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特許7683829付加製造装置、付加製造方法、付加製造システムおよびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】付加製造装置、付加製造方法、付加製造システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/342 20140101AFI20250520BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20250520BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20250520BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20250520BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20250520BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20250520BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20250520BHJP
【FI】
B23K26/342
B23K26/03
B23K26/21 Z
B23K26/00 P
B23K26/00 Q
B33Y50/02
B33Y30/00
B33Y10/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024549679
(86)(22)【出願日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2023037249
【審査請求日】2024-08-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【弁理士】
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】服部 聡史
(72)【発明者】
【氏名】松井 克行
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-008113(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059306(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/079499(WO,A1)
【文献】特開2003-164987(JP,A)
【文献】特開2020-182966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/342
B23K 26/03
B23K 26/21
B23K 26/00
B33Y 50/02
B33Y 30/00
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤを供給するワイヤ供給部と、
前記ワイヤにレーザビームを照射し、前記ワイヤを溶融させる照射部と、
前記溶融されたワイヤと当該ワイヤが付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を撮像し、画像データを生成する撮像部と、
前記撮像部により生成された前記画像データに基づく画像のうち、前記接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて前記被加工物の加工状態を判定する判定部と、
を備え、
前記接続部は、前記ワイヤが溶融されて形成される固液相状の溶融池、および、前記溶融池と前記ワイヤとを接続し、前記溶融池を示す領域よりも前記画素値が低く前記ワイヤを示す領域よりも前記画素値が高い第1の部位を含み、
前記判定部は、前記第1の部位の大きさ、形状、および位置の状態変化、ならびに、前記ワイヤと前記被加工物との間の位置関係の変化に基づいて、加工状態がドロップ傾向またはスタブ傾向であるか否か判定する、
付加製造装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記撮像部により生成された時系列の前記画像データに基づく画像のうち、前記接続部を含む領域の画素値の分布の変化を示す情報を用いて前記被加工物の加工状態を判定する、
請求項1に記載の付加製造装置。
【請求項3】
前記撮像部により生成された前記画像データは、前記接続部から放射される光の強度の分布を示す情報を含む、
請求項1に記載の付加製造装置。
【請求項4】
前記判定部により、前記加工状態に異常傾向があると判定された場合、異常傾向の内容に対応して、予め設定された目標加工状態に近づくように、調整後の加工条件情報を生成する調整部をさらに備える請求項1から3のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記接続部を含む画像データと、当該画像データに関連付けられた加工状態との関係について学習を行うことにより得られた学習済モデルに基づいて、前記被加工物の加工状態を判定する、
請求項1から3のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項6】
前記調整部は、前記レーザビームのレーザ出力、前記ワイヤの送給速度、および加工ヘッドの位置を制御するための情報のうち、少なくとも1つを含む加工条件と、予め設定された目標加工状態に対応する前記ワイヤおよび前記被加工物を含む画像データと、当該加工条件によって加工が開始された後に取得される前記ワイヤおよび前記被加工物を含む画像データとの関係について学習を行うことにより得られた学習済モデルに基づいて、前記調整後の加工条件情報を生成する、
請求項4に記載の付加製造装置。
【請求項7】
ワイヤを供給するワイヤ供給ステップと、
前記ワイヤにレーザビームを照射し、前記ワイヤを溶融させる照射ステップと、
前記溶融されたワイヤと当該ワイヤが付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を撮像し、画像データを生成する撮像ステップと、
前記撮像ステップにより生成された前記画像データに基づく画像のうち、前記接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて前記被加工物の加工状態を判定する判定ステップと、
を含み、
前記接続部は、前記ワイヤが溶融されて形成される固液相状の溶融池、および、前記溶融池と前記ワイヤとを接続し、前記溶融池を示す領域よりも前記画素値が低く前記ワイヤを示す領域よりも前記画素値が高い第1の部位を含み、
前記判定ステップは、前記第1の部位の大きさ、形状、および位置の状態変化、ならびに、前記ワイヤと前記被加工物との間の位置関係の変化に基づいて、加工状態がドロップ傾向またはスタブ傾向であるか否か判定する、
付加製造方法。
【請求項8】
ワイヤを供給するワイヤ供給部と、
前記ワイヤにレーザビームを照射し、前記ワイヤを溶融させる照射部と、
前記溶融されたワイヤと当該ワイヤが付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を撮像し、画像データを生成する撮像部と、
前記撮像部により生成された前記画像データに基づく画像のうち、前記接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて前記被加工物の加工状態を判定する判定部と、
を備え、
前記接続部は、前記ワイヤが溶融されて形成される固液相状の溶融池、および、前記溶融池と前記ワイヤとを接続し、前記溶融池を示す領域よりも前記画素値が低く前記ワイヤを示す領域よりも前記画素値が高い第1の部位を含み、
前記判定部は、前記第1の部位の大きさ、形状、および位置の状態変化、ならびに、前記ワイヤと前記被加工物との間の位置関係の変化に基づいて、加工状態がドロップ傾向またはスタブ傾向であるか否か判定する、
付加製造システム。
【請求項9】
プロセッサに、
レーザビームの照射により溶融されたワイヤと当該ワイヤが付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を撮像部に撮像させ、画像データを生成する撮像機能と、
前記撮像機能により生成された前記画像データに基づく画像のうち、前記接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて前記被加工物の加工状態を判定する判定機能と、
を実現させ、
前記接続部は、前記ワイヤが溶融されて形成される固液相状の溶融池、および、前記溶融池と前記ワイヤとを接続し、前記溶融池を示す領域よりも前記画素値が低く前記ワイヤを示す領域よりも前記画素値が高い第1の部位を含み、
前記判定機能は、前記第1の部位の大きさ、形状、および位置の状態変化、ならびに、前記ワイヤと前記被加工物との間の位置関係の変化に基づいて、加工状態がドロップ傾向またはスタブ傾向であるか否か判定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、3次元造形物を製造する付加製造装置および付加製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元の造形物を製造する技術の1つとして、付加製造(Additive Manufacturing:AM)の技術が知られている。このうち、指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition:DED)方式の付加製造装置には、溶加材であるワイヤを被加工物へ送給して、ワイヤの先端部をレーザビームによって局所的に溶融させることによってビードを形成し、積層させていくことで造形物を製造するものがある。
【0003】
このような付加製造装置では、被加工物から離れた位置にてワイヤが溶融することによって、ワイヤに溶融物が留まることがあり、被加工物には溶融物が付加されなくなる一方、溶融後の溶加材の塊であるドロップがワイヤに残るドロップ現象が生じることがある。また、被加工物へ送給されたワイヤをレーザビームによって溶融させる付加製造装置では、溶融前のワイヤが被加工物に衝突するスタブ現象が生じることがある。ドロップ現象またはスタブ現象が生じた場合、安定した加工を継続することが困難となる。このため、ドロップ現象またはスタブ現象を事前に予測し、これらの現象が発生しないように制御することが求められている。
【0004】
ドロップ現象またはスタブ現象の回避については、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1では、加工時におけるワイヤ先端と被加工物との位置関係が適切でない場合にドロップ現象またはスタブ現象が生じることに着目し、ワイヤの送給速度、ビーム出力等からワイヤ先端の溶融位置を推定し、ワイヤ先端と造形物との距離が一定になるように調整することで、スタブおよびドロップを回避する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2022/107196号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1では、被加工物の蓄熱状態の変化、3次元である被加工物の形状の影響によるガスシールド効果の変化、ガスシールド効果の変化に伴う被加工物の酸化によるレーザ光の吸収率と反射率の変化、被加工物側の凹凸形状に由来する溶融池のサイズの変化等が考慮されておらず、スタブ現象およびドロップ現象の予兆を正確に捉えることができなかった。ここで、加工状態を精度よく把握し、スタブ現象およびドロップ現象の予兆を捉えることができれば、加工に関する各種指令を補正することにより、スタブ現象およびドロップ現象を未然に防ぐことができると考えられる。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、加工状態を精度よく把握することが可能な付加製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示に係る付加製造装置は、ワイヤを供給するワイヤ供給部と、ワイヤにレーザビームを照射し、ワイヤを溶融させる照射部と、溶融されたワイヤと当該ワイヤが付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を撮像し、画像データを生成する撮像部と、撮像部により生成された画像データに基づく画像のうち、接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて被加工物の加工状態を判定する判定部と、を備え、接続部は、ワイヤが溶融されて形成される固液相状の溶融池、および、溶融池とワイヤとを接続し、溶融池を示す領域よりも画素値が低くワイヤを示す領域よりも画素値が高い第1の部位を含み、判定部は、第1の部位の大きさ、形状、および位置の状態変化、ならびに、前記ワイヤと前記被加工物との間の位置関係の変化に基づいて、加工状態がドロップ傾向またはスタブ傾向であるか否か判定するようにしている。

