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特許7683609印刷制御方法及びインクジェット記録装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】印刷制御方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20250520BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250520BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20250520BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
B41J2/01 129
B41J2/01 401
B41J2/01 501
B41J2/01 125
B05D7/24 301T
B05D7/24 301M
B05D3/00 D
B05D1/26 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022558716
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2020040656
(87)【国際公開番号】W WO2022091302
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 航平
(72)【発明者】
【氏名】倉持 昇平
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-136549(JP,A)
【文献】特開2020-080379(JP,A)
【文献】特開2008-198736(JP,A)
【文献】特開2004-004263(JP,A)
【文献】特開2017-043029(JP,A)
【文献】特開2016-002688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0374375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B05D 1/26
B05D 7/24
B05D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体上の設定範囲に対し、所定のエネルギー線が照射されることで硬化するインクを吐出して被覆する印刷制御方法であって、
前記設定範囲に対して所定の被覆厚さとなるようにインク吐出量を定める吐出量特定ステップ、
前記設定範囲内で当該設定範囲の境界から所定の範囲内の周縁部に対するインク吐出量を前記所定の被覆厚さに応じたインク吐出量から変更調整する調整ステップ、
を含み、
前記調整ステップでは、インク吐出有無をそれぞれ規定する各画素にそれぞれ接して位置する周辺画素への当該インク吐出有無に基づいて前記所定の範囲内か否かを判断する、
印刷制御方法。
【請求項2】
前記所定の被覆厚さは15μm以上である、請求項1記載の印刷制御方法。
【請求項3】
前記所定の被覆厚さは20μm以上35μm以下である、請求項2記載の印刷制御方法。
【請求項4】
前記所定の被覆厚さは、前記媒体において前記インクにより被覆される面の立体的な構造の高さ以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項5】
前記画素は、1440dpi以上の解像度である、請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項6】
前記調整ステップでは、前記周縁部へのインク吐出量をゼロとする、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項7】
前記媒体の前記設定範囲内には、表面特性が異なる複数の材質の領域を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項8】
前記調整ステップでは、前記媒体の表面特性に応じて前記周縁部内のインク吐出量の分布を定める、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項9】
前記調整ステップでは、前記媒体の表面特性に応じて前記周縁部に係る前記所定の範囲を定める、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項10】
前記調整ステップでは、前記所定の被覆厚さに応じて前記所定の範囲を定める、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項11】
前記吐出量特定ステップ及び前記調整ステップで定められたインク吐出量のインクを吐出させる吐出動作ステップを含み、
前記吐出動作ステップでは、複数の液滴を連続して吐出させて同一の画素位置に着弾させるマルチドロップ方式でのインク吐出を行い、インク吐出量は、前記マルチドロップ方式で連続して吐出させるインクの液滴数により規定される、
請求項1~10のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項12】
前記吐出量特定ステップ及び前記調整ステップで定められたインク吐出量のインクを吐出させる吐出動作ステップを含み、
前記吐出動作ステップでは、一度に吐出させるインク液滴量に応じた駆動波形パターンの駆動信号により吐出動作を行わせる、
請求項1~10のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項13】
前記吐出量特定ステップ及び前記調整ステップで定められたインク吐出量のインクを吐出させる吐出動作ステップを含み、
前記吐出動作ステップでは、1パスの間で吐出したインクにより前記媒体上に少なくとも15μm以上の被覆厚さを形成する、
請求項1~12のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項14】
前記インクには、ゲル化剤が含まれる、請求項1~13のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項15】
前記所定のエネルギー線には紫外線が含まれる、請求項1~14のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項16】
前記所定のエネルギー線には前記媒体上のインクを加熱する波長のものが含まれる、請求項1~15のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項17】
前記インクが着弾する媒体は、絶縁基板と当該絶縁基板上に位置する配線導体とを有する配線基板であり、
前記インクは、ソルダーレジストインクである、
請求項1~16のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項18】
前記インクにより被覆された前記媒体上に標識を形成する標識形成ステップを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の印刷制御方法。
