(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】粉体分離方法及び、粉体分離装置
(51)【国際特許分類】
C25C 7/06 20060101AFI20250519BHJP
C25C 7/00 20060101ALI20250519BHJP
【FI】
C25C7/06 302
C25C7/00 302Z
(21)【出願番号】P 2021141250
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2024-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松山 遼
(72)【発明者】
【氏名】秋元 文二
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155697(JP,A)
【文献】特開2012-171839(JP,A)
【文献】登録実用新案第3157399(JP,U)
【文献】特開平11-071694(JP,A)
【文献】特開2004-195276(JP,A)
【文献】特開2012-251221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0254228(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩浴を用いた電気分解で発生する塩素含有ガスから、該塩素含有ガス中の、溶融塩浴に由来する無機塩を含む粉体を分離する方法であって、
前記塩素含有ガスをフィルタに通し、該塩素含有ガス中の前記粉体を前記フィルタに捕集する捕集工程と、
前記フィルタに捕集された前記粉体を該フィルタから脱離させる脱離工程と、
配管内に露点温度が-5℃以下の輸送気体を供給し、前記フィルタから脱離した前記粉体を前記配管内にて前記輸送気体により輸送する輸送工程と
を含み、
前記輸送工程で、前記配管に設けられた気体供給口から前記輸送気体を供給し、
前記気体供給口が、前記粉体の輸送方向に沿って複数個設けられている
、粉体分離方法。
【請求項2】
前記輸送工程で、前記気体供給口から前記輸送気体を、前記配管の横断面の中心に向かう方向に対し、前記粉体の輸送方向に斜め内向きに供給する、請求項1に記載の粉体分離方法。
【請求項3】
溶融塩浴を用いた電気分解で発生する塩素含有ガスから、該塩素含有ガス中の、溶融塩浴に由来する無機塩を含む粉体を分離する方法であって、
前記塩素含有ガスをフィルタに通し、該塩素含有ガス中の前記粉体を前記フィルタに捕集する捕集工程と、
前記フィルタに捕集された前記粉体を該フィルタから脱離させる脱離工程と、
配管内に露点温度が-5℃以下の輸送気体を供給し、前記フィルタから脱離した前記粉体を前記配管内にて前記輸送気体により輸送する輸送工程と
を含み、
前記輸送工程で、前記配管に設けられた気体供給口から前記輸送気体を供給し、
前記輸送工程で、前記気体供給口から前記輸送気体を、前記配管の横断面の中心に向かう方向に対し、前記粉体の輸送方向に斜め内向きに供給する
、粉体分離方法。
【請求項4】
前記脱離工程と前記輸送工程との間に、前記フィルタから脱離した前記粉体を貯蔵する貯蔵工程をさらに含む、請求項1
~3のいずれか一項に記載の粉体分離方法。
【請求項5】
前記フィルタから前記配管までの通路の途中に、閉じたときに塩素含有ガスの通過を制限する一個以上の開閉弁が設けられており、
前記捕集工程で前記開閉弁を閉じ、前記脱離工程で前記開閉弁を開く、請求項1
~4のいずれか一項に記載の粉体分離方法。
【請求項6】
塩化マグネシウムの電気分解で発生する塩素含有ガスから、前記無機塩として塩化マグネシウムを含む粉体を分離する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の粉体分離方法。
【請求項7】
溶融塩浴を用いた電気分解で発生する塩素含有ガスから、該塩素含有ガス中の、溶融塩浴に由来する無機塩を含む粉体を分離する装置であって、
前記塩素含有ガスを通して該塩素含有ガス中の前記粉体を捕集するフィルタを有する捕集容器と、
前記フィルタに捕集された前記粉体を前記フィルタから脱離させる脱離器具と、
前記捕集容器に連結され、前記フィルタから脱離した前記粉体が送られるとともに、露点温度が-5℃以下の輸送気体が供給されて前記粉体を輸送する配管と
