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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20250520BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20250520BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20250520BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20250520BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20250520BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250520BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20250520BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20250520BHJP
【FI】
F02D9/02 321Z
F02D29/06 D
F02D29/06 L
F02D21/08 301A
B60K6/52 ZHV
B60K6/442
B60W10/06 900
B60K6/24
B60W20/00 900
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021147525
(22)【出願日】2021-09-10
(65)【公開番号】P2023040505
(43)【公開日】2023-03-23
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】澤田 徹
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩太
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/081111(WO,A1)
【文献】特開平11-229904(JP,A)
【文献】特開2006-132498(JP,A)
【文献】特開2019-196762(JP,A)
【文献】特開2015-020486(JP,A)
【文献】特開2021-130426(JP,A)
【文献】特開2013-082287(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0319389(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/02
F02D 29/06
F02D 21/08
B60K 6/52
B60K 6/442
B60W 10/06
B60K 6/24
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットル弁を含む内燃機関と、前記内燃機関によって駆動される第1回転電機と、を有する電動車両の制御装置であって、
前記内燃機関に要求される要求負荷に対応する吸入気量と、前記スロットル弁の上流の圧力と下流の圧力との比に対応する係数と、に基づいて前記スロットル弁の開度を決定する第1制御と、
前記要求負荷と、前記内燃機関が前記第1回転電機を実際に駆動する実負荷と、に基づいて前記スロットル弁の開度を決定する第2制御と、
を備え、
前記要求負荷が所定負荷未満の場合、前記第1制御を実行し、
前記要求負荷が前記所定負荷以上の場合、前記第2制御を実行する、
電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記電動車両は、駆動軸を駆動する第2回転電機を有し、
前記電動車両の制御装置は、
前記内燃機関によって前記第1回転電機を駆動して発電し、発電した電力を前記第2回転電機に供給し前記電動車両を走行させる、第1走行モードと、
前記内燃機関によって前記駆動軸を駆動する、第2走行モードと、
をさらに備え、
前記所定負荷以上であっても、前記第2走行モードの場合、前記第2制御を禁止する、
請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記第1走行モードから前記第2走行モードに切り替える場合、
前記第2制御中に記憶した実負荷と要求負荷の差分に基づいて、前記第2走行モードにおける前記要求負荷を補正する、
請求項2に記載の電動車両の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、前記内燃機関から排出される排気を再循環する排気再循環装置を含み、
