(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】プラズマ水処理装置、およびプラズマ水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/30 20230101AFI20250519BHJP
C02F 1/46 20230101ALI20250519BHJP
【FI】
C02F1/30
C02F1/46
(21)【出願番号】P 2021146717
(22)【出願日】2021-09-09
【審査請求日】2024-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 祐之
(72)【発明者】
【氏名】松田 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】村山 清一
(72)【発明者】
【氏名】森谷 可南子
(72)【発明者】
【氏名】牧瀬 竜太郎
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-155294(JP,A)
【文献】特開2018-149535(JP,A)
【文献】特開2012-228644(JP,A)
【文献】特開2009-183867(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063856(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/027542(WO,A1)
【文献】特開2012-176347(JP,A)
【文献】特開2019-188311(JP,A)
【文献】特開2015-085297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/20-1/48
B01J10/00-19/32
H05H1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧電極と、接地電極と、前記高電圧電極と前記接地電極との間に設けられる誘電体と、を有し、前記高電圧電極と前記接地電極との間に希ガスが存在する放電部と、
前記高電圧電極と前記接地電極間に交流電圧を印加して、前記高電圧電極と前記接地電極間の希ガス中でプラズマを点弧させ、当該プラズマを被処理水の液面に接触させて、前記被処理水中にOHラジカルを生成し、前記被処理水中に含まれる有害物質の処理を行うプラズマ生成用電源と、を備え、
前記プラズマ生成用電源は、前記高電圧電極と前記接地電極間に交流電圧を印加するON時間と、前記高電圧電極と前記接地電極間に交流電圧を印加しないOFF時間と、を繰り返すデューティー運転を実行する、プラズマ水処理装置。
【請求項2】
筒状の絶縁体であり、前記高電圧電極と前記接地電極間の希ガス中で点弧されるプラズマの作用によって、第1開口から内部の希ガス中でプラズマを点弧させ、当該プラズマを、前記第1開口とは反対側の第2開口から前記被処理水に対して放出するプラズマ進展部をさらに備える請求項1に記載のプラズマ水処理装置。
【請求項3】
前記OFF時間は、100μsec以上である、請求項1または2に記載のプラズマ水処理装置。
【請求項4】
前記ON時間は、前記プラズマ生成用電源により前記高電圧電極と前記接地電極間に印加する交流電圧の1周期分の時間である、請求項1から3のいずれか一に記載のプラズマ水処理装置。
【請求項5】
高電圧電極と、接地電極と、前記高電圧電極と前記接地電極との間に設けられる誘電体と、を有する放電部を備えるプラズマ水処理装置で実行されるプラズマ水処理方法であって、
プラズマ生成用電源によって前記高電圧電極と前記接地電極間に交流電圧を印加して、前記高電圧電極と前記接地電極間の希ガス中でプラズマを点弧させる工程と、
当該プラズマを被処理水の液面に接触させて、前記被処理水中にOHラジカルを生成し、前記被処理水中に含まれる有害物質の処理を行う工程と、
前記プラズマ生成用電源により前記高電圧電極と前記接地電極間に交流電圧を印加するON時間と、前記プラズマ生成用電源により前記高電圧電極と前記接地電極間に交流電圧を印加しないOFF時間と、を繰り返すデューティー運転を実行する工程と、