を備え、
前記配管が、該配管内への前記輸送気体の供給に用いられる気体供給口を有し、
前記気体供給口が、前記粉体の輸送方向に沿って複数個設けられてなる
、粉体分離装置。
【請求項8】
前記気体供給口が、前記輸送気体を、前記配管の横断面の中心に向かう方向に対し、前記粉体の輸送方向に斜め内向きに供給するように設けられてなる、請求項7に記載の粉体分離装置。
【請求項9】
溶融塩浴を用いた電気分解で発生する塩素含有ガスから、該塩素含有ガス中の、溶融塩浴に由来する無機塩を含む粉体を分離する装置であって、
前記塩素含有ガスを通して該塩素含有ガス中の前記粉体を捕集するフィルタを有する捕集容器と、
前記フィルタに捕集された前記粉体を前記フィルタから脱離させる脱離器具と、
前記捕集容器に連結され、前記フィルタから脱離した前記粉体が送られるとともに、露点温度が-5℃以下の輸送気体が供給されて前記粉体を輸送する配管と
を備え、
前記配管が、該配管内への前記輸送気体の供給に用いられる気体供給口を有し、
前記気体供給口が、前記輸送気体を、前記配管の横断面の中心に向かう方向に対し、前記粉体の輸送方向に斜め内向きに供給するように設けられてなる
、粉体分離装置。
【請求項10】
前記捕集容器から前記配管までの通路の途中に、閉じたときに塩素含有ガスの通過を制限する一個以上の開閉弁を有する、請求項
7~9のいずれか一項に記載の粉体分離装置。
【請求項11】
前記捕集容器と前記配管との間に、前記フィルタから脱離した前記粉体を貯蔵する貯蔵容器を備える、請求項
7~10のいずれか一項に記載の粉体分離装置。
【請求項12】
前記捕集容器と前記貯蔵容器との間の通路及び、前記貯蔵容器と前記配管との間の通路のそれぞれに、閉じたときに塩素含有ガスの通過を制限する開閉弁を有する、請求項
11に記載の粉体分離装置。
【請求項13】
塩化マグネシウムの電気分解で発生する塩素含有ガスから、前記無機塩として塩化マグネシウムを含む粉体を分離することに用いられる、請求項
7~12のいずれか一項に記載の粉体分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩浴を用いた電気分解で発生する塩素含有ガスから、該塩素含有ガス中の、溶融塩浴に由来する無機塩を含む粉体を分離する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロール法による金属チタンの製造に際し、副次的に生成される塩化マグネシウムは、溶融塩浴を用いて電気分解により金属マグネシウムと塩素とに分解されることがある。この場合、金属マグネシウム及び塩素はそれぞれ、四塩化チタンの還元及びチタン鉱石の塩化に用いることができる。
【0003】
この種の電気分解で発生する塩素含有ガスには、溶融塩浴の成分に由来する塩化マグネシウム等の塩化物その他の無機塩が、たとえば蒸発して混入し、その後に冷却されること等により粉体となって含まれる。塩素含有ガス中の塩素を上述した用途等に使用するには、塩素含有ガスから粉体を分離させることが必要になる。
【0004】
特許文献1には、「このような金属Mgの電解製造では、電解室21内の溶融浴塩10の浴面から塩素ガスが放出されると同時に、塩化物の飛沫が上方へ飛散する。この飛沫は、塩素ガスと共に吸引配管31に吸い込まれ、塩化物の粉体になって配管内に堆積する。」と記載されている(段落0007、
図4参照)。この特許文献1では、「双極電極を使用する高効率な電解操業の場合にも、吸引配管内への塩化物の堆積を効果的に抑制できるMg電解製造方法及び装置を提供すること」を目的とし、「MgCl
2を含有する溶融浴塩を用いて電解法により金属Mgを製造するMg電解製造方法において、前記電解に伴って発生する塩素ガス主体の副生ガスを系外へ排出して回収する際に、前記副生ガスをその排出経路の入口部分で強制的に冷却することを特徴とするMg電解製造方法」及び、「MgCl
