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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/015 20060101AFI20250520BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20250520BHJP
   B60R 21/2346 20110101ALI20250520BHJP
【FI】
A41D13/015 105
A41D13/05
A41D13/05 112
B60R21/2346
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019069070
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2019206789
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-11-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2018100835
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和茂
【合議体】
【審判長】田口 傑
【審判官】稲葉 大紀
【審判官】葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-540209(JP,A)
【文献】実開昭58-189113(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00-13/12
A42B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り畳まれた状態からガスが導入されて膨張展開することで乗員の頭部を保護するエアバッグであって、
ガスが導入されるガス導入部と、このガス導入部から導入されたガスにより膨張される複数の気室と、前記ガス導入部から導入されたガスを前記気室へとガイドするガスガイド部とを備えた袋状のエアバッグ本体部を具備し、
前記ガスガイド部は、
ガスを前記エアバッグ本体部の展開方向に沿う第1の方向にガイドする第1のガスガイド部と、
この第1のガスガイド部の先端部近傍に位置し、前記第1の方向に対して交差する第2の方向へとそれぞれガスを分岐させる複数の第2のガスガイド部とを備え、
前記各第2のガスガイド部は、前記第1のガスガイド部の先端部から前記第1の方向側に離れて位置することで、前記各第2のガスガイド部の基端部と前記第1のガスガイド部の先端部との間が通気口となっているとともに、互いの基端部が通気可能に前記第2の方向に離れている
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
各第2のガスガイド部は、第2の方向に沿って形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のエアバッグ。
【請求項3】
各第2のガスガイド部は、基端部から先端部に向かい第1の方向とは反対方向に傾斜している
ことを特徴とする請求項1または2記載のエアバッグ。
【請求項4】
気室は、乗員の首部の両側部に位置する首部用気室を備え、
前記首部用気室の先端部に接続体により接続されたチャックを具備し、
第1のガスガイド部は、第2の方向に互いに離れて複数配置され、前記首部用気室と交差する方向に沿って延び、膨張展開状態で前記首部用気室が乗員の前方から後方に向かい互いに離れる方向に拡大して傾斜するように、前記第1のガスガイド部の基端部の間隔により設定される膨張展開状態での乗員の後方における前記首部用気室の屈曲位置の間隔が、前記チャックまたは前記接続体の長さよりも大きく設定されている
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の頭部を保護するエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスが導入されて膨張展開するエアバッグを備えたエアバッグ装置について、自転車などの二輪車の乗員の頭部を覆って保護する、あるいは自動車の座席に着座する乗員の頭部を覆って保護する、頭部保護エアバッグ装置が知られている。例えば、このようなエアバッグ装置に用いられるエアバッグ本体部は、長手状の気室を複数備え、これら気室が並んで配置されている。そして、このエアバッグ本体部は、折り畳まれた状態で収納され、後頭部付近から導入されたガスにより膨張展開して後頭部から頭部両側を含み前頭部に亘る部分を覆うようになっている。