【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、加工状態を精度よく把握することが可能な付加製造装置を提供することができる。

【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1にかかる付加製造装置の構成例を示す図。
図2】実施の形態1にかかる付加製造装置の基本的な加工原理を説明するための側面図、上面図、および断面図。
図3】実施の形態1にかかるドロップ状態、スムース状態、およびスタブ状態を説明するための図。
図4】実施の形態1にかかるスムース状態を阻害する要因を説明するための図。
図5】実施の形態1にかかる付加製造装置による加工状態の制御の概要を一例を説明するための図。
図6】実施の形態1にかかる演算装置が実行する処理の例を示す図。
図7】実施の形態1にかかるスムース状態を説明するための側面図、および上面図。
図8】実施の形態1にかかるスムース状態を説明するための画像図。
図9】実施の形態1にかかるドロップ現象についての付加製造装置による加工状態を判定する方法を説明するための側面図。
図10】実施の形態1にかかるドロップ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図。
図11】実施の形態1にかかるドロップ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図。
図12】実施の形態1にかかるドロップ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図。
図13】実施の形態1にかかるドロップ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図。
図14】実施の形態1にかかるスタブ現象についての付加製造装置による加工状態を判定する方法を説明するための側面図。
図15】実施の形態1にかかるスタブ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図。
図16】実施の形態1にかかるスタブ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図。
図17】実施の形態2にかかる付加製造システムの構成を示す図。
図18】実施の形態3にかかる付加製造装置が有する演算装置の構成を示すブロック図。
図19】実施の形態3にかかる学習装置の機能構成を示すブロック図。
図20図19に示すモデル生成部が使用するニューラルネットワークの一例を示す図。
図21】実施の形態3における学習装置が実行する処理の例を示す図。
図22】実施の形態3にかかる推論装置の機能構成を示すブロック図。
図23】実施の形態3における推論装置が実行する処理の例を示す図。
図24】実施の形態4にかかる付加製造装置が有する演算装置の構成を示すブロック図。
図25】実施の形態4にかかる学習装置の機能構成を示すブロック図。
図26】実施の形態4における学習装置が実行する処理の例を示す図。
図27】実施の形態4にかかる推論装置の機能構成を示すブロック図。
図28】実施の形態4における推論装置が実行する処理の例を示す図。
図29】実施の形態1から4にかかる演算装置のハードウェア構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら実施の形態1にかかる付加製造装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、これら実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる付加製造装置100の構成を示す図である。付加製造装置100は、溶融させた溶加材を被加工物へ付加することによって3次元造形物を製造する工作機械である。付加製造装置100は、ビームの照射によって溶加材を溶融する。本実施形態において、ビームはレーザビーム5であって、溶加材は金属のワイヤ6である。
【0013】
付加製造装置100は、レーザビーム5の照射位置である加工点10へワイヤ6を供給しながら加工点10を移動させることによって、ビード11を形成する。レーザビーム5の照射位置とワイヤ6とは交差する配置になっており、ワイヤ6はレーザビーム5が照射されることにより溶融する。加工点10は、溶融したワイヤ6の先端と被加工物との接点である。被加工物は、例えば、溶融させたワイヤ6が付加される物体であって、基材13または基材13上のビード11である。加工中は、加工点10ではワイヤ6の先端が溶融し続けるが、加工ヘッド3が移動することにより、溶融したワイヤ6が冷却固化されてビード11が形成される。付加製造装置100は、基材13の上においてビード11を積み重ねることによって被加工物、すなわち3次元造形物を製造する。図1に示す基材13は、板材である。基材13は板材以外の物であっても良い。実施の形態1において、X軸、Y軸およびZ軸は、互いに垂直な3軸である。X軸とY軸とは、水平方向の軸である。Z軸は、鉛直方向の軸である。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各々において、矢印で示す向きをプラス向き、矢印とは逆の向きをマイナス向きと称することがある。
【0014】
ビーム源であるレーザ発振器1は、レーザビーム5を発振する。レーザ発振器1により出力されたレーザビーム5は、光伝送路であるファイバケーブル2を通って加工ヘッド3へ伝搬する。レーザ発振器1、ファイバケーブル2、および加工ヘッド3は、供給された溶加材を溶融させるレーザビーム5を被加工物へ照射する照射部を構成する。
【0015】
加工ヘッド3は、被加工物へ向けてレーザビーム5を出射するビームノズル4を有する。加工ヘッド3の内部には、レーザビーム5を平行化させるコリメート光学系と、レーザビーム5を集束させる集光レンズとが設けられている。コリメート光学系、集光レンズは、ビーム径を調整するための手段である。コリメート光学系および集光レンズの図示は省略する。被加工物へ照射するレーザビーム5の中心線の方向は、Z軸方向である。付加製造装置100は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の各方向へ加工ヘッド3を移動させる駆動系であるアクチュエータを有する。アクチュエータの図示は省略する。なお、ビームノズル4から出力されるレーザビーム5は、例えば、トップハット型の断面強度分布を有したレーザビームである。
【0016】
加工ヘッド3は、ビームノズル4から被加工物へ向けてシールドガスを噴射する。シールドガスとしては、例えば、不活性ガスであるアルゴンガスが使用される。付加製造装置100は、シールドガスの噴射によって、ビードの酸化を抑制するとともに、形成されたビードを冷却する。シールドガスは、例えば、シールドガスの供給源である不図示のガスボンベから供給される。また、付加製造装置100には、不図示の冷却器が設けられている。冷却器からは、レーザ発振器1、及び加工ヘッド3に向けて配管が伸びており、配管に冷却水を循環させることで、レーザ発振器1、及び加工ヘッド3が冷却される。冷却器は、例えば、循環水の水温を検知し、循環水の温度を一定に保つ機能を有している。
【0017】
付加製造装置100には、ワイヤ6の供給源であるワイヤスプール7が取り付けられる。ワイヤ6は、ワイヤスプール7に巻き付けられている。ワイヤ送給器8は、支持ブラケット16を介して加工ヘッド3に固定されている。ワイヤ送給器8は、被加工物へ溶加材を供給する供給部である。ワイヤ送給器8は、ワイヤ供給部の一例である。ワイヤ送給器8は、ワイヤスプール7から被加工物へ向けてワイヤ6を送り出す。これにより、ワイヤノズル9からワイヤ6が繰り出される。また、ワイヤ送給器8は、送り出されたワイヤ6をワイヤスプール7のほうへ引き戻す。ビームノズル4とワイヤ送給器8とが加工ヘッド3に固定されていることで、ビームノズル4とワイヤ送給器8との相対位置は固定された関係となる。なお、ワイヤスプール7、ワイヤ送給器8、およびワイヤノズル9は、ワイヤを供給するワイヤ供給部を構成する。
【0018】
基材13は、ロータリーステージ14に固定される。ロータリーステージ14は、Z軸周りに回転する。ロータリーステージ15は、例えば、Y軸周りにおける回転によって、ロータリーステージ14の傾きを変化させる。XYZステージ17は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の各方向へ加工ヘッド3を移動させる。付加製造装置100は、ロータリーステージ14、および15の動作によって、基材13の姿勢を変化させる。付加製造装置100は、基材13の姿勢を変化させるとともに加工ヘッド3を移動させることによって、被加工物におけるレーザビーム5の照射位置を移動させる。付加製造装置100は、加工点10に形成された溶融池にワイヤ6を送給し、ワイヤ6を溶融させることによってビード11を形成する。なお、ロータリーステージ15は、X軸周りにおける回転によって、ロータリーステージ14の傾きを変化させてもよい。
【0019】
駆動制御器22は、XYZステージ17を駆動することによって加工ヘッド3を移動させるヘッド駆動部221と、ワイヤ送給器8を駆動するワイヤ送給駆動部222と、ロータリーステージ14,15を駆動するステージ駆動部223とを有する。
【0020】
また、付加製造装置100は、加工状況を監視するための内部センサユニット23、および、外部センサユニット24を有する。内部センサユニット23は、加工ヘッド3近傍に設けられ、その観察対象領域は、ビームノズル4の内径のサイズに間接的に制約される。内部センサユニット23は、カメラ、温度計、または形状測定器といったセンサを含む。カメラは、例えば、可視光カメラ、赤外線カメラ、高速度計測カメラ等である。カメラは、被加工物の形状、溶融状態、溶融池の形状、温度などを測定する。付加製造装置100は、内部センサユニット23にカメラが設けられることによって、被加工物の溶融状態、ワイヤ6の溶融状態、加工時に発生するヒュームまたはスパッタ、ワイヤ6の位置、被加工物の温度、ワイヤ6の温度、溶融池の温度などを観察することができる。温度計は、被加工物から放射される光を検出する。温度計は、放射温度計またはサーモカメラといった、非接触タイプの温度計である。形状測定器は、Z軸方向の高さ、X軸方向およびY軸方向における形状を測定する測定器であって、レーザ変位計、光干渉断層撮影を行う光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)等である。内部センサユニット23は、分光器、音響測定器などを有しても良い。
【0021】
内部センサユニット23は、被加工物の状態または形成されたビード11の状態を測定する。内部センサユニット23は、被加工物の形状、被加工物の温度、溶融池の形状などを測定し、画像データ60を生成する。内部センサユニット23は、生成した画像データ60を演算装置18へ送信する。なお、内部センサユニット23は、ビームノズル4と同軸の位置に設けられていても、ビームノズル4の同軸から少し離れた位置に設けられていてもよい。内部センサユニット23は、加工ヘッド3の側面に設けられてもよいし、加工ヘッド3近傍の任意の位置に設けられていても良い。
【0022】
