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特許7683706データ変更方法、データ再生方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】データ変更方法、データ再生方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20250520BHJP
   G10G 3/04 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
G10H1/00 102Z
G10G3/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023544924
(86)(22)【出願日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2021032374
(87)【国際公開番号】W WO2023032137
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 善政
(72)【発明者】
【氏名】宇佐 聡史
(72)【発明者】
【氏名】藤島 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 和彦
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-177382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00
G10G 1/00
G10G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発音のタイミング情報を定義する発音制御データに対して適用する変更方法を、第1変更方法および第2変更方法を含む複数の変更方法から選択するための選択ユーザインターフェースを提供し、
前記第1変更方法を適用することが選択された場合に、前記タイミング情報を補正し、所定のデータ区間に対して当該データ区間における前記タイミング情報の補正量に応じた補正情報を追加することによって、前記発音制御データを変更し、
前記第2変更方法を適用することが選択された場合に、所定のテンポに応じた拍の位置に基づいて前記タイミング情報を補正することによって、前記発音制御データを変更すること、
を含むデータ変更方法。
【請求項2】
テンポを設定して演奏記録を指示するための記録ユーザインターフェースを提供し、
前記演奏記録の開始が指示されると、設定された前記テンポで拍情報を提供し、
前記拍情報を提供している間に入力される演奏情報に基づいて前記発音制御データを記録し、
前記演奏記録の停止が指示されると、記録した前記発音制御データに対して適用すべき変更方法を選択するための前記選択ユーザインターフェースを提供する、請求項1に記載のデータ変更方法。
【請求項3】
前記複数の変更方法は、第3変更方法をさらに含み、
前記第3変更方法を適用することが選択された場合に、指定された所定の発音のタイミング情報を補正し、当該所定の発音に続く複数の発音のタイミング情報を補正することによって、前記発音制御データを変更する、請求項1または請求項2に記載のデータ変更方法。
【請求項4】
所定のテンポで記録された発音のタイミング情報を定義する発音制御データに基づいて、複数の拍の位置を検出し、
複数の前記拍の位置と前記テンポとの関係に基づいて前記タイミング情報を補正し、所定のデータ区間に対して当該データ区間における前記タイミング情報の補正量に応じた補正情報を追加することによって、前記発音制御データを変更すること、
を含むデータ変更方法。
【請求項5】
所定のテンポで拍情報を提供し、
前記拍情報を提供している間に入力される演奏情報に基づいて、前記発音制御データを記録すること、
をさらに含み、
前記拍情報の提供タイミングに対応して前記補正情報が追加されている、請求項4に記載のデータ変更方法。
【請求項6】
前記複数の拍の位置を検出することは、
前記発音制御データをオーディオデータに変換し、
前記オーディオデータに基づいて複数の拍の位置を検出すること、
を含む、
請求項4または請求項5に記載のデータ変更方法。
【請求項7】
検出された前記拍の位置を補正するための第1ユーザインターフェースを提供することをさらに含み、
前記発音制御データを変更することは、前記第1ユーザインターフェースを介して補正された後の複数の前記拍の位置と設定されたテンポとの関係に基づいて、前記タイミング情報を補正することを含む、請求項6に記載のデータ変更方法。
【請求項8】
記録された前記発音制御データまたは前記オーディオデータと、前記第1ユーザインターフェースを介して補正された後の前記拍の位置と、を対応付けてデータベースに登録することをさらに含む、請求項7に記載のデータ変更方法。
【請求項9】
前記発音制御データにおける所定の発音のタイミング情報を補正するための第2ユーザインターフェースを提供し、
前記第2ユーザインターフェースを介して指示された前記所定の発音のタイミング情報を補正し、当該所定の発音に続く複数の発音のタイミング情報をさらに補正することによって、前記発音制御データをさらに変更すること、
をさらに含む、請求項から請求項8のいずれかに記載のデータ変更方法。
【請求項10】
前記第2ユーザインターフェースを介して指示された前記所定の発音のタイミング情報を補正し、当該所定の発音に続く複数の発音のタイミング情報をさらに補正するときには、前記補正情報の対象となる前記データ区間をさらに変更することによって、前記発音制御データをさらに変更する、請求項9に記載のデータ変更方法。
【請求項11】
請求項4から請求項10のいずれかに記載のデータ変更方法によって変更された前記発音制御データに基づいて音波形信号を音源部により再生するためのデータ再生方法であって、
前記音源部に音波形信号を再生させるための発音指示信号の生成方法を、第1再生方法および第2再生方法を含む複数の再生方法から選択するための第3ユーザインターフェースを提供し、
前記第1再生方法が選択された場合に、所定のテンポに応じて前記発音制御データを読み出し、前記補正情報を利用して前記発音指示信号を生成し、
前記第2再生方法が選択された場合に、拍を進行させる進行指示信号に応じた前記データ区間の前記発音制御データを読み出して前記発音指示信号を生成すること、
を含む、データ再生方法。
【請求項12】
演奏記録を指示するための記録ユーザインターフェースを提供し、
前記演奏記録の開始が指示されると、入力される演奏情報に基づいて、発音のタイミング情報を定義する発音制御データを記録し、
前記演奏記録の停止が指示されると、記録した前記発音制御データに対して適用すべき変更方法を、第1変更方法および第2変更方法を含む複数の変更方法から選択するための選択ユーザインターフェースを提供し、
選択された変更方法に基づいて前記発音制御データを変更し、
変更された前記発音制御データに基づいて演奏音を再生すること、
を含むデータ変更方法。
【請求項13】