を含むプラズマ水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラズマ水処理装置、およびプラズマ水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水の処理においては、オゾン処理や塩素処理が一般的に知られている。しかし、産業用排水等の被処理水には、オゾン処理や塩素処理では分解できないダイオキシン類やジオキサン等の難分解性物質が含まれる場合がある。従来、オゾン、過酸化水素、紫外線等を併用した促進酸化処理法で、オゾン処理や塩素処理よりも反応性の高いヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を被処理水中で発生させ、OHラジカルによる難分解性物質の分解を行う方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5819031号公報
【文献】特開2019-155294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の促進酸化処理法では、装置コスト、および運転コストが非常に高くなるため、プラズマの作用で、直接、OHラジカルを生成し、高効率に被処理水中の難分解性物質を分解する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のプラズマ水処理装置は、放電部と、プラズマ生成用電源と、を有する。放電部は、高電圧電極と、接地電極と、高電圧電極と接地電極との間に設けられる誘電体と、を有し、高電圧電極と接地電極との間に希ガスが存在する。プラズマ生成用電源は、高電圧電極と接地電極間に交流電圧を印加して、高電圧電極と接地電極間の希ガス中でプラズマを点弧させ、当該プラズマを被処理水の液面に接触させて、被処理水中にOHラジカルを生成し、被処理水中に含まれる有害物質の処理を行う。また、プラズマ生成用電源は、高電圧電極と接地電極間に交流電圧を印加するON時間と、高電圧電極と接地電極間に交流電圧を印加しないOFF時間と、を繰り返すデューティー運転を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1実施形態にかかるプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、従来のプラズマ水処理装置における高電圧電極と接地電極間に対する交流電圧の印加処理の一例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態にかかるプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成用電源による交流電圧の出力処理の一例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、実施例1にかかるプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1にかかるプラズマ水処理装置におけるデューティー運転での酢酸分解の実験結果を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例2にかかるプラズマ水処理装置におけるデューティー運転の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付の図面を用いて、本実施形態にかかるプラズマ水処理装置、およびプラズマ水処理方法の一例について説明する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかるプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。本実施形態にかかるプラズマ水処理装置は、
図1に示すように、放電部1と、プラズマ進展部2と、プラズマ生成用電源3と、を有する。
【0009】
放電部1は、一対の高電圧電極1Aと、接地電極1Bと、誘電体1Cと、を有する。誘電体1Cは、高電圧電極1Aと接地電極1Bとの間に設けられる誘電体の一例である。本実施形態では、接地電極1Bと誘電体1Cは、同軸円筒構造を有している。また、高電圧電極1Aと接地電極1Bとの間には、希ガスが存在する。また、高電圧電極1Aおよび接地電極1Bは、プラズマ生成用電源3に接続されている。
【0010】
プラズマ生成用電源3は、高電圧電極1Aと接地電極1Bとの間に交流電圧を印加して、高電圧電極1Aと接地電極1Bとの間の希ガス中でプラズマ4を点弧させる。そして、プラズマ生成用電源3は、当該点弧したプラズマ4を被処理水10の液面に接触させて、被処理水10中にOHラジカルを生成し、被処理水10中に含まれる有害物質の処理を行うプラズマ生成用電源の一例である。例えば、プラズマ生成用電源3は、高電圧電極1Aと接地電極1Bとの間に、周波数が15kHzであり、高圧波高値が4kV程度の交流電圧を印加する。