【請求項19】
媒体上の設定範囲に対し、所定のエネルギー線が照射されることで硬化するインクを吐出するインク吐出部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記設定範囲に対して所定の被覆厚さとなるように前記インク吐出部によるインク吐出量を定め、
前記設定範囲内で当該設定範囲の境界から所定の範囲内の周縁部に対するインク吐出量を前記所定の被覆厚さに応じたインク吐出量から変更調整し、
前記変更調整では、インク吐出有無をそれぞれ規定する各画素にそれぞれ接して位置する周辺画素への当該インク吐出有無に基づいて前記所定の範囲内か否かを判断する、
インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷制御方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクをノズルから吐出して画像や構造を形成するインクジェット記録装置では、媒体に着弾したインク液滴が媒体に染み込んだり媒体上で広がったりしやすい。そこで、輪郭が鮮明な線や文字を形成する場合に、この輪郭付近のインク吐出パターンを調整する技術が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-156130号公報
【文献】特開2000-198237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、吐出されたインクにより厚みを有する膜を形成する場合の厚さを適切に定めることが考慮されていないという課題があった。
【0005】
この発明の目的は、所望のインク厚さで行われる印刷の輪郭位置を適正な範囲に収めることのできる印刷制御方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
媒体上の設定範囲に対し、所定のエネルギー線が照射されることで硬化するインクを吐出して被覆する印刷制御方法であって、
前記設定範囲に対して所定の被覆厚さとなるようにインク吐出量を定める吐出量特定ステップ、
前記設定範囲内で当該設定範囲の境界から所定の範囲内の周縁部に対するインク吐出量を前記所定の被覆厚さに応じたインク吐出量から変更調整する調整ステップ、
を含み、
前記調整ステップでは、インク吐出有無をそれぞれ規定する各画素にそれぞれ接して位置する周辺画素への当該インク吐出有無に基づいて前記所定の範囲内か否かを判断する。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の印刷制御方法において、
前記所定の被覆厚さは15μm以上である。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の印刷制御方法において、
前記所定の被覆厚さは20μm以上35μm以下である。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記所定の被覆厚さは、前記媒体において前記インクにより被覆される面の立体的な構造の高さ以上である。
【0011】
請求項記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記画素は、1440dpi以上の解像度である。
【0012】
請求項記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記調整ステップでは、前記周縁部へのインク吐出量をゼロとする。
【0013】
請求項記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記媒体の前記設定範囲内には、表面特性が異なる複数の材質の領域を含む
【0014】
請求項記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記調整ステップでは、前記媒体の表面特性に応じて前記周縁部内のインク吐出量の分布を定める。
【0015】
請求項記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記調整ステップでは、前記媒体の表面特性に応じて前記周縁部に係る前記所定の範囲を定める。
【0016】
請求項10記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記調整ステップでは、前記所定の被覆厚さに応じて前記所定の範囲を定める。
【0017】
請求項11記載の発明は、請求項1~10のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記吐出量特定ステップ及び前記調整ステップで定められたインク吐出量のインクを吐出させる吐出動作ステップを含み、
前記吐出動作ステップでは、複数の液滴を連続して吐出させて同一の画素位置に着弾させるマルチドロップ方式でのインク吐出を行い、インク吐出量は、前記マルチドロップ方式で連続して吐出させるインクの液滴数により規定される。
【0018】
請求項12記載の発明は、請求項1~10のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記吐出量特定ステップ及び前記調整ステップで定められたインク吐出量のインクを吐出させる吐出動作ステップを含み、
前記吐出動作ステップでは、一度に吐出させるインク液滴量に応じた駆動波形パターンの駆動信号により吐出動作を行わせる。
【0019】
請求項13記載の発明は、請求項1~12のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記吐出量特定ステップ及び前記調整ステップで定められたインク吐出量のインクを吐出させる吐出動作ステップを含み、
前記吐出動作ステップでは、1パスの間で吐出したインクにより前記媒体上に少なくとも15μm以上の被覆厚さを形成する。
【0020】
請求項14記載の発明は、請求項1~13のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記インクには、ゲル化剤が含まれる。
【0021】
請求項15記載の発明は、請求項1~14のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記所定のエネルギー線には紫外線が含まれる。
【0022】
請求項16記載の発明は、請求項1~15のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記所定のエネルギー線には前記媒体上のインクを加熱する波長のものが含まれる。
【0023】
請求項17記載の発明は、請求項1~16のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記インクが着弾する媒体は、絶縁基板と当該絶縁基板上に位置する配線導体とを有する配線基板であり、
前記インクは、ソルダーレジストインクである。
【0024】
請求項18記載の発明は、請求項1~17のいずれか一項に記載の印刷制御方法において、
前記インクにより被覆された前記媒体上に標識を形成する標識形成ステップを含む。
【0025】
請求項19記載の発明は、
