(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】稼働状態推定装置、稼働状態推定装置の制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20250520BHJP
【FI】
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2021138662
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】河内 清次
(72)【発明者】
【氏名】神田 光章
【審査官】北元 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-091312(JP,A)
【文献】特開2005-094361(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163413(WO,A1)
【文献】特開2018-007347(JP,A)
【文献】特開2017-093275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電設備の稼働状態を推定する稼働状態推定装置であって、
日射量を含む所定種類の気象データから前記太陽光発電設備の発電量の推定値を算出するための算出式を記憶する算出式記憶部と、
前記気象データを、通信可能に接続された気象データ提供装置から取得する気象データ取得部と、
前記太陽光発電設備の稼働状態を周期的に推定する第1期間毎に、前記気象データ及び前記算出式を用いて算出した前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の推定値と、前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の実績値と、に基づいて、前記推定値と前記実績値との乖離の程度を表す第1指標値を算出する第1指標値算出部と、
過去の所定期間における前記第1指標値の平均値及び標準偏差を算出し、前記平均値及び前記標準偏差を元に判定値を算出する判定値算出部と、
前記第1指標値と、前記判定値と、の比較の結果を元に、前記太陽光発電設備の稼働状態を推定する稼働状態推定部と、
を備え
、
前記発電量の推定値を第1座標軸に対応させ、前記発電量の実績値を第2座標軸に対応させてなる2次元座標平面上に、前記太陽光発電設備の稼働状態を表す領域と、前記第1期間における前記発電量の推定値及び実績値から定まる点と、を表示する、稼働状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の稼働状態推定装置であって、
前記第1指標値算出部は、
前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の前記推定値に対する前記実績値の不足量を求め、前記推定値に対する前記不足量の割合を前記第1期間における前記第1指標値として算出する、稼働状態推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の稼働状態推定装置であって、
前記稼働状態推定部は、
前記第1期間における前記第1指標値が前記判定値を超えた場合に、前記太陽光発電設備の前記稼働状態は、当該第1期間において出力異常低下状態であると推定する、稼働状態推定装置。
【請求項4】
請求項2に記載の稼働状態推定装置であって、
前記稼働状態推定部は、
前記第1期間における前記第1指標値が前記判定値を超えた場合に、前記太陽光発電設備の前記稼働状態は、当該第1期間において出力低下状態であると推定し、さらに、前記太陽光発電設備の稼働状態が前記出力低下状態であると推定された前記第1期間が所定回数連続した場合に、前記太陽光発電設備の稼働状態を出力異常低下状態と推定する、稼働状態推定装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の稼働状態推定装置であって、
前記稼働状態推定部は、
前記太陽光発電設備の発電量の実績値又は推定値が第1基準値未満である場合は、前記太陽光発電設備の稼働状態の推定を行わない、稼働状態推定装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の稼働状態推定装置であって、
前記第1期間の長さは、一日である、
稼働状態推定装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の稼働状態推定装置であって、
前記判定値算出部は、
前記所定期間における前記第1指標値のうち、前記太陽光発電設備の発電量の実績値又は推定値が第2基準値未満である前記第1期間における前記第1指標値を除外して、前記平均値及び前記標準偏差を算出する、稼働状態推定装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の稼働状態推定装置であって、
前記判定値算出部は、前記標準偏差に正の定数を掛けた値を前記平均値に加えることにより、前記
判定値を算出する、
稼働状態推定装置。
【請求項9】
太陽光発電設備の稼働状態を推定する稼働状態推定装置の制御方法であって、
前記稼働状態推定装置が、
日射量を含む所定種類の気象データから前記太陽光発電設備の発電量の推定値を算出するための算出式を記憶し、
前記気象データを、通信可能に接続された気象データ提供装置から取得し、
前記太陽光発電設備の稼働状態を周期的に推定する第1期間毎に、前記気象データ及び前記算出式を用いて算出した前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の推定値と、前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の実績値と、に基づいて、前記推定値と前記実績値との乖離の程度を表す第1指標値を算出し、
過去の所定期間における前記第1指標値の平均値及び標準偏差を算出し、前記平均値及び前記標準偏差を元に判定値を算出し、
前記第1指標値と、前記判定値と、の比較の結果を元に、前記太陽光発電設備の稼働状態を推定
し、
前記発電量の推定値を第1座標軸に対応させ、前記発電量の実績値を第2座標軸に対応させてなる2次元座標平面上に、前記太陽光発電設備の稼働状態を表す領域と、前記第1期間における前記発電量の推定値及び実績値から定まる点と、を表示する、
