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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
   E03D 11/02 20060101AFI20250520BHJP
【FI】
E03D11/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021123349
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2023018948
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 雄大
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博
(72)【発明者】
【氏名】吉坂 慶太
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-040530(JP,A)
【文献】特開2017-040132(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112523319(CN,A)
【文献】特開平08-199657(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0102730(US,A1)
【文献】特開2017-066606(JP,A)
【文献】特開2019-137994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00-7/00
E03D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水源から供給される洗浄水を流通させる主導水路と、
前記主導水路から供給される洗浄水をボウル部へ向けて開口されたリム吐水部へ流通させて吐水させるリム導水路と、
前記主導水路と前記リム導水路とを連通する連通孔と
を備え、
前記主導水路は、
前記給水源から前記洗浄水が供給される上流側から前記ボウル部の汚物受け面の後端に位置する壁部まで前後方向に延在し、
前記連通孔は、
前記主導水路の下流端側の側面に形成され、
前記連通孔の底面は、
前記リム導水路の底面より高い位置に形成され
前記リム導水路の底面は、
前記主導水路の底面より高い位置に形成されること
を特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記連通孔は、
上面が平坦状となるように形成されること
を特徴とする請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記連通孔は、
流路断面が矩形状となるように形成されること
を特徴とする請求項1または2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
前記ボウル部の少なくとも一部を含む胴部と、前記胴部の上方に位置されるリム本体部とが接合されて形成される便器本体
を備え、
前記連通孔の上面は、前記リム本体部によって形成され、
前記連通孔の底面は、前記胴部によって形成されること
を特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の水洗大便器。
【請求項5】
前記連通孔の側面は、前記胴部によって形成され、
前記連通孔は、
前記底面および前記側面がコの字状となるように形成されるとともに、前記上面が平坦状となるように形成されること
を特徴とする請求項に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、便器本体のボウル部の上縁に形成されたリム部から洗浄水を吐水し、ボウル部で旋回流を生じさせることで、ボウル部の洗浄を行う水洗大便器が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、水洗大便器において、洗浄水は先ず、便器本体の後方の上部に形成された主導水路へ供給される。そして、主導水路に供給された洗浄水は、リム部に沿って形成されたリム導水路へ流れ込み、続いてリム導水路を通って、ボウル部へ向けて開口されたリム吐水部から吐水される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-168994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、洗浄水は、主導水路からリム導水路へ流れ込んでリム導水路を流通する際、例えばリム導水路中に洗浄前から滞留している空気を巻き込むことがある。このような洗浄水が、リム導水路からリム吐水部を介して吐水されると、巻き込んだ空気に起因する異音が発生することがある。
