(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】タービン静翼
(51)【国際特許分類】
F01D 9/02 20060101AFI20250519BHJP
F02C 7/18 20060101ALI20250519BHJP
【FI】
F01D9/02 102
F02C7/18 E
(21)【出願番号】P 2022033399
(22)【出願日】2022-03-04
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 紀和
(72)【発明者】
【氏名】岩井 章吾
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 祥史
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】千葉 皓太
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-241839(JP,A)
【文献】国際公開第2019/035178(WO,A1)
【文献】特開2021-127764(JP,A)
【文献】特開2016-094916(JP,A)
【文献】特開2009-299192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 9/02
F02C 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンのケーシング内に配されるタービン静翼であって、
作動流体流路に配される翼有効部と、
前記翼有効部の径方向の外側端部と接続してエンドウォール上流側面、エンドウォール下流側面および周方向の両側のエンドウォール周方向側面の4つの側面を有するエンドウォールと、前記エンドウォールから径方向外側に延びて周方向に幅を有しその先端が前記ケーシングとそれぞれ係合する上流側フックおよび下流側フックと、を有する外輪と、
前記翼有効部の径方向の内側端部に接続された内側ウォール
と
を具備し、
前記エンドウォール、前記上流側フックおよび前記下流側フックに囲まれた空間は、前記ケーシング側から供給される冷却媒体の冷却媒体用空間を形成し、
前記エンドウォールには、前記翼有効部の翼有効部下流側縁と前記エンドウォールとの接続部の熱応力を緩和するための熱応力緩和部が形成され
、
前記熱応力緩和部は、前記エンドウォールの前記4つの側面の一つの側面と他の側面とを連通させるように前記エンドウォールの内部に形成され前記冷却媒体を通過させるための熱応力緩和冷却孔を有し、
前記熱応力緩和冷却孔は、前記冷却媒体用空間に連通する前記エンドウォール周方向側面に設けられた冷却孔入口と前記エンドウォール下流側面に設けられた冷却孔出口とを連通させ、前記エンドウォールにおいて前記翼有効部下流側縁の前記エンドウォールとの前記接続部の近傍を通過する少なくとも一つの第1冷却孔を有することを特徴とするタービン静翼。
【請求項2】
前記熱応力緩和部は、
前記エンドウォールにおいて、前記エンドウォール周方向側面または前記エンドウォール下流側面に形成された熱応力緩和溝を有し、
前記熱応力緩和溝は、前記翼有効部の前記エンドウォールとの前記接続部の近傍に形成されていることを特徴とする請求項1記載のタービン静翼。
【請求項3】
ガスタービンのケーシング内に配されるタービン静翼であって、
作動流体流路に配される翼有効部と、
前記翼有効部の径方向の外側端部と接続してエンドウォール上流側面、エンドウォール下流側面および周方向の両側のエンドウォール周方向側面の4つの側面を有するエンドウォールと、前記エンドウォールから径方向外側に延びて周方向に幅を有しその先端が前記ケーシングとそれぞれ係合する上流側フックおよび下流側フックと、を有する外輪と、
前記翼有効部の径方向の内側端部に接続された内側ウォールと、
を具備し、
前記エンドウォール、前記上流側フックおよび前記下流側フックに囲まれた空間は、前記ケーシング側から供給される冷却媒体の冷却媒体用空間を形成し、
前記エンドウォールには、前記翼有効部の翼有効部下流側縁と前記エンドウォールとの接続部の熱応力を緩和するための熱応力緩和部が形成され、
前記熱応力緩和部は、前記エンドウォールにおいて、前記エンドウォール周方向側面または前記エンドウォール下流側面に形成された熱応力緩和溝を有し、
前記熱応力緩和溝は、前記翼有効部の前記エンドウォールとの前記接続部の近傍に形成されていることを特徴とす
るタービン静翼。
【請求項4】
前記熱応力緩和部は、前記エンドウォールの前記4つの側面の一つの側面と他の側面とを連通させるように前記エンドウォールの内部に形成され前記冷却媒体を通過させるための熱応力緩和冷却孔を有することを特徴とする請求項3に記載のタービン静翼。
【請求項5】
