(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】吸音パネル及び防音壁
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20250520BHJP
E01F 8/00 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
G10K11/16 120
E01F8/00
(21)【出願番号】P 2021089160
(22)【出願日】2021-05-27
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000192615
【氏名又は名称】日鉄神鋼建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】楠田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大悟
(72)【発明者】
【氏名】豊原 匡志
【審査官】早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】実公昭53-002107(JP,Y1)
【文献】特開2016-143049(JP,A)
【文献】特開2015-010452(JP,A)
【文献】特開2019-085754(JP,A)
【文献】特開昭50-114822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/178
E01F 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱一体型の吸音パネルであって、
吸音材と、
前記吸音材が収容されるケーシングと、
支柱部材と、を備え、
前記ケーシングは、
音源側に配置されるとともに複数のパンチング孔が形成される正面板と、
前記正面板よりも受音側に配置される背面板と、
前記正面板と前記背面板とを繋ぐ一対の側板と、を有し、
前記支柱部材は、
前記背面板に対向し、互いに離間して配置される一対の柱フランジと、
一対の前記柱フランジからそれぞれ受音側に向けて延びる一対の柱ウェブと、
一対の前記柱ウェブを繋ぐ柱板部と、を有し、
前記ケーシングは、前記柱フランジに設けられる固定部材により前記支柱部材に固定され、
一対の前記柱ウェブは、一対の前記側板の外面と面一な一対の第1基準面と面一に、又は、一対の前記第1基準面の間の領域に配置され
、
前記背面板は、
前記正面板に沿って形成される第1背面板と、
前記正面板に沿って形成されるとともに前記第1背面板よりも受音側に配置される第2背面板と、
前記第1背面板と前記第2背面板とを繋ぐ第3背面板と、を有し、
前記ケーシングの内部には、前記第1背面板よりも音源側の第1領域と、前記第1背面板よりも受音側の第2領域とが形成され、
前記吸音材は、前記第1領域と前記第2領域とに収容されること
を特徴とする吸音パネル。
【請求項2】
前記第1背面板は、一対の前記側板からそれぞれ前記正面板に沿って形成され、
前記第3背面板は、一対の前記第1背面板からそれぞれ受音側に向けて形成され、
前記第2背面板は、一対の前記第3背面板を繋ぐものであること
を特徴とする請求項
1記載の吸音パネル。
【請求項3】
前記第2背面板は、一対の前記側板からそれぞれ前記正面板に沿って形成され、
前記第3背面板は、一対の前記第2背面板からそれぞれ音源側に向けて形成され、
前記第1背面板は、一対の前記第3背面板を繋ぐものであること
を特徴とする請求項
1記載の吸音パネル。
【請求項4】
前記吸音材は、前記第1領域に収容される第1吸音材と、前記第2領域に収容される第2吸音材と、を有し、
前記第2吸音材の単位体積重量は、前記第1吸音材の単位体積重量よりも大きいこと
を特徴とする請求項
1~
3の何れか1項記載の吸音パネル。
【請求項5】
前記吸音材は、前記第1領域に収容される第1吸音材と、前記第2領域に収容される第2吸音材と、前記第2領域に収容されるとともに前記第2吸音材を挟んで前記第1吸音材の反対側に設けられる第3吸音材と、を有し、
前記第3吸音材の単位体積重量は、前記第1吸音材の単位体積重量よりも大きく、前記第2吸音材の単位体積重量よりも大きいこと
を特徴とする請求項
1~
3の何れか1項記載の吸音パネル。
【請求項6】
前記固定部材は、前記背面板と前記柱フランジとに貫通され、
前記ケーシングの内部には、前記正面板と前記背面板とに接触される補強部材が設けられること
を特徴とする請求項1~