稼働状態推定装置の制御方法。
【請求項10】
コンピュータに、
日射量を含む所定種類の気象データから太陽光発電設備の発電量の推定値を算出するための算出式を記憶する手順と、
前記気象データを、通信可能に接続された気象データ提供装置から取得する手順と、
前記太陽光発電設備の稼働状態を周期的に推定する第1期間毎に、前記気象データ及び前記算出式を用いて算出した前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の推定値と、前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の実績値と、に基づいて、前記推定値と前記実績値との乖離の程度を表す第1指標値を算出する手順と、
過去の所定期間における前記第1指標値の平均値及び標準偏差を算出し、前記平均値及び前記標準偏差を元に判定値を算出する手順と、
前記第1指標値と、前記判定値と、の比較の結果を元に、前記太陽光発電設備の稼働状態を推定する手順と、
前記発電量の推定値を第1座標軸に対応させ、前記発電量の実績値を第2座標軸に対応させてなる2次元座標平面上に、前記太陽光発電設備の稼働状態を表す領域と、前記第1期間における前記発電量の推定値及び実績値から定まる点と、を表示する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稼働状態推定装置、稼働状態推定装置の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電設備が故障すると発電量が低下するが、発電量は、日射量の変化の影響を受けて大きく変動するため、発電量が低下したからと言って、太陽光発電設備が故障したとは限らない。そのため、太陽光発電設備が正しく稼働しているかどうかを推定することは容易ではない。
【0003】
このため、メガソーラ等の大規模太陽光発電所に設置される太陽光発電設備の場合は、日射量センサを用いたり、日射量センサを電流計などの他のセンサと組み合わせたりすることで稼働状態の推定を行っている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、家庭などに設置される比較的安価で出力の小さな太陽光発電設備の場合は、コストを抑制する必要性もあり、大規模発電所に設置される太陽光発電設備のような日射量センサが設けられていないことが多い。
【0006】
従って、家庭などでは、太陽光発電設備が故障して発電量が低下していても気づかないことが多く、その家庭の毎月の電気料金にも大きな影響を与えることになる。
【0007】
そのため、日射量センサを用いなくても太陽光発電設備の稼働状態を推定可能とする技術が求められている。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、日射量センサを用いなくても太陽光発電設備の稼働状態を推定することが可能な稼働状態推定装置、稼働状態推定装置の制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する稼働状態推定装置は、太陽光発電設備の稼働状態を推定する稼働状態推定装置であって、日射量を含む所定種類の気象データから前記太陽光発電設備の発電量の推定値を算出するための算出式を記憶する算出式記憶部と、前記気象データを、通信可能に接続された気象データ提供装置から取得する気象データ取得部と、前記太陽光発電設備の稼働状態を周期的に推定する第1期間毎に、前記気象データ及び前記算出式を用いて算出した前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の推定値と、前記第1期間における前記太陽光発電設備の発電量の実績値と、に基づいて、前記推定値と前記実績値との乖離の程度を表す第1指標値を算出する第1指標値算出部と、過去の所定期間における前記第1指標値の平均値及び標準偏差を算出し、前記平均値及び前記標準偏差を元に判定値を算出する判定値算出部と、前記第1指標値と、前記判定値と、の比較の結果を元に、前記太陽光発電設備の稼働状態を推定する稼働状態推定部と、を備え、前記発電量の推定値を第1座標軸に対応させ、前記発電量の実績値を第2座標軸に対応させてなる2次元座標平面上に、前記太陽光発電設備の稼働状態を表す領域と、前記第1期間における前記発電量の推定値及び実績値から定まる点と、を表示する。
【0010】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄の記載、及び図面の記載等により明らかにされる。
【発明の効果】
【0011】
日射量センサを用いなくても太陽光発電設備の稼働状態を推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】稼働状態推定装置のハードウェア構成図である。
【
図3】稼働状態推定装置の記憶装置を示す図である。
【
図9】稼働状態推定装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】稼働状態推定装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】太陽光発電設備の発電量の様子を示す図である。
【
図12】太陽光発電設備の発電量の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。
【0014】
==全体構成==
本発明の実施形態に係る稼働状態推定システム1000の全体構成を
図1に示す。
【0015】
稼働状態推定システム1000は、稼働状態推定装置100と太陽光発電設備300とが、インターネットやLAN(Local Area Network)、電話網等のネットワーク500を介して通信可能に接続されて構成される。また稼働状態推定システム1000は、気象データ提供装置200と通信可能に接続されている。
【0016】
なお本実施形態では、説明の簡単化のために、太陽光発電設備300が稼働状態推定装置100と通信可能に接続されるものとして説明するが、より詳しくは、太陽光発電設備300の設置場所には不図示のスマートメータが設けられており、太陽光発電設備300はこのスマートメータを通じて稼働状態推定装置100と通信可能に接続されている。