請求項1乃至10および請求項12の何れか一項に記載のデータ変更方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項11に記載のデータ再生方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発音を制御するためのデータを変更する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MIDIデータ等の発音を制御するデータ(以下、発音制御データという)に基づいて、自動演奏をすることによって音波形信号を生成する技術が存在する。一般的に、発音制御データには自動演奏の速度(テンポ)が定義されている。すなわち、発音制御データを再生すると、発音制御データに記録された演奏音が再現される。特許文献1、2、3に示すように、ユーザの動きに応じてテンポを制御する技術も開発されている。ユーザによるテンポの制御は、例えば、ユーザが手に持った携帯装置を指揮棒のようにして振ることによって実現される。したがって、発音制御データに記録された演奏音がそのまま再現されるのではなく、ユーザの動作に応じて再生速度が変化した演奏音が再現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-272362号公報
【文献】特開平9-16169号公報
【文献】実用新案登録第3227548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ユーザの動作によるテンポ制御での自動演奏と、予め決められたテンポ制御での自動演奏と、のいずれか一方が選択されて、選択された自動演奏が実現されることもある。このような場合、ユーザの動作によるテンポ制御が可能な発音制御データと、予め決められたテンポ制御が可能な発音制御データとは、共通のデータとして生成されることが望ましい。予めテンポが決められた発音制御データは一般的に存在するため、予めテンポが決められた発音制御データを、ユーザによるテンポ制御が可能な発音制御データとしても用いることができるように変更することが望まれる。
【0005】
本開示の目的の一つは、演奏音が記録された発音制御データを、ユーザの動作によるテンポ制御を可能とするデータに容易に変更することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、発音のタイミング情報を定義する発音制御データに対して適用する変更方法を、第1変更方法および第2変更方法を含む複数の変更方法から選択するための選択ユーザインターフェースを提供し、前記第1変更方法を適用することが選択された場合に、前記タイミング情報を補正し、所定のデータ区間に対して当該データ区間における前記タイミング情報の補正量に応じた補正情報を追加することによって、前記発音制御データを変更し、前記第2変更方法を適用することが選択された場合に、所定のテンポに応じた拍の位置に基づいて前記タイミング情報を補正することによって、前記発音制御データを変更すること、を含むデータ変更方法が提供される。
【0007】
本開示の一実施形態によれば、所定のテンポで記録された発音のタイミング情報を定義する発音制御データに基づいて、複数の拍の位置を検出し、複数の前記拍の位置と前記テンポとの関係に基づいて前記タイミング情報を補正し、所定のデータ区間に対して当該データ区間における前記タイミング情報の補正量に応じた補正情報を追加することによって、前記発音制御データを変更すること、を含むデータ変更方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、演奏音が記録された発音制御データを、ユーザの動作によるテンポ制御を可能とするデータに容易に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態におけるシステム構成を示す図である。
図2】一実施形態における携帯装置および電子楽器のハードウェア構成を示す図である。
図3】一実施形態における記録モードの処理を示すフローチャートである。
図4】記録ユーザインターフェースの例(記録開始の指示前)を示す図である。
図5】記録ユーザインターフェースの例(記録開始の指示後)を示す図である。
図6】選択ユーザインターフェースの例を示す図である。
図7】一実施形態における記録モードの処理(図3に続く部分)を示すフローチャートである。
図8】一実施形態におけるAIクオンタイズ処理を示すフローチャートである。
図9】拍補正ユーザインターフェースの例(補正指示前)を示す図である。
図10】拍補正ユーザインターフェースの例(補正指示前)を示す図である。
図11】発音制御データの例を説明するための図である。
図12】一実施形態におけるデータ補正処理を示すフローチャートである。
図13】タイミング情報を補正するときの例を説明するための図である。
図14】変更前後の発音制御データを比較して説明するための図である。
図15】一実施形態におけるMIDIクオンタイズ処理を示すフローチャートである。
図16】クオンタイズ設定ユーザインターフェースの例を示す図である。
図17】一実施形態におけるディレイオフセット処理を示すフローチャートである。
図18】オフセット設定ユーザインターフェースの例を示す図である。
図19】ディレイオフセット前後の発音制御データを比較して説明するための図である。
図20】ディレイオフセット前後の発音制御データを比較して説明するための図である。
図21】一実施形態におけるデータ再生処理を示すフローチャートである。
図22】再生ユーザインターフェースの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、Bなど付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0011】
[1.全体構成]
図1は、一実施形態におけるシステム構成を示す図である。図1に示すシステムは、インターネット等のネットワークNWを介して接続された携帯装置10およびデータ管理サーバ90を含み、さらに携帯装置10に接続された電子楽器80を含む。電子楽器80の機能の少なくとも一部が携帯装置10に含まれていてもよい。携帯装置10は、この例では、スマートフォンなどの携帯可能な通信端末である。電子楽器80は、この例では、電子ピアノなどの電子鍵盤装置である。
【0012】
携帯装置10は、電子楽器80に対する演奏を記録すること、記録した演奏を電子楽器80において再生させることができる。この再生においては、記録した演奏をそのまま再生すること、およびユーザの動作(例えば携帯装置10を指揮棒のようにして振る動作)にしたがった速度で再生することのいずれかを選択することができる。携帯装置10は、記録した演奏に対応するデータを生成し、上記のいずれかの再生においても用いることができるようにデータを変更することができる。このような各機能を実現するための具体的な処理については、後述する。
【0013】
