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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】管理装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 7/003 20210101AFI20250520BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20250520BHJP
   F24F 8/15 20210101ALI20250520BHJP
   F24F 7/007 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
F24F7/003
A61L9/014
F24F8/15
F24F7/007 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024004089
(22)【出願日】2024-01-15
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004303
【氏名又は名称】弁理士法人三協国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩山 遼太郎
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-257337(JP,A)
【文献】特開2008-302348(JP,A)
【文献】特開2006-265970(JP,A)
【文献】特開2003-278099(JP,A)
【文献】特開2000-185215(JP,A)
【文献】特開2006-78274(JP,A)
【文献】特開2004-347476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/00-7/10
F24F 8/00-8/99
A61L 9/014
B01D 53/30
E04B 1/62-1/99
G01N 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが居住する住宅の居室内に配置された化学物質吸着建材の表面上に取り付けられ、前記化学物質吸着建材の吸着性能を管理する管理装置であって、
前記化学物質吸着建材の表面の一部が露出する開口部が形成された中空の筐体と、
前記筐体に形成され、前記居室内の空気を前記筐体内に取り込む給気口と、
前記筐体に形成され、前記筐体内の空気を前記居室内に排出する排気口と、
前記給気口における空気中の化学物質濃度を検出する第1センサと、
前記排気口における空気中の化学物質濃度を検出する第2センサと、
前記第1センサの検出値と前記第2センサの検出値とに基づいて、前記化学物質吸着建材の吸着性能を算出する処理部と、
を備える、管理装置。
【請求項2】
前記筐体内の容積と前記開口部の面積との比率は、前記居室内の容積と前記化学物質吸着建材の面積との比率に等しく設定される、
請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
単位時間あたりの前記筐体内の空気の換気回数は、単位時間あたりの前記居室内の空気の換気回数に等しく設定される、
請求項1に記載の管理装置。
【請求項4】
前記筐体内において前記給気口から前記排気口へ向かう空気の流れを形成する送風ファンをさらに備え、
前記処理部は、前記送風ファンの送風量の制御によって、単位時間あたりの前記筐体内の空気の換気回数を設定する、請求項3に記載の管理装置。
【請求項5】
前記処理部は、
前記第1センサの検出値の変化に基づいて、窓開け換気による前記居室の換気開始及び換気終了を検出し、
前記居室の換気開始時点における前記第1センサの検出値と、窓開け換気の開始後の前記第1センサの検出値と、前記居室内の容積とに基づいて、単位時間あたりの前記居室内の空気の換気回数を算出する、
請求項3に記載の管理装置。
【請求項6】
前記処理部は、
前記第1センサの検出値と、前記第2センサの検出値と、単位時間あたりの前記筐体内の空気の換気量と、前記開口部の面積とに基づいて、前記化学物質吸着建材による化学物質の累積吸着量を算出し、
前記累積吸着量と、前記化学物質吸着建材による化学物質の最大吸着量とに基づいて、前記化学物質吸着建材の性能劣化度を算出する、
請求項1に記載の管理装置。
【請求項7】