媒体上の設定範囲に対し、所定のエネルギー線が照射されることで硬化するインクを吐出するインク吐出部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記設定範囲に対して所定の被覆厚さとなるように前記インク吐出部によるインク吐出量を定め、
前記設定範囲内で当該設定範囲の境界から所定の範囲内の周縁部に対するインク吐出量を前記所定の被覆厚さに応じたインク吐出量から変更調整し、
前記変更調整では、インク吐出有無をそれぞれ規定する各画素にそれぞれ接して位置する周辺画素への当該インク吐出有無に基づいて前記所定の範囲内か否かを判断する、
インクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に従うと、インクの吐出動作により所望のインク厚さで行われる印刷の輪郭位置を適正な範囲に収めることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】インクジェット記録装置を説明する正面略図である。
図2】インクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
図3A】ソルダーレジストの厚さ及び被膜範囲について説明する図である。
図3B】ソルダーレジストの厚さ及び被膜範囲について説明する図である。
図4A】被覆範囲を示す画像データの修正パターンの例を示す図である。
図4B】被覆範囲を示す画像データの修正パターンの例を示す図である。
図5A】被覆範囲を示す画像データの修正パターンの例を示す図である。
図5B】被覆範囲を示す画像データの修正パターンの例を示す図である。
図6】被覆範囲を示す画像データの修正パターンの例を示す図である。
図7A】駆動波形の例を示す図である。
図7B】駆動波形の例を示す図である。
図7C】駆動波形の例を示す図である。
図8】被覆範囲調整処理の制御手順を示すフローチャートである。
図9】インク吐出制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
図10】被覆範囲調整処理の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態のインクジェット記録装置1を説明する正面略図である。
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド20と、UV照射部42と走査部121と、搬送台131などを備える。
【0029】
インクによる被膜の形成対象である配線基板S(媒体)は、搬送台131に載置される。配線基板Sは、搬送台131に載置された状態で図示している面に垂直な方向(搬送方向)に移動が可能となっている。配線基板Sは、絶縁基板上に信号配線をなす導体(配線導体)を有している。導体は、特には限られないが、例えば、銅(銅箔)などである。この信号配線が絶縁基板面上に突出して位置することで、配線基板Sは立体的な構造を有する。なお、ここでは、絶縁基板面は平面であり、この平面に対して垂直外向きを上方とする。
【0030】
インクジェットヘッド20は、ノズルを有し、当該ノズルから配線基板Sに対してインクを吐出する。UV照射部42は、インクが着弾した配線基板Sに紫外光(UV光)を照射する。インクジェットヘッド20とUV照射部42は、走査部121に固定されており、走査部121により表示面内で左右方向(走査方向。すなわち、搬送台131の移動方向と交差する方向、ここでは直交する方向)に移動(走査)される。これら走査部121と搬送台131の移動の組合せにより、インクジェット記録装置1では、配線基板S上に二次元的な被膜の形成が可能となっている。これらの移動は、例えば、リニアモーターなどが用いられてよく、また、移動する走査部121及び/又は搬送台131の移動範囲をガイドするレールなどを有していてもよい。
【0031】
図2は、インクジェット記録装置1の機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、インクジェットヘッド20(インク吐出部)と、ヘッド駆動制御部30と、定着部40と、制御部50と、記憶部60と、インク加熱部70と、表示部81と、操作受付部82と、 通信部90などを備える。制御部50と各部との間は、バスなどを介して通信接続されている。
【0032】
搬送部10は、インクジェットヘッド20と画像(被膜)形成対象の媒体、ここでは配線基板Sとを相対移動させる。例えば、インクジェットヘッド20は、配線基板Sに対して所定の方向(走査方向)に移動可能であり、配線基板Sは、インクジェットヘッド20の走査方向に対して垂直な方向(搬送方向、副走査方向)に移動可能である。
【0033】
搬送部10は、走査駆動部12と、搬送駆動部13とを有する。走査駆動部12は、インクジェットヘッド20を上記の走査部121を走査させることで移動させる。走査駆動部12は、例えば、モーターを有し、インクジェットヘッド20を直接又はインクジェットヘッド20の固定具などを介して間接的に移動させる。移動は、レールなどに沿って行われてもよい。
【0034】
搬送駆動部13は、例えば、配線基板Sが載置される基台(搬送台131)やベルトなどの載置部材を移動させる。配線基板Sを一度一方向へ搬送する(1パス)間に全てのインクを着弾させる(シングルパス)ことが可能であってもよく、この場合は、搬送駆動部13は、無端状のベルトなどの搬送部材を一方向に周回移動させるだけであってもよい。配線基板Sを複数回インクジェットヘッド20に対して対向させるように相対移動させながら、各パスでそれぞれインクを着弾させていくマルチパスで配線基板S上へのインク吐出が可能な場合には、搬送駆動部13は、載置部材を往復移動させることが可能である。
【0035】
インクジェットヘッド20は、ヘッド駆動部22と、複数のノズルNとを有し、ヘッド駆動部22が出力する駆動信号に応じて当該ノズルNからインクを吐出する。ヘッド駆動部22は、吐出選択IC28(Integrated Circuit)と、電気機械変換素子223などを有する。吐出選択IC28は、画像データに基づいて各ノズルNからのインク吐出有無に応じた駆動信号を各ノズルNに対応する電気機械変換素子223に出力させるように切替動作を行う。電気機械変換素子223は、例えば、圧電素子であり、入力される駆動信号に応じた形状変化を生じ、当該形状変化によりノズルNに連通するインク流路内のインクに圧力変動を生じさせる。
電気機械変換素子223とノズルNとにより記録素子26が構成される。
【0036】
ヘッド駆動制御部30は、ヘッド制御部31と、駆動波形信号生成回路32などを有し、インクの吐出などに係る駆動波形信号を所定の時間周期でインクジェットヘッド20へ出力する。インクの吐出に係る駆動波形信号は、複数のパルス信号の組合せであってもよい。また、インクの吐出量にそれぞれ応じて複数種類の異なる波形パターン(印加電圧値の変化に応じた振幅の変化を含む)の駆動波形信号を出力可能であってもよい。あるいは、画素当たりのインク液滴量に応じた回数の連続駆動パルスを出力可能とさせてもよい。この場合、各駆動パルスにより吐出されたインク液滴を飛翔中に合一させて、又は同一の画素範囲内に着弾させる。1パス(1周期)当たりの各ノズルから各画素へ吐出されるインクは、配線基板Sの表面特性、インクの吐出時の温度(粘度特性)及びインク液滴の着弾からUV照射部42のUV光照射による仮定着までの時間間隔なども考慮して、後述する絶縁膜の最低限の厚さ(例えば、15μm)が得られるインク液滴量とされてもよい。また、インクを吐出する場合だけではなく、インクをノズルN内で撹拌するための非吐出波形パターンを出力可能であってもよい。