【0017】
稼働状態推定装置100は、気象データ提供装置200及び太陽光発電設備300(スマートメータ)から、日射量を含む所定種類の気象データ及び発電量の実績値を取得して、太陽光発電設備300の稼働状態を推定するコンピュータなどの情報処理装置である。
【0018】
具体的には、稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300の発電量の実績値を、気象データを用いて別途算出される太陽光発電設備300の発電量の推定値と比較することで、太陽光発電設備300の稼働状態を推定する。このような態様により、日射量センサを用いなくても、太陽光発電設備の稼働状態を推定することが可能になる。
【0019】
気象データ提供装置200は、日射量を含む様々な気象データを提供するコンピュータである。気象データには気象庁が提供しているLFM(Local-Forcast Model)を用いて作成された気象予報データや、MSM(Meso-Scale Model)を用いて作成された気象予報データ(以下、MSMデータとも記す)がある。例えば、気象データ提供装置200は、MSMを気象データとして提供する。
【0020】
MSMデータは、一辺5kmの格子状に区切られた各領域における所定種類の気象予測値を数値的に算出したものである。気象庁は、毎日3時間ごとに(つまり1日8回)、1時間間隔で39時間先までのMSMデータを配信している。またそのうち2回は、1時間間隔で51時間先までのMSMデータを提供している。このMSMデータには、日射量や気圧、気温、相対湿度、降水量、雲量等の各種気象データの予測値が含まれている。
【0021】
太陽光発電設備300は、太陽光エネルギー(自然エネルギー)を利用して発電を行う発電設備である。本実施形態に係る太陽光発電設備300は、日射量センサが設置されていないものを対象としており、例えば一般家庭等に設置されるような発電量が比較的小さな設備が該当する。
【0022】
太陽光発電設備300の発電量の実績値は、不図示のスマートメータにより計量され、所定時間ごと(例えば1時間毎)に稼働状態推定装置100に送信される。
【0023】
==稼働状態推定装置==
次に、稼働状態推定装置100について説明する。
【0024】
稼働状態推定装置100のハードウェア構成の一例を
図2に示す。稼働状態推定装置100は、CPU(Central Processing Unit)110、メモリ120、通信装置130、記憶装置140、入力装置150、出力装置160及び記録媒体読取装置170を有して構成される。
【0025】
CPU110は稼働状態推定装置100の全体の制御を司るもので、記憶装置140に記憶される本実施形態に係る各種の動作を行うためのコードから構成される稼働状態推定装置制御プログラム600や各種データをメモリ120に読み出して実行あるいは処理することにより、稼働状態推定装置100としての各種機能を実現する。
【0026】
例えば、CPU110により稼働状態推定装置制御プログラム600及び各種データが実行あるいは処理され、メモリ120や通信装置130、記憶装置140等のハードウェア機器と協働することにより、後述する算出式記憶部101、気象データ取得部102、第1指標値算出部103、稼働状態推定部104、判定値算出部105などの各機能が実現される。
【0027】
稼働状態推定装置制御プログラム600は、稼働状態推定装置100が有する機能を実現するためのプログラムを総称しており、例えば、稼働状態推定装置100上で動作するアプリケーションプログラムやOS(Operating System)、種々のライブラリ等を含む。
【0028】
メモリ120は例えば半導体記憶装置により構成することができる。
【0029】
記憶装置140は例えばハードディスクドライブやSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の各種プログラムやデータ、テーブル等を記憶するための物理的な記憶領域を提供する装置である。本実施形態では、
図3に示すように、記憶装置140には稼働状態推定装置制御プログラム600の他、気象データテーブル400、発電量実績値テーブル410、設備テーブル420、係数テーブル430、算出式440などの各種データが記憶されている。
【0030】
【0031】
稼働状態推定装置100は、所定時間毎(本実施形態では3時間毎)に気象データ提供装置200から日射量を含む所定種類の気象データを取得して、これらの気象データを気象データテーブル400に記憶する。
【0032】
図4に示すように、気象データテーブル400は、「予測時点」欄と、「予測対象時点」欄と、「日射量」欄と、「気温」欄と、「風速」欄とを有する。
【0033】
「予測時点」欄には、気象データ提供装置200が気象データ(MSMデータ)を配信した日時が記載されている。上述したように、気象データ提供装置200はMSMデータを3時間おきに1日8回提供しており、「予測時点」欄にはそれらの日時が記載される。
【0034】
「予測対象時点」欄には、予測対象時点、つまりいつの気象データを予測したものであるかを示す日時情報が記載されている。予測時点が0時及び12時の場合は、51時間先までの日時情報が記載され、予測時点が3時、6時、9時、15時、18時、21時の場合は、39時間先までの日時情報が記載されている。
【0035】
「日射量」欄には、各予測対象時点における日射量の予測値が記載されている。「気温」欄には、各予測対象時点における気温の予測値が記載されている。「風速」欄には、各予測対象時点における風速の予測値が記載されている。また
図4には示されていないが、気象データテーブル400には、気圧や雲量等、その他の種類の気象データの予測値が記憶されていてもよい。
【0036】
稼働状態推定装置100は、気象データ提供装置200からMSMデータが配信される3時間ごとに気象データテーブル400にMSMデータを追加する。
【0037】
なお気象データの予測精度は、配信時刻に近いほど高精度であると考えられる。そのため、本実施形態に係る稼働状態推定装置100は、気象データを用いて太陽光発電設備300の発電量の推測値を算出する際に、各配信時刻に得られる39個あるいは51個の気象データのうち、配信時刻に近い3個の気象データ、つまり予測対象時点が次の配信時刻より前の気象データ(
