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特許7683007三元系正極材料前駆体並びにその調製方法、正極材料、正極スラリー材料、リチウムイオン電池、正極、電気設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】三元系正極材料前駆体並びにその調製方法、正極材料、正極スラリー材料、リチウムイオン電池、正極、電気設備
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20250519BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250519BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250519BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023526665
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 CN2022083481
(87)【国際公開番号】W WO2023123713
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】202111623510.0
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523153935
【氏名又は名称】中偉新材料股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】▲ヤン▼ 碩
(72)【発明者】
【氏名】張 雨英
(72)【発明者】
【氏名】紀 方力
(72)【発明者】
【氏名】王 一喬
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110050366(CN,A)
【文献】特表2018-506156(JP,A)
【文献】特開2019-131417(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110226251(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108123119(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0042868(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0379044(US,A1)
【文献】特表2018-521456(JP,A)
【文献】特表2018-500720(JP,A)
【文献】特表2020-513658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0350582(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni-Co-Mn系の三元系正極材料前駆体であって、
コア層と、中間層と、シェル層とを含み、前記中間層は、前記コア層を被覆した層であり、前記シェル層は、前記中間層を被覆した層であり、前記コア層、前記中間層および前記シェル層の空隙率が順に増大し、
前記コア層の空隙率は、5.4%~17.1%であり、前記中間層の空隙率は、7.8%~19.2%であり、前記シェル層の空隙率は、9%~20.1%である
ことを特徴とする三元系正極材料前駆体。
【請求項2】
記コア層の空隙率は、7.03%~12.74%であり、前記中間層の空隙率は、8.7%~13.6%であり、前記シェル層の空隙率は、14.8%~16.3%である
請求項1に記載の三元系正極材料前駆体。
【請求項3】
前記コア層の半径は、全体の半径の25%~30%を占め、前記中間層の厚さは、全体の半径の50%~58.8%を占め、前記シェル層の厚さは、全体の半径の11.2%~25%を占める
請求項1に記載の三元系正極材料前駆体。
【請求項4】
前記三元系正極材料前駆体は、D50が7~15μmであり、(D90-D10)/D50=0.6~0.8を満た
請求項1に記載の三元系正極材料前駆体。
【請求項5】
記三元系正極材料前駆体は、001結晶面の半値幅が0.4~0.88°であり、101結晶面の半値幅が0.25~0.61°であ
請求項1に記載の三元系正極材料前駆体。
【請求項6】
記三元系正極材料前駆体のBET/TDの値は、3.90~6.66である
請求項1に記載の三元系正極材料前駆体。
【請求項7】
前記三元系正極材料前駆体の一般式は、NiCoMnMe(1-x-y-z)(OH)であり、ただし、0.6≦x≦1、0<y≦1、0<z≦1、x+y+z≦1を満たし、Meは、ドーピング元素を表し、前記ドーピング元素は、Al、Ti、V、W、Zr、Mg、Ce、NbおよびLaのうちの1種または複数種を含
請求項1ないし6のいずれかに記載の三元系正極材料前駆体。
【請求項8】
記ドーピング元素の質量%含有量は、0.01%~10%である
請求項7に記載の三元系正極材料前駆体。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の三元系正極材料前駆体の調製方法であって、
ニッケル源と、コバルト源と、マンガン源と、沈殿剤と、錯化剤とを含む原材料を混合して、溶液共沈法により反応を行って三元系正極材料前駆体を得ることを含み、
前記錯化剤は、アンモニア水であり、
ニッケル源と、コバルト源と、マンガン源の流量が4L/hであり、前記沈殿剤の流量が1.6L/hであり、前記アンモニア水の流量が0.22~0.6L/hであり、
前記反応の撹拌速度は、100r/min~600r/minである
ことを特徴とする三元系正極材料前駆体の調製方法。
【請求項10】
前記ニッケル源は硫酸ニッケル(II)を含み、前記コバルト源は硫酸コバルト(II)を含み、前記マンガン源は硫酸マンガン(II)を含み、前記沈殿剤は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムのうちの1種または複数種を含み、前記錯化剤は、アンモニア水、クエン酸ナトリウム、EDTAおよびシュウ酸のうちの1種または複数種を含み
記ニッケル源と、前記コバルト源と、前記マンガン源とを予め混合して、三元系金属塩溶液として使用し、
記三元系金属塩溶液の濃度は、100g/L~130g/Lであり、
