(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】過硫酸アンモニウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/29 20210101AFI20250520BHJP
C01B 15/08 20060101ALI20250520BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20250520BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20250520BHJP
【FI】
C25B1/29
C01B15/08
C25B11/081
C25B13/04 301
(21)【出願番号】P 2021028569
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2023-07-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福田 文雄
(72)【発明者】
【氏名】仁平 仁
(72)【発明者】
【氏名】木所 利樹
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-158862(JP,A)
【文献】特開平11-293484(JP,A)
【文献】特開2010-007144(JP,A)
【文献】特開昭55-148779(JP,A)
【文献】特公昭52-038519(JP,B2)
【文献】特開2008-132468(JP,A)
【文献】特開昭55-034700(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131493(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸アンモニウムを電解して過硫酸アンモニウムを製造する
際に、陽極と陰極を隔てる隔膜として陽イオン交換膜を使用し、陰極電解液が硫酸アンモニウム水溶液であり、硫酸イオン濃度が20重量%以下の硫酸アンモニウム水溶液を含む陽極電解液に、
カルシウムを含む化合物を添加し、陽極電解液に2~15ppmのカルシウムイオンが存在する状態で電解を行うことを特徴とする、過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
カルシウムを含む化合物が、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、および塩化カルシウムの少なくとも1種から選ばれる化合物である、請求項
1に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項3】
陰極電解液としての硫酸アンモニウム水溶液の濃度が、30~45重量%である、請求項1~
2のいずれか1項に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項4】
陽極電解液に分極剤を添加する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項5】
分極剤が、グアニジン、グアニジン塩、およびチオシアン酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項4に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項6】
陽極電極が、白金、
または白金族である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項7】
陽極の電流密度が20~500A/dm
2の範囲にある、請求項1~
6のいずれか1項に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項8】
電流効率80%以上で過硫酸アンモニウムを製造する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項9】
陽極電解液の硫酸アンモニウムが、ラクタム製造工程で副生されたものを含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項10】
陰極側の生成アンモニアをラクタム製造工程で利用する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過硫酸アンモニウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫酸アンモニウムは硫安とも呼ばれ、かつては目的物として合成されていたが、現在は主にカプロラクタムやラウロラクタム、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルといった有機化学工業や石炭乾留によるコークス製造工程で副生されるものが流通している。硫酸アンモニウムはアンモニア態窒素を20%程度含有するので肥料として利用することが可能であり、前述した工程で副生した硫酸アンモニウムの大部分は肥料用として利用されている。従来、硫酸アンモニウムを副生しないカプロラクタムやアクリロニトリル、メタクリル酸メチルの製法が開発されてきた。ところがこれらの製法はプロセスが複雑であることや、既存製法からの転換が容易でないといった課題を有する。そのため、未だに多くの硫酸アンモニウムが副生している。
