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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】アントラキノン誘導体
(51)【国際特許分類】
   C09B 1/58 20060101AFI20250520BHJP
   C07C 323/38 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
C09B1/58 CSP
C07C323/38
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024129820
(22)【出願日】2024-08-06
【審査請求日】2024-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2024004140
(32)【優先日】2024-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】古川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】森永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】田上 英恵
(72)【発明者】
【氏名】島田 恵里香
(72)【発明者】
【氏名】岩城 健太郎
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-109559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアントラキノン誘導体。
【化1】
式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基であり、Y、Y、および、Zは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1から10のハロゲン化アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピペリジル基、アリール基、または、シクロヘキシル基であり、アリール基およびシクロヘキシル基は置換基を有していてもよい。
【請求項2】
下記式(2)で表される請求項1に記載のアントラキノン誘導体。
【化2】
式(2)において、Y、Y、および、Zは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1から10のハロゲン化アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピペリジル基、アリール基、または、シクロヘキシル基であり、アリール基およびシクロヘキシル基は置換基を有していてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アントラキノン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機色素は、各種の印刷用インクや光学フィルターに広く用いられている。また、液晶素子や偏光フィルムに用いる二色性色素として利用可能な有機色素の開発も進んでいる。
有機色素のなかでも、アントラキノン骨格を有する化合物であるアントラキノン誘導体には、光、熱、温度等に対して安定性が高く堅牢性に優れた化合物が多い。それゆえ、アントラキノン誘導体のうち、色の三原色に対応する色素として利用可能な化合物について、吸収波長や着色力の制御、溶媒や樹脂に対する溶解性、二色性の向上といった観点から多くの研究が為されている。例えば、特許文献1,2には、シアン系色素として利用可能な、580nm以上の波長域に吸収極大波長を有するアントラキノン誘導体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-90568号公報
【文献】特開昭63-278994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
色素には、耐光性が良好であること、すなわち、光による退色が小さいことが望まれる。上述のようにアントラキノン誘導体には高い堅牢性を有する化合物が多いものの、シアン系色素として用いられるアントラキノン誘導体においては、耐光性が得られ難い傾向がある。また、シアン系色素のなかでも、吸収極大波長が700nmに近い化合物の色は、緑色成分の増加により青緑色となる。これに対し、色の三原色に対応する色素として用いるシアン系色素には、強い青みが望まれる。それゆえ、良好な耐光性を有し、かつ、優れた青みを示すアントラキノン誘導体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのアントラキノン誘導体の各態様を記載する。
[態様1]下記式(1)で表されるアントラキノン誘導体。
【0006】
【化1】
【0007】
式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基であり、Y、Y、および、Zは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1から10のハロゲン化アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピペリジル基、アリール基、または、シクロヘキシル基であり、アリール基およびシクロヘキシル基は置換基を有していてもよい。
【0008】
上記化合物によれば、アントラキノン骨格のβ位に置換または無置換のフェニル基が直接結合していることにより、耐光性が高められる。そして、こうした構造においてα位にフェニルチオ基が存在することで、吸収極大波長の長波長シフトが抑えられ、優れた青みが得られる。
【0009】
[態様2]下記式(2)で表される[態様1]に記載のアントラキノン誘導体。
【0010】
【化2】
【0011】
式(2)において、Y、Y、および、Zは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1から10のハロゲン化アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピペリジル基、アリール基、または、シクロヘキシル基であり、アリール基およびシクロヘキシル基は置換基を有していてもよい。
【0012】
[態様3][態様1]または[態様2]に記載のアントラキノン誘導体であって、下記反応式(3)において左辺の化合物は前記アントラキノン誘導体を表し、密度汎関数法によって求めた、下記反応式(3)で示される反応後と反応前との分子の全エネルギーの差が、-16kcal/mol以上である、アントラキノン誘導体。
【0013】
【化3】
【0014】
[態様4]10%重量減少温度が350℃以上である、[態様1]~[態様3]のいずれか1つに記載のアントラキノン誘導体。
【0015】
[態様5]時間依存密度汎関数法によって求めた遷移双極子モーメントの大きさが、3.30D以上5.00D以下である、[態様1]~[態様4]のいずれか1つに記載のアントラキノン誘導体。
【0016】
[態様6][態様1]~[態様5]のいずれか1つに記載のアントラキノン誘導体であって、下記式(4)は前記アントラキノン誘導体を表し、密度汎関数法によって求めた前記アントラキノン誘導体の最高被占分子軌道の分子軌道係数について、C11、C12、C21、C22の各炭素原子上の軌道に対応する係数の二乗和平方根を前記炭素原子ごとに求め、前記各炭素原子についての前記二乗和平方根を平均した値が、0.03以上0.2以下である、アントラキノン誘導体。
【0017】
【化4】
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、アントラキノン誘導体において、良好な耐光性および優れた青みを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一実施形態のアントラキノン誘導体を説明する。なお、本実施形態において、アントラキノン誘導体とは、9,10-アントラキノンの骨格を有する化合物である。また、当該アントラキノン骨格の置換位置においては、1,4,5,8位がα位であり、2,3,6,7位がβ位である。