前記電動車両の制御装置は、
前記第2制御を禁止する場合、前記排気再循環装置による排気の再循環を禁止する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の電動車両の制御装置。
【請求項5】
前記吸入空気量に対する前記排気再循環装置によって再循環される排気の量の割合に応じて前記所定負荷が変化する、
請求項4に記載の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関を有する電動車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の電動車両の制御装置は、内燃機関と内燃機関によって駆動可能な発電機を有する。特許文献1の電動車両の制御装置では、内燃機関の軸トルクを発電機によって検出し、軸トルクに基づいて内燃機関のスロットル弁の流量特性を学習している。これによって、吸入空気量を検知するためのエアフロセンサを用いずに、吸入空気量を演算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019―196762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、スロットル弁の流量特性は、スロットル弁の前後の圧力の状態によっても変化する。例えば、スロットル弁上流と下流の圧力が近づいてくると、スロットル弁下流に流れる空気量が減ることによって、スロットル弁の流量特性が変化する。特許文献1の電動車両の制御装置では、このようなスロットル弁の前後の圧力については、考慮されていない。このため、スロットル弁前後の圧力の状態によっては、吸入空気量が減少しドライバビリティが悪化するおそれがある。
【0005】
本開示の課題は、スロットル弁前後の圧力の影響を受けることなく、ドライバビリティが良好な電動車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電動車両の制御装置は、スロットル弁を含む内燃機関と、内燃機関によって駆動される第1回転電機と、を有する電動車両の制御装置である。電動車両の制御装置は、内燃機関に要求される要求負荷に対応する吸入気量と、スロットル弁の上流の圧力と下流の圧力との比に対応する係数と、に基づいてスロットル弁の開度を決定する第1制御と、要求負荷と、内燃機関が第1回転電機を実際に駆動する実負荷と、に基づいてスロットル弁の開度を決定する第2制御と、を備える。電動車両の制御装置は、要求負荷が所定負荷未満の場合、第1制御を実行し、要求負荷が所定負荷以上の場合、第2制御を実行する。

【0007】
この電動車両の制御装置によれば、所定負荷未満の場合は、スロットル弁下流と上流の圧力の比に対応する係数を用いてスロットル弁の開度を決定する。一方、所定負荷以上の場合は、要求負荷及び実負荷に基づいてスロットル弁の開度を決定する。これによって、スロットル弁前後の圧力の影響を受けることなく、ドライバビリティが良好な電動車両の制御装置を提供できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、スロットル弁前後の圧力の影響を受けることなく、ドライバビリティが良好な電動車両の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態による電動車両のシステム図。
図2】本開示の実施形態による内燃機関のシステム図。
図3】本開示の実施形態による電動車両の制御装置によるスロットル開度と、目標充填効率、スロットル流量係数、スロットル弁前後圧力比の関係を示す図。
図4】本開示の実施形態による電動車両の制御装置の走行モード切替の例。
図5】本開示の実施形態による電動車両の制御装置の制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、車両の前後方向をQと図面に記し、前方をFと記す。また、車両の車幅方向をPと図面に記し、車両の後方からみて右側をRと記す。さらに、車両の上下方向をGと図面に記し、上方をUと記す。
【0011】
図1に示すように、本実施形態による電動車両1は、四輪駆動型のプラグインハイブリッド自動車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)である。電動車両1は、内燃機関(ENG)2と、発電機(第1回転電機の一例:GEN)4と、フロントモータ(第2回転電機の一例:FrM)6と、リアモータ(RM)8と、駆動用電池(BT)10と、制御装置(HVECU)20と、アクセルペダル21と、外部充電装置22と、を有する。また、本実施形態では電動車両1は、内燃機関2のクランクシャフトが車幅方向に延びて配置される内燃機関横置き型の電動車両1である。