【0003】
エアバッグ本体部には、下方から上方に向かって内部に導入されたガスを左右方向に分岐させるために、ガス流路やスリーブなどがガス導入部の直近、あるいはガス導入部に対面して形成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-540209号公報 (第9-12頁、図5及び図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス導入部直近は、導入されたガスの勢いが強いため、上方に向かってガスが強く流れ、左右方向へのガス流路だけでは、左右へのガスの流入量が限定的となる。また、左右方向へガスをガイドするスリーブの場合には、左右方向へのガス導入が速やかに行われる一方で、上方へのガス流入が遅れるため、上方及び左右両側へ均等にエアバッグ本体部を展開させるために別途構成が必要になるなど、製造コストが増加する。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、簡素な構成でエアバッグ本体部をバランスよく展開させることが可能なエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のエアバッグは、折り畳まれた状態からガスが導入されて膨張展開することで乗員の頭部を保護するエアバッグであって、ガスが導入されるガス導入部と、このガス導入部から導入されたガスにより膨張される複数の気室と、前記ガス導入部から導入されたガスを前記気室へとガイドするガスガイド部とを備えた袋状のエアバッグ本体部を具備し、前記ガスガイド部は、ガスを前記エアバッグ本体部の展開方向に沿う第1の方向にガイドする第1のガスガイド部と、この第1のガスガイド部の先端部近傍に位置し、前記第1の方向に対して交差する第2の方向へとそれぞれガスを分岐させる複数の第2のガスガイド部とを備え、前記各第2のガスガイド部は、前記第1のガスガイド部の先端部から前記第1の方向側に離れて位置することで、前記各第2のガスガイド部の基端部と前記第1のガスガイド部の先端部との間が通気口となっているとともに、互いの基端部が通気可能に前記第2の方向に離れているものである。
【0008】
求項記載のエアバッグは、請求項記載のエアバッグにおいて、各第2のガスガイド部は、第2の方向に沿って形成されているものである。
【0009】
請求項記載のエアバッグは、請求項1または2記載のエアバッグにおいて、各第2のガスガイド部は、基端部から先端部に向かい第1の方向とは反対方向に傾斜しているものである。
【0010】
請求項4記載のエアバッグは、請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグにおいて、気室は、乗員の首部の両側部に位置する首部用気室を備え、前記首部用気室の先端部に接続体により接続されたチャックを具備し、第1のガスガイド部は、第2の方向に互いに離れて複数配置され、前記首部用気室と交差する方向に沿って延び、膨張展開状態で前記首部用気室が乗員の前方から後方に向かい互いに離れる方向に拡大して傾斜するように、前記第1のガスガイド部の基端部の間隔により設定される膨張展開状態での乗員の後方における前記首部用気室の屈曲位置の間隔が、前記チャックまたは前記接続体の長さよりも大きく設定されているものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のエアバッグによれば、ガスをエアバッグ本体部の展開方向に沿う第1の方向にガイドする第1のガスガイド部の先端部近傍に、第2の方向へとそれぞれガスを分岐させる複数の第2のガスガイド部を配置するとともに、各第2のガスガイド部を、第1のガスガイド部の先端部から第1の方向側に離れて位置させることにより、各第2のガスガイド部の基端部と第1のガスガイド部の先端部との間を通気口とするとともに、各第2のガスガイド部の基端部間を第2の方向に離すことで、第1のガスガイド部によって第1の方向にガイドされてガス導入部の位置よりも流速が低下したガスの一部を第2のガスガイド部によって第2の方向へと確実にガイドして通気口から気室へと導入させることができるとともに、第1のガスガイド部によって第1の方向にガイドされた残りのガスが第2のガスガイド部の基端部間を第1の方向に流れるので、第1のガスガイド部と第2のガスガイド部とにより、ガスを第1の方向と第2の方向とにそれぞれ効率よく分岐させることができ、簡素な構成でエアバッグ本体部をバランスよく展開させることが可能となる。