記混合は、水と、沈殿剤と、錯化剤とを混合して反応基礎液を得、そして前記反応基礎液に前記三元系金属塩溶液、錯化剤、沈殿剤を導入することを含み、
記反応基礎液のpHは、11~12であり、
応系に保護ガスを導入する
請求項9に記載の三元系正極材料前駆体の調製方法。
【請求項11】
前記反応において、系のpHは、10~12であり、上澄み液におけるニッケルは、0~500ppmの範囲内にコントロールし
記反応の温度は、40℃~70℃であ
請求項9に記載の三元系正極材料前駆体の調製方法。
【請求項12】
記反応において、系のpHは、11.9から漸次に10.8~10.3に下げる
請求項9に記載の三元系正極材料前駆体の調製方法。
【請求項13】
前記原材料は、ドーピング元素溶液をさらに含み、
記ドーピング元素溶液におけるドーピング元素は、Al、Ti、V、W、Zr、Mg、Ce、NbおよびLaのうちの1種または複数種を含
請求項9に記載の三元系正極材料前駆体の調製方法。
【請求項14】
前記ドーピング元素はWであり、前記ドーピング元素溶液は、タングステン酸ナトリウムとクエン酸ナトリウムを含み、
前記タングステン酸ナトリウムと前記クエン酸ナトリウムとの質量比は、1~3:1である
請求項13に記載の三元系正極材料前駆体の調製方法。
【請求項15】
後処理をさらに含み、前記後処理は、アルカリ洗浄、水洗および乾燥を含み、
記アルカリ洗浄のアルカリ洗浄剤と水洗の水との体積比は、V水洗:Vアルカリ洗浄=(2~8):1を満たし、アルカリ洗浄および水洗の温度は、それぞれ30~70℃であり、
記乾燥は、乾燥の温度が100℃~180℃であり、乾燥後の水分含有量を0.4%以下にする
請求項10ないし14のいずれかに記載の三元系正極材料前駆体の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池の分野に属し、殊に、三元系正極材料前駆体並びにその調製方法、正極材料、正極スラリー材料、リチウムイオン電池、正極、電気設備に関する。
【0002】
(関係出願の相互参照)
本開示は、2021年12月28日に中国国家知識財産権局に提出された、出願番号が202111623510.0であり、名称が「三元系正極材料前駆体並びにその調製方法、正極材料、正極スラリー材料、リチウムイオン電池、正極、電気設備」である中国出願に基づいて優先権を主張し、その内容のすべては本開示に参照として取り込まれる。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、次世代の高エネルギーで再生可能グリーンエネルギーであり、動作電圧が高く、エネルギー密度が大きく、安全性が優れ、サイクル寿命が長く、自己放電率が低く、メモリ効果がないなどの特性を有するため、様々な電動自動車、大規模エネルギー貯蔵の分野に広く応用されている。近年、電動自動車の急速な発展に伴い、リチウム電池のエネルギー密度に対する要求がますます高まっている。電動自動車の航続能力を向上させるため、エネルギー密度の高い動力電池の開発が急務になる。
【0004】
リチウムイオン電池の、サイクル安定性、容量および電圧などの面での優れた性能が主に調製された正極材料によるものであり、一般的な正極材料は、容量が低いので、リチウムイオン電池全体の容量の向上を制限している。したがって、容量が高く、レート性能が優れ、サイクル性能が安定で、安全性が優れた正極材料の開発は、リチウムイオン電池に関する研究の重点および難点となっている。
【0005】
多種のリチウムイオン電池正極材料のうち、層状の三元系正極材料は、一般的な正極材料に対して、容量がより高く、サイクル性能がより優れ、コストが低いなどのメリットを有するが、充放電過程において構造が不安定で、スピネル相から岩塩相への変換が発生しやすいので、サイクル過程において容量の減衰が速すぎになってしまい、そして、熱安定性および安全性が劣る。これらの欠点で、層状の三元系材料の幅広い応用がある程度で制限される。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、上記の問題を解決できる三元系正極材料前駆体並びにその調製方法、正極材料、正極スラリー材料、リチウムイオン電池、正極、電気設備を提供することを目的とする。
【0007】
上記の目的を実現するため、本開示は、下記の技術案を採用する。
【0008】
三元系正極材料前駆体であって、コア層と、中間層と、シェル層とを含み、前記中間層は、前記コア層を被覆した層であり、前記シェル層は、前記中間層を被覆した層であり、前記コア層、前記中間層および前記シェル層の空隙率が順に増大する。
【0009】
好ましくは、前記コア層の空隙率は、5.4%~17.1%であり、前記中間層の空隙率は、7.8%~19.2%であり、前記シェル層の空隙率は、9%~20.1%であり、好ましくは、前記コア層の空隙率は、7.03%~12.74%であり、前記中間層の空隙率は、8.7%~13.6%であり、前記シェル層の空隙率は、14.8%~16.3%であり、好ましくは、前記コア層の半径は、全体の半径の25%~30%を占め、前記中間層の厚さは、全体の半径の50%~58.8%を占め、前記シェル層の厚さは、全体の半径の11.2%~25%を占める。
【0010】
好ましくは、前記三元系正極材料前駆体は、D50が7~15μmであり、(D90-D10)/D50=0.6~0.8を満たす。
【0011】
好ましくは、前記三元系正極材料前駆体は、001結晶面の半値幅が0.4~0.88°であり、101結晶面の半値幅が0.25~0.61°であり、好ましくは、前記三元系正極材料前駆体は、FWHMの比(I001-I101)/I101の範囲は、0.1~0.9°である。
【0012】
好ましくは、前記三元系正極材料前駆体のBET/TDの値は、3.90~6.66である。
【0013】
好ましくは、前記三元系正極材料前駆体の一般式は、NiCoMnMe(1-x-y-z)(OH)であり、ただし、0.6≦x≦1、0<y≦1、0<z≦1、x+y+z≦1を満たし、Meは、ドーピング元素を表し、前記ドーピング元素は、Al、Ti、V、W、Zr、Mg、Ce、NbおよびLaのうちの1種または複数種を含み、好ましくは、前記ドーピング元素の質量%含有量は、0.01%~10%である。
【0014】
本開示は、三元系正極材料前駆体の調製方法をさらに提供する。前記調製方法は、ニッケル源と、コバルト源と、マンガン源と、沈殿剤と、錯化剤とを含む原材料を混合して、溶液共沈法により反応を行って前記三元系正極材料前駆体を得ることを含む。
【0015】
