(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】マイクロカプセル
(51)【国際特許分類】
B01J 13/14 20060101AFI20250520BHJP
C08L 75/02 20060101ALI20250520BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20250520BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20250520BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
B01J13/14
C08L75/02
C08G18/75 080
C08G18/32 025
C08K5/07
(21)【出願番号】P 2021044276
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2020082540
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】上田 展嵩
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-000362(JP,A)
【文献】特表2007-528285(JP,A)
【文献】特表2011-524805(JP,A)
【文献】特開2012-061446(JP,A)
【文献】特表2012-512933(JP,A)
【文献】特開2013-006967(JP,A)
【文献】特表2013-530825(JP,A)
【文献】特表2018-518479(JP,A)
【文献】特表2013-530979(JP,A)
【文献】特表2013-525564(JP,A)
【文献】特表2015-501865(JP,A)
【文献】特表2017-518249(JP,A)
【文献】特開2004-224799(JP,A)
【文献】特開昭63-130506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0115261(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/02- 13/22
C11B 1/00- 15/00
C11C 1/00- 5/02
C11D 1/00- 19/00
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
C08G 18/00- 18/87
C08G 71/00- 71/04
A01N 1/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
D06M 10/00- 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00- 23/18
D06M 13/00- 15/715
C09D 1/00- 10/00
C09D 101/00-201/20
C09J 1/00- 5/10
C09J 9/00-201/10
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレアを壁材の構成成分とするマイクロカプセルであって、
前記ポリウレアが、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との
反応物であり、
濃度が1質量%である前記ポリアミン化合物の水溶液のpHが、9~13であり、
前記ポリイソシアネート化合物として、ポリイソシアネート変性体及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを用い、
前記ポリアミン化合物として、環状脂肪族炭化水素基及び鎖状脂肪族炭化水素基をともに有する有機多価アミン化合物を用い、
前記マイクロカプセルが、ホルミル基を有する成分を内包する、マイクロカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルは、壁材が、目的とする成分を芯物質として内包することにより構成されている。マイクロカプセルにおいて内包されている芯物質は、例えば、経時と共に徐々にカプセル外に放出される(このような性質を当該分野においては「徐放性」と称する)ようにするなど、放出特性を調節できることから、有効成分のマイクロカプセル化が種々の分野で検討されている。
【0003】
例えば、天然精油は、これまでに、虫除け剤や抗菌剤等として利用されてきているが、その揮発性が高いために、効果の持続性や取り扱い性に問題点を抱えていた。そこで、天然精油のマイクロカプセル化が試みられている。
天然精油のうち、レモンユーカリ油は、シトロネラールを主成分とし、虫除け剤として利用されている。レモンユーカリ油を内包したマイクロカプセルとしては、これまでに、ポリウレタンを壁材の構成成分とするものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリウレタンを壁材の構成成分とするマイクロカプセルでは、一般的に、ポリウレアを壁材の構成成分とするマイクロカプセルよりも、壁材(膜)の密度が低く、内包されている芯物質がカプセル外へ漏出し易い。したがって、このようなマイクロカプセルでは、芯物質、特に、天然精油のように揮発性が高い成分は、マイクロカプセル化した場合の効果を十分に得られない。そこで、ポリウレアを壁材の構成成分とするマイクロカプセルの開発が望まれている。
【0006】
ポリウレアは、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との重縮合反応により得られ、ポリウレアを壁材の構成成分とするマイクロカプセルは、芯物質の共存下で、この重縮合反応を行うことにより、製造される。
例えば、シトロネラールを芯物質とし、ポリウレアを壁材の構成成分とするマイクロカプセルを製造する場合には、シトロネラールの共存下で、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との重縮合反応を行うことが考えられる。ところが、シトロネラールはホルミル基(-C(=O)-H)を有しているため、重縮合反応を行おうとすると、シトロネラール中のホルミル基と、ポリアミン化合物中のアミノ基(-NH2)と、が反応してしまい、目的外の反応が進行してしまうことで、壁材の形成が不十分となり、目的とするマイクロカプセルが得られない、という問題点があった。
【0007】
本発明は、ポリウレアを壁材の構成成分とし、ホルミル基を有する芯物質を内包したマイクロカプセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリウレアを壁材の構成成分とするマイクロカプセルであって、前記ポリウレアが、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との重縮合物であり、濃度が1質量%である前記ポリアミン化合物の水溶液のpHが、9~13であり、前記マイクロカプセルが、ホルミル基を有する成分を内包する、マイクロカプセルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリウレアを壁材の構成成分とし、ホルミル基を有する芯物質を内包したマイクロカプセルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1における、重縮合工程での生成物(マイクロカプセル水分散体)の、塗工及び乾燥物の撮像データである。
【
図2】比較例1における、重縮合工程での生成物の、塗工及び乾燥物の撮像データである。
【
図3】比較例2における、重縮合工程での生成物の、塗工及び乾燥物の撮像データである。
【
図4】比較例3における、重縮合工程での生成物の、塗工及び乾燥物の撮像データである。
【
図5】比較例5における、重縮合工程での生成物の、塗工及び乾燥物の撮像データである。
【
図6】実施例2における、重縮合工程での生成物(マイクロカプセル水分散体)の、塗工及び乾燥物の撮像データである。
【
図7】実施例3における、重縮合工程での生成物(マイクロカプセル水分散体)の、塗工及び乾燥物の撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<<マイクロカプセル>>