データ管理サーバ90は、制御部910、記憶部920および通信部980を含む。制御部910は、CPU、RAMおよびROMを含む。制御部910は、記憶部920に記憶されたプログラムを、CPUを用いて実行することによって、プログラムに記述された命令にしたがった処理を行う。記憶部920は、不揮発性メモリ、ハードディスクドライブなどの記憶装置を含む。通信部980は、ネットワークNWに接続して、他の装置と通信するための通信モジュールを含む。データ管理サーバ90は、携帯装置10において生成されるデータの一部を記憶部920において保存し、そのデータを利用した処理を実行する。具体的な処理の内容は後述する。一実施形態において、データ管理サーバ90は、存在しなくてもよい。
【0014】
[2-1.携帯装置の構成]
図2は、一実施形態における携帯装置および電子楽器のハードウェア構成を示す図である。携帯装置10は、制御部110、記憶部120、表示部130、操作部140、センサ部150、スピーカ170、通信部180およびインターフェース190を含む。携帯装置10は、これらの構成を全て含むものに限定されず、カメラ、位置検出部などさらに別の構成を含んでいてもよい。
【0015】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサおよびRAM等の記憶装置を備えるコンピュータの一例である。制御部110は、記憶部120に記憶されたプログラム121を、CPU(プロセッサ)を用いて実行し、後述する様々な処理を実行するための機能を携帯装置10において実現させる。
【0016】
記憶部120は、不揮発性メモリ、ハードディスクドライブなどの記憶装置である。記憶部120は、制御部110において実行されるプログラム121およびこのプログラム121を実行するときに必要となる各種データを記憶する。プログラム121は、データ管理サーバ90または他のサーバからネットワークNW経由でダウンロードされ、記憶部120に記憶されることによって、携帯装置10にインストールされる。プログラム121は、非一過性のコンピュータに読み取り可能な記録媒体(例えば、磁気記録媒体、光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリ等)に記録した状態で提供されてもよい。この場合、携帯装置10は、この記録媒体を読み取る装置を備えていればよい。記憶部120も記録媒体の一例といえる。
【0017】
記憶部120に記憶されるデータは、例えば、演奏記録データ123を含む。演奏記録データ123は、演奏に関する様々なデータを含み、例えば、演奏曲の名称などのメタデータおよび演奏音に関するデータを含む。演奏音に関するデータは、演奏による発音のタイミング情報を定義する発音制御データ125を含む。発音制御データ125は、所定の形式で記述されたデータであり、例えば、MIDI形式により記述されたデータである。この場合、発音のタイミング情報は、音が発生するタイミングを示す情報であり、例えば、ノートオン、ノートオフ、デルタタイム、テンポなどの情報によって示される。発音に対応する他の情報、例えば、音高(ノートナンバ)等の情報も発音制御データ125に含まれる。
【0018】
表示部130は、制御部110の制御に応じて様々な画面を表示する表示領域を有するディスプレイである。表示される画面は、後述する複数のユーザインターフェースを含む。操作部140は、ユーザの操作に応じた信号を制御部110に出力する操作装置である。この例では、操作部140は、表示部130の表面に配置されたタッチセンサである。そのため、表示部130および操作部140は、互いの機能によってタッチパネルとして用いられる。操作部140は、携帯装置10の筐体に配置されたスイッチ等を含んでもよい。
【0019】
センサ部150は、携帯装置10の動きに応じた信号を制御部110に出力する。センサ部150は、例えば、加速度センサ、ジャイロセンサ等を含み、携帯装置10の動きを測定する。スピーカ170は、制御部110から供給される音波形信号を増幅して出力することによって、音を発生する。
【0020】
通信部180は、制御部110の制御により、ネットワークNWと接続して、ネットワークNWに接続されたデータ管理サーバ90など他の装置と通信をするための無線通信モジュールである。インターフェース190は、赤外線通信、近距離無線通信によって電子楽器80など他の装置と通信するための通信モジュールを含む。インターフェース190は、ネットワークNWを介さずに通信するために用いられる。インターフェース190は、無線通信ではなく有線通信をするモジュールを有していてもよい。
【0021】
[2-2.電子楽器の構成]
電子楽器80は、上述したように、電子ピアノなどの電子鍵盤装置であって、演奏操作子810、音源部830、スピーカ870およびインターフェース890を含む。演奏操作子810は、複数の鍵を含み、各鍵への操作に応じた信号を音源部830に出力する。インターフェース890は、無線または有線によって外部装置と通信するための通信モジュールを含む。この例では、インターフェース890は、携帯装置10のインターフェース190と短距離無線通信により接続して、所定のフォーマット(この例ではMIDI形式)のデータを送受信する。
【0022】
音源部830は、DSP(Digital Signal Processor)を含み、発音指示信号に応じて音波形信号を生成する。発音指示信号は、演奏操作子810から出力される信号およびインターフェース890を介して携帯装置10から送信されるデータに対応する。また、音源部830は、演奏操作子810から出力される信号に応じた発音指示信号を、MIDI形式のデータに変換してインターフェース890に出力する。これによって、電子楽器80は、演奏操作子810への操作に対応するデータ(以下、演奏情報という場合がある)を携帯装置10へ送信することもできる。
【0023】
[3.記録モード]
続いて、電子楽器80に対する演奏を携帯装置10において記録するときの処理について説明する。このように演奏を記録する処理モードを記録モードという。携帯装置10は、記録モードを開始する指示がユーザによって入力されると、記録モードの処理を開始する。
【0024】
図3は、一実施形態における記録モードの処理を示すフローチャートである。図4は、記録ユーザインターフェースの例(記録開始指示前)を示す図である。図5は、記録ユーザインターフェースの例(記録指示後)を示す図である。制御部110は、以下に説明する画面を表示部130に表示することによって、記録ユーザインターフェース(記録UI)をユーザに提供する(ステップS101)。図4に示す記録ユーザインターフェース(以下、インターフェースRDという場合がある)は、演奏記録の開始が指示される前における表示例である。インターフェースRDは、記録時のテンポ(以下、記録テンポという場合がある)を設定するための領域TS、記録時間を表示する領域RT、および記録開始および記録終了を指示するための記録ボタンRBを含む。
【0025】
制御部110は、演奏の記録開始の指示が入力されるまで待機する(ステップS103;No)。図4に示す記録ボタンRBが操作されることによって記録開始の指示が携帯装置10に入力される(ステップS103;Yes)と、制御部110は、図5に示すように記録ボタンRBの表示を変更し、演奏の記録を開始するために、ユーザに対する拍の提供を開始する(ステップS105)。拍の提供は、例えば、携帯装置10からメトロノーム音を発生させることによって実現される。メトロノーム音は、記録テンポにより定まる間隔で特定される各拍に対応して発生する。例えば、記録テンポが120であれば、1拍の長さ500ミリ秒でメトロノーム音が発生する。携帯装置10は、ユーザに対して音により拍を提供する場合に限らず、光、振動などによって拍を提供してもよい。
