(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】保管棚の免震化構造
(51)【国際特許分類】
B65G 1/14 20060101AFI20250520BHJP
【FI】
B65G1/14 F
(21)【出願番号】P 2021116818
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020123648
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 政美
(72)【発明者】
【氏名】安川 真知子
(72)【発明者】
【氏名】塚田 乙
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127704(JP,A)
【文献】特表2019-512069(JP,A)
【文献】特開2004-092817(JP,A)
【文献】特開2011-184950(JP,A)
【文献】特開2010-276185(JP,A)
【文献】特開2023-030412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 1/00- 1/133、
1/14- 1/20
A47B 97/00
E04H 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保管棚の支柱の柱脚部とコンクリート床面との間に鋳鉄製の支承を介在させる保管棚の免震構造であって、
前記支承は、前記コンクリート床面と平行な軸回りに回転可能に前記支柱を支持しており、コンクリートに対する動摩擦係数が0.3以下で、地震時に所定値以上の水平力が作用した際に、前記保管棚が前記コンクリート床面を滑動することを特徴とする、保管棚の免震構造。
【請求項2】
保管棚の支柱の柱脚部とコンクリート床面との間に鋳鉄製の支承を介在させる保管棚の免震構造であって、
前記柱脚部に、断面視三角形状の溝が形成されており、
前記支承は、前記コンクリート床面に当接する矩形状の下面と、前記下面の対向する二辺から上方に延びる一対の傾斜面とにより断面視三角形状を呈していて、前記溝に挿入されており、かつ、コンクリートに対する動摩擦係数が0.3以下で、地震時に所定値以上の水平力が作用した際に、前記保管棚が前記コンクリート床面を滑動することを特徴とする、保管棚の免震構造。
【請求項3】
保管棚の支柱の柱脚部とコンクリート床面との間に鋳鉄製の支承を介在させる保管棚の免震構造であって、
前記支承は、前記コンクリート床面に当接する底板と、対向する一対の側板とを有する断面コ字状を呈していて、前記柱脚部の下端面および対向する二側面の下端部を覆っており、かつ、コンクリートに対する動摩擦係数が0.3以下で、地震時に所定値以上の水平力が作用した際に、前記保管棚が前記コンクリート床面を滑動することを特徴とする、保管棚の免震構造。
【請求項4】
保管棚の支柱の柱脚部とコンクリート床面との間に鋳鉄製の支承を介在させる保管棚の免震構造であって、
前記支承は、コンクリートに対する動摩擦係数が0.3以下で、地震時に所定値以上の水平力が作用した際に、前記保管棚が前記コンクリート床面を滑動し、
前記支柱は、筒状部材で構成されており、
前記支承の少なくとも一部が前記支柱の空洞部に挿入されていることを特徴とする、保管棚の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保管棚の免震化構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の免震や制振等の減災対策を検討・導入する動きが増加しつつある。また、設備機器等に対しても、経済活動が機能不全に陥ることがないように、減災対策を目的として地震対策技術の開発が進められている。
ところが、地震対策技術の多くは、高性能・高価格帯の設備機器等をターゲットにしたものが多く、一般的にコストが高い。また、建物の免震化は、建物の基礎に対して改修工事を施す必要があり、供用中の施設に対して採用するのは難しい。
物流施設において、荷の保管用として多用されている可動型保管棚(例えば、ネスティングラックや保管棚の下部に潜り込み荷捌き場所まで自動搬送する自動搬送システム[床搬送ロボット・低床式無人搬送車]に用いられる保管棚等)では、必要に応じて荷落下対策(例えば、ストレッチ包装巻き、落下防止ストッパー、パレットすべり止めゴム等)が施されている。ところが、保管棚に震度5強以上の強い地震に遭遇すると、積荷が落下する地震被害が発生するおそれがある。
