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特許7684037半導体発光装置、半導体発光装置の製造方法および殺菌装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】半導体発光装置、半導体発光装置の製造方法および殺菌装置
(51)【国際特許分類】
   H10H 20/857 20250101AFI20250520BHJP
   H10H 20/85 20250101ALI20250520BHJP
   H10H 20/00 20250101ALI20250520BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
H10H20/857
H10H20/85
H10H20/00 L
H01L23/02 F
H01L23/02 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020199556
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087565
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100145458
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 正哉
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 千寿
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 方生
(72)【発明者】
【氏名】大和田 聡二
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-71355(JP,A)
【文献】特開2015-138870(JP,A)
【文献】特開2005-109484(JP,A)
【文献】特開2020-113718(JP,A)
【文献】特開2008-288307(JP,A)
【文献】特開2016-219505(JP,A)
【文献】特開2009-200064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10H 20/00-20/01
H10H 20/85-20/858
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、
ベース基板と、
半導体発光素子とベース基板との間に配される共晶部と、
前記ベース基板の縁から立設され、前記半導体発光素子を囲む枠部と、
前記枠部の開口を塞ぐ蓋部と、
前記枠部と前記蓋部を接合する接合部と、
を備え、
前記共晶部は、AuとSnの組成比がAu73%以上となるAuリッチな範囲の組成比のAuSn系合金であり、
前記合金の組成比は、前記AuSn系合金のAuの組成比の増加に従って融点が上昇する組成比であり、
さらに、前記共晶部内には、前記Auの金属の組成比が周囲より高い箇所が複数含まれており、
前記接合部の融点よりも前記共晶部の融点の方が高い半導体発光装置。
【請求項2】
半導体発光素子と、
サブマウント基板と、
半導体発光素子とサブマウント基板との間に配される共晶部と、
前記サブマウント基板が実装されたベース基板と、
前記ベース基板の縁から立設され、前記半導体発光素子を囲む枠部と、
前記枠部の開口を塞ぐ蓋部と、
前記枠部と前記蓋部を接合する接合部と、
を備え、
前記共晶部は、AuとSnの組成比がAu73%以上となるAuリッチな範囲の組成比のAuSn系合金であり、
前記合金は、前記AuSn系合金のAuの組成比の増加に従って融点が上昇する組成比であり、
さらに、前記共晶部内には、前記Auの金属の組成比が周囲より高い箇所が複数含まれており、
前記接合部の融点よりも前記共晶部の融点の方が高い半導体発光装置。
【請求項3】
前記共晶部内において、前記Auの金属の組成比が周囲より高い箇所はランダムに配置されている請求項1または請求項2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記共晶部内において、前記Auの金属の組成比が周囲より高い箇所は規則的に配置されている請求項1または請求項2に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
電極を有する半導体発光素子を準備する第一の工程と、
配線電極を備える基板を準備する第二の工程と、