5の何れか1項記載の吸音パネル。
【請求項7】
前記固定部材は、前記背面板と前記柱フランジとに貫通され、
前記ケーシングの内部には、前記正面板と前記背面板とに接触される補強部材が設けられ、
前記補強部材は、
前記固定部材の上側に配置される上補強板を有し、
前記
補強部材は、前記吸音材の上側を覆うように配置されること
を特徴とする請求項1~
6の何れか1項記載の吸音パネル。
【請求項8】
請求項1~
7の何れか1項記載の吸音パネルが隙間なく複数並べて配置されること
を特徴とする防音壁。
【請求項9】
前記支柱部材の高さは、前記ケーシングの高さよりも高く、
一の前記吸音パネルにおける前記支柱部材の前記吸音パネルより上側に配置される前記
柱フランジと、他の前記吸音パネルにおける前記支柱部材の前記吸音パネルより上側に配
置される前記柱フランジと、を互いに連結する連結材を更に備えること
を特徴とする請求項
8記載の防音壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音パネル及び防音壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸音パネルに関する技術として、特許文献1~3の開示技術が提案されている。
【0003】
特許文献1に開示された防音壁は、FRP製遮音パネルと、該遮音パネルの高さの2~20%の奥行きがあって、建築物躯体に取付可能な固定用の貫通孔を設けた取付部とで構成されるFRP製遮音壁の騒音源側に、吸音パネルが設置されており、吸音パネルの側面には補強スティフナが取り付けられている。
【0004】
特許文献2に開示された防音パネルは、一定の間隔を開けて建てられた支柱間へ取り付けて設置された遮音壁用パネルに、落下防止金具が、一つの遮音壁用パネルに少なくとも1個の割合で、それぞれボルト止めにより取り付けられ、上下・左右方向に連絡する配置の各落下防止金具を順に縫うように各々のワイヤロープ通し孔へ落下防止用ワイヤロープが通されている。
【0005】
特許文献3に開示された防音パネルは、車両走行路の縁部に立設された壁面に取り付けられる防音パネルにおいて、上記壁面の車両走行路側に取り付けられ、その壁面に沿って横方向へ延長される断面溝型の上側係合部品及び下側係合部品と、吸音材を内部に収容させ、正面側に多数の小孔を形成させたパネルケースを有し、上端を上記上側係合部品へ嵌合させ、下端を上記下側係合部品へ嵌合させてなる吸音体とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-58252号公報
【文献】特開2009-108634号公報
【文献】特開2013-204345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の開示技術は、補強スティフナが吸音材の側方に設けられている。この補強スティフナには吸音面がないため、上下方向に延びる補強スティフナと鉄道等の車両との間で多重反射音が発生するおそれがある。したがって、吸音効率が低い、という問題点がある。
【0008】
特許文献2の開示技術は、支柱一体型のものでなく、支柱を介して隣接するパネルを固定するものである。このため、パネル寸法に合わせて支柱間隔を調整した上で、支柱を立設する必要がある。したがって、防音壁としての施工性が低い、という問題点がある。
【0009】
また、特許文献3の開示技術は、支柱一体型のものでなく、防音パネルが現場打ちコンクリートの壁面に取り付けられるものである。このため、防音パネルを取り付けるためのコンクリート壁面を施工する必要がある。したがって、防音壁としての施工性が低い、という問題点がある。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、施工性を向上させることが可能となり、吸音効率を向上させることが可能となる吸音パネル及び防音壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る吸音パネルは、支柱一体型の吸音パネルであって、吸音材と、前記吸音材が収容されるケーシングと、支柱部材と、を備え、前記ケーシングは、音源側に配置されるとともに複数のパンチング孔が形成される正面板と、前記正面板よりも受音側に配置される背面板と、前記正面板と前記背面板とを繋ぐ一対の側板と、を有し、前記支柱部材は、前記背面板に対向し、互いに離間して配置される一対の柱フランジと、一対の前記柱フランジからそれぞれ受音側に向けて延びる一対の柱ウェブと、一対の前記柱ウェブを繋ぐ柱板