【0037】
本実施形態のインクジェット記録装置1で吐出されるインクには、ソルダーレジストインクと、マーキングインクとが含まれる。ソルダーレジストインクは、配線基板S上に絶縁膜(ソルダーレジスト)を形成するために配線基板S上に吐出されるインクである。ここでは、ソルダーレジストインクは、所定のエネルギー線、ここでは、紫外線(UV)及び赤外線(熱)の照射により硬化する。また、マーキングインクは、配線基板S上やソルダーレジスト上(すなわち、ソルダーレジストインクにより被覆された配線基板S上)に標識などを形成するためのインクである。標識は、例えば、配線基板S上の各接続パッドなどに取り付けられる部品の位置情報や識別情報、及び配線基板S自体の識別情報などを示すものである。マーキングインクは、紫外線の照射により硬化する。
【0038】
ソルダーレジストインクは、熱硬化性官能基を有する化合物を含有する。熱硬化性官能基としては、各種周知のものであってもよく、例えば、イソシアネート基を有する(特に2つ以上)ものが挙げられる。また、熱解離性のブロック剤でイソシアネート基が保護された多官能イソシアネート化合物(ブロックイソシアネート)は、対高温高湿性が上昇し、インクの保存性を向上する観点で好ましい。熱解離性のブロック剤は、特に限定されるものではないが、例えば、オキシム系化合物、ピラゾール系化合物及び活性エチレン系化合物のうち少なくとも一種類を含む化合物である。
【0039】
あるいは、熱硬化性官能基として、例えば、(メタ)アクリル基、特に、イミドアクリレートといったイミド基を有する(メタ)アクリレート化合物であってもよい。イミド基は、極性が大きいので、強い金属(すなわち、配線基板S上の配線)への密着性を得ることができる。また、その強い凝集力により、高湿下でも金属密着性への影響が少ない。
【0040】
一方、ソルダーレジストインク及びマーキングインクにおけるUV光の照射による硬化に係る成分として、インクは、光重合性官能基を有する化合物と光重合開始剤とを含む。光重合性化合物は、活性エネルギー線(UV光)の照射によって重合し、又は架橋反応を生じて架橋し、インクを硬化させる作用を有する各種化合物であればよく、例えば、ラジカル重合性化合物やカチオン重合性化合物が挙げられる。上記のイミドアクリレートといったイミド基を有する重合性化合物は、また、UV硬化性を有する。光重合開始剤は、光重合性官能基(化合物)の上記種類に応じたものである。
【0041】
また、これらのインクには、ゲル化剤が含まれる。インクは、常温ではゲル状であり、温度に応じてゾル状態との間で相変化を生じ、粘度が急激に変化する。ゲル化剤としては、例えば、下記の一般式(G1)又は(G2)で表される化合物のうち少なくとも一種であってもよい。
一般式(G1):R1-CO-R2
一般式(G2):R3-COO-R4
これらの式中、R1~R4は、それぞれ独立に、炭素数12以上の直鎖部分を持ち、かつ分岐を持ってもよいアルキル鎖を表す。このようなゲル化剤は、インクの硬化性を阻害せずに硬化膜中に分散される。これにより、形成されるインク膜(ソルダーレジストやマーキング)の耐湿性が向上し、硬化膜中への水分の浸透が防がれる。また、これにより、絶縁信頼性も向上する。また、このゲル化剤を含むインクは、ピニング性が良好であり、細線と膜厚とを両立した被膜の形成がなされやすい(すなわち、膜厚が必要な場合でも細線再現性に優れる)点でも好ましい。
【0042】
定着部40は、配線基板S上に着弾したインクを定着させる動作を行う。上記のように、インクは、熱硬化性及び活性エネルギー線(UV光)による硬化性を有するので、これらに対応して、定着部40は、UV照射部42と、加熱定着部43とを有する。特に限るものではないが、ここでは、UV照射部42は、上記のようにインクジェットヘッド20とともに走査部121に固定されて走査されて、配線基板S上に着弾したインクを仮定着させる。UV照射部42は、例えば、紫外線を発する発光ダイオード(LED)を有し、当該LEDに電圧を印加して電流を流すことで発光させて紫外線(UV光)を照射する。UV照射部42は、必要に応じて所望の照射範囲外へのUV光の漏出を遮るための遮光壁などを備えていてもよい。
【0043】
なお、UV照射部42においてUV光を発する構成は、LEDに限られない。UV照射部42は、例えば、水銀ランプを有していてもよい。また、インクがUV光以外の活性エネルギー線を受けて硬化定着する性質を有する場合には、UV照射部42は、上述のUV光を発する構成の代わりに、当該インクを硬化させる活性エネルギー線を発する周知の出射源(光源)を有していてよい。
【0044】
加熱定着部43は、例えば、赤外線ヒーターを有し、赤外光(インクを加熱する波長)を発することで配線基板Sを加熱して仮定着されたインクを本定着させる。加熱定着部43は、インクジェットヘッド20及びUV照射部42によるインク着弾、仮定着がなされた後に、例えば、配線基板Sが搬送方向について下流側に搬送されてから本定着が行われるように位置する。加熱定着部43は、配線基板S及びこれが載置されている搬送部材の部分の範囲を取り囲む筐体内に位置することで、発生した熱を筐体内部に保持させて効率よく適宜な硬化温度で維持させることとしてもよい。この場合は、加熱時に常に赤外線ヒーターを動作させている必要はなく、筐体壁面などが適度な赤外線を放射する状態で温度が維持されていればよい。
【0045】
なお、加熱定着部43は、インクジェット記録装置1が備えるものではなく、別個の加熱定着装置が備えていてもよい。また、加熱定着装置がインクジェット記録装置1の後処理装置であって、搬送部10が搬送台131の移動方向の延長線上などにある加熱定着装置へ直接配線基板Sを送り込むことが可能であってもよいし、インクジェット記録装置1の搬送台131から取り外された配線基板Sを改めて加熱定着装置にセットする構成を有し、又はユーザーが手動で配線基板Sを移動させることとしてもよい。
【0046】
制御部50は、インクジェット記録装置1の各部の動作を統括制御する。制御部50は、CPU51(Central Processing Unit)とRAM52(Random Access Memory)とを有する。CPU51は、各種演算処理を行うハードウェアプロセッサーであり、記憶部60に記憶されたプログラム61を実行する。RAM52は、CPU51に制御用のメモリー空間供し、一時データを記憶する。
【0047】