【0012】
求項記載のエアバッグによれば、請求項記載のエアバッグの効果に加えて、各第2のガスガイド部が第2の方向に沿って形成されているため、各第2のガスガイド部によって、ガスをより確実に第2の方向へと分岐させることができる。
【0013】
請求項記載のエアバッグによれば、請求項1または2記載のエアバッグの効果に加えて、各第2のガスガイド部を基端部から先端部に向かい第1の方向とは反対方向に傾斜させることで、各第2のガスガイド部により第2の方向へとガスをガイドする際に、第1の方向側に向かうガスの流速成分を抑制して、ガスの流速によってエアバッグ本体部が第1の方向へと引っ張られにくくできる。
【0014】
請求項4記載のエアバッグによれば、請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグの効果に加えて、膨張展開状態で首部用気室が乗員の前方から後方に向かい互いに離れる方向に拡大して傾斜するように、第1のガスガイド部の基端部の間隔により設定される膨張展開状態での乗員の後方における首部用気室の屈曲位置の間隔をチャックまたは接続体の長さよりも大きく設定することで、乗員の首部の両側に首部用気室の前部付近をそれぞれ接触させることができる
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態のエアバッグの基布の状態を示す平面図である。
図2】(a)は同上エアバッグの乗員に装着しない状態での膨張展開状態の一例を下方から示す平面図、(b)は同上エアバッグの乗員に装着しない状態での膨張展開状態の他の例を下方から示す平面図である。
図3】同上エアバッグの展開挙動を(a)ないし(d)の順に模式的に示す説明側面図、(e)は図2(a)の例に対応する(d)のI-I相当位置の断面図、(f)は図2(b)の例に対応する(d)のI-I相当位置の断面図である。
図4】(a)ないし(c)は同上エアバッグのエアバッグ本体部の製造工程を示す説明図、(d)は(c)のII-II相当位置の断面図である。
図5】同上比較例のエアバッグの展開挙動を(a)ないし(e)の順に模式的に示す説明側面図である。
図6】同上エアバッグの膨張展開状態での縦断面図である。
図7】本発明の第2の実施の形態のエアバッグの基布の状態を示す平面図である。
図8】本発明の第3の実施の形態のエアバッグの基布の状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図3において、10はエアバッグを示す。このエアバッグ10を備えたエアバッグ装置11は、移動体である自転車などの乗員の頭部Aを保護する頭部保護エアバッグ装置である。本実施の形態では、このエアバッグ装置11は、例えば乗員の首周りに装着される二輪車用エアバッグ装置である。なお、以下、前後方向(矢印FR方向及び矢印RR方向)、左右両側方向(図1に示す矢印L方向及び矢印R方向)、及び上下方向(矢印U方向及び矢印D方向)は、それぞれ乗員がエアバッグ装置11を装着した状態を基準として説明する。
【0018】
そして、このエアバッグ装置11は、エアバッグモジュールとも呼び得るもので、袋状の外殻部であるエアバッグ本体部12を有する上記のエアバッグ10の他に、エアバッグ本体部12にガスを供給するインフレータ、インフレータの動作を制御する制御手段、及びこれらの電源となる電池(二次電池)などを備えている。そして、このエアバッグ装置11は、所定の方法により折り畳まれた状態のエアバッグ10(エアバッグ本体部12)とともに、インフレータ、制御手段、及び電池などが例えば布製などの袋体であるカバー13の内部に収納され、乗員の首周りに巻き付けられて装着されるようになっている。
【0019】