前記熱応力緩和冷却孔は、前記冷却媒体用空間に連通する前記エンドウォール周方向側面に設けられた冷却孔入口と前記エンドウォール下流側面に設けられた冷却孔出口とを連通させ、前記エンドウォールにおいて前記翼有効部下流側縁の前記エンドウォールとの前記接続部の近傍を通過する少なくとも一つの第1冷却孔を有することを特徴とする
請求項4記載のタービン静翼。
【請求項6】
前記タービン静翼は下流側に隣接するタービン動翼とともにタービン段落を形成し、
前記熱応力緩和冷却孔は、上流側の前記タービン段落の前記冷却媒体を有する空間に面した前記エンドウォールのエンドウォール上流側面と前記エンドウォール周方向側面とを連通させる少なくとも一つの第2冷却孔をさらに有することを特徴とする
請求項1または5に記載のタービン静翼。
【請求項7】
前記外輪には、複数の前記翼有効部および前記内側ウォールが接続されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のタービン静翼。
【請求項8】
前記エンドウォールの前記作動流体流路に面する表面に設けられた遮熱コーティングを有することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のタービン静翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ガスタービンに用いるタービン静翼に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のガスタービンにおいては、精密鋳造によって製作された動翼や静翼に中空冷却構造が形成されている。これらの中空部に冷却媒体を供給することによって、高温、高圧の作動媒体からの入熱による動翼や静翼のメタル温度の上昇を防止する。
【0003】
ケーシングを安価な材質で構成する上で、ケーシングと嵌合する静翼の外輪の温度も下げる必要がある。このため、ケーシングと静翼の外輪で囲まれた空間に冷却媒体が供給される。
【0004】
さらに、静翼自体を冷却するために、上述のように静翼を中空構造とし、中空部から主流部へ貫通する冷却穴が放射状に設けられ、中空部および冷却穴を冷却媒体が通過することで静翼が冷却される。
【0005】
外輪には主流と冷却媒体の温度差により径方向に温度勾配が生じ、これに起因して外輪の熱変形が生じる。このとき、特に、翼有効部の外輪への付け根部において応力集中により大きな熱応力が生じる。
【0006】
超臨界CO2タービンの運転温度は、従来のガスタービンと同程度の高温であり、ガスタービンと同様の冷却構造が必要となる。一方で、超臨界CO2タービンの運転圧力は蒸気タービンと同程度の高圧であり、その圧力差は従来のガスタービンの10倍程度である。蒸気タービンでは厚肉構造で大きな圧力差に耐える構造となっており、超臨界CO2タービンも同様の強度を有する構造である必要がある。このように、超臨界CO2タービンの静翼は、ガスタービンよりも熱応力が大きく、強度上厳しい高温高圧条件で使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タービン静翼は、フックでケーシングに取り付けられる。超臨界CO2タービンの静翼は、高圧で使用されることから、十分な剛性を確保する必要がある。このため、従来のガスタービンに比べてエンドウォールおよびフックの肉厚が厚くなり、フックが径方向に長い構造となる。超臨界CO2タービンの運転中は、主流ガスに触れて高温となるエンドウォールの径方向内側部分と、冷却媒体に触れて低温となるエンドウォールの径方向外側部分であるフック先端のメタルとの温度差が大きくなる。このため、熱変形したときに、翼有効部のエンドウォールへの付け根部の熱応力が高くなり、早期に損傷に至るという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、熱変形および熱応力を低減するタービン静翼構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態に係るタービン静翼は、ガスタービンのケーシング内に配されるタービン静翼であって、作動流体流路に配される翼有効部と、前記翼有効部の径方向の外側端部と接続してエンドウォール上流側面、エンドウォール下流側面および周方向の両側のエンドウォール周方向側面の4つの側面を有するエンドウォールと、前記エンドウォールから径方向外側に延びて周方向に幅を有しその先端が前記ケーシングとそれぞれ係合する上流側フックおよび下流側フックと、を有する外輪と、前記翼有効部の径方向の内側端部に接続された内側ウォールとを具備し、前記エンドウォール、前記上流側フックおよび前記下流側フックに囲まれた空間は、前記ケーシング側から供給される冷却媒体の冷却媒体用空間を形成し、前記エンドウォールには、前記翼有効部の翼有効部下流側縁と前記エンドウォールとの接続部の熱応力を緩和するための熱応力緩和部が形成され、前記熱応力緩和部は、前記エンドウォールの前記4つの側面の一つの側面と他の側面とを連通させるように前記エンドウォールの内部に形成され前記冷却媒体を通過させるための熱応力緩和冷却孔を有し、前記熱応力緩和冷却孔は、前記冷却媒体用空間に連通する前記エンドウォール周方向側面に設けられた冷却孔入口と前記エンドウォール下流側面に設けられた冷却孔出口とを連通させ、前記エンドウォールにおいて前記翼有効部下流側縁の前記エンドウォールとの前記接続部の近傍を通過する少なくとも一つの第1冷却孔を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係るタービン静翼の取り付け状態を示すガスタービンのタービン軸に沿った部分断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係るタービン静翼を示す周方向から見た側面図である。
【
図3】第1の実施形態に係るタービン静翼を示す
図2のA-A矢視横断面図である。
【
図4】従来のタービン静翼における温度分布の例を模式的に示す概念図である。
【
図5】第1の実施形態に係るタービン静翼の効果を説明するための温度分布の例を模式的に示す概念図である。
【
図6】第2の実施形態に係るタービン静翼を示す横断面図である。
【
図7】第3の実施形態に係るタービン静翼を示す横断面図である。
【
図8】第4の実施形態に係るタービン静翼を示すタービン軸に沿った方向から見た正面図である。
【
図9】第4の実施形態に係るタービン静翼を示す
図8のC-C矢視横断面図である。
【
図10】第4の実施形態に係るタービン静翼を示す
図9のD-D矢視横断面図である。
【
図11】第4の実施形態に係るタービン静翼の効果を説明するための温度分布の例を模式的に示す概念図である。
【
図12】第5の実施形態に係るタービン静翼を示すタービン軸に沿った方向から見た正面図である。
【
図13】第5の実施形態に係るタービン静翼を示す
図12のE-E矢視横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るタービン静翼について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るタービン静翼の取り付け状態を示すガスタービン10のタービン軸Cに沿った部分断面図である。以下、タービン軸Cに平行な方向をタービン軸方向というものとする。
【0014】
ガスタービン10は、ケーシング20、ケーシング20をタービン軸方向に貫通するロータシャフト11、およびタービン軸方向に配列され、作動流体流路16を形成する、すなわち作動流体の流路となる複数のタービン段落14を有する。
【0015】
複数のタービン段落14のそれぞれは、複数のタービン静翼100を有する静翼翼列101および作動流体流路16内の作動流体の流れ方向に静翼翼列101の直後に配され複数の動翼13を有する動翼翼列13aを有する。以下、ガスタービン10の各部材の方向については、それがガスタービン10に設置された状態においての方向を用いて表現することとする。具体的には、作動流体の流れ方向からみての表現として、上流側および下流側と呼ぶものとする。
【0016】
静翼翼列101を構成する複数のタービン静翼100は、周方向に互いに隣接して設けられている。それぞれのタービン静翼100は、作動流体流路16内に配される翼有効部110、翼有効部110の径方向外側端部に接続する外輪120、および、翼有効部110の径方向内側端部に接続する内側ウォール130を有する。
【0017】
外輪120は、環状板の部分形状を有するエンドウォール123、エンドウォール123から上流側の端部側から径方向外側に延びて周方向に幅を有する上流側フック121および下流側の端部側から径方向外側に延びて周方向に幅を有する下流側フック122を有する。一方、ケーシング20にも第1フック20fおよび第2フック20rが形成されている。
【0018】
上流側フック121は、径方向に延びる上流側フック壁部121aおよび上流側フック壁部121aの径方向の最外部に設けられ上流側に延びる上流側フック突部121bを有する。上流側フック突部121bがケーシング20の第1フック20fと係合する。また、下流側フック122は、径方向に延びる下流側フック壁部122aおよび下流側フック壁部122aの径方向の最外部に設けられ下流側に延びる下流側フック突部122bがケーシング20の第2フック20rと係合する。この結果、タービン静翼100は、ケーシング20により支持される。
【0019】
複数の外輪120のそれぞれには、エンドウォール123、上流側フック121および下流側フック122に囲まれた冷却媒体用空間126が形成され、静翼翼列101において周方向に互いに連通している。ケーシング20には、冷却媒体の図示しない供給源に連通する冷媒供給孔20aが形成されている。冷媒供給孔20aを介して、冷却媒体が冷却媒体用空間126に供給される。この結果、タービン静翼100が冷却される。