本発明の一実施形態に係るマイクロカプセルは、ポリウレアを壁材の構成成分とし、前記ポリウレアが、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との重縮合物であり、濃度が1質量%である前記ポリアミン化合物の水溶液のpHが、9~13であり、前記マイクロカプセルが、ホルミル基を有する成分を内包する。
【0012】
本実施形態のマイクロカプセルは、ポリウレアを壁材の構成成分とするが、このポリウレアの原料であるポリアミン化合物が、上記のような特定のpH特性を有していることにより、ホルミル基を有する成分の共存下で、このポリアミン化合物とポリイソシアネート化合物との重縮合反応を行っても、ポリアミン化合物と、ホルミル基を有する成分と、の反応が抑制される。その結果、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との重縮合反応が正常に進行するので、壁材が十分に形成され、ポリウレアを壁材の構成成分とし、かつ、ホルミル基を有する成分を芯物質として内包したマイクロカプセルが、不具合を伴うことなく得られる。このように正常な工程を経て製造された、本実施形態のマイクロカプセルは、正常で良好な特性を有する。
【0013】
本実施形態のマイクロカプセルを構成している前記ポリウレアの構造からは、その原料であるポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物を特定できる。本実施形態のマイクロカプセルは、特定されたポリアミン化合物の、その濃度が1質量%である水溶液のpHが、9~13となるものであればよい。
本明細書においては、「壁材の構成成分」を「壁材成分」と称することがある。
【0014】
本明細書において、「ポリウレア」とは、特に断りのない限り、上述の「濃度が1質量%である水溶液のpHが9~13であるポリアミン化合物と、ポリイソシアネート化合物と、の重縮合物」を意味する。
【0015】
本明細書において、「ポリイソシアネート化合物」とは、「1分子中にイソシアネート基(-NCO)を2個以上有する化合物」を意味する。
また、「ポリアミン化合物」とは、「1分子中にアミノ基(-NH2)を2個以上有する化合物」を意味する。
【0016】
<壁材、壁材成分>
前記壁材成分(壁材の構成成分)は、前記ポリイソシアネート化合物と前記ポリアミン化合物との重縮合物であり、ポリウレアであって、オリゴマー又はポリマーである。
壁材成分は、膜形成能を有する。
壁材は、芯物質として、ホルミル基を有する成分を内包し、マイクロカプセルを構成する。
【0017】
前記壁材の膜又は層の厚さは、特に限定されず、例えば、50~1000nmであってもよい。
【0018】
[ポリアミン化合物]
本明細書において、「ポリアミン化合物」とは、特に断りのない限り、上述の「濃度が1質量%である水溶液のpHが9~13であるポリアミン化合物」を意味する。
【0019】
本実施形態において、「濃度が1質量%であるポリアミン化合物の水溶液」とは、「ポリアミン化合物の水溶液において、ポリアミン化合物の水溶液の総質量(質量部)に対する、ポリアミン化合物の含有量(質量部)の割合が、1質量%であるもの」を意味する。
【0020】
本実施形態において、前記ポリアミン化合物は、その1分子中にアミノ基(-NH2)を2個以上有し、かつ、その濃度が1質量%である水溶液のpHが、9~13となるものであれば、特に限定されない。
【0021】
濃度が1質量%であるポリアミン化合物の水溶液のpHは、例えば、10~13、及び11~13のいずれかであってもよいし、9~12、及び9~11のいずれかであってもよい。
【0022】
前記ポリアミン化合物の水溶液のpHは、前記水溶液の温度が20~25℃である場合のpHであることが好ましい。このようなポリアミン化合物を原料とするポリウレアを用いることで、ホルミル基を有する成分を芯物質として内包したマイクロカプセルが、より高収率で得られる。
【0023】
前記ポリアミン化合物がその1分子中に有するアミノ基の数は、2個以上であれば特に限定されないが、2~6個であることが好ましく、2~5個であることがより好ましく、2~4個であることがさらに好ましく、2又は3個であることが特に好ましい。
【0024】
前記ポリアミン化合物は、イソシアネート基又は水酸基を有しないものが好ましく、イソシアネート基及び水酸基をともに有しないものがより好ましい。
【0025】
前記ポリアミン化合物は、有機多価アミン化合物であることが好ましい。
前記有機多価アミン化合物は、鎖状構造のみ有していてもよいし、環状構造のみ有していてもよいし、鎖状構造及び環状構造をともに有していてもよい。前記鎖状構造は、直鎖状構造であってもよいし、分岐鎖状構造であってもよい。前記環状構造は、単環状構造であってもよいし、多環状構造であってもよい。
前記鎖状構造の基としては、例えば、鎖状脂肪族炭化水素基が挙げられる。
前記環状構造の基としては、例えば、環状脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0026】
環状構造を有する有機多価アミン化合物は、環状構造を1個のみ有していてもよいし、2個以上有していてもよく、2個以上有する場合、これら環状構造はすべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ同一であってもよい。また、有機多価アミン化合物が、環状構造を2個以上有する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0027】
前記有機多価アミン化合物で好ましいものとしては、例えば、脂肪族炭化水素の2個以上の水素原子(-H)がアミノ基(-NH2)で置換された構造を有する脂肪族多価アミン化合物;前記脂肪族多価アミン化合物の1個又は2個以上のメチレン基(-CH2-)が、式「-NH-」で表される基で置換された構造を有するNH置換脂肪族多価アミン化合物等が挙げられる。
【0028】
前記ポリアミン化合物において、アミノ基の結合位置は特に限定されない。
例えば、鎖状構造を有する脂肪族多価アミン化合物において、アミノ基は、主鎖又は側鎖の末端部の炭素原子に結合していてもよいし、主鎖又は側鎖の非末端部の炭素原子に結合していてもよい。
例えば、環状構造を有する脂肪族多価アミン化合物において、アミノ基は、環骨格を構成している炭素原子のうち、互いに隣接するもの同士に結合していてもよいし、互いに隣接していないもの同士に結合していてもよい。
前記脂肪族多価アミン化合物において、2個以上のアミノ基は、同一の炭素原子に結合していないことが好ましい。
【0029】
本明細書において、「主鎖」とは、分子中に存在するひと繋がりの鎖状骨格のうち、この鎖状骨格を形成している原子数が最大であるものを意味する。「側鎖」とは、分子中に存在するひと繋がりの鎖状骨格のうち、主鎖に該当しないものを意味する。
【0030】
前記NH置換脂肪族多価アミン化合物において、式「-NH-」で表される基で置換されているメチレン基の位置は、特に限定されないが、アミノ基が結合している炭素原子に隣接していないメチレン基であることが好ましい。
前記NH置換脂肪族多価アミン化合物において、式「-NH-」で表される基で置換されているメチレン基の数は、このアミン化合物の炭素数に応じて異なり、例えば、1~4個、1~3個、又は1~2個のいずれであってもよい。
【0031】
壁材成分の形成時に用いる前記アミン化合物(換言すると、壁材成分が有する、前記アミン化合物由来の構成単位)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0032】
前記ポリアミン化合物は、鎖状構造及び環状構造をともに有する前記有機多価アミン化合物であることが好ましく、環状脂肪族炭化水素基及び鎖状脂肪族炭化水素基をともに有する前記有機多価アミン化合物であることがより好ましく、シクロアルカンの環骨格を構成している互いに異なる2個以上の炭素原子に結合している水素原子が、アミノアルキル基で置換された構造を有する前記有機多価アミン化合物であることがさらに好ましい。
このような有機多価アミン化合物としては、例えば、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0033】
壁材成分の形成時には、1分子中にアミノ基(-NH2)を2個以上有する化合物として、前記ポリアミン化合物(濃度が1質量%である水溶液のpHが9~13であポリアミン化合物)以外に、他の化合物(本明細書においては、「他のポリアミン化合物」と略記することがある)を用いてもよい。
すなわち、前記ポリウレアは、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ポリアミン化合物及び他のポリアミン化合物と、の重縮合物であってもよい。