インフレータは、円盤状や円柱状などをなす本体部を備えている。本体部の内側には、点火器及び薬剤が収納され、接続されたコネクタを介して伝えられる制御手段からの電気信号により、点火器が薬剤を燃焼させ、本体部に形成されたガス噴射口から膨張用のガスをエアバッグ本体部12内に急速に供給するようになっている。
【0020】
制御手段は、衝撃を検出するセンサや制御装置を備え、この制御装置が、インフレータに信号線を介して接続され、センサにより所定の衝撃を検出したときにインフレータを作動させるようになっている。
【0021】
そして、図1に示すエアバッグ本体部12は、単数、あるいは複数の基布を縫製、接着あるいは溶着などにより組み合わせて接合することで全体としては袋状に形成されている。すなわち、エアバッグ本体部12は、1枚の基布にていわゆるワンピースウーヴン(One Piece Woven、OPW)で袋織りされて形成されているものでもよいし、2枚以上の基布を縫製などにより接合して袋状に形成されているものでもよい。また、このエアバッグ本体部12は、インフレータからガスが導入されるガス導入部15と、このガス導入部15から導入されたガスにより膨張する膨張部16と、ガスが導入されない非膨張部17とを備えている。そして、このエアバッグ本体部12は、縫製などにより形成された接合部18(図4)によって接合されて、膨張展開状態では乗員の首周りから頭部を覆うヘルメット状の立体形状となるように形成されている。
【0022】
ガス導入部15は、開口部として形成されている。このガス導入部15は、エアバッグ本体部12の展開基端側となる部分である。本実施の形態において、このガス導入部15は、乗員の首周りの後部に位置している。このガス導入部15には、例えばインフレータの本体部の一部が挿入されていてもよい。
【0023】
膨張部16は、ガス導入部15からのガスの導入により膨張する気室(チャンバ)19を複数備えている。また、この膨張部16には、気室19へ導入されるガスの流れを制御するガスガイド部20が形成されている。
【0024】
気室19には、左右方向に沿って延びる複数の第1の気室22と、放射状に延びる複数の第2の気室23とが設定されている。
【0025】
各第1の気室22は、ガス導入部15からインフレータを介してガスが直接導入される気室である。各第1の気室22は、乗員の首部の両側部に位置する首部用気室である。各第1の気室22は、左右方向に長手状に形成され、ガス導入部15から左方向、及び、右方向にそれぞれ突出している。そして、各第1の気室22は、図2(a)及び図2(b)に示すように、互いの先端側が間隔調整部であるチャック(ファスナ)24により非膨張部17の位置で連結されることで乗員の首部の前部の位置で対向するように乗員の首周りに巻き付けられて位置し、膨張展開状態で乗員の首部を保護するようになっている。チャック24は、エアバッグ本体部12の乗員の前方位置での第1の気室22の間隙W1を調整可能となっている。例えば、図2(a)に示す一例では、間隙W1が相対的に小さく設定され、図2(b)に示す他の例では、間隙W1が相対的に大きく設定される。チャック24は、第1の気室22の先端側の非膨張部17に対し、接続体、例えば接続布により接続されている。
【0026】
図1に示す各第2の気室23は、各第1の気室22に対して上側に位置し、互いに左右に並んで配置されている。各第2の気室23は、本実施の形態において、例えば左右対称に配置されている。本実施の形態において、第2の気室23は、左右両側部に3つずつ、中央部に1つ形成されているが、この数や形状に限定されるものではない。また、各第2の気室23は、例えば接合部18により接合される前の基布の状態で、基端側(下側)から先端側(上側)に向かって縁部の距離が徐々に大きくなるように、いわば手指状に開いて延出されている。したがって、本実施の形態において、第2の気室23間は、接合部18により接合される前の基布の状態で切欠部25となっており、第2の気室23同士が互いに離れて形成されている。そして、各第2の気室23は、膨張展開状態で、乗員の頭部Aの後部から両側部、及び前部に亘る位置を保護するようになっている。また、乗員の頭部Aの後部に位置する第2の気室23は、前後方向に厚みが大きくなるように設定されている。
【0027】