部と、を有し、前記ケーシングは、前記柱フランジに設けられる固定部材により前記支柱部材に固定され、一対の前記柱ウェブは、一対の前記側板の外面と面一な一対の第1基準面と面一に、又は、一対の前記第1基準面の間の領域に配置され、前記背面板は、前記正面板に沿って形成される第1背面板と、前記正面板に沿って形成されるとともに前記第1背面板よりも受音側に配置される第2背面板と、前記第1背面板と前記第2背面板とを繋ぐ第3背面板と、を有し、前記ケーシングの内部には、前記第1背面板よりも音源側の第1領域と、前記第1背面板よりも受音側の第2領域とが形成され、前記吸音材は、前記第1領域と前記第2領域とに収容されることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る吸音パネルは、本発明に係る吸音パネルが隙間なく複数並べて配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、施工性を向上させることが可能となり、吸音効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る吸音パネルを用いた防音壁を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る吸音パネルを示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る吸音パネルを並設方向に直交する面で切った断面図であり、
図3(a)は、柱フランジを通る面で切った断面図であり、
図3(b)は、第2吸音材を通る面で切った断面図である。
【
図4】
図4(a)は、
図3(a)の3A-3A断面図であり、
図4(b)は、
図3(a)の3B-3B断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る吸音パネルを用いた防音壁を上下方向に直交する面で切った断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る吸音パネルを上下方向に直交する面で切った断面図であり、
図6(a)は、第1吸音材を通る面で切った断面図であり、
図6(b)は、補強部材を通る面で切った断面図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る吸音パネルを上下方向に直交する面で切った断面図であり、
図7(a)は、第1吸音材を通る面で切った断面図であり、
図7(b)は、補強部材を通る面で切った断面図である。
【
図8】
図8は、第4実施形態に係る吸音パネルを上下方向に直交する面で切った断面図であり、
図8(a)は、第1吸音材を通る面で切った断面図であり、
図8(b)は、補強部材を通る面で切った断面図である。
【
図9】
図9は、第5実施形態に係る吸音パネルを上下方向に直交する面で切った断面図であり、
図9(a)は、第1吸音材を通る面で切った断面図であり、
図9(b)は、補強部材を通る面で切った断面図である。
【
図10】
図10は、第6実施形態に係る吸音パネルを上下方向に直交する面で切った断面図である。
【
図11】
図11は、実施例1において垂直入射吸音試験を行った結果を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例2において残響室法試験を行った結果を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例3において残響室法試験を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した吸音パネル及び防音壁を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る吸音パネルを用いた防音壁を示す斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る吸音パネルを示す分解斜視図である。
図3は、第1実施形態に係る吸音パネルを並設方向に直交する面で切った断面図であり、
図3(a)は、柱フランジを通る面で切った断面図であり、
図3(b)は、第2吸音材を通る面で切った断面図である。
図4(a)は、
図3(a)のC-C断面図であり、
図4(b)は、
図3(a)のC-C断面図である。なお、
図2では、パンチング孔の図示を省略している。
【0017】