【0034】
前記他のポリアミン化合物は、その1分子中にアミノ基を2個以上有し、かつ、その濃度が1質量%である水溶液のpHが9未満であるか、又は13超であれば、特に限定されない。
【0035】
壁材成分の形成時に用いる前記他のポリアミン化合物(換言すると、壁材成分が有する、前記他のポリアミン化合物由来の構成単位)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0036】
前記壁材成分において、前記ポリアミン化合物由来の構成単位と、前記他のポリアミン化合物由来の構成単位と、の総数に対する、前記他のポリアミン化合物由来の構成単位の数の割合([壁材成分中の前記他のポリアミン化合物由来の構成単位の数]/([壁材成分中の前記ポリアミン化合物由来の構成単位の数]+[壁材成分中の前記他のポリアミン化合物由来の構成単位の数]×100)は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。前記割合がこのような範囲である前記マイクロカプセルは、より高収率で得られる。
【0037】
[ポリイソシアネート化合物]
本実施形態において、前記ポリイソシアネート化合物は、その1分子中にイソシアネート基(-NCO)を2個以上有するものであれば、特に限定されない。
前記ポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート変性体であってもよい。すなわち、ポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート変性体及びポリイソシアネート非変性体のいずれであってもよい。
【0038】
前記ポリイソシアネート化合物がその1分子中に有するイソシアネート基の数は、2個以上であれば特に限定されないが、2又は3個であることが好ましい。
【0039】
前記ポリイソシアネート化合物において、イソシアネート基の結合位置は特に限定されない。
【0040】
(ポリイソシアネート非変性体)
前記ポリイソシアネート化合物のうち、前記ポリイソシアネート非変性体としては、例えば、脂肪族炭化水素の2個以上の水素原子(-H)がイソシアネート基(-N=C=O)で置換された構造を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物;芳香族炭化水素の2個以上の水素原子がイソシアネート基で置換された構造を有する芳香族ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0041】
前記脂肪族ポリイソシアネート化合物中の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。
本明細書においては、環状の脂肪族基を「脂肪族環式基」と称することがある。環状の脂肪族基(脂肪族環式基)は、環状構造を有し、かつ鎖状(すなわち、直鎖状又は分岐鎖状)構造を有していなくてもよいし、環状構造及び鎖状構造をともに有していてもよく、すなわち、少なくとも環状構造を有する。脂肪族環式基は、単環状及び多環状のいずれであってもよい。
前記芳香族ポリイソシアネート化合物中の芳香族炭化水素基は、単環状及び多環状のいずれであってもよい。
【0042】
鎖状構造を有する前記脂肪族ポリイソシアネート化合物及び芳香族ポリイソシアネート化合物において、イソシアネート基は、前記鎖状構造中の主鎖又は側鎖の末端部の炭素原子に結合していてもよいし、前記鎖状構造中の主鎖又は側鎖の非末端部の炭素原子に結合していてもよい。
環状構造を有し、かつ鎖状構造を有しない前記脂肪族ポリイソシアネート化合物及び芳香族ポリイソシアネート化合物において、イソシアネート基は、環骨格を構成している炭素原子のうち、互いに隣接するもの同士に結合していてもよいし、互いに隣接していないもの同士に結合していてもよい。
前記脂肪族ポリイソシアネート化合物及び芳香族ポリイソシアネート化合物において、2個以上のイソシアネート基は、同一の炭素原子に結合していないことが好ましい。
【0043】
前記脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ペンタメチレンジイソシアネート(本明細書においては、「PDI」と略記することがある)、ヘキサメチレンジイソシアネート(本明細書においては、「HDI」と略記することがある)、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。
前記芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレン-2,4-ジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート(本明細書においては、トリレンジイソシアネートを「TDI」と略記することがある)、キシリレン-1,3-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(本明細書においては、「ポリメリックMDI」と称することがある)等が挙げられる。
【0044】
前記ポリメリックMDIは、下記一般式(P1)で表される。
【0045】
【0046】
一般式(P1)中、nは0以上の整数であればよく、例えば、0~100であってもよい。
【0047】
ポリメリックMDIのNCO含有量は、適宜調節でき、例えば、30~32質量%であってもよい。
【0048】
ポリメリックMDIは、常温で液状あり、その25℃での粘度は、特に限定されないが、150~250mPa・sであることが好ましい。
本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0049】
ポリメリックMDIは、nの数に応じて複数種が存在する。
壁材成分の形成時に用いるポリメリックMDI(換言すると、壁材成分が有する、ポリメリックMDI由来の構成単位)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0050】
(ポリイソシアネート変性体)
前記ポリイソシアネート化合物のうち、前記ポリイソシアネート変性体としては、例えば、前記脂肪族ポリイソシアネート化合物の変性体、前記芳香族ポリイソシアネート化合物の変性体等が挙げられる。
【0051】
前記ポリイソシアネート変性体として、より具体的には、例えば、ジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ビウレット変性体、トリメチロールプロパンアダクト変性体及びアロファネート変性体等が挙げられる。
例えば、前記イソシアヌレート変性体としては、PDIのイソシアヌレート変性体、HDIのイソシアヌレート変性体等が挙げられる。前記ビウレット変性体としては、HDIのビウレット変性体等が挙げられる。
本明細書においては、例えば、「ジイソシアネートのイソシアヌレート変性体」を「ジイソシアネート-イソシアヌレート変性体」と記載することがある。他の前記ジイソシアネート変性体も同様である。
【0052】
壁材成分の形成時に用いる前記ポリイソシアネート化合物(換言すると、壁材成分が有する、前記ポリイソシアネート化合物由来の構成単位)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
例えば、壁材成分は、ポリイソシアネート化合物由来の構成単位として、ポリイソシアネート非変性体由来の構成単位のみを1種又は2種以上有していてもよいし、ポリイソシアネート変性体由来の構成単位のみを1種又は2種以上有していてもよいし、ポリイソシアネート非変性体由来の構成単位及びポリイソシアネート変性体由来の構成単位を、ともに1種又は2種以上有していてもよい。
【0053】
前記ポリイソシアネート化合物は、前記ポリイソシアネート変性体であることが好ましく、前記ポリイソシアネートのイソシアヌレート変性体であることがより好ましい。
このようなポリイソシアネートのイソシアヌレート変性体としては、例えば、PDI-イソシアヌレート変性体、HDI-イソシアヌレート変性体、TDI-イソシアヌレート変性体等が挙げられる。
【0054】