前記電極の表面、または前記配線電極の表面の少なくともいずれか一方に共晶前金属部を配置する第三の工程と、
前記電極の表面、前記配線電極の表面または前記共晶前金属部の少なくともいずれか一か所に前記共晶前金属部に含まれる金属と同じ第一の金属を含む金属部を配置する第四の工程と、
前記電極と前記配線電極とを位置合わせし、圧力をかけ、かつ加熱して前記共晶前金属部を共晶させ、共晶部とする第五の工程と、を含み、
前記共晶部は、溶融後のAuとSnの組成比が、Auが73%以上となる組成比のAuSn系合金であり、
前記第五の工程における前記共晶前金属部が共晶する過程は、前記金属部の前記第一の金属が前記共晶部に移動し、前記共晶部における前記第一の金属の組成比をそれ以外の箇所よりも高くして、前記共晶部の融点をそれ以外の箇所よりも上昇するように変異させる半導体発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記第一の金属を含む金属部は、粒子状である請求項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記第四の工程は、前記電極の表面、前記配線電極の表面または前記共晶前金属部の少なくともいずれか一か所に前記第一の金属を含む金属部をパターニングによって配置する請求項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記基板は、サブマウント基板である請求項から請求項のいずれか1項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記基板は、ベース基板である請求項から請求項のいずれか1項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記基板は、さらに前記基板の縁部に沿って前記半導体発光素子を囲むように立設され、前記半導体発光素子を囲む枠部を備え、
前記第五の工程の後に、前記半導体発光素子を覆うように前記枠部上端に蓋部を接合する第六の工程を備える請求項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体発光装置を含む殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光装置、半導体発光装置の製造方法および殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種発光装置(例えば、照明装置や殺菌装置)の光源として、LED(Light Emitting Diode)等の半導体発光素子が用いられている。また、近年の技術開発の進歩によって、可視光発光型のLED(可視光LED)だけでなく、深紫外領域(例えば、波長100nmから280nmの紫外域)や近紫外領域(例えば、波長280nmから400nmの紫外域)に発光のピーク波長を有するLED(深紫外LED、近紫外LEDと称される場合もある)も提供されている。
【0003】
深紫外LEDや近紫外LEDの一例として、AlGaN系半導体を含む発光素子が挙げられる。このような発光素子は、窒化アルミニウム(AlN)単結晶基板上に成長され、素子化された際にもAlN単結晶基板を備える。このAlN単結晶基板は、外部からの水分により加水分解がおこり、素子劣化の原因となる。このような事態を防止するため、AlN単結晶基板を含む発光素子は、不活性ガス(例えば、窒素ガス)で満たされたパッケージに収容され、外部からの水分に触れないように気密に封止される。
【0004】
ところで、パッケージの封止工程において、パッケージの本体に蓋(例えば、石英ガラス)を固定するために、双方が接触する箇所の間に配される金属接合部に高熱が加えられる。これに対して、発光素子は、ハンダ合金(共晶部)を介して、熱伝導性の高い基板(例えば、サブマウント基板)に支持される。そのため、パッケージを封止する際の加熱によって、発光素子と基板との間のハンダ合金に高熱が伝わることで、共晶部が再溶融する場合がある。
【0005】