2を含有する溶融浴塩を用いて電解法により金属Mgを製造する電解槽と、電解槽で発生する塩素ガス主体の副生ガスを槽外へ吸引排出する排気系と、排気系の入口部分にあって副生ガスを強制的に冷却するガス冷却器とを具備することを特徴とするMg電解製造装置」が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、「前記溶融塩電解槽1で生成した塩素ガスは、塩素ガス吸引ノズル21経由で電解槽1から吸い出され、塩素ガス配管2を経由してバグフィルター3に導かれる。溶融塩電解槽1内で生成した塩素ガスは、電解浴11から湧き上がってくるものであるから、前記電解浴11の蒸気も前記塩素ガスと随伴して塩素ガス配管内に輸送される。」との記載及び、「前記塩素ガスに随伴された電解浴蒸気は、塩素ガス配管2内を通過する間に冷却されて凝縮固化して微粉を形成する。前記微粉は塩素ガスと共にバグフィルター3に導くことにより、前記微粉を効果的に捕捉除去することができる。」との記載がある(段落0027、0028、
図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-226684号公報
【文献】特開2009-155697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の塩素含有ガス中の粉体をフィルタに捕集する場合、フィルタから粉体を脱離させ、フィルタへの塩素含有ガスの通流を遮断した状態で、上記の粉体を手作業により除去することが考えられる。
【0008】
一方、溶融塩浴を用いた電気分解は比較的長期間にわたって行われ得るので、手作業では定期的に粉体を除去することを要し、作業量が増大する。また、塩素含有ガスの通流を遮断しても、フィルタの周囲には塩素含有ガス中の有害な塩素が残存する場合があり、人手による粉体の除去の場合、その塩素の処理も必要になる。
【0009】
特許文献1及び2のいずれにおいても、フィルタに捕集された後の粉体を如何にして除去するかについては何ら検討されていない。
【0010】
この発明の目的は、人手による作業量を低減し、塩素含有ガスからの粉体の分離を容易に行うことができる粉体分離方法及び、粉体分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、塩素含有ガスからフィルタに捕集した粉体を人手によらず輸送するには、配管内にて液体又は気体の流れを用いることが有効であると考えた。ここで、粉体を水等の液体で輸送すると、粉体に溶融塩浴に由来する無機塩が含まれることに起因して、当該無機塩が液体を吸収して粉体を泥状化させ、配管内を閉塞させることがある。また、粉体とともに微量ながら輸送される塩素が水等の液体と接触して塩酸が生じ、配管が腐食することも懸念される。他方、気体をそのまま輸送に用いると、当該気体中の水分で粉体が泥状化し、この場合も配管の閉塞のおそれがあることが解かった。これに対し、発明者は、溶融塩浴に由来する無機塩を含む粉体の輸送には、乾燥した気体を輸送気体として用いることが有効であるとの知見を得た。
【0012】
この発明の粉体分離方法は、溶融塩浴を用いた電気分解で発生する塩素含有ガスから、該塩素含有ガス中の、溶融塩浴に由来する無機塩を含む粉体を分離する方法であって、前記塩素含有ガスをフィルタに通し、該塩素含有ガス中の前記粉体を前記フィルタに捕集する捕集工程と、前記フィルタに捕集された前記粉体を該フィルタから脱離させる脱離工程と、配管内に露点温度が-5℃以下の輸送気体を供給し、前記フィルタから脱離した前記粉体を前記配管内にて前記輸送気体により輸送する輸送工程とを含むものである。
【0013】
前記脱離工程と前記輸送工程との間には、前記フィルタから脱離した前記粉体を貯蔵する貯蔵工程をさらに含むことが好ましい。
【0014】
前記フィルタから前記配管までの通路の途中には、閉じたときに塩素含有ガスの通過を制限する一個以上の開閉弁が設けられており、前記捕集工程で前記開閉弁を閉じ、前記脱離工程で前記開閉弁を開くことが好ましい。
【0015】
前記輸送工程では、前記配管に設けられた気体供給口から前記輸送気体を供給することが好ましい。
【0016】
この場合、前記気体供給口は、前記粉体の輸送方向に沿って複数個設けられていることが好ましい。
【0017】
またこの場合、前記輸送工程では、前記気体供給口から前記輸送気体を、前記配管の横断面の中心に向かう方向に対し、前記粉体の輸送方向に斜め内向きに供給することが好ましい。
【0018】
この発明の粉体分離方法は、塩化マグネシウムの電気分解で発生する塩素含有ガスから、前記無機塩として塩化マグネシウムを含む粉体を分離することが好ましい。