【0006】
特に、例えばフラッシュバルブ等から比較的水圧の高い洗浄水が供給されると、洗浄水は主導水路やリム導水路を勢いよく流れるため、空気を巻き込みやすく、異音の発生が顕著になるおそれがある。このように、従来技術に係る水洗大便器には、リム導水路を流れる洗浄水において異音の発生を抑制するという点で改善の余地があった。
【0007】
実施形態の一態様は、リム導水路を流れる洗浄水において異音の発生を抑制することができる水洗大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様に係る水洗大便器は、給水源から供給される洗浄水を流通させる主導水路と、前記主導水路から供給される洗浄水をボウル部へ向けて開口されたリム吐水部へ流通させて吐水させるリム導水路と、前記主導水路と前記リム導水路とを連通する連通孔とを備え、前記連通孔の底面は、前記リム導水路の底面より高い位置に形成されることを特徴とする。
【0009】
これにより、リム導水路を流れる洗浄水において異音の発生を抑制することができる。すなわち、連通孔の底面とリム導水路の底面とが上記した位置関係にあることで、例えば洗浄水が主導水路から連通孔を通ってリム導水路へ流れる洗浄の初期段階において、連通孔からリム導水路へ流れ込む洗浄水は、リム導水路の下方に向けて広がるように流れる。
【0010】
これにより、リム導水路の内部空間においては、洗浄前から滞留していた空気がリム導水路の上部に、連通孔から流れ込んだ洗浄水が下部にある状態となる。すなわち、リム導水路内では、上部に空気の層が形成され、下部に洗浄水の層が形成され、空気と洗浄水とが分かれることとなる。
【0011】
これにより、リム導水路を流通する洗浄水においては、例えばリム導水路中に洗浄前から滞留している空気を巻き込みにくくなる、言い換えると、洗浄水に空気が混ざりにくくなる。また、洗浄水は、リム導水路を流れることで、リム導水路等に滞留している空気をリム吐水部側へ押し出すことが可能になる。
【0012】
このように、上記した連通孔を備えることで、リム導水路を流れる洗浄水は、空気を巻き込みにくい状態でリム吐水部から吐水されるため、例えば巻き込んだ空気に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0013】
また、前記主導水路は、下流端が前記ボウル部の後方に位置するように延在し、前記連通孔は、前記主導水路の前記下流端側に形成されることを特徴とする。
【0014】
これにより、リム導水路を流れる洗浄水において異音の発生を効果的に抑制することができる。すなわち、主導水路は、ボウル部の後方まで延在され、延在した先の端部である下流端側に連通孔が形成されるため、主導水路を流れる洗浄水は、連通孔に到達するまでに整流されることとなる。かかる整流により、主導水路から連通孔を通過する洗浄水においては、その挙動が安定するため、連通孔からリム導水路へ流れ込む際、リム導水路の下方に向けて安定して流れることとなる。そのため、リム導水路を流れる洗浄水は、空気をより巻き込みにくい状態でリム吐水部から吐水され、よって空気に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0015】
また、前記連通孔は、上面が平坦状となるように形成されることを特徴とする。
【0016】
これにより、例えば空気が溜まりやすい連通孔の上部領域を広く確保することが可能になる。したがって、例えば主導水路に洗浄前から滞留している空気を、連通孔からリム導水路へスムーズに導いて、洗浄の初期段階に、リム導水路に滞留している空気と合流させることができる。そのため、主導水路中に洗浄前から滞留している空気を、連通孔およびリム導水路を介してリム吐水部から効率よく排出することが可能になり、よって洗浄水は、主導水路の空気を巻き込みにくくなり、結果として空気に起因する異音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0017】
また、前記連通孔は、流路断面が矩形状となるように形成されることを特徴とする。
【0018】
これにより、例えば空気が溜まりやすい連通孔の上部領域とともに、連通孔の下部領域も広く確保することが可能になる。したがって、例えば主導水路からの洗浄水は、洗浄の初期段階において連通孔へ流れ込みやすくなり、連通孔へ流れ込んだ洗浄水は、リム導水路の下方に向けて流れ込みやすくなる。これにより、リム導水路を流れる洗浄水は、空気を巻き込みにくい状態でリム吐水部から吐水されるため、例えば巻き込んだ空気に起因する異音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0019】