このとき、発光素子の自重で圧し潰された共晶部の縁が、発光素子の底面から外側に押し出され、発光素子の側面に接触する可能性がある。この場合、発光素子(LED)のp層とn層とが短絡する(pnショート)などの不具合が生じる。また、共晶部が溶融する結果、発光素子/共晶部/基板の各界面、および共晶部の内部にボイド等の欠陥が生成される。これらの欠陥に起因して熱抵抗や電気抵抗が上昇する。このような状況下、高温に晒された共晶部が溶融する際の不具合を解決する発明が、下記特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-58597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の発明は、ハンダバンプ(共晶部)が形成された半導体チップの電極を配線基板に接続する方法であって、以下の工程を備える。すなわち、半導体チップと配線基板との間に、共晶部の溶融温度よりも低い硬化温度で硬化する封止樹脂を供給し、半導体チップの背面側から荷重を加えながら封止樹脂を共晶部の溶融温度以下の温度で加熱硬化する。その後、共晶部に熱を加えて溶融させ、半導体チップの電極と配線基板とを接続する。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の発明は、共晶部の溶融温度よりも低い温度で硬化する封止樹脂を半導体チップと配線基板との間に必ず備える。それに加えて、特許文献1に開示の発明は、封止樹脂を加熱して硬化させる工程と、そこからさらに昇温して共晶部を溶融する工程の2工程を含む。その結果、特許文献1に開示の発明は、構造が複雑であると共に、工程が簡素化されていないため、生産コストの高騰を招く。さらに、特許文献1に開示の発明は、封止樹脂を加熱硬化させた後、共晶部を溶融させるものであって、既に硬化している共晶部の再溶融を防止するものではない。
【0009】
前記課題に鑑み、本発明は、生産コストの高騰を招かないと共に、発光素子と基板との間に配される共晶部(合金を含む要素)に高熱が加わっても、共晶部に含まれる合金の溶融を防ぎ、発光素子の短絡や新たな欠陥を生じさせない半導体発光装置、半導体発光装置の製造方法および殺菌装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る半導体発光装置は、
半導体発光素子と、
ベース基板と、
半導体発光素子とベース基板との間に配される共晶部と、
前記ベース基板の縁から立設され、前記半導体発光素子を囲む枠部と、
前記枠部の開口を塞ぐ蓋部と、
前記枠部と前記蓋部を接合する接合部と、
を備え、
前記共晶部は、AuとSnの組成比がAu73%以上となるAuリッチな範囲の組成比のAuSn系合金であり、
前記合金の組成比は、前記AuSn系合金のAuの組成比の増加に従って融点が上昇する組成比であり、
さらに、前記共晶部内には、前記Auの金属の組成比が周囲より高い箇所が複数含まれており、
前記接合部の融点よりも前記共晶部の融点の方が高いことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る半導体発光装置は、
半導体発光素子と、
サブマウント基板と、
半導体発光素子とサブマウント基板との間に配される共晶部と、
前記サブマウント基板が実装されたベース基板と、
前記ベース基板の縁から立設され、前記半導体発光素子を囲む枠部と、
前記枠部の開口を塞ぐ蓋部と、
前記枠部と前記蓋部を接合する接合部と、
を備え、
前記共晶部は、AuとSnの組成比がAu73%以上となるAuリッチな範囲の組成比のAuSn系合金であり、
前記合金は、前記AuSn系合金のAuの組成比の増加に従って融点が上昇する組成比であり、
さらに、前記共晶部内には、前記Auの金属の組成比が周囲より高い箇所が複数含まれており、
前記接合部の融点よりも前記共晶部の融点の方が高いことを特徴とする。
【0012】
本発明のこれらの態様によれば、第一の金属と、第二の金属を含む共晶部内に、第一の金属の組成比が周囲より高い箇所が複数含まれている。ここで、本発明の共晶部は、第一の金属と第二の金属を含む合金であり、第一の金属の組成比が増加するに従って融点が上昇する。このため、第一の金属の組成比が高い箇所は、共晶部が通常溶融する温度より高温の環境(例えば、枠部と蓋部を接合する際の環境など)にさらされても溶融しない。これにより、溶融した合金の一部が半導体発光素子の側面と接触して短絡させる事態や、共晶部内に新たな欠陥(ボイド等)が生じる事態を防止できる。
【0013】
なお、前記組成比とは、例えば、合金の原子数に対する、合金に含まれる第一の金属と同一の金属原子の原子数の割合を言う。例えば、合金が、第一の金属と同一の金属原子、および他の金属原子(例えば、第二の金属)により構成される場合、合金における第一の金属と同一の金属原子の組成比は、下式により表される。
(式) 組成比=N/(N+N
ここで、前記式において、
:合金における第一の金属と同一の金属原子の原子数
:合金における他の金属原子の原子数
を示す。
【0014】
また、本発明に係る半導体発光装置の製造方法は、
電極を有する半導体発光素子を準備する第一の工程と、
配線電極を備える基板を準備する第二の工程と、