前記化学物質吸着建材は、化学吸着によって前記化学物質を吸着し、
前記処理部は、前記性能劣化度に基づいて、前記化学物質吸着建材の寿命を予測する、
請求項6に記載の管理装置。
【請求項8】
前記化学物質吸着建材は、物理吸着によって前記化学物質を吸着し、
前記処理部は、前記性能劣化度に基づいて、前記居室の換気タイミングを予測する、
請求項6に記載の管理装置。
【請求項9】
前記化学物質吸着建材は、化学吸着及び物理吸着によって前記化学物質を吸着し、
前記処理部は、前記性能劣化度に基づいて、前記化学物質吸着建材の寿命及び前記居室の換気タイミングを予測する、
請求項6に記載の管理装置。
【請求項10】
前記処理部は、
前記第1センサの検出値の変化に基づいて、前記居室の換気開始を検出し、
前記居室の換気開始後における、前記第1センサの検出値と、前記第2センサの検出値と、単位時間あたりの前記筐体内の空気の換気量と、前記開口部の面積と、前記居室の換気開始からの経過時間とに基づいて、前記化学物質吸着建材からの化学物質の累積放散量を算出し、
前記累積吸着量と前記累積放散量とに基づいて、前記化学物質吸着建材による前記化学物質の化学吸着量及び物理吸着量を算出する、
請求項9に記載の管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質吸着建材の吸着性能を管理する管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シックハウス症候群の予防対策が講じられた住宅では、建築材料から放出されるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)等を吸着する性能を持つ化学物質吸着建材が、住宅の壁材等として使用されることが多い。化学物質吸着建材の吸着性能を評価するための試験としては、小形チャンバー法による低減性能試験法が知られている。
【0003】
なお、下記特許文献1には、工場からの排ガスを清浄化して外部に排出するためのVOC除去装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-302348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
小形チャンバー法による低減性能試験法は、新品状態の化学物質吸着建材を試験対象とするため、数年乃至数十年に亘る長期間の使用での吸着性能の劣化を評価することはできない。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みて成されたものであり、ユーザが居住する住宅の居室内に配置された化学物質吸着建材の吸着性能を長期間に亘って管理することが可能な管理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様に係る管理装置は、ユーザが居住する住宅の居室内に配置された化学物質吸着建材の表面上に取り付けられ、前記化学物質吸着建材の吸着性能を管理する管理装置であって、前記化学物質吸着建材の表面の一部が露出する開口部が形成された中空の筐体と、前記筐体に形成され、前記居室内の空気を前記筐体内に取り込む給気口と、前記筐体に形成され、前記筐体内の空気を前記居室内に排出する排気口と、前記給気口における空気中の化学物質濃度を検出する第1センサと、前記排気口における空気中の化学物質濃度を検出する第2センサと、前記第1センサの検出値と前記第2センサの検出値とに基づいて、前記化学物質吸着建材の吸着性能を算出する処理部とを備える。
【0008】
第1態様によれば、管理装置は、ユーザが居住する住宅の居室内に配置された化学物質吸着建材の表面上に取り付けられる。管理装置が備える処理部は、第1センサの検出値と第2センサの検出値とに基づいて、化学物質吸着建材の吸着性能を算出する。従って、居室内に配置された化学物質吸着建材の吸着性能を、管理装置によって長期間に亘って管理できる。
【0009】
本発明の第2態様に係る管理装置は、第1態様において、前記筐体内の容積と前記開口部の面積との比率は、前記居室内の容積と前記化学物質吸着建材の面積との比率に等しく設定される。
【0010】
第2態様によれば、筐体の開口部から露出する化学物質吸着建材による、筐体内の空気中の化学物質の除去効果を、居室内に配置された化学物質吸着建材による、居室内の空気中の化学物質の除去効果に等しく設定できる。その結果、居室内に配置された化学物質吸着建材の吸着性能を、管理装置によって高精度に管理できる。
【0011】