防音壁100は、鉄道や道路等の車両走行路の縁部に立設される。防音壁100は、吸音パネル1が複数隙間なく並べて設けられる。複数の吸音パネル1は、連結材9により互いに連結される。吸音パネル1が並べられる方向を並設方向Xとし、並設方向Xに直交する方向を奥行方向Yとし、並設方向Xと奥行方向とに直交する方向を上下方向Zとする。
【0018】
吸音パネル1は、支柱一体型の吸音パネルである。吸音パネル1は、吸音材2と、ケーシング3と、支柱部材4と、を備える。
【0019】
吸音材2は、グラスウールやポリエステル等の繊維等で構成され、所定の吸音機能を有するものである。
【0020】
ケーシング3は、吸音材2が収容される。ケーシング3は、正面板31と、背面板33と、一対の側板32と、天板39と、を有する。
【0021】
正面板31は、音源側に配置され、矩形状に形成される鋼製の板材である。正面板31は、地上の道路からの騒音を吸音材2に吸収させるためのパンチング孔が複数形成され、車両等から発生する音を吸音する吸音面となる。
【0022】
側板32は、正面板31と背面板33とを繋ぎ、矩形状に形成される鋼製の板材である。
【0023】
背面板33は、正面板31よりも受音側に配置される鋼製の板材である。背面板33は、正面板31に沿って形成される第1背面板33aと、正面板31に沿って形成されるとともに第1背面板33aよりも受音側に配置される第2背面板33bと、第1背面板33aと第2背面板33bとを繋ぐ第3背面板33cと、を有する。
【0024】
第1背面板33aは、一対の側板32からそれぞれ正面板31に沿って形成される。第3背面板33cは、一対の第1背面板33aからそれぞれ受音側に向けて形成される。第2背面板33bは、一対の第3背面板33cを繋ぐ。第1背面板33aには、ボルト37とナット38とで構成される固定部材36が設けられる。固定部材36は、第1背面板33aと柱フランジ41とに貫通される。
【0025】
ケーシング3の内部には、第1背面板33aよりも音源側の第1領域A1と、第1背面板33aよりも受音側の第2領域A2とが形成される。第1領域A1と第2領域A2には、吸音材2が収容される。第1領域A1には、第1吸音材21が収容され、第2領域A2には、第2吸音材22が収容される。例えば第1吸音材21と第2吸音材22とは、異なる材質のものが用いられ、第1吸音材21の単位体積重量は、第2吸音材22の単位体積重量よりも小さいことが好ましい。なお、第1吸音材21と第2吸音材22とは、同じ材質のものが用いられ、それぞれの単位体積重量が同じものが用いられてもよい。
【0026】
ケーシング3の内部には、正面板31と背面板33とに接触される補強部材35が設けられる。補強部材35は、固定部材36の上側に配置される上補強板35aと、固定部材36の下側に配置される下補強板35bと、上補強板35aと下補強板35bとを繋ぐ繋ぎ補強板35cと、を有する。補強部材35は、断面コの字状に形成され、例えばC形鋼等が用いられる。補強部材35は、断面H形状に形成されるH形鋼が用いられてもよい。
【0027】
天板39は、正面板31と、背面板33と、一対の側板32と、を覆うように上端に設けられる。
【0028】
支柱部材4は、ケーシング3を受音側から固定するものである。支柱部材4は、下端にベースプレート49が設けられる。支柱部材4の高さは、ケーシング3の高さよりも高い。
【0029】
支柱部材4は、背面板33に対向し、互いに離間して配置される一対の柱フランジ41と、一対の柱フランジ41からそれぞれ受音側に向けて延びる一対の柱ウェブ42と、一対の柱ウェブ42を繋ぐ柱板部43と、を有する。
【0030】
柱フランジ41には、ボルト37とナット38とで構成される固定部材36が設けられる。ケーシング3は、固定部材36により支柱部材4に固定される。
【0031】
一対の柱ウェブ42の外面は、一対の側板32の外面と面一な一対の第1基準面Lと面一に配置される。なお、柱ウェブ42は、一対の第1基準面Lの間に領域に配置されてもよい。
【0032】
連結材9は、一の吸音パネル1におけるケーシング3より上側に配置される柱フランジ41と、他の吸音パネル1におけるケーシング3より上側に配置される柱フランジ41と、を互いに連結する。連結材9は、断面L字状に形成されるアングル材等が用いられる。連結材9は、ボルトナット等の固定部材91により柱フランジ41に固定される。
【0033】