外部センサユニット24は、加工点10の周辺を広く観察できるように、例えば加工ヘッド3から離れた任意の位置に設けられている。外部センサユニット24は、ビームノズル4の内径のサイズに制約されず、より広範囲を観察することが可能である。外部センサユニット24は、カメラ、温度計、または形状測定器といったセンサを含む。外部センサユニット24は、分光器、音響測定器などを有しても良い。外部センサユニット24は、被加工物の状態または形成されたビード11の状態を測定する。外部センサユニット24は、被加工物の形状、被加工物の温度、溶融池の形状などを測定し、画像データ70を生成する。外部センサユニット24は、生成した画像データ70を演算装置18へ送信する。
【0023】
内部センサユニット23、および、外部センサユニット24は、撮像部の一例である。
【0024】
付加製造装置100は、付加製造のための演算を行う演算装置18と、付加製造装置100の全体を制御する数値制御(Numerical Control:NC)装置19とを有する。
【0025】
演算装置18は、例えば、所定の設計データを取得し、取得した設計データに基づいて、各種演算を実行し、加工プログラム27、および加工条件情報28を生成する。演算装置18は、生成した加工プログラム27、および加工条件情報28等をNC装置19へ送信する。また、演算装置18は、内部センサユニット23、または、外部センサユニット24から受信した画像データに基づいて、被加工物の加工状態を判定する。なお、演算装置18は、NC装置19と別個で付加製造装置100内に設けられる場合に限られない。演算装置18は、例えば、NC装置19内部に設けられていてもよい。
【0026】
NC装置19は、演算装置18から加工プログラム27、および、加工条件情報28を受信する。加工プログラム27には、移動経路が指定されている。移動経路は、被加工物において加工点10を移動させる経路である。NC装置19は、加工プログラム27に記述されている内容を基に、移動経路を解析する。NC装置19は、移動経路と加工条件情報28に含まれる各種加工条件とに従って各種指令を生成する。NC装置19は、生成した各種指令を制御対象へ送ることによって当該制御対象を制御する。
【0027】
NC装置19は、生成した各種指令を駆動制御器22へ送ることによって駆動制御器22を制御する。具体的には、NC装置19は、移動経路上における単位時間ごとの補間点群である位置指令を生成し、生成した位置指令をヘッド駆動部221へ送ることによって、XYZステージ17を制御する。また、NC装置19は、例えば、加工プログラム27の記述に従った軸指令を生成し、生成した軸指令をステージ駆動部223へ送ることによって、ロータリーステージ14、15を制御する。また、NC装置19は、例えば、加工プログラム27と加工条件とに従った送給指令を生成し、生成した送給指令をワイヤ送給駆動部222へ送ることによって、ワイヤ送給器8を制御する。
【0028】
NC装置19は、加工プログラム27に従ったガス供給指令を生成する。NC装置19は、ガス流量調整器21へガス供給指令を送ることによって、ガス流量調整器21を制御する。
【0029】
NC装置19は、加工プログラム27と加工条件とに従ったレーザ出力指令を生成する。NC装置19は、レーザ発振器1へレーザ出力指令を送ることによって、レーザ発振器1を制御する。
【0030】
次に、実施の形態1にかかる演算装置18が備える機能の詳細について説明する。演算装置18は、取得部181、作成部182、判定部183、及び調整部184を備えている。
【0031】
取得部181は、各センサユニットから画像データを取得する。例えば、取得部181は、内部センサユニット23から画像データ60を取得する。また、取得部181は、外部センサユニット24から画像データ70を取得する。このとき、取得部181は、例えば、内部センサユニット23、または/および、外部センサユニット24を制御し、レーザビーム5の照射により溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を撮像し、画像データを生成するようにしてもよい。すなわち、取得部181は、撮像部を制御する撮像機能を有していてもよい。
【0032】
作成部182は、各センサユニットから取得した画像データを用いて、ワイヤ6と被加工物との接続状態を判定可能な加工状態情報を作成する。作成部182は、例えば、内部センサユニット23から取得した画像データ60に対して、所定の画像処理を施し、加工状態情報を作成する。このとき、加工状態情報は、例えば、所定のコントラスト処理が施された輝度分布を示す画像データである輝度分布データである。また、加工状態情報は、例えば、時系列の画像データを含み、加工状態の遷移を認識可能な情報であってもよい。また、作成部182は、外部センサユニット24から取得した画像データ70を用いて、ワイヤ6と被加工物との接続状態を判定可能な加工状態情報を作成する。
【0033】
判定部183は、作成部182により作成された加工状態情報を用いて、ワイヤ6と被加工物との接続部の接続状態を判定する。接続部とは、例えば、ワイヤ6と被加工物とを接続する領域であって、ワイヤ6が溶融された後、被加工物として固化するまでの間の液相と固相が混合した状態を有する部位である。判定部183は、例えば、加工状態情報を参照し、加工状態情報に含まれる画像データが示す接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて被加工物の加工状態を判定する。画素値は、例えば、赤熱したワイヤ、または、溶融池等から発せられる放射光の強度を示す。具体的には、判定部183は、例えば、接続部の大きさ、形状、および位置のうち、少なくとも1つの状態変化に基づいて、被加工物の加工状態を判定する。なお、判定部183は、内部センサユニット23から取得した画像データ60に基づく画像、または/および、外部センサユニット24から取得した画像データ70に基づく画像のうち、ワイヤ6と被加工物との接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて被加工物の加工状態を判定してもよい。
【0034】
調整部184は、判定部183により判定された接続部の接続状態に基づいて、各種加工条件を調整する。調整される各種加工条件には、例えば、レーザビーム5のレーザ出力、およびワイヤ6の送給速度等が含まれている。また、調整される各種加工条件には、例えば、加工ヘッド3の位置を制御するための情報が含まれている。加工ヘッド3の位置を制御するための情報は、例えば、予め設定された座標空間上において、「Z軸における位置を+2mm移動させる」、「X軸における位置を-3mm移動させる」等の情報である。加工ヘッド3の位置を制御するための情報には、相対的な位置を示す情報ではなく、絶対的な位置を示す情報が含まれていてもよい。また、調整される各種加工条件には、加工ヘッド3の軸移動速度が含まれていてもよい。加工ヘッド3の軸移動速度は、例えば、レーザビーム5のレーザ出力、およびワイヤ6の送給速度、および加工ヘッド3の位置を制御するための情報のうち少なくとも1つと併用して調整される加工条件である。調整部184は、調整した各種加工条件に基づいて、調整後の加工条件情報28を生成する。調整部184は、調整後の加工条件情報28をNC装置19へ送信する。
【0035】
次に、付加製造装置100の基本的な加工原理について図2を用いて説明する。図2は、付加製造装置100の基本的な加工原理を説明するための側面図、上面図、および断面図である。図2では、基材上にビードが積層され、3次元造形物が作製されている途中の様子が示されている。図2によれば、加工ヘッド3にはビームノズル4とワイヤ送給器8とが固定されており、これらはX軸、Y軸およびZ軸の3軸上を一体で移動する。なお、図2では、説明のため構成の一部を省略して図示している。
【0036】
図2では、良好な加工条件でビードを作製している様子が示されている。以下、良好な加工条件で作製ができている状態を、スムース状態と称する。図2では、送給されたワイヤ6がレーザビーム5によって溶融し、溶融池110が形成されている。溶融池110は、ワイヤ6が赤熱されて一部が溶融されて液相と固相が混合した固液相の状態となった部位である。溶融池110は、ワイヤ6と被加工物との接続部に含まれる。図2の側面図および上面図に示される部位61は、ワイヤ6がレーザビーム5によって赤熱されているものの固相状態を保っている部位を示している。部位61は、ワイヤ6の一部である。部位111は、ワイヤ6が赤熱されて一部が溶融されて固相と液相が混合した固液相の状態となった部位、すなわち溶融池110が、再び固相に変化してビードとなった部位を示している。部位111は、ビード11の一部である。図2の側面図および上面図に示されるワイヤ6は溶融池110を介して被加工物と接続されている。接合領域200は、基材13の表面の一部が溶けてワイヤ6と混合された合金状態の領域である。接合領域200は、被加工物に含まれる。
【0037】
また、図2の側面図および上面図では、加工ヘッド3の右側、すなわちX軸の正方向への軸移動とともに、レーザ照射領域R1が溶融池110から外れて、温度が徐々に低下して、部位111の状態となり、さらに完全に冷却固化したビードである部位112の状態となることがわかる。部位112は、ビード11の一部である。なお、図2では、赤熱されている部位61、溶融池110、部位111、完全に冷却固化したビードである部位112において、固相および液相の境界や、赤熱および非赤熱の境界は実際には鮮明にあらわれないが、説明のため明確に区分して示している。図3の断面図では、完全に冷却固化したビードである部位112の断面形状が示されている。ビード断面形状は、加工条件や基材の濡れ性により幅や高さが異なるが、およそ半円形状になる。
【0038】
次に、実施の形態1にかかるドロップ状態、スムース状態、およびスタブ状態について説明する。図3は、実施の形態1にかかるドロップ状態、スムース状態、およびスタブ状態を説明するための図である。ドロップ状態とは、例えば、被加工物から離れた位置にてワイヤが溶融することによって、ワイヤに溶融物が留まることがあり、被加工物には溶融物が付加されなくなる、すなわちワイヤ6と被加工物との接続が切断される一方、溶融後の溶加材の塊であるドロップがワイヤに残る状態である。この状態が継続された場合、ワイヤに残った溶加材の塊を再び溶融させて加工を続行した場合でも、塊の一部が溶け切らずに被加工物に付加されて完成物の品質に悪影響を与えてしまう。スタブ状態とは、例えば、被加工物へ送給されたワイヤをレーザビームによって溶融させる方式の付加製造装置において、溶融前のワイヤが被加工物に衝突してしまった状態である。
【0039】
図3の中央に示されるスムース状態は、レーザビーム5のレーザ出力、ワイヤ6の送給速度、および加工ヘッド3の位置を制御するための情報等の各種加工条件が適切に調整されている状態である。しかしながら、加工が進むうちに、被加工物の蓄熱状態の変化、3次元である被加工物の形状の影響によるガスシールド効果の変化、ガスシールド効果の変化に伴う被加工物の酸化によるレーザ光の吸収率と反射率の変化、被加工物側の凹凸形状に由来する溶融池110のサイズの変化等が発生し、図3の左に示されるドロップ状態、または、図3の右に示されるスタブ状態に移行してしまう。このため、例えば、ドロップ状態、または、スタブ状態を回避したい場合、造形物の蓄熱状態の変化、造形物の形状の影響によるガスシールド効果の変化、ガスシールド効果の変化に伴う被加工物の酸化によるレーザ光の吸収率と反射率の変化、被加工物側の凹凸形状に由来する溶融池110のサイズの変化等を観察し、スムース状態の蓄熱状態が維持されるように、各種加工条件を調整する必要がある。
【0040】
次に、実施の形態1にかかるスムース状態を阻害する要因について説明する。図4は、実施の形態1にかかるスムース状態を阻害する要因を説明するための図である。図4には、基材13および基材13に積層されるビードのXY平面における断面図が示されている。
【0041】
