(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】道路点検システム、道路点検方法及びプログラム記録媒体
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/26 20240101AFI20250520BHJP
【FI】
G06Q50/26
(21)【出願番号】P 2022570839
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048074
(87)【国際公開番号】W WO2022137369
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-22
【審判番号】
【審判請求日】2024-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】横山 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】知久 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽子
(72)【発明者】
【氏名】辻 佑機
(72)【発明者】
【氏名】小林 航生
(72)【発明者】
【氏名】尾形 一気
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 慶
【合議体】
【審判長】佐藤 智康
【審判官】岡北 有平
【審判官】月野 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066116(WO,A1)
【文献】特開2005-115687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路点検経路を作成する手段と、
前記道路点検経路を走行した車両から、前記道路点検経路に沿って所定の項目を測定した点検データを受信する手段と、
前記点検データに含まれる前記第1の道路で測定された第1の点検データについて、前記第1の道路管理者の第1の診断基準を用いて診断する手段と、
前記点検データに含まれる前記第2の道路で測定された第2の点検データについて、前記第2の道路管理者の第2の診断基準を用いて診断する手段と、
を備える道路点検システム。
【請求項2】
前記道路点検経路を作成する手段は、複数の道路管理者が管理する道路を含む前記道路点検経路を作成し、
前記点検データを受信する手段は、前記道路点検経路に沿って走行した車両による測定の時系列に沿った複数の道路管理者が管理する道路の点検データを受信する請求項1の道路点検システム。
【請求項3】
前記点検データに複数の道路管理者が管理する道路の点検データが含まれる場合、前記複数の道路管理者それぞれの診断基準を読み出す手段を備える請求項1又は2の道路点検システム。
【請求項4】
前記第1、第2の診断基準は、それぞれ道路の損傷の進行度に応じた道路分類ごとに異なる診断基準が設けられており、
前記道路点検システムは、前記第1、第2の道路管理者が定める診断基準のうち、前記点検データが測定された道路分類に応じた診断基準を用いて、前記第1、第2の点検データを診断する
請求項1から3いずれか一に記載の道路点検システム。
【請求項5】
前記第1の道路と、前記第2の道路とが表示された地図上に、前記道路点検経路を表示した点検実施状況マップを作成する手段と、
前記第1の点検データについて前記第1の診断基準を用いて分析した結果及び前記第2の点検データについて前記第2の診断基準を用いて分析を行った結果を、前記点検実施状況マップの第1の道路及び第2の道路それぞれに重畳表示する手段とを備える
請求項1から4いずれか一に記載の道路点検システム。
【請求項6】
前記点検データを作成可能な点検装置を搭載した車両に、前記道路点検経路を配布する手段を備える
請求項1から5いずれか一に記載の道路点検システム。
【請求項7】
第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路データを記憶する手段を備えるコンピュータが、
第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路点検経路を作成し、
前記道路点検経路を走行した車両から、前記道路点検経路に沿って所定の項目を測定した点検データを受信し、
前記点検データに含まれる前記第1の道路で測定された第1の点検データについて、前記第1の道路管理者の第1の診断基準を用いて診断し、
前記点検データに含まれる前記第2の道路で測定された第2の点検データについて、前記第2の道路管理者の第2の診断基準を用いて診断する、
道路点検方法。
【請求項8】
前記第1、第2の診断基準は、それぞれ道路の損傷の進行度に応じた道路分類ごとに異なる診断基準が設けられており、
前記コンピュータは、前記第1、第2の道路管理者が定める診断基準のうち、前記点検データが測定された道路分類に応じた診断基準を用いて、前記第1、第2の点検データを診断する
請求項7の道路点検方法。
【請求項9】