【0026】
制御部110は、記録終了の指示が入力されるまで(ステップS109;No)、電子楽器80から提供される演奏情報に基づいて、発音制御データ125を記憶部120に記録する(ステップS107)。このとき、ユーザに対する拍の提供は継続している。図5に示す記録ボタンRBが操作されることによって記録終了の指示が携帯装置10に入力される(ステップS109;No)と、制御部110は、拍の提供を終了する(ステップS111)。続いて、制御部110は、以下に説明する画面を表示部130に表示することによって、選択ユーザインターフェース(選択UI)を提供する(ステップS113)。
【0027】
このように選択ユーザインターフェースが提供されることで、演奏による発音制御データ125を記録した後にすべき処理をユーザに提供することができる。一方、制御部110は、ユーザの指示によって発音制御データ125の記録が終了した時点で一旦終了してもよい。この場合には、制御部110は、ユーザの指示により選択ユーザインターフェースを提供し、処理の対象とすべき発音制御データ125を指定するためのユーザインターフェースをさらに提供してもよい。記録モードにおいて記録された発音制御データ125以外を処理の対象として指定できるようにしてもよい。
【0028】
図6は、選択ユーザインターフェースの例を示す図である。図6に示すように、選択ユーザインターフェース(以下、インターフェースSDという場合がある)は、記録された発音制御データ125に対して適用する変更方法を、互いに異なる複数の変更方法から選択するためのインターフェースを含む。複数の変更方法は、互いに異なる処理により発音制御データ125を変更するものであれば、どのような変更方法であってもよい。複数の変更方法は、互いに異なる方法でタイミング情報を補正することによって発音制御データ125を変更する少なくとも2つの変更方法を含んでもよい。この例では、複数の変更方法は、3つの変更方法を含む。3つの変更方法は、「AIクオンタイズ」(第1変更方法)、「MIDIクオンタイズ」(第2変更方法)および「ディレイオフセット」(第3変更方法)に対応する。インターフェースSDは、それぞれの変更方法に対応して、変更選択ボタンAB、MB、DBを含む。「AIクオンタイズ」とは、発音制御データ125から拍位置の検出を行い、元の発音制御データ125から特定される拍位置と、検出された拍位置との関係によってタイミング情報を補正するように発音制御データ125を変更する処理である。拍位置を検出するときに、AI(Artifical Intelligence)技術を用いている。「MIDIクオンタイズ」は、指定された分解能に応じてタイミング情報を補正するように発音制御データ125を変更する処理である。「ディレイオフセット」は、複数の音に対応するタイミング情報をオフセットさせるように発音制御データ125を変更する処理である。これらの具体的な処理方法については後述する。
【0029】
インターフェースSDは、発音制御データ125を保存するためのセーブボタンB1、発音制御データ125を破棄するためのデリートボタンB2、および発音制御データ125を再生するための再生ボタンPBを含む。再生ボタンPBが操作されると、発音制御データ125を読み出して、発音制御データ125によって示される音を再生する。この音は、携帯装置10において生成されてもよいし、電子楽器80において生成されるようにしてもよい。電子楽器80で音が生成される場合には、携帯装置10から電子楽器80に発音指示信号が送信されればよい。再生位置は、再生マーカPMによって示される。ユーザが再生マーカPMの位置を変更することで、発音制御データ125における再生位置を変更することもできる。
【0030】
図7は、一実施形態における記録モードの処理(図3に続く部分)を示すフローチャートである。制御部110は、インターフェースSDに対してユーザから入力される指示を待機する(ステップS201;No,S203;No、S205;No,S207;No、S209;No)。このように制御部110が指示を待機している状態を、指示待機状態という。
【0031】
変更選択ボタンABが操作されることによってAIクオンタイズの指示が入力される(ステップS201;Yes)と、制御部110は、AIクオンタイズ処理を実行して(ステップS300)、指示待機状態に戻る。AIクオンタイズ処理については後述する。
【0032】
変更選択ボタンMBが操作されることによってMIDIクオンタイズの指示が入力される(ステップS203;Yes)と、制御部110は、MIDIクオンタイズ処理を実行して(ステップS400)、指示待機状態に戻る。MIDIクオンタイズ処理については後述する。
【0033】
変更選択ボタンDBが操作されることによってディレイオフセットの指示が入力される(ステップS205;Yes)と、制御部110は、ディレイオフセット処理を実行して(ステップS500)、指示待機状態に戻る。ディレイオフセット処理については後述する。
【0034】
セーブボタンB1が操作されることによってデータ保存の指示が入力される(ステップS207;Yes)と、制御部110は、発音制御データ125を保存して(ステップS211)、記録モードの処理を終了する。デリートボタンB2が操作されることによってデータ破棄の指示が入力される(ステップS209;Yes)と、制御部110は、発音制御データ125を破棄して(ステップS213)、記録モードの処理を終了する。
【0035】
[4.AIクオンタイズ処理]
続いて、AIクオンタイズ処理について説明する。
【0036】
図8は、一実施形態におけるAIクオンタイズ処理を示すフローチャートである。制御部110は、発音制御データ125をオーディオデータに変換する(ステップS301)。オーディオデータは、発音制御データ125に規定されるタイミング情報にしたがった発音を音波形信号で示したデータである。この音波形信号は、携帯装置10において生成してもよいし、電子楽器80に生成させて携帯装置10で受信してもよい。制御部110は、オーディオデータに基づいて拍を検出する(ステップS303)。
【0037】
拍は、音波形信号の振幅の変化などに基づいて検出することができる。この例では、拍検出においては、AI技術を用いている。オーディオデータと拍の位置との関係を学習させた学習済モデルに、変換によって得られたオーディオデータを入力することによって、学習済モデルから拍の位置を取得することができる。拍を検出するための具体的な方法は、AI技術を用いる場合に限らず、公知の拍検出の方法を適用することができる。拍検出は、オーディオデータに対して実行する場合に限らず、発音制御データ125に対して実行してもよい。
【0038】