図4において星印が記載されている各配信時刻の直近3個の気象データ)を用いるようにしている。
【0038】
そのため、稼働状態推定装置100は、各配信時刻で得られる39個あるいは51個の全ての気象データを気象データテーブル400に記憶するのではなく、
図4で星印で示されるような各配信時刻から次の配信時刻までの間の気象データのみを記憶するようにしてもよい。このような態様により、気象データテーブル400のデータ容量を削減することが可能となる。
【0039】
続いて、発電量実績値テーブル410の一例を
図5に示す。
【0040】
稼働状態推定装置100は、所定時間毎(本実施形態では1時間毎)に太陽光発電設備300から発電量の実績値を取得して、発電量実績値テーブル410に記録する。
【0041】
図5に示すように、発電量実績値テーブル410には、日時情報と対応付けて太陽光発電設備300による発電量の実績値が記憶される。なお発電量の実績値は、直近の所定時間(1時間)における発電量の合計である。
【0042】
【0043】
設備テーブル420には、太陽光発電設備300の発電量の推定値を気象データから算出する際に用いられる太陽光発電設備300に関する情報が記録されている。
図6に示すように、例えば、設備テーブル420は、太陽光発電設備300の設置場所を表す「地点」、太陽光発電設備300のパネルの設置角度を表す「傾斜角度」、太陽光発電設備300のパネルの向きを表す「設置方位角度」、太陽光発電設備300の種別を表す「種別」、太陽光発電設備300のパネルの容量を表す「パネル容量」、パワーコンディショナの容量を示す「パワコン容量」、経時変化や損失等を考慮するため設備種別等に応じて設定される係数(以下,「固定係数」)を示す各フィールドを有している。
【0044】
【0045】
係数テーブル430には、時点iにおける発電量の実績値と、この実績値に対応する推定値と、これらの乖離の程度を表す指標値として第1指標値が複数の時点iについて記録されている。時点iは、稼働状態推定装置100が太陽光発電設備300の稼働状態を周期的に推定する期間である第1期間を表し、識別子iにより、各第1期間が区別される。なお本実施形態では、一例として、太陽光発電設備300の稼働状態の推定は1日単位で毎日行われるため、第1期間は1日である。稼働状態の推定を1日単位で行うことにより、太陽光発電設備300の一時的な(例えば数十分程度の)状態変化による稼働状態の誤判定を防止し、稼働状態の正確な推定を可能とする。例えば、太陽光発電設備300の設置場所での日射量は、太陽の下を通過する雲の位置や厚さがわずかに異なるだけでも大きく変化し、発電量の実績値と推定値の乖離の程度は一時的に大きく変動する。そのような場合であっても、第1期間を1日単位とすることにより、第1指標値の変動を抑制することができ、太陽光発電設備300の稼働状態を正しく推定することが可能となる。なお第1期間は1日単位の他にも、例えば12時間単位、1週間単位、10日単位、1か月単位など、太陽光発電設備300の状態推定を行う周期に応じて、適宜定めることができる。
【0046】
第1指標値の求め方は、太陽光発電設備300の発電量の実績値と推定値との乖離の程度を表す値が求まるのであれば特に限定はされないが、本実施形態では、第1期間における太陽光発電設備300の発電量の推定値に対する実績値の不足量を求めた上で、推定値に対する不足量の割合を第1指標値としている。式で表すと下記(1)~(4)のようになる。
【0047】
実績値=第1期間における発電量の実績値の総量 …(1)
推定値=第1期間における発電量の計算値の総量 …(2)
不足量=MAX(推定値-実績値,0) …(3)
第1指標値=不足量/推定値 …(4)
【0048】
第1指標値をこのように算出することにより、発電量の実績値と推定値と乖離の程度を、発電量の大きさに関わらず適切に判断することが可能となる。
【0049】
また太陽光発電設備300の発電量の推定値は、例えば下記の式(5)~(8)で表されるような算出式440及び気象データを用いて算出される。
【0050】
Tpa=Ta+(A/(B×V0.8+1)+2)×Ga-2 …(5)
(Tpa:太陽電池パネル温度(℃),Ta:外気温度(℃),A:係数(例えば屋根置き型「50」),B:係数(例えば屋根置き型「0.38」),V:風速(m/s),Ga:傾斜面日射量(kW/m2))
【0051】
Kpt=1+αmax×(Tpa-25) …(6)
(Kpt:温度補正係数,αmax:最大出力温度係数(1/℃),Tpa:太陽電池パネル温度(℃))
【0052】
システム出力係数=Kloss × Kpt …(7)
(Kloss:経時変化(汚れ,劣化),配線抵抗損失,インバータ損失等を考慮するため設備種別等に応じて汎用的に使用される固定の係数,Kpt:温度補正係数)
【0053】
推定値=傾斜面日射量(Ga)×システム出力係数×パネル容量 …(8)
また、太陽光発電設備300の発電量の推定値を算出する算出式440は上記(5)~(8)に限らない。
【0054】
例えば、過去の発電量の実績値と所定種類の気象データとの関係を学習することで学習モデルを生成し、この学習モデルに、発電量を推定する対象日の気象データを入力することで、発電量の推定値を算出するようにしてもよい。この場合、学習モデルは、CNN(Convolution Neural Network)等を用いた人工知能の深層学習により生成したモデルであってもよいし、回帰式を用いた学習モデルであってもよい。このようにして生成される学習モデルも算出式440に含まれる。このような態様により、気象データの影響を大きく受けて変化する太陽光発電設備300の発電量の推定値をより正確に算出することが可能となる。
【0055】
またあるいは、過去の所定期間における毎日の発電量の実績値と、上記(5)~(8)を用いて算出したこれらの各日の発電量の推定値と、の誤差を表す調整係数(例えば実績値/推定値)を求めておき、これらの調整係数の平均値を、式(5)~(8)を用いて算出した発電量の推定対象日の推定値に掛けることにより、発電量の推定値を補正するようにしてもよい。この場合、式(5)~(8)の他、各日の調整係数を算出する式、調整係数の平均値を算出する式、発電量の推定値を補正する式も算出式440に含まれる。
【0056】