【0020】
本実施形態のアントラキノン誘導体は、色素として用いられる。色素としての用途は特に限定されない。例えば、アントラキノン誘導体は、昇華転写印刷やインクジェット印刷用のインク、レーザープリンタや複写機用のトナー、液晶表示装置用カラーフィルターや撮像管に用いる色分解フィルター等の光学フィルター、改ざん偽造防止印刷用のインクに用いられる色素として利用可能である。また、アントラキノン誘導体は、ゲスト・ホスト型の液晶素子や偏光フィルムに用いられる二色性色素としても利用可能である。
【0021】
本実施形態のアントラキノン誘導体は、下記式(1)で表される化合物である。
【0022】
【化5】
【0023】
式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基である。Y、Y、および、Zは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1から10のハロゲン化アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピペリジル基、アリール基、または、シクロヘキシル基であり、アリール基およびシクロヘキシル基は置換基を有していてもよい。当該置換基は、炭素数1から10のアルキル基、または、環式炭化水素基であることが好ましい。環式炭化水素基は、シクロヘキシル基、または、フェニル基であることが好ましい。
【0024】
上記ハロゲン原子、および、上記ハロゲン化アルキル基が含むハロゲン原子は、F、Cl、または、Brであることが好ましい。上記アルキルアミノ基が有するアルキル基は1つであってもよいし2つであってもよい。上記アルキルアミノ基が有するアルキル基の炭素数は1から10であることが好ましい。
【0025】
本実施形態のアントラキノン誘導体の作用を説明する。アントラキノン誘導体における光劣化の一因は、アントラキノン誘導体の周囲に存在する樹脂等を水素源として、アントラキノン骨格にて光還元が生じることであると考えられている。そして、従来のアントラキノン誘導体としては、β位にエーテル結合によってフェニル基等の官能基が結合した構造が知られている。これに対し、本実施形態のアントラキノン誘導体では、β位にて置換または無置換のフェニル基がアントラキノン骨格の炭素に直接結合している。こうした構造により、光還元反応の進行が抑えられるため、高い耐光性が得られる。
【0026】
詳細には、β位にフェニル基が直接結合していると、β位にエーテル結合が存在する場合と比較して、β位の結合部分で分子構造が回転し難いことから、アントラキノン骨格の光還元後の構造が安定した構造になり難く、そのために、光還元反応の進行が抑えられると考えられる。
【0027】
また、アントラキノン骨格における置換基の種類は、アントラキノン誘導体の吸収波長に作用する。α位の置換基について、アミノ基、水酸基、アニリノ基といった電子供与性の大きい置換基は、吸収極大波長が長波長側にシフトするように作用する。また、β位に置換または無置換のフェニル基が直接結合している構造も、吸収極大波長が長波長側にシフトするように作用する。
【0028】
従来のシアン系色素であるアントラキノン誘導体としては、α位の置換基のうち1つがアニリノ基、他の3つがアミノ基または水酸基である構造が知られている。こうした化合物において、耐光性向上のためにβ位にフェニル基が直接結合している構造を採用すれば、吸収極大波長がより長波長側にシフトして、化合物が示す色における緑色成分の増加が避け難い。
【0029】
これに対し、本実施形態のアントラキノン誘導体は、α位に置換または無置換のフェニルチオ基を有している。フェニルチオ基は、アミノ基、水酸基、アニリノ基よりも電子供与性が小さいため、α位にフェニルチオ基が導入されていることにより、従来の構造と比較して、β位にフェニル基が直接結合していても、吸収極大波長の長波長側へのシフトが抑えられる。
【0030】
このように、本実施形態のアントラキノン誘導体は、α位のアミノ基または水酸基およびβ位に直接結合したフェニル基という、吸収極大波長の長波長シフトに対する寄与が大きい構造と、α位のフェニルチオ基という、吸収極大波長の長波長シフトに対する寄与が小さい構造とを併せ持っている。それゆえ、シアン系色素として利用可能な580nm以上の吸収極大波長を実現しつつも、吸収極大波長が大きくなりすぎることが抑えられる。具体的には、吸収極大波長を580nm以上670nm以下の範囲とすることが可能であり、これにより、優れた青みが得られる。そして、β位にフェニル基が直接結合した構造を有しつつ、優れた青みが得られることから、耐光性と青みとの両立が可能である。
【0031】
本実施形態のアントラキノン誘導体において、上記RおよびRは水酸基であることが好ましい。こうした化合物は、下記式(2)で表される。
【0032】
【化6】
【0033】
式(2)において、Y、Y、および、Zは、式(1)と同様に定義される。式(2)で表されるアントラキノン誘導体であれば、合成が容易である。また、α位に水酸基が存在すると上述の光還元が生じやすいが、本実施形態のアントラキノン誘導体によれば、上述のようにβ位にフェニル基が直接結合している構造に起因して、光還元反応が抑えられる。それゆえ、α位に水酸基を有する構造の欠点を解消しつつ、当該構造による利点を享受することができる。
【0034】
本実施形態のアントラキノン誘導体は、例えば、1,5-ジヒドロキシ-4,8-ジニトロアントラキノンや1,5-ジアミノ-4,8-ジニトロアントラキノンを出発物質として、アントラキノン骨格に各置換基を導入することによって製造可能である。置換基の導入には、公知の方法が用いられればよい。例えば、ニトロ基の還元や置換基変換、β位に対するブロモ化およびブロモ基の変換を利用して、所望の置換基が導入される。
【0035】
[全エネルギー差ΔE]
本実施形態のアントラキノン誘導体において、下記反応式(3)で示される反応前後の全エネルギー差ΔEは、-16kcal/mol以上であってよい。
【0036】
【化7】
【0037】
上記反応式(3)において、左辺の化合物が本実施形態のアントラキノン誘導体であるとき、Xは硫黄原子であり、Rはアミノ基であり、RおよびRは、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基であり、AおよびAは直接結合であり、Y、Y、および、Zは、上記式(1)と同様に定義される。
【0038】
上記反応式(3)は、アントラキノン誘導体の光還元反応を示す。この反応では、アントラキノン誘導体P1の周囲に存在する樹脂等を水素源として、アントラキノン誘導体P1の光還元が起こり、アントラキノン骨格に水素が付加された化合物である水素付加体K1が生成される。
【0039】
全エネルギー差ΔEは、水素付加体K1の全エネルギーEkからアントラキノン誘導体P1の全エネルギーEpを引いた値(ΔE=Ek-Ep)である。
アントラキノン誘導体P1および水素付加体K1の各々のエネルギーEp,Ekは、密度汎関数法(DFT:Density Functional Theory)を用いた量子化学計算により求められる。汎関数にはB3LYPを用い、基底関数には6-31G(d)を用いる。こうした量子化学計算は、GaussianやGAMESS等の汎用的な量子化学計算プログラムを用いて実行することができる。各エネルギーEp,Ekは、上記量子化学計算により求められる最適化された構造での分子の全エネルギーである。
【0040】
アントラキノン誘導体の光による劣化の一因は、上記反応式(3)で示す反応が起こることである。全エネルギー差ΔEが大きいほど、上記反応が起こりにくい。全エネルギー差ΔEが、-16kcal/mol以上であれば、良好な耐光性が得られる。また、より高い耐光性を得るためには、全エネルギー差ΔEは、-14kcal/mol以上であることが好ましい。
【0041】
[10%重量減少温度]