【0012】
本実施形態の電動車両1は、フロントモータ6がトランスアクスル16を介して前輪12の前輪駆動軸12aを駆動する。リアモータ8は、減速機8cを介して後輪14の後輪駆動軸14aを駆動する。フロントモータ6は、フロントインバータ18を介して駆動用電池10と接続され、駆動用電池10から電力(第2電力)が供給される。
【0013】
フロントインバータ18は、フロントモータ制御装置(FrMCU)6aと、発電機4を制御する発電機制御装置(GCU)4aと、を有する。フロントモータ制御装置6aは、制御装置20から信号を取得し、フロントモータ6が所望の運転状態となるようにフロントモータ6の回生と力行を制御する。リアモータ8も同様に、リアインバータ8bを介して駆動用電池10と接続され、駆動用電池10から電力(第2電力)が供給される。リアインバータ8bは、リアモータ制御装置(RMCU)8aを有する。リアモータ制御装置8aは、制御装置20から信号を取得し、リアモータ8が所望の運転状態となるようにリアモータ8の回生と力行を制御する。
【0014】
図2に示すように、内燃機関2は、少なくとも、スロットル弁2bと、インテークマニホールド2cと、排気再循環装置2dと、を有する。また、排気再循環装置2dは、排気循環弁2eおよび排気循環通路2fを含む。排気再循環装置2dは、排気管2gから排気をインテークマニホールド2cに循環する装置である。排気循環弁2eは、吸入空気量に対する排気の循環量(以下明細書においてEGR率と記す。EGRはExhaust Gas Recirculationの略)を調整する弁である。内燃機関2は、本実施形態では、マルチインジェクション方式のガソリンエンジンである。内燃機関2は、インテークマニホールド2cに配置された燃料噴射弁2hによって燃料を噴射し、スロットル弁2bによって吸入空気量を調整することにより出力を調整する。しかし、内燃機関2は、シリンダ2jに直接燃料を噴射する直噴方式のガソリンエンジンであってもよい。さらに、内燃機関2は、マルチインジェクション方式および直噴方式を併用するガソリンエンジンであってもよい。インテークマニホールド2cには、圧力センサ2iが設けられ、スロットル弁2bの下流(スロットル弁2bの後)の圧力であるインテークマニホールド内の圧力Prを検知する。また、スロットル弁2bの上流には、図示しないエアフロセンサが設けられ、大気温度、大気圧、スロットル弁2bの上流(スロットル弁2bの前)の圧力である吸気圧Pf、および実際の吸入空気量Qrなどを検知する。
【0015】
内燃機関2は、トランスアクスル16を介して発電機4を駆動する。内燃機関2は、燃料タンク(Fuel TANK)23から供給される燃料が燃焼することで駆動する。内燃機関2の各種装置および各種センサは、エンジン制御装置(ENG-ECU)2aと電気的に接続される。エンジン制御装置2aは、制御装置20からの信号を取得し、内燃機関2が所望の運転状態となるように制御する。
【0016】
本実施形態では、エンジン制御装置2aは、制御装置20からエンジン要求トルクETq(要求負荷の一例)を取得する。エンジン制御装置2aは、エンジン要求トルクETqを取得すると、目標充填効率Ecを演算する。目標充填効率Ecは、シリンダ2jの容積に対し充填する空気量である。エンジン制御装置2aは、目標充填効率Ecから図示しないエアフロセンサで検知した大気温度を取得し、目標吸入空気量Qtを演算する。エンジン制御装置2aは、目標吸入空気量Qtから目標スロットル流量Qthを演算する。エンジン制御装置2aは、この目標スロットル流量Qthに対して、スロットル流量係数Kthをかけ合わせることによって、スロットル開度ThOを演算する第1制御を実行する。なおエンジン制御装置2aが実行する制御手順は、制御装置20によって実行してもよい。
【0017】
図3は、エンジン要求トルクETqが時刻t0から時刻t2まで上昇し、時刻t3から下降する場合のスロットル開度Th、目標充填効率Ec、スロットル流量係数、スロットル前後圧力比Pr/Pfを示したグラフである。破線は従来の制御を示し、実線が後述する制御手順を実行した場合のグラフである。図3のスロットル前後圧力比Pr/Pfのグラフに示すように、エンジン要求トルクETqが上昇するにつれて、スロットル弁2bの前後圧力比Pr/Pfが1に近づく。スロットル流量係数Kthは、スロットル弁2bの流量特性に合わせて、目標スロットル流量Qthと、スロットル開度ThOとの相関関係を示した係数である。図3の時刻t1から時刻t2のスロットル流量係数Kthの破線グラフに示すように、このようなスロットル流量係数Kthは、スロットル弁2bの前後圧力比Pr/Pfが1に近づく直前において傾きが急激に変化する。スロットル弁2bの前後圧力比Pr/Pfが1に近い状態の一例は、エンジン要求トルクETqが高い状態である。あるいは、EGR率が高い状態である。
【0018】
このように、スロットル弁2bの前後圧力比Pr/Pfが所定圧力比Pt以上の領域に(例えば、後述する所定トルクTqd以上の領域)おいては、スロットル流量係数Kthの変化が大きいため、スロットル流量係数Kthを用いてスロットル開度ThOを決定することができない。このような理由から、この領域においてはスロットル流量係数Kthを一定値に維持し、前後圧力比Pr/Pfによってフィードバック制御せずオープンループ制御を実行している。しかし、図3の時刻t1から時刻t2および時刻t3から時刻t4までの間の充填効率Ecのグラフに示すように、スロットル流量係数Kthを一定値に維持すると、エンジン要求トルクETqから演算した目標充填効率Ec(実線)に対して、エアフロセンサから演算した実際の充填効率Ecr(破線)との間に乖離が発生する。図3の時刻t2および時刻t4のスロットル開度ThOの破線グラフに示すように、目標充填効率Ecと充填効率Ecrの乖離が大きくなると、スロットル弁2bは急激に全開(開度100%)に向けて動く、もしくは、全開から急激に閉じる方向に動く。これによって、内燃機関2の出力が急激に変動し、ドライバビリティが悪化する。
【0019】
図1に示すように、トランスアクスル16は、内燃機関2の回転車速を増幅し発電機4に伝達する。また、本実施形態のトランスアクスル16は、クラッチ16aを有する。クラッチ16aは、内燃機関2とフロントモータ6との間および内燃機関2と前輪駆動軸12aとの間で動力を伝達および遮断する。内燃機関2は、トランスアクスル16のクラッチ16aを介して前輪駆動軸12aに接続され、前輪駆動軸12aを駆動する。
【0020】
発電機4は、内燃機関2と接続され、内燃機関2によって駆動されることにより発電する。発電機4によって発電された電力(第1電力)は、駆動用電池10を充電可能であるとともに、フロントインバータ18およびリアインバータ8bを介して各モータに供給可能である。本実施形態では、発電機4はモータジェネレータであり、発電に加えて内燃機関2を回転駆動することによって内燃機関2をクランキングまたはモータリングすることができる。発電機4は、内燃機関2から駆動される場合、発電機4に負荷を与えることで発電する。一方、発電機4は、駆動用電池10から電力が供給され力行することによって内燃機関2を駆動しクランキングまたはモータリングさせる。発電機4は、フロントインバータ18に設けられた発電機制御装置4aによって制御される。発電機制御装置4aは、制御装置20と電気的に接続され、制御装置20からの信号を取得し、発電機4が所望の運転状態となるように発電と力行を制御する。
【0021】
駆動用電池10は、リチウムイオン電池等の二次電池で構成され、複数の電池セルをまとめて構成された図示しない電池モジュールを有する。駆動用電池10は、各モータの電源として機能する。さらに駆動用電池10は、電池モニタリングユニット(BMU)10aを有する。電池モニタリングユニット(BMU)10aは、電池モジュールの充電率(State Of Charge、以下、SOCと記す)の算出、電池モジュールの劣化状態(State Of Health 以下 SOH)、電池モジュールの電圧Bv、および電池温度Btmpの検出を行う。電池モニタリングユニット10aは、駆動用電池10の電圧Bv、充電率SOC、劣化状態SOH、および電池温度Btmpを取得し、制御装置20に送信する。
【0022】
制御装置20は、少なくとも走行モードの切り替えをする制御と、各走行モードにおいて、内燃機関2に発電させる発電制御と、内燃機関2を発電機4によって駆動するモータリング制御と、電動車両1を回生制動と摩擦制動とを用いて回生協調制動する制御と、を実行する。
【0023】
本実施形態では、制御装置20は、車速V、充電率SOC、およびアクセル開度AOなどの情報に基づいて、クラッチ16aを制御することによって、シリーズモード(シリーズ走行モード、第1走行モードの一例)、パラレルモード(パラレル走行モード、第2走行モードの一例)、およびEVモード(EV走行モード、第3走行モードの一例)の中から、いずれかにひとつの走行モードに切り替える。
【0024】
図4に示すように、制御装置20は、EVモードと、シリーズモードと、パラレルモードと、をドライバ要求トルクDTq(負荷)および車速Vに基づいて切り替える。例えば、制御装置20は、ドライバ要求トルクDTqが大きくなると、EVモードからシリーズモードに切り替える。制御装置20は、シリーズモードからパラレルモードへ切り替える場合、ドライバ要求トルクDTqが大きくなった場合、または車速Vが高くなった場合に切り替える。
【0025】