このような態様により、式(5)~(8)に起因する誤差発生要因の影響を打ち消し、太陽光発電設備300の発電量の推定値をより正確に算出することが可能となる。
【0057】
さらにこのとき、上記の毎日の所定種類の気象データ(気温など)と推定対象日におけるこの気象データとの差異(気温差)に応じて、上記毎日の調整係数を加重平均し、加重平均後の調整係数を推定対象日における発電量の推定値に掛けることにより、この発電量の推定値を補正するようにしてもよい。この場合、式(5)~(8)の他、各日の調整係数を算出する式、調整係数の加重平均値を算出する式、発電量の推定値を補正する式が算出式440に含まれる。
【0058】
このような態様により、式(5)~(8)に起因する誤差発生要因の影響を打ち消すと共に、気象データの値が推定対象日の値に近い日ほど大きな重みで調整係数が加重平均されるので、気象データによる発電量への影響も考慮でき、太陽光発電設備300の発電量の推定値をより一層正確に算出することが可能となる。
【0059】
図2に戻って、記憶装置140は、稼働状態推定装置100に内蔵されている形態とすることもできるし、外付されている形態とすることもできる。
【0060】
記録媒体読取装置170は、CD-ROMやDVD等の記録媒体800に記録されたプログラムやデータを読み取り、記憶装置140に格納する。
【0061】
通信装置130は、インターネットやLAN(Local Area Network)等のネットワーク500を介して太陽光発電設備300(スマートメータ)や気象データ提供装置200等の他のコンピュータとデータやプログラムの授受を行う。例えば不図示の他のコンピュータに、上述した稼働状態推定装置制御プログラム600を格納しておき、稼働状態推定装置100がこのコンピュータから稼働状態推定装置制御プログラム600をダウンロードして実行するようにすることができる。
【0062】
あるいは通信装置130は、太陽光発電設備300(スマートメータ)や気象データ提供装置200から、発電量の実績値や、気温、降水量、日射量などの各種気象データを定期的に受信する。また稼働状態推定装置100は記憶装置140を備えずに、ネットワーク500を通じて通信可能に接続された不図示の他のコンピュータに記憶されている上記のプログラムやテーブル等の各種データを用いて稼働状態推定装置100としての機能を実現する形態も可能である。
【0063】
入力装置150は、オペレータ等による稼働状態推定装置100へのデータ入力等のために用いられる装置でありユーザインタフェースとして機能する。入力装置150としては例えばキーボードやマウス、マイク等を用いることができる。
【0064】
出力装置160は、情報を外部に出力するための装置でありユーザインタフェースとして機能する。出力装置160としては例えばディスプレイやプリンタ、スピーカ等を用いることができる。
【0065】
<機能構成>
図8に、本実施形態に係る稼働状態推定装置100の機能ブロック図を示す。稼働状態推定装置100は、算出式記憶部101、気象データ取得部102、第1指標値算出部103、稼働状態推定部104、判定値算出部105の各機能を備える。これらの機能は、
図2に示したハードウェアによって本実施形態に係る稼働状態推定装置制御プログラム600や各種のデータが実行あるいは処理されることにより実現される。
【0066】
[算出式記憶部]
算出式記憶部101は、日射量を含む所定種類の気象データから太陽光発電設備300の発電量の推定値を算出する算出式440を記憶する。本実施形態では、算出式記憶部101は記憶装置140として具現化されている。また算出式440は、上述した式(5)~(8)等に例示される。
【0067】
[気象データ取得部]
気象データ取得部102は、通信可能に接続された気象データ提供装置200から気象データを取得する。本実施形態では、気象データ取得部102は、気象データ提供装置200からMSMデータを取得する通信装置130として具現化されている。
【0068】
[第1指標値算出部]
第1指標値算出部103は、太陽光発電設備300の稼働状態を周期的に推定する第1期間毎に、気象データ及び算出式440を用いて算出した第1期間における太陽光発電設備300の発電量の推定値と、第1期間における太陽光発電設備300の発電量の実績値と、に基づいて、推定値と実績値との乖離の程度を表す第1指標値を算出する。
【0069】
たとえば第1指標値算出部103は、第1期間における太陽光発電設備300の発電量の推定値に対する実績値の不足量を求め、発電量の推定値に対する上記不足量の割合を第1指標値として算出する。
【0070】
より具体的には、第1指標値算出部103は、毎日、MSMデータ及び算出式440を用いてその日一日分の発電量の推定値を算出し、式(1)~(4)を用いて、この発電量の推定値と、発電量実績値テーブル410から取得したその日一日分の発電量の実績値と、の乖離の程度を表す第1指標値を算出する。
【0071】
そして第1指標値算出部103は第1指標値を、上述した係数テーブル430に記憶する。
【0072】
なお第1指標値は、太陽光発電設備300の発電量の推定値と実績値の乖離の程度を表すものであれば、例えば推定値と実績値との差分や、差分の2乗など他の値でもよい。
【0073】
[稼働状態推定部]
稼働状態推定部104は、上記第1期間毎に算出される第1指標値と、所定の判定値と、の比較の結果を元に、太陽光発電設備300の稼働状態を推定する。このような態様により、本実施形態に係る稼働状態推定装置100は、日射量センサを用いなくても、太陽光発電設備300の稼働状態を推定することが可能になる。
【0074】
なお、もし太陽光発電設備300の発電量の実績値又は推定値が第1基準値未満である場合には、稼働状態推定部104は、太陽光発電設備300の稼働状態の推定を行わないようにするとよい。このような態様により、太陽光発電設備300の稼働状態の誤判定を防止することが可能となる。
【0075】