記憶部60は、少なくとも不揮発性メモリーを含み、プログラム61及び設定データを記憶する。不揮発性メモリーとしては、例えば、フラッシュメモリーが挙げられる。また、HDD(Hard Disk Drive)などもここでいう不揮発性メモリーに含まれてもよい。また、記憶部60は、形成対象の被膜の形成(被覆)範囲を示す画像データ62や、これに基づいて加工生成されたインクジェットヘッド20の駆動用データを一時記憶するRAMを含んでいてもよい。プログラム61には、後述のインク吐出制御処理及び被覆範囲調整処理に係る制御プログラムが含まれる。設定データには、形成する被膜の厚さに応じたインク吐出量に係る情報を含む厚さ対応情報63が含まれる。特に限られるものではないが、画像データ62が示す被覆範囲(設定範囲)の情報の解像度は、例えば、1440dpi(dot per inch)以上とされるとよい。これにより、輪郭線を精度よく定めることができる。一方で、この解像度では、画素サイズが被覆厚さに比して同程度以下となるので、通常の絶縁基板や配線をなす導体の材質では、後述する着弾した液滴の広がりの影響を無視するのが難しい状況となる。
【0048】
インク加熱部70は、インクジェットヘッド20及びインクジェットヘッド20へのインク供給路においてインクを加熱して適宜な温度に維持する。上記のように、インクが温度によりゾルゲル間で想定するので、常温のゲル状態のままではインクの流動性が不足し、インクの供給や吐出が難しい。インク加熱部70は、インクを適宜な温度に加熱することで、インクをゾル状態に保ち、供給及び適正な吐出を可能とさせる。適宜な温度は、インクが配線基板Sに着弾後に配線基板Sなどにより速やかに放熱されて、適正な時間でゲル化するように定められればよい。インク加熱部70は、例えば、電熱線と当該電熱線の発熱により加熱されるシート部材(ラバーなど)とを有し、シート部材がインク供給路などに接して熱を伝えることでインクの加熱を行う。
【0049】
表示部81は、制御部50の制御に基づいて、各種ステータスやメニューなどを表示画面に表示する。表示部81は、例えば、表示画面とLED(Light Emitting Diode)ランプなどを有する。表示画面は、特には限られないが、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)である。LEDランプは、例えば、電力供給状況や異常発生状況などに応じて、制御部50により各状況に対応する位置及び色のランプが点灯(点滅動作を含む)される。
【0050】
操作受付部82は、外部からのユーザーなどによる入力操作を受け付けて、入力信号として制御部50に出力する。操作受付部82は、例えば、タッチパネルと押しボタンスイッチなどを有する。タッチパネルは、表示部81の表示画面と重ねて位置していてよい。また、操作受付部82は、その他の各種操作スイッチなどを有していてもよい。
【0051】
通信部90は、所定の通信規格に従って外部機器などとの間で行うデータ(信号)の送受信を制御する。通信部90は、例えば、LAN(Local Area Network)の規格に従って、通信の制御を行う。また、通信部90は、USB(Universal Serial Bus)の規格により周辺機器などが接続可能であってもよい。
【0052】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1における印刷制御方法に係るインク吐出設定動作について説明する。
ソルダーレジストインクは、配線基板S上に絶縁膜(ソルダーレジスト)を設けるのに用いられる。この絶縁膜は、配線基板Sにおいて絶縁基板上の信号配線などに応じて被覆範囲が定められて(設定範囲)、画像データ62として保持されている。絶縁膜(被覆範囲)は、絶縁基板上に位置する信号配線が電子部品や外部の信号線などと接続される接続パッドをなす範囲などに応じて円形、円環形状、方形、細線などの開口部分や切れ込み部分を含む。
【0053】
また、絶縁膜は、確実な絶縁性を得るためなどの理由により、最低限の厚さ、例えば、15μm以上の厚さが要求される。被膜の厚さ(所定の被覆厚さ)は、特に限定されるものではないが、用途、メーカーや配線の厚さなどに応じて概ね定まる。したがって、インクジェット記録装置1では、所定の被膜厚さとして、予め定められた複数の候補のうちいずれかを選択して設定可能であってよい。例えば、被覆厚さは、20μm以上35μm以下などの範囲で5μmステップでいずれかを設定可能であってもよい。また、設定される被覆厚さは、例えば、配線の厚さ(立体的な構造の高さ)以上とされてもよい。
【0054】
図3A及び図3Bは、ソルダーレジストの厚さ及び被膜範囲について説明する図である。
図3Aに示すように、ソルダーレジストインクは、配線基板Sに着弾後、当該配線基板Sにはほぼ浸透せずにその表面上に盛り上がって厚さhの層(被膜I)をなすが、着弾後の粘度や配線基板Sの表面の撥水性(濡れ性)など(表面特性)に応じて多少の広がりが生じる。広がりの幅Weは、被膜Iの厚さhが大きいと無視できないので、上記のように絶縁性の確保に必要な厚さhを有する被膜Iの形成時には、開口部分に広がりやすくなる。これにより、接続パッドのサイズが小さくなるといった問題が生じる。また、細線形状の被膜Iが必要以上に太くなるという問題も生じる。
【0055】
本実施形態のインクジェット記録装置1では、形成する被膜I(ソルダーレジスト)の厚さhに対して広がりの幅We(幅Weの範囲内が本実施形態の周縁部)を想定して、画像(被覆範囲)データで本来定められている被覆範囲Wtを縮小して範囲Wでインクを吐出させるように画像データ62を修正する。なお、厚さh(被膜厚さ)は、インクの特性及び定着の限界上、必ずしも完全な一様にはならないので、範囲Wでの平均厚さとされてよい。なお、配線の有無など配線基板Sの高さが異なる領域に跨って被膜Iが形成される場合、厚さhは、各部分の配線基板Sから上方への距離となる。すなわち、配線のある部分とない部分とでは、同じ厚さhの被膜Iが形成された場合の膜面位置が上向き方向について異なる。
【0056】
幅We(所定の範囲)は、被膜Iに係る上記最低限の厚さ以上の場合に一律に定められてもよいし、図3Bに示すように、厚さh(被覆厚さ)に応じて定められてもよい。ここでは、厚さh1の場合の幅We1に比較して、より大きい厚さh2の場合の幅We2の方が大きく定められている。すなわち、厚さh1の場合に実際にインクを吐出する範囲W1に比して、より大きい厚さh2の場合に実際にインクを吐出する範囲W2は狭く定められる。また、幅We(周縁部)は、被覆範囲Wtの境界の形状、例えば、直線形状又は凹凸形状などに応じて変更されてもよい。具体的には、被覆範囲Wtの凹部では、多方向からインクがはみだしやすいので、直線部分よりも縮小範囲を大きく定め、被覆範囲の凸部では、縮小範囲を直線部分よりも小さく定めてもよい。これらには、従来知られている細線の形状調整に係る技術を応用することができる。
【0057】
図4A図4B図5A図5B及び図6は、被覆範囲を示す画像データ62の修正パターンの例を示す図である。
図4Aに示すように、例えば、略円形状の開口部分(ハッチされていない部分)を形成する場合、対象画素に接する周囲の画素(周辺画素)にインク吐出がない画素がある場合(インク吐出有無に基づいて)には、境界に接しているものとして(境界を判断して)、当該対象画素(周縁部の画素)のインク吐出量を元の被膜の厚さに応じた吐出量(設定量)から減らす変更調整、ここでは、インク吐出量をゼロとして吐出を行わせないように調整を行う。すなわち、開口部の内側に位置する画素Aに係る境界LAに点又は線で接する対象画素Bが特定され、いずれもインク吐出を行わせない画素に変更される。同様に、図4Bに示すように、境界L(開口部内の画素のいずれか)に接する全ての画素B、C(周縁部の画素)がインクを吐出させない画素に変更される。このように、一律にインクの吐出対象画素を減らすように画像データ62を修正することで、実際には、インクの一部が吐出対象画素から外された領域に広がって適切な範囲が被覆される。