好ましくは、前記ニッケル源は硫酸ニッケル(II)を含み、前記コバルト源は硫酸コバルト(II)を含み、前記マンガン源は硫酸マンガン(II)を含み、前記沈殿剤は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムのうちの1種または複数種を含み、前記錯化剤は、アンモニア水、クエン酸ナトリウム、EDTAおよびシュウ酸のうちの1種または複数種を含む。
【0016】
好ましくは、前記ニッケル源と、前記コバルト源と、前記マンガン源とを予め混合して、三元系金属塩溶液として使用し、好ましくは、前記三元系金属塩溶液の濃度は、100g/L~130g/Lである。
【0017】
好ましくは、前記混合は、水と、沈殿剤と、錯化剤とを混合して反応基礎液を得、そして前記反応基礎液に前記三元系金属塩溶液、錯化剤、沈殿剤を導入することを含み、好ましくは、前記反応基礎液のpHは、11~12である。
【0018】
好ましくは、前記反応系に保護ガスを導入する。
【0019】
好ましくは、前記反応において、系のpHは、10~12であり、上澄み液におけるニッケルは、0~500ppmの範囲内にコントロールし、好ましくは、前記反応において、系のpHは、11.9から漸次に10.8~10.3に下がる。
【0020】
好ましくは、前記反応の温度は、40℃~70℃であり、好ましくは、前記反応の撹拌速度は、100r/min~600r/minである。
【0021】
好ましくは、前記原材料は、ドーピング元素溶液をさらに含む。
【0022】
好ましくは、前記ドーピング元素溶液におけるドーピング元素は、Al、Ti、V、W、Zr、Mg、Ce、NbおよびLaのうちの1種または複数種を含み、好ましくは、前記ドーピング元素はWであり、前記ドーピング元素溶液は、タングステン酸ナトリウムとクエン酸ナトリウムを含み、好ましくは、前記タングステン酸ナトリウムと前記クエン酸ナトリウムとの質量比は、1~3:1である。
【0023】
好ましくは、前記三元系正極材料前駆体の調製方法は後処理をさらに含み、前記後処理は、アルカリ洗浄、水洗および乾燥を含み、好ましくは、前記アルカリ洗浄のアルカリ洗浄剤と水洗の水との体積比は、V水洗:Vアルカリ洗浄=(2~8):1を満たし、アルカリ洗浄および水洗の温度は、それぞれ30~70℃であり、好ましくは、前記乾燥は、乾燥の温度が100℃~180℃であり、乾燥後の水分含有量を0.4%以下にする。
【0024】
本開示は、正極材料をさらに提供する。前記正極材料は、コア、中間領域およびシェルを含む。前記中間領域は、前記コアを被覆した層であり、前記シェルは、前記中間領域を被覆した層であり、前記コア、前記中間領域および前記シェルの空隙率が順に増大する。
【0025】
本開示は、正極スラリー材料をさらに提供する。前記正極スラリー材料は、原材料が前記正極材料を含む。
【0026】
本開示は、リチウムイオン電池正極をさらに提供する。前記リチウムイオン電池正極は、原材料が前記正極スラリー材料を含む。
【0027】
本開示は、リチウムイオン電池をさらに提供する。前記リチウムイオン電池は、原材料が前記リチウムイオン電池正極を含む。
【0028】
本開示は、電気設備をさらに提供する。前記電気設備は、前記リチウムイオン電池を備える。
【0029】
従来技術に比べて、本開示は、下記の有益な効果を有する。
【0030】
本開示に係る三元系正極材料前駆体は、コア層、中間層およびシェル層の空隙率が順に増大するような特別な空隙分布を有するため、三元系材料の構造が安定であり、材料の割れを効果的に抑え、サイクル過程における相変化を抑えることができ、これによって、材料の使用寿命を延ばすことができるとともに、材料のサイクル性能、レート性能およびエネルギー密度を向上させることができる。
【0031】
本開示に係る三元系正極材料前駆体の調製方法は、プロセスが簡単で、コストが低く、大規模の量産を実現することができる。
【0032】
本開示に係る正極材料、正極スラリー材料、リチウムイオン電池正極、リチウムイオン電池は、安定性、安全性および電気性能が優れる。
【0033】
本開示に係るリチウムイオン電池は、広く応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】得られた三元系正極材料前駆体の模式図である。
図2】実施例1により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真である。
図3】実施例1により得られた三元系正極材料前駆体の断面のSEM写真である。
図4】実施例1により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルである。
図5】実施例1により得られた三元系正極材料前駆体のメソ孔孔径の微分分布曲線である。
図6】実施例2により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真である。
図7】実施例2により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルである。
図8】実施例3により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真である。
図9】実施例3により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルである。
図10】実施例4により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真である。
図11】実施例4により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルである。
図12】実施例5により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真である。
図13】実施例5により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示の実施例の技術案をより明瞭に説明するため、以下、実施例の説明に必要な図面を簡単に説明する。なお、説明する図面は、本開示のいくつかの実施例を示すものにすぎず、本開示の範囲を限定するものではない。
【0036】
本明細書に使用される用語は、下記の通りである。
【0037】