【0003】
一方、過硫酸アンモニウムは、主に乳化重合の重合開始剤や酸化漂白剤、銅エッチング剤等で広く工業的に利用されている。過硫酸アンモニウムのこれまで知られてきた製造方法としては、特許文献1に記載されているように電解槽に隔膜として陽イオン交換膜を用いて、陽極側原料として硫酸アンモニウム水溶液を用いて、陰極側原料の酸解離可能な水素イオン量を制御することにより、陰極液中(以下、陰極電解液と称する場合がある)に硫酸由来の水素イオンが存在する範囲では下記反応式(1)が優先され、陰極側生成物として水素を発生させるが、酸由来の水素イオン欠乏後は下記反応式(2)を優先されることにより、アンモニアを生成させる方法や、特許文献2に記載されているように陽極と陰極の間に隔膜などのセパレーターを用いない無隔膜電解法及び、特許文献3に記載されているように陰極側原料として硫酸と硫安の混合溶液を用いる方法の様に、陰極側の電解反応は全て下記反応式(1)の硫酸由来の水素イオンが水素分子となる反応のみが実施される方法が知られている。
2H+ + 2e- → H2 (1)
2NH4
+ + 2e- → 2NH3 + H2 (2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2018/131493号
【文献】特開第2004-99914号公報
【文献】特許第2000-38691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
過硫酸アンモニウムの生産において、通常過硫酸アンモニウムは電解工程で得られた硫酸アンモニウムと過硫酸アンモニウムの混合溶液を、晶析工程で脱水濃縮により過硫酸アンモニウムのみ析出させ、得られたスラリーを固液分離・乾燥することで過硫酸アンモニウム結晶を製造するが、晶析工程で過硫酸アンモニウムのみを効率的に析出させるためには、前段電解工程の生成液について、電解原料である硫酸アンモニウム濃度が目的生成物の過硫酸アンモニウムよりも薄いかつ濃度差が大きいほど有利である。しかし、電解工程で反応原料である硫酸アンモニウム濃度が低い領域では、電流効率が著しく低下するため、電力費用が悪化するという問題があった。
【0006】
特許文献1には、陽極と陰極が陽イオン交換膜で隔てられた電解槽の両側に30~45重量%の硫酸アンモニウム水溶液を供給し、分極剤としてスルファミン酸グアニジンを使用することで、高電流効率で過硫酸アンモニウムを製造しかつアンモニアを併産することが記載されているが、この方法は反応原料の硫酸アンモニウムが濃い30重量%以上の領域についてのみ述べられており、電流効率が低下する硫酸アンモニウム低濃度領域に関しての電流効率については述べられていない。
【0007】
特許文献2には、陽極と陰極を隔てる隔膜 (セパレーター)を使用しない無隔膜電解槽に、6価のクロムイオンを添加した硫酸アンモニウム水溶液もしくは硫酸アンモニウムと過硫酸アンモニウムの混合溶液を供給し電解する事で、陽極で生成された過硫酸アンモニウムが陰極で還元分解される事が抑制され、無隔膜電解でも高い電流効率で過硫酸アンモニウムを製造することが記載されている。しかし、これについても電解原料中の硫酸アンモニウム濃度は30重量%以上と高い領域についてのみ述べられており、硫酸アンモニウムが低濃度の領域については述べられておらず、加えて陽極では高価なダイヤモンド電極を使用するため、工業的に実用化が困難である。
【0008】
特許文献3には、多孔質中性アルミナ隔膜板で仕切った電解槽に、30~44重量%の硫酸アンモニウム水溶液を供給し、分極剤としてチオシアン酸塩、シアン化物、シアン酸塩、フッ化物等を添加して電解する事で、高い電流効率で過硫酸アンモニウムを製造することが記載されているが、これも電解原料中の硫酸アンモニウム濃度は30重量%以上と高い領域についてのみ述べられており、硫酸アンモニウムが低濃度の領域については述べられていない。
【0009】
そこで、本発明は、硫酸アンモニウムの電解反応において、電流効率が著しく低下する硫酸アンモニウムの低濃度領域においても、高い電流効率での過硫酸アンモニウムの製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電流効率が著しく低下する硫酸アンモニウムの低濃度領域においても、高い電流効率で過硫酸アンモニウムを製造する方法の提供に関するものであり、以下の構成を有する。すなわち、本発明は、硫酸アンモニウムを電解して過硫酸アンモニウムを製造する際に、陰極電解液が硫酸アンモニウム水溶液であり、硫酸イオン濃度が、20重量%以下の硫酸アンモニウム水溶液を含む陽極液(以下、陽極電解液と称する場合がある)にカルシウムを含む化合物を添加し、陽極電解液に2~15ppmのカルシウムイオンが存在する状態で電解を行うことを特徴とする、過硫酸アンモニウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硫酸アンモニウムの電解反応において、電流効率が著しく低下する硫酸アンモニウムの低濃度領域においても、高い電流効率で過硫酸アンモニウムを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】外部タンクを有さない電解槽の陽極と陰極に、直接電解原料を供給して過硫酸アンモニウムを製造する方法を示す概略構成図である。