【0058】
また、直線形状の被覆範囲が定められている場合でも、図5Aに示した当初の画像データ62における境界線LDに接する画素、すなわち、図5Bに示す画素Dをインクの吐出対象から除外することができる。ただし、被膜(吐出範囲)が細線構造である場合、細くし過ぎて被膜が途切れたり、途切れないにしても被覆厚さが十分に得られなくなるなどすると、絶縁性を低下させることになる場合がある。このような場合などには、図6に示すように、境界線LDに接する画素Dに対するインク吐出をなくす(吐出量をゼロとする)のではなく、吐出量を元の吐出量よりも多少低減させる程度であってもよい(横線ハッチで示している)。なお、幅Weを2画素分(N画素分)とする場合には、対象画素に接する画素だけではなく、2画素分(N画素分)の範囲内でインク吐出の有無を判断すればよい。
【0059】
画素当たりのインク液滴量(着弾量)の制御は、上記のような駆動波形パターンを異ならせることで行う方法に加えて、例えば、連続駆動パルスにより連続して吐出させるインクの液滴数によってインク液滴量を規定する方法(マルチドロップ方式)などが知られている。駆動波形パターンとしては、パルス長やパルス振幅の変化が考えられる。
【0060】
図7A図7Cは、駆動波形の例を示す図である。
例えば、図7Aに示す波形で吐出されるインク液滴量に対し、図7Bの駆動波形では、吐出されるインク液滴量が小さくなる。また、図7Cに示すマルチドロップ方式の駆動波形パターンでは、連続する5つのパルスのうち一部、例えば、先頭から所定数個を削ることにより、パルス数に応じたインク液滴量が飛翔中に合一して(又は合一しなくてもよい)同一画素位置に着弾するように調整することができる。
【0061】
図8は、本実施形態のインクジェット記録装置1で実行される被覆範囲調整処理の制御部50による制御手順を示すフローチャートである。この被覆範囲調整処理は、例えば、被覆範囲を定める画像データ62が入力された場合などに、ユーザーの操作受付部82への入力操作に応じて又は自動的に起動される。
【0062】
被覆範囲調整処理が開始されると、CPU51(制御部50)は、入力された被覆範囲データを取得、読み込む(ステップS101)。CPU51は、被覆範囲データに応じて被覆される範囲の被覆膜の厚さのデータを取得し、厚さ対応情報63を参照して、被覆厚さに対応するインク吐出量と、被覆範囲の縮小量とを定める(ステップS102;吐出量特定ステップ)。1パスの吐出で所望の膜厚が得られない場合などには、1パス当たりのインク吐出量とパス数とが定められることで、被膜厚さに対応する合計のインク吐出量が得られるように設定がなされてもよい。被覆膜の厚さの情報は、被覆範囲データに含まれていてもよいし、ユーザーによる操作受付部82からの入力操作などにより別途設定されていてもよい。
【0063】
CPU51は、被覆範囲データから被覆範囲の境界(線又は画素)を検出し、当該境界に対して接するインク吐出対象画素の範囲を変更設定する範囲縮小処理を行う(ステップS103;調整ステップ)。範囲縮小処理では、例えば、上述のようにCPU51は、境界に接するインク吐出対象画素に対するインク吐出量を低減(ゼロを含む)させる変更調整を行う。
【0064】
CPU51は、範囲縮小処理により修正された被覆範囲データに基づいて配線基板Sに対してインクを吐出させ、絶縁膜(ソルダーレジスト)を形成させる(ステップS104)。CPU51は、絶縁膜の形成範囲を撮像した撮影画像を取得する(ステップS105)。絶縁膜の形成範囲の撮影画像は、搬送部材上から取り外された配線基板Sを別途撮影装置により撮影したデータなどであってよい。あるいは、インクジェット記録装置1が配線基板Sを撮影する撮影部を有していてもよい。
【0065】
CPU51は、撮影画像を解析して被覆範囲を特定する(被覆範囲解析処理)(ステップS106)。CPU51は、特定された被覆範囲が、修正前の被覆範囲データで示された被覆範囲に対して許容される条件を満たす範囲内のずれで形成されているか否かを判別する(ステップS107)。条件を満たす範囲内のずれで形成されていないと判別された場合には(ステップS107で“NO”)、CPU51は、条件を満たさなかった部分を抽出し、当該部分について条件から外れた状況に応じて、修正されている被覆範囲データによるインク吐出範囲を変更する(ステップS108)。それから、CPU51の処理は、ステップS104に戻る。
【0066】
ステップS107の判別処理で、被覆範囲が条件を満たす範囲内のずれで形成されていると判別された場合には(ステップS107で“YES”)、CPU51は、現在設定されている修正済み被覆範囲データを確定して記憶保持する(ステップS109)。そして、CPU51は、被覆範囲調整処理を終了する。
【0067】
図9は、本実施形態のインクジェット記録装置1で実行されるインク吐出制御処理のCPU51(制御部50)による制御手順を示すフローチャートである。このインク吐出制御処理は、上記被覆範囲調整処理で確定された被覆範囲データに基づいて配線基板Sに対してインクを吐出させて被膜を形成する制御処理である。
【0068】
インク吐出制御処理が開始されると、CPU51は、確定された被覆範囲データを取得する(ステップS201)。CPU51は、搬送部10に制御信号を出力してインクジェットヘッド20と配線基板Sとの位置関係を調整移動させながら、被膜範囲データ(画像データ62)に応じて定められたインク量のソルダーレジストインクを吐出させて、配線基板Sに被膜を形成させる(ステップS202;吐出動作ステップ)。CPU51は、UV照射部42により配線基板S上のインクにUV光を照射させて、当該インクを仮定着させる(ステップS203)。被膜形成がマルチパスで行われる場合には、パス数に応じた回数、ステップS202、S203の処理を繰り返し行う。なお、CPU51は、マルチパスに応じた回数ステップS202の処理を繰り返したのちに最後に1回だけステップS203の処理を行ってもよい。
【0069】
CPU51は、標識位置データを取得する(ステップS204)。CPU51は、標識位置データに応じた位置に対してマーキングインクを吐出させて、標識を形成させる(ステップS205;標識形成ステップ)。CPU51は、UV照射部42に制御信号を出力してUV光を照射させ、配線基板S上のマーキングインクを定着させる(ステップS206)。
【0070】
CPU51は、加熱定着部43に制御信号を出力して、配線基板Sを加熱させ、インクを硬化、本定着させる(ステップS207)。なお、ステップS207の加熱定着処理は、ステップS204の処理の前に行われてもよい。また、この場合でマルチパスでの被膜形成の場合には、上記のステップS202、S203の処理だけでなく、ステップS207の処理もパスごとに繰り返し行われてもよい。そして、CPU51は、インク吐出制御処理を終了する。
【0071】
図10は、被覆範囲調整処理の他の例を示すフローチャートである。