また、前記ボウル部の少なくとも一部を含む胴部と、前記胴部の上方に位置されるリム本体部とが接合されて形成される便器本体を備え、前記連通孔の上面は、前記リム本体部によって形成され、前記連通孔の底面は、前記胴部によって形成されることを特徴とする。
【0020】
このように、連通孔は、胴部およびリム本体部の2つの部材によって形成されるため、連通孔における寸法ばらつきを抑制でき、連通孔を精度良く形成することが可能になる。すなわち、例えば連通孔が、1つの部材を穴開け加工することによって形成される場合、例えばばりの発生の有無などに応じて連通孔における寸法ばらつきが生じやすい。しかし、連通孔は、上記のように胴部およびリム本体部の2つの部材が接合されることで形成されため、穴開け加工する場合に比べて連通孔における寸法ばらつきが生じにくくなる、すなわち寸法ばらつきを抑制でき、よって連通孔を精度良く形成することが可能になる。
【0021】
また、連通孔が精度良く形成されると、連通孔を通過した洗浄水の挙動をより安定させることができ、洗浄水は、連通孔からリム導水路の下方に向けて流れ込みやすくなる。これにより、リム導水路を流れる洗浄水は、空気を巻き込みにくい状態でリム吐水部から吐水されるため、例えば巻き込んだ空気に起因する異音の発生をより一層効果的に抑制することができる。
【0022】
また、前記連通孔の側面は、前記胴部によって形成され、前記連通孔は、前記底面および前記側面がコの字状となるように形成されるとともに、前記上面が平坦状となるように形成されることを特徴とする。
【0023】
このように、連通孔は、上記した形状の胴部およびリム本体部によって形成されるため、例えば上記した穴開け加工によって形成される場合に比べて、連通孔を容易に形成することができる。
【0024】
さらに、連通孔は、例えば上面と側面とで形成される上方の角部において寸法ばらつきを抑制でき、連通孔の角部を精度良く形成することが可能になる。すなわち、例えば連通孔が、上記した穴開け加工することによって形成される場合、例えばばりの発生の有無などに応じて連通孔の上方の角部に寸法ばらつきが生じやすい。しかし、連通孔は、胴部におけるコの字状の部位に含まれる側面と、リム本体部の平坦状の部位に含まれる上面とが接合されることで形成されるため、例えば穴開け加工する場合に比べて連通孔の上方の角部における寸法ばらつきが生じにくくなる、すなわち寸法ばらつきを抑制でき、よって角部を精度良く形成することが可能になる。
【0025】
また、これにより、空気が溜まりやすい連通孔の上部領域を確実に広く確保することが可能になり、例えば主導水路に洗浄前から滞留している空気を、連通孔からリム導水路へスムーズに導いて、洗浄の初期段階に、リム導水路に滞留している空気と合流させることができる。そのため、主導水路中に洗浄前から滞留している空気を、連通孔およびリム導水路を介してリム吐水部から効率よく排出することが可能になり、よって洗浄水は、主導水路の空気を巻き込みにくくなり、結果として空気に起因する異音の発生をより一層効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0026】
実施形態の一態様によれば、リム導水路を流れる洗浄水において異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施形態に係る水洗大便器の側面図である。
図2図2は、図1のII-II線断面図である。
図3図3は、図2のIII-III線断面における便器本体の断面図である。
図4図4は、便器本体を後方から見たときの斜視図である。
図5図5は、図2のV-V線断面における連通孔の側断面図である。
図6図6は、図2のVI-VI線断面における連通孔の正面断面図である。
図7A図7Aは、第1変形例に係る連通孔の正面断面図である。
図7B図7Bは、第2変形例に係る連通孔の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する水洗大便器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0029】
<水洗大便器の全体構成>
まず、図1を参照して実施形態に係る水洗大便器1の全体構成について説明する。図1は、実施形態に係る水洗大便器1の側面図である。また、図1では、壁面6および床面7を断面で示している。
【0030】