【0020】
ロータシャフト11には、タービン軸方向に互いに間隔をおいて複数のロータディスク12が形成されている。それぞれのロータディスク12は、ロータシャフト11から径方向に円環状に突出するように形成されている。動翼翼列13aを構成する複数の動翼13は、それぞれのロータディスク12に周方向に亘り互いに隣接するように植設されている。
【0021】
動翼翼列13aの径方向外側には、動翼翼列13aの先端部との間にギャップを介して、シュラウド15が設けられている。シュラウド15は、その上流側および下流側の外輪120に支持されている。
【0022】
図2は、第1の実施形態に係るタービン静翼を示す周方向から見た側面図である。また、
図3は、第1の実施形態に係るタービン静翼を示す
図2のA-A矢視横断面図である。なお、
図2は、
図3のB-B矢視側面図である。
【0023】
外輪120のエンドウォール123は、上流側フック121の付け根となる部分より上流側に突出する上流側突部124と、下流側フック122の付け根となる部分より下流側に突出する下流側突部125を有する。上流側突部124と上流側段落のタービン静翼100の下流側突部125は、前述のようにシュラウド15(
図1)を径方向内側から支持している。
【0024】
図2および
図3に示すように、エンドウォール123は、4つの側面を有し、これらに囲まれている。具体的には、エンドウォール123は、上流側のエンドウォール上流側面123a、周方向の側面であるエンドウォール周方向側面123b、123c、および下流側のエンドウォール下流側面123dを有する。エンドウォール上流側面123aは上流側突部124の上流側に向かう面である。また、エンドウォール下流側面123dは下流側突部125の下流側に向かう面である。エンドウォール周方向側面123bおよびエンドウォール周方向側面123cは、隣接するタービン静翼100のエンドウォール123のエンドウォール周方向側面123cおよびエンドウォール周方向側面123bとそれぞれ対向する。
【0025】
前述のように、静翼翼列101を構成する複数のタービン静翼100は、周方向に互いに隣接して設けられている。このため、それぞれのタービン静翼100の外輪120も、互いに隣接して配されている。エンドウォール周方向側面123bは、隣接するタービン静翼100のエンドウォール周方向側面123cと、また、エンドウォール周方向側面123cは、隣接するタービン静翼100のエンドウォール周方向側面123bと、それぞれ周方向に対向する。
【0026】
この際、冷却媒体用空間126に供給される冷却媒体を有する空間が、互いに隣接する外輪120同士の間隙を通じて、作動流体流路16と連通しないように、図示しないシール板が設けられている。また、シール板を取り付けるために、エンドウォール周方向側面123bおよびエンドウォール周方向側面123cには、
図2に示すように、シール用溝部127が形成されている。この結果、冷却媒体が存在する空間と、作動流体流路16側の空間が隔離されている。
【0027】
図2では、当該タービン段落14のタービン静翼100の冷却媒体用空間126に供給された冷却媒体が存在する空間と同じタービン段落14(
図1)の中間空間18(
図1)との間が隔離され、またこの冷却媒体が存在する空間と上流側のタービン段落14(
図1)側の中間空間18(
図1)との間が隔離されている場合を示している。
【0028】
外輪120のエンドウォール123には、熱応力緩和部150としての熱応力緩和冷却孔151が設けられている。後述するケースとの区別のために、本実施形態における熱応力緩和冷却孔151を、第1冷却孔152と呼ぶものとする。なお、以下、
図2および
図3に示すように第1冷却孔152が一つの場合を示すが、第1冷却孔152は、複数設けられてもよい。
【0029】
第1冷却孔152は、エンドウォール123を貫通している。第1冷却孔152の入口である冷却孔入口152aは、冷却媒体用空間126に連通する一方のエンドウォール周方向側面123bに形成されている。したがって、冷却孔入口152aは、シール用溝部127の径方向の外側に形成されている。
【0030】
また、第1冷却孔152の出口である冷却孔出口152bは、エンドウォール下流側面123dに形成されている。
【0031】
すなわち、熱応力緩和部150としての熱応力緩和冷却孔151は、エンドウォール123の4つの側面の一つの側面であるエンドウォール周方向側面123bと他の側面であるエンドウォール下流側面123dを連通させるようにエンドウォール123の内部に形成されている。
【0032】