本実施形態においては、前記ポリイソシアネート化合物として、ポリメリックMDIと、ポリメリックMDI以外のポリイソシアネート化合物と、を併用することも好ましい。すなわち、壁材成分は、ポリイソシアネート化合物由来の構成単位として、ポリメリックMDI由来の構成単位と、ポリメリックMDI以外のポリイソシアネート化合物由来の構成単位と、をともに1種又は2種以上有することが好ましい。このような壁材成分を有するマイクロカプセルは、取り扱い性に優れるなど、性状が向上し、さらに、保管時の安定性が高く、特に加熱条件下での保管時(加熱保管時)の安定性が高く、耐熱性を有する。
【0055】
上記のようにポリメリックMDIと、ポリメリックMDI以外のポリイソシアネート化合物と、を併用する場合、ポリメリックMDIと前記ポリイソシアネート変性体を併用することが好ましく、ポリメリックMDIと、PDI-イソシアヌレート変性体、HDI-イソシアヌレート変性体又はTDI-イソシアヌレート変性体と、を併用することがより好ましい。このようなポリイソシアネート化合物を併用することで、上記のマイクロカプセルの保管時の安定性が、より高くなる。
【0056】
ポリメリックMDIと、ポリメリックMDI以外のポリイソシアネート化合物と、を併用する場合、前記壁材成分において、ポリメリックMDI由来の構成単位の量は、ポリメリックMDI以外のポリイソシアネート化合物由来の構成単位の量に対して、0.1~2質量倍であることが好ましく、0.2~1.5質量倍であることがより好ましく、0.3~1質量倍であることがさらに好ましい。ポリメリックMDI由来の構成単位の量が、前記下限値以上であることで、ポリメリックMDI由来の構成単位を有することにより得られる上述の効果がより高くなる。ポリメリックMDI由来の構成単位の量が、前記上限値以下である壁材成分は、その形成がより容易となる。
【0057】
前記壁材成分は、前記ポリウレア(濃度が1質量%である水溶液のpHが9~13であポリアミン化合物と、ポリイソシアネート化合物と、の重縮合物)のみを含んでいてもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ポリウレアと、それ以外の他のオリゴマー及びポリマーのいずれか一方又は両方と、を含んでいてもよい。
【0058】
前記他のオリゴマー又はポリマーとしては、例えば、前記ポリウレア(濃度が1質量%である水溶液のpHが9~13であポリアミン化合物と、ポリイソシアネート化合物と、の重縮合物)以外のポリウレア(本明細書においては、「他のポリウレア」と略記することがある)と、前記ポリウレア及び他のポリウレアのいずれにも該当しない樹脂成分と、が挙げられる。
【0059】
前記壁材成分が含む前記他のオリゴマー及びポリマーは、いずれも、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0060】
本実施形態のマイクロカプセルにおいて、壁材成分の総質量に対する、壁材成分中の前記他のオリゴマー及びポリマーの総含有量の割合([マイクロカプセルにおける、壁材成分中の前記他のオリゴマー及びポリマーの総含有量(質量部)]/[マイクロカプセルにおける、壁材成分の総質量(質量部)]×100)は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
換言すると、前記マイクロカプセルにおいて、壁材成分の総質量に対する、壁材成分中の前記ポリウレアの含有量の割合([マイクロカプセルにおける、壁材成分中の前記ポリウレアの含有量(質量部)]/[マイクロカプセルにおける、壁材成分の総質量(質量部)]×100)は、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
これらの割合がこのような範囲である前記マイクロカプセルは、より高収率で得られる。
【0061】
<ホルミル基を有する成分>
前記ホルミル基(-C(=O)-H)を有する成分は、本実施形態のマイクロカプセルが内包する芯物質であり、ホルミル基を有していれば、特に限定されない。
【0062】
前記ホルミル基を有する成分は、油性成分(ホルミル基を有する油性成分)であることが好ましい。芯物質が油性成分である前記マイクロカプセルは、より容易に製造できる。
本実施形態において、「油性成分」とは、「SP値(溶解パラメータ)が8~10(cal/cm3)1/2である成分」を意味する。
【0063】
前記油性成分としては、例えば、精油等が挙げられる。
【0064】
前記ホルミル基を有する成分は、常温で液状であることが好ましい。
【0065】
前記ホルミル基を有する成分は、例えば、天然物から取り出された天然成分と、合成成分と、のいずれであってもよい。
好ましい前記ホルミル基を有する成分としては、例えば、天然精油等が挙げられる。
【0066】
本実施形態のマイクロカプセルが内包している、前記ホルミル基を有する成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0067】
前記マイクロカプセルの平均粒子径は、特に限定されず、例えば、0.1~100μmであってもよい。
【0068】
本明細書において「平均粒子径」とは、特に断りのない限り、粒子について、粒度分布計を用いて測定された、体積粒度分布の中位径を意味する。
【0069】
<<マイクロカプセルの製造方法>>
前記マイクロカプセルは、前記ホルミル基を有する成分の共存下において、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ポリアミン化合物と、必要に応じて前記他のポリアミン化合物と、を重縮合反応させることにより、製造できる。
【0070】
本実施形態においては、前記ポリイソシアネート化合物の反応対象物として前記ポリアミン化合物のみを選択するか、又は、前記ポリイソシアネート化合物の主たる反応対象物として前記ポリアミン化合物を選択することにより、芯物質となる成分がホルミル基を有していても、目的とするマイクロカプセルが、不具合を伴うことなく得られる。
【0071】
重縮合反応時には、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ポリアミン化合物と、前記他のポリアミン化合物と、のいずれにも該当しない他の成分を用いてもよい。
前記他の成分としては、例えば、溶媒、乳化剤等が挙げられる。
例えば、水と疎水性成分の共存下で、重縮合反応を行うことにより、重縮合を界面重縮合として行うことができる。
【0072】
前記他の成分のうち、溶媒としては、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。
前記有機溶媒は、親水性溶媒及び疎水性溶媒のいずれであってもよいが、疎水性溶媒であることが好ましい。
前記疎水性溶媒としては、例えば、アルコール、アミド、ニトリル、ケトン、エステル、エーテル、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、フェノール類(フェノール性水酸基を有する化合物)、硫化炭素、カルボン酸等が挙げられる。
【0073】
前記他の成分のうち、乳化剤としては、公知のものが挙げられる。
前記乳化剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、メチルセルロース、カゼイン、アラビアゴム、ゼラチン、ロート油、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、エチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念である。
【0074】
重縮合反応時の反応液の乳化状態がより良好で、マイクロカプセルをより容易に製造できる点では、前記乳化剤は、ポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0075】
重縮合反応時に用いる、前記ホルミル基を有する成分、前記ポリイソシアネート化合物、前記ポリアミン化合物、前記他のポリアミン化合物、及び前記他の成分は、いずれも、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0076】
重縮合反応時においては、前記ポリイソシアネート化合物の使用量は、前記ホルミル基を有する成分の使用量100質量部に対して、例えば、好ましくは10~50質量部、より好ましくは12.5~47.5質量部、さらに好ましくは15~45質量部であり、20~40質量部であってもよいし、25~45質量部であってもよい。前記ポリイソシアネート化合物の使用量が前記下限値以上であることで、前記ホルミル基を有する成分の内包量が多いマイクロカプセルをより安定して製造できる。前記ポリイソシアネート化合物の使用量が前記上限値以下であることで、前記ポリイソシアネート化合物の過剰使用を抑制しつつ、前記ホルミル基を有する成分の内包量が多いマイクロカプセルをより安定して製造できる。