つまり、太陽光発電設備300の発電量の実績値又は推定値が第1基準値未満であるような日は、例えば一日中悪天候で薄暗い日のように日射量が少ない日であり、このような日には、太陽光発電設備300からの発電量の実績値及び推定値共に小さくなるため、発電量の実績値及び推測値のわずかな値の揺らぎが、第1指標値を大きく変動させることになる。そのため、このような薄暗い日に太陽光発電設備300の稼働状態の推定を行うと、誤判定を起こしやすくなることになる。第1基準値は、このような太陽光発電設備300の稼働状態の誤判定が起きやすくなるような日射量が少ない日を除外できるように定められる。第1基準値は、例えば、太陽光発電設備300の定格の20%、40%、50%、60%、あるいは過去の所定期間(例えば100日間)の最大推定値の50%のように定めることができる。また第1基準値は、太陽光発電設備300の管理者が定めるようにしてもよい。このような態様により、太陽光発電設備300の稼働状態の推定の感度を管理者の事情に合わせて変更することが可能となる。
【0076】
あるいは、稼働状態推定装置100が太陽光発電設備300の稼働状態の推定を行わない日(第1期間)を管理者が個別に指定できるようにしてもよい。例えば、電力会社などからの要請により、太陽光発電設備300の発電量を意図的に抑制した日(第1期間)を個別に指定して除外するようにするとよい。このような態様により、発電量の推定値と実績値との乖離が拡大することが予め分かっている日(第1期間)を除外できるので、太陽光発電設備300の稼働状態の推定を正しく行うことが可能となる。
【0077】
また稼働状態推定部104は、第1期間における第1指標値が上記判定値を超えた場合に、太陽光発電設備300の稼働状態は当該第1期間において出力低下状態であると推定するようにするとよい。
【0078】
そして稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300を出力低下状態と推定した場合には、念のため、スマートメータを通じてユーザに注意喚起を促す情報を送信するようにしてもよい。このような態様により、例えば太陽光パネルが遮光性の飛来物で覆われていないかなど、ユーザは、太陽光発電設備300の点検を行うことが可能となる。
【0079】
このように、第1指標値が判定値よりも大きくなった場合に、直ちに出力異常低下状態あるいは故障発生といった状態を推定するのではなく、一旦、出力低下状態という状態を推定することで、単なる一時的な稼働状態の変化を異常と誤判定することを防止することが可能となる。
【0080】
そして稼働状態推定部104は、太陽光発電設備300の稼働状態が出力低下状態であると推定された第1期間が所定回数(所定日数)連続した場合に、太陽光発電設備300の稼働状態を出力異常低下状態と推定するようにするとよい。このような態様により、稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300の出力異常低下状態をより確実に推定することが可能となる。本実施形態では、出力低下状態が2回連続した場合(つまり2日連続した場合)に、出力異常低下状態が発生したと推定するようにしているが、回数は適宜任意の回数に定めることができる。太陽光発電設備300の管理者がこの回数を設定できるようにしてもよい。このような態様により、太陽光発電設備300の管理者の事情に合わせて、故障検知の感度を変えることが可能となる。
【0081】
なお稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300を出力異常低下状態と推定した場合には、スマートメータを通じて管理者に警報を送信するようにしてもよい。このような態様により、管理者は、太陽光発電設備300の発電量の異変を知ることができ、太陽光発電設備300の点検や修理を依頼するなどの対応をとることが可能となる。
【0082】
もちろん、稼働状態推定部104は、第1期間における第1指標値が上記判定値を超えた場合に、そのことをもって太陽光発電設備300の稼働状態は当該第1期間において出力異常低下状態であると推定するようにしてもよい。このような態様により、稼働状態推定装置100は、迅速に太陽光発電設備300の異変を検知して管理者に知らせることが可能となる。
【0083】
次に、判定値算出部105について説明する。判定値算出部105は、過去の所定期間(例えば100日間)における第1指標値の平均値m及び標準偏差σを算出し、この平均値m及び標準偏差σを元に、上述した判定値を算出する。
【0084】
例えば判定値算出部105は、上記標準偏差σに正の定数kを掛けた値を平均値mに加えることにより判定値を算出する。
【0085】
つまり判定値算出部105は、判定値を下記の式(9)のように算出することができる。
判定値=m+k×σ…(9)
【0086】
このような態様により、稼働状態推定装置100は、判定対象日における太陽光発電設備300の発電量の推定値と実績値との乖離の程度を表す第1指標値を、過去の所定期間における複数の第1指標値を用いて統計的に検証した結果によって、発電量に異変が生じているか否かを判定することが可能となる。これにより、より正確に太陽光発電設備300の発電量の稼働状態を推定することが可能となる。つまり、日射量センサを用いずに太陽光発電設備300の稼働状態を判定する場合に、誤判定とならないような判定値を適切に設定することが可能となる。
【0087】
例えば正の定数kを2とした場合には、判定対象日の第1指標値が判定値を超える確率は約5%、正の定数kを3とした場合には、判定対象日の第1指標値が判定値を超える確率は約0.3%である。また正の定数kの値は、正の値であれば自然数に限らず、正の実数でよい。
【0088】
また判定値算出部105は、上記判定値を算出する際に、過去の所定期間の第1指標値のうち、太陽光発電設備300の発電量の実績値又は推定値が第2基準値未満である第1期間における第1指標値を除外して、上記平均値m及び標準偏差σを算出するようにするとよい。このような態様により、太陽光発電設備300の稼働状態をより適切に推定可能な判定値を算出することが可能となる。
【0089】
つまり、太陽光発電設備300の発電量の実績値又は推定値が第2基準値未満であるような日は、例えば一日中悪天候で薄暗い日のように日射量が少ない日であり、このような日には、太陽光発電設備300からの発電量の実績値及び推定値共に小さくなるため、発電量の実績値及び推測値のわずかな値の揺らぎが、第1指標値を大きく変動させることになる。そのため、このような薄暗い日に算出した第1指標値は大きな値になりやすく、判定値も大きな値に定めざるを得ない。
【0090】
そうすると、第1指標値がなかなか判定値を超えないことになるので、例えば、実際に太陽光発電設備300の発電量が異常に低下しているにもかかわらず検出できないことも起こりえるなど、太陽光発電設備300の状態推定が正しく行われなくなる可能性が生じてしまう。