【0011】
プラズマ進展部2は、筒状の絶縁体で構成され、放電部1に接続されるプラズマ進展部の一例である。具体的には、プラズマ進展部2は、高電圧電極1Aと接地電極1B間の希ガス中で点弧されるプラズマ4の作用によって、開口2Bから、当該プラズマ進展部2内部の希ガス中でプラズマ4を点弧させ、プラズマ4を開口2Bとは反対側の開口2Aから被処理水10に対して放出する。
【0012】
本実施形態にかかるプラズマ水処理装置では、放電部1およびプラズマ進展部2の内部は、希ガスを含むプラズマ生成ガスで満たされている。プラズマ生成ガスに含有される希ガスとしては、プラズマ発生のために投入するエネルギーを効率良くプラズマの生成に変換できる希ガスが好ましく、例えば、ArガスやHeガスである。
【0013】
図2は、従来のプラズマ水処理装置における高電圧電極と接地電極間に対する交流電圧の印加処理の一例を説明するための図である。
図2において、縦軸は、高電圧電極1Aと接地電極1B間に印加する交流電圧(印加電圧)を表し、横軸は、時間を表す。次に、
図2を用いて、従来のプラズマ水処理装置による被処理水10に対するプラズマの照射処理の一例について説明する。
【0014】
従来のプラズマ水処理装置では、
図2に示すように、プラズマ生成用電源3から、高電圧電極1Aと接地電極1Bとの間に連続的に交流電圧を印加している。そして、プラズマ水処理装置では、この交流電圧の印加により、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間において、誘電体1Cを介して交流電圧の周波数に対応した周期で放電を発生させ、放電部1内にプラズマ4を生成する。
【0015】
そして、プラズマ水処理装置では、プラズマ4自体で形成する空間電界が起点となって、放電部1に接続されたプラズマ進展部2内に、プラズマ4が、放電部1側から進展して形成される。次いで、プラズマ進展部2内で、プラズマ4自体で形成する空間電界が起点となって、プラズマ進展部2に設けられる開口2Aから被処理水10の液面に向かってプラズマ4が放出される。この放出されるプラズマ4が、被処理水10の液面に接触して、被処理水10に対して当該プラズマ4が照射される。
【0016】
このプラズマ4の照射によって被処理水10には、以下の説明する反応により化学的活性種である非常に反応性に富んだOHラジカルが生成される。プラズマの照射によるOHラジカルの生成機構は、以下の(1)~(3)の3つの反応が主である。
【0017】
(1)気相中のプラズマ4で生成されたOHラジカルが被処理水中へ溶け込む反応
この反応(気相反応)は、以下の式(1)に示すように、気相中で発生するプラズマ4中の電子衝突による水分子(H2O)の解離反応を経て、気相中でOHラジカルが生成され、被処理水10中にOHラジカルが溶け込む反応である。この気相反応は、被処理水10と気相の界面で蒸発する水分子が、OHラジカルの生成量を飛躍的に増加させる。そして、このOHラジカルが液相(被処理水10)へ溶け込む。
気相反応:H2O+e→OH+H+e・・・・・・・・・・・・・・・(1)
【0018】
(2)プラズマ4中のイオンが被処理水10中の水分子(H2O)と反応してOHラジカルが生成される反応
この反応(液相反応)は、下記の式(2),(3)に示すように、気相中のプラズマ4で生成される正イオンが被処理水10中に溶け込み、水分子(H2O)との電荷交換を通して、被処理水10中にOHラジカルが生成される反応である。
液相反応:正イオン(N2
+,O2
+,etc)+H2O→H2O+・・・(2)
H2O++H2O→H3O++OH・・・・・・・・・・・・(3)
【0019】
(3)プラズマ光が被処理水10中の水分子(H2O)に作用してOHラジカルが生成される反応
この反応(液相反応)は、下記の式(4)に示すように、気相中のプラズマ4によって発生するUV光やVUV光(真空紫外光)による被処理水10中の水分子(H2O)の光解離によりOHラジカルが生成される反応である。通常、発光による光の水中への平均自由工程は、数十μmである。
液相反応:プラズマ発光(hv)+H2O→OH+H・・・・・・・・(4)
【0020】
プラズマ水処理装置では、上記の(1)~(3)で示す反応により生成されるOHラジカルの作用により、被処理水10に含まれる難分解な有害物質の分解を行う。