「により調製される」は、「含んでなる」と同じ意味を有する。本明細書に使用される用語の「含んでなる」、「含む」、「有する」、「含有」またはそれらの他の任意のバリエーションは、非排除的包含を意味する。例えば、挙げられた要素を含む組成物、ステップ、方法、製品または装置は、これらの要素だけでなく、明記されていない他の要素またはこれらの組成物、ステップ、方法、製品または装置における固有の要素を含んでもよい。
【0038】
フレーズの「からなる」は、指定されていない要素、ステップまたは組成を排除するものである。特許請求の範囲に使用される場合、当該フレーズが閉鎖式のものになり、関係する一般不純物を除き、説明した材料以外の材料を含まないと意味している。フレーズの「からなる」は、請求項主題に使うのではなく請求項内容の一節に使われた場合、当該節に記載した要素だけを限定するものとなり、他の要素が請求項全体から排除するものにならない。
【0039】
量、濃度、または他の値やパラメータは、範囲、好ましい範囲、または一連の好ましい上限値および下限値で限定される範囲により表される場合、単独の開示があるか否かにも関わらず、任意の範囲の上限値または好ましい値と任意の範囲の下限値または好ましい値とにより任意に組み合わせたすべての範囲が具体的に開示される。例えば、「1~5」という範囲が開示された場合、説明する範囲が「1~4」、「1~3」、「1~2」、「1~2と4~5」、「1~3と5」などの範囲を含むと解釈すべきである。本明細書で説明される数値範囲は、特に断りがない限り、臨界値および該範囲にあるすべての整数と分数を含む。
【0040】
これらの実施例において、特に断りがない限り、部およびパーセントは、質量で計算するものである。
【0041】
「質量部」は、複数の成分の質量比率関係を表す基本的な計量単位であり、1部が任意の単位質量を表すことができ、例えば、1gを表してもよく、2.689gなどを表してもよい。A成分の質量部がa部であり、B成分の質量部がb部である場合、A成分の質量とB成分の質量の比がa:bであることを表し、または、A成分の質量がaKであり、B成分の質量がbKであることを表す(Kが任意の数字であり、倍数因子を表すものである)。なお、質量%とは異なり、すべての成分の質量部の合計が100部とは限らない。
【0042】
「および/または」は、記載された状況の少なくとも一方が発生することを表すものである。例えば、Aおよび/またはBは、「AおよびB」と「AまたはB」を含む。
【0043】
三元系正極材料前駆体であって、コア層、中間層およびシェル層を含み、前記中間層は、前記コア層を被覆した層であり、前記シェル層は、前記中間層を被覆した層であり、前記コア層、前記中間層および前記シェル層の空隙率が順に増大する。
【0044】
従来の材料は、内部も外部も空隙が非常に緻密であり、充放電過程において構造が不安定であり、安定性および安全性が劣り、これに対して、上記の三元系正極材料前駆体は、断面からみると、前記コア層、前記中間層および前記シェル層の空隙率が同一ではなく、その空隙率が順に増大するように構成され、これによって、三元系正極材料のサイクル性能および単位体積当たりのエネルギー密度を改善することができ、材料の構造安定性および電池の安全性を向上させることができる。
【0045】
選択可能な一実施形態において、前記コア層の空隙率は、5.4%~17.1%であり、前記中間層の空隙率は、7.8%~19.2%であり、前記シェル層の空隙率は、9%~20.1%である。
【0046】
選択可能な一実施形態において、前記コア層の空隙率は、7.03%~12.74%であり、前記中間層の空隙率は、8.7%~13.6%であり、前記シェル層の空隙率は、14.8%~16.3%である。
【0047】
設備のHITACHI IM4000を利用して本開示に係る材料に対して前処理を行い、そしてHITACHI SU8100を利用して、調製されるサンプルに対してSEM写真を撮影する。空隙率の特徴を評価するため、本開示は、画像解析ソフトウェア(ImageJ)を利用して直接各領域の空隙面積および断面積を求め、そして(空隙率=各領域の空隙面積/各領域の断面積×100%)の式で異なる領域の空隙率を算出する。本開示に言及された空隙率は、いずれも該方法で評価する。
【0048】
任意で、前記コア層の空隙率は、5.4%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、17.1%、または5.4%~17.1%の範囲内の任意の値であり、前記中間層の空隙率は、7.8、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、19.2%、または7.8%~19.2%の範囲内の任意の値であり、前記シェル層の空隙率は、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、20.1%、または9%~20.1%の範囲内の任意の値である。
【0049】
選択可能な一実施形態において、前記中間層および前記シェル層の空隙は、長尺状を呈する。
【0050】
選択可能な一実施形態において、前記中間層および前記シェル層の空隙は、幅が内から外へ漸次に増大し、全体として放射状に分布している。
【0051】
調製される三元系正極材料は、内から外へ孔径の大きさが同一ではなく、多孔質であるとともに空隙が放射状に分布しており、このようにして、内から外へのリチウムイオン拡散チャネルが形成され、このようなチャネルによれば、電解液の拡散および充放電過程におけるイオンの伝導に有利であり、したがって、容量の向上に寄与できるとともに、電池のレート性能をある程度で向上させることができる。
【0052】
選択可能な一実施形態において、前記コア層の半径は、全体の半径の25%~30%を占め、前記中間層の厚さは、全体の半径の50%~58.8%を占め、前記シェル層の厚さは、全体の半径の11.2%~25%を占める。
【0053】
選択可能な一実施形態において、三元系正極材料前駆体は、D50が7~15μmであり、(D90-D10)/D50=0.6~0.8を満たす(D10、D50、D90は、それぞれ粒度分布に積算値が10%、50%、90%のときの粒径である)。
【0054】
任意で、三元系正極材料前駆体のD50は、7μm、8μm、9μm、10μm、11μm、12μm、13μm、14μm、15μm、または7~15μmの範囲内の任意の値であり、(D90-D10)/D50は、0.6、0.7、0.8、または0.6~0.8の範囲内の任意の値である。
【0055】
選択可能な一実施形態において、三元系正極材料前駆体は、001結晶面の半値幅(I001)が0.4~0.88°であり、101結晶面の半値幅(I101)が0.25~0.61°である。
【0056】