本実施形態によれば、吸音材2と、吸音材2が収容されるケーシング3と、ケーシング3を受音側から固定する支柱部材4と、を備え、ケーシング3は、音源側に配置される正面板31と、正面板31よりも受音側に配置される背面板33と、正面板31と前記背面板とを繋ぐ一対の側板32と、を有し、支柱部材4は、背面板33に対向し、互いに離間して配置される一対の柱フランジ41と、一対の柱フランジ41からそれぞれ受音側に向けて延びる一対の柱ウェブ42と、一対の柱ウェブ42を繋ぐ柱板部43と、を有し、ケーシング3は、柱フランジ41に設けられる固定部材36により支柱部材4に固定され、一対の柱ウェブ42は、一対の側板32の外面と面一な一対の第1基準面Lと面一に、又は、一対の第1基準面Lの間の領域に、配置される。
【0034】
これにより、
図5に示すように、音源側が吸音面となる正面板31によって覆われるものとなり、正面板31の側方から支柱部材4が露出されないものとなる。このため、鉄道等の車両が走行したときに発生する音S1を、正面板31の並設方向Xの端部近傍からもケーシング3の内部に入射させ、吸音材2により吸音させることができる。その結果、従来の補強スティフナのような吸音機能を有しない部材と車両との間で生じる多重反射音を抑制することができ、吸音効率を向上させることが可能となる。
【0035】
また、本実施形態によれば、支柱一体型の吸音パネル1であるため、パネルの寸法に合わせて支柱間隔を調整し、パネルを支柱へ取り付ける作業が不要となる。このため、施工性を向上させることが可能となる。
【0036】
本実施形態によれば、背面板は、正面板31に沿って形成される第1背面板33aと、正面板31に沿って形成されるとともに第1背面板33aよりも受音側に配置される第2背面板33bと、第1背面板33aと第2背面板33bとを繋ぐ第3背面板33cと、を有し、ケーシング3の内部には、第1背面板33aよりも音源側の第1領域A1と、第1背面板33aよりも受音側の第2領域A2とが形成され、吸音材2は、第1領域A1と第2領域A2とに収容される。
【0037】
これにより、
図5に示すように、鉄道等の車両が走行したときに発生する音S2が正面板31からケーシング3の内部に入射したとき、第1領域A1と第2領域A2とに収容される吸音材2により吸音させることができる。その結果、第1領域A1にのみ吸音材2が収容されるよりも吸音材2の奥行方向Yにおける部材厚を確保することができるため、吸音効率を向上させることが可能となる。
【0038】
本実施形態によれば、第1背面板33aは、一対の側板32からそれぞれ正面板31に沿って形成され、第3背面板33cは、一対の第1背面板33aからそれぞれ受音側に向けて形成され、第2背面板33bは、一対の第3背面板33cを繋ぐものである。これにより、ケーシング3の内部に1箇所に形成される第2領域A2に、第2吸音材22を収容することができる。このため、第2吸音材22の収容作業を容易に行うことが可能となる。
【0039】
本実施形態によれば、吸音材2は、第1領域A1に収容される第1吸音材21と、第2領域A2に収容される第2吸音材22と、を有し、第2吸音材22の単位体積重量は、第1吸音材21の単位体積重量よりも大きい。これにより、800Hz~4000Hz程度の周波数帯における吸音効率を向上させることが可能となる。このため、鉄道用の吸音パネルとしてより好適に用いられる。
【0040】
本実施形態によれば、固定部材36は、背面板33と柱フランジ41とに貫通され、ケーシング3の内部には、正面板31と背面板33とに接触される補強部材35が設けられる。これにより、ケーシング3の剛性を向上させることが可能となる。
【0041】
本実施形態によれば、補強部材35が第1吸音材21を覆うように設けられる。これにより、ケーシング3の内部に侵入した雨水等により吸音材2が濡れてしまうのを抑制することができる。このため、吸音材2の吸音機能の低下を抑制することができる。
【0042】
本実施形態によれば、固定部材36は、第1背面板33aと柱フランジ41とに貫通され、ボルト37の頭部が背面板33に配置される。これにより、ボルト37の頭部が正面板31に露出されないものとなる。これにより車体側への建築限界を抑制することができる。また、吸音材2が経年劣化した際、ボルト37を取り外すことで、吸音材2が収容されたケーシング3を現地で取り外すことができ、逆手順を踏むことで、支柱部材4を保持した状態で新しい吸音材2が収容されたケーシング3に交換することが可能となる。このため、吸音材2を簡単に交換可能となる。加えて、吸音材2が収容されたケーシング3の交換作業中に壁面となる支柱部材4が存在する状態なので作業者が落下危険性がなく、安全に交換作業を行うことが可能となる。
【0043】