また、図1には、説明を分かりやすくするために、鉛直上向きを正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、他の図においても図示している場合がある。かかる直交座標系では、Y軸の正方向を前方、Y軸の負方向を後方、X軸の正方向を右方、X軸の負方向を左方と規定している。このため、以下の説明において、X軸方向を左右方向、Y軸方向を前後方向、Z軸方向を上下方向という場合がある。
【0031】
また、実施形態に係る水洗大便器1は、壁面6に取り付けられる、いわゆる壁掛け式の水洗大便器である。なお、水洗大便器1は、床面7に設置される、いわゆる床置き式の水洗大便器であってもよい。
【0032】
水洗大便器1は、便器本体2と、フラッシュバルブ3とを備える。便器本体2は、例えば陶器製である。なお、便器本体2は、樹脂製のものでもよいし、陶器と樹脂を組み合わせて製造されたものでもよい。また、図1にあっては、図示の簡略化のため、便器本体2が備える便座や便座を覆うカバーなど一部の部材の図示を省略した。なお、便器本体2の詳細については、後述する。
【0033】
フラッシュバルブ3は、図示しない水道管などに接続され、洗浄水を便器本体2へ供給する給水源として機能する。例えば、フラッシュバルブ3は、操作レバー(図示せず)が操作されると、開弁して洗浄水を給水配管4を介して便器本体2へ供給する。そして、水洗大便器1では、洗浄水により便器本体2の洗浄が行われ、汚物が洗浄水と共に排水配管5から排出される。
【0034】
なお、上記した水洗大便器1においては、フラッシュバルブ3から洗浄水が供給される例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば便器本体2の後方に貯水タンクが給水源として載置され、貯水タンクから便器本体2へ洗浄水が供給されるものなどその他の給水方式が用いられてもよい。
【0035】
<便器本体>
次に、実施形態に係る便器本体2について図2および図3を参照し説明する。図2は、図1のII-II線断面図である。図3は、図2のIII-III線断面における便器本体2の断面図である。
【0036】
便器本体2は、ボウル部10と、導水路30と、排水トラップ部40(図3参照)とを備える。ボウル部10は、汚物受け面11と、リム部12とを備える。汚物受け面11は、汚物を受けることが可能なボウル状に形成される。
【0037】
リム部12は、ボウル部10の上縁を構成するように形成される。また、リム部12には、便器洗浄が行われる場合に洗浄水を吐水するリム吐水部32aが形成される。リム吐水部32aは、例えばリム部12の左方部の後方付近において、ボウル部10へ向けて開口される。詳しくは、リム吐水部32aは、ボウル部10の汚物受け面11へ洗浄水を吐水したとき、汚物受け面11に例えば反時計回りの旋回流(図2参照)を生じさせる向きに開口される。
【0038】
導水路30は、フラッシュバルブ3(図1参照)から給水配管4(図3参照)を介して供給される洗浄水をボウル部10や排水トラップ部40へ導く流路である。なお、導水路30の詳しい構成については後述する。
【0039】
図3に示すように、排水トラップ部40は、入口部41と、上昇管路42と、下降管路43とを備える。入口部41は、汚物受け面11の底部と連続するように設けられ、ボウル部10からの洗浄水を排水トラップ部40へ流入させる。上昇管路42は、入口部41から斜め上方へ向けて延びるように形成される。下降管路43は、上昇管路42から下方へ向けて延びるように形成される。
【0040】
また、下降管路43の下端には、排水配管5が接続される。したがって、便器洗浄が行われる場合、ボウル部10の洗浄水は、排水トラップ部40の入口部41、上昇管路42および下降管路43を介して排水配管5へと排水される。
【0041】
また、上記のように構成される便器本体2は、図3に示すように、胴部21とリム本体部22とが接合されて形成される。胴部21は、ボウル部10の少なくとも一部を含む。例えば、胴部21は、ボウル部10の汚物受け面11やリム部12の下方側の部位、排水トラップ部40などを含む。リム本体部22は、胴部21の上方に位置され、例えばリム部12の上方側の部位(後述するリム導水路32の上面32d)などを含む。これら胴部21とリム本体部22とが接合(接着)されることで、便器本体2が完成する。
【0042】
<導水路の構成>
次に、上記した導水路30について参照して詳しく説明する。図2および図3に示すように、導水路30は、主導水路31と、リム導水路32と、ジェット導水路33とを備える。
【0043】
主導水路31は、便器本体2の後方の上部に形成される流路であり、フラッシュバルブ3(図1参照)から給水配管4を介して供給される洗浄水を流通させる(矢印A1参照)。
【0044】