【0021】
その一方で、OHラジカルの生成反応に対して、下記の式(5)に示すように、生成されたOHラジカルが消滅する反応が発生する。この反応は、生成されたOHラジカル同士の再結合反応により、安定なH2O2(過酸化水素)が生成される反応である。これにより、被処理水10中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率が低くなる。
気相・液相反応:OH+OH→H2O2・・・・・・・・・・・・・(5)
【0022】
ここで、従来のプラズマ水処理装置における水処理の具体例について説明する。例えば、ワイヤ状の高電圧電極と平板状の接地電極との間にパルス電圧を印加するパルス放電によってプラズマを形成すると共に、水平面に対して接地電極を傾斜させ、その上面に沿って被処理水を流すことで薄い液体相を形成し、パルス放電によるプラズマで発生したOHラジカルにより被処理水中の難分解性物質を処理する水処理装置が開発されている。さらに、高電圧電極と接地電極との間にパルス放電を形成しつつ、被処理水の少なくとも一部を水滴化することで、より高効率に被処理水を処理する水処理装置が開発されている。この水処理装置によれば、プラズマで発生された短寿命のOHラジカルを被処理水の難分解性物質に効率良く作用させ、難分解性物質を分解処理することができる。
【0023】
しかし、当該水処理装置においては、電極間(数ミリ~数十ミリの間隔)の放電部内に被処理水を導入するため、プラズマが被処理水の形状、導電率や誘電率といった電気的な性質の影響を直接受け、プラズマを形成する放電が不安定若しくは異常放電(スパーク放電)し易くなる。このため、高電圧電極と接地電極間に印加するパルス電圧(印加電圧)を放電開始電圧よりも十分に高い電圧(例えば、数十kV以上)に設定し、かつ非常に短いパルス幅(例えば、数百ナノ秒)のパルス電圧を印加することが必要不可欠であり、安価な汎用的な電源ではなく、特殊仕様のプラズマ生成用電源が必要になる。さらに、水処理装置の絶縁体策も必要となる。
【0024】
また、例えば、プラズマを点弧する一対の高電圧電極と、当該高電圧電極に対して誘電体を介して設けられる接地電極と、を有する放電部、高電圧電極と接地電極間に交流電圧を印加するプラズマ生成用電源、および放電部に接続されかつ少なくとも1つの開口部を有するプラズマ進展部を有するプラズマ水処理装置が開発されている。このプラズマ水処理装置では、放電部とプラズマ進展部内を、希ガスを含有するプラズマ生成ガスで満たし、放電部で生成されるプラズマによりプラズマ進展部にプラズマを生成する。さらに、プラズマ水処理装置では、プラズマ進展部で生成されるプラズマを当該プラズマ進展部の開口から放出し、被処理水の液面に接触させて、化学的活性に非常に富んだOHラジカルを被処理水中に生成し、被処理水中に含まれる難分解な有害物質を処理する。
【0025】
このプラズマ水処理装置では、放電部で生成されるプラズマがプラズマ進展部を介して被処理水へ照射されるため、放電部内に被処理水を導入しない構成となっている。したがって、このプラズマ水処理装置では、放電部内でのプラズマは、被処理水の形状、被処理水の導電率や誘電率等の電気的な性質の影響を受けることなく、放電の不安定性や異常放電が無くなり、安定したプラズマの生成が可能となる。その結果、プラズマ生成用電源にも、汎用的な交流電源を使用することができる。
【0026】
ところで、このプラズマ水処理装置における、高電圧電極と接地電極間に交流電圧を印加する運転方法は、交流電圧(例えば、周波数:15kHzかつ電圧:4kV程度)を高電圧電極と接地電極間に連続して印加する運転方法である。しかしながら、この運転方法では、プラズマの作用により生成されるOHラジカルが、下記の式(6)に示すように、OHラジカルの再結合反応により消滅してしまうため、被処理水中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率が低いものとなる。
OH+OH→H2O2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
【0027】
そこで、本実施形態にかかるプラズマ水処理装置では、プラズマ生成用電源3は、高電圧電極1Aと接地電極1B間に交流電圧を印加するON時間と、高電圧電極1Aと接地電極1B間に交流電圧を印加しないOFF時間と、を繰り返すデューティー運転を実行する。これにより、プラズマ反応により被処理水10中に生成されるOHラジカル同士の再結合反応が抑制され、生成したOHラジカルが被処理水10中の有害物質に効率良く作用させることが可能となる。その結果、被処理水10中の有害物質の分解を高効率に行うことができる。また、プラズマ生成用電源3からの交流電圧の出力にOFF時間を設けることで、プラズマ生成用電源3の消費電力を低減することができる。