前記電極の表面、または前記配線電極の表面の少なくともいずれか一方に共晶前金属部を配置する第三の工程と、
前記電極の表面、前記配線電極の表面または前記共晶前金属部の少なくともいずれか一か所に前記共晶前金属部に含まれる金属と同じ第一の金属を含む金属部を配置する第四の工程と、
前記電極と前記配線電極とを位置合わせし、圧力をかけ、かつ加熱して前記共晶前金属部を共晶させ、共晶部とする第五の工程と、を含み、
前記共晶部溶融後のAuとSnの組成比が、Auが73%以上となる組成比のAuSn系合金であり
前記第五の工程における前記共晶前金属部が共晶する過程は、前記金属部の前記第一の金属が前記共晶部に移動し、前記共晶部における前記第一の金属の組成比をそれ以外の箇所よりも高くして、前記共晶部の融点をそれ以外の箇所よりも上昇するように変異させることを特徴とする。
【0015】
本発明のこの態様によれば、共晶前金属部が共晶する過程で第一の金属が共晶部に移動し、共晶部における第一の金属の組成比を増加させ共晶部の融点が上昇する。このため、第一の金属の組成比が高い箇所は、共晶部が通常溶融する温度より高温の環境にさらされても溶融しない。これにより、溶融した合金の一部が半導体発光素子の側面と接触して短絡させる事態や、共晶部内に新たな欠陥(ボイド等)が生じる事態を防止できる。
【0016】
また、本発明に係る殺菌装置は、
前記半導体発光装置を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生産コストの高騰を招かないと共に、半導体発光素子と基板との間に配される接合部に高熱が加わっても、共晶部に含まれる合金の溶融を防ぎ、半導体発光素子の短絡や新たな欠陥を生じさせない半導体発光装置、半導体発光装置の製造方法および殺菌装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る半導体発光装置の垂直断面図。
図2】本実施形態に係る半導体発光装置において、半導体発光素子と基板とを接合する前の状態を示す垂直断面の概略図。
図3】AuSn系合金の相図の概略を示すグラフ。
図4】本実施形態に係る半導体発光装置の変形例を示す垂直断面の概略図。
図5】本実施形態に係る半導体発光装置の別の変形例を示す垂直断面の概略図。
図6】本実施形態に係る半導体発光装置のさらに別の変形例を示す垂直断面の概略図。
図7】本実施形態に係る半導体発光装置のさらに別の変形例を示す垂直断面の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体発光装置を詳細に説明する。初めに、図1から図3を参照して、本実施形態に係る半導体発光装置1を説明する。ここで、図1は、半導体発光装置1の垂直断面図である。また、図2は、半導体発光装置1の半導体発光素子10、基板(サブマウント基板)20、共晶部30を図1の状態から取り出し、半導体発光素子10と基板(サブマウント基板20)とを接合する前の状態を示す概略図である。さらに、図3は、本実施形態における共晶部に含まれるAuSn系合金の相図の概略を示すグラフである(横軸:AuSn系合金におけるAuの組成比。縦軸:AuSn系合金の融点。)。
【0020】
なお、図1の上下方向が半導体発光装置1の高さ方向に対応し、図1の左右方向が半導体発光装置1の幅方向に対応し、図1の前後方向が半導体発光装置1の奥行方向に対応する。
【0021】
図1に示されるように、半導体発光装置1は、半導体発光素子10、基板(サブマウント基板)20、共晶部30、ベース基板40と半導体発光素子10等を囲む枠部51を含むパッケージ50を備える。また、半導体発光装置10は、外部電源と接続し、半導体発光素子10に給電するためのサブマウント基板裏面電極60等をさらに備える。
【0022】
次に、本実施形態における半導体発光素子10は、LEDであるが、これに限定されない。他の半導体発光素子10として、半導体レーザーダイオードなどが挙げられる。また、本実施形態における半導体発光素子10は、例えばAlGaN系半導体を含む深紫外LEDであるが、これに限られない。
【0023】
深紫外LED以外のLEDとして、同じくAlGaN系半導体を含む近紫外LED(ただし、AlとGaの組成比が、深紫外LEDのものとは異なる)やGaN系半導体、InGaN系半導体等を含む可視光LEDが挙げられる。なお、特に限定されるものではないが、深紫外LEDとして、発光のピーク波長が、100nmから280nmの範囲に属するLEDが想定される。また、近紫外LEDとして、発光のピーク波長が、280nmから400nmの範囲に属するLEDが想定される。
【0024】