ガスガイド部20は、ガス導入部15から導入されたガスを気室19へとガイドするものである。本実施の形態において、このガスガイド部20は、ガス導入部15に近接して位置してエアバッグ本体部12の展開方向に沿う第1の方向(上方)Xにガスを導く第1のガスガイド部27と、第1のガスガイド部27からさらに第1の方向Xと交差又は直交する第2の方向(左右)Yにガスを導く第2のガスガイド部28とが設定されている。また、このガスガイド部20は、さらに、第1のガスガイド部27からさらに上方左右にガスを導く第3のガスガイド部29が設定されていてもよい。ガスガイド部20は、例えば基布が縫製などにより接合されて形成されている。
【0028】
第1のガスガイド部27は、エアバッグ本体部12において、ガス導入部15の両側に近接する位置で、第1の方向Xに沿ってそれぞれ形成されている。つまり、各第1のガスガイド部27は、エアバッグ本体部12の膨張展開状態で、乗員の後側の首部から後頭部に亘る位置に配置される。第1のガスガイド部27,27は、第2の方向Yに互いに離れて位置する。各第1のガスガイド部27は、基端部(下端部)27aがガス導入部15に対して第1の方向Xに所定距離離れて第1の方向Xにおいて第1の気室22の幅内に位置し、先端部(上端部)27bが第1の方向Xにおいて、第1の気室22に隣接する第2の気室23の幅内に位置している。このため、各第1のガスガイド部27の基端部27aとガス導入部15との間の位置は、ガスが各第1の気室22へと分岐する分岐口31となっている。さらに、第1のガスガイド部27,27は、第1の気室22と交差する方向に沿って延びており、各第1のガスガイド部27の基端部27aを含む位置が、エアバッグ本体部12の膨張展開状態での乗員の後方における第1の気室22の屈曲位置を設定する。したがって、第1のガスガイド部27,27の間隔、本実施の形態では基端部27a,27aの間隔に応じて、図2(a)及び図2(b)に示すように、乗員の後方位置での第1の気室22の間隙W2が設定されている。例えば、図2(a)に示す一例では、間隙W2が相対的に大きく設定され、図2(b)に示す他の例では、間隙W2が相対的に小さく設定されて、例えば間隙W2に対し、間隙W1が間隙W2の半分以上となっている。ここで、チャック24の長さまたは接続布の長さによる間隙W1と第1のガスガイド部27,27の基端部27a,27aの間隔による間隙W2とは、互いに負の相関を持たせる、つまり一方を大きくしたときに他方を小さくするように設定することで、各第1の気室22の長さ、すなわち各第1の気室22の容量を変えることなく間隙W1,W2を調整可能となる。図2(a)に示す例では、間隙W1が相対的に小さく、間隙W2が相対的に大きく設定されていることで、各第1の気室22が前方から後方に向かい互いに離れる方向に拡大するように傾斜する。また、図2(b)に示す例では、間隙W1が相対的に大きく、間隙W2が相対的に小さく設定されていることで、各第1の気室22が前後方向に沿って長手状で、かつ、互いに略平行に並ぶように位置する。
【0029】
また、各第1のガスガイド部27は、基端部27aから先端部27bに向かい互いに徐々に接近するように傾斜して形成されている。したがって、第1のガスガイド部27,27は、正面から見てハ字状に配置されている。そして、各第1のガスガイド部27の先端部27b間は、ガスが第2のガスガイド部28及び第3のガスガイド部29へと流れるための流入口32となっている。さらに、各第1のガスガイド部27とガス導入部15との間は、ガス導入部15から導入されたガスが分岐口31及び流入口32に分岐するための第1の空間部33となっている。第1の空間部33は、各第1のガスガイド部27が基端部27aから先端部27bへと徐々に接近していることで、ガス導入部15側が広く、流入口32側が狭くなるように形成されている。
【0030】
第2のガスガイド部28は、エアバッグ本体部12において、第1のガスガイド部27の先端部27bの近傍の位置で、第2の方向Yに沿ってそれぞれ形成されている。つまり、各第2のガスガイド部28は、エアバッグ本体部12の膨張展開状態で、乗員の左右両側の頭部に亘る位置に配置される。各第2のガスガイド部28は、各第1のガスガイド部27に対して第1の方向X側に位置している。すなわち、各第2のガスガイド部28は、基端部28aから先端部28bに亘る全体が、第1のガスガイド部27よりも第1の方向(上方)X側に位置している。また、各第2のガスガイド部28は、第1のガスガイド部27の先端部27bから第1の方向X及び第2の方向Y側に離れて位置している。