制御部110は、以下に説明する画面を表示部130に表示することによって、拍補正インターフェース(拍補正UI:第1ユーザインターフェース)を提供する(ステップS305)。制御部110は、拍補正インターフェースに対して、拍位置を補正する指示またはデータ補正処理の指示が入力されるまで待機する(ステップS311;No、S321;No)。拍位置を補正する指示が入力される(ステップS311;Yes)と、制御部110は、拍位置を補正し(ステップS313)、再び待機する(ステップS311;No、S321;No)。データ補正処理が指示される(ステップS321;Yes)と、制御部110は、データ補正処理を実行し(ステップS330)、AIクオンタイズ処理を終了する。拍位置を補正する指示が入力されずに、データ補正処理が指示される場合もある。この場合には、検出された拍位置をそのまま用いてデータ補正処理が実行される。
【0039】
図9は、拍補正ユーザインターフェースの例(補正指示前)を示す図である。図10は、拍補正ユーザインターフェースの例(補正指示前)を示す図である。拍補正インターフェース(以下、インターフェースADという場合がある)は、平均テンポを設定するための領域TS、拍位置の編集方法を設定するためのラインボタンLBおよびタップボタンTB、再生ボタンPB、再検出ボタンQB、およびセーブボタンB3を含む。平均テンポは、発音制御データ125を記録したときのテンポ(記録テンポ)が初期値として表示される。通常は初期値から変更される必要は無いが、変更されてもよい。図9および図10において説明するインターフェースADは、ラインボタンLBが操作された場合の編集方法として示されている。
【0040】
インターフェースADは、さらに、発音制御データ125に規定された発音を曲全体の範囲で示す全体領域AA、および選択窓SWで指定された範囲を拡大した示す拡大領域AWを含む。これらの領域において、縦軸は音高を示し、横軸方向は時間を示し、各発音が音マークNMで示されている。選択窓SWは、全体領域AAにおける位置を変更することができ、横軸方向の長さを変更することで拡大領域AWに表示されるときの時間軸方向の拡大率を変化させることもできる。
【0041】
発音制御データ125から検出された拍の位置は、拡大領域AWにおいて拍位置線BLにより示されている。拍位置線BLの下方には、円形の拍マーカBMが表示されている。拍マーカBMは、ユーザが拍位置を補正するときに用いられる。拍マーカBMのうち、変更対象としてユーザに指定されている拍マーカBMsは、他の拍マーカBMと区別できる形態で表示される。このとき、図9に示すように、拍マーカBMsに対応する拍位置線BLについても表示形態が変化してもよい。
【0042】
図9においてユーザに指定された拍マーカBMsを、図10に示すように左側にずらすと、拍位置の補正指示が入力されたこと(図8、ステップS311;Yes)に相当する。これによって、制御部110は、拍マーカBMsに対応する拍の位置を、移動後の拍マーカBMsの位置に補正する(図8、ステップS313)。検出された拍位置とユーザが想定する拍位置とが異なる場合に、このような補正が実施される。
【0043】
再生ボタンPBが操作されると、制御部110は、拡大領域AWに表示された範囲の発音制御データ125に応じた音を再生する。このとき、検出された拍の位置において、拍を示す音(メトロノーム音)が発生するようにしてもよい。このように、検出された拍の位置または補正された拍の位置と発音タイミングとの関係を、音によってユーザに認識させてもよい。
【0044】
再検出ボタンQBが操作されると、制御部110は、ステップS303に戻って拍の検出を実行する。このとき、ユーザによって位置が補正された拍が存在する場合には、制御部110は、補正された拍の位置を固定するようにして、拍の検出処理を実行してもよい。
【0045】
図11は、発音制御データの例を説明するための図である。図11は、「記録時」、「拍検出時」および「拍補正時」における発音制御データ125のタイミング情報と拍の位置との関係を示す。「記録時」は、記録モードにおいて記録されたときの発音制御データ125を示す。「拍検出時」は、AIクオンタイズ処理において拍が検出されたときの発音制御データ125を示す。「拍補正時」は、検出された拍位置がユーザによって補正されたときの発音制御データ125を示す。横軸は時間tを示している。音NTは、タイミング情報に対応する発音の位置を示している。記録時から拍補正時までの期間には発音制御データ125が変更されていないため、音NTの位置は変わらない。
【0046】
拍位置SBT1、SBT2、・・・は、記録時の拍の位置を示している。したがって、いずれの拍の長さも同じである。拍位置DBT1、DBT2、・・・は、拍検出時の拍の位置を示している。検出された拍の位置は等間隔になるとは限らない。したがって、図11の例においては、記録時と拍検出時とでは、位置(タイミング)がずれている拍が存在する。拍補正時は、インターフェースADにおいて拍マーカBMsを移動させることによって拍の位置を補正した後の拍を示している。図11では、拍位置DBT4、DBT6が補正された例を示している。拍位置DBT4の補正は、図10で示した例に対応する。拍位置DBT6の補正は、装飾音NTsを拍位置に合わせるための補正である。このように補正する目的はデータ再生処理と関連するため後述する。
【0047】
インターフェースADにおけるセーブボタンB3が操作されることは、データ補正処理の指示が入力されることに対応する(ステップS321;Yes)。したがって、セーブボタンB3が操作されると、制御部110は、データ補正処理を実行する(ステップS330)。このとき、携帯装置10は、発音制御データ125またはオーディオデータと、補正後の拍位置を示すデータとを対応付けて、データ管理サーバ90に送信してもよい。データ管理サーバ90は、携帯装置10から受信したデータを記憶部920におけるデータベースに登録する。データ管理サーバ90は、データベースに登録したデータを利用した処理を実行することができる。例えば、このようなユーザにより補正されたデータを利用して、拍検出技術の精度向上、または拍検出におけるAI技術の精度向上(登録したデータを教師データとした学習済モデルの更新など)に用いることもできる。
【0048】
図12は、一実施形態におけるデータ補正処理を示すフローチャートである。制御部110は、発音制御データ125を上述した拍位置DBT1、DBT2、・・・の位置で分割することによって、検出された拍(補正されていれば補正後の拍)毎のデータ区間に分割する(ステップS331)。制御部110は、分割された複数のデータ区間を、それぞれ上述した平均テンポに相当する区間長(平均テンポに相当する1拍の長さ)に相当する長さに伸縮させて、その伸縮量に対応するように、各データ区間に含まれる各発音の位置、すなわちタイミング情報を補正する(ステップS333)。制御部110は、タイミング情報の補正量に応じた補正情報を各データ区間に追加し(ステップS335)、タイミング情報が補正された補正情報が追加された複数のデータ区間を結合する(ステップS337)。データ補正処理について、図13および図14を用いてより詳細に説明する。
【0049】
図13は、タイミング情報を補正するときの例を説明するための図である。図13は、複数のデータ区間のうち拍位置DBT4と拍位置DBT5との間のデータ区間におけるタイミング情報を補正する例を示している。「分割後」は、補正前のデータ区間における発音制御データ125を示す。「補正後」は、タイミング情報を補正した後の発音制御データ125を示す。この例では、補正前のデータ区間長(拍位置DBT4と拍位置DBT5との間の長さ)は、テンポ「110」に相当している。