第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路データを記憶する手段を備えるコンピュータに、
第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路点検経路を作成する処理と、
前記道路点検経路を走行した車両から、前記道路点検経路に沿って所定の項目を測定した点検データを受信する処理と、
前記点検データに含まれる前記第1の道路で測定された第1の点検データについて、前記第1の道路管理者の第1の診断基準を用いて診断する処理と、
前記点検データに含まれる前記第2の道路で測定された第2の点検データについて、前記第2の道路管理者の第2の診断基準を用いて診断する処理と、
を実行させるプログラムを記録したコンピュータ記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路点検システム、道路点検方法及びプログラム記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車両に搭載した点検端末により道路の点検を実施可能な道路保守支援システムが開示されている。同文献によると、この道路保守支援システムは、カメラやマイク、音響センサ、振動センサを用いて道路の劣化状態を点検し、その点検結果を補修・点検計画作成装置に送る点検端末と、過去の点検履歴に基づいて、点検ルートや点検内容などを含む点検計画を作成し、点検端末に送る補修・点検計画作成装置と、からなる道路保守支援システムが開示されている。
【0003】
道路の管理者は、上記道路の点検結果に基づいて、道路の補修・修繕を行ない、また、改修の計画を立案する。特許文献2には、道路の修理・改善の必要性を定量的に診断することができるという道路管理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-117323号公報
【文献】特開2005-115687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下の分析は、本発明者によって与えられたものである。上記した道路の点検は、通常国、都道府県、市町村、特殊会社等の管理主体(道路管理者)毎に実施されている。しかしながら、車両が走行する点検ルートと、点検対象の道路の路線が一致するとは限らない。また、道路の延長が長い場合、予算の制約上、道路を複数の区間に分けて計画的に改修することが求められ、この観点からも道路の点検は複数回に分けて実施されることが多い。このため、例えば、特許文献1の道路保守支援システムによって点検を行う場合であっても、複数の点検ルートを作成し、段階的に点検が行われる。
【0006】
このような観点で作成される点検ルートは、点検実施主体である管理主体の管理する道路以外の道路区間も含む場合がある。その場合、当該道路区間では、点検は行わないため、一種のロスが生じている。また仮に、当該道路区間で点検を行ったとしても、管理主体毎に、道路の性能評価項目や、その値に基づく道路の診断基準も異なっているため、測定した点検データを活用できないという問題点がある。
【0007】
本発明は、管理主体(道路管理者)の異なる複数の道路の点検(診断)の効率化に貢献できる道路点検システム、道路点検方法及びプログラム記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の視点によれば、第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路点検経路を作成する手段と、前記道路点検経路を走行した車両から、前記道路点検経路に沿って所定の項目を測定した点検データを受信する手段と、前記点検データに含まれる前記第1の道路で測定された第1の点検データについて、前記第1の道路管理者の第1の診断基準を用いて診断する手段と、前記点検データに含まれる前記第2の道路で測定された第2の点検データについて、前記第2の道路管理者の第2の診断基準を用いて診断する手段と、を備える道路点検システムが提供される。
【0009】
第2の視点によれば、第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路データを記憶する手段を備えるコンピュータが、第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路点検経路を作成し、前記道路点検経路を走行した車両から、前記道路点検経路に沿って所定の項目を測定した点検データを受信し、前記点検データに含まれる前記第1の道路で測定された第1の点検データについて、前記第1の道路管理者の第1の診断基準を用いて診断し、前記点検データに含まれる前記第2の道路で測定された第2の点検データについて、前記第2の道路管理者の第2の診断基準を用いて診断する、道路点検方法が提供される。本方法は、上記した道路データを記憶する手段を備えるコンピュータという、特定の機械に結びつけられている。
【0010】