【0091】
このため、本実施形態に係る判定値算出部105は、太陽光発電設備300の発電量の実績値又は推定値が第2基準値未満である場合には、当該第1期間を除外して判定値を算出するようにしている。このとき第2基準値は、太陽光発電設備300の稼働状態の推定を適切に行うことが困難になるような判定値が算出されないように定められる。第2基準値は、第1基準値と同じ値であってもよいし、異なる値にしてもよい。例えば第2判定値は、太陽光発電設備300の定格の20%、40%、50%、60%、あるいは過去の所定期間(例えば100日間)の最大推定値の50%のように定めることができる。また第2基準値は、太陽光発電設備300の管理者が定めるようにしてもよい。このような態様により、太陽光発電設備300の稼働状態の推定の感度を管理者の事情に合わせて変更することが可能となる。
【0092】
また、太陽光発電設備300の稼働状態の推定を行わないように除外された日(第1期間)がある場合は、判定値算出部105は、判定値を算出する際にその日の第1指標値を除外するとよい。このような態様により、より適切に判定値を算出することが可能となる。
【0093】
なお、判定値算出部105は、過去の所定期間における第1指標値を用いて上記判定値を求めるようにしたが、この所定期間は、例えば
図13に示すように、連続した期間でなくてもよい。
【0094】
過去の所定期間は、
図13に示すように、例えば、現在の日(稼働状態を推定する日)までの直近14日間と、現在の日の1年前の日とその前後14日間であり、さらに、現在の日の2年前の日とその前後14日間と、現在の日の3年前の日とその前後14日間とを含んでもよい。ただし、上記はあくまで一例を示すものであり、現在の日と気象条件が同じような期間であればよい。このような態様により、太陽光発電設備300の発電量に影響のある気象条件が類似の過去のデータを用いて稼働状態を推定することができるので、精度を向上することが可能となる。
【0095】
==処理の流れ==
次に、
図9~
図10を参照しながら、本実施形態に係る稼働状態推定装置100が、上述した気象データテーブル400や発電量実績値テーブル410、設備テーブル420、係数テーブル430及び算出式440を参照しながら、太陽光発電設備300の発電量の稼働状態を推定する際の処理の流れを説明する。
【0096】
まず稼働状態推定装置100は、例えば、毎日の日没後の所定時刻(例えば21時)になると、その日1日の気象データ及び発電量の実績値を取得する(S1000)。具体的には、稼働状態推定装置100は、発電量実績値テーブル410から、その日の日中の所定時間(例えば6時から18時まで)における太陽光発電設備300の発電量の実績値を取得する。また稼働状態推定装置100は、同じ時間(6時から18時まで)における日射量を含む気象データを気象データテーブル400から取得する。
【0097】
このとき稼働状態推定装置100は、3時間ごとにMSMデータとして配信される気象データのうち、各配信時刻に近い3個分(3時間分)の気象データ(
図4において星印が記載されている各配信時刻に近い3個の気象データ)を取得する。
【0098】
そして稼働状態推定装置100は、発電量の実績値の合計値が第1基準値未満である場合には、太陽光発電設備300の稼働状態の推定を行わずに処理を終了する(S1010)。
【0099】
一方、発電量の実績値の合計が第1基準値以上である場合には、稼働状態推定装置100は、気象データと算出式440を用いて、その日1日の上記所定時間における太陽光発電設備300の発電量の推定値を算出する(S1020)。
【0100】
そして稼働状態推定装置100は、上述した式(1)~(4)を元に、その日の第1指標値を算出する(S1030)。
【0101】
もし第1指標値が判定値以下である場合には、稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300の稼働状態を正常(異常なし)と推定し、処理を終了する(S1040)。
【0102】
一方、第1指標値が判定値を超えている場合には、稼働状態推定装置100は前日も第1指標値が判定値を超えていたか否かを確認する(S1050)。そして、前日は第1指標値が判定値を超えていなかった場合には、稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300の稼働状態を出力低下状態であると判定する(S1060)。また前日も第1指標値が判定値を超えていた場合には、稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300の稼働状態を出力異常低下状態であると判定する(S1060)。
【0103】
このような態様により、本実施形態に係る稼働状態推定装置100は、日射量センサを用いることなく太陽光発電設備300の稼働状態を推定することができる。
【0104】
一方で稼働状態推定装置100は、
図10に示す手順に従って上述した判定値を定める処理を行う。
【0105】
まず稼働状態推定装置100は、過去の所定期間(例えば100日間)における第1指標値を取得する(S2000)。例えば稼働状態推定装置100は、係数テーブル430から過去100日分の第1指標値を取得する。
【0106】
そして稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300の発電量の実績値が第2基準値未満である日の第1指標値を除外した後(S2010)、残った日の第1指標値の平均値mと標準偏差σを計算し、式(9)を用いて判定値を求める(S2020)。
【0107】
このような態様により、日射量センサを用いずに太陽光発電設備300の稼働状態を判定する場合に、誤判定とならないような判定値を適切に設定することが可能となる。
【0108】
次に、
図11及び
図12を参照しながら、本実施形態に係る稼働状態推定装置100が太陽光発電設備300の稼働状態を推定する際の様子を説明する。
【0109】
図11及び
図12は、稼働状態推定装置100が、例えば太陽光発電設備300の管理者が所有するパソコンやスマートフォン等のコンピュータ(不図示)のディスプレイなどの出力装置に表示する画面の例である。
【0110】