本実施形態のアントラキノン誘導体において、熱重量測定での10%重量減少温度は、350℃以上であってよい。熱重量測定は、気体流量:200mL/分、昇温温度:10℃/分の条件で実施される。気体には空気を用いる。
【0042】
アントラキノン誘導体に高熱が加えられると、アントラキノン誘導体が分解してラジカルが生じ、このラジカルの作用によりさらに分解等の反応が進む。アントラキノン誘導体の光劣化の一因も、周囲あるいは自身から生じたラジカルであることから、熱分解が生じ難いアントラキノン誘導体、すなわち10%重量減少温度が高いアントラキノン誘導体は、耐光性も高い傾向がある。10%重量減少温度が350℃以上であれば、良好な耐光性が得られる。また、より高い耐光性を得るためには、10%重量減少温度が365℃以上であることが好ましい。
【0043】
[遷移双極子モーメント]
色素には、着色力が高いこと、すなわち吸光度が高いことが望まれる。アントラキノン誘導体の着色力は、アントラキノン誘導体が有する置換基の種類や位置によって変わる。アントラキノン誘導体に導入可能な置換基の選択肢が多いことから、アントラキノン誘導体における着色力の高低差は大きく、従来のアントラキノン誘導体には、着色力が低い化合物も多い。
【0044】
着色力が高いほど、色素の配合量の削減が可能であるため、コストの観点から有益である。さらに、アントラキノン誘導体においては、分子の平面性が高く溶解性を高めにくいことから、配合量を増やして色を強めることにも限界がある。したがって、着色力の向上は重要な課題である。
【0045】
着色力の向上のためには、アントラキノン誘導体において、時間依存密度汎関数法(TDDFT:Time Dependent Density Functional Theory)によって算出された遷移双極子モーメントの大きさが、3.30D以上5.00D以下であることが好ましい。
【0046】
アントラキノン誘導体の遷移双極子モーメントは、吸光に係る真空中での電子遷移に際して生じる電気双極子モーメントである。遷移双極子モーメントの算出に際して、汎関数にはB3LYPを用い、基底関数には6-31G(d)を用いる。こうした量子化学計算は、GaussianやGAMESS等の汎用的な量子化学計算プログラムを用いて実行することができる。
【0047】
モル吸光係数は遷移双極子モーメントの二乗に比例するため、遷移双極子モーメントが大きいほど、高い吸光度が得られる傾向がある。遷移双極子モーメントの大きさが3.30D以上であれば、十分な吸光度が得られることから、良好な着色力が得られる。
【0048】
また、アントラキノン誘導体が有する置換基の種類や位置は、遷移双極子モーメントの大きさに関わることに加え、吸収極大波長の大きさにも関わる。遷移双極子モーメントの大きさが3.30D以上であれば、吸光度と吸収極大波長との双方が良好に得られる。
また、遷移双極子モーメントの大きさが5.00D以下であれば、置換基の配置や構造が複雑になることが抑えられるため、合成が容易である。
【0049】
[分子軌道係数]
着色力の向上のためには、アントラキノン誘導体は、分子軌道係数について後述する条件を満たすことが好ましい。下記式(4)が、本実施形態のアントラキノン誘導体、すなわち上記式(1)と同じ化合物を表すとき、Xは硫黄原子であり、Rはアミノ基であり、RおよびRは、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基であり、AおよびAは直接結合であり、Y、Y、および、Zは、上記式(1)と同様に定義される。下記式(4)において、C11、C12、C21、C22の各々は炭素原子である。
【0050】
【化8】
【0051】
着色力の向上のためには 上記式(4)に表すアントラキノン誘導体における、密度汎関数法(DFT:Density Functional Theory)を用いた量子化学計算により求められる最高被占分子軌道(HOMO)の分子軌道係数について、C11、C12、C21、C22の各炭素原子上の軌道に対応する係数の二乗和平方根の平均Mvが、0.03以上0.2以下であることが好ましい。汎関数にはB3LYPを用い、基底関数には6-31G(d)を用いる。
【0052】
すなわち、C11についての分子軌道係数の二乗の和の平方根がM11であり、C12についての分子軌道係数の二乗の和の平方根がM12であり、C21についての分子軌道係数の二乗の和の平方根がM21であり、C22についての分子軌道係数の二乗の和の平方根がM22であるとする。このとき、M11、M12、M21、M22を平均した値が、平均Mvである。
【0053】
上記量子化学計算は、GaussianやGAMESS等の汎用的な量子化学計算プログラムを用いて実行することができる。
【0054】
一般に、吸収極大を示す電子遷移は、HOMOからLUMOへの電子遷移である。HOMOとLUMOとの分子軌道の重なりが大きい方が、電子遷移の確率が高くなるため、高い吸光度が得られると考えられる。発明者が検討を重ねた結果、アントラキノン誘導体におけるHOMOとLUMOとの分子軌道の広がりの傾向が見出された。
【0055】
すなわち、アントラキノン誘導体のLUMOの分子軌道に対しては、置換基の種類や配置が与える影響は小さく、LUMOの分子軌道は、アントラキノン骨格周辺に集まる傾向がある。一方、HOMOの分子軌道は、置換基の種類や配置の影響を受けて大きく変動する。このうち、上記式(4)で表される構造では、HOMOの分子軌道は、Xを含むα位の置換基の方へ広がる傾向がある。
【0056】
そこで、HOMOの分子軌道がβ位の置換基の方へ広がる構成、つまりβ位の置換基が含むベンゼン環上に広がる構成とすれば、HOMOの分子軌道がα位の方へ広がりすぎることが抑えられてアントラキノン骨格周辺にバランスよく広がり、HOMOとLUMOとの分子軌道の重なりが大きくなると考えられる。
【0057】
HOMOの分子軌道がβ位のベンゼン環上に広がっていることは、ベンゼン環が含む炭素原子上の軌道の係数によって表すことができる。すなわち、上記平均Mvが大きいほど、分子軌道がβ位のベンゼン環上に広がっていることを示す。平均Mvが0.03以上であれば、HOMOとLUMOとの分子軌道の重なりが、吸収極大波長にて良好な吸光度が得られる程度に大きくなり、高い着色力が得られる。一方、平均Mvが、0.2以下であれば、置換基の配置や構造が複雑になることが抑えられるため、アントラキノン誘導体の合成が容易である。また、HOMOの分子軌道がβ位の置換基の方へ広がりすぎてHOMOとLUMOとの分子軌道の重なりが小さくなることも抑えられる。
【0058】
アントラキノン誘導体において、0.03以上0.2以下の範囲内で平均Mvを大きくするためには、上記式(4)にて、A、Aは直接結合であることが好ましく、また、Y、Yは電子供与性基であることが好ましく、また、Zは電子吸引性基であることが好ましい。
【0059】
[実施例]
上述したアントラキノン誘導体について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。なお、以下における各材料の重量部での記載は、互いに混合される各材料の相対的な重量の比を示す。
【0060】
〔第1実施例〕
(前駆体1の合成)
二口ナスフラスコに、1,5-ジヒドロキシ-4,8-ジニトロアントラキノン(5.0重量部)、N,N-ジメチルホルムアミド(100重量部)を加えた。ここに、室温でN-ブロモスクシンイミド(5.9重量部)を加え、室温で1時間撹拌した。薄層クロマトグラフィーにて反応の終了を確認後、この反応溶液を、十分な量のメタノールに加えて、15分間撹拌した。その後、析出した固体を吸引ろ過により回収し、回収物を60℃で終夜真空乾燥することで、黄色固体として前駆体1を得た。前駆体1は、下記式(A1)で表される化合物である。
【0061】
【化9】
【0062】
(前駆体2の合成)
上記前駆体1の合成工程において、1,5-ジヒドロキシ-4,8-ジニトロアントラキノンを1,5-ジアミノ-4,8-ジニトロアントラキノンに変更したこと以外は同様に合成を行って、前駆体2を得た。前駆体2は、下記式(A2)で表される化合物である。
【0063】