【0050】
この例では平均テンポが「120」に設定されている。そのため、データ区間長をテンポ「120」に相当する長さに変更する。データ区間長が「110/120」倍になっているため、このデータ区間に含まれる発音のタイミング情報は拍の先頭(拍位置DBT4)を基準として「110/120」倍の位置に補正される。このように補正量は「110/120」である。補正情報は、拍位置DBT4に対応する位置に補正量に応じた値として元のデータ区間長に対応するテンポ値「110」として追加される。「110/120」として平均テンポに対する相対値として追加されてもよい。MIDI形式のデータである場合には、テンポチェンジの情報として追加される。このように補正されたデータ区間の発音制御データ125をテンポ「110」で再生すると、発音制御データ125が記録されたときと同じタイミングの演奏音が再生できる。
【0051】
図14は、変更前後の発音制御データを比較して説明するための図である。図14は、「記録時」および「結合後」における発音制御データ125のタイミング情報と拍の位置との関係を示す。「記録時」は、記録モードにおいて記録されたとき、すなわちAIクオンタイズ処理によりタイミング情報が変更される前の発音制御データ125を示す。「結合後」は、AIクオンタイズ処理によりタイミング情報が補正されて補正情報が追加されたデータ区間を結合した後、すなわちタイミング情報が変更された後の発音制御データ125を示す。図14に示すように、AIクオンタイズ処理においては、検出された拍(またはさらに補正された拍)を所定のテンポ(この例では平均テンポ)に揃え、元の拍の長さを特定できるように補正量に応じた補正情報(この例では元の拍の長さに対応するテンポ値)を追加することによって、発音制御データ125を変更する。
【0052】
このようにAIクオンタイズ処理によりタイミング情報が変更されると、発音制御データ125は、一定のテンポとして記述したデータ形式をとることができるとともに、補正情報をテンポチェンジとして反映して再生することにより、発音制御データ125を記録したときの演奏音を再現することもできる。自然な演奏を再現したい曲には特に有効である。以上が、AIクオンタイズ処理についての説明である。
【0053】
[5.MIDIクオンタイズ処理]
続いて、MIDIクオンタイズ処理について説明する。
【0054】
図15は、一実施形態におけるMIDIクオンタイズ処理を示すフローチャートである。制御部110は、以下に説明する画面を表示部130に表示することによって、クオンタイズ設定ユーザインターフェース(クオンタイズ処理設定UI)を提供し(ステップS401)、クオンタイズ処理の指示が入力されるまで待機する(ステップS403;No)。クオンタイズ処理の指示が入力されると(ステップS403;Yes)、制御部110は、設定にしたがってクオンタイズ処理を実行し(ステップS405)、MIDIクオンタイズ処理を終了する。
【0055】
図16は、クオンタイズ設定ユーザインターフェースの例を示す図である。クオンタイズ設定ユーザインターフェース(以下、インターフェースMDという場合がある)は、クオンタイズの分解能を設定するための領域QS、およびクオンタイズ処理の指示を入力するための実行ボタンB4を含む。この例ではインターフェースMDは、設定される分解能を選択するためのウインドウRWを含む。クオンタイズの分解能が「1/8」であれば、8分音符を単位としてタイミングが揃うようにタイミング情報が補正される。この処理は、一般的なクオンタイズ処理と同様である。インターフェースMDは、クオンタイズの対象外とする音の条件を設定するための領域を含んでもよい。クオンタイズの対象外とされる音は、例えば、最も近いクオンタイズの対象音と同じ量で移動するようにしてもよい。クオンタイズ処理の対象外とされる音は、例えば、分解能の半分以下の長さの音であってもよいし、所定の値よりもベロシティ(音量)が小さい音であってもよい。これとは逆に、インターフェースMDは、クオンタイズの対象音を指定できる領域を含んでもよい。
【0056】
MIDIクオンタイズ処理によれば、発音制御データ125を記録するときの演奏においてリズムが揺れる状況が発生した場合に、発音制御データ125に含まれる発音のリズムの揺れを取り除いて拍の位置に揃えることができる。ダンスミュージックなどリズムが重要である曲には特に有効である。以上がMIDIクオンタイズについての説明である。
【0057】
[6.ディレイオフセット処理]
続いて、ディレイオフセット処理について説明する。
【0058】
図17は、一実施形態におけるディレイオフセット処理を示すフローチャートである。制御部110は、以下に説明する画面を表示部130に表示することによって、オフセット設定ユーザインターフェース(オフセット設定UI:第2ユーザインターフェース)を提供し(ステップS501)、オフセット処理の指示が入力されるまで待機する(ステップS503;No)。オフセット処理の指示が入力されると(ステップS503;Yes)、制御部110は、設定にしたがってオフセット処理を実行し(ステップS505)、ディレイオフセット処理を終了する。
【0059】
図18は、オフセット設定ユーザインターフェースの例を示す図である。オフセット設定ユーザインターフェース(以下、インターフェースDDという場合がある)は、オフセット量を設定するための領域OS、およびオフセット処理の指示を入力するための実行ボタンB5を含む。この例ではインターフェースDDは、設定されるオフセット量を選択するためのウインドウRWを含む。オフセット量が「30」であれば、全体的に30ティック遅らせるようにタイミング情報を補正することによって発音制御データ125を変更する。
【0060】
インターフェースDDは、処理対象の音を指定するための領域を有してもよい。処理対象音が指定されることで、対象音と対象音の後に続く複数の音に対して、タイミング情報を補正してもよい。処理対象の音が指定されない場合は、発音制御データ125の最初の音が処理対象の音として指定されてもよい。処理対象の音を指定して補正を行う場合について、2つの例を図19および図20を用いて説明する。
【0061】
図19および図20は、ディレイオフセット前後の発音制御データを比較して説明するための図である。図19および図20は、いずれも、「拍検出時」および「オフセット後」における発音制御データ125のタイミング情報と拍の位置との関係を示す。「拍検出時」は、AIクオンタイズ処理において拍が検出されたときの発音制御データ125を示す。「オフセット後」は、装飾音NTsが処理対象音として指定されてオフセット処理が実行された後の発音制御データ125を示す。オフセット処理により装飾音を拍位置に合わせることを想定しているため、装飾音NTsを拍位置DBT6に移動させるようにオフセット量が指定されることを想定している。
【0062】
図19に示す第1の例では、オフセット量にしたがって装飾音NTsが拍位置DBT6に移動するようにタイミング情報が補正される。装飾音NTsに続く複数の音のいずれもが同じオフセット量によりタイミング情報が補正される。このとき補正情報の位置がさらに変更されてもよい。補正情報の位置が変更されることは、補正情報によって補正されるデータ区間が変更されることに対応する。補正情報の位置が変更される量は、オフセット量に対応するようにしてもよい。