【
図2】陽極と陰極両側に外部タンクを設け、電解液を循環しながら過硫酸アンモニウムを製造する方法を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について、実施の形態とともにさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る過硫酸アンモニウムの製造方法は、硫酸アンモニウムを電解して過硫酸アンモニウムを製造する方法において、陽極液に、カルシウムイオンが存在する状態で電解を行うことを特徴とする方法である。
【0015】
硫酸アンモニウムの電解反応において、電流効率が著しく低下する硫酸アンモニウムの低濃度領域においても、高い電流効率で過硫酸アンモニウムを製造することが可能とするために、本発明では陽極電解液中にカルシウムイオンが存在する状態で電解を行うことが必須である。
【0016】
本発明の陽極電解液中のカルシウムイオン濃度は、2~15ppmが望ましく、5~9ppmがより望ましい。この濃度範囲外での添加では、電流効率低下抑制の効果が薄く高い電流効率を得ることができない場合がある。添加するカルシウムイオンのイオン源としては、カルシウムを含む化合物として、例えば炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、および塩化カルシウム等があり、これらから選ばれる少なくとも1種の化合物でよい。
【0017】
本発明の陽極側原料としては硫酸アンモニウムを用いることができ、硫酸アンモニウムの濃度については特に限定されないが、高い電流効率を維持するために、20重量%以下の濃度が好ましい。また、硫酸アンモニウム以外の原料を含んでもよく、例えば硫酸などの酸、水酸化アンモニウムなどの塩基、分極剤などの水溶性固体を添加しても良い。分極剤については、既知の過硫酸塩の製造に有利なものであれば特に限定されないが、グアニジン、グアニジン塩、チオシアン酸塩、シアン化物、シアン酸塩、フッ化物などが好ましく、グアニジン、グアニジン塩およびチオシアン酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。グアニジン塩としては、スルファミン酸グアニジン、硝酸グアニジン、硫酸グアニジン、リン酸グアニジンまたは炭酸グアニジンなどが挙げられる。分極剤の濃度は、陽極室内において、0.01~1重量%が好ましく、0.01~0.05重量%がより好ましい。分極剤濃度が0.01重量%未満では過硫酸イオンを生成する主反応の優位性を高める効果がほとんど得られず、1重量%を超えると濃度に見合う効果が得られない。
【0018】
本発明の陰極側原料としては、特に制限はないが、硫酸などの酸、水酸化アンモニウムのような塩基、硫酸アンモニウムのような水溶性の塩を含む水溶液を用いることが可能であり、陰極側原料として硫酸アンモニウム水溶液または水酸化アンモニウム水溶液を用いることが好ましい。より好ましくは、電圧の観点から、硫酸アンモニウム水溶液を用いることである。
【0019】
かかる水溶液は、電解質を含有するため電気抵抗を低減可能で、隔膜を隔てた陽極側原料と同一組成のイオンで構成され、陰極反応に供される硫酸由来の水素イオンが存在しないため、アンモニアの副生量を増加させることが可能であり、加えて陰極側の材質選定の面からも酸を用いることより有利である。
【0020】
本発明の陰極側原料の濃度については特に限定されないが、例えば硫酸アンモニウム水溶液であれば、30~45重量%の濃度範囲がより好ましい。このような高濃度硫酸アンモニウム水溶液を陰極側原料として使用することで、工業的に有利に過硫酸アンモニウムを製造することができる。陽極側、陰極側いずれも原料供給、生成物払出方式についてはバッチ方式でもよいが、工業的には連続方式の方が有利である。
【0021】
本発明の陰極側原料を上記の組成とすることにより、陽極液中に硫酸由来の水素イオンが存在する範囲では下記反応式(1)が優先され、陰極側生成物として水素を発生させるが、酸由来の水素イオン欠乏後は下記反応式(2)や下記反応式(3)といった反応が優先される。系内では下記反応式(4)の平衡反応が存在するため、反応式(2)、反応式(3)のいずれの場合においても陰極側生成物として水素およびアンモニアを生成させることができる。
2H+ + 2e- → H2 (1)
2NH4
+ + 2e- → 2NH3 + H2 (2)
2H2O + 2e- → H2 + 2OH- (3)
NH4
+ + OH- ⇔ NH3 + H2O (4)
【0022】
本発明において使用する電解槽は特に限定されるものではなく、例えば隔膜で隔てられた陽極室と陰極室に区切られた電解槽が使用できる。箱形電解槽や、フィルタープレス型電解槽を使用することができる。ここで、陽極室と陰極室をへだてる隔膜は、陽極室にて生成する陰イオンの陰極室への泳動を阻害することが出来る隔膜を用いる。隔膜としては、陽イオン交換膜、中性アルミナ隔膜などが挙げられるが、好ましくは陽イオン交換膜が用いられる。