また、これらの保管棚は、荷の保管効率を高めるため、一般的にアスペクト比(高さ-幅比)が大きいため、地震の入力加速度が大きくなると、ロッキング振動に伴って柱脚の片側が持ち上がる現象が生じ、保管棚が転倒したり、損傷する地震被害が発生するおそれがある。
そのため、物流施設においても、地震被害を低減し地震後の早期復旧を図ることができる、既存施設に適用可能な免震システムが求められている。例えば、特許文献1には、既存のラックに対して、支柱の下部に新設梁を横架し、この新設梁と床面との間に免震装置を設置した後、新設梁と床面との間で支柱を切断するラックの免震化方法が開示されている。
一方、物流施設には、これらの可動型保管棚を用いることにより、レイアウトや棚の段数を自由に設定することを可能とした施設がある。このような物流施設では、可動型保管棚の標準的な形態を維持する必要があり、特許文献1の免震化方法のように支柱の脚部を切断するなどの加工を施すことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、可動型保管棚を対象として、簡易な機構により地震被害を低減することを可能とした、保管棚の免震化構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明は、保管棚の支柱の柱脚部とコンクリート床面との間に鋳鉄製の支承を介在させる保管棚の免震構造であって、前記支承は、コンクリートに対する動摩擦係数が0.3以下、好ましくは0.15~0.25で、地震時に所定値以上の水平力が作用した際に、前記保管棚が前記コンクリート床面を滑動する。前記支承は、前記コンクリート床面と平行な軸回りに回転可能に前記支柱を支持しているのが望ましい。このような保管棚の免震構造で使用する支承は、矩形状の下面と、前記下面の対向する二辺から上方に延びる一対の傾斜面とにより断面視三角形状を呈している、あるいは、矩形状の底版と、前記底版の対向する二辺から前記柱脚の下端を挿入可能な間隔を有して立ち上がる対向する一対の側板とにより断面視コ字状を呈している。
断面コ字状の支承は、前記柱脚部の下端面および対向する二側面の下端部を覆うように、支柱の柱脚部に設置する。また、前記柱脚部に、断面視三角形状の溝が形成されている場合には、外形が略三角柱の支承を前記溝に挿入する。
また、前記支柱が筒状部材で構成されている場合には、前記支承の少なくとも一部が前記支柱の空洞部に挿入されている。
【0006】
かかる保管棚の免震構造は、柱脚部とコンクリート床面との間に、鋳鉄製の支承が介設されているため、コンクリート床面との摩擦係数の低減化を図ることができる。鋳鉄製の支承は、鋳鉄に含まれる黒鉛の潤滑作用により鋼に比べてコンクリート床面との間の摩擦係数を低減させることができる。そのため、地震時に横方向の力が作用した場合であっても、柱脚(支承)がコンクリート床面を滑ることで、保管棚の応答を抑制し、ひいては積荷の落下を軽減できる。また、地震動に対して、保管棚が滑ることで、地震時の力を吸収し、保管棚の転倒や損傷を抑制できる。また、支承が保管棚を回転可能に支持している場合には、ロッキング振動によって柱脚部が床面から離隔することを防止し、地震時の保管棚の姿勢を維持したまま、保管棚を滑らせることが可能になる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の保管棚の免震化構造によれば、簡易な機構により可動型保管棚の地震被害を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第一実施形態に係る保管棚の概要を示す斜視図である。
【
図2】保管棚を示す図であって、(a)は平面図、(b)は脚部水平材の拡大断面図、(c)は正面図、(d)は側面図である。
【
図4】支承と脚部水平材との設置状況を示す拡大断面図である。
【
図7】第二実施形態に係る保管棚の概要を示す斜視図である。
【
図8】第二実施形態の支承を示す図であって、(a)は平面図、(b)は縦断面図、(c)は横断面図である。
【
図9】他の形態に係る支承であって、(a)は平面図、(b)は断面図、(c)は横断面図である。
【