任意で、三元系正極材料前駆体は、001結晶面の半値幅が0.4°、0.5°、0.6°、0.7°、0.8°、0.81°、0.82°、0.83°、0.84°、0.85°、0.86°、0.87°、0.88°、または0.4~0.88°の範囲内の任意の値であり、101結晶面の半値幅が0.25°、0.3°、0.35°、0.4°、0.45°、0.5°、0.55°、0.56°、0.57°、0.58°、0.59°、0.60°、0.61°、または0.25~0.61°の範囲内の任意の値である。
【0057】
選択可能な一実施形態において、三元系正極材料前駆体のFWHM(半値全幅)の比(I001-I101)/I101の範囲は、0.1~0.9である。
【0058】
任意で、FWHMの比(I001-I101)/I101の値は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、または0.1~0.9の範囲内の任意の値である。
【0059】
半値幅およびFWHMの比(I001-I101)/I101の値をコントロールして材料の結晶化度および構造を改善することにより、一次顆粒を微細化させ、顆粒密度の低下を抑えるとともに疎密度を上げることができ、さらに、容量の向上および材料のサイクル安定性の向上に寄与できるとともに、エネルギー密度の低下を抑えることができる。
【0060】
選択可能な一実施形態において、三元系正極材料前駆体のBET(比表面積)/TD(タップ密度)の値は、3.90~6.66である。
【0061】
BETとTDとが線形関係を満たし、BET/TDの値が大きいほど、材料の空隙率が大きくなり、このようにすれば、電池の安全性、レート性能およびサイクル性能の向上に寄与できる。
【0062】
任意で、BET/TDの値は、3.90、4、5、6、6.66、または3.90~6.66の範囲内の任意の値である。
【0063】
選択可能な一実施形態において、三元系正極材料前駆体の一般式は、NiCoMnMe(1-x-y-z)(OH)であり、ただし、0.6≦x≦1、0<y≦1、0<z≦1、x+y+z≦1を満たし、Meは、ドーピング元素を表し、前記ドーピング元素は、Al、Ti、V、W、Zr、Mg、Ce、NbおよびLaのうちの1種または複数種を含む。
【0064】
選択可能な一実施形態において、前記ドーピング元素の質量%含有量は、0.01%~10%である。
【0065】
本開示に係る三元系正極材料前駆体は、Niの含有量が0.6以上である場合、ハイニッケル材料となり、サイクル性能が優れ、エネルギー密度が大きく、安定性および安全性が優れるメリットを有する。Al、Ti、V、W、Zr、Mg、Ce、Nb、Laなどの他の金属元素を入れることにより、材料の構造安定性を向上させて、材料の安全性およびサイクル安定性などを向上させることができる。
【0066】
任意で、前記ドーピング元素の質量%含有量は、0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、または0.01%~10%の範囲内の任意の値である。
【0067】
本開示は、三元系正極材料前駆体の調製方法をさらに提供する。該調製方法は、ニッケル源と、コバルト源と、マンガン源と、沈殿剤と、錯化剤とを含む原材料を混合して、溶液共沈法により反応を行って前記三元系正極材料前駆体を得ることを含む。
【0068】
選択可能な一実施形態において、前記ニッケル源は硫酸ニッケル(II)を含み、前記コバルト源は硫酸コバルト(II)を含み、前記マンガン源は硫酸マンガン(II)を含み、前記沈殿剤は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムのうちの1種または複数種を含み、前記錯化剤は、アンモニア水、クエン酸ナトリウム、EDTAおよびシュウ酸のうちの1種または複数種を含む。
【0069】
選択可能な一実施形態において、前記ニッケル源と、前記コバルト源と、前記マンガン源とを予め混合して、三元系金属塩溶液として使用する。
【0070】
選択可能な一実施形態において、前記三元系金属塩溶液の濃度は、100g/L~130g/Lである。
【0071】
任意で、前記三元系金属塩溶液の濃度は、100g/L、101g/L、102g/L、103g/L、104g/L、105g/L、106g/L、107g/L、108g/L、109g/L、110g/L、111g/L、112g/L、113g/L、114g/L、115g/L、116g/L、117g/L、118g/L、119g/L、120g/L、121g/L、122g/L、123g/L、124g/L、125g/L、126g/L、127g/L、128g/L、129g/L、130g/L、または100g/L~130g/Lの範囲内の任意の値である。
【0072】
選択可能な一実施形態において、前記混合は、水と、沈殿剤と、錯化剤とを混合して反応基礎液を得、そして前記反応基礎液に前記三元系金属塩溶液、錯化剤、沈殿剤を導入することを含む。
【0073】
選択可能な一実施形態において、前記反応基礎液のpHは、11~12である。
【0074】
任意で、前記反応基礎液のpHは、11.0、11.1、11.2、11.3、11.4、11.5、11.6、11.7、11.8、11.9、12.0、または11~12の範囲内の任意の値である。
【0075】
選択可能な一実施形態において、前記反応系に保護ガスを導入する。
【0076】
保護ガスは、窒素ガスが好ましい。
【0077】
選択可能な一実施形態において、前記反応において、系のpHは、10~12であり、上澄み液におけるニッケルは、0~500ppmの範囲内にコントロールする。
【0078】
選択可能な一実施形態において、前記反応において、系のpHは、11.9から漸次に10.8~10.3に下がる。
【0079】
任意で、前記反応において、系のpHは、10、10.5、11、11.5、12、または10~12の範囲内の任意の値であり、上澄み液におけるニッケルは、0ppm、50ppm、100ppm、200ppm、300ppm、400ppm、500ppm、または0~500ppmの範囲内の任意の値にする。
【0080】
選択可能な一実施形態において、前記反応の温度は、40℃~70℃である。
【0081】
選択可能な一実施形態において、前記反応の撹拌速度は、100r/min~600r/minである。
【0082】
任意で、前記反応の温度は、40℃、50℃、60℃、70℃、または40~70℃の範囲内の任意の値であり、前記反応の撹拌速度は、100r/min、200r/min、300r/min、400r/min、500r/min、600r/min、または100r/min~600r/minの範囲内の任意の値である。