図4の上段では、直線状に形成されたビードAに隣接して他のビードBを造形する場合の断面図が示されている。3次元の造形物の加工においては、通常、複数のビード同士を幾重にも重ねて積層させることにより任意形状が実現される。図4の上段では、ビードAに対して、距離dでビードBを隣接して積層させようとした場合の様子が示されている。図4の上段の左図のように、ビードBは、ビードAが積層されてなければ、点線で囲まれた想定領域に積層され造形されるはずである。しかしながら、ビードAが積層されていることにより、図4の上段の右図のように、想定領域の外部に造形される。このとき、ビードBの高さはビードAの存在により、想定領域の高さより高い位置の領域に造形される。このように、ビードを隣接して積層させる場合は、ビードの高さは、周辺のビード形状の影響を受けることがわかる。ここで、ビードを隣接させて造形するときは、事前に所定の間隔で造形を複数回試行し、最適な加工条件を検討することで、スムース状態での加工を実現することができる。
【0042】
図4の中段では、同じ平面を有する基材13上に積層されるビードであっても、基材13の表面状態、基材13に用いられる材料、および基材13の温度等によって濡れ性が変わることでビードの形状が変化することを説明する断面図が示されている。この断面図は、基材13の濡れ性がかわることで、他の加工条件が同じであっても、ビードCのような形状になる場合もあれば、ビードDのような形状になる場合もあることを示している。また、図4の下段では、ビードE、およびビードFのように、水平面上に積層された場合は点線で囲まれる領域で示される形状であるのに対し、基材13あるいは加工途中の被加工物の形状により、実線で囲まれる領域で示される形状になることが示されている。
【0043】
以上のように、ビード形状は、造形開始から造形修了までの様々な条件に対応して様々な形状をとる。このことは、ワイヤ6と被加工物との間の適切な距離を変化させ、ドロップ状態、またはスタブ状態に移行する要因となり、加工破綻につながる可能性がある。また、実際にドロップ状態、またはスタブ状態に至らない場合でも、スタブ状態に近いスムース状態、または、ドロップ状態に近いスムース状態で加工を続けた場合、加工品質の劣化につながる可能性がある。
【0044】
次に、実施の形態1にかかる付加製造装置100が実行する処理の概要について説明する。図5は、実施の形態1にかかる付加製造装置100による加工状態の制御の概要の一例を説明するための図である。図5は、加工が開始されてから終了するまでの間に、本実施の形態1にかかる付加製造装置100が加工状態をどのように判定し、制御するかを示している。図5において、横軸は加工の進捗状況を示す。図5において、縦軸は加工状態を示す。縦軸において、スムース状態は加工状態が正常であることを示し、ドロップ状態およびスタブ状態は加工状態が異常であることを示している。図5によれば、スムース状態からドロップ状態、または、スタブ状態へ加工状態が変化することにより、加工が破綻するリスクが大きくなることが分かる。なお、図5に示されるA、B、およびCの文字は、それぞれ所定の状態A、状態B、および状態Cであることを表している。
【0045】
図5によれば、付加製造装置100は、まず、加工開始時点から所定期間を評価区間とした加工状態を示す値の平均値を、目標加工状態として設定する。目標加工状態は、例えば、スムース状態の中でも特に安定して加工ができていると考えられる加工状態である。加工状態を示す値は、例えば、画像データ60または画像データ70等に含まれる位置情報、および輝度情報等に基づいて算出される。加工状態を示す値は、画素値の分布を示す情報に基づいて算出されてもよい。加工中様々な要因により加工状態は徐々に変化するが、付加製造装置100は、加工状態を監視し、例えば、画像データ60または画像データ70等に含まれる位置情報、および輝度情報等の変化量に基づいて、ドロップ状態に近づく変化であるか、または、スタブ状態に近づく変化であるかを判定する。このとき、図5に示されるように、付加製造装置100は、加工状態を示す値について、例えば、スムース状態とドロップ状態との境界であるドロップ境界に対応する閾値、および、スムース状態とスタブ状態との境界であるスタブ境界に対応する閾値を予め設定し、加工状態の判定に利用する。なお、付加製造装置100は、一度設定した閾値を設定後の加工状況によって変更するようにしてもよい。
【0046】
図5において、付加製造装置100は、ドロップ傾向であると判定した場合(図5の状態A)、スタブ状態に近づくように各種加工条件を調整する。調整後の加工条件は、例えば、NC装置19に設定され、その後スタブ状態に近づくような加工が実行される。その後さらに加工が進行した後、付加製造装置100は、スタブ傾向であると判定した場合(図5の状態B)、ドロップ状態に近づくように各種加工条件を調整する。その後さらに加工が進行した後、付加製造装置100は、ドロップ傾向であると判定した場合(図5の状態C)、スタブ状態に近づくように各種加工条件を調整する。このとき、付加製造装置100は、状態A、状態B、または状態Cと予め設定された目標加工状態とを比較し、目標加工状態に近づくように各種加工条件を調整する。これにより、ドロップ状態、および、スタブ状態を回避しつつ、常に目標加工状態を維持する制御が可能となる。なお、加工開始時点から所定期間を評価区間とした加工状態を示す値の平均値を目標加工状態に設定することに限られず、加工途中の任意の時点から所定期間を評価区間とした加工状態を示す値の平均値を目標加工状態として設定してもよい。また、付加製造装置100は、過去に収集された加工状態に関する情報から任意の加工状態を抽出することにより、目標加工状態を設定してもよい。
【0047】
次に、本実施の形態1にかかる演算装置18が実行する処理について説明する。図6は、実施の形態1にかかる演算装置18が実行する処理の例を示す図である。なお、本実施形態では、造形処理が開始されると、内部センサユニット23、および、外部センサユニット24は、加工状況の監視を開始するものとする。このとき、内部センサユニット23、および、外部センサユニット24は、例えば、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部の画像を撮像し、画像データを生成しているものとする。
【0048】
図6によれば、演算装置18が備える取得部181は、造形処理が開始されると、画像データを取得する(ステップS1)。取得部181は、例えば、内部センサユニット23、または、外部センサユニット24から輝度分布データを取得する。
【0049】
演算装置18が備える作成部182は、ステップS1で取得した画像データを用いて、ワイヤ6と被加工物との接続状態を判定可能な加工状態情報を作成する(ステップS2)。作成部182は、例えば、内部センサユニット23、または、外部センサユニット24から取得した輝度分布データを用いて、ワイヤ6と被加工物との接続状態を判定可能な加工状態情報を作成する。また、作成部182は、例えば、内部センサユニット23、または、外部センサユニット24から取得した時系列の輝度分布データを用いて、ワイヤ6と被加工物との接続状態を判定可能な加工状態情報を作成する。
【0050】
次に、演算装置18が備える判定部183は、ステップS2で作成した加工状態情報に含まれる画像データに基づく画像のうち、ワイヤ6と被加工物との接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて被加工物の加工状態を判定する(ステップS3)。判定部183は、例えば、加工状態情報に含まれる時系列の輝度分布データを用いて、ワイヤ6と被加工物との接続部を参照し、被加工物の加工状態を判定する。具体的には、判定部183は、例えば、予め設定され、被加工物の加工状態を判定するために基準となる基準画像と撮像部により撮像された撮像画像とを比較し、接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報の類似度が閾値を超えた場合に、当該基準画像に対応する加工状態であると判定する。基準画像には、スムース状態に対応する基準画像、スタブ傾向に対応する基準画像、およびドロップ傾向に対応する基準画像等が含まれている。以下、ワイヤ6と被加工物との接続部の接続状態の判定する方法について説明する。
【0051】
まず、本実施形態のスムース状態がどのように判定されるかについて説明する。付加製造装置100を用いて3次元の造形物を作成する場合、センサユニットの設置位置によっては、3次元の造形物にセンサユニットから加工点がみえない死角を生じさせる部位が形成されることで、ワイヤ6と被加工物との接続部の接続状態を1台のセンサユニットで常時観察することは難しい。また、複数台のセンサユニットを用いて対応することも考えられるが、台数が多くなる分コストが高くなる。そこで、本実施形態では、撮像部である内部センサユニット23として、レーザビーム5と同軸で加工位置を観察可能なヘッドカメラを用いるものとする。ヘッドカメラは、例えば、可視光カメラである。ヘッドカメラを用いることにより、最適な設置位置を検討する必要がなく、かつ、加工位置が造形物の影で見えなくなるといった制約を受けない。このため、ヘッドカメラは、3次元の自由形状造形に適している。なお、撮像部である外部センサユニット24は、内部センサユニット23と比べて広範囲の画像情報を取得できるものの、外部センサユニット24と被加工物との間の外部環境の影響を受けやすく、正確な情報を得ることが難しい。このため、本実施形態では、ワイヤ6と被加工物との接続部の接続状態の判定には、内部センサユニット23から得られる画像データ60を用いるものとする。すなわち、外部センサユニット24から得られる画像データ70は、ワイヤ6と被加工物との接続部の接続状態の判定に直接用いないものとする。ただし、外部センサユニット24から得られる画像データ70は、ワイヤ6と被加工物との接続部の接続状態の判定について、補助的に用いられてもよい。
【0052】
図7は、実施の形態1に係るスムース状態を説明するための側面図、および上面図である。図7に示される側面図は、所定のカメラを用いて側面から接続形状を直接観察した画像を示している。一方、図7に示される上面図は、図7に示される側面図に対応しており、ヘッドカメラから撮像される画像を示している。図7によれば、スムース状態で加工が進行している場合、ワイヤ6の先端から溶融池110に向けて、ワイヤ6に含まれるワイヤ6由来の金属が供給され、部位80が形成される。部位80は、流動性を有しており、ワイヤ6と溶融池110とを接続している。部位80は、部位61よりは温度が高いものの、溶融池110よりも温度が低い。このため、ヘッドカメラから観察され、生成された画像データが表す画像のうち、輝度分布を認識可能な画像において、部位80は、部位61より輝度が高く、溶融池110よりも輝度が低い部位として識別可能である。部位80は、ワイヤ6と被加工物との接続部に含まれる。判定部183は、例えば、ヘッドカメラから撮像された画像において、部位80のような領域が形成されていることが認識できた場合に、加工状態はスムース状態であると判定する。
【0053】
図8は、実施の形態1に係るスムース状態を説明するための画像図である。図8は、ヘッドカメラから撮像され、生成された画像データが表す画像のうち、接続部を含む領域の輝度分布を認識可能な画像を表している。図8に示されるように、輝度が高い部位ほど淡い色で示され、輝度が低い部位ほど濃い色で示されている。図8は、例えば、グレースケールで表現される画像を示している。以下、ヘッドカメラから撮像され、各種加工状態を説明するための画像図も同様である。図8に示される溶融池110は、レーザ照射領域R1の範囲内、または、レーザ照射領域R1の近傍に形成されている。図8に示される溶融池110は、輝度が比較的高く、温度が高い状態であることが分かる。また、図8に示される部位111は、レーザ照射領域R1の範囲外に形成されている。図8に示される部位111は、溶融池110と比べて輝度が比較的低くなっており、基材13上に溶融池110が形成されたあと、レーザ照射領域R1から外れて少し冷めて温度が低い状態となっていることが分かる。図8に示される部位61の輝度によれば、ワイヤ6の温度より高く、部位80の温度より低くなっていることが分かる。判定部183は、例えば、図8に示される輝度分布を示す画像データを用いて、部位80に示されるような領域が所定の大きさ形成されている場合に、加工状態はスムース状態であると判定する。なお、加工状態を判定するための画像図は、グレースケールに限られない。加工状態を判定するための画像図は、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部および接続部近傍の各部位の形状および温度等が認識可能であればどのような形式でもよく、例えば、フルカラー、または、白黒2値の設定値で示されていてもよい。