パラレルモードでは、制御装置20は、クラッチ16aを接続し、内燃機関2とフロントモータ6の両方よって前輪駆動軸12aを駆動する。このとき、フロントモータ6には、駆動用電池10からの電力(第2電力)、および発電機4で発電した電力(第1電力)のいずれか一方、または両方が供給される。リアモータ8も同様に駆動用電池10からの電力(第2電力)、および発電機4で発電した電力(第1電力)のいずれか一方、または両方が供給され、後輪駆動軸14aを駆動する。EVモードでは、制御装置20は、クラッチ16aを開放し、駆動用電池10の電力(第2電力)を各モータに供給し、各モータが前輪駆動軸12aおよび後輪駆動軸14a(以下明細書において各駆動軸と記す)を駆動する。
【0026】
シリーズモードでは、制御装置20は、クラッチ16aを開放し、内燃機関2で発電機4を駆動し、発電機4で発電した第1電力を各モータに供給する。また、第1電力によっては各モータが各駆動軸を駆動する駆動力が不足する場合、駆動用電池10からも各モータに第2電力が供給される。なお、パラレルモード、およびシリーズモードにおいて、内燃機関2によって発電した発電電力の一部を駆動用電池10に供給することによって駆動用電池10を充電してもよい。
【0027】
制御装置20は、実際には、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等と、を含むマイクロコンピュータによって構成される。制御装置20は、各センサおよび各種装置からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、電動車両1が、所望の運転状態となるように各装置を制御する。
【0028】
また、本実施形態では、エンジン制御装置2a、発電機制御装置4a、フロントモータ制御装置6a、リアモータ制御装置8a、および電池モニタリングユニット10aを含む各種制御装置が、それぞれ制御装置20と別に設けられる。各種制御装置は、それぞれ制御装置20と電気的に接続される。しかし、各種制御装置は、制御装置20と一体で設けられてもよい。各種制御装置は、制御装置20と同様に、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等と、を含むマイクロコンピュータによって構成される。
【0029】
図1に示すように、アクセルペダル21は、電動車両1のドライバが踏み込み操作することで、電動車両1の加減速を制御するペダルである。アクセルペダル21には、踏み込み位置を検知するアクセルポジションセンサ21aが設けられる。アクセルポジションセンサ21aは、制御装置20と電気的に接続され、制御装置20にアクセル踏み込み位置(アクセル開度AO)を送信する。制御装置20は、アクセル開度AOからドライバ要求トルク(ドライバ要求出力の一例)DTqを演算する。
【0030】
外部充電装置22は、駆動用電池10の電力を、電動車両1の外部電源から充電する(以下明細書において外部充電と記す)装置である。外部充電装置22は、例えば電動車両1の外部にある充電設備から電力の供給を受ける。外部充電装置22は、外部電源から供給された電力を駆動用電池10の充電に適した電力に変換し、駆動用電池10を充電する。
【0031】
次に、図5のフローチャートを用いて、本実施形態の制御装置20の制御手順について説明する。なお、下記の制御手順は、制御装置20のみならずエンジン制御装置2aを用いて実行させてもよいが、本実施形態では制御装置20が制御手順を実行する場合について説明する。制御装置20は、図示しないイグニッションスイッチがオンされることで、制御動作を開始する。
【0032】
ステップS1において、制御装置20は、EGR率を取得する。EGR率は、吸入空気量に対する排気循環ガス量の割合である。制御装置20は、ステップS1においてEGR率を取得することによって、後述する所定トルクTqdを変化させる。具体的には、EGR率が高いほど、所定トルクTdqを小さくする。EGR率が高くなるほど、前後圧力比Pr/Pfは高くなりやすい。このため、制御装置20は、EGR率が高くなるほど、所定トルクTdqを下げ、後述する第2制御に誘導する。これによって、第1制御のオープンループ制御の実行を抑制しやすい。この結果、制御の精度が向上する。制御装置20は、EGR率を取得すると、ステップS2に処理を進める。
【0033】