図10】第三実施形態に係る保管棚の概要を示す斜視図である。
【
図11】第三実施形態の支承を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【
図12】他の形態に係る支承であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【
図14】振動台実験の結果を示す図であって、(a)は比較例の入力加速度と時間の関係、(b)は比較例の三段目(最上段)の保管棚の応答加速度と時間の関係、(c)は実施例の入力加速度と時間の関係、(d)は実施例の三段目(最上段)の保管棚の応答加速度と時間の関係である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
本実施形態では、物流倉庫で用いられる可動型の保管棚(その内、正ネスティングラック:荷置部が下部にあるタイプ)2について、震度5強以上の強い地震に遭遇した場合であっても、保管棚2からの積荷の落下や保管棚2の転倒、損傷の地震被害を抑制することを目的とした保管棚の免震構造(免震構造1)について説明する。第一実施形態の免震構造1は、保管棚2の支柱22の柱脚部23とコンクリート床面4との間に支承3を介在させるものである。
図1は、本実施形態の保管棚2を示す斜視図である。
【0010】
保管棚2は、
図1に示すように、格子状の荷置部21と、荷置部21が固定された支柱22とを備えている。
図2は保管棚2を示す図であって、(a)は平面図、(b)は脚部水平材24の断面図、(c)は正面図、(d)は側面図である。
荷置部21は、
図2(a)に示すように、金属部材を組み合わせることにより格子状に形成されている。荷置部21は、平面視矩形状の板材により構成することも可能である。
支柱22は、荷置部21の四隅にそれぞれ配設されている。支柱22は、金属製の角筒材からなり、下端(下側の先端)よりも上側(下端から所定の間隔をあけた位置)において、荷置部21が側面に固定されている。すなわち、荷置部21とコンクリート床面4との間には、隙間が確保されている。
支柱22の柱脚部23には、
図2(d)に示すように、前後に配設された支柱22同士を繋ぐ脚部水平材24が固定されている。脚部水平材24は、
図2(b)に示すように、断面視三角形状の金属部材からなる。脚部水平材24の内角は90°である。すなわち、脚部水平材24は、コンクリート床面4側が開口する断面視三角形状の溝を形成している。
図2(c)に示すように、本実施形態では、荷置部21と支柱22との角部に支持板25が固定されている。脚部水平材24は、支持板25で柱脚部23に固定されている。支持板25には、脚部水平材24の位置に応じて、三角形状の切欠きが形成されている。脚部水平材24は、支持板25の切欠きに嵌め込んだ状態で固定されている。
また、
図2(d)に示すように支柱22の上端部には、前後の支柱22同士を繋ぐ上部水平材26が設けられている。上部水平材26は、脚部水平材24と噛み合う断面三角形のアングル材からなる。上部水平材26は、脚部水平材24と平面視で重なるように設けられており、保管棚2の上に他の保管棚2を積み重ねた際に、他の保管棚2の脚部水平材24に挿入される。上部水平材26の前部は、
図2(c)に示すように、保管棚2の前部に配設された左右の支柱22,22の側面から張り出す受材28により支持されている。また、上部水平材26の後部は、
図1に示すように、保管棚2の後部に配設された左右の支柱22,22に横架された受桁27により支持されている。
【0011】
支承3は、コンクリート床面4に載置されたコンクリートに対する動摩擦係数が0.3以下、好ましくは0.15~0.25の鋳鉄製の部材からなる(
図1および
図2(c)参照)。
図3は、支承3を示す斜視図である。支承3は、
図3に示すように、コンクリート床面4に当接する矩形状の下面31と、下面31の対向する二辺から上方に延びる一対の傾斜面32,32とにより断面視三角形状を呈している。すなわち、本実施形態の支承3は、三角柱状の鋳鉄製部材を横置きすることにより構成されている。
支承3の少なくとも一方の傾斜面32には、所定の深さ(本実施形態では18mm)の穴33が形成されている。穴33には、ボルトやピン等の留具が取り付けられる。
支承3の両傾斜面32の角部(支承3の頂角)の角度は、脚部水平材24の内角(本実施形態では90°)よりも小さい。本実施形態では、支承3の上端部の角度を80°とする。