例えば、主導水路31は、上流端31aが便器本体2の後方であって、上記した給水配管4と対応する位置に形成される。詳しくは、主導水路31の上流端31aには、上下方向に貫通する流入口23が形成され、給水配管4が接続される。また、主導水路31は、下流端31bがボウル部10(例えば汚物受け面11)の後方に位置するように前後方向に延在する。なお、本明細書において「上流」および「下流」とは、洗浄水の流れにおける「上流」および「下流」を意味する。
【0045】
また、主導水路31は、底面31cが上流側(上流端31a)から下流側(下流端31b)に向けて下り傾斜となるように形成される。上記のように構成される主導水路31においては、フラッシュバルブ3が開弁すると、給水配管4、流入口23を介して洗浄水が流入し、流入した洗浄水を下流端31b側へ導く。主導水路31は、図2に示すように、下流端31bにおいてリム導水路32とジェット導水路33とに分岐される。
【0046】
リム導水路32は、主導水路31から供給される洗浄水を、上記したリム吐水部32aへ流通させて吐水させる流路である。例えば、リム導水路32は、ボウル部10の後方から左方へ向けてリム部12に沿って形成される。また、リム導水路32の下流側の端部には、リム吐水部32aが形成される。
【0047】
したがって、リム導水路32には、主導水路31から流れ込んだ洗浄水が流れる(矢印A2参照)。その後、洗浄水がリム吐水部32aからボウル部10の汚物受け面11へ吐水され、平面視で反時計回りの旋回流が生じ(矢印A3参照)、汚物受け面11の洗浄が行われる。
【0048】
ジェット導水路33は、主導水路31から供給される洗浄水を、排水トラップ部40へ噴射する洗浄水として流通させる流路である。例えば、ジェット導水路33は、主導水路31とジェット用連通孔35を介して連通される。ジェット用連通孔35は、主導水路31の下流端31b付近に形成される、詳しくは下流端31bの下方に形成される。また、ジェット導水路33の下流側の端部には、ジェット吐水部33aが形成される。例えば、ジェット吐水部33aは、排水トラップ部40の入口部41に向けて開口される。
【0049】
これにより、ジェット導水路33は、主導水路31からジェット用連通孔35を介して供給される洗浄水を、ジェット吐水部33aから排水トラップ部40の入口部41へ強力な水勢で噴射することができる(矢印A4参照)。このジェット吐水部33aから噴射される洗浄水により、排水トラップ部40においてサイホン作用が生じ、よって洗浄水は汚物とともに排水トラップ部40から排水配管5へ排出される。
【0050】
ところで、上記したように、洗浄水が主導水路31からリム導水路32へ流れ込んでリム導水路32を流通する際、例えばリム導水路32中に洗浄前から滞留している空気を巻き込むことがある。このような洗浄水が、リム導水路32からリム吐水部32aを介して吐水されると、例えば巻き込んだ空気が破裂したり、空気を多く含んだ洗浄水が攪拌されて流れたりすることなどによる異音、すなわち空気に起因する異音が発生することがある。
【0051】
特に、フラッシュバルブ3からは、比較的水圧の高い洗浄水が供給される。そのため、洗浄水は、主導水路31やリム導水路32を勢いよく流れることとなって空気を巻き込みやすく、上記した異音の発生が顕著になるおそれがある。
【0052】
そこで、本実施形態に係る水洗大便器1にあっては、リム導水路32を流れる洗浄水において異音の発生を抑制することができるような構成とした。
【0053】
以下、かかる構成について詳説すると、水洗大便器1にあっては、リム用連通孔34を備える。なお、リム用連通孔34は、連通孔の一例である。以下では、リム用連通孔34を「連通孔34」と記載する場合がある。
【0054】
ここで、連通孔34について、図4および図5も参照しつつ説明する。図4は、連通孔34を備えた便器本体2を後方から見たときの斜視図であり、図5は、図2のV-V線断面における連通孔34の側断面図である。なお、図4は、理解の便宜のため、便器本体2からリム本体部22を除去して、連通孔34が見えるようにした状態の説明図である。
【0055】
図2図4および図5に示すように、連通孔34は、主導水路31とリム導水路32とを連通する。詳しくは、連通孔34は、主導水路31の下流側とリム導水路32の上流側とを連通する。
【0056】
そして、連通孔34の底面34cは、図5に示すように、リム導水路32の底面32cより高い位置に形成される。詳しくは、上流側である連通孔34の底面34cは、下流側であるリム導水路32の底面32cより、上下の高さ方向において高くなるように形成される。逆に言えば、リム導水路32の底面32cは、上下の高さ方向において連通孔34の底面34cより低い位置に形成される。
【0057】