第3の視点によれば、上記した道路点検システムの機能を実現するためのコンピュータプログラム(以下、「プログラム」)が提供される。このプログラムは、コンピュータ装置に入力装置又は外部から通信インターフェースを介して入力され、記憶装置に記憶されて、プロセッサを所定のステップないし処理に従って駆動させる。また、このプログラムは、必要に応じ中間状態を含めその処理結果を段階毎に表示装置を介して表示することができ、あるいは通信インターフェースを介して、外部と通信することができる。そのためのコンピュータ装置は、一例として、典型的には互いにバスによって接続可能なプロセッサ、記憶装置、入力装置、通信インターフェース、及び必要に応じ表示装置を備える。また、このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な(非トランジトリーな)記憶媒体に記録することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、管理主体(道路管理者)の異なる複数の道路を効率よく点検(診断)することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明の第1の実施形態の道路点検システムの構成を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の道路点検システムが車両から受信する点検データの一例を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態の道路点検システムが保持する道路管理者別の性能評価基準の一例を示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態の道路点検システムの動作を表したフローチャートである。
【
図6】本発明の第1の実施形態の道路点検システムによる道路の診断結果を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態の道路点検システムによる診断結果の管理マップの一例を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態の道路点検システムの構成を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態の道路点検システムの動作を表したフローチャートである。
【
図10】本発明の道路点検システムを構成するコンピュータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに本発明の一実施形態の概要について図面を参照して説明する。なお、この概要に付記した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、本発明を図示の態様に限定することを意図するものではない。また、以降の説明で参照する図面等のブロック間の接続線は、双方向及び単方向の双方を含む。一方向矢印については、主たる信号(データ)の流れを模式的に示すものであり、双方向性を排除するものではない。プログラムはコンピュータ装置を介して実行され、コンピュータ装置は、例えば、プロセッサ、記憶装置、入力装置、通信インターフェース、及び必要に応じ表示装置を備える。また、このコンピュータ装置は、通信インターフェースを介して装置内又は外部の機器(コンピュータを含む)と、有線、無線を問わず、通信可能に構成される。また、図中の各ブロックの入出力の接続点には、ポート乃至インターフェースがあるが図示を省略する。
【0014】
本発明は、その一実施形態において、
図1に示すように、道路点検経路作成部12と、点検データ受信部13と、診断部14とを備える道路点検システム10にて実現できる。
【0015】
道路点検経路作成部12は、第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とを含む道路点検経路を作成する手段として機能する。
図1の例では、道路点検経路作成部12は、道路台帳や舗装台帳等を含む道路情報データベース(道路情報DB)11からデータを読み出して道路点検経路を作成する。
【0016】
点検データ受信部13は、前記道路点検経路を走行した車両から、前記道路点検経路に沿って所定の項目を測定した点検データを受信する手段として機能する。なお、車両への道路点検経路の設定は、道路点検経路情報を格納した記録媒体を車両の車載端末に読み込ませる形態や、通信手段を用いて道路点検経路情報を車両に送信する形態を採ることができる。もちろん、車両の搭乗者が、車載端末へ道路点検経路を手で入力する形態を採っても良い。
【0017】
診断部14は、前記点検データに含まれる前記第1の道路で測定された第1の点検データについて、道路管理者別診断基準記憶部15に記憶された前記第1の道路管理者の第1の診断基準を用いて診断する手段として機能する。また、診断部14は、前記点検データに含まれる前記第2の道路で測定された第2の点検データについて、道路管理者別診断基準記憶部15に記憶された前記第2の道路管理者の第2の診断基準を用いて診断する手段としても機能する。診断部14は、前記診断の結果を道路点検経路診断結果として出力する。なお、