【0012】
支承3は、
図4に示すように、柱脚部23(支柱22の下方)において、脚部水平材24に挿入されている。
図4は、支承3と脚部水平材24とを示す拡大断面図である。支承3は、脚部水平材24の一方の片を貫通した留具5が穴33に差し込まれることで、脚部水平材24に取り付けられている。脚部水平材24には、留具5を挿通するための貫通孔29が形成されている。貫通孔29の内径は、留具5の軸部の外径よりも大きく、留具5の頭部の外径よりも小さい。留具5を貫通孔29に挿通するとも、留具5の軸部の外面と貫通孔29の内壁面との間に隙間が形成される。
【0013】
本実施形態の免震構造1によれば、柱脚部23とコンクリート床面4との間に介設された支承3が鋳鉄製であるため、コンクリート床面4との摩擦係数の低減化を図ることができる。鋳鉄製の支承3は、鋳鉄に含まれる黒鉛の潤滑作用により、鋼に比べてコンクリート床面4との間の動摩擦係数を0.3以下に低減させることができる。鋳鉄製の支承3がすべりによって摩耗すると、黒鉛を多く含む摩耗粉が発生する。そして、この摩耗粉がすべり面に表面に膜を形成することで潤滑剤として機能する。そのため、地震時に、保管棚2に所定値以上の水平力が作用した場合であっても、柱脚部23(支承3)がコンクリート床面4を滑ることで、保管棚2の応答を抑制し、ひいては積荷の落下を防止できる。また、地震動に対して、保管棚2が滑ることで、地震時の力を吸収し、保管棚2の転倒を抑制できる。
また、支承3の頂角の角度が、脚部水平材24の内角よりも小さいため、支承3の軸回り(コンクリート床面4と平行な軸回り)に回転可能に支持することを可能としている。また、脚部水平材24に形成された留具5を挿通する貫通孔29は、留具5の軸部の径よりも大きな内径を有しているため、支承3の軸と直交する軸回りに対しても回転可能である。このように、支承3は、保管棚2を回転可能に支持しているため、ロッキング振動によって柱脚部23がコンクリート床面4から離隔することを防止し、地震時の保管棚2の姿勢を維持したまま、保管棚2を滑らせることが可能になる。
【0014】
ここで、
図5および
図6に、支承3の変形例を示す。
支承3は、密実部材に限定されるものではなく、
図5に示すように、中空部材であってもよい。
また、支承3には、
図6に示すように、部分的に凹部(溝)34が形成されていてもよい。支承3の凹部34は、支承3の両端部と穴33の形成箇所以外の部分に設ける。このとき、支承3の下面31は、矩形状とし、所定の面積を確保する。凹部34の深さ、配置、数等は限定されるものではなく、適宜決定する。
【0015】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、物流倉庫で用いられる可動型の保管棚(保管棚の下部に潜り込み荷捌き場所まで自動搬送する自動搬送システム[床搬送ロボット・低床式無人搬送車]に用いられる保管棚)2について、震度5強以上の強い地震に遭遇した場合であっても、保管棚2からの積荷の落下や保管棚2の転倒、損傷の地震被害を抑制することを目的とした免震構造11について説明する。
実施形態の免震構造11は、保管棚2の支柱22の柱脚部23とコンクリート床面4との間に支承6を介在させるものである。
図7は、第二実施形態の保管棚2を示す斜視図である。
【0016】
保管棚2は、
図7に示すように、矩形状の荷置部21と、荷置部21を支持する支柱22とを備えている。
荷置部21は、平面視矩形状の金属板からなり、四隅において支柱22により支持されている。本実施形態では、四段の荷置部21が上下に等間隔に設けられているが、荷置部21の段数および荷置部21同士の間隔は限定されない。
支柱22は、金属製の断面コ字状の部材からなる。本実施形態の支柱22の下端には、支柱22の断面よりも大きな底面積を有する脚部材23a(
図8(a)参照)が設けられている。脚部材23aの一部は、支柱22の側面から張り出している。脚部材23aには、支柱22の柱脚部23の内面に添接される取付板23bが立設されている。取付板23bには、柱脚部23に形成された貫通孔29の位置に対応する位置にボルト孔23cが形成されている。支柱22の下端(柱脚部23および脚部材23a)は、支承6に挿入されている。
【0017】