【0054】
次に、本実施形態のドロップ状態がどのように判定されるかについて説明する。図9は、実施の形態1にかかるドロップ現象についての付加製造装置100による加工状態を判定する方法を説明するための図である。
【0055】
図9において、状態1はスムース状態を示しており、これを初期状態とする。このとき、図9に示される状態1において、ワイヤ6の先端と溶融池110との境界Lからレーザビーム5の照射範囲の右端までの距離はd1であるものとする。図9に示される状態1において、ワイヤ6の溶融が過剰になってくると、状態2のように、溶融池110の一部に塊状部分であるダマ部1101が形成される。図9に示される状態2の状態から加工を継続した場合、状態3または状態4に移行する可能性がある。状態3は、例えば、状態2から増大したワイヤ6の先端のダマ部1101が溶融池110の本体側に落下してドロップ状態とならなかった様子を示している。このとき、図9に示される状態3において、ワイヤ6の先端と溶融池110との境界Lからレーザビーム5の照射範囲の右端までの距離は、例えば、d1より大きいd2となっている。なお、状態3から一定時間が経過する場合に、例えば、ワイヤ6が被加工物に対してX軸の正の方向に移動することで、ワイヤ6と溶融池110との境界Lも被加工物に対してX軸の正の方向に移動して状態1に戻る。
【0056】
図9に示される状態4は、状態2のドロップ傾向からさらにドロップ状態へ向けて進行し、一定時間経過した後、最終的にドロップ状態になってしまった様子を示している。以上のことから、状態1から状態2へ遷移した場合、状態4のドロップ状態に遷移する可能性があり、この状態遷移を認識することができれば、ドロップ現象の予兆を捉えることができると考えられる。
【0057】
そこで、本実施の形態1にかかる演算装置18が備える判定部183は、図9に示される状態1から状態2へ遷移したことを、例えば、ヘッドカメラから撮像される画像を用いて認識する。そして、判定部183は、被加工物の加工状態が状態1から状態2へ遷移した場合に、加工状態はドロップ傾向であると判定する。
【0058】
図10は、実施の形態1にかかるドロップ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図である。図10の状態1および状態2を示す図は、図9の状態1および状態2を示す図にそれぞれ対応している。図10は、ヘッドカメラから撮像され、生成された画像データが表す画像のうち、接続部を含む領域の輝度分布の遷移を認識可能な時系列の画像を表している。図10によれば、状態1の部位80の領域が拡大し、かつ、輝度が高くなり、最終的に状態2において溶融池110の一部にダマ部1101に変化していることが分かる。ダマ部1101は、溶融池110本体の上方、すなわち照射部またはヘッドカメラからみて手前側に位置している。このため、ダマ部110が手前側でレーザビーム5の照射を受けてレーザビーム5を一部遮ることにより、溶融池110本体に届く熱エネルギーが減少し、溶融池110本体の温度は、ダマ部1101よりも低くなる。一方、ダマ部1101からは熱の逃げ場がなくなっており、ダマ部1101の温度は、例えば、図10に示される状態1の部位80の温度より高くなっている。このとき、図10に示される画像では、ダマ部1101が示す領域の輝度は、溶融池110本体が示す領域の輝度より高くなる。すなわち、ダマ部1101は、溶融池110本体より明るくみえる。判定部183は、このような状態変化が認識できた場合、被加工物の加工状態はドロップ傾向であると判定する。
【0059】
以下、ヘッドカメラから撮像される画像を用いたドロップ傾向の判定方法の他の例について説明する。
【0060】
図11は、実施の形態1にかかるドロップ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図である。図11は、ヘッドカメラから撮像され、生成された画像データが表す画像のうち、接続部を含む領域の輝度分布の変化を認識可能な時系列の画像を表している。図11によれば、左図から右図にかけて時間が経過するにつれて部位80を示す領域が次第に小さくなり、スムース状態を示す状態1から最終的に部位80の領域が消滅したように見える状態4まで輝度分布が変化している。これにより、ワイヤ6と溶融池110とを接続している部位80の大きさがヘッドカメラから撮像される画像では認識できなくなるほど小さくなり、接続されている領域がわずかであると判断できる。そして、このまま各種加工条件を調整せずに加工を続ければドロップ状態に至る可能性が高いと認識できる。このとき、判定部183は、被加工物の加工状態はドロップ傾向であると判定する。
【0061】
図12は、実施の形態1にかかるドロップ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図である。図12は、ヘッドカメラから撮像され、生成された画像データが表す画像のうち、接続部を含む領域の輝度分布の遷移を認識可能な時系列の画像を表している。図12によれば、左図から右図にかけて時間が経過するにつれて部位80を示す領域の輝度が次第に高くなり、スムース状態を示す状態1から最終的に溶融池110と同等の輝度に到達して部位80の領域が消滅したように見える状態4まで輝度分布が変化している。これにより、ワイヤ6と溶融池110とを接続している部位80の輝度が、ヘッドカメラから撮像される画像では溶融池と判別がつかなくなるほど高くなり、部位80の粘性が低くなっていると判断できる。そして、このまま各種加工条件を調整せずに加工を続ければドロップ状態に至る可能性が高いと認識できる。このとき、判定部183は、被加工物の加工状態はドロップ傾向であると判定する。
【0062】
図13は、実施の形態1にかかるドロップ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図である。図13は、ヘッドカメラから撮像され、生成された画像データが表す画像のうち、接続部を含む領域の輝度分布の遷移を認識可能な時系列の画像を表している。図13によれば、状態1から状態2にかけて、固液相の状態である溶融池110の領域がY軸の正の方向に大きく移動していることがわかる。この要因としては、例えば、被加工物の角の部分を加工している際に、被加工物に形成された凹凸形状によって、固液相の状態である溶融池110に重力または表面張力が加わったためと考えられる。このとき、部位80と溶融池110との接続は、溶融池110の移動により一部の接続が切断されて、ドロップ状態に至る可能性が高まる。部位80のすべてが切断されたとき、部位80の一部は溶融池110に落下してしまうため、加工品質の観点からこれを回避する必要がある。このとき、判定部183は、被加工物の加工状態はドロップ傾向であると判定する。
【0063】
次に、本実施形態のスタブ状態がどのように判定されるかについて説明する。図14は、実施の形態1にかかるスタブ現象についての付加製造装置100による加工状態を判定する方法を説明するための図である。
【0064】
図14において、状態1はスムース状態を示しており、これを初期状態とする。このとき、図14に示される状態1において、ワイヤ6の先端と溶融池110との境界Lからレーザビーム5の照射範囲の右端までの距離はd1であるものとする。図14に示される状態1において、例えば、ワイヤ6の送給速度がワイヤ6が溶融される速度より速い場合、または、レーザビーム5のレーザ出力が弱く、ワイヤ6が溶融しにくい状態で送り出されている場合、状態2のように、ワイヤ6の先端が被加工物に接近していることがわかる。具体的には、ワイヤ6の先端が被加工物の一部で固相の状態である部位111に接近している。このとき、図14に示される状態2において、ワイヤ6の先端と溶融池110との境界Lからレーザビーム5の照射範囲の右端までの距離は、例えば、d1より小さいd2となっている。図14に示される状態2の状態から加工を継続した場合、状態3または状態4に移行する可能性がある。状態3は、例えば、状態2からワイヤ6の先端の溶融が進みスタブ状態とならなかった様子を示している。このとき、図14に示される状態3において、ワイヤ6の先端と溶融池110との境界Lからレーザビーム5の照射範囲の右端までの距離は、例えば、d2より大きく、d1より小さいd3となっている。なお、状態3から一定時間が経過する場合に、例えば、さらにワイヤ6の先端の溶融が進み、状態1に戻る。
【0065】
図14に示される状態4は、状態2のスタブ傾向からさらにスタブ状態へ向けて進行し、一定時間経過した後、最終的にスタブ状態になってしまった様子を示している。以上のことから、状態1から状態2へ遷移した場合、状態4のスタブ状態に遷移する可能性があり、この状態遷移を認識することができれば、スタブ現象の予兆を捉えることができると考えられる。
【0066】
そこで、本実施の形態1にかかる演算装置18が備える判定部183は、図14に示される状態1から状態2へ遷移したことを、例えば、例えば、ヘッドカメラから撮像される画像を用いて認識する。そして、判定部183は、被加工物の加工状態が状態1から状態2へ遷移した場合に、加工状態はスタブ傾向であると判定する。
【0067】
図15は、実施の形態1にかかるスタブ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図である。図15の状態1および状態2を示す図は、図14の状態1および状態2を示す図にそれぞれ対応している。図15は、ヘッドカメラから撮像され、生成された画像データが表す画像のうち、接続部を含む領域の輝度分布の遷移を認識可能な時系列の画像を表している。図15によれば、スムース状態である状態1から、ワイヤ6の先端の位置が右側、すなわちX軸の正の方向に移動し、状態2では、ワイヤ6の先端が被加工物の一部である部位111にXY平面上で接近していることが分かる。このとき、ワイヤ6の先端と溶融池110とを接続する部位80の存在はほぼ確認できなくなり、ワイヤ6の先端は、溶融池110のうち右端付近に位置している。ここで、Z軸方向におけるワイヤ6の先端の位置はヘッドカメラから撮像された画像図のみからは明らかではないが、本実施形態の付加製造装置100におけるワイヤ6の送出角度は、図14に示されるような角度に設定されており、ワイヤ6の位置は、通常、溶融されずに送出され続けた場合に、XY平面上でワイヤ6の先端が被加工物に接近すると、Z軸上でも被加工物に接近するように配置されている。このことから、ヘッドカメラから撮像された画像図におけるXY平面上でワイヤ6の先端が被加工物の一部である部位111にXY平面上で接近している場合、Z軸方向においても、ワイヤ6の先端が被加工物の一部である部位111に接近していると判断することができる。そして、このような状態変化があった場合、このまま各種加工条件を調整せずに加工を続ければスタブ状態に至る可能性が高くなる。判定部183は、図15に示されるように、接続部の輝度分布の状態変化に基づいて、例えば、部位80を含む接続部の大きさ、形状、および位置のうち、少なくとも1つの状態変化が認識できた場合、被加工物の加工状態はスタブ傾向であると判定する。なお、判定部183は、内部センサユニット23であるヘッドカメラから撮像された画像図に加えて、例えば、可視光カメラを含む外部センサユニット24から得られる画像データ70に基づく画像図を用いてワイヤ6の先端のZ軸方向の位置を判断するようにしてもよい。
【0068】
以下、ヘッドカメラから撮像される画像を用いたスタブ傾向の判定方法の他の例について説明する。
【0069】
図16は、実施の形態1にかかるスタブ傾向の判定方法を説明するための画像遷移図である。図16は、ヘッドカメラから撮像され、生成された画像データが表す画像のうち、接続部を含む領域の輝度分布の遷移を認識可能な時系列の画像を表している。図16によれば、ワイヤ6の先端、接続部、および被加工物から放射される光の振動により、溶融池110の輝度分布が変化することにより、状態1から状態6にかけて溶融池110の大きさ、形状、および位置が刻々と変化しているのが分かる。この要因としては、例えば、ワイヤ6の先端がレーザビーム5の照射により溶融される速さよりも、ワイヤ6が送給される速度が速いことが挙げられる。このとき、ワイヤ6の溶融が十分でない状態で溶融池110に到達するため、溶融池110の温度はスムース状態と比べて低く、溶融池110の粘性が高くなっており、溶融池110とワイヤ6との接続部において、ワイヤ6の移動に伴う振動が伝達される。このような状態で加工を継続した場合、例えば、ワイヤ6の先端が溶融しきらない状態で送給され続け、被加工物の一部である部位111に直接衝突する可能性が高くなる。判定部183は、図16に示されるように、接続部の輝度分布の状態変化に基づいて、例えば、溶融池110を含む接続部の大きさ、形状、および位置のうち、少なくとも1つの状態変化が認識できた場合、被加工物の加工状態はスタブ傾向であると判定する。