【0028】
図3は、第1実施形態にかかるプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成用電源による交流電圧の出力処理の一例を説明するための図である。
図3において、縦軸は、プラズマ生成用電源3から印加する交流電圧(印加電圧)を表し、横軸は、時間を表す。次に、
図3を用いて、本実施形態にかかるプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成用電源3による交流電圧の出力処理の一例について説明する。
【0029】
本実施形態では、プラズマ生成用電源3は、
図3に示すように、高電圧電極1Aと接地電極1B間に対する交流電圧の出力(印加)に対して、OFF時間を設ける。すなわち、プラズマ生成用電源3は、高電圧電極1Aと接地電極1B間に対する交流電圧のON時間およびOFF時間を繰り返し設けるデューティー運転を実行する。
【0030】
このように、第1実施形態にかかるプラズマ水処理装置によれば、プラズマ反応により被処理水10中に生成されるOHラジカル同士の再結合反応が抑制され、生成したOHラジカルが被処理水10中の有害物質に効率良く作用させることが可能となる。その結果、被処理水10中の有害物質の分解を高効率に行うことができる。また、プラズマ生成用電源3からの交流電圧の出力にOFF時間を設けることで、プラズマ生成用電源3の消費電力を低減することができる。
【0031】
(実施例1)
本実施例では、ON時間とOFF時間とを繰り返すデューティー運転を行う際に、OFF時間を100μsec以上とする例である。以下の説明では、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0032】
図4は、実施例1にかかるプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。本実施例にかかるプラズマ水処理装置は、放電部1と、プラズマ進展部2と、プラズマ生成用電源3と、を有する。
【0033】
放電部1は、直径が2mmの高電圧電極1A、および接地電極1B、外径が6.15mmの石英ガラス管である誘電体1Cを有する。プラズマ進展部2は、絶縁体のシリコンチューブで構成される。
【0034】
プラズマ生成用電源3は、15kHzの電源であり、外部の制御装置等から入力されるON/OFF指令信号に従って、4kVの交流電圧を、高電圧電極1Aと接地電極1B間に印加して、高電圧電極1Aと接地電極1B間の希ガスの一例であるHe中でプラズマ4を点弧させる。本実施例では、プラズマ生成用ガス(希ガス)には、Heを用いて、流量計401を介して、放電部1の高電圧電極1Aと接地電極1B間に導入される。
【0035】
また、本実施例では、プラズマ生成用電源3は、10msec周期で、OFF時間を設けるデューティー運転を実施する。デューティー運転におけるデューティー比は、下記の式(7)により定義される。
デューティー比(%)=(ON時間/(ON時間+OFF時間))×100・・(7)
【0036】
放電部1で生成されるプラズマ4自体で形成する空間電界が起点となって、放電部1に接続されたプラズマ進展部2内に、プラズマ4が、放電部1側から進展して形成される。次いで、プラズマ進展部2内で、プラズマ4自体で形成する空間電界が起点となって、プラズマ進展部2に設けられる開口2Aから被処理水10の液面に向かってプラズマ4が放出される。本実施例では、被処理水10は、酢酸を含む被処理溶液404である。具体的には、被処理溶液404は、酢酸ナトリウムと純水とを混合した0.33ミリmоl/Lの酢酸ナトリウム溶液(40mL)である。被処理溶液404に含まれる酢酸の初期濃度は、19.7mg/Lである。本実施例では、プラズマ水処理装置は、デューティー運転によって酢酸の分解の実験を実施した例である。また、本実施例では、被処理溶液404は、ターンテーブル402上に設置されたガラス容器403(例えば、内径80mmのガラス容器)に入っている。また、本実施例では、ターンテーブル402は、80rpmで回転しているものとする。
【0037】