【0077】
先に説明したように、前記ポリイソシアネート化合物として、ポリメリックMDIと、ポリメリックMDI以外のポリイソシアネート化合物と、を併用する場合には、重縮合反応時における、ポリメリックMDI以外のポリイソシアネート化合物の使用量に対する、ポリメリックMDIの使用量(質量倍)は、先に説明した、前記壁材成分における、ポリメリックMDI以外のポリイソシアネート化合物由来の構成単位の量に対する、ポリメリックMDI由来の構成単位の量(質量倍)と同じとすることが好ましい。
【0078】
重縮合反応時においては、前記ポリイソシアネート化合物の使用量と、前記ポリアミン化合物及び他のポリアミン化合物の合計使用量は、[前記ポリアミン化合物中のアミノ基、及び前記他のポリアミン化合物中のアミノ基、の合計モル数]:[前記ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基のモル数]のモル比が、10:90~60:40となる量であることが好ましく、20:80~40:60となる量であることがより好ましい。前記アミノ基の合計モル数が、前記ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基のモル数よりも少なくなる様に設定すると、より高品質なマイクロカプセルが得られる。
【0079】
重縮合反応時において、前記ポリアミン化合物及び他のポリアミン化合物の合計使用量(モル)に対する、前記他のポリアミン化合物の使用量(モル)の割合([前記他のポリアミン化合物の使用量(モル)]/([前記ポリアミン化合物の使用量(モル)]+[前記他のポリアミン化合物の使用量(モル)])×100)は、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、3モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが特に好ましい。前記割合がこのような範囲である前記マイクロカプセルは、より高収率で得られる。
【0080】
重縮合反応時における、前記他の成分の使用量は、その種類に応じて適宜調節できる。
例えば、前記他の成分が溶媒である場合には、他の成分(溶媒)の使用量は、前記ホルミル基を有する成分と、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ポリアミン化合物と、前記他のポリアミン化合物と、の総使用量100質量部に対して、20~280質量部であることが好ましく、例えば、20~150質量部、25~100質量部、及び30~70質量部のいずれかであってもよいし、150~280質量部、175~270質量部、及び200~260質量部のいずれかであってもよい。
【0081】
例えば、前記他の成分が乳化剤である場合には、乳化剤の使用量は、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ポリアミン化合物と、前記他のポリアミン化合物と、の総使用量100質量部に対して、20~45質量部であることが好ましく、例えば、25~40質量部、27.5~37.5質量部、及び30~35質量部のいずれかであってもよいし、20~25質量部、及び20~23質量部のいずれかであってもよい。前記使用量が前記下限値以上であることで、重縮合反応時の反応液の乳化状態がより良好となる。前記使用量が前記上限値以下であることで、乳化剤の過剰使用が抑制される。
【0082】
例えば、前記他の成分が、溶媒と、乳化剤と、のいずれにも該当しない成分である場合には、他の成分の使用量は、前記ホルミル基を有する成分と、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ポリアミン化合物と、前記他のポリアミン化合物と、の総使用量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、例えば、5質量部以下、及び1質量部以下のいずれかであってもよい。
【0083】
重縮合反応を行うときの温度(すなわち反応温度)は、特に限定されないが、60~110℃であることが好ましく、例えば、65~100℃、及び70~90℃のいずれかであってもよい。
【0084】
重縮合反応を行う時間(すなわち反応時間)は、0.5~5時間であることが好ましく、例えば、1~4時間、及び1.5~3時間のいずれかであってもよい。
【0085】
重縮合反応後は、例えば、前記マイクロカプセルが水分散体等の分散体として得られる。
【0086】
得られたマイクロカプセルは、そのまま目的とする用途で用いてもよいし、必要に応じて公知の方法で後処理、精製等を行ってから、目的とする用途で用いてもよく、分散媒を除去してから目的とする用途で用いてもよい。
【0087】
重縮合反応時に、水以外の前記溶媒を用いた場合には、得られたマイクロカプセルは、前記ホルミル基を有する成分以外に、この溶媒も内包し得る。また、重縮合反応の条件によっては、前記マイクロカプセルは、前記ホルミル基を有する成分と、前記溶媒と、のいずれにも該当しない成分(本明細書においては、「他の芯物質」と略記することがある)も、内包し得る。
【0088】
前記マイクロカプセルが内包する、前記溶媒及び他の芯物質は、いずれも、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0089】
前記マイクロカプセルの、前記ホルミル基を有する成分、溶媒、及び他の芯物質の内包量は、マイクロカプセルの製造条件によって調節できる。
【0090】
重縮合反応時の撹拌手段の回転速度(換言すると、反応液の撹拌速度)は、例えば、300~900rpm、及び400~700rpmのいずれかであってもよい。
例えば、重縮合反応時における前記ホルミル基を有する成分の使用量が、30~100gである場合、このような撹拌速度は、特に好適である。ただし、前記ホルミル基を有する成分の使用量は、これらに限定されない。
【0091】
より具体的なマイクロカプセルの製造方法の一例としては、例えば、水及び乳化剤を含有する第1溶液に、前記ホルミル基を有する成分と、前記ポリイソシアネート化合物と、を含有する第2溶液を加えて、乳化液を得る工程(本明細書においては、「乳化工程」と略記することがある)と、前記乳化液に、水及び前記ポリアミン化合物を加えるか、又は、水及び前記ポリアミン化合物を含有する第3溶液を加えて、重縮合反応を行う工程(本明細書においては、「重縮合工程」と略記することがある)と、を有する製造方法(本明細書においては、「製造方法(I)」と称することがある)が挙げられる。ただし、マイクロカプセルの製造方法は、この製造方法(I)に限定されない。
以下、製造方法(I)について説明する。
【0092】
<乳化工程>
製造方法(I)の前記乳化工程においては、前記第1溶液に前記第2溶液を加えて、乳化液を得る。
【0093】
[第1溶液]
前記第1溶液は、水及び乳化剤を含有しており、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、水と、乳化剤と、のいずれにも該当しない前記他の成分を含有していてもよい。
【0094】
第1溶液の調製時に用いる前記乳化剤及び他の成分は、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0095】
第1溶液において、その総質量に対する、乳化剤の含有量の割合(すなわち、第1溶液の乳化剤の濃度)は、特に限定されないが、1~15質量%であることが好ましく、2~8質量%であることがより好ましい。
【0096】
第1溶液が前記他の成分を含有する場合、他の成分の含有量は、目的に応じて適宜調節できる。
【0097】
第1溶液は、水と、乳化剤と、必要に応じて前記他の成分と、を配合することにより得られる。
第1溶液は、水に乳化剤を加えることにより、調製することが好ましい。前記他の成分を用いる場合には、その加えるタイミングと、加える対象は、他の成分の種類に応じて、適宜調節できる。
第1溶液の調製時には、例えば、すべての成分を配合した後、好ましくは80~100℃で、好ましくは0.5~3時間、加熱撹拌した後、27℃以下等の常温になるまで冷却することにより、第1溶液を調製してもよい。
【0098】
[第2溶液]
前記第2溶液は、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ホルミル基を有する成分と、を含有しており、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ホルミル基を有する成分と、のいずれにも該当しない前記他の成分と、を含有していてもよい。