本実施形態によれば、吸音パネル1が隙間なく複数並べて配置される。これにより、音源側が吸音面となる正面板31によって覆われるものとなり、正面板31の側方から支柱部材4が露出されないものとなる。このため、鉄道等の車両が走行したときに発生する音S1を、正面板31の並設方向Xの端部近傍からもケーシング3の内部に入射させ、吸音材2により吸音させることができる。その結果、従来の補強スティフナのような吸音機能を有しない部材と車両との間で生じる多重反射音を抑制することができ、吸音効率を向上させることが可能となる。
【0044】
本実施形態によれば、支柱部材4の高さは、ケーシング3の高さよりも高く、一の吸音パネル1におけるケーシング3より上側に配置される柱フランジ41と、他の吸音パネル1におけるケーシング3より上側に配置される柱フランジ41と、を互いに連結する連結材9を更に備える。これにより、隣接する吸音パネル1同士が互いに連結され、吸音パネル1の通りを調整することができる。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る吸音パネル1では、
図6に示すように、固定部材36は、2箇所に設けられ、各々の固定部材36の上側に、補強部材35が設けられる。また、補強部材35は、第1吸音材21の上側に設けられる。このため、補強部材35が第1吸音材21の上側全体が覆われていないものとなる。なお、
図6(a)は、
図3(a)の3A-3A断面に対応する箇所であり、
図6(b)は、
図3(a)の3B-3B断面に対応する箇所である。
【0046】
本実施形態によれば、固定部材36は、背面板33と柱フランジ41とに貫通され、ケーシング3の内部には、正面板31と背面板33とに接触される補強部材35が設けられる。これにより、ケーシング3の剛性を向上させることが可能となる。
【0047】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る吸音パネル1では、
図7に示すように、固定部材36は、正面板31と第1背面板33aと柱フランジ41とに貫通される。正面板31には、ボルト37の頭部が露出されるものとなる。なお、
図7(a)は、
図3(a)の3A-3A断面に対応する箇所であり、
図7(b)は、
図3(a)の3B-3B断面に対応する箇所である。
【0048】
このときであっても、音源側が吸音面となる正面板31によって覆われるものとなり、正面板31の側方から支柱部材4が露出されないものとなる。このため、鉄道等の車両が走行したときに発生する音S1を、正面板31の並設方向Xの端部近傍からもケーシング3の内部に入射させ、吸音材2により吸音させることができる。その結果、従来の補強スティフナのような吸音機能を有しない部材と車両との間で生じる多重反射音を抑制することができ、吸音効率を向上させることが可能となる。
【0049】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る吸音パネル1では、
図8に示すように、第2背面板33bは、一対の側板32からそれぞれ正面板31に沿って形成され、第3背面板33cは、一対の第2背面板33bからそれぞれ音源側に向けて形成され、第1背面板33aは、一対の第3背面板33cを繋ぐものである。なお、
図8(a)は、
図3(a)の3A-3A断面に対応する箇所であり、
図8(b)は、
図3(a)の3B-3B断面に対応する箇所である。
【0050】
柱フランジ41は、第1背面板33aに対向する第1柱フランジ41aと、第2背面板33bに対向する第2柱フランジ41bと、第3背面板33cに対向する第1柱フランジ41cと、を有する。第1柱フランジ41aには、固定部材36が設けられる。
【0051】
本実施形態によれば、第2背面板33bは、一対の側板32からそれぞれ正面板31に沿って形成され、第3背面板33cは、一対の第2背面板33bからそれぞれ音源側に向けて形成され、第1背面板33aは、一対の第3背面板33cを繋ぐものである。これにより、ケーシング3の内部に2箇所に形成される第2領域A2に、第2吸音材22を収容することができる。このため、吸音効率を向上させることが可能となる。
【0052】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る吸音パネル1では、
図9に示すように、背面板33は、正面板31に沿って延びる平板である。これにより、ケーシング3の内部には、第1領域A1のみが形成される。なお、
図9(a)は、
図3(a)の3A-3A断面に対応する箇所であり、
図9(b)は、
図3(a)の3B-3B断面に対応する箇所である。
【0053】