本例の被覆範囲調整処理は、被覆範囲を一律に縮小させずに、配線基板S上の配線の位置や形状などに応じて変化させる場合に実行される。この被覆範囲調整処理は、図8に示した例に対してステップS101aが追加され、また、ステップS108の処理がステップS108aの処理に変更されて、その後処理がステップS104の代わりにステップS103に戻されている。その他の処理は同一であり、同一の処理内容には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0072】
ステップS101の処理に続いて、CPU51は、配線基板Sの配線パターンデータを取得する(ステップS101a)。この配線パターンデータは、ステップS103の範囲縮小処理において、当該配線パターンと被覆範囲とを比較しながら各々範囲縮小幅を定める際に参照される。すなわち、CPU51は、例えば、配線(導体)上の境界と配線の外側(絶縁基板)上の境界とでは表面特性が異なる(設定範囲内で不均一である)ので、被覆範囲の縮小幅(所定の範囲)を各々別個に定めて(媒体の表面特性に応じて)範囲縮小処理を行う。また、一律に縮小された範囲の外側のインク吐出をゼロとするのではなく、CPU51は、縮小により通常の吐出量から変更調整される部分について、インクの吐出量の分布を定めてもよい。ステップS101aの処理の後、CPU51は、処理をステップS102へ移行させる。
【0073】
なお、ステップS102の処理において、被覆範囲の境界に限らず、配線導体と絶縁基板とでの表面特性の違いなどに応じて、被覆範囲内で略同一の膜厚を得るためのインク吐出量の分布を非一様に設定してもよい。
【0074】
ステップS107の判別処理で“NO”に分岐した場合、CPU51は、ステップS108aの処理において、ステップS102の処理で取得された厚さ対応情報を修正する(ステップS108a)。それから、CPU51は、処理をステップS103に戻して、修正された厚さ対応情報に基づく範囲縮小処理を再度実行する。
【0075】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録装置1の印刷制御方法は、配線基板S上の設定範囲に対し、所定のエネルギー線が照射されることで硬化するインクを吐出して被覆する印刷制御方法である。この印刷制御方法では、インクによる被覆の設定範囲に対して所定の被覆厚さ(厚さh)となるようにインク吐出量を定める吐出量特定ステップ、設定範囲で当該設定範囲の境界から所定の範囲(幅We)内の周縁部に対するインク吐出量を所定の被覆厚さに応じたインク吐出量から変更調整する調整ステップ、を含む。
このように周縁部のインク吐出量を通常から変更(減少)させる調整を行うことで、所望の高さの構造を得る場合に、インクの広がりによる輪郭外へのはみ出し量を低減させて、適切な輪郭形状を得ることができる。また、導線などの露出部分が途切れたり埋まってしまったりというトラブルを抑制することができる。よって、適切な厚さでの印刷の輪郭位置を適正な範囲に収めることができる。
【0076】
また、所定の被覆厚さは15μm以上である。絶縁膜による絶縁性の確保に必要な膜厚以上の被膜を行う場合に適切な輪郭を維持し、必要な機能及び構造を得ることができる。
【0077】
また、所定の被覆厚さは20μm以上35μm以下である。この厚さが一般的に用いられる絶縁膜のような機能膜の形成時に、細い線状部分や開口部分などの形状を適切に維持しながら被膜の必要な機能を得ることができる。
【0078】
また、所定の被覆厚さは、配線基板Sにおいてインクにより被覆される面の立体的な構造の高さ以上であってもよい。用途に応じて立体的な構造を完全に埋め込むような被膜を形成する場合には、当該構造に応じて厚さが定められて、必要十分な厚さとすることが可能であってもよい。
【0079】
また、調整ステップでは、インク吐出有無をそれぞれ規定する各画素にそれぞれ接して位置する周辺画素への当該インク吐出有無に基づいて被覆範囲の周縁部であるか否かを判断する。すなわち、画像処理などで境界自体を直接検出せずとも、周囲の画素の吐出有無の状況に基づいて逐次境界に接している画素か否かを判断していくことで、処理を簡略化することができる。
【0080】
また、画素は、1440dpi以上の解像度であってもよい。この解像度では、画素サイズが18μm以下となり、絶縁膜の厚さと同程度になるので、インクの粘度や仮定着のタイミングなどを考慮しても広がりの影響が無視できない程度に大きくなる。このような場合に上記の技術を適用することで、より効果的に膜厚の維持と形状の維持とを両立させることができる。
【0081】
また、調整ステップでは、周縁部へのインク吐出量をゼロとする。すなわち、本実施形態の印刷制御方法を利用したインクジェット記録装置1では、被覆範囲の周縁部に対するインク吐出を単純に行わせないことで、インク吐出量を多段階で調整せずとも容易かつより確実に、着弾したインクが本来の被覆範囲からはみ出して広がるのを抑制することができる。
【0082】
また、配線基板Sのインク吐出設定範囲内の表面特性は不均一である。すなわち、配線基板Sでは、絶縁基板部分と配線導体部分とでは、撥水性/濡れ性が異なる。このような場合に周縁部でインク吐出量を調整することで、効果的に着弾インクが設定範囲からはみ出して広がるのを低減することができる。
【0083】
また、調整ステップでは、配線基板Sの表面特性に応じて周縁部内のインク吐出量の分布を定めてもよい。上記のような絶縁基板部分と配線導体部分とでの撥水性/濡れ性の違いに応じてインク吐出量を調整することで、本実施形態の印刷制御方法を利用したインクジェット記録装置1では、より一様かつ精度よく被覆厚さと被覆範囲とを両立させることができる。
【0084】
また、調整ステップでは、配線基板Sの表面特性に応じて周縁部に係る幅Weを定めてもよい。これにより、本実施形態の印刷制御方法を利用したインクジェット記録装置1では、より精度よく被膜範囲を調整することができる。したがって、開口が狭くなりすぎたり細線が途切れたりするのを防ぐことができる。
【0085】
また、調整ステップでは、所定の被覆厚さに応じて周縁部の所定の範囲(幅We)を定めてもよい。膜厚が大きいとインクの粘度(流動性)に応じて吐出範囲よりも外側に大きく広がりやすくなるので、膜厚に応じた周縁部の幅Weの設定を行うことで、より適切に被覆範囲を定めることができる。
【0086】
また、本実施形態の印刷制御方法は、吐出量特定ステップ及び調整ステップで定められたインク吐出量のインクを吐出させる吐出動作ステップを含み、吐出動作ステップでは、複数の液滴を連続して吐出させて同一の画素位置に着弾させるマルチドロップ方式でのインク吐出を行い、インク吐出量は、マルチドロップ方式で連続して吐出させるインクの液滴数により規定される。
マルチドロップ方式を用いることで、インク吐出に係る波形パターンを大きく異ならせずともその出力回数に応じたインク吐出量を定めることができる。また、インク吐出量を多段階で変化させない場合であっても、マルチドロップ方式では1パスでのインク吐出量を容易に増大させることができるので、1パスで形成可能な膜厚を大きくすることができる。また、一度の吐出動作で大液滴を吐出させるよりも安定して動作させやすい。
【0087】