第1冷却孔152は、エンドウォール123において翼有効部110の翼有効部下流側縁112との接続部である外側付け根部112a(
図2)の近傍を通過する。具体的には、
図3に示すように、径方向外側から透視した平面上において、第1冷却孔152が翼有効部下流側縁112の近傍を通過する。ここで、第1冷却孔152が翼有効部下流側縁112の近傍を通過する場合とは、外側付け根部112aを含めた領域の温度を低減可能な位置を言うものとする。具体的には、径方向から透視した平面上において、翼有効部下流側縁112から所定の距離d
0の範囲内にエンドウォール123内を通過する第1冷却孔152の孔の中心線CLの一部が存在する場合をいうものとする。ここで、所定の距離d
0は、外側付け根部112aを含めた領域の温度を低減する効果が期待できる範囲として、翼有効部110のタービン軸方向の長さLbの50%以下、好ましくは20%程度、さらに好ましくは10%程度である。
【0033】
図2では、冷却孔入口152aと冷却孔出口152bは、径方向位置が同じであり、第1冷却孔152は同じ径方向位置を維持するように形成されている例を示した。しかしながらこれに限定されず、冷却孔入口152aと冷却孔出口152bの径方向位置が異なる場合であってもよい。また、第1冷却孔152は、冷却孔入口152aと冷却孔出口152bを直線的に結ぶように形成されていなくともよい。たとえば、途中で方向を変えるように形成されていてもよい。
【0034】
径方向から透視した平面上における第1冷却孔152のエンドウォール123内を通過する方向については、エンドウォール123内の長さが長い方がエンドウォール123の冷却効果が向上する。したがって、このような観点から方向を決めてもよい。あるいは、たとえば、径方向から透視した平面上における翼有効部110のキャンバーラインに垂直な方向に設定してもよい。
【0035】
図2では、上述のように、冷却孔出口152bは、エンドウォール下流側面123dに形成されている場合を示しており、第1冷却孔152を通過した冷却媒体は、シュラウド15の径方向内側、すなわち作動流体流路16に排出される場合を示している。ただし、これには限定されず、第1冷却孔152を通過した冷却媒体が、シュラウド15の径方向外側、すなわち中間空間18に排出されるように、冷却孔出口152bの位置が設定されていてもよい。
【0036】
次に、本実施形態に係るタービン静翼100の効果を説明する。
【0037】
図4は、従来のタービン静翼における温度分布の例を模式的に示す概念図である。また、
図5は、第1の実施形態に係るタービン静翼100の効果を説明するための温度分布の例を模式的に示す概念図である。それぞれの破線は、等温線を示す。
【0038】
図4の従来の例に示すように、外輪120の径方向の内側面は、高温の作動流体が通過する作動流体流路16(
図1)に面しており、また、径方向外側は、冷却媒体用空間126(
図2)を通過する低温の冷却媒体により冷却されている。この結果、外輪120の径方向内側が高温であり、径方向外側に向かって温度が低下するような温度分布がついている。このため、外輪120の径方向内側の熱膨張量が径方向外側の熱膨張量より大きくなり、外輪120は、径方向内側に反り返る方向に変形しようとする。
【0039】
この結果、翼有効部110との接続部分においては、翼有効部上流側縁111および翼有効部下流側縁112の位置において、上述のように変形しようとする量が最も大きくなる。特に、翼有効部下流側縁112は、翼有効部110の幅(厚み)が小さいことから、外輪120が径方向に反り返る方向への変形による外側付け根部112aにおける熱応力が最も大きくなる。
【0040】
一方、本実施形態においては、
図5に示すように、熱応力緩和部150としての熱応力緩和冷却孔151により、外輪120の径方向内側部分が冷却されることにより径方向内側部分の熱膨張量が低減する。このため、外輪120が径方向に反り返る方向への変形量が低減し、外側付け根部112aにおける熱応力が低減する。
【0041】
さらに、翼有効部下流側縁112近傍の領域の温度が低減することにより、翼有効部下流側縁112近傍の領域の金属材料の許容応力の低下が抑制され、構造健全性上の尤度を確保できる。
【0042】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態に係るタービン静翼を示す横断面図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本実施形態では、熱応力緩和部150である熱応力緩和冷却孔151として、第1の実施形態で説明した第1冷却孔152が2つ設けられているのに加えて、第2冷却孔153がさらに設けられている。この点以外は、第1の実施形態と同様である。
【0043】
第2冷却孔153は、エンドウォール123に形成されている。なお、
