積値、燃料噴射量の累積値、現在の内燃機関
1の冷却水温等を基に推定する。
【0041】
触媒劣化診断制御は、一トリップ(イグニッションスイッチがONに操作されて内燃機関を始動してから、イグニッションスイッチがOFFに操作されて内燃機関を停止するまでの期間)毎に少なくとも一回実施することが好ましい。
【0042】
即ち、触媒劣化診断制御の実行条件が満たされている条件下で、
図2に示すように、内燃機関
1の動作状態が所定の状態となると、空燃比のアクティブ制御が開始され、所定の時間帯T
0の間は最大酸素吸蔵能力の算出を行わず、その後、酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵していた触媒がその酸素の全てを放出するのに要した時間T
R、及び、酸素を吸蔵していない触媒が酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵するのに要した時間T
Lの計測を行う。ここで、
図2における動作状態「X」は内燃機関の動作状態が所定の状態でないことを示しており、「Y」は内燃機関の動作状態が所定の状態であることを示している。
【0043】
以上に述べたように、本実施形態によれば、ハイブリッド車両において、内燃機関1の運転を所定時間以上継続可能と見込まれない状態では触媒劣化診断制御の実行を許可しないようにしているので、触媒劣化診断制御の実行中に内燃機関1の運転(ファイアリング)が停止し、内燃機関1の運転を再開する際に触媒劣化診断制御を再度実行することによって、最大酸素吸蔵能力の算出を伴わないアクティブ制御が行われ、また、アクティブ制御が行われる期間が長くなることにより燃費や排気ガスの悪化を招くという不具合の発生を防止ないし抑制することができる。
【0044】
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限らない。
【0045】
例えば、触媒劣化診断制御の許可を行う条件は、内燃機関の運転(ファイアリング)が触媒劣化診断制御の実行途中での中断が発生しない程度に十分長い期間継続することが見込まれる状態であれば、上述した実施形態で示したもの以外に任意に設定してもよい。
【0046】
また、シリーズ方式のハイブリッド車両以外のハイブリッド車両の制御に本発明を適用してもよい。
【0047】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変更してよい。
【符号の説明】
【0048】
0…制御装置
1…内燃機関
14…排気通路
141…触媒(三元触媒)
4…走行用電動機(走行用モータジェネレータ)