本発明の第3態様に係る管理装置は、第1又は第2態様において、単位時間あたりの前記筐体内の空気の換気回数は、単位時間あたりの前記居室内の空気の換気回数に等しく設定される。
【0012】
第3態様によれば、筐体内の空気の換気量を、居室内の空気の換気量に等しく設定できる。その結果、居室内に配置された化学物質吸着建材の吸着性能を、管理装置によって高精度に管理できる。
【0013】
本発明の第4態様に係る管理装置は、第3態様において、前記筐体内において前記給気口から前記排気口へ向かう空気の流れを形成する送風ファンをさらに備え、前記処理部は、前記送風ファンの送風量の制御によって、単位時間あたりの前記筐体内の空気の換気回数を設定する。
【0014】
第4態様によれば、単位時間あたりの筐体内の空気の換気回数を、送風ファンの送風量によって高精度に制御できる。
【0015】
本発明の第5態様に係る管理装置は、第3又は第4態様において、前記処理部は、前記第1センサの検出値の変化に基づいて、窓開け換気による前記居室の換気開始及び換気終了を検出し、前記居室の換気開始時点における前記第1センサの検出値と、窓開け換気の開始後の前記第1センサの検出値と、前記居室内の容積とに基づいて、単位時間あたりの前記居室内の空気の換気回数を算出する。
【0016】
第5態様によれば、単位時間あたりの居室内の空気の換気回数を簡易かつ高精度に算出できる。
【0017】
本発明の第6態様に係る管理装置は、第1~第5態様のいずれか一つにおいて、前記処理部は、前記第1センサの検出値と、前記第2センサの検出値と、単位時間あたりの前記筐体内の空気の換気量と、前記開口部の面積とに基づいて、前記化学物質吸着建材による化学物質の累積吸着量を算出し、前記累積吸着量と、前記化学物質吸着建材による化学物質の最大吸着量とに基づいて、前記化学物質吸着建材の性能劣化度を算出する。
【0018】
第6態様によれば、居室内に配置された化学物質吸着建材の性能劣化度を、累積吸着量及び最大吸着量に基づいて高精度に算出できる。
【0019】
本発明の第7態様に係る管理装置は、第6態様において、前記化学物質吸着建材は、化学吸着によって前記化学物質を吸着し、前記処理部は、前記性能劣化度に基づいて、前記化学物質吸着建材の寿命を予測する。
【0020】
第7態様によれば、居室内に配置された、化学吸着による化学物質吸着建材の寿命を、性能劣化度に基づいて高精度に予測できる。
【0021】
本発明の第8態様に係る管理装置は、第6態様において、前記化学物質吸着建材は、物理吸着によって前記化学物質を吸着し、前記処理部は、前記性能劣化度に基づいて、前記居室の換気タイミングを予測する。
【0022】
第8態様によれば、物理吸着による化学物質吸着建材が配置された居室の換気タイミングを、性能劣化度に基づいて高精度に予測できる。
【0023】
本発明の第9態様に係る管理装置は、第6態様において、前記化学物質吸着建材は、化学吸着及び物理吸着によって前記化学物質を吸着し、前記処理部は、前記性能劣化度に基づいて、前記化学物質吸着建材の寿命及び前記居室の換気タイミングを予測する。
【0024】
第9態様によれば、居室内に配置された化学物質吸着建材の寿命を性能劣化度に基づいて高精度に予測できるとともに、居室の換気タイミングを性能劣化度に基づいて高精度に予測できる。
【0025】
本発明の第10態様に係る管理装置は、第9態様において、前記処理部は、前記第1センサの検出値の変化に基づいて、前記居室の換気開始を検出し、前記居室の換気開始後における、前記第1センサの検出値と、前記第2センサの検出値と、単位時間あたりの前記筐体内の空気の換気量と、前記開口部の面積と、前記居室の換気開始からの経過時間とに基づいて、前記化学物質吸着建材からの化学物質の累積放散量を算出し、前記累積吸着量と前記累積放散量とに基づいて、前記化学物質吸着建材による前記化学物質の化学吸着量及び物理吸着量を算出する。
【0026】
第10態様によれば、化学物質吸着建材による化学物質の化学吸着量及び物理吸着量を、累積吸着量及び累積放散量に基づいて高精度に算出できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ユーザが居住する住宅の居室内に配置された化学物質吸着建材の吸着性能を長期間に亘って管理できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ユーザが居住する住宅の居室1を模式的に示す図である。
図2】管理装置の構造を模式的に示す図である。
図3】管理装置の構造を模式的に示す図である。