【化10】
【0064】
(前駆体3の合成)
二口ナスフラスコに、トルエン(100重量部)、エタノール(20重量部)、水(10重量部)、前駆体1(1重量部)、4-へプチルオキシフェニルボロン酸(1.2重量部)、トリエチルアミン(0.62重量部)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0.2重量部)を加え、80℃で2時間以上加熱攪拌を行った。薄層クロマトグラフィーにて反応の終了を確認後、この反応溶液を室温に戻した後に、純水を加えて、酢酸エチルで抽出を行った。得られた有機層に硫酸ナトリウムを加え、乾燥させた後、溶媒をエバポレーターにて減圧除去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/1~2/3)で精製することにより、暗赤色固体として前駆体3を得た。前駆体3は、下記式(A3)で表される化合物である。
【0065】
【化11】
【0066】
(前駆体4の合成)
上記前駆体3の合成工程において、前駆体1を前駆体2に変更したこと以外は同様に合成を行って、前駆体4を得た。前駆体4は、下記式(A4)で表される化合物である。
【0067】
【化12】
【0068】
(前駆体5の合成)
上記前駆体3の合成工程において、4-へプチルオキシフェニルボロン酸を4-ペンチルシクロヘキシルフェニルボロン酸に変更したこと以外は同様に合成を行って、前駆体5を得た。前駆体5は、下記式(A5)で表される化合物である。
【0069】
【化13】
【0070】
(前駆体6の合成)
上記前駆体3の合成工程において、4-へプチルオキシフェニルボロン酸を4-(ジメチルアミノ)フェニルボロン酸に変更したこと以外は同様に合成を行って、前駆体6を得た。前駆体6は、下記式(A6)で表される化合物である。
【0071】
【化14】
【0072】
(前駆体7の合成)
上記前駆体3の合成工程において、4-へプチルオキシフェニルボロン酸を4-モノブチルアミノフェニルボロン酸に変更したこと以外は同様に合成を行って、前駆体7を得た。前駆体7は、下記式(A7)で表される化合物である。
【0073】
【化15】
【0074】
(前駆体8の合成)
上記前駆体3の合成工程において、4-へプチルオキシフェニルボロン酸を1.2重量部加えることに代えて、4-ペンチルシクロヘキシルフェニルボロン酸を0.7重量部加えて反応溶液を1時間攪拌した後、さらに、4-モノブチルアミノフェニルボロン酸を0.5重量部加えて、80℃で2時間以上加熱攪拌を行った。その後、上記前駆体3の合成工程と同様に、抽出および精製を行って、前駆体8を得た。前駆体8は、下記式(A8)で表される化合物である。
【0075】
【化16】
【0076】
(実施例1-1の色素の合成)
二口ナスフラスコに、前駆体3(1.0重量部)を入れて系内を窒素置換した後、テトラヒドロフラン(18.0重量部)を加えた。続いて、別のフラスコを用いて、4-ヘプチルベンゼンチオール(3.3重量部)とピリジン(1.6重量部)とを混合して室温で30分撹拌した溶液を用意し、この溶液を、二口ナスフラスコ内の前駆体3を含む溶液に添加して、50℃で加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーにて反応の終了を確認後、この反応溶液を室温まで放冷した後に、希塩酸(35%塩酸(20.0重量部)と純水(80.0重量部)との混合液)を加えて、析出した固体をろ過にて回収した。回収した固体(1.0重量部)と亜鉛粉末(0.5重量部)を二口フラスコに入れて系内を窒素置換した。ここに、ジクロロメタン(200.0重量部)と酢酸(18.0重量部)を添加し、室温で撹拌した。薄層クロマトグラフィーにて反応の終了を確認後、反応液をろ過し、ろ液に純水を加えて、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層に硫酸ナトリウムを加え、乾燥させた後、溶媒をエバポレーターにて減圧除去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/1~1/3)にて精製し、濃青色固体として実施例1-1のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-1)で表される化合物である。
【0077】
【化17】
【0078】
(実施例1-2の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-ヘプチルオキシベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-2のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-2)で表される化合物である。
【0079】
【化18】
【0080】
(実施例1-3の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-メトキシベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-3のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-3のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-3)で表される化合物である。
【0081】
【化19】
【0082】
(実施例1-4の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-シアノベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-4のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-4のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-4)で表される化合物である。
【0083】
【化20】
【0084】
(実施例1-5の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、前駆体3を前駆体4に変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-5のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-5のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-5)で表される化合物である。
【0085】
【化21】
【0086】
(実施例1-6の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、前駆体3を前駆体5に変更し、かつ、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-ヘプチルオキシベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-6のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-6のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-6)で表される化合物である。
【0087】
【化22】
【0088】
(実施例1-7の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、前駆体3を前駆体6に変更し、かつ、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-ヘプチルオキシベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-7のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-7のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-7)で表される化合物である。