図6では、第2冷却孔153が1つ設けられている場合を示しているが、複数設けられていてもよい。
【0044】
第2冷却孔153の出口である冷却孔出口153bは、第1冷却孔152の冷却孔入口152aが形成されている方のエンドウォール周方向側面123bとは反対側のエンドウォール周方向側面123cに形成されている。
【0045】
第2冷却孔153の冷却孔出口153bの反対側には、上流側突部124(
図2)において冷却孔方向転換部153aが形成されている。第2冷却孔153は、冷却孔方向転換部153aにおいて径方向外側に向かって、上流側突部124の径方向外表面に形成された冷却孔入口(図示せず)に連通している。この冷却孔入口は、上流側突部124の径方向外側に設けられたシュラウド15(
図1)を径方向に貫通する冷却媒体の流路に連通している。
【0046】
なお、冷却孔入口が、当該タービン段落14の上流の段落の中間空間18に面する上流側フック121(
図1)の上流側表面に形成されていてもよい。
【0047】
以上のような構成により、冷却孔入口には、当該タービン段落14の上流の段落の中間空間18内の冷却媒体が、シュラウド15に形成された流路を通じて、あるいは直接に冷却孔入口に供給される。冷却孔入口に流入した冷却媒体は、エンドウォール123に形成された第2冷却孔153を通過して、冷却孔出口153bから当該段落の冷却媒体用空間126に連通する空間に流出する。
【0048】
以上のように、本実施形態においては、エンドウォール123をさらに冷却することにより、外輪120の径方向内側の熱膨張量がさらに低減される。この結果、外輪120が周方向に反り返る方向への変形量が低減し、外側付け根部112aにおける熱応力がさらに低減する。
【0049】
[第3の実施形態]
図7は、第3の実施形態に係るタービン静翼を示す横断面図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。
【0050】
本実施形態は、1つの外輪120に複数の翼有効部110が接続されている場合に、適用したものである。
【0051】
本実施形態においては、外輪120のエンドウォール123に、熱応力緩和部150である熱応力緩和冷却孔151として第1冷却孔152設けられている。
【0052】
第1の実施形態と同様に、第1冷却孔152の入口である冷却孔入口152aは、冷却媒体用空間126(
図2)に連通する一方のエンドウォール周方向側面123bに形成されている。また、第1冷却孔152の出口である冷却孔出口152bは、エンドウォール下流側面123dに形成されている。
【0053】
ただし、第1冷却孔152は、第1の実施形態に比べて、上流側に形成されていることから、第1冷却孔152の長さが長くなり、エンドウォール123を冷却する効果が大きくなる。この結果、外輪120が周方向に反り返る方向への変形量がさらに低減し、外側付け根部112aにおける熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0054】
[第4の実施形態]
図8は、第4の実施形態に係るタービン静翼100を示すタービン軸に沿った方向から見た正面図である。
図9は、第4の実施形態に係るタービン静翼100を示す
図8のC-C矢視横断面図である。また、
図10は、第4の実施形態に係るタービン静翼100を示す
図9のD-D矢視横断面図である。
【0055】
本実施形態においては、熱応力緩和部150として、第1ないし第3の実施形態における熱応力緩和冷却孔151に代えて、熱応力緩和溝155が設けられている。
【0056】
熱応力緩和溝155は、エンドウォール123のエンドウォール下流側面123dから流れの上流側方向、すなわち軸方向にエンドウォール123の内部に向かって形成されている。熱応力緩和溝155は、
図10に示すように、径方向から透視した平面上において、翼有効部下流側縁112の近傍に形成されている。ここで、近傍にある場合とは、たとえば、径方向から透視した平面上において、翼有効部下流側縁112が熱応力緩和溝155の範囲内に存在するように形成されている場合である。
【0057】
あるいは、翼有効部下流側縁112が熱応力緩和溝155の範囲内に存在しなくとも、径方向から透視した平面上において、翼有効部下流側縁112と熱応力緩和溝155の外郭との距離が所定の距離d0以下である場合であってもよい。ここで、所定の距離d0は、翼有効部110のタービン軸方向の長さLbの20%程度、さらに好ましくは10%程度である。
【0058】
なお、
図8ないし
図10では、熱応力緩和溝155がエンドウォール123のエンドウォール下流側面123d側に形成されている場合を例にとって示したが、これに限定されない。径方向から透視した平面上において、翼有効部下流側縁112が熱応力緩和溝155の範囲内に存在するように形成されているのであれば、例えば、エンドウォール周方向側面123b側に形成されていてもよい。