図4】管理装置の構造を模式的に示す図である。
図5】管理装置の構造を模式的に示す図である。
図6】管理装置の構造を模式的に示す図である。
図7】管理装置の構造を模式的に示す図である。
図8】管理装置の機能構成を簡略化して示す図である。
図9】初期設定において処理部が実行する処理を示すフローチャートである。
図10】設定情報の一例を簡略化して示す図である。
図11】窓開け換気時における送風ファン26の送風量の設定に関して、処理部が実行する処理を示すフローチャートである。
図12】化学吸着の性能を有する化学物質吸着建材を対象とする吸着性能の管理に関して、処理部が実行する処理を示すフローチャートである。
図13】物理吸着の性能を有する化学物質吸着建材を対象とする吸着性能の管理に関して、処理部が実行する処理の第1の例を示すフローチャートである。
図14】窓開け換気の換気タイミングの予測例を示す図である。
図15】物理吸着の性能を有する化学物質吸着建材を対象とする吸着性能の管理に関して、処理部が実行する処理の第2の例を示すフローチャートである。
図16】窓開け換気の換気タイミングの予測例を示す図である。
図17】化学物質吸着建材に関する化学吸着量及び物理吸着量の算出例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一又は相応する要素を示すものとする。
【0030】
図1は、ユーザが居住する住宅の居室1を模式的に示す図である。住宅にはシックハウス症候群の予防対策が講じられており、居室1内の一つの壁には、建築材料から放出されるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)等を吸着する性能を持つ化学物質吸着建材2が、壁材等として使用されている。化学物質吸着建材2は、化学吸着によってVOCを吸着するものであっても良いし、物理吸着によってVOCを吸着するものであっても良いし、化学吸着及び物理吸着の双方によってVOCを吸着するものであっても良い。化学物質吸着建材2の表面上には、化学物質吸着建材2の吸着性能を管理する管理装置10が取り付けられている。居室1は、窓3を有する。ユーザが窓3を開けることによって、居室1内の空気の窓開け換気を行うことができる。
【0031】
図2~7は、管理装置10の構造を模式的に示す図である。各図の方向は、図中のXYZ直交座標系によって示される。管理装置10は、化学物質吸着建材2の表面の一部が露出する開口部23が形成された中空の筐体21を備える。
【0032】
図2には、-Z方向に眺めた正面構造が示される。筐体21の正面には、タッチパネル機能を有する表示部22が配置されている。表示部22は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等を用いて構成される。なお、タッチパネル機能を有する表示部22に代えて、ユーザが所持するスマートフォン等との通信機能を管理装置10に実装することにより、ユーザのスマートフォン等の表示画面を管理装置10の表示部22として代用しても良い。筐体21の内部には、コントローラ20が配置される。コントローラ20は、マイクロコントローラ等を用いて構成される。
【0033】
図3の(A)には、+Z方向に眺めた背面構造が示され、図3の(B)には、-Z方向に眺めた背面構造が示される。筐体21の背面には、化学物質吸着建材2の表面の一部が露出する開口部23が形成されている。サイズが異なる複数の枠状カバーを用意し、いずれかの枠状カバーを開口部23に取り付けることによって、開口部23の面積を任意に設定できる。あるいは、粘着テープによって開口部23の一部を塞ぐことによって、開口部23の面積を任意に設定できる。筐体21内の容積と開口部23の面積との比率は、居室1内の容積と化学物質吸着建材2の面積との比率に等しく設定される。
【0034】
図4には、-Y方向に眺めた上面構造が示される。筐体21の上面には、居室1内の空気を筐体21内に取り込むための、複数のスリットを有する給気口24が形成されている。
【0035】
図5には、+Y方向に眺めた底面構造が示される。筐体21の底面には、筐体21内の空気を居室1内に排出するための、複数のスリットを有する排気口25が形成されている。
【0036】
図6には、+X方向に眺めた側面構造が示され、図7には、+X方向に眺めた内部構造が示される。筐体21内には、給気口24付近における空気中のVOC濃度を検出する第1センサ27と、排気口25付近における空気中のVOC濃度を検出する第2センサ28とが配置されている。第1センサ27の検出値及び第2センサ28の検出値は、コントローラ20に入力される。また、筐体21内には、筐体21内において給気口24から排気口25へ向かう空気の流れを形成する送風ファン26が配置されている。