図8は支承6を示す図であって、(a)は平面図、(b)は縦断面図、(c)は横断面図である。支承6は、コンクリート床面4に載置されたコンクリートに対する動摩擦係数が0.3以下、好ましくは0.15~0.25の鋳鉄製の部材からなる(
図8(b)および(c)参照)。支承6は、
図8(a)~(c)に示すように、コンクリート床面4に当接する矩形状の底板61と、底板61の対向する二辺から立ち上がる対向する一対の側板62,62とを有しており、断面視コ字状(凹字状)を呈している。すなわち、支承6は、断面視コ字状の柱状部材を、上面が開口するように横置きしたものである。支承6は、
図8(c)に示すように、支柱22(柱脚部23)の下端面および対向する二側面の下端部を、底板61および一対の側板62,62により覆っている。なお、四つの支承6は、同じ方向に配置されており、一の支承6の側板62は、他の支承6の側板62と平行である。
側板62には、貫通孔63が形成されている。貫通孔63には、ボルトやピン等の留具5が取り付けられる。
【0018】
支承6は、側板62の貫通孔63および柱脚部23に形成された貫通孔29を貫通した留具5をボルト孔23cに螺合することにより、柱脚部23(支柱22)に取り付けられている。このとき、支柱22の脚部材23aは、底板61の上面に載置された状態となる。留具5は、中心軸が水平になるように、設置されている。また、貫通孔29は、留具5の軸部の外径よりも大きい。そのため、留具5を貫通孔29に挿通すると、留具5の軸部の外面と貫通孔29との間に隙間が形成される。なお、一の支承6に配置される留具5の中心軸は、他の支承6に配置される留具5の中心軸と平行である。
【0019】
第二実施形態の免震構造11によれば、第一実施形態の免震構造1と同様の作用効果を得ることができる。
ここで、
図9に支承6の変形例を示す。支承6は、柱脚部23の底面と対向する二面のみを覆う部材に限定されるものではない、柱脚部23の全周囲を囲うものであってもよい。すなわち、支承6は、矩形状の底板61と、底板61の各辺から上方に延びる角筒状の側板62を備えるものであってもよい。
【0020】
<第三実施形態>
第三実施形態では、第一実施形態と同様に、物流倉庫で用いられる可動型の保管棚(保管棚の下部に潜り込み荷捌き場所まで自動搬送する自動搬送システム[床搬送ロボット・低床式無人搬送車]に用いられる保管棚)2について、震度5強以上の強い地震に遭遇した場合であっても、保管棚2からの積荷の落下や保管棚2の転倒、損傷の地震被害を抑制することを目的とした免震構造12について説明する。
実施形態の免震構造12は、保管棚2の支柱22の柱脚部23とコンクリート床面4との間に支承8を介在させるものである。
図10は、第三実施形態の保管棚2を示す斜視図である。
【0021】
保管棚2は、
図10に示すように、矩形状の荷置部21と、荷置部21を支持する支柱22とを備えている。
荷置部21は、平面視矩形状の金属板からなり、四隅において支柱22により支持されている。本実施形態では、四段の荷置部21が上下に等間隔に設けられているが、荷置部21の段数および荷置部21同士の間隔は限定されない。
支柱22は、中空の角筒状(管状)の金属部材からなる。本実施形態の支柱22の下端は開口していて、支承8の一部(上部分)が挿入されている。
【0022】
図11は支承8を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。支承8は、コンクリート床面4に載置されたコンクリートに対する動摩擦係数が0.3以下、好ましくは0.15~0.25の鋳鉄製の部材からなる。支承8は、
図11(a)および(b)に示すように、コンクリート床面4に当接する矩形状の底板部81と、支柱22(柱脚部23)の空洞部に嵌装された角柱状の嵌装部82とにより構成されている。底板部81と嵌装部82は、一体に成型されている。嵌装部82は、支柱22の空洞部の断面と同等未満の断面形状を有している。一方、底板部81は、支柱22の外形以上の外形を有していて、断面視で底板部81の両端が嵌装部82の側面から突出する形状を有している。すなわち、支承8は、断面視凸字状である。嵌装部82には、貫通孔83が形成されている。貫通孔83には、ボルト等の留具5が取り付けられる。貫通孔83は、棚板設置用の穴を利用すれば、柱脚部23に穴あけ加工を加えることなく、支承8を取り付けることができる。