これにより、リム導水路32を流れる洗浄水において異音の発生を抑制することができる。すなわち、連通孔34の底面34cとリム導水路32の底面32cとが上記した位置関係にあることで、例えば洗浄水Wが主導水路31から連通孔34を通ってリム導水路32へ流れる洗浄の初期段階において、連通孔34からリム導水路32へ流れ込む洗浄水Wは、リム導水路32の下方に向けて広がるように流れる(図5の矢印B1参照)。
【0058】
これにより、リム導水路32の内部空間においては、洗浄前から滞留していた空気がリム導水路32の上部に、連通孔34から流れ込んだ洗浄水Wが下部にある状態となる。すなわち、リム導水路32内では、上部に空気の層が形成され、下部に洗浄水Wの層が形成され、空気と洗浄水Wとが分かれることとなる。
【0059】
これにより、リム導水路32を流通する洗浄水Wにおいては、例えばリム導水路32中に洗浄前から滞留している空気を巻き込みにくくなる、言い換えると、洗浄水Wに空気が混ざりにくくなる。また、洗浄水Wは、リム導水路32を流れることで、リム導水路32等に滞留している空気をリム吐水部32a側へ押し出すことが可能になる(図5の矢印B2参照)。
【0060】
このように、本実施形態にあっては、上記した連通孔34を備えることで、リム導水路32を流れる洗浄水Wは、空気を巻き込みにくい状態でリム吐水部32aから吐水されるため、例えば巻き込んだ空気に起因する異音の発生を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態にあっては、例えばフラッシュバルブ3から、比較的水圧の高い洗浄水が供給される場合であっても、洗浄水Wは、空気を巻き込みにくい状態でリム吐水部32aから吐水され、上記した異音の発生を抑制することができる。
【0062】
また、連通孔34の底面34cは、図5に示すように、主導水路31の底面31cより高い位置に形成される。詳しくは、下流側である連通孔34の底面34cは、上流側である主導水路31の底面31cより、上下の高さ方向において高くなるように形成される。逆に言えば、主導水路31の底面31cは、上下の高さ方向において連通孔34の底面34cより低い位置に形成される。
【0063】
また、連通孔34は、図2図4に示すように、主導水路31の下流端31b側に形成される。詳しくは、連通孔34は、主導水路31の左方の側面のうち、下流端31b側の部位に形成される。かかる主導水路31は、上記したように、下流端31bがボウル部10の後方に位置するように延在している。
【0064】
これにより、リム導水路32を流れる洗浄水において異音の発生を効果的に抑制することができる。すなわち、主導水路31は、ボウル部10の後方まで延在され、延在した先の端部である下流端31b側に連通孔34が形成されるため、主導水路31を流れる洗浄水は、連通孔34に到達するまでに整流されることとなる。かかる整流により、主導水路31から連通孔34を通過する洗浄水においては、その挙動が安定するため、連通孔34からリム導水路32へ流れ込む際、リム導水路32の下方に向けて安定して流れることとなる。そのため、リム導水路32を流れる洗浄水Wは、上記したように、空気をより巻き込みにくい状態でリム吐水部32aから吐水され、よって空気に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0065】
また、主導水路31においても、上記のように延在されることで、主導水路31中に洗浄前から滞留している空気を、洗浄水で押し出しつつ、連通孔34およびリム導水路32を介してリム吐水部32aから排出することが可能になる。これにより、洗浄水は、主導水路31に洗浄前から滞留している空気を巻き込みにくい状態でリム吐水部32aから吐水され、よって空気に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0066】
さらに、例えば仮に、主導水路31において洗浄水に空気が混入した場合であっても、主導水路31は上記のように延在されるため、洗浄水が連通孔34に到達するまでに混入した空気が浮上し、洗浄水に空気が混ざりにくくすることが可能になる。これにより、洗浄水は、主導水路31中に洗浄前から滞留している空気をリム導水路32へスムーズに導いて、かかる空気が主導水路31中に停滞することを防ぎつつ、異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0067】
なお、図5の例では、連通孔34は、リム導水路32の中心線32x(詳しくは洗浄水の流れ方向における中心線32x)を含む位置に形成されるが、これは例示であって限定されるものではない。すなわち、例えば連通孔34は、リム導水路32の中心線32xを含まない位置(例えばリム導水路32の中心線32xより上方の位置、あるいは、中心線32xより下方の位置)に形成されてもよい。