このときであっても、音源側が吸音面となる正面板31によって覆われるものとなり、正面板31の側方から支柱部材4が露出されないものとなる。このため、鉄道等の車両が走行したときに発生する音S1を、正面板31の並設方向Xの端部近傍からもケーシング3の内部に入射させ、吸音材2により吸音させることができる。その結果、従来の補強スティフナのような吸音機能を有しない部材と車両との間で生じる多重反射音を抑制することができ、吸音効率を向上させることが可能となる。
【0054】
(第6実施形態)
第6実施形態に係る吸音パネル1では、
図10に示すように、吸音材2として、第2領域A2には、第2吸音材22と第3吸音材23と、が収容される。このため、第2領域A2に収容される吸音材2は、第2吸音材22と第3吸音材23とにより積層構造で構成される。第3吸音材23の単位体積重量は、第1吸音材21の単位体積重量よりも大きく、第2吸音材22の単位体積重量よりも大きいものである。
【0055】
吸音パネル1では、
図10に示すように、第3吸音材23は、第2吸音材22を挟んで第1吸音材21の反対側に設けられる。第2吸音材22の単位体積重量は、第1吸音材21の単位体積重量よりも大きい方が好ましいが、第1吸音材21の単位体積重量よりも小さくてもよい。
【0056】
本実施形態によれば、吸音材2は、第1領域A1に収容される第1吸音材21と、第2領域A2に収容される第2吸音材22と、第2領域A2に収容されるとともに第2吸音材22を挟んで第1吸音材21の反対側に設けられる第3吸音材23と、を有し、第3吸音材23の単位体積重量は、第1吸音材21の単位体積重量よりも大きく、第2吸音材22の単位体積重量よりも大きい。これにより、単位体積重量の最も大きい第3吸音材23が、ケーシング3の内部において最も受音側に収容されることになる。このため、幅広い周波数帯で高い吸音率を得ることが可能となる。
【実施例1】
【0057】
ケース1~ケース3の試験体を作製し、音響管を用いて垂直入射吸音率の測定を実施した。試験体は、吸音材の厚みと単位体積重量を異ならせたケース1~ケース3の試験体を作製した。ケース1は、吸音材として単位体積重量が24kg/m3で厚みが50mmのポリエステル繊維吸音材を用いた。ケース2は、吸音材として単位体積重量が24kg/m3で厚みが70mmのポリエステル繊維吸音材を用いた。ケース3は、吸音材として単位体積重量が24kg/m3で厚みが50mmのポリエステル繊維吸音材と、単位体積重量が80kg/m3で厚みが20mmのポリエステル繊維吸音材と、を積層したものを用いた。ケース3の吸音材の厚みは、全体として70mmであり、ケース2のものと同じである。ケース3では、音の入射側に単位体積重量が24kg/m3の吸音材を配置し、これに隣接して単位体積重量が80kg/m3の吸音材を配置した。
【0058】
図11は、実施例1における垂直入射吸音率の測定結果を示す図を示す。
図11では、縦軸に垂直入射吸音率とし、横軸は1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)とした。
【0059】
図11に示すように、ケース2、ケース3では、400~1000Hz程度の低周波側の垂直入射吸音率が、ケース1のものよりも向上した。これにより、吸音材の厚みを増加させることで、400~1000Hz程度の低周波数帯の吸音効率を向上させることが可能となる。
【0060】
また、ケース3では、1000Hz~4000Hz程度の高周波側の垂直入射吸音率が、ケース2のものよりも向上した。これにより、吸音材の厚みが同様であっても、音の入射側に単位体積重量の小さい吸音材を配置し、これに隣接して該吸音材よりも単位体積重量の大きい吸音材を配置することにより、1000Hz~4000Hz程度の高周波数帯の吸音効率を向上させることが可能となる。
【0061】
ここで、道路においては、400Hz~1000Hzの周波数帯が支配的となり、鉄道においては、800Hz~4000Hzの周波数帯が支配的となる。したがって、道路用の吸音パネルでは、400Hz~1000Hzの周波数帯を抑制するのが効果的であり、鉄道においては、800Hz~4000Hzの周波数帯を抑制することが効果的である。この点、ケース3では、800Hz~4000Hzの高周波数帯の吸音効率を向上させることが可能となることから、鉄道用の吸音パネルとして好適に用いられる。
【実施例2】
【0062】