【0019】
この発明の粉体分離装置は、溶融塩浴を用いた電気分解で発生する塩素含有ガスから、該塩素含有ガス中の、溶融塩浴に由来する無機塩を含む粉体を分離する装置であって、前記塩素含有ガスを通して該塩素含有ガス中の前記粉体を捕集するフィルタを有する捕集容器と、前記フィルタに捕集された前記粉体を前記フィルタから脱離させる脱離器具と、前記捕集容器に連結され、前記フィルタから脱離した前記粉体が送られるとともに、露点温度が-5℃以下の輸送気体が供給されて前記粉体を輸送する配管とを備えるものである。
【0020】
前記捕集容器から前記配管までの通路の途中には、閉じたときに塩素含有ガスの通過を制限する一個以上の開閉弁を有することが好ましい。
【0021】
この発明の粉体分離装置は、前記捕集容器と前記配管との間に、前記フィルタから脱離した前記粉体を貯蔵する貯蔵容器を備えることがある。
【0022】
この場合、前記捕集容器と前記貯蔵容器との間の通路及び、前記貯蔵容器と前記配管との間の通路のそれぞれに、閉じたときに塩素含有ガスの通過を制限する開閉弁を有することが好ましい。
【0023】
前記配管は、該配管内への前記輸送気体の供給に用いられる気体供給口を有することが好ましい。
【0024】
この場合、前記気体供給口が、前記粉体の輸送方向に沿って複数個設けられていることが好ましい。
【0025】
またこの場合、前記気体供給口は、前記輸送気体を、前記配管の横断面の中心に向かう方向に対し、前記粉体の輸送方向に斜め内向きに供給するように設けられていることが好ましい。
【0026】
この発明の粉体分離装置は、塩化マグネシウムの電気分解で発生する塩素含有ガスから、前記無機塩として塩化マグネシウムを含む粉体を分離することに用いられるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
この発明の粉体分離方法、粉体分離装置によれば、人手による作業量を低減し、塩素含有ガスからの粉体の分離を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】この発明の一の実施形態の粉体分離方法を実施することができる粉体分離装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1の粉体分離装置を含み、溶融塩電解槽から発生した塩素含有ガスを処理する設備の一例を模式的に示す配管系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の粉体分離方法は、たとえば
図1に示すような粉体分離装置1を用いることにより実施することができる。この粉体分離装置1は、
図2に示すように、溶融塩浴を用いた電気分解を行う溶融塩電解槽21から塩素含有ガスGcが送り込まれ、溶融塩電解槽21と電解槽連結管22で接続されている。なお
図1及び2は、装置ないし設備を模式的に示したものであり、各部分の寸法及び形状は図示のものに限らない。
【0030】
溶融塩電解槽21では、内部に無機塩を含む溶融塩を貯留させて溶融塩浴Bmを形成し、図示しない陽極及び陰極を含む電極に電圧を印加することで、溶融塩浴中の無機塩の電気分解が行われる。溶融塩浴Bmに含まれる無機塩としては、たとえば塩化物、典型的には塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)等が挙げられる。なお、溶融塩浴Bmには、支持塩としてさらに、フッ化マグネシウム(MgF2)やフッ化カルシウム(CaF2)等を含ませることもある。
【0031】
たとえば溶融塩電解槽21を用いて塩化マグネシウムの電気分解を行う場合、当該電気分解により、陰極で金属マグネシウム(Mg)が生成する他、陽極で塩素(Cl2)を含む塩素含有ガスGcが発生する。塩素含有ガスGcは、それに含まれる塩素をチタン鉱石の塩化等に使用するため、電解槽連結管22を通して粉体分離装置1に送られる。なお、電気分解で生成した金属マグネシウムは、たとえば四塩化チタンの還元に用いられ得る。また、詳細な説明は省略するが、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム又は塩化亜鉛の電気分解でも、塩素を含む塩素含有ガスGcが発生し得る。塩素含有ガスGcの塩素濃度は、たとえば90vol%以上、典型的には95vol%以上、より典型的には98vol%以上である場合がある。但し、ここで挙げた電気分解に限らず、塩素が生じる電気分解であれば、この発明を適用することができる。