図11は、ある過去の所定期間における毎日の太陽光発電設備300の発電量の推定値及び実績値を、横軸に推定値、縦軸に実績値を取った2次元座標平面上の点の位置で表したグラフである。
【0111】
図11において(D)で示す直線は、推定値と実績値とが等しい場合を表している。点の位置が直線(D)上にある場合、式(1)~(4)により、第1指標値は0となる。なお、
図11において直線(D)よりも実績値が大きな値になっている点があるが、このような点についても式(1)~(4)を用いて第1指標値を算出すると0となる。
【0112】
また
図11において(G)で示す直線は、第1基準値(最低出力)を表している。このため、
図11の白丸で示すように、点の位置が直線(G)よりも小さい(左側にある)場合は、稼働状態推定装置100は、太陽光発電設備300の稼働状態の推定を行わない。なお、
図11に示す例では、直線(G)で示す最低出力は、直線(C)で示す最大出力の50%として定められている。
【0113】
また本実施形態では第1基準値と第2基準値は同じ値に設定されており、直線(G)は第2基準値も表している。このため、稼働状態推定装置100は、
図11の白丸で示すような、点の位置が直線(G)よりも小さい(左側にある)日の第1指標値を用いずに判定値を算出する。
【0114】
また
図11において白抜きの三角形で示される点は、電力会社等からの要請により太陽光発電設備300の出力が抑制されたことを示している。このため、稼働状態推定装置100は、このような発電量の実績値が人為的に下げられている場合については太陽光発電設備300の稼働状態の推定を行わないようにしている。
【0115】
また
図11において白抜きの四角形で示される点は、例えば午前中に積雪があった後に午後から晴れた日のように、太陽光発電設備300の発電量の実績値が推定値よりも低下することが分かっていることを示している。本実施形態に係る稼働状態推定装置100は、このような場合についても太陽光発電設備300の稼働状態の推定を行わないようにしている。
【0116】
そして稼働状態推定装置100は、
図11に示す黒丸で示す各点について算出した第1指標値の平均値mを計算することにより、推定値に対する実績値の不足量の割合(不足率)の平均値mを算出する。
図11において直線(E)は、このようにして算出した平均値mを用いて、式(10)の値を計算することにより定まる直線である。
推定値×(1-平均値m)…(10)
【0117】
同様に稼働状態推定装置100は、
図11に示す黒丸で示す各点について算出した第1指標値の標準偏差σを計算することにより、推定値に対する実績値の不足量の割合(不足率)の標準偏差σを算出する。
図11において直線(F)は、このようにして算出した平均値m及び標準偏差σを用いて、式(11)の値を計算することにより定まる直線である。
推定値×(1-(平均値m+k×σ))…(11)
なおkは正の定数であり、例えば3である。
【0118】
そして稼働状態推定装置100は、
図11において(A)で示す領域内の点については正常、(B)で示す領域内の点については、出力低下状態あるいは出力異常低下状態であると判定することになる。
【0119】
一方、
図12は
図11に示した例と同様であるが、太陽光発電設備300の管理者が、上述した第1基準値及び第2基準値の値(直線(G)に対応)や、標準偏差σの値(直線(F)に対応)、あるいは、白抜き三角形や白抜き四角形で示したような、稼働状態の推定を行わない日を自由に設定できるようにした場合の例である。
【0120】
このような態様により、例えば太陽光発電設備300の設置地域や季節による気象条件の違い(例えば冬はパネルに雪が多く積り、晴れていても発電量が極めて少ないなど)や、日当たり状況の違い(例えば家の前に巨木があって日当たりが悪いなど)など、各家庭ごとに異なる様々な状況を考慮して、各家庭で最適に太陽光発電設備300の稼働状態が推定されるようすることが可能となる。
【0121】
以上、本実施形態に係る稼働状態推定装置100、稼働状態推定装置100の制御方法及び稼働状態推定装置制御プログラム600について説明したが、本実施形態によれば、日射量センサを用いなくても太陽光発電設備300の稼働状態を推定することが可能になる。これにより、一般家庭用のような比較的低コストの太陽光発電設備300であっても稼働状態の推定を行うことが可能となり、利用者にいち早く異常を知らせることが可能となる。一般家庭では、太陽光発電設備300が故障して発電量が低下しても、その分を電力小売事業者から供給される電力で補ってしまい、日常生活において支障が生じないため、太陽光発電設備300の故障に気づきにくい。そのため、電気料金が知らない間に上昇し、場合によっては長期間にわたって家計の収支に影響を与えることにもなる。
【0122】
本実施形態のように、日射量センサを用いることなく太陽光発電設備300の稼働状態を推定することができれば、コストを抑えたまま利用者の利便性を向上させることが可能となる。
【0123】
特に、本実施形態によれば、稼働状態の推定対象日における太陽光発電設備300の発電量の推定値と実績値との乖離の程度を表す第1指標値を、過去の所定期間における複数の第1指標値を用いて統計的に検証した結果によって、発電量に異変が生じているか否かを判定することが可能となる。これにより、より正確に太陽光発電設備300の発電量の稼働状態を推定することが可能となる。つまり、日射量センサを用いずに太陽光発電設備300の稼働状態を判定する場合に、誤判定とならないような判定値を適切に設定することが可能となる。
【0124】
なお上述した実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0125】
100 稼働状態推定装置
101 算出式記憶部
102 気象データ取得部
103 第1指標値算出部
104 稼働状態推定部
105 判定値算出部
110 CPU
120 メモリ
130 通信装置
140 記憶装置
150 入力装置
160 出力装置
170 記録媒体読取装置
200 気象データ提供装置
300 太陽光発電設備
400 気象データテーブル
410 発電量実績値テーブル
420 設備テーブル
430 係数テーブル
440 算出式
500 ネットワーク
600 稼働状態推定装置制御プログラム
800 記録媒体
1000 稼働状態推定システム