【0083】
選択可能な一実施形態において、前記原材料は、ドーピング元素溶液をさらに含む。
【0084】
選択可能な一実施形態において、前記ドーピング元素溶液におけるドーピング元素は、Al、Ti、V、W、Zr、Mg、Ce、NbおよびLaのうちの1種または複数種を含む。
【0085】
選択可能な一実施形態において、前記ドーピング元素はWであり、前記ドーピング元素溶液は、タングステン酸ナトリウムとクエン酸ナトリウムを含む。
【0086】
選択可能な一実施形態において、前記タングステン酸ナトリウムと前記クエン酸ナトリウムとの質量比は、1~3:1である。
【0087】
任意で、前記タングステン酸ナトリウムと前記クエン酸ナトリウムとの質量比は、1:1、2:1、3:1、または1~3:1の範囲内の任意の値である。
【0088】
選択可能な一実施形態において、前記三元系正極材料前駆体の調製方法は後処理をさらに含み、前記後処理は、アルカリ洗浄、水洗および乾燥を含む。
【0089】
選択可能な一実施形態において、前記アルカリ洗浄のアルカリ洗浄剤と水洗の水との体積比は、V水洗:Vアルカリ洗浄=(2~8):1を満たし、アルカリ洗浄および水洗の温度は、それぞれ30~70℃である。
【0090】
選択可能な一実施形態において、前記乾燥は、乾燥の温度が100℃~180℃であり、乾燥後の水分含有量を0.4%以下にする。
【0091】
任意で、前記アルカリ洗浄のアルカリ洗浄剤と水洗の水との体積比V水洗:Vアルカリ洗浄は、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、または(2~8):1の範囲内の任意の値であり、アルカリ洗浄および水洗の温度は、それぞれ30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、または30~70℃の範囲内の任意の値であり、前記乾燥は、乾燥の温度が100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、または100℃~180℃の範囲内の任意の値であり、乾燥後の水分含有量が0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、または0.4%以下の範囲内の任意の値である。
【0092】
本開示は、正極材料をさらに提供する。前記正極材料は、コア、中間領域およびシェルを含む。前記中間領域は、前記コアを被覆した層であり、前記シェルは、前記中間領域を被覆した層であり、前記コア、前記中間領域および前記シェルの空隙率が順に増大する。
【0093】
本開示は、正極スラリー材料をさらに提供する。前記正極スラリー材料は、原材料が前記正極材料を含む。
【0094】
本開示は、リチウムイオン電池正極をさらに提供する。前記リチウムイオン電池正極は、原材料が前記正極スラリー材料を含む。
【0095】
本開示は、リチウムイオン電池をさらに提供する。前記リチウムイオン電池は、原材料が前記リチウムイオン電池正極を含む。
【0096】
本開示は、電気設備をさらに提供する。前記電気設備は、前記リチウムイオン電池を備える。
【0097】
なお、ここでの電気設備は、それ自体が本開示に係るリチウムイオン電池を含むことを指すだけでなく、本開示に係るリチウムイオン電池を外部電源またはエネルギーキャリアとして使用する場合も指す。つまり、ここでの電気設備は、本開示に係るリチウムイオン電池により直接または間接的に給電される設備であり、または、該設備それ自体が電源として本開示に係るリチウムイオン電池を充電する。
【0098】
以下、具体的な実施例を用いて本開示の技術案を詳細に説明し、当業者であれば分かるように、下記の実施例が本開示を説明するためのものにすぎず、本開示の範囲を限定するものではない。実施例において、具体的な条件を明記しないことについて、従来の条件またはメーカーの勧めの条件下で行うことが可能である。使用する試剤または器械の、製造メーカーが明記されていないものについて、市販の従来品を使用することが可能である
【0099】
実施例1
(1)主要原材料および補助材料として、79.98kgの硫酸ニッケル(II)、11.30kgの硫酸コバルト(II)および4.06kgの硫酸マンガン(II)の結晶と純水とを均一に混合して撹拌することにより調製された(2mol/L)の三元系溶液と、所定量のタングステン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムにより調製された0.91g/Lのタングステン溶液と、沈殿剤および錯化剤とを用る。反応釜に純水、液体苛性ソーダ(質量濃度が32%)、アンモニア水(質量濃度が20.5%)を添加してpHが11.60~11.70である反応基礎液を調製し、窒素ガスを導入し、539r/minの撹拌速度の条件下で、60℃まで加熱し、所定の流量で三元系溶液(4L/h)、液体苛性ソーダ(1.6L/h)、アンモニア水(0.22L/h)およびドーピング溶液(2L/h)を導入する。反応過程においてpHを11.65~10.50にコントロールし、上澄み液におけるニッケルの含有量を50~100ppmにコントロールし、反応によりメディアン径D50が10μmであるタングステンドープ型ニッケルコバルトマンガン三元系沈殿物を得た。
【0100】
(2)反応生成物を固液分離したあと、Na<300ppm、2200ppm<S<2600ppmになるまで所定量の洗浄剤でのアルカリ洗浄、所定量の水での水洗を行い、ケーキを取り出して使用に備えた。
【0101】
(3)備えられたケーキをばらして、水分が4000ppm未満になるまで送風式オーブンで乾燥して脱水を行い、そして取り出して密封して使用に備えた。
【0102】
(4)得られた乾燥材料に対してふるい分け、除鉄などの処理を行い、タングステン(2500ppm)ドープ型前駆体製品のNi0.9Co0.06Mn0.04(OH)を得た。
【0103】
(5)規定の条件下で、得られたドープ型前駆体材料とリチウム化物とを混合して焼結することによりドープ型正極材料を調製した。
【0104】