【0037】
送風ファン26の回転速度に応じた送風量は、コントローラ20によって制御される。コントローラ20は、単位時間あたりの筐体21内の空気の換気回数を、単位時間あたりの居室1内の空気の換気回数に等しく設定する。住宅には、住宅内の空気を一定の換気量で常時換気する24時間換気システムが導入されている。
【0038】
ユーザによって窓開け換気が行われていない通常時には、コントローラ20は、単位時間あたりの筐体21内の空気の換気回数を、24時間換気の換気量に相当する換気回数に等しく設定する。
【0039】
ユーザによって窓開け換気が行われている窓開け換気時には、コントローラ20は、単位時間あたりの筐体21内の空気の換気回数を、窓開け換気の換気量に相当する換気回数に等しく設定する。
【0040】
図8は、管理装置10の機能構成を簡略化して示す図である。管理装置10は、コントローラ20、入力部29、表示部22、第1センサ27、第2センサ28、及び送風ファン26を備える。入力部29は、表示部22が有するタッチパネル機能として構成される。
【0041】
コントローラ20は、処理部31、記憶部32、及び通信部33を有する。処理部31は、CPU等のプロセッサを用いて構成される。記憶部32は、HDD、SSD、又は半導体メモリ等を用いて構成される。通信部33は、第1センサ27、第2センサ28、及び送風ファン26との通信規格に対応した通信モジュールを用いて構成される。
【0042】
記憶部32は、設定情報41及び測定情報42を記憶する。設定情報41及び測定情報42は、複数のレコードを含むデータベースであっても良い。
【0043】
図9は、初期設定において処理部31が実行する処理を示すフローチャートである。初期設定は、システムの初回起動時又は化学物質吸着建材2の交換時に実行される。
【0044】
まずステップSP11において処理部31は、オペレータによって入力部29から入力された入力情報を取得する。入力情報は、化学吸着及び物理吸着の性能の有無を示す化学物質吸着建材2の種別の情報を含む。また、入力情報は、化学物質吸着建材2の面積及び化学吸着材の含有成分量等に応じた最大吸着量を示す情報を含む。化学物質吸着建材2が化学吸着及び物理吸着の双方の性能を有している場合は、入力情報は、化学吸着及び物理吸着の個々の最大吸着量を示す情報を含む。また、入力情報は、化学物質吸着建材2の使用開始年月日を示す情報を含む。使用開始年月日は、化学物質吸着建材2の施工完了年月日であっても良い。また、入力情報は、居室1の容積を示す情報を含む。また、入力情報は、住宅の24時間換気システムの常時換気量を示す情報を含む。
【0045】
次にステップSP12において処理部31は、ステップSP11で取得した入力情報に基づいて、設定情報41を作成する。
【0046】
図10は、設定情報41の一例を簡略化して示す図である。化学物質吸着建材2が化学吸着の性能を有している場合は、設定情報41は、化学吸着の最大吸着量を示す情報と、化学物質吸着建材2の使用開始年月日を示す情報とを含む。化学物質吸着建材2が物理吸着の性能を有している場合は、設定情報41は、物理吸着の最大吸着量を示す情報を含む。また、設定情報41は、居室1の容積を示す情報を含む。また、設定情報41は、住宅の24時間換気システムの常時換気量に対応する、送風ファン26の送風量を示す情報を含む。
【0047】
図11は、窓開け換気時における送風ファン26の送風量の設定に関して、処理部31が実行する処理を示すフローチャートである。
【0048】
まずステップSP21において処理部31は、第1センサ27の検出値を定期的に取得し、第1センサ27の検出値の変化に基づいて、居室1の窓開け換気が開始されたか否かを判定する。処理部31は、第1センサ27の検出値が所定時間内に所定値以上低下した場合に、窓開け換気が開始されたことを検出する。
【0049】
窓開け換気の開始を検出しない場合(ステップSP21:NO)は、処理部31は、ステップSP21の処理を繰り返し実行する。
【0050】
窓開け換気の開始を検出した場合(ステップSP21:YES)は、次にステップSP22において処理部31は、窓開け換気の開始時点における第1センサ27の検出値を取得する。窓開け換気の開始時点は、第1センサ27の検出値が上記所定値以上低下する直前の時点であっても良い。処理部31は、窓開け換気の開始時点において居室1内に発生しているVOCの発生量を、下記式(1)により算出する。