【0063】
図20に示す第2の例では、装飾音NTsについては同様に拍位置DBT6に移動するようにタイミング情報が補正される。一方、装飾音NTsに続く複数の音については、装飾音NTsから離れるほど少ないオフセット量で移動するようにタイミング情報が補正される。このとき、装飾音NTsから所定の拍数内(例えば4拍内)の音に対してのみタイミング情報が補正されてもよい。
【0064】
[7.データ再生処理]
続いて、上述のようにして生成された発音制御データ125(例えば、図14に示す「結合後」の発音制御データ125)を読み出して、音源部830において音波形信号を再生する処理について説明する。携帯装置10は、音源部830において音波形信号を再生させるために、発音制御データ125に基づく発音指示信号を電子楽器80に出力する。携帯装置10は、ユーザによる発音制御データ125の再生処理を開始する指示を受け取ると、データ再生処理を開始する。データ再生処理において、発音制御データ125を再生するモードは、オートモードとコントロールモードを含む。
【0065】
オートモードは、所定のテンポで発音制御データ125を読み出し、各拍に対応して設定された補正情報を利用してそのテンポを補正することによって実質的に拍の位置を補正したタイミングで音波形信号の再生を実現し、データを記録したときの演奏音を再現するためのモードである。発音制御データ125を読み出すときに補正情報を利用しない場合、図14に示すように、データを記録したときの演奏音とは異なる演奏音が再現されることになるが、補正情報を利用して読み出す速度を変更することでデータを記録したときの演奏音を再現することができる。AIクオンタイズ処理を実行していない発音制御データ125を用いる場合には、補正情報が含まれていないため、予め決められたテンポで発音制御データ125が読み出されることになる。
【0066】
コントロールモードは、拍を進行させる進行指示信号に応じて発音制御データ125を読み出して、その信号に応じた速さで演奏された場合の音を再現するためのモードである。進行指示信号により拍の進行が指示されることによって、発音制御データ125の読み出しにおいて、各拍が開始されるタイミングが制御され、拍間のテンポが過去に指示された拍間に基づいて制御される。進行指示信号は、ユーザの動作にしたがって生成され、例えば、携帯装置10を指揮棒のようにして振る動作において振る方向を変更するタイミングに応じて生成される。制御部110は、発音制御データ125において一定間隔で配置される拍は、MIDI形式であればティック値からその位置を特定できる。発音制御データ125において補正情報が追加されたデータ位置が拍の位置として特定されてもよい。
【0067】
上述したように装飾音を拍の位置に合わせる補正をすることが望ましい場合がある。装飾音は拍の位置の少し前に位置することが多い。このような場合、拍の位置に存在する被装飾音と、その前に存在する装飾音とが連続して再生されることが望ましい。一方、コントロールモードで動作するときには、拍の位置を区切りとして発音制御データ125を読み出すため、装飾音が早いタイミングで再生されてしまい、装飾音から被装飾音までが大きく離れて再生されてしまうような状況が生じる。このような場合を想定して、拍の位置に装飾音が位置するようにタイミング情報が補正されることで、装飾音と被装飾音とが離れないようにして一つのまとまりとして再生することができる。
【0068】
図21は、一実施形態におけるデータ再生処理を示すフローチャートである。制御部110は、以下に説明する画面を表示部130に表示することによって、再生ユーザインターフェース(再生UI)を提供し(ステップS801)、データ再生の開始指示が入力されるまで待機する(ステップS803;No)。
【0069】
データ再生の開始指示が入力されると(ステップS803;Yes)、制御部110は、データ再生の停止指示が入力されるまで(ステップS821;No)、発音制御データ125を再生することによって発音制御処理を実行する。制御部110は、再生モードとしてオートモードが選択されているとき(ステップS811;Yes)にはオートモードでの発音制御処理を実行する(ステップS813)。一方、オートモードが選択されていないとき、すなわち再生モードとしてコントロールモードが選択されているとき(ステップS813;No)にはコントロールモードでの発音制御処理を実行する(ステップS815)。データ再生の停止指示が入力されると(ステップS821;Yes)、制御部110は、データ再生処理を終了する。
【0070】
図22は、再生ユーザインターフェースの例を示す図である。再生ユーザインターフェース(以下、インターフェースPDという場合がある)は、オートモードとコントロールモードとを切り替える切替ボタンPMBを含む。切替ボタンPMBは、オートモードで動作しているかコントロールモードで動作しているかを示す画像を含む。切替ボタンPMBを操作する度にモードが切り替わるように選択されてもよいし、切替ボタンPMBを操作している間(切替ボタンPMBに触れている間)だけいずれかのモード(例えばコントロールモード)が選択されるようにしてもよい。
【0071】
オートモードで動作しているときは、曲の進行を停止させる停止ボタンB6が表示される。コントロールモードであるときには、ユーザが携帯装置10を振る動作を止めれば曲の進行が止まるため、図22に示すように停止ボタンB6が表示されなくてもよい。停止ボタンB6が操作されることは、データ再生の停止指示が入力されること(ステップS821;Yes)に相当するが、ステップS803に戻ることで、データ再生の一時停止の指示として認識されてもよい。
【0072】
このように、一実施形態におけるデータ変更方法によれば、演奏に応じて記録された発音制御データ125を、オートモードとコントロールモードといった互いに異なる複数の再生方法で用いることができるデータに変更することができる。また、曲によって適切な変更方法を選択して、発音制御データ125を変更することもできる。
【0073】
[8.変形例]
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、他の様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。以下、一部の変形例について説明する。
【0074】
(1)AIクオンタイズ処理において、補正情報は、1拍毎に対応して追加されていたが、2拍以上毎に対応して追加されてもよいし、各音に対して追加されてもよい。
【0075】
(2)楽譜の画像を解析して、小節線、音符および演奏記号等を抽出し、抽出した情報に基づいて発音制御データ125のタイミング情報を補正する処理がインターフェースSDにおいて選択できるようになってもよい。
【0076】