図1は、得られた三元系正極材料前駆体の模式図である。A領域はコア層を表し、B領域は中間層を表し、C領域はシェル層を表す。図2は、実施例1により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真である。図3は、実施例1により得られた三元系正極材料前駆体の断面のSEM写真である。図4は、実施例1により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルであり、横軸が回折ピーク角度であり、縦軸が回折ピーク強度である。図5は、実施例1により得られた三元系正極材料前駆体のメソ孔孔径の微分分布曲線である。
【0105】
実施例2
(1)主要原材料および補助材料として、84.82kgの硫酸ニッケル(II)、7.15kgの硫酸コバルト(II)および4.67kgの硫酸マンガン(II)の結晶と純水とを均一に混合して撹拌することにより調製された(2mol/L)の三元系溶液と、所定量の硫酸アルミニウムおよび水酸化ナトリウムにより調製された1.47g/Lのアルミニウム溶液と、沈殿剤および錯化剤とを用いる。反応釜に純水、液体苛性ソーダ(質量濃度が32%)、アンモニア水を添加してpHが11.60~11.70である反応基礎液を調製し、窒素ガスを導入し、539r/minの撹拌速度の条件下で、60℃まで加熱し、所定の流量で三元系溶液(4L/h)、液体苛性ソーダ(1.6L/h)、アンモニア水(0.31L/h)およびドーピング溶液(2L/h)を導入する。反応過程においてpHを11.60~10.55に調整し、上澄み液におけるニッケルの含有量を50~100ppmにコントロールし、撹拌速度を539r/minから漸次に462r/minまで下げ、反応によりメディアン径D50が12μmであるアルミニウムドープ型ニッケルコバルトマンガン三元系沈殿物を得た。
【0106】
ステップ(2)、ステップ(3)、ステップ(4)が実施例1と同じであり、これによってAl(6000ppm)ドープ型前駆体製品のNi0.88Co0.09Mn0.03(OH)を得た。
【0107】
ステップ(5)が実施例1と同じであった。
【0108】
図6は、実施例2により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真であり、図7は、実施例2により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルであり、横軸が回折ピーク角度であり、縦軸が回折ピーク強度である。
【0109】
実施例3
(1)主要原材料および補助材料として、88.52kgの硫酸ニッケル(II)、5.10kgの硫酸コバルト(II)および3.44kgの硫酸マンガン(II)の結晶と純水とを均一に混合して撹拌することにより調製された(2mol/L)の三元系溶液と、所定量のオキシ硫酸チタン(IV)、クエン酸ナトリウムおよび硫酸により調製された2.0g/Lのチタン溶液と、沈殿剤および錯化剤とを用いる。反応釜に純水、液体苛性ソーダ(質量濃度が32%)、アンモニア水を添加してpHが11.60~11.70である反応基礎液を調製し、窒素ガスを導入し、539r/minの撹拌速度の条件下で、60℃まで加熱し、所定の流量で三元系溶液(4L/h)、液体苛性ソーダ(1.6L/h)、アンモニア水(0.54L/h)およびドーピング溶液(2L/h)を導入する。反応過程においてpHを11.65~11.00に調整し、上澄み液におけるニッケルの含有量を50~100ppmにコントロールし、撹拌速度を539r/minから漸次に308r/minまで下げ、反応によりメディアン径D50が16μmであるチタンドープ型ニッケルコバルトマンガン三元系沈殿物を得た。
【0110】
ステップ(2)、ステップ(3)、ステップ(4)が実施例1と同じであり、これによってTi(4000ppm)ドープ型前駆体製品のNi0.92Co0.03Mn0.05(OH)を得た。
【0111】
ステップ(5)が実施例1と同じであった。
【0112】
図8は、実施例3により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真であり、図9は、実施例3により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルであり、横軸が回折ピーク角度であり、縦軸が回折ピーク強度である。
【0113】
実施例4
(1)主要原材料および補助材料として、91.26kgの硫酸ニッケル(II)、4.07kgの硫酸コバルト(II)および2.22kgの硫酸マンガン(II)の結晶と純水とを均一に混合して撹拌することにより調製された(2mol/L)の三元系溶液と、所定量の硫酸ジルコニウム、クエン酸ナトリウムおよび硫酸により調製された3.67g/Lのジルコニウム溶液と、沈殿剤および錯化剤とを用いる。反応釜に純水、液体苛性ソーダ(質量濃度が32%)、アンモニア水を添加してpHが11.60~11.70である反応基礎液を調製し、窒素ガスを導入し、539r/minの撹拌速度の条件下で、60℃まで加熱し、所定の流量で三元系溶液(4L/h)、液体苛性ソーダ(1.6L/h)、アンモニア水(0.6L/h)およびドーピング溶液(2L/h)を導入する。反応過程においてpHを11.65~10.30に調整し、上澄み液におけるニッケルを0~200ppmにコントロールし、撹拌速度を539r/minから漸次に231r/minまで下げ、反応によりメディアン径D50が16μmであるジルコニウムドープ型ニッケルコバルトマンガン三元系沈殿物を得た。
【0114】
ステップ(2)、ステップ(3)、ステップ(4)が実施例1と同じであり、これによってZr(10000ppm)ドープ型前駆体製品のNi0.94Co0.04Mn0.02(OH)を得た。
【0115】
ステップ(5)が実施例1と同じであった。
【0116】
図10は、実施例4により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真であり、図11は、実施例4により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルであり、横軸が回折ピーク角度であり、縦軸が回折ピーク強度である。
【0117】
実施例5
(1)主要原材料および補助材料として、85.61kgの硫酸ニッケル(II)、6.15kgの硫酸コバルト(II)および2.45kgの硫酸マンガン(II)の結晶と純水とを均一に混合して撹拌することにより調製された(2mol/L)の三元系溶液と、沈殿剤および錯化剤とを用いる。反応釜に純水、液体苛性ソーダ(質量濃度が32%)、アンモニア水(質量濃度が20.5%)を添加してpHが11.60~11.70である反応基礎液を調製し、窒素ガスを導入し、539r/minの撹拌速度の条件下で、60℃まで加熱し、所定の流量で三元系溶液(4L/h)、液体苛性ソーダ(1.6L/h)、アンモニア水(0.22L/h)およびドーピング溶液(2L/h)を導入する。反応過程においてpHを11.65~10.50にコントロールし、上澄み液におけるニッケルの含有量を50~100ppmにコントロールし、反応によりメディアン径D50が10μmであるニッケルコバルトマンガン三元系沈殿物を得た。