次に、本実施形態における基板20は、所謂サブマウント基板と呼ばれる平板状に成形されたセラミックである(以下、「サブマウント基板20」と言う場合がある)。また、サブマウント基板20は、高い熱伝導性を有する。半導体発光素子10で生じる熱は、サブマウント基板20を介して排熱される。本実施形態におけるサブマウント基板20の種類はAlNであるが、高熱伝導性を有する他のセラミック、金属等であってもよい。
【0025】
本実施形態におけるサブマウント基板20は、例えば、AlNのようなベース基板40上に載置される。ただし、ベース基板40の種類は、これに限定されない。例えば、ベース基板40の材料として、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム(Al)などの窒化物、炭化物または酸化物からなるセラミック、ダイヤモンド、ケイ素(Si)を用いることができる。セラミックとしては、高温焼成または低温焼成のいずれであってもよい。また、本実施形態は、サブマウント基板20とベース基板40の双方を備えているが、サブマウント基板20を備えず、ベース基板40のみ備えていてもよい。この場合、半導体発光装置1の底方から順にベース基板40、共晶部30、半導体発光素子10が配置される。すなわち、ベース基板40は、半導体発光素子10を所定位置に固定するための基板、および半導体発光素子10からの熱を排熱するための基板として機能する。また、セラミック材料の基板であれば、耐紫外線性を有しているため、半導体発光素子10として紫外光を発するものを選択しても、長期にわたって劣化せず、光出力を維持できる。
【0026】
半導体発光素子10、サブマウント基板20および両者を接合する共晶部30は、パッケージ50に収容される。図1に示されるように、パッケージ50は、ベース基板40の縁から立設され半導体発光素子10等を囲む枠部51と、枠部51の開口を塞ぐ蓋部52と、枠部51に被せられた蓋部52を枠部51に接合するための接合部53を備える。
【0027】
ここで、本実施形態における蓋部52は、石英ガラスである。ただし、半導体発光素子10からの光(例えば、深紫外光)を吸収しない部材であれば、蓋部52の種類は、石英ガラスに限られず、石英、UV透過ガラス等であってもよい。
【0028】
本実施形態において、半導体発光素子10とサブマウント基板20との間を接合する前の状態を図2に示す。分かりやすくするため、パッケージ50等は省略する。半導体発光素子10のp側電極11およびn側電極12において、複数の導電材料(Ni,Cr,Au,Cu,Pt,Ti,Pd,Al,W,ITO等)が積層されており、その最表面に、所定の第一の金属、例えばAuが配置されている。また、サブマウント基板20の表面上に形成されたp側配線電極21とn側配線電極22の上には、共晶前金属部30´が形成されている。共晶前金属部30´には、所定の第一の金属、例えばAu層と、所定の第二の金属、例えばSn層が交互に積層されており、溶融後のAuとSnの組成比が、Auが73%以上となる組成比、例えばAu75%:Sn25%となるように膜厚が調整されている。または、共晶前金属部30´は、所定の第一の金属、例えばAuと、所定の第二の金属、例えばSnとを、組成比Au:Snが75:25となるような合金層を備えている。さらに、共晶前金属部30´の表面には、所定の第一の金属を含む複数の金属部31が配置されている。この金属部31は、例えば粒子状の形態を有している。金属部31の大きさは、例えば1-5μm程度である。また、共晶前金属部30´の厚みは、金属部31の大きさより大きいことが好ましい。なお、金属部31は、図2においては共晶前金属部30´上に配置されているが、p側電極11またはn側電極12表面に配置してもよい。また、粒子状の金属部31を付着させるには、例えば電子ビーム蒸着を用いてもよい。電子ビームの照射条件を調整することで、粒子の密度や大きさ等を制御できる。なお、この場合、金属部31の配置はランダムになる。
【0029】
半導体発光素子10とサブマウント基板20とを接合する際には、p側電極11、n側電極12が、それぞれp側配線電極21上の共晶前金属部30´、n側配線電極22上の共晶前金属部30´に合うように位置合わせを行い、半導体発光素子10とサブマウント基板20を上下方向から圧力をかけつつ加熱し、共晶前金属部30´を溶融させる。共晶前金属部30´を溶融させるために、例えば組成比Au75%:Sn25%のAuSn合金であれば、その共晶温度である280℃で加熱する。金属部31は、p側電極11表面とp側配線電極21上の共晶前金属部30´表面との間、またはn側電極12表面とn側配線電極22上の共晶前金属部30´表面との間に挟まれる。そして、周囲の共晶前金属部30´が溶融し、共晶となっていく過程で金属部31中の第一の金属は周囲に拡散し、拡散した範囲の共晶部30における組成比をより第一の金属リッチに偏らせる。すなわち、金属部31が存在した箇所の周囲の第一の金属の組成比がそれ以外の箇所よりも高くなる。この結果、金属部31周囲の共晶部30の共晶温度が上がり、流動性が低下する。