【0099】
第2溶液の調製時に用いる前記ポリイソシアネート化合物、前記ホルミル基を有する成分、及び他の成分は、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0100】
製造方法(I)においては、第2溶液において、前記ポリイソシアネート化合物の含有量が、前記ホルミル基を有する成分の含有量100質量部に対して、例えば、好ましくは15~45質量部であってもよく、20~40質量部、及び25~35質量部のいずれかであってもよいし、25~45質量部、及び35~45質量部のいずれかであってもよいし、15~35質量部、及び15~25質量部のいずれかであってもよい。
【0101】
第2溶液における前記他の成分としては、例えば、溶媒が挙げられる。
前記溶媒を用いることで、第2溶液において、その含有成分の溶解性を調節できる。
第2溶液における前記溶媒としては、水、有機溶媒等が挙げられ、前記有機溶媒は、先に説明したものと同じである。
【0102】
第2溶液が前記他の成分を含有する場合、前記他の成分の含有量は、目的に応じて適宜調節できる。
【0103】
第2溶液は、前記ポリイソシアネート化合物と、前記ホルミル基を有する成分と、必要に応じて前記他の成分と、を配合することにより得られる。
前記ホルミル基を有する成分が常温で液状である場合、第2溶液は、前記ポリイソシアネート化合物に、前記ホルミル基を有する成分と、必要に応じて他の成分と、を加えることにより、調製することが好ましい。
第2溶液の調製時には、例えば、原料(前記ポリイソシアネート化合物、前記ホルミル基を有する成分、前記他の成分)の配合から、すべての成分を配合した後の撹拌までを、好ましくは15~28℃で行うことができる。すべての成分を配合した後の撹拌時間は、例えば、1~60分であってもよい。
【0104】
前記乳化工程において、前記第1溶液に前記第2溶液を加えるときには、第2溶液を一括添加してもよいし、滴下してもよい。
【0105】
前記乳化工程においては、例えば、前記第1溶液に前記第2溶液を加える初期段階から、加えた後の撹拌までを、好ましくは15~28℃で行うことができる。第1溶液に第2溶液を加えた後の撹拌時間は、例えば、1~60分であってもよい。
【0106】
前記乳化工程においては、前記第1溶液に前記第2溶液を加えて、得られた混合液を撹拌することにより、乳化液を得るときに、前記混合液の撹拌速度を調節することにより、マイクロカプセルの粒子径(平均粒子径)を調節できる。より具体的には、上述の撹拌速度が遅いほど、マイクロカプセルの粒子径は大きくなり、上述の撹拌速度が速いほど、マイクロカプセルの粒子径は小さくなる傾向がある。
【0107】
前記乳化液を得るときの前記混合液の撹拌速度(換言すると、撹拌手段の回転速度)は、例えば、3000~10000rpm、及び4000~8000rpmのいずれかであってもよい。
例えば、乳化時における、前記ホルミル基を有する成分の使用量が、30~100gである場合、このような撹拌速度は、特に好適である。ただし、前記ホルミル基を有する成分の使用量は、これらに限定されない。
【0108】
<重縮合工程>
前記重縮合工程においては、前記乳化工程で得られた前記乳化液に、水及び前記ポリアミン化合物を加えるか、又は、前記第3溶液を加えて、重縮合反応を行う。
【0109】
[第3溶液]
前記第3溶液は、水と、前記ポリアミン化合物と、必要に応じて前記他のポリアミン化合物と、を含有しており、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、これら成分(水、前記ポリアミン化合物、前記他のポリアミン化合物)のいずれにも該当しない前記他の成分と、を含有していてもよい。
【0110】
第3溶液の調製時に用いる前記ポリアミン化合物、他のポリアミン化合物及び他の成分は、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0111】
第3溶液において、その総質量に対する、前記ポリアミン化合物及び他のポリアミン化合物の合計含有量の割合(すなわち、第3溶液の、前記ポリアミン化合物及び他のポリアミン化合物の合計濃度)は、特に限定されないが、例えば、5~40質量%、及び10~30質量%のいずれかであってもよいし、5~20質量%であってもよい。
【0112】
第3溶液を用いない場合には、水と、前記ポリアミン化合物と、必要に応じて前記他のポリアミン化合物と、を前記乳化液に加え、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、これら成分(水、前記ポリアミン化合物、前記他のポリアミン化合物)のいずれにも該当しない前記他の成分を加えてもよい。
【0113】
第3溶液を用いない場合、前記乳化液に加える、前記ポリアミン化合物、他のポリアミン化合物及び他の成分は、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0114】
製造方法(I)において、第3溶液を用いる場合には、第1溶液中の乳化剤の量と、第2溶液中の前記ポリイソシアネート化合物、及び前記ホルミル基を有する成分の量と、第3溶液中の前記ポリアミン化合物、及び前記他のポリアミン化合物の量と、が先に説明した関係となるように、第1溶液と、第2溶液と、第3溶液と、の使用量を調節すればよい。
製造方法(I)において、第3溶液を用いない場合には、第1溶液中の乳化剤の量と、第2溶液中の前記ポリイソシアネート化合物、及び前記ホルミル基を有する成分の量と、前記乳化液に加える前記ポリアミン化合物、及び前記他のポリアミン化合物の量と、が先に説明した関係となるように、第1溶液と、第2溶液と、前記ポリアミン化合物と、前記他のポリアミン化合物と、の使用量を調節すればよい。
【0115】
第3溶液が前記他の成分を含有する場合、他の成分の含有量は、目的に応じて適宜調節できる。
第3溶液を用いずに、前記他の成分を用いる場合、他の成分の使用量は、目的に応じて適宜調節できる。
【0116】
第3溶液は、水と、前記ポリアミン化合物と、必要に応じて前記他のポリアミン化合物と、必要に応じて前記他の成分と、を配合することにより得られる。
第3溶液は、例えば、前記ポリアミン化合物に水を加えることにより、調製してもよいし、水に前記ポリアミン化合物を加えることにより、調製してもよい。前記他のポリアミン化合物又は他の成分を用いる場合には、その加えるタイミングと、加える対象は、前記他のポリアミン化合物又は他の成分の種類に応じて、適宜調節できる。
第3溶液の調製時には、例えば、すべての成分を配合した後、好ましくは15~28℃で、好ましくは1~60分、撹拌することにより、第3溶液を調製してもよい。
【0117】
前記重縮合工程において、前記乳化液に第3溶液を加えるときには、第3溶液を一括添加してもよいし、滴下してもよい。
前記重縮合工程において、第3溶液を用いずに、前記乳化液に、水と、前記ポリアミン化合物と、必要に応じて前記他のポリアミン化合物と、必要に応じて前記他の成分と、を加えるときには、これらの成分を、それぞれ一括添加してもよいし、分割添加してもよい。
【0118】
製造方法(I)においては、前記重縮合工程において、反応温度、反応時間、及び反応液の撹拌速度を、先に説明した、重縮合反応を行うときの反応温度、反応時間、及び反応液の撹拌速度に設定することが好ましい。
【0119】
製造方法(I)においては、前記重縮合工程を行うことにより、前記マイクロカプセルが水分散体として得られる。
【0120】
本実施形態のマイクロカプセルは、その製造方法によらず、経時と共に、内包された前記ホルミル基を有する成分を徐々に外部に放出する、徐放性を有するものとすることが可能である。したがって、前記マイクロカプセルは、前記ホルミル基を有する成分の揮発性が高い場合であっても、ホルミル基を有する成分の作用を長期に渡って持続させることができる。また、前記マイクロカプセルは、前記ホルミル基を有する成分の揮発性が高い場合であっても、取り扱い性に優れる。
【0121】
前記マイクロカプセルは、例えば、虫除け剤、抗菌剤等として好適である。
例えば、前記マイクロカプセルを含有する液状組成物を調製するか、又は、上述の製造方法で得られた、重縮合反応の生成物をそのまま用いることで、液状の虫除け剤又は抗菌剤等が得られる。さらに、これら液状の虫除け剤又は抗菌剤等を塗工し、乾燥させることで、層状(例えばフィルム状)の虫除け剤又は抗菌剤等が得られる。