(3)携帯装置10は、データ再生方法を実行するときに、コントロールモードにおいては、携帯装置10を振る動作により進行指示信号が生成されていたが、インターフェース190を介して携帯装置10と接続されたセンサ端末を振る動作により進行指示信号が生成されるようにしてもよい。センサ端末は、例えば、センサ部150に相当する構成として、加速度センサ、ジャイロセンサ等を含み、センサ端末の動きを測定するための機能、および携帯装置10のインターフェース190に接続するための機能を有していればよい。センサ端末を用いる場合には、携帯装置10は、携帯できる大きさの装置ではなく、据え置き型のデスクトップパソコンなどによって実現されてもよい。携帯装置10において実現される上述の機能の一部または全部は、ネットワークNWを介して接続される1以上のサーバ等の情報処理装置によって実現されてもよい。例えば、記録モードにおいて発音制御データ125が記録されると、携帯装置10がサーバに発音制御データ125を送信する。サーバは、発音制御データ125を変更するための処理を実行し、変更された発音制御データ125を携帯装置10に送信するようにしてもよい。
【0077】
[9.解決手段の概要]
上述した本開示の一実施形態によれば、以下に示す構成として説明することが可能である。
【0078】
本開示のデータ変更方法は、発音のタイミング情報を定義する発音制御データに対して適用する変更方法を、第1変更方法および第2変更方法を含む複数の変更方法から選択するための選択ユーザインターフェースを提供し、前記第1変更方法を適用することが選択された場合に、前記タイミング情報を補正し、所定のデータ区間に対して当該データ区間における前記タイミング情報の補正量に応じた補正情報を追加することによって、前記発音制御データを変更し、前記第2変更方法を適用することが選択された場合に、所定のテンポに応じた拍の位置に基づいて前記タイミング情報を補正することによって、前記発音制御データを変更すること、を含む。
【0079】
本開示のデータ変更方法は、テンポを設定して演奏記録を指示するための記録ユーザインターフェースを提供してもよく、前記演奏記録の開始が指示されると、設定された前記テンポで拍情報を提供し、前記拍情報を提供している間に入力される演奏情報に基づいて前記発音制御データを記録してもよく、前記演奏記録の停止が指示されると、記録した前記発音制御データに対して適用すべき変更方法を選択するための前記選択ユーザインターフェースを提供してもよい。
【0080】
本開示のデータ変更方法は、前記複数の変更方法は、第3変更方法をさらに含んでもよく、前記第3変更方法を適用することが選択された場合に、指定された所定の発音のタイミング情報を変更し、当該所定の発音に続く複数の発音のタイミング情報を変更することによって、前記発音制御データを変更してもよい。
【0081】
本開示のデータ変更方法は、所定のテンポで記録された発音のタイミング情報を定義する発音制御データに基づいて、複数の拍の位置を検出し、複数の前記拍の位置と前記テンポとの関係に基づいて前記タイミング情報を補正し、所定のデータ区間に対して当該データ区間における前記タイミング情報の補正量に応じた補正情報を追加することによって、前記発音制御データを変更すること、を含む。
【0082】
本開示のデータ変更方法は、所定のテンポで拍情報を提供し、前記拍情報を提供している間に入力される演奏情報に基づいて、前記発音制御データを記録することをさらに含んでもよく、前記拍情報の提供タイミングに対応して前記補正情報が追加されてもよい。
【0083】
前記複数の拍の位置を検出することは、前記発音制御データをオーディオデータに変換し、前記オーディオデータに基づいて複数の拍の位置を検出することを含んでもよい。
【0084】
本開示のデータ変更方法は、検出された前記拍の位置を補正するための第1ユーザインターフェースを提供することをさらに含んでもよく、前記発音制御データを変更することは、前記第1ユーザインターフェースを介して補正された後の複数の前記拍の位置と設定されたテンポとの関係に基づいて、前記タイミング情報を補正することを含んでもよい。
【0085】
本開示のデータ変更方法は、記録された前記発音制御データまたは前記オーディオデータと、前記第1ユーザインターフェースを介して補正された後の前記拍の位置と、を対応付けてデータベースに登録してもよい。
【0086】
本開示のデータ変更方法は、前記発音制御データにおける所定の発音のタイミング情報を補正するための第2ユーザインターフェースを提供してもよく、前記第2ユーザインターフェースを介して指示された前記所定の発音のタイミング情報を補正し、当該所定の発音に続く複数の発音のタイミング情報をさらに補正することによって、前記発音制御データをさらに変更してもよい。
【0087】
本開示のデータ変更方法は、前記第2ユーザインターフェースを介して指示された前記所定の発音のタイミング情報を補正してもよく、当該所定の発音に続く複数の発音のタイミング情報をさらに補正するときには、前記補正情報の対象となる前記データ区間をさらに変更することによって、前記発音制御データをさらに変更してもよい。
【0088】
本開示のデータ再生方法は、上記記載のデータ変更方法によって変更された前記発音制御データに基づいて音波形信号を音源部により再生するためのデータ再生方法であって、前記音源部に音波形信号を再生させるための発音指示信号の生成方法を、第1再生方法および第2再生方法を含む複数の再生方法から選択するための第3ユーザインターフェースを提供し、前記第1再生方法が選択された場合に、所定のテンポに応じて前記発音制御データを読み出し、前記補正情報を利用して前記発音指示信号を生成し、前記第2再生方法が選択された場合に、拍を進行させる進行指示信号に応じた前記データ区間の前記発音制御データを読み出して前記発音指示信号を生成すること、を含む。
【0089】
本開示のデータ変更方法は、演奏記録を指示するための記録ユーザインターフェースを提供し、前記演奏記録の開始が指示されると、入力される演奏情報に基づいて、発音のタイミング情報を定義する発音制御データを記録し、前記演奏記録の停止が指示されると、記録した前記発音制御データに対して適用すべき変更方法を、第1変更方法および第2変更方法を含む複数の変更方法から選択するための選択ユーザインターフェースを提供し、選択された変更方法に基づいて前記発音制御データを変更し、変更された前記発音制御データに基づいて演奏音を再生すること、を含む。
【0090】
本開示によれば、上記データ変更方法またはデータ再生方法をコンピュータに実行させるためのプログラムとして用いることもでき、データ変更方法を実行するデータ変更装置、データ再生方法を実行するデータ再生装置として用いることもできる。すなわち、携帯装置10の少なくとも一部をデータ変更装置またはデータ再生装置として機能させることができる。
【符号の説明】
【0091】
10:携帯装置、110:制御部、120:記憶部、121:プログラム、123:演奏記録データ、125:発音制御データ、130:表示部、140:操作部、150:センサ部、170:スピーカ、180:通信部、190:インターフェース、80:電子楽器、810:演奏操作子、830:音源部、870:スピーカ、890:インターフェース、90:データ管理サーバ、910:制御部、920:記憶部、980:通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22