ステップS2において制御装置20は、エンジン要求トルクETqが所定トルク(所定負荷の一例)Tqd以上か否か判断する。所定トルクTqdは、スロットル弁2bの前後圧力比Pr/Pfが所定圧力比Pt以上となるトルクである。所定圧力比Ptは、例えば0.95以上の値である。上記のとおり図3の時刻t1から時刻t2のスロットル流量係数Kthの破線グラフに示すように、このようなスロットル流量係数Kthは、スロットル弁2bの前後圧力比Pr/Pfが1に近づく直前において傾きが急激に変化する。また、図3の時刻t3から時刻t4のスロットル流量係数Kthの破線グラフに示すように、エンジン要求トルクETqが低下する際もエンジン要求トルクETqが上昇する際と同様に、スロットル弁2bの前後圧力比Pr/Pfが高い状態では、スロットル流量係数Kthの傾きの変化が大きい。そこで、制御装置20は、エンジン要求トルクETqが上昇および下降する場合の両方において、エンジン要求トルクETqが所定トルクTdq未満の値になるまでは、エンジン要求トルクETqが所定トルクTqd以上であると判断する。
【0034】
図5に示すように、制御装置20は、エンジン要求トルクETqが所定トルクTdq未満の場合(ステップS2 NO)、ステップS3に処理を進め、第1制御を実行する。第1制御は、上記のとおり目標スロットル流量Qthに対して、スロットル流量係数Kthをかけ合わせることによって、スロットル開度ThOを演算する制御である。制御装置20は、エンジン要求トルクETqが所定トルクTdq以上の場合(ステップS2 YES)、ステップS4に処理を進める。
【0035】
ステップS4において、制御装置20は、シリーズモードか否か判断する。本実施形態の電動車両1は、パラレルモードにおいて、内燃機関2の出力軸と前輪駆動軸12aが接続される。このため、内燃機関2は、発電機4に加えて、駆動軸に軸出力を分配する。これによって、パラレルモードにおいては、内燃機関2の出力軸の軸トルクである実トルク(実負荷の一例)を、発電機4によって検知することが困難である。したがって、制御装置20は、シリーズモードであると判断した場合(ステップS4 YES)のみ、ステップS5に処理を進める。
【0036】
ステップS5において、制御装置20は、エンジン要求トルクETqと実トルクTrとの差分の絶対値を演算するとともに記憶する。制御装置20は、差分の絶対値がゼロより大きいか否か判断する。制御装置20は、内燃機関2の出力軸の軸トルクを発電機4によって検出し実トルクTrを演算する。具体的には制御装置20は、内燃機関2によって駆動される発電機4の発電量から実トルクTrを演算する。
【0037】
制御装置20は、エンジン要求トルクETqと実トルクTrとの差分の絶対値がゼロより大きいか否か判断することによって、目標充填効率Ecと実際の充填効率Ecrとの乖離の有無を判断する(ステップS5)。制御装置20は、乖離がある場合(ステップS5 YES)、処理をステップS6に進める。ステップS6では、制御装置20は、エンジン要求トルクETqと実トルクTrとの差分に基づいて、スロットル開度ThOを決定する第2制御を実行する。具体的には、制御装置20は、第2制御を実行する場合、目標充填効率Ecから図示しないエアフロセンサで検知した大気温度を取得し、目標吸入空気量Qtを演算する。制御装置20は、目標吸入空気量Qtから目標スロットル流量Qthを演算する。制御装置20は、この目標スロットル流量Qthに対して、エンジン要求トルクETqと実トルクTrの差分に応じたスロットル開度ThOを予め記憶させておき、差分に応じたスロットル開度ThOとなるようにスロットル弁2bを制御する。
【0038】
図3の時刻t1から時刻t2および時刻t3から時刻t4の係数Kdの実線グラフは、エンジン要求トルクETqと実トルクTrとの差分に応じて決められる係数である。係数Kdは、エンジン要求トルクETqと実トルクTrの差分がおおきくなるほど0に近づく数値であり、スロットル流量係数Kthと異なり前後圧力比Pr/Pfと相関のない係数である。本実施形態では、制御装置20は、スロットル流量係数Kthに変えて係数Kdを目標スロットル流量Qthにかけ合わせることによって、スロットル開度ThOを決定する。しかし、制御装置20は、例えば、エンジン要求トルクETqと実トルクTrの差分を演算し、この差分をエンジン要求トルクETqに加算もしくは減算することによって、スロットル開度ThOを決定してもよい。このように制御装置20は、第1制御においてはオープンループ制御であった領域を、エンジン要求トルクETqと実トルクTrとの差分に応じて決められる係数Kdを用いた第2制御を実行する。これによって、制御装置20は、オープンループ制御であった領域をフィードバック制御の領域に変えることができる。このため、図3の時刻t1から時刻t2および時刻t3から時刻t4のスロットル開度ThOの実線グラフに示すように、スロットル弁2bがエンジン要求トルクETqと実トルクTrの差分に応じて徐々に開く。この結果、前後圧力比Pr/Pfの影響を受けることなく、実際の充填効率Ecrを目標充填効率Ecに近づけることができる。これによって、内燃機関2の出力の急激な変動を抑制し、ドライバビリティが良好になる。制御装置20は、第2制御を実行すると、ステップS1に処理を戻し制御手順を繰り返す。