支承8は、嵌装部82の貫通孔83および柱脚部23に形成された貫通孔29を貫通した留具5にナット51を螺合することにより、柱脚部23に取り付けられている。
支承8は、底板部81を鋳鉄製、嵌装部82を鋼鉄製の支承取付金具として、個々に作成し、皿ボルトなどで接合し、一体にしても良い。
【0023】
第三実施形態の免震構造12によれば、柱脚部23とコンクリート床面4との間に介設された支承8が鋳鉄製であるため、鋳鉄に含まれる黒鉛の潤滑作用により、コンクリート床面4との摩擦係数の低減化を図ることができる。そのため、地震時に所定値以上の水平力が作用した場合であっても、柱脚部23(支承8)がコンクリート床面4を滑ることで、保管棚2の応答を抑制し、ひいては積荷の落下を防止できる。また、地震動に対して、保管棚2が滑ることで、地震時の力を吸収し、保管棚2の転倒を抑制できる。
【0024】
ここで、
図12に支承8の変形例を示す。支承8は、
図12(a)および(b)に示すように、嵌装部82にテーパー83を設ける等して、嵌装部82の側面と支柱22の内面との間に隙間を形成してもよい。こうすることで、支承8が留具5の軸回りに対しても回転可能となり、ロッキング振動によって支柱22の柱脚部23がコンクリート床面4から離隔することを防止し、地震時の保管棚2の姿勢を維持したまま、保管棚2を滑らせることが可能になる。
また、支柱22が円筒状の場合には、嵌装部82は円柱状に形成してもよく、嵌装部82の断面形状は限定されるものではない。
【0025】
次に、第一実施形態の免震構造1について実施した振動台実験の結果を示す。
図13に振動台実験の試験体図を示す。
設置し、コンクリート板41上に保管棚2を二段積み重ねることで、試験体10を構築した。上側の保管棚2には、支柱22の上端部に荷置部21を形成した。すなわち、試験体10は、荷置部21を三段とした。最下段の荷置部21には錘71を載せ、二段目(中段)および三段目(最上段)の荷置部21,21には、それぞれプラスティックパレット72上に段ボール73を10個積載したものを載置した。ここで、錘71の質量は、段ボール73の総質量とプラスティックパレット72の質量の合計値と同じとした。
比較例として、支承3を配設しない未対策の場合についても、同様の実験を行った。
図14(a)に比較例の入力加速度と時間の関係、(b)に比較例の三段目(最上段)の荷置部21での応答加速度と時間の関係を示し、
図14(c)に実施例の入力加速度と時間の関係、(d)に実施例の三段目(最上段)の荷置部21の応答加速度と時間の関係を示す。
【0026】
図14(a)および(c)に示すように、比較例と実施例のいずれの場合も入力加速度の最大値が400cm/s
2程度であった。一方、
図14(b)に示すように、比較例では、最上段の荷置部21での応答加速度の最大値が2300cm/s
2程度であったのに対し、実施例では、
図14(d)に示すように、最上段の荷置部21での応答加速度の最大値が1500cm/s
2程度であった。したがって、免震構造1を採用することで、応答加速度が大幅に(比較例と比べて約35%)低減された。また、比較例では、段ボール(積荷)が落下したが、実施例では積荷の落下は生じなかった。以上の結果から、本発明の免震構造1によれば、保管棚の地震被害を低減することができる。
【0027】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限らず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
本発明の免震構造は、例えば、可動型の保管棚で逆ネスティングラック(荷置部が上部にあるタイプ)や据置型の保管棚(パレットラック[重量棚]や単品棚[中量棚]等)の柱脚やバケット自動倉庫のラック柱脚に使用してもよい。
また、保管棚2を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、スチール、ステンレス,アルミニウム合金等や木質材等であってもよい。
【符号の説明】
【0028】
1,11,12 免震構造(保管棚の免震構造)
2 保管棚
21 荷置部
22 支柱
23 柱脚部
24 脚部水平材
25 支持板
26 上部水平材
27 受桁
28 受材
29 貫通孔
3 支承
31 下面
32 傾斜面
33 穴
4 コンクリート床面
5 留具
6 支承
61 底板
62 側板
63 貫通孔
8 支承
81 底板部
82 嵌装部