また、前記マイクロカプセルを含有する樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を成形することで、シート状等の固形の虫除け剤又は抗菌剤が得られる。
【実施例】
【0122】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されない。
【0123】
[実施例1]
<<マイクロカプセルの製造>>
蒸留水(144g)にポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製「JP-24」、ケン化度:87~89)(6g)を添加し、90℃で1時間撹拌して溶液とし、これを25℃まで冷却することにより、濃度が4質量%のポリビニルアルコール水溶液(前記第1溶液に相当)を得た。
【0124】
別途、常温下で、PDI-イソシアヌレート変性体(三井化学社製「スタビオD-370N」)(15g)に、レモンユーカリ油(Ash社製、主成分:シトロネラール)(50g)を添加し、透明になるまで撹拌することにより、これらの成分がすべて溶解している混合溶液(前記第2溶液に相当)を得た。
【0125】
常温下で、前記ポリビニルアルコール水溶液の全量に、前記混合溶液の全量を添加し、ホモジナイザー(プライミクス社製)を用いて、回転速度7000rpmの条件で3分撹拌することにより、乳化液を得た(前記乳化工程に相当)。
【0126】
得られた乳化液の全量に、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(東京化成社製)(4g)と、蒸留水(20g)とを添加し、80℃で、回転速度500rpmでアンカー翼を2時間回転させて、反応液を撹拌することにより、界面重縮合を行った(前記重縮合工程に相当)。この間、反応物の性状を、色味及び粘性の観点で観察した。結果を表2に示す。また、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンの構造と、その濃度1質量%水溶液のpHを表1に示す。
【0127】
以上により、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、PDI-イソシアヌレート変性体と、の重縮合物(すなわちポリウレア)を壁材成分とし、芯物質としてレモンユーカリ油を壁材が内包したマイクロカプセルを、水分散体として得た。
【0128】
<<マイクロカプセルの評価>>
<マイクロカプセルの生成度合いの評価>
ワイヤーバー(No.30)を用いて、上記で得られた重縮合工程での生成物(すなわち、マイクロカプセル水分散体)を上質紙上に塗工し、オーブンを用いて、105℃で1分乾燥させた。
次いで、走査電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて、2500倍又は1000倍の倍率で、得られた乾燥物を観察した。そして、壁材の形成度合いを確認することにより、マイクロカプセルの生成度合いを、下記基準に従って評価した。結果を表2に示す。また、このとき取得した、前記乾燥物の撮像データを
図1に示す。
[評価基準]
A:壁材が正常に形成されており、マイクロカプセルが正常に生成している。
B:壁材が正常に形成されておらず、マイクロカプセルが生成していない。
【0129】
<<マイクロカプセルの製造及び評価>>
[比較例1]
表1に示すように、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(4g)に代えて、1,3-ジアミノプロパン(東京化成社製)(4g)を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、マイクロカプセルの製造及び評価を試みた。ただし、前記走査電子顕微鏡を用いた乾燥物の観察は、2500倍ではなく2000倍の倍率で行った。結果を表2及び
図2に示す。
図2は、本比較例で得られた乾燥物の撮像データである。
【0130】
[比較例2]
表1に示すように、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(4g)に代えて、ジエチレントリアミン(東京化成社製)(4g)を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、マイクロカプセルの製造及び評価を試みた。結果を表2及び
図3に示す。
図3は、本比較例で得られた乾燥物の撮像データである。
【0131】
[比較例3]
表1に示すように、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(4g)に代えて、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン(東京化成社製)(4g)を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、マイクロカプセルの製造及び評価を試みた。結果を表2及び
図4に示す。
図4は、本比較例で得られた乾燥物の撮像データである。
【0132】
[比較例4]
表1に示すように、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(4g)に代えて、尿素(東京化成社製)(4g)を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、マイクロカプセルの製造及び評価を試みた。結果を表2に示す。
【0133】
[比較例5]
表1に示すように、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(4g)に代えて、アジピン酸ジヒドラジド(東京化成社製)(4g)を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、マイクロカプセルの製造及び評価を試みた。結果を表2及び
図5に示す。
図5は、本比較例で得られた乾燥物の撮像データである。
【0134】
[実施例2]
<<マイクロカプセルの製造>>
実施例1の場合と同じ方法で、濃度が4質量%のポリビニルアルコール水溶液(前記第1溶液に相当)を調製した。
【0135】
別途、常温下で、PDI-イソシアヌレート変性体(三井化学社製「スタビオD-370N」)(15g)と、ポリメリックMDI(東ソー社製「ミリオネートMR-200」、NCO含有量31.3質量%)(7.5g)と、の混合物に、レモンユーカリ油(Ash社製、主成分:シトロネラール)(50g)を添加し、透明になるまで撹拌することにより、これらの成分がすべて溶解している混合溶液(前記第2溶液に相当)を得た。
【0136】
常温下で、前記ポリビニルアルコール水溶液の全量に、前記混合溶液の全量を添加し、ホモジナイザー(プライミクス社製)を用いて、回転速度7000rpmの条件で3分撹拌することにより、乳化液を得た(前記乳化工程に相当)。
【0137】
得られた乳化液の全量に、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(東京化成社製)(5.5g)と、蒸留水(50g)とを添加し、80℃で、回転速度500rpmでアンカー翼を2時間回転させて、反応液を撹拌することにより、界面重縮合を行った(前記重縮合工程に相当)。この間、反応物の性状を、色味及び粘性の観点で観察した。結果を表1に示す。
【0138】
以上により、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、PDI-イソシアヌレート変性体と、の重縮合物(すなわちポリウレア)、及び、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、ポリメリックMDIと、の重縮合物(すなわちポリウレア)を壁材成分とし、芯物質としてレモンユーカリ油を壁材が内包したマイクロカプセルを、水分散体として得た。
【0139】
<<マイクロカプセルの評価>>
上記で得られたマイクロカプセルについて、実施例1の場合と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。また、このとき取得した、前記乾燥物の撮像データを
図6に示す。
【0140】
[実施例3]
<<マイクロカプセルの製造>>
蒸留水(240g)にポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製「JP-24」、ケン化度:87~89)(10g)を添加し、90℃で1時間撹拌して溶液とし、これを25℃まで冷却することにより、濃度が4質量%のポリビニルアルコール水溶液(前記第1溶液に相当)を得た。