【0039】
ステップS4において、制御装置20は、シリーズモードではないと判断した場合(ステップS4 NO)、ステップS7に処理を進める。ステップS7では、制御装置20は、パラレルモードか否か判断する。制御装置20は、パラレルモードであると判断した場合(ステップS7 YES)、ステップS8に処理を進め第2制御を禁止し第1制御を実行する。本実施形態では制御装置20は、パラレルモードにおいて一律に第2制御を禁止している。しかし、制御装置20は、ドライバ要求トルクDTqが上昇した結果、シリーズモードからパラレルモードに遷移した場合(図4の(i)矢印参照)のみ、第2制御を禁止してもよい。上記のとおり、パラレルモードでは、実トルクTrの検知が困難である。特に、ドライバ要求トルクDTqが上昇したことによって、エンジン要求トルクETqが上昇した場合、ドライバ要求トルクDTqが一定の場合に比べて駆動軸への分配トルクの演算が複雑になり、実トルクTrの検出が困難となる。このため、制御装置20は、第2制御を禁止し、例えばスロットル流量係数Kthを維持したオープンループ制御による第1制御の実行をしてもよい。一方、ドライバ要求トルクDTqが一定の場合においてシリーズモードからパラレルモードに遷移した場合(図4の(ii)参照)、制御装置20が駆動軸12aに分配しているトルクを演算しやすいことから、制御装置20は、実トルクTrを検出し、第2制御を継続してもよい。
【0040】
また、制御装置20は、シリーズモードにおける第2制御中に記録したエンジン要求トルクETqと実トルクTrとの差分に基づいて、パラレルモード中のエンジン要求トルクETqを補正してもよい。本実施形態では、例えば、エンジン要求トルクETqと実トルクTrに基づいた係数Kdを第2制御中に記憶しておき、パラレルモード中の所定トルクTqd以上の場合、この係数Kdを維持したオープンループ制御による第1制御を実行する。これによって、スロットル開度ThOが、第2制御中のエンジン要求トルクETqと実トルクTrの差分を反映した開度となる。この結果、第1制御中のパラレルモードにおいても、エンジン要求トルクETqと実トルクTrの差分を反映してスロットル開度ThOを決定できる。このほか、制御装置20は、第2制御中のエンジン要求トルクETqと実トルクTrの差分を、そのままパラレルモード中のエンジン要求トルクETqに加算もしくは減算し、第1制御を用いてスロットル開度ThOを決定してもよい。これによっても、第2制御中に記録したエンジン要求トルクETqと実トルクTrの差分を加味したスロットル開度ThOを決定できる。制御装置20は、ステップS8の処理をしたのち、ステップS9に処理を進める。
【0041】
ステップS9において、制御装置20は、排気循環を禁止する。第1制御を実行する場合、排気循環によって前後圧力比Pr/Pfが上昇しやすくなる。制御装置20は、パラレルモードにおける第1制御において前後圧力比Pr/Pfを抑制し、第1制御をフィードバック制御の領域(前後圧力比Pr/Pfが所定圧力比Ptよりも小さい領域)で実行することが好ましい。このため、制御装置20は、排気循環を禁止し、処理をステップS1に戻し、フィードバック領域で第1制御を実行できるようにする(ステップS2 NO、ステップS3)。なお、制御装置20は、ステップS7においてパラレルモードではない場合(ステップS7 NO)、ステップS1に処理を戻す。
【0042】
以上説明した通り、本開示によれば、スロットル弁2bの前後圧力Pr/Pfの影響を受けることなく、ドライバビリティが良好な電動車両1の制御装置20を提供できる。
【0043】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0044】
(a)上記実施形態では、四輪駆動型のプラグインハイブリッド自動車を例に説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。電動車両1は、前輪駆動のハイブリッド型およびプラグインハイブリッド型の自動車であってもよい。また、電動車両1は、四輪駆動型のハイブリッド自動車であってもよい。
【0045】
(b)上記実施形態では、制御装置20がすべての制御手順を実行する例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。制御装置20の制御手順の一部をエンジン制御装置2aで実行してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 :電動車両
2 :内燃機関
2b :スロットル弁
2d :排気再循環装置
4 :発電機(第1回転電機の一例)
6 :フロントモータ(第2回転電機の一例)
20 :制御装置
図1
図2
図3
図4
図5