【0051】
VOC発生量[μg/h]=窓開け換気の開始時点における第1センサ27の検出値[μg/m]×居室1の24時間換気システムによる換気量[m/h]・・・(1)
【0052】
次にステップSP23において処理部31は、窓開け換気による居室1の換気量を、下記式(2)により算出する。
【0053】
換気量[m/h]=VOC発生量[μg/h]÷窓開け換気の開始後の所定値以上低下した第1センサ27の検出値[μg/m]・・・(2)
【0054】
次にステップSP24において処理部31は、窓開け換気による居室1の換気回数を、下記式(3)により算出する。
【0055】
居室1の換気回数[回/h]=換気量[m/h]÷居室1の容積[m]・・・(3)
【0056】
なお、窓開け換気の最中において、第1センサ27の検出値がゼロ又は非常に小さい場合には、処理部31は、任意の最大値(例えば5回/h)を居室1の換気回数として設定しても良い。
【0057】
次にステップSP25において処理部31は、筐体21内の空気の換気回数が居室1の換気回数に等しくなるように、送風ファン26の送風量を設定する。処理部31は、設定した送風ファン26の送風量を示す情報を記憶部32に記憶する。
【0058】
次にステップSP26において処理部31は、第1センサ27の検出値を定期的に取得し、第1センサ27の検出値の変化に基づいて、窓開け換気の状態に変化があるか否かを判定する。窓開け換気の状態は、開けられる窓の数の変化、又は、外部風速の変化等に基づいて変化する。処理部31は、一定時間内における第1センサ27の検出値が所定値以上変化した場合、窓開け換気の状態に変化があったことを検出し、ステップSP23以降の処理を実行する。
【0059】
窓開け換気の状態に変化がない場合(ステップSP26:NO)、次にステップSP27において処理部31は、第1センサ27の検出値を定期的に取得し、第1センサ27の検出値の変化に基づいて、居室1の窓開け換気が終了されたか否かを判定する。処理部31は、一定時間内における第1センサ27の検出値が所定値以上上昇した場合に、窓開け換気が終了されたことを検出する。
【0060】
窓開け換気の終了を検出しない場合(ステップSP27:NO)は、処理部31は、ステップSP26以降の処理を実行する。
【0061】
窓開け換気の終了を検出した場合(ステップSP27:YES)、次にステップSP28において処理部31は、送風ファン26の送風量の設定を24時間換気時の送風量に戻す。
【0062】
図12は、化学吸着の性能を有する化学物質吸着建材2を対象とする吸着性能の管理に関して、処理部31が実行する処理を示すフローチャートである。以下の説明では、管理装置10は化学物質吸着建材2の吸着性能を単位時間かつ単位面積あたりの換気量換算値[m/(h・m)]を用いて管理するが、この例に限られない。
【0063】
まずステップSP31において処理部31は、記憶部32から設定情報41を読み出すことによって取得する。
【0064】
次にステップSP32において処理部31は、前回の測定時からの化学物質吸着建材2の累積使用時間を算出する。
【0065】
次にステップSP33において処理部31は、第1センサ27の検出値を取得する。
【0066】
次にステップSP34において処理部31は、第2センサ28の検出値を取得する。
【0067】
次にステップSP35において処理部31は、前回の測定時からの累積吸着量を、下記式(4)により算出する。
【0068】
累積吸着量[μg/m]=(第1センサ27の検出値[μg/m]-第2センサ28の検出値[μg/m])×筐体21の換気量[m/h]×経過時間[h]÷開口部23の面積[m]・・・(4)
【0069】
式(4)における換気量は、24時間換気の換気量又は窓開け換気の換気量である。
【0070】
処理部31は、今回の測定に関して算出した前回の測定時からの累積吸着量を、測定情報42のデータベースに追加する。また、処理部31は、測定情報42のデータベースに含まれる全ての累積吸着量を合計することによって、化学物質吸着建材2の使用開始時からの累積吸着量を算出する。
【0071】
次にステップSP36において処理部31は、化学物質吸着建材2の最大吸着量に対する使用開始時からの累積吸着量の比率を、化学物質吸着建材2の性能劣化度として算出する。
【0072】
次にステップSP37において処理部31は、化学物質吸着建材2の性能劣化度の時系列変化に基づいて、上記比率が「1」となる化学物質吸着建材2の寿命を予測する。