図1の例では、1つの診断部14が、第1、第2の診断基準を用いて診断する構成を採っているが、診断部を診断基準毎に複数設ける構成も採用可能である。
【0018】
また、
図1の例では、道路情報データベース(道路情報DB)11及び道路管理者別診断基準記憶部15は、道路点検システム10とは、別の装置に設けられているものとしているが、道路点検システム10の記憶装置に、道路情報DB11及び道路管理者別診断基準記憶部15に相当する情報を保持させてもよい(
図2参照)。
【0019】
上記した道路点検システム10によれば、道路管理者が異なる複数の道路を含んだ道路点検経路を作成し、車両に点検させることが可能となる。そして、道路点検システム10によれば、道路管理者がそれぞれ設定した診断基準を用いて車両から受信した点検データによる診断を実施し、道路点検経路の診断結果を得ることが可能となる。
【0020】
[第1の実施形態]
続いて、本発明の第1の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態の道路点検システムの構成を示す図である。
図2を参照すると、道路点検装置を備えた道路点検車両から点検データを受信可能な道路点検システム100が示されている。道路点検装置を備えた道路点検車両としては、例えば、路面のひび割れ率、路面のわだち掘れ量及び国際ラフネス指数(IRI:International Roughness Index)を測定可能な点検装置を搭載した車両を用いることができる。もちろん、これらの測定を実施可能な専用の路面性状測定車を用いてもよいし、一般的なドライブレコーダのようなカメラ及び加速度計などを備える車載器を搭載した車両を用いることもできる。
【0021】
図2を参照すると、道路点検システム100は、道路情報DB101と、道路点検経路作成部102と、点検データ受信部103と、診断部104と、道路管理者別診断基準記憶部105と、診断結果反映部106と、を備えている。
【0022】
道路情報DB101は、道路点検経路を作成するための各種の情報を記憶するデータベースである。道路情報DB101は、地理情報システム(Geographic Information System)に、道路台帳平面図と調書、舗装台帳の管理機能を追加したものであってもよい。また、道路情報DB101として、一般財団法人道路管理センターの道路管理システム(ROADIS)やその他各種の自治体で利用されている道路管理システムの情報のデータを用いることとしてもよい。
【0023】
道路点検経路作成部102は、ユーザから選択された点検対象エリアに基づいて、そのエリアに所在する道路の道路点検経路を作成する。このとき、ユーザは、道路情報DB101の各路線の点検実施状況を参照して、点検時期が到来しているエリアを選択することができる。このエリアに、第1の道路管理者が管理する第1の道路と、第1の道路管理者とは異なる第2の道路管理者が管理する第2の道路とが含まれる場合、道路点検経路作成部102は、これらの第1、第2の道路を含む道路点検経路を作成する。もちろん、道路点検システム100が、ユーザとの対話的な処理により、前記作成した道路点検経路を修正する機能を有していてもよい。例えば、道路点検経路作成部102は、所定の期間点検していない道を優先的に点検するような経路を作成、または住民からの苦情などがあった箇所を優先的に点検するような経路を作成してもよい。また、道路点検経路作成部102は、過去の診断結果を参照して、頻繁に点検する必要がある道を優先的に点検するような経路を作成してもよい。
【0024】
道路点検経路作成部102で作成された道路点検経路は、各種の方法で道路点検車両(以下、「車両」)に設定される。例えば、車両のカーナビゲーションシステムや道路点検装置に、道路点検経路作成部102にて作成された道路点検経路と同じ経路を入力することで経路を設定してもよい。また、道路点検経路作成部102が任意の記録媒体に道路点検経路情報を出力する機能を備えている場合、当該記録媒体を介して、車両のカーナビゲーションシステムや道路点検装置に経路を設定することでもよい。
【0025】
点検データ受信部103は、前記道路点検経路を走行した車両から、前記道路点検経路に沿って測定した点検データを受信する。以下の説明では、点検データ受信部103は、路面のひび割れ率、路面のわだち掘れ量、国際ラフネス指数(IRI)を含む点検データを受信するものとして説明する。また、道路の診断基準に応じて、下記以外の項目、例えば、MCI(Maintenance Control Index:舗装維持管理指数)等の複合指標を測定項目に加えてもよい。また、道路の診断基準が、国際ラフネス指数(IRI)に代えて平坦性(縦断方向の凹凸の標準偏差)等の別の指標を用いている場合、国際ラフネス指数(IRI)から変換すればよい。
【0026】
図3は、本実施形態の道路点検システム100が車両から受信する点検データの一例を示す図である。