【0070】
演算装置18が備える調整部184は、加工状態に異常傾向があると判定された場合(ステップS3のYes)、異常傾向の内容に対応して調整後の加工条件情報28を生成する(ステップS4)。調整部184は、例えば、ステップS3においてドロップ傾向であると判定された場合、予め設定された目標加工状態に近づくように、すなわちスタブ状態に近づくように調整後の各種加工条件含む加工条件情報28を生成する。このとき、調整後の各種加工条件には、例えば、ワイヤ6の送給速度を上げる加工条件、レーザビーム5のレーザ出力を下げる加工条件、および、ワイヤ6の先端が溶融池110に近づくように加工ヘッド3の位置をXYZ空間において変更する加工条件等のうち少なくとも1つが含まれている。いずれも、ドロップ傾向時に発生するダマ部の溶融を促進するような加工条件であり、これによりドロップ傾向からスタブ状態に近づくような調整が可能となる。なお、調整する加工条件のうち、ワイヤ6の送給速度、および、レーザビーム5のレーザ出力は、作製される3次元造形物の造形形状の制御にも関連している場合、加工ヘッド3の位置を制御するための情報の変更を優先的に調整することが好ましい。このとき、調整部184は、例えば、加工ヘッド3の軸移動速度を、レーザビーム5のレーザ出力、およびワイヤ6の送給速度、および加工ヘッド3の位置を制御するための情報のうち少なくとも1つと併用して調整するようにしてもよい。具体的には、調整部184は、例えば、スタブ傾向であると判定された場合は、加工ヘッド3の軸移動速度が下がるように調整する。調整部184は、例えば、ドロップ傾向であると判定された場合は、加工ヘッド3の軸移動速度が上がるように調整する。
【0071】
また、調整部184は、例えば、ステップS3においてスタブ傾向であると判定された場合、予め設定された目標加工状態に近づくように、すなわちドロップ状態に近づくように調整後の各種加工条件含む加工条件情報28を生成する。このとき、調整後の各種加工条件には、例えば、ワイヤ6の送給速度を下げる加工条件、レーザビーム5のレーザ出力を上げる加工条件、および、ワイヤ6の先端が溶融池110から遠ざかるように加工ヘッド3の位置をXYZ空間において変更する加工条件等のうち少なくとも1つが含まれている。いずれも、スタブ傾向時に見られるワイヤ6の先端が被加工物に接近している状態から接近していない状態にして衝突を回避するための加工条件であり、これによりスタブ傾向からドロップ状態に近づくような調整が可能となる。
【0072】
調整部184は、ステップS4において調整後の加工条件情報28を生成すると、調整後の加工条件情報28を、例えば、NC装置19に送信する。これにより、NC装置19に調整後の加工条件情報28が設定される。その後、ステップS3においてドロップ傾向であると判定されていた場合、調整後の加工条件情報28によりドロップ傾向からスタブ状態に近づくような加工が実行される。また、ステップS3においてスタブ傾向であると判定されていた場合、調整後の加工条件情報28によりスタブ傾向からドロップ状態に近づくような加工が実行される。
【0073】
以上のように、調整部184によれば、ドロップ状態、またはスタブ状態に至る前にスムース状態に戻すことが可能となり、常に安定したスムース状態で加工を続けることができ、被加工物の品質を向上させることができる。また、従来作業者が行っていた加工前の条件調整作業、および、加工プログラムの試行錯誤等を自動で行うことができ、作業者負担を軽減することが可能となる。なお、調整部184は、加工の破綻回避を優先する場合に、加工ヘッド3の位置を制御するための情報、および、他の加工条件を同時に調整するようにしてもよい。また、調整部184は、形状精度を優先する場合、加工ヘッド3の位置を制御するための情報を、他の加工条件と比べて優先的に調整してもよい。
【0074】
演算装置18は、ステップS5で調整後の加工条件情報が設定されると、造形処理が終了したか否か判定する(ステップS6)。
【0075】
演算装置18は、造形処理が終了していないと判定した場合(ステップS6のNo)、再びステップS1で画像データを取得し、ステップS2からステップS6を実行する。このように、造形処理中にステップS1からステップS6を繰り返すことにより、常にスムース状態、より詳細には予め設定された目標加工状態に近い状態で加工処理を実行することが可能となる。
【0076】
演算装置18は、造形処理が終了したと判定した場合(ステップS6のYes)、加工状況の監視を終了する。なお、演算装置18は、ステップS3において、加工状態に異常傾向はない、すなわちスムース状態であると判定した場合(ステップS3のNo)、ステップS6の造形処理が終了しているか否かの判定処理を実行する。
【0077】
上記実施形態によれば、付加製造装置100は、ワイヤ6を供給するワイヤ送給器8と、ワイヤ6にレーザビーム5を照射し、ワイヤ6を溶融させる照射部と、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を撮像し、画像データ60または/および画像データ70を生成する撮像部と、画像データ60または/および画像データ70に基づく画像のうち、接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて、被加工物の加工状態を判定する判定部183と、を備えている。
【0078】
これにより、ワイヤ6と被加工物との接続状態を認識することが可能となり、スムース状態、ドロップ傾向、およびスタブ傾向のいずれであるかを把握することができる。また、撮像部により撮像され、生成された画像データ60または/および画像データ70に基づく画像を用いて加工状態をリアルタイムで監視することができ、例えば、ドロップ傾向、およびスタブ傾向を早い段階で認識することが可能となる。
【0079】
したがって、本実施形態によれば、加工状態を精度よく把握することが可能な付加製造装置を提供することが可能となる。
【0080】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、演算装置18は、付加製造装置100の内部に設けられている例について説明したが、これに限定されない。演算装置18は、例えば、付加製造装置100外で、同一ネットワークまたは異なるネットワークに存在するパーソナルコンピュータ(Personal Computer:PC)内部に設けられていてもよい。図17は、実施の形態2にかかる付加製造システム300の構成を示す図である。図17に示される付加製造システム300は、付加製造装置100A、および演算装置18を有する。付加製造装置100A、演算装置18の構成を除き、上記実施形態における付加製造装置100が有する構成と同様である。
【0081】
実施の形態3.
実施の形態3では、機械学習の手法によって、被加工物の加工状態の判定の精度を向上させるために、各種パラメータセットを学習する例について説明する。図18は、実施の形態3にかかる付加製造装置が有する演算装置の構成を示すブロック図である。図18に示される演算装置18Aは、付加製造のための演算を行う。図18には、演算装置18Aが有する機能構成を示している。
【0082】
演算装置18Aは、例えば、図1に示される演算装置18と同様に、取得部181、作成部182、判定部183、および調整部184を有する。演算装置18Aは、機械学習を行う学習装置185Aと、被加工物の加工状態の判定を行う推論装置186Aと、学習済モデルを記憶するモデル記憶部187Aとを有する。
【0083】
学習装置185Aは、各種パラメータセットを学習し、被加工物の判定の精度を向上させるための判定用学習済モデルを生成する。
【0084】
推論装置186Aは、学習装置185Aにより生成された判定用学習済モデルを用いて、被加工物の加工状態を推論する。
【0085】
図19は、実施の形態3にかかる学習装置の機能構成を示すブロック図である。図19に示される学習装置185Aは、データ取得部1851Aとモデル生成部1852Aとを有する。データ取得部1851Aは、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像データと、当該画像データに関連付けられたラベルとを、学習用データセットとして取得する。データ取得部1851Aは、取得した学習用データセットを、モデル生成部1852Aへ出力する。なお、画像データは、複数の時点の画像データを含む時系列の画像データであってもよい。
【0086】
本実施形態におけるラベルは、画像データに含まれる接続部の接続状態、すなわち被加工物の加工状態を示す情報である。ラベルには、例えば、初期状態に近いスムース状態、ドロップ傾向、ドロップ状態、スタブ傾向、及びスタブ状態等が含まれる。なお、ラベルの種類はこれらに限られず、さらに細分化してもよい。また、ラベルは、例えば、画像データ、または、時系列の画像データ毎に、製造者、または、ユーザによって設定されている。ただし、ラベルの設定方法は、任意であってよい。
【0087】
モデル生成部1852Aは、データ取得部1851Aにより作成されたデータセットに基づいて、画像データと加工状態との対応関係を学習させる。モデル生成部1852Aが用いる学習アルゴリズムは、教師あり学習、教師なし学習、強化学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。一例として、ニューラルネットワークを適用した場合について説明する。
【0088】
モデル生成部1852Aは、例えば、ニューラルネットワークモデルに従って、いわゆる教師あり学習により、画像データに対して関連付けられる加工状態を学習する。ここで、教師あり学習とは、入力と結果(ラベル)のデータの組を学習装置に与えることで、それらの学習用データにある特徴を学習し、入力から結果を推論する手法をいう。
【0089】
ニューラルネットワークは、複数のニューロンからなる入力層、複数のニューロンからなる中間層(隠れ層)、及び複数のニューロンからなる出力層で構成される。中間層は、1層、又は2層以上でもよい。図20は、図19に示すモデル生成部1852Aが使用するニューラルネットワークの一例を示す図である。図20に示される3層のニューラルネットワークにおいて、複数の入力が入力層(X1‐X3)に入力されると、その値に重みW1(w11‐w16)を掛けて中間層(Y1‐Y2)に入力され、その結果にさらに重みW2(w21‐w26)を掛けて出力層(Z1‐Z3)から出力される。この出力結果は、重みW1とW2の値によって変わる。
【0090】
実施の形態3において、ニューラルネットワークは、データ取得部1851Aによって取得される画像データと、当該画像データに関連付けられたラベルとの組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、画像データに対して関連付けられる加工状態を学習する。すなわち、ニューラルネットワークは、入力層に画像データを入力して出力層から出力された結果が、当該画像データに関連付けられたラベルが示す加工状態に近づくように重みW1とW2を調整することで学習する。
【0091】
モデル生成部1852Aは、以上のような学習を実行することで判定用学習済モデルを生成し、出力する。モデル記憶部187Aは、モデル生成部1852Aから出力された判定用学習済モデルを記憶する。
【0092】
次に、学習装置185Aが実行する処理について説明する。図21は、実施の形態3における学習装置が実行する処理の例を示す図である。
【0093】
図21によれば、まず、データ取得部1851Aは、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像データと、当該画像データに関連付けられたラベルとを、学習用データセットとして取得する(ステップS11)。なお、画像データ、および、ラベルを同時に取得するものとしたが、画像データ、および、ラベルを関連づけて入力できれば良く、画像データ、および、ラベルをそれぞれ別のタイミングで取得しても良い。