さらに、各第2のガスガイド部28は、本実施の形態において、第1のガスガイド部27に対して相対的に近い基端部28aから第1のガスガイド部27に対して相対的に遠い先端部28bへと、第1の方向X側に徐々に傾斜する直線状に形成されている。具体的に、各第2のガスガイド部28は、本実施の形態において、上方左右斜め方向に向かって延びて形成されている。このため、本実施の形態の各第2のガスガイド部28は、第1の方向Xと第2の方向Yとの各成分を有する方向に沿って形成されている。また、各第2のガスガイド部28の先端部28bは、隣り合う第2の気室23間の非膨張部17に近接して位置している。このため、各第2のガスガイド部28の基端部28aと各第1のガスガイド部27の先端部27bとの間は、流入口32の両側に連通する通気口35となっている。各通気口35は、第1の気室22に対して隣り合う各第2の気室23に向かって開口されている。
【0031】
第3のガスガイド部29は、エアバッグ本体部12において、全体が第1のガスガイド部27の第1の方向X側に離れて位置している。また、第3のガスガイド部29は、エアバッグ本体部12の中央部又は略中央部にて、第1の方向Xに沿って形成されている。つまり、第3のガスガイド部29は、エアバッグ本体部12の膨張展開状態で、乗員の後頭部から頭頂部付近に亘る位置に配置される。この第3のガスガイド部29の基端部(下端部)29aは、第1のガスガイド部27の先端部27bに対して第1の方向X側に離れて位置しているとともに、第2のガスガイド部28の基端部28aの略中間位置に配置されている。また、第3のガスガイド部29の先端部(上端部)29bは、第2のガスガイド部28に対して第1の方向X側に位置している。このため、第3のガスガイド部29の基端部29aと各第2のガスガイド部28の基端部28aとの間は、流入口32及び通気口35に対して連通する通気口36となっている。各通気口36は、第1の気室22に対して隣り合わない残りの各第2の気室23に向かって開口されている。また、第3のガスガイド部29の基端部29aと、各第1のガスガイド部27の先端部27bと、各第2のガスガイド部28の基端部28aとの間は、流入口32から流入したガスが各通気口35,36へと分岐するための第2の空間部37となっている。第2の空間部37は、本実施の形態において、乗員の後頭部近傍に位置している。
【0032】
非膨張部17は、接合部18により接合する前の基布の状態で膨張部16の各気室19の外縁に沿ってフィン状に形成されている。本実施の形態の非膨張部17は、例えば基布における気室19の接合代(縫い代)として形成されている。
【0033】
接合部18は、例えば縫製などにより形成され、第2の気室23の先端側の非膨張部17の位置をまとめている。本実施の形態では、例えば図4(a)に示す基布の状態から、図4(b)に示すように、隣り合って左右に並ぶ第2の気室23の一部を重ね合わせた状態で、図4(c)に示すように、第2の気室23の先端側を縫製などにより接合して接合部18が形成される。このため、接合部18により、図4(d)に示すように、隣り合う第2の気室23の一部が左右方向及び上下方向に互いに重なって形成され、これら第2の気室23が互いに左右方向に近接した状態で一体化される。より詳細には、隣り合う第2の気室23が、エアバッグ本体部12において、乗員の頭頂部から頭部両側部に亘り斜め方向に重なりつつ並び、エアバッグ本体部12が立体形状となるように配置される。すなわち、第2の気室23は、エアバッグ本体部12の展開先端側が窄まるように重なって配置される。
【0034】
次に、エアバッグ装置の展開動作を説明する。
【0035】
このエアバッグ装置の動作の概略としては、二輪車の衝突などの際に、所定の衝撃をセンサにより検出すると、制御装置がインフレータを作動させ、このインフレータからガスを噴射させる。そして、インフレータから噴射されたガスがガス導入部15からエアバッグ本体部12の内部に流入し、ガスガイド部20によって第1の気室22及び第2の気室23へとそれぞれ導入され、エアバッグ本体部12が折り畳まれた状態から膨張展開することで、その展開圧力でカバー13の一部を破断して突出し、乗員の頭部Aを後頭部から前頭部に掛けて覆う。
【0036】