図5は、実施例1にかかるプラズマ水処理装置におけるデューティー運転での酢酸分解の実験結果を示す図である。次に、
図5を用いて、本実施例におけるプラズマ水処理装置におけるデューティー運転での酢酸分解の実験結果の一例について説明する。
【0038】
図5において、縦軸は、デューティー比:100%のデューティー運転時における酢酸の分解効率に対する各デューティー比のデューティー運転時における酢酸の分解効率を表す。また、
図5において、横軸は、デューティー比が異なるデューティー運転を表す。なお、酢酸の分解効率は、酢酸の低減量(g)を、投入プラズマ電力量(Wh)で除算した値である。
【0039】
図5において、デューティー運転(1)は、OFF時間を設けないデューティー比:100%のデューティー運転である。また、
図5において、デューティー運転(2)は、デューティー比:10%のデューティー運転であり、OFF時間:9msec、ON時間:1msecである。また、
図5において、デューティー運転(3)は、デューティー比:1%のデューティー運転であり、OFF時間:9.9msec、ON時間:0.1msecである。
【0040】
図5に示すように、デューティー運転(2),(3)に示すOFF時間を設けたデューティー運転は、OFF時間が無いデューティー運転(1)と比較して、酢酸の分解効率が向上する。これは、上述したように、OFF時間を設けることにより、高電圧電極1Aと接地電極1B間に交流電圧を印加するON時間において、プラズマ4の作用により生成されるOHラジカル同士の再結合反応が抑制された結果と考えられる。
【0041】
また、OHラジカル同士の再結合反応によりOHラジカルが消滅する時間(すなわち、OHラジカルの寿命)は、数100μsec程度と試算されている。そのため、本実施例では、プラズマ生成用電源3は、デューティー運転を行う際、OFF時間を100μsec以上とする。これにより、OHラジカルの再結合反応をより抑制することができるので、被処理水10の有害物質の分解効率を向上させることができる。
【0042】
(実施例2)
本実施例は、デューティー運転を行う際のON時間を、プラズマ生成用電源により高電圧電極と接地電極間に印加する交流電圧の1周期分の時間とする例である。以下の説明では、上述の実施形態および実施例と同様の構成については説明を省略する。
【0043】
図6は、実施例2にかかるプラズマ水処理装置におけるデューティー運転の一例を説明するための図である。
図6において、縦軸は、高電圧電極1Aと接地電極1B間に印加する交流電圧(印加電圧)を表し、横軸は、時間を表す。プラズマ水処理装置では、デューティー運転を行う際、ON時間において、プラズマ生成用電源3の交流電圧の周波数(電源周波数)に対応した周期でプラズマを生成する。その結果、プラズマ水処理装置では、OHラジカルを電源周波数に対応した周期で生成される。
【0044】
例えば、プラズマ生成用電源3の電源周波数が15kHzである場合、プラズマ水処理装置は、67μsec毎の周期でOHラジカルを生成する。したがって、電源周波数の1周期が、OHラジカルの寿命である100μsecより短い場合、先の1周期で生成されたOHラジカルと、次の1周期で生成されるOHラジカルと、の再結合反応が発生する。
【0045】
そこで、本実施例では、プラズマ生成用電源3の電源周波数の1周期が100μsecより短い場合、プラズマ生成用電源3は、
図6に示すように、デューティー運転を行う際のON時間を、当該プラズマ生成用電源3により高電圧電極1Aと接地電極1B間に印加する交流電圧の1周期の時間とする。さらに、プラズマ生成用電源3は、当該交流電圧の1周期毎に、OFF時間を設ける。
【0046】
これにより、プラズマ生成用電源3の電源周波数の1周期が100μsecより短い場合に、OHラジカル同士の再結合反応を抑制できるので、被処理水10の有害物質の分解効率を向上させることができる。また、プラズマ生成用電源3の電源周波数を高くすることで、当該プラズマ生成用電源3自体を小型化することができる。
【0047】
以上説明したとおり、第1実施形態および実施例1,2によれば、被処理水10中の有害物質の分解を高効率に行うことができる。
【0048】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 放電部
1A 高電圧電極
1B 接地電極
1C 誘電体
2 プラズマ進展部
2A,2B 開口
3 プラズマ生成用電源
4 プラズマ
10 被処理水
401 流量計
402 ターンテーブル
403 ガラス容器
404 被処理溶液