【0030】
より具体的には、図3に示されるように、AuSn系合金の融点は、例えば、Au原子を75%以上含むような、Auの組成比が高い範囲(Auリッチな範囲)で急激に上昇する。前述のように、共晶部30に高温(例えば、280℃)が印加される際、金属部31に含まれるAu原子が、共晶前金属部30´に含まれるAuSn系合金に向けて移動する。その結果、AuSn系合金の融点が上昇し、印加温度より高い融点を有するよう変異する。
【0031】
これにより、パッケージ50の封止工程時のように、共晶部30に高温が印加されても、共晶部30の溶融を防止できる。それに伴い、共晶合金が半導体発光素子の側面と接触してこれを短絡させる事態や、半導体発光素子/共晶部/基板の各界面や共晶部30内に新たな欠陥(ボイド等)が生じる事態を防止できる。ただし、金属部31に含まれる金属、共晶前金属部30´に含まれる合金の種類は、合金において、前記金属がリッチになると融点が上昇する性質を有するものであれば、これに限られない。この性質を有する合金として、例えば、CuSn合金、AgSn合金等が挙げられる。
【0032】
本実施形態におけるパッケージ封止工程は、例えば、下記の通りである。まず、化学的に不活性なガス(例えば、窒素ガス)環境下において、蓋部52が被さっていない枠部51の内側であってベース基板40上に形成された配線の上に、半導体発光素子10、またはサブマウント基板20に半導体発光素子10を実装したものを設置する。続いて、枠部51の上端51Uに接合部53を塗布し、蓋部52を被せる。その後、接合部53を加熱し(高温を印加し)、蓋部52を枠部51に接合させる。これにより、パッケージ50が封止される。それに伴い、パッケージ50内が不活性ガスで満ちる。接合部53としては、例えばAuSnハンダなどの共晶部30と同一成分を含むものを用いる(例えば、共晶部30が、AuとSnから構成される場合、接合部53も、AuとSnから構成される。ただし、接合部53におけるAuとSnの組成比は、共晶部30におけるそれとは異なる。)。
【0033】
半導体発光装置1に備わる共晶部30は、パッケージ封止工程においては蓋部52を接合させる温度において溶解しない程度に共晶温度が上がっている。したがって、パッケージ50の封止時、共晶部30は、高温が印加されても溶融しない。すなわち、本実施形態は、吸湿を防ぐために封止される半導体発光装置に適する。
【0034】
金属部31は、共晶部30内において必ずしも明確に境界が分かる形で残るとは限らない。しかし、その場合においても金属部31が存在した箇所は、共晶部30内においても、所定の第一の金属、例えばAuの組成比が周囲より高いことがシェア剥離面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)で観察し、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)で確認できる。
【0035】
次に、図4を参照して、本実施形態に係る半導体発光装置1の変形例1を示す。なお、金属部31が共晶部30内で境界が分かる形で残るとは限らないのは上記した通りだが、以下の変形例の説明の便宜上、図4-7においては金属部31が残っているように表現した。また、図2と同様、パッケージ50等は省略する。まず、図4(a)において、金属部31は、共晶前金属部30´上にパターニング等によって規則的で均一な密度で形成され、共晶接合工程を経てp側電極11、n側電極12と、共晶前金属部30´の間に挟まれる。その後、加熱処理を経てp側電極11、n側電極12と、共晶部30との間に配置される。共晶接合工程後の状態が図4(b)である。これにより、金属部31と共晶部30とは、高さ方向に沿って隣接する。このとき、金属部31を構成する第一の金属が共晶部30に移動し、共晶部30における少なくとも金属部31近傍に、第一の金属リッチな領域が形成される。その結果、共晶部30に高温が印加されても、共晶接合工程の際に、既に金属部31に含まれる金属原子が共晶部30内の広範囲に移動しており、融点が上昇しているため溶融することはない。
【0036】