【0068】
次に、連通孔34の形状について、図6も参照しつつ説明する。図6は、図2のVI-VI線断面における連通孔34の正面断面図である。
【0069】
図6に示すように、連通孔34は、上面34dが平坦状となるように形成される。言い換えると、連通孔34は、上面34dが、水平面(XY平面)と平行あるいは略平行な面となるように形成される。別言すれば、連通孔34は、洗浄水の流れ方向から見た正面断面視において、上面34dが直線状となるように形成される。
【0070】
これにより、例えば空気が溜まりやすい連通孔34の上部領域を広く確保することが可能になる。したがって、例えば主導水路31に洗浄前から滞留している空気を、連通孔34からリム導水路へスムーズに導いて、洗浄の初期段階に、リム導水路32に滞留している空気と合流させることができる。そのため、主導水路31中に洗浄前から滞留している空気を、連通孔34およびリム導水路32を介してリム吐水部32aから効率よく排出することが可能になり、よって洗浄水は、主導水路31の空気を巻き込みにくくなり、結果として空気に起因する異音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0071】
また、連通孔34は、流路断面が矩形状(四角形状)となるように形成される。言い換えると、連通孔34は、例えば四角柱状の開口となるように形成される。したがって、連通孔34は、底面34cが、水平面(XY平面)と平行あるいは略平行な面となるように形成される。別言すれば、連通孔34は、洗浄水の流れ方向から見た正面断面視において、底面34cが直線状となるように形成される。
【0072】
これにより、例えば空気が溜まりやすい連通孔34の上部領域とともに、連通孔34の下部領域も広く確保することが可能になる。したがって、例えば主導水路31からの洗浄水は、洗浄の初期段階において連通孔34へ流れ込みやすくなり、連通孔34へ流れ込んだ洗浄水は、リム導水路32の下方に向けて流れ込みやすくなる。これにより、リム導水路32を流れる洗浄水は、空気を巻き込みにくい状態でリム吐水部32aから吐水されるため、例えば巻き込んだ空気に起因する異音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0073】
なお、上記した連通孔34の形状は、あくまでも例示であって限定されるものではない。
【0074】
次いで、便器本体2において、連通孔34を構成する部材について説明する。図5および図6に示すように、連通孔34の上面34dは、リム本体部22によって形成される。また、連通孔34の底面34cは、胴部21によって形成される。
【0075】
詳しくは、図5に示すように、連通孔34の上面34dは、リム本体部22においてリム導水路32の上面32dの位置から下方へ向けて突出する第1壁部22aによって形成される。また、連通孔34の底面34cは、胴部21において第1壁部22aと対向する位置であって、リム導水路32の底面32cの位置から上方へ向けて突出する第2壁部21aによって形成される。
【0076】
このように、本実施形態に係る連通孔34は、胴部21およびリム本体部22の2つの部材によって形成されるため、連通孔34における寸法ばらつきを抑制でき、連通孔34を精度良く形成することが可能になる。すなわち、例えば連通孔34が、1つの部材を穴開け加工することによって形成される場合、例えばばりの発生の有無や加工作業者の技量などに応じて連通孔34における寸法ばらつきが生じやすい。
【0077】
これに対し、本実施形態にあっては、例えば胴部21およびリム本体部22の2つの部材が接合されることで、連通孔34が形成されるため、例えば穴開け加工する場合に比べて連通孔34における寸法ばらつきが生じにくくなる、すなわち寸法ばらつきを抑制でき、よって連通孔34を精度良く形成することが可能になる。
【0078】
また、連通孔34が精度良く形成されると、連通孔34を通過した洗浄水の挙動をより安定させることができ、洗浄水は、連通孔34からリム導水路32の下方に向けて流れ込みやすくなる。これにより、リム導水路32を流れる洗浄水は、空気を巻き込みにくい状態でリム吐水部32aから吐水されるため、例えば巻き込んだ空気に起因する異音の発生をより一層効果的に抑制することができる。
【0079】
連通孔34を構成する部材についての説明を続けると、図6に示すように、連通孔34の側面34eは、底面34cと同様に、胴部21によって形成される。したがって、連通孔34は、底面34cおよび側面34eが、洗浄水の流れ方向から見た正面断面視においてコの字状となるように形成される。なお、リム本体部22によって形成される連通孔34の上面34dは、上記したように平坦状である。