図3の例では、路線名、管轄(道路管理者)、点検日時のほか、当該路線の区間毎のひび割れ率、わだち掘れ量、IRIの測定結果と、路面画像を含んだ点検データが示されている。道路点検経路が、管轄(道路管理者)の異なる路線(道路)を含む場合、道路点検システム100は、測定の時系列に沿って、異なる路線(道路)の点検データを受信することになる。なお、本実施形態では、車両が各区間におけるひび割れ率、(最大)わだち掘れ量、IRIを計算し、送信するものとしているが、車両が、道路点検システム100に、それぞれの項目の計算に必要なデータを送信し、道路点検システム100側で各項目の計算をしてもよい。
【0027】
なお、ひび割れ率は、ひび割れ面積(m2)/調査対象区画面積(m2)×100より計算することができる。具体的には、調査対象区画を所定のます目(例えば、0.5m四方)に区画割りし、一つの区画の中にひび割れが1本だけあれば6割、2本以上あれば10割として面積換算するメッシュ法を用いることができる。ひび割れ率は、上記の計算方法に限られず、自治体等によって設定された方法を用いて計算することができる。
【0028】
道路管理者別診断基準記憶部105は、管轄(道路管理者)毎に設定された道路の診断基準を記憶している。
図4は、道路管理者別診断基準記憶部105に記憶された管轄(道路管理者)別の診断基準(性能評価基準)の例である。例えば、
図4の上段の診断基準(性能評価基準)は、道路管理者Aの診断基準(性能評価基準)を示している。道路管理者Aの道路については点検データの内容がいずれのカテゴリー(区分)に該当するか否かにより、道路の診断を行うことが求められる。同様に、
図4の下段の診断基準(性能評価基準)は、道路管理者Bの診断基準(性能評価基準)を示している。
図4に示されたように、診断基準(性能評価基準)は、管轄(道路管理者)によって異なる場合がある。
【0029】
道路の診断基準は、一般的には、要求されるサービス水準や想定される損傷の進行の大きさ(進行度)に基づいて設定される。例えば、わが国においては、国道、都道府県道、市町村道、高速道路、私道によってそれぞれ診断基準が異なっている。また、都道府県間や市町村間でも、気候や塩害などの影響で診断基準が異なる場合がある。また、高速道路などについては安全性の観点で独自の基準で診断基準を設けている場合がある。
【0030】
また、同一の管轄(道路管理者)が、損傷の進行の大きさ(進行度)等による道路の分類(道路分類)を設定している場合もある。この場合、同一の道路管理者であっても道路の分類によって異なる診断基準(性能評価基準)を設定している場合がある。道路管理者別診断基準記憶部105は、このように、道路管理者毎に異なり得る診断基準(性能評価基準)を記憶している。なお、以下の説明では、
図4の「要補修」は当該道路の機能を維持するために軽度の補修が必要な状態、「要修繕」は当該道路の損傷レベルが大きく、全面的な改修が必要な状態であるものとして説明する。
【0031】
診断部104は、点検データ受信部103が受信した点検データについて、
図4に示した診断基準(性能評価基準)のうち、点検データが対応する診断基準(性能評価基準)を用いて、道路の診断を行う。以下、本実施形態では、診断部104は、点検データの少なくとも1項目が、
図4に示した診断基準(性能評価基準)に示した区分IIIに当てはまる場合、当該区間を「要修繕」と診断する。また、診断部104は、点検データの少なくとも1項目が、
図4に示した診断基準(性能評価基準)に示した区分IIに当てはまる場合、当該区間を「要補修」と診断する。この診断方法自体も管轄(道路管理者)毎に異なる場合、それぞれの管轄(道路管理者)毎の診断方法を用いるようにしてもよい。例えば、ある道路管理者が、点検データの少なくとも2項目が、
図4に示した診断基準(性能評価基準)に示した区分IIIに当てはまる場合、当該区間を「要修繕」と診断することを決めている場合がある。この場合、道路管理者別診断基準記憶部105に、このような診断方法の違いも記憶させておき、診断部104に同様に診断させればよい。
【0032】
診断部104は、上記のようにして、点検データ受信部103が受信した点検データについて、順次診断を行い、その結果を、道路点検経路診断結果として出力する。また、診断部104は、道路点検経路診断結果を診断結果反映部106に出力する。
【0033】
診断結果反映部106は、診断部104から出力された道路点検経路診断結果を用いて、道路情報DB101の該当路線の点検実施状況を更新する。
【0034】
続いて、本実施形態の動作について図面を参照して詳細に説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態の道路点検システム100の動作を表したフローチャートである。
図5を参照すると、まず、道路点検システム100は、道路点検経路を作成する(ステップS001)。
【0035】
次に、道路点検システム100は、車両から点検データを受信する(ステップS002)。次に、道路点検システム100は、道路管理者別診断基準記憶部105から、道路点検経路に含まれる道路の道路管理者の診断基準を読み出す(ステップS003)。ここで、道路点検経路に複数の道路管理者の道路が含まれる場合、道路点検システム100は、それぞれの道路管理者の診断基準を読み出す。
【0036】