ケース4~ケース6の試験体を作製し、「JIS A 1409残響室法吸音率の測定方法」に基づいて残響室法吸音率の測定を実施した。試験体は、吸音材として単位体積重量が24kg/m3で厚みが50mmのポリエステル繊維吸音材と、単位体積重量が80kg/m3で厚みが20mmのポリエステル繊維吸音材と、を積層したものを用いた。ケース4では、吸音材の面積の33%が被覆されるように、鋼板を設けた。ケース5では、吸音材の面積の17%が被覆されるように、鋼板を設けた。ケース6では、鋼板を設けずにすべて吸音材とした。吸音材を被覆する鋼板は、音が反射されるものであって、柱面を模擬したものである。すなわち、ケース4、5では、吸音機能を有しない柱面が音源側に露出された吸音パネルを想定したものであり、ケース6では、音源側に柱面がなく、吸音パネルの音源側全体が吸音面となる吸音パネルを想定したものである。
【0063】
図12は、実施例2における残響室法吸音率の測定を行った結果を示す図を示す。
図11では、縦軸に残響室法吸音率とし、横軸は1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)とした。
図12は、ケース4~ケース6の結果を示す。
【0064】
図12に示すように、ケース6の残響室法吸音率は、ケース4、5のものよりも向上した。以上の結果から、音源側に柱面が露出されることにより吸音効率が低いものの、柱面の面積が少なくなるのに伴って、吸音効率を向上させることができるものと考えられる。
【実施例3】
【0065】
実施例2を踏まえ、比較例1、本発明例1、本発明例2の試験体を作製し、「JIS A 1409残響室法吸音率の測定方法」に基づいて残響室法試験を実施した。試験体は、吸音材として単位体積重量が24kg/m3で厚みが50mmのポリエステル繊維吸音材と、単位体積重量が80kg/m3で厚みが20mmのポリエステル繊維吸音材と、を積層したものを用いた。比較例1は、上述した実施例2のケース4と同様のものである。本発明例1、2は、ケース4において設置した鋼板が被覆されるように、吸音材を別途設置したものである。すなわち、比較例1では、吸音機能を有しない柱面が露出された吸音パネルを想定したものであり、本発明例1、2では、柱面がなく、吸音パネルの音源側全体が吸音面となる吸音パネルを想定したものである。本発明例1において置き換えた吸音材は、単位体積重量が24kg/m3で厚みが20mmのポリエステル繊維吸音材である。本発明例2において置き換えた吸音材は、単位体積重量が24kg/m3で厚みが50mmのポリエステル繊維吸音材である。
【0066】
図13は、実施例3における残響室法吸音率の測定を行った結果を示す図を示す。
図13では、縦軸に残響室法吸音率とし、横軸は1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)とした。
図13は、比較例1、本発明例1、2の結果を示す。
【0067】
図13に示すように、本発明例1、2の残響室法吸音率は、比較例1のものよりも向上した。以上の結果から、音源側に柱面がなく吸音パネルの音源側全体が吸音面となる吸音パネルでは、吸音効率を向上させることが可能となる。特に、本発明例1、2では、800Hz~4000Hzの高周波数帯の吸音効率を向上させることが可能となることから、鉄道用の吸音パネルとして好適に用いられる。
【0068】
以上、この発明の実施形態のいくつかを説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、これらの実施形態は、適宜組み合わせて実施することが可能である。さらに、この発明は、上記いくつかの実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記いくつかの実施形態のそれぞれは、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
100 :防音壁
1 :吸音パネル
2 :吸音材
21 :第1吸音材
22 :第2吸音材
23 :第3吸音材
3 :ケーシング
A1 :第1領域
A2 :第2領域
31 :正面板
32 :側板
33 :背面板
33a :第1背面板
33b :第2背面板
33c :第3背面板
35 :補強部材
35a :上補強板
35b :下補強板
35c :繋ぎ補強板
36 :固定部材
37 :ボルト
38 :ナット
39 :天板
4 :支柱部材
41 :柱フランジ
41a :第1柱フランジ
41b :第2柱フランジ
41c :第1柱フランジ
42 :柱ウェブ
43 :柱板部
49 :ベースプレート
9 :連結材
91 :固定部材
L :第1基準面
X :並設方向
Y :奥行方向