【0080】
したがって、連通孔34は、胴部21におけるコの字状の部位(底面34cおよび側面34e)と、リム本体部22において平坦状の部位(上面34d)とが接合されることによって形成される。
【0081】
このように、連通孔34は、上記した形状の胴部21およびリム本体部22の接合によって形成されるため、例えば上記した穴開け加工によって形成される場合に比べて、連通孔34を容易に形成することができる。
【0082】
さらに、連通孔34は、胴部21におけるコの字状の部位に含まれる側面34eと、リム本体部22の平坦状の部位に含まれる上面34dとによって形成されるため、例えば上面34dと側面34eとで形成される上方の角部において寸法ばらつきを抑制でき、連通孔34の角部を精度良く形成することが可能になる。
【0083】
すなわち、例えば連通孔34が、上記した穴開け加工することによって形成される場合、例えばばりの発生の有無などに応じて連通孔34の上方の角部に寸法ばらつきが生じやすい。
【0084】
これに対し、本実施形態にあっては、胴部21におけるコの字状の部位に含まれる側面34eと、リム本体部22の平坦状の部位に含まれる上面34dとが接合されることで、連通孔34が形成されるため、例えば穴開け加工する場合に比べて連通孔34の上方の角部における寸法ばらつきが生じにくくなる、すなわち寸法ばらつきを抑制でき、よって角部を精度良く形成することが可能になる。
【0085】
これにより、例えば空気が溜まりやすい連通孔34の上部領域を確実に広く確保することが可能になる。したがって、例えば主導水路31に洗浄前から滞留している空気を、連通孔34からリム導水路へスムーズに導いて、洗浄の初期段階に、リム導水路32に滞留している空気と合流させることができる。そのため、主導水路31中に洗浄前から滞留している空気を、連通孔34およびリム導水路32を介してリム吐水部32aから効率よく排出することが可能になり、よって洗浄水は、主導水路31の空気を巻き込みにくくなり、結果として空気に起因する異音の発生をより一層効果的に抑制することができる。
【0086】
上述してきたように、実施形態に係る水洗大便器1は、主導水路31と、リム導水路32と、連通孔(リム用連通孔)34とを備える。主導水路31は、給水源(例えばフラッシュバルブ3)から供給される洗浄水を流通させる。リム導水路32は、主導水路31から供給される洗浄水をボウル部10へ向けて開口されたリム吐水部32aへ流通させて吐水させる。連通孔34は、主導水路31とリム導水路32とを連通する。連通孔34の底面34cは、リム導水路32の底面32cより高い位置に形成される。これにより、リム導水路32を流れる洗浄水において異音の発生を抑制することができる。
【0087】
<変形例>
次いで、連通孔34の形状の変形例について図7Aおよび図7Bを参照して説明する。図7Aは、第1変形例に係る連通孔134の正面断面図であり、図7Bは、第2変形例に係る連通孔234の正面断面図である。
【0088】
図7Aに示すように、第1変形例に係る連通孔134は、例えば流路断面が逆三角形状となるように形成される。このとき、連通孔134は、実施形態と同様、上面134dが平坦状となるように形成される。
【0089】
また、図7Bに示すように、第2変形例に係る連通孔234は、例えば流路断面が半円形状となるように形成される。このとき、連通孔234は、実施形態と同様、上面234dが平坦状となるように形成される。
【0090】
このように、第1、第2変形例に係る連通孔134,234にあっては、上面134d,234dが平坦状となるように形成されるため、空気が溜まりやすい連通孔134,234の上部領域を広く確保することが可能になり、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0091】
なお、上記した第1、第2変形例では、連通孔134,234の流路断面が逆三角形状や半円形状となるように形成される例を示したが、これに限定されるものではなく、その他の形状であってもよい。
【0092】
また、上記した実施形態および第1、第2変形例では、上面34d,134d,234dが平坦状となるように形成されるようにしたが、これに限られず、例えば湾曲形状などその他の形状であってもよい。
【0093】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 水洗大便器
2 便器本体
3 フラッシュバルブ
21 胴部
22 リム本体部
31 主導水路
32 リム導水路
34 連通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B