【0089】
【化23】
【0090】
(実施例1-8の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、前駆体3を前駆体6に変更し、かつ、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-シアノベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-8のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-8のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-8)で表される化合物である。
【0091】
【化24】
【0092】
(実施例1-9の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、前駆体3を前駆体7に変更し、かつ、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-ヘプチルオキシベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-9のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-9のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-9)で表される化合物である。
【0093】
【化25】
【0094】
(実施例1-10の色素の合成)
上記実施例1-1の色素の合成工程において、前駆体3を前駆体8に変更し、かつ、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-ヘプチルオキシベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例1-10のアントラキノン誘導体を得た。実施例1-10のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-10)で表される化合物である。
【0095】
【化26】
【0096】
(比較例1-1の色素の合成)
二口ナスフラスコに、前駆体1(1.0重量部)、N-メチル-2-ピロリドン(20重量部)を加えた。ここに、4-ヘプチルアニリン(0.8重量部)を加え、180℃の油浴中で加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーにて反応の終了を確認後、この反応溶液を室温まで放冷した後に、酢酸エチル(30重量部)、水(10重量部)を加え、室温で激しく撹拌した。この際に不溶物が生じたため、セライトろ過により除去した。2層を分離後、有機層を、蒸留水、5%塩酸水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した後に、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。そして、乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=2/1~2/3)にて精製し、濃青色固体を得た。
【0097】
上記濃青色固体(0.30重量部)、4-へプチルオキシフェニルボロン酸(0.28重量部)、炭酸カリウム(0.21重量部)を二口フラスコに入れて系内を窒素置換した。ここに、トルエン(5重量部)、水(2.5重量部)を添加した後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.06重量部)を加え、80℃で2時間加熱攪拌を行った。薄層クロマトグラフィーにて反応の終了を確認後、この反応溶液を室温に戻した後に、純水を加えて、酢酸エチルで抽出を行った。得られた有機層に硫酸ナトリウムを加え、乾燥させた後、溶媒をエバポレーターにて減圧除去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1~5/1)にて精製することにより、比較例1-1のアントラキノン誘導体を得た。比較例1-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-11)で表される化合物である。
【0098】
【化27】
【0099】
(比較例1-2の色素の合成)
二口フラスコに、4-ヘプチルオキシフェノール(0.45重量部)、炭酸カリウム(0.30重量部)を入れて系内を窒素置換した。ここに、脱水N-メチル-2-ピロリドン(20重量部)を加え、120℃で3時間攪拌した。ここに、前駆体1(0.50重量部)を加え、80℃で7時間攪拌した。この反応溶液を室温に戻した後に、水/ジクロロメタンを加え、分液した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/4、トリエチルアミン1質量%添加)にて精製を行い、固体を回収した。
【0100】
回収した固体を前駆体3の代わりに用い、かつ、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-ヘプチルオキシベンゼンチオールに変更したこと以外は、上記実施例1-1の色素の合成工程と同様に合成を行って、比較例1-2のアントラキノン誘導体を得た。比較例1-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P1-12)で表される化合物である。
【0101】
【化28】
【0102】
(評価方法)
<評価用試験片の作製>
第1実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体を用い、下記の材料を混合して色素含有組成物を調製した。
・ペンタエリスリトールテトラアクリレートとイソボロニルアクリレートとの混合物(ペンタエリスリトールテトラアクリレートが70質量%、イソボロニルアクリレートが30質量%):45重量部
・光重合開始剤(Omnirad TPO、IGM Resins B.V.製):4.5重量部
・アントラキノン誘導体:1重量部
・メチルエチルケトン:50重量部
【0103】
透明基材として、60μmの厚さのポリエチレンテレフタラートフィルムを使用し、透明基材の表面に色素含有組成物を塗布して、塗膜を80℃のオーブンで60秒間乾燥させた。その後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムズジャパン製、光源Hバルブ)を用いて照射線量150mJ/cmで紫外線照射を行うことにより塗膜を硬化させた。硬化後の膜厚が8.0μmとなるように厚さを調整して評価用試験片を作製した。
【0104】
<吸収波長の評価>
第1実施例の各実施例および各比較例の評価用試験片について、自動分光光度計(U-4100、日立製作所製)を用いて紫外可視吸収スペクトルを測定し、吸収極大波長λmaxを求めた。
【0105】
吸収波長の評価においては、吸収極大波長λmaxが580nm以上670nm以下である場合を青みが良好「○」とし、吸収極大波長λmaxが580nm未満または670nmを超える場合を青みが不十分「×」とした。
【0106】
<耐光性の評価>
第1実施例の各実施例および各比較例の評価用試験片に対し、キセノンウェザーメーター試験機(X75、スガ試験機株式会社製)を用いて、耐光試験を実施した。耐光試験では、395nm以下の光を吸収するUVカット粘着フィルムを評価用試験片の前面に貼り付け、キセノンランプ照度60W/cm(300nm~400nm)、温度45℃、湿度50%RHの条件下に120時間、評価用試験片を配置した。
【0107】
耐光試験前と耐光試験後との各々の評価用試験片について、自動分光光度計(U-4100、日立製作所製)を用いて吸光度測定を行い、可視光域で最大の吸光度を示す波長における吸光度Absを求めた。そして、耐光試験前と耐光試験後との吸光度変化率ΔAbsを算出した。すなわち、耐光試験前の吸光度Absを吸光度Abs1、耐光試験後の吸光度Absを吸光度Abs2とするとき、ΔAbs(%)={(Abs1-Abs2)/Abs1}×100である。