【0023】
本発明の陽極としては、導電ダイヤモンド電極、または白金族の電極を用いることが好ましく、電極表面に白金が露出した電極(以下「白金電極」と称する)を用いることがより好ましい。白金電極としては、無垢の白金電極、および白金とチタンなどの金属とを圧着させたクラッド鋼を用いることが好ましく、白金メッキ電極と比較して大幅に電流効率を向上させることが可能となる。陰極としては、鉛、ジルコニウム、白金、ニッケル、ステンレス鋼を用いることが好ましく、ニッケルまたはSUS316を用いることがより好ましい。陽極・陰極いずれも電極の形状に特に制限は無いが、泊や金網状に加工した金属を電極として用いることがより好ましい。
【0024】
本発明の陽極の電流密度は、20~500A/dm2の範囲にあることが好ましく、40~80A/dm2の範囲にあることがより好ましい。電流密度が下限値を越えて低くなると、電解効率が悪化し、また生産効率が悪化する場合があるため、電解装置のサイズを大きくすることが好ましい。電流密度が上限値を越えて大きくなると電解反応時の印加電圧が高くなりすぎて経済的に不利となる。電解槽内の温度は、40℃以下に保持することが好ましい。電解槽内温度が40℃を越えて高くなると、電解槽内の塩類が分解する反応を抑制することが困難となる。
【0025】
本発明の製造方法を採用することで、高い電流効率で、過硫酸アンモニウムを製造することができる。好ましい条件においては、電流効率80%以上での過硫酸アンモニウムの製造が可能であり、さらに好ましくは電流効率85%以上である。電流効率の上限は理論上100%である。ここで、電流効率(%)は、(生成した過硫酸イオン(mol)×2)/通電量(F)×100で表される値であり、単位通電量当たりに生成した過硫酸イオンの量を測定することで算出することができる。
【0026】
本発明の陽極室に陽極液を満たした状態で電解反応を実施することにより、陽極液中に過硫酸イオンが生成するため、この陽極生成液を従来技術と同様に、例えば晶析槽へ供給し、溶解度未満となるまで水分を蒸発させることで、過硫酸アンモニウムを析出させることができる。晶析後の過硫酸アンモニウムスラリーは、遠心分離機等の固液分離器により過硫酸アンモニウム結晶と晶析母液とに分離することができる。得られた過硫酸アンモニウム結晶は、粉体乾燥機を用いて乾燥・製品化することができる。また、晶析後の母液は、陽極側原料として工程に再供給することができる。
【0027】
本発明の陰極室については、電解反応の進行とともに電荷移動量分の陽イオンと陽イオンに水和した水分子が陽極から陰極側へ移動し、液量が増加するため、連続運転時には陰極側生成液からこの増加相当分を脱水後に再度陰極側に供給することにより、連続運転が可能となる。陰極側へ移動した水の脱水方法は特に限定されないが、蒸発濃縮または膜分離による脱水が好ましい。脱水量については、電荷移動量に対して一定以上脱水する方が好ましく、陰極生成液に塩等が含まれる場合は脱水により結晶が析出する量以下の脱水量にする方が好ましい。電荷移動量1molあたりの脱水量は、20~90gが好ましく、さらに好ましくは30~80gである。脱水により得られた水にはアンモニアを含んでおり、例えばアンモニア水としてカプロラクタム硫酸塩と混合(中和)し、カプロラクタムと硫酸アンモニウム製造する工程に用いることができる。
【0028】
また、陰極側生成液を脱水し、再度陰極側に供給しながら電解を継続することによって、陽極から陰極側へ電荷移動量分の水素イオンとアンモニウムイオンが移動してくるため、陰極室の陰極生成ガスに水素およびアンモニアの混合ガスおよび/または生成液中に水酸化アンモニウム(アンモニア含有水)を生成する。陰極側で生成される水素・アンモニア混合ガスは一般的に用いられるアンモニアガス分離方法、例えば深冷分離や圧縮分離により分離することができる。
【0029】
分離された水素ガスは圧力変動吸着法等を用いて精製圧縮し、有機化学工業の水添工程や、燃料電池用の燃料として利用することができる。
【0030】
本発明の過硫酸アンモニウムの製造方法は、先に述べた、ラクタム、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルなどの製造工程や、石炭乾留によるコークス製造工程で副生する硫酸アンモニウムを原料として用いることができる。このとき、種々の工程における硫酸アンモニウムを含む副成物には硫酸アンモニウム以外の不純物などが含まれている場合があり、それらの成分や含有量によっては、副反応を起こすことで過硫酸アンモニウムの製造工程における電流効率が低下する場合がある。このような場合は、あらかじめ硫酸アンモニウム中の不純物を精製し、電流効率を低下させる金属イオンを減少させてから過硫酸アンモニウム製造工程に供給することが好ましい。硫酸アンモニウム中の不純物の除去方法としては、例えば無機物であればキレート処理する手法が好ましい。
【0031】
本発明に係る過硫酸アンモニウムの製造方法の具体的な例として、
図1に、陽極と陰極側原料溶液として、硫酸アンモニウム(硫安)溶液を用いた場合について例示する。
図1において、1は電解槽を示しており、電解槽1の陽極側2には陽極側原料として、具体的に他製造工程としてのラクタム製造工程4で副生された硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)が供給され、陽極反応としては、従来技術と同様、下記のように、硫酸イオンが反応(消費)して、過硫酸イオンが発生する。