【0118】
ステップ(2)、ステップ(3)、ステップ(4)が実施例1と同じであり、これによって前駆体製品のNi0.905Co0.057Mn0.038(OH)を得た。
【0119】
ステップ(5)が実施例1と同じであった。
【0120】
図12は、実施例5により得られた三元系正極材料前駆体のSEM写真であり、図13は、実施例5により得られた三元系正極材料前駆体のXRDスペクトルであり、横軸が回折ピーク角度であり、縦軸が回折ピーク強度である。
【0121】
比較例1
(1)の反応過程において、撹拌速度を616.4r/minにし、材料の流量を、三元系溶液が1L/h、液体苛性ソーダが0.4L/h、アンモニア水が0.05L/hであるようにし、その他は実施例5と同じであり、これによって化学式がNi0.905Co0.057Mn0.038(OH)である前駆体製品を得た。
【0122】
比較例2
(1)の反応過程において、三元系溶液の流量を1L/hから漸次に4L/hに上げるようにし、液体苛性ソーダの流量を0.4L/hから漸次に1.6L/hに上げるようにし、アンモニア水の流量を0.12L/hから漸次に0.16L/hに上げるようにし、その他は実施例5と同じであり、これによって化学式がNi0.905Co0.057Mn0.038(OH)である前駆体製品を得た。
【0123】
比較例3
(1)の反応過程において、三元系溶液の流量を2L/hにし、液体苛性ソーダの流量を0.8L/hにし、アンモニア水の流量を0.12L/hにし、その他は実施例5と同じであり、これによって化学式がNi0.905Co0.057Mn0.038(OH)である前駆体製品を得た。
【0124】
比較例4
(1)の反応過程において、三元系溶液の流量を2L/hから漸次に7L/hに上げるようにし、液体苛性ソーダの流量を0.8L/hから漸次に2.8L/hに上げるようにし、アンモニア水の流量を0.12L/hから漸次に0.28L/hに上げるようにし、その他は実施例5と同じであり、これによって化学式がNi0.905Co0.057Mn0.038(OH)である前駆体製品を得た。
【0125】
対照例1
(1)の反応過程において、アンモニア水の流量を0.54L/hから漸次に0.40L/hに下げるようにし、その他は実施例5と同じであり、これによって化学式がNi0.905Co0.057Mn0.038(OH)である前駆体製品を得た。
【0126】
対照例2
(1)の反応過程において、撹拌速度を693.7r/minから漸次に539.7r/minに下げるようにし、その他は実施例5と同じであり、これによって化学式がNi0.905Co0.057Mn0.038(OH)である前駆体製品を得た。
【0127】
実施例、比較例および対照例のそれぞれにより得られた材料のパラメータおよび性能に対する測定の結果は、表1に示されている。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
表1および表2のデータから、実施例1~5で、特別な空隙分布を有するドープ型ハイニッケル三元系正極材料が得られ、実施例で調製された前駆体材料は、A領域の空隙率が7.3%~16.9%であり、B領域の空隙率が8.8%~17.6%であり、C領域の空隙率が12.5%~19.8%であり、XRD半値幅の比(I001-I101)/I101が0.397~0.489であり、BET/TDが4.14~6.04であり、該正極材料により製造された電池は、容量維持率が97%以上であり、(1C/0.1C)レートが96%以上に保たれ、優れたサイクル特性およびレート性能を有することを確認することができる。
【0131】
他方、比較例1~4でも、特別な空隙分布を有するドープ型ハイニッケル三元系正極材料が調製された。比較例1において、BET/TDが3.90~6.84であり、XRD半値幅の比(I001-I101)/I101が0.1~0.9であり、A領域の空隙率が5.4%未満であり、B領域の空隙率が7.8%未満であり、C領域の空隙率が9%未満であった。比較例2において、BET/TDが3.90~6.84であり、XRD半値幅の比(I001-I101)/I101が0.1~0.9であり、A領域の空隙率が5.4%未満であり、B領域の空隙率が7.8%未満であり、C領域の空隙率が9%未満であった。比較例3において、BET/TDが3.90~6.84であり、XRD半値幅の比(I001-I101)/I101が0.1~0.9であり、A領域の空隙率が5.4%~17.1%であり、B領域の空隙率が7.8%~19.2%であり、C領域の空隙率が9%未満であった。比較例4において、BET/TDが3.90~6.84であり、XRD半値幅の比(I001-I101)/I101が0.1~0.9であり、A領域の空隙率が5.4%~17.1%であり、B領域の空隙率が7.8%であり、C領域の空隙率が9%~20.1%であった。また、該正極材料により製造された電池は、容量維持率が94%以下であり、(1C/0.1C)レートが93%以下に保たれ、したがって、実施例1~5に比べて、サイクル特性およびレート性能が比較的に劣る。
【0132】
上記の各実施例は、本開示の技術案を説明するためのものにすぎず、それを限定するものではない。上記の各実施例を参照しながら本開示を詳細に説明したにもかかわらず、当業者は、上記の各実施例に記載された技術案を変更してもよく、その内の一部または全ての技術的特徴に対して均等置換を行ってもよい。これらの変更または置き換えは、該当する技術案の本質を本開示の各実施例の技術案の範囲から逸脱させていない。
【0133】
また、上記の一部の実施例は、その他の実施例に含まれる一部の特徴を有しているが、異なる実施例の特徴の組合せは、本開示の範囲に属する別の実施例ともなると、当業者が理解する。例えば、特許請求の範囲において、保護しようとする実施例を、任意に組み合せてもよい。背景技術の部分に開示された情報は、本開示の背景技術全体に対する理解を深めるためのものであり、当業者にとって周知の従来技術となっていることを認めることや如何なる形式で暗示することではない。
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