【0094】
モデル生成部1852Aは、データ取得部1851Aによって取得される画像データ、および、当該画像データに関連付けられたラベルの組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、画像データに対して関連付けられる加工状態を学習し、判定用学習済モデルを生成する(ステップS12)。
【0095】
モデル記憶部187Aは、モデル生成部1852Aが生成した学習モデルを記憶する(ステップS13)。
【0096】
図22は、実施の形態3にかかる推論装置の機能構成を示すブロック図である。図22に示される推論装置186Aは、データ取得部1861Aと推論部1862Aとを有する。データ取得部1861Aは、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像データを取得する。この画像データは、例えば、図1に示される内部センサユニット23、または、外部センサユニット24、すなわち撮像部により撮像され、生成された画像データである。
【0097】
推論部1862Aは、判定用学習済モデルを利用して得られる加工状態を推論する。すなわち、この判定用学習済モデルにデータ取得部1861Aで取得した画像データを入力することで、画像データから推論される加工状態を出力することができる。
【0098】
次に、推論装置186Aが実行する処理について説明する。図23は、実施の形態3における推論装置が実行する処理の例を示す図である。
【0099】
図23によれば、データ取得部1861Aは、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像データを取得する(ステップS21)。
【0100】
推論部1862Aは、モデル記憶部187Aから判定用学習済モデルを取得し、取得した判定用学習済モデルにステップS21で取得した画像データを入力し、画像データから推論される加工状態を得る(ステップS22)。
【0101】
推論部1862Aは、判定用学習済モデルから得られた加工状態を、推論結果として判定部183に出力する(ステップS23)。これにより、判定部183は、判定用学習済モデルから得られた加工状態を用いて被加工物の加工状態を判定することが可能となる。すなわち、判定部183は、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像データと、当該画像データに関連付けられた加工状態との関係について学習を行うことにより得られた学習済モデルに基づいて、前記被加工物の加工状態を判定することができる。
【0102】
実施の形態3によれば、付加製造装置100は、被加工物の加工状態の判定の精度を向上させるための判定用学習済モデルを使用して、被加工物の加工状態を判定する。具体的には、付加製造装置100は、溶融されたワイヤ6と当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像データと、当該画像データに関連付けられた加工状態との関係について学習を行うことにより得られた学習済モデルに基づいて、被加工物の加工状態を判定する。これにより、加工状態の判定の精度を向上させることが可能となる。また、加工状態の判定の精度が向上できるため、より細分化された加工状態を認識することが可能となる。
【0103】
なお、実施の形態3では、学習装置185Aは、付加製造装置100に内蔵されている例について説明したがこれに限られない。学習装置185Aは、付加製造装置100に含まれる装置に限られず、付加製造装置100の外部の装置であっても良い。学習装置185Aは、ネットワークを介して付加製造装置100に接続可能な装置であっても良い。学習装置185Aは、クラウドサーバ上に存在する装置であっても良い。
【0104】
学習装置185は、複数の付加製造装置100に対して作成されたデータセットに従って、パラメータを学習しても良い。学習装置71は、同一の現場で使用される複数の付加製造装置100からデータセットを取得しても良く、あるいは、互いに異なる現場で使用される複数の付加製造装置100からデータセットを取得しても良い。データセットは、複数の現場において互いに独立して稼働する複数の付加製造装置100から収集されたものであっても良い。複数の付加製造装置100からのデータセットの収集を開始した後に、データセットが収集される対象に新たな付加製造装置100が追加されても良い。また、複数の付加製造装置100からのデータセットの収集を開始した後に、データセットが収集される対象から、複数の付加製造装置100のうちの一部が除外されても良い。
【0105】
ある1つの付加製造装置100について学習を行った学習装置185は、当該付加製造装置100以外の他の付加製造装置100についての学習を行っても良い。当該他の付加製造装置100についての学習を行う学習装置71は、当該他の付加製造装置100における再学習によって、出力の予測モデルを更新することができる。
【0106】
実施の形態4.
実施の形態4では、機械学習の手法によって、加工条件の調整の精度を向上させるために、各種パラメータセットを学習する例について説明する。図24は、実施の形態4にかかる付加製造装置が有する演算装置の構成を示すブロック図である。図24に示される演算装置18Bは、付加製造のための演算を行う。図24には、演算装置18Bが有する機能構成を示している。
【0107】
演算装置18Bは、例えば、図1に示される演算装置18と同様に、取得部181、作成部182、判定部183、および調整部184を有する。演算装置18Bは、機械学習を行う学習装置185Bと、加工条件の調整とを行う推論装置186Bと、学習済モデルを記憶するモデル記憶部187Bとを有する。
【0108】
学習装置185Bは、各種パラメータセットを学習し、加工条件の調整の精度を向上させるための調整用学習済モデルを生成する。
【0109】
推論装置186Bは、学習装置185Bにより生成された調整用学習済モデルを用いて、調整後の加工条件を推論する。
【0110】
図25は、実施の形態4にかかる学習装置の機能構成を示すブロック図である。学習装置185Bは、データ取得部1851Bとモデル生成部1852Bとを有する。データ取得部1851Bは、レーザビーム5のレーザ出力、ワイヤ6の送給速度、および加工ヘッドの位置を制御するための情報のうち、少なくとも1つを含む加工条件と、予め設定された目標加工状態に対応するワイヤ6および被加工物を含む画像データと、当該加工条件によって加工が開始された後に取得されるワイヤ6および被加工物を含む画像データとを取得する。加工条件によって加工が開始された後に取得されるワイヤ6および被加工物を含む画像データとは、加工が開始された後に取得された画像データであれば取得タイミングは任意であり、例えば、加工が開始された直後から所定時間経過、または加工が終了するまでに取得された時系列の画像データである。また、加工条件によって加工が開始された後に取得されるワイヤ6および被加工物を含む画像データは、加工が開始された後に所定時間が経過した後からさらに所定時間が経過するまでに取得された画像データであってもよい。また、加工条件によって加工が開始された後に取得されるワイヤ6および被加工物を含む画像データは、加工の終了時点で取得された画像データであってもよい。また、加工が終了されるタイミングとしては、例えば、複数の層により完成品が形成される場合、複数の層のうち任意の1層分が形成されたタイミング、または、完成品が形成されたタイミングのいずれであってもよい。
【0111】
データ取得部1851Bは、取得した加工条件、画像データ、および他の各種計測データとを含むデータセットを作成する。データ取得部1851Bは、作成したデータセットをモデル生成部1852Bへ出力する。
【0112】
モデル生成部1852Bは、データ取得部1851Bから出力されたデータセットを用いて調整用学習済モデルを生成する。モデル生成部1852Bが用いる学習アルゴリズムは、教師あり学習、教師なし学習、強化学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。一例として、強化学習(Reinforcement Learning)を適用した場合について説明する。強化学習は、ある環境内におけるエージェントである行動主体が、現在の状態を観測し、取るべき行動を決定する、というものである。エージェントは行動を選択することで環境から報酬を得て、一連の行動を通じて報酬が最も多く得られるような方策を学習する。強化学習の代表的な手法として、Q学習(Q-Learning)およびTD学習(TD-Learning)などが知られている。例えば、Q学習の場合、行動価値関数Q(s,a)の一般的な更新式である行動価値テーブルは、次の式(1)で表される。行動価値関数Q(s,a)は、環境「s」のもとで行動「a」を選択する行動の価値である行動価値Qを表す。
【0113】
【数1】
【0114】
上記の式(1)において、「st」は、時刻「t」における環境の状態を表す。「at」は、時刻「t」における行動を表す。行動「at」により、状態は「st」から「st+1」へ変わる。「rt+1」は、状態が「st」から「st+1」へ変わることによってもらえる報酬を表す。「γ」は、割引率を表し、0<γ≦1を満たす。「α」は、学習係数を表し、0<α≦1を満たす。実施の形態4において、行動「at」は、レーザビーム5のレーザ出力、ワイヤ6の送給速度、および加工ヘッド3の位置を制御するための情報のうち、少なくとも1つを含む加工条件である。なお、加工条件に、加工ヘッド3の軸移動速度を加えてもよい。状態「st」は、例えば、当該加工条件によって加工が開始された後に取得されるワイヤ6および被加工物を含む画像データである。状態「st」は、データセットに含まれる加工条件によって加工が開始された後から加工が終了されるまでに取得される画像データであれば、取得期間、取得数は限定されない。すなわち、学習の目的に合わせて取得期間、取得数を任意に設定可能である。モデル生成部1852は、時刻「t」の状態「st」における最良の行動「at」を学習する。
【0115】
上記の式(1)により表される更新式は、時刻「t+1」における最良の行動「a」の行動価値が、時刻「t」において実行された行動「a」の行動価値Qよりも大きければ、行動価値Qを大きくし、逆の場合は、行動価値Qを小さくする。換言すれば、時刻「t」における行動「a」の行動価値Qを、時刻「t+1」における最良の行動価値に近づけるように、行動価値関数Q(s,a)を更新する。それにより、ある環境における最良の行動価値が、それ以前の環境における行動価値に順次伝播する。
【0116】
モデル生成部1852Bは、報酬計算部1853Bと関数更新部1854Bとを有する。報酬計算部1853Bは、データセットに含まれる画像データと予め設定された目標加工状態に対応する画像データとの差に基づいて報酬を計算する。データセットに含まれる画像データは、例えば、データセットに含まれる加工条件により加工が開始された後に取得された画像データであり、溶融されたワイヤと6当該ワイヤ6が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を表す。関数更新部1854Bは、報酬計算部1853Bによって計算される報酬に従って、加工条件を決定するための関数を更新する。関数更新部1854Bは、関数の更新によって作成された学習済モデルをモデル記憶部187Bへ出力する。
【0117】
報酬計算部1853Bは、データセットに含まれる画像データと予め設定された目標加工状態に対応する画像データとの差に基づいて、報酬「r」を計算する。報酬計算部1853Bは、当該差が小さくなった場合において、報酬「r」を増大させる。報酬計算部1853Bは、報酬の値である「1」を与えることによって報酬「r」を増大させる。なお、報酬の値は「1」に限られない。また、報酬計算部1853Bは、当該差が大きくなった場合に、報酬「r」を低減させる。報酬計算部1853Bは、報酬の値である「-1」を与えることによって報酬「r」を低減させる。なお、報酬の値は「-1」に限られない。内部センサユニット23もしくは外部センサユニット24による撮像、生成が可能な画像データ、内部センサユニット23もしくは外部センサユニット24による測定が可能な各種変数、または加工条件についての制約条件がある場合、報酬計算部1853Bは、制約条件を満たさない場合に報酬を低減させても良い。