なお、図4(a)に示される例において、共晶前金属部30´の上に金属部31を配置し、その上から半導体発光素子10を接合してもよい。一方、半導体発光素子10の底面に金属部31を付着させ、半導体発光素子10の金属部31の付着面(底面側)を共晶前金属部30´に向けて、双方を接合してもよい。
【0037】
次に、図5を参照して、本実施形態に係る半導体発光装置1の変形例2を示す。図5(a)において、金属部31と共晶前金属部30´とがp側配線電極21およびn側配線電極22上に交互に配置される。その後、図5(b)において、共晶接合工程を経てp側電極11およびn側電極12が載置される。これにより、金属部31は、図5(b)の幅方向の両界面と高さ方向の界面で(すなわち、少なくとも3界面で)共晶部30とp側電極11およびn側電極12(最表面に所定の第一の金属を含む)に接する。このとき、金属部31を構成する第一の金属が共晶部30に移動し、共晶部30における少なくとも金属部31近傍に、第一の金属リッチな領域が形成される。その結果、共晶部30に高温が印加されても、共晶接合工程の際に、既に金属部31に含まれる金属原子が共晶部30内の広範囲に移動しており、融点が上昇しているため溶融することはない。
【0038】
次に、図6を参照して、本実施形態に係る半導体発光装置1の変形例3を示す。図6(a)において、幅方向に交互に配置される金属部31と共晶前金属部30´は、それらの高さ寸法が異なるようにp側配線電極21およびn側配線電極22上に配置される。その後、図6(b)において、共晶接合工程を経てp側電極11およびn側電極12が載置される。この例においても、金属部31は、幅方向の両界面で共晶部30に接する。このとき、金属部31を構成する第一の金属が共晶部30に移動し、共晶部30における少なくとも金属部31近傍に、第一の金属リッチな領域が形成される。その結果、共晶部30に高温が印加されても、共晶接合工程の際に、既に金属部31に含まれる金属原子が共晶部30内の広範囲に移動しており、融点が上昇しているため溶融することはない。
【0039】
次に、図7(a)を参照して、本実施形態に係る半導体発光装置1の変形例4を示す。図7(a)において、粒子状の金属部31がp側配線電極21およびn側配線電極22上に配置されている。一方で、共晶前金属部30´がp側電極11およびn側電極12表面に形成されている。その後、図7(b)において、共晶接合工程を経て、p側配線電極21とp側電極11、n側配線電極22とn側電極12が共晶部30によって接合される。これにより、金属部31は、高さ方向および幅方向に沿って共晶部30と隣接する。このとき、金属部31を構成する第一の金属が共晶部30に移動し、共晶部30における少なくとも金属部31近傍に、第一の金属リッチな領域が形成される。その結果、共晶部30に高温が印加されても、共晶接合工程の際に、既に金属部31に含まれる金属原子が共晶部30内の広範囲に移動しており、融点が上昇しているため溶融することはない。
【0040】
なお、上記した実施形態に係る半導体発光装置1において、ベース基板40およびサブマウント基板20の上に半導体発光素子10は一つのみ実装された例を示した。しかし、実装される半導体発光素子10の数は二つ以上であってよい。
【0041】
また、上記した実施形態に係る半導体発光装置1において、ベース基板40の縁から立設される枠部51と枠部51の開口を塞ぐ蓋部52を含む例を示した。しかし、枠部51と蓋部52の代わりに、例えばドーム形状の窓材を用いて素子周辺を封止してもよい。
【0042】
以上で説明した半導体発光装置1は、例えば照明装置、殺菌装置、脱臭装置、樹脂硬化装置などの光源として用いることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明した。ただし、前述の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定する趣旨で記載されたものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るものを含み得る。また、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1…半導体発光装置
10…半導体発光素子
11…p側電極
12…n側電極
20…基板(サブマウント基板)
21…p側配線電極
22…n側配線電極
30…共晶部
40…基板(ベース基板)
50…パッケージ
51…枠部
51u…枠部上面
52…蓋部
53…接合部
60…サブマウント基板裏面電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7