【0108】
耐光性の評価においては、ΔAbsが2%以下である場合を特に良好「◎」とし、ΔAbsが2%を超え10%以下である場合を良好「○」とし、ΔAbsが10%を超える場合を不良「×」とした。
【0109】
(評価結果)
表1に、第1実施例の各実施例および各比較例について、アントラキノン誘導体の構造、吸収極大波長λmax、吸収波長の評価結果、吸光度変化率ΔAbs、および、耐光性の評価結果を示す。各実施例のアントラキノン誘導体の構造は、下記式(I)によって示され、表1におけるR,Y,Y,Zは、下記式(I)におけるR,Y,Y,Zに対応する。
【0110】
【化29】
【0111】
【表1】
【0112】
表2に、各比較例について、アントラキノン誘導体の構造、吸収極大波長λmax、吸収波長の評価結果、吸光度変化率ΔAbs、および、耐光性の評価結果を示す。各比較例のアントラキノン誘導体の構造は、下記式(II)によって示され、表2におけるR,A,X,Y,Y,Zは、下記式(II)におけるR,A,X,Y,Y,Zに対応する。
【0113】
【化30】
【0114】
【表2】
【0115】
表1,2に示すように、アントラキノン骨格のβ位に置換フェニル基が直接結合している実施例1-1~1-10,比較例1-1では、良好な耐光性が得られていることに対し、β位がエーテル結合となっている比較例1-2では、耐光性が極めて悪い。したがって、β位に置換フェニル基が直接結合している構造に起因して耐光性が向上することが確認された。
【0116】
また、β位に置換フェニル基が直接結合し、かつ、α位に置換フェニルチオ基を有する実施例1-1~1-10では、580nm以上670nm以下の範囲に吸収極大波長λmaxが得られている。一方、β位に置換フェニル基が直接結合し、かつ、α位に置換アニリノ基を有する比較例1-1では、吸収極大波長λmaxが680nmを超え、β位がエーテル結合であり、かつ、α位に置換フェニルチオ基を有する比較例1-2では、吸収極大波長λmaxが570nm以下となっている。
【0117】
したがって、吸収極大波長λmaxの長波長シフトに対する寄与が大きいβ位の置換フェニル基の直接結合構造と、上記長波長シフトに対する寄与が小さいα位の置換フェニルチオ基とを併せ持つことで、好適な範囲に吸収極大波長λmaxが得られ、耐光性と青みとの両立が可能であることが確認された。
【0118】
〔第2実施例〕
(実施例2-1の色素の合成)
第1実施例の実施例1-1の色素の合成工程において、前駆体3を前駆体5に変更し、かつ、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-メトキシベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例2-1のアントラキノン誘導体を得た。実施例2-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P2-1)で表される化合物である。
【0119】
【化31】
【0120】
(実施例2-2)
第1実施例の実施例1-3の色素を、実施例2-2のアントラキノン誘導体とした。実施例2-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P2-2)で表される化合物である。
【0121】
【化32】
【0122】
(実施例2-3の色素の合成)
第1実施例の実施例1-1の色素の合成工程において、前駆体3を前駆体7に変更し、かつ、4-ヘプチルベンゼンチオールを4-メトキシベンゼンチオールに変更したこと以外は同様に合成を行って、実施例2-3のアントラキノン誘導体を得た。実施例2-3のアントラキノン誘導体は、下記式(P2-3)で表される化合物である。
【0123】
【化33】
【0124】
(比較例2-1の色素の合成)
二口ナスフラスコに、前駆体1(1.0重量部)、N-メチル-2-ピロリドン(20重量部)を加えた。ここに、4-ヘプチルアニリン(0.8重量部)を加え、180℃の油浴中で加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーにて反応の終了を確認後、この反応溶液を室温まで放冷した後に、酢酸エチル(30重量部)、水(10重量部)を加え、室温で激しく撹拌した。この際に不溶物が生じたため、セライトろ過により除去した。2層を分離後、有機層を、蒸留水、5%塩酸水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した後に、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。そして、乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=2/1~2/3)にて精製し、濃青色固体を得た。
【0125】
二口フラスコに、4-ヘプチルオキシフェノール(0.36重量部)、炭酸カリウム(0.24重量部)を入れて窒素置換し、脱水N-メチル-2-ピロリドン(10重量部)を加え、120℃で3時間攪拌した。ここに、上記濃青色固体(0.50重量部)を加え、120℃で7時間攪拌した。この反応溶液を室温に戻し、水/ジクロロメタンを加え、分液した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、60℃で減圧乾燥することにより、青色粉末として比較例2-1のアントラキノン誘導体を得た。比較例2-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P2-4)で表される化合物である。
【0126】
【化34】
【0127】
(比較例2-2の色素の合成)
上記比較例2-1の色素の合成工程において、4-ヘプチルオキシフェノールを4-ヘプチルフェノールに変更したこと以外は同様に合成を行って、比較例2-2のアントラキノン誘導体を得た。比較例2-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P2-5)で表される化合物である。
【0128】
【化35】
【0129】
(比較例2-3の色素の合成)
上記比較例2-1の色素の合成工程において、4-ヘプチルオキシフェノールを4-ヘプチルシクロヘキシルフェノールに変更したこと以外は同様に合成を行って、比較例2-3のアントラキノン誘導体を得た。比較例2-3のアントラキノン誘導体は、下記式(P2-6)で表される化合物である。
【0130】
【化36】
【0131】
(評価方法)
<吸収波長および耐光性の評価>
第2実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体について、第1実施例と同様に評価用試験片を作製し、吸収極大波長の測定および耐光性の評価を行った。
【0132】
<全エネルギー差ΔEの算出>
第2実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体について、上述した反応式(3)で示される反応前後の全エネルギー差ΔEを算出した。全エネルギー差ΔEの算出は、量子化学計算プログラムGAMESSを用い、汎関数をB3LYP、基底関数を6-31G(d)として、下記の手順で行った。
【0133】
(1)アントラキノン誘導体について、SCF計算によって構造最適化を実施し、最適化された構造での分子の全エネルギーEpを得た。
(2)構造最適化後のアントラキノン誘導体のアントラキノン骨格に水素を付加した構造を水素付加体の初期構造として、SCF計算によって水素付加体の構造最適化を実施した。そして、水素付加体について、最適化された構造での分子の全エネルギーEkを得た。
【0134】
水素付加体は、β位の置換基の位置関係によって4種類の立体異性体を有し得る。4種類の立体異性体のうち、エネルギーが最も安定な構造である最安定構造が生成する可能性が高いと考えられる。そのため、水素付加体の立体的な構造として、最安定構造を採用した。最安定構造は、β位の置換基が結合している箇所の二面角を回転させるRelaxed Scan計算を実施することにより探索した。