次に、道路点検システム100は、前記読み出した道路管理者の診断基準を用いて点検データの分析(道路の診断)を行う(ステップS004)。次に、道路点検システム100は、診断部104から出力された道路点検経路診断結果を用いて、道路情報DB101の該当路線の点検実施状況を更新する(ステップS005)。
【0037】
図6は、本発明の第1の実施形態の道路点検システム100による道路の診断結果を示す図である。
図6の例では、道路点検経路に国道AAA、県道BBB、国道CCCが含まれている例を示している。
図6の例では、国道AAAの300m-400mの区間が要補修、400m-500mの区間が要修繕と判定されている。また、国道CCCの200m-300mの区間が要補修と判定されている。ここで、県道BBBは、すべて健全と判定されているが、これは、県道BBBの道路管理者である県が設定した診断基準(性能評価基準)により診断したものである。このため、県道BBBの点検データのひび割れ率、わだち掘れ量、IRIは、国道AAA、国道CCCの道路管理者である国が設定した診断基準(性能評価基準)では健全と判定されない場合もある。
【0038】
このように本実施形態によれば、任意のエリアを選択して道路点検経路を作成し、その経路上の道路の点検と診断を1回の走行で完了させることが可能となる。その理由は、道路点検経路に道路管理者が異なる道路が含まれることを許容するとともに、道路点検システム100側で、点検データが測定された道路の道路管理者に対応する診断基準を選択して診断する構成を採用したことにある。
【0039】
なお、道路点検システム100による道路の診断結果の出力態様は
図6に示す形態に限られない。例えば、道路点検システム100が、
図7に示すように、道路情報DB101に格納されたGIS地図上に、道路点検経路と点検実施結果を示すレイヤを重畳表示した点検実施状況マップを作成する機能を備えていても良い。
図7の例では、健全と判定された区間は、丸印内に「I」の記号を表した記号により表され、要補修、要修繕と判定された区間は、黒い丸印内に白抜きで「II」、「III」の記号を表した記号により表されている。
図7のような点検実施状況マップによれば、点検実施状況や要補修、要修繕箇所をエリア単位で視覚的に把握することが可能となる。これにより、道路管理者毎の舗装台帳等による個別に管理されていた点検実施状況を、面的な管理に転換することが可能となる。そして、診断結果又は点検実施状況マップを各道路管理者に提供することによって、道路管理者毎に道路のメンテナンス及び修繕計画の立案を実施することが容易になる。さらに、複数の道路管理者からの委託を受けて道路のメンテナンスを行う修繕業者などが存在する場合には、診断結果又は点検実施状況マップをその修繕業者に提供することによって、道路の面的なメンテナンス及び修繕計画の立案を実施することが容易になる。
【0040】
[第2の実施形態]
続いて、道路点検システムに、道路点検経路の配布機能を追加した第2の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態の道路点検システム100aの構成を示す図である。
図2に示した第1の実施形態との構成上の相違点は、道路点検システム100aに道路点検経路配布部107が追加されている点である。その他の構成は第1の実施形態と同様であるので、以下、その相違点を中心に説明する。
【0041】
道路点検経路配布部107は、点検装置を搭載した車両に対し、無線ネットワークやインターネット等を介して、道路点検経路作成部102が作成した道路点検経路情報を配布する。なお、
図8に表されているように、道路点検経路情報の配布先の車両は1台でなくてもよい。
【0042】
道路点検経路情報を取得した車両は、道路点検経路を走行して点検を実施し、道路点検システム100aに対し、点検データを送信する。なお、道路点検経路情報を取得した車両は、必ずしも道路点検経路と同一の経路を走行し、道路点検経路に沿った道路の点検を実施する必要はなく、道路点検経路と重複する区間を含む点検データを送信すればよい。
【0043】
図9は、本発明の第2の実施形態の道路点検システムの動作を表したフローチャートである。
図5に示した第1の実施形態の道路点検システム100の動作との相違点は、道路点検システム100aによる道路点検経路の作成後、道路点検経路配布部107による道路点検経路の配布が行われる点である(ステップS101)。
【0044】
以降の動作は第1の実施形態と同様である。道路点検システム100aは、車両から点検データを受信すると(ステップS002)、道路管理者別診断基準記憶部105から、道路点検経路に含まれる道路の道路管理者の診断基準を読み出す(ステップS003)。
【0045】
次に、道路点検システム100aは、前記読み出した道路管理者の診断基準を用いて点検データの分析(道路の診断)を行う(ステップS004)。最後に、道路点検システム100aは、診断部104から出力された道路点検経路診断結果を用いて、道路情報DB101の該当路線の点検実施状況を更新する(ステップS005)。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、道路点検を実施する道路点検経路の設定が自動化される。これにより、多数の車両から道路点検経路と重複する区間を含む点検データを受信することも可能となる。同一の区間について、複数の点検データを受信し、診断を行うことで、診断結果の精度の向上を期待することができる。