より詳細には、インフレータからエアバッグ本体部12の内部へとガス導入部15を介してガスが導入されると、このガスによって最初に乗員の首部の後方の位置で第1の空間部33が膨張し、エアバッグ本体部12が第1の方向(上方)Xへと引っ張られることを第1の空間部33によって抑制する。次いで、第1の空間部33から流入口32及び各分岐口31へと分岐され、各分岐口31から各第1の気室22へとガスが導入されて各第1の気室22が膨張するとともに、各第1のガスガイド部27間で第1の方向(上方)Xへとガイドされたガスが流入口32から第2の空間部37へと導入される。この第2の空間部37では、すでに第1の気室22へとガスが分岐された残りのガスが導入されており、流入口32の通過などによって第1の空間部33よりもガスの流入速度が弱まっているため、各第1のガスガイド部27(流入口32)に対して第1の方向Xに離れた各第2のガスガイド部28及び第3のガスガイド部29によって、この第2の空間部37から各通気口35,36へとガスが効果的に分岐され、各第2の気室23へとガスが導入されて各第2の気室23が膨張する。
【0037】
この結果、エアバッグ本体部12は、図3(a)ないし図3(d)に示すように、第2の気室23が、導入されたガスが基端側から先端側へと通過するに従い、乗員の頭部Aの上部及び両側部に沿って、これら頭部Aの上部及び両側部を後方から包むように前方に倒れ込みながら展開する。このため、膨張部16は、図3(e)、あるいは図3(f)に示すように第1の気室22が乗員の首部Nの周囲に膨張展開し、図3(d)に示すように、第2の気室23が頭部Aの形状に合わせた(頭部Aを後方から包み込む)丸みを帯びた立体形状に展開する。すなわち、膨張部16は、乗員の頭部Aに対向する乗員対向部を内側とするポケット状(半ドーム状)に展開する。
【0038】
このように、本実施の形態によれば、ガスをエアバッグ本体部12の展開方向に沿う第1の方向Xにガイドする第1のガスガイド部27の先端部27b近傍に、第2の方向Yへとそれぞれガスを分岐させる複数の第2のガスガイド部28を配置することで、第1のガスガイド部27によってガイドされてガス導入部15の位置よりも流速が低下したガスを第2のガスガイド部28によってガイドできるので、第1のガスガイド部27と第2のガスガイド部28とにより、ガスを第1の方向Xと第2の方向Yとにそれぞれ効率よく分岐させることができ、簡素な構成でエアバッグ本体部12をバランスよく展開させることが可能となる。
【0039】
例えば、図5(a)ないし図5(e)に示す比較例のエアバッグ装置11aのように、第2のガスガイド部38が第1のガスガイド部39の先端部39bよりも第1の方向Xに対して反対方向側に位置する場合には、第1のガスガイド部39により第1の方向Xへとガイドされるガスの流速が第2のガスガイド部38の位置では低下されずに、エアバッグ本体部12aが第1のガスガイド部39によってガス導入部15からの乗員の頭部Aに対して第1の方向(上方)Xに大きく展開して第2のガスガイド部38により効果的に分岐されず、第2の方向(左右方向)Yへのエアバッグ本体部12aの展開が遅れるのに対して、本実施の形態では、第1の方向X及び第2の方向Yへとガスを効率よく分岐してエアバッグ本体部12をバランスよく展開させることができ、乗員の頭部Aに沿った展開となって保護性能を向上できる。
【0040】
具体的に、各第2のガスガイド部28が第1のガスガイド部27に対して第1の方向X側に位置するため、第1のガスガイド部27により第1の方向X側にガイドされたガスを、各第2のガスガイド部28によって、より確実に第2の方向Yへと分岐させることができる。
【0041】
さらに、各第2のガスガイド部28が第2の方向Yに沿って形成されているため、各第2のガスガイド部28によって、ガスをより確実に第2の方向Yへと分岐させることができる。
【0042】
また、各第2のガスガイド部28が第2の方向Yに対して、基端部28aから先端部28bに向かい第1の方向(上方)X側に傾斜しているので、第1のガスガイド部27によりガイドされたガスの方向を各第2のガスガイド部28によって急峻に変化させることなく、円滑に第2の方向Yへとガイドすることが可能になる。
【0043】