【0118】
図26は、実施の形態4における学習装置が実行する処理の例を示す図である。以下、図26を参照して、行動価値関数Q(s,a)を更新する強化学習の方法について説明する。
【0119】
図26によれば、学習装置185Bは、学習用データを取得する(ステップS31)。次に、学習装置185Bは、報酬を算出する(ステップS32)。次に、学習装置185Bは、報酬に基づいて行動価値関数Q(s,a)を更新する(ステップS33)。そして、学習装置185Bは、行動価値関数Q(s,a)が収束したか否かを判断する(ステップS34)。学習装置185Bは、ステップS23における行動価値関数Q(s,a)の更新が行われなくなることによって行動価値関数Q(s,a)が収束したと判定する。
【0120】
学習装置185Bは、行動価値関数Q(s,a)が収束していないと判定した場合(ステップS34のNo)、動作手順をステップS11へ戻す。なお、学習装置185は、ステップS14による判定を行わず、ステップS33からステップS31へ動作手順を戻すことによって学習を継続させることとしても良い。
【0121】
学習装置185Bは、行動価値関数Q(s,a)が収束したと判定された場合(ステップS34のYes)、学習を終了する。そして、モデル記憶部187Bは、生成された行動価値関数Q(s,a)である調整用学習済モデルを記憶する(ステップS35)。
【0122】
図27は、実施の形態4にかかる推論装置の機能構成を示すブロック図である。図27に示される推論装置186Bは、学習済モデルに基づいて、予め設定された目標加工条件に近づくような加工条件を推論する。推論装置186Bは、データ取得部1861Bと推論部1862Bとを有する。
【0123】
データ取得部1861Bは、調整前において、予め設定された目標加工状態に対応する画像データを推論用データとして取得する。データ取得部1861Bは、取得した画像データを推論部1862Bへ出力する。推論部1862Bは、モデル記憶部187Bから読み出された学習済モデルへ予め設定された目標加工状態に対応する画像データを入力することで、予め設定された目標加工条件に近づくような加工条件を推論する。なお、データ取得部1861Bは、調整前に、処理を一時停止して画像データを取得してもよいし、処理をしながらリアルタイムで画像データを取得してもよい。また、データ取得部1861Bは、被加工物に使用される材料毎、加工条件毎、または加工形状毎に画像データを取得してもよい。また、予め設定される目標加工状態は、例えば、調整前に撮像された画像データに基づいて設定される。目標加工状態は、加工状況に応じて任意に設定可能であり、例えば、ユーザにより設定されてもよい。
【0124】
図28は、実施の形態4における推論装置が実行する処理の例を示す図である。図28によれば、推論装置186Bは、データ取得部1861Bにおいて、推論用データを取得する(ステップS41)。次に、推論装置186Bは、推論部1862Bにおいて、取得されたデータである推論用データを調整用学習済モデルへ入力し、予め設定された目標加工条件に近づくような加工条件を求める(ステップS42)。そして、推論装置186Bは、調整用学習済モデルから得られた加工条件を、推論結果として調整部184に出力する(ステップS43)。これにより、調整部184は、調整用学習済モデルから得られた加工条件を用いて、調整後の加工条件情報28を生成することが可能となる。
【0125】
実施の形態4によれば、付加製造装置100は、加工条件の調整の精度を向上させるための調整用学習済モデルを使用して、調整後の加工条件情報28を生成する。具体的には、付加製造装置100は、レーザビーム5のレーザ出力、ワイヤ6の送給速度、および加工ヘッド3の位置を制御するための情報のうち、少なくとも1つを含む加工条件と、予め設定された目標加工状態に対応するワイヤ6および被加工物を含む画像データと、当該加工条件によって加工が開始された後に取得されるワイヤ6および被加工物を含む画像データとの関係について学習を行うことにより得られた学習済モデルに基づいて、調整後の加工条件情報28を生成する。これにより、加工条件の調整の精度を向上させることが可能となる。
【0126】
実施の形態4では、学習装置185Bが用いる学習アルゴリズムに強化学習を適用する場合について説明したが、学習アルゴリズムには、強化学習以外の学習が適用されても良い。学習装置185Bは、強化学習以外の公知の学習アルゴリズム、例えば、深層学習(Deep Learning)、ニューラルネットワーク、遺伝的プログラミング、機能論理プログラミングあるいはサポートベクターマシンといった学習アルゴリズムを用いて機械学習を実行しても良い。
【0127】
実施の形態4では、学習装置185Bは、付加製造装置100に内蔵されている例について説明したがこれに限られない。学習装置185Bは、付加製造装置100に含まれる装置に限られず、付加製造装置100の外部の装置であっても良い。学習装置185Bは、ネットワークを介して付加製造装置100に接続可能な装置であっても良い。学習装置185は、クラウドサーバ上に存在する装置であっても良い。
【0128】
学習装置185Bは、複数の付加製造装置100に対して作成されたデータセットに従って、パラメータを学習しても良い。学習装置71は、同一の現場で使用される複数の付加製造装置100からデータセットを取得しても良く、あるいは、互いに異なる現場で使用される複数の付加製造装置100からデータセットを取得しても良い。データセットは、複数の現場において互いに独立して稼働する複数の付加製造装置100から収集されたものであっても良い。複数の付加製造装置100からのデータセットの収集を開始した後に、データセットが収集される対象に新たな付加製造装置100が追加されても良い。また、複数の付加製造装置100からのデータセットの収集を開始した後に、データセットが収集される対象から、複数の付加製造装置100のうちの一部が除外されても良い。
【0129】
ある1つの付加製造装置100について学習を行った学習装置185Bは、当該付加製造装置100以外の他の付加製造装置についての学習を行っても良い。当該他の付加製造装置についての学習を行う学習装置185Bは、当該他の付加製造装置における再学習によって、出力の予測モデルを更新することができる。
【0130】
次に、本実施の形態1から4にかかる演算装置18、18A、または18Bが有するハードウェア構成について説明する。図29は、本実施の形態1にかかる付加製造装置が有する演算装置のハードウェア構成例を示す図である。図29には、プログラムを実行するハードウェアを用いることによって演算装置18、18A、または18Bの機能が実現される場合におけるハードウェア構成を示している。
【0131】
演算装置18、18A、または18Bは、各種処理を実行するプロセッサ901と、内蔵メモリであるメモリ902と、情報を記憶する記憶装置903と、演算装置18への情報の入力と演算装置18からの情報の出力のためのインタフェース回路904とを有する。
【0132】
プロセッサ901は、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ901は、処理装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、又はDSP(Digital SignaL Processor)であっても良い。メモリ902は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)またはEEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)である。
【0133】
記憶装置903は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)である。コンピュータを演算装置18として機能させるプログラムは、記憶装置903に格納される。プロセッサ901は、記憶装置903に格納されているプログラムをメモリ902に読み出して実行する。
【0134】
プログラムは、コンピュータシステムによる読み取りが可能とされた記憶媒体に記憶されたものであっても良い。演算装置18は、記憶媒体に記録されたプログラムをメモリ902へ格納しても良い。記憶媒体は、フレキシブルディスクである可搬型記憶媒体、あるいは半導体メモリであるフラッシュメモリであっても良い。プログラムは、他のコンピュータあるいはサーバ装置から通信ネットワークを介してコンピュータシステムへインストールされても良い。
【0135】
取得部181、作成部182、判定部183、調整部184、学習装置185A、学習装置185B、推論装置186A、および推論装置186Bの各機能は、プロセッサ81とソフトウェアの組み合わせによって実現される。当該各機能は、プロセッサ901およびファームウェアの組み合わせによって実現されても良く、プロセッサ901、ソフトウェアおよびファームウェアの組み合わせによって実現されても良い。ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述され、記憶装置903に格納される。モデル記憶部187の機能は、記憶装置903の使用により実現される。
【0136】
インタフェース回路904は、ハードウェアに接続される外部機器からの信号を受信する。外部機器は、NC装置19、内部センサユニット23、および外部センサユニット24である。
【0137】
なお、上記実施形態において、調整部184は、例えば、レーザビーム5のレーザ出力、ワイヤ6の送給速度、加工ヘッド3の位置を制御するための情報、および加工ヘッド3の軸移動速度等を調整していたがこれに限られない。例えば、調整部184は、被加工物に照射されるレーザビーム5の強度分布を調整するようにしてもよい。
【0138】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。つまり、本開示の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、本開示の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本開示によれば、加工状態を精度よく把握することが可能な付加製造装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0140】
1 レーザ発振器、2 ファイバケーブル、3 加工ヘッド、4 ビームノズル、5 レーザビーム、6 ワイヤ、7 ワイヤスプール、8 ワイヤ送給器、9 ワイヤノズル、10 加工点、11 ビード、13 基材、14,15 ロータリーステージ、16 支持ブラケット、17 XYZステージ、18,18A,18B 演算装置、19 NC装置、21 ガス流量調整器、22 駆動制御器、23 内部センサユニット、24 外部センサユニット、27 加工プログラム、28 加工条件情報、60,70 画像データ、181 取得部、182 作成部、183 判定部、184 調整部、185A,185B 学習装置、186A,186B 推論装置、187A,187B モデル記憶部、221 ヘッド駆動部、222 ワイヤ送給駆動部、223 ステージ駆動部、100,100A 付加製造装置、300 付加製造システム、901 プロセッサ、902 メモリ、903 記憶装置、904 インタフェース回路。
【要約】
本開示に係る付加製造装置は、ワイヤ(6)を供給するワイヤ供給部と、ワイヤ(6)にレーザビーム(5)を照射し、ワイヤ(6)を溶融させる照射部と、溶融されたワイヤ(6)と当該ワイヤ(6)が付加される被加工物とが接続される接続部を含む画像を撮像し、画像データを生成する撮像部と、撮像部により生成された画像データに基づく画像のうち、接続部を含む領域の画素値の分布を示す情報を用いて前記被加工物の加工状態を判定する判定部(183)と、を備えている。
図1
図2
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図5
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