2SO
4
2- → S
2O
8
2- + 2e
-
溶存イオンとしては、
電解前:NH
4
+、SO
4
2- = 硫酸アンモニウム水溶液
電解後:NH
4
+、S
2O
8
2- = 過硫酸アンモニウム水溶液
となり、アンモニウムイオンが陰極側へ泳動するとともに、過硫酸アンモニウム水溶液が生成していく。この陽極側生成液が濃縮晶析され、晶析母液と結晶とに分離され、結晶は例えば粉体乾燥機により過硫酸アンモニウムの塩として製品化できる。晶析母液は陽極側原料として工程に再供給できる。
【0032】
一方、陰極側3では、陰極反応としては、硫酸アンモニウム水溶液が原料とされている場合について説明するに、硫酸アンモニウムを含む水溶液が循環供給され、反応源の水素イオンが無いか乏しいため、下記反応式の如く陽極より泳動したアンモニウムイオンが反応し、アンモニアと水素が生成していく。また、陰極側に酸がある場合には、下記反応式の如く酸由来の水素イオンが反応(消費)し、水素ガスが発生する。
2NH4
+ + 2e- → 2NH3 + H2
2H+ + 2e- → H2(少量の酸がある場合)
【0033】
電解により陽極から陰極側へ電荷移動量分に相当した水素イオン、アンモニウムイオンおよびこれらイオンに水和した分の水分子が移動する。
【0034】
また、
図2には外部タンク14、15と電解槽の間で液を循環させながら電解する場合について例示する。
図2において、11は電解槽を示しており、電解槽11の陽極側12には陽極側原料として、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)が循環供給され、陽極反応としては、従来技術と同様に、硫酸イオンが反応(消費)して、過硫酸イオンが発生する。この陽極側生成液が濃縮晶析され、晶析母液と結晶とに分離され、結晶は例えば粉体乾燥機により過硫酸アンモニウムの塩として製品化できる。晶析母液は陽極側原料として工程に再供給できる。
【0035】
一方、陰極側13では、陰極反応としては、硫酸アンモニウムを含む水溶液が供給され、反応源の水素イオンが無いか乏しいため、陽極より泳動したアンモニウムイオンが反応し、アンモニアと水素が生成していく。また、陰極側に酸がある場合には、酸由来の水素イオンが反応(消費)し、水素ガスが発生する。電解により陽極から陰極側へ電荷移動量分に相当した水素イオン、アンモニウムイオンおよびこれらイオンに水和した分の水分子が移動する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定を受けるものではない。実施例中の電流効率は(生成した過硫酸イオン(mol)×2)/通電量(F)×100%で表され、単位通電量当たりに生成した過硫酸イオンの割合を表す。
【0037】
(実施例1~5)
隔膜に陽イオン交換膜(ケマーズ株式会社、Nafion(登録商標)117)で区切られた透明アクリル製の電解槽を用い、陽極に80メッシュの白金金網とチタンからなる電極を用い、陰極に80メッシュのSUS316金網からなる電極を用いた。陽極室には、14.6重量%の硫酸アンモニウム(SA)と、30.0重量%の過硫酸アンモニウム(APS)の混合溶液に分極剤としてスルファミン酸グアニジンを0.03重量%、カルシウム(Ca)標準液(関東化学株式会社、カルシウム(Ca):1000mg/L)をカルシウム濃度が2.8~11ppmになるよう添加し、陽極原料として450g供給した。陰極室には30重量%硫酸アンモニウム水溶液を400g供給した。供給後、陽極電流密度を45A/dm2として通電した。電荷移動量は0.13molであった。電荷移動量は通電電流量×通電時間の値で求まる。通電後、得られた陽極生成液中の過硫酸アンモニウム濃度(wt%)を滴定により測定することで過硫酸アンモニウム量(mol)を算出し、通電前の陽極原料に含まれる過硫酸アンモニウム量を差し引くことで得られる過硫酸アンモニウムの生成量(mol)から、電流効率を求めた。カルシウム(Ca)添加量を変えて得られた電流効率と陽極生成液組成を表1に示す。
【0038】
【0039】
(比較例1)
陽極原料にカルシウム(Ca)標準液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして行った。この時得られた電流効率と陽極生成液組成を表2に示す。
【0040】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、硫酸アンモニウムの電解反応による過硫酸アンモニウムの製造において、電流効率が著しく低下する硫酸アンモニウムの低濃度領域においても、高い電流効率で過硫酸アンモニウムを製造することが可能となる。加えて後段の晶析工程で効率的な過硫酸アンモニウムの精製ができるようになるため、極めて工業的に有利な過硫酸アンモニウムの製造をすることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 電解槽
2 陽極側
3 陰極側
4 ラクタム製造工程
11 電解槽
12 陽極側
13 陰極側
14 外部タンク
15 外部タンク