【0047】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術的思想を逸脱しない範囲で、更なる変形・置換・調整を加えることができる。例えば、各図面に示したシステム構成、各要素の構成、データの表現形態は、本発明の理解を助けるための一例であり、これらの図面に示した構成に限定されるものではない。
【0048】
例えば、上記した第1の実施形態では、異なる道路管理者の組み合わせが国と県である例を挙げて説明したが、異なる道路管理者の組み合わせはこれに限られない。例えば、第1の道路管理者が都道府県、第2の道路管理者が市町村である場合にも本発明は同様に適用することができる。もちろん、3つ以上道路管理者の異なる道路が混在するエリアにおいて、これら3つ以上の道路管理者の道路を診断する場合にも、本発明は同様に適用することができる。
【0049】
また、上記した道路点検を行う車両が点検中に、局所的なポットホール等を見つけた場合、道路点検システム100、100a側に報告する機能を備えていてもよい。道路点検システム100、100aは、必要に応じて、道路管理者等に、要修繕、要補修の指示を行う機能を備えていても良い。
【0050】
また、上記した第1~第2の実施形態に示した手順は、道路点検システム100、100aとして機能するコンピュータ(
図10の9000)に、道路点検システムとしての機能を実現させるプログラムにより実現可能である。このようなコンピュータは、
図10のCPU(Central Processing Unit)9010、通信インターフェース9020、メモリ9030、補助記憶装置9040を備える構成に例示される。すなわち、
図10のCPU9010にて、道路点検経路作成プログラムやデータ診断プログラムを実行し、その補助記憶装置9040等に保持された各計算パラメーターの更新処理を実施させればよい。
【0051】
即ち、上記した各実施形態に示した道路点検システム100、100aの各部(処理手段、機能)は、これらの装置に搭載されたプロセッサに、そのハードウェアを用いて、上記した各処理を実行させるコンピュータプログラムにより実現することができる。
【0052】
最後に、本発明の好ましい形態を要約する。
[第1の形態]
(上記第1の視点による道路点検システム参照)
[第2の形態]
上記した道路点検システムが用いる前記第1、第2の診断基準は、それぞれ道路の損傷の進行度に応じた道路分類ごとに異なる診断基準が設けられており、
前記道路点検システムは、前記第1、第2の道路管理者が定める診断基準のうち、前記点検データが測定された道路分類に応じた診断基準を用いて、前記第1、第2の点検データを診断する構成を採ることができる。
[第3の形態]
上記した道路点検システムは、さらに、
前記第1の道路と、前記第2の道路とが表示された地図上に、前記道路点検経路を表示した点検実施状況マップを作成する手段と、
前記第1の点検データについて前記第1の診断基準を用いて分析した結果及び前記第2の点検データについて前記第2の診断基準を用いて分析を行った結果を、前記点検実施状況マップの第1の道路及び第2の道路それぞれに重畳表示する手段とを備える構成を採ることができる。
[第4の形態]
上記した道路点検システムは、
前記点検データを作成可能な点検装置を搭載した車両に、前記道路点検経路を配布する手段を備える構成を採ることができる。
[第5の形態]
(上記第2の視点による道路点検方法参照)
[第6の形態]
(上記第3の視点によるプログラム参照)
なお、上記第5~第6の形態は、第1の形態と同様に、第2~第4の形態に展開することが可能である。
【0053】
なお、上記の特許文献の各開示は、本書に引用をもって繰り込み記載されているものとし、必要に応じて本発明の基礎ないし一部として用いることが出来るものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし選択(部分的削除を含む)が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。さらに、上記引用した文献の各開示事項は、必要に応じ、本発明の趣旨に則り、本発明の開示の一部として、その一部又は全部を、本書の記載事項と組み合わせて用いることも、本願の開示事項に含まれるものと、みなされる。
【符号の説明】
【0054】
10、100、100a 道路点検システム
12、102 道路点検経路作成部
13、103 点検データ受信部
14、104 診断部
11、101 道路情報データベース(道路情報DB)
15、105 道路管理者別診断基準記憶部
106 診断結果反映部
107 道路点検経路配布部
9000 コンピュータ
9010 CPU
9020 通信インターフェース
9030 メモリ
9040 補助記憶装置