【0073】
図13は、物理吸着の性能を有する化学物質吸着建材2を対象とする吸着性能の管理に関して、処理部31が実行する処理の第1の例を示すフローチャートである。
【0074】
物理吸着の性能を有する化学物質吸着建材2においては、物理吸着されたVOCを窓開け換気によって放散することにより、化学物質吸着建材2の吸着性能を回復させることができる。物理吸着されたVOCが完全に放散されると、化学物質吸着建材2の吸着性能は新品状態にリセットされる。
【0075】
処理部31は、窓開け換気開始時からの累積放散量を、下記式(5)により算出する。
【0076】
累積放散量[μg/m]=(第2センサ28の検出値[μg/m]-第1センサ27の検出値[μg/m])×筐体21の換気量[m/h]×窓開け換気開始時からの経過時間[h]÷開口部23の面積[m]・・・(5)
【0077】
式(5)における換気量は、窓開け換気の換気量である。
【0078】
まずステップSP31において処理部31は、記憶部32から設定情報41を読み出すことによって取得する。
【0079】
次にステップSP32において処理部31は、前回の測定時からの化学物質吸着建材2の累積使用時間を算出する。
【0080】
次にステップSP33において処理部31は、第1センサ27の検出値を取得する。
【0081】
次にステップSP34において処理部31は、第2センサ28の検出値を取得する。
【0082】
次にステップSP35において処理部31は、前回の測定時からの累積吸着量を、上記式(4)により算出する。なお、処理部31は、前回の測定時から今回の測定時までの間の累積放散量の換気量換算値を、上記式(4)により算出した前回の測定時からの累積吸着量から減算する。
【0083】
処理部31は、今回の測定に関して算出した前回の測定時からの累積吸着量を、測定情報42のデータベースに追加する。また、処理部31は、測定情報42のデータベースに含まれる前回のリセット時からの累積吸着量を合計することによって、化学物質吸着建材2の前回のリセット時からの累積吸着量を算出する。
【0084】
次にステップSP36において処理部31は、化学物質吸着建材2の最大吸着量に対する前回のリセット時からの累積吸着量の比率を、化学物質吸着建材2の性能劣化度として算出する。
【0085】
次にステップSP41において処理部31は、化学物質吸着建材2の性能劣化度の時系列変化に基づいて、性能劣化度がしきい値Th1以上となる年月日として、居室1の窓開け換気を行うべき換気タイミングを予測する。
【0086】
図14は、窓開け換気の換気タイミングの予測例を示す図である。図14に示した例では、前回のリセット時から一度も窓開け換気が行われておらず、経過時間に比例して化学物質吸着建材2の性能劣化度は上昇している。処理部31は、性能劣化度がしきい値Th1以上となる年月日を特定することによって、居室1の窓開け換気を行うべき換気タイミングを予測する。
【0087】
図15は、物理吸着の性能を有する化学物質吸着建材2を対象とする吸着性能の管理に関して、処理部31が実行する処理の第2の例を示すフローチャートである。
【0088】
ステップSP31~SP35の処理は、図13に示した第1の例と同様である。
【0089】
次にステップSP51において処理部31は、化学物質吸着建材2の吸着性能値の換気量換算値を、下記式(6)により算出する。
【0090】
換気量換算値[m/(h・m)]={(第1センサ27の検出値[μg/m]÷第2センサ28の検出値[μg/m])-1}×筐体21の換気量[m/h]÷開口部23の面積[m]・・・(6)
【0091】
式(6)における換気量は、24時間換気の換気量又は窓開け換気の換気量である。
【0092】
次にステップSP42において処理部31は、化学物質吸着建材2の吸着性能値の時系列変化に基づいて、吸着性能値がしきい値Th2以下となる年月日として、居室1の窓開け換気を行うべき換気タイミングを予測する。
【0093】
図16は、窓開け換気の換気タイミングの予測例を示す図である。図16に示した例では、前回のリセット時から一度も窓開け換気が行われておらず、経過時間に比例して化学物質吸着建材2の吸着性能値は低下している。処理部31は、吸着性能値がしきい値Th2以下となる年月日を特定することによって、居室1の窓開け換気を行うべき換気タイミングを予測する。
【0094】