【0032】
塩素含有ガスGcが送り込まれる粉体分離装置1は、
図1に例示するように、塩素含有ガスGcを通すフィルタ2a(バグフィルタ等)を有する底付き筒状等の捕集容器2と、フィルタ2aに捕集された粉体をフィルタ2aから脱離させる脱離器具2bと、捕集容器2に連結され、フィルタ2aから脱離した粉体を輸送気体Gtで輸送する配管3とを備えるものである。この例の粉体分離装置1では、捕集容器2と配管3との間に、捕集容器2内のフィルタ2aから脱離した粉体を貯蔵する貯蔵容器4を設けているが、貯蔵容器4は省略してもよい。
【0033】
電解槽連結管22から送られた塩素含有ガスGcは、捕集容器2内に、たとえば側方側から流入し、捕集工程でフィルタ2aを通過することにより該フィルタ2aに粉体が捕集され、粉体が分離された浄化ガスGpとなる。図示の捕集容器2では、その上方側に、塩素用タンク31につながるタンク連結管32が接続されており(
図2参照)、浄化ガスGpはタンク連結管32を通って捕集容器2から流出する。浄化ガスGp中の塩素をチタン鉱石の塩化に使用する場合、捕集容器2をチタン鉱石の塩化炉に接続してもよい。なお、電解槽連結管22の途中にはバルブ22aが、またタンク連結管32の途中にはバルブ32aがそれぞれ設けられている。バルブ22a及びバルブ32aのうちの少なくとも一方が設けられていればよく、いずれかを省略することも可能である。また、図示は省略するが、塩素用タンク31側には、ガス吸引装置を設置することがある。
【0034】
捕集工程の間、塩素含有ガスGcが溶融塩電解槽21から粉体分離装置1に流れるように、電解槽連結管22のバルブ22a及びタンク連結管32のバルブ32aを開いておく。バルブ22a又はバルブ32aのいずれか一方だけを設けた場合は、その一方を開いておく。この一方で、捕集工程では、フィルタ2aから配管3までの通路の途中に設けた一個以上の開閉弁、より詳細には、この実施形態では捕集容器2と貯蔵容器4との間の通路5に設けた開閉弁5a及び、貯蔵容器4と配管3との間の通路6に設けた開閉弁6aの少なくとも一方、好ましくは両方については閉じておくことができる。配管3側への塩素含有ガスGcの流入を抑制するためである。開閉弁5a及び開閉弁6aのうちの少なくとも一方は、閉じたときに塩素含有ガスGc等の気体の通過を制限できるものとすることが好ましい。
【0035】
なお、上述したバルブ22a、バルブ32a及び後述するバルブ42a並びに開閉弁5a及び6aには、電磁弁、ボール弁又はゲート弁その他の種々の弁を用いることができ、その材質は、塩素に対する耐腐食性の観点からPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)又はセラミックスが好ましい。
【0036】
フィルタ2aは、塩素に対する耐腐食性や、比較的微細な粒子の捕集性、耐熱性に優れるものが好適であり、たとえばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のもの、セラミックス製のもの等が挙げられる。
【0037】
フィルタ2aに捕集された粉体は、脱離工程にて、脱離器具2bを用いてフィルタ2aから脱離させる。この実施形態では、脱離器具2bは、捕集容器2に外側から打撃を与えて、その衝撃でフィルタ2aから粉体を払い落とすハンマー等のものとしている。そのような脱離器具2bに加えて又は代えて、たとえば、図示は省略するが、フィルタ2aに圧縮気体を連続的もしくは間欠的に噴射してフィルタ2aに衝撃を与える脱離器具や、フィルタ2aを振動させ又はフィルタ2aに直接的に打撃を与える脱離器具等を設けることも可能である。
【0038】