あるいは、吐出動作ステップでは、インク吐出量に応じた駆動波形パターンの駆動信号によりインクを吐出させることとしてもよい。マルチドロップ方式ではなくても駆動波形パターンを選択することで1パス当たりのインク吐出量を適切に調節可能な場合には、駆動波形パターンを選択して所望のインク液滴量を吐出させるように切り替えてもよい。
【0088】
また、吐出動作ステップでは、1パスの間で吐出したインクにより配線基板S上に少なくとも15μm以上の被覆厚さを形成することが可能であってよい。必要な最低限の厚さの被膜(特に絶縁膜)が1パスで形成可能となるので、形成時間を短縮することができ、また、処理も容易となる。したがって、この印刷制御方法を利用するインクジェット記録装置1での生産性が向上する。
【0089】
また、吐出されるインクには、ゲル化剤が含まれる。立体構造を形成するには、なるべくインクの着弾後の流動性を抑えたいので、インクにゲル化剤を含めることで、着弾後の粘度を高めることができる。
【0090】
また、定着硬化動作に係る所定のエネルギー線には紫外線が含まれる。インクに紫外線を照射することで着弾後のインクを硬化させることで、着弾後速やかにインクを硬化させて、インクが配線基板S上で広がるのを抑制することができる。
【0091】
また、定着硬化動作に係る所定のエネルギー線には配線基板S上のインクを加熱する波長のものが含まれる。インクを加熱定着させることで、インクの被膜構造を強固に硬化させ、安定化させることができる。また、熱硬化、定着するインクを用いることで、その後、単純な昇温でインクがゾル化して形状が崩れ、流下するのを防ぐことができる。
【0092】
また、インクが着弾する媒体は、絶縁基板と当該絶縁基板上に位置する配線導体とを有する配線基板Sであり、インクは、ソルダーレジストインクである。すなわち、配線基板S上にソルダーレジストインクで所定の膜厚の絶縁膜を形成する場合に上記の技術を適用することで、必要な絶縁性能を得つつ、細かい接続パッドなどを適切に形成することができる。
【0093】
また、本実施形態の印刷制御方法を利用するインクジェット記録装置1は、インクにより被覆された配線基板S上に標識を形成する標識形成ステップを含む。上記のように適切な範囲に絶縁膜を形成することで、その上に形成される標識も安定して適正な位置に形成することが可能となる。
【0094】
また、本実施形態のインクジェット記録装置1は、配線基板S上の設定範囲に対し、所定のエネルギー線(UV光及び赤外線)が照射されることで硬化するインクを吐出するインクジェットヘッド20と、制御部50と、を備える。制御部50(CPU51)は、設定範囲に対して所定の被覆厚さとなるようにインクジェットヘッド20によるインク吐出量を定める。また、制御部50は、設定範囲の境界を判断し、当該境界から所定の範囲(幅We)内の周縁部に対するインク吐出量を所定の被覆厚さに応じたインク吐出量から変更調整する、
このインクジェット記録装置1によれば、周縁部のインク吐出量を通常から変更(減少)させる調整を行うことで、所望の高さの構造を得る場合に、インクの広がりによる輪郭外へのはみ出し量を低減させて、適切な輪郭形状を得ることができる。また、導線などの露出部分が途切れたり埋まってしまったりというトラブルを抑制することができる。よって、インクジェット記録装置1では、適切な厚さでの印刷の輪郭位置を適正な範囲に収めることができる。
【0095】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、部分的に開口や切れ込みを有し、全体として二次元的に広がる絶縁膜の範囲(被膜範囲)を示して説明したが、絶縁膜が全体として線状(環状を含む)の構造であってもよい。また、配線基板上に形成される絶縁膜が複数か所に分離していてもよい。
【0096】
また、上記実施の形態では、配線基板上にソルダーレジストインクを吐出して絶縁膜を形成する場合を例に挙げて説明したが、媒体上にある程度の厚みを伴って立体的な形状を有して形成されるものであればこれに限られない。例えば、画像形成用のインクによる盛り上がり文字や図形などであってもよい。
【0097】
また、上記実施の形態では、ソルダーレジストインクはUV光により硬化する性質と熱硬化する性質との両方を有するものとして説明したが、いずれか一方であってもよいし、他の波長の電磁波による硬化特性を有するものであってもよい。
【0098】
また、インクは、吐出時に粘度が低く、着弾後に速やかに粘度が上昇するのが好ましいが、必ずしもゾルゲル間で相変化するものではなくてもよい。
【0099】
また、複数パス(マルチパス)での被膜形成がなされてもよい。この場合、各パスで同様に縮小した範囲でインクの吐出を行えばよい。
【0100】
また、上記実施の形態では、1440dpi以上の解像度の画像データ62を利用するものとして説明したが、必ずしも1440dpi以上である必要はない。
【0101】
また、上記実施の形態では、隣接画素のインク吐出有無に基づいて順次被覆範囲の境界位置を判断してインク吐出範囲を縮小させるものとして説明したが、先に画像データ62を解析して全ての境界位置を検出してから、当該境界に接する画素を特定して当該画素のインク吐出量を減少させる(ゼロとする)処理を行ってもよい。
【0102】
また、15μm~35μmを例示した膜厚は、絶縁膜としての機能を考慮した値であるが、他の機能膜を形成する場合には、当該機能膜の機能に応じた膜厚範囲が設定されて、当該膜厚に応じたインク吐出量が定められてもよい。
【0103】
また、上記実施の形態では、画素当たりのインク液滴量(着弾量)の制御として、駆動波形パターンや振幅を異ならせることで行う方法と、マルチドロップ方式とを例示したが、これらに限られるものではない。例えば、駆動パルスを印加していない状態でのインクの圧力(通常では、インクが漏出しないように負圧とされる)の調整によりノズルN内のインク液面(メニスカス)の状態を調整したり、駆動周波数を変更調整したりすることでもインク液滴量を調整することができる。あるいは、インク吐出用の波形パターンの前に予め適宜な非吐出波形パターンの駆動パルスを印加してメニスカスに振動を与えた状態で駆動波形パターンの駆動パルスを印加することでも、インク液滴量を調整することができる。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【産業上の利用可能性】
【0104】
この発明は、インク吐出制御方法及びインクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 インクジェット記録装置
10 搬送部
12 走査駆動部
121 走査部
13 搬送駆動部
131 搬送台
20 インクジェットヘッド
22 ヘッド駆動部
223 電気機械変換素子
26 記録素子
28 吐出選択IC
30 ヘッド駆動制御部
31 ヘッド制御部
32 駆動波形信号生成回路
40 定着部
42 UV照射部
43 加熱定着部
50 制御部
51 CPU
52 RAM
60 記憶部
61 プログラム
62 画像データ
63 対応情報
70 インク加熱部
81 表示部
82 操作受付部
90 通信部
N ノズル
S 配線基板
W、W1、W2 範囲
We、We1、We2 幅
Wt 被覆範囲
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10