【0141】
別途、常温下で、PDI-イソシアヌレート変性体(三井化学社製「スタビオD-370N」)(15g)と、ポリメリックMDI(東ソー社製「ミリオネートMR-200」)(7.5g)と、の混合物に、レモンユーカリ油(Ash社製、主成分:シトロネラール)(100g)を添加し、透明になるまで撹拌することにより、これらの成分がすべて溶解している混合溶液(前記第2溶液に相当)を得た。
【0142】
常温下で、前記ポリビニルアルコール水溶液の全量に、前記混合溶液の全量を添加し、ホモジナイザー(プライミクス社製)を用いて、回転速度7000rpmの条件で3分撹拌することにより、乳化液を得た(前記乳化工程に相当)。
【0143】
得られた乳化液の全量に、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(東京化成社製)(5.5g)と、蒸留水(50g)とを添加し、80℃で、回転速度500rpmでアンカー翼を2時間回転させて、反応液を撹拌することにより、界面重縮合を行った(前記重縮合工程に相当)。この間、反応物の性状を、色味及び粘性の観点で観察した。結果を表1に示す。
【0144】
以上により、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、PDI-イソシアヌレート変性体と、の重縮合物(すなわちポリウレア)、及び、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、ポリメリックMDIと、の重縮合物(すなわちポリウレア)を壁材成分とし、芯物質としてレモンユーカリ油を壁材が内包したマイクロカプセルを、水分散体として得た。
【0145】
<<マイクロカプセルの評価>>
上記で得られたマイクロカプセルについて、実施例1の場合と同じ方法で評価した。結果を表1に示す。また、このとき取得した、前記乾燥物の撮像データを
図7に示す。
【0146】
表1において、「濃度1質量%水溶液のpH」として示す、濃度が1質量%であるポリアミン化合物の水溶液のpHは、前記水溶液の温度が25℃である場合のpHである。
【0147】
【0148】
【0149】
上記結果と
図1~
図3から明らかなように、実施例1~3においては、マイクロカプセルが十分な量で正常に生成していた。
【0150】
実施例1においては、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンとPDI-イソシアヌレート変性体との重縮合反応時に、反応物の色味がやや赤くなったが、赤みがそれ以上に強くなることはなかった。また、重縮合反応時に、反応物の粘性が高くなることはなく、粘性に変化は認められなかった。このように、反応物の性状の変化は少なかった。
1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンの前記水溶液のpHは、12であった。
【0151】
実施例2~3においては、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンとPDI-イソシアヌレート変性体との重縮合反応時、及び、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンとポリメリックMDIとの重縮合反応時に、反応物の色味が赤くならなかった。また、重縮合反応時に、反応物の粘性が高くなることはなく、粘性に変化は認められなかった。このように、反応物の性状の変化はほとんどなかった。
【0152】
これに対して、上記結果と
図2~4から明らかなように、比較例1~3においては、マイクロカプセルがほとんど生成していなかった。
比較例1~3においては、1,3-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン又はN,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミンと、PDI-イソシアヌレート変性体と、の重縮合反応時に、反応物の色味がはっきりと赤くなった。また、重縮合反応時に、反応物の粘性が高くなった。これらは、上記のポリアミン化合物が、レモンユーカリ油の主成分であるシトロネラールと反応してしまい、その生成物の影響であると推測された。
比較例1~3において、1,3-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン又はN,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミンの、前記水溶液のpHは、14超であった。
【0153】
比較例4においては、マイクロカプセルが全く生成していなかった。
比較例4においては、反応時に反応物の色味が変化せず、反応物の粘性にも変化は認められなかった。これは、尿素の反応性が低過ぎて、重縮合反応がほとんど進行しなかったためであると推測された。
比較例4においては、重縮合工程での生成物を上質紙上に塗工した後、オーブンを用いても乾燥させることができず。油性成分が認められた。この油性成分は、レモンユーカリ油であった。したがって、本比較例においては、撮像データの提示を省略した。
ポリアミン化合物(尿素)の前記水溶液のpHは、6~8であった。
【0154】
上記結果と
図5から明らかなように、比較例5においては、比較例4の場合ほどではないが、マイクロカプセルがほとんど生成していなかった。
比較例5においては、反応時に反応物の色味が変化せず、反応物の粘性にも変化は認められなかった。これは、アジピン酸ジヒドラジドの反応性が低過ぎて、重縮合反応がほとんど進行しなかったためであると推測された。
アジピン酸ジヒドラジドの前記水溶液のpHは、6~8であった。
【0155】
なお、実施例1と実施例2~3との比較から、ポリイソシアネート化合物として、ポリメリックMDIを併用することで、上記のとおり、重縮合反応時の反応物の性状が向上することが確認された。これは、重縮合反応時にポリメリックMDIが何らかの副反応を抑制しているからであると推測された。ポリメリックMDIは、他のポリイソシアネート化合物よりも反応性が高いため、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンの重縮合反応による消費を促進し、壁材成分を迅速に形成したり、壁材成分の形成量を増大させたりすることによって、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンが関わる軽微な副反応を抑制していると推測された。この場合の副反応としては、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、レモンユーカリ油の主成分であるシトロネラールと、の反応が示唆された。
【0156】
実施例1で得られたマイクロカプセルの水分散体から、上述のマイクロカプセルの生成度合いの評価時と同じ方法で乾燥物を作製し、この乾燥物(すなわちマイクロカプセル)を50℃で30日間静置保管(加熱保管)した。次いで、走査電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて、1000倍の倍率で、この加熱保管後の乾燥物を観察したところ、明らかな凹みが生じたマイクロカプセルが多数認められた。
これに対して、実施例2~3で得られたマイクロカプセルの水分散体を用いて、実施例1の場合と同じ方法で、乾燥物(すなわちマイクロカプセル)を加熱保管し、この加熱保管後の乾燥物を観察したところ、僅かに凹みが生じたマイクロカプセルが一部で認められただけであった。
すなわち、実施例1と実施例2~3との比較から、ポリイソシアネート化合物として、ポリメリックMDIを併用することで、マイクロカプセルの加熱条件下での保管安定性が向上することが確認された。これは、上述のようにポリメリックMDIが壁材成分を迅速に形成したり、壁材成分の形成量を増大させたりしていることを裏付けており、ポリメリックMDIの併用によって、マイクロカプセルの耐熱性が向上することを示していた。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明は、ポリウレアを壁材の構成成分とし、ホルミル基を有する成分を芯物質として内包したマイクロカプセルとして利用可能である。芯物質としては、ホルミル基を有し、かつ、天然精油のように揮発性が高い成分も好適である。