(3)ΔE=Ek-Epの計算式により、全エネルギー差ΔEを算出した。
【0135】
(評価結果)
表3に、第2実施例の各実施例および各比較例について、アントラキノン誘導体の構造、吸収極大波長λmax、全エネルギー差ΔE、吸光度変化率ΔAbs、および、耐光性の評価結果を示す。各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体の構造は、下記式(III)によって示され、表3におけるR,A,X,Y,Y,Zは、下記式(III)におけるR,A,X,Y,Y,Zに対応する。
【0136】
【化37】
【0137】
【表3】
【0138】
表3に示すように、全エネルギー差ΔEが-16kcal/mol以上である実施例2-1~2-3では、高い耐光性が得られている。実施例2-1~2-3のアントラキノン誘導体は、580nm以上670nm以下の波長域に吸収極大波長を有することから、優れた青みが得られる。一方、全エネルギー差ΔEが-16kcal/mol未満である比較例2-1~2-3では、耐光性が低かった。
【0139】
〔第3実施例〕
(実施例3-1)
第1実施例の実施例1-2の色素を、実施例3-1のアントラキノン誘導体とした。実施例3-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P3-1)で表される化合物である。
【0140】
【化38】
【0141】
(実施例3-2)
第1実施例の実施例1-3の色素を、実施例3-2のアントラキノン誘導体とした。実施例3-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P3-2)で表される化合物である。
【0142】
【化39】
【0143】
(実施例3-3)
第1実施例の実施例1-6の色素を、実施例3-3のアントラキノン誘導体とした。実施例3-3のアントラキノン誘導体は、下記式(P3-3)で表される化合物である。
【0144】
【化40】
【0145】
(実施例3-4)
第1実施例の実施例1-4の色素を、実施例3-4のアントラキノン誘導体とした。実施例3-4のアントラキノン誘導体は、下記式(P3-4)で表される化合物である。
【0146】
【化41】
【0147】
(比較例3-1)
第2実施例の比較例2-1の色素を、比較例3-1のアントラキノン誘導体とした。比較例3-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P3-5)で表される化合物である。
【0148】
【化42】
【0149】
(比較例3-2)
第2実施例の比較例2-2の色素を、比較例3-2のアントラキノン誘導体とした。比較例3-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P3-6)で表される化合物である。
【0150】
【化43】
【0151】
(評価方法)
<吸収波長および耐光性の評価>
第3実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体について、第1実施例と同様に評価用試験片を作製し、吸収極大波長の測定および耐光性の評価を行った。
【0152】
<熱重量測定>
第3実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体について、示差熱熱重量同時測定装置(STA7200RV、日立ハイテクサイエンス製)を用い、気体流量:200mL/分、昇温温度:10℃/分の条件で、30℃から550℃まで昇温して重量測定を実施した。気体には空気を用いた。昇温開始時の重量を基準として、10%重量減少温度を求めた。
【0153】
(評価結果)
表4に、第3実施例の各実施例および各比較例について、アントラキノン誘導体の構造、吸収極大波長λmax、10%重量減少温度、吸光度変化率ΔAbs、および、耐光性の評価結果を示す。各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体の構造は、下記式(III)によって示され、表4におけるR,A,X,Y,Y,Zは、下記式(III)におけるR,A,X,Y,Y,Zに対応する。
【0154】
【化44】
【0155】
【表4】
【0156】
表4に示すように、10%重量減少温度が350℃以上である実施例3-1~3-4では、高い耐光性が得られている。実施例3-1~3-4のアントラキノン誘導体は、580nm以上670nm以下の波長域に吸収極大波長を有することから、優れた青みが得られる。一方、10%重量減少温度が350℃未満である比較例3-1,3-2では、耐光性が低かった。
【0157】
〔第4実施例〕
(実施例4-1)
第1実施例の実施例1-2の色素を、実施例4-1のアントラキノン誘導体とした。実施例4-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P4-1)で表される化合物である。
【0158】
【化45】
【0159】
(実施例4-2)
第2実施例の実施例2-3の色素を、実施例4-2のアントラキノン誘導体とした。実施例4-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P4-2)で表される化合物である。
【0160】
【化46】
【0161】
(実施例4-3)
第1実施例の実施例1-6の色素を、実施例4-3のアントラキノン誘導体とした。実施例4-3のアントラキノン誘導体は、下記式(P4-3)で表される化合物である。
【0162】
【化47】
【0163】
(比較例4-1の色素の合成)
第2実施例の比較例2-1の色素の合成工程において、4-ヘプチルオキシフェノールを4-(trans-4-ペンチルシクロヘキシル)フェノールに変更したこと以外は同様に合成を行って、比較例4-1のアントラキノン誘導体を得た。比較例4-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P4-4)で表される化合物である。
【0164】
【化48】
【0165】
(比較例4-2)
第1実施例の比較例1-2の色素を、比較例4-2のアントラキノン誘導体とした。比較例4-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P4-5)で表される化合物である。
【0166】
【化49】
【0167】
(比較例4-3の色素の合成)
第2実施例の比較例2-1の色素の合成工程において、4-ヘプチルオキシフェノールを4-モノブチルアミノフェノールに変更したこと以外は同様に合成を行って、比較例4-3のアントラキノン誘導体を得た。比較例4-3のアントラキノン誘導体は、下記式(P4-6)で表される化合物である。
【0168】
【化50】
【0169】
(評価方法)
<吸収波長および着色力の評価>
第4実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体について、第1実施例と同様に評価用試験片を作製した。
【0170】
各評価用試験片について、自動分光光度計(U-4100、日立製作所製)を用いて紫外可視吸収スペクトルを測定した。そして、360nm以上800nm以下の測定範囲の波長について、吸収極大波長λmaxおよび当該波長における吸光度を求めた。
着色力の評価においては、吸光度が0.40以上である場合を良好「○」とし、吸光度が0.40未満である場合を不良「×」とした。
【0171】
<遷移双極子モーメントの算出>
第4実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体について、時間依存密度汎関数法を用いて遷移双極子モーメントを算出した。具体的には、量子化学計算プログラムGAMESSを用い、汎関数をB3LYP、基底関数を6-31G(d)として、各アントラキノン誘導体の真空中での遷移双極子モーメントを算出した。遷移双極子モーメントは、x成分、y成分、z成分からなるベクトルである。各成分の二乗の和を1/2乗した値を、遷移双極子モーメントの大きさμ(μ=(x+y+z1/2)とした。