なお、化学物質吸着建材2が化学吸着及び物理吸着の双方の性能を有している場合は、処理部31は、化学物質吸着建材2の性能劣化度(又は吸着性能値)に基づいて、化学物質吸着建材2の寿命及び居室1の換気タイミングの双方を予測しても良い。
【0095】
図17は、化学物質吸着建材2に関する化学吸着量及び物理吸着量の算出例を示す図である。時刻T0は前回のリセットタイミングを示し、時刻T1は今回の窓開け換気の開始タイミングを示し、時刻T2は今回の窓開け換気による今回のリセットタイミングを示す。
【0096】
処理部31は、時刻T2における累積吸着量Q2から時刻T0における累積吸着量Q0を減算することによって得られる累積吸着量(Q2-Q1)として、時刻T0~T2間に蓄積された化学吸着量を算出する。累積吸着量Q2と累積吸着量Q1との差は、累積放散量に相当する。
【0097】
また、処理部31は、時刻T1における累積吸着量Q1から時刻T2における累積吸着量Q2を減算することによって得られる累積吸着量(Q1-Q2)として、時刻T0~T1間に蓄積された物理吸着量を算出する。
【0098】
本実施形態によれば、管理装置10は、ユーザが居住する住宅の居室1内に配置された化学物質吸着建材2の表面上に取り付けられる。管理装置10が備える処理部31は、第1センサ27の検出値と第2センサ28の検出値とに基づいて、化学物質吸着建材2の吸着性能を算出する。従って、居室1内に配置された化学物質吸着建材2の吸着性能を、管理装置10によって長期間に亘って管理できる。
【0099】
また、本実施形態によれば、筐体21の開口部23から露出する化学物質吸着建材2による、筐体21内の空気中の化学物質の除去効果を、居室1内に配置された化学物質吸着建材2による、居室1内の空気中の化学物質の除去効果に等しく設定できる。その結果、居室1内に配置された化学物質吸着建材2の吸着性能を、管理装置10によって高精度に管理できる。
【0100】
また、本実施形態によれば、筐体21内の空気の換気量を、居室1内の空気の換気量に等しく設定できる。その結果、居室1内に配置された化学物質吸着建材2の吸着性能を、管理装置10によって高精度に管理できる。
【0101】
また、本実施形態によれば、単位時間あたりの筐体21内の空気の換気回数を、送風ファン26の送風量によって高精度に制御できる。
【0102】
また、本実施形態によれば、単位時間あたりの居室1内の空気の換気回数を簡易かつ高精度に算出できる。
【0103】
また、本実施形態によれば、居室1内に配置された化学物質吸着建材2の性能劣化度を、累積吸着量及び最大吸着量に基づいて高精度に算出できる。
【0104】
また、本実施形態によれば、居室1内に配置された、化学吸着による化学物質吸着建材2の寿命を、性能劣化度に基づいて高精度に予測できる。
【0105】
また、本実施形態によれば、物理吸着による化学物質吸着建材2が配置された居室1の換気タイミングを、性能劣化度に基づいて高精度に予測できる。
【0106】
また、本実施形態によれば、居室1内に配置された化学物質吸着建材2の寿命を性能劣化度に基づいて高精度に予測できるとともに、居室1の換気タイミングを性能劣化度に基づいて高精度に予測できる。
【0107】
また、本実施形態によれば、化学物質吸着建材2による化学物質の化学吸着量及び物理吸着量を、累積吸着量及び累積放散量に基づいて高精度に算出できる。
【符号の説明】
【0108】
1 居室
2 化学物質吸着建材
3 窓
10 管理装置
21 筐体
23 開口部
24 給気口
25 排気口
26 送風ファン
27 第1センサ
28 第2センサ
31 処理部
41 設定情報
【要約】
【課題】ユーザが居住する住宅の居室内に配置された化学物質吸着建材の吸着性能を長期間に亘って管理することが可能な管理装置を得る。
【解決手段】ユーザが居住する住宅の居室内に配置された化学物質吸着建材の表面上に取り付けられ、前記化学物質吸着建材の吸着性能を管理する管理装置であって、当該管理装置は、前記化学物質吸着建材の表面の一部が露出する開口部が形成された中空の筐体と、前記筐体に形成され、前記居室内の空気を前記筐体内に取り込む給気口と、前記筐体に形成され、前記筐体内の空気を前記居室内に排出する排気口と、前記給気口における空気中の化学物質濃度を検出する第1センサと、前記排気口における空気中の化学物質濃度を検出する第2センサと、前記第1センサの検出値と前記第2センサの検出値とに基づいて、前記化学物質吸着建材の吸着性能を算出する処理部と、を備える。
【選択図】図8
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17