さらに、ガス導入部15からエアバッグ本体部12へとガスが導入されたときに、最初に第1の空間部33が膨張することで、膨張した第1の空間部33がいわば物理的なストッパとして作用し、ガスの流速によってエアバッグ本体部12が第1の方向(上方)Xへと引っ張られにくくできる。しかも、第1の空間部33は、ガス導入部15側が流入口32側よりも広くなっているため、ガス導入部15に近い、第1のガスガイド部27の基端部27a側寄りの位置(下方寄りの位置)がより大きく膨張することとなり、ガス導入部15から遠い位置が膨張する場合と比較して、エアバッグ本体部12が第1の方向(上方)Xへと、より引っ張られにくくできる。
【0044】
また、チャック24と、第1の気室22と交差する方向に沿って延びる第1のガスガイド部27,27の間隔の調整とにより、乗員の首部Nの前後の位置でエアバッグ本体部12の膨張展開形状の幅を調整し、首部Nと第1の気室22との隙間を自由に設定できる。例えば図3(e)に示す例では、エアバッグ本体部12の各第1の気室22が、下方または上方から見て円形状に膨張展開するため、乗員の首部Nの両側に第1の気室22の前部付近をそれぞれ接触させることができる。一方、図3(f)に示す例では、エアバッグ本体部12の各第1の気室22が、下方または上方から見て前後方向に長い楕円形状または長円形状に膨張展開するため、乗員の首部Nの両側に第1の気室22の長手方向である前後方向の中央部付近をそれぞれ接触させ、首部Nの前後に隙間を形成できる。本実施の形態のエアバッグ10の場合、膨張展開形状のエアバッグ本体部12が乗員の後頭部の位置の第2の気室23において前後に厚みを有することにより、乗員の頭部Aの後部と第2の気室23との隙間を大きく取ることができず、図6に示すように、乗員の頭部Aの後部に対してエアバッグ本体部12が干渉しやすくなっており、干渉代OLの分、エアバッグ本体部12が後方へと移動する。そのため、首部Nの前方の隙間を大きくする場合には、エアバッグ本体部12が後方へ移動しても乗員の喉元部分の圧迫を抑制できる。
【0045】
また、チャック24による間隙W1の調整と、第1のガスガイド部27の間隔による間隙W2の調整とに負の相関を持たせることで、第1の気室22の容量を増大させないので、エアバッグ10の乗員拘束性能や展開速度を低下させることなく首部Nと第1の気室22との隙間を自由に設定できる。
【0046】
なお、上記の第1の実施の形態において、第1のガスガイド部27と第2のガスガイド部28との角度や長さには制約がなく、第1のガスガイド部27の先端部27b近傍に第2のガスガイド部28が位置していればよい。したがって、図7に示す第2の実施の形態のように、各第2のガスガイド部28が、第2の方向Yに対して、基端部28aから先端部28bに向かい第1の方向Xとは反対方向(下方)に傾斜してもよい。この場合には、各第2のガスガイド部28により第2の方向Yへとガスをガイドする際に、第1の方向(上方)X側に向かうガスの流速成分を抑制して、ガスの流速によってエアバッグ本体部12が第1の方向(上方)Xへと、より引っ張られにくくできる。
【0047】
また、図8に示す第3の実施の形態のように、各第2のガスガイド部28が、第2の方向Yに沿って左右方向に形成されていても、第1のガスガイド部27と第2のガスガイド部28とにより、ガスを第1の方向Xと第2の方向Yとにそれぞれ効率よく分岐させることができ、簡素な構成でエアバッグ本体部12をバランスよく展開させることが可能となる。また、第3のガスガイド部29は、1つに限らず、左右に複数形成されていてもよい。
【0048】
さらに、上記の各実施の形態において、エアバッグ装置は、例えば自動車の座席に着座した乗員の頭部Aの後方に位置するヘッドレストなどに配置されるエアバッグ装置としても用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えば二輪車用の頭部保護エアバッグ装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
10 エアバッグ
12 エアバッグ本体部
15 ガス導入部
19 気室
20 ガスガイド部
22 首部用気室である第1の気室
24 ャック
27 第1のガスガイド部
27b 先端部
28 第2のガスガイド部
28a 基端部
28b 先端部
35 通気口
A 頭部
N 首部
X 第1の方向
Y 第2の方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8