【0059】
次に、本実施形態の効果を説明する。
【0060】
図11は、第4の実施形態に係るタービン静翼100の効果を説明するための温度分布の例を模式的に示す概念図である。それぞれの破線は、等温線を示す。
【0061】
図11に示すように、熱応力緩和溝155を設けたことによって、
図4に示した熱応力緩和部150を設けない場合に比べて、エンドウォール123の外側付け根部112a近傍の温度分布を緩和し、かつ、外輪120の温度を均一化させることができる。この結果、外輪120の熱変形量が低減される。
【0062】
さらに、熱応力緩和溝155を設けたことによって、エンドウォール123の剛性が低下する。この結果、タービン静翼100全体における外輪120の熱変形に及ぼす外輪120単独の熱変形の影響が低下する。
【0063】
以上の結果、外側付け根部112aにおける熱応力が緩和される。
【0064】
また、熱応力緩和溝155の近傍に冷却冷媒を積極的に流した場合には、翼有効部下流側縁112近傍の領域の温度が低減することにより、翼有効部下流側縁112近傍の領域の金属材料の許容応力の低下が抑制され、構造健全性上の尤度の確保が期待できる。
【0065】
なお、本実施形態は、第1ないし第3の実施形態の特徴と組み合わせてもよい。
【0066】
[第5の実施形態]
図12は、第5の実施形態に係るタービン静翼を示すタービン軸に沿った方向から見た正面図である。また、
図13は、第5の実施形態に係るタービン静翼を示す
図12のE-E矢視横断面図である。
【0067】
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本実施形態においては、第1の実施形態に加えて、
図12および
図13に示すように、外輪120の高温の作動流体と触れる部分に、遮熱コーティング160が設けられている。詳細には、エンドウォール内側面123fの翼有効部110と接続されていない部分に、遮熱コーティング160としての径方向内側コーティング161が設けられている。また、エンドウォール下流側面123dには、遮熱コーティング160としての軸方向下流側コーティング162が設けられている。
【0068】
遮熱コーティング160としては、たとえば、TBCが用いられる。TBCは、耐酸化性を有する金属層と、金属に比べて熱伝導率の小さなセラミック層で形成されている。TBCは、施工対象表面に溶射により成膜される。
【0069】
以上のように形成された本実施形態によるタービン静翼100では、作動流体側からの入熱が低減され、エンドウォール123の温度勾配が低減し、熱変形を低減することができる。
【0070】
なお、以上は、第1の実施形態の特徴と組み合わせた場合を示したが、本実施形態は、第2ないし第4の実施形態の特徴と組み合わせてもよい。
【0071】
以上、説明した実施形態によれば、熱変形および熱応力を低減するタービン静翼構造を提供することが可能となる。
【0072】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。たとえば、本発明の実施形態は、タービン静翼100の翼有効部110が、冷却のための中空構造を有する場合、有さない場合のいずれにも適用される。また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0073】
10…ガスタービン、11…ロータシャフト、12…ロータディスク、13…動翼、13a…動翼翼列、14…タービン段落、15…シュラウド、16…作動流体流路、18…中間空間、20…ケーシング、20a…冷媒供給孔、20f…第1フック、20r…第2フック、21…ケーシング下流側フック、22…ケーシング上流側フック、100…タービン静翼、101…静翼翼列、110…翼有効部、111…翼有効部上流側縁、112…翼有効部下流側縁、112a…外側付け根部、120…外輪、121…上流側フック、121a…上流側フック壁部、121b…上流側フック突部、122…下流側フック、122a…下流側フック壁部、122b…下流側フック突部、123…エンドウォール、123a…エンドウォール上流側面、123b、123c…エンドウォール周方向側面、123d…エンドウォール下流側面、123f…エンドウォール内側面、124…上流側突部、125…下流側突部、126…冷却媒体用空間、127…シール用溝部、130…内側ウォール、131…エンドウォール、132…ラビリンス歯、150…熱応力緩和部、151…熱応力緩和冷却孔、152…第1冷却孔、152a…冷却孔入口、152b…冷却孔出口、153…第2冷却孔、153a…冷却孔方向転換部、153b…冷却孔出口、155…熱応力緩和溝、160…遮熱コーティング、161…径方向内側コーティング、162…軸方向下流側コーティング、C…タービン軸