【0172】
(評価結果)
表5に、第4実施例の各実施例および各比較例について、アントラキノン誘導体の構造、遷移双極子モーメントの各成分および遷移双極子モーメントの大きさμ、吸収極大波長λmax、吸光度、着色力の評価結果を示す。各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体の構造は、下記式(III)によって示され、表5におけるR,A,X,Y,Y,Zは、下記式(III)におけるR,A,X,Y,Y,Zに対応する。
【0173】
【化51】
【0174】
【表5】
【0175】
表5に示すように、遷移双極子モーメントの大きさμが3.30D以上である実施例4-1~4-3では、遷移双極子モーメントの大きさμが3.30D未満である比較例4-1~4-3と比べて、高い吸光度が得られており、着色力が良好であった。実施例4-1~4-3のアントラキノン誘導体は、580nm以上670nm以下の波長域に吸収極大波長を有することから、優れた青みが得られる。
【0176】
表5の結果から、β位に置換基が直接結合していることで、遷移双極子モーメントが大きくなることが示唆される。また、Y,Yがアルキルアミノ基のように電子供与性基であると、遷移双極子モーメントが大きくなり、高い吸光度が得られる傾向が確認された。
【0177】
〔第5実施例〕
(実施例5-1)
第1実施例の実施例1-2の色素を、実施例5-1のアントラキノン誘導体とした。実施例5-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P5-1)で表される化合物である。
【0178】
【化52】
【0179】
(実施例5-2)
第1実施例の実施例1-6の色素を、実施例5-2のアントラキノン誘導体とした。実施例5-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P5-2)で表される化合物である。
【0180】
【化53】
【0181】
(実施例5-3)
第1実施例の実施例1-9の色素を、実施例5-3のアントラキノン誘導体とした。実施例5-3のアントラキノン誘導体は、下記式(P5-3)で表される化合物である。
【0182】
【化54】
【0183】
(比較例5-1の色素の合成)
二口ナスフラスコに、前駆体1(1.0重量部)、N-メチル-2-ピロリドン(20重量部)を加えた。ここに、4-ヘプチルオキシアニリン(0.8重量部)を加え、180℃の油浴中で加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーにて反応の終了を確認後、この反応溶液を室温まで放冷した後に、酢酸エチル(30重量部)、水(10重量部)を加え、室温で激しく撹拌した。この際に不溶物が生じたため、セライトろ過により除去した。2層を分離後、有機層を、蒸留水、5%塩酸水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した後に、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。そして、乾燥剤をろ別後、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=2/1~2/3)にて精製し、濃青色固体を得た。
【0184】
二口フラスコに、4-ヘプチルオキシフェノール(0.36重量部)、炭酸カリウム(0.24重量部)を入れて窒素置換し、脱水N-メチル-2-ピロリドン(10重量部)を加え、120℃で3時間攪拌した。ここに、上記濃青色固体(0.50重量部)を加え、120℃で7時間攪拌した。この反応溶液を室温に戻し、水/ジクロロメタンを加え、分液した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、60℃で減圧乾燥することにより、青色粉末として比較例5-1のアントラキノン誘導体を得た。比較例5-1のアントラキノン誘導体は、下記式(P5-4)で表される化合物である。
【0185】
【化55】
【0186】
(比較例5-2)
第4実施例の比較例4-1の色素を、比較例5-2のアントラキノン誘導体とした。比較例5-2のアントラキノン誘導体は、下記式(P5-5)で表される化合物である。
【0187】
【化56】
【0188】
(比較例5-3)
第1実施例の比較例1-2の色素を、比較例5-3のアントラキノン誘導体とした。比較例5-3のアントラキノン誘導体は、下記式(P5-6)で表される化合物である。
【0189】
【化57】
【0190】
(比較例5-4)
第1実施例の比較例1-2の合成工程において、4-ヘプチルオキシフェノールを4-ペンチルシクロヘキシルフェノールに変更したこと以外は同様に合成を行って、比較例5-4のアントラキノン誘導体を得た。比較例5-4のアントラキノン誘導体は、下記式(P5-7)で表される化合物である。
【0191】
【化58】
【0192】
(評価方法)
<吸収波長および着色力の評価>
第5実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体について、第1実施例と同様に評価用試験片を作製した。そして、第4実施例と同様に吸収極大波長λmaxおよび当該波長における吸光度を求め、着色力の評価を行った。
【0193】
<分子軌道係数の算出>
第5実施例の各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体について、密度汎関数法を用いて分子軌道係数を算出した。具体的には、量子化学計算プログラムGAMESSを用い、汎関数をB3LYP、基底関数を6-31G(d)として、アントラキノン誘導体に対し構造最適化を実施し、最適化された構造での分子軌道係数を得た。上記式(4)におけるC11、C12、C21、C22の各炭素原子について、炭素原子上の軌道に対応する係数の二乗和平方根M11、M12、M21、M22を算出し11、M12、M21、M22の平均Mvを求めた。本計算条件においては、炭素原子に対して15個の軌道が割り当てられ、各軌道に対して分子軌道係数が算出される。
【0194】
(評価結果)
表6に、第5実施例の各実施例および各比較例について、アントラキノン誘導体の構造、分子軌道係数の二乗和平方根、平均Mv、吸収極大波長λmax、吸光度、着色力の評価結果を示す。各実施例および各比較例のアントラキノン誘導体の構造は、下記式(III)によって示され、表6におけるR,A,X,Y,Y,Zは、下記式(III)におけるR,A,X,Y,Y,Zに対応する。
【0195】
【化59】
【0196】
【表6】
【0197】
表6に示すように、平均Mvが0.03以上である実施例5-1~5-3では、平均Mvが0.03未満である比較例5-1~5-4と比べて、高い吸光度が得られており、着色力が良好であった。実施例5-1~5-3のアントラキノン誘導体は、580nm以上670nm以下の波長域に吸収極大波長を有することから、優れた青みが得られる。
【0198】
表6の結果から、β位に置換基が直接結合していることで、平均Mvが大きくなることが示唆される。また、Y,Yがアルキルアミノ基のように電子供与性基であると、平均Mvが大きくなり、高い吸光度が得られる傾向が確認された。
【要約】      (修正有)
【課題】良好な耐光性を有し、かつ、優れた青みを示すアントラキノン誘導体を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるアントラキノン誘導体。

(式中、RおよびRは、独立に、アミノ基または水酸基であり、Y、Y、およびZは、独立に、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1から10のハロゲン化アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ピペリジル基、アリール基、またはシクロヘキシル基であり、アリール基およびシクロヘキシル基は置換基を有していてもよい。)
【選択図】なし