脱離工程では、粉体を捕集容器2から貯蔵容器4へと落下させる等して送るため、捕集容器2と貯蔵容器4との間の通路5の途中に設けた開閉弁5aを開いておくが、このとき、電解槽連結管22の途中に設けたバルブ22aは閉じることが好ましい。これにより、バルブ22aで捕集容器2への塩素含有ガスGcの流れが遮断されるので、貯蔵容器4やその下流側の配管3側への塩素含有ガスGcの流入を抑制することができる。バルブ22a及びバルブ32aのうち、バルブ32aだけを設けた場合、そのバルブ32aを閉じることで先述のガス吸引装置による塩素含有ガスGcの吸引は遮断される。このとき、溶融塩電解槽21から、電解槽連結管22ではなく、溶融塩電解槽21とタンク連結管32とをつなぐ図示しない別のラインに、塩素含有ガスGcを流すことにより、捕集容器2側への塩素含有ガスGcの流れを抑制することができる。あるいは、上記の別のラインがない場合、溶融塩電解槽21での電気分解を停止すれば塩素含有ガスGcが発生しなくなり、既に発生している塩素含有ガスGcをガス吸引装置で吸引すると、捕集容器2側に塩素含有ガスGcが流れなくなる。但し、後述するように開閉弁6aを開いて貯蔵容器4から配管3に粉体を送る際に、開閉弁5aを閉じておけば、配管3への塩素含有ガスGcの流入及び、それによる配管3の腐食を抑制できるので、上述したようにバルブ22aやバルブ32aを閉じることは必ずしも必要ではない。
【0039】
貯蔵容器4では、フィルタ2aから脱離した粉体を貯蔵する貯蔵工程が行われる。捕集容器2と配管3との間に貯蔵容器4を設けることにより、配管3での粉体の輸送のタイミングを調整できる他、配管3への塩素含有ガスGcの流入をさらに抑制することができる。但し、貯蔵容器4を設けず、捕集容器と配管とを直接的に連結してもかまわない。この場合、捕集容器の下方側の部分に粉体を貯蔵させてもよい。
【0040】
貯蔵容器4は、粉体が配管3に送られやすくなるように、図示の実施形態のように、少なくとも配管3側である下流側の部分が下流側に向かうに従って狭まるテーパー状を有することが好適である。貯蔵容器4と配管3との間の通路6に設けた開閉弁6aを開くと、貯蔵容器4内に蓄積した粉体が配管3に送られる。
【0041】
フィルタ2aから脱離した粉体は、必要に応じて貯蔵容器4内で貯蔵された後、開閉弁6aの開放によって配管3に送られる。そして粉体は、輸送工程で配管3内を、輸送気体Gtの供給により輸送される。輸送気体Gtは、たとえばタンク状等の気体供給源41等から気体供給管42を通じて、配管3内に供給される(
図2参照)。輸送工程では開閉弁6aが閉じられ、輸送気体Gtは粉体の輸送方向(
図1では右方向)に沿って流れる。粉体は、その輸送気体Gtの流れに導かれて配管3内にて輸送される。
【0042】
ここでは、露点温度が-5℃以下である輸送気体Gtを用いることが肝要である。これにより、輸送気体Gt中の水分による粉体の泥状化が抑えられ、配管3の詰まりを抑制することができる。言い換えれば、輸送気体Gtの露点温度が-5℃を超える場合、輸送気体Gtが十分に乾燥していないことから、その水分で、吸湿性を有する無機塩が含まれる粉体が泥状化して堆積し、配管3に詰まりが生じる。また、露点温度が-5℃以下である輸送気体Gtを用いると、配管3内に微量ながら含まれることのある塩素と、輸送気体Gt中の水分との反応(Cl2+H2O→HClO+HCl)で生成され得る塩酸(HCl)による配管の腐食が抑制されるという利点もある。
【0043】
そのような観点から、輸送気体Gtの露点温度は低いほど望ましいが、典型的には-40℃~-5℃とすることがある。
【0044】
輸送気体Gtには、空気、窒素、アルゴン又はヘリウム等を用いることができる。輸送気体Gtの露点温度を低下させて調整するには、たとえば、冷却することや、エアドライヤー等で乾燥させること等が挙げられるが、そのような方法に限らない。
【0045】
配管3には、輸送気体Gtを配管3内に供給するための気体供給口3aを設けることができる。気体供給口3aは、図示の実施形態のように、粉体の輸送方向に沿って複数個設けることが、配管3内での粉体の円滑な輸送を実現できる点で好ましい。
【0046】
また、気体供給口3aは、輸送気体Gtが、配管3の横断面(粉体の輸送方向に直交する断面)の中心に向かう方向(
図1では上下方向)に対して、粉体の輸送方向に斜め内向きに供給されるように設けることが好適である。これにより、配管3内にて粉体を輸送方向により円滑に輸送することが可能になる。この例では、気体供給口3aに接続した気体供給管42を、その中心軸が配管の横断面の中心に向かう方向に対して、粉体の輸送方向に傾斜する向きで設けたことにより、輸送気体Gtが斜め内向きに供給される。気体供給口3aでの輸送気体Gtの供給方向と、配管の横断面の中心に向かう方向とがなす角度は、15°~75°とすることが好適である。
【0047】
なお、配管3に複数個の気体供給口3aを設ける場合、
図2に示すように、気体供給管42を途中で分岐させて複数個の気体供給口3aに接続し、一個の気体供給源41から複数個の気体供給口3aに輸送気体Gtを供給することができる。あるいは、複数個の気体供給源41を用いてもよい。気体供給管42の途中には、バルブ42aが設けられ得る。
【0048】
そしてまた、配管3が、鉛直方向に対して傾斜する方向又は、水平方向に延びる場合、気体供給口3aは、図示のように、配管3の鉛直方向の下方側に設けることが好ましい。この場合、粉体は自重によって配管内で下方側に蓄積するところ、その粉体を下方側の気体供給口3aからの輸送気体Gtの供給により浮遊させて容易に輸送することができる。
【0049】
輸送気体Gtは、気体供給口3aから連続的に供給してもよいが、間欠的に供給すると、輸送気体Gtの使用量を少なくすることができる。
【0050】
配管3は、たとえば
図2に示すように、粉体貯蔵タンク51等に接続することができる。配管3内で輸送気体Gtによって輸送される粉体は粉体貯蔵タンク51に到達し、そこに貯蔵される。なお、粉体貯蔵タンク51は、図示しない排気口を備えることがある。排気口を介して粉体貯蔵タンク51内から排気すると、配管3内で輸送気体Gtによって粉体をより効率的に輸送できる。
【0051】
このようにして、溶融塩浴Bmを用いた電気分解で発生した塩素含有ガスGcから粉体を分離させることができ、また粉体が分離された浄化ガスGpを回収することができる。上述した実施形態では、手作業によらず、配管3内にて輸送気体Gtで粉体を容易に輸送することができるので、粉体の除去に要する作業量を低減することができる。
【実施例】
【0052】
次に、この発明の粉体分離方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0053】
(実施例1)
図1及び2に示すような設備を用いて、溶融塩電解槽から発生した塩素含有ガスから粉体を分離させた。溶融塩電解槽では、溶融塩浴を用いた電気分解により、塩化マグネシウムから金属マグネシウム及び塩素を生成させた。塩素含有ガスの塩素濃度は99vol%程度であり、塩素含有ガス中の粉体の70質量%程度は塩化マグネシウムであった。
【0054】
粉体分離装置の配管は炭素鋼製とし、内径を250mm、長さを10mとした。輸送工程では、配管内に、露点温度が-5℃である輸送気体を間欠的に供給し、粉体を配管内にて輸送した。輸送気体の供給方向は、配管の横断面の中心に向かう方向(鉛直方向)に対して、粉体の輸送方向(水平方向)に向けて60°傾斜させた。
【0055】
その結果、実質的に人手を要せずに、1か月間にわたって粉体を塩素含有ガスから分離させることが可能であった。その間は、配管の詰まりが生じなかった。
【0056】
(実施例2)
輸送気体の供給方向を鉛直方向としたことを除いて、実施例1と同様にした。その結果、単位時間当たりの粉体の輸送量は、実施例1の場合よりも重量基準で50%低下したが、配管の詰まりが生じることなく1か月間にわたって粉体の分離が可能であった。
【0057】
(比較例1)
露点温度が0℃である輸送気体を用いたことを除いて、実施例1と同様にした。その結果、操業開始から1か月が経過する前に、配管内で粉体が泥状化して詰まりが生じた。その詰まりを解消するための作業が必要であった。なお、回転軸の外周面上に螺旋状のフライトを設けたスクリューを、配管内に挿入して回転駆動させたが、固化した粉体を十分に取り除くことができなかった。配管を取り外して水洗することにより、ようやく詰まりを解消することができた。
【0058】
【0059】
以上より、この発明によれば、塩素含有ガスからの粉体の分離が、比較的少ない作業量で容易になることが解かった。
【符号の説明】
【0060】
1 粉体分離装置
2 捕集容器
2a フィルタ
2b 脱離器具
3 配管
3a 気体供給口
4 貯蔵容器
5、6 通路
5a、6a 開閉弁
21 溶融塩電解槽
22 電解槽連結管
22a バルブ
31 塩素用タンク
32 タンク連結管
32a バルブ
41 気体供給源
42 気体供給管
42a バルブ
51 粉体貯蔵タンク
Gc 塩素含有ガス
Gp 浄化ガス
